【最終章】第七九話 『平定していく世界』
惑星ゼスタール……ネイティブ・ゼスタール人が今まで守ってきた『ゼスタール共和国』という主権と、この星の種を維持するために脱出して、その姿を変容させて帰還したシビア達のようなスール・ゼスタール達の主権である『ゼスタール合議体』が、今ではお互い全く変わってしまった種族性を互いに融合するため、連邦制国家として合体した『ゼスタール共和合議連邦』は、八〇〇年もの間、時間が止まっていたゼスタール人達の新たな歴史を歩みだす新生国家となっていた。
現在この星では、ゼスタール戦争時の爪痕である有害な植物型ヂラールや、生き残りの中型・小型のハンターヂラールも、今では完全に駆逐されてティ連の協力と、マルセア・ハイドルのハイクァーン機能の力もあって、この星の文明は戦争後の極短期間に見違えるような復興を遂げていた。
元々この星の避難生活圏であった地下中央都市であるゼスタールダンクコロニーや、分散した他の中小地下コロニーにおいてゼスタールの文明はなんとか息を繋げていたのもあるが、やはり戦後にティ連から導入した『浮遊人工大陸』の影響が大きく、この構造物のおかげで地下に居住していた人々が、一気に地上へ居住地を広げることになり、元々生活環境が完全に整っていた人工大陸パーツは彼らの生活水準を短期間で八〇〇年前に栄えていた彼らの生活水準に近いもの、いや、それ以上のものにしていた。
そういうわけで、現在のゼスタール連邦の国家元首、マルセア・ハイドル議長の本体であるトーラルシステムは、一番大きな中央人工大陸に移築された。
大陸中央にある議長公邸の直下、中央情報処理区にこれまたティ連が協力して極秘転送移築したわけであるが、この区画はまだマルセアが自らをレミ・セルメニア……といってもゼスタール人にはなんのこっちゃわからないので、というか彼女がトーラルシステム由来の人格という存在であること自体をまだ公表していないため、この場所は時が来るまで厳重な立入禁止区画となっており、現在は政府スタッフに擬態したワークドロイドか、メラニー・ホルプのような、マルセアの背景を知っているスール・ゼスタール人関係者ぐらいしかこの区画を出入りしている人物はいないのである。
そんな場所に、ひときわ立派な霊廟がある。それはこの惑星ゼスタールにヂラールが襲来した八〇〇年前以降の時代に降り立ち、惑星脱出計画に漏れてこの星に取り残された人々を救った救世の異星人、六本腕の美麗な女性科学者、ペルロード人のミニャール・メリテ・ミーヴィの遺体が、完璧な保存処理をされて、まるで呼びかければ起き上がってきそうな状態で安置されているのである。
かつて彼女を保護し、その正体を生き残ったゼスタール人達に公表せぬまま墓へ持っていってしまった当時のゼスタール人指導者達によって、この霊廟は建築された。
それは以前の地下コロニー都市にあったものを、そのまま人工大陸に移築している。
その霊廟に訪れる人物が一人。マルセア・ハイドル議長である。
彼女はレミ・セルメニア……つまり、脳ニューロンデータが、トーラルシステムの時空間因果率を演算する量子論的計算能力によって並行同位体と融合した同一人物である。だが、今の自分の存在は、この霊廟に在る、【現在の彼女の主観からみれば】、並行同位体のミニャールの脳ニューロンデータが起点であって、そんな経緯で復活した自分が、この世界の過去の自分を見るわけであるから、その想いは複雑であった。
彼女は、ミニャールとしての人格が発現し、復活したあの時からもう何度もこの霊廟に足を運んで、自分のかつての姿と心の対話をしていた。
そして次の日、マルセアは緊急の会見を開き、ゼスタール連邦の連邦議長と、自治共和国議長の座を退くことを発表する。
そして、この八〇〇年の間のマルセアの正体を公開する事にした。更には自らがレミ・セルメニアという特殊な生命体であり、また『存在』であることも。
この公開にはゼスタール合議体の代表で、連邦副議長の『アルド・レムラー』が付添人として説明することになっている。まあ確かに彼のような、ある意味今のマルセアの存在に近い人物が説明の補佐をしてくれれば、混乱も抑えられるだろう。ここはスール・ゼスタール人が帰還してくれた故の強みである。
マルセアが思う今後のスケジュールとしては、この後に総選挙を行って、レムラーにも起ってもらい、まあできればレムラーが連邦議長になって、自治共和国側のマルセアの後釜議長が、連邦副議長になって……なんていうことを妄想するわけだが、まあそれはそれとして、辞めた後の彼女はどうするのかというと…………
* *
連合日本国、首相官邸の総理大臣執務室で、五〇インチほどのVMCモニターを起ち上げ、会談をするは柏木真人内閣総理大臣。お相手は先日、議長の座を退く発表をしたばかりのマルセア・ハイドル議長である。
別宇宙の異星人と、首相官邸でリアルタイムな映像会談。まあゼルシミュレータでの会談もできるこの世界の日本である。こういう光景も、今ではもう珍しくなくなった。
「……よろしかったのですか? マルセア閣下」
『ウフフ、もう何日もすれば閣下ではなくなりますよ、柏木総理大臣閣下』
「はあ……ですがナヨさんから聞いた話ですけど、マルセア議長は、もしお辞めになった時、その後はゼスタールの社会インフラを維持するために、トーラルシステムの管理に集中する人生を送るつもりだとか、そんな話をお聞きしましたけど、貴方ほどの御方がそういう隠遁生活じみた立場でいらっしゃるのも、もったいないような気がしまして」
『フフ、今ではもう私はレミ・セルメニアになってしまいましたので、私の人格部と、トーラルのシステムは分離独立して演算させることもできます。それにレムラー閣下から、ナヨ様が使ってらっしゃる【カウサ】でしたか? あのコアも一つ頂いていますので、ナヨ様のような「遊び人」みたいな事もできますし。それに……実はそちらのソウチョウタイの責任者でいらっしゃるシラキ様から一つ御提案を受けていまして』
「え? 白木から? あそうですか……ふむ……もしかして、総諜対の構成員として、今回の作戦に協力してくれとか言われてるんですか?」
『正解です、閣下』
