【最終章】第八五話 『 神という生命体』
総理官邸、危機管理室。
柏木総理以下、この場所にいる閣僚に官僚は、全員起立して、とある人物を出迎えていた。
その人物は、前ゼスタール合議連邦議長、マルセア・ハイドル。
まあ今更ながらだが、所謂、元ペルロード人『ミニャール・メリテ・ミーヴィ』のレミ・セルメニア化した今の姿である。
ま、その御方が現在転送で、あのアフリカの地から一瞬にして、東京永田町のこの場所に推参なされてるという次第。
で、マルセアも今は総諜対の副班長で、情報省内務局の副局長という形で、白木がスカウトしてこの場にいるわけだが、言っても前ゼスタール連邦のトップである。
そんなVIPが忙しくこうまでして飛んで来てくれているわけであるからして、ここにいる政府の要職連中は、全員起立で頭を垂れたり。
で、一際ちょっと良いお椅子なんぞ持ってきて
「どうぞおかけください」
と、そんな感じ。
なんせ今はゼスタール人の姿で生活してらっしゃるわけで、褐色肌に白い体毛も美しいお姿。そこに白い入れ墨のような模様が先天的に体中に描かれているのがゼスタール人の特徴。褐色部分は、日焼けした東洋人のような肌色である。
「遠いところを、といっても別宇宙空間をまたいでの地球、そして日本国へのご来訪、心より歓迎いたします前議長」
『ありがとうございます、柏木総理大臣閣下。でも今はシラキ様の部下の副局長ですので、そこはニホンコクの政府組織の人間として、これからは同様に扱っていただければよろしいかと』
「ありがとうございます、えー、ではマルセア副局長。で、沢渡さんや、ニーラ先生は……」
『ハイ、向こうでまだ、例のペルロード型トーラルシステムの移動作業もありますゆえ、私が一番身軽に色々移動できますから、こういう方法で』
確かにいざとなれば、地球世界のインターネット網にのってでも自在に移動できるシステムデータ生命体なわけでもあるし。
「それは確かに。はは、わかりました」
『まあそういう経緯で、私が例の【地平の向こう側】なる書物の翻訳データをまるまる記憶していますから、私がこの場に来て色々とご質問を受けたり、仮想データを提示した方がはやかろうと、そういうことで……』
柏木はみなも承知という手合図をして、
「ありがとうございます」というと、皆に着席を促す。柏木秘書軍団が皆にお茶を入れてくれたり……「で、例の書物ですが、現状沢渡さんから聞くに、【トーラルシステムは、ペルロード人の高級幹部が宇宙じゅうにばらまいた代物】【生物の進化を促す事が本来の目的である機能を持っている】というところまでは話に聞いていますが……まあこれだけでもスゴイ情報量で、こちらとしても現状聞いているだけの状態ですが……」
するとフェルが話に入り、
『ツマリですね、そういったモノスゴイ代物をワタクシタチはティ連で何十万周期も、その機能をアタリマエとして扱ってきたわけですが、事私達が“発達過程文明”として……マア、チキュウジンサン風に言えば、“神聖視”してきたこういた文明にもペルロードサンのトーラルの影響があったトカ、そういう話になってきちゃってるわけでシて……』
フェルの話のあとに続いて、頷きつつ再度柏木が、
「ええ、そこにヂラールという存在に、今、月丘君達が遭遇している不可解な状況……なにか一本繋がっているようには見えるのですが……結局このトーラルシステムを巡る一連の事象が、この日本や地球、そしてティ連のような宇宙文明に何を語りかけているのか……それがわからないことには、こんな辺境の恒星系である、現在の太陽系の揉め事も、ただヂラールという化け物を倒して、終わって、またその再度の襲撃に謎めきながらそれを恐れつつ備えて……と、そんなことを繰り返さないといけないわけで」
そういうとマルセアも柏木とフェルの意見に同意して、
『……根本からの決着を付けないと、ということですね、閣下』
「その通りです……」
頷くマルセア。
「それと……」と柏木が目で白木に合図を送ると、白木は頷いてPVMCGでヤル研を呼び出し、
「ああ俺だ。猊下さんは大丈夫か? ……あ、そう。いけそう? わかった。んじゃこっちに転送して、来ていただいてくれ」
白木がそうヤル研に伝えると、しばし後、転送光とともに現れたのは、6本腕も美しいカイア10986であった。
『これはカイア猊下! お久しぶりでございます』
と頭を垂れるマルセアだが、カイアはカイアでレミ・セルメニアさんのマルセアに、
『閣下、お顔をお上げください。レミ・セルメニアともあろう方が、私のような者に頭を下げるなど』
いやいや、いやはやと日本人のような体裁で謙遜し合う二人だが、まあまあと柏木が割って入る。
「カイアさん、先のご帰還されたばかりの時にお話いただいた“向こう”の状況ですが、あなたの体験した事も再度申し訳ないですが、マルセアさんにも……」
『了解した……マルセア様、よろしければ近況をデータで転送いたしますので、お受け取りの方を』
あ、なるほどと感心する危機管理センターの諸氏。マルセアとカイアはデータ転送でいちいちダラダラと言葉で説明しなくても情報の共有ができるわけである。
手と手を合わせて、データの受け渡しをするカイア……
さて、先にカイアが緊急で日本に強制帰還した時、彼女が柏木達危機管理センターのスタッフに話した内容は、現状月丘達が置かれている状況であるのはそのとおりだが、彼女がギリギリでコアから切り離される瞬間に月丘達に伝えられなかった事が一つあった。
それは彼女が聖殿ザンドアでコアを侵食されかかった時に感じた存在。それは……
『セルメニア……神ですか!?』
と無言でデータ転送中にいきなり声を出して驚くマルセア。もちろんこのあたりの説明をすでに柏木達は受けている。そしてその『解釈』も。
マルセア以上に驚いたのは、当の柏木達の方だが、その後のカイアの説明で事の次第を納得した。
カイアは合わせたデータ転送の手を解いて、その疑問を言葉で再度マルセアに説明する。
『はい。私がザンドアなる高位のトーラルシステムに、素体コアを乗っ取られた時、ギリギリまでデータの取得を試みましたが、そのザンドアの背後にいるザンドアを支配する者、その存在を少なからず感じ取る事ができました』
『それが、神……セルメニアですか?』
『そうです。ですが、同じ性質のものを身近に感じてもいました』
『? ……それは一体……』
『あの“あめりか人”なるチキュウ民族の、エドウィン・スタインベックなる人物です』
『スタインベック様……確か、お話ではチキュウ人に同化した太古のペルロード人の末裔……というお話だとか』
そこは柏木がフォローに回り、マルセアに説明する。
