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1020連目 正体を現す

前回のあらすじ

『クロの本音』


外注さんの今日のひとこと

『三連休? 知らない子ですねぇ……』

 クロが心のうちに留めていた言葉は、枯れる事無く湧き続けた。

思い出を語りつくすように、出会ってからの10年、どれほどカオリを想っていたのか……。


 行動を共にするようになった頃こそ、本当の“御主人様”の頼みだからと、短い付き合いになるだろう、そうすれば御主人様の元に戻り……。

そう考えていたのに、共に過ごす時間は、忠誠心を向ける相手を徐々に変化させた。


 そして止まる事を知らぬ、涙と思い出話の先に待ち受けていたものは、ある人物への恨み節だった。

カミサマはイジワルだ、嘘つきだと吐き出され続ける、普段は決して見せる事のない本音。

クロだって持っていたのだ、弱い部分も、他人には見せたくない部分も。


 それを受け止められないほど、カオリはもう幼くはなかった。



「クロ、ありがとう。ずっとずっと頑張ってくれてたんだね。

 辛い事も、苦しい事も……私を心配させないように、一人で背負ってくれてたんだね……。

 気付いてあげられなくてごめんね……」



 今からでも遅くない、クロの全てを受け入れようとするカオリ。

それと対照的に、顔を青白くさせている者は、カタカタと小刻みに震えながらも、何ら行動を起こせずにいた。


 俺が手を差し伸べるべき相手ではないと思うのだが、いつまで見ていたって状況は変わらなさそうだ。



「なぁ……お前、クロの願いを安請け合いしたのか?」



 誰にも聞かれぬよう小声で確認する俺に対して、ソイツは言い訳がましく釈明するのだ。



「ワシは、叶えてやるとは言っとらんのじゃ……」


「ふーん……。こんな話になったのって俺のせいだけどさ、一応謝っといたら?」


「いや、ワシ何も悪いことしとらんじゃろ!?」


「そうだけどさ……。ほら、お前んトコの上司って、そういうトコきっちりさせる神なんだろ?

