29 ようやく再会したのに
屋敷を出たルナは、数回の休息を挟みオイコット王国に辿り着いた。
「遠すぎでしょ。はぁ〜、疲れた」
テオルのために自分が長旅をするなんて。
むっとしながらルナは、人が行き交う昼の王都の街並みを見回す。
「とりあえず、あいつを探さないとね」
出発前、祖父がこの王都にテオルがいるとは教えてくれたが、詳細な居場所は聞いてないので、どうにかして見つけ出す必要がある。
あいつはガーファルド家の情報を漏洩するような馬鹿ではない。
どうせ、細々と生きていることだろう。
「あんま時間はかけたくないし、手早く探し出すなら……酒場か」
テオルのために時間をかけたくはない。
いくら有能だったとしても、媚びへつらう気も、見方を変える気もなかった。
ルナは情報屋を当てにし酒場へ向かう。
その道中、街角で立ち話をする主婦たちの会話が耳に入った。
「ねえ聞いた? 新しく第六騎士団にお入りになった騎士様の話」
「知ってる知ってる。かなり噂になってるわね!」
何故かその会話が気になり、ルナは少し離れた場所で立ち止まった。
感づかれないように耳を澄ます。
「あ、やっぱり!? 私、聞いた時本当にびっくりしちゃった」
「私もよ! 上位竜を一人で倒しちゃうなんて、まるで英雄様ね」
「ふふっ、その方だったらアマンダ様とお似合いじゃない?」
「あぁ確かに! お二人で姫様を護っていただけたら安心だわ」
「それにしても、本当に第六騎士団には凄い方々ばかりね」
「当たり前じゃない、姫様直属の少数精鋭よ。爽やかな笑みの幼い団長、ジン様。凛とした全ての女性の憧れ、アマンダ様に……」
「輝く可憐な花、リーナ様と。ワイルドなのに優しい一面もあるヴィンス様」
「「そして今話題の、ドラゴン殺しの──テオル様!」」
「……え」
キャーと盛り上がる主婦たち。
ルナは耳を疑った。
すごく人気のある騎士団に、新たにテオルという人物が入ったらしい。
主婦たちは何やら紙を見て興奮しているが……。
「さ、流石に人違いね。上位竜を単独で? そんなのお祖父様と同等か、それ以上じゃん。あいつなわけ……ないない」
テオルは自分たちよりも少し上手なだけだ。
「お姿はどんな感じなのかしら!?」
「私の友達が、カフェでアマンダ様とリーナ様と一緒にいるところを見たそうよ」
「え!? もしかして、お二人とも……気になってるのかしら? で、どんな感じだったって!?」
「かなりカッコいいそうよ。えーっと確か、髪は特徴的な白色で──」
自分が知っているテオルと髪色が一致するが、この先は聞かなくても良いとルナは判断し、酒場に向かうことにした。
大きな街にはどこにでもいるように、情報を売る者はすぐに見つかった。
「ねえ、人を探してるんだけど」
「んぁ? ここはガキの来るところじゃ──い、いや、わかった。なんでも聞いてくれ」
ルナが殺気を放つと、中年の男は冷や汗をかい何度も頷く。
「テオルってやつを知らない? 最近この街に来た、白髪で──」
「あ、ああそれなら、騎士団に入ったって奴じゃねえか。ドラゴン殺しの」
「違うって。他に心当たりはいないの?」
「し、知らねえ。お代は結構だ、他の奴に聞いてくれ……っ」
男はプルプルと震え、逃げるように去って行く。
「ちっ、使えな……」
ルナは酒場を出て、他の情報屋にも当たってみることにした。
だが──
「第六騎士団にいるだろ。噂が尽きないぜ」
「ああ、あの騎士のイケメンくんね。私、見たことあるわよ?」
「そいつなら騎士団本部に掛け合ってみたらどうだ?」
誰に聞いても、騎士のテオルという人物の話しか上がらなかった。
ルナは同姓同名の線を捨てきれなかったが、「ここ最近王都に来た、白髪の」と条件をつけるとやはり他にいないらしい。
「じゃあ、やっぱり……」
街中を走り回ったため、とっくに空は暗くなっている。
俄かに信じがたいが、自分が探しているあのテオルが少数精鋭の騎士団に入り、一人で上位竜を倒したと?
いや、そんなはずは。
自分もちょうど兄と二人で同じ上位竜に挑んだ。
二人でだ。
それでも、手も足も出せずに敗走したのに。
「いや、人違いよ。そんなに強かったら私たちが今まで……」
──おんぶに抱っこ、だったことになるじゃん。
曲がりなりにも自分は一人前の暗殺者なのだ。
ルナはそう自分に言い聞かせ、月に照らされた道を歩き出そうとする。
その時だった。
楽しげに道の先を行く集団が目に入り、息を呑んだのは。
「あ、あれ……もしかして」
ルナは駆け寄り、白髪の青年の名を呼んだ。
「テオル……」
◆◆◆
「あれ……ルナ、久しぶりだな」
一瞬で真剣な表情に切り替わったみんなが、ルナに対し警戒態勢を取ったのは、俺がそう言ったのとほぼ同時だった。
「あぁ〜? どうしたッんだよ」
唯一、ヴィンスが遅れて振り向く。
団長やアマンダさんはフラウディアを護り、リーナは隣で鋭い目をしている。
「警戒しないでも大丈夫だと思います、知り合いなんで」
そう声をかけると、団長はほっと息を吐いた。
「なんだ、君の知り合いか。驚かさないでくれよ」
「すみません……」
「なに、テオル。この子あんたとどういう関係よ?」
みんなが警戒を解き、張り詰めた空気が元に戻る。
するとリーナが怪しむような目を向けてきた。
「街に知り合いなんていないはずじゃない」
「ああ親戚、従妹だ」
「あっ……えぇ、そう!? なんだ、そういうことね」
「でも家から遠いこんな場所に、なんでルナがいるんだ?」
リーナたちに一斉に睨まれ、膝が震えているルナに尋ねる。
「あ、あんた、今何してんの?」
「ん? 騎士だけど……」
「はあ!? き、騎士ってことは、上位竜を倒したってあんたのこと!?」
「あれ、なんで知ってるんだ? まあ別にいいか。で、なんでここに──」
「そう! それよ!」
ルナが謎に一人で盛り上がっている。
隣でリーナが「仲いいのね」と微笑ましげにしているが、前まではこんな感じじゃなかったんだけどな。
ビシッと俺を指さすと、ルナは誇らしげに胸を張った。
「あんたを家に帰らさせてあげる!」
「……は?」
「家の仕事をしたいけど、追い出されたから騎士なんてやってるんでしょ? だからっ、私が迎えにきてやったの! お父様は私が説得してあげるから」
「いや、別にいいかな」
何の心の変わりようかは知らないが、もう家に戻る気はない。
それに、今の環境は自分が望んだものだ。
「うん。じゃあほら、すぐに帰るから。良かったじゃん、私が来てくれて。しっかり感謝しな──って、はぁあ!? 今、なんて……」
「だから、戻る気はない」
「そ、そそっ、それってつまり」
「せっかくここまで来てもらって悪いけど、すまないな」
一人用のベッドしかないけど、俺の部屋に泊めた方がいいのだろうか?
でも、あんな扱いされるほど嫌われてたからな。
すでに自分で宿でも取っているか。
「じゃあ、これで」
最後に軽く手を上げ、俺はルナに背を向けた。
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