「マルセアさん、一度安保委員会の会合で、あなたもゼル通信で参加して、新規に非常任理事として顔見世で出席した、あの……なんというか……女言葉で話をする男性の人、いたでしょ」
マルセアは、「あぁあぁ」という顔をして、
『はい、覚えています。なにか変わった方だなぁとは思っていましたが……で、その御方が何か……』
「ええ、その人物が、マルセアさんに翻訳していただいた書物を持っていて……」
と柏木はカイアに目配せをすると、カイアは頷いて、
『その人物が今、ツキオカ・カズキ達と、向こうの世界にいるのです。恐らく、セルメニアとして』
え? と、流石のデータ生命体も頭が混乱するわけで、なんであんな変なオネェが、セルメニアなん? とか、一介の安保委員会の民間非常任理事が、そんなとこにいるん? とかそんな風に思うわけだが、まあそこは置いといて……カイアは説明を続けると……
『私は、教団の第二階層以上の高僧の方々が我々に神として崇め奉れとしてきたものの正体がわかった気がいたします』
『カイア猊下……それは』
その言葉は柏木達はすでに説明を受けていた。まだイマイチ状況を把握できないんで柏木達も判断を保留しているが、再度カイアの口からマルセアに語られるその言葉は…
『恐らく、我々が“神”とするもの、そのセルメニアの正体は、ティ連の科学用語でいう“ハイクルオス”すなわち、ニホンゴで言う“高次元生命体”ではないかと思われます……』
* *
ワームホールの向こう側。
その空間に、これまた数多くのワームホールが口を開け、時間の流れが狂った世界。
そこがどんな空間かわかろうはずもないが、その宙域を支配し、鎮座する“聖殿ザンドア”なるはぐれ衛星の何処かの場所で、この聖殿と称する星の一切を取り仕切る【レストーラル第一の創造機にして、セルメニア時空体の門】を称するザンドア。さしずめ、『レストーラル・ザンドア』か、『創造機ザンドア』とでも言うべきか。
その大物と対峙している真っ最中の月丘達。だが、この瞬間の主役は、月丘達というよりも、地球世界有数の“元”巨大企業のCEOで、今、彼らの前で『高次元人』を自称する、エドウィン・スタインベックであろうといったところか。
「高次元人……? スタインベックさん、何を言ってるんです?」
と、「大丈夫かお宅」みたいな顔でスタインベックに問う月丘……って、今までの経緯と、この状況でだいたい分かるだろと思うが、その「高次元人」というパワーワードにいまいちついていけない月丘。まあそれはプリルも同じくだが、悠永ことジーヴェルのみ、少々目つきが違う。
「何をいってるんですってカズキ、こないだまで普通の人間だった私が、あなた達の頭に直接語りかけたり、こんなカジュアルな格好でこんなところに宇宙服もなしにいたりしたら、ちょっとは『どうしたんだろ?』と思わない普通」
「いやまぁそれは確かにとっくに思ってますけどぉ、高次元人って、それとはちょっとちがうパワーワードですよ、スタインベックさん」
とこんな状況でも強がってるのか素なのかそんなかけあいをする月丘にプリルも、
『ですですっ。高次元人って、チキュー人サンの言う、「かるだしぇなんとか」とかの、レベル4以上の人たちの事でしょ? で、ケラーがそんなのになったって、ねぇ??』
とプリ子の語尾も懐疑的な抑揚。
「あらプリ子さん、それは聞きずてならないですわね、そもそも……」
とそんな漫才みたいなやりとりをやっていると、全く意に介さないザンドアが話に割って入ってきて、
『確かにお前は、その存在だけで見るにはセルメニアだ』
「ですわね~……なら創造機のあなたなら、私に対する対応はもうご理解いただいているわね?」
『……』
スタインベックの問いに、ザンドアは目を綴じ、何か考えているようだ。だが、その体躯の良く、デカい薄着の女性容姿にキツめのお姐さん顔のザンドアの容姿に威厳を感じてしまう月丘。美人さんなのではあるが、なんせ身長三メートルはあろうかという姿だ。ちょっと恋愛対象には向かないお方ではある。
「(スタインベックさん、あなた一体何をしたんです? さっきあとで、というか、多分ここに来たらみんな話すみたいな事いってましたけど……そこんところまだわかんないんですが」
『(もう、この状況で説明するの? ったく……かいつまんでいうと、あの遺跡が再生したのは知ってるでしょ?)』
「(ええ、まあ。で、あなたがそれに接触して消えたところまでは聞いてますけど)」
『(ええそうよ。かいつまんで、かなりワープしていえば、その時に私はこの“セルメニア”という高次元に変身したってこと)』
はあ? となる月丘。プリルも同じ。当然二人は「なぜそんなことできるんだ?」と問うが、今は間が悪い。
「(そのやり方を私達スタインベックの一族はしっているのよ。昔っからね)』
「(昔から?)」
『(あー、そろそろお姐さんが目を開けそうよ。詳しいことは日本政府の人がしってるから。生きて帰れたらそっちで聞いて)』
「(なんですかそれ。今教えて下さいよ)」
『(ああもう……また間が空いたらね)』
とそんな話をしていると、瞑目していたザンドアが目を開く。
『スタインベックと言ったか』
『ええ』
『お前の元の存在は、契約者ではない。それがセルメニアになるということは、ペルローディアン以外では前例がない』
『でしょうね』
『しかもこの三次元宇宙からその存在を確認する事例は初めてである。セルメニア時空体はその事象に非常に興味を持っている』
その『セルメニア時空体』という言葉に、思わず月丘が、
「なんですか? そのセルメニア時空体って」
と言うと、スタインベックも、
『そうね、どういう存在か私も知りたいわ』
と言うと、ザンドアは、
『では、スタインベックと申す者、お前をセルメニア時空体と連結させる』
そう言うと、ザンドアは背後に時空間の裂け目のようなものを生成させ、その中へ入れと誘う。
「スタインベックさん!」
月丘はスタインベックの顔を凝視する。
スタインベックはその光の裂け目へと歩を進める。だが、視線は振り返って月丘を見ていた。月丘もスタインベックへの視線を逸らさない。
ザンドアは、セルメニア化したスタインベックのみを誘い、あとの人間には無関心のようだ。即ち、諜報員の月丘としては、今の段階ではこれ以上どうしようもないわけなのだが……
スタインベックはザンドアが周囲を警戒するような視線の一瞬の隙を見計らって、
『カズキ! 来て!』
やはりそういう感じでスタインベックも考えていたか! と、月丘は悟り、猛然とスタインベックの元へダッシュ、銀ピカローダーのスラスターを吹かしてスタインベックに飛びかかる!
