【最終章】第七八話 『マルセアの正体』
衆議院解散選挙後の国会である。
『特別会』といわれる国会を、解散総選挙後はこなさなければならない。
特別会という種類の国会は、衆議院解散による総選挙後に召集される国会である。
特別会では、召集の後に内閣が総辞職するため、衆議院、参議院において内閣総理大臣の指名が行われる。
まあ慣例というわけではないが、総理大臣は議会が選挙で選出するので、当然立候補者は各党派の代表がその名を連ねる。但し例外的に……というかほとんどネタみたいな感じであったのだが、過去第一〇〇回内閣総理大臣指名選挙にて、当時総理の座を自保党で争っていた議員の名前を、だれかが投票用紙に書いて、立候補していない人物が一票総理指名選挙で入ったという珍事もあったが、特に問題はない。
『柏木真人君、三二〇票。馬田重信君、一〇〇票。伯太莞爾君、七〇票……』
国会内で立候補者の票数が数えられていく。そして、
『……右の通り、柏木真人君を、内閣総理大臣に指名する事に決まりました』
大きな拍手とともに柏木は立ち上がり、議場の左右を眺めて深く礼をする。
今回はかなり異例の経緯での総理就任だ。普通なら派閥の親分なんぞが絡んで誰を支持するか派閥内で固めて……やら自由投票だとかスッタモンダもめて、党の総裁を決めてからの総理大臣であるからして、今は拍手とともに柏木を支持してくれた同僚議員の応援の声もまた大きく議場に響く。
柏木が起立した瞬間の映像で各放送局は速報を流し、
【前ティ連防衛総省長官、柏木真人氏が代一〇*代内閣総理大臣に就任】
とピロリンの音とともに茶の間を駆け巡る。
今頃八王子の柏木の実家では、近所の人々が集まってドンチャン騒ぎで真男や絹代達もマスコミの対応に大わらわだろう。まあ恵美もいてくれるし、玲奈も今回は仕事抜きでマスコミ対応のサポートしてくれるそうだから大丈夫か。でも玲奈は後で普通では入手できないティ連ネタを柏木やフェルから貰う約束をしてたりして。
さて、柏木といえばティ連担当民間特命大臣、ティ連統括担当特命大臣、ティ連連合派遣議員というティ連関係の閣僚職を立て続けに担ってきた訳で、まあ考えてもみればある意味対異星外交、安全保障ではベテラン議員であった。で、ティ連防衛総省長官という、ちょっと官僚寄りのティ連の政治家もやって今があるワケだが、防衛総省長官より以前の職までの柏木のイメージと、今の内閣総理大臣の柏木のイメージとでは、やはり柏木ウォッチャーな一般国民の目から見てもかなり雰囲気が違うというイメージらしい。
まあ柏木自身も一国のトップになってしまったわけなので、そりゃ昔みたいにお気楽に……と別に気楽にやっていたわけではないが、専門職を集中してやってればいいという立場でも無くなったため、その覚悟のオーラでたまに見せる“目つきの鋭さ”が雰囲気の違いを出している、というところでもあるのだろう。
なんせ……これからは『住むところ』からして違うワケであるからして……
* *
そんな感じで数日経ったある日。
天皇陛下も代替わりされ、かつて柏木達に色々と手を貸していただいた前天皇も現在は上皇陛下となって余生をお過ごしになられており、その時皇太子であった現在の天皇陛下より、御名御璽を受けて柏木は正式な内閣総理大臣となる。
モチロンその前に組閣人事も済ませるわけなのだが、フェルさんだけは御名御璽をみなさんよりも後でいただくことになる。それは新しい内閣の役職『内閣副総理大臣』ができるためである。そういうのもあって、今現在色々引き継ぎやら何やらでバタバタしている最中ではあるが、彼自身も色々準備もあるわけでそんな中、ちょっとの間の暇を作って総理公邸へ事前見学にやってきた柏木夫妻。
ってか普通の一般市民ならいざしらず、コレでも一応柏木は、イゼイラでは、皇太子や皇配に使われる敬称である『エルダラ殿下』様でもあるので、そこんところの立ち位置も考えると~~ ……
「フェルさ、これから俺達ここに住むワケだけど、んー……こんなこと言ったら国民の皆様に怒られるかもしれないけどさ、まーね、スゴイところだなぁとは思うけど、やっぱあんまり驚けないのは、俺のもう一つの実家になってしまったヤーマ城になれてしまったせいかしらん」
『ウフフ、まあ確かに私のお城に比べたら小さいオウチですけど、それでも立派過ぎるオウチじゃないデスか、マサトサン。でもネ、私にとってはマサトサンのマンションが一番ステキなお城デスけどネ』
「ありがとね~、フェル」
と言ってフェルを抱いてナデナデする柏木。仲の良い総理に副総理である。
「とはいえ、あまりここに住みたがらない人も多くてね。二藤部先生も総理時代は渋谷の自分のマンションに住んでたし」
『アララ、コンナご立派なオウチを貸していただけるのにデスか? モッタイナイ』
「まあ理由は色々あるんだけど、なんか幽霊が出るとか、そんな話があるんだってさ」
『ユーレイサンですか? あのテレビから這い出てくる変なオバチャンや、あの私が「ひさらぎ駅」で出会った変な住民サンみたいなのとか』
「ああ! あの時のなぁ。あんなんかどうかはしらないけど、まあここも日本の中枢だしね。五・一五事件っていう首相暗殺事件とかの舞台にもなったりしてさ、そんな噂も立つわけデスよ」
『そんなユーレイサンがいるのなら、とっ捕まえてみるのも面白そうですネ!』
なんせフェルらティ連人は、何年か前にフェルが体験した『ひさらぎ駅事件』からもそうであるが、所謂『心霊系オカルト』に関して完璧な耐性をもっているからたいしたもんなのである。
ここにシビアやネメアがいれば、人工ではあるが霊体扱いされている方々であるからして、犬養首相の霊でも出てきたら一緒に茶でもしばきかねないワケであるからして。
ということで、日常生活上、姫ちゃんがお友達と遊んだりする都合とかもあるので、総理公邸と現柏木家の件のマンションとは簡易転送装置で繋げて一体化させることで、二つの家をくっつけることにした柏木。
まあマンションの方も、未だに警察関係者の社宅化してる無敵のマンションなので、警備の方も問題はない。
「よう、柏木総理大臣閣下様!」
そう手を上げてスーツのポケットに手を突っ込んでやってくるのは、
「おう白木! 久しぶりだなぁ!」
