【第一〇章・新たなるゼスタール】第六一話 『ミニャール』
地球時間、西暦二〇二云年。惑星ゼスタールにおけるヂラール侵略戦争の歴史は幕を閉じた。
所謂、人格精神体とも、人工霊体とも、地球では色々と言われているゼスタールの人々八百余年の忌まわしき戦いの歴史に終止符が打たれたのである。
そもそも彼らは、ティ連の主観で言うなら、かつては『ガーグデーラ』と呼ばれる謎の敵であった。
今思えば本来はお互い戦わなくても良い知的生命体同士であったのだが、相対峙した片方のティ連は、歪な超発達を遂げた矛盾を抱える科学の使徒であり、片方のゼスタールは、星を追われた、種の保存方法に欠陥を持つ肉体を超越した存在であり、その互いの存在を理解できぬままに争い、互いを『謎』と認識する不運な者達であったわけだが、それでも結果、共通するものは何か? といえば、『トーラル』であり、『レ・ゼスタ』であり、『ヂラール』であったわけである。
そのような因果の流れにおいて、互いの『認識の欠陥』を補い、ティ連とゼスタールを和解に導いたのが、発達過程文明の日本国であり、柏木真人であり、総諜対-月丘和輝達の活躍であった。
そう、これでスール・ゼスタール人はすべてがうまく行くと恐らく思ったであろう。
だが……所謂スールになりそこねた、即ち、八〇〇年前に星を脱出できなかった、肉体を持つネイティブのゼスタール人達が世代を経て彼らの母星に生存していた。これがスール・ゼスタール人達の計画を大きく変更しなければならない要因となり、更にそれ以前のグロウム帝国との邂逅によって、『ペルロード人』という謎も加わる形でスール・ゼスタールの今後のあり方にも大きく影響することになってしまうのであった。
これにはサマルカも大きく絡んでいるようなので、正直ティ連も関係がないとは言えなくなったのである。
……『戦争とは、始めるよりも終わらせる方が難しい』とよく言われるが、それは『勝った後の戦後処理』という単純な話ではないことが、此度の戦いで皆が大きく理解しているところである。
『敵がいました、みんなで戦いました、勝利しました、大切なものを取り返しました、よかったよかった、はいおしまい』
こんな単純な戦いであればどれだけ良かったことか。正直スールのみなさんは、初めはこれに似た認識であったのは事実なのである。
だが、そこに二重三重と別の要因が重なってくると、これ乗数的に面倒事が増えていくというのは、世の『戦後』というヤツに共通して言えることであるからして…………
* *
惑星ゼスタールのとある小高い丘に立つ三人の人物……一人は背が高く、ナイスバディな褐色女性に、一人は少女風のショートカットな褐色ボーイッシュガール。そしてもう一人は、白衣を来た学者先生風の褐色知的美人。
『この場所に来るのも随分久しぶりだ』と語るのは、ナイスバディのネメア・ハモル戦闘合議体。って、久しぶりといっても数百年レベルの『久しぶり』である。
『肯定。昔は我々……いや、私個人の実母体によく連れてきてもらったメモリーがある』と語るは、ボーイッシュ美少女のシビア・ルーラ調査合議体。
『我々もシビア・カルバレータに同意である。それ以前に、我々スール・ゼスタールでこの場所を思い出として語らぬものはいないだろう』と話すは、メラニー・ホルプ偵察合議体。
今、この三人がいる場所というのは、八〇〇年前のゼスタール人なら誰もが一度は訪れたことのある風光明媚な観光地であり、アミューズメント施設でもあった場所であった。
ネメアが、軽く一つ吐息をつくと、
『我々のメモリーにある美しい景色とはかけ離れた状態……八〇〇年もの歳月を、敵性体……いや、ヂラールに与えると、ここまで酷くなるものなのか』
『肯定』
そう言い、シビアは自分の周囲を見回す。すると、歪な植生にデザインをした『植物型ヂラール』が鬱蒼と茂り、その動態的な触手状の物体が、ウネウネと三人の周りを取り囲もうとしている。
『もう少しメモリーに感傷していたいところだが、そろそろ仕事をしないと』
とメラニーが言うと、『肯定だ』とネメアにシビアは応じる。
三人は、もう情緒も薄れてしまったスールであるはずなのだが、唇を少し噛みながら、手のひらを植物型の方へかざして、発火現象を誘発させる。
と瞬間、長大な火炎を掌から放射し、周囲へ集まった植物型ヂラールの触手を焼き払い、更には周囲一帯にに植生する本体も焼き払っていく……
シビアの視線は伸びる火炎の先を見つめる。そこには廃墟となった、かつて彼女が肉体を持っていた頃に、親に連れて行ってもらったことのある宿泊施設があった。勿論、既に廃墟となって久しい遺跡のような施設ではあるが、その廃墟に容赦なく絡みつき、成長してる植物型を始末するため、その建物ごと燃やすシビア。
情緒が薄い彼女でも、正直良い気分ではないのは確かである。
メラニーはふと後ろを振り返り、丘から見下ろせる景色を眺める。するとあちこちから黒煙に白煙が立ち昇るのを確認できた。つまり、今の彼女達と同じことを各地でやっているわけである。
まるで市役所造園課のようなことをやっている三人のスール娘ではあるが、こんな地味な作業にも理由はあるわけで……
「ゲホゲホッ……あー、壮大に燃えてますね! お疲れ様です、お三方」
