【最終章】第八六話 『高次元』
高次元生命体。
件のカルダシェフスケールという文明の基準に則った、この宇宙の文明レベルの仮説における、我々三次元宇宙に存在する知的生命体とは違った、更に高度な知的生命体の総称である。
それは地球人からみたティ連人といったような、『知的生命の時間差による発生が科学技術レベルに比例する』、といったようなそんな次元の話では語れない生命体である。
よく言われる『エジプト文明のピラミッドは、宇宙人が作り、その高度な科学レベルによって宇宙人は太古の人類から神と崇められた』とか、そんな範疇の話ではない。
もうそれこそ『次元』が違うのである。
今の地球が存在する『宇宙』は、一般的にビッグバンにより大きく広がっている宇宙であるということが知られているが、この三次元世界のどこかで宇宙が生まれた瞬間すら、客観的に観察できていたのかもしれないような世界に住む存在、それが高次元生命体である。だが、
「それって即ち“神”ではないのか?」
と思う人もいるだろうが、彼らは神ではない。『決して』という言葉など必要がないほど、『神ではない』という言葉で片付けられる。
我々人類が今のようであるように、また、フェル達ティ連人が今のようであるように、彼らも宇宙の発生に伴った、『元々そういう存在』もしくは『歴史を積み重ねた存在』なのだ。
彼らにも最初、即ち太古の“スタート”があり、気の遠くなるような長い歴史と、種族滅亡の困難を乗り越え、その歴史の積み重ねで彼らの文明と技術に基づく『存在』としてそこにいる。
それは、池の中に住む微生物が、人類の存在を認識できないのと同じように、また、仮に二次元に存在する生命がいたとして、その存在がz軸を持つ三次元の存在を認知できないのと同じように、三次元世界の存在が普通では認知できない違う次元軸であるz軸以降に……と続くかもしれない数学の概念のような次元の中に存在する生命体。それが『高次元生命体』である。
そんな“意識”の尺度からして人類やティ連人と違う存在が、三次元の思考でしか物事を判断できない月丘や、三次元のレベルで高次元生命になってしまったスタインベックと対峙している。
すなわち彼らは三次元世界の生命体の思考レベルに合わせて話をしてくれているわけである。それは彼らからすれば月丘達が『下等』であるとか、『幼稚』であるとか、そんな人を見下げたような判断からではない。言い換えればそもそも“存在”が違うのである。だが対話する土俵は存在が違えど双方の『人』としての感性は、どこかで同じものを持っている。だからその基本、基礎の感性で話が通じるのであろう。
* *
月丘の母の実家に酷似した空間の、長野県の田舎にあるような、典型的な日本文化の食台に座って対峙する三者……月丘和輝と、エドウィン・スタインベック、そして“シグマ”を自称するセルメニアなる高次元生命体なる存在。
「あの……シグマさん?」
「何か」
「ちょっとお願いがあるのですが……私の心象風景を読んでトレースして、今のその……私の祖母に似た姿になってらっしゃるんでしょうけどぉ、まぁなんといいますか、こちらとしても、とっくに亡くなった人物の姿でお話するのも正直やりにくいですし……なんかその、お姿をもちょっと変えていただけたら幸いなのですが」
とこんな人智を超えた状況で、んなことを気にする月丘。まあ? 彼からすればこの際、どうにもこうにもならないような今みたいな状況、ぶっちゃけ死んであの世にいるのと大して変わらない状況であれば、今更慌てふためいても仕方ない。と、そんな感覚にもなっているわけであるからして……
「……ふむ、わかった」
とシグマは言うと、月丘の目を見て、彼の知らない、これまたすこぶる別嬪さんの姿に変身した。
「これはこれは……」と驚く月丘に、
「この姿はお前の心象にある、関連した対性別の存在を平均化したものだ」
とその変化は日本人姿で終わりそうだったが、なんとも最終的に肌が水色になって、耳が笹補耳になった。更に体に白い入墨状の模様が顕れていたり。
「あらあら、カズキの女性遍歴? いや~これが平均値なら結構あなたも色々と女性との交友関係が広いのね。プリ子さんに報告かしら?」
「何を言ってるんですか。最後のあたりなんか、フェルフェリア大臣とシビアさんにネメアさんが入って、耳がプリちゃんなだけじゃないですか」
まあ確かに、とスタインベックは笑ってしまうわけだが、
『これで良いか?』
と声のトーンが和音の音声に変わって、月丘に問うシグマ。
「はい、まあそんなところで」
と月丘が少し笑うと、シグマも頷く。そして月丘がシグマから供されたお茶を一口すすると、
「では、先程の質問ですが、一つづつ片付けていきましょうか。これを報告することで、今後の日本政府や国連政府、そしてティ連の対応方針も決まるでしょうから。といっても、ここから出られたらの話ですが」
「そうね。まあ出る出ないはここに今無事にいられる状態だからなんとかなるでしょう。ミス・シグマも、私達を敵対視しているわけじゃないのでしょ?」
するとシグマも、
『特に警戒はしていない。そもそもお前たちでは我々に対し何かできる事もないだろうからな。そしてスタインベックを名乗るものよ。お前は後ほど選択をしなければならない。そもそも我々の理をはずして、セルメニア時空体になっているのだから』
「そうね。そこは審判ってやつかしら。わかってるわ……まあそれはともかく、今はカズキ達、いやあの三次元世界でザンドア由来の敵対勢力と戦っている人々の納得のいく答えをいただかないと」
「ですね。では先ほど申し上げた通り、最初の問です。あの我々がヂラールと呼んでいる化け物の根源と、その駆逐方法をお尋ねしたい……私達は今、あのヂラールの元となったペルロード人達の遺した資料で、あのヂラールは、自分達の住む星系の恒星の環境制御に失敗して、その環境に耐えられるようにザンドアが人々の意思を無視して強制的にあの姿にペルロード人を変異させたものだと聞いています……」
