【第九章・奪還(終)】第六〇話 『凱歌』
惑星ゼスタール・北極海。
海面スレスレの場所で、背中の探査装置を潜望鏡の如く、水面へ少し出して周囲を探索する、海上自衛隊の誇る三機の水陸空機動兵器『旭龍M型』
「こちらリバイアサン・アルファ。敵航空兵器型ヂラールの接近を探知した、どうぞ」
「リバイアサン・ベータ了解。こちらでも確認した……海中に敵はいないが、対潜哨戒機みたいなのはいるかもしれない、か……ゼスさんの言ってたこと当たっちまってるぞ」
「こちらガンマ。どういう攻撃してくるか予想もつかん。爆雷みたいなの落としてくるか、魚雷か……」
「アルファだ。どっちにしろ、迎え撃たなきゃならないのだけは確かだ。『そうりゅう』『たいげい』に対潜警戒を要請。他の国際連邦の潜水艦隊にも通達する」
どうやら、コロンビア型の水先案内スール・ゼスタール人の予想が当たってしまったようで、海上の何処かで潜んでいた航空型ヂラールの一団が、国際連邦軍のSLBM一斉発射を感知して、群れをなし北極海方面へやってきたのであった。
ただ、その群れをなしてやってきたヂラール連中は、所謂『戦闘機型』とか、『空戦型』と言われている見慣れた連中である。中には少し大型のやつらもいる。なんせ連中は種類が多く、似たようなものでも成長の違いか、種の違いか、それとも元からなのか大きさも若干誤差があるので、同盟軍も割と大雑把に型式を分けて呼称している。
上空の対探知偽装化ヴァルメの情報を見る旭龍M型のパイロット達。
「なんだ? こいつら毎度の空戦型じゃないか」
「これで爆雷か魚雷みたいなのでも撃ってくるのか?」
「そんなものを積んでいるようには見えないが……何はともあれ、こっちに仕掛けてきたんだから、迎撃するしかないだろう。艦隊の対空迎撃態勢がとれるまでの時間をかせぐぞ! 旭龍全機離水!
その後、直ちに敵機迎撃だ。かかれ!」
艦隊直協の旭龍M型が、斥力エンジンの指向斥力波動を最大にして、水面から大きな水柱を上げて離水していく。刹那、折りたたまれた空間振動波機関を内蔵した翼を展開し、機動戦状態に入る。
ただ、この旭龍M型は、F型やE型と違って、潜水機能を充実させているために、空間振動波エンジンが小型で出力が低いのである。機動性も、F・E型や、空自のA型よりも若干劣る。
従って対空迎撃時には、F.E型と違って、結構Gを感じる挙動なのがこの機体だそうだが……
「リヴァイアサン・アルファ。フォックススリー!」
旭龍M型、アルファ機が腕部のM230を発射する。僚機はミサイル等々で各々迎撃を開始するが、
「クッ? なんだこいつら、反撃してこないぞ」
アルファ機がM230と、ブラスターキャノンで三体ほどヂラールを撃ち落としたが、連中は目もくれず最大速度をもって、M型を無視して突き進んでいく。
「あの野郎!」
旭龍のパイロットが機体をひるがえし、連中の進む先を視認すると、なんと! ヂラール共はピッタリと翼を閉じて、身を細長くし、そのまま海中に突っ込んでいるではないか!
「まさか……くそ、しまった! 特攻か!」
そのまさかであった! ヂラール航空機型は、複数機が中国軍の原潜が潜んでいる海中あたりに、矢のごとく何頭かが突っ込んで行き、刹那というほど短くもなく、また沈黙を要するほど長い時間もかからない間に、水柱をあげて爆発したのであった!
