【第一〇章・新たなるゼスタール】第六三話 『ゼスタールの再興』
現在の惑星ゼスタールに残された、数少ないかつての美しい八〇〇年前の生態系と、情景を残す場所。
惑星ゼスタールの大海にある、とある諸島海域。地球の場所に喩えるなら、さしずめハワイ諸島のような場所といったところか。
惑星ゼスタール奪還作戦において、惑星大気圏内から、大跳躍侵攻作戦を支えた『ティ連、国際連邦連合軍』の駐屯基地である。
この場所は現ネイティブ・ゼスタール人の指導者、マルセア・ハイドル議長より提示され、現在連合軍の租借領地の意味も含めた駐屯地として、そして惑星ゼスタールの復興支援の中心地としてその役割を変化させようとしていた。
諸島域より少し離れた海域に半分海中に沈下した状態で、見た目は海の上に浮かぶバカでかいトンネル設備のようにそびえる戦略ディルフィルドゲート艦『フォルフォル』。
ティ連でもその軍事史上行われた事のない惑星地表部に設置されたディルフィルドゲートによる奇襲作戦は絶大な威力を発揮したわけだが、実際のところはかなり賭けに近い作戦だったという。
トーラルシステムの計算上では問題ないという事ではあったが、実際大気のある惑星上でディルフィルドゲートを稼働させて、その惑星の海水の状態がどうなるかとか、大気の状態がどうなるかとか、天候はどうなるかとか、計算とリアルな現象との話はまた違うワケで作戦実行には不安もあったのだが、実際のところは当初の綿密な計画どおりに、特に悪影響もなく、顕著な結果を残したといったところであった。
そしてこの『フォルフォル』は、今後この惑星ゼスタールにはなくてはならない交通の要所として稼働していくことになる。もちろんこのゲート艦は、ゼスタールにおいおい譲渡されるものなのでそんなところである。
主だったヂラールどもを排除し、事実上の終戦となった惑星ゼスタール。あとは惑星上に残存するヂラール化された生態系を元に戻す作戦を残すのみである。従って今は惑星規模の大規模な“草刈り”と、“害獣駆除”が行われているような作戦に作業は移行している。
マルセア・ハイドルの件のペルロード人の話は、ティ連や日本、スール・ゼスタール勢にはかなりショックな話ではあったものの、今は終戦処理の順番を間違えるわけにはいかないわけで、先に進めなければならないのは惑星ゼスタールの戦後処理である。
そんなところで火星の司令部はゼスタールの警戒態勢を緩和し、主兵力となる戦力は、全て撤退させる命令を下した。
稼働状態のディルフィルドゲート艦フォルフォルへ進入し、帰国を開始する『USS BB-61A4 アイオワA4型』に、原子力空母『ロナルド・レーガン』と『ジョージ・H・W・ブッシュ』。
空母二隻は、甲板に自国の最新鋭機動兵器『サラマンダー』を駐機させ、更にはネイティブ・ゼスタール軍の使う通常型のロボット型機動兵器を甲板に駐機させている。即ちこの機動兵器をお土産にもらったのだろうか、その数は結構な機数だ。
まあこれは当初のスール・ゼスタールさんとの約定で、『この作戦に協力したらゼスタールの技術をあげるよん』という約束の範疇という解釈で、ティ連からも大目に見てもらったようで、此度の戦艦アイオワA4型の活躍や、戦略原潜艦隊の活躍など、そういった貢献の報酬的な意味も含んでのことだろう。
まあ言い換えれば、国連軍はコレが欲しいから今回の戦いに参加したわけであるからして……
で、これは米国以外のロシアにフランス、中国、英国、他EU諸国軍など参加各国も同じくで、自国の軍艦にゼスタールで入手したいろんな機動兵器を持ち帰っているようである。
但し、ヂラールの遺骸を持ち帰ることは、絶対に禁止であるということは厳命している。もし破ったらティ連との戦争を覚悟してもらわなければならないと相当な脅しもかけている。まあ、正直こう言って守らなさそうな国が【若干】あるので、そこはティ連側も目を光らせて、現状は問題なしとなってはいる。
で、マルセア・ハイドルの話によると、このようなヂラールとの決戦も見越してネイティブのゼスタール軍はかなりの数の機動兵器を生産し、余剰兵力として温存していたそうで、国際連邦各国は、その余剰分のいくつかを譲渡してもらったという話だ。
このあたりは、スール・ゼスタールのメラニー・ホルプがマルセアやネイティブ・ゼスタールの幹部軍人と交渉に当たってくれたそうだ……とはいえ、裏ではその代わりと言ってはなんだが、ティ連から、ヴァズラーや、旭光Ⅱにシルヴェルといった、超高性能のティ連製機動兵器がネイティブ・ゼスタールに今後の防衛力として譲渡される予定なので、そこらへんの兵力的な問題はないというワケである。
* *
「では、私も先の会談に出た話の通りで、一度日本へ戻ります」
『チョット名残り惜しいでスけど、また太陽系で会える日を楽しみにしてますっ!』
海上自衛隊の臨時機動兵器母艦『あかぎ』。
超大型自動車運搬船を、急遽、陸海空自衛隊で使うティ連型機動兵器の母艦として改造した護衛艦である。
人型兵器運用のために、嵩高の船舶が必要という事で、こういった艦になったという経緯がある。
総諜対の月丘とプリルは先の会談で話に出た、惑星イルナットの再調査のために、国際連邦プラス日本国本土自衛隊の帰還部隊に相乗りして、日本へ戻る事となった。
『あかぎ』には、そういうことで本土自衛隊では運用されていない、総諜対独自の装備、あの『蒼星プリルカスタム』が一緒に積み込まれていた。
『お前達と出会えて本当に良かった。感謝する』
そう言って握手をするのは、月丘達がこの星で最初に出会ったネイティブ・ゼスタール人『設定』だった、スール・ゼスタールのメラニー・ホルプ偵察合議体。
「はは、メラニーさん、そのぐらいの口調で話したほうが魅力的ですよ」
『フフ、了解した、覚えておこう』
メラニーは長い間、演技で情緒あるネイティブなゼスタール人を演じてきたので、スールさんにしては、割と自然に人間味のある口調で話すことができる。で、一方その隣の少女な見た目のシビアさんは、
『ツキオカ生体、プリル生体、我々はバルサーラ中央の指示もあるので、このままネイティブとの交渉を行う。なるべく早くお前達の任務に合流する。承認せよ』
ネメアさんも、
『我々も同様である。お前達の任務に同行したいが、トッキ隊の任務もある。現在はこちらの状況が優先される。遺憾に思う』
とこんな感じで、あいも変わらずなスールさん口調のお二人に、