そして、そのザンドアの行為を容認した教団が、ヂラールになる事もまた信仰の証であると否定しなかった姿だと。
「……まあこの件に関して貴方がたは直接関係ないのでしょうが、ザンドアという存在が、貴方がたの世界へ行く番人みたいなシステムでもありますからね。全然無関係ではないでしょう。全知全能ってわけではないのでしょうが、そのあたり、おわかりになります?」
その問いにシグマは考えることもなく、
『ふむ……その問いに対するお前の認識は、少し情報を補足する必要がある』
「と、仰られますと?」
『惑星ペルロードの恒星制御の件だが、あれは制御に失敗したのではない。契約者達が故意に暴走させたのだ』
その言葉を聞いた月丘とスタインベックは、のっけからの重大情報に「ええ!?」と声をあげて驚く。
「どう言うことですか?」
『我々の観察では、時の契約者、つまりペルロード人の高位にある集団が、不確かな情報をもとに、我々の存在するこの世界への扉を開くために恒星の暴走を起した』
「つまりセルメニア教団信徒全員を、セルメニアにしようとしたために起こった人災だと」
『そうだ。その行為によりザンドアを利用して門を開け、この世界への到達を目論んだようだが、ザンドアの判断は、ペルロード人全員の保全を優先して、彼らの形態変化を行った。それが現在、お前達の言うヂラールだ』
「そんな……それではザンドアは全く狂ったトーラルシステムなどではないんじゃないですか」
するとシグマは『そうでもない』と否定する。
『そもそも、ツキオカ・カズキのいる宇宙へ向かったペルロード人は、時のペルロード人同士の内戦状態にあった主流派と戦闘をしていた反主流派達だ。その内戦の最中に反主流派はザンドアのシステムの一部破壊に成功している。従ってザンドアが正常に稼働していなかったと言うのは事実だ』
「なるほど」
『そして、ザンドアの一部機能破壊に成功した反主流派の作戦指揮をとっていたのが、お前達地球にあるザンドアと同等の最上位トーラルシステム、所謂“レス・トーラル”の「ネルドア」だ』
「……」としばし沈黙する月丘。やおらにスタインベックへ「知っていましたか?これ」と尋ねるが、
「いえ、この話はあの本に書いなかったわね」
「ですが、この話でなぜにあなたが、セルメニアになれたのかがわかりましたね」
「ええ、ザンドアさんと同格のシステムが、あのボツワナのトーラルシステムなら可能よね」
シグマが話すには、そもそも主流派と反主流派が戦っていた理由は、この一連の、トチ狂った主流派の狂信的行為を止めるためであって、反主流派が階層階級に関係なく組織されていたのは、そういう事だったわけである。
結局、反主流派は主流派の暴走を止める事ができずに逃走し、地球に逃げ延びてきたわけで、その人々がスタインベックのご先祖という事だったわけである。
「ということは、ザンドアを破壊すれば、ヂラールの活動は全て止まる……とか?」
と思うが、残念ながらそんなうまくはいかない。もう発生してしまったヂラールに増殖してしまったヂラールは、この三次元世界の生物であって、地道に駆逐していくしかないのだが、
『ザンドアを破壊すれば、件の衛星も機能停止する。そうすることによって、これ以上最も巨大なヂラールが生まれることはないだろう。あの巨大な存在は、あの衛星でしか生まれる事はない』
要塞型は、ザンドアを仕留めれば発生を断てるという。
「本当ですか! ああ、それだけでも朗報です。対処のしようがありますね」
『更に言えば、各次元宇宙に突然出現する事もなくなるだろう』
この答えには、スタインベックが、
「なるほどね。ザンドアがいなくなれば、あの衛星のある空間自体も閉じてしまうわ」
「ですね。あの無数のワームホールも、ザンドアが開いているのでしょうから」
そりゃこんな高次元世界への扉を開ける高次元世界製のシステムなんだから、そうなんだろうと。
* *
「では、次に私が質問するわミス・シグマ」
頷くシグマ。
「あなたたちセルメニアさんは、なぜにトーラルシステムなんてものをペルロード人を使って宇宙中に、しかも時空間を超えた別宇宙みたいなところまでばらまいたわけ?」
『……』
シグマはしばし沈黙すると、やおら正座状態から立ち上がり、月丘の母の実家の庭が見える縁側に座る。
その行動を目で追う月丘とスタインベック。
シグマは振り向いて、自分の隣に座るよう、縁側の床をポンと叩いて促すと、二人も隣に腰掛ける。
『お前たちがトーラルシステムと呼ぶものは、我々の技術の「基礎」を三次元世界で再現できるように創られたものだ』
「基礎、ですか」
と月丘がいまいち要領を得ないような返事をすると、さすが前IT企業のCEOであるスタインベックは、その言葉で大体察したようで、
「即ち、三次元世界であなた達のできることの殆どを行えるマシンってことよね?」
『その通りだ』
でもそこは勘の良い月丘でもあるからして、即座にピンときたようで、
「ああそうか、あのシステムを使えば、三次元という世界の範疇で行える、高次元世界の現象がすべて再現できると」
頷くシグマ。そう、一〇何年前かのあの時、二藤部や三島、柏木達日本政府がティ連と接触して、一番驚かされたのがトーラルシステムの神がかり的な万能さである。
元の物体と全く同じ構成のものを、ほぼノーコストで複製して作り上げたり、空間の物質を集めて仮想的な物体を本物と変わらない品質で構成して維持し、自由意志にて破棄もできる。そして更に、地味に地球人側からすごいと思われているのは、量子テレポート型の通信システムだ。あの能力は正直地球人の発達過程文明的にはありえない能力であり、さらにはその時空間航行能力に至っては、今や三日から五日もあれば、五〇〇〇万光年を行き来できる。おまけに別宇宙や並行世界にも移動が可能である。
そう、この高次元生命体であるセルメニア時空体の能力の一端を、三次元世界という限りのある次元の範疇で実現させることができるデバイスが、トーラルシステムなのであると。