『お疲れですっ、みなさん!』
例のド派手なメカメカしいサイドカーに乗ってやってくるのは、月丘和輝とプリルであった。
「って、スゴイですねみなさん。そんな……え? 手の平から火炎放射を放ってるなんて」
実はそんなすごい技ではない。種明かしをすれば、シビア達は自分達のコアに、ティ連と仲良くなってから技術提供してもらった高性能のPVMCGを内蔵させたので、こんな技も可能になったのだという話。
「あ、なるほど」
『我々の所有していた仮想造成技術など比較にならないぐらい高性能だ。おかげでこの仮想生命素体も素晴らしい物となっている』と話すはメラニーさん。
『ところでツキオカ生体』
「はい、何でしょうシビアさん」
『今、各地で同様の焼却作業をおこなっているが、まさかこのような地味な作業を延々行って植生型ヂラールを駆除していくのか?』
「はは、まさか。今みなさんにやってもらっているのは、惑星の復興拠点建設のための一時的開墾作業みたいなものですよ。この場所には『応急中央通信管制施設』を建設しますので宜しく作業をお願いしますね」
頷く三人のスール娘。
『カズキサン、カズキサン、この周辺は、植生動態反応しかしないので、例のヤローの心配はいらないみたいですっ』
「ああ、そうですか。ご苦労さま」
プリルは、あることの調査を月丘のサイドカーへ同乗して行っていた。それは……
『ハンター型の残存個体調査か? ツキオカ生体』
「ええ、そうです。あのハンター型は、この植物タイプとセットになってるトラップ型のヂラールのようですからね。この植物型よりも気をつけて見つけ出し、駆除しないとまずいでしょう。スールの皆さんや、地下のネイティブのみなさんがこの地上で生活した時にあんなのを生かしておいたら、生活圏に降りてきて毎度大騒ぎになる地球のクマさんや、イノシシさんどころの騒ぎじゃありませんから」
月丘の喩えに「ちょっと肯定しづらいが……」と思うシビアにネメア。メラニーはクマサンやイノシシさんを知らないので、「何の話だ?」みたいな顔をしている。
「とりあえず、当面の施設を建設して、あとの段取りはマルセア議長らとの相談になりますが、ティ連の工作艦隊と、ナーシャ・エンデ側の工作部隊に、この星の工作部隊が共同で、一気に惑星浄化を行う予定でいます」
するとメラニーが顎に手を当てて、
『では、今後の予定次第では……』
『うむ、バルサーラ中央統制区が、ナーシャ・エンデから切り離されて、こちらの空間へやってくる可能性がある』
『ネメアの言動を肯定。その後、ナーシャ・エンデ自体もこの空間へ転移する可能性がある』
頷くシビア。その話を聞く月丘とプリルは「ええええええ!?」となる。
「ナ、ナーシャ・エンデが通常空間に転移するんですか? って、アレ、ちょっとした星系規模の空間建造物ですよね!」
『そそそそ、そんなじゅーだいな事、ティ連本部にちゃんと通達してるんですかっ!?』
もちろんしてるわきゃない。彼らゼスタールが八〇〇年前以降、即ち彼らの聖戦ともいうべきこの戦いを始めた当初から計画されていたスケジュールであるからして、後発協力していたティ連には、まだ言っていないという話。
ゼスタールからすれば、別宇宙の内輪の話なので、事が終わったらあとはこっちでなんとかやるぐらいな感覚でいたらしい。
「ではメラニーさん、当面の……その、何ていうんですか? ネイティブさんたちとの融和のために、中核のバルサーラ中央統制区だけをこの星系にもってきて、駐留させると?」
『肯定だ』
するとプリルが、
『でもでも、あのバルサーラ中央統制区だけでも、カセイぐらいの大きさがある、人工惑星みたいな施設ですよね? 大丈夫なんですか?』
まあそこんところは彼らも色々考えてるらしい。まあなんて言っても八〇〇年前からの計画であるからして、相応の調査の蓄積もあるのだろう。
* *
ということで、火星司令部。
メラニー・ホルプ合議体が、『ティ連に知らせていない』とはいっても、そんな大それた計画を現場レベルで勝手に推移させることなどできるはずもないわけで、バルサーラ中央統制区、以下バルサーラ星と呼称するべきものを惑星ゼスタール近海に持っていく話は、火星の柏木御大の耳にもきちんと入っていた。
とはいえ、柏木も『さっき聞いた』レベルの話なのではあるが……
「そんな壮大な計画を持ってたのか、スールさん達は!」
ゼル会議室で話すお相手は、愛妻大臣のフェルフェリア。フェルさんは今、日本でお仕事中。外務省のゼルルームを使ってるそうな。
『そうなのデスよ。そのお話が今、ファーダ・サイヴァルからありまして、今休憩中なのですけど、今後の件も含めて話し合ってるところなのでス』
「そっか。んじゃ、サイヴァル閣下にアルド・レムラー統制合議体閣下から話が行ったわけだね」
『デスデス、で、まーこれからの話は政治のお話になるのですけど、お耳にだけは入れておいたほうがいいかなと思いましてデスね』
「ありがとなフェル……ま、確かにこれからのことはオレっちの手を離れるけど、撤収任務なんかの段取りもあるし、それに、そっちの政治のやりとりで駐留とかいう話になったら、まあ俺の仕事だしな。とはいえあとで俺にも情報は上がってくるとは思うけど、先取りできたらまた教えてよ」