「え!? ホントですか!? あいつは、あー、もう……八〇〇年も一国を守ってきた守護神みたいな国家代表を……ハァ、いやマルセア議長、アレに付き合うことなんてないんですよ? お断りになっても……」
『いえ、お誘いを頂いた時、とても嬉しゅうございましたですわ。シラキ様のご提案があったから、私の今までの経緯も国民に公開して、ゼスタール人の方々に国の全てをお任せしようと思いました。それにカイア猊下や、他移民船の生き残りの方がいらっしゃるとかで、同胞たちと仕事ができるのであれば、それは私にとってもとても有意義なことです。シラキ様には感謝しております』
まあそこまで言われると、柏木としても恐縮してしまうわけだが、しかしこんな大物が総諜対に、『就業』されるとなると、中途半端な待遇ではお迎えができない。ってか、ちょっと一言いっとこうとも思うわけで、白木に電話をかける総理大臣閣下。電話とは今となっては政府関係者としてえらい古風だが、そこは話をするだけなら、こんな気軽で便利なツールは今持って他にない。
「おい白木! おま、マルセア議長を総諜対にスカウトなんて、きいてねーぞ!」
『あ? お前、自分から「マルセア議長が~」とか言って、マルセア議長から聞いたんだろ? んじゃそういうことだよ。はいおわり、じゃあな』
「おいおいおい、一言ぐらいテメーから俺に事前報告ぐらいしとけってんだよ。おま、一応上司だぞ俺」
『んなもん事前に報告なんてしたら、お前のうろたえる姿が見れなくなって面白くもなんともねーじゃねーか。総理大臣なんだから、そんくらいの事デンとかまえとけってんだよ。後はコッチでうまいぐあいにやっとくから。な。俺達官僚が、勝手に作文作って、うまい具合にやって、なにかあったらお前らが怒られる。これが日本の政治ってもんだろうよ、柏木先生』
「冗談でも、昨日今日総理大臣になった俺の前でそんな事いうなよ! まためんどくさい事ふえるだろうよ……ったく……まあいいや。で、一応元ゼスタールの議長さんだからな。そっちに就いたら相応の役職、考えてるんだろうな」
『モチロン。実は総諜対の副班長って、ずっと欠員なんだよ。知ってた?』
「ああ、言われてみればそうだな。外務局の山本さんの副官は内閣府から異動してきた人って聞いたことあるけど、お前の副官の副局長って、これも欠員だったよな」
そう、特に理由があるわけではないのだが、白木の副官というのは、実はいないのである。というのも誰も口に出しては言わないのだが、白木が周知の通り、メチャクソ頭がいい変わり者なので、副官になって付いていける人材がいないというのがもっぱらの噂である。だが、こういう話が出るという事は……
「んじゃ、副局長と副班長兼任してもらうつもりか、マルセア議長、あいや、マルセアさんに」
『そういう事だ。新見次官と、二藤部大臣には許可もらってるから既定事項な。文句言うなよ』
「わかったわかった。でも公務員試験とかは? 」
『お前なぁ、トーラルシステム由来のレミ・セルメニア様に公務員試験なんてしてどうするんだよ。不合格になんてなるわけないだろ』
「ああ、そういう解釈ね。んじゃまた俺が特別総理大臣令出しとくのん?」
『お願いします。はよやれ』
「はい。んじゃ後はそっちでやってくれ」
電話を切る柏木……なんとも手回しが強引というかなんというか。でも柏木は柏木で、いつも無理を聞きまくってもらってる白木や大見であるからして、まあそう考えれば毎度のことかとも思う……のだが、総理大臣としてどーよ、とかも思うわけである。
総理の椅子にデレっと腰掛けて天井を仰ぎ見る総理閣下。結局一〇年前のノリで政治やってるんかと、思わず吹き出してしまう。
(でもまぁ確かにマルセアさんが総諜対付で協力してくれたら、スゴイ戦力になるわな。そこは間違いない)
だが、白木がスカウトをかけている人員はコレで終わらない。あとはフェルにコンタクトを依頼した人物である。
白木は総諜対を本格的な星間国際情報部にしたいような、そんな動きを見せる。
まあそこはこの日本の影の政策決定機関である『安全保障調査委員会』直轄なのが、総諜対であるからして……
* *
さて、そんなこんなでこれまた二、三日過ぎた頃である。
「えっと……もらったマップではこのあたりだったと思ったんだけどなぁ……」
そやつの持つVMCタブレットには、東京都永田町近郊のマップが映る。
その人物の姿。容姿は種族的に典型的な日本人男性である。黒髪に瞳の色は黒。
で、着ているものはデニムジャケットにジーンズ。年齢は見た目二〇歳代だろうと思われるわけで、まー、普通っちゃぁ普通である。
でもあまりに普通すぎるので、こんな永田町のような政治の中枢に近い界隈で、あまり流行りの服ともいえないデニム・ジーンズジャケットにḠパン姿の若者が、こんな平日の日中にうろついていれば怪しまれもするわけで、
「あなた、ちょっと……」
警官二人に職質を受けてしまう。だがその若者は職質の意味があまりよくわかっていないのか、
「あ、このほs……じゃなかった、この国の治安機関の方ですか?」
「治安機関? ああ、まあ警察だが、君、外国人? 容姿は日本人にしか見えないけど」
「あいえ、まあ……というか、あの、お尋ねしたいんですが、このあたりに『情報省』という政府機関の建物があると聞いてきたんですけど、どこかわかります?」
「ん? ああ、情報省の建物はそこだが……」
と警官が指差すと、その建物と若者の持っているフォト資料と全然雰囲気が違う建物なので、
「あれ? もらったフォトの建物はこんなのだったんですけど」
と、VMCボードに映る建物の資料を警官に見せると、
「んん? ああこれは本省の方だな。あそこにあるのは支所の建物だ。本省の方はヤルバーン区にあるからな。でもこんな場所へ君みたいな若い人が一体何の用で……って、あれ?」
VMCボードから目を離し、若者の方へ顔を向けると、その若者の姿は既になし。
「え? あいつどこいった?」と警官二人が周囲を見回すが、その間に手に持っていたVMCボードも霧散して消える。
狐につままれたような顔をする警官であった……
* *
「ああどうもフェルさん、あいや今は仕事中でしたねフェルフェリア副総理」
