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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
74/89

【第一二章・スケールⅣ】第七三話 『インベスター分裂』(下)


 本来は月丘達がパイド・パイパー社の、件のトーラル遺跡発掘施設に潜入し、諜報偵察を兼ねてスタインベックの救出も可能であれば行うという作戦だった。

 スタインベックはこの施設の地下大空洞へつながるエレベーター施設を爆破することに成功したが、追手の李方博率いる反スタインベック派精鋭部隊に追われることになる。

 そして月丘と合流できたものの、敵スナイパーに狙撃されて命に関わる重症を負ってしまう。


 反スタインベック派とスタインベック派ともいえるインベスターの内部分裂の様相を見せたこの騒動は、スタインベックが暗殺に巻き込まれるという予想だにしない状況が待っていた。

 側に月丘がいたのが不幸中の幸いで、まだ予断は全く許さないが、なんとかスタインベックに応急救命措置を施し、援護に来た大見達『八千矛隊』に後をまかせ、月丘はこの騒動を指揮する因縁の相手、北朝鮮人民偵察総局の工作員、李方博の後を追う……


    *    *


 こんな戦闘状況で敵の指揮官が下がるということは、それを追う月丘は敵部隊のど真ん中を突っ切って追わなければならないという構図になる。

 当然壮絶な銃撃戦が発生するわけで、敵の反スタインベック派の持つ主力小銃はカラシニコフライフルの5.56ミリ口径型。

 月丘ローダーMk-2の装甲とシールドをもってすれば、この手の銃弾など恐れるに足らないわけではあるのだが、やはり相手の数である。

 銃弾に混じってグレネードや携帯ロケット弾がビュンビュン飛んでくると、流石にこれを受け続けるのもマズイわけで、ここまでの攻撃をそうそう躱しきれるものではない。 

 月丘の持つ武器はリパルションガンというPDWか大口径大型拳銃のような形の、斥力波動を利用したレールガンだ。

 初速が極音速にも達する弾をもってすれば、至近距離なら装甲車ぐらいの装甲は貫ける。なんてったって月丘はこの銃で、かのレーヴェⅡという大型機動戦車相手に兵装を破壊した実績がある。

 さらに探知偽装、つまり光学迷彩かけて李の後を追えば、すぐに会敵できるではないかと言う話もあるが、光学迷彩とはいえ、その理屈は模様を外の風景に合わせたキグルミシステムである。砂煙に着弾煙がうずまくこのような戦場では、正直あまり役には立たない。むしろかえって不気味な物体が、モワンと存在するサマになるだけであって、かえって良い標的になってしまう。

 

(あの野郎、どこにいきました?)


 追うタイミングが少し遅かったか、完全に李を見失った月丘。

 深追いしてしまったのはそのつもりだっからいいが、ここで闇雲に敵と交戦していれば、さしものローダーの御加護もそのうちなくなってしまう。


(大見司令に良い格好言って飛び出したは良いけど、こりゃ完全に包囲されましたね)


 周りを見るとPOT-116機動戦車や、T-72系列の主力戦車などなどの機動戦力に囲まれている。こんな兵器達の一斉攻撃をくらったら、さしもの月丘ローダーとはいえひとたまりもないので、スラスタージャンプで後退をして一歩下がる。

 だが包囲されているとはいえ、同じような戦力を持つ兵力が均等に配置されているわけではないので、定石通り月丘の頭部バイザーには最も手薄な戦力の箇所が表示される。

 ピピピっと突破ポイントを示すバイザーのモニター……だが……


 (? おかしいですね。後退路の候補で、この部分一点のみが最も突破しやすいと?)


 月丘ぐらいの元Pであれば、こういう戦力の配置データを見るとピンと来る。

 バイザーのシェードを上げて裸眼で見ても、明らかにそのポイントのみ、戦力がヘボい。

 つまり……


(逆に言えばここに私を追い込みたいってことですか? フフフ)


 包囲したように見せかけて……ってことかと思う月丘。

 普通の戦闘ならそんな策がわかればその手には乗らないか、敵との戦力比に自信があればかえって突っ込む事も考えるわけだろうが、


「ふむ……では、その策に乗って差し上げますか……しかし一般兵士相手ならまだしも、こんな策に普通はのってきませんよね」


 と月丘さんはいうが、それは月丘クラスの元Pで、諜報員だからいえることであって、普通は巧妙に偽装戦闘なんかして、その罠に追い込まれて、気づいたときにはもう遅いというパターンであるわけで、ソレに引っかかる同じ兵士のレベルに思われるのも正直ちょっと癪でもある月丘先生。

 だが見方を変えれば、月丘ローダーを着込んでこの数の部隊を相手に丁々発止やってるほどの存在が月丘でもあるからして、そんな奴を嵌める罠というのはそら相当なものだろう……と普通は考えて当然なので、


(では、せっかくお膳立ていただいているようなので……)


 と、わざとその包囲された弱い部分一点に突っ込む月丘。

 まさか本当にこっちにくるとは思っていなかった敵部隊の兵は、必死になって月丘を迎撃しようと、コルト社や、カラシニコフにヘッケラーアンドコッホ社製のライフルをドカドカと月丘に浴びせてくる。

 ちなみにボツワナ軍の正規ライフルは、イスラエル製の『IMI ガリル』だが、この銃を何故か敵は持っていない。即ち、そういう連中だと自分達で言ってるようなものなのである。

 で、そんな集中銃撃を浴びる月丘ではあるが、スラスターを利用した高速ホバー移動で敵の照準を撹乱して、神出鬼没の動きで敵兵士をリパルションガンでなぎ倒す。今回ばかりはスタン弾で、という訳にはいかないので、本気の銃撃戦だ。殺るか殺られるか。

 月丘のゴーグルモニターに、VBL装甲車が三輌視界に入る。

 彼は少し猫背になると、バックパック側面ウェポンベイが観音開きに細長く開いて、小型のミサイル少しせり出し姿を見せ、刹那、シュバっと斜め四五度に発射され、山なりに飛翔すると、弾頭が三つに割れて高熱源弾に変化。VBL装甲車の天井を一瞬に貫いて爆発する。

 月丘ローダー一機の性能に右往左往する敵。とはいえ一番弱い包囲の部分で、月丘を自陣の罠に引き釣り込みたいという段取りもこの連中にはあるので、ここの敵も貧乏くじを引いたものである。つまり今『一角に穴が空いた』状態となり、包囲接敵するどころか、敵兵士は小銃、手榴弾程度で月丘ローダーにハナから勝てないとふんだか、急にサっと身を引き、一瞬、敵の攻撃が極端に弱体化する現象が起きる。

 ここで騙される奴は、『敵が撤退した』と思い込んで、全員でその包囲線へ集中して大規模突撃のような感じで包囲網を突破しようと試みるわけだが、今回の反スタインベック派が雇ってるようなベテランのPMCを名乗る違法傭兵部隊からすれば、獲物が罠にかかってくれた構図になるわけで――


 月丘は一旦包囲網から抜けようと、その空いた一角から飛び出した瞬間!