『ハイですね。んじゃ、そろそろ会議再開ですので、また』
通信を切る柏木。彼の執務机の前に座っていたフェルが霧散して消える。
(そーいう事は、もっと事前に言ってほしいよなぁ……スールさんはこういうところが、なんか先走ってると言うか、スケジュール優先絶対マンみたいなところがあるというか……)
頭を両手でガシガシとやる柏木。と、ノックして部屋に入ってくるは、
『おう、旦那。話は聞いたぜ』
ゼルエ・フェバルスであった。
「ああ、ゼルエさん。そっちにも話がありましたか」
『ああ、ジェルダー・ヘストル経由でな。ということで、俺っちがファーダ長官閣下様にご報告に来たというわけよ、ガハハ』
そういうと、ゼルエは知った部屋といった感じで、ドカっと応接用ソファーに腰をかける。
「一杯やりますか?」
『お、いーねぇ!』
柏木はそういうと、ほとんど飾りのリキュールラックから、ウイスキーのボトルを取り出し、グラスを2つつまんで、応接机に置いた。
氷はハイクァーンで、ボール状の大きな氷を造成してオンザロックというヤツである。
つまみは地味にチーズと柿ピー。
「ま、とりあえず惑星ゼスタール解放に成功したお祝いということで」
『だな、乾杯だ』
とグラスを合わせる。ゼルエは、早々に一杯目をクイッと空けて、カーっと唸る。地球の酒はうまいもんだと。
『で大将、その、バルサーラ星みたいなスール・ゼスさんの本拠地がこっちに来た後だけどよ、機を見てその、ナーシャ・某をこっちの空間に顕現させるって言ってるけど、俺も資料でしかみたことないんだが、アレって、小型の星系ぐらいの大きさがあるって話じゃねーか』
「ですね……私は当地に行きましたが、規模的にはティ連本部人工星系よりは小さいとは思うのですけど、いかんせんティ連本部のような正味星系を模した人工物ではなくて、『星系規模の大きさの宇宙ステーション』ですからね。考え方によってはコッチの方がスゴイんじゃないかと」
『だよなぁ。でもなんでそんなもんをスールさんは造ったんだい?』
「話では、あの、我々が“次元溝”って言っている場所が特殊だからだそうですが……」
即ち、通常の物質を、素の状態では維持できない空間だからである。
シールドを張った状態で、常に施設同士の連携を密にしないといけないからで、樹木の枝葉のような構造の巨大な建造物になってしまっているのである。ティ連ほどの人工惑星建造と構成技術がないために、増築増築でこんな施設になっているわけだ。
『なるほどな』
「って、一〇年前まで木っ端みたいな宇宙ステーション造ってた地球人が、今やそんな話ができるんですから、なんかそれもスゴイですけど」
『ま、そりゃそんなモンだろ』
「え? そんなもんなんですか!?」
ゼルエとそんな話をしながら、酒もちょっとずつ進んでいく二人であった……
* *
惑星ゼスタール、中央地下都市『ゼスタールダンクコロニー』統括議長府。
現在の、ネイティブ・ゼスタール人の司法、行政、立法の中心ではあるが、その実は、謎のトーラルシステムが稼働する巨大な中央システムであり、この場所での議会などは、ネイティブ・ゼスタール人が運営する行政機関ではあるものの、官僚システム等はすべてトーラルシステム『タイプ、エルドレアルラロウ・マルセア・トーラルシステム』の作り出したアンドロイドで運営されている、当の生き残りのネイティブ・ゼスタール人ですら知らない事実が隠された施設である。
そのマルセア・システムとは……マルセア・ハイドル議長を名乗る人格アバターを使役するトーラルシステムであり、正体不明のペルロード人、『ミニャール・メリテ・ミーヴィ』なる人物がこの惑星へ秘密裏にもたらしたものである。その経緯は、過去の彼女を保護した一部のネイティブ・ゼスタール人以外は知らない。
……といったところが、スール・ゼスタール人や、ティ連人に日本人視点で見た、マルセア・システムを取り巻く、今の惑星ゼスタール最大の謎といったところでもある。
で、ヂラールとの戦闘中、マルセア・システムや、ミニャールの謎を調査していた科学者であり、イゼイラの大賢者様であるニーラ・ダーズ・メムル教授は、マルセアと二人して、ティ連の代表団を出迎えていた。
まあ代表団といっても毎度の知ったツラの人物であり、大見にナヨ閣下、パウルにシエ、そして多川といったところである。
国際連邦代表団も連れてこようかという話はあったが、先にティ連―日本として色々聞きたいこともあったのでこの面子がマルセアと話をしようということに相成った。
で、この代表団という毎度のメンバーのリーダーは、ナヨ閣下という事で……
『ニーラや、色々とご苦労さまでしたね』
『ナヨさま達も色々と大変でしたね~、ここで見てましたよぉ~』
とニーラが言うと、
『ン? 見テマシタッテ……ニーラ、調査任務ヲサボッテタノカ?』
『あ、何言ってるんですかシエお姉さま。調査調査って、あんなドンパチやらかして、こっちのコロニーもピンチになりそうだったから、私もファーダ・マルセア議長を色々お手伝いしてたんですっ!』
ニーラがプンスカ顔でそういうと、マルセアも、
『その通りです。ニーラ様には色々と戦闘における素晴らしい助言をしていただきました。私の計算結果で補いきれない予測分析には素晴らしいものがあります』
