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【書籍化】元・最強暗殺者の騎士生活 〜世界最強の暗殺者、超一流の騎士団に拾われ無双する〜  作者: 和宮 玄
第二章

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54 ヤツが来る

「フラウディア、新聞部に顔を出さなくても良かったんですか?」

「ここのところテオル様もリーナも学園に通っていることですし、活動報告紙に書くことがありませんから。正直、あまりすることがなかったんです……」

「え?」


 階層主を撃破した翌日。

 今日はダンジョン探索は休みで、新聞部に行くことになっていた。

 しかし、フラウディアの誘いで『四階層用に魔法が付与された防寒具を買いに行こう』ということになった……のだが。


 道中、何気なしに尋ねた問いに対する答えに、俺は思わず耳を疑った。


「テオル、あんたまた知らなかったんじゃないわよね? 第六騎士団の活動報告紙。あれ、フラウが部活動の一環で書いてるのよ?」

「…………え??」


 またかと呆れ顔のリーナに説明されるが、到底受け入れることができない。


 あの雄大な文章を、この線の細い少女が?

 彼女が主導で制作しているだけだと思っていた。

 がまさか、原稿も書いているなんて。


 目的の店に到着したのか、フラウディアは一軒の高級そうな服屋の前で足を止めると、扉を開けながら気恥ずかしそうに俺を見る。


「しゅ、趣味なので……」

「…………はあ」


 騎士団について自分だけ何も知らない俺は、こうしてまた一つ、何の気になしに新たな真実を遅れて知らされた。






「テオル、これなんかどうかしら?」

「うーん……性能的にもっといいのがあるだろ」


 試着室のカーテンが開けられ、リーナに意見を求められる。

 髪色と同じ青色の服に耳当て、ネックウォーマー。


〈解析〉の簡易版を瞳に展開し、率直な感想を伝えるとリーナはムスッとした表情を残し、シャーッとカーテンを閉じた。


「テオル様、に、似合っていますか?」


 次は隣の試着室のカーテンが開き、フラウディアが意見を求めてくる。

 こちらも髪色に合った金──ではなく黄色の防寒具一式を身に纏っている。


「うーん……もうちょっと分厚くて防寒に優れてる方がいいかもしれませんね」

「…………」


 こちらもまた、シャーッと無言で閉じられるカーテン。


 な、なんなんだ……。

 店に入り気がついたと時には、二人が気になった商品を手に持って試着室に入り、俺に意見を求めてくるという流れが出来上がっていた。


 俺なりにじっくりと考え、誠実な返答をしているつもりだ。

 ダンジョン探索で大切な動きやすさと保温性を重視して。


 だと言うのに、かれこれ五回も不機嫌な顔からの高速カーテン閉じのコンボ。


「可動性よりも防寒の方が大切ってことか……?」


 俺が頭を悩ませている姿がよほど面白いのか、年老いた上品な女店主がニコニコと微笑みながらこっちを見てきている。


 気を利かせてくれたのか、彼女は先程新聞を貸してくれた。

 時間を潰すためには有難いが、この店主は果たして優しいのか意地悪なのか。

 向けられる視線から意識を逸らすため、俺は新聞を開いた。


「……ん?」


 リーナたちが次の服に着替えるのを待っていると、とある記事に目が止まる。


「また、『灰塵(かいじん)の宣誓』か……」


 それは、一昨年ごろからよく耳にするようになった盗賊集団。

 ごく少数で構成される彼らは、世界各地であらゆるものを盗み出している。

 今回もまた、かつて英雄が使用していた魔導具を盗んだらしい。


「そりゃ当然、ガールポンでのオークションも狙ってるだろうな」


 新聞には『四年に一度、賭博都市──ガールポンで開催される世界最大級のオークションに、灰塵の宣誓たちはやってくるだろう』という聞いたこともない専門家の発言が掲載されている。


 世界にはまだまだ知らない強者たちがいる。

 俺が思いを馳せていると、次は同時に二つのカーテンが開いた。


「……どう?」

「……どうでしょうか?」


 水色コーデのリーナと、橙色コーデのフラウディアだ。

 新聞を傍に置き、本日六度目の〈分析〉を発動する。


「お、いい感じなんじゃないか?」

「ほ、本当!? じゃあ……これにしようかしら」

「私も、これが……いいかもしれません……」

「ああ、今までの中だと一番〈体温維持〉の付与魔法も優れてるしな」


 最高の動きやすさとは言い難いが、防寒に関しては超がつくほどの逸品だろう。

「よし決まりだな」と膝を叩いて立ち上がると、二人は試着室から出て来て──


「「そういうことじゃ……ない(です)っ!!」」


 二人して腰に手を当て、ものすごい勢いで詰め寄ってきた。


 冷たい視線。

 眉間に皺を寄せ、なんかめちゃくちゃ怒ってる。


「いや……だったらどういうことなん──ですか?」

「もっ、もちろんダンジョンの探索に使うんだから機能面も重要よ? むしろ、それだけで良いのだけど……ほら、いろいろとあるじゃない」

「そっ、そうですよ。服装なんですから、着ている人に似合っているとか。あと、例えばかわいいとか……」


 ビビりながら身を引き、無意識に敬語になってしまう。

 すると二人は歯切れが悪く、突然しおらしくなった。


 俺は本当にわからなかったので単純に答えて欲しいだけなんだが。


「あー……じゃあ似合ってますし、かわいいからそれで決まりにしましょう」


 まあ、こう言っておけばようやく俺の防寒具を選べるだろう。

 よしよし──


「「だ・か・ら、そういうことじゃない(です)っ!!」」


 ──と思ったが、踵を返し男物が置かれたエリアに向かおうとすると、二人が肩に手を置いてきた。

 強引に振り向かされ、ムッとした顔が二つ。


 やばい。

 完全に怒らせてしまったらしい。

 ほぼ確実に手遅れだろうけど、相手の気持ちを読み取ることを怠ってしまった。


 結局、それから二人が満足するまで服選びは続き──全ての買い物が終わり店を出るまで、さらに数十分を要することになった。


 せめてもの償いにと、従順に商品が入った五つの大きな紙袋を俺が持ち、城に帰るため馬車が待つ場所へと歩いていく。


 長く待たせて申し訳ないと、御者のアルゴデスさんに頭を下げる。

 すると彼は俺の奮励を思いやるように、優しい微笑みを向けてくれた。

 あれ、泣きそう。


 そして馬車に乗り込もうとしていると、


「──お兄様! ヤバい、まじでヤバい……!」


 道の向こうから馴染みある声が聞こえてきた。


「あれ、ルナちゃんじゃない?」

「あ、本当ですね」


 馬車の中のリーナとフラウディアも気がつき、不思議そうに顔を出す。

 同じ方向に目を向けると、街の人々の目も気にせず、ルナが全速力でこちらに駆けてくるのが見えた。


「……珍しいな、こんなところでどうしたんだ?」


 俺の元まで来たところ問うと、ルナは息を切らし、青ざめた表情でこう言った。


「お、お兄ちゃん──ルドがいきなり来て、帰って来いって言われたんだけど!」


ヤツが来る……!?

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【新作】モブは友達が欲しい 〜やり込んだゲームのぼっちキャラに転生したら、なぜか学院で孤高の英雄になってしまった〜



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