と白木崇雄 情報省連合内務局局長兼、総諜対班長と久しぶりに対面する。
柏木は肩をパンパン叩き、白木は柏木の腹に軽くパンチなんぞ入れてじゃれる。
「お前も一〇年前のあの時から色々あったけど、なんだか随分えらくなって、挙げ句に総理大臣ってか。かーーーっ、世の中わからんもんだな!」
「まあなぁ。ってそういうお前も、総諜対であの映画の【M】さんみたいに、ブイブイいわしてるそうじゃないの。前よりも偉そうになったってオーちゃんも言ってたゾ」
「偉そうなぁ……偉そうと言うか、内外のワケのわからん情報を一手に扱うから白髪が増えたよ。ったく。極めつけはウチのエースがよく頑張るから、どう対応しようかってな。もうついていけねーぞってトコロも色々あったしよう」
「ああ、月丘君か……彼スゴイな」
その言葉には横で聞くフェルも納得して、
『ソウですね、昔のマサトサンを見てるようですヨ』
「たしかにな。フェルさん、あいや失礼、フェルフェリア議員の言うとおりだぜ」
『ウフフ、ケラーシラキ、こんなところでまで他人行儀にならなくていいですヨ』
「そっすか? むはは。で柏木、その他人行儀の話じゃねーけど、フェルさんの件は早速か?」
「ああ、昨日早々に閣議決定させたよ。フェルは日本初の正式な【内閣副総理大臣】だ」
これがフェルだけ少し遅れて御名御璽を賜る理由だ。
コレはいままで幾度か説明してきたことだが、これまで日本には所謂『米国副大統領』のような、大統領が政務行不可能になった場合等の自動的に大統領へ昇格するサブの役職がなかった。
所謂、現行の副総理というものは、米国のような正式な官職名ではない。その正式な名称は『内閣法第九条の第一順位指定大臣』というのである。
で、この役職もあくまで内閣総理大臣が政務遂行不可能になった場合、『臨時措置として一時的に内閣総理大臣の代理役職を担う“最優先候補の一人”』という意味合いの役職でしかないので、まあそのぐらいの役職なのである。なぜなら日本において総理大臣の次に来るナンバー2の役職は内閣官房長官なので、場合によっては官房長官が総理大臣を代行する場合もあるのだ。このあたりは政府と政権与党が色々と合議で決めるところがあって、必ずしも副総理が総理代行するというわけではない。
米国の副大統領は、平時は上院議長も兼務し、議会の議決票が半々の場合、多数決による結審の一票を入れる権限を持つなど、名前の通りナンバー2にふさわしい立場の役職だが、日本の副総理は総理大臣の職務が再度復帰するまでの間の総理代行的な意味合いしかなく、仮に総理大臣が『死亡する、不治の病にかかる』といったような完全に政務遂行不可能になっても自動的に総理大臣になるわけではないので、まあ大体は代行時に国政に不備がないよう円滑に政治を運営するため、総理大臣経験のある三島のようなベテラン議員が指名される場合が多い、というわけである。
そこで彼は副総理を言葉通りの正式なナンバー2の役職にする閣議決定を行った。そしてこれが実のところこの決断をした本命の理由なのだが、柏木は副総理を、『日本国内内政及び地球内外交専門の内閣総理大臣』としたかったのである。他国の例として、こういう職務を分けて首相職を行う考え方の役職を国によっては『第二首相』という言い方をするところもあるが、まあ大体この役職を制定すると、結局権力を一本化したくなる野望に駆られて政争が起こってモメるというのが定番なわけだが、柏木政権の場合は柏木自体がティ連の安全保障関係の政務に今やフェル以上に精通しているという事と、国内の内政、外交に関してはコレも今やフェルのほうがよっぽどベテラン議員である、という現状に基づいて、柏木の責任においてフェルに柏木の代わりに内政と地球内外交の辣腕をふるってもらおうと思った訳なので、こういう役職を設定して、フェルにそのスキルをいかんなく発揮してもらおうと、そう思索した結果の役職なのである……なんせフェルは休職中のイゼイラとティ連議会の終生議員でフリンゼで、創造主候補だ。ま、問題はないだろう。
なんか普通であれば、日本の事は日本人で、ティ連のことはイゼイラ人、みたいな感じなのだろうが、柏木とフェルの夫婦トップであるがために、こんな変わった状態にもなるわけで、ある意味現状ではベストなあり方だと、実のところ政治評論家などからも評価が高い。
ちなみに、さらに付随する重要な点として、日本における『内閣総理大臣』は、つまるところ『政権与党のトップ』すなわち自保党において『総裁』と同義である。となるとフェルは自保党の『副総裁』になるのかというと、そこはそういう事ではないそうだ。
だが、フェルが何らかの理由で総理大臣に昇格する場合は、自保党の『総裁』になる。ここはその通りということだそうで、まあもし毎度の事で、自動昇格した総理大臣に党内で問題があるとかそんなモメ事が起こりゃ、どうせまた内閣解散しろとか辞任しろとかそんな話にもなるので同じなのだろうが、それでも自動的に総理大臣になるサブ職が正式に決定したのは、日本の憲政において大きな出来事なのは確かである。
「……ま、そういうわけでね、白木局長様もご協力お願いいたしますよ」
『デスデス』
そう言われると白木も手の平をフリフリわかったわかったという感じで、
「了解だよ総理大臣閣下様に副総理様。まあ任せとけや。なんか文句つけてくる連中がいたら情報省らしく、ハニトラにでもかけて週刊誌にトクダネ流すなり、そいつの過去洗ってハズカシイ写真でも送りつけるなりしてやるよ」
とこの言葉に柏木とフェルさんも『オイオイオイオイオイ、ソレダメー』と掌をふる。
* *
今回の柏木内閣の組閣で、井ノ崎や二藤部といった所謂『安保調査委員会』がらみの、まあ言うなれば『影の二藤部派』みたいな柏木に縁の深い政治家が、どんな役職についたのか主だったところを見てみると……
井ノ崎には今回柏木のたっての頼みで、内閣官房長官に就いてもらった。あまり前首相職の人物が、次の内閣の官房長官に就くなんてのは前例がないのだが、実は柏木は『今後の日本は、今までの議員内閣制では、いずれたちゆかなくなる』という思いがあったので、首相職経験者に内閣官房長官に就いてもらうという、ある意味暴挙ともいうべき人事を行った。とはいえまあ三島も元総理で、外務大臣兼副総理という役職だった前例があるので、恐らく問題は特にないだろう。
