【最終章】第七七話 『柏木真人 内閣総理大臣』
二〇二*年 *月*日 記録者:情報省・総合諜報対応班 二等諜報正 月丘和輝。
聴取内容:
惑星エルミナス(旧称惑星イルナット)が属するニーラ星系の第五番惑星付近に漂流していた移民宇宙船・ゲルベラールより救助、保護した、ペルロード人男性と女性に対して、今後の対ヂラール安全保障の情報資料としての聴取を行った。
ペルロード人男性の氏名(コードネーム・タロウ)は、ジェルダム・ヌタ・ガークラ。職業はセルメニア教聖職者。僧兵という私設軍隊的な組織の士官であると称している。以下この人物を【甲】と記載する。
同じく女性の氏名(コードネーム・ハナコ)は、アルカーネ・ミョン・ヒェルビオ。職業は外科医で、専門分野は循環器系と称している。以下、この人物を【乙】と記載する。尚、本聴取には同じく移民宇宙船ゲルベラールに搭載されていたトーラル型自律思考人工頭脳システム・カイア10986型も同席し、当該二人を補佐、助言することを許可し、聴取された。以下カイア10986は【カイア型】と表記する。
一:惑星ペルロード・ペルドリア聖教国の位置。
ペルロード人の発生箇所、所謂母国となる惑星ペルロードにおける主権体、ペルドリア聖教国として我々もすでに知る国家の存在箇所は、未知の別宇宙空間にある。
尚、時空間座標は、ゼスタール合議体やティ連各国も未知の箇所であるため、現在移民船中央システム、カイア型トーラルシステムの資料と次元座標位置を整合中である。(付帯資料1を参照)
二:ペルドリア聖教国の政体
ペルドリア国における国教セルメニア教の教義を主体とする宗教国家である。
その政体は、我が国のような、完全な民主主義とはいえない政治体制であり、厳格な身分階級制度のある中央集権国家である。
カイア型と、甲人物、乙人物の証言を総合すると、中央集権体制であるセルメニア教における身分階層は、法制にも属するセルメニア教義により七段階に分れている。その国民、及び市民(信徒)の階層における身分内容を、低階層順に表記する。
○第七階層
所謂、もっとも低い身分階層になる市民階級で、所謂我々日本人やティ連人等の外国人にカイア型がよく使う呼称【タザリア】と呼ばれる異教徒もこの階層に含まれる。
そして犯罪者や、宗教的断罪者、ペルドリア国では違法となる無神論者や、違法ではないが、法的サービスにかなりの制限がかかる他宗教宗派などもこの階層に含まれ、更に反政府組織のような集団もこれに含まれる。
セルメニア教徒であるペルロード人は、他種族、即ちペルロード人からみた『異星人』との接触に対し積極的ではなかったため、他種族人との交流はあるにはあったが、むしろ他種族人自体がタザリアと定義されていたために、この第七階層を通じての交流が一般的であり、また盛んであった。
本来このような交流は、宗教法上『違法』ではあるが、第六階層以上の階層の市民があまり積極的にこの階層の民と関わらなかったため、事実上の放置状態で、第七階層は治外法権階層状態にあったため、他種族文化との交流がむしろ盛んになり、事実上ペルロード人の対外外交の窓口として、この第七階層が機能していたという状況であったらしい。従ってこの階層における市民生活のレベルは決して貧困というわけではなかったと【甲・乙】は証言している。
○第六階層
所謂、一般的な市民階層となる信徒の身分で、職業的には所謂わが地球社会で言う『ブルーカラー』のような肉体労働者の身分がこれにあたる。
○第五階層
所謂、一般的な市民階層となる信徒の身分となる中間階級の身分で、わが地球社会で言う『ホワイトカラー』的な頭脳労働者がこれにあたる。
○第四階層
第六、第五階層の職種に対する指導的立場にあたる人物。具体的にいえば、企業組織の役員、教育機関の準教授以上や理事、校長、医学会でいえば、開業医や、医療部長以上、軍人の場合は、国軍の全幹部将校、及びセルメニア教を守護するセルメニア教守護軍と呼ばれる組織の中堅幹部がこの階層に位置する。
尚、今回保護した【甲】、【乙】、そして惑星ゼスタールで遺体となっていた【ミニャール・メリテ・ミ―ヴィ】なる女性ペルロード人はこの階層の身分になる。
そして、ミニャールのパートナーとして稼働していた【マルセア型】トーラルシステム(現、人格会得型トーラル人工頭脳システム兼、ゼスタール連邦議長、マルセア・ハイドル閣下)も、元はこの第四階層市民用の科学研究用トーラルシステムだった。
○第三階層
セルメニア教における、宗教的中堅幹部クラスの地位が、この階層にあたる。
ベルアと呼称される、所謂地球のキリスト教圏で喩えられるところの『司祭』『神父』『牧師』のような職種がこの階層になり、この階層から事実上のセルメニア教組織そのものとなるようである。
さらにセルメニア教守護軍の高級将校も、この階層に属する。
尚、カイア型は、この階層の指導的役割を補佐するトーラルシステムであり、システムでありながら『祭壇猊下』の敬称を持っている。
○第二階層
セルメニア教における高級指導幹部の役職であるガロアと呼称される役職で、所謂地球のキリスト教圏で喩えられるところの『大司教』『司教』クラスがこの階層の身分になり、カイア型の言うところでは、表向き第三階層以下の市民が、顔を合わせられる最高位のセルメニア教の地位であるという。
○第一階層
セルメニア教の最高位に位置する階層で、今回のペルロード―ヂラールの問題における発生源である、ペルロード全体を統括する『マスタートーラルシステム』が、稼働する階層である。
【ゼウル】と呼ばれる、この国の最高指導者であり、法皇のような地位にある者と、その直接の従者、及び親衛隊の階層である。
