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470連目 鬼とチョコレート

前回のあらすじ

「鬼若はベルに嫉妬して泣き出してしまったのかのう?」


ガチャ神の今日のひとこと

「鬼若の心情を調査じゃ!今回は鬼若視点じゃぞ!」

 今、俺の手元にあるのは骨の形をしたクッキーが入った袋と、丸いチョコレート。



「ベルにはこっちな」



 対して、奴がもらったものは……。

俺とクロに渡された物と同じ骨型のクッキーと、綺麗に包装された小さな箱。



「あら? 我は二つもいただいてよろしいのですか?」


「あぁ、いつもありがとうな。これは俺とカオリからのお礼の気持ちだ」



 俺には一つ、奴には二つ。けれど数の問題ではない。

俺にとって何より重要なのは、“主様が特別に用意した”という事だ。


 主様の「礼の気持ち」とされたその箱は、俺の居場所が奪われた事を如実に物語る。

俺が主様の“特別ではなくなった”という事実を……。



 なぜ主様は、俺ではなくあの女を選んだ?

 俺はもう必要ないのか……?

 俺は期待されていない……?



 否、俺は強くなった。どんな敵も打ち負かし、主様を守れるほどに。

ならばなぜ俺は認められていないんだ?


 唯一のSSR(★7)だった時、俺はいつだって主様の隣にいた。

それは、SSR(★7)の中では弱くとも、他の危険度(レアリティ)の者よりは強かったからだ。

だから、主様は強い者を求めている。新たな契約者も訓練し、強くある事を求めている。

強さを求めているならば、あの女を打ち負かした俺の方が、必要とされて(しか)るべきではないのか?



 本当にそうか?

 本当に主様は、強さを求めているのか?



 最後に主様が俺を連れて戦い(クエスト)に出向いたのはいつだ? ずっとずっと前?

まくら姿の主様を背に、戦った事があっただろうか……?



 そうだ、俺はベルフェゴール(コイツ)が来てから、主様と共に戦った事がない……。



たまたま運よく強くなって、勝手に期待されていると思い込んで……。

その実、何の成果も出していない。



 主様は、俺を本当に必要としているのか?

 俺は何のためにここに居るんだ?



 そんな想いに押し潰されそうで、体中が熱くなる。

耐えるように、負けぬように、無意識に手に持つ包みを握り締めた。

小さな丸い玉は、俺の火照った、燃えるような手の熱に耐え切れず、無残にも溶けてゆく。

ひどく甘い匂いを発しながら流れる、黒くほろ苦い包みの中から出てきたものは……。



 鬼を祓う豆だった。



「ぐっ……、うぅっ……」


「ん? どうした鬼若!?」



 意味など考えるまでもない。あの女から宛てられた、言葉を介さぬ通告。

耐えよう、堪えようとしても、あふれ出すものは止められなかった。

気遣われる言葉も遠くに聞こえ、俺は俺の中に潜む鬼に責め立てられる。



“弱いくせにわがままで、ずっと主を困らせてきた鬼若”

 違う! 主様は、そんな俺でいいと言ってくれた!



“守られていると気付いているのに、感謝もできぬならず者”

 そうじゃない! 主様はたとえ弱くても、俺に役割を与えてくれていた!



“強くなったと思えばそれを鼻にかけ、主を守るなどと(うそぶ)自惚(うぬぼ)れ屋”

 今度こそ……、今度こそ胸を張って、主様を守れると思っていたんだ……。



“必要とされていない事にも気付けぬ()れ者”

 主様が本当に必要としていたのは、従順で強い従者だったのか……?



“そんなお前を、主は情けで手元に置いていただけだと、なぜ今まで気付かなかった?”

 主様は、俺に期待してると言ってくれたんだ……。



“主の優しい嘘にすがり、本当の己の姿を見ようともしなかった”

 もうやめてくれ……。俺はただ、主様のお側で、主様の力になりたかっただけなんだ……。



“そして何より……”

 やめろ! もう、それ以上言わないでくれ!!



“お前は、そんな心優しき主を裏切り騙し続ける欺瞞者(ぎまんしゃ)だ”



 俺は……、たった一人の、俺を理解してくれた人を騙し続けていた……。

俺自身のちっぽけな自尊心のために、主様の優しさに甘え……。

騙し、嫉妬し、身勝手に怒り、そして勝手に落ち込む大馬鹿者だ。




「俺には……、主様の隣に立つ資格などないのです……」




 口に出せた言葉は、謝罪でも感謝でもなかった。




 そんな俺を、カオリ様は励まそうとしてくれている。それがより俺を惨めにさせた。

俺が主様に何を隠しているのかを知り、それを告げ口する事も無く、いまだに隠し通すために手を尽くそうとしている……。


 そんな慈愛に満ちた彼女を、俺はちっぽけな虚栄心のために共犯にしてしまったのだ。

その優しさが、今の俺には辛かった……。

そして、その優しさを哀れみだと感じてしまう俺に、何より苛立った。


 主様はずっと沈黙を保っている。

みっともなくボロボロと涙を流す俺の姿に呆れたのか、愛想を尽かされたか……。

いや、愛想はとっくの昔に尽かしていたのだろう。

どちらにせよ、俺にはもう主様に合わせる顔が無い。

いっそこのまま理由も聞かず、契約解除を言い渡されればどれだけ楽だろうか……。






 主様はしばらく黙っていたが、俺の座る横へ立ち、目を見てゆっくりと語り出す。



「鬼若、お前が何に悩んでるか、それは俺にはわからない。

 けどな、悩むって事は、前を見て進もうとしてるって事なんだ」



 主様に抱き寄せられ、頭が柔らかな温かさに包まれる。

優しく撫でられ、俺はこの小さなはずの、主様の大きさに畏怖する事になる。



「もしお前が、真っ暗な前を見るのが辛くなったなら、振り返って俺を見るといい。

 たとえ前を向けなくたって、俺はお前をこうして抱きしめて、頭を撫でてやるからな」




 後ろめたさに耐え切れず、俺は主様が変わったのだと思い込んだ。


『従順でない者は切り捨てる。お前はもう要らない』


 そう心変わりしたんだと思い込んでいられれば、罪悪感を抱かずに済むはずだった。



 けれど……、主様は変わってなどいなかった。

たとえその身をまくらへと変えようと、クマへと変わろうと。

その心と志は、出合った頃と何ら変わっていない。

今でもこんなどうしようもない俺を抱きしめ、導こうとしている。



 変わってしまったのは俺だ。



 こんなに優しく、俺を導こうとしてくれる主様を、俺は裏切り続けている。

ただその事実に、俺は強がることもできず、泣き崩れるしかなかった。

ベルへのプレゼントはきっかけに過ぎなかったんだねー。


「マイナス思考のドミノ倒しじゃのぅ……」


やっと強くなったのに、その強さが意味無いってなったらねー。


「今の今までクエスト行っとらんかった事に驚きじゃが」


クリスマスイベント以外で戦闘らしき戦闘なかったしねー。


「で、今さらじゃが、おぬしが全知全能ならワシが調べる必要なかったんじゃ……」


まー、人の心情を慮るチカラも神には必要かなーと。


「まさかこれも研修の一環じゃったと!?」


(そもそも調べる以前に、俺が全知パワー使ってプロット書いてる訳だし)


「何かとんでもなくメタい事考えておらんか?」


ソンナコトナイヨー?


「まぁよいか、次回も明日、2月16日(土)更新予定じゃ」


明日はまくら編だよー!


「……全知ならば未来も見えておるという訳か」

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