【最終章】第八一話 『 War of the Worlds』
今、連合日本国では、戦後始まって以来の大騒動となっていた。
震災や火山の爆発といったような自然災害で大騒動になることはこれまでにも幾度かあった。
台風に大雨洪水という事例も幾度とあった。
戦争という点でも、第二次世界大戦でえらい目にあったという点では、経験済みだ。
テロという点でも、かつての狂気の新興宗教団体が行った毒ガステロも経験した。
よくよく考えると日本人という国民は、所謂『大騒動』の類を、まああらかた経験してはいるのだが……
『現在、北海道美深町を中心とした半径一〇キロメートル圏内に避難警報が発令されています。この警報に伴い、国道239号線、40号線、49号線、275号線は全面通行禁止になっています。鉄道は、JR宗谷本線が終日運行停止に、他……』
日本のテレビ局は、このように北海道に落ちたヂラールフラワーの種子に対し、最大限警戒を怠らぬよう、すべての番組編成を変更して現在の状況を報道する。
さて、北海道に落ちたヂラールフラワーの大きな種子二つの内一つは、北海道名寄市美深町近郊から『深緑の滝』方向に落下し、まるでナパーム弾を食らわせたような大きな被害を地上に与えた。
さらにもう一つも同じような着地跡を描き、地面を大きく削って先の一つと近い場所へ落下した。
幸い当日は大雨で大きな山林火災は免れたものの、ナパーム弾の爆撃と、大きなブルドーザーで一直線にえぐられたようなものを併せたような着地跡を残し、両方ともさほど距離を空けず、山岳中腹で地中にめり込むような姿となると、早速この北海道の地に災いを振りまく予兆を見せ始めた。
地中から、信じられない成長速度で、地面に軟体動物か、ヘビのように地中へ暴れるがごとく根を張り、更には地球で言う竹類のように地下茎のようなものを張り巡らせて、まるで高速度カメラの映像のような成長速度で地中からムクムクと枝葉を伸ばして成長させ、何やら花粉のような物体をヂラールの花から大気に放出し始めていた。
それは風にのり、付近一帯のまだ避難が遅れている居住区に流れて、住民に急性喘息のような症状を引き起こしていた。
それは、あのスール・ゼスタール人が見せた記録映像にあった、八〇〇年前のかの星のパニックで、左様な患者がたくさん出ていた記録映像のそれ、そのものであった。
更に二つの種子は、細長い茎が普通では考えられない成長速度で急速に絡まって、ヂラールフラワー故の、かの巨大な植物型モンスターフラワーに成長をしようとしている。
この日本に落ちたヤツは、グロウム帝国で見た、あの薔薇の花のようなものを無数につけた、速射砲のようなものを無尽蔵に撃ち放ってくるタイプの奴のようだ……まだ惑星エルミナス(旧イルナット)で対峙した、広域破壊兵器クラスの砲弾のような種子をブツ放してくるアレよりはマシだが、おそらくその手のタイプもどこかに落ちているのかもしれない。
『現在、名寄市から半径三〇キロメートルの範囲が、最高段階の非常事態緊急避難命令に変更されて発令されました。名寄市、美深町、下川町、士別市の市民は、直ちに、何よりも優先して指定圏外へ退避してください! そして、もし喘息に似た症状の市民は、すぐに最寄りの警察官、安全指導員、自衛隊員の指示に従ってください! 繰り返します! ……』
大津波警報発令時ばりの、アナウンサーの大声が全局で放送される。特に喘息症状はパンデミックに関わる話だけに、特に注視して報道されている。
この喘息に似た症状は、ヂラールフラワーから放出される、肺を犯す細菌性の物質を含んだ花粉である。普通であればこの物質を吸い込むと、未知の細菌に肺が急速に侵され、発症後その患者がまた細菌を空気中に吐き出しながら死亡するという恐ろしい症状を見せ、この連鎖でゼスタールは壊滅してしまったのだが、現在はこの細菌に対する特効薬の処方がゼスタールから供与されており、さらにはその処方を元にした細菌攻撃型ナノマシン治療薬もティ連で開発されているので、その変な病気自体への対応策は問題ないのだが、道民五二二万人全員にいきわたる量はまだないため、ヂラールフラワーに汚染された地域への立ち入りを制限しなければならなかった。
とはいえ、風に流されていくその花粉をどう制御するかといえば、そこはヤルバーン自治国からありったけのヴァルメを投入して、地域シールドを展開である。一〇年前のヴェルデオ信任状奉呈式でやったあの方法の延長だ。
したがって強制的にその地域は立入禁止になるわけであり、またその域外に出ようとする感染者は即座に探知できるので、ヴァルメの強制転送機能で、指定隔離施設へ送られ、直ちに治療される。
まあそういった感じで、あのゼスタールの悲劇はなんとか回避はできるものの、問題はもう見るからにズンズンとデカくなっていくモンスターフラワーの方である。そして更にもう一つ問題となるのは、このヂラールフラワーという尖兵には、それを守り、またフラワーとともに攻撃を加えてくる能動的攻撃型生体兵器『ハンターヂラール』というあの鬱陶しい人間と同サイズのデミヒューマン型で、動きが俊敏な動物型ヂラールが卵という形でたくさん種子にひっついてくる。
それが孵化して北海道民に襲い掛かれば、クマ災害どころの話ではなくなり、北海道は大パニックになるだろう。
つまり、グロウム帝国で展開したヂラール・モンスターフラワーへの攻撃作戦と、ヂラールフラワー、そしてハンターヂラールへの対応という三面作戦を展開しなければならない。
なので今回はただの生物災害ではない。国土侵略に対する防衛作戦である。
日本戦後憲政史上、初の本土侵略防衛戦である。自衛隊三隊、いや、三軍は、地球に予備兵力として残している特危自衛隊も併せて、四軍として日本列島を北上する。
もちろんヤルバーン自治国軍に在日米軍も共同戦闘態勢に入り、ヤルバーンの転送機能も活かして北海道へ戦力を迅速に移動させる態勢に入る。
日本政府は二藤部政権時に、こういう日に備えてティ連憲章を参考に、現場が自主的に作戦を展開できる態勢を整えていたので、円滑に部隊を展開させている。そこは、伊福部昭のマーチでもBGMで一つ欲しいところだ。