それをシグマは二人に理解させると、手を横にふる。すると縁側から見える庭の風景が、とある宇宙空間の中に顕現したような風景に変わる。まるで月丘の実家が宇宙空間に浮かんでいるようだ。
「おお!」と月丘は驚くが、スタインベックはニヤニヤ笑って楽しんでいるようだ。縁側に座った足をプラプラさせている。
「これは……どこかの宇宙? いや、宇宙にしては何か違いますね。星? にみえる光も、星というよりはもっとなにか輝き方が……」
『スタインベックはもうわかったようだな』
「ええ、まあ、もうあなた方と同じ存在になってしまってますからね」
「どういうことです? スタインベックさん」
「カズキ、この風景がミス・シグマ達が普段存在する、高次元世界よ」
「これが!?」
まあなんともキラキラ輝いて、美しいっちゃぁ美しいが、我々三次元世界の存在から見れば、こんなところでなにしてんのかというようなそんな疑問も……
「だから、そうじゃないのよ。ね、ミス・シグマ」
とスタインベックから言われると、シグマも頷いて、
『これはお前達三次元世界の生命が見た我々の世界だ。それを可視化するとこうなる』
「?? いまいちよくわかりませんが……」
なんかこの世界に来てから段々とこの世界に順応してきているスタインベックが説明をすると、
「そうね、喩えるならカズキがテレビゲームをしていたとしましょうよ」
「ええ」
「カズキはモニターの中に映るグラフィックで、そのゲームの世界を具体的に把握するわけでしょ? でも実際はその世界を見せているのはゲームのプログラムであったり、半導体であったり、電気信号であったりするわけよね」
そういわれると月丘も理解したようで、
「ああそうか、シグマさん達の主観と、私達の主観では、本質的に見えるものが違うと」
『そうだ。このお前の親族の家の風景は、お前たちの理解できる情景で我々が変換している。そして我々は個々に“世界”を持っているので、我が種族や、他の種族が個々に構築する世界が違い、セルメニア時空体は各々その世界を共有させている。今、お前は我々時空体のベースとなる世界にいる。それがこれだ』
なんかわかったようなわからないような……だが以前月丘は大学の講義で、多次元世界というものはその世界を視覚的に再現すると、三次元世界の人間の視覚では言葉で表現できないような異様な世界になると聞いたことがある。即ち彼らはその世界を認知できる存在なのかと……ということは……
「スタインべックさん、ではあなたも?」
「そうみたいね。なんとなく順応できてきているわ。で、彼らがトーラルシステムを三次元世界にばらまいた理由も自然に理解できてきた……彼らの考えを共有できてきているのかしら」
「え?」
そうスタインベックが言うと、「ミス・シグマ。私から彼に説明しましょうか?」と問うと。
『元は同じ存在だ。お前の説明のほうが彼も理解しやすいだろう』
「オッケイ……あのねカズキ。恐らく……というか、なんとなくわかったのだけど、
このセルメニア時空体なる存在は、このままだと、もう長くないのかもしれないわね」
「え!? どういうことですか?」
スタインベックは話す。
もちろん長くないとはいっても、そんな一〇年か一〇〇年とかいった単位ではなく、そりゃ相当な天文学的単位なのだが、宇宙の長さからすれば、かなりもう長くはない単位であはあるそうだ。
で、セルメニア時空体は、ここまので完璧な、所謂『完全生命体』になってしまったがゆえに、ある時を境に、所謂人口が増えなくなってしまったのだと。
その寿命が各々不死に近いぐらいに長く、しかし決して不死ではなく、いつか寿命が来るために、仮に新たな高次元生命体の命が芽生えても、今のままでは彼ら連合体自身でこの『世界』を維持できなくなってしまうと。
その話を聞いて月丘は、
「まるで一時期流行った、日本の少子高齢化問題みたいですねぇ」
と皮肉を込めて言うが、スタインベックは、
「まあそんなところね」と肯定してしまう。その心は、
「彼らはあるときから究極的な存在になってしまったがゆえに、子孫を作ること自体に意義を感じなくなってしまったわけよね。それは地球社会でも言われているように、結婚するよりも楽しいことがたくさんあって、結婚する必要性を見いだせない若者がいるのと根っこは同じ状況がこのセルメニアさんにもあるというわけ……そうでしょ?」
とシグマの顔を見ると、シグマも頷いて、
『その比喩はお前たちが状況を理解するには、妥当な喩えだ』
と肯定する。もちろんセルメニア時空体的には、もっと高度な彼らの文化文明に根ざす次元の違う問題があるのだろうが、それを今言っても月丘達には理解できない。そして、
『我々が、お前達の言うトーラルを契約者を使ってこの宇宙にあまねく撒いたのも、我々がこの世界からお前達の三次元世界へ降りて、同化するためだ』
月丘はこの言葉に、「なぜそんなことを」と疑問を呈するが、結局、
「このセルメニアのみなさんは、私達のこの世界のいろんな知的生命体に同化するという形で子孫を増やし、私のようにセルメニア化して自分達の世界へ戻って、種族の数を増やそう……いえ、実際増やしていたのでしょう。そうよね、ミス・シグマ?」
とスタインベックが問うと、シグマは頷いた。
シグマが言うには、結局その課程で彼らセルメニアの正体と目的を知ってしまったペルロード人が、秘密主義をもって開祖したのがセルメニア教であり、ペルロード人の生物的因子もその同化政策に使われていたわけである。
その歴史の中で、同化を由とするのではなく、不確かな知識と教義で起こした人災が、恒星の暴走であり、反主流派が破損させたせいで狂ってしまったザンドアが発動したのが、あのペルロード人の種族保全処理であるヂラール化であった。
月丘は、一連のヂラール戦争に伴う事件のあり方が一本に繋がり、目を細めて頷いていた。
結局、トーラルシステムによる種族の進化に、知的生命となってからのティ連世界種族のような、トーラルとの邂逅による共通した進歩、進化の歴史の謎が、ここに一つ回答が出た。そしてなぜにトーラルシステムが、あそこまで何でもできる万能のシステムなのかも。