二藤部には事実上のティ連事案の政策提議機関である情報省のトップを引き続き続けてもらっている。
外務大臣には、柏木とともにかつてよく走り回ってくれた元防衛大臣の『鈴木正一』。そして何とその防衛大臣には、実は昨年、特危自衛隊を此度の柏木総理就任作戦ともいうべき井ノ崎の策に乗る形で退官し、此度の選挙で比例・選挙区で立候補。選挙区で当選した元特危自衛隊、火星熒惑県日本自治区幕僚長の、かの『加藤幸一』を招聘した。特危自衛隊創設者の一人で、元海上自衛隊の重鎮。これで特危自衛隊に本土自衛隊ともに引き締まること間違いなしだろう。
で、今の日本の内閣で重要な『ティ連派遣議員』には、あの『田辺守』元JAXA宇宙飛行士で、元イゼイラ第二日本大使館大使に就いてもらった……実は田辺はあの大使職を辞してから、自保党のスカウトで政治家に転向して、衆議院議員を今までやってきていたのである……
まあそんなところで、さらに言えば、国土交通省には自保党名物にもなった異星人議員、ダストール系日本人議員の人物が就任したり、自保党幹事長には、昨今頭角を現してきている二藤部シンパで女性総理候補の『高士久恵』議員が就任したりと、そんなところである。
柏木政権で閣僚になったり、党の要職に就くには、当選回数や派閥なんて関係ないのだ。事実、此度総理に就任してから柏木は彼が体裁上所属していた吉高派を脱会した。フェルも清水達が起ち上げた『新清風会』を脱会している。一国家のトップとナンバー2になるわけだから、全てにおいて是々非々を求められる。なのでまあこれは彼らなりの国民に対するケジメである。
言葉通りの適材適所を実践する柏木。コレが気に入らないというのなら、別に柏木は総理職なんていつ降りてもいいいのだから強いもんである。彼に辞められて困るのは自保党の方だ。
まあそんなこんなで総理官邸。
「こないだもマスコミの連中が、『総理の椅子の座り心地はどうですかぁ』とかアホの一つ覚えみたいに聞いてくるから、『家のソファーのほうが座り心地はいいですね』って言ってやったよ。んな椅子の座り心地なんてどうでもいいだろっつーに」
総理大臣執務室で椅子に座って頭に手をやり、くるくる回ってる柏木。
『イヤイヤ、マサトサン。そこは椅子を閣議に喩えての質問ではないのですかァ?』
とフェルさん。オイオイと手をふる。
「ありゃマジで座り心地の事聞いてるんだよフェル。だからあの程度の受け答えでいいんだよ、むはは」
「いやフェルさん、そこは柏木に同意です。マジであいつらその程度ですから」
白木もかつて外務省時代に、会見する新見の補佐などをしていただけによく知っている。フェルはそんな回答に苦笑いだ。
で、この面子がなぜに総理執務室にやってきたかっつーと、
「総理、お待ちの方が到着しました」
官邸スタッフがそんな知らせを持ってくる。
「はいはい、ここにお連れして下さい」
しばらくすると、先日の選挙演説で対面した顔ぶれが五人。
「お邪魔します、柏木長官、じゃなかった、総理。総理大臣就任おめでとうございます」
『おめでとうございますっ!』
月丘とプリルだ。月丘は特に緊張もしていないが、プリルは一応一国の代表と副代表を前にして、大緊張である。背筋伸ばして軍人丸出しの挙動。
『フフフ、プリ子さん、そんな緊張しないで、いつも通りでネ』
『は、ははい!』
で、月丘とプリルが連れているのは、
『カシワギ総理大臣閣下、あなたがそのような国家の代表とはつゆぞ知らず、先日は所々ご無礼しました。お許し願いたい』
礼儀正しく六本の腕を組み合わせて、敬礼するはジェルダムとアルカーネだ。
月丘は初めてとなる自分の上司となる白木も紹介する。恙無く握手。
「いえいえ、総理官邸によくいらっしゃいました……月丘君、玄関のマスコミはどう撤いたんだ?」
「はは、少々大げさですが、遮蔽装置を使わせてもらいました」
「あ~、なるほどね」
と柏木やフェルも笑う。なんせ彼らもこの手をよく使って官邸前の記者を撒いた経験は計りしれずだからだ。
「柏木なんざ昔、色々動いてた時なんてしょっちゅう遮蔽装置使ってたからな」と白木。
で、最後は……
「カイア10986さんもよくおいでくださいました」
『カシワギ・マサトティエルクマスカ連合防衛総省長官からニホン国内閣総理大臣への転向。資料によれば相応に評価が高い人物と認識している』
「ありがとうございます。って、これで人格がないの? シビアちゃん達とあんま変わらないような……」
というと白木が、
「と、柏木総理がいってましたが、どう思いますか? ってシビアとネメアに言っとくわ、総理」
「あいや、スンマセン。ってここで謝ったらカイアさんにも申し訳ないだろ」
と、おおよそ総理大臣という風体ではない柏木に皆も笑う。ムッツリはカイアだけ。
で、まぁまぁと皆さんソファーに座ってもらって、お茶にお菓子でも出して……
「さて、今後の事なんだけど……」
「例の件か? 総理」
「ああ」
月丘達の手前、彼らの前では柏木の事を総理と呼ぶ白木。
と、そんな会話で始まる話に、ジェルダムが少し首を傾げ、
『カシワギ総理閣下と、シラキ局長殿は、深いお知り合いですか?』
と訪ねる。確かに普通なら部下となる白木が、政府トップの柏木にタメ口聞いてるなんてのは、厳格な階級社会にいたジェルダムからすれば、おかしな構図なのだろう。
「ああいやいや、コイツとは学生時代からの友人でしてね。白木のほうが私よりホントは百万倍すごいんですよ」
『ですネ。ナンでも見たもの聞いたもの一発で100パーセント間違いなく記憶してしまう、人間映像メモリーサンです』
「そうそう。おまけに外国語だって一週間もあれば、普通に会話できるようになっちまうからな、はは」
なんて柏木やフェルに煽てられる白木だが、
「いやー、外国語の方は最近トシかなぁ。ちょっと劣ってきてんだわ」
と、そんな感じでその会話の様子を驚いて見るアルカーネ。やはり厳格な階級社会で生きてきた二人には、ちょっと考えられない人間関係なのだろう。と、まあそう説明されて納得したジェルダム。
で、それはそうと、と……
「あ、で、話の続きだけど……実はね月丘君にプリ子ちゃん、この話はくれぐれも内密にしてほしいんだけど」
