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堀口裕子の見る世界 [13]

 説明された特徴、服装などから“マコト君”が今川真、その人だとはっきりした。

あまりのショックに頭を抱えため息を零すと、森口君が心配そうに話しかける。



「その男の子は知り合い?」


「えぇ、おそらく今川夏音さんのお兄さんよ」


「あぁ……、確か僕が担当した子だね。お兄さんにも会った事あるよ」


「そうよね。私の担当してる人はほとんど、森口君から来てるものね」


「というか、さっきマサと回っている時に見かけたような……」


「それを先に言ってよ!」



 あまりにのん気な発言に、立ち上がり声を荒げてしまった。



「すぐに彼を捕まえましょう!」


「ちょっと待ってよナトさん、彼がどう関係してるかなんてわかんないでしょ?」


「いえ、考えてみればおかしい事ばかりで、彼が関係してるなら説明できることも多いのよ」


「捕まえるのはその話を聞いてからかな。いざとなれば、親御さんに携帯の番号聞いて連絡とればいいし」


「……えぇ、そうね。少し焦ってたわ」



 私は座りなおし、夏音さん関連で集めた資料を長机の上に広げた。



「まず防犯カメラね。昨日私たちが来た時に、オーナーが故障してる事を説明したのよ」


「まぁ、普通は説明するよね」


「でも考えてみればおかしいのよ。不審者がちょうどよく映ってる映像で説明するかしら?」


「うーん……。なくはないけど、それがわざとだって?」


「えぇ、私たちは行方不明の子たちの映像を見たかっただけよ?

 それなら、その映像を流して不具合の説明をすればいいじゃない」


「つまり、わざと不審者の存在を知らせるために見せたと?」



 森口君と目を合わせながらゆっくりと頷く。

けれど彼はまだ納得していないようだ。



「それってなんのために?」


「警察の捜査の目をそちらに向けるため、と考えるのが自然ね。

 例の不審者は、ハンバーガー屋さんの店長が話してたのよ。

 だから近所の店の人達は、そういった不審者などの情報共有をしていると考えられるわ。

 それはもちろん警察もね。

 オーナーは内心、森口君が来なくて焦ってたかもしれないわね。

 私たちじゃ、それを知らない可能性だってあったもの」


「たしかにね。本当は昨日失踪した子の捜査で今日来た時、それとなく僕に見せるつもりだったのかもね」



 彼ももはやこの店のオーナーが事件に関与している前提で話を進めている。

けれど、今一度確認しておこう。



「前提として、オーナーが失踪事件に関与してる前提で話しているけど、問題ないわよね?」


「問題ないよ。可能性ってだけで、おかしなところは指摘するから」


「それじゃ進めるわね。次に真君だけど……」



 これは少し話しづらい。けれどこれを話さないと二人が繋がった事で、事件(パズル)のピースがはまったのだと説明できないのだ。



「印南君。メール添付用に撮影したカーナビの地図出してくれる?」


「はい。えっと、これですね」



 小さなスマホの画面を三人で覗き込む。そして指差して説明を始めた。



「この密集してるのは森口君にも言った通り。

 でもね、これって密集してるだけじゃなさそうなのよ」


「というと?」


「ピンマークをざっと丸で囲むでしょ? すると真中近くに……」



 指差すのは“文”のマーク。学校だ。



「小学校?」


「そう。おそらく全員同じ小学校に通ってた子達よ」


「ん? でも夏音さんって12歳ってことは、中学に上がったばかりじゃ?」


「だからよ。生年月日の話はメールでした通り。

 おそらく、夏音さんの卒業アルバムで彼が生年月日を調べたのよ」


「それで妹さんの同級生を誘拐したと? なんのために?」


「意図はあると思うのだけど、それは分からないわ」



 理由が分からず唸る私たちに、印南君が意見した。



「12って数字にこだわってるんじゃないですか?

 12歳の女の子、それが1月~12月まで一人ずつで12人。

 それに……、4~7月の子は同級生じゃないんです」


「え? 同級生じゃない?」


「あぁ、そうか。もう8月だから、7月までの子は同級生だと13歳だもんね」


「えっ……ってことは、8月生まれの子は……って夏音さんが8月生まれよ!?」


「何か意味があるなら、12歳のうちに何らかの行動に出る……かも?」


「今日何日!?」


「28日だよ。明日は非番で焼肉半額(焼肉の日)……。って、今はそれどころじゃないね」



 あいも変わらず気の抜けた事を言っている森口君は放っておいて、資料を百人一首のように勢いよく机から拾い上げた。



「夏音さんは30日生まれよ! 何かあるなら、今日か明日しかないわ!」


「すぐに居場所を突き止めましょう!」


「って二人とも待ちなよ。本当にその推理が正しいかわかんないんだよ?」


「そんなこと言ったって、万一の事があってからじゃ遅いのよ!?」


「とりあえずは、その真君に連絡を取ってみようじゃない」


「……わかったわ。親御さんに連絡先を聞いて、電話してみるわ」



 言うが早いか操作が早いか。私はスマホの発信履歴から今川家の番号へとかけた。

急に息子の連絡先を知りたいと言われ、戸惑う由美さんに「捜査中に防犯カメラに写っていて、何か知っている可能性があるから話を聞きたい」と、適当な嘘で電話番号を教えてもらった。

そしてその番号にかければ、突然の見知らぬ番号に警戒したような声で彼は電話に出る。



「はい……どちら様でしょうか……」


「急にごめんなさいね。昨日会った堀口よ。あの時元気なさそうだったから、心配になっちゃって……」


「あ……はい。心配かけてスミマセン……」


「どう? 時間があるなら一度会ってお話しない? 何か悩みがあれば相談に乗るわよ?」


「えっ……でも……」



 ま、急に電話されてこんな事言われても反応に困るだけだろう。少し揺さぶりをかけてみよう。



「ほら、学校の事とか……、妹さんの事でご家族にも話しにくい事とかもるでしょう?

 相談に乗るのが私の役目なのよ。遠慮しないで?

 今ね……、地下街を出てすぐのゲームセンターに居るの。あなたは今どこかしら?」


「えっ……。なんで……、でもそんな……」


「あら? どうしたの? よくこの店には来るらしいわね。

 今日も近くまで来てるのなら、お話したいわ。大丈夫、私はあなたの味方よ?」


「でも、だってそんなわけ……」



 電話越しにも分かるほどに、明らかに動揺している。これはクロだ。

目配せで森口君と印南君に指示を出す。今すぐ探すようにと。

それを感じ取った二人は、同時に駆け出した。



「そう……。私にも()()()()()()()()()のね、残念だわ……。

 また気が向いたらこの番号にかけてね。いつでも相談に乗るから。それじゃ、()()()


「……」



 彼は何も返事をしない。そして、静かに電話は切れた。

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