さらに現在、柏木真人という突撃銀河某が総理大臣であるわけで、元ティ連防衛総省長官閣下様が内閣総理大臣なんてやってるわけなので、まあ円滑に政治が指揮指導してるってわけで、本当に時代の奇跡で、彼が総理で良かったとか、そんな世論もできていたりした。
マスコミは、各地方局の中継で、本土自衛隊が大移動をする様子を中継する。
北恵庭駐屯地の90式戦車を中心とした各戦車部隊がトレーラーに積まれて基地を出発、移動を開始。
JR貨物に数珠繋ぎで積まれて北の大地へ運ばれる一〇式戦車。
北海道縦貫自動車道を高速で驀進する、16式機動戦闘車に14式浮動砲を映すヘリコプターの映像。
青森県某市の上空を飛ぶ空自仕様の旭龍A型を中心に編隊を組むF-35戦闘機。
津軽海峡を低空で飛ぶ、チヌークヘリにコブラ、アパッチと、旭龍陸自仕様T型。
特危の旭光Ⅱアウルド(偵察)型の映像を提供してもらったマスコミは、日本海を北上する海上自衛隊、『護衛空母かが』に『護衛空母いずも』そして、先のゼスタール戦争で活躍した、旭龍M型を搭載した『機動兵器専用運用護衛母艦あかぎ』を中核とした機動部隊を茶の間に映す。
現在、最前線になっている名寄駐屯地の部隊は、とにもかくにも市民の避難誘導最優先で、政府の命令を待たずに独自に行動を開始した。ここで有名な高射特科や第3即応機動連隊も、今はとりあえず被災圏外に後退である。各部隊合流して態勢を整えないといけない。
まだまだ更に佐世保海軍基地を出航する強襲揚陸艦アメリカ。甲板には米軍の新鋭機動兵器『サラマンダー』が満載駐機されている。
特危自衛隊も、航宙艦船は全部宇宙へ出払ってしまっているので、残存部隊だけで陸上自衛隊と共同で戦地へ赴く。
実際のところ、ヂラールフラワーにモンスターフラワー、そしてハンターヂラールは確かに脅威は脅威なのだが、ここまでの大部隊で挑めば、まあ対応はできる。だがなぜにここまでの部隊で挑まなければならないかという事だが、現在他にこの地球へヂラールフラワーの種子が太平洋、大西洋、イラン、南米、ロシアと落下している。それらの国々へも部隊を回して早急にカタをつけなければならないため、この日本のヂラールフラワーをとっとと駆除してしまいたいと、そういう思惑があるのだ。
なので現在、ヤルバーン自治区もハイクァーン生産設備をフル回転させて、ヴァルメの量産を加速させ、できあがったものから随時、域内シールドを展開させるために被災各国へヴァルメを送っていた。
そして柏木は、ここぞという対応策の協力を国連軍に依頼し、ある施設をフル稼働させて援軍を集めようとしていた。その援軍とは……
* *
実のところ、太平洋と大西洋に落ちた種子は、そのまま海底に沈下してしまい、発芽することなく、まあ言うなれば死んでしまった。
これはゼスタールで経験した、理由は不明の、『ヂラールはゼスタールの海中では活動できない』というあの現象である。
実はゼスタール戦時に謎だったこの現象の理由であるが、ヂラールの元がペルロード人であればこの原因がどういうものか知っているのではないかとジェルダムやアルカーネ、カイアに問うたところ、彼らも詳しくはわからないという話。
ただ、カイアや、医師であるアルカーネが気がついた点として、実はというか、ナントというかで、地球やゼスタールの海水の成分が、ペルロード人には有害であるという事なのだそうな。
本来ゼスタールと地球の環境はよく似ており、海水の成分もほぼ同一で、生息する海洋生物の進化形態も、まあまあ似たようなものだった。
だが、アルカーネの話によると、彼女が地球の海産物を口にしようとした時、PVMCGのバイタル警報が鳴って、最初口にできなかったそうだ。
彼女も医学者なのでどういう原因かと調べてみたところ、ペルロード人が地球やゼスタールの海水の成分に接触したり、体内に入れると、重度のアレルギー反応を起こす事がわかったそうである。
まあだけどその時は、そんなことでは地球での食生活もままならないとして、ティ連の医療局にペルロード人用の海水アレルギー反応を無効化するナノマシンを作ってもらい、二人はそれを体内に飼っているおかげで、今は地球の海水にも入れるし、魚介類も口にすることができるそうなのだが……
三人がいうには、これぐらいしか原因は思いつかないし、多分それが原因ではないだろうか、という話なのだそうだ。つまりヂラールは大本のペルロード人の生理生態反応も受け継いでいるのかもしれない……
で、先のゼスタール戦争では、当時ネイティブ・ゼスタールの間で解っていたヂラールのこの性質を利用して、国連軍の戦略原潜部隊が大活躍したわけだが、それでも航空型ヂラールが海中めがけて自爆特攻攻撃をやらかし、中国軍の潜水艦が行動不能に陥った例もあるように、奴らにも海中への攻撃手段は、あるにはある。だが、海中自体で活動するタイプのヂラールは発見されてはいないので、先のような理由もあるのか、地球型環境の惑星上に存在する海、その海上海中の環境はヂラールにとって禁忌であるようで、現在落下した機能停止状態にあるヂラールフラワーの種子を、太平洋のものを米海軍が、大西洋のものをNATO軍が回収するためにサルベージ船を海域に派遣している……この種子を回収してなにか成果が得られると良いのではあるが、その時はどうせヤル研や、ヤルバーン科学局にも協力してくれとお鉢が回ってくるのはわかってるので、彼らも米国やNATOの回収状況を冷静に見守っている。
で、あとはロシアの一個と南米とイランの二個づつだ。
その中の南米、ブラジルにぶち落ちた二個は、所謂アマゾン川流域の街、マナウス近郊の森林地帯をえぐるように落ちた。
しかもその二つは示し合わせたようにお互い近くに落ちる。
ヂラールフラワーは動物のような性質も持つが、生態は基本植物由来であるがゆえに、アマゾン密林地帯の環境は我が世の春を得たように肌があったようで、その成長速度も異常に早く、二つの落下した種子が地下茎を絡ませて融合するような形で巨大化し、その成長速度に拍車をかけている。