更には地球が発達過程文明として歴史を歩んできたきっかけも、逃げ延びた反体制派の“創造機”レベルの最高峰レス・トーラルシステムが地球で稼働し、知的生命の発生を強制的に速めて、その後ペルロード人達も地球人として同化し、反体制派の逃走の痕跡を消すためにレス・トーラルシステムを破壊し、そしていつかその意志を子孫に残すためにあの本を遺し、来る日のためにネルドアの再生システムのみ、スリープさせていた、と……
「ティ連のみなさんが、一〇年前に日本へやってきた時から、今日までの出来事はつながってたんですね」
「そうそう。しっかもこのセルメニアさんの私達には壮大過ぎる常識と、種族の危機のためにね」
スタインベックは言う。
三次元世界の都合と常識というものは、この高次元世界の住民には認知できない事なのだろうと。
だが、彼らも種族を守るために、三次元世界でいろんな種族と同化し、自分達の世界へ三次元世界で生活を送った同族をセルメニア時空体として迎え入れ、それを繰り返すことで、ティ連人のような地球人にメンタルが近い種族の精神性も、少しづつ身につけていったのだろうと。
「……だから、ご先祖が遺した方法で、私がセルメニア化したのも、それはそれで正しかったということよ、カズキ」
「なるほど……そういう理解でいいのですか? シグマさん」
頷くシグマ。何か少し微笑んでいるように見えた。
* *
しばしシグマが見せた、セルメニア時空体の世界を眺める月丘にスタインベック。
『最後の疑問にまだ答えていないな』
とやおらシグマは言う。互いにだいぶ打ち解けてきたのか、彼女の言葉もかなり丸くなってきた。ここは高次元世界でも通用する月丘和輝の人当たりの良さに、スタインベックのコミュニケーション能力か。
「ええ、スール・ゼスタールさん達の件ですね」
『ああ。もうここまで説明すれば感づいているとも思うが、あれはゼスタールなる民が不完全なトーラルを種族救済に使った時に起こった、一種の暴走だ』
そういうとスタインベックが続けて、
「あれって、もしかしたら、この三次元世界で暴走、いえ、正確な演算能力を失ったトーラルシステムが、彼らを救済する手段として、どういうわけかあなたがた高次元人のような存在になるようにシミュレートした、所謂ダミーのあなたがたの姿ってところかしら」
『そういうことだろう』
月丘はこれまでシグマと会話して、なんとなくスール・ゼスタールと高次元人セルメニア時空体が、雰囲気似てると思ったが、なるほどそういうことだったのかと月丘は大きく頷く。
「では、スールの方々は高次元人に関係した存在ではないと」
『そうだ。我々の存在形態を破損したトーラルが真似て、ヂラールによる絶滅を回避した存在だ。いうなれば、その破損していたトーラルが創造した、あのような形の新しい三次元世界の種族だと考えたほうがいい。ただ、これはこれで興味深い現象だがな』
確かにと月丘は思う。なぜなら、処理が不完全なトーラルシステムである当時の『レ・ゼスタ』は、その膨大な情報の中に、高次元人のことをメモリーしていたわけである。
すなわち見方を換えれば、相当高度なプロテクトを掛けて、ティ連にもあるオリジナルのトーラルシステムにも同じく同様の機能に能力があるかもしれないわけだ。
逆に言えば、現在ティ連社会や、地球にも普及しているトーラルシステムのレプリカ量産型にあたる機器は、そういうプロテクトメモリーはないということだ。
頷く月丘。この事実をシビアやネメア達に話すべきか……ま、それはその時考えればいいかと今は思う。
『あと、ツキオカ・カズキ』
「はい」
『お前と、対性別の生命体と、もう一人、特異な生命体がいただろう』
「ええ、悠永さん、あいえ、タウラセン人のジーヴェルさんですね」
シグマは頷くと、
『我々の時空体の同胞に色々観察と情報を共有してみたが、あの存在も我々と同様のセルメニア、というよりも別の……お前達の言う高次元生命に近い存在が由来の三次元知的生命体かもしれない』
「そうなのですか!?」
『ああ。出自は我々にもわからないが、むしろ我々が知らないという出自になにかある存在かもしれない。そもそもザンドアの攻撃を、ああも容易く躱すなど、三次元世界ではオリジナルのトーラルに匹敵する力がなければ不可能だ』
そういえば、以前、あの『ヴェルター』というタウラセン人とフェルが共同で活躍した事件の時にも、フェルが『ティ連の艦隊を見てタウラセン人が自ら引いた』『トーラル文明を監視している』とか、そんな話をした、とかなんとか、そんな事を当時の報告書に書いてあったのを月丘は思い出す。
『そのあたりもあの者に問うてみるがいい』
「情報ありがとうございます。ティ連本部にも報告すれば、いい情報になると思います」
* *
「さて、となると……当面の話として、ヂラールの駆逐は地味に地道にやるしかないみたいですが、あなた方がペルロード人を使って、トーラルシステムを宇宙に広めた理由と、トーラルシステムの意味。ペルロード人が地球に逃げてきた理由に、ゼスタールさんの真実の答えが聞けました。あとは……」
「ヂラールがここに来て活性化し、更に言えば地球にザンドアさんが狙いをつけた理由ね。それはわかる? ミス・シグマ」
そう問われ、しばし瞑目する。スタインベックは恐らく仲間の時空体と話をしているのだろうと月丘に囁く。
やおら目を開き、
『恐らくザンドアは、惑星地球に持ち込まれた、反主流派を守ったトーラルシステムである、ネルドアを感知し、追ってきたのであろう』
「あのボツワナのですか」
『ああ。あのネルドアは、元々はザンドアと敵対するシステムだ。ザンドアは時の反主流派勢力にシステムの一部を破壊されている。従って敵対しているネルドアをいまだに時の事象の記憶に従って、追っているのだろう』
そういうと、スタインベックは、
「なんかあのキッツイきれいなお姿でストーカーだなんて、嫌な話よねぇ」