白木が総諜対執務室から小さなVMCモニター起ち上げて話すは、フェルであった。
『ドモです、ケラー・シラキ』
「あの~、先日ご相談してた件の人物がいらっしゃるのって、今日でしたよね?」
『ハイですね。とはいえ、地球時間との感覚がその方と一致しているかわかりませんので、もしかすると遅れるかもしれないというのは、想定内にしておいてクダサイね』
「わかりました。って、適当な場所についたらこっちから迎えに行くって伝えていただけましたよね?」
『エエ、そこのところもキチンと伝えたデスよ。モシカしたら都内を観光でもしながらってトコロじゃないですか? よくわかんないですけど、ウフフ』
「ハハ、わかりました、のんびりお待ちしますよ。あ、いや、お忙しいところすみませんでしたな」
白木はフェルに連絡いれて、誰かを待っているようである。
白木が相談して、フェルが紹介する人物というぐらいであるから、さぞかし大物であるのは間違いないのだろう。なんせフェルのダチといえば、ちょいと声をかけただけでティ連内の学者に政治家、高級軍人がポンと集まる始末であるからして。
するとしばし後、一階の受付おねーさんから白木の元へインターフォンにて連絡が入る。
『白木局長、ご面会の方がいらっしゃっております』
「ああ、えっと……もしかして『悠永光志』さん……かな?」
『はい。お名刺にはそう書かれております』
「ああ、待ってたんだよ。総諜対までご案内してくれる?」
『畏まりました』
すると間もなく受付のおねーさんが、その悠永光志さんを連れてやってきた。
白木の執務室に通されるその男。なんと、さっきのジーンズジャケットにジーパン姿の青年ではないか。
ちょっと意外な出で立ちに怪訝そうな顔をする白木。で、おねーさんは退出して、白木と二人になる。
「あ、えっと……あそうだ。確かこれをこうやって渡せと……」
悠永さんは、ポケットから名刺を両手で差し出して、「えっと、悠永光志と申します。以後お見知りおきを。確かシラキさん、でしたっけ?」
すると白木も、
「え? あ、ああこれはご丁寧に」と彼も名刺を渡す。そして……「で、悠永さん、このお名前はまあ、アレですな?」
「アハハ、ええそうです。えっとイゼイラ人のフェルフェリアさんと、この星のカシワギさんという方に付けていただきました。この国で、この容姿で行動するのであれば、こういう名前を持っていた方がいいって。で、どういう意味ですかね、その名前って」
「え? ああ、そうですな。ものすごく遠いところの光の心を持った人、とか、そんな意味ですな」
「え? そうなんですか。はは、いい名前じゃないですか。嬉しいなぁ」
白木はなんか物凄くフランクなその人物対し、ニヤと笑って興味をもったようだ。
でまぁ、どうぞどうぞとソファーへ席を移す。
総諜対で事務やってるマニペニーな美加が、お茶を入れて持ってきてくれた。
「この星のお茶は大丈夫ですかな?」
「あ、はい。味覚神経もこの星の知的生命体に合わせていますので」
「あそういう事ができるんだ」
ほー、と感心する白木。で本題へ行くわけだが、
「で、悠永さん、失礼ですが本名の方をお聞かせいただければ」
「あ、はい。タウラセンの『ジーヴェル』と申します。お初にお目にかかりますシラキ局長。僕の上官の『ヴェルター』からの命をうけて、このチキュウという星のニホン国情報省に協力しろって派遣されてきました。以後宜しくお願いいたします」
姿勢を正してペコリと頭を下げる悠永光志ことジーヴェル。
「なるほど。わかりました……って、お宅らの名前って、姓・名の区別ってないわけ?」
「? 姓? 名? ……ああ! そういう事ですか。そういう文化はないですね」
ジーヴェルが説明するに、タウラセンのある星系は、一〇個もの星からなる星系で、その中の五個の星に、彼らと同じような異星人種族が活動しているのだが、彼らは姓を名乗る習慣がないらしく、あえて他の星での都合上、姓を名乗らなければならない場合は、自分の出生惑星、つまり彼の場合だと『タウラセン・ジーヴェル』や、かのヴェルターの場合、『タウラセン・ヴェルター』と名乗ることがあるそうである。
その話を聞いた白木は、
「あーなるほどね。そういう理由なら悠永光志の名前を持ってたほうがいいですな。んじゃそのお姿のときは悠永さんということで」
「はい、よろしくお願い致します」
ちなみに、タウラセン人は、名前に『ヴ』の発音がつく名前が多いそうである。これも東欧系の名前の語尾に『フ』や、『コ』のような言葉がつく名前が多いのと同じだろう。ちなみにロシア系の女性は、女性名詞として必ず語尾に『a』の母音が付く。『ターシャ』『サーシャ』『ス◯ーシャ』などなど。まあこれらはロシア版の渾名なのだが、そういうことでイ◯◯ンダル人はロシア系なのである。
他、田辺守の嫁であるターシャの本名も『タチアナ』で、母音がaである。そういう法則。『アマソバ』『テレシコワ』『エカテリーナ』と、そんなところ。
まあとにかく初々しい好青年だ……見た目は。
でも彼の性根もこういう感じなのだろうと思う白木。彼のサヴァン能力は宇宙レベルなので、そういった人の性格も彼の脳内人物人格記憶データから分析して見抜いてしまう。そんな頭の構造が、白木をここまでの役職で活躍させているところでもある。
「うーむ、だけど今の見た目は本当に日本人の、そこいらにいるお兄さんってところですが、本来の姿は、あの四〇メートルはあろうかという、あの種族さんなのでしょ?」
「はい。僕達は、いろんな種族の生体に合わせた姿に擬態することができます。まあ潜入任務の時なんかによく使うのですけど……」
なんでもその時は、生理機能レベルでの生体変化を伴って擬態、というより変身することができるそうで、その姿で恒久的に居住する星で生活することもできるのだそうだ。婚姻も可能らしい。
ちなみに初めて彼らとティ連が邂逅した時、なぜに平均的なティ連人レベルの等身大姿にならなかったのか、というと、タウラセン人と対峙したティ連の軍事力が凄まじく強力だと判断したからだそうだ。つまり臨戦態勢を取っていたのだという話。
「……なるほど、ではその姿でいるときは、基本、我々人類と同じ接し方で問題ないということですな?」