但し、この階層にはセルメニア教における門外不出の密教教義があり、それ自身がセルメニア教の根幹を成すもののため、今回の資料提出に協力してもらったカイア型や、甲、乙の二人、そして惑星ゼスタール議長のマルセア閣下にもこの階層にはわからないところが多々あり、それ以上の資料提出は不可能で、セルメニア密教のデータを直接調べなければならないだろう、との事であった。
…………
* *
VMCタブレットに記載される月丘の書いた調書資料を読む“まだ”連合防衛総省長官の柏木真人閣下。
あいも変わらず日本のお役所文章というのは、行頭を開けない。妙に文章を詰めるといった変なルールか何かみたいなのがあるので、元ゲーム屋で、作家みたいなシナリオも書いていた柏木には、未だに違和感がある。
(ん~……セルメニア教ってのは、キリスト教とヒンズー教を足したみたいな宗教だなぁ。でもこの最下層の階級社会が、地球の身分階級と比較して、そんな『悲惨』な生活環境にはなかった、というのが興味深いところだな。というか、俺達が話せる事実上の一般市民ってこの人らじゃん。マルセア議長の言っていた大災厄でマスタートーラルが暴走した時、すべからくペルロード星のペルロード人はヂラール化したという事だそうだけど、この階層の人々はどうなったんだろうか。報告書を読む限りではかなり逞しい人達にもみえるけど……)
報告書を見る限り、この最下層の第七階層階級は、奴隷のような扱いをうけているわけでもなし、ある意味言い換えればセルメニア教的には『棄民』であるがために言い換えると『自由』な立場とも見て取れるわけで、
(もしかすると、この第七階層の社会を重点的に調べたほうが、このペルロード人の社会が良く見えるのかもしれないな。まあ次、選挙通ったら、そこから手を付けてみるかな?)
と、そんな事を思う柏木。で、『選挙通ったら?』という事はなんぞや、という話になるのだが、先日の井ノ崎との会談でこれからの事を考え、あれからフェルとも相談して日本の国政へ復帰する事を決意した柏木先生。
で、サイヴァルにそのことを連絡して本日正式に辞任の挨拶をするため、市ヶ谷にある『ティエルクマスカ銀河星間共和連合防衛総省太陽系方面軍連絡協会本部ビル』
にやってきていた。つまるとこゼル会談でサイヴァルと話すためである。
「柏木長官、ティ連本部と繋がりましたので、お入りください」
柏木の部下が長官室へ呼びに来る。彼はゼル会議室のある部屋へ入室すると、毎度のごとく瞬時にその部屋は、かのティ連防衛総称本部人工星系の第2人工本部惑星『ベルーシュ002』にある、連合議長センターの様相に景色が変わり繋がる。
そこはもうティ連本部の仮想世界である。
『やあ、いらっしゃいマサト。久しぶりだね』
「お久しぶりです、サイヴァル連合議長」
地球式の握手とハグをする二人。もう親友とも義兄弟ともいえる関係の二人であるからして、この連合議長室は彼らにとって、ざっくばらんに話ができる喫茶室みたいなものになっている。
『そうそう、昨日手に入ったディスカールの果実酒があるんだ。ハイクァーン物じゃなくて手作り物だ。一杯やるかね? ハルマ人が飲んでも大丈夫だよ』
「きついっすか?」
『いや、ハルマのシロワインぐらいだ』
「そうですか、はは、ではいただきます」
数年前までは、まだ互いに主権の違う政治家同士というのもあって、敬語で話していたサイヴァルと柏木だが、いまではもうすっかりタメ口の親友同士である。
まあ柏木からすればサイヴァルは年長者でもあるのでそこんとこは礼節もあるわけだけれども。
で、そんな感じで度々会談と称して議長室で呑んでダベってたりするこの二人。
この間も同じような感じでユーン連邦の酒みたいなのを飲んだら、きつすぎて吹っ飛んだ柏木。あらかじめどの程度のシロモノか聞いてみたりする。とはいってもゼル会談なので地球側で飲むそのお酒は、その手作り物を一〇〇パーセント正確に複製したハイクァーン物であったりするわけだが、まあ物質的にはまるっきり同じものなので大丈夫。
「お? うまいっすね」
『だろー。実は私もこのサケは好きなんだ。まあでも手造り醸造モノはなかなか入手できなくてね。これはこのあいだ来たディスカール大使の奥さんが作ったものだそうだ。そっちじゃ今のコレはハイクァーン物になるけど、また入手できたらそのときは本物をニホンへ送るよ。』
ツマミには地球のチーズにサーモンの燻製なんぞと一緒に。
『ところでマサト。私もそろそろかなとは思っていたが、まさかそういう展開で辞任することになるとはね。意外だっタよ』
「ええ、まあゼスタールの案件が片付いて、次はいよいよペルロード星の探索案件かなと思いつつ、長官在任期間更新記録いくか? とか思っていた矢先のことなのですが、『キリのいいところ』が向こうからやってきた感じでしてね」
『ふむ……しかしまさかマサトがあの初めてマリへイル達と出会った時からか……君が国家代表の座につくかもしれないとはね。私も友人として誇らしいよ』
「とはいえ、選挙に通って、さらに党内の総裁選に勝っての話ですからね。まあ井ノ崎総理はそこらへんのお膳立てはできているとはいってくれてますが」
『ふむ……私も客観的に見てマサトはティ連関係の政策や安全保障関係はまったく問題ないとは思うが、事はナイカクソウリダイジンとしての仕事だ。実際のところそれだけではすまないだろう。ニホン国民生活全般の事もある』