マルセアに褒められてエッヘン顔のニーラ大先生。つまり、トーラルシステムに花マルの評価分析されたニーラ先生であるからして、なかなかこの戦闘でも色々貢献していたようだ。
『ま、そう言う事もあってですね、実はあれからミニャールさんや、ファーダ・マルセアの本体であるトーラルさんの分析なんかも、あんまり進んでないんですけど、テヘ♡』
結局進んでないんかい! という話で、皆して『なんだよぉ~』な顔になる次第。
『あっ! でもでも、全然進んでないわけじゃないですからね~! あのミニャールサンのニューロンデータ取得もなんとかなりそうですよ~』
そういうと『え?本当か!』と眦が鋭くなる諸氏。
『それはすごいな、んじゃ一気にグロウムさんの件から何から、謎が解決って話に』と多川。
『ですね、ティ連のニューロンデータ取得技術なら、事実上の「生き証人」ですから』と大見
『でもどこまでのものでいけるのかしら? 生き証人っていっても遺体からの取得でしょ? あんまり前例ないわよ?』とパウル。
そう、そこなのである。遺体からのニューロンデータ取得は確かにあまり前例がない。というか、ティ連では生きた証として、生前に、定期的にニューロンデータを取ってアップデートしていく感じなので遺体からの取得、しかも保存状態が良いとはいえ、死後何百年も経った遺体からのニューロンデータ取得行為などあまり前例がないわけであるからして。
『パウルかんちょの言うとおりのところもありありましてですね~、確かに欠損しているニューロンも非常に多くて、全部が全部というわけにはいかなかったし、私達の世界でよく使う、ニューロンエミュレーション人格のアバター造成もちょっと無理っぽいんですけど……』
つまり、フェルさんの両親のエミュレーションアバターのような、精密な人格再現ドロイドの造成まではできないかもしれないという訳なのである。
『……つまり、質問に答えるお人形サンみたいなものなら、なんとかなるかも、って感じですね~』
するとナヨが、
『フム、まあそれでもいいのではないですか? 色々と物言いができるだけマシというものじゃ』
みんなも『そうだ』と、とりあえず納得である……という事で……
『ではでは、これからファーダ・マルセアのメモリー空間の一部をお借りして、ミニャールサンのニューロンシステムを構築しますね~』
ニーラがポポポッと、キーを打つと、アバターのマルセア後方に鎮座する、未来の前衛オブジェクトのような形をしたトーラルシステム本体のパワーが上がり、何かを演算し始めたようである。
『ニーラヨ、まるせあノトーラルシステムハ、ティ連デ使ワレテイルモノト同ジフォーマットナノカ?』
『基本のトコロは同じですけど、システムの設計の仕方がティ連全域で見られる形式のものとかなり異なりますね~、なのでこのトーラルシステムも謎のアイテムですよ、シエお姉さま』
『ダロウナ……レ・ゼスタモ、トーラルノ一種ダシ、コノまるせあモソウダトナレバ、トーラルシステムヲ作ッタ文明トハ一体何者ダト改メテ思ウガ……』
それを問うて叶わないのがトーラル文明の謎である。
ティエルクマスカ銀河一帯にその文明の痕跡として、トーラルシステムをそこらじゅうに遺し、更にはこんな別宇宙にも存在する次元規模の超古代先史文明トーラル。
一体何者かとトーラル文明の遺産を所有し、利用する知的生命体は、必ずその驚愕の先史文明の姿に想いをはせるが、トーラル科学の遺物には、その先史文明の痕跡が何一つ遺されていない。つまり手のつけようがない謎なのである。
だが、ペルロード人もトーラルシステムを所有していた。そしてヂラールとの何かの関わりを持っている可能性がある。これは大きい事件でもあるので、ニーラの作業を皆して何かを期待しながら待つのであった。
* *
『…………よし、ニューロンシステム構築完了ですね。では、アバター造成開始しますぅ』
ニーラの操作で皆の眼前に、遺体で横たわるミニャールそっくりの、仮想造成素体が構築される。
だが、仮想造成素体にこういう言い方もなんだが、突っ立てるマネキンのようで、生気がない。
『さっきも言いましたけど、保存状態が完璧とはいえ、長い期間のご遺体からのデータ取得ですから、このアバターさんは単なる応答機械みたいなモノですので、そこはよろしくですよん』
とそういうと、ニーラはシステムの最終処理を終えた。
『さてと……では……』とニーラはミニャールの仮想造成素体の方を見ると、『仮想造成素体のアバターさん、あなたのお名前はなんですか?』と問うてみる。
遺体をスキャンして、その内部生体構造を調べ尽くした成果となる彼女の第一声は、フェルやニーラ達副音声帯を持つ知的生命体のような声であった。
『*++r;w+RR+r@+R}**』
『あ、しまった。ふぁーだマルセアの言語翻訳ベースにリンクさせるの忘れてた』
シエから頭部にチョップを食らうニーラ。せっかく緊張感もって見守っていたのに、出オチしてどうすると。ということでもう一回。
『……ワタシは、みにゃーる・メリテ・みーゔぃ……である……です』
なんだかものすごく痛々しくなってくる諸氏。
死人に尋問しているみたいなのは、なんともあまり気分が良いものではないが、まあそこは慣れるしかない。