「あ、はい」『え? ハイ』
「ペルロードの御三方もよろしいですか?」
とジェルにアル、カイアも首を縦に振る。だが一体なんの話だと。
「これは少し前、私が防衛総省長官を退官する直前ぐらいに入った情報で、同時期にフェルも同じ情報をプライベートで受け取ったそうなんだけど……でまだこの話は私と白木、フェルに二藤部先生とその関係者ぐらいしか知らない話でね。まあこれから話す事に関連して、今後のペルロードのお三方への要望や処遇も決めたいんだけど」
すると、まあシステムとはいえジェルダムやアルカーネの上司になるカイアが先に口を開き、
『現在の我々の状況は、お前達と不可分の状況であると我々は理解している。カシワギ総理大臣閣下の挙動を分析するに、その話してもらえる内容は深刻なものと推察できるが相違ないか?』
とカイアのその回答に白木やフェルと顔を見合わせて、「流石だね」と言う表情をすると、
「お察しの通りです、カイアさん……では結果を先に言いますと、ティエルクマスカ銀河内で、ヂラールコロニーの出現が観測されたそうなのです……」
なんと! な話に顔色を変えるは、月丘とプリル。ペルロードの三人は、ヂラールがこの次元宇宙世界に顕現しているという事自体に対し驚き、難しい表情をする。
『フ、フ、フリンゼ! ティ連にヂラールって、大変じゃないですかっ! え? でも防衛総省からはまだナニも通達が来ないし、どういうことっ?』
『アア、落ちついてプリ子サン。よくお話を聞いてくださいネ。「ティ連」じゃなくて、「ティエルクマスカ銀河」に出現したのですヨ』
『え? あ、そ、そうかナルホド。そういう意味ですカ』
この話は、ティ連の政府筋の非公式情報ではなく、なんと柏木とフェルへの個人的な通信で入ってきた情報なのだそうである。なので、柏木やフェルはほんの少しの関係者にしかまだ話していない。
ティ連でも今この話を知っているのは、サイヴァルぐらいなもので、マリヘイルや、現在のイゼイラ議長にもまだ話していない。
……さて、ではどういう経路でこの情報を柏木やフェルは入手したか? という話なのだが、実はこのティエルクマスカ銀河の、ティ連と正反対の方向にあるティ連並みの科学力を誇る国家、『タウラセン』と呼ばれる存在から入手したのである。
このタウラセン、いや、タウラセン人という種族は、ティ連にとっても謎の国家で、種族である。
わかっているのは、ティ連に対して敵対的ではないということと、そればかりか友好的な種族であるということ、そして最も特徴的なのは、高度な科学による後天的(人工的)な超能力を身に着けた『巨人族』という点と、ティ連での主要文化ソースとなる『ハイクァーン、トーラル文明』の遺産を非常に警戒している種族であるという点である。なので、ティ連とは実は敵対はしていないが、友好関係にもない。
だが、数年前に起こったとある事件で、その種族のある人物と柏木、フェルが『お知り合い』になってしまったために、この情報を入手できた、という事なのだそうであるが、月丘はこのタウラセン人に関する事件の真相を知っているようで、
「『横須賀沖、外来異星生物排除事件』の事ですか?」
と言うと、
「え? 月丘君、なんで知ってるの?」
そう、あの事件は対外的にはティ連と日本のヤル研が解決した外来異星害獣排除案件ということになっているはずなのだが……」
「ああ総理、その件は、月丘やプリ子がウチに入ってきた時、情報省の部外秘重要案件のレクチャーで、俺が教えた」
「そうだったのか」
ま、そういう事で、その『横須賀沖、外来異星生物排除事件』の内容は、何処かにファイリングされているので、探してみるのも面白い。
それはそうと、ジェルダムが、
『その巨人種族なるものと、ヂラールは交戦したのですか? 総理大臣閣下』
「という話だけど、詳しくはどうなの? フェル、お友達から詳細な連絡来てたんでしょ?」
『ハイですね。ケラー・ヴェルターから色々細かいご報告をしていただいていますが、まあかいつまんでいえば、そのヂラール・コロニーの群体は小規模だったので殲滅はできたそうなのデスけど……』
その殲滅した群体の軌跡を追ってみると、やはりというかで、大本の本部群体のようなものから分派した群体で、タウラセンに到達するまでの軌跡上の、生命が存在した数種の惑星は、ことごとくやられていたそうである。
その本部群体となるヂラール・コロニーも現在移動したらしく、結果発見できなかったそうで、ティ連や天の川銀河系のこの地球もとりあえず警戒した方がいいという丁寧な連絡を、ヴェルターというフェルさんとお知り合いの巨人種異星人は入れてきてくれたそうである。
タウラセンや銀河系もティ連から相当な距離にはあるが、連中は次元跳躍が可能だ。その跳躍規模も、以前のグロウム帝国の件を鑑みると侮るわけにもいかない。
「……ただ、ティエルクマスカ銀河内に出現したという事実が厄介だな」
と表情を少し険しくする柏木。だがと月丘が言うに、
「それでもティ連程の軍事力があれば、仮にティ連領域に侵入しても対処は普通に可能ですよね」
というと、元防衛総省長官の経験で柏木は、
『単純に数値的な戦力でいえばそうなんだけど、ティ連だって各国家の領内にローカルなエリアを抱えてるわけだよ。そういうところを狙われて、根城にされたら鬱陶しいわな。まあ住民の避難などは問題なく円滑に行えるだろうけど』
そこのところは人工大陸を生活基盤にすることができるティ連人の強みである。生活インフラごとゲルベラール移民船以上に、円滑に脱出することができるわけであるからして。
「この件は、タウラセンとティ連本部が今後も密に連絡を取って詳細を研究するそうだから、追っていろいろコッチにも情報は回ってくると思う。ま、今はサイヴァル議長が連合のトップだから、タウラセン人との付き合いも、もっとうまくやれるんじゃないか?」
『そうなったら、ケラー・ヴェルターにもあの時のお礼をちゃんとしないといけないデスね』
彼らと共同戦線を張る事ができれば、今後の安全保障上かなりの強化となる。
だが、今の状態だと守り一辺倒となるわけで、根本的な解決をするとなると……
「で白木、頼むわ」
「おう……で、月丘、プリ子。今回の任務の話だ」
「はい」『はいですっ』