「あ、はい。そう考えてもらって差し支えないです」
この話を聞くだけでも、なかなかすごい種族だと思う。
平均身長一七〇~一八〇センチぐらいの日本人姿から、全長四〇メートルの金ピカ姿までをサポートする異星人で、科学力でほぼすべての事を自己完結できる超能力的な存在になるとは、そりゃ確かにとんでもない種族だと思う。
スールのシビアにネメアや、レミ・セルメニアのナヨ先生にマルセアさんも大概だと思うが、それに匹敵する種族さんではないかと。
そんなところで面談みたいな四方山話で時間を潰していると、白木が待ってたもう一組のお方々が帰ってきた。
「ただいま、班長」『ただいまですっ、ケラー』『帰着完了』
月丘とプリルとカイアであった。
「おう、おかえり。カイアさんもお疲れ様でしたな。」
『特に問題はない。ジェルダムとアルカーネを無事に訓練施設へ配置出来たことは僥倖である』
「あそうですか。んじゃ特危の訓練施設で、ちょいと色々こっちのスキルを身に着けてもらって、ウチへ来てもらうという段取りでよろしくおねがいしますわ」
『了解した』
「その時は月丘とプリ子も色々面倒みてやれよ」
「もちろんです」『ですですっ!』
そんな帰着の軽い報告も済ませると、月丘達の視線は、悠永ことジーヴェルに注がれる。
そのデニム系の軽い姿、そこらへんにいそうな若者に、どなたですか? みたいな視線。
「こちらの方は? 班長」
あー、と白木が紹介するよりも早く、悠永はスッと起立して、月丘達に向き直り、
「あ、はじめまして。僕は悠永光志といいます。って、この名前はこの姿でいる時だけですけど……」
怪訝そうな顔をする月丘にプリ子。どうもカイアはもう彼の正体がどういうものかわかったようだ。澄まし顔で悠永を見ている。
「僕は、タウラセン人をやってます。タウラセンの名前はジーヴェルといいます。よろしくお願い致します」
その言葉に月丘は「えええええ!?」と驚く。さらにプリルはもっと驚く……カイアは少し表情を、特に眉のあたりを動かすだけ。
「タウラセン人って、あのこの間柏木さんと話題にしてた、横須賀の事件の時の」
と白木に説明を求める月丘。
「ああそうだ。とはいえあの時のタウラセン人さんじゃなくて、その部下になるのが、このジーヴェルさんだ。今回の件で協力してもらえるようにフェルフェリア副総理が“個人的”に話をつけてくれてな。まあその目的は、例のティエルクマスカ銀河域に入り込んだヂラールの件を報告しに来てくれたってわけだが……」
「彼も、総諜対のメンバーとして、出向で、ということですか?」
「ああそうだ。お前たちの次の作戦をともに遂行してもらうためにな」
その白木の話に悠永が少々割って入り、
「そういうことです。よろしくお願いいたしますツキオカさん、プリルさん、カイアさん」
と握手を求める悠永。だが、カイアの手を取った瞬間、悠永の表情が鋭くなり、
「カイアさん……あなたは……」
白木は、「まあそうなるわな」と頭を掻いて「説明するわ」とみんなをソファーに座らせる。
彼はカイアの正体をペルロード人という別宇宙の存在で、件のゲルベラール移民船の件をかいつまんで説明した。そしてタウラセンの領域に出現し、彼らタウラセン人が初めて会敵することになった『ヂラール』という存在の事も。
更にそのヂラールの正体が、暴走したトーラルシステムによって変化させられたペルロード人であったことも……
それまでなんとなく明るい気さくな表情で接していた悠永がその話を聞き、カイアを凝視している。
「なるほど……そういうことですか」
と話す悠永。続けて、
「正直、そのヂラールとペルロード人という種族の話は、僕にはよくわかりませんが、そこはそういう危機の到来として認識し、ヴェルターにも報告しておきます。ただ、この人物が、あのトーラルシステムのアバターだとは……」
するとカイアは、
「ハルナガコウシに質問する。私の存在がお前にとって不都合、ないしは不快に該当する存在であるのなら、私はこの場から退席する用意がある」
そりゃ今の悠永の表情を見れば、誰しもそう思うだろう。その雰囲気に月丘もカイアを庇おうと話をしようとするが、
「あ、いやごめんなさい、そそ、そんなつもりじゃないんです。ハハ……」
その雰囲気を読んだのか、自分のちょっと失礼な態度を詫びる悠永。
「いや、僕の知っているトーラルシステムとはえらく違ってて、こんなアバター素体で普通に話ができるなんて、そんなイメージじゃなかったものですから」
するとプリルがその言を聞いて、
『え? ではケラー・ハルナガのタウラセン文明もトーラルシステム由来の文明なのですか?』
「え? いえいえ違います。ちょっとトーラル文明とはですね、僕達タウラセンと、まぁ……少しいろいろ歴史がありまして……そこは複雑なんですけど」
と、そう言うが、月丘や白木から見れば、なんとなく話を誤魔化しているようにもみえるわけである。そして悠永も、
(ヴェルターさん達が言っていた、かつてトーラルシステムを僕達の星へ譲渡しようとしていた『あの連中』との関係があるのかな、このティ連は……そして特にペルロードと呼ばれているこの存在は……)
* *
さて、一通り月丘達と、悠永@ジーヴェルとの身辺調査みたいな自己紹介会話も一段落したところで、悠永は、彼らタウラセンがティ連と組み、この地球までやってきた内容の詳細を話す。
場所は総諜対の執務室から情報省の会議室へ移動した。
無論、事は内務局の話では終わらないので、外務局の山本や、セマル、下村に長谷部、さらにはメイラ中佐に瀬戸の智子ちゃんも出席している。
「……では、あの何年か前の騒動のときにやってきたヴェルターさんは、今はティ連本部担当で、共同戦線を張っていると?」
「はいそうです。その他、ティ連を構成するイゼイラや、デルベラ・ダストールデルドにパーミラ、ディスカールといったティ連主要構成国にも、個別に僕のような出向協力者を派遣しています」
なるほどと納得する諸氏。
すると悠永は空中に両手で長方形を描くような仕草をして、ティ連で言うところのVMCモニターみたいなものを起ち上げた……機械的な機能も自己完結している生命体、タウラセンであるからできるような芸当である。