…… 米国原子力潜水艦コロンビア ……
「うおっ!」
爆発の水圧が、地上の爆風のごとく海中に潜む潜水艦を容赦なく襲う。
「急速潜航! 急速潜航!」
「敵ヂラール、海中に突っ込んで自爆しています!」
副長が叫び、部下が報告の連呼。艦内の照明が警報とともに赤色に変わり、状況の緊急を示す。
幸いなことに、ゼスタール技術の海中モニターで、周囲の様子は聴音に頼らずとも視覚情報で把握できた。
海中の周囲から低い爆発音が視覚情報として、中国海軍の戦略原潜にまとわりつく。
同時に中国軍潜水艦からのSOS打電。推進機関がやられたらしい。だが、かの船もティ連から事象可変シールドがブラックボックス貸与されているので、あのヂラールの特攻でも瞬殺されずに現状の推進機関破損程度で済んでいた。
だが艦の沈降は阻止できず、このままの勢いで沈めば艦は着底して、その衝撃で圧潰の可能性もあった。シールドがあるとはいえ、シールドは艦の構造を強化するものではない。またそれは別の話だ。
コロンビアの提督は非常事態を本部に通知すると、即座にセーフティ機能が働く。
『提督。今、チャイナ国潜水艦に乗艦している合議体から情報の共有があった。かの艦内の全員は、緊急の転送脱出機能で、後方のアメリカ国センスイカンキュウナンカンに収容された』
「良かった。では水先案内のミスターも……」
『彼らなら問題ない。お前達のような生命体とは体の構造が違う……うむ……なんとか艦の制御を取り戻したようだ。着底して艦の修復を試みると連絡があった』
「え???」
何を言っているのかわからないコロンビアの提督。だが、特危隊員なら彼の言っていることは、恐らくすぐに察しがつくはずである。
即ち、そのゼスさんがゼル端子を潜水艦じゅうに這わせて、艦各機能の回復を緊急で図ったのだろうということである。
いきなりの特攻攻撃に貸与していたハイクァーン修復装置も修理機能が間に合わなかったのだろう。そのハイクァーン装置が機能する時間をそのゼスさんは稼いだのだ。なので着底衝撃での分解はなんとか免れた。
だが、ヂラール航空機型の魚雷・爆雷化特攻攻撃は続く。
『ヂラールの対潜攻撃は予測の範囲内だったが、このような形態の攻撃とは……』
こんな海中に対する攻撃方法を持つとはと、かのスールなゼスさんが驚きの表情を隠さない。こういった攻撃方法が、なぜに海中にヂラールがいないのか? という事と関連性があるのかと考える合議体の諸氏。
「ジャパニーズのメック兵器は何をやっている、迎撃は!?」と叫ぶ艦長。
「数が多いとのことです! ヂラール航空型が次々と海中に突っ込んできています!」
「あのメックでも、流石に三機ではきついか……」
「艦長、フランスの原潜が食われました。緊急浮上中!」
「Shit! こんなところで浮上なんざしたら敵の良い餌食だぞ!」
「艦長、海上自衛隊潜水艦が、IDAS(対空魚雷)を発射。さらに、ティ連型戦闘ドローンを多数、フランス艦の周囲に射出しました!」
IDAS(対空魚雷)とは、一つの魚雷発射管から複数発の低空迎撃型の対空ミサイルを魚雷化して射出し、有線誘導後、水上に飛び出て有線を切り離し、低高度の飛行物体をレーダ誘導攻撃するという対空ミサイルの事である。これはドイツが開発した。
ティ連型戦闘ドローンとは、即ちヴァルメの事だ。浮上したフランス艦の護衛に海自艦が射出した。
海上自衛隊のこの行為に対し、即座に各国も同様の対空戦闘態勢に入る。
今この時代の潜水艦は、航空攻撃にやられっぱなしの隠密兵器ではない。IDASのような対空兵装も備えた、航空兵器相手の攻める機動戦もできる潜水艦達である。
