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【書籍化】元・最強暗殺者の騎士生活 〜世界最強の暗殺者、超一流の騎士団に拾われ無双する〜  作者: 和宮 玄
第二章

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42 面白い報せと悪い報せ

十万文字達成!

ここまで来られたのは読者の皆さんのおかげです。ありがとうございます。

「学園地下の、ダンジョン……?」


 俺が眉を顰めて聞き返すと、団長は拍子抜けしたような顔になった。


「あれ、知らなかったかい? 学園の地下にある人工ダンジョンのことだよ」

「え、そんな物があるんですか?  学園の……地下に?」

「うん。結構有名だし、入学前に話した気がしてたけど……あ、そういえば言ってなかったかな? もちろん姫様とリーナは知ってるだろ?」

「はい」

「もちろんよ」


 横に座るフラウディアとリーナが、常識だとばかりに顔を覗いてくる。

 なんか街の人々に配られている活動報告紙のことと言い、いつも俺だけ知らされてない情報が多くないか。

 団長の対応がぞんざいだ。


「ま、ダンジョンのことは君たちの担任の先生に訊いてもらうとして、この依頼──受けてくれるかい?」

「ねえジン。私たち、フラウの護衛もあるのよ?」


 リーナが至極当然のことを言ってくれる。

 どうやってフラウディアを守りながらダンジョンへ……ってまさか。


「難易度を見つつ進んでいけば、ダンジョンの中にいたって君たち二人の傍なら、地上にどんな護衛とともにいるよりも安全だろ?」

「な、なによそれ……」


 やっぱりだ。

 これは絶対に何か裏があるだろ。


「団長、はっきり言ってください。どういう経緯でこんな話に?」

「わかってる……当然しっかりと話すよ。実はね、この後に伝える悪い報せについて、とある内部告発を得たんだ。その彼にはよく世話になっているんだけど、今回の依頼はそこ経由でね」

「断るに断れないと?」

「まあ言ってしまえばそんな感じだね」

「はぁ……。そういうことらしいです、フラウディア」


 俺は項垂れるように額に手を当て、口を閉じて話を聞いていた王女様を見る。


 もちろんダンジョンの危険さにもよるが、彼女がいいと言えば俺は依頼を受け、メイ先生に協力する気だ。

 少し負担は増える。

 しかし、学園地下の人工ダンジョン。

 興味がないといえば嘘になる。


「──明日、メイ先生にお話を聞いて決めることにしましょう。無論、現在は前向きに考えています」

「良かった、助かるよ」

「仕方ないわね……フラウがそう言うならいいんじゃないかしら?」


 フラウディアの言葉に、リーナもなんとか納得したようだ。

 団長がほっとしたのが伝わった。


「テオルも学園で派手にやっているそうじゃないか。今回の件も、君の力を見て『こんな生徒がいるうちに』って熱望されたんだよ」

「あ、俺は……そんなに……」

「またまた〜。で、リーナも学園はどうだい? 楽しんでる?」

「そうね……のんびりした一日で、平和ボケしそうだわ。でも、結構楽しい……といえば楽しい、かもしれないわね」


 リーナが照れ臭そうに頬を掻く。

 フラウディアはそれを微笑ましそうに見ていたが、すぐに真剣な表情に戻ると、先を急ぐように団長に訊いた。


「ジン様。それで、悪い報せというのは?」

「──勇者正教と魔王軍の繋がり。第一王子が行っていることについてだ」


 団長も膝に置いた手を組み、顔から笑顔が消える。


「勇者正教はその成り立ちや性質ゆえ、人々の不安が大きくなれば信徒が増える傾向にあるんだ。そして魔王軍は人手や資金がいる。つまり……」

「互恵関係にあるということですね」


 フラウディアが体を前に傾け、被せるように言うと、団長は頷いた。


「そうだ。ここまではおよそ予想ができたけど、今までは予想に過ぎなかった。だけど、今回この国において金の流れを確認したんだ」


 魔王を倒した英雄の一人──勇者を崇める宗教だというのに、勇者正教は権力のために悪を必要とするというわけだ。

 まったく、平和を望む者たちの願いが悪を強くする……か。

 本末転倒な話だな。


 フラウディアは拳を握り、俯いている。


「ジン……それって、この国の中央もその動きに加担してるってことよね?」


 リーナが確認するように問うと、団長は首肯し、それから顎に手を当てた。

 目を細め、遠くを見つめている。深慮しているのだろう。


「第一王子たちは自身らが富を得るため、形式上だけかもしれないけど勇者正教を利用しているんだろうね。その代償に中枢を教会に蝕まれているようだけど」


 他にも、と団長は続ける。


「どれくらいの国が同じような状況なのか、調べた方がいいかもしれない。王国に平穏が訪れても、やがて戦うべき相手は魔王軍と勇者正教の連合軍だ」

「じゃあ……それと並行して、一刻も早く中枢に潜む奴らを蹴散らしましょう!」

「いや、リーナ。君が言いたいこともわかるけど……」


 立ち上がったリーナに説明してくれと、団長は俺を見た。

 それを引く継ぐように口を開く。


「リーナ、こっちには対抗できる権力がないだろ。争いの災禍だってまだないし、いま動いて大きな戦いになるのは避けたほうがいい」

「で、でもそれは……」

「このままだったら他の騎士団も王子側に付くはずだ」

「あっ」

「だから俺たちは、いつか来る危機を跳ね除けて、フラウディアの安全を確保することに集中しておけばいい──ってことですよね、団長?」

「……ああ」


 動き出した計画を止める気はない。

 だが最速で、王国にダメージが残らないように手筈を整えてから。

 自分がそれを請け負い、動いているから少し待っていてくれ。

 団長が言いたかったのはそういうことだ。


 リーナも理解したようで、それ以上何かを言うことはなかった。


 フラウディアが、ゆっくりと顔を上げる。


「わかりました。国民が苦しむことがないよう、機を逃さず、最善を尽くして動くことにしましょう。……ただし」


 覚悟を感じる王族らしい顔つきになった彼女は、力強く言った。


「悪政が人々の営みを貧しいものにしていると明らかになった場合は、私はこの命に代えてでも剣を掲げます」

「わかってるよ。その時は僕もついて行こう」

「私もよ」


 団長とリーナが、温かい表情でフラウディアを見る。


 俺は、その時どうするだろうか。

 そんな問いに対する答えは、思いの外すぐに出た。


「俺も……力を捧げます」


 彼らが戦うというのなら、当然のように共に行く道を選ぶだろう。

 俺の居場所はここだ。


「っ! ありがとう、ございます……っ!」


 フラウディアは目を瞠ると、その瞳に涙をため……勢いよく頭を下げる。


 彼女の目的を達成するための戦いは、まだ少し時間が要しそうだ。


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