しかもこの密林地帯の環境がカモフラージュになり、ヂラールフラワーの生育状況や、付随するハンターヂラールの活動状況などが把握しづらいものになっていた。
勿論、ヤルバーンのヴァルメも、住民の避難と安全環境確保のために機体を展開しているのだが、まだ数が足らない。
ブラジルに本社を置く、パイド・パイパー社の民間軍事会社部門もブラジル軍と協力してこれに対応していたのだが、いかんせんブラジル軍自体の装備が古く、米国のサラマンダー機動兵器や、機動戦車コリン・パウエルなども調達し装備はしているものの数が少なく、神出鬼没に現出するハンターヂラールに手を焼いていた。
勿論日本や米国にも援軍を打診してはいるのだが、日本においては場所が地球の裏側だけに転送装置があるとはいえ、日本も特危兵力を宇宙に割いており対応が遅れているわけで、被害の拡大は必至の状況であった。
で、当のブラジル軍であるが、密林ジャングルの中の作戦展開となれば、近代兵器でこの時代、まともに作戦展開できるのは疑似直立歩行移動にイオンロケットジャンプが可能な機動戦車『M5A1コリン・パウエル』か、低高度機動戦闘が可能な『FAHM-50サラマンダー』ぐらいなもので、従来装備のレオパルドⅠやM60戦車などは正直あまり使いものにならない。
そしてコマンドローダーのような機動歩兵型兵装も持っていないので、歩兵の損害もかなり高く、対応しあぐねていた。
さらに、敵の基幹となる、モンスターフラワーのタイプは、まずいことにあの広域破壊兵器ばりの爆弾種子をぶっ放してくる奴だ。あの異様な高さに大きさの幹が、種子二つ分の大きさでどんどんと成長を続けている。
現在米軍の爆撃機部隊での攻撃も検討されてはいるのだが、それを行うと相応にアマゾンのジャングルも痛めつけてしまうことになるので、どうにもこうにも頭の痛い状況になっていた。
「うわっ! ハンター型が奇襲! 下がれ下がれ!」
「隊長! 第三小隊が、生きてるような根っこにやられています! 救援要請が!」
「だめだ! 回せない! くそっどうにもならんぞこれは!」
ブラジル陸軍は、かなりの損害を出しながらヂラールフラワーの駆逐作戦を展開しているが、正直状況はかんばしくない。
しかもこの蒸し暑い中、ガスマスクを付けての戦闘だ。相手が人間ではないだけにマトモに戦うのも難しい。
USSTCや特危、ヤルバーン軍に援軍要請をしてはいるが、現実問題としてUSSTCはほとんどが宇宙に上がっているし、特危も同じく。ヤルバーン軍もイランやロシアにもヴァルメのような無人防衛兵器を回さなきゃいかんので正直マンパワーもマシンパワーも全然足りない……かなり絶望的である。
「隊長! 退路を阻まれました! やつらの地下茎がこんなところにも!」
「防御陣形をとれ! 全員をこの場に集めろ! 航空隊の援護を要請だ!」
とやってる間に、前衛がハンター型の襲撃にあった!
「突破されます! だめだ! うわあああ!」
と、兵達が絶望の瞬間を見そうになったその時!
大型のプテラノドンか、そんなような翼を携えた、明らかに機械的な、そしてなおかつ有機的な容姿の物体が、ハンター型を複数匹、大きな剣で一刀両断にした!
更に盾のようなものに内蔵された速射ブラスター砲が唸りを上げて一帯の気持ち悪くうごめく触手のような根部をぶち切って、地下茎にまでめり込ませて根っこからヂラールフラワーの侵食を絶った!
その有機的な機体は、一連の援護を行うと着地し、胸部のコクピットハッチを開け、
『ミんな大丈夫かぁ~! 無事かぁ~!』
と騎士のような出で立ち。だが容姿は水色肌のイゼイラ人女性。さて彼女はなんと、フェルフェリア大臣閣下の妹爆弾。メルフェリア団長殿下であった!
「あ、あんたは!?」
まあブラジル陸軍の一介の兵士がメル王女な団長殿下の事なんざ知る由もない。
『そんな話はあとあと! ザビー! そっちはどう!?』
『は、この者たちの退路は確保いたしました、団長』と通信に応じるは、副団長のハイラ人、ザビー・ゼルラ。彼のその動物的なデミヒューマン容姿にブラジル軍兵士はポカン顔で見ている。
『よし! んじゃ兵のみんなはあの籠の中に入って! 移動できるキドーヘイキは私に付いてきてね! んじゃ撤退するよ!』
メルの乗ってきたハイラ王国製の手工業機動兵器『クヴァール』
全長は一〇メートル以下の小型な機動兵器だ。
機体の特徴は、ヤル研が開発し、ティ連規格で量産されているコマンドトルーパーのフレームをベースに、ハイラ王国の国内産業を支援するために、ハイラの街の工房で、ヂラールの残骸や骨格、甲殻、皮革、筋組織などを加工して外装、稼働機関、装甲で加工製造したバリバリの手工業製サイボーグ風兵器が、このクヴァールである……たまたまどこかの異世界の生体兵器に似ているが、人間の生体エネルギーで動いているわけではない。
まあ、ハイラの様式美という奴で、素材強化変換なども行われているので十分主力兵装として使える……
とそれはさておき、メルはクヴァールの大きさに合わせた大きな籠のようなコンテナボックスを持ってきて、歩兵の前にデンと置く。歩兵や負傷者はその籠に入れと。
全員収容すると、クヴァールはその籠の取っ手を持って、空中に浮かび、ブラジル軍を誘導しつつ、今はこの場を撤退していった……
* *
このクヴァール型機動兵器は、現在ハイラでも、彼らが扱いやすい、通称『傀儡兵器』としてパイロットの養成と量産が進んでおり、サスア副国王指揮のもと、今ではハイラ王国連合主力機動兵器として惑星サルカスの連合王国でも広く正式採用されている。
まあ、まだまだこんな機械にも、機能性よりも様式美を重要視する一七世紀的文化水準ではあるので、その様式美を象徴する装飾装甲や、可動部の強化機能に利用されている、戦利品であるヂラールのパーツも最近は少々枯渇気味で、最近はほとんどがハイクァーンのレプリカという事だが、高級機体として、メル配下の騎士団ような地位のある組織や人物の機体には本物が使われているという話。
さて、そんなクヴァール型兵器の大部隊が、現在世界各地で目撃されている。
ロシアのマスコミでは、『ガーゴイルがロシア地上軍を救った!』だの『悪魔のような容姿の天使が街を救った!』だの、そんな見出しの記事が紙面を踊る。