 砲撃音が三発聞こえたかと思った刹那、月丘の至近距離で榴弾が三発炸裂した!


「うぉおっ!」

 

 流石にこの着弾では、月丘ローダーでも吹っ飛ばされる。

 幸い耐弾シールドもマックスで稼働してくれたおかげて、吹っ飛びはしたが自動バランサー機能が働いて、空中で一回転して着地することができた。


「な、なんですか今のは……」


 バイザーに、【推定:130㎜級榴弾】と点滅して表示されている。


「一三〇ミリクラスの榴弾、即ち戦車砲? どこから!?」


 と思う間もなく、今度は背後に熱源反応のアラートが鳴る。

 振り返ると、ロケット噴煙を放って空から何かが降りてきた!


「クッ!」


 とっさにその場をスラスタージャンプで飛び退く月丘。

 少し離れて見るその噴煙が、風に流されて消えた後、姿を現したのは……


「あれは! ブンデスのレーヴェⅡ!? いえ、ちがいますね……」


 月丘が見たもの、それは下半身が四脚歩行機動戦車、レーヴェⅡのパクリのような、つまりよく似た車台で、その脚が生える中央機関部、即ち車体にあたる場所には、レーヴェⅡのような新型レオパルド2A4戦車のような砲塔ではなく、戦車の砲塔を車台から胴体を一つカマせて、載っけたような感じの中国軍戦車、99式戦車砲塔を拡張したようなものをロボットの胸部構造のように載せて、その砲塔型胸部の天井には、所謂頭部にあたるセンサーポッドを右片側に寄せ、胴体側面からロシアのPOT機動戦車のようなマニュピレーター型兵装を装備していた。

 全高だけでいえば、約十メートル。結構な大きさの脚移動型機動兵器だ。


挿絵(By みてみん)


「これは中国製? こんなものを……」


 機体の色彩に迷彩パターン、その砲塔型胸部の形状に、なんかイマイチシャープさに欠ける脚部のパクリ具合。

 後に判明するこの兵器の名称は、『TZ-335』という試験名称を持つ中国人民解放軍が開発した試作機動兵器であった。だが今はその名称を月丘は知らない。

 所謂この手の兵器開発にLNIF諸国や、ロシアから少し遅れをとっていた中国が、米露の機動戦車や機動戦闘機、特危のティ連型機動兵器を徹底的に間諜飛ばしてパクった代物であり、現時点での結晶とも言うべき兵器だろう。

 しかも全高十メートルという大きさだ。相当な高耐久力に軽量素材を導入しなければ、そうそう実現できる代物ではない。

 実は中国にしてはパクリデッドコピーな技術とはいえ結構なかなかの機動兵器だった。


『月丘君! どうした、何かあったのか!?』


 大身が月丘の異常に気づいたのか、連絡を入れてきた。


「はい、ボツワナ軍、って、ちがいますね、インベスター軍のトンデモ兵器のご登場です。それと対峙していますよ司令。見ますか?」


 とカメラ映像を大見のローダーに回すと、彼もその姿形状を見て、


『うおっ! なんだこりゃ! 中華ロボか!?』

「なんか中国らしいというかなんというか、全部のせみたいなえげつない兵器ですね。さっきは砲撃で吹っ飛ばされましたが、まともに動くのかな?」


 と言ってる矢先に、TZ-335は蜘蛛型脚部の付け根に装着した左右後部三基のロケットブースターを爆破分離させて地上に投棄し、その巨大な四脚の見た目とは裏腹に、意外な軽快さで脚を前後に動かし始め、月丘に向かって移動を開始した。地響きたてて歩くかと思いきや、素早い動きで移動させた脚が着地してから刹那の速さで別の脚が地面を離れて着地させることを繰り返すので、振動というものが意外にない。

 この手の歩行機械は、北欧の土木建築機械メーカーが森林伐採用土木マシンとして現在も製造している機種があるが、これはあんなものなど問題にならない機動性だ。


「チッ!」


 月丘は軽快な速度で動くTZ-335の脚に踏み潰されそうになるが、そこは月丘ローダーの機動力で、即座にジャンプし、背の高い遺跡施設の構造物天井に着地。リパルションガンを構えて牽制で射撃を試みる……これは装甲の強度を測る意味もある……だが意外なことにTZ-335は、リパルションガンの超高速徹甲弾をバシッという眩しい光を伴って弾き返した!


「うおっと、なんですか今のは!」


 妙な嫌さを感じた月丘は、反撃に出たTZ-335の左マニュピレータに装着された30ミリ機関砲の斉射を浴びるが、咄嗟にまた後退して地上に降り、側面に回り込んで、先程とは逆側面の発射ベイを開き、バックパックの小型ミサイルを発射する。

 すぐに三つの徹甲高熱源弾に散弾するその小型ミサイルだが、また命中すると同時に、閃光ともなって徹甲高熱源弾を弾き返した。


「え?」


 月丘のバイザーカメラに映る戦闘映像を見る大見からも通信が入り、


『月丘君! なんだあれは、シールドじゃないか。中国軍はあんなものを開発したのか! まさかティ連かゼスタールの技術が流れたのか!?』

「見た感じティ連の技術ほど硬くはない手応えです。もしかするとグロウム帝国のシールド技術をパクった可能性もありますが……」


 グロウム帝国とは、現在あの戦争に参加したLNIF諸国が事実上関係を持てる現在唯一の地球外主権だ。だがCJSCA諸国とグロウムはまだ交渉を持っているとは聞いていないので、LNIFから間諜経由で流れた技術の可能性もある……だが、それでも少し違和感を感じる月丘。


「ろくでもない機動兵器ですねまったく」


 この謎のシールド装置のせいで、一気に劣勢に立たされる月丘。

 これまたTZ-335がよく動くのなんのって。当然このあたりもそんな間諜経由の技術が使われているのは確かだろう。

 だがそんな敵の防御に感心ばかりもしてられない。TZ-335は主砲の135ミリ滑腔砲を月丘に向けると即座に一発ぶっ放す。しかもかなりの近距離で。

 月丘は今の状況、こうなると上へ飛んで逃げるしかないが、これが悪手だった。

 TZ-335のミサイルランチャーから飛び出てきたのは、投網とあみのようなもので、有線で繋がっている捕縛用の兵器だった!


