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163連目 クロの退屈で幸せな日常

 早くごしゅじんに会いたくて、今日も近道しちゃいました~!

林の中を通る道は、石畳の道よりも走りにくいけど、ワンコのクロには関係ないのです!


 でも、ごしゅじんに「人型になったんだから、人として生活してね」って言われたから、手を使って走るのは我慢してるのです!

頑張ってるクロを、ごしゅじんは褒めてくれるかな~?


それにそれに! 今日はお手伝い先のおばあさんに、クッキーを貰ったのです!

ご褒美をもらえるクロを、きっと褒めてくれるのです~! 楽しみです!

 いつもの公園、噴水の前にごしゅじんを発見です!



「ごしゅじ~ん!」



 走り名がら手を振ると、クロに気付いてごしゅじんが駆け寄ってくるのです!

ごしゅじんってば寂しかったのかな? クロがいないとダメなごしゅじんなのです~。

でもでも! クロも嬉しくて手よりも、もっと尻尾が揺れちゃうのです~。

はっ、恥ずかしいからこの尻尾は見せられないのです!



「よかった! 無事だったのね! SSR(★7)警報が出たの!」


「警報ですか!? 安心してくださいっ! クロがやっつけちゃうのです!」



 来訪者警報、強い野良来訪者が近くに居るときに出される警報ですっ。

でもクロだって、これでもSR(★5)なのですっ!

ガブっとひと噛みで退治しちゃうのです~!

そしたら、ごしゅじんも喜んでくれるのです!!



「クロ、バトルなら怪我をする事もないけど、SSR(★7)なんだよ!?

 バトル扱いにならないと、どんな酷い目に遭うかわかんないんだよ!?」


「相手を心配してあげた方がいいのです! なんたって、クロが相手なんですからねっ!」



 ごしゅじんは心配性なのですっ。クロが居ればどんな相手も一撃なのですよっ!

と、言ってるそばから、野良来訪者の群れがやって来たのですっ!



「ごじゅじんを守るのがクロの役目! ちょっとだけ痛い目にあってもらうのです!」


「クロ! 待って!!」


「おんどりゃぁ~~~!!」



 先手必勝! クロの必殺“百烈犬パンチ”を食らうのですっ!!



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



「えへへ……。ごしゅじん……、クロ、やりましたよぉ~……」



 俺を抱きかかえ、カオリの膝枕でムニャムニャと寝言を言うクロ。

なにやら幸せな夢をみているようだ。時折寝ぼけて噛まれる以外は、平和な日常。

初めて会った時はあんなに警戒されたのに、今ではお気に入りの抱きまくらだ。



「クロってば、バトルしてる夢でもみてるのかな?」


「夢でバトルとか、コイツってこう見えて戦闘狂なのか?」


「そうでもないんだけど、私を守るのが役目だと思ってるから」


「さっきの話を寝ながら聞いてたから、夢に出たのかもな」



 最近はずっとカオリに、この世界の事や契約主として、知っておく必要がある事を聞いている。

なにせ俺は「ゲームで知った事」以外の情報は持ち合わせていないため、日常生活に支障をきたすレベルで、この世界について理解していないのだ。



 さっきまで聞いていたのは、来訪者のレアリティと警報についてだ。

ゲームでは強さや、ガチャでの出現率の低さの意味合いしかないレアリティだが、こちらでは来訪者の“危険度”を示す値となっている。


 そして、それがSR(★5)以上で、さらに契約を行っていない場合は、周囲に警報が出される。

震度5以上が予測されると出る緊急地震速報みたいなものか、と俺は理解した。

そして、契約を行っていない来訪者を「野良来訪者」と呼ぶそうだ。


 ただ、野良来訪者なら全てに警報が出る訳ではなく、彼らが元居た世界の状況や、その者が善性か悪性かによって、警報が出るか出ないかも変わるらしい。

鬼若とベルは、キャラの元ネタに鬼と悪魔を含むのだから、警報が出るのは当然といえば当然か。


 そして警報が出る理由、それがクロと鬼若たちのバトルの様子にも関係していた。

来訪者は学園運営局(うんえい)のルールに縛られている。だが、バトルと判定されなければそのルールの適用外になり、十分危険な存在といえるらしい。


 それはベルの羽衣がクロを縛り上げたように、「命の危険が無い程度の暴力行為」は許容されるとの事だ。

ならば怪我をする事もあれば、恫喝する事もできる。だからこそ、大きな魔力を持つレアリティ(危険度)の高い来訪者に対して警報が出されるのだ。


 カオリ達と出合った時に出ていた警報は、俺の端末が故障したための誤報だったらしい。

というか、俺がまくらになった事で色々とバグが発生したようで、今頃学園運営局(うんえい)はてんてこまいで対処に当たっているようだ。



「それで、野良来訪者限定ってのはどうしてだ?」


「契約している来訪者はね、契約主がその責任を負っているからだよ」


「つまり、もし鬼若が何かマズい事やると、俺が罰せられるのか?」


「そういう事でもあるけど、対人活動においての魔力利用を制限される……、とかなんとか……」



 なんだか、とても歯切れの悪い説明をするカオリ。たまにこういう反応になる事があるな。

特に今回のように、自身に対しての事柄ではない時は理解が及んでないようだ。



「なんだその、対人なんとかってのは」


「簡単に言えば、人に対して魔力を使えないように、自動で制限が掛かってるらしいの」


「野良じゃなければ、安全装置が付くって事か?」


「多分、そういう事でいいと思うの」



 クロか鬼若本人に直接聞けば、どういうことか分かるのだろう。

といっても、別に俺がちゃんと理解している必要もないか。

勝手に暴れて俺が投獄、なんて事にはならないと分かっていれば、別にそれでいい。


 それにしたって、今回のカオリの歯切れの悪さは気になる所だ。

今までは、ここまで誤魔化された感じのする答えはなかったのだが。



「もしかしてたけどさ、クロってあんまりバトルしたことないのか?」


「えっ……? どうしてそう思ったの?」


「いや、鬼若たちに何の躊躇も無く挑んだしさ、バトル関係の話があやふやだし」



 少しの沈黙、それはきっと肯定の意味だと思う。

けれど、経験不足だと自身の口から語るのは、敵対者に弱点を教えるようなものだ。

もちろん俺は、カオリと敵対する気はないんだけどね。



「クロにはね、たとえバトルでも戦って欲しくないの」



 バトルとは学園運営局(うんえい)のルールに基づいた、いわば試合のようなもの。

そこでの攻撃は“仮想攻撃”となり、人を傷つけるどころか、何かを破壊する事もできない。つまり怪我も死亡の危険もないのだ。

その代わり、負ければ自身の魔力を奪われ、しばらく行動不能になる。



「きっとクロは、私を守るために戦おうとする。

 そのためには、クロはクロ自身がどうなってもいいって思ってる。

 それに元々は番犬という役目を負う子だから……。

 もしかしたら、その役目を果たせていない今の状況は、退屈なのかもしれない」


 ひとことずつ、考えを整理するように、カオリはゆっくりという。

その目は少し、寂しさを含んだ色をしているように、俺には見えた。



「けどね、私はこの世界でたった一人の、家族と呼べる存在に傷ついて欲しくないの」



 クロの幸せそうな寝顔に微笑みながら頭を撫でてやる。

家族と呼べる存在、それが彼女にとってのクロだった。

今回の主役はクロ!わんこなでなでもふもふ!

うわこのわんこつよい・・・。

次回更新→11月30日(金)デス



後書き代打     ◇カズモリ◇

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