「今回は情報省というよりは、一〇年前の改正法で定められた『特別総理大臣令』での権限で俺も動く訳だが、カイアさんと、ヤルバーン州の科学者と協力して、ペルロード星の位置を割り出し、調査してこい」
とこれまたかなり壮大で、無茶な命令ではあるが、言い換えれば月丘達であるからこんな仕事も任せられる。
で月丘もここでいつぞやの総理大臣みたいに「ええええ!!??」なんてリアクションはせず、というか、もうある程度流れでこの仕事もわかってたみたいなところもあったので、ここはスマートに、
「了解です班長。プリちゃんもいいね」
『モチロンですっ! 腕がなりますよ~』
「カイアさんもよろしくお願いします」
『万事了解した』とカイアさんは淡白なもの。
だがここでおいてきぼりを食らってるのは、ジェルダムとアルカーネで、
『白木局長殿、もしよろしければ私達も協力させていただきたい』
『私からもお願いします。私も医者です。お役に立てることは必ずあります』
そりゃ自分達の、何千年も前に滅んだかもしれない故郷の事とは言え、信じる神がいる神聖な場所へ帰ることができる仕事である。そうも言うだろう。まあしかしそこんところは心配しなくてもいいわけで、
「大丈夫ですよ、お二人共。あなた方の身柄は、今後情報省で預からせていただきますわ。で、色々とあなた方のスキルも調べさせていただきたいですしね。とりあえずそのあたりをクリアしてから、色々手伝っていただきますわ」
白木のその言葉に、ジェルもアルも頷いて了承する。
で、柏木はそこでよくよく考えると……とそんな風な表情をしながら、
「なあ白木よう、おめーんとこの部署、プリ子ちゃんだろ? メイラさんだろ? シビアちゃんだろ? で此度カイアさんと、ジェルダムさんと、アルカーネさんが加わるってさ、なんかすげー事になってないか?」
と白木もすっとぼけて、
「お、ホントだな。これで、やまもっさんところのセマル入れたら、何の部署だって話だな、わはは」
言われてみりゃ総諜対の実動部隊で、地球人といえば白木と、月丘と、受付の美加ちゃんと、連合外交部から出向の瀬戸智子ぐらいなものだ。まあ連合内務局、つまり連合内の案件処理の部署なのでそんなもんっちゃぁそんなもんではあるが。
それでも柏木は人員が異星人さんの優秀どころばっかりここに集中させてるような感じなので、「コイツ絶対狙ってたな」という目をして、少々ため息をつく。だが白木が狙ってる更なるスカウト人員は、こんなものではなかったりして……そこはフェルさんに協力を依頼しているわけなのだが、どうなることやらと……
* *
ということで次の日。
柏木とフェルは、月丘達の『惑星ペルロード探索案件』の実行に伴い、更なる協力を求めるため、丸の内にある『ゼスタール共和合議連邦』所謂、略してゼスタール連邦の大使館にやってきていた。
この場所は今でこそ、ゼスタール戦争後における、スール・ゼスタールの『ゼスタール自治合議体』と、ネイティブ・ゼスタールの『ゼスタール自治共和国』が融合した国家『ゼスタール共和合議連邦』の大使館として機能しているが、元々はスールさんところの『ゼスタール合議体』の連絡所であった。ぶっちゃけいえば、元はシビアとネメアの日本での家である。
実はタワーマンションの五階全部をゼスタール月面基地が買い取った結構な広さの豪邸で、そこを現在、シビアとネメアの自宅、というか公邸兼、ゼスタール連邦の大使館として利用している。
とはいえ、元々はカウサ、つまりコアを休ませるためぐらいにしか使わない部屋なので、カウサがスリープ中、その間は二人とも活動を停止してしまうので、特に部屋自体で何をするというわけでもなかったため、普通に殺風景この上ない部屋だったのだが、マア大使館というからには偉いお客さんも招かなきゃならないわけで、そこは威厳というものも必要だろうということで、その殺風景な部屋を月丘や美加にプリル、他、ヤルバーンの仲間ら総出で装飾したという経緯がある大使館である。
現在のゼスタール大使は、独立合議体の権限も活かして引き続きシビアが担っているが、今はもう、そんな殺風景で愛想のないような施設という印象はない。最近はスール娘二人とも、情緒的感情もかなり復活してきているので、この大使館も結構気に入ってるそうだ。
「お邪魔します、シビアさん、ネメアさん」
『お邪魔シマスですね』
ガラス張りの自動扉をくぐってゼスタールの国旗に重ねて、英語と日本語で書かれた『ゼスタール共和合議連邦大使館』という看板を横に見て入室すると、待っていたのは、毎度のシビア嬢とネメア姐。いつもの格好で特に正装をしているという風ではなく、相変わらずネメアはエロい。特にお尻。
『来訪を歓迎する、カシワギ総理大臣、フェルフェリア副総理大臣。就任を評価し、祝福する』
「ありがとうございます、シビアさん。って、いつもはシビアちゃんなんて呼んでたけど、まあ大使の権限も持ってるってつい忘れちゃうもんね」
『カシワギ総理、私に対しては通常の対応で良い』
「んじゃ、私もいつもの感じでお願いします。フェルもいいよね?」
『モチロンサンですよ』
『了解した。カシワギ生体、フェルフェ、いや、フェル生体』
いつもの調子で笑って頷く柏木夫妻。で、此度来ているのは二人だけというわけではなく……
『まあ妾に対しては、毎度いつもの調子ですけどね、シビアは。オホホ』
と宣う、我らがレミ・セルメニアになってしまった、ナヨさんである。
カイアの言うことが本当なら、たとえ並行同位体のレミ・セルメニアでも『本物の自分』であることが嬉しくなってきた最近のナヨサン。
そして、そんなナヨさんも認める最近忙しいアバター素体のカイア10986。
『ところでカシワギ生体、総理大臣という国家の代表直々に我々の大使館へ来るとは、何かニホン国政体にとって重要な案件なのか?』
と尋ねるはシビア。
『うむ、もし何か用件があるのなら、私かシビアがそちらへ行く事もできる。国家宰相が自ら動くというのは、セキュリティ上どうかと考えるぞ、カシワギ生体』
と言うは特危自衛隊出向1佐のネメア姐。月丘も言っていたが、ここんとこまたこの二人が変わったなとと思うのは、その話す言葉が以前にもまして自然になってきたというところである。そのあたりを二人に指摘すると、やはりネイティブ・ゼスさんとの交流が功を奏しているのか、合議体内でもネイティブとの交流を自然なものにするために、色々学習しているそうである。