「なにっ!」


 意外な攻撃に焦る月丘。咄嗟の攻撃は回避する間もなく投網状の物体に絡め取られ、更に電撃が走る。

 この兵器は何も荒唐無稽な兵器というわけではない。所謂、対ドローン型ロボット兵器用の対抗兵器である。確かにチョコマカと動くドローンや、機動力の高い月丘ローダーに特危のL型ローダーには効果がある兵器だ。

 それでも日本の使うコマンドローダーは、あらゆる環境に耐える構造を持つ兵器故、電撃ぐらいは装着者にとってどうということもないが、かなりの高電圧のようで、ローダーの機器類が異常信号を鳴らし、駆動装置にも障害が出たようだ。

 

「しまった……そうきましたか!」


 すると、TZ-335から外部拡声器を通した声で、


『どうだ? JCIA、この機動戦車の威力は。お前等チョッパリお得意の強化服も、色々対抗策を考えられてるんだよ』


 その声を聞いて顔を顰める月丘。李方博だ。でもマスクの上からじゃわからないが……なるほどこの機動戦車が奥の手かと。


『お前をとっ捕まえて、その強化服をいただこうかと思ったが、時間もかけられんのでな。ここで死んでもらうよ。って、さっき俺に消えてもらうとか威勢のいいこと言ってたが、結局消えるのはお前の方だったみたいだな、ぶははは!』


 と甲高い声で笑う李。さすがに今の状況はマズイ。大見達も援護に駆けつけようとするが、他の敵に邪魔されて動けない……わけではないが、月丘へ援護に駆けつけるのをなぜか途中で切り上げて、他の勢力の抑え込みに回ったようだ。どういうことか?


『じゃあな、JCIA。 結局名前も調べられなかったが、まあこの際どうでもいいわ』


 そう言うと李は右部マニュピレーターに装備されたマルチウエポンランチャーを至近距離で月丘に向けると……

 月丘のバイザーモニターが、ピーと音を鳴らす! しかもコードはグリーンだ。

 そして轟く可愛い怒りの雄叫び。


『カズキサンをいじめるやつは、ころぉぉぉス!』


 上空から光学迷彩を解いて、荒鷲の如く、逆関節脚部の三本ある大型突起部をすぼめて尖らせ、TZ-335に蹴りを食らわすプリルの『栄鷲』!

 突きのような蹴りを食らわせた部分の装甲が先の弾頭を食らった状態と同じく閃光を上げ、よろけて右方向位へ脚のバランスを崩し、倒れかけている。

 その様子を見た瞬間、月丘はTZ-335に使われているシールドか何かの構造をハッと理解した。多分アレだと。

 以前、情報省に入省したての頃、最初の仕事で人民解放軍の新兵器開発における調査をしたときに見た資料に書いてあった兵器だと。


「そうか、あの閃光は電磁装甲か!」


 と思わず納得声で叫ぶ。


――電磁装甲とは、近年特に中国軍が力を入れて開発をしている装甲システムで、高電圧で発生するローレンツ力を利用した装甲である。構想段階の電磁装甲は、装甲内部を電極状に材質を積層し、装甲を貫通してきた弾頭を、瞬間の高電圧で感電させて蒸発させたり、弾き返したりする装甲方式のことである――


 初期の構想は、爆発反応装甲のようなものの一種で、バリアーやシールドのようなものではなかったが、何がしかの異星人テクノロジーを参考に、シールド状のエネルギー防御システム型の電磁装甲を中国は開発したのだろう。どっちにしても今までの地球製兵器とは格が違うのは確かだ。


 ……で、まあ今はそれより、


『カズキサン! 大丈夫!?』

「ええ助かりましたよプリちゃん。ナイスタイミングです!」

『あとでチューしてねッ!』

「ええ?」


 そんな事言いながらプリルは栄鷲のマニュピレータで月丘が纏っていた投網状のものを取り除くと、


『カズキサン、今はコクピット開けるの危険だから、上へ乗って!』

「了解!」


 月丘はスラスタージャンプして栄鷲の航空機状の頭頂機首部にのっかると、点検用のハンドルフックを引き出して、それに掴まる。

 その姿、怪鳥を乗りこなす、ヒーローの如し。


 プリルは機首に当たる先端部の三連装斥力機関砲のカバーを開けてをブァーっとぶっぱなすが、案の定、その進化型電磁装甲にすべて弾かれるか、蒸発させられてあんまり効いていない。


『うわ、なんでなんで!? さっきのキックもそうだけど、あんまし効いてないよカズキサン!』

「なるほどな」

『え?』


 月丘は栄鷲のVMC機能にアクセスして、対機動兵器用の大型ブラスターライフルを造成し、フックに固定して狙いを定め、TZ-335のマニュピレータ向けて発射した。

 ブラスターのエネルギー弾は一直線にTZ-335の腕部に当たると……なんと、先のように閃光を発して着弾するが、同時に装甲を簡単に破砕してしまったのである。


『やはりそうか! プリちゃん、兵装を全部エネルギー兵器に切り替えて応戦です!』

「おけ。って、今私も分析したけど、あのシールドっぽい装甲の仕組みがわかった!」


 物体は強力なローレンツ力で無効化されるが、熱エネルギーを加速させてぶち当てるブラスター兵器なら、物理抵抗力の強いシールドにも対抗できるんではないかと。

 ま、いうなればかつてのガーグデーラ戦法の『逆』である。

 栄鷲は、翼状部分のパイロンにぶら下げているビーム系列の栄鷲専用ライフルを手に取ると、TZ-335に向けて乱射である。


『うりゃりゃー! これでどうだ!』


 TZ-335も負けじと、この至近距離で135ミリ砲をぶっぱなしてくる。

 だが、そこはティ連の純正シールドが受け止めるのだが、さすがに振動が強く、月丘が栄鷲から滑り落ちそうになり、スラスターを焚いてプリルのライフルが命中し、電磁装甲が無効化した場所、即ちTZ-335の砲塔型胸部の上へ着地する。