ザンドアは月丘のイレギュラーな行動を阻止すべく、指先から光線のようなものを彼に発射! だが、その状況を観察していた悠永がすかさず月丘のガードに入り、四角いシールド状の力場を展開してザンドアの攻撃を弾く!
スタインベックは飛び込んできた月丘の腕を引っ張り、ともに光の裂け目へと消えていく。だがその刹那の前に、月丘は、
「プリちゃん! 悠永さん! ワームホールを逆行して元の宇宙へ脱出してください!」
『カズキサン!』
カズキについていこうとするプリルのローダーのフックを引っ張って、悠永が抑える!
『わかりました! 脱出します!』
『お願いします! …………』
月丘とスタインベックの姿が光の裂け目の中に消えて、その裂け目もぴったりと閉じた。
この予期しない行動と状況に、少々ザンドアの目が鋭くなる。
『カズキサン!』と、まだ向こうへ行こうとするプリルを悠永の人間態に見合わぬ力で引っ張って、
『クッ! プリルさん、 脱出しますよ!』
そういうと、悠永は人間態から金ピカ……ではなく、その金ピカ姿を取り除いた彼の本当の姿である、何やらバイザーのような有機的であり、無機的でもある仮面姿にインナースーツ的なものを着て、軽装のアーマーを施したような姿に変身した。
『え? ケラー・ハルナガ、あいや、ケラー・ジーヴェル!?』
<<この姿でお話するのは初めてですね、って今はそんなことより脱出しないと。あのお姐さんがちょっとお冠ですから!>>
『う、うん!』
といったその矢先にザンドアはなんかお怒りのようで、
『セルメニア時空体に異物を送り込む手助けをするなど、この不届き者めが』
と、腕を大きく広げて、その五指から、先程の光線を放ってきた!
ジーヴェルは先のシールドを展開して、その光線をすべからく躱すと、
『ケラー・ジーヴェル! この場所はケラー・スタインベックの転送で来たんでしょ? 私達だけじゃ転送装備ないから脱出できないよ~!』
<<大丈夫です! 安心してください。僕にその能力がありますから!>>
『え? ホント!?』
<<はい、スタインベックさんの転送波動係数をちゃんとトレースしています。さ、僕に掴まって! ……ハァっ!>>
ジーヴェルはその能力で巨大化する! その過程で、すかさずプリルのコマンドローダーを掌で掴むと、自らの肩に乗せる。
ザンドアはジーヴェルの姿を見上げると巨大な光球を作って彼にぶつけてくるが、流石はタウラセンの戦士。左右の平手でパンとそれを弾くと、片腕の掌を指すようにザンドアへ向け、光線を放つ!
ザンドアはまともにその光線を受けるが、霧散して消えた。
<<やはり仮想物質の素体でしたか!>>
『ナヨ閣下と同じやつだ』
<<ええ、そうです。ということは本体は別にあるはずですが……>>
今はその詮索をする時間はない。ジーヴェルは肩のプリルを掌に包むように持つと、体を黄金色に発光させて転送、というか、テレポートでジャンプした。
* *
丁度うまい具合に先のクレーター部の、栄鷲と無人ヴァスラー隊が駐機している場所の近くに顕現する。
ジーヴェルは一寸飛行して、巨大な掌の上のプリルを栄鷲のコクピットへと近付ける。
プリルはM型ローダーを乗り捨てると、即座に栄鷲のコクピットへ腰を埋め、ローダーをハイクァーンで分解して元素回収した。
VMCモニターの各種スイッチパネルをポンポン押して、栄鷲を起動させるプリル。
『あっ! そうだ。無人ヴァズラーちゃん達は、カイアちゃんが制御してたんだった!』
<<栄鷲の制御用トーラルシステムでは運用できないのですか?>>
『できないことはないけど、カイアちゃんが制御するほどの複雑な運用は無理だよう。戦闘になったら、自律モードで戦わせるのが精一杯だよう』
<<それでも最悪弾除けにはなるでしょう。もともと捨てる機体です。今は私と栄鷲があのワームホールを突破しないと!>>
『そうだね、わかった。んじゃヴァズラー達は自律モード一本でいくから!』
栄鷲とヴァズラー隊が離陸を開始し、高度を上げる。ジーヴェルも全高四〇メートルの巨体を翻し、それに続く。だが……
後方から火山の噴火の如く大きな爆発が起こったかと思うと、地面からメカニックを内蔵したような、大きなクリスタル状の針の山のような構造物がせり上がってくる。
そして、その最も全高の高い構造物の突端には、なんと! 先程の『創造機ザンドア』の姿を象った彫像が、手を下方に少し広げて、足を閉じ、モデルのような姿で立っていた。
その全高は先程とは違って、ジーヴェル並の四〇メートル前後はあろう巨人である。
『な、なにあれ! さっきのザンドアのお姐さん! でっかくなってる!』
<<おそらくアレが本体で本丸でしょう! 何をしてくるのか知りませんが、今は全速でここを抜けます!>>
とそんな状況の二人と数機。だがザンドアはプリル達の姿を見つけると、その視線を隊列に合わせ、刹那に一閃。眼光鋭く可視レーザーのごとき光線を放ってきた!