で、そのモニターに映るのは、
「この宇宙生命体が、あなた達が言うヂラールという生物ですよね、シラキさん」
「そうですな。しかも一番厄介なやつだ」
というと、月丘が、
「マスター・ヂラールの要塞級のヤツですね」
とつぶやくとカイアが、
『私はヤルバーン自治国のメイントーラルシステムから得た情報でしかわからないが、このクラスの『バフール・ヨツイセルメニアルト』は、この宇宙でもう何体も確認されているのか? ツキオカ』
「ええ、それはもう。私だけでも、別宇宙のも含めたらカイアさんとの一件で見た、あのバカデカイ奴含めて、五~六体ぐらいとやりあっていますよ」
するとカイアは人格がないのに、「ほう……」という表情をする。そして、悠永も、
「ご、五~六体ですか!? この大きさの物と?」
と、えらくビックリしたようで、そこにプリルが自分の将来の旦那さん故に自慢げに、
『一体は、カズキサンが直接葬ったんですよねっ』
「いやもうプリちゃんそんなこと言わなくてもいいから」
「え? 直接? あなたが? ど、どうやって」
悠永の正体は四〇メートルの巨人族だが、こんなチッコイ人類一人がどうやってアレを倒したのかと。
実際月丘は、プリルやシビアと共に、マスター・ヂラールを機能不全にした。あのグロウム戦争時の作戦の時だ。コマンドローダー着て、マスターヂラールの脳幹に、内部から必殺の一撃を加えたのはその通りである。
「そんな方法でですか……」
と感心する悠永。思わず手を叩いている。
「まあ私だけの力なんかじゃ全然ないですよ。みなさんとの共同作戦ですから、ああいうのは」
と謙遜ではないフォローを入れる月丘。悠永は続ける。
「でも……もし先程お話してもらったこの巨大生物の概要が、トーラルシステムのカイア型さんの仰る通りのものなら、もしかするとそのペルロード人を僕たちは……」
変異したペルロード人を殺害しているのではないか。もしそうなら元にもどす方法も考えないとと悠永は言うが、カイアもその手の話はもう慣れたもので、
「気にする必要はないハルナガ。そのヨツイ……いや、ヂラールの発生は、我々の宇宙空間の事象で換算しても、最後の接触から数千年以上経過している。今この宇宙に顕現している個体もそれだろう。従ってもう既にヂラールとして世代を重ねているため、元がペルロード人の云々とは無関係と考えて良い」
白木は恐らく、今カイアが話した同じことを、ティ連本部でサイヴァルがヴェルターに話していると思うと伝える。
そこはタウラセン人からすれば重要なところで、宇宙の観察者を称する彼らであるからして、そういった、所謂ペルロード人の『犠牲者』も、なんとか救わなければ、と考えるところがある。
カイアは流石にそこまでのことまで察することはできないが、付け加えて、
「あのヂラールは、我々の言葉で“ヨツイセルメニアルト”と呼ばれる通り、中には自ら率先して、聖なる奉仕者としてあの姿を選んだものもいる。従って対峙する場合、その姿になった者に対する尊厳への対応としても、遠慮は無用である」
その言葉に悠永も「なるほど、わかりました」と頷いて納得した。
で、次にメイラが質問する。
『ケラー・ツキオカ、シラキハンチョウ。あのー、グロウム戦争時にも、確か避難逃亡していたジェルダー・ネリナ達グロウムの脱出艦隊を追って、ヂラールの連中が、太陽系から四〇光年ぐらいの場所まで来てたのですよネ』
「ああ。グロウム帝国を襲った奴だな……四〇光年なんて、今のワープで移動できるようになった俺達の文明で見ても、もう近所のコンビニレベルの距離だぜ……今思えばあの時、よくぞ火星までヂラールを連れてこなかったってな……ゾッとするよ」
と白木が言うと、セマルも、
『確かに。私もあの時は情報をここで常にモニターしてましたが、ヒヤヒヤものでしたヨ』と話すと、智子も頷いて、
「そうそう。外交部もてんやわんやだったものね、あの時は」という。
この話を聞く悠永は、この人々……それはティ連本部も含めて、彼らタウラセン人が初めて邂逅した脅威の巨大宇宙生物……もうそれは“怪獣”と言っても良いレベルの存在に完璧な対応ができている『プロ』であると悟る。
情報省がそういう存在であると納得して把握した悠永は、次の映像をVMCモニターに映す。
「……で、次なんですが、コレを見てください。これは僕達の星系付近に存在した、生命の在った星の映像です」
そう、生命の『在った』星の映像だ。それを見た瞬間、全員が絶句する。
「これは……」と月丘の言葉の後に、『ゼスタール星や、惑星イルナットと同じですね……』とプリルが続く。
悠永が見せる映像は、その二つの惑星に共通していた死の環境、即ち、植物型ヂラールが不気味かつ、無造作に生えそびえ、ハンターや各種いろんな地上型ヂラールが闊歩する状況である。
画像の中には、あの巨大なヂラールフラワーが何本も群生している画もあった。
寒気を催す総諜対諸氏。
「悠永さん、これが当初話に聞いていた、貴方がたの母星まで進出してきたヂラールの群体を追った経路上の星星の末路ですか?」
「はい、そうです。まあですが、その主軸の群体をなんとか駆逐できましたので、これら星々の生き残っていた原生生物もなんとか保護している最中です。僕達の領土内にある、各生物の似たような環境を再現できる施設に移していますが」
するとメイラが悠永に質問。
『この星の中に知的生命のある星はなかったのですか?』
「はい、所謂ティ連の方々が認識している知的生命という存在はいませんでした」
その含みの在る言い方にちょっと訝しがるメイラだが、
「私達の認識する? それはどういう意味ですか?」
「ええ、あの……数年前にヴェルターさんがこの星まで追ってきた、『ビバル人』っていう、あなた方の生物カテゴリーで言う【半知性体】の宇宙生物を覚えてらっしゃいますか?」
この問いにハイと答えられるのは、この中で白木と山本だ。
山本はえらい懐かしいのがでてきたなという顔で、
「ああ悠永君、俺はその時の当事者だからな、知ってるよ。あの時の事件を追ってた」
そこでセマルも、