 流石ヤル研と君島重工が製造した旭龍の後継機候補である。その威力を見せつけられたTZ-335は、先程の威勢もどこへやら。満身創痍状態に転落する。

 思わず砲塔型胸部のハッチを開けて、外へ逃げようとするのは李方博。だが、その目の前には月丘ローダーが、いた。


「ひっ! お、お前!」


 李は銃を出して月丘向けて発砲するが、そんな豆鉄砲通用するわけもなく、李は発砲しながら抵抗をするが、月丘は李の顎をつかみ上げて空へかざす。

 李はケリを入れたりと無駄な抵抗を続ける。

 TZ-335の他のハッチからも搭乗員が三人飛び出して脱出しようとするが月丘と目が合う。

 思わず搭乗員はホールドアップするが、月丘は顎をクイと上げて、李をつかみ上げたまま搭乗員に脱出を促すと、三人の搭乗員は、脱出用のロープをフックに掛けて、スルリと機を捨てて逃げていった。


「じぇ、JCIA、た、助けてくれ! もし助けてくれたら日本政府にインベスターでも共和国でもなんでも情報を話してやる。な」


 とは言うが、まあコイツはそんな殊勝な奴ではないなんてのはもうわかってる話で、各国情報機関や、軍部からもほぼほぼ見つけたら殺害の命令が出ているような野郎だ。

 とはいえ直接手にかけて殺すのも、こんな悪党でも寝覚めが良いもんじゃない。

 まあシビアやネメアなら悪即斬だろうが。


「あんた、この機動戦車を扱えるのですか?」

「も、もちろんだ」

「あ、そうですか……プリちゃん、今の言葉の意味、わかりました?」

『ハイハイ。仕方ないですよね~ 私もカズキサンが直接ってのは……』

「ああ、それ以上はね。私もその時は手伝いますよ」


 そう言うと、月丘は李に、


「あ・と・は、お前の好きにしろ」

「うぶっ!」


 そういうと、月丘は李をTZ-335の中に再び押し込みハッチを閉めて、その機体から飛び退くと、栄鷲に着地する。

 銀ピカローダーの装着を霧散させて対Gスーツ姿になると、後部コクピットへ復帰。


「さ、プリちゃん、最後の仕上げといきますか」

『りょーかいだよっ!』


 案の定、命を助けてもらったにも関わらず、TZ-335が攻撃体勢にはいる。

 どうもこの機動戦車は一人でも最低限の戦闘行動は行えるようだ。


「普通なら、そのまま逃げますよね」

『私なら絶対そうするなぁ……』


 135ミリ砲を旋回させて、栄鷲に狙いを定めるTZ-335。

 砲発射の瞬間、砲煙の下をかいくぐって巨体をTZに接近させ、主砲を頭頂部機首で上へ跳ね上げて躱す。

 交錯する重金属の機体同士、火花が散る。さらに互いのシールドが干渉し合い、密着した機体同士で延々と電磁の火花を機体に纏う。

 完全に接近した状態で、TZ-335の動きも先程に比べれば全く鈍い。

 まあ一人の操縦ならそれぐらいしかできまい。

 プリルは左腕部に粒子トーチを発生させ、TZの胴を一刀両断。ナントカダイナミック! とかの掛け声なんてのはかけないが。

 その瞬間、下部ハッチから逃げ出そうとする李だったが、折れ曲がり、ひっくり返ろうとする胴部の勢いに巻き込まれて、脚を滑らせ、再び車内へ押し込まれ……


 砲塔型胴部は、大爆発した……残ったのは、四本の脚部のみだ……


    *    *


『これでもう流石にアイツは出てこないよね』

「世界のためにもそう願いたいですが……まだ問題は残っていますよ」

『あいつの雇い主のシャオとかいうおっちゃんだよね』

「ええ……」


 そんな事考えていると、大見から連絡が入る。


『月丘君。始末はできたのか?』

「はい、まあなんとか」

『よし、じゃあ頃合いだな。本部から撤退命令が出た』

「え!? 撤退ですか」

『ああ。我々の目的は、スタインベック氏にパイド社の社員さん救出と、状況偵察だ。俺も詳しくは知らんが、噂の遺跡の方は当面誰も手がつけられないんだろ?』

「ん~、そうですね、恐らく」


 つまり、反スタインベック派のボツワナ軍モドキとはいえ、それは内輪の連中が知っている話であって、対外的に見ると、こいつらでもれっきとした『ボツワナ軍』なのである。で、今モメているブラジル政府との間にアメリカ政府と、なんと王政権の中華連邦政府が正式に割って入ったようで、米国の政権が日本に対して、今動いているJCIAと特危部隊に手を引けと要請してきたのだ。まあ恐らくこれにもインベスターのどちらかの派閥が関わっているのかもしれないと予測はできるが、あのTZ-335なる中華人民連邦共和国の機密兵器になるのであろうブツまでインベスター連中は持ち出したわけであるからして、現在の中華連邦国家主席『王 活宇』もいい迷惑である……月丘達はあの破壊したTZ-335の脚部台車と、上半身はとりあえずそのままにして撤収したが。


(そうか、それで李が、『時間がない』と言ってたのか)


 つまり李としては、こうなることは予定の中に入っていたので、ある意味余裕の作戦だったわけだと。それを月丘達がまぜくりかえしたのであって、はっきりいえば、何も知らない外部の人間が見れば、ややこしいこと勝手にやってたのは日本であって、あとで釈明を求められるのは日本じゃん、という話になってしまう。悲しいかな……

 そこは、二藤部や井ノ崎におまかせするしかない。しがないお役人の月丘だが、そう考えると助けたスタインベックにはちゃんと生きててもらって、事後処理しっかりやってもらわないとやってられまへんわ、となる月丘であったのだが……


    *    *


「……ということで、あの時の李方博が絡んでましてね。決着付けましたよ、シビアさん」


 特危を乗せてきた宇宙空母カグヤへ、大見達のチヌークTRは栄鷲とともに帰還。

 月丘とプリルはとりあえずティラス艦長と、通信で白木に報告を済ませ、日本への帰還までは休息とさせてもらう二人である。

 プリルは今、カグヤ名物の大浴場でひとっ風呂浴びているというところ。

 月丘は、ヤルバーンの医療区画で例のペルロード人蘇生作業に協力しているシビアとネメアにVMCモニター起ち上げて連絡を入れる。


『……リ・バンパク……』と少し首を傾げるシビア。んで、『……ツキオカ生体、誰だソレは?』

「は? シビアさん、覚えてないんですか? あの、ほら、シビアさんが客船のボーイに化けて、私に激辛カクテル作って飲ませた作戦でひと悶着あって、タンカー船みたいな工作船へ賊を追跡して……」