その一閃にヴァズラー二機が食われて吹き飛ぶ!
『きゃぁあ! なにあれっ!』
もう一発、切れ味鋭い一閃をジーヴェルに向かって!
<<なんの!>>
だが彼は先のシールドを展開し、三度光線を弾き返した!
『さすがケラー!』
<<いえいえ! というか加速しましょう! 今はあんなのに付き合ってられません!>>
『うん!』
だが、二人とヴァズラー隊を襲うのは、ザンドアだけではなかった。
ここに着くまでに、眠るように機能を停止し、まばらに宇宙へ浮いていたヂラールのリバイタ型や、戦闘機型、兵士型がなにかに気づき。眠りから起きたように周囲を見渡し、プリル達を感知すると、躊躇なく襲ってきたのだ!
<<まずい! あのザンドア、さっきなにか電磁波のようなものを発したようですが、この空間のヂラールを覚醒させるためだったか!>>
『戦闘機型や兵隊型サイズは私とヴァズラーが対抗するから、ケラーはリバイタを牽制して!』
リバイタ型の、この宙域の総数は、視認できるだけでいえばそんなに数は多くない。それに機動性もすばしっこいわけではない。ジーヴェル一人でも対応できる。
プリルの栄鷲は、本来月丘が制御する後部座席の兵装制御も、オートマチックで制御して行く手に立ちふさがる小型中型ヂラール達を、自律モードヴァズラーの連携で落としていた!
だが後方から放たれるザンドアの破壊光線。一機、また一機とヴァズラーが撃ち落とされる。
だが、ジーヴェルの判断は素早かった。
プリルが退路にむらがるヂラールをその腕前で一掃した瞬間、後方から襲い来るリバイタ型をジーヴェルのカッターのような光刃で斬殺すると、即座に栄鷲の主翼状の斥力モジュールを彼の両手で掴み、押すような体制になり、残ったヴァズラー共々彼の能力をもって金色の光で包み込む。
『うわわわ、ケラー、何を!?』
<<このまま超光速で、ワームホールに突っ込みます!>>
『え? ってきゃーーーー』
すべてを包みこんだジーヴェルの光の玉は、瞬間弾かれるように
超加速を行い、一瞬のうちにワームホール方向へ光の点になって消えていく。
その姿を目で追っていたザンドア。だが彼女はジーヴェルの行動を見て、なんと!
彼女はその針状にそびえ立つクリスタルのような人工物の頂点からふわりと浮き上がり、ゆっくりとワームホールの方へ向かって飛行したのであった……
* *
行きと同様、帰りもそんなに時間はかからなかった。
ワームホールと言うから、その逆はブラックホールではないのか? という話もあるが、このワームホールは、所謂なんらかの干渉によって天然の宇宙空間に開いたディルフィルドゲートのようなものなのだろう。それは惑星サルカスで開いたワームホールも、確か同じような性質であった。
あのワームホールは、かの惑星エルミナスの文明が持っていた科学技術を、かの惑星が再生させたヂラールが取り込んだのではないかという推測であったが、今となってはもうその真偽はわからない。
だが、今ある事実として、その空間のトンネルを瞬時に抜け、帰ってきた場所が……
『抜けた! 脱出できた!』
と喜ぶプリルだが、
<<待ってくださいプリルさん、! 何か様子が変です!>>
『え? って、全周囲に警戒警報! なになに!?』
刹那、栄鷲の自動迎撃システムが作動して、機対機ミサイルが発射される。
すると、栄鷲に接近してきた、機動兵器型ヂラールに命中して吹っ飛んだ!
『敵性信号……ヂラール! こんなにいっぱい……どういうこと!?』
<<わかりません、っと、とりゃっ!>>
とジーヴェルも光線攻撃で何体かの戦闘機型を吹き飛ばした。
すると、途端に二人へ無線が入る。
『こちらやまとHQ! プリル!? ケラー・ジーヴェル! 戻ったの!?』
『お姉ちゃん! この状況どういうこと!? 私達がワームホールに突っ込んだときは、ヂラール稼働してなかったでしょ!? って、ほぼ駆逐したと思ってたのに!?』
とプリルが問うと、やまとHQの主、すなわちパウルがプリル達の予想外のことを言った。
『なにをそんな昔のこと言ってるのよ! こっちはさんざん心配したんだから!』
『え?』
『あのね、あなた達がワームホールに突っ込んでから、もうハルマ時間で一ヶ月近く経ってるのよっ!』
『え……?』
と思うが、すぐにこの違和感に気づいたジーヴェルは、
<<プリルさん! あのスタインベックさんが言ったこと思い出してください。確か、向こうの空間が無茶苦茶なせいで、時間の流れ方も無茶苦茶だって言ってたでしょ!>>
『あ、そうか!』
するとパウルも、
『あなた達、この一ヶ月の状況説明してあげるから、とにかくこっちへ合流して! それとあなた達の状況ももちろん報告してもらうから。えっと、カズキ! カズキはいる!?』
『あ……えっとそのことも多分含んで話さなきゃという感じだから、お姉ちゃん……』
『え? カズキいないの!?』
<<パウル提督! 今はそちらへ向かうことを優先します! 話は後で!>>
『……わかりました。シエとケラー・タガワを援護に回すわ!』
* *
……
…………
………………
「はっ!」
スタインベックに呼ばれ、情報省エージェントとして、白木の命により『ペルロード人の居場所を突き止めろ』みたいなことを言われ、使命感で反射的にスタインベックの腕を掴んで光り輝く場所へ突っ込んだ事は覚えている。
だが、今自分がいるのはどうやら地球上のようで、場所は中東の何処かのようだ。
おまけに自分の状況がどうにも変である。だが、その変である状況に違和感を感じない……
身辺をまさぐると、どうやら自分は空中に浮いているようである。
「あれは……ムスタファ?」
遠縁だが、はっきり見えるその姿。
彼が身を寄せていた中東の武装組織で部族連合の、かつての戦友である。
月丘にはアラビア文字なんて読めないが、今はなぜかはっきりと読める。