「その点は自覚しています。まあ一応これでも代議士を結構な期間やってましたのでね。そこらは問題ないですが、執行するとなると今の私の知名度と、できるスキルを考えると、色々リスクもあるのは確かです。ですので私が総理になれたら、引き続き副総理はフェルにやってもらおうかと思っています。そして副総理の役職も、一般的な副大統領や副議長のような正式な役職にするために法律も改正しますよ。すぐにでも」
『ナルホド、それで夫婦で総理、副総理か。はは、それはそれでなかなか面白いな』
「まあ批判もあるでしょうが、フェルと私は日本の政治家としてみれば二人で一心同体みたいなものですからね。フェルもそれでいこうと賛成してくれています。それでフェルには日本の内政と地球内の外交を引き続き担ってもらおうかと。まあもちろん私の全責任の下でですが」
『うむ、ま、そこまで用意周到なら、安全保障関連のティ連行政をニホンコクにまかせても大丈夫だな。その国家代表が、前ティ連防衛総省長官となればなおさらだ』
「それは、盟約主権国家の件ですか?」
『ああ。下馬評では、現在かろうじてイゼイラが一位で、僅差でニホンが二位、で、三位に今回もダストールが付けている。私も知っているぞ、あのケラー・フェットーと、ケラー・タガワの件』
「ああ、あの件ですか。はは」
『ああ。で、此度のこの順位は割と今後のティ連政治の展開を考えると理想的かもしれん』
「確かに」
ダストールが初の真っ当な正々堂々の選挙勝ち盟約主権国家三位につければ、此度は独力で盟約主権国家に着いたというわけで、ダストール国民の悲願達成となる。
で、日本はイゼイラとダストール。そして四位で今回敗れる予定の、ディスカールという三大大国が日本をサポートしてくれるわけで、しかもその一角の国家の国家代表がティ連の英雄で、その国の皇帝が、ナヨさんと縁のある方々となれば、実はティ連始まって以来の夢のタッグということで、ティ連内でも話題になっていたりする。
『よし、ではマサト。君の辞任を認めよう。長い間ご苦労様でしたな』
「恐縮ですサイヴァル連合議長」
『で、恒例の後任推薦だが、だれかと話はつけてるのか?』
「あ、ええ。ザムル国のデヌ閣下にお願いしましたら、喜んで後任を引き受けてくれると」
『おお、デヌ閣下か。それは良い後任だ。さすがはマサトだな。あの方なら経験も豊富で外交にも強い。それに昔はザムルの国防長官の経験もある。適任だよ』
「国防長官? そうなのですか。それは知りませんでした」
『もう随分前の事だけどなぁ……』
とそんなこんなで、なんと後任選んだのがデヌ閣下とは。さすが柏木先生、顔が広い、っつーか、この交友関係に際限ないっつーか。
もちろんサイヴァルの言う『随分前』というのも地球人感覚で言えば、地球人の平均寿命に近い『随分前』を意味している。イゼイラ人の寿命は、地球人の倍以上あるわけだからそんなところだ。
柏木も、もう往々にオッサンなので、サイヴァルとそんな思い出話もしながらグラスを傾け、まあ会談というよりも友人同士でダベってるわけだが、
『……以前、報告書で読んだマサトの推測だが、トーラルシステムを宇宙に散りばめて遺したのは、ペルロードの民と言う話があっただろう。で、トーラルシステムを造ったのはその上位高等生命体種族のセルメニアという存在だとか』
「ええ。まあ推測と言うか、私の妄想ですけどね」
『うむ、だがそのカイア10986という形式のトーラルシステムといい、ゼスタールのマルセア議長といい、あと……あのナヨクァラグヤ陛下、あいや閣下が【レミ・セルメニア】という存在だった、という話といいな……実はまだ連合国民に公表はしていないが、この部分が私としては一番びっくらこいたぞ。並行同位体の同一人物だったと言われてもにわかには信じられなかったが……んー、まあその話も含めて実はここ最近にでてきたこういう事象が、ティ連の長いトーラルの歴史でも経験してこなかった事象でもあってな。今トーラルシステム関係の工学者達はてんてこまいだよ』
「どういう事ですか?」
『一番彼らを悩ませているのが、そのカイアとかいうシステムの語るナヨクァラグヤ閣下の例、つまり【レミ・セルメニア】なるトーラルシステムのニューロンデータが人格を獲得してしまう事象だ。この事象はティ連の長い歴史でも聞いたこともないものだったからな。研究という面ではイチから始めなければならないレベルのものだよ……並行同位体とニューロンデータの融合か……』
それまでナヨ閣下の存在は、ニューロンデータが、トーラルシステム一基分の処理能力と融合して人格を持った、という解釈を仮説としてトーラルシステム研究者は定義していたのだが、なんとも実はニューロンデータと、並行同位体の存在が融合したものだったとは……
『こんな例が出てくると、我々の科学技術はやはり与えられたものであるという事を痛感するよ』
そんなサイヴァルの話にナルホドと柏木は頷く。サイヴァルの言う通りティ連の科学はリバースエンジニアリング的な科学であるがゆえに、地球や日本を『発達過程文明』として定義しているわけである。これは言い換えれば、ティ連社会自体が、科学万能を司るトーラルシステムを扱う社会であったとしても、ティ連人社会自体が『科学万能』の社会では決してないという意味でもある。それはサイヴァルやフェル他、ティ連の知識人は全員理解しているところだ。
つまりサイヴァルがいいたいことというのは、
「もし私の妄想が当たっていれば、とすると、ペルロード人のトップと、上位種族のセルメニアなる存在は、トーラルシステムがなんたるかをわかってるということでもありますものね」
『そういうことだよ、マサト……これはティ連の十万周期単位の歴史でも初めて出てくる研究課題となるし、実際そう認識して各国の関係部局も動いている』
「まずは、ペルロード人と、トーラルシステム発祥の地の探索ですか」
