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【書籍化】元・最強暗殺者の騎士生活 〜世界最強の暗殺者、超一流の騎士団に拾われ無双する〜  作者: 和宮 玄
第二章

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44 一階層・鋭く磨かれた試し斬り

「こ、これが……学園の地下なのですよね?」

「そうだ。魔法によって空間が拡張されているようだが、確かに我々が日々過ごしている学園の下に位置している」


 わあ、とフラウディアが木々を見渡すと、最後に入ってきたメイ先生が頷いた。


 これだけ大きな空間に拡張しているのか……相当すごい魔法だな。

 っと、そういえば。


「先生、このダンジョンも起きる現象に関しては他のものと同じなんですよね?」

「ああ。それにしてもテオル君。君は海上ダンジョンのことと言いダンジョンにえらく詳しいのだな。もしかして元は探索家を目指していたのか?」

「いや。あっ、まあ、そんな感じ……かもしれません」

「そうかそうか! なら先輩探索家のこの私に何でも聞いてくれっ!」


 一度誤魔化してしまったものだから、なかなか真実を言いにくい。

 曖昧な返事を変に思われるかもしれないと心配になる。

 しかし、メイ先生は目を輝かせ、上機嫌にその大きな胸をドンと叩いた。


 揺れる何かを前に、目のやり場に困っているとリーナに小突かれる。


「あんた、随分楽しそうね……」

「え? な、なにがだ?」

「ふんっ、またそうやって……フラウも何か言ってやりなさいよ」

「わ、私ですかっ? 私は、テオル様が先生と仲良くなされるのは良いことだと……ひっ! り、リーナっ。何で睨むのですか!?」

「こいつの視線に気づいてないなんて……。まあいいわ、さっさと魔物の強さを確認してしまいましょ」


 ツーンとなってしまったリーナにフラウディアは首を傾げている。

 良かった……最小限の被害で済んだ。


「テオル、探知魔法を頼めるかしら?」

「あ、ああ──おっ、ちょうど1KM向こうから三体来てるな」


 リーナに言われ探知魔法を展開すると、俺たちを目指して駆けてきている魔物が三体いた。


 感じた魔力から考えるに、そこまで強くはないだろう。

 だが、ここから油断は禁物だ。


「じゃあ強さを測るために私がやるわ」

「おう、わかった。念のためにフラウディアは俺の後ろにいてください」

「はい!」


 ダンジョン入り口の階段に背を向け、護るべきフラウディアは後ろにいてもらう。

 先生には指示を出さなくてもいいかと思ったが……ちらりと見ると、目視できる距離まで迫ってきた魔物を指さして固唾を飲んでいた。


 魔物の見た目は真っ白な毛に、真っ赤な目をした猿だ。

 走行速度もそこまで速くはなく、リーナが劣るような相手には見えないが。

 ま、まさか……!


「先生、あの魔物には何か特殊な生態が?」


 魔物の中には倒すと分裂し、焼き尽くさない限り消滅しないものなどがいる。

 地上にいるものに対しては知識で対抗することができるが、ダンジョンで生まれる固有種──あの猿などの見たことも聞いたこともない魔物に対しては、その場その場で何とかするしかない。


 そのため、初見の不利を覆す実力が必要だ。

 いきなり面倒な相手だったら俺が手伝うことも考えに入れておかないと。

 そう思って尋ねたが。


「い、いや。そう言うわけではない。しかし、ただな……」

「メイ先生?」


 ジリジリと動き、先生はフラウディアの横──俺の背後に隠れた。


「私の実力では一体が限界なんだ。普段から二体で揃っているのを見たらすぐに逃げるようにしていてだな……少し、その……」

「ああ、なるほど。でも大丈夫ですよ、リーナなら」

「き、君たちの強さはわかっている。だから依頼したんだ」

「──だったらなんでそんなにくっ付いてくるんですか……」

「仕方ないだろっ。フラウディア様も申し訳ない! だが、あの猿が三体も同時にこちらに……!」


 フラウディアそっちのけで俺の背中に密着してくるメイ先生。

 探索家という職業と筋肉のつき方から、機動性が高く隠密行動に長けているのがわかる。しかしできる限り戦闘を避けるタイプだと言っても、いくらなんでもビビりすぎだ。

 いつもと印象が違いすぎだろ──


「私は以前、二体組に殺されかけたんだっ」


 ──と思ったが、そんな悲惨な過去があったらしい。


 天敵だと言わんばかりに俺の肩の上から覗き見ている。

 リーナが剣を抜き、鬼を降らすこともなく細く長く息を吐く。


 先生とは対照的に落ち着いた様子のフラウディアは、今もなお俺に張り付いているメイ先生を引き剥がそうと必死に腕を引っ張り始めた。


「はぁ……先生。リーナは大丈夫ですから、テオル様からお離れください!」

「ふ、フラウディア様。だが万が一を考えてテオル君とは近い方が……」

「駄目ですっ!」


 そのまま押し問答になる二人。


 集中するリーナの邪魔になると良くないからな。

 ここらで俺がしっかりと──


「そうですよ先生、フラウディアの言う通りです。俺も暑苦しいですし、もう安心して早く離れてください」

「テオル様……発言と表情が合っていません」


 フラウディアが俺の顔を見て呆れたようにそう言った。

 発言と、表情が……?

 真顔のつもりだったが、今どんな顔をして──って熱っつ!?

 表情を確認しようと自分の顔を触ると、茹でられたみたいに高温状態になってた。


「俺がなんか照れてるみたいに」

「いや、完全に先生に密着されて照れていますよね……。お二人とも、もうすぐリーナが倒してくれますから、すぐに離れてください!」

「ふ、フラウディア様──っ!」


 細い腕で隙を突くフラウディアに、メイ先生が引き剥がされる。

 その時、リーナの気配が強まるのを感じ目を向けると、ちょうど三体の白猿が跳躍し接近してきたところだった。


『キィイイイ──ッ!!』

「……遅い」


 だが。

 たった、横一閃。

 拳を振り上げ迫る魔物たちをリーナは斬り伏せる。


 少し前よりも鋭くなったような気がする剣筋。

 決して弱くはない先生が、二体相手に殺されかけたという相手を。

 リーナは事もなげに、一瞬で三体倒してみせた。


「「す、すごい……」」


 さっきまで戯れていたフラウディアとメイ先生が、リーナを見てそう呟く。


 ダンジョン特有の現象──倒された魔物の死体が消え、小さな石がそこに残る。

 リーナはそれに驚きながらも、振り向くと自信をつけた様子で俺に向かってこう言った。


「フラウを護りながら先生のサポート──この程度の強さなら問題ないわね」


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