彼の回りは、なぜか大勢の人だかりで、なにやらスローガンのようなものから、彼の肖像画を掲げる人達も大勢いる。その中のとある横断幕の一文が読んで取れた。
「イラクの大統領!? あいつが!? どういうことだ?」
小綺麗なスーツを着て、ターバンを頭に乗せ、なにやら演説をぶっているムスタファ。観衆が熱狂し、彼の肖像画を掲げ、彼の演壇の背後にも、彼の肖像画が掲げられ、使徒派部族連合の旗も掲げられている。
何を言っているかはわからない。ただ月丘はぼんやりとではあるが、それが現実だとは思えなかった。
……と、そう意識した瞬間、次は別の場所へ飛ばされる。
今度は……
「クロード? コイツも何か小綺麗な高級スーツ身にまとって……」
何処かの執務室のような場所だろうか? 大きな窓に囲まれて、まるでスイートルームのような執務室である。バーカウンターまであるようだ。少なくとも彼の知っているクロードには場違いの場所なのだが……
クロードはVMCモニターで……どうやら麗子と話をしたあとVMCを切ると、小綺麗なスーツに身を包んだお姐さんが彼のもとへやってきたようだ。
秘書か? とも思う、が、クロードは一通りその女性から話を聞くと、その女性を抱き寄せてチューなんぞ。
「おいおい、クロード……お前奥さんいるんだろうよ……知りませんよ……」
と思うけど、この映像も何か今ひとつ現実感がない。
まあそれでも少々呆れ顔で腕を組むと……また次の場所へと意識が飛ばされる。
「??」
次に彼がいた場所は、君島重工の本社だ。そこで見た人物は、まだこの物語で氏名がはっきりとしない人物、そう、君島重工の会長と、社長である。
月丘は、その社長の顔を見て、少々眉を潜める。そして呟いた言葉……
「親父……」
親父? 君島重工は、一部親族経営である。社長は現会長の息子だ。ということは性は『君島』である。しかしカズキの性は『月丘』である……その真意は?
そして彼は更に思わぬ光景を目にする。
それは今、眉をひそめて眺める『親父』を呼び止める月丘自身の姿であった!
「えっ!?」
なんとにこやかに笑って『親父』と会話をしている。親父とやらも、その月丘だろう人物の肩を叩いて、何やら笑っているようだ。側にいる年老いた会長。そう、この会長こそ今の『柏木総理大臣』をかつてOGHの大森と画策して、内閣官房参与にのし上げた人物だ。
その光景になにかおかしいと首をひねる月丘……
すると、彼の肩をポンと叩く誰か。
後ろを振り向くと、
「スタインベックさん!」
するとスタインベックはウィンクして「ハイ、カズキ。調子はどう?」と返す。
「って、う~ん? ……カズキ、あなたってまさかキミジマ・インダストリーの関係者だったの?」
と月丘と同じ映像を眺めて、意外そうな顔で月丘を見るスタインベック。
「あ……いや、まあ……」
スタインベックの問いに、月丘は少々、というか、かなり渋い顔で頭をかく。
「あ、ごめんなさいね、込み入ったこときいちゃったかしら?」
「あいえ、いいんですよ……まあ、あなたに見られちゃったら、いずれバレますし、少しお話しておきます」
頷いて聞くスタインベック。
「あの君島の社長ですが、確かに私の実父なんですけど……はぁ……まあ所謂私は、『妾の子』というやつでして」
その言葉にスタインベックは、「あら……」と一言。
「まあ、色々ありましてね……向こうの今の腹違いの兄弟とかの……ま、ありがちな絵に描いたような揉めごともあって、それがどういう因果のめぐり合わせか、国を出て、PMCなんかやって、アラブの武装組織に入って、えらい目にあって、遥か彼方の宇宙を旅して今や日本の諜報員で、なぜかこんな空中に浮かんでいるような現状に、現在遭遇しているわけですが、ははは……」
月丘はなんとなくスタインベックには話してもいいか、なんて今の状況でそんな気持ちになった自分の感覚が不思議であった。これは今一番の親愛なる伴侶であるプリルにもまだ話していない事である。
しかし月丘は少し眦をキリっとさせ、
「ですがスタインベックさん、先程見た私の中東での旧友の件といい、あのフランス人の友人の事といい、今見た私の境遇といい……なんなんですかアレは……まさか未来の姿だとか?」
そういうと、フフとスタインベックは笑って首を振り、
「もしそうならカズキの、あの若さは未来じゃないわよね」
と眼下の月丘を指さして、
「え!? あ、そうか……」
確かに、今見ている月丘としてはありえない情景の彼は、その齢、今よりも若い。
「今見たものは、すべてあなたや、『あなたの主観の』、『もしかしたらそうであったかもしれない』可能性の世界なのよ」
「え? なんですって!?」
確かにムスタファがイラクの大統領になるという可能性は、今の月丘の時間軸を考えれば、まあありえない事由だ。クロードも、あの様子ではどこかのでかいビルのてっぺんに陣取る大企業の社長か会長か、そんな状況だろう。これも今のクロードからすれば考えにくい状況である。
「ということは……いまこの場所というのは……」
「そう、これがペルロード人の言う、セルメニア、即ち神の世界。そして私達やティ連人が認識する、『高次元生命体』の世界よ」
「これが……」
月丘がスタインベックにこの世界の正体を明かされると、たちまち月丘が見た先程の世界の例以外にも、いろんな、何処かの誰かの視点での可能性の世界などが、走馬灯のごとく月丘の頭の中を駆け巡る。
二藤部に似た総理大臣が、関西の何処かで何者かに暗殺され、後の政治が左傾化していき、ティ連との連携が解消され、彼らが地球を去っていく世界。
ティ連とタウラセン連合体が、トーラル文明の遺産をめぐって、全面戦争に陥る世界。
ゼスタールがヂラールに完膚なきまでに蹂躙され、ゼスタール人がすべてスール化し、次元溝でその文明をひっそりと終焉させる世界。