「まったくですね……で、シグマさん、あなたがたがご主人なんですから、命令してやめさせられないのですか? ……って、あそうか、システムが狂ってるんですもんんね。ではそれに伴って配下のヂラールも活性化したわけですか……」
『そう理解していいだろう。我々が干渉したくても、ザンドアは高次元に干渉する能力を持たせているレストーラルだ。我々の力もどこまで干渉できるかわからない。従ってあのザンドアはもう三次元世界の力で物理的に破壊するか、不可能だとは思うが、システムをリセットするしかない』
「ふーむ、では戦闘は不可避か……」と月丘はそう言うと、「ところでシグマさん、この高次元世界から私は元の世界へ帰る事はできるのですか?」
『可能だ』
「なら、早く戻ってこのことを政府に伝えないと……私は一応これでも諜報員ですからね。情報は持ち帰らないと意味がない。申し訳ないですが、元の世界へ戻してもらえませんか? あなた方の事も伝えて、そういう存在もいるんだって、皆に知識を教えないといけませんし」
その言葉にシグマは笑みを浮かべて軽く頷く。
「はは、ありがとうございます。で、スタインベックさんはどうします?」
「私はここに残るわ」
その回答に少し間を開けて、
「……ふむ……なるほど」と、まあそう答えるだろうとは思っていた月丘だが、「で、あえて聞きますが、その心は?」
「さっきカズキも聞いたでしょ? このセルメニアさん達は、三次元世界の知的生命と同化して、子孫を作って、それをまたセルメニアに戻しているって」
「ええ……」
「私も、そろそろ存在がこちらに馴染んできたみたい。だから、私の“インベスター”として培ってきた知識や、カズキ達や、他のみんなと付き合ってきた経験を、こっちのみなさんに伝授しながら、こちらの存在になるわ。もともとそれが我が一族の悲願でもあったし」
その覚悟をオネエながら立派な漢から聞くと、月丘も大きく頷いて、
「わかりました。ではお別れということで」
「お別れなんかじゃないわよ。またそのうちそっちにも行くから」
「あれ? そうなんですか? あ、そうでしたら、また今度ということで」
「フフフそうね。ってあ、そうだ言い忘れてたけど」
と急に手を打って、「大事なことだ」とスタインベックが月丘に、
「あのさっきのザンドアさんの目的がネルドアさんだって話の件だけど……確かあのネルドアさんて、私がこっちへ来た後にボツワナから日本のヤル研への移設作業が決まってたはずよ。もしかしたら今頃はじまってるかも」
「え!? いやいやいやいや、そんなの早く言ってくださいよ!」
するとシグマも、
『今、お前達の世界を観察したが、お前の連れていた対性の知的生命体と、高等トーラルの仮想生命体は、お前達がザンドアの世界へ突入してから、お前達の時間単位で言う一ヶ月以上が経過した世界へ、排出された』
「本当ですかそれ!」
『ああ』
その時間差を聞いて、スタインベックは、
「じゃあ、もしかしてもうネルドアさんは日本へ移設されている可能性が高いわね」
「では、ザンドアは日本を狙う可能性が!」
そう言ってスタインベックと顔を見合わせると、
「早く戻らないと!」
と月丘は滅多に見せない焦りの表情を顔に出すが、それを見ていたシグマは、また、天に弧を描くように腕を大きく振ると……!
「こ、ここは!」
……なんと、日本の田園風景その二であった。しかも鉄道の駅があり、時代的に見える雰囲気はざっと一九九〇年代の日本の田舎のような場所ぐらいかそんな感じ。
空を見上げると、夕焼けと夜空が混じったような不思議な風景。
遠くから何か祭り囃子が聞こえる、妙な情景。
「シグマさん、スタインベックさん、ここは?」
「私はわからないわね、ミス・シグマ?」
『ここは、我々とは発生を異にする時空体の世界だ。我々とは交流がある。この世界から出発するのがお前の時空へ帰還するには最も素早い方法だろう。ザンドアに妨害される事もない』
「はあ、しかし……」と、月丘はその懐かしくも不気味な風景に戸惑うが、少し走って、眼の前にある無人駅に登ってその駅名を見ると……なんとまぁ、
【ひさらぎ】
と書かれてあった。
「ひ、ひさらぎ駅? え? ええ?」
と、そんな冗談のような状況に、なんと彼方から某電鉄を模したような電車がやってきて停車した。無人車のようだ。
「それに乗れってことね、カズキ」
『その乗り物で、元の三次元世界へ顕現可能だ』
「わ、わかりました、って、はは……確かコレって何年か前にフェルフェリアさんが報告書出してたような……まさかね」
『それと、これをお前にやろう』
そういうとシグマは月丘のPVMCGにオプションのパーツを付けたような、なかなかに幾何学的なデザインのPVMCG状の物体を腕に転送させる。
元々つけていたPVMCGは、シグマが贈ったデバイスと融合した。
「これは?」
『お前が三次元世界へ帰還した時、すぐにわかる。おそらく、即、必要になるものだ』
「わかりました……」
そういうと、月丘は誰も乗っていない電車に乗り込むと、扉が閉まる前に、
「スタインベックさん、ではまた」
「ええ、またね。最高に楽しかったわカズキ。プリ子さん達にもよろしくね」と握手。ウィンクするスタインベック。
「シグマさん、色々とありがとうございます」
『うむ……そう、それとツキオカ・カズキ、先程お前は自分の心象風景が我々に読まれていると言ったな』
「え? あ、はい……それがなにか?」
『お前の心象風景とは、この高次元世界とつながる場所では、三次元世界にあった物体や生物が、形を変えて存在する事になるという意味でもある』
「ええ、今となってそれはわかります」
そうシグマが言うと、彼はとある方向に視線を移す。と同時に電車の扉が閉まる。
月丘はシグマの視線へ顔を向けると……
背の低い、腰の曲がった老婆が、月丘に向かって手を振っていた。
「え!? ば、ばーちゃん!?」
月丘は顔を窓にくっつけたまま、その老婆を目で追いつつ、また視線をスタインベックたちへ戻す。