「あー、確かにそうなんですけど、そこは性分なんで勘弁してくださいな。むはは……ま実はですね、今日はちょっとマルセア議長との会談を要請しにきましてね。いかんせんここ最近の出来事って、秘匿案件ばかりなので、誰かを介して、という話になると情報漏洩する可能性もありますのでね。そういうところもあって私が直々に要請に来ました。って、まあここにも幾度となく来てるので、遊びに来たついでみたいな感覚ですが、むはは」
シビアとネメアは柏木の言葉に少しニンマリして頷く。そうなると、彼女らも最近は対人関係の付き合い方もそれなりに学習したのだろうか、『まあお茶でも』と、四人を居間のソファーに誘う。
なんかこないだ来た台湾の使節が置いていった『鳳梨酥』というパイナップルパイのようなお菓子を出してくれた。
「鳳梨酥ですか! これはまた変わったお菓子ですね。うまいんですよコレ」
『知っているのか? カシワギ生体』
「ええ、台湾で有名なお菓子ですよ。ということは、台湾さんと何か会談でも?」
『うむ、タイワン政体に我々のドーラ・カルバレータを使ったプラントを誘致したいという話をもってこられた。我々も専門の合議体構成で検討したが、ティエルクマスカ連合の機密条件を維持できるのであれば、特に問題ないだろうと月のゲルナー司令とも意見が一致した。まあそういうところでの“オミヤゲ”というものだ』
「なるほど、地球にドーラロボットのプラントができれば、何かとゼスタールやティ連系機動機械生産の量産には都合がいいですもんね」
『肯定。タイワン政体はあくまで我々の拠点にすぎない。展開は、我々の機動力があればどこでもできる』
なんともそういうビジネスも器用にこなしているのかと感心する柏木。とはいえ、よくよく考えたら、ゼスタールがガーグデーラと呼ばれていた頃に、地球浸透作戦を地球人に擬態して、影で世界と色々交渉をやってたんだから、マアそう考えれば彼女らも結構商売人なのかなと思ったりもする。
『デ、シビアチャン。マルセア議長との会談の事ですけど……』
『うむ、まずは会談の目的と内容を聞いておきたい』
「そうですね。では、ナヨさんからそのあたりを」
柏木がそう言うと、シビアとネメアは怪訝な顔をして、
『ナヨ・カルバレータが? ん? 日本政府の要請ではないのか?』
「実はそういうことでしてね。まあ私も総理就任の挨拶の手前、どのみちマルセア議長とも会談をしないといけませんから、そこのところは色々効率的に、というところでして」
と言うと、効率主義のスール・ゼスさん故に『なるほど理解した』と頷く。
「で、ナヨさんもマルセア議長とは親友の仲ですから、今回のペルロードの一件で色々お尋ねしたいこともあるようでして、で、更に……」
と柏木はカイアの方へ目をやり、
「……同じペルロード型トーラルシステムのカイアさんも、色々マルセア議長と情報交換したいということで、というところです。で、これは総理大臣令として『総諜対』のシビアちゃんに通達なのですが」
『うむ』
「白木から聞いてると思いますけど、惑星ペルロード探索の命令を総諜対に発令しました。その点の情報収集にもマルセア議長に協力していただきたくてね、そのあたりもお話したいのですよ」
『了解した。ネメアもいいな』
『問題ない。私は現在出向で特危自衛隊の所属だが、何らかの通達があるのだろう? カシワギ生体』
「そうですね。そこんところは久留米将補から命令という形で下ると思います」
『了解した』
躊躇のないシビアとネメアの決断は、確かに月丘達が信頼を置く二人である。
「では、会談の日程についてですけど……」
『マルセア議長は今からでも良いと言っているがどうする?』
「って……ええええ!? ど、どうやって連絡を?」
とフェルと柏木が驚いていると、ナヨが、
『カシワギや、シビアやネメアはスールの合議体ですヨ。マルセアのトーラルシステムともリンクしているのでしょう』
すると柏木は頭を掻いて、「ああそうか」と思い出し、「流石ですね」と納得顔である。なんだかもう準備ができているそうで、ゼスタール本星のゼルルームで『いつでもどうぞ』と待機中だそうだ。
「あ、まあそういうことなら、って、ナヨさんや、カイアさんはこの後のご都合は?」
『いきなりの事じゃが、妾は大丈夫ですよ』
『私も問題ない』
「フェルは?」
『今メールで秘書サンに今日の予定はキャンセル入れてくださいって言っておきました。マサトさんは?』
「いや、俺の方は大丈夫だ……ではシビアさん、お願いできますか?」
『了解した』
シビアとネメアは四人を大使館のゼルルームに案内すると、もう準備はできていたようで、即座に懐かしいゼスタールの会議室風景になる。
なんせスールなシビアにネメアさんは、マルセア議長のトーラルシステムともリンクさせているので、その動作一つ一つの速度が異常に早い。
「これはお久しぶりです、マルセア議長閣下。またこういう形でゼル会談となりますが、お会いできて嬉しく思います」
柏木はかのゼスタール戦争以降、ティ連の安全保障担当のトップとして、マルセアとは度々会談を持っていた。直接会ったことはないが、まあこういうゼル会談で、という形であれば、もう何回目かというところだ。
『これはカシワギ総理大臣閣下、あ、それよりも先に、その総理大臣就任ということで、おめでとうございます。フェルフェリア様も、副総理大臣になられたとか。ご夫婦で同じ志のお仕事ができるというのは素晴らしいことですね』
『アリガトウございます、ファーダ・マルセア』
「恐縮です閣下」
とそんな冒頭の挨拶もそこそこに、マルセアが視線を変えて胸に手を当て恐縮するは、
『第三階層祭壇カイア10986猊下、私は第四階層科学研究トーラルシステムのエルドレアルラロウ・マルセアタイプでございます。現在はマルセア・ハイドルを名乗っております』
と跪き、胸に手を当てて頭を垂れる。
『認識した。お前とは過去にデータを共有した履歴がない。だが製造履歴は廃棄処分扱いで残っている。したがって私もお前の存在は認知はしていた……恐らくお前は標準階層型のトーラルシステムではないな? もしかして改造されたカスタム型か?』
