仮定の未来 夜時間
君との時間。
いつだって君は忙しい。
「渚」
呼びかければ、驚いたように振り返る。
振り返った渚の視界を覆うように抱きしめる。
「遅いぞ」
もう日は落ちて『大人』な姿をとっても均衡を壊すことのない時間。
普段はもう高校を卒業するであろう外見年齢だけど、それよりは少し重ねた外見。
生来の世界で『若返り』『長寿』と言われている食品を時々摂取させている所為か、横に並んでイイ相手に見えることを意識する。
本当は、あんまりよくないのはわかってる。
どうせなら連れ帰って、とも考えなくはないが。それは渚が家族から離れることを意味する。
それは迷う。
でも近しい時を過したいとも思う。
「夜道はヒトには危険なのだから」
何を言ってるんだろうという表情で見上げられれば、くすぐったい。
「夜の一人歩きは危険だと広報されてるだろう?」
無論、何かあれば飛んでいって排除するけどな。
「大丈夫」
確かに渚はいろいろな道具を使う。
それでも不意をつかれないとは限らない。
安全なような不穏のような均衡はいつだって簡単に傾くものなのだから。
「こんなに簡単に捕まるのに?」
ぎゅうっと抱きしめる。街灯の灯りは闇の暗さを際立たせる。周囲には誰もいない。
闇にまぎれて抱きしめたまま、地を軽く蹴れば、ひやりと町を見下ろす高み。
「ほら。逃げられない」
「大丈夫。ここが一番安全だから」
ぽふんと身を任せてくるささやかな重みに、言葉に、くらりとくる。
渚の声と、香りと、信頼にうっとりと心を酔わす。
二人だけの秘密の時間。
夜の空の上。
のんびりと風に吹かれる。
「そんなことを言われたらずっと側にいて欲しいと望んでしまう」
ただでさえ側にいたいのに。
あのチビのようにその人生をただ共に寄り添っていくことで満足が出来なくなる。
不思議そうに見上げられると「だめなの?」と聞かれてる気分になれる。
「種として生きる時間が違うから。でも、渚の時間には寄り添っていたいと思ってはいる。それが、渚のヒトとしての生き方の阻害になることは良くないだろう?」
指で渚の髪に触れる。
「渚が好きで愛おしいから。私は渚に縛られる。側にいる限り私は渚を縛りたい。だから……。渚、聞いてないだろう?」
「聞いてる。琉伊の心配は聞き飽きてる」
もぞりと抱擁の中で動きつつ、高度や星の位置から流された現在地を測っている。実に冷静だ。
「琉伊」
「うん」
呼ばれて顔を傾ければ、腕の中で体を伸ばし、軽く触れるだけのキス。
音の無い口の動き。
『いとしいヒト』
この世界のヒトの発言ではない『種』の言葉。
そして続くのは。
「おやすみ」
「おやすみ。渚にとって私の言葉はナニ?」
答えはない。
それでも擦り寄ってくる渚が軽く柔らかくて心地よい。
好きなだけ、渚がどれほど好きか囁きつつ、風に吹かれる。
途中で本当に眠れるように調整する。明日は週末。多少、寝過ごしても怒られはしないだろう。
それでも、千を越えて万をこえる時を共にとは言い出せない。
「ねぇ。まだ起きてるよね?」
「……寝てる」
『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
青空渚ちゃんお借りしております。