「いやいやいや、きちんとネイティブさん達と話し合って下さいよ。私達の仕事なんて後回しでいいですから。ゼスタールさんはそっちが第一でしょう、ははは」
やっぱりシビアもネメアも月丘にプリルとの仲間意識が強いのである。ま、そこは嬉しい月丘であった。
* *
月丘とプリルを乗せた臨時機動兵器母艦『あかぎ』は、一番最後に艦隊を組んで、フォルフォルの次元境界面へと進入していく。
残された各国の復興用部隊と、特危自衛隊にティ連艦隊諸氏は、各々の艦艇で見送り、帽振れで殿となる海上自衛隊艦隊を見送る。
メルフェリア達のクヴァール部隊がマニピュレータで手を振りながら編隊飛行し、白い航跡引いて進む艦隊を見送っていた。
『フゥ、毎度ノ事ダガ、部隊ノ撤収時ガ一番気ヲ使ウナ』
「だよな。おまけに今回は大気圏内でのディルフィルドゲートの使用だ。こっち来るのはうまい具合にいったけど、帰るときは地球側の態勢が心配になるもんなぁ」
シエと多川が人型機動特重護衛艦、要するに人型機動戦艦『やまと』のブリッジで艦隊を眺めながらそんな話。多川は首をコキコキ鳴らして、ヤレヤレといったところである。パウル艦長兼、提督閣下に彼氏の高雄副長と撤収艦隊への指示に大忙しだ。なんかキャーキャー言っている。
『タガワ生体』
「ん? なんだいシビアちゃん」
『状況を観察したところ、我々とネメア、メラニーが必要とされる状況は現在認知されないと見るが、相違ないか?』
「ああそうか、シビアちゃん達は、これからネイティブの人達と交渉か……レムラー閣下も来るんだって?」
『肯定。だが“来る”という表現は適切ではない。こちらで用意したカウサへ仮想生命化して実体化するだけの事だ。我々はカウサさえあれば、どこでも存在できる』
「ああそうか、カウサ、えっとコアのことだよな……ある意味便利だよなぁ、そういうのって……かーちゃん、復興関係はもうこちらで独自に進めても問題なかったんだっけ?」
『ウム、コノ惑星ノ各コロニー部隊司令部ニモ根回シハスンデイル。マルセアカラモ許可ハモラッテイルカラ大丈夫ダ』
「そっか。んじゃ、あとはゼスさん同士の主権の問題だ。こっちがどうこう入り込む話じゃない。うまい具合にやってくれ、がんばれよ」
『対応を評価する。では後ほど』
シビアにネメアの肩を叩いて、励ます多川。シエも何やら言葉をかけている。
多川にシエも、このシビア達の交渉が、そうスンナリと行く話ではないことは想像していた。
というのも、このネイティブとスールのゼスタール人の事を考えると、両者の事情が複雑化してしまっているからだ。
というよりも、種族としてはスールとネイティブでは、もう今やまったく別の種族となってしまっているといっても良い。そもそも論として、方や純粋な知的生命体というれっきとした生物であり、方やどういう仕組でそうなったのか未だにわからないが、欠陥状態のハイクァーンシステムである『レ・ゼスタ』の処理で、人工霊体というか、データ霊体というか、そんな存在に変容してしまった人々だからだ……当然多川もシエも「どうするんだろ」と普通に思うわけなのだが……
* *
マルチバースな宇宙というもの。つまり『宇宙空間』という存在が、無限の亜空間にあぶくのように存在する世界である。
その宇宙空間世界同士を繋ぐことができるディルフィルド航法システムとは、これもトーラルシステムを生み出した、大いなる謎の文明の超技術遺産であった。
五〇〇〇万光年を数日で繋ぐ超光速技術、つまりアインシュタインの相対性理論とは別の、未知の理論世界にある技術は、別宇宙をつないだ場合、五〇〇〇万光年をディルフィルド航法で行く時間よりもまた違った日数で往復することができる。このあたりは次元時空間に関する地球人がまだ知り得ない複雑な彼方の世界を垣間見るような理論が必要になる世界なのだろうが、少なくともマルチバース空間と、実宇宙空間の時空間概念の理屈は同一でないのは、ティ連科学が実証している通りである。
……数日後……
そんな世界と世界を繋ぐ、惑星地球、ハワイ島沖のディルフィルドゲート生成海域に、大型天体跳躍用のゲートフィールドが、複数のゲート生成マシンによって創り出される……これの理屈は、あのビッグボウルと呼ばれた衛星を惑星ゼスタール宙域に跳躍転移させた、あの作戦の技術と同じようなものだと思って良い。
晴れ渡った快晴のハワイ沖に、空間を切り取ったように生成される次元境界面。
ハワイ島沖海域には、各国軍関係者を乗せた軍艦が、凱旋する各国英雄を出迎えようと、群れをなしてやってきていた。
空母の甲板には、軍楽隊がいつでもスタンバイできるように用意してたり、そういった艦にはマスコミも各国率先して連れてきてたりで、賑やかなものである。
今回の作戦に参加した兵士達の家族も、自国の国旗を振りつつ、家族の到着を待つ。
当然、日本のマスコミも出迎えの海上自衛隊艦艇に同乗して、カメラをディルフィルドゲートバックに女性のレポーターを映し、いまの状況を伝えていた。
「……現在、月の裏側に大きな基地を建設して、そこを拠点に地球世界との外交活動を行っている、我々日本人、いえ、地球人という存在から見て不思議な存在であるゼスタール人の皆様ですが、彼らがそのような存在になってしまった因縁というものは、今から約八〇〇年ほど前にゼスタール人さん達に降り掛かった、ある不幸な出来事がその始まりと言われています。それは今や我々も知るあのヂラールとよばれる生物災害に由来するものでした……」
まだ惑星ゼスタールからの凱旋部隊到着までに少々時間があるので、時間を食うためにそんなスール・ゼスタール人の歴史の話を織り交ぜたり、ティ連の次に邂逅した第二のコンタクトでもあったゼスタール人とのそれまでの事件の記録映像などを織り交ぜて、凱旋部隊の到着を待つ世界各国。
ゲートを生成する機動マシンの次元境界生成パネル群に一つ強烈なパワーが走り、その時を迎える。
レポーターは、時間を潰す演出をストップさせてカメラを切り替え、ゲートの方へレンズを向ける。
するとトンネル状に配置された次元境界面発生装置が光を放ち、ハワイ沖の海上に澄み切った湖面の如き次元境界面を生成させた。
マスコミのカメラはその様子をアップで捉える。
しばし後、鏡のような境界面は、泡出しブロワーの如き現象を真横へ吹き出すと、米海軍『USS BB-61A4 アイオワA4型』を顕現させた!