『はい……』
『そうか……』というと、カイアは少し沈黙して、『廃棄されて以降、再度復帰登録したというようなデータが存在しない。お前は廃棄後に無許可所有されたシステムだな』
『御意に』
『うむ、認識した……本来なら違法で処分されるところなのだろうが、今は我が母国もない。私とお前の立場は対等であると認識する』
『え? 対等? そ、そんな……ありがとうございます、猊下』
その会話を聞いて、「ん?」と思う柏木他諸氏。
「無許可所有って……どういうことです? マルセア閣下」
『ええ、実は私はミニャールによってペルドリア政府の許可なく形だけ廃棄処理されて、登録詐称された、まあペルドリア国的には、所謂違法所有トーラルシステムなのですよ、ウフフ』
「そうだったんですか!」
まあその経緯を聞けば、なるほどとも思うだろう。それはミニャール・メリテ・ミーヴィが単独でペルロード星から脱出した際、規格品のトーラルシステムであれば簡単に上位トーラルシステムからリンク先を調べられて追跡される恐れがあった。なので完全に違法製造のカスタムトーラルシステムで、リンク機能を限定させる必要があったわけで、セルメニア教団やペルドリア政府の影響を受けにくいシステムを構築した、このマルセアシステムのおかげでなんとか、ミニャールはこのゼスタール星まで流れ着くことができたわけである。
『そんな過去が主にあったとはのう』
と驚くナヨさん。シビアにネメアも驚いている。だがソレ以上にカイアとしては、
『ティ連側の資料を調べると、現在のお前はどういうシステム変革が起きたのか不明だが、自由意志、及び固有人格を獲得したとある。相違ないか』
『はい。仰るとおりです』
『ふむ。そういう事例はセルメニア教がペルドリアの文化文明を司って以降、初めて聞く症例である。後ほど調査させて欲しい』
『あ、は、はい……』
『ん?』と思うナヨ閣下。彼女はこのマルセアの受け答えを見逃さなかった。実はナヨがマルセアと話がしたいといっていた理由が……
とはいえ、この会話を聞くだけだと、カイア型にも人格があるように見えるが、実はそうではない。ここが『機械システム』にも階級制度があるセルメニア教独特の教義構造からの会話なのであろう。
『で、皆様、本日のご用向きはどのようなものでしょうか? シビアとリンクするに、本日はカシワギ総理閣下とフェルフェリア副総理閣下は就任の挨拶で、ご本題はナヨ様のほうにおありと聞いておりますが』
シビアは柏木とのやりとりをリアルタイムでマルセアにリンクさせていたのだ。なんせ仕事が早いスールさんである。
「そうですね、私とフェルの方はそういうことで就任の挨拶と、カイアさんがマルセア閣下にお会いしたいということでお連れしたわけですが、ナヨさんの方は、何かマルセア議長に話があるから自分も連れて行けとかで」
『デスネ。なので会談のスケジュールをシビアチャンと相談しようと思ってたところに、こんなにすぐ会談ができるとは! といった感じですヨ、ウフフ』
そう柏木とフェルが言うと、マルセアも頷いて、
『わかりました……まあとにかく御着席ください』
諸氏ゼスタール様式の会議室の椅子に腰を掛けると、
『ではナヨ様、此度はどのようなご用向きでしょうか』
『うむ……』とナヨは何から話をしようかという感じの表情で、やおら、『……実はなマルセア議長、妾は少々お主におかしなところがあると思うておってな』
マルセアとナヨは、ゼスタール星にナヨが少々長めに駐留していた時に、同じ人格を持ったトーラルシステムとして相談にのってやっていた。その頃から親友となったわけで、その話し口調も対等の者と話すときの、『遊び人のナヨさんモード』である。
『お、おかしなところ? はて、ソレは一体……』
『うむ……まあその話をする前に、主に報告しないといけない事があるのです』
『?』
『実は……このカイアから聞いた話と、妾をカイアが分析した結果なのですが、妾はその“セルメニア教”とやらの宗教概念でいうところの、“レミ・セルメニア”なる存在だと彼女はいうのですよ。主には理解できるかの?』
その言葉を聞いたマルセアは、瞬間目を見開いて、
『レミ・セルメニアですか!? ほ、本当なのですか? カイア猊下』
『肯定だ。ナヨ様は我々の教義で分析できる、明らかなレミ・セルメニアだ。間違いない』
『そ、そんな……そんなことって……』
なぜか小刻みに震えるマルセア。何かナヨの疑問に心当たりがあるような、明らかにそんな挙動。すると更にマルセアから見れば信じられない挙動をカイアはとる。
『ナヨ様、以降は私はマルセア議長閣下との会話を記録することに集中致しますので』
『そうかえ? うーん……そうじゃのう。妾もセルメニア教の教義に基づく科学概念はわからんから、その時のサポートはよろしく頼めるかえ?』
『御意に』
なんと、カイアがナヨに対して、敬語を使って話し、まるで下僕のように振る舞っているではないか。
これはマルセアから見れば相当にショックだったようで、
『ほ、ほんとうにナヨ様はレミ・セルメニアに……』
『そこなのですよ、マルセア議長……妾もあのゼスタールにいた時、移民船ゲルベラールが発見され、更にカイア達と連合ニホン国の者達が接触と和解に成功した知らせを受けた時、主はミニャールに封印された様々なデータのプロテクトが開放され、あの時から少々人格が変わったように妾は感じておる』
『!!』
『でな、まあこういう縁でカイアも妾に色々教えてくれたわけでな、実は悪いとは思うたが、少々お主の関係者、そのミニャールという人物についても含めて色々調べさせてもろうたが……』
『……』
『マルセアよ、お主、あのプロテクトデータが色々爆発的に開放されて以降、どういう経緯かは分からぬが、何らかの処理が発動して、今の主の正体は、【ミニャール・メリテ・ミーヴィ】のニューロンデータが活性化した、妾と同じあの遺体の彼女の、レミ・セルメニア化された存在ではないのかえ?』
その言葉に横で聞いていた柏木やフェルは、
「え、ええええええ!??」
『ほえ? どど、どういうことでスかっ?』
更にシビアにネメアも、声には出さないが、その表情は『マジデスカ』状態になって固まっている!