まぁ……確かにクヴァールはハイラ王国に伝わる正義の聖獣を模して作られてはいるのだが、そこは文化の違いと言うかなんというかで、その見た目は地球人視点では、どっちかっつーと魔物系なので、そこはいかんともしがたいところ。
だが、メルフェリアはフェルの妹で、異星の王女殿下だということは一度地球に公式訪問したこともあるのでみな知っているわけで、ブラジル軍兵士の撮影した写真がネットにアップされると、
『メルちゃんがガーゴイルみたいな兵器に乗って、俺達を助けに来てくれたぞ!』
といった歓喜の書き込みが殺到していたのであった。
ではなぜメルフェリア達がこの地球世界に援軍としてやってこれたのか。
というか、明らかに援軍なこの『ハイラ王国連合軍機甲騎士部隊』は、なぜにこの地球に、こんなにも素早く展開できたのか、
そこはやはりあの男の究極の人脈パワーが関係しているわけであって……
* *
ということで総理官邸危機管理センター。
『総理、コれをどうぞ』
フェル副総理が、柏木総理にVMCタブレットを渡す。
「ありがと……はぁ、なんとか間に合ってくれたか……」
すると危機管理センターに同席する二藤部が、
「総理、あのシビアさんの一声でしたか。ヂラールフラワーの種子を打ち込んでくるとはさすがに戦慄しましたが」
「ですね、二藤部先生。ハイラ王国のお義父さん、じゃなくてガイデル国王陛下も早々にこちらの情報と状況を知ってくれてたようで、駐留のイゼイラ軍に要請して、メルフェリア殿下達を即座に援軍で送ってきてくれました。こちらが要請しようと連絡した時には、『もう送った』ですから。ははは」
『ウフフ、メルチャンも張り切ってたという話デすからね』
あと、白木からの連絡で、現在総諜対の副班長となっているマルセアを通じて、ゼスタール星からも援軍を送ってくれるそうである。
ではその援軍、今の話をすれば、ハイラのクヴァール隊がなぜここまで電撃的に展開できているかといえば、そこはあのハワイ諸島近郊に設置した、半没型の海上ディルフィルドゲートの存在である。あのゲートの存在がここにきて効いてくれた。
メル達は、イゼイラの機動輸送艦でハワイ沖にワープアウトすると、即座にクヴァール特有の高速性を活かして部隊を、ロシア、イラン、ブラジルに分散展開した。
しかも持ってきてくれた『機甲騎士部隊』は、惑星サルカスの連合王国から招聘した義勇部隊の大軍団で、イゼイラの一個師団を輸送できる大型輸送艦でハワイ沖に顕現した。もちろんその部隊の中には、ハイラ駐留のティ連軍機動部隊も入っており、メルフェリア団長の指揮下でハイラ駐留ティ連機動軍もロシアとイランに展開している。
柏木は、
「とりあえずメルフェリア殿下の援軍で日本以外のヂラールフラワーは対応させることができますが、あの大きさですからね」
実際現在の危機管理センターに入ってくる情報でも、北海道のモンスターフラワー、コードネームは『マシンガンローズ』と決まったそうだが、その名の通りで、接近する自衛隊や米軍、ヤルバーン軍の航空兵器に地上戦力を、その花状の光学兵器発射器官からブラスター兵器のようなものを無数にぶっ放してくるので、近づけないという報告が来ている。つまりその射程エリアでのヂラールフラワにハンターヂラールの増殖を抑え込むことが困難になっているというわけだ。
だが、日本はまだヤ軍の兵器や、特危にティ連技術の兵器があるから、すでに対策は立てられている。そろそろ一斉制圧作戦が始まるという事だが、問題は、その他外国の方で、やはり日本のようなティ連型技術の装備が充実していない国は、苦戦どころか、なんとか現状をメル達の部隊で牽制しているような状態なので、
「なんとかネイティブのゼスさん達の部隊が間に合ってくれれば良いのですが……」
と柏木は難しい顔をする。だが、悪い状況に悪い情報は重なってくるもので、
「総理! メルフェリア団長から連絡です! ブラジルのモンスターフラワーが、開花しそうだと!」
「!!」
ブラジルのモンスターフラワーは、完全に開花すると、花の中から、小型核兵器並みの爆発力を持つ種子をぶっ放してくる。まあ幸いこの種子は核兵器ではないので、放射能汚染などというものはないのだが、一介の生物兵器が生成する生体爆弾が核兵器並みの威力というのも、このヂラールの謎能力の一つである。そこんところをメルも勉強しているわけで……
* *
『このままじゃ、あのタネ爆弾が発射されちゃうよっ!』
前線のブラジル軍を撤退させ、後方で再編されていたブラジル空軍と、チリ空軍、アルゼンチン空軍、ペルー空軍などを引き連れて、メル達騎士団と中南米の連合空軍で、アマゾンのモンスターフラワーに爆撃を加えている最中だが、ヂラールフラワーの対空迎撃を縫って、モンスターフラワーを見れば、まずいことにあの花が開花しようとしているではないか。
当然モンスターフラワーもヂラールが故に、力場による防壁も少なからず展開するわけで、中南米連合軍の爆撃も、効果がイマイチ不明瞭だ。
しかも対空迎撃型の個体に翻弄されている。
中南米連合軍の使っている機体は、今となってはちょっと旧式の航空兵力だけに、仕方ないところではあるのだが。
しかしそんな泣き言を言ってる場合ではなく、モンスターフラワーの頂部に咲く広域破壊種子発射花弁は、その熱反応がそろそろ最大値に達しようとしているわけだが、現状花をぶった切るにも、クヴァールではモンスターフラワーのクソ太い幹をたたっ斬るには少々ガタイが小さい。というか、やるならフリンゼ・サーミッサぐらい持ってこないと、いったところだが、せめてあの種子をなんとか迎撃できればと、思うメルなのだが、
『おう、メルフェリア殿下』
メルの機体に通信が入る。その発信者は、ヤルバーン軍司令のゼルエ・フェバルスだ。
『あ、ゼルエ師匠!』
『久しぶりですな、幾周期か前にエルバイラ、あいや、国王陛下達とニホンに来た時以来ですか。って、そんな話はあとです。あのモンスターフラワーの種爆弾を何とかする方法ですが、ちょいと無茶で、殿下にしかできない荒業だが、やってみますか?』