『ああ……惑星ハルマ、いや、チキュウでも出たんだろ? これにも驚いたが』
「ええ……」
* *
『これは……こうすればいいのか?』
『うん、そうだよっ』
『では……あ、通りましたね! ウフフ』
「ま、この星の技術レベルは、トーラル技術と折衷してますから」
新宿駅のJR改札を、切符入れて出るジェルダムにアルカーネ。
改札機の通り方を教えるは月丘にプリル。
そして周囲の人々の目は、ジェルダムとアルカーネに集中だ。って、これまたこの時代の日本国民の悪い癖で、スマホにPVMCG掲げてジェルとアルの二人を撮影している。プライベートも何もあったもんじゃない。
といってもそれも致し方ないわけで、腕が六本のヒューマノイド型異星人というのもこれまた大概珍しいのはありますわ、ってなところ。
でもユーン人の甲殻類風味で、割とデカい容姿や、ヴィスパー人の蝶々さん風味な容姿に、極めつけはザムルさんの、あの姿なんかもあって、大概人外系異星人さんもこの日本に馴染んで町中では普通に見られるようになっているのに、今さら手が六本の異星人が増えたところでどうということないじゃんとも思うが、そこはやはり、かつて一九六〇年代から大阪吹田市で開催された一九七〇年頃の日本万国博覧会では普通の外国人でもサインを貰いに行ってたような日本人である。まあつまり珍しい異星人が来て、喜んでるわけである。
で、ジェルダムとアルカーネの二人は、体の調子も元に戻ったということで、二人ともヤルバーン自治国から派遣された『移民習熟教官』に色々と今後の生活習熟教育をうけることになり、今にいたる日本―ティ連及びそれに関わる異星文明との関係を学習する過程で、現在の状況も把握できたようである。もちろんそこにはカイア10986型の補佐もあっての話で、冷静な、ってシステムなので冷静なのは当たり前だが、まあ彼女がいてくれたおかげで色々と事は今のところ順調に進んでいた。
『なるほど。資料で学習したとおりだ。あなた達は、元々はわがペルロードの文化で言えば、バラド朝期のエステマ時代ぐらいの文明だったわけか』
「あいや、ジェルダムさん、そのエステマ時代がなにかわかりませんが、あなた方もこのような時代を経験なさってたわけで?」
『ああ。あの走行車両は、おそらく液体炭素燃料の類で動いているのだろう? あの手の車両はわが文明では……と、そうか、あまり数字の年代を出しても互いの宇宙が違うから意味がないのだったな』
「まあ、そういうことですが、ということはペルロード人も、ティ連さんから見たら発達過程文明時代を経験していたということになるわけですよね」
すると、その『発達過程文明』という言葉を聞くと、ジェルダムにアルカーネは顔を見合わせて、何やら考える目をする。
月丘はその表情を見逃さなかった。
『まあそんな難しい話はあとにして、シンジュク見物にいこうよ、カズキサン! ティ連の文明と、ヤルマルティアの文明の融合性を視察するんでしょ?』
「え? あ、ああそうですね。そのエステマ時代ですか? その頃の文明と、ティ連のような超高度文明が融合して出来上がった社会で、その文明昇華の成果が顕著な国が、この日本国という国です。って、まあそんな小難しい話は抜きにして、とりあえず遠足気分で楽しんで下さい」
『で、カズキサン、カイアちゃんは?』
「っと、あれ、ついてきてたと思ったんですが……」
と周囲を見ると、ちょいと離れたところに人だかり。なんか人気者のカイア。
女子高生の自撮り撮影に応じてやっているようだ。目元ピースサインなんぞしているカイア10986。慌てて月丘はカイアを連れ戻しに行く。
「カイアさん、何やってるんですか」
『この街の若いタザリア達が私と一緒にフォトを撮りたいという。特に断る理由もないので応じてやっていた。私が現在タザリア的行為で処理していなければ、セルメニアの信徒になるべくの説法をしたいところだったが』
「いやカイアさん、ココに来てまで布教活動してどうするんですか」
『あ、で、でも目元でチョキやってたじゃないですかっ。も、もしかしてカイアちゃんにも自我が芽生えたとかっ!?』
『プリルの意見は無効。あの若者達がこの星でフォトを撮影する場合の儀礼的要項を私に教示してくれていただけの話だ」
「いやカイアさん、それはちょっと違いますから……」
そんなカイア10986をポカンとした顔で見るジェルデアとアルカーネ。
『アル、俺はあれが、敬虔なる第三階層の祭壇、カイア猊下だとはとても信じられんのだが……』
『え、ええ、私も。ゲルベラールでの説教のときなんか、恐れ多くて祭壇に近づくのも怖かったのに……』
するとどこからかこれまた女子高生らが、
「あー、ここにも新しい宇宙人さんがいる! 写真とらせてくださーい!」
「あ、ちょっとまって、ダメダメ」
とジェルダム達の前に立ち塞がる月丘だが、
「何このオッサン」
「私は政府の者です。異星人さんにもプライバシーはあるんですから、ね」
「何言ってんだコイツ、ケチ」「ダッサ」
「あーもう!」
こりゃダメだと遠巻きに監視している私服警官を手招きで呼び寄せ、対応してもらう。本来なら文化習熟を含めての現在の外出なので、あまり厳しい対応はとらなくていいと警備の警官にも言っていたが、さすがに六本腕の異星人はインパクトがある。
「プリちゃん、みんなをプラザホテルの方へ」
『あ、はいはい』
そそくさとその場を立ち去る月丘達。
『ツキオカ殿、別段あの若い女性達は、こちらに敵対心をもっているわけでもないのだろう? 適切に対応して親睦を深めるのも悪くないと思うのだが、何故に逃げるのだ?』
と怪訝そうに話すジェルダム。