そんなネガティブな視点の映像ばかりが頭の中をよぎっていく。もちろんその光景はスタインベックも共有している。
「ス、スタインベックさん……なんですかこのろくでもない世界の感覚は!」
「それは今のあなたの心情が混乱しているから、そんなネガティブな可能性ばかり呼び寄せるのよ……ま、この世界ではあなたお得意のポーカーフェイスはあまり通用しないってことね」
そう言われると、月丘は気まずそうな顔をして、頭をふる。
「あーーもう」というと、顔をパンパンと叩き、
「はぁ……で、スタインベックさん、さっきあなたがそんな存在になったのもすべて後でお話していただけるとかいう事でしたけど、丁度今、いい機会ではないですか? こんな空中におっ立ってる感じですし」
「そうね。そのところあなたにもお話しておかないと、後々のこともあるし」
「まあその“後々”は知りませんし、どうせろくでもない事が起こるのでしょうけど、経緯は聞いておかないと」
「わかったわ。まあついでだからこれも映像込みでね」
そういうとスタインベックは腕をさっと横に流し、眼下の世界の映像を、ガラリと変えて映し出す。
「今、地球で日本政府に差し上げた、我がスタインベック家に代々伝わる『地平の向こう側』という書物。これがそもそもの発端ね」
スタインベックは空間に彼の記憶を映像化した、その書物の映像を投影する。
彼の話では、この書物がスタインベックの血統が所有していたとはっきりわかるのは、一八世紀頃からであるということが判明しているのだそうだ。
当初は何が書かれてあるかサッパリな奇書で、かの有名な『ヴォイニッチ手稿』ばりの本であったのだが、それでも言語学暗号学の権威などを使って徐々に解読を進めていた。
「でね、この本をすべて解読可能になったのが、この本に付属していた各種のアイテムが、我が血統の家で色々発見された頃なの。それが一九世紀末から二〇世紀初頭の頃ね」
とスタインベックが話すと、月丘も少し考えて、
「それって……初代のパイド・パイパー社が創業した頃ですよね」
「そういうこと。その本を解読できたおかげで、私達は色々と画期的な発明を行って、インベスター組織を作り、世界を裏から見てきたわけ」
「見てきた……ですかぁ?」
「そうよ。なぜならあの本が解読できたからこそ、私達がペルロード人の姿を変えた末裔って理解できたんだから」
「え! そうだったんですか」
スタインベックが言うには、その本には、トーラルシステムが、あのアフリカのボツワナに埋まっていることも書かれていたのだという。
「では、ペルロード人がなぜ地球にやってきて、そのトーラルシステムを地球に置いていったか……とかいう内容も?」
「そうね。もうカズキは察しが良いから分かると思うけど、その『地平の向こう側』という書物は、ペルロード人のご先祖が、この地球人と同化してこれからの歴史を生きていくうえで遺した、彼らの人生の記録なの。それに遥か未来への末裔、私達スタインベック家へのメッセージが書かれてあったのよ。我々の昔の文明レベルでも研究しやすいように、こんな紙のようなものを使った『本』という形にしてね」
月丘はスタインベック、いや、彼らインベスターやパイド・パイパー社が、妙に技術力が高く、その高い情報収集能力の源泉が何か今までずっと疑問だったが、その答えが今理解できた。つまり、彼らはペルロード人の科学技術力の概要を知ってはいたが、再現する手段がなかっただけなのである。そして彼らが解明したその一端の技術を、当時の権力者達に裏で売り込んだりしながら資金を集め、彼らの秘密組織は肥大していった……つまりそれが意味するところは……
「ではスタインベックさん、あなた達の行動が、一〇年前ぐらいから、所謂『ガーグ』として活発化したのも、もしかして」
「その通りよ。ティ連のヤルバーンがこの地球に来たから……これでもしかしたら技術的な問題は解決する。そして我々の先祖が悲願としていた望みを、我が一族が叶えられる……あの一〇年前の時は、日本政府だけが奇跡の邂逅みたいに言われているけど、私達にとってもそうだったというわけなのよ」
更にスタインベックが言うには、まあ根拠はないらしいのだが、その書物にはいずれ、その本を実現できる文明と、地球文明の邂逅はあると予言めいた事も書かれてあったのだという。
事実、ナチスドイツがペルロード人の御使いとして宇宙にたくさん放っていた偵察要員である、現在のサマルカ人の、もともとの有り様な立場の連中と、極秘に接触していたかもしれないという事実もある。それがあのドイツの博物館で見つかった、妙なティーガー戦車の砲塔をつけた機動兵器だ。
まあ、スタインベック達は、その内容がペルロード人の再来だと思っていたそうなのだが。
で、今までの一連の話をきていて、月丘が疑問に思うのは、
「んー、なるほど、スタインベックさんのお家の事情は大体理解しました。それは日本政府も、もう知っていると見ていいのですよね?」
「ええ、あの本をきちんと解読して……そうねぇ、カイアさんか、マルセアさんあたりがきちんと解説に説明できていれば理想的なんだけど」
「ふむ、では私から二つほど質問があるのですが」
「どうぞ」
月丘は顎に手を置くと、
「では一つ目ですが……あのボツワナのトーラルシステムや、その書物を描いたペルロード人の方々は、何時頃この地球に、何の目的でやってきたのですかね?」
確かに、まずはそれがわからないと、すべての事象の話の『最初』が繋がらない。
「そうね……まあ私もあの本を読んだ受け売りでしか答えられないんだけど、それでもいい?」
「もちろん」
「わかったわ。では単刀直入に答えると、彼らがこの地球にやってきたのは、おおよそ二〇万年前。誤差プラマイ一〇万年ってところかしらね」
「に、にじゅうまんねん!?」