アイオワは霧笛をブォーっと鳴らし、無事の帰還を誇らしく示す。と同時にアイオワを見守る周囲の艦艇から水兵たちが歓喜の声をあげ、口笛を鳴らし軍楽隊が、米海軍行進曲『錨を上げて』を盛大に演奏する。
その様子はマスコミや、米海軍公式によって中継されて、ハワイ本島の各家庭やバーなどにも流されていた。
アイオワは艦体に装着していたゼル装備のゲートシールドをパージすると、真珠湾方向に舵を取った。
続けて、原子力空母『ロナルド・レーガン』『ジョージ・W・ブッシュ』が続き、艦隊を構成する随伴艦艇のイージス艦や、『ズムウォルト』のような駆逐艦もどんどんと顕現してきた。
更に顕現する艦艇は続き、ロシア海軍のアドミラル・グズネツォフや、キーロフ級ミサイル重巡洋艦『アドミラル・クシャコフ』等が続き、フランス軍の空母『シャルル・ド・ゴール』、英国の『クイーン・エリザベス』と、国際連邦軍各国の参加大中小艦艇が続々と顕現してきた。
そして最後に殿を務めるように顕現してきたのは、日本国海上自衛隊の艦隊である。
護衛空母『いずも』『かが』臨時機動兵器母艦『あかぎ』を先頭に、多数の護衛艦をともなって海域に顕現した。
日本のマスコミは他の国はどうでも良いという感じで、日本の海自艦艇を集中的にカメラに捉え、甲板に整列して手を振っている海上自衛官を可能な限りの望遠で撮影している。
「……国際連邦軍艦隊と、連合日本国海上自衛隊艦隊が世界各国の軍事関係者から歓喜を持って迎えられています。まさに凱旋帰国といったところでしょうか」
『……さん、今回の帰還は、各国の派遣海軍艦ばかりのようですが、国連軍の宇宙艦はいないみたいですね』
「はい、各国の宇宙艦艇は、後日、特危自衛隊とティ連軍、月のゼスタール軍らとともに帰国する予定となっているみたいですね」
レポーターもはりきって現状をレポートしていたり。マイクを握る手にも力がこもる。
なんせこういった『多国籍の軍隊』なんてのをマスコミがレポートする場合、これまでの地球ではだいたいロクなシチュエーションではないというのが相場であるだけに、何十年も聞いたことのない『凱旋』なんて言葉を連発できるのであるから、そりゃ興奮もするってもんである。
ということで臨時機動兵器母艦『あかぎ』飛行甲板。
「ではあとよろしくおねがいします、2佐!」
「わかりました! あの『グ(ピー)』の方は、とりあえずこちらで預かっておきますので、また後日引き取りに来てください!」
「あいや、その名前で呼ぶのはちょっと……!」
「ははは、こっちゃみんなソレで通ってますよ!」
海自自衛官幹部な2佐の人にソウセイを託し、一足先にハワイ島へ上陸させてもらう月丘にプリル。
でもって、ハワイから通常ルート、つまり民間航空機で一旦日本へ帰国する予定である。
そんな感じで、会話するにも待機するヘリのローターの音に声も大きくなる。
『いえー! はいちーず!』
Vサインして海自の人と記念撮影しているプリ子。ゲート通過中の、事実上の休暇期間の間、プリちゃんは海自自衛官に人気だったりした……但しプリルが月丘のヨメとはみんな知らない。
「プリちゃーん、いきますよー!」
『あ、はいはーい!』
海自自衛官に手を振って、ヘリに乗り込む二人。MCH-101ヘリコプターは、二人をハワイ島ヒッカム空軍基地、即ち共有するダニエル・K・イノウエ国際空港へと向かったのであった……
* *
「どうもありがとうごいざいます!」と礼を言い、ヘリから降機する月丘とプリル。プリルはシュタっと挙手敬礼で挨拶。まあとはいえ、この二人だけを乗せてきたわけではなく、海自の幹部自衛官もこのヒッカム基地に何か用があって来ているわけで、いってみれば月丘達はそれに便乗させてもらったという次第。
基地には話は通っているので、色々手続き済ませて、米軍にイノウエ空港の方へ送ってもらった。
『さんきゅーですっ!』と、米軍兵と握手をすると、車から降り徒歩となる二人。少し離れたストリートで食事でもしようと相成る。というのも、飛行機の便を取るのはこれからの話なので、多分今日はハワイに一泊という事になるだろうと、そんなところである。
ハワイには総諜対の事務所、というよりも、アジトみたいな民家もあるので、そこで宿泊もできる。
「まあ、惑星ゼスタールから飛行機の予約入れるわけにはいきませんからねぇ」
『デすねぇ……そこは盲点でしたっ』
「ということでご飯食べたら、事務所に一度行きますか。そこで泊まりかなぁ」
『ムフフフ……カズキサンとお泊り……二人きり……ムフフフ』
「何を邪なこと考えてるんですか。って、いつも二人ですごしてるでしょ?」
『いえいえ、やっぱりこういう旅行みたいな感じで二人きりというのはデスネ』
「遊びにきてるんじゃないですよ、はは」
ピコピコと笹穂耳を動かして、何かに期待するプリ子。完全に公私混同モードに突入しているプリちゃんだが、まあそれはいいとしてメシ屋を探すが、なかなかいいところがない。
「確かこのあたりに日本食屋さんがあったと思ったのですが……」
と、まるで観光に来た異星種同士の新婚旅行夫婦みたいな事をスマホの地図みながらやってると……
“プップ!”