『……?? あ、思い出した。あの作戦ははっきりと経験データが有る。なるほど確かにあの時、敵の戦闘員をゼル拘束して敵の指揮官へけしかけたな。あの時の生物がソイツなのか』

「そうです。って、生物ってねシビアさん……実はちゃんと覚えてたでしょ、まったくもう……」


 昨今のシビアジョークもこんな感じで、ゼスタール合議体流に磨きがかかってきており、一番最初に出会った時とは違って、もう随分人間らしさも『合議体風味』で出てきたシビア達。で、シビアも『あの我々のゼル端子攻撃を凌いでよく生きていたな』と感心してたり。で、側にいるネメアが、


『我々もシビアの経験を共有しているが、あれだけの生存能力に長けた者だ。死亡確認は行ったのか?』

「いえ、まあ状況的にあれでは生きていないでしょうという感じですね。仮に生きていたとしても無事ではないはずです。まあ確認できなかったのは即時撤退の命令が出たのもありますしね」


 なるほどなとネメアは言うが、時間が空いたときにきちんと確認追跡調査をしておいた方が良いという。

 彼女も経験があるが、死んだと思っていた奴が生きている事なんてのは、案外普通にあるものだと。そこが盲点になり、あとあと響いてくる可能性もあるから気をつけないと、とアドバイスをくれる。ま、月丘もそこらはごもっともと思うので、今後の追跡調査項目に入れておこうかと思う。

 そもそも、あの『国連向けSSD盗難事件』の時、それを怠ったから、今の揉め事もあるわけであるからして……


『ふぃ~、良いオフロでございました』


 自衛隊ジャージを着て、ごっついラフな格好でカグヤのサロンに現れるプリ子。

 ご存知の通り、この宇宙空母カグヤは、ものすごい戦闘力を持つ、ティ連でも伝説的に有名な宇宙艦艇なのだが、本来は純粋な軍艦というわけではない。

 日本向けに、ティ連の宇宙船技術の見本船として、現在は海上自衛隊の軽空母として活躍している『いずも』型のデザインを参考に造られた宇宙船であって、内部は軍艦と言うには程遠い豪華客船並みの立派な設備が備えられている。なので、特危自衛隊員の中には一部この艦内に『住んでる』隊員もいるほど居住環境の良い船で、星間規模の長時間運行にも備えて、ティ連基準の艦内規律運営が採用されており、休暇中や勤務外の隊員の生活は、割とラフなのがこの船の中なのである。


 という感じで、石鹸のいいにおいさせて、フルーツ牛乳片手にサロンソファーにポソっと座るプリル。んで、フルーツ牛乳を一気飲みしてプハーする。


『誰と話してたの? カズキサン』

「うん、ヤルバーンの例の施設にいるシビアさんとネメアさん」

『ふーん、ということはペルロードさんの件?』

「いや、それはまだ時間が少しかかるのはわかってるからね。その話じゃなくて、李の事だよ」

『あ、そうか。シビアちゃんは当事者だもんね』

「そそ。まあネメアさんは当事者じゃないけどスールさんだから、経験を全部共有してるし」

『あそうか、話は全部わかるんだ』


 なんともゼスさんは、こういうところで不思議な存在である。


「でもシビアさんは、李がどうなろうが、知ったこっちゃないみたいな感じだったけどね」

『なんとなくわかる~』

「それよりか、シビアさんもネメアさんも、スタインベックさんの事を心配してましたよ。最悪、スール化も考えないと、とか言ってたけど……」


 実は、あれから八千矛隊の処置が早く、スタインベックはなんとか一命を取り留めた。

 転送阻害装置圏外に出て、緊急医療転送で即、埼玉県の防衛医科大学病院へスタインベックは転送されて手術を受けた。

 ティ連医療も含んだ緊急手術で事なきを得たようで、今は集中治療室で経過観察中だ。


「……まあそういうわけで、スールにならなきゃいけないまでの大事にはならずにすんだけど、防大病院の先生も、ティ連医療の緊急救命措置がなければ、一〇〇パーセント助からなかったって言ってましたよ。ティ連医療技術様々ですね」

『まあそれを言うなら、カズキサンも相当なもんでしたよ、うん』

「ははは! 確かに。私もよく生きてましたよ。スタインベックさんどころじゃなかったですからね」


 そんな話をしていると、大見がサロンに入ってきた。起立して会釈する月丘とプリル。大見は手に持っていた缶ビール三つの内の二つを月丘とプリルに下手投げで渡す。


「え? アルコールですか大見司令。いいんですか?」

「軍艦には酒保はつきものだよ月丘君。このカグヤはそういうルールだからいいんだ。というか、隊員全員ナノマシンを体に飼ってるから、酒やビール飲んでもあんまり関係ないしな」

「あ、確かにそうですね。私もそうでした」


 特危隊は、星間規模の超長期運行する事もあるので、アルコールも解禁されてはいるが、ナノマシンのおかげで酔っ払わずに酒が飲めるというメリットもある。飲んでもあんま意味ないじゃないかと思うなかれ、体内のナノマシンのおかげでアルコールが即時分解されるわけであって、その分解されるまでは、酒を飲んでいる気分は少し味わえるので、案外良いかもしれないと隊内では評判良かったりする。


「で、大見司令、今回の事案ですけど、我々内輪でのあの遺跡に関する話は今後どうにかするとして、対外的にはどうなるんですかね」

「対外的にというと、国際関係か?」

「はい、まあ……私が気にするようなことではないのは承知していますが、今後の仕事のことを考えると、知ってないよりは知っていたほうがいいのかと」

「ん~、まあそうだよな。俺もまだ断片的な事しかわかってない、というか、柏木やフェルフェリアさん、あいや、大臣に聞いているだけのことしかしらないんだが、今度米国と日本、ヤルバーン自治国で会談がもたれることになっているらしい」

「会談を言い出したのは、米国ですか?」

「うん。米国のインテリジェンスも優秀だからな。何か勘づいている事があったんだろう。特にパイド社がボツワナのあんなところに施設作って考古学調査となれば、米国としても『何してるんだあいつらは』となるだろうし……」

「米国内のインベスター、特にスタインベックや、シャオのどちらにも属さない部類の連中の金が米国内の政治で動いていると」

「そういうことだ。情報省の、山本さんのチーム、外務局の調べた話じゃ、今回の騒動の内幕を知っているのは、インベスターでも上位階層の連中だけみたいだそうだ。あの組織にも、組織内のヒエラルキーみたいなのがなんとなくあるみたいでな」