『確か、頭部が胴体にめり込んでいて、複眼状のよくわからない器官がピカピカ光って、変な音声を発する気持ち悪い半知性体でしたね』
というと、悠永は頷いて、VMCボードを撫でて次のページを滑らせると、
「これが、そのビバル人の母星です」
と、そのビバル某の母星が、リバイタ型に蹂躙されている映像。
牢獣型に仲間が捕縛された状態でも戦闘を仕掛け、仲間が飲み込まれているのに、その真っ最中に牢獣型を爆破したり、積極的に戦っているのもいれば、宇宙船で逃げているビバル人もいる映像だった。
「これは……」と流石の白木に山本、セマルもその地獄絵図に絶句するが、
「というか、なんでこんな映像が撮れたの?」
と問うは瀬戸のトモちゃん。
「僕達はこういう監視対象知的生命体の星に、偽装をかけた監視ドローンを多数展開しています。それの映像ですね……あ、なぜ助けなかったんだなんて言わないでくださいよ。仮に助けに行っても、助けようとする僕達へも全力で攻撃してくるような奴らですから」
皆頭抱えて頷きながら、「ああそうだった」と思う諸氏。この映像でも味方が捕縛された牢獣型を爆破しようとしているぐらいの連中であるからして、言わずもがなである。
映像を見る限り、あの数年前の巨大化フェルさんが戦った時と同じように、巨大化してリバイタ型と戦うビバル人もいるようだ。
悠永は話す。
「これら一連の映像から見ても分かる通り、その、ティ連がヂラールと呼称する宇宙生物は、僕達の母星付近まで到達した段階でもこの規模ですから、逃しはしたものの、残留エネルギーデータだけで確認できた本隊とおぼしき群体の規模は、亜惑星レベルにもなると思われます」
悠永の映すVMCモニターには、残留エネルギーから推測される規模のマスターヂラール的なCG映像のようなものが映し出されている。
その規模に騒然とする総諜対諸氏。悠永は続けて、
「……ということで、この分派群体でもこのレベルですから、もし僕達の母星にこの本隊規模のものがぶつかってくるとしたら、まあ殲滅出来ないことはないのでしょうが、それでもタウラセン始まって以来の苦戦になることは必至です」
「だから、ティ連に声をかけて、警告すると同時に手を組もうってことになったわけだ」
「はい、そういう事です白木さん。それとこれも警告や警鐘なのですが……この本隊ヂラールの転移エネルギーの総量と、一度の転移距離の規模を見ると、僕達の転移技術や、ティ連のゲートにも匹敵するものを持っているようです」
この言葉にカイアが、
「この規模のヂラールの転移規模が、ハルナガの提示した資料通りのものと仮定するなら、端的に言えば、どの宇宙、どの銀河に、今すぐ姿を現しても不思議ではないという意味と判断できる」
と端的に指摘すると、悠永は「その通りだ」と答えた。
まさしく情報省らしい状況で、仕事である。
こういった不確定要因の強く、またソースとしては確定要因のある情報の分析こそ、情報部の仕事だ。
メイラが言うに、彼女の出向元であるティ連情報部でも既に分析が始まっているそうだ。だがまず早急に行わなければならないのは、ティ連の勢力範囲や、タウラセンの勢力範囲にある各国家、自治体、植民政府に監視を怠らないようにと通達をする事である。
月丘は、このヂラールが最も太陽系に接近したあのネリナ達が救出された時からゼスタール星の一件に、グロウム帝国の一件など、何か一連の共通点があるように思えてならないのだが、何かがわからない。まああまり深くは考えないようにしてはいるのだが、たまに夢でもその一件になにかがあるような思わせぶりの夢を見てしまうこともあるので、今は気にしないようにしてはいるが、それでも頭の片隅には置いている状態にしてある。
何かがある。何か一定のパターン、もしくは共通点が……
* *
さて、そんな総諜対の出来事に同時進行時間上のある時。
シンガポールのセントラルビジネス地区のとある場所。
背の高い特徴的なビルディングが本社の、有名な企業の名称は、『シャオバンクグループ』通称『SBG』と呼ばれる金融及び商社の企業体だ。
ここの最高経営責任者の『デイビッド・シャオ』はイケメンな中年で有名なのだが、実のところそやつは影武者で、本当のデイビッド・シャオ本人は、中肉中背の典型的な華僑のオッサンみたいな風体であった。が、このオッサンが、所謂、秘密利益追求団体『インベスター』の派閥一派の親玉なんてのは世間の誰も知るよしはない。
かの北朝鮮工作員の李万博を操って、インベスターのリーダー的立場だったエドウィン・スタインベックを襲わせたのもついこの間の話。
そしてこの組織を通せば、かの情報省といえど、その機密情報は完璧に保全されるわけでもなく、どういう手段を使っているのかわからないが、なぜか漏れてたりするので毎度月丘達を困らせてたりするのではあるが……
今、早足でボディガードに守られながら、その社屋ビルから高級リムジンに乗り換えるは、その所謂『本物』のデイビッド・シャオであった。
表情を見るに、あまり良い顔をしていない。
慌てていたのか、何か資料の書類を手放してしまい、何枚かがそのあたりを舞う。
慌てて秘書がそれを拾いに行き、シャオに手渡すが、明らかにシャオはいらついているようだった。
その書類に書かれているのは報告書のようで、一文が見えるにそれを読むと……
【パイドパイパー社が日本政府の秘密組織に参画した件の対応と…………】
と、そんな文章が書かれている。
シャオはリムジンに乗る。何か電話がかかってきたのか、スマホを取って、喋っている。感情的な顔で怒鳴りつけているようである。
しばし電話をしたあと、運転手に出発するよう指示をした。
瞬間……
そのリムジンは、大爆発を起こしてた……
周囲に轟く悲鳴。しばしの間をおいて響き渡る緊急車両のサイレンの音。
爆発したリムジンを俯瞰して、澄み切った空のシンガポールビジネス街の景色がそこにあった……
* *
その一報は……まあそりゃすぐに月丘の耳に入る。
事務所で溜まってた事務書類片付けてた月丘さん。悠永君が総諜対の一員になって、これから根性入れて領収証の精算なんぞを事務ソフトに打ち込みながら、たまに横目でタブレットのNHK海外ニュースを見ながら息抜きでサボってたら、この一報が速報で入る。