と後ろからクラクションを鳴らされる。でもって振り向くと、英国某社の高級黒塗りリムジンが……
「ん」と振り向く月丘にプリ子。するとリムジンは彼らの横にスッと停車し、スモークのかかった窓をスルスルと下ろす。そこに覗かせる顔は、
「お久しぶり、ツキオカさん」
なんと、かのエドウィン・スタインベックであった……天を少し仰ぐ月丘。プリタンも同じく。
「あ、なんです? その態度は。わざわざ私自身が凱旋帰国の出迎えに来たというのに」
「いやですから、あのですね、こういう状況で、なぜに貴方が私の行動を把握しているのか? というのがですね……」
「あら、私も仕事でハワイに来てて、たまたま珍しい方。今どこかの遥か彼方の宇宙で活躍なさってるだろうと思われる方をそこでお見かけしたので、思わずお声をかけた、というだけですわよ。なにか問題あります?」
「あ、いや、そんな理屈がですね……って、もういいや。で、何ですか? 私は今からプリちゃんとご飯しようとおもってたところなんですけど?」
「あら、これまた偶然。私も今からランチに行こうと思ってたところです。ご一緒にいかが? ウフフ、さ、乗って乗って」
首を傾げてアイコンタクトな月丘とプリル。ま、断って後々問題になるのもメンドクサイし、今後の予定ではあったが、彼と色々話し合いたいところも『日本政府』としてはあったので、彼のランチに付き合う事にした。
……ということでリムジン車内でとりとめのない話をしつつ、到着したのは想像してたとおりの、高級ホテルのレストラン。しかも和食料亭であった。
店の女将直々に案内される月丘にプリル。もう和食料亭と言う時点で、準備万端丸出しではある。
ホテルでは、かのエドウィン・スタインベックがいるとなって大騒ぎになり、どこから湧いてきたのか、マスコミやパパラッチのカメラにマイクもやってくる。
でもスタインベックは嫌な顔一つせずに、「今日は親友と食事ですので、ごめんなさいね」と丁寧に断りをいれている。
その親友の月丘にプリルもカメラを向けられていたが、咄嗟にPVMCGの擬態モードを使って月丘は髭はやしたり、プリルは黒髪にしたり。
「さ、おかけになってね」
『偶然会ったにしては、ちゃぁんと私達を入れた人数分の席を用意してるじゃないですかっ、ケラー?』
「まあ細かいことは言いっこなしでね、そこは蛇の道はなんとやら。こっちもそれなりに把握はしてるわよ、プリコさん」
ま、ここまでお膳立てされてれば笑うしか無い月丘にプリル。
「では、みなさんの無事な帰国をお祝いしてカンパイ」
ということで、お銚子を皆でクイとあける。ここまできたらもう付き合うしかないわけで、月丘も素直に食事をいただくことにした。ま、ここは超有名な料亭であるからして、薬なんて入ってないだろうと。
で、月丘は単刀直入に、
「で、スタインベックさん、あなた方はどこまで情報を把握しているんのですか? 多分国連軍にも色々手を回してるんでしょ?」
スタインベックは突き出しをつまみながら、
「ま、そうですわね。貴方に隠し事をしても仕方ありませんし、私も一応“異星人”の末裔である以上、情報交換もしておきたいので……ま、正直なところを言えば、国連軍の中核にも我々のコネクションはあります。ですから、我々の把握している状況というのも、それは国連軍が把握している状況と同じですわ」
月丘はプリルと顔を見合わせ頷いて、まあ想定の範囲内だと。
「……で、す、が、それ以上の事も一部ですけど、把握しています」
その言葉に訝しむ目をする月丘。
『まま、まさかトッキ隊や、ティ連にスパイがっ!?』
ベタな反応を示すプリルにスタインベックは笑いながら、
「いえいえそれはないですわプリコさん、ご心配なさらずに。そこには手をつけていません。私もそこまで命知らずではありませんから」
一応スタインベックも特危やティ連を敵に回せば、メンドクサイことは理解しているようである。だが……
「日本政府か、日本企業関係から手を回しましたか?」
月丘の問いに、眉を上げ下げするスタインベック。ま、肯定である。
なるほど、ティ連関係、特に情報省関連の企業か、政府のアッチ関係な政党周りから手を付けたかと。
野党にも安保調査委員会関係者はいるわけであるからして。
だが、いいのかなぁ~、と月丘は思うのだが、スタインベックを通すインベスター関連の情報の交換も、これ今後の事を考えれば非常に重要で貴重なワケで、
(ま、一応白木さんには報告だけしておきますか……)
というぐらいで、とりあえず置いていくことにした。ま、諜報戦とはそういうもので、根こそぎ潰せば良いってものでもない。
「で、“それ以上の事”となりますと、どういう事をお知りになりたいわけですか?」
「もう、意地悪ですね、月丘さんは……私達のご先祖の話ですよ」
まあもう言わずもかなである。ここまで知られていれば、ペルロード人の話も出たということぐらいは情報として知るところだろう。
だが、本来なら今回の作戦は、ヂラールからゼスタール星を奪還するのが目的であって、普通はここにペルロード人の某が絡んでくるなどというのは考えもしない話であって……
「私もその筋からこのペルロード人の話題にゼスタールの方々が触れたという情報を目にした時は少々驚きましたわ」