 その話を聞いて、月丘も納得するとこは多々ある。

 するとプリルも、大見のくれたおビールをチビチビ飲みながら、


『じゃあ、ケラー・スタインベックの状態が今後どうなるかっていうのと、シャオの派閥が今の流れで本格的に動き出したら、インベスターは完全に別れちゃいますね。んでもって、お互いの利益が見合う組織同士で強い結びつきが出ちゃいそうな』


 その言葉に大見も、


「お、プリル君、なかなかいい意見だな。まさにそのとおりだ。そもそもインベスターは、元が地球世界でのガーグ勢力連中だった故か、大きく分けて【スタインベックやシャオのような幹部元締め組】【中堅の元締めとつながりの強い組】【日和見の野良インベスター】

みたいなところがある。それらが完全に派閥化してくっついてしまうと、結構めんどくさい事になるぞ」

「ええ、確かに……」


 ただ月丘は、大見には言わなかったが、スタインベックの話や、パイド・パイパー社の創設沿革などを聞く限り、『所謂ペルロード人の末裔』と呼ばれる人々は、スタインベックだけではなく、他にも名も知らない人々として、財界や政界にいるのではないかと、そんな感覚を持っていた。なので、このインベスターの分裂とは、単にインベスター派閥が、あの遺跡の利権を巡って分裂した……というだけの話ではないのではないかと、そう思っていた。


    *    *


 さて、現在地球には、先のゼスタール戦争の一件で建築された、ティ連クラスでかなり大きな施設がある。

 それはご存知の通りのハワイ島近海に大きくそびえる海上ディルフィルドゲートである。

 惑星上にディルフィルドゲートを置くという事は、宇宙からのアクセスが普通であるティ連各国において、あまりみない形態のゲート設置法だが、まあ方法としてはティ連でも前例がないわけではない。なので海上艦艇がまだまだ主力として活躍している地球世界では、なかなか便利な方法となっており、現在、地球-ゼスタール間のみ海上艦艇でゲートでの行き来が可能だが、ティ連内でもこの形式でゲートを設置してみようという動きも、今回の件がきっかけで動きつつある。


「……でもなんで今まで惑星内でゲートを使うことにティ連は積極的じゃなかったわけ?」


 ハワイ島沖に設置されたディルフィルドゲートを、米軍の駆逐艦甲板から臨む柏木真人連合防衛総省長官閣下。


『ソリャ、惑星内で亜空間へつながるワームホールみたいなのを繋げるというのも、大気が一気に吸い込まれるんじゃないのか? トカ、海水が一気に吸い込まれるんじゃないのか? トカ、そんな風に思っちゃったりするトコロも大昔はあったわけなのですよ、マサトサン。その名残ですネ』

「ああ、なるほどね、ティ連の人もそういうところって、なんか地球人が珍しい施設作ったときにあーだこーだと言う人みたいなのが、同類でいるわけね」

『マ、どこでもソウじゃないですか?』


 でもって、お側には柏木の愛妻であり、日本国のお大臣サマであるフェルさん。


「あ、フェル、お茶飲む?」

『ハイですね。アリガトです』


 駆逐艦の甲板にゆったりと座って何かを待っているお二人。

 柏木の側近や、フェルの側近も、なんとなくノンビリサンで何かを待つ。


『そろそろ時間デスね』


 フェルが柏木からもらった長年愛用しているデジアナ時計を見ると、ハワイ沖の海上に大型ヴァルメタイプの放射パネル式ゲートユニットが環状に並び、半分は半円状になって海上、もう半分は同じく海底で大きな半円を作る。

 すると、ゲートユニット全機にパワーが入り、明るく光ってソレらしい機械音を唸らせると、環状の物体に、まるで水面が垂直になったような……ハワイの美しい海面が、直角に折れ曲がったような錯覚を起こす、次元境界面が出来上がる。

 それを見る米海軍駆逐艦のクルーも口笛吹いて、毎度のことながらお祭り騒ぎだ……まあ、こんなイベントは今までの地球世界で、しかも海上でやらかすなんてなかったわけで、こんな光景も今やハワイ名物になりつつあったり。


 しばし待つと……


 ゲートの中から飛び出してくるは、なんともバカでかい、またどこかで見たことある人型形状の兵器。

 つい先日、月丘達が乗っていた『人型機動戦艦コウズシマ』の同型艦。所謂一番艦である、『特危自衛隊特重機動人型護衛艦・やまと』であった!

 そう、現在特危自衛隊に出向中であるプリ子のお姉さん、パウル特将補で提督な艦長がご座乗あそばされる艦であった!

 やまとと、コウズシマは同型艦だが、建艦発注時の細かいオーダーが違うので、同型艦といっても細部でかなり異なるところがある。

 コウズシマはティ連風味の備品装備に艤装がなされているが、やまとの場合、全体的な艤装や配色が、どことなくキミジマ・マリンユナイテッドな護衛艦風味だ。で、後部デッキにひらがなではっきり見えやすく『やまと』と書かれていて、艦の側面にデカデカと輝く日章旗マークに漢字で『大和』なんてのも大きく書かれている。さらには有名な宇宙戦艦のシール貼ってたり。

 一部特危ファンの間では、『レッドナントカのやまと』という黒歴史な名前を頂戴しているスーパー人型艦が、横に水しぶきを上げるようなディルフィルドアウト現象を伴って、ハワイ沖に顕現した。


「いや~、やっとこさ帰ってこれましたな、艦長」


 と、ホっとした表情の高雄準也1等特佐。所謂、パウル艦長のアレ。


『別に私の故郷じゃないけど、なーんて月並みな言葉言うつもりはなないけど、ハルマも私の身近な場所になっちゃったからね~。なんだかホっとするわ』


 と、なんだかんだであの一〇年前の出来事から地球とティ連を行ったり来たりで地球も地元化してしまったパウル提督で艦長。


『で、ジュンヤ、あれからカーシェル・オオミの部隊とかチマチマとあっちの残留組も帰還させてきたけど、トッキは私達がこれで最後よね』

「ですな。あとはティ連本部と国連、本土自衛隊で構成される本格的な復興部隊にまかせておけば、万事問題ないでしょう。それにゼスタール合議体さんの方の、バルサーラ中央も活発に動いていますし、ネイティブ化したスールさんとの技術交流も盛んになってますから、八〇〇年前のゼスタールの姿にまで復興するのも、そう長い時間はかからんと思いますな」

 

 パウル達は、かのゼスタール大戦終戦後の、件の国際連邦海洋諸島基地を正規に決まった駐屯交代部隊にまかせて、やっとこさ原隊復帰ということで地球に帰ってきたという次第であった。