『そうです。私達も今後この世界で生きていかなければならないのですから、この星の人々との交流も大切かと』
アルカーネもジェルダムと同意見だ。
「あ、いやそういうのは今後いくらでも、もうそれこそイヤでもできますので、ご心配なく。今のは数的な対応を危惧しての話で、こちらに逃げてきただけですから」
『数的対応?』
要するにあの手のギャル系学生さんは、所謂『湧いてくる』ので、対応が大変なのだが、まあそれは説明してもわからんことだし、とりあえず流す月丘。
ということで、このあたりで立派なホテルの一つ、『新宿プラザホテル』にやってきた月丘達。
街を散策がてらやってきたので、先程の通り周囲に警護のSPをはべらせながら徒歩で来てるもんだから、この立派なホテルへ入るには、ちょっと地味な登場の仕方である。
だが、ホテルに接近すると、今度はどこで待機していたか、白人と黒人の黒スーツを来た連中が飛び出して、英語で月丘に一言挨拶をすると、あからさまなボディガード態勢に入る。
ってか、カイア10986がいるのに今さらボディガードなんていらんだろうと思うが、外国人のボディガードであるからして……そう、これから月丘達がこのホテルで会おうと言う人物が雇った人員なのである。
プロの民間ボディガードで、冷静を装い周囲を警戒するプロの業を見せてくれはするが、やはりペルロード人の六本腕にどうしても視線が行ってしまうわけで、そこは致し方ないところ。
ホテルロビーに入ると、アルカーネが、
『うわぁ、とても綺麗な場所ですね、そう思いませんかジェルダム』
『ああ。文化装飾は異なるが、立派な場所であることは理解できる。ツキオカ殿、ここはどう言う場所なのだ?』
「ここはホテルですよ」
そう月丘が言うと、納得したように首を縦に振って大きく頷き、
『ああ、なるほど。しかしこのような様式の宿には、我々第四階層の信徒は宿泊できなかったから、自分も人生初体験だ』
と、そういう言葉を普通に語るジェルダムだが、月丘やプリルからすると、少し訝しがって理解する。そう、彼らは身分階級制の種族なのだ。
「え? ではあなた方の身分では、このような場所には?」
『今の身分のままだと、一生来ることはないな。正直、今この瞬間もこんなところに来れている状況もあって、逆に自分達の置かれてる立場を痛感しているよ』
なんとも言えない月丘。これが彼らにとっての普通なのだから、セルメニア信徒のエートスもあろうことで、同情の言葉を言うわけにもいかないし、まあ頷くしかない。
するとカイアが、
『ツキオカ、我々に会わせたい人物がいると言うことだが、この場所が会合場所なのか?』
「ええそうです……プリちゃん、フロントに連絡してきてくれる? 今着いたって」
『おっけー』
ピュンとフロントへ走っていくプリル。で、使いを寄越すから少し待ってろと。
そう言うわけで、言われた通り少し待つと、今度は白人女性のボンキュボンな秘書みたいな人物が、迎えにやってきた。思わず月丘もその腰部以下に目が行ってしまう。
その視線を見逃さないプリル。すかさずケツに蹴りを入れる。
「あ、イタっ!」
『カズキサン、あんな大きなオシリがいいのですか、私のは小さいもんね、へーほーふーん』
「プリちゃん、声が大きいって」
『ふんだ』
何やっとんじゃと二人を見るジェルにアル。カイアは無関心。
プリ子は結構自由人である。
* *
エレベータを降りて、所謂お金持ちしか来れないような階層に着いた諸氏。所謂最高級ルームのある場所だ。この階層に二部屋しかないVIPルームに入る秘書らしき人物。
月丘達の来訪を告げると、
「あら、いらっしゃい! カズキ!」
手を大きく広げて迎え入れるは、なんと、エドウィン・スタインベックであった!
ってか、『カズキ』なんて下の名前で呼ばれるのも初めてな月丘。
「これからはカズキってあなたの事を呼ぶわ。私のことは今後はエドでいいわよ。プリ子さんもね」
「どういう風の吹き回しですか?」
「そりゃあなた達は私の命の恩人だもの。それに我が社も今後はアンポチョウサイインカイの民間非常任理事でしょ。それぐらいの間柄にならなきゃ」
まあ安保調査委員会の話はいいとして、スタインベックはあの時命を助けてもらったことには本当に相当な恩義を感じているのは確かなようだ。もう完全に身内扱いモードである。
「で、体の方はもう大丈夫なのですか? 私の見立てでは結構な重症だったですけど」
「確かにね。でもカズキの応急処置の速さと、日本でのティ連系医療を受けたおかげで、案外回復は早かったわよ。まああとはちょっとばかし国に帰って養生させていただいたけど」
「なるほど。で、アッチの方から狙われませんでしたか? 総諜対の方でもあなたの身を案じて色々居場所を調べましたが、完全に情報遮断食らってしまったみたいでしてね」
「まあ……色々とね。これからはちょっとややこしくなるわよ」と少し眉を寄せて話すスタインベック。で、「まあその話はおいおい日を改めるとして、カズキ、今日の私とあなた達のお仕事」というと、ジェルダム達の方へ平手を軽く指して、「……彼らの事を紹介していただかないと」
「はは、ええそうですね……」
今回、月丘は、今後の日本、及び地球世界と、ペルロード人や、セルメニアと呼ばれる存在について、その研究の土台を構築すべく、この地球社会でペルロード人とのゆかりを持つだろうと思われているスタインベックと対面させることにした。
月丘がまずジェルダム達にスタインベックの事を紹介する。
「こちらは、この星、惑星地球社会の中でも、有数の巨大企業組織……って、ジェルダムさん、“企業”ってわかりますよね?」
『ああ、勿論だ。商業組織の一形態の事だな?』