スタインベックは軽く挙手敬礼のポースをとり、シグマは右手を上げていた。
そして電車は走り出し、先にあるトンネルへ吸い込まれていった……
* *
衛星ザンドアの空間からワームホールを逆行して脱出したプリルとジーヴェルこと悠永は、一ヶ月もの時間が経過した地球へと顕現した。
プリルと悠永はヘッドクォーター(HQ)となっていた人型機動戦艦やまとへ一旦帰還すると、事の次第をとりあえず司令で提督で姉であるパウルへ報告した。
つまり、彼女達の体験でパウルへ語るのは、あの衛星ザンドアという聖殿と、今では実質のセルメニア教トップとなってヂラールを支配するレストーラルのザンドアだ。
悠永はその様子を映像デバイスに記録していたが、その様子をすべて見ることもなく、事態は映像を早送りするが如く進んでいた。
つまり、プリル達の帰還は、ザンドアの空間との時間差が如実に出ていたのである。
その後、国際連邦軍とティ連太陽系方面軍(特危自衛隊)、通称『合同連合軍』との戦闘は、連合軍の第四次にも渡る国連艦艇の空間巡航核ミサイル及びICBMにIRBMを利用した波状攻撃に、亜惑星要塞やティ連系艦艇、及びレグノスのディルフィルドゲート砲攻撃も含めてこれ以上ないほどの火力で圧倒し、敵の超大型要塞マスターヂラール『ダークスター』を完全に無力化することができた。
これは合同連合軍の歓喜の勝利ではあったが、その勝利の余韻もつかの間の出来事であり……
なんと、あのワームホールから、レストーラルのザンドアが顕現したのである。
それはプリル達が一か月後の地球に帰還して、さらに二〇日が経過した時であった……
* *
相模湾に鎮座する我らがヤルバーンタワーこと、ヤルバーン自治国。
そこに螺旋階段状に並ぶ人口大陸パーツの一つ、東京都ヤルバーン区にある防衛省防衛装備研究所の一つ、まあ所謂みんなの『ヤル研』。
そこに移設されたボツワナ共和国に埋没し、パイド・パイパー社によって発掘されて再生したトーラルシステム、即ち『レストーラルシステム、創造機ネルドア』が鎮座している。
ティ連の転送技術を駆使して、約一週間の搬送と組み立てで再建したこのトーラルシステムが、レストーラルというこの世でたった二機しかない高次元生命体セルメニアの、直接の使徒となる全宇宙に点在するすべてのトーラルシステムの上位機になるというトンデモマシンだということを、まだヤル研他、この三次元空間の人々は知る由もない。
そんな状況での、ここヤル研。
沢渡に、ニーラ大先生が大慌てになっていた。
『お~い! 大変でス大変です! そっちの方向に次元空間の扉が勝手にひらきますよ~』
「急になんだってんだこのトーラルシステムは! なんの前触れもなく動き出しやがって!」
ヤル研に緊急警報が鳴り響く。
この今はまだ、彼らはその名も知らないネルドアが、急にこのシステムから単純に約五〇メートル方向へ一直線に時限回廊を作り出そうとしていたのである。
このヤル研の、ネルドアがある施設は巨大な空間なので、その回廊形成は許容範囲のうちでまだいいのだが、回廊の形成方向には装備やなにやらいろんなものを置きまくってるので……
「あと一〇分だ、急げ急げ! そこらへんにあるやつみんなどかせろ!」
『……あと五分でスよ~』
と、作業用ローダーから、作業用トルーパーも駆使して、とにかくドンガラガッシャンと回廊形成方向外へモノを寄せまくりどかすと、数分後、ネルドアはゲートのような空間をガバっと空中に開く……なんだか警笛のような音がするが……
でもってその中から出てきたのは……
「なな、なんじゃこりゃぁ!」
『コココ、これって、デンシャ・トランスポーターじゃないでスか!』
レールもないヤル研施設に、赤い色の電車型鉄道車両がゲートから飛び出て突っ込んできた。
そんなものがいきなり飛び出してくるので、施設内の衝撃緩和型ソフトシールド装置も即座に作動して電車車両を強制的に止めるわけだが、無論の事、その車両は後部を上へ跳ね上げて、衝撃をソフトシールドから逃がすように浮かすと、ドスンと落ちて停車した……シューカカカというエアブレーキの抜ける音が聞こえてくる。
周囲で唖然とした顔で見守っていた日本人やティ連人スタッフ。もちろんニーラに沢渡も同じく。
そっと……そっと近づくと……
ドンドンドン! と扉を叩く音が聞こえた!
「おい、誰か中にいるぞ!」とスタッフが叫ぶと、「ローダーもってこい!こじ開けろ!」と叫ぶ他のスタッフ。
「気をつけろよ!」と沢渡も注意を促すが、窓を叩くのが見える腕は、あきらかに人間のもの。ローダーが電車の扉をむりからにこじ開け。、特危警備員にヤルバーン軍警備兵が小銃を構えて中の人物が出てくるのを待つ。
「…………ぶはぁあっ! ゲホゲホゲホ。なんなんですかもう! ひさらぎ駅って、もっと怖い都市伝説じゃなかったんですかぁ? これじゃまるでダイ・ハード3じゃないですか……」
いまの時代からみればちょっと古い映画だが、そんな映画も見ていた月丘。
まだ咳をしながら、パンパンと服をはたきながら電車から出てくると、
「つ、月丘君か!?」
『ケ、ケラー・ツキオカ? なななンデ!?』
と叫ぶ沢渡とニーラの顔を見て、
「沢渡さん! ニーラ先生!?? え? ど、どういうことだ? ここはどこですか!?」
「いやいやいや、そっちこそなんなんだよいきなり、で、この電車は!? って、月丘君って今、確かあのワームホールの向こう側に行ってるって話じゃ」
『デスデス、って、もしかしてもしかして、この電車に乗って向こうから帰ってきたのですかぁ!?』
月丘は、ここはどこだと尋ねるのに、沢渡にニーラは、なんでこんなところにお宅さんがいるんだと質問攻めで話が噛み合わない。まったくもってパニック状態である。
「沢渡さん! ニーラ先生! ですからここはどこですかって!」
「え!? そんなの周り見りゃわかるだろ、ヤル件の中央研究棟だよっ!」
「中央研究棟?」と落ち着いて周りを見るに、なんと目の前には、ボツワナから移設されたトーラルシステム、いや、最上級のレストーラルである……「ネルドア!?」
