55 返り討ちに遭ったらしい
(報告)なんとか書けました。
日間ランキングの調子が良い限り、頑張って毎日更新は続けるつもりです。
十数分後。
俺たちはルナに連れられ、詳しい話を聞くべく第六騎士団室に来ていた。
どうやら彼女の前にルドが現れた場には、アマンダさんも居合わせてたらしい。
いつものソファーに腰を下ろした俺たちの向かいに、アマンダさんがルナと肩を並べて座っている。
「それで……軽く話は聞いたんですけど、客観的にアマンダさんから見て、ルドの様子はどうでしたか?」
「そうだな。ルナの兄君は少々……その……」
「目がバッキバキで、なんか私のこと恨んでましたよね!?」
気を使ったのか、言い淀んだアマンダさん。
その言葉をルナが引き継いだ。
現場を詳細にイメージしたいから、できれば第三者の口から聞きたかったが。
まあアマンダさんも「あ、ああ」と頷いているし、間違ってはいないのだろう。
いつかルドがここ──オイコット王国の王都にやってくるとは思っていた。
でも思ったよりも遅かったな……正直、忘れかけてたぞ。
「ルナちゃんも良かったわね、アマンダさんがいてくれて」
リーナが言うと、ルナは伏目がちになって小さく頷いた。
「本当にね。今日に限ってアマンダさんと一緒にお昼を食べに出ていたから。……アマンダさん、ありがとうございました」
「いや、私は当然のことをしたまでだ」
そんなルナに、アマンダさんは優しく微笑む。
今日は昼食を取りに二人で街に出たらしい。
その時、ルドと遭遇したと。
ここに来るまでの間、馬車の中でルナから聞いた話では、
『ルナ……やっと見つけたぞ』
『お、お兄ちゃん!?』
『テオルの屑に唆されてお前が……お父様をッ! とにかく、早く帰ってこいッ』
『ちょっ、ちょっと! いやー!!』
『──そのあたりにしておけ。ルナが嫌がっているだろ』
腕を掴まれ強引に連れて帰られそうになったところを、アマンダさんが間に入り、なんやかんやあって結局──腕力でルドを追い払ってくれたそうだ。
……正直、俺は語ってくれたルナの大根具合の方が気になった。
思い出し笑いをしそうになっていると。
「お兄様、どうしたらいいかな?」
えらく弱気な口調で、ルナが尋ねてきた。
「私が一人の時にまたルドが来たら……」
「……なら、俺たちと一緒にいるか?」
前は「問題ない」と言っていたが、昔からルナは兄に対して反抗できないような印象を受けてきた。
不安に思う気持ちもあるのだろう。
「っ! お兄様がそう言うなら、じゃあそれ──」
「あっ、でもな……。今はフラウディアの護衛に学園、ダンジョン探索。そっちは事務の仕事があるんだろ? 流石に俺たちとは厳しいか……」
「……ちえっ」
今の舌打ちは多分気のせいだ。うん。
「ならば朝、宿舎からここに来るまでは私が同行しよう。今のペースで仕事をこなすのにも慣れてきたからな。昼休憩と帰りも行動を共にできるだろう」
みんながルナが発した雑音を聞かなかったことにしている。
そんな中、アマンダさんから有難い申し出が。
「ほ、本当ですか! 良かったな、ルナ」
「……あ、りがとうございます」
なぜか覇気のない顔で、えへへっと引き攣った笑みを浮かべるルナ。
騎士団室にいる間はルドからの接触はないだろうし、これで安心して過ごせるはずだ。
あとは……収監されているゴルドーの警備を厳重にしておいた方が良いだろう。
怒りを買っているからな。
ルドの協力のもと脱獄でもされたら、命を狙われ面倒くさくなりそうだ。
「フラウディア。俺の叔父が脱獄しないように警戒態勢を敷くことはできますか?」
「そうですね……わかりました。ルナさんのお兄様がこの王都にいる以上、手出しできないようにしないといけませんからね。私から当たって──」
「──あ、それなら僕がやっておいたよー」
頼もうと思ったら、団長室から声が聞こえてきた。
フラウディアと顔を見合わせ、ソファーから立ち上がり開いていた扉の奥を見ると、書類仕事をする団長が手を動かしながら言った。
「さっき僕もルナから話を聞いてね。すでに手回しはバッチリさ」
「団長……俺たちの話、ずっと聞いてたんですか?」
「まあね」
仕事で忙しそうだから呼ばず、俺たちだけで話し始めたのに。
うちの団長は地獄耳が過ぎる。
とにかく俺が「助かります、ありがとうございました」と軽く頭を下げると、「はいはーい」と団長は書類に目を通しながら手だけを挙げて反応した。
「相変わらず仕事はできるのになんか軽いわよね、ジンって」
「だよな」
ソファーに戻った俺に、リーナが片眉をクイっと上げてみせる。
ルドも、手痛い仕打ちを受けたアマンダさんが側にいれば、そう何度もルナに干渉してはこないと思うが……もしかすると、俺に回ってくるかもしれないな。
だがそれは厄介だ。
できれば絡まれたくはない。
念のために〈探知〉を使い、半径3KM内にそれらしき影がないか探ってみる。
とある特殊な方法を使えば、遠くに行けば行くほど、範囲内にいても見つからないようにすることは容易くなる。
だから半ば無理と思っての行動だったが──
「普通にいるなぁ……」
俺が教えた方法はどうした。
ルドがほぼ範囲の限界あたりで潜伏しているのがすぐにわかった。
……これで、バレないとでも思っているのか?
どうか俺の元へは来ませんように。
人生で初めて、神頼みをした気がする。
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