瞬間、「あーもーーーー、」という顔になる。
そこで近所のコンビニに月丘がジャンケンで勝って、買い物をお願いしていたシビアさんが部屋に戻ってきた。
『ツキオカ生体。ギュードン弁当はこのサイズで良かったか?』
「えあ? あー、すびばせん、シビアさん……」
『ん? どうした。情けない顔をして。私がこんびにに行っている数分間になにかあったのか?』
無言でタブレットのニュース動画をシビアに見せる月丘。するとシビアの顔も、無言ながら眉間に少しシワを寄せる。
すると、このニュース動画の公開にタイミングを合わせたように月丘のスマホが呼び出し音を鳴らす……発信者はスタインベックだ。発信者情報の画面をシビアに見せると、彼女も何回か頷く。月丘はシビアにも聞こえるようにスピーカーモードにして電話を受ける。
「……はい、月丘です」
「あ、カズキ! ニュース見た? なんかスゴイ事になってるわね!」
またすっとぼけたこと言ってやがるぜと思いながら、
「そりゃスゴイことやらかした人から、今電話かかってきてるんですからねぇ……」
「え? なんの話?」
「なにすっとぼけてるですか。もう……せっかく安保調査委員会の非常任理事にパイド社が登録できたのに、こんなことやってたら……」
「ちょ! ちょっとまってまって! なんの事? まさか、もしかして、シャオを吹っ飛ばしたの私だと思ってるの? カズキ!」
「あなた以外誰がいるんですか」
「もしかして、あんな目に遭わされたから復讐したとか思ってるの?」
「違うんですか?」
「あーーーもう、違うわよっ! そこのあたりも含めて色々情報を入手したからPVMCG通信に切り替えてお話しようとおもってたのに……もういいわ。んじゃまた今度ね」
「あーーちょっと待った待った。え? 本当に貴方の派閥の仕業じゃないのですか?」
「だから違うって。もし本当に私がやったのなら、こんな電話かけないわよ。それに貴方も言ってたけど、安保調査委員会に登録されて、そういうところ厳しいの知ってるから、まあいつかはあのバーコードハゲをやってやろうかとも思ったこともあったけど、大人しくしててこのニュースよ」
そのスタインベックの言い回し。どうも本当に彼の仕業ではないようではある。確かにスタインベックは人を一人吹っ飛ばして、喜々として知り合いに電話をかけてくるような性格ではないのは月丘もよく知っている。
無言で二人の会話を聞くシビアと目を合わせ、首を傾げる月丘。シビアも同じ仕草だ。
「ふうむ……で、何か知っているとかそんな事仰ってましたが」
「ええ。って、通信モード変えるわよ、いい?」
「あ、了解です」
月丘はPVMCGの通信モードに切り替える。スタインベックも自社の開発部門が作った似たようなデバイスを持っていたが、今回安保調査委員会に登録されて、正式に安保調査委員会委員仕様のPVMCGを支給されたようで、彼も気に入っていた。
「このPVMCGの解析も挑戦したけど、なかなかうまい具合に……」
「だからダメですって。没収食らっちゃいますよ。って、先程の話ですけど……」
「ええそうね……私の、まああなた達の言うインベスターの諜報が得意な連中に調べさせたんだけど、シャオを吹っ飛ばしたのは中国の【中央軍事委員会連合参謀部情報局】の連中ね」
「!! 参謀情報局ですか!?」
「そそ。中国で一番ヤバイ連中よ」
中央軍事委員会連合参謀部情報局とは、かつて中国人民解放軍総参謀部第二部と呼ばれた、米国のDIAや、ロシアのGRUに相当する軍事情報専門の諜報部局である。これは後に中央軍事委員会連合参謀部情報局に組織改編され現在に至るが、中国では有名な中国国家安全部という諜報部門よりもヤバイ組織で、その名の示す通り『中央軍事委員会』という中国で最も権力を持つ組織の管轄である部署であるため、流石のスタインベックもビビるわけである。
「じゃあ、シャオ氏を消したのは、張元首席と王国家主席が……」
「いえいえ、それはないわ。共産党中央軍事委員会は、実質政治部よりも権限があるわ。確かに今のクーデターで再編された中華連邦でも、その辺の権力闘争はあるはずよ」
「では参謀情報局が独自に動いたと?」
「私の掴んだ情報ではそうね。で、私達スタインベック派って言われているインベスター組織にその罪をかぶせようともしているみたい。あなたの先程の反応が良い見本よ」
「なるほど……で、シャオ氏を消した理由は何なんですか?」
「んっとね……私はもうその時ぶっ倒れてたから知らなかったんだけど、あなた、なにかとんでもない兵器と、あのボツワナの例の場所でやり合ったんですって?」
スタインベックが言いたいのは、恐らく中国の新型機動戦車『TZ-335』の事だろう。月丘のコマンドローダーに対抗するために、北朝鮮の元工作員、李万博が持ち出したあの兵器だ。
「ええ。中国の新型機動戦車みたいでしたね。車体の構造や、迷彩パターンからそうとわかりました」
「それね……実は……」
スタインベックが言うには、デイビッド・シャオは、極秘に開発されていたそのTZ-335をシャオの商社を通じて世界に販売する計画を秘密裏に行っていたそうだが、シャオがボツワナ軍を買収して行った、あのパイドパイパー社の発掘現場強奪事件に、そこへ介入してきた日本の総諜対に対抗するため、李が勝手に使ったTZ-335に中国軍上層部が激怒したそうなのだ。
李が勝手に使ったTZ-335のせいで、あの事件のバックに中国がいたなんて思われたら、中国もたまったものではない。更に総諜対と戦う以前に、あの場所はブラジルに本社を持ち、ブラジル本社よりも規模がでかい米国法人が資本を投入して、その最高経営責任者が暗殺未遂された経緯のある場所である。
そんなものに中国が関わっていたと誤解されたら、ダブルでたまったものではない。
実際、中国はあの兵器のせいでブラジル政府と、米国政府から抗議の嵐だったそうで、しかも元BRICSの仲間でも在る国から文句言われた日にゃ、色々とマズイこともあるわけで……
「で、あの爆破事件であなた達インベスターのスタインベック派に罪なすりつけたって、そんな感じですか」
「うーん、罪をなすりつけたというよりも、『あなた達がやった事にしておいてくれ』みたいなメッセージ含んだ事件みたいな感じね」