驚く月丘。ナヨ帝のお話どころの騒ぎではない。そんな過去にすでに異星人がこの地球にやってきていたのである。だが……冷静に考えればそれもあり得るかとも思う月丘。
「うん、で、まあ……彼らは『やってきた』というより、『逃げてきた』というのが正しいみたいね、でカズキ、その二〇万年前のボツワナって言葉になにか思うところない?」
とスタインベックは質問すると、そこは月丘和輝さん。現在の日本政府と同じ回答をスタインベックに問いかける。
「もしかして、ミッシングリンクですか?」
「流石ねカズキ! そうよ。そのミッシングリンクが今の人類、即ちホモサピエンスの元祖というわけよ」
「まさか……」
そう、このスタインベック曰く『逃げてきたペルロード人達』が、当時の地球の『原人』の遺伝子を操作して作り上げたのが今の人類であり、その人類を母体として、肉体を改造したものが、現在のスタインベック家の先祖となる太古のペルロード人だったわけである。が、月丘が思うのは
「なぜまたそんな事を」
「そうね、あの本に書かれていたのは、そもそもの話、トーラルシステムは、セルメニア教の高位聖職者が生命の育まれた惑星に投入して、知的生命体を遺伝子的に改造して発生させる事を促す装置と言われているわ。なので恐らくトーラルシステム由来の文明圏、譬えばティ連国家全体としても、知的生命の発生はトーラルシステムが関わっていたことは間違いないでしょうね」
「……」
月丘は黙して聞き、スタインベックは続ける。
「ただ、この地球だけは別みたいでね。トーラルシステムを持ち込んだのは、高位の聖職者ではなく、ペルロード人の反乱者。本には、第七階層から第一階層の、階層の垣根を超えた反乱者が、あの『レストーラル・ザンドア』と同クラスのトーラルシステムをこの地球に持ち込んで、逃げてきたみたいね」
『地平の向こう側』には、ある事実を知ってしまったペルロード人の反政府勢力が、ザンドアの予備システムであったレストーラルシステムクラスを奪取して、正規政府の主導権と、セルメニア教の全権を掌握しようと試みて人々を開放しようと戦っていたのだが、結局敗北し、彼らが追われて別宇宙を転々としながらたどり着いたのが、この地球だったというわけだ。
「なるほど……私としてはおとぎ話のようなお話ですが……」
「何を言ってるのよカズキ。ニホンには例のナヨ閣下のお話が現実としてあるじゃない。往々にしてそんな話なのかもしれないわよ、真相っていうのは」
「はあ……あ、まあそれはそうと、その反乱者達が知ってしまった事実というのが、この大掛かりな話の発端みたいですけど、なんなんですかその事実って」
「そうね、それは今、私達のいるこの場所の『現実』を知ってしまった同じ状況だからかもよ……」
そう言うとスタインベックは、もう既に察しがついていたのか、自分の背後に向かって大声で、
「そうよね! 『神様』という名の、知的生命体さん!」
* *
スタインベックが叫んだ瞬間。刹那の速さで彼らのいる風景はガラリと代わり、何処かの山村に変化する。いや、変化というよりは飛ばされてきたという感じの、立派な『世界』だ。
それまで空中に浮かんでいた自分がリセットをかけられたような、そんな立場である。
動画サイトで全く違うジャンルの動画を無理やり切りかえさせられたような、そんな感覚。
だが、そうはいえ月丘はこの景色に確かな見覚えがあった。そこは月丘が子供の頃、母に連れてきてもらった事のある、記憶にある場所だ。そう、彼の所謂『田舎』……場所は長野県のとある場所である。
スタインベックと月丘の二人は今、空中浮遊状態から、どういう経緯か知らないが、地に足をつけて、その山道を歩いている。
「またこれはいきなりだけど、良い場所じゃない、のどかで。どこなのかしら」
「まったく……よくわからない展開ばかり続きますが……ここは日本の長野県ですよ。どうも私の田舎の近くですね。どうにも私の心象風景ばかり選んで、現実化させられているようにも感じますが」
それでも山間の心地良い香りが、彼らの肺を満たす。大変に心地よい。VRというような感じではない。恐らくこれはこれで、何らかの形でのリアルなのだろう。
鳥が鳴き、陽の光が木々の間を縫って光線となり、隙間を照らす。
「なるほど……カズキの心のどこかにある心象風景を利用しているのね“こいつ”らは」
「その“こいつ”が何なのか知りませんが、そういうことなのでしょうね」
と二人はそんな会話をしながら、月丘の記憶をたどり、彼の母の実家があった場所に歩みを進める。
しばし歩くと、やはり月丘の記憶の通り、彼の母の実家が見えてきた。
そこで、薪を割っている老婆が一人。
スタインベックと歩く月丘が見えたのか、目を丸くして、
「ありゃ! こりゃたまげた! カズキじゃねーべか」
なんと、その姿は月丘の祖母であった。だが、月丘はその祖母の姿に訝しがる。
「どっしたんだえお前、一人できたのか! 香奈恵からは連絡なかったけど……」
嬉しそうに腰を曲げてやってくる月丘の祖母。香奈恵とは月丘の母親の名前だ。
だが月丘は溜息を付いてスタインベックの方を見る。
「あれ? カズキ、御婆様に再会できてうれしくないの?」
「ええ。私の祖母はもう随分昔に他界してますからね。あんなフェイクを見せられても……」
「あらら、わかってたのねカズキ。さすがシャドウアルファといったところかしら」
「まぁ……ティ連文明が地球にもたらされても、ナヨ閣下みたいな例外的な事があるにしても、普通は死者なんて蘇りませんからね」
「可能性の世界でも?」
「なら尚更です。これは私の可能性ではありません」
「あら、結構厳しい見方するのねカズキは」
とそんな話をしていると、やってくる月丘の祖母。
「で、今日はどうしたんじゃ?」と、祖母らしく月丘に問うが、彼は、
