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【書籍化】元・最強暗殺者の騎士生活 〜世界最強の暗殺者、超一流の騎士団に拾われ無双する〜  作者: 和宮 玄
第二章

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38 朝の小テストにクラスメイトたちは

「リーナです。皆さんと同じ場で学べること、とても光栄に思います。気兼ねなく、ぜひ仲良くしてくださいね」


 うふふ、と柔らかな表情でリーナがお辞儀をする。

 俺たちは今、教室の前で自己紹介をしていた。


 久しぶりの猫被リーナに俺はこめかみを押さえたくなったが、編入生──それもそこそこ有名らしい第六騎士団のメンバーに、クラスメイトたちの反応は上々なようだ。


「リーナ様、本当に可愛すぎんだろ〜」

「あたし、リーナ様と同級生になれるなんて!」

「これもフラウディア様と同じAクラスに入れた幸運なのか……っ?」


 護衛が目的なのでクラスはフラウディアと同じ2-Aだ。

 思ったよりも生徒が受け入れてくれそうで良かった。

 ここ、王立学園は貴族や裕福な家の子どもたちが高等教育を受けるための学校だそうで、少し不安に思っていたのだが。


 そうこうしていると、生徒たちの視線が俺に移る。


「テオルだ。よろしく」


 簡単に挨拶を済ませると、なぜか「うぉお」と一斉に声が上がった。

 なんだ、このリーナとの違いは。


「あれが噂のドラゴン殺し……」

「同世代だったのね」

「私、前の試合見たけどカッコよかったわよ!」

「でも、あんまり強そうには見えないけど……」


 盛り上がることはなく静かに興味を向けられている。

 もしかして珍獣か何かとでも思われてる?

 そんな風に思わされる声の中に、一つだけ明確な敵意を感じるものがあることに気がついた。


「ちっ、どうせまやかしだろ……んなもん」


 小さく呟かれたその声は、他の誰にも届かないつもりだったのだろう。

 俺が聞き取って目を向けると、奥の方に座った肩幅のある男は気まずそうな顔になり、慌てて視線を逸らし俯いた。


 怪しい人物その一、と。

 突っかかることはないのでそう心に留めておく。

 教師に席に着くように言われ、俺とリーナは段になった席の最後列まで移動する。


「ふぅ……なんとか乗り切ったわ」

「可愛かったですよ? リーナ」


 俺たちが来ることで、フラウディアは空いている席に移動したらしい。

 教室の一番後ろの窓側にリーナ、その横にフラウディア、そして俺と並ぶ。


「あんなこと何のためにやってるんだ?」

「イメージよ。イメージを守るためにやってるに決まってるじゃない」

「ふーん。ま、俺は絶対にいつかバレると思うけどな」

「ふふっ、私もテオル様と同じ意見です」

「や、やってみないとわからないでしょ!? このイメージがあると、時々街の人に奢ってもらえるんだからっ」


 小声で話していると、教卓に立った担任の女性教師──メイ先生が紙の束を持って訊いてきた。


「今日の小テストだが……これは学習の進行具合を確認する物だ。テオル君とリーナさんはやらなくてもいいが、どうする?」


 小テストか……これぞ学園って感じだな。

 手持ち無沙汰になるのも嫌なのでやってみよう。


「どのくらい出来るかはわかりませんが、俺はやってみます」

「私もやります」

「わかった。では前の者は後ろに回していってくれ」


 俺とリーナが頷くと、すぐにメイ先生はプリントを配り始める。


 何の授業も受けてないのだ。

 一つか二つできたらラッキーだと思って挑戦してみよう。

 前の生徒から裏返しの状態で回されてきたプリントを机の上に置き、開始の合図を待つ。


 ちらりと見ると、すでにフラウディアはモードを切り替え集中した様子をしていた。


「いつも通り時間は五分間だ。では、始め」


 メイ先生の合図で、クラスの全員が同時にプリントをめくる。

 知識としてはあったが俺は学園に通ったことがない。

 この光景、なんか面白いな。

 そんなことを思いながら少し遅れてプリントをめくり、目を通していく。


 えーっと、問題は全部で十問か。

 様々な分野のものがあるが、全て知識を問うようなものだ。


 一問目はリムリア草の適当な群生地を選ぶもの。

 二問目は賭博都市ガールポンの地理を問うもの。

 三問目は……と続いていく。


 選択問題は思ったよりも簡単だな。

 運良く頭に入っているものばかりだったのでスラスラ解けていく。


 六問目からは歴史上の人物の名称などを書かされたが、これも問題はなかった。

 学習の進行具合を確認すると言っていたから、しっかりと勉学に励んでいる生徒は全問正解できるように作られているのだろう。


「……?」


 しかし、最後の十問目だけは少し様子が違った。


 これは……メイ先生なのか?

 可愛らしい自画像が腕を上げ、横に吹き出しで『君に解けるかな?』と書かれている。


 問題の内容は海上ダンジョンについての伝説と、その成り立ちについて書けるだけ書けというもの。

 残り時間はまだまだあるな。

 俺は実際に訪れたことがあるので、これ幸いと自分が知っている限りのことを全て記述していく。

 そして、


「──そこまで。では後ろから前に回していってくれ」


 ちょうど全て書き終わった時、メイ先生の声が響いた。

 プリントを前に渡し酷使した腕を振っていると、


「テオル様、すごい速さで手を動かしていましたね」


 フラウディアが苦笑気味に言ってきた。


「あ……すみません。つい夢中になってしまって。ご迷惑でしたか?」

「ああいえ! ですがもしかして……最後の問題を?」

「はい。学園では世界有数の危険地帯とはいえ、かなり離れた場所のことも学ぶんですね。探検家や冒険者になる人はいないでしょうに」

「やっぱりそうですか……。あれは単にメイ先生の──」


 フラウディアが続きを話そうとした瞬間。

 教室の前でメイ先生が、回収した手元のプリントに視線を落として熱心に何かを読んでいるのが目に入った。


「む? ……こ、これはっ!?」


 彼女は雷にでも打たれた様子でガバッと顔をあげる。

 そして、俺と目が合った。


「なんかあの先生、こっち見てるわよ?」


 他のクラスメイトたちも不思議そうに見る中、リーナが俺とフラウディアに聞いてくる。

 何事かと思って首を傾げると。


「──テオル君。君、おそらくこれ()()()じゃないか……!!」


 メイ先生は嬉しそうに目を輝かせ、全員に聞こえるほどの大きな声で叫んだ。

 これは授業を受けていない俺が解けたことを喜んでくれているのか?

 いや、それにしては……。


 衝撃を受けすぎだ。

 そう思った時、クラスの大半が身を捻り、俺の方を見てあんぐりと口を開いた。


「「「ぜ、全問正解ぃいいいいいいいいいい!?」」」


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