「そうです。で、まあそういう組織のトップの方で、エドウィン・スタインベックさんという方です」
「エドウィン・スタインベックですわ。お初にお目にかかりますみなさん」
握手するジェルダム達とスタインベック。するとアルカーネが、
『えっと、そのスタインベック様は、トラバータなのかしら?』
「は? とら・ばーた?」
なだそりゃという表情の月丘。するとカイアがすかさず解説に入る。
『トラバータというのは、お前達地球人の言葉でいうなら、トランスジェンダーか? ということだ』
ああそういうことかと納得するスタインベック。プリルはいまいちわかってないので、月丘から解説を受けて、「おー。なるほど」とケタケタ笑っている。
「オホホ、ワタクシはこんななりですけど、性自認は男性ですわよ。ご心配なく。おトイレも男性用。ニホンの温泉も男性用ですわ。ま、元からの性格ですわね。女姉弟の多い家庭で育ったのもありますけど」
「そうだったんですか」と横から突っ込む月丘。眉をクイクイ上げるスタインベック。
『ああ、良かった。安心しました』
というアルカーネだが、どういうことだと尋ねると、そこもカイアがすかさず解説に入り、
『セルメニア教では、トラバータは禁忌なのだ。発覚すれば死罪もありえる。従ってトラバータの者は、第七階層社会によく逃げ込む』
「なるほどね。まるでどこかの一神教みたいな感じかしら」
こういう話を聞けば、このセルメニア教は、結構厳格な宗教なのだろうと推察できる。
「で、スタインベックさん、最後にこの方が……」
「ええ、お話には聞いていますわ。トーラルシステムのお方ですわね」
「またですか……まあその“お話”をどこから仕入れたのかは聞かないことにしますが……一応機密情報なんですからね、ほんとに……」
頭抱える月丘。
で、握手するスタインベックとカイア10986型……握手した瞬間カイアは、
『なるほど。ツキオカがこの人物と我々を対面させようとした理由が解析できた』
スタインベックと月丘、プリルは目を合わせてニっと笑う。
「流石カズキ達を翻弄しただけのことはある人工頭脳サン。すごいですわね」
「いやだから会長、どういうルートでそんな情報を」
「会長じゃないでしょ、カズキ」
「ああもう、わかりましたエドさん」
「OKOK」
なんか漫才やってるスタインベックと月丘はほっといて、
『猊下、握手をしただけでその理由がわかるとは一体どういうことでしょうか』
と訝しげに尋ねるジェルダムだが、
『ジェルダム、このスタインベックなる人物は、我々ペルロードの遺伝子情報を持っている』
『えっ?! どういうことですか?』
驚くジェルダムとアルカーネ。するとスタインベックが、
「そういうことです。私の家に代々伝わる伝承と、ここにいるプリ子さんたちヤルバーンの方々がこの惑星地球へやってきて、私達地球人もヂラールとの会戦を経て、まあ色々と研究が進んだ結果わかったのが、私達があなた方お二人ペルロードの血を引く末裔だという事でした」
だが、スタインベックの容姿はどう見ても地球人で白人であるわけで、その姿を見てアルカーネは、
『ですが、それにしては私達と腕の数も違いますし、容姿も……』
と疑問を呈するが、サイバネティクスにも造詣が深いプリルが、
『そこはですね、昔このチキューにやってきたペルロード人さんが、この惑星に馴染もうとして、2対の腕を捨てて、遺伝的にもチキュー人の遺伝が強くなるように子孫を遺していった結果なのでは? と、そんな推測を立てていますよ』
『ですが、もしそうならどれぐらい前からこの星へわが同胞がやってきていたのか』
その問いには、月丘が答える。
「恐らく、『定期的に』という言葉が適当かもしれませんね」
『定期的に? それはどういう意味だ? ツキオカ殿』
「そこはまだこちらでも調査中の案件なので、はっきりとした事は言えないのですが……うん、そうですね。はっきりとしたことはまだ言えません。そのあたりのことも皆さんにご協力頂こうかと思っているわけなので、今後ともよろしくおねがいしたいところなのです……ね、エドさん」
「そういうことね……エリア51とセルカッツさん達の件もあるし、それにあの遺跡も見てもらわないといけないし」
「ですね」
と、これまで新たに色々と出てきたペルロード案件の諸々に、この三人の協力を仰ぐ必要が出てるわけで、それはヂラールの脅威と、安全保障を宇宙規模で確立させるための必須となるファクターが、この場所にいる面々なのであった……
* *
さて、二〇二云年の某月某日。日本がティエルクマスカ連合に加盟して、一〇年ちょっとが過ぎたある日。
連合日本国の政治は、一〇年余前のあの日を彷彿とさせるような、そんな話題に満ちた日となっていた。
そしてこの日は、大きな話題性をもって地球世界各国にも発信される大きな出来事となる、そんな時であった。
その日、日本では衆議院が解散する事となった。井ノ崎内閣三年程の政権が解散した。
井ノ崎政権の最終支持率は、統計を取るマスコミ各社によって毎度の事で若干の違いがあり、また右左のイデオロギーでも少々の格差はあれど、概ね三六パーセントから四〇パーセント程の支持率であった。正直悪い数字ではないが、井ノ崎は衆議院の解散を打った。その理由は今、マスコミが自由保守党本部にわんさと集まって、カメラの砲列を向けて、ある人物を捉えようと躍起になっている、その姿からわかろうものというものである。