『あなたは、何という種族の方ですかぁ?』
『ぺるろーどの民』
『よしよし……ミニャールサンの脳ニューロンは、十分質問に耐えられるレベルですね。では、本格的に調査開始としますか?』
『うむ、ようやったなニーラ。では本格的に始めるとしましょうか。では、ここは代表の妾が質問をすすめようかえ?』
そうナヨが言うと、多川は『お願いします』ということで、ミニャールのアバターへの尋問、ではないが、情報を引き出す調査が始まる。
『では、コホン……ミニャールとやら、うぬらペルロードの民の出身地である場所は何処か?』
『……わたしたちの母星、惑星ぺるろーどは、この宇宙空間とはべつじげんの、うちゅうくうかんにそんざい……します。マルチバースにおけるじくうかんざひょうは!”#21&%+-!12223……である』
まずこの回答でナヨは口を細めて、多川達に視線を送る。
「また別宇宙か……」
と大見が呟くと、
「なんだかもう俺達の昔持っていた宇宙観なんざ意味ないな、大見」
「まったくですね多川さん」
メルの母星となる惑星サルカスがあるのも別宇宙、その星に襲来したヂラールがいた惑星イルナットも別宇宙、更にはガーグデーラと呼ばれたシビア達ゼスタール人の母星、惑星ゼスタールも別宇宙で、このミニャール・メリテ・ミーヴィなるものの母星、惑星ペルロードも別宇宙……
まるで宇宙が、その宇宙を内包するマルチバース空間内の星々のように、宇宙空間が存在する世界観が、『この世』というものなのだろうか。
ナヨが質問を続ける。
『ミニャールよ、主らペルロード人は、様々な場所に姿を現しておる。妾らの得ている情報だけでも、グロウムという文明、ガルムアという文明、そして直接的ではないがサマルカ人という形で、ティ連文明に、タイヨウケイのチキュウという文明にもその痕跡を残しておる……主らは一体なんの目的で、このような文明群に姿をあらわしておるのですか?』
ナヨがこのような質問をすると、横からパウルが、
『あいや、ファーダ・ナヨ。そんなグロウム帝国やモフモフさんの事言っても、わからないのでは?』
『これだけのトーラルを擁する文明で、仲間同士の情報が交換できていないとは考えにくい。問うてみるだけでも価値はありますよ』
『なるほど……』
しばし間をおいて、ミニャール・アバターは、
『私の知ってるじょうほうは……グロウムという文明と、古い時代の同胞が接触したという情報のみ。詳しい内容はメモリーにない。がるむあという文明のことは知らない。サマルカという文明は知らない。チキュウという文明は…………知っている…………』
「!!」
驚愕する大見に多川。
『$##$%周期前に接触したという情報がメモリーにある』
「おいおいおいおい、んじゃあのオネエ社長の言ってたことは……」と多川
「裏付けられたって話になりますね。でもサマルカさんを知らないとなると、色々こちらの思っていたことと整合性がとれませんが」
するとシエが、
『ダーリン、多分ソレハ、「サマルカ」トイウ呼称ヲ付ケタノガ、我々ティ連人ダカラダロウ』
「え? どういうことだ?」
シエが説明するに、もともとサマルカ人は流浪の民で、初めてティ連人と接触したとき、自らの固有名詞としての呼称を特段持っていなかったそうなのである。彼らは自分達をコードで呼ぶような知的生命体、即ちスール・ゼスタール人と似たような性質だったために、彼らが定住していた惑星『サマルカ』にちなんで、ティ連人がサマルカ人と名付けたという事なのだそうだ
「そうだったのか!」
『ウム、ナノデ、サマルカトイッテモワカラナクテアタリマエダ』
そういうとシエはPVMCGでセルカッツと一緒に写っている記念ホログラムを投影する。ちなみに映像の内容は、シエとセルカッツがソフトクリーム一緒になめてる映像であった。
『ミニャール、コノ小サイ方ノ種族ニ見覚エガアルカ?』
『…………それは、我々ペルロードが創造した、人工生命「カーナ#$2$型です」』
大きく吐息を吐くシエ。パウルやナヨも同じく。
「これは……ということは、セルカッツさん達のご先祖は、そのペルロード人が作った人工生命ということか……」
と大見が少々脂汗をかいて言うと、
「という事なんだろうな……彼らの種族的な謎もこれで一気に解明できたって話だ」
ときっぱり言う多川だが、眉間にはシワが少々入る。
「ですが、グロウムの方々の宗教的な問題もありますから……結構難しいですよこれ」
大見もそうそう簡単な話ではないと……少々困惑するみんなだが、ナヨが落ち着いて、
『まあそのことはグロウム戦時からでもほぼ確定と言われている事です。それが事実になったと言うまでの話。サマルカの民からすればむしろ自分達の出生の歴史がわかり、喜ばしいことです』
「ええ、まあそれは確かに」と多川は言うと、大見も頷いている。
『うむ、とりあえずペルロード人と我々ティ連や、グロウム、それにチキュウとの接点は繋がったよな……ふむ、なかなかのニューロン再生率ですね、ニーラや』
『ですね~、もっと遺体の保存状態が新しければ、このミニャールという方の為人も情緒的に再生できるのでしょうけど、そこまでは無理ですか~』
そりゃ流石に八〇〇年近くなので、そこまでは無理だろう。