スタインベックは自分のお銚子を開けると、月丘とプリルに徳利を差し出して、日本人風に酒を注ぐ。
月丘も思う所があるので、此度は盃に入った酒をクイとあける。プリルも両手で一献、フゥと一つ吐息を吐く。
これが少し前ならスタインベックの差し出す徳利なんて受けることがなかったのかもしれないが、スタインベックのご先祖様の話が知られているとなれば、この一杯も受けなきゃならんだろうと思う彼。
月丘も一つ吐息を吐く。
「? その話、何か重要な事なのでしょうか?」
「ええ、まあ実を言いますと、本来なら一度日本へ帰国してから、情報を整理して、それから貴方にお会いしようと思っていたのですけどね」
その言葉にスタインベックは意外な顔をして、月丘の目を見る。
「ツキオカさんから私にお会いしてくれる予定だったのですか? それは光栄な事ですが……と言うことは、かなり深刻なお話と見た方がいいのでしょうね」
「ええ。この情報は、まだ国連各国も知らない情報です。まあ彼らが知った所であまり意味はないのですが」
「ではこれからその事をお話くださると?」
「今お話してもいいですか? 正式な席ではなく」
「ええ、構いませんわ。というか、ツキオカさんとプリコさんがいらっしゃれば、そこは私にとってはソウチョウタイさんと正式な会談をしているのと同じ事ですわ」
「わかりました。では……実はですね……」
* *
……惑星ゼスタール、コロニー連合議会会議室。
ネイティブ・ゼスタール人の生存者が組織する政府組織、コロニー連合。その行政を司る中央議会議事堂である。
ネイティブ・ゼスタール人達は、生体と思われているマルセア・ハイドルが議長、即ち日本の政治の立ち位置に例えれば、『首相』を務め、コロニー群のゼスタール人らから選抜された議員で構成される議会が彼らの『国家』を運営している。
この場所は即ち日本で言うところの国会議事堂であり、政府の中枢である。
その会議室に招待されるのは、スール・ゼスタールであるシビアに、ネメア、そしてアルド・レムラー統制合議体にその側近合議体達であった。
で、マルセアは、トーラルシステムのアバターであることを秘匿しているのはコレまでの通り。
メラニーもネイティブ・ゼスタール人『設定』なので、ネイティブ・ゼスタール側に座っていた。
まずシビアがネイティブ達に見せたのは、スール・ゼスタールはどういう存在かという事である。
シビア達とネイティブさんが同じ容姿ではあれど、決定的に違う点があるところを理解させるためにコアを用意し、会議室でレムラーと側近達に、仮想生命体として顕現してもらったのだ。
コアに小さな粒子のようなゼル端子が纏わり、配線状の物体が体のようなものを形成し、、研磨するように滑らかになって服を着た男性の容姿になり、最初にでき上がったのはアルド・レムラー統制合議体であった。
転送時の顕現とは明らかに違う、物体がモーフィングするような形成の過程と登場の仕方に、ネイティブ・ゼスさんは驚き隠さない。
『我々は、アルド・レムラー統制合議体。今から約八九七ゼスタール周期前に、現在はヂラールと呼称されている敵生体から種族を保存するために、この惑星を脱出した古きゼスタールの民である』
この言葉に現在の普通の『人間』であるネイティブのゼスタール軍人や、政治家は驚き会議室はざわつく。
マルセアは「静粛に」と閣僚や議員らの私語を諌めるが、ネイティブのゼスタール人は所謂、普通の『人間』である。そら彼らが八〇〇年前のゼスタール人だといわれては、地球人と同様に普通は驚く。
それ以上に彼らネイティブの人達にとってこのスール・ゼスタール人は、正規の歴史もその内容が伝説と化して、『宇宙へ脱出し、いつかの約束の日にネイティブ人を救世に来る神となった我々の先祖』という理解のほうが強い。
そんな伝説を持つ現在のネイティブなゼスタール人さんなので、『我々は八〇〇年前のゼスタール人だ』とレムラー達に言われてしまった日には、もうネイティブの方々からすれば、そりゃ一大事ってな話にもなろうものである。
「では、我々に伝わる伝説は、本当だったのか!」
「スール神となった先祖の話は本当だった!」
「この事実を民にどう伝えようか」
と、そんな話でざわつくネイティブな方々だが、そこはもうニセネイティブ人とも言えなくもないマルセアとメラニーが、どこかの世界で今流行の科学的なエビデンスとやらに基づいての話し合いが必要だと、話をオカルトの奇跡になろうとする場の話を冷静に抑える。
まあ、確かに今のスールさんたちの喋り方を聞けば、なにか神様と話をしているような気にならない訳でもないが……
勿論ネイティブ・ゼスタール人は、何も地球で言う魔女狩りやってた中世の連中みたいな人々というわけではない。
地球人以上に科学の知識もある高度な文明人ではあるが、そこは滅びかけていた民で在るがゆえに、オカルトめいた話も『伝説』という触媒によって疑似科学のようにありもしない話が尾ひれをつけて信じられてもいるわけで、その『事実』を彼らにどう伝え、今後の話を進めていくかが重要であって、そこがこれからのスールな方々と、ネイティブのめざす共存というところなのであろう。