「……井ノ崎政権の支持率は、さほど低いというわけではありません。ですが昨今の自保党支持率の微妙な低下傾向は、ティ連の科学技術を国政にうまく反映できていないという不満を表すものになっているようです……日本がティエルマスカ連合に加盟して、今年で一〇年を過ぎるわけですが、ティ連の技術導入に伴う福祉政策や、就業政策、ハイクァーン技術を応用したベーシックインカムなど、他外交面でも、軍事方面の安全保障関係の技術は、諸外国でもゼスタール技術や、グロウム技術の応用など各国でも相応に研究は進んでいるようですが、一番技術的に最も効果的で高度なティ連技術に関しては、一般技術公開要請を日本はまだ受け付けていません。そのような諸外国の要請や、一般社会へ普及させる課題に対応するため、与党自保党は、かの柏木真人連合防衛総省長官に日本の政治への復帰を要請した、というこの度の情報は、現在下降気味の自保党支持率にどのような影響を与えるのか、注目したいところです……」
マスコミも現在は取材する記者個人に取材対象の案件に応じた国家資格が必要となっているところもあって、昔のジャーナリストを騙るような活動家まがいな連中も相応に排除されており、幾ばくかはマシな報道もなされていた……まあソレ以前に既存メディア自体がティ連の広域情報システムを母体とした商用メディアに押されて、もう今や迂闊なことが言えなくなったというところもあるわけではあるが……
そんな中、現在も旺盛な『連合日本・一〇年後版』のような某ネット社会にも今回の『柏木真人、日本政界復帰』の情報は、いろんな事をネタにされながらも、歓迎されてるのかどうなのか、まあいろんな意見が飛び交う状況での展開となっていた。
【@****:連合防衛総省の長官だった柏木閣下が日本政界復帰ってさ、連合防衛総省長官と、衆議院議員なんて格が違いすぎだろ】
【@****:まあでも、なんにしても最初は選挙当選してからの話だしなぁ】
【@****:で、長官職はクビ? クビなの?】
【@****:依願退職だってさ。というか、長官職は任期ないから普通は何年かで自主退職する慣習が、防衛総省にはあるんだってよ】
【@****:そこを狙っての日本政界復帰か。まあモチロン支持率取りのサプライズもあるだろうな】
【@****:だよなぁ。嫁のフェルさんが副総理兼外務大臣で、三島閣下の後釜をずっとやってるわけで、それに匹敵する役職じゃないと釣り合わんな。また連合議員職やるんかな?】
【@****:でさ、次の総理候補は誰が有力なん?】
【@****:来田に川之内、清水に、高士】
【@****:川之内はないわ。支那の訳のわからん核融合発電技術売り込みしようとしてたし】
【@****:清水はあの発言がなぁ……】
【@****:とうことは来田か高士か?】
【@****:高士は外様だから、旧三島派が閣下にどうお伺い立ててるかがも問題】
【@****:あーそうか、俺、高士女史がいいんだけど、三島派は絶対外様になるともめるもんなぁ。春日の時もそうだったし】
【@****:ということは来田が最有力か……】
なんて、まああの一〇年前のようなアスキーアート満載な、と、そんな感じではないものの、世のネット空間では政治談義が花を咲かす。
特に今回は、真正保守政治を謳った、この世界の有名作家が立ち上げた保守政党も名乗りを上げてるという状況であるからして、なかなか目が離せない。
【@****:ということでクソゲー売りゲホゲホゲホ……長官閣下様はどんな職につくんでそ。まあ当選はもう確定だろうしよ】
【@****:選挙区は前と同じで大阪だしな。柏木の後任でフェルさんもあの選挙区から出てたけど、此度はフェルさん、比例区に戻るんだってさ。フェルさんもOKしてるんだって。あの人そんなの全然気にしないからな】
【@****:というか、前と同じに戻っただけだし】
【@****:で、長官閣下様の役職はよ、】
【@****:多分、防衛総省長官だったから防衛大臣とか】
【@****:今最も重要な役所の、情報省大臣じゃないのか?】
【@****:それは大方の予想で、二藤部ちゃん続投じゃないかって。なんせ創設者だし】
【@****:んじゃ、党の事実上のトップ、幹事長がありえるかもな。でないとフェルさんとのバランスが取れん】
と、巷の下馬評では、柏木が内閣総理大臣になるなんて予想は、まっっっっったくないらしい……今でもクソゲー売りの字は健在だし。
* *
さて、そんなこんなで選挙当日までの月日もあっという間にやってくる。
当然、柏木は大阪8区で圧倒的な強さを持って凱旋当選するわけになるのだが、当時からもう当確候補扱いされていたので、辻立ち選挙演説みたいなものはあまりやらなかったわけだが、そこは一〇年前の再現というのもあって、かの大阪府豊中市、千里中央での街頭演説はやらなきゃいかんだろうということもあって、やったわけだが……
「うわ……もう全然違うショッピングモールみたいになっちゃってるよ……」
と、かつて存在し、半世紀近くそこにあった……そう、フェルの操るヴァルメと初めて対峙し、名刺を突っ込んだ白いショッピングセンターも今はなく、かつての大急百貨店と統合するような形の今風なショッピングセンターに様変わりしていたわけで、
『なあフェル、かつてあったものが無くなって、ぜんぜん違う建物になるってのも、色々思うところがあるよねぇ……』
『ソウですねぇマサトさん。そんだけ私達もオッチャンとオバチャンになっちゃったッテ事デスよ。ハァ~』
と、夫婦で街頭演説ならぬ、街頭漫才をやってみたり……そう、もうここまで時代が変わってしまっているのである。あの柏木が助けた櫻井さんがアルバイトやってた喫茶店も、今はもうない。聞いた話では、櫻井は現在、三島グループ傘下の企業で管理職をやっているという。たいしたものである。
『(あ、マサトサン、あれ……)』
