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240連目 クリスマス中止のお知らせ

前回のあらすじ

『お願い、死ぬでないバウム!

 おぬしが今ここで倒れたら、アルダやチヅルとの約束はどうなってしまうのじゃ!?

 課金石はまだ残っておる。ここを耐えれば、サンタに勝てるんじゃから! 』

 暖炉の薪がパチパチと爆ぜる音と、香ばしいコーヒーの湯気が温かさを演出する。

と言ってもさ! 俺はまくらなんで、温度も香りも分からんのだけどな!

いい雰囲気である事は確かだし、文句はないんだけどね。


 俺を抱えさせたバウムをソファー席に寝かせ、カオリ達は思い思いの飲み物を注文していた。

バウムは長い角が腰の辺りまであるため、仰向けで寝る事ができない。そのせいで俺はバウムの下敷きになってしまっている。

まくらなので苦しくはないし、視点移動でどういう状況か分かるからいいけどね。

それ以上に、バウムは普段はどうやって寝ているのか気になる所だ。


 そんな中、アルダは常連ぶりたいのか、店主に声をかけていた。

バウムがこんな状況なのにのん気なものだ、とも一瞬思ったが、おそらくは気を紛らわせるために話をしているのだろう。



「マスター、えらく静かだけど、どうしたんだい?」


「あぁ、今年は工場が止まっているらしくてね、ここも寂しいもんだよ」



 恰幅の良いマスターはしょんぼりと話す。白髪に白髭と、まさにサンタの風貌だ。

もしくは、フライドチキンの店の前に立っていても違和感がない。


 しかし彼はサンタでもなければ、もちろんフライドチキン店の創業者でもない。

そんな彼も、閑古鳥のなく店内ではやる事もないのか、飲み物の提供が終ればグラスを磨いている。



「工場が止まっている? 工場ってサンタ工場だよね? この時期に?」


「あぁ、君は知らないのかね……。今年はクリスマスが中止になったそうなんだよ」


「えぇっ!? クロの! クロのプレゼントはどうなるんですかっ!?」


「さぁ、どうなるんだろうねぇ……。おかげでこの村も、この有様さ……」



 この時期はいつも大盛況なのに、と愚痴をこぼす店主。

ホットミルクの口ひげを付けながら、涙目のクロ。それを拭いてあげるカオリ。

クリスマス中止でも何の痛手もない俺だが、この空気はなんとかしたいところだ。

いや、クロに関しては面白い絵ずらでしかないけどね。


 しかし、俺達以外は店主しかいない状況とはいえ、約束どおり普通のまくらでいよう。

心配せずとも、クロの面倒をみながらカオリがうまくやってくれるはずだ。



「あの、クリスマス中止の理由って何なんですか?」


「さあ? 私はこの村で店をやっているが、工場の関係者ではないのでね。詳しい話までは聞いてないのだよ。

 けれど、いつもこの時期にやってくる、エルフの期間工たちがクリスマス中止の話をしていたものでね」



 エルフの期間工……。またすごいパワーワードが出てきたもんだ。

ちなみにサンタの手伝いは、エルフ説と小人説があるそうだ。しかしこの世界(ゲーム)では、モブキャラのエルフを使いまわすため、エルフ説でやっているようだ。

去年のイベントでも出てたが、まさか期間工だったとはな……。

なんて考えている俺だが、のしかかっていたバウムがもぞもぞと動き出した。



「うぅ……、ここは……?」



 状況が把握できていないバウムは、ゆっくりと周りを見回す。

うまく角がテーブルやソファーに当たらないように動くのは、さすがだと感心した。



「お目覚めになられましたか。我らは、アルダ様の依頼で貴方を探しにきた者です。

 路上で倒れている所を見つけまして、こちらへお連れしました」


「バウム、体はもう大丈夫か?」



 ベルが状況を説明している間も、アルダは軽くだがバウムの状態をチェックしたようだ。

安心した顔をしているのだから、特に問題はなかったのだろう。


 とりあえずバウムに話を聞く事になったが、まずは自己紹介をする流れになっていた。

まぁ、俺はまくら役に徹しているので、聞いていただけだったけどね。


 そんな中、バウムにも飲み物をマスターが淹れてくれていた。

いまだバウムに抱かれた俺の前に、温かいマシュマロ入りココアが運ばれてくる。



(バウムよ、このまま飲んでもいいが、絶対にこぼすなよ……)



