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【書籍化】元・最強暗殺者の騎士生活 〜世界最強の暗殺者、超一流の騎士団に拾われ無双する〜  作者: 和宮 玄
第一章

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24 新たな戦いの出だしは好調

 先程は不覚にも背後を取られてしまった。

 相手が気配を消して動いていた、というわけではないだろう。

 だとすると他に考えられるのは……。


 俺の予想が当たっていたら、倒し切るのはかなり難しい相手かもしれない。


「あ、貴方は何者ですか……? もしかして私と同じ──」

「貴様に時間はないぞ。イシュイブリス──魔纏同体(まてんどうたい)ッ」


 口の端についた血を拭い、男は動揺したような表情を見せた。

 しかし当然、時間を与えるわけもなく、アマンダさんが後方から仕掛ける。


 体内のイシュイブリスを解放。同時にその存在を鎧のように纏う。

 妖しく光る装備に身を包まれ、アマンダさんは男に突きを放った。


「──ぐはッ」


 ダガーナイフでの対応が間に合わず、男は飛ばされこちらに戻ってきた。

 反撃の隙を与えず、俺も腹に蹴りを打ち込む。

 再度アマンダさんの方へと飛ばされた男は、顔面に上段蹴り(ハイキック)を喰らい、空中で回転し地面に伏した。


 今のアマンダさんからは悪魔の気配を強く感じる。

 単にイシュイブリスが鎧になったというわけだけではなく、二人が重なり、同一の存在になっているようだ。


 シンプルなパワーだけを見ると、上位竜のそれを遥かに凌駕している。


「ハァ、ハァ……予想外の強さですね。こんなのが二人もいるなんて……」


 フラつきながら、それでもゆっくりと立ち上がる男。

 そこで。


「退きなさいッ! そいつは私が一人で──!」


 俺たちが敵の近くにいると、遠距離攻撃を使えないリーナが叫んだ。

 それを俺は手で制す。


「リーナ、わかってるだろ」

「……っ」


 怒りをぶつけようと、初めから飛ばしすぎだ。

 時間をかけたらリーナ一人でも勝てる可能性がないとは言えないが、今の状態では立っているのも辛いだろう。

 鼻から血が垂れている。


 自ら体の限界を超えてしまっては、深手を負ったも同然。

 彼女のことを思うのなら止めるべきだ。


「おい貴様、答えろ。魔王の軍勢は戻るのか?」

「はっ……本当に怖いお嬢さんだ。その装備も凄まじい衝撃を与えてくる」

「──答えろッ」

「おーう怖い怖い。じゃあ、一つだけ。『戻る? すでに戻っていますよぉッ!』。後はあの方の復活を達成するのみです!」


 アマンダさんが詰め寄ると、男は天を仰いで言った。


「貴方たちの大体の強さはわかりました。このまま私一人では、どうやってもキツそうですからね。いずれまた、お会いすることにしましょう」


 男がさらりと撤退を決める。

 アマンダさんもリーナも逃さないと気を張っているが、それじゃあダメだ。

 俺の予想が正しければ……。


 男に向かって全力で駆け出す。

 しかし、破れた本のページのような物を取り出した男は、それを広げ魔力を込めた。


「やっぱりか……っ」


 男は現れた瞬間から、魔力が少ない印象を受けた。

 それはおそらく、すでに半分ほど使用していたからだったのだろう。

 戦いの中でも魔力を一切使わず、外に漏らして無駄にしないように心掛けている様子もあったしな。


「──では、また」


 瞬間、男が大量の魔力を消費し消える。

 聞いたこともないが、持ち運びができる転移魔法陣のような物を使ったのか?


「くそっ」


 現れた時も俺たちの後ろに転移してきたのだったら、気づけなかったとしても無理はない。

 これは、対策を立てる必要があるな。


 使用する上で何らかの条件があるとは思うが、そこまで遠くに転移できるはずはないので、俺は探知魔法を展開し男が近くにいないか探った。


「逃げ、られた……?」


 その時、リーナが地面に倒れ込んだ。


「お、おい! 大丈夫か、リーナ?」

「あ。え、ええ……大丈夫よ。私は、大丈夫」


 力が入らないようなので近く寄ってみると、顔が青い。

 リーナは焦点の合わない目で、何度か「大丈夫」と呟いた。


「テオル、追えそうか?」


 アマンダさんがこちらに来る。


「いえ、厳しいかと。もしかすると既に島の外にいるのかもしれません」

「そうか、わかった。今回は突然の襲撃に対し、痛手を負わずに退けたことは我々の勝利と言えるだろう。だからリーナ、そう落ち込むな。必ず次がある」

「……は、はい。……そうね、うん」


 イシュイブリスの鎧を消しながら、アマンダさんはリーナの肩に手を置いた。


「では二人とも。あの男が言っていたことがどうであれ、このことはいち早く上に報告せねばならない。戻るぞ」

「「了解」」


 リーナに肩を貸して街を目指す。

 彼女はすぐに気丈に振る舞い、観光の予定が崩れたことを残念がった。


「船が出るまでの間に何か買ってきたらどうだ? お土産は俺が選んどくから」

「え、ありがとう。じゃああんたの分のアイスクリームも買ってきてあげるわよ」

「本当か!? 助かる」


 元々は紅玉の正体を知るために訪れた島で、新たな戦いが始まった。

 面倒で非常に危険な立場になってしまったが、俺は戦う。

 魔王の復活を阻止し、その軍勢を壊滅させる。

 それは人を護ること──騎士の仕事だ。


 紅玉の調査は完遂できたし、不意を打たれた敵に対しても定めた目標を達成して退けることができた。

 結果は悪くない。出だしは好調だ。


 街が見えてきた時、前を行くアマンダさんが振り返って俺たちを見た。


「時間ができたらまた一緒に来よう。次は、観光だけをしににな」


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