その言葉にニーラが反応して、
『ねるどあ? それってなんですかぁ?』
「あいや……って……」と月丘は斜めに傾いた電車から飛び降りて、二人の元へ駆け寄ると、「沢渡さん、今日ってもしかして私が向こうに行ってから一ヶ月半ぐらいですか?」
「あ、ああそうだが」
「で、戦況は?」
「おう、一応世界中の決戦兵器、核やゲート砲に重力子兵器をあの要塞型のマスター野郎に叩き込んで、再起不能にしたが」
「そうですか。それは重畳です。で、それで?」
「それでって……なんかこっちの事も知ってるみたいだな」
「いいから、それで?」
「ああ、その後、しばらくしてあのワームホールからヂラールが飛び出してきてな。まあ数が多くなかったので、対処はできたが、問題は一番後に出てきた奴だ」
やはりか、と思う月丘。
「それって、でっかい……ジーヴェルさんぐらいの大きさで、マッチョな雰囲気のキッツいお姉さんな感じので、青白い女性型じゃないですか?」
「よくしってるな、その通りだ。で、そいつがメチャクチャ強くてな、今苦戦中だ」
と月丘と話している最中に、沢渡の部下が飛んできて、
「部長! 今宇宙で大変な事になってます!」
「どうした?」
「やまとが、やまとが! ……」
* *
地球から約二〇万キロメートルあたりの宙域。連合軍の対ヂラール絶対防衛圏として設定されている地点である。
『右舷第一主砲大破! 右腕部兵装稼働率二〇パーセント!』
『頭部戦闘艦橋被弾! 負傷者多数! 病院艦に転送します!』
「敵女性型に効果的なダメージを与えられません!」
今、この連合軍ヘッドクォーター(司令部)でもある人型航宙特重機動護衛艦、所謂、『人型機動戦艦やまと』(全高三〇〇メートル余)と、あのレストーラル『ザンドア』が交戦中であった。
やまとが他艦隊とともに地球を背に遠距離砲撃を加えていると、ザンドアは、いきなりナヨが得意とする転送接近戦のようなものを、やまとに仕掛けてきて、格闘戦状態になったのである。
とはいえ、方や全高四〇メートルほど、方や全高三〇〇メートルもある。やまとは近接防護兵器をフル稼働させ、ザンドアを迎撃しようとするが、すべてシールドで弾かれ、まるで効果がない。
人口亜惑星要塞のレグノスもここまで接近されては自慢のゲート砲を狙撃で発射もできず、要塞内の機動兵器を全出撃させて、やまとを援護する。
「パウル! 大丈夫か!」
と嫁を気遣う高雄副長。
『だ、大丈夫……大丈夫よ』
よろめきながた立ち上がるパウル提督。高雄が肩を貸す。
さきほどザンドアから食らった戦闘ブリッジの一撃の余波は、パウル達のいるやまと人型構造の背面に背負う艤装構造の指揮ブリッジまで及んだ。少々頭部を打って出血しているパウル。
『クソっ! このままやられっぱなしは性に合わないわね、あのクソデカフリュのザンドアめ、何者なの!?』
「あれは……! まずいパウル。さっきのエネルギー光球がもう一度くるぞ! 回避機動!」
ザンドアはやまとのウィークポイントを見抜いたのか、偽装部の格納庫周辺をめがけて攻撃を加えようと一撃を放つ……が!
『こなくそっ!』
とそれを弾き返したのは、すかさず間に入ったジーヴェルであった。
『ケラー・ジーヴェル!』
『パウル提督! 今は下がって!』
『しかし!』
ジーヴェルはザンドアに取っ組み合いを仕掛けるが、腹に膝蹴り、頭部に回し蹴りを食らって、
『ぐぉあっ!』
吹っ飛ばされて振り払われる。
ちなみに、この巨大女性がザンドアだという存在と教えたのは、ジーヴェルとプリルである。
で、次にすかさず援護に入るは、
『ナムサン!』と小烏丸を携えて突っ込んでくる、全高二〇メートル強のアーマード・ナヨさん。だが、
ガキン! と自慢の小烏丸の居合い切りもザンドアのシールドに弾き返され、
『妾の居合が通らぬだと!?』
『ファーダ、そこからどいて! ……これでもくらえい!』
と渾身の全兵装発射をナントカサーカスのような演舞でぶちかますプリ子の栄鷲だが、栄鷲ほどの機動兵器の攻撃でも全く刃が立たない。
ならばと駆けつけたシンシエコンビの鳳桜機。巨大な噴進機付きブレードで斬りかかる!
『コノ、得体ノシレン、バケモノ女メ! コレデモ受ケテ見ロ!』
「やったれシエ! 回避機動はまかせろ!」
剣技に集中するシエに、それに合わせた機動を操縦する多川のコンビネーション!
ザンドアは片手で防御する。流石に全高四〇メートル級の鳳桜機の斬撃で、少し後退させたが、
『マダダ!』
と、リアッサの旭光刃が射出した遠隔誘導攻撃ドローンで全方向から近接の一撃を加えるが、
『ナンダト……アノ攻撃ヲ、モノトモシナイノカ』
ザンドアは耐える。
『オイ、ジェルダム! ナンナンダ、アノ、ザンドアトイウノハ!』
とシエが後方で援護するジェルダム機に叫ぶと、流石にジェルダムは、ザンドアという存在を脅威として認知していたのか、
『だ、だめだ……最高階層の聖殿猊下には勝てないのか……』
と呟いている。
するとそこに、
『諦めてはそこで終了だ』『肯定。まだ兵力はこれだけある』
と背後から巨大な手で掴みかかるのは、全高二〇〇メートル級、人型攻撃艦“ヤシャ”に憑依しているシビアにネメア。
『今はなるべくこの女を遠ざけるぞネメア』『了解だシビア』
大回転投げのように、後方へ放り投げて、ヤシャの全兵装をフルオープンでぶちかます。
これまでの工程をみて火器攻撃の効果が薄いのはわかっているので、とにかく、やまとより遠ざけて間合いを稼ぐ。
連合日本の主力がようやく全員出揃うと、ここでキメのポーズでも合わせたいところだが、そうもいかないわけで、ここまでの猛攻を受けてもケロっとしているザンドアに、もう手のうちようがない状態だが、この間が空いた瞬間、黒光りする閃光がザンドアを横から打ちのめす!
この隙を狙ってたのは、亜惑星要塞レグノスだ。
ディルフィルドゲート砲を、周囲に影響与えないように絞ってザンドアを狙撃した!
……だが!