と、そう煽てて言われちゃぁ、剣豪メルちゃんの沽券に関わるわけで、受けないわけにはいかないってんで。
『なになに、教えてよ師匠!』
するとゼルエの口調も、“師匠”らしく、タメ口になり、
『おう、んじゃな、ウチの学者が、これならなんとかなるってんだが……』
ヂラールフラワーの種子を惑星エルミナス(旧イルナット)に植生していたものの残骸を解析したところ、くるみの実のように二つの物体が合わさったような構造をしており、その二対の両側に含まれた、何らかの引火成分が混ざり合って化学反応した時に、あの大爆発を起こすと解ったそうだ。
『……で、種子が発射される軌道は、やまなりで飛ぶ。速度もそんなに速くはない。ってなところでな、種子が発射された軌道の一番高いところが、限りなく発射速度がゼロになる。そのタイミングで、種子の真ん中の筋を狙って真っ二つにできれば、大爆発は抑えられる。理解できるか?』
まあ地球人なら中学生でもわかる軌道の法則だが、こないだまで一六か一七
世紀時代の肉体派妹剣士には、
『ワかんない!』
頭抱えるゼルエだが、まあ要は飛んできた種を、筋に沿ってぶった斬れと言うと、
『ワかった!』
と即答、モンスターフラワーへ一直線に飛んでいく。
『おいおいおい、大丈夫かよ殿下は!』
とヤルバーンタワーの司令室で心配そうにモニターを見るゼルエだが、メルはメルで、彼女なりになんとなく理屈は理解できているようで、
『(あのシエ師匠達とあそんだ、ハネツキのハネの理屈だよね……よーし)』
と種子が飛んでくる軌道を予測し、高度を少し上げるメル。
『ザビー、集中したいから、ヂラールの“たいくうほうか”をなんとか抑え込んでよ!』
『承知! 皆のもの、団長に敵の弾が向かわないよう、囮に盾となってくれ!』
オー! と団結力固くクヴァール隊は、メルの進行方向を開ける戦闘を見せると、メルの部下が、
『団長! 来ますよ!』と叫ぶ刹那。水蒸気爆発のような轟音に、でっかいくるみ状の種子が押し出され、大きな弧を描いて発射された。
遅れてマナウス周辺の街に鐘やサイレンで警報の音が轟くが、避難などしていないような状況なので住民や、部族の人々は大パニックである。
『っっだらぁあああああああああ!』
メルは半マスタースレーブ方式の機体の、操縦稼働範囲を最大限使って、またクヴァールの限界速度で加速し、両手で持った剣のつばを広げて、メルがいつも生身で使う斬馬刀ぐらいの巾広長剣をエネルギー刃で生成すると、目を血走らせて、クヴァールの機体制御システムがマーキングする種子爆弾の軌道を、睨みつけて追う。
みるみるうちに爆弾に接近するメル。だが、爆弾はゆっくりとくるくる回りながら飛んでいるので、二つに分かれる筋もくるくる回る。
『とにかくぶった切って止めりゃ、この高度ならなんとかなるやい!』
と、とにかく止めることを考える。
仮に失敗しても、この高度と、この距離なら、街には被害を及ぼさないと考えたからだ。だがそうはいえ、剣豪で鳴らしたメルフェリア殿下。テキトーな仕事はしない。
メルは、瞬間の反射神経と、脳内天然計算力で視界の時間を遅らせると……くるくるまわる種子の筋……割れ目をなんとか見極めて!
『ここだぁああああ!』
と一刀両断! だが、少しずれた!
『チッ!!』
予想通り、ずれた場所から、種子の、いうなればa成分とb成分が少し反応したようで、真っ二つに割った二片の一部が、爆発を起こした! 通常爆弾ぐらいの爆発力はある、即ちどでかい空中爆破が二つ起こる。
『うわわわーーっ!』
と機体バランスを崩して墜落するクヴァールだが、そこはザビーと部下がメルの機体を注視し、両脇を抱えて墜落を防いでくれた。
『ありがと、ザビー、パミュー!』
『お見事です団長』『やりましたね団長!』
見上げる空に大きく雲になって燃え尽きる花火の如きヂラールフラワーの種子爆弾。
ヤルバーン司令部のゼルエは、机を大きく叩き、ガッツポーズであった。
* *
「防御力場妨害弾初弾命中、目標固定! 効力射!」
陸上自衛隊特科部隊の自走野砲、所謂自走砲部隊の遠距離攻撃が低い轟音奏でて何十両もの砲口が唸りを上げる。
「マシンガンローズ、防御力場減衰を確認! 弾種焼夷徹甲榴弾切り替え……てーっ!」
特科部隊は防衛装備庁で開発された、『真面目な人達が作った』、防御力場減衰弾。即ち、シールドの効果を弱める成分を含んだ化学砲弾を打ち込み、シールドの減衰が確認された時点で、対ヂラール用の焼夷徹甲榴弾を打ち込むという作戦に出た。
実のところ、この防御力場減衰弾は、ティ連がアドバンテージを握るシールド兵器の効果を弱める性能を持つ砲弾で、例えばデルゲードのようなパワードスーツ部隊の上空でこの砲弾を炸裂させれば、デルゲード部隊のシールド効果を減衰させて地球製兵器でも対応できるようになる、という代物で、ティ連的には困ったちゃんな兵器であった。
でもまぁ逆に言えばティ連側も敵に対して効力がある兵器ということでもあるので、自衛隊、ティ連でも採用が決まり、また、最上級クラスの極秘兵器として、今まで温存されていた代物であったのだが、このモンスターフラワー『マシンガンローズ』攻略で、日の目を見た、まじめな防衛装備庁の人達が作った傑作兵器である。
「マシンガンローズ効果確認! 掃射継続!」
効果があったとわかると、野砲に続き、MLRSも加わって、マシンガンローズの射程外から集中砲火を浴びせる。
ここは中南米連合軍とは違って、洗練されたティ連技術に裏打ちされた日本の陸海空特危自衛隊の実力だ。
射程外の攻撃にマシンガンローズは盲滅法に周囲へブラスター弾を撃ち放つ。
これはこれで困ったもんで、なんせ花弁のような発射口が無數に咲いているので近づけない。
要するに、特科の射撃でこの花弁を削って、マシンガンローズ本体の、地面に埋まった急所である『成長核』を破壊しなければならない。
これを潰せば、一帯の地下茎で繁殖しているウネウネ動くヂラールフラワーの触手根も一気に片付けられる。まあそれでもハンターヂラールは残るが、そのあたりは残党の掃討戦だ。
「マシンガンローズ、発射口六五%壊滅」