『では、次にこの者がなぜに様々な文明へ姿を表すのかを尋ねないといけませんね。このミニャールなる者の素性を聞けば、そのあたりも少しは見えてくるでしょう』
ナヨが言うに、恐らくこのミニャールなるものも、恐らくペルロードの、何らかのイチ市民階級に過ぎないだろうから、この人物にペルロードの全てを訪ねても、あまり意味がないだろうと。
なので、次に尋ねるは、色々な文明に姿を見せている理由、まずはこのゼスタールとの関係である。
ナヨがミニャールに質問をしようとしていると、二本の転送光が立ち昇った。
「ん?」となる皆の衆。その転送光から姿を表すは、シビアと月丘であった。
「おお月丘、どうした」
「多川さん、こちらでのお話を私達も作業現場でモニターしてましたが、シビアさんやネメアさんにメラニーさんがそのアバターさんと話がしたいって頼み込んでくるものですから、シビアさんを代表として連れてきました」
ニーラもそこは確かにという顔で、
『そりゃこれからゼスタールサンの事聞くのですから、スールさんがお話になったほうがいいのは確かですよね~』
『たしかにそうよな、いやすまぬなシビアよ、そういう点ここの人選を少々間違えたか?』
するとシビアも少し頷いて、
『かまわない。現行の作業も今後のゼスタールには重要な作業である。ただ、思いの外込み入った会話が可能であると判断したため、ツキオカ生体に便宜を図ってもらった』
『あいわかりました。ではこれからはシビアが色々と問うといい』
頷くシビア。月丘も総諜対要員として、この話を直接聞くのは仕事として丁度よいと思ったり。
決してヂラールの草むしりをサボりたいと思ったわけではない。
今、丘の上の除草作業は、プリルとネメアとメラニーでやっている。
『我々はスール・ゼスタール人のシビア・ルーラ調査合議体である。我々のような存在を理解できるか、ミニャール・カルバレータ』
『……』
ミニャールのアバターは少し黙すると、
『あなた達は、この惑星のゼスタール人がスウハイしている、スール神とよばれる存在か?』
『そう理解してかまわない』
『あなたたちのそんざいは、くわしくはしらない。ですが、わたしたちを保護してくれたゼスタール人から、とおいむかしに$&%&’……あなたたちがヂラールと呼ぶあの生命体からのがれるため、このほしから脱出した人々であると……いうことはきいている』
この言葉に月丘は、
「すると、そのミニャールさんや、このトーラルシステムを保護したファーストコンタクターであるゼスタール人さん達は、シビアさん達がスールになってしまった経緯を知っているということになりますね」
『肯定。それはそうだと思う。我々は当時のゼスタール政府から法で選抜された脱出民である。我々が脱出した後の、レ・ゼスタによる種の保存が当初の計画とは大きく異なり……言ってみれば「失敗」して我々のような存在ができてしまった事も知っているだろう』
「なるほど、ではその経緯は後天的に知ったということですか、ミニャールさん」
『はい』
するとナヨが、
『なるほどの。メラニーの報告と整合性が合うな。ということは、主はゼスタールがヂラールの侵攻を受けて、大混乱し、ネイティブ人と、スール人が別れた直後ぐらいに……そう……』
ナヨが何か適切な言葉を選ぶかのように少し首を傾げつつ、考えた後……
『ヂラールの後を追うように、この星にやってきたという感じがしてならないのですが、どうかえ?』
大見に多川はナヨの言葉に「えっ!?」と驚く表情をする。パウルは「あーそういう考え方もできるか」と呟き、シエは、ナヨと同じような考え方を持っていたのか、『ソウ思ウカ……』とつぶやき、
「その逆も考えられますね……」
と月丘が話すと、「どういうことだ?」と皆が彼に問う。
「はい、私達の知っているケースで言うと、惑星イルナットの状況はよくわかりませんが、ガルムア人とグロウム帝国のケースでは、ヂラールに先んじて各種族さんとの接触があります。ということは……」
「ゼスタール人のケースでは、このミニャールさんはヂラールを『追ってきた』という形で、ガルムアさんの場合は、『逃げてきた』という事か?」と多川。続けて、「グロウムさんの場合は微妙だな。彼らがやってきたとされるその、神話の時代から、ヂラールの来襲に時間の開きがありすぎる」
「ですね、どっちにしろペルロード人とヂラールは何らかの関連性があるとみて普通です……って、あ! すみません、シビアさん、勝手に話を進めてしまって」
シビアは月丘達の議論に頷くと、
『お前達の極めて有効な洞察を肯定する……ミニャール・カルバレータ、今の彼らの言葉に我々が質問したいすべての要素が入っている。即ち……』
シビアは少し上目遣いで、
『お前達ペルロード生体と、ヂラールという生体兵器群の関連性は如何なるものか、回答せよ』
『……』
ミニャールアバターは、即答しない。しばし沈黙する……
息を呑んで回答を待つ諸氏。ゼスタールの、いや、ゼスタールに限らず、多くのペルロードと関わった種族の歴史に纏わるある意味の回答だからだ。
『ヂラールとは、ペルロードの……呪われし姿……私達は! ……私達は……!! ……私達は!!!』
それまで人形が淡々と口を開き話していただけのアバターだったミニャールの表情が、急激に感情むき出しの表情になり、大声で叫びだす。