『(ん? って、ありゃ月丘君とプリ子君じゃないか……で、側に連れているのは……ペルロードの三人か!)』
なんと、月丘達が柏木の選挙演説をわざわざ千里中央までやってきて見学していたのである。
柏木とフェルは、部下の秘書にこっちへ来てもらうよう呼びにいけ、と指示をする。柏木やフェルが直に会いに行ったら、現場が大混乱になるからだ。
「やあ月丘君! 久しぶりだね!」
『お元気デシたか? プリ子サンも!』
ハグして握手。彼らとの対面は、ちょっと久しぶりになる。
「ども、柏木長官、って前長官でしたか、はは」
「まあ次は多分……聞いてる?」
「ええ、白木さんからは少し。スゴイですね、そうなったら」
「現状考えたら、受けなきゃいけないんだろなぁってね……っと、現物で対面するのは初めてだけど、紹介してよ」
『デスね、ワタクシも噂の種族さんとのご対面デスからドキワクしてますヨ』
と、そういうことで、カイア10986型に、ジェルダムとアルカーネを紹介する。
『初めてお目にかかる。ペルロード型トーラルシステムのカイア10986型である。認識を要請する』
『初めてお目にかかります閣下方。ジェルダム・ヌタ・ガーグラと申します。お話はツキオカ殿から伺っております。貴殿らのような高官にお目通りできるとは光栄の極み』
『アルカーネ・ミョン・ヒェルビオと申します。お会いできて光栄でございます』
礼儀正しくペルロード式、というよりも、セルメニア教式の敬礼をする二人。態度でかいのはシステム人格さんのカイアだけ。
「……なるほど、ということは日本やティ連の文化習熟のために色々とまわってるのか」
「はい、そういうことです。プリちゃんと私が、まあ付き添え人という感じですね」
『ケラー・プリ子もいつもケラー・ツキオカと一緒ですね。ムフフ』
『あ、フリンゼ、それはどういう意味ですかっ?』
『いや、もうそろそろかなぁトカ、そんな風に思いますケド、噂を全然聞きませんのでね~』
『え? プリル殿は、ツキオカ殿とそういう間柄だったのか? 初めて聞くが』
『ですね、ならジェルと私がいろいろと今度は相談に乗ってさしあげないと。信仰してらっしゃる宗教はどのような形式の……』
「ああ! もうフェル大臣、今ここでそんな話をしなくても!」
『ツキオカ、詳細なデータの提供を希望する』
「カイアさんまで何を勝手に処理してるんですかっ!」
と、選挙真っ最中で次の会場にいかなきゃいけないのにこんな会話やって、スタッフがキレかかってるというか、そんな感じで、まあ、一〇年前とはちょっと違うが、そんな選挙をやってという感じで……
というところで、投票日当日になるわけだが、まあこれも順当に柏木は再選して、フェルも再選して、今度は柏木の去就にマスコミは世の話題として追っかけていくわけなのだが……
そこで発表される、今の一般国民は知らない、驚愕の自保党の陰謀、というか策略というか、ある意味卑怯千万な戦法というか……そんな事実を公表されることになるわけである。
そりゃもう、巷の新聞で……って、未だに新聞がなんとか生き残ってるこの世界も大したものだが、まあ各紙だいたいまとめると、
【自保党次期総裁、柏木真人氏濃厚】
【自保党次期総裁、柏木真人氏で一本化か】
ってなニュースが世に飛び出すと、この時代のネット空間でもそりゃみんなびっくらこいて、
【@****:マ・ジ・カ!】
【@****:クソゲー売ってた奴が、総理大臣デスか!】
【@****:なんか昔、漫画であったな。『課長ナントカ』とか】
【@****:って、柏木ってまだ当選回数だけでいえば、今回で三回ぐらいじゃないのか? 自保党って役職=当選回数だろ、いいのかよ】
【つっても、もうフェルさんや、他のティ連議員さんの閣僚職っていう前例がもうあるしなぁ。柏木も最初は民間特命大臣だったし】
【@****:そうそう、それみんな二藤部ちゃんや、井ノ崎ちゃんの功績】
【まあそれに、柏木の経歴だけ見れば、やっぱり前連合防衛総省長官っていう役職が、ガッツリ効いてるもんな】
【@****:だよなぁ。言ってみれば柏木ってティ連のナンバー5ぐらいの地位にいたんだもんなぁ】
【@****:グロウム帝国案件の指揮だろ? で、ゼスタール戦争の指揮、まあ宇宙安全保障に関しては、右に出るものは今のところないな、この地球では】
【@****:でも、国内問題もせにゃいかんだろうよ】
【@****:そのへんは街頭演説でも言ってたけど、日本の政治体制におけるトップを首相・副首相制にして、副首相にフェルさんを指名して、夫婦でティ連と地球内外交と、日本国内の内務を分担してやるっていってたぞ】
【@****:夫婦内閣か。しかも異星人嫁との……ってか担当普通逆じゃね?】
【@****:そこがそうでないのが面白いところよな】
と、そんな毎度の如く、一歩間違えばネットのネタ話で終わりそうな話で盛り上がるのも、どれだけ偉い役職やっても基本突撃バカ扱いがベースの柏木真人。
ということで、各新聞がすっぱ抜いたスクープもそのままに、今回の自保党では井ノ崎の言っていた通り、柏木真人を担いで、一本化する。
で、此度の選挙では、日本共産連盟と公正党、民生党が大きく議席を減らし、日本立志会がかろうじて議席を維持。そして新規政党、『新保守党(新保党)』が大きく議席を増やすことになった。
そんな時代の新しい連合日本国の国家代表、『第**代内閣総理大臣 柏木真人』
の誕生は……
八王子の絹代がひっくりかえって、恵美が弁当喉につまらせて、桐山せつなこと、玲奈がブーーーーとコーヒー吹いて……
スタインベックがニヤリと笑う、そんな日本史に残る一大事件となる時でもあった……




