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【書籍化】元・最強暗殺者の騎士生活 〜世界最強の暗殺者、超一流の騎士団に拾われ無双する〜  作者: 和宮 玄
第一章

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29 ようやく再会したのに

 屋敷を出たルナは、数回の休息を挟みオイコット王国に辿り着いた。


「遠すぎでしょ。はぁ〜、疲れた」


 テオルのために自分が長旅をするなんて。

 むっとしながらルナは、人が行き交う昼の王都の街並みを見回す。


「とりあえず、あいつを探さないとね」


 出発前、祖父がこの王都にテオルがいるとは教えてくれたが、詳細な居場所は聞いてないので、どうにかして見つけ出す必要がある。

 あいつはガーファルド家の情報を漏洩するような馬鹿ではない。

 どうせ、細々と生きていることだろう。


「あんま時間はかけたくないし、手早く探し出すなら……酒場か」


 テオルのために時間をかけたくはない。

 いくら有能だったとしても、媚びへつらう気も、見方を変える気もなかった。


 ルナは情報屋を当てにし酒場へ向かう。

 その道中、街角で立ち話をする主婦たちの会話が耳に入った。


「ねえ聞いた? 新しく第六騎士団にお入りになった騎士様の話」

「知ってる知ってる。かなり噂になってるわね!」


 何故かその会話が気になり、ルナは少し離れた場所で立ち止まった。

 感づかれないように耳を澄ます。


「あ、やっぱり!? 私、聞いた時本当にびっくりしちゃった」

「私もよ! 上位竜を一人で倒しちゃうなんて、まるで英雄様ね」

「ふふっ、その方だったらアマンダ様とお似合いじゃない?」

「あぁ確かに! お二人で姫様を護っていただけたら安心だわ」

「それにしても、本当に第六騎士団には凄い方々ばかりね」

「当たり前じゃない、姫様直属の少数精鋭よ。爽やかな笑みの幼い団長、ジン様。凛とした全ての女性の憧れ、アマンダ様に……」

「輝く可憐な花、リーナ様と。ワイルドなのに優しい一面もあるヴィンス様」

「「そして今話題の、ドラゴン殺しの──テオル様!」」


「……え」


 キャーと盛り上がる主婦たち。

 ルナは耳を疑った。


 すごく人気のある騎士団に、新たにテオルという人物が入ったらしい。

 主婦たちは何やら紙を見て興奮しているが……。


「さ、流石に人違いね。上位竜を単独で? そんなのお祖父様と同等か、それ以上じゃん。あいつなわけ……ないない」


 テオルは自分たちよりも少し上手(うわて)なだけだ。


「お姿はどんな感じなのかしら!?」

「私の友達が、カフェでアマンダ様とリーナ様と一緒にいるところを見たそうよ」

「え!? もしかして、お二人とも……気になってるのかしら? で、どんな感じだったって!?」

「かなりカッコいいそうよ。えーっと確か、髪は特徴的な白色で──」


 自分が知っているテオルと髪色が一致するが、この先は聞かなくても良いとルナは判断し、酒場に向かうことにした。


 大きな街にはどこにでもいるように、情報を売る者はすぐに見つかった。


「ねえ、人を探してるんだけど」

「んぁ? ここはガキの来るところじゃ──い、いや、わかった。なんでも聞いてくれ」


 ルナが殺気を放つと、中年の男は冷や汗をかい何度も頷く。


「テオルってやつを知らない? 最近この街に来た、白髪で──」

「あ、ああそれなら、騎士団に入ったって奴じゃねえか。ドラゴン殺しの」

「違うって。他に心当たりはいないの?」

「し、知らねえ。お代は結構だ、他の奴に聞いてくれ……っ」


 男はプルプルと震え、逃げるように去って行く。


「ちっ、使えな……」


 ルナは酒場を出て、他の情報屋にも当たってみることにした。

 だが──