『あ、アレレレ?』
ニーラの操っていた端末が急に警告音を鳴らして、フリーズしてしまった。
ニーラがみんなの方を見ると、あまりに唐突なミニャールの変化に引いてしまっている。まるでホラーものだと。
『アー、ビックリシタ……』とシエ。
『な、なんかこないだ見た、ニホン製の怖いエイガみたいな』とパウルかんちょ。
「いやはや、ニーラ先生、なんだったんですか今のは」と大見。
「お、おう……なんなんだ一体。って、ヂラールがペルロードの呪われた姿?」と多川。
『ふむ、もしかして、核心というものかえ? これは……』とナヨ閣下。
『肯定。尋問の継続を』とシビア。
「で、何か不具合が起きたみたいですが大丈夫ですか? ニーラ先生」
『ツキオカお兄サマ、それなんですが……うみゅー、フリーズしてしまったみたいですぅ』
「え?」
『今のシビアちゃんの質問が、なんだかニューロンに対する負荷が大きかったみたいで、その質問に関するニューロンネットワークの連結が、どうにも不安定なんですよね~』
と、ニーラは空中に、脳のニューロン接続の概略図を投影し、電気信号経路の移動を表示するが、ところどころでアラート表示が出ている。
『え? んじゃ尋問タイムはこれで終わり?』
と、呆気にとられた表情でパウルが問うと、
『今の状態じゃこれ以上は無理っぽいですね~……』
と、ニーラ大先生。だが、
『その質問には、私がお答えいたしましょう』
と話すは、なんとマルセアであった。
「え? マルセア議長サマ?」
『ニーラ様、あとはおまかせを』
ミニャールのニューロン再生のために、トーラルシステムのメモリーを貸していたために、瞑目していたマルセアであったが、彼女も経緯をモニターしているわけであるからして、そう申し出てくれた。
だが……
「え? 確か、ミニャールさん関連のデータは分からないって議長は言ってたはずでは……」
『ツキオカお兄サマ、どうも今のニューロンへの質問で、マルセア議長にかかってた、例の謎のプロテクトデータが一部解放されているみたいですよ』
「え!? そうなんですか。ということは、もしかしてそのマルセア議長のメモリーにあるいくつかの謎のデータ空間って……」
『多分そういった類のものかもしれませんね~……まるでナヨサマみたいです』
最後にボソっと余計な一言。
『何か言ったかえ? ニーラや』
『いえいえ、なんでもないですよぉ~』
大見がゴホンと咳払いを一つして、
「あー、では、マルセア議長、その話の続きをお聞かせ願えますか?」
『かしこまりました……』
息を呑んで、次の一言を待つ諸氏。
『単刀直入に、まず結果から申し上げましょう……元々のヂラールとは、ペルロード人の成れの果てなのです……』
* *
時空間接続帯……所謂ティ連において『次元溝』として知られる一種の亜空間に存在する、スール・ゼスタール人達の本拠地、ナーシャ・エンデ。
彼らが惑星ゼスタールを置いて、種としての存在を、不完全なトーラルシステムであった『レ・ゼスタ』で改変し、種の存続を目指したつもりが、『存在の存続』として変換され、『スール』という人工霊魂のような存在になってしまった彼ら。
そんな彼らが幾百年もの月日を、レ・ゼスタシステムの資源生産能力のパワーにまかせて延々と彼らの本拠地を増築に増築で繰り返し、いつの間にやら小さな星系規模の大きさの宇宙ステーション……いや、宇宙要塞と化した彼らの住むところ、それがナーシャ・エンデである。
彼らスール・ゼスタール人の工業生産能力はすさまじい。
ティ連がハイクァーン工学によるワンオフ現物生産に長けている工業社会であるのに対し、ゼスタールは正味、地球と同じのプラント工業である。それこそ蟻か蜂の如き無数のドーラロボットを駆使して、なんでもかんでも一挙に、かつ大量に作る能力は、ハイクァーン工業社会のティ連より別の形で効率的であり、最近はティ連でもその手法を取り入れているほどのものでもあった。
惑星ゼスタールがヂラールに襲われて以降、その八〇〇年もの歳月を、かの星の奪還と帰還に注力を捧げてきたかれらは、次のステップとなる行動を始めようとしていた……
『アルド・レムラー統制合議体、本日我々は、ナーシャ・エンデ中核人工惑星、バルサーラ中央統制区の移転を提案する』
ゼスタールの『行政合議体』と呼ばれるスール人格体が、スール・ゼスタールの元首、アルド・レムラーへ、彼らの一つの歴史的節目となる行動を提案する。まあ、とはいってもこれは所謂儀式的なものであって、もう次の行動予定はきまっているわけであるからして、そういった体裁的なものではあるのだが……
『行政合議体の提案を、我々アルド・レムラーは了承した……さて……今後の我々ゼスタールの行動はこのようなものになるわけだが、アイスナー・スールに問う。お前達異邦人のスールは、今後の我々に随伴するか? 回答せよ』
そう、今のスール・ゼスタールはゼスタール人のスールしかいないわけではない。
ティ連との紛争において、彼らが『保護』したという異星人種族のスールも結構な数がいたりするのである。
で、かのドイツ・ブンデス社元副社長であったリヒャルト・アイスナーのスールは、現在異種族スールの代表に選ばれて、この会議の場にいる。そこのところは欧州を代表する工業機械メーカーの元副社長であって、あの騒動の関係で、柏木や月丘達の知り合いでもあり、こういう場には適任として、異種族スールの代表として選ばれた。