 結局ゼスタールと国際連邦が結んだ技術供与協定に従って、今後も国際連邦から選抜された駐留部隊もゼスタールの海洋諸島基地に交代で行くことになっているわけで、結構この協定が国際連邦的にも有効に働いているようである。ティ連ほどではないにしろ、かの『惑星エルミナス』の文明に近づく程度までには日本以外の地球社会の科学力も進歩しつつあるようだった。そういう現状も踏まえれば、国際連邦的にもこのゼスタール大戦は今後を測る重要な分岐点になる出来事になるのだろう。


 やまとは、ディルフィルドゲートから顕現後、出迎えの米軍関係艦艇集まるハワイ所諸島をぐるりと回り、そのまま舵を日本の双葉基地へとる。

 当初、艦長が米国にも市民権を持つパウルということもあって、ゼスタール作戦の最終部隊帰還セレモニーでもやろうという話も出ていたのだが、あれからゼスタールで色々な情報を収集してきたパウル達でもあるので、早急に日本へ帰る必要性もあってのことで、セレモニーは後日ということで急ぎ双葉基地へ向かうことになっていた。


    *    *


 ということでしばし時間を早めて連合日本国。

 特危自衛隊の司令部でもある福島県双葉基地。

 この基地も色々拡張拡張で、もう今や立派なものになって、現状手狭になった地上基地に加えて人工浮遊大陸型の基地も空中に浮かび、もうこの光景だけで、あの相模湾に匹敵する観光名所になっていた……なんか人工浮遊大陸パーツから、壮大な滝が流れてたり。結構風光明媚。

 そこに今やその駐留する航宙艦艇の数もなかなかのもので、特危自衛隊双葉基地所属の航宙艦艇は、今や……


◯中型航宙機動護衛母艦かぐや

◯中型航宙機動護衛母艦ひりゅう(かぐや級2番艦・ゼスタール月面工廠製)

◯航宙機動重護衛艦ふそう

◯航宙重戦闘護衛母艦やましろ(ふそう級2番艦改修型)

◯人型機動支援護衛艦さくら(フリンゼ・サーミッサ級)

◯人型機動支援護衛艦まつ(フリンゼ・サーミッサ級)

◯人型機動特重護衛艦やまと


 これだけの航宙艦艇が、双葉基地沖に集まって停留していた。

 もう世界の宇宙艦艇マニアは狂喜乱舞の世界である。港方向にカメラ向けて、滅多にない特危艦艇大集合の図をカメラに収める。

 地元自治体も、観光の目玉が全員集合でウハウハだ。


 と、そんな事はともかく、その現在の沖合状況からもわかるように、やまとは基地沖で海中に脚入れて直立している状態。そこからトランスポーターで乗組員が交代で陸へ上がっている。

 そんな中に、パウルと高雄もいるわけで、陸に上がると、すぐさま司令室へ直行である。所謂帰還報告だ。

 司令室の扉をノックして入ると、双葉基地司令の大見がパウルと高雄を出迎える。

 普段ならここで『報告!』とか言いながら儀式のようにやるところなんだろうが、大見とパウルでは、実のところパウルのほうが一階級上で、大見と高雄が同じ階級である。ということで、


『只今ハルマに帰還したわ、カーシェル・オオミ』


 パウルのお辞儀敬礼姿も珍しい。高雄も同じく頭を下げる。大見も同じく。


「お疲れ様でしたね、パウル提督、あ、艦長の方がよろしかったですか?」

『そうね、みんなから「パウルかんちょ」って、あだ名みたいに呼ばれてるし、ね、ジュンヤ』

「そうですな、私もそちらの方がしっくりきます」


 まあ大見もこの二人の関係は知ってるので、そのあたりはニヨニヨ顔だ。


「まあ座ってください。お茶でも入れましょう」


 こういう時に便利なのがハイクァーンベンダーマシン。すぐに熱いお茶と。お茶請けが用意できる。

 

「ところで大見さん、報告書を読ませてもらいましたが、自分達より先に帰還して早々、なんかややこしい事やらされたって話ですが」


 高雄と大見は同じ1佐だが、大見のほうが先任になる。それ以前に年齢的に大見のほうがだいぶ上だ。大見は柏木と同じ関芸大出、つまり一般大学出で、高雄はまがりなりにも防大出であるからして、実は大見の出世がちと遅いというころもある。というか、あのヤルバーン事件がなかったら、大見は1佐なんて階級になっていないわけであるからして。


『そうそう、その話。私もゼスタールでコッチに来る直前に聞いてびっくりしたんだけど……ハルマでトーラルシステムが出てきたんだんですって?』


 大見はお茶をすすりながら頷くと、ハァと一呼吸おいて、


「そうなんですよ艦長……タカちゃんは、情報省の月丘君は知ってたっけ」

「ええ、まだ数回顔を合わせた程度ですが。なんでも元PMCの凄腕諜報員で、パウル艦長の妹さん、プリルちゃんの彼氏だとか」

『そそ。で、将来の私とジュンヤの義理の弟』

「あ、そうかそういうことになるか」


 なんかノロケ話になる方向性に苦笑いの大見。まあ大見は妻子持ちだから耐性は充分にある。

 

「はは、まあその話なんだけどな……そのトーラルはまだどういう出自のものか全然わからないらしい。いかんせん『遺跡化』していて、もうまったく稼働できない化石状態の遺物なんだそうだが……」


 大見はスタインベックの身に起きた一連の事件の流れを話す。といっても彼のこの知識も月丘報告の受け売りではあるが。


『えっ!? ケラー・すたいんべっくって、あのペルロード人の末裔って言われている人で、いんべすたーっていう秘密組織の幹部さんでしょ?』

「暗殺されかけたんですか? 信じられないですね」

「ああ。まあ月丘君の働きでなんとか一命を取り留めたんだが、当初防大病院に担ぎ込んで入院してたのだけど、急にブラジル政府の横槍が入ってな。まだ集中治療室の状態だったスタインベック氏を、豪華客船を借り上げて臨時の病院船に改造した船でブラジル政府に引き渡さなきゃならなくなってな」