「まあ中国は昔、あなた方の前身の“ガーグ”に、共産党が手酷くやられましたからね。良い意趣返しってところもあるんじゃないですか?」
「そこは私は関係ないわよ。知ったことではありません」
月丘とシビアは、とりあえず納得したような顔で頷く。
「で、カズキ。その関係繋がりの情報もあるんだけど、聞く?」
「そりゃもう」
「あのね……近いうちに中国が北朝鮮を攻めるわよ。併合を狙ってね」
その言葉を聞いてギョっとする月丘。
「え!? マジですか!」
「ええ、恐らく日本のトップ、つまりカシワギ総理さんにも中国から話はいってるとおもうけど、国際連邦の主要国は、本格的に世界を一本化しようとしているみたいね」
この国際連邦には色々な国が参画しているが、北朝鮮、エリトリア、ベラルーシなど数カ国の個人崇拝型の独裁国家などは加盟していない。というか、国際連邦の加盟条件で加盟できない体制の国家もある。
そういう国を本格的に平定しようと国際連邦は動き始めたらしい。
李万博が勝手にTZ-335を持ち出したばかりに、この動きも加速したようだと、スタインベックは言う。
「でも……それだけじゃないでしょうね」
「……あの遺跡の事かしら?」
「中国もそうですが、米国もロシアもEUも、あの騒ぎで何か嗅ぎつけたところもあるんじゃないでしょうか。私達が下手に動いてしまったせいもありますが」
「でも今はまた二〇〇〇メートルの地下に埋まってしまったでしょ? ウフフ」
「はは、まあそこに転送して行けるのは私達だけですけどね。あと……ペルロード人の件も影響しているのかもしれませんね……」
世界の一本化が強化していく要因。はからずもあの時のボツワナの事件で、インベスターが分裂した結果である。
インベスターは本来彼らの裏からの影響力で世界を連邦化、即ち一本化しようとしていたのだが、何がきっかけになるかわからないもので、今では彼らが手を下さずとも勝手に一本化しようといういう動きになって行っている。
まあ、そのきっかけを一番最初に作ったのは、スタインベック達なのかもしれないが、いつの間にか世界が勝手に回りだしていっているのである……
* *
そしてまた更に同一時間上での別の場所。
地球から遠く離れた……というのはもう過去の話で、今の日本の航宙艦艇や、日本以外の先進諸外国航宙艦艇でも、そんなに遠い場所ではなくなった所。
そこは太陽系第五番惑星、お馴染みのみんな大好きな木星である。そしてその衛星である『ガニメデ』。
現在、この衛星ガニメデは、『ティエルクマスカ連合本部星系管理衛星ガニメデ自治区』としてティ連の領有地となっている。
その経緯として、現在国際連邦に通達しているティ連が認識する太陽系の各惑星の主権は、惑星国家とこのたび認識された国際連邦の主権とされていたわけであるが、国連は今後のティ連との外交関係を考慮して、ティ連国家である日本を通じて、このガニメデをティ連本部に譲渡したのであった。
これはティ連の、太陽系内における地球との外交や交易を考慮しての国連の判断である。幸いなことにこのガニメデの譲渡でティ連の外交政策が緩和されたのも事実であり、そこは国連の外交政策が有利に働いた国益とみなしていいところであった。
とはいえ、譲渡したっつっても、元々誰のものでもないものをティ連が『太陽系のものは、国連のもの』という前提を勝手に作ってくれたおかげでもあるのだ。
それでも火星に関しては特別例外で、過去の経緯からティ連と日本と米国が主だって管理し、他LNIF諸国がそこに乗っかっているような構図の星という特例もあるわけだが、まあそれは置いといて……
現在、ガニメデもティ連の進出で、星の軌道上はティ連十八番の大規模な軌道都市化をされて、衛星上にはかなりの数の人工大陸パーツで居住地が組み上がっており、さながら『リトルティ連』とでも言うべきティ連文化の星が、太陽系の“そこ”に出来上がっているような状態であった。
で、軌道上に見えるティ連太陽系方面軍の軍港。即ちティ連太陽系方面軍でもある特危自衛隊と、ティ連防衛総省の管轄となる軍港だが、そこには特危自衛隊のサーミッサ級人型護衛艦『まつ』や、米国のプロジェクト・エンタープライズ級艦艇『レナード・ニモイ・エンタープライズ』型航宙駆逐艦が停泊していたりする。
この米国の艦、略して『レナード・ニモイ航宙駆逐艦』も改装をかなり重ねて、今では立派な磁力型空間振動派機関を使用した超光速艦艇として、米国ご自慢の艦の一つとなっている。
米国USSTCの隊員達も、こういったティ連文化を体験できる一種の特権国民みたいなものなので、今では米軍志願者も以前と比べて激増し、さらにこの狭き門であるUSSTC選抜試験には志望者が殺到しているという有り様であった。
まあやはりそういう点は、日本人なんてのはそこら辺のオッサンでもヤルバーンや、ちょいとお金を出しさえすれば観光で、イゼイラやダストールまで行けるわけであるから、やっぱり現在でも日本の存在は特別であったりする。
そんな平穏であったこのガニメデ自治区の軌道都市と駐留基地全域の施設に最高警戒態勢のサイレンが不協和音の音色を大きく鳴らす。
ガニメデ自治区の防衛管理トーラルシステムが近郊の宇宙空間宙域で何かを捉えたらしい。
衛星都市で休暇を楽しんでいた特危隊員や、防衛総省軍人、USSTC隊員は、買い物をしているものは、商品を店員に渡して店を飛び出し、買い食いしているものは、手に持つ食べ物を強引に口の中に入れ、原隊復帰を急ぐ。
そんな最中、近くに正体不明の光弾の曳光が数発軌道都市の窓をかすめるのが見えた……とその瞬間、その中の一発が、航宙駆逐艦レナード・ニモイに命中し、爆音が施設の中を通して響くのが聞こえ、レナード・ニモイのシールドに反応した閃光が眩しく一瞬周囲を照らす。
その刹那、次々と周囲の自動警戒衛星が何者かに反撃を加える様子が見て取れ、ガニメデからまだかろうじて遠い距離にある比較的小さな小惑星帯が、無人機動兵器と何者かとの間で交戦状態に入った!
無人機動兵器部隊を指揮する管制官が見た、その敵性部隊の映像は、
攻撃型ヂラールであった……