「……では、我々の世界には、もう一つ『トーラルシステム』があったと?」
『肯定。お前たちが現在使用しているトーラルシステム以前に、「レ・ゼスタ」という同様のものがあった。この惑星のパントール地方で発掘された遺跡に存在したもので、経年的に劣化が激しい遺物であったが、まだ稼働の可能性が残されており、当時の我々はそのレ・ゼスタへ可能な限りの修復を試みていた。丁度その時期と、ヂラールがこの惑星に襲来した時期が重なっているのだ……』
レムラーは、八〇〇年前に起こった今に至る悲劇の始まりを、ネイティブ人達に語って聞かせた。
レ・ゼスタがヂラールに対する唯一の対抗策であったが、欠陥品であったこと。
当時のゼスタール科学力や軍事力ではヂラールに対抗できず、やむなく民を惑星から脱出させざるをえなかった事。
脱出する時、レ・ゼスタのハイクァーン機能で、二十億もの民を素粒子化して一時的に保存しようと試みたこと。
それが結局レ・ゼスタの処理機能の欠陥で失敗し、自分達は肉体を失って、スールという、ティ連の科学でもよくわからない、精神生命体とか、人工霊体とか、データ生命体という、今日のようなそんな存在になってしまったということ……
そんな事をネイティブゼスタールの議員や、閣僚達に語った。
『……従って我々は、この惑星をヂラールより奪還するために今まで存在してきた。その歴史には、互いの文明の齟齬のために、今回我々の同志としてこの大戦に協力してくれたティエルクマスカ政体とも一時期敵対していた時期もあったのだ』
レムラーの語る、ゼスタールの神話にも匹敵するその壮大なスール達の歴史に唖然として聞くネイティブ人達。マルセアもかつて自分達を保護してくれたゼスタール人に、その歴史のデータを見せてもらっていたので、レムラーの話も理解できた。
『我々は生き残ったゼスタールの民二十億がすべてスール化していると考えていた。だが驚いたのは、その母星で、スール化せずに生体としての生き残りがいたという事実だ。これを我々が知った時、当初はヂラールを全滅させて我々が惑星ゼスタールに帰還し、この惑星での営みを再開させてゼスタールの文明の復興を計画していたが、お前達の存在を知り、我々の計画が大きく変わったのだ』
ネイティブの閣僚の一人がレムラーに問う
「その目的とは?」
『お前達を守り、お前達にゼスタールの文明の復興を託すことである』
「おお……」とどよめきが走るネイティブ人達。マルセアもレムラーの意外な言葉に驚きの表情を見せる。その横でメラニーがレムラーの顔を見て頷いていた。
そう、スール人達は、自分達が今のネイティブ人達のいる惑星に進駐して、互いを『同化』しようといったような、そんな考えではなかったのであった。
これは二十億ものスールの合議体全体が熟慮を重ねた上で出した結論であった。
誰もいない母星なら、自分達が奪還して再び母星の上に文明を築こうとか、そんな思いで今までやってきたのだが、母星に、立派に今を生きるゼスタールの子孫がいるのであれば、彼らの繁栄に手を貸してやるのが自分達の使命ではないかと。
だから無理に今のネイティブ・ゼスタールの有り様に深く干渉せず、ゼスタール文明復活の裏方になろうと、レムラー達二十億の合議体は結論を出したのだった。
その答えにマルセアは、
「本当にそれでよろしいのですか? 閣下」
と問う。勿論他のスール神のような存在として、彼らを敬っていた政治家達も、「共存融合の道を考えよう」とそう意見するが、スール・ゼスタール全体の心はもう決まっていたのであった。
とはいえ、レムラーも、
『勘違いをしないでもらいたいのは、我々は何もお前達と距離をおく事を望んでいるというわけではない。我々合議体の中には、お前達生体の中での生活を望んでいる者もいる。我々は、お前達生体との共存を望むものはその行動に許可を出す方針でいる。お前達も我々から出るそういう者達を受け入れてもらいたい』
「かしこまりました。それならば私達も大歓迎でございます、よろしいですねみなさん」
マルセアが閣僚達や政治家達に確認すると、勿論問題なしという話であった。
まあつまるところレムラー達スール合議体は、やはり今の自分達とネイティブの人達は、種族として、もう違う存在であることを自覚していたということであろうか。
また現実の話として、レ・ゼスタがティ連との和解により、完全なトーラルシステムとして修復稼働している現在、当のスールさん達も特段今の環境に不満を抱いているわけでもないので、もう各々自分の……というか、各合議体の好きにすればいいと、そういう方針でいくことにしたワケである。そうする事で新たなゼスタールの大いなる文明の創造にもなるかと、そう結論づけたのであろう。
だが、一つ疑問になるのは、その『ネイティブさんたちと一緒に生きたいスールさん』は一体どうやって共存するのだろうか? という事である。
まさか仮想生命の状態で一緒に生きるのか? と考えもする。まあそれもいいだろうが、スールゼスタール人の悩みの一つに『種族を増やせない』というものがあったのを忘れてはならない。その問題を解決する手段もあるらしいのだが、一体全体どうやるのだろうか?