「ジャパンのメック兵器はフランス艦の護衛に回らせろ! 着底した中国艦はとりあえずほっておけ! ミスターが大丈夫だって言ってるなら、大丈夫なんだろう。とりあえず我々の仕事は花火を打ち上げた時点で終わりだ、この場からずらかるぞ! 全艦後退だ!」
「アイサー!」
最後はすんなりと綺麗に締めることはできなかったが、それでもヂラールの新たな攻撃方法を暴露させただけでもある意味めっけもんだと思う潜水艦隊。
ヂラールの軌道施設の破壊も予想以上の成果でもあり、潜水艦が一隻リタイアしたが、まあそれでも死人がでていないだけでも良しとして、全艦ずらかる態勢をとる。
こちらの状況も本部には打電しているので、援軍もほどなく来てくれるだろう……
* *
『パウル提督、コクサイレンポウのセンスイカン部隊が撤退を開始しました』
『ええ、今私も聞いたわ。ヂラール連中がまさかあんな攻撃方法をとってくるなんて……で、チャイナ国の艦はどうするつもりなの?』
『今、スール・ゼスタール人の合議体が艦の修復と制御を行っています。今は死んだふりしてヂラールのトッコウ攻撃が落ち着いたら、彼らも撤退行動を取るそうですが』
現在、惑星ゼスタール成層圏付近で、国際連邦軍の核攻撃から逃れた増援のヂラール群体を迎撃するために、この高度まで上がってきたパウル達の部隊。
人型機動特重護衛艦『やまと』を旗艦に、宇宙空母『ヒリュウ』、人型機動攻撃艦サーミッサ級三隻、シビアとネメアコンビのゼスタール製人型巡洋艦『ヤシャ級』一隻。イゼイラ型一般機動巡洋艦二隻、ネイティブゼスタール軍の一般機動攻撃艦三隻を引き連れての迎撃態勢である。
『わかったわ、あとはそのスールさんに任せましょう。まー、こんな事言っちゃなんだけど、スールさんたちはある意味不死身だからね』
確かに、と、やまとブリッジの乗組員は小刻みに首を縦に振る。その通信を聞くネメアにシビアは……まあコア状態だけど、なんとなくフフン顔。
『パウル提督、こちらヒリュウの月丘です』
「はい、どうしたの? カズキ」
ヒリュウの甲板で、ソウセイ・プリル総諜対カスタムにプリルと乗り、迎撃態勢をとる月丘プリルコンビ。隣にはシャルリのカスタムヴァズラー『ヴェルサの炎号』が、同じく迎撃態勢を取る。
ヒリュウの甲板上は、あの撤退誘導作戦の時と同じような戦闘態勢である。
シートの固定を確認して中の人二人……月丘にプリルも戦闘態勢の構えだ。
「来ましたよ~、どうします? 離艦して迎撃しても構いませんか?」
『こっちでも確認したわ。まずは各戦闘艦の主砲から対機広域榴弾を一斉射するわ、それから機動戦闘に移行して頂戴、いい?』
「了解、プリちゃんもいいね?」
『おっけーですっ! ふんむ!』
プリ子が張り切って鼻息が荒い。今でこそプリちゃんは総諜対でのサポート要員でティ連軍の技術士官だが、機動兵器の操縦に関してはそこらへんの正規パイロットよりよっぽど腕が立つ。で、普通ならこんなところで機動兵器に乗って戦うなんて事はない立場なのだが、総諜対に来てしまったからには彼女もエージェントとしてこういう実戦もこなさなければいけない状況にもなるわけであるからして、それは張り切ってしまうわけである。
『敵ヂラール残存部隊、降下開始! ……って、てんでバラバラ、かつ広範囲に降下してきています!』
『その数……艦艇型、機動兵器型合わせて三〇〇〇〇!』
ざわつくやまとのブリッジ内。だが、統率取れた形で降下してきていないと言う。ということは……
『さっきのセンスイカン隊のヂレール核裂弾(核兵器)攻撃で、あの軌道巣窟一帯のマスターヂラールが撃破されたとみていいわね……う~む、これをやりやすくなったと見ていいのか、やりにくくなったと見て良いいのか』