「第六騎士団にいるだろ。噂が尽きないぜ」

「ああ、あの騎士のイケメンくんね。私、見たことあるわよ?」

「そいつなら騎士団本部に掛け合ってみたらどうだ?」


 誰に聞いても、騎士のテオルという人物の話しか上がらなかった。

 ルナは同姓同名の線を捨てきれなかったが、「ここ最近王都に来た、白髪の」と条件をつけるとやはり他にいないらしい。


「じゃあ、やっぱり……」


 街中を走り回ったため、とっくに空は暗くなっている。


 俄かに信じがたいが、自分が探しているあのテオルが少数精鋭の騎士団に入り、一人で上位竜を倒したと?

 いや、そんなはずは。

 自分もちょうど兄と二人で同じ上位竜に挑んだ。

 二人でだ。

 それでも、手も足も出せずに敗走したのに。


「いや、人違いよ。そんなに強かったら私たちが今まで……」


 ──おんぶに抱っこ、だったことになるじゃん。


 曲がりなりにも自分は一人前の暗殺者なのだ。

 ルナはそう自分に言い聞かせ、月に照らされた道を歩き出そうとする。


 その時だった。

 楽しげに道の先を行く集団が目に入り、息を呑んだのは。


「あ、あれ……もしかして」


 ルナは駆け寄り、白髪の青年の名を呼んだ。


「テオル……」




 ◆◆◆




「あれ……ルナ、久しぶりだな」


 一瞬で真剣な表情に切り替わったみんなが、ルナに対し警戒態勢を取ったのは、俺がそう言ったのとほぼ同時だった。


「あぁ〜? どうしたッんだよ」


 唯一、ヴィンスが遅れて振り向く。

 団長やアマンダさんはフラウディアを護り、リーナは隣で鋭い目をしている。


「警戒しないでも大丈夫だと思います、知り合いなんで」


 そう声をかけると、団長はほっと息を吐いた。


「なんだ、君の知り合いか。驚かさないでくれよ」

「すみません……」

「なに、テオル。この子あんたとどういう関係よ?」


 みんなが警戒を解き、張り詰めた空気が元に戻る。

 するとリーナが怪しむような目を向けてきた。


「街に知り合いなんていないはずじゃない」

「ああ親戚、従妹だ」

「あっ……えぇ、そう!? なんだ、そういうことね」

「でも家から遠いこんな場所に、なんでルナがいるんだ?」


 リーナたちに一斉に睨まれ、膝が震えているルナに尋ねる。


「あ、あんた、今何してんの?」

「ん? 騎士だけど……」

「はあ!? き、騎士ってことは、上位竜を倒したってあんたのこと!?」

「あれ、なんで知ってるんだ? まあ別にいいか。で、なんでここに──」

「そう! それよ!」


 ルナが謎に一人で盛り上がっている。

 隣でリーナが「仲いいのね」と微笑ましげにしているが、前まではこんな感じじゃなかったんだけどな。


 ビシッと俺を指さすと、ルナは誇らしげに胸を張った。


「あんたを家に帰らさせてあげる!」

「……は?」

「家の仕事をしたいけど、追い出されたから騎士なんてやってるんでしょ? だからっ、私が迎えにきてやったの! お父様は私が説得してあげるから」

「いや、別にいいかな」


 何の心の変わりようかは知らないが、もう家に戻る気はない。

 それに、今の環境は自分が望んだものだ。


「うん。じゃあほら、すぐに帰るから。良かったじゃん、私が来てくれて。しっかり感謝しな──って、はぁあ!? 今、なんて……」

「だから、戻る気はない」

「そ、そそっ、それってつまり」

「せっかくここまで来てもらって悪いけど、すまないな」


 一人用のベッドしかないけど、俺の部屋に泊めた方がいいのだろうか?

 でも、あんな扱いされるほど嫌われてたからな。

 すでに自分で宿でも取っているか。


「じゃあ、これで」


 最後に軽く手を上げ、俺はルナに背を向けた。


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