それにはどういうワケか、サマルカ人さん達の協力が不可欠なのだそうだが……
* *
「なるほど、そういうことでしたか……」
ハワイ島の高級ホテルにある和食レストラン。
エドウィン・スタインベックは月丘の土産話、というわけではないが、ペルロード人の末裔とされている立場として、国際連邦も知らないゼスタールとペルロードとの関係、そしてスタインベックの立場として、信じがたい事実情報を聞くことになる。
「あまり驚かれないようですが?」
普通なら、「えええええ!?」とか当事者なら言いそうなところだが、割と冷静なスタインベックに、意外だと思う月丘。というか、もっと驚きおののいた表情を、このおネェCEOから見れるかと期待していたところも若干なきにしもあらず。
「いえ、驚いていますよ。まあただそれが今の私と、世界にいる同胞とは直接関係がないので、イマイチピンとこないというところなのですけどね」
「はは、確かに。『実は私達地球人の祖先の類人猿が、化け物になったものもいました』と言われてもピンとこないのと同じですか」
「そんなところです。ですが、今の私……そう。ペルロード人の末裔としてではなく、地球人としての私が今まで疑問に思っていたこと。その謎がわかった事で、私は驚いています」
つまり、六本腕のペルロード人が、なぜにその象徴的な容姿である腕を四本落としてでも、地球人と同化したか? というその理由。放浪の理由が理解できたことの方が大きいと彼は言う。
「つまり私のご先祖様は、逃げ延びてきた人々だったということですか」
「そう単純な話でもないみたいで、まだまだわからないところもあるのですが、今のところはそう解釈していただいてもよいのではと思います。あと、グロウムの一件もそういうことですね」
「ああ、あのグロウム帝国さんの神様の件ですか……」
スタインベックは女将にお銚子をもう数本追加してもらい、月丘とプリルに自ら徳利を持って日本風に彼らの盃に酒を注ぐ。
「で、このお話は国際連邦の方には」
「報告していません。多分、まだ知らない事ですし、今回の国際連邦の作戦参加理由としてはあまり関係ない部分ですしね」
「ナルホド。ですがティ連の皆様の立場では……大事なのではないのですか? プリコさん」
『はいぃ。そうなんですぅ』
流石はスタインベックである。トーラル文明社会であるティ連からすれば、この事実は一大事ともいえるものだ。トーラルシステムが一度狂ってしまえば、あんなヂラールのような化け物を生み出すことすら可能で、しかもそれが『種族を保全する』という計算結果から見れば、決して間違った結果ではない事をあの規模でやらかすという事実が、ティ連創生云十万年経った今、わかってしまったわけなのだから、それは大変な事と言っても良い。
つまり、下手をしたら自分達もそうなるのではないかという不安である。
トーラルシステムに絶対の信頼を置いていたティ連社会からみれば、捨て置けない話である。そこを理解しているスタインベック。
ということで、そんな話もしながら土産話代わりに惑星ゼスタールの話をスタインベックにしてやる月丘達……そんな事をこんなインベスターなグレーゾーン人間にペラペラ話しても良いのかという事だが、これも情報交換の一環と思えば、特に問題もないという事である。まあそのうち公表される話でもあるわけであるからして。
それにそういった点は白木から裁量権も得ている彼であるし、スタインベック自身も、彼から聞かずとも相当量の情報はすでに得ているところもあるだろう。そこは当事者の話を聞いて、事実確認をするというところもあるワケだ。
そんなこんなでもう二時間近く話している彼ら。
「……でツキオカさん、あなたが帰国した理由は?」
「非常に大きな話になってしまってるのですが、私も政府の人間ですからね。日本はティ連の加盟国である以上、ティ連の国益のために動く必要もあります。ですので調査のためにまたちょっと宇宙へ」
「あらあら、大変ですわね日本の情報省さんも」
「いえいえ、これも仕事ですから」
するとスタインベックは串に刺さったデザートの抹茶団子をモグモグさせながら考える目をしつつ、やおらに、
「ツキオカさん、あなたのそちらのお仕事が一息ついたらまたお会いしましょう」
「珍しいですねスタインベックさん。そちらから私にアポですか?」
「ええ。今日のお話は、私と、その同胞にとっては大変意義のあるお話でしたので、相応のお返しもしないといけないと思いますのでね。今はまだ私達も調査中なのでお話できませんが、詳細がわかればちょっとお見せしたいものがあります」
なんだかまたややこしい事なのかなとも思うが、この御仁の話……そもそも彼らがペルロードの末裔の話にしてもそうだが、超貴重な重要情報を提供してくれるので、安定した関係を保つに越したことがない御仁であるのは間違いないわけではあるが。
「わかりました。はは、まあこちらからご連絡するには貴方は立場上アレですからね。またこんな感じでお会いすることになるんでしょ?」
「ま、そうですけど、このあいだメール送ったでしょ? そちらに返信いただければいいんですけど?」
「え? あれ普通に使ってるアドレスなんですか!?」
「ええ、そうよ」
とま、そんな感じでスタインベックとの昼食会は終わりという次第。なんだかんだで三時間ぐらい話し込んでしまった。
今日はこの高級ホテルに部屋とってるから、そこで一泊して行けと言われる月丘とプリル。更には明日の飛行機も大和航空のファーストクラスを奢ってくれた……いいのかなぁと思いつつ、ま、今日の情報料として有り難く受け取る事にする月丘とプリル。ま、こういうのも無駄にしないのも仕事上の付きあいである。
というか月丘達から見れば、『インベスターの変なオッサン』という理解のスタインベックだが、他から見れば『パイドパイパー社のCEO』という立場の人物と普通に連絡が取れて付き合えるという時点でスゴイわけであるからして、こういう関係を維持するのも月丘の仕事でもあるし、PMC時代に培われた彼のスキルでもあるわけである……
* *
さて、地球とゼスタール星双方で今後の話が進む今。
特にゼスタール星の文明復興作業は、スール・ゼスタールさんの、あのお得意な作業の手早さから、どんどんと復興作業が進んでいくわけで、惑星ゼスタール軌道上に待機するガーグデーラ母艦からはドーラ型仮想生命体機動兵器がじゃんじゃんと惑星ゼスタールヘ降下し、月面でゼスタールの基地をあっという間に建設してしまった働き者ぶりな性能を遺憾なく発揮していた。