「了解。機甲科各隊前進、前進、突入せよ」
「特危、コマンドローダー部隊各隊は敵機動生体型を迎撃。機甲部隊の援護に就け」
「特危コマンドローダー隊了解」
マシンガンローズの攻撃能力が低下すると、突入部隊が一斉に動き出す。
続いて、在日米軍のA-10部隊が航空援護に入り、M5A1機動戦車、コリン・パウエル隊も、戦車モードから、直立機動装甲モードに変形し、別方向から成長核破壊を目指す。
現在、コマンドローダーが、所謂、機動歩兵装備として、歩兵全体にいきわたっているのは、まだ特危自衛隊のみであり、本土の陸海空自衛隊には、特殊戦闘部門にしかまだ配備はされていない。
まあそれでも、ローダー兵器の前の歩兵機動兵装の、稼働繊維インナースーツは、現在日本の全自衛隊員、特に普通科等すべての部隊の標準被服装備なので、普通科部隊が、ハンターヂラールに襲われ、殴り合いの喧嘩になっても十分やりあえる。
特に北海道故に、ヒグマに襲われてもぶっ飛ばすことは可能だ。
そこにVMC弾を使える二〇式に、防毒機能の付いたフルフェイス型のヘルメットで、ヂラール花粉にも対抗し、各所で接近戦が始まっている。
それを司令部でモニターする、自衛隊幹部達。その中には、大見健 特危自衛隊司令が宇宙に上がっているので、地上の特危自衛隊部隊の指揮を代わりに執るのを手伝っているのは、久留米彰、特将補であった。
「……ちゃん、海上自衛隊の援護射撃がかなり効果を上げてるよ。継続してたのむわ」
「わかった……久留米ちゃん、ウチの龍神さんはどうする? 陸で戦わすか? コレの運用はお宅の方がよく知ってるだろ」
海自仕様の旭龍M型の事である。今まで陸戦運用可能な機動兵器なんて、大日本帝國海軍時代の特式内火艇以降、持ったことない海上自衛隊であるからして、陸戦ももちろん可能な旭龍M型の運用を海自の友人でもある同じく将補な人物が、久留米に聞いていたりする。
「そこは陸自のT型にまかせて、援護じゃないか? 『さすがM型、攻撃食らってもなんともないぜ』っていうわけにはいかんでしょ」
冗談も言っていないと、やってられない忙しさである。そこに何やら制服組を引き連れて司令部にやってきたのは、なんと柏木内閣の防衛大臣、加藤幸一である。
久しぶりに顔を見る加藤の姿に、全員バリっと姿勢を正してお辞儀敬礼である。
「久しぶりだなぁ、みんな。特に久留米君」
「は、幕僚長……あいえ、大臣が火星にご家族と一緒に赴任される時の壮行会以来ですか」
「そうだなぁ。定年も伸び伸びで、人手が足りないって勝手に伸ばされて、あのままいってたら定年のないティ連防衛総省軍行きだったかもしれなかったそうだぞ」
「本当ですか!」
とそんな話の枕にみなが笑っている。
「まあとはいえ、結局今は防衛大臣なんてやらされてるけどなぁ」
「はは、まぁ順当なご出世ではないですか?」
などと話をしていると、制服組が耳打ちなんぞ。もうそろそろ本題へ、ってなところだろうか。
加藤は頷くと、海上自衛隊の指揮官を呼び、
「君、今海上自衛隊の臨時連合艦隊はどのあたりで作戦中だ?」
「は、焼尻島海域で、陸上自衛隊と、特危陸上科の支援作戦を実行中でありますが」
「なるほど。では柏木総理からの命令を伝える。海上自衛隊臨時連合艦隊と、特危自衛隊陸上科は、一旦ヤルバーン自治国へ向かい、ヤルバーン自治国が現在展開している『普通転送ゲート』を使って、イランへ向かってくれ」
その言葉に、疑問を呈する幕僚たち。久留米も同じくで、
「イラン……ですか?」
「ああ、ロシアの状況は、ヨーロッパのLNIF加盟国軍がついて、現状なんとかなっているらしい。向こうで中核となっているのは、こっちと同じ、『マシンガンローズ』だ。かなりの被害を出しているそうだが、なんとかなりそうだとEU大統領から連絡があった」
この言葉に「おお」と歓声をあげる司令部。さすがLNIF軍とロシア連合軍だ。米国ほどではないが、なんとか異星テクノロジーの兵器でうまい具合に対応しているという話と、あとゼスタール連邦の先遣隊が間に合ったようで、状況は改善。なんとかなりそうだと連絡が入ったそうだ。
「……だが、イランがかなりまずい状況になっているそうだ……これを見てくれ」
加藤が部下にパソコンの動画データを再生させると、イランを中心とした中東の連合軍から日本政府に送られてきた、被害映像を見せる。
その動画を見て、諸氏一気に戦慄する。
「な、なんですかこれは!」
と陸自の幕僚が声を上げる。
そう、そこには今まで対峙したこととのない、まったく未知のモンスターフラワーが映っていた。その内容は……
頂部に何輪か咲いた花が主砲の役目を果たし、伸びる高さは全高五〇メートルほど。デカさ自体は、あの種爆弾を放つのとそんなに変わらない。が、まあそこまではいい。
このモンスターフラワーの異常なのは、なんと、根をタコのようにうねらせて、移動しているのである。しかもかなりの速度である。
そして、最悪な映像が、このヂラールは枝葉も触手のように動き、その先は鋭く尖って、逃げ回るイラン人にその触手をぶっ刺して、体液を吸収するという捕食行為を行っているのだ。
その映像を見た何人かは吐き気を催していた。
「こんな……ヂラールフラワーが捕食行為をすることは知っていますが、ここまで能動的に自ら動く、えげつないのは初めて見るタイプです」
と久留米。加藤も同意して、
「そうだ。柏木総理やフェル副総理も新しいタイプだと戦慄していたよ。で、ニーラ教授の推測だと、イランのような砂漠地帯はろくに養分もないだろ。なので直接捕食するタイプで成長したのではないかという話だが……」
ニーラが言うには、この地域は砂漠地帯で、ヂラールフラワーの成長に必要なエネルギーを環境から得ることが難しいから、生き物を直接捕食してパワーを得るという、こういう形態に成長したのでは? と考えているという話。
すると空自の幕僚の一人が、
「では、あのモンスターフラワーというのは、その時の環境で最適な形態を選んで成長すると」
「ああ、ニーラ先生もそう睨んでいる。恐ろしい存在だとな」
では、環境によっては、今までに見たこともない形態がまだあるということかと、戦慄するスタッフ達。