『やったか!』とパウルは叫ぶが、エネルギーが通過した後に、ザンドアがいない。
「消えた?」と高雄。だが、観測員が、
「ザンドア発見。やまとより後方五万キロメートル!」と叫ぶ。
「クソが、転送で躱されて抜かれたか!」と多川。
だがそれを高速ですかさず追うはジーヴェルであった。
『ぬぅ……あやつに今、まともに対応できるのは、ジーヴェル殿だけですね』
と悔しがるナヨ閣下だが、それでも優位で戦ってはいない。
『クソッ!』とジーヴェルは持ち技の腕から破壊光線を発射してザンドアを射抜こうとするが、着弾の寸前でザンドアはさらに瞬間移動し、その射線を躱す。
さらにザンドアは小刻みな転移をくり返し、地球の大気圏へ突入していった。
「ザンドア、地球大気圏へ突入した模様!」
観測員の叫びにパウルは、
『どこに降りたかすぐに割り出して! やまと大気圏降下準備! 破壊された場所のハイクァーン修理を急いで! あのフリュを追うわ。 シエ、ジェルダー・タガワ、プリルはついてきて。あとの特危隊機動部隊は、ザンドアが引き連れてきたワームホールから出てくるヂラールを迎撃!』
各員了解と態勢を整える。まさかマスターヂラールをぶち倒した後に、こんなどんでん返しな大物が現れようとはと……
* *
ヤル研の大型VMCモニターで宇宙での顛末を観る月丘。そのザンドアの凄まじい攻撃は、まさに何十分かの出来事であった。その何十分で、現戦況が、たった一人、いや、一機の人型化したレストーラルシステムで変わってしまう。
流石、『創造機』とも言われるだけはある恐ろしい女性型だ。
「チッ、こんな展開が早い状況では、私が帰還した事を悠長に報告しているヒマはないですね」
「月丘さん、あんた、あのザンドアとかいう女性型トーラルシステムについて何か詳しいことを知っているのか?」
「ええ、だからいろんな人の協力で、こっちに帰ってこれたのですよ。ですが話せばメチャクチャ長くなる話です。っていうか、あの女性型がザンドアだとなぜ知っているんです?」
『コチラに二十日ほどまえに帰還した、ケラー・ジーヴェルと、プリコチャンがおしえてくれたんですヨ』
「なるほど、そういうことですか……では、まあ当たり前ですが、まだザンドアとこのネルドアとの関係をみんな知らない状況か」
とこの呟きにニーラ教授がすかさず反応して、
『だからなんなんでス? そのネルドアって』
「え? ああ、詳しく話すほど時間はありませんが、この移転してきたボツワナのトーラルシステムの名称です。あのザンドアと同じ能力のシス……」
と話していると、ヤル研研究員が血相を変えた声で、
「部長! あのザンドアとかいうヤツ、どうも目的地は日本、しかもこの相模湾あたりみたいですよ!」
「なんだと!?」という沢渡の反応に被せるように、月丘は、
「クソっ、思った通りか!」と被せると、沢渡に、ニーラも「え?」というような表情で、
「どういうことだ月丘君」
「ですから、って、え!? な、なんだこれ!」
と、月丘のPVMCG、いや、あのシグマに託された、PVMCGに何かの能力を加えられたような形状のそれが、ザンドア接近に反応したのか、キラキラと光出す。
すると、それはPVMCGにとどまらず、月丘の体も光りだして、さらにはネルドアもフル稼働で光りだした。
『発掘トーラルシステム、今までにない稼働状態に達していマす!』
「状況的には、スタインベックさんが消えた現象時に酷似していますが、なんだこれは……」
すると、月丘がネルドアの方向を向いた瞬間、彼も転送されたように姿を消す。
「まさか! うそだろ!」と沢渡がそのあまりの輝きに腕で顔を覆う。
『ああっ! ケラー!』と叫ぶニーラ。その刹那、
巨大なネルドア・レストーラルも巨大な転送光に包まれて、ヤル研の大型ラボからその姿を消した!
唖然と転送光の残滓を見送る沢渡達。そして……
* *
今、東京都心には、それまでの戦後日本では、かのヤルバーン・ヴァルメが日本国土を飛翔しまくった時に発生した、国民みんながドキリとするあの状況の再来が起こっていた。それは……
『【国民保護に関する情報】
大気圏外から日本国本土に向かって、未確認の敵性物体が接近中です。
建物の中、又は地下に避難してください。
対象地域:東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県・ヤルバーン自治国』
毎度の、かの不協和音に乗って、日本国民や、ヤルバーン国民の持つスマホや、PVMCGにこの情報が映し出される。
各TV局は、緊迫した表情でアナウンサーが原稿を読み、官房長官は緊急の記者会見に翻弄させられる。
それでなくても現在緊急事態で、やっとのことマスター・ヂラールをぶちのめして喜んでたすぐ後にこの事態である。官邸の柏木達も少々混乱をしていた。
「え? 月丘君が帰還したって!? 白木、どういうことだ」
「ヤル研のラボから電車にのって、時空間ぶち開けて突っ込んできたってよ。何いってんのか最初俺にもわからなかったがな」
と柏木総理大臣は危機管理室をうろつく白木から、ヤル研のライブVMC映像を見せてもらい、思わずブっと吹く。
同じく横から覗いていたフェルも、その電車の映像を見て、『ブっ!』と吹いた。
『コココ、これってマサカマサカ』
「ああ、はは……あの時の電車だよなぁ……どうなってんだ?」
「これに乗って月丘が帰還したそうだ」
と白木が言うと、少々表情を歪めている。
「で、月丘君とは話せるのか?」
「いや、それがな……今突然、あのアフリカのトーラルと共に、消えてしまったって話なんだが……」
とまさにその時、危機管理室の職員が、ズラリと並べられている液晶モニターや、VMCモニターの一つを指さして、
「陸自偵察機からの映像です! あれを見てください!?」
とそこに映るは、まるで抽象画家が描いたような、白い髪の長い美しい女性像だが……あきらかにメカニックであることがわかるその構造。抽象的が故に、さらにそれが人工物や、体に栄える模様は装甲のようなものであることが理解できる容姿。だが、その姿は神々しく、背中に飛行ユニットのような鳥の羽根を模した翼を背負い、腕を下方へ広げてある方向に向かって空中に浮かぶ、
その女性型の大きさは、全高四〇メートル強といったところか。
ガタガタと席を立って、その映像を食い入るように見る危機管理室の面々。
だがそこにまた新たな情報がマイクを通じて管理室全体に報告される。
「大気圏外から接近中の“ザンドア”なる女性型が、相模湾に向かって一直線に降下中!」
するとフェルが、
『モシカして、ザンドアサンの目標は、あの白い羽根の生えたフリュ型?』
「そうみたいだな……」
と柏木が漏らすと、危機管理室に通信が入る。
『……ザッ……こちら情報省総諜対所属、月丘和輝。先ほど日本に帰還いたしました。その後突然となりますが、この未確認の大型機動兵器に搭乗する状況になったようです……現在の日本の状況はよくわかりませんが、遂行する任務は、どうも……頭の中になにかが入ってきて……私自身理解できているようです。従って、ただ今より、あのレストーラル・ザンドアを迎撃します。各方面は援護等よろしくお願いします。繰り返す……』




