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710連目 血塗られた熊の助言

前回のあらすじ

『深夜の来客』


外注さんの今日のひとこと

『本日4月1日は有明月、逆三日月です』

 アーニャの話によれば、アリサはアーニャと同盟を結んだとの事だ。それも対等な関係の同盟だ。

俺の言った事が影響しているかは分からないが、アリサは他の人の力を借りる道を選んだらしい。

その相手がアーニャというのは、やはり名家のお嬢様同士だと対等であっても、メンツが保てるという事だろうか。



「アリサおねえちゃんの事、ずっと心配してたんです。

 あんな風に無茶するようになったのは、私のせいだから……」


「ん? 俺も詳しくは知らないけど、アリサは両親の期待に応えようとしてたんじゃないのか?」


「えぇ、それもあるんですけど……。

 私が先に契約主になってしまったので、焦ったのが一番の原因じゃないかと思うんです……」



 アリサは契約主候補として学園都市にやって来たそうだが、実際に契約主として認められたのはごく最近の事なんだそうだ。

そして、先に契約主として認められていたアーニャをライバルとするには、アリサのプライドが邪魔をしたのだろう。


 なにせアーニャは10歳だ。契約主に年齢は関係無いとは言え、こんなに歳が離れている子相手に本気で競り合おうなんて、大人気ないと感じてしまっても不思議ではない。

それは俺が、汚い手を使われても、かなり譲歩した提案を蹴られても、それでも本気でアリサ相手に怒ったりできない、気恥ずかしさと同じだろう。



「そんな中、私がSSR(★7)のロベールと契約したことが、追い討ちになってしまったみたいで……」


「外に居る白熊って、SSR(★7)なのか。

 それでアリサは、SSR(★7)にこだわったんだな」


「えぇ。それに、今は新たな来訪者が減っているそうで、誰かが契約解除しなければ、新たに契約するのは絶望的なんだそうです。

 でもこれからは、ロベールがアリサおねえちゃんを助けられるので、無理に誰かから奪おうなんてしないと思いますよ」


「ってちょっと待て。新たな来訪者が来ていないだって?」


「わたしが調べたわけじゃないんですけど、そうらしいんです。

 たまたま今の時期に、少なくなってるだけかもしれませんけど……」



 マジか……。局長め、そんな大事なことなぜ言わなかった!!

いや、もしかすると読んでいた書類の中のどこかに書かれているかもしれないけど、俺としてはかなり重大な事なんだが……。



「まぁそれはいいか。とりあえず、アリサの事は丸く収まったって事だな」


「うーん、それが……」


「どうした? なにか問題でもあったのか?」


「いえ、アリサおねえちゃんはいいんですが……。

 お爺様は、私が貴方達の同盟に入って欲しかったらしくて、最近スネているんですよ」


「ジジイ……、大人げねえな」


「そのために学園運営局(うんえい)に働きかけて、同盟システムを作らせたらしいですから……」


「爺さんが事の発端だったのかよ!!」



 アーニャは笑いながら「お爺様ですから」と言っているが、そのせいで二年連続で年末に奔走したわけで……。

なんなら、孫の方がよほどしっかりしているんじゃないだろうか。



「まぁ、そんな爺さんを心配させるなよ?

 またクリスマスの時みたいな事あったら、今度こそ助けられないかもしれないしな」


「えぇ、次はもう少し穏便に済む方法を考えますね。

 サプライズとしては大成功でしたけど、やっぱりアルおにいちゃんの計画は、過激なのが多いんですよね」


「アルおにいちゃんって、まさかアルビレオの事か……?」


「そうですよ? 当日お泊りに出かけたのもアリサおねえちゃんの家ですし」


「……なるほどな」



 家族ぐるみの付き合いとは聞いていたが、そんな所でアリサ達とニアミスしてたとは思わなかったな。

まぁ、実際にアルビレオとは会っていたわけだし、あんなサンタの爺さんが生きた心地のしない、サプライズパーティーの計画者が、アーニャとは考えにくかったしな。



「お爺様の意向もあるので、今後は私たちが対立する事はないので、安心してくださいね。

 もちろん、わたしもお母様達と戦いたくはないですから」


「そりゃそうだ。身内とのバトルなんて気まずいだけだしな」



 俺はそうやって理解を示したつもりだったが、アーニャは「お爺様とロベールがバトルしたらどうなるか、少し興味あるけどね」なんて冗談を言ってのけた。いや、これって冗談だよな?