まあでも今はそんな事を考えても仕方ないので、久留米が、
「了解しました大臣。ですが、先程ヤルバーン自治国に普通ゲートがあるとおっしゃいましたが、そんなものいつの間に?」
「今回の件でヴェルデオ議長が、ヤルバーン都市型艦の機能を一部改造するように指示をして、あの艦の真下に来れば、艦隊規模の転送もできるディルフィルドゲートの機能を急遽用意してくれたんだよ。それで海自艦隊ごと一気にペルシャ湾に飛んでもらう」
なるほど、と納得するスタッフ諸氏。今の『連合日本』と『ヤルバーン自治国』なら、そんな芸当も普通にできるわけである。
で、それでも海自艦隊が相模湾に戻るまでに一日二日はかかるので、特危の陸上科部隊が先行して、ヤルバーン自治国軍の地球に残った部隊と合同で、デロニカ輸送機にて先行し、歩行型モンスターフラワー、コードネームを『トライポッド』と言うそうだが、そいつの捕食行動と勢力拡大のために西進している現状を阻止するために先行するという作戦を開始するという。
加藤は、
「北海道の方は、マシンガンローズもボロボロでもう終わりだそうだ。決着がつき次第、世界の状況を見て、部隊展開の方針を政府で考える。ゼスタール連邦の援軍も徐々に展開できているから、欧州の方もなんとかなるだろう。ブラジルも、あのタイプのモンスターフラワーは、惑星イルミナスで、あのタマ一発撃ったら、あとは片付け易いのは経験済みだ。南米の連合軍でなんとかなる。米陸軍も支援に入ったそうだから、ハンターの方も制圧できるだろう」
そして、メルフェリア団長の本隊も、イランへ最大戦速で、ハワイのディルフィルドゲート経由でイランに飛んでくれているそうだ。なんでもうってつけの秘密兵器があるとかなんとか言っていたそうだが……
「え? ハイラ王国の秘密兵器……ですか?」と久留米
「おう、なんかよくわからんが、メルフェリア団長が『トモダチを連れて行くから大丈夫』とかなんとか、フェルフェリア副総理にいっていたそうだが……フェルフェリア先生も、ナンノコッチャとか言ってたそうだけど」と加藤。
「はあ……」と幕僚スタッフ全員「さいですか、」みたいな感じ。
* *
それから三日後。
イランでは想像以上の犠牲が出ていた。
モンスター・フラワー『トライポッド』は、自己の巨体を維持するために、体ともいえる茎の部分から生えた触手状の枝やツルを伸ばして、片っ端から逃げ惑う人々にそれをぶっ刺し、体液を搾り取って食いつくしている。それは地獄絵図だ。
言い方を変えれば、それぐらいのエネルギーが必要であるということだ。それは食人植物と言い換えても良いもので、この『トライポッド』の魔手から逃れるには、とにかく厚い壁に囲まれた部屋の中で息を潜めるしかない。
中東連合軍が攻撃をおこなってはいるものの、このあたりの兵器は、とにかく古い。T-74系列の戦車にスホーイ第四世代機があれば良い方で、イランでは、かつての親米パーレビ政権時代に導入していたF-14戦闘機が、ホメイニ革命後、米国に黙って勝手に部品を作って未だに現役だ。
そんな状態であるからして、戦車や戦闘機で戦っても、そんな兵器に搭乗している兵士が捕食の対象であるから、近接戦闘もとれやしない。
この手の国が用意している中距離弾道弾や、自衛隊が取ったような、野砲主体の戦術、長距離ミサイルでの攻撃など、こういった攻撃がなんとか有効なのだが、それでも市街地をまたいで、のそのそと徘徊するので、うかつに攻撃すると、避難している市民にも攻撃の余波が襲う。
ただ確実に言えるのは、トライポッドは狩りの獲物がある方向へどんどん進んでおり、通常のヂラール・フラワーのテリトリーを持っておらず、ハンターヂラールと共に移動をしている。特にこのエリアのハンターヂラールは、トライポッド同様に捕食行為を頻繁に行うので、注意が必要だ。
この戦域のハンターヂラールは、獲物を捕まえると、トライポッドの幹に引き込み、処理をするという習性が見られている。なので兵士は必ず三人一組で、互いをカバーしながら戦えと厳命を受けていた。
だが、現行旗色が悪い。しかもトライポッドは、頂部の花弁群から障害物排除用のエネルギー光弾をバカスカと放ってくるのでたまったものではない。
イランの精鋭軍事組織、革命防衛隊や、イラン国軍も、かなりの被害を出し、状況は撤退ばかりである。ここまでの脅威が目の前に頑然とあれば、アッラーアクバルも虚しく響く。
「トライポッドはイラク方面に移動方向を変えました!」
「ニホンの援軍はまだか!」
なんとか今ある武器で攻撃を加えるが、いかんせんヂラールはシールドを張る。なもんで、攻撃が効かないのだが、なんとか海上自衛隊の艦隊が、ペルシャ湾にディルフィルドアウトできたようで、顕現後、即座に『防御壁減衰弾頭』を搭載した巡航ミサイルを発射し、イラン軍の援護に入る。
イラン軍の将兵達は、
「司令! 今、ニホン海軍から連絡! 『特殊な弾頭をそなえた巡航ミサイルをトライポッド周辺で炸裂させる。炸裂確認後、直ちに総攻撃を行え』」
この際、疑問に思っても仕方ない事で、この連絡を実行するために海自艦艇が放った巡航ミサイルの到達を待つ……
数分後、低空を飛ぶ『二二式知能巡航ミサイル』が到達し、ミサイルに搭載されたAIの精密誘導で、弾頭がトライポッドの真上で炸裂し、防壁減衰粒子を散布する。
そのタイミングを見ていたイラン軍は、一斉に戦車砲から野砲、中距離通常弾道弾と攻撃を加える。すると、今までの歯がゆいぐらいの耐久度が嘘のように攻撃が通じ、トライポッドに爆炎が炸裂。効果を見せた。
その状況に歓喜するイラン軍。アッラーアクバルだと、歓声を上げるが……このトライポッドはそうは簡単にはいかなかった。
自身の防御機能が低下すると見るやいなや、幹から無數の食人ツタに枝を出し、移動するために足のように機能していた根部も他のモンスターフラワー同様に、地下茎を張り巡らせ、ヂラールフラワーのテリトリーを築こうとしていたのだ。
偵察ドローンでその様子を見ていた海自の艦隊司令も、『これはマズイ』と直ちに通信を……あのメルフェリアに入れる!