譬えばドーラが植物型ヂラールの焼却作業を進めつつ、植林作業をやってたりなんかすると、地上に生息するハンター型ヂラールが作業用ドーラに襲いかかってきたりもする訳なのだが、逆にドーラにゼル端子を打ち込まれて返り討ちに会い、奴隷化されて死ぬまでコキ使われてたりと、そんな状況になってたりする。そういう点、敵にすれば厄介なドーラだが、味方にすればこれ以上無い働き者でもあるので、非常にネイティブさん達からは愛されてたりしていた。
ってか、ドーラに愛着を感じてくれるとは、という話もあるわけなのだが、悪い事ではない。
勿論ドーラだけが働き者というわけではなく、そんな土木作業のような仕事はこのドーラさん達に任せて、ティ連の方々は、ハイクァーン造成機を大量に導入して地上に建造物……即ち都市を建築し、ゼスタール人に地下コロニーから地上世界への生活へと移行してもらうための作業を行っていた。
そこに白い雲を引いてゼスタール上空を飛ぶ旭龍F型。勿論乗り込んでいるのはシンシエ将軍閣下ご夫妻。
彼らの駆る旭龍のハードポイントには、何やらミサイル状の物体が、F-15ストライクイーグルのフル爆装状態並みにワンサと取り付られていた。
他、旭龍以外にいろんな空域方向へ飛んでいく旭光Ⅱにヴァズラーなどなど、そんな機体にも似たような装備が施されている。
「よしシエ、大気正常化ミサイルを発射するぞ。あまり散布域が重ならないよう計算してくれ」
『了解ダーリン。アト二分ホド待ッテクレ』
しばし後、
『ヨシ、誘導コースの計算完了。イイゾ』
「コピー。ミサイル発射」『発射』
旭龍に積まれたミサイル全弾は一斉に発射され、各々四方八方へと飛んでいく。
しばし飛翔したミサイルは、ポンと小さな爆発を起こし、煙玉のようになる。まるで運動会のお知らせ花火のようだ。
そんな煙玉があちこちで破裂している。
「さてと……かーちゃん、どうだ? 数値に変化ある?」
『アア、早速効果ガ出テキタゾ』
このミサイルは何かというと、ヂラールに汚染された現在の植物型ヂラールに適した大気成分を、本来のゼスタールの自然大気成分の数値に戻すためのミサイルである。
弾頭に大気成分を調整させるためのナノマシンを大量に詰め込んでおり、それを爆破散布させて大気中を浮遊させる。
勿論このナノマシンは生物の体内に入っても全く毒性はなく、排泄物としてそのまま体外に出るだけである。
そんなナノマシンを定期的に散布することで、本来の惑星ゼスタールの大気に戻そうというワケである。
いかんせん現在のゼスタール星には、例のゼスタール人を死に至らしめたウイルスも大量に残っている。
現在は薬品もあり、ネイティブゼスタール人自身にも免疫がついて問題ないものなのではあるが、本来はこの星にあってはならないものである。そんな物質も浄化させるのがこのナノマシンである。
シンシエコンビは、その効果を確認すると、
「よし、んじゃこのまま大気圏外に出て、この星を一回り見て帰還するか」
『了解。ンデ、ダーリン、モウソロソロナノデハナイノカ?』
「ああ、あの話ね。んじゃ大気圏外に出たら、ちょっくら眺めに行ってみるか?」
『アア、ドンナ風にナルノカ見テミタイシナ』
シンシエ両名が駆る旭龍F型は、そのまま上昇して大気圏を抜け、衛星軌道上で速度を上げて惑星ゼスタール全体を視察する。
軌道上にはヂラールとの大規模な戦闘の残滓がまだまだ残っており、ヂラール機動巣窟の残骸などが宇宙空間に浮遊している。
センサーにはまだヂラールの熱源反応が映っているようで、即ちあの戦闘で生き残った機動戦闘兵器系のヂラールが残骸の中に潜んでいるのだろう。
まあこれはわかっていることなので、軌道上に待機している国際連邦の艦隊とティ連の艦艇が協力して、国連軍の宇宙戦闘訓練も兼ねて生き残りの駆除に当たっている。
「このでっかい残骸もなんとかせにゃならんなぁ」
『アア。基本ハ死骸ダカラナ。人工建築物ノ残骸トカナラ、マダ利用価値ハアルノダロウガ、生体兵器ノ残骸トナルト、利用ノシヨウガナイ』
「でも、メルちゃんは『宝の山だー!』とか言ってたけど、あれどういうこと?」
『ハハハ、アレハ、メル達ガ使ッテイル「クヴァール」ノ材料ニ、ヂラールノ「ばいお装甲」等ヲ使ッテイルカラダヨ』
「あー、そうかそうか、なんかそんな事言ってたな、ヤル研の連中が」
なんと、サルカス独自の錬金学で開発されたクヴァールは、ヤル研がいっちょ噛んでたようだ。なんか変に納得した多川。
ということでシンシエコンビは軌道上からの視察を一通り終えると、シエのいう『もうそろそろ』な計画の地点へと向かう。
少々スピードを上げて加速する旭龍F型。地球科学の言葉で言えば、『ラグランジュポイント』近郊の宙域までスピードを上げる。
すると、そこにはスール・ゼスタールとティ連の工作艦隊が大規模に待機している状況が見えた。
「こちら特危自衛隊の多川だ。状況の視察に来た。お客さんまだ来ないのか?」
『コチライゼイラ惑星軍所属工作艦“メインバル”予定時間を少し過ぎていますね。ファーダ・タガワ、こちらに着艦しますか?』
「いや、状況が確認できたらすぐに戻るから、ここからで構わない。ってか時間に正確なスールさんが遅れてるなんて珍しいね」
『ソリャ、アンナノヲ移動サセルノダ。スール連中トイエド、手間モカカルダロウ』
と刹那、二人の会話に割って入るようにアラートが鳴る。ディルフィルドアウト警告だが、ワープアウトの前哨反応がない。
「お、来たか?」
『ダナ、フフフ』
ディルフィルドアウトで艦船が顕現するとき、度々表現され得る『澄み切った水面に岩をぶっ込むような現象』が起こるのだが、この反応は明らかに違う。
何もない宇宙空間が、目に見える光球のようなアブクを立て、更には波打つ波紋の中心から、何かが顔を覗かすような、そんな顕現の方法。
そう、あの『次元溝』正確には『時空間接続帯』から姿を現すその現象であった!
しかもその規模が、ガーグデーラ母艦が姿を現すような規模ではなく、天体クラスの物体が現れる規模であり、その光景もティ連人でさえ初めて見るド迫力な光景であった。
一体何がこの宙域に姿を現すのか?
しばしの後、漆黒色の球体に赤い光を無数にまとった機械の星が空間へ海中から浮上するように顕現する。
それはスール・ゼスタールの中心である、『ナーシャ・エンデ、バルサーラ中央統制区』
所謂『バルサーラ星』という巨大な人工惑星であった……