「ふぅ……どこのどなたが存じませんが、あまり他人のパーソナルデータを引っ張りだして、フェイクで遊ぶのは勘弁願えませんかね。私はあまりそういう趣味はないので……まあ場に慣れさすために気を使っていただいていたのであれば、感謝いたしますが」
と、祖母のような存在に面等向かって冷静に話すと、その『祖母』のような人物は、月丘をひと睨みし、その横に立つスタインベックに視線を送って、齢は九〇歳近い相応の腰の曲がった老婆の姿から、なんと、背筋を伸ばした健康的な老婆の姿になり、声も若返ってその彼女も一つ吐息を着くと月丘に、
「パーソナルデータからの再現は完全なはずだったが、初めから否定されるパターンは初めてだな」
見た目は背筋の伸びた月丘の祖母だが、話す口調は一般的な女性のそれ。
そのギャップがなんとも妙である。その口調に月丘も、
「まあ、見た目はなかなかのものでしたよ。こんな状況でなければ、親しく話しかけてたかもしれませんが」
「では、私の擬態能力に問題があったわけではなく、状況が私をフェイクと判断させたのか?」
「まあ、そんなところでしょうか」
「なるほど……」
と、もう顔だけ月丘の祖母で、紳士的な振る舞いをするその存在は、平手で月丘とスタインベックを、彼の母の実家へ誘い、典型的な田舎の食台の前に座るよう促す。
月丘とスタインベックはあぐらをかいて、月丘は慣れた感じで、スタインベックは慣れないのか、少々立て膝気味に座布団の上に座る。
祖母のような人物は正座で二人の前に座って、みかんを出して、お茶を湯呑みに淹れている。
「もう察しはついていると思うが、私はセルメニア時空体の一端である。お前たちの概念のような『名』は持ち合わせていないが、そうだな……まあ『シグマ』とでも呼んでくれ」
「? 私達のような名がない?」
「ああ、私達セルメニアの各個体の識別は特に『名』などはなくとも、明確につけられている。お前達のような三次元界の生命体のように、個々の存在すべてを象徴化させなければ、同胞を認識できないような、そんな存在ではない……そこのスタインベックというセルメニア。今のお前ならわかるな」
そう言われるスタインベック、だが彼も、
「ええ、まあそんなところね。やはり、私はもうあなた方と同じ存在と見て良いのかしら」
「データ化の過程を経ず、ダイレクトにセルメニア化する例は、ないわけではないが、珍しいのは確かだ。即ち、お前は三次元生命の時、そのからくりを知っていたという事になる」
「そうね」
「うむ、それは即ち……我々が委任した三次元生命体への委任契約を無視した……まあ所謂非合法な存在だ」
「あらそういうことだったの……だそうよカズキ」
「いや、私に振られても」
だが、月丘は違う。彼らセルメニアの思っている過程を経ず、いきなりこの場に突っ込んで来た身分であるからして
「では、私の存在がなぜここでこうやって立ち回れているのです? シグマさん」
彼は便宜上の名で、祖母の顔した変な人物に問いかけるが、
「お前は本来なら、この世界に入った瞬間に、光になって消滅するところだったが、我々時空体がお前の存在に興味を持ってな。少しお前の存在の“位相”をずらしてお前を存在させている。なので消滅せずに済んでいると思え」
「はあ、そうですか。それはお気遣いありがとうございます」
まあそんなことだろうと思ってはいた月丘だが、このシグマが色々と今までの事を決着つけられる存在と見た彼は、一応礼を述べて頭を下げる。
「で、スタインベックさん、この世界が所謂、私達が『高次元人』と呼んでいる方々の住む世界ですか?」
「ええ、そうよ。正確に言えば『そんな世界の一つ』ということなんだろうけど」
「そんな世界の一つ?」
そう月丘が言うと、シグマなる仮称の人物が、
「我々の世界にも、多くの性質を持った存在がいる。お前達三次元界の言葉で言えば、『種族』のようなものだ」
「では単一の存在ではないと?」
「そうだ」
どうにも容姿が月丘の祖母なので、カンが狂ってしまうが、なるほどとは思う。
「我々はお前達が契約者達の今の姿……所謂『ヂラール』と呼ばれる存在がなぜ宇宙に蔓延り、その根源を探索し、原因を突き止め、可能であれば契約者達の根絶を狙っていると理解しているが、相違ないか?」
「その契約者というのは、我々の知るヂラールと同義のペルロード人も含むのですね?」
「その通りだ」
「ふむ……まあ本筋ではその通りですが、今となっては色々と知らねばならない事も色々出てきましてね。まあ纏めますと……」
一、ヂラールの根源と、可能であればその駆逐。
二、ペルロード人を使って、なぜにトーラルシステムを宇宙中にばらまいたのか?
三、ヂラールがここにきて活性化した理由。
四、地球にペルロード人が逃げてきた理由。
「まあ、こんなところですが、あと個人的にもう一つ聞きたいことがあるとすれば……前々から気になってたのですが……」
五、スール・ゼスタール人の存在。
「え? シビアさんやネメアさんの事?」とスタインベックが不思議そうに問うと、
「ええ。彼女らがスールなんていう存在になったのも、レ・ゼスタというトーラルシステムの影響です。それにスールさん達は、ナヨさんや、マルセアさん、あなた、それとこちらのシグマさんのような存在に、部分的にも似ているところがあります……それもわかるのですよね? シグマさん」
「もちろんだ」
流石高次元生命体さんというかなんというかで、月丘の思っていることなんてのはは、もうみんなお見通しである。
月丘はこのシグマとの会話が、恐らく一連の、多分十何年か前に人類が初めて惑星エルミナスでヂラールと邂逅し、あのガーグ・デーラと呼ばれたゼスタール人の宿命から大きく派生したこの極限の宇宙的規模の問題に終止符が打てるのではないかと、そう感じていた……