「メルフェリア団長殿下。やはり団長の予想した通り、一筋縄ではいかなかったようですな」
するとVMCモニターにメルの乗るクヴァールのコクピット画像が映り、
『でしょ? 司令官さん、あとはこっちでナントカやってみるから、とにかくこれ以上ヂラールのテリトリーが広がらないように、抑え込んでてよ!』
「了解しました。我々も旭竜と、サラマンダーを展開し、団長の部隊を援護します。突入攻撃はお任せしますよ」
『りょーかい!』
メルフェリア達も最大戦速でブラジルからハワイのゲートへ飛び、そこからの転送モードで海上自衛隊が顕現した地点近くにクヴァール隊を率いて姿を表した。
さらに途中で合流した『お友だち』を乗せた、ハイラ駐留のイゼイラ軍大型輸送デロニカも引き連れて登場である。
ちなみにここまで彼女達が地球内を縦横無尽に飛び回れるのも、衛星軌道上に点在する衛星化されたヴァルメのおかげで、ほとんど自動ナビゲーションである。
海上自衛隊艦隊の真上を急ぎ超音速でぶっ飛ぶクヴァール。
デロニカ輸送機も同じくだが、空間シフト航法で飛ぶこの手の機体にはソニックブラストは発生しない。
『見えた! ザビー、あれだ!』
『確認しました団長!、各機、チキュウ族、及び使徒族飛行兵器と連携して、あの「とらいぽっど」なる化け物を攻撃せよ!』
さあいくぞとメルも気合入れたはいいが、早々、死角からヂラールフラワーの対空射撃を受けて、モロに食らってしまった!
『うわっ! しまったっ!』
警報を鳴らすメルのクヴァール。斥力推進モジュールも兼ねた、翼手目の翼を模したような可変翼の片方がぶっ飛んで制御不能。近くの砂漠に墜落してしまった。
なんとか着地姿勢は確保したのだが、その際の体勢が悪かったのか、脚部も片足がもげてしまい、これは回収修復しなければもう使えない、といった感じ。
メルはここまでか、となるのだが、そこはメルフェリア。こんなものでめげはしないわけで、次に控える共闘が、『ハイラに駐留するイゼイラ人以外』の、イゼイラ人や、サムゼイラ人の感性をふっとばす。もちろんソレを見たフェル姉さんの感想も聞きたい状況が展開される。
メルは機体から脱出すると、即、例のメル式黒漆型自動甲冑を造成して着用する。
こんな灼熱の砂漠に放り出されたらひとたまりもないのは惑星サルカスでも同じような環境があるので承知済みだ。
『団長! ご無事ですか!』
『大丈夫だよザビー! それよりも私のクヴァールはもうダメだ! “ザッカー”と“メッシャー”と“レッサー”はもう降ろせるんだろ?』
『はい、「でろにか」で到着しています』
『あいつらも長旅で鬱憤溜まってるとおもうから早くおろしてやってよ。あいつらがあばれたらヂラールなんてイチコロだ!』
『では団長は?』
『このままザッカーの頭にでも乗って、一緒に戦うよ!』
メルフェリアは何を言ってるのだろうか。するとメルの墜落地点の近くに、デロニカが着陸した。
後部のハッチを開け始めると、なんと中から不気味な唸り声がする……
そして、全開放したデロニカの中から出てきたのは!
『ガァアアアアアア!』『キシャァアアアア!』『グルルルルルル』
ななんと、かのイゼイラ人が怨敵とする、かの全長二〇~三〇メートルにも達する、猛獣ツァーレではないか!
太古の時代、イゼイラ人を食い散らかし、彼らを恐怖のどん底に貶めたイゼイラ人の怨敵ともいえる猛獣であるのは承知の通り……
だが、なにか少し……あいや、大分様子が違う。
メルがローダーの飛行モードで、なんとそのツァーレに近づく。しかも恐れもせずに堂々と、むしろ親しげに。
メルはなにかの通信機能をonにすると、
『ザッカー、メッシャー、レッサー、長旅お疲れさん! お前達の戦う敵はあいつだ!』
とメルはその怪獣ともいうべきツァーレに、敵はアレだと指を指すと、その三体はメルの指差す方向を確認して、
『グァアアアアアア!』と一発咆哮すると、敵を見つけたりとなって、猛然とヂラールの群れに突っ込んでいく。
メルはその三体の内の一体、恐らく三体の中のリーダー格である“ザッカー”と呼ぶ個体の頭の上に乗り、ブラスターライフルを構えて戦闘態勢に入る……そのザッカーと呼ばれるツァーレだが、ツァーレの頭にある『二本の立派な角の一本が、折れた』、というより、『ぶった切られた』ように一本途中から無くなっており、更に体中に刀傷の跡があったり……
だが、これがまたメルと、ザッカー、メッシャー、レッサー三体のツァーレとの共闘連携は見事なものであり、更にメルの部隊のクヴァールとも素晴らしい連携でヂラールを駆逐していく。
それを見るイラン軍の将兵は口をポカンとあけ、まるで日本の怪獣映画のような援護戦闘に銃を撃つのも忘れてしまっているぐらいだ。
ザッカーは、このツァーレ用に製作されたローダー状の鎧をまとい、肩にブラスター砲や、速射ビーム砲などをそなえて、頭部に何かヘッドホン状の部品をくっつけている。
他の二体、メッシャーやレッサーも同じような装備を装着されていた。
そんな装備をまとったツァーレは、空を飛べないが、かの旭龍にも匹敵するパワーで、いや、パワーだけならソレ以上かもしれない体力で、襲いかかってくるハンターヂラールを食いちぎり、噛み砕き、放り投げ、メルの指示でブラスター砲の発射体勢をとってヂラールフラワーを焼き払い、野生の戦闘本能のままにまさしくダークヒーロー並みの活躍を見せる。
だが、メルや団員の言うことには素直に従順すぎるほど従うようで、足元で戦うイラン兵を食いにかかるという素振りも見せない。
なんとそれどころか、撤退するイラン兵の壁になってかばったり、輸送車を咥えて他の場所へ移動させたりといった行為も見せる。
もうこれは、イゼイラ人からすれば信じられないツァーレの行動で、それを指揮して操るメルフェリア団長殿下は、まさに怪獣王子ならぬ怪獣王女であった。
このメルの連れてきた『友だち』三体の活躍で一気に形勢逆転を見せるイラン戦線。あとはモンスターヂラール『トライポッド』を食いちぎるだけだ。
そしてなぜにこんなツァーレと彼女は意思疎通できるのか?
そして宇宙に展開する月丘達と、まだ姿を見せないマスターヂラールは?
さらに、メルの常識外れな活躍を見る、フェルフェリア姉さんはチビらないのか!?
第一次地球圏ヂラール会戦、まだまだ続きそうである。