「そんな……って、そんな事ができるのって……」

「恐らくスタインベック派のインベスターが絡んでるんだろう。彼からすれば。連合加盟後の防大病院のセキュリティシステムでも信用ができなかったんだろうな」

『もっとティ連技術を信用してくれてもいいでしょうにねぇ……』


 まあでもインベスターらしいっちゃらしいと納得できるところでもあると思うパウル。

 で、大見さんは、そのスタインベックとパイド社社員の救出作戦に駆り出されてたという事を話すと、


「あー、大変でしたね大見さん」

『なんか苦労人よね、あなたも』

「はあ、まー、一〇年前のあの時からの性分なんでしょうなぁ」と、トホホでおどけてみせる。


 で、大見は二人にその後の顛末を話してやった。まあこれも大見からしばらくゼスタールにいた二人への報告である。

 結局、スタインベックはそういう経緯もあって、ブラジル政府が保護したのだが、その後の情報省の追跡では、件の豪華客船を借り上げた臨時の病院船は米国へ行ったようである。おそらくスタインベックの国籍が米国だからだろうが、そうであれば米国が直接保護しにくればいいものを、なぜにブラジル政府が前に出てくるのか。なんかそのあたりも色々きな臭いものがあるようだが、スタインベックが米国入りした後の足取りは掴めていない。大見達は、これもおそらくスタインベック派の『忍法・雲隠れの術』なのだろうと言うが、どうなのだろうか?


『で、カーシェル、もう一つの重要な件。ペルロード人のね』

「報告書、お読みになられましたか?」

『ええ。しっかし私の妹の彼氏もすごいエージェントね。お手柄じゃないの』

「確かに。あの件は月丘君の分析と判断で、今で言う惑星エルミナス行きを独自に決めたみたいなものですから。その判断を彼に任せている白木もすごいものですが」


 すると高雄も月丘という人物にこの件の報告を受けて……まあ自分の親戚になるかもしれないという興味もあるが……ますます興味を持たっという。


「ペルロード人の生き証人と、ペルロード人が使っていたトーラル型システムの確保ですか。このあたりの情報を集めると、色々ヂラールを含めた情報が進展しますが」

『ええ、そうねジュンヤ……』


 なんだか難しい顔をするパウル。その表情に少し疑問を懐きつつも、大見は、


「ヂラールの件は、元々はあのフェルフェリア大臣の、ご両親の一件から始まって、ガーグデーラだったゼスタール合議体が、まさかの宇宙で猛威を振るうヂラールを独自に次元規模で監視していたという話に繋がり、グロウム帝国の件などもリンクして、いろんな方方の事件に関わって、結局その原因がペルロード人という謎の……そうですな、今となっては古代文明人の所業が原因とわかって……という話になっていますが、まあ最終的にこの問題を解決しないと、文明の存亡に関わる問題であるがゆえに、最終的にはティ連や、グロウムなどの文明圏規模でヂラール殲滅のためにヂラールの本拠地を割り出して、攻め込み、壊滅させるというのが、現状の目的になるのでしょうが」


 すると高雄が「まあそうなんですが」というジェスチャーをしながら、


「大見さん、これはまだ報告書等々作成中で、まだ公的に出してない情報なのですけど……艦長、私からお話していいですか?」

『ええそうね。宇宙物理学の用語とかでティ連用語の理解なんかで齟齬があったらいけないから、お願いできる?』

「は」


 そのやりとりに大見は怪訝そうな顔をして、


「ん? なんか深刻な話なのか? タカちゃん」

「深刻というか……まずは順を追って話しますけど、我々も惑星ゼスタールで、あのマルセア議長こと、マルセア。トーラルシステムの封印データ等々の情報解析を、当人のマルセア議長や、スール・ゼスさんのメラニー・ホルプさん達と進めてたのですよ。で、丁度月丘君達が、例のゲルベラールでしたか? その宇宙船の発見に、あのカイアナントカというペルロード人の使っていたトーラルを確保した情報と、二人の生きたペルロード人の確保が入った時でしたか。それをマルセア議長に報告したら、なんとマルセアさんに封印されていたデータのプロテクトが次々に解除されて、大事になりましてね」


 その話を聞いて口を半開きにして驚く大見。時間的に自分達が惑星ゼスタールから帰還して、そう間もない頃にそんなことが起きていたのかと。

 

「で、こちらの疑問に思っていた事を色々と質問すると、今度は饒舌にペルロードの事を話していただけるようになりまして」


 するとパウルも、高雄に話を任せるとはいったが、自分からも色々言いたくもなったようで、


『メラニー博士の分析だと、色々ペルロードの情報を分析でもされて、他人が首でも突っこんでえらい目にあったらマズイからという理由で、あのミニャールという故人が良かれと思ってプロテクトかけてたみたいなんだけど、カズキのとった行動と、カイア型と会話して、生き証人二人を確保したという状況がプロテクトを解く鍵になったのでしょうね。色々とペルロード人と、あのセルメニア教という創造主崇拝……』

「宗教ですな、艦長」

『そうそう、それの本質などを色々と教えてくれたのよ、マルセア議長、いえ、マルセア・トーラルシステムは』


 ふむと聞く大見。でもそれならばコレ幸いで、現状のヂラールに対する疑問や今後の作戦も立てやすくなって、大いに結構なことこの上ないわけで、何をパウルは懸念を持つような表情をしているのかと。で、そこんとこを訪ねてみると……


『つまりね、カーシェル・オオミ。結局そのセルメニア教というものそれ自体が、どうもトーラルシステムの出自の話につながるようなのよ』

「え?」

『ティ連にとっては、もうこれ国策に繋がるぐらいのえらい話になるかもしれないわ』


 続けて高雄も、


「この話は、地球の宇宙物理学の分野でも仮説が出ていた話が現実化しそうな、そんな話でしてね、大見さん」


 パウルと高雄が帰国早々持ってきた、『ティ連的に深刻な話』の内容。それは地球の宇宙物理学の仮説をも証明する話に発展するかもしれないという。

 当然スタインベックが見つけたトーラル遺跡も、このパウル達の話でその価値がどう変化するか、その遺跡の立ち位置もとんでもなく変化するかもしれない。



 インベスターの分裂に、パウル達の持ってきたペルロードの情報。

 その先に語られる話とは……


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― 新着の感想 ―
[一言] ロシアの転移防止装置と中国の多脚砲台+パクリシールドですか。 もうこの二つの国は消滅させた方がいいな。 巻き込まれる一般市民には悪いが。。
[一言] 挿し絵を見るとどう見てもク○ブガ○ナーなんだけど中国製の大砲が付いたモノと言えば中○キャ○ンを思い出す私 どちらかと言えばク○ブガ○ナーより中○キャ○ンを期待していましたよ←おいおい
[一言] ク、クラブガ…ああ、同じ事思った方がいる 李、果たしてゴステロ様や、もはやギャグな某SG-1のアポフィス化するんでしょうか
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