笑えない本気か冗談か分からない話を織り交ぜるあたり、アリサよりよっぽどやりにくい相手かもしれないな……。



「それでは、今日はこのあたりで失礼しますね」


「あぁ、気をつけて帰るんだぞ。おやすみ、アーニャ」


「あ、わたしはもういいんですけど、ロベールからクマのお兄さんに話したい事があるそうですの」



 クマのお兄さんか……。まぁ悪くない呼び名だ。

しかし、あの白熊が俺を指名? アイツに何か言われる事も無いと思うのだが……。


 いや、考えてみればこの白熊は、一昨年のクリスマスイベントで関わりがあったな。

あの時の“血塗られた白熊(ブラッディベア)”だ。まさか恨まれてるなんて事はないよな……?

そう思い、恐る恐る話かけてみる。



「えっと、何か俺に用があるのか?」


「イエ、私ト同ジ存在ニ、興味ガ有ッタノデス」


「同じ存在?」



 コイツと俺の共通項? 無駄に愛らしいクマ型ってくらいしかない気がするな。



「私ハ、ヌイグルミニ取リ憑イタ、霊的存在。

 貴方ハ、マクラニ取リ憑イタ存在」


「ん……? ますます意味が分からん」


「マサカ自覚ガ無ト? 私ヲ、ヨク見テ下サイ」


「うーん……。巨大な白熊だな!」


「……オーラ、又ハ気配ニ集中シテ下サイ」


「んー……?」



 急にそんな事を言われても、と思いつつもまじまじと眺める。

すると1/1スケール白熊の周囲に、何かモヤモヤしたものが見えてきた。

あれは……うえっ……。小さいぬいぐるみが白熊の周りをモゾモゾとうごめいているではないか……!

うーんちょっと気持ち悪いな……。



「そうか、色んなぬいぐるみの綿を集めたから、色んなヤツの集まりなのか。

 それに浮いてると思ったら、すごい量のちっこいぬいぐるみが足元を支えてたんだな……」


「ソウデス。動ク時モコウシテ、ヌイグルミ本体ヲ皆デ動カシテイルノデス」



 なるほどな。つまり、黒子のような霊体が、ただの巨大白熊ぬいぐるみを動かしているのか。

しかし、そうなると俺と同じってどういう意味だ?



「いや、お前が操り人形みたいに動いてるのは分かった。

 けどさ、それが俺とどんな関係があるんだ?」


「貴方モ、自覚ガ無イダケデ、同ジトイウ事デス。

 モシ今度、危機ニ陥ッタ時、コノ事ヲ思イ出シテ下サイ」


「危機……? もしかして、アリサの奇襲の事を言ってるのか?」


「……」



 無言、それは肯定だ。

今のロベールにとってアリサは主と同等の存在なのだから、直接的な言葉で非難などできないだろう。



「ロベールも心配してくれてたのね、ありがとう」



 そう言って頭を撫でるアーニャに、小さなロベール達がじゃれ付く。

その様子だけで、アーニャがどれだけロベールに慕われているのかが理解できた。



「アーニャ、ロベール、ありがとな」


「えぇ、それではさようなら。良い夢を」


「ははは。まくらは寝るときの道具であって、まくら自体は眠らないさ」


「イエ、貴方モ少シ休ムベキ。

 サァ、安心シテ眠リニ着クトイイ……」


「えっ……?」



 その声がすっと遠のいてゆき、俺の意識は闇へと沈んだ。

『そういやクリスマスプレゼントのシロクマがここで出てくるのな』


ちょっと出たヤツが再登場するの好きなんだろ?


『否定しないし、なんなら前作キャラがモブで出るパターンとか好き』


それってレオンの事か。それで、名前は適当に付けてって言ったけど、なんでロベール?


『とあるお気に入り作者さんの白物家電の名前らしい』


白物と白熊で駄洒落に……なってるのかこれ?


『説明されないと分からんなら駄洒落になってない』


ちなみにロベールはフランス語圏の男性名らしいね。


『俺、フランス語、ワカンナイ』


日本語も怪しいもんね?


『……次回、中の人、逃亡する』


逃がさんぞ!!

って次回予告もしてないじゃねーか!!

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