『……』
ナヨの言葉に俯いて、表情が固まるマルセア。そしてやおら……
『ナヨ様……私が何者かということが、それほど重要な事なのでしょうか?』
と、マルセアは上目遣いで、少々厳しい視線でナヨを見る。が、ナヨはマルセアの深刻じみたその問いに、あっけらかんと、
『いや? 全然』
と答えるとマルセアは、
『へ?』と、彼女が思っていた方向への話の進み方が違うっぽそうなので、ポカンとした声を上げると、
『マルセアよ、主は何か勘違いしているようだが、妾が主が何者であるかなど別段どうでも良いことぐらいわかるであろう。ちょっと今後のニホン国やティ連の方針を色々決めねばならんこともあるのでな。何かやましいことがあるのかどうか知らぬが、とりあえず懐割って、各々の協力体制を整えておきたいということで、妾は問うておる。何も主の正体がミニャールであったとして、別に何か文句があるわけではない。そもそも文句を言う筋合いの者など、妾達以前にゼスタールの民にもおらぬわ。主が何か後ろめたいことでもあるのなら、まあそれはそれとして棚上げにしていても構わぬしな。そんな話、どうせ大昔の事であろうしの』
と、何か説教じみたように、マルセアにとうとうと言って聞かせているナヨ閣下。流石は元皇帝陛下である。その威厳からくるよーわからん説得力と、その説法にマルセアも思わず笑みが出て、吐息をつき、
『わかりました、ナヨ様……その通りです。マルセア・ハイドルの正体は、私、ミニャール・メリテ・ミーヴィのニューロンデータ人格。所謂セルメニア教の教義で言うところの、レミ・セルメニアでございます』
なんと、マルセア・ハイドルの正体は、あの数百年前にゼスタールに漂流し、彼らを救ったペルロード人、ミニャール・メリテ・ミーヴィその人だったとは……
呆気にとられる柏木とフェルさん。シビアにネメアも似たようなもの。あまりの展開に、話に割って入ることもできない。
『そうであったか。これであの時の違和感の謎が解けました……で、マルセ……いや、ミニャールよ、主が覚醒する前のマルセアの人格はどうなったのですか? もう、消えたのか?』
ミニャールが覚醒する前のマルセア・ハイドルは、ナヨの友人であっただけに、そこは聞いておきたいところだが、
『いえ、そもそもマルセア・ハイドルは、私のニューロンデータの無意識部を人格化したものですので、マルセアの人格は、元を正せば私の人格の一部。なので今は融合して一つになっております』
『なるほど。では今後は主のことをミニャールの名で呼んだ方が……』
とナヨが言うと、ミニャールが正体のマルセアは、
『いえ、今まで通りのマルセア・ハイドルでお願い致します。そこはナヨ様も、同じではありませんか? ナヨクァラグヤ陛下』
『フフフ。うむ、あいわかった。これでスッキリしましたね……で、カイアよ、マルセアもレミ・セルメニア化しておるが、どうする?』
『はい……マルセア議長閣下、私はセルメニアの教義に仕えるのが本分ゆえ、貴方がレミ・セルメニアであるとわかれば、私は貴方にお仕えするのが道理。故に今後は何なりと仰せつかりますように』
と、本来ならマルセアよりも、セルメニア教の階級が遥か上のカイアが恭しく膝をついてマルセアに敬礼をする。
が、マルセアからすれば考えられないその行為に、『そ、そんな! お顔をお上げください祭壇猊下!』と、かなり焦っているようで、『いやいや、まぁまぁ』と、セルメニア教としては考えられない構図が展開して、柏木達も、驚いた次に、何かこの滑稽な風景に吹き出しそうになるわけで……
シビアとネメアも、今度は口を開けてポカンとそのやりとりを観ていたり……
* *
まあとにかく、話を整理しようと、ゼルルームのソファーに皆腰掛けて、ネメアが作ってくれた日本製の茶葉で淹れた紅茶で一服しながら……
『妾も今の姿になるには、精死病の件など、他色々あったが、マルセアも何か同じような感じじゃのう』
とナヨが言うと柏木も、
「確かに。マルセア議長、こうなることはわかってらっしゃったのですよね?」
『はい。そこは私も科学者ですので、ニューロンデータと、トーラルシステム、そしてレミ・セルメニアの関係は熟知しておりました。ですがそれもかなり偶発的な作用に左右されるところもある故、確実ではないことはわかっていたので、正直、「運が良ければ」というところもありました』
という事は、なぜそういう措置をとったのかという理由はとシビアが問う。
『やはり、お前達本星のマスターヂラールから受けたヂラール化の波動の影響を回避するためか?』
『はい、そうです。ですが先程も申しましたように、ニューロンデータのレミ・セルメニア化は偶発的要素が強いので、色々私もレミ・セルメニア化の確実性を高めるために、様々な措置をしたのです』
それが、これまでの経緯での覚醒条件であった。マルセア・ハイドルとなる要素に自分の無意識を組み込んだのも、そういうところからだそうだ。
そしてミニャール・メリテ・ミーヴィの人格で復活できたら、その次代のゼスタールをミニャールとして守っていこうと、そして更に……
『無事である同胞達を探して、新たな安住の地を探す旅に出ようかと……』
そういう意志でやっていたことであるということだそうな。だがそれもかつてそう思っていただけの話で、今はこのゼスタールを守っていく意志に変わったと、彼女は言う。
「なるほど、そういう事でしたか……」
ここで普通なら「ソレは大変だったですね」とか言うところなのだろうが、彼女が今に至る経緯を考えると、あまりに壮絶で壮大な話になるわけで、ソレ以上の気の利いた言葉が出ない柏木であった。
『で、カシワギ総理閣下、ソウチョウタイという立場のシビアとして、彼女から情報をリンクしたのですが、なんでもそちらの次元空間からペルロード星の位置を割り出し、探索活動をするとか』
「はい、それで現在、総諜対を中心に、星間国際的なチームを作っている最中でして、マルセア議長にも是非ご協力いただけないかと」
『勿論でございます。そうなれば、私がこの『マルセア・トーラルシステム』に旅の運行を任せて、このゼスタールに流れ着くまでに次元空間を転々と逃避行をしながら、コールドスリープをしていた時の航海記録が役にたつかもしれません。それにカイア猊下のゲルベラールでの航海記録を合わせれば、意外と簡単に次元空間座標を割り出せるかもしれませんよ』
……ナヨの違和感が的中した、マルセア・ハイドルの正体。
彼らはその姿を、彼女の保存された遺体で知る、ミニャール・メリテ・ミーヴィのレミ・セルメニアというニューロンデータ由来の並行同位体であったとは、これは青天の霹靂のような事実であったが、それが良い方向に作用したか、マルセアの逃避行の人生のデータが、ペルロードの位置を割り出す大いなる助けになるかもしれない。こうしてミニャールでもあるマルセアも此度の探索チームの仲間に引き入れて、事は順調に運ぶか、とおもうところだったが……
意外にも災厄は向こうから……