『私達異種族のスールも、異論はありません。これは異種族間のスールみんなで出した結論です。今後のゼスタールの方針は支持します。で、例の肉体再生の計画で、元の、あなた達の言う『生体』に戻る気がある者はいるかどうか、そのあたりも問うてみましたが、はは、回答は「まあそのうちに」という事でしたので、参考までに』
アイスナーのこの回答に、レムラーは笑みを浮かべて頷く。というのも、レムラー達スールのみなさんも、なんだかんだで彼ら異種族スールの方々についてきて欲しいのであったりする。
というのも、いかんせんスール・ゼスタールのみんなが、よってたかって無愛想で情緒欠落人間ばかりなので、なにかと交渉事、特にティ連―日本との交渉でのアイスナーの活躍などではものすごく助けられたりしたので、レムラー達も、今の異種族スールの方々を買ってくれていたりすのである。
『……私達も色々あってこういった存在になってしまいましたが、結構今の状態も気に入っていましてね。腰痛も直りましたし、若作りもできましたので、結構気にいっているのですよ、レムラーさん』
このアイスナーの言葉に、ククッと笑うと、レムラーは、
『了解したアイスナー・スール。ではお前たち……いや、諸君の今後の処遇も、我々は安定して保証する事を約束する。よろしく願いたい』
『いえ、こちらこそ宜しくお願いします』
と、そんな話をしていると、レムラーの秘書官のような立場のスール、ここは『秘書スール』とでも呼称するが、人格的には女性のスールが彼らの会議に割って入ってきた。
『何事か? 現在行政合議中である。それを中断させるほどの重要な事か? 回答せよ』
『肯定、今、惑星ゼスタールで活動中の、シビア・カルバレータとの意識共有にて、最優先緊急情報が共有された。この場にいる各スールも、共有されたし』
『シビア・カルバレータが?』
シビアとネメアは、今ゼスタールでも、人気赤丸急上昇中のスールである。色々とその活躍は各合議体とも情報が共有されており、シビアやネメアと合議体を組むリクエストのようなものも今やある程で、まあそんなスールさんの人気者であったりするわけで、その情報となればレムラーも捨て置けない。
『レムラーさん?』
『何か、アイスナー・スール』
『私達も、その情報を共有できないかと、異種族のみなさんからもリクエストが来ていますが……シビアさんなら、私達も知った仲ですし、恐らく、ミスター・ツキオカや、ミスター・カシワギ達も関わってくる案件でしょうから、なにかご助言できる事もあるかと』
するとレムラーは頷いて、
『アイスナー・スールの提案を評価する。了解した。意識共有を許可する』
『ありがとうございます』
しばし、静かになる行政会議のスール空間……
『なんと……まさかそんなことが』
まず最初に声を上げたのは、アイスナーであった。
『この事実は、今後のゼスタール生体との共存交渉においても重要な情報と判断する』
レムラーも、淡々とした口調ながらも、まだこの歴史的事態は収集しきっていないことを理解したようだ。
『……全スールへ通達する。急ぎバルサーラ中央統制区を惑星ゼスタール恒星系へ移転させる。計画の進捗を急がせよ……』
* *
惑星ゼスタール、中央地下都市『ゼスタールダンクコロニー』統括議長府に場所は戻る。
マルセア・ハイドルの言葉に、驚愕真っ最中の月丘達。いつも仏頂面のシビアでさえ、思わず目をむいている。
『マルセアよ、その言葉、偽りではあるまいな。冗談では済まされぬ言葉ですよ』
流石のナヨ閣下も少々狼狽である。口調が厳しくなる。
『はい。偽りではございません。この情報は、あなた方の、そのニューロンデータを再生する技術が干渉し、私の中の一部のプロテクトデータが開放されて得られた情報でございます』
その言葉に大見が反応する。
『え? それもさっきと同じナヨさんと同じパターンではないですか』
『うむ……』
ナヨは少々訝しがる目でマルセアを見ると、
『オオミよ、今その問答はよいでしょう』
『え?』
『主の疑問で、妾も少々気になることがあります。その話はあとでな』
『あ、はい……』
『うむ……ではマルセア。そのペルロードの民のなれのはてがヂラールであるという話、詳しく聞かせてもらえませぬか?』
『わかりました……』
* *
そもそもの話、この惑星ゼスタールにペルロード人がいるという状況自体が、まず不思議現象であって、なぜ彼らがゼスタール闘争の歴史に姿を表したのか、そこは問われるべきところではある。
ヂラールに困っている状況を見捨てられないお人好しのお助け異星人が、たまたま彼らの星系を通りかかって、命をかけてゼスタール人と共闘した……などという話であれば、単純明快でまだ良かったのであろうが、まあそんな話には普通はならないだろう。
そしてそれ以上にマルセアからもたらされる情報は、彼らゼスタール社会だけの話では収まらず、ティ連社会や、地球社会、グロウム社会といった、それの関わる人々全てを震撼させかねない驚愕の情報であった……
マルセアの語るペルロード人の秘密とは一体……




