48 地下ダンジョンの正体
「な、な……なんか出てきたんだけど!? アマンダさんの中から人が──ってこの魔力、人間じゃないじゃん!?」
アマンダさんがイシュイブリスを出すと、ルナが絶叫した。
口をパクパクさせてる。
『初めましてルナちゃん。私はイシュイブリス、アマンダちゃんの体内に住んでいる悪魔よ。今後ともよろしくね』
「……悪、魔? アマンダさんの体内に?」
「そうだ。取って食いはしないから安心してくれ」
確認するようにアマンダさんを見たルナは、ぶんぶんと素早く頷く。
『それで……テオル様、私に話とは?』
「ヴィンスの邪魔になるし場所を変えよう。団長、部屋を借りてもいいですか?」
「もちろん。もともと休憩のつもりだったし」
「ありがとうございます」
半ば眠りに就こうとしているヴィンスを横目に、団長室を借りることにした。
アマンダさんはここに残るようだ。
リーナたちも会話を続けるだろうと思ってのことだったが、部屋に入ろうとすると、リーナとフラウディアもこちらにやって来た。
「あれ、いいのか?」
「だってあんた、ダンジョンのこと訊くって聞こえたわよ?」
「私たちも気になっていたのです。あの人工ダンジョンのことが」
二人も気になっていのか……まあ、当然と言えば当然だが。
大図書館に行ける時間もなかったし、なんだかんだで何も調査できず、今の今までダンジョンに潜り続けてたからな。
『人工ダンジョン……懐かしい響きね』
「──イシュイブリスさん、ご存知なのですね!」
話を聞いていたイシュイブリスが目を細める。
フラウディアはそれに反応し、期待に満ちた目を彼女に向ける。
この二人が絡んでいるところを見たところはなかったけど、互いにそこそこ知った仲のようだ。
『建造されたのは私の父の代だそうだけどね。テオル様はそのダンジョンについて、私が知っていることを聞きたいということですね?』
「ああ、そうだ」
『承知致しました。ですがただ、事細かに知っているわけではありませんのでご了承ください。おそらく現代の文献にもほとんど残っていない話です』
文献に残っていない……?
イシュイブリスの父の代なんて、四、五千年前じゃないか。
深淵王に聞けたら話が早いのかもしれない。
けれど、無理矢理叩き起こすと宥めるのに手を焼くしなぁ……。
「ちょっと待って、あんなダンジョンがそんなに昔に?」
すでに俺は話を聞く気になっていたが、リーナが待てと手を挙げた。
「全体的な造りとか、文字通り桁外れの魔法がかかっているみたいだったわよ? どこにも劣化が見られなかったし……」
「そうですよね。私も思っていました」
『あれれ? リーナちゃんたちはあのダンジョンを誰が作ったのか聞かされてないのかしら?』
フラウディアがそれに同意すると、イシュイブリスは首を傾げた。
まるで作った人物の名を聞けば、全て納得するだろうとばかりに。
『見つけ出したということは、そのくらい知られているはずなんだけど……あのダンジョンは、〝光の賢者〟ブレイマンが作ったのよ?』
「「「えっ」」」
思わず俺も声を漏らしてしまう。
今、光の賢者って言ったよな?
俺たち三人は顔を見合わせ、揃ってイシュイブリスにそんな目を向ける。
ブレイマンはたしかに実在した人物だそうだ。
しかし、もはや伝説上の人物と言って良いほど──歴史の脚色を受けている。
そう思っていた。
リーナもフラウディアも、この時代を生きる多くの人々がそうに違いない。
俺からしても、明らかに突飛で強大すぎる魔法を行使したとか。
「光の賢者が、か?」
『はい。学びに身を置くものたちにも戦う術を、とたった一晩で建造したそうです。学園に通う人間のみしか入ることのできないダンジョンを』
同時代を生きた父は風の噂で聞いたようですが、とイシュイブリスは続ける。
「あの場所は、終着点のないダンジョンとも呼ばれていたとか。しかし一方で、さまざまな場所にブレイマンが作った魔導具が隠され、終着点には『賢者の遺志』が遺されているとも』
それから更に話を聞こうとする。
しかしイシュイブリスが知っていることはその程度だと、結局それ以上に得られた情報はなかった。
だがまさかな、こんな展開になるなんて。
国がメイ先生に調査を頼み、あまりに多くには知られたくないときた。
もしかして隠された魔導具か──その『賢者の遺志』とやらを手に入れたがっているのかもしれない。
フラウディアがスキップでもし出しそうな勢いで部屋を出て行く。
「〝光の賢者〟ブレイマンですよ! やはりあのダンジョンには戦うことよりも本や劇みたいな冒険──物語が待っていたのですっ!」
「フラウ、落ち着きなさいよ。あなたを護るのが最優先なのよ?」
「終わりなきダンジョン……冒険活劇の匂いがしますっ!」
リーナの声も聞かず、フラウディアはすっかり物語の登場人物気分だ。
安全第一の俺たちとは違い、彼女は自分も冒険に同行できるのがよほど嬉しいのか、「どんどん深い階層へ行って、いろんなお宝をゲットしましょう!」なんて拳を振り上げている。
……これは気合を入れ直さないとな。
彼女に怪我一つさせない心意気で、俺とリーナは護衛を務めているのだ。
特殊すぎるダンジョンの中で、探索のサポートと護衛を両立させる。
果たして、光の賢者が作った魔導具とはどんなものだろうか?
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