 俺に謝って来いって言ったくらいなんだし」


「おぬし、ワシの上司が本当に居るか疑っておらんかったか!?」


「いや、さっきのクロの話聞いたら居るだろうなって。

 カオリとクロを引き合わせた奴が多分そうだろ? まぁなんだ、疑って悪かったよ」


「ぐぬぬ……。おぬしに謝られると、ワシだけ意地張ってるみたいで釈然とせんのじゃ……」


「外堀を埋められたようでなにより」



 こそこそと行われた話し合いの末、非常に不本意そうな表情を俺に見せたガチャ神ではあった。

しかし、それを隠しながら、もしくは本当に申し訳なく思っているのか、いたたまれない雰囲気でクロの元へと歩み寄る。

目を真っ赤に腫らすクロと目が合うが、まだどう語るべきか纏まっていない様子で、しばらく沈黙が二人の間を流れた。



「クロ……すまんのじゃ。ワシの力不足で、おぬしに寂しい思いをさせてしまう事になって……」



 唐突にそう言われてもクロはどう反応して良いか分からず困惑していた。

それもそのはずだ、ガチャ神は俺の妹だと紹介したのだから。

本当はあの小さな神社に祀られていた神だと説明するのは、そんなでたらめを言った俺の役目だな。



 俺の説明を聞いたクロは、まさか今まで遊び相手としか思っていなかった女の子が、神様だと知って驚き、そして先ほどの失言を思い出したのか固まってしまった。

けれど今さら発言は撤回できないと思ったのか、もしくはカオリとの別れがそんな事を考える余裕すら奪ったのか……。

ポロポロと涙をこぼしながら「バカバカ! 神様の嘘つき!」と言いながら、ポカポカと少女姿のガチャ神を叩くのだった。


 困り果て助けを求める視線を俺に送ってくるのだが、さすがに俺も助ける術などない。

どういった経緯かは知らないが、期待を持たせてしまったのだから、自業自得な面もある。

しかし、そんな彼女に意外な救世主が現れた。鬼若だ。

少し話をさせてくれ、と二人の間に割り込み、ガチャ神の前で片膝をついた。



「お久しぶりです、神様。正月に神社へ参らせていただきました、鬼若です」


「うむ。覚えておるぞ」


(くだん)につきましては、俺の願いをお聞き入れ下さり、感謝の言葉もございません」


「……うむ。望みが叶ったようで何よりじゃ」


「しかし、なれば何故クロの願いは、なぜ聞き届けていただけないのでしょうか。

 俺の願いを叶えられたならば、貴方様の力は本物でございましょう」


「うぐ……。それは……」



 救世主かと思われた鬼若だったが、どうやらクロの味方のようだ。

さきほどから泳ぎっぱなしのガチャ神の目が、再び俺を捕らえた。

鬼若が追い討ちをかけちゃったし、俺が出るしかないか……。



「お前、鬼若になに願われたんだよ……」


「それがじゃな……、飛び級試験の合格なのじゃ」



 飛び級試験……? あぁ、鬼若が俺と同じ学年になるために受けた試験か。

あの、アリサの策略によって日程変更されたり色々あったアレ。

って、確か鬼若はクリスマスに参考書をプレゼントされてたってカオリが言ってたし、かなり本気で試験に挑んでたんだなぁ。でもそうなると……。



「鬼若、多分それ実力だから。コイツのおかげじゃないから」


「ちょっ! ちょっと待つんじゃ! ワシだってちょっとは手を貸したんじゃぞ!?

 何問か参考書と同じ内容を出題させたりと色々……」


「お前なぁ……」



 何の力もない事にして切り抜けようとした俺に対し、酷く心外だと言いたげに反論したガチャ神。

だが、それが自身を追い詰めている事に、気付いていないのだろうか。



「その様に力がおありなら、主様とクロを、カオリ様と共に行かせる事も可能でありましょう」


「あっ……」



 がばっと俺に向き直った神だったが、俺はお手上げのポーズでもって応えた。

俺はもう知らん。そして鬼若は、ちゃっかり俺も帰す気満々なのな。

鬼若の鋭い目つきに刺され、冷や汗をかき沈黙するガチャ神は、まさに八方塞というやつだ。



「ワシにもっと力があれば、叶えてやれたのじゃが……」



 ボソりと、誰に届けるでもない言葉を零したその時、それを待っていたかのように、気の抜けた懐かしい抑揚のない声が響く。



『でんわだよ! でんわだよ! ゆっくりしてないで、はやくでてね!!』



「この声は……、職員達か!?」


「……いや、どうやらワシのスマホじゃ」


「着信音かよ!!」



 俺のツッコミに苦笑いしつつ、こんな着信音にした覚えはないのじゃが、と電話を取った。

それは、あのえらく可愛らしい、ピンクのウサギ型ケースが付いたスマホだ。

「鬼若の尋問が丁寧な口調なせいでより怖いんだぜ」


『目的のためならいつも以上の事がデキる子』


「11歳で高等部2年の課程まで飛び級できるんだから、普通に優秀なんだぜ」


『そういや鬼若ってクロより1歳年上なだけやったな』


「本当なら初等部に居る年齢なんだぜ」


『ってかさ、クロって10歳で10年前にカオリに会ってるって……』


「学園都市では歳を取らないんだぜ」


『カオリは転移した時に強制的に17歳にされたっぽいけどな』


「え? ってことは本当は何歳なんだぜ?」


『転移時は9歳だったから、順当に歳を重ねてると19歳やな』


「19歳で高等部の学生……留年してるようなもんなんだぜ」


『むしろ9歳で強制的に高等部に入れられた時の方が苦労してそう』


「で、やっぱりそれの情報元も……」


『もちろん設定集にあったんやで』


「……ツッコミ入れる気も失せるんだぜ」


『はいはい。さて次回は7月15日(月)更新予定!』


「ん!? 明日も更新する気なんだぜ??」


『祝日だからネ?』


「本音はなんなんだぜ?」


『7月中に終わりそうにないから』


「ぶっちゃけやがったんだぜ!」


『次回もゆっくり読んでいってね!!』

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