 なんてことを、俺は念じていた。いや、こぼされてもやけどどころか、熱さも感じないんだけどさ。

さすがにココアや、とろけているマシュマロを浴びたくはないからな。



「え? あ、そうだ。汚したらいけないので、このまくらはお返ししますね」



 バウムはひょいと俺を持ち上げ、ベルへと返す。

もしかして今の念、通じた? いや、まさかね。



「それで、色々と聞きたい事があるんだけど、いいかな?」


「はい。僕に答えられることなら」


「はいはいっ! どうしてクリスマスが中止なんですかっ!? クロのプレゼントはっ!?」



 カオリが聞こうとする前に、クロが食い入り気味で質問を投げかけてきた。

クロ、必死すぎるぞ。いやそれも可愛いが、鬼若さえも苦笑いしてるぞ。



「プレゼントは自動発注なので、工場にすでに入荷されているはずです。

 けれどクリスマスが中止なら、それが配られる事はないでしょうね」



 ガラガラと、夢が崩れる音が聞こえてきそうだ。あ、クロは座り込んでしまったな。

それにしても“自動発注”に“入荷”とは……。エルフの期間工といい、なんとも夢の無い……。

ファンシーでファンタジーなクリスマスは、どこに行ってしまったんだろうか。



「それで、クリスマス中止の理由については、親父さん……。

 あっ、サンタの親父さんなんですが、僕にも話してくれないんです。

 聞いても、お前には関係ないっていって、怒り出すんですよ……」



 今までは何でも話してくれたのに、と見るからにショボくれるバウム。

そういえば、バウムをホッキョクグマ密猟の共犯にしようとしたくらいだし、サンタの爺さんはバウムを信用しているんだろう。それが理由も教えてくれないんでは、バウムがショゲるのも仕方ないか。

それ以上にショゲてるクロが、プレゼントに何をお願いしたのか。俺はそっちも気になる。



「それじゃぁ、外で倒れてたのはどうしてなの?

 警報も出てないし、野良来訪者と戦っていたってこともないと思うんだけど」


「それは……、理由を聞くために僕からバトルを挑んだんです。

 勝てたら教えてもらう約束で、何度も何度も……」


「勝てぬと分かっていて何度も挑むとは、無茶な事を……」



 ベルは呆れ顔だ。合理的判断を好しとするベルには、理解不能なのだろう。

この世界(ゲーム)のバトルでは、“たまたま”や“運よく”勝てることは、まずありえない。

全てはキャラクターの強さと、多少の戦略で勝負が決まる。


 それなのに、負けても再戦を挑むのはバカのやる事だと、ベルは考えているのだろう。

俺の中身(課金石)があれば、負けても途中から復活できるから、ゴリ押しもきくけどね。



「サンタさんはどこにいるんです……?」



 ドス黒いオーラを出すクロの姿に、一瞬飛び上がりかける。これは本気だ……。



「クロが一発気合いを入れ直してやるのですー!!」


「ちょっとクロ!?」


「話を聞きに行きましょう。俺も、あの爺さんが何を考えてるか気になりますからね」


「鬼若君も!? でも、どこにいるか……」



 鬼若も言葉こそ丁寧にと気を付けているようだが、顔はまさに鬼の形相だ。

去年のイベントも共に回ったので、爺さんの事も知っているからこその反応だな。

その様子を知っているなら、こんな体たらくな爺さんの話を聞いて、何も思わないはずがない。

そう確信できるほど、去年のイベントでのサンタ爺さんは、輝いていたのだ。



「サンタのオヤジさんなら、兄の店に居ますよ。

 昼から飲んだくれてると、メッセージが来たんですよ」



 兄は小洒落たバーをやってましてね、とマスターは教えてくれる。

思わぬところからの情報提供だったが、俺たちは向かう事になった。

クロと鬼若だけで行かせると、大惨事になりそうだったからな……。

よし、ガチャ神ちゃんお仕置き決定。


「なんでじゃ!?」


前書きが完全にアウト&今回のネタバレ入ってる。


「ちょっと茶目っ気出しただけじゃろうて……」


お仕置き部屋を創造、反省するまで出られま10億年。


「天地創造力を無駄な事に使わないでほしいのじゃ」


ん~、じゃぁお仕置きは別の方法考えときます。覚悟しておけ。


「やさしくしてほしいのぅ……」


今後の行動次第ですよ?


「次回は明日、12月16日(土)更新予定じゃ」

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