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【書籍化】元・最強暗殺者の騎士生活 〜世界最強の暗殺者、超一流の騎士団に拾われ無双する〜  作者: 和宮 玄
第一章

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27 その頃ガーファルド家は⑤

「そうかそうか。あやつらにも、それなりの慈悲はあったようじゃの」


 顔面蒼白のゴルドーを中心に、重い空気が漂う屋敷へ戻ってきたテオルの祖父──先代は、いつもと変わらない軽い調子だった。


「ま、待ってくれ親父。あいつらのこと、何か知っているのか?」


 この件には一切関与していなかった父に、ゴルドーが目を向ける。

 しかし、先代は首を振った。


「危険な連中じゃろうが、儂はなんも知らん。依頼主は今日来た女子(おなご)だったのじゃろう? それがいきなり教王を連れてきたと……。何が目的で、どんな集団なのかさえ調べてみぬと分からんが、ひとまず殺されんで一安心じゃな」

「だ、だったら何か手助けを……」

「嫌じゃ。儂が勝手に動くことはあっても、家の頼みは聞かん。この老ぼれはもう引退した身よ」

「……っ」


 縋るような思いは拒否される。

 最後の希望が絶たれた瞬間だった。


 それもそのはずだ。

 ゴルドーが先ほど資料庫で確認したところ、あの老爺は教王で間違いなかった。常に重要人物の顔を頭に入れていなかったのが悔やまれる。

 例え能力的に可能であっても、依頼に失敗した時点で何なのだ、という話だが。


「じゃあいいって言うのか……?」

「む、何がじゃ」

「ルドの回復まで、まだ時間がかかる。あとは今回の元凶のルナだけだッ。人手が足りない中で、依頼まで減ったら親父が築いた家が潰れるんだぞ!?」


 怪訝な顔をする先代に、ゴルドーは脅すように言った。

 俺は家のために頑張っているのだから、少しくらいは手を差し伸べろと。


 全身骨折を負ったルドは、妻のフレデリカから過度の心配をかけられ、少し前にベッドで横になるよう連れられて行った。

 一人で歩けるまで回復したとはいえ、まだまだ仕事には出せないだろう。


「それでいいのかッ!?」

「……わかった」


 最後の一押しに、先代が頷く。


「わ、わかってくれるよな? 俺だってこのままガーファルドを小さくするつもりはない。今回は相手が悪かったが、必ず信頼を取り戻して……」


 表情が明るくなったゴルドーが、矢継ぎ早にそう語る。

 しかし、先代が口にしたのは予想外の言葉だった。


「お前にこの稼業は向いておらんかったようじゃな。儂が間違っていた……すまない。一人の暗殺者としてではなく、一人の子供としてもっと愛するべきじゃった」

「っ!?」


 こんなにも優しい顔を向けられたのは、いつぶりか。

 耐えきれず、ゴルドーは顔を歪める。

 今この状況で親子として接されることは、暗殺者としての自分を見捨てられることと同義だ。


 ゴルドーは膝から崩れ落ちる。


「い、いや、それはないだろ。なぁ?」


 苦し紛れに呼びかけるが、先代は──父は何も言わない。

 ただ、肩に優しく手が置かれた。


 今まで積み重ねてきたものが、崩れ去ってしまう。

 俺はこんなところで終わりなのか?

 じゃあ今までは何だった。

 兄が死んで、ようやく運が向いてきたというのに。


「今はゆっくりと休みなさい。仕事は一度、全て止めるんじゃ」


 先代は最後にそう言うと、横を通り抜け部屋を出て行く。


「ま、待ってくれよ……」


 茫然自失となっていたゴルドーがハッとし、振り向き手を伸ばそうとしたが、そのとき既に扉は閉じられていた。






「お祖父様、あの……」


 部屋を去った先代が廊下を進むと、ルナが待っていた。

 過保護な母に連れられて行った兄にあんなことを言われ、暗い顔をしている。


「どうしたんじゃ、こんなところに一人で」

「いや、その……」

「お前さんも怪我をしたんじゃろう。休まんで平気か?」

「あっ、私は大丈夫。ありがと」


 祖父からの心配が嬉しい。


「そ、それよりも、聞きたいことがあって」

「そうか。儂に答えられるなら何でも訊いとくれ」

「……な、何を馬鹿なことをって思うかもだけど……テオルのことで。本当に逃げ出してなくて、普通に働いてたのかな、なんて……お祖父様はどう思う?」


 祖父の表情を窺うように、ルナは訊いた。

 ずっと心の中にあった疑問だ。

 他に耳がない場所で尋ねようと、この場所を選んだ。


 テオルが暗躍していたなど考えたくもない。

 しかし、今回の悲劇の原因が他にあるとは思えなかった。


 今までと変わった点は、テオルがいるか、それともいないか。

 自分が責任を押し付けられた手前、兄たちのように目を逸らし、調べてもみない訳にはいかない。


「……うむ、もう言っても良いか」


 顎に手を当てた祖父が、何かを決めた様子で顔を上げる。

 そして、


「テオルはよく働いておったぞ? 他に生き方があると思うて、黙っとったが」

「……っ! じゃあやっぱり!」

「お前さんの考えておる通りじゃろうな」


 祖父にズバリと言われ、ルナは驚愕する。


「あ、あいつは今どこに……」

「オイコット王国におるぞ。儂も会ってきたばかりじゃ。気になるのなら行ってきたら良い……仕事もしばらくないじゃろうからな」

「オイコット王国……お祖父様、なんで連れ戻さなかったの!?」

「それはさっきも言ったが──まあ良い、とにかく見てきなさい」


 実力があるなら、連れ戻せば家を立て直せるかもしれない。

 ルナは思った。

 家に帰れると知ったら、テオルは喜ぶはずだ。

 これで任務の失敗は、自分のせいではないと証明できる。


「はい! 私が一人で迎えに行ってくる。みんなには内緒でね」


 ルナは祖父にお辞儀をすると、すぐに旅の準備に取り掛かった。


 大丈夫。すぐに帰ってこれるはずだ。

 テオルにはどうせ、暗殺(これ)しかないのだから。


【読者の皆様への大切なお願い★】


お読みいただきありがとうございます。


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