つまり、バカのヂラールを統率していた親玉が死んだので、毎度のバカのヂラール状態に戻ってしまったという次第。しかもその数三〇〇〇〇で……
少ししかめ面のパウル。だが考えても仕方ない。敵は来ているわけなので、
『まあいいわ、よし、やまと主砲に重粒子榴散弾装填! 発動用意!』
人型攻撃戦艦やまとの大型フレキシブルアーム両端上下に構える、三連装大型主砲四基。
その大きさは、かつての大日本帝国海軍戦艦大和の四五口径四六糎主砲塔にも匹敵する大きさである。
『発射用意完了!』『発射用意!』
三連装主砲、そろって全一二門が砲身の角度に方向を微妙に変えて、前方で炸裂する榴散弾の散布界に合わせて照準を定める。
『てーっ!』
パウルの一声で、主砲が一斉に重粒子の光弾を、大きな大きな発射波動に揺らめく空間の歪みに合わせてぶちかます。
同時に、サーミッサ級にヤシャ級、ヒリュウ他、各艦艇からも広範囲破壊兵器が一斉射され、設定された射程距離で、超新星の如く炸裂する。
と同時に、周囲に散らばった榴散弾のエネルギー弾子を食らったヂラールが弾け飛び、さらなる爆発が連鎖して、爆炎の雲を成層圏で大きく描く。
『敵戦力の密集隊形を断ち切りました! 機動兵器の展開に最適です!』
『よし、各艦機動兵器発艦させて! カズキ、プリル、シャルリ、出番よ!』
「了解」の言葉とともに、ヒリュウから離艦する、ソウセイと、ヴェルサの炎号。
『パウル、我々もツキオカ生体達と共に機動戦を行いたい。許可せよ』
ネメアが人型艦艇ではあるが、コア一体制御型で機動力のある自分達も機動戦に加わったほうがいいだろうと、そんな要請をパウルへ。
『わかったわ、行ってネメア、シビア。その大きさで他の機動兵器の前線バックアップをお願いするわ』
『了解した』
『残りの各艦は、機動兵器部隊に支援攻撃。例の作戦が始まるまで、この高度の戦線を維持するわよ!』
* *
惑星ゼスタールの存在する恒星系。その中の、現在ティ連ゼルドア艦隊が作戦遂行中のとあるガス惑星近海。
その中の、太陽系の星で例えれば、準惑星冥王星の衛星『カロン』程の大きさを持つ、コードネーム『ビッグボウル』はティ連の誇る工作艦隊の魔改造を受けて、何やら妙なモノになってしまっていた。
ビッグボウル軌道上に、ビッシリと張り巡らされた高度なエネルギー放射板。これがビッグボウルの軌道上を自律してゆっくりと回転、いや、周回している。
規則正しい等間隔の間を開けて回転する放射板のようなもの。
更に、衛星地表に建設された、クレーター一つ分を使った比較的大型の建築物。
頑丈な装甲に守られたその施設……というか、大型艦船のようなものは急造物のようでもあり、ティ連の構造物にしては洗練さに欠けるデザインの物ではあったが、その役目は……
『ビッグボウル制御ブリッジ、こちらゼルドアだ。進捗状況を報告してくれ』
『は、現在のビッグボウル進捗状況は、九八%。もうすぐ作戦開始態勢に入ることが可能です提督』
なんと、その建築物は『制御ブリッジ』であるという……一体何を制御するのであろうか?
『君が、ビッグボウルの艦長、というか、責任者かな?』
『は。テグナイヤー・デレフォム大佐であります』
ガタイの大きい逆関節で、三本指。甲殻類のような体つきをした種族。よく名前は出てくるが、具体的な人物像はお初となるユーン連邦人の大佐さんであった。で、このブリッジをして『艦長』と呼ぶゼルドア提督。
『そうか、ご苦労だデレフォム大佐。今後の展開は諸君らにかかっている……まああのカシワギ長官の作戦だ、正直色々思うところもあろうが、よろしく頼むぞ』
とゼルドアはデレフォム大佐に片目を瞑ると、
『はは、あのカシワギ長官の考えた作戦と言うので、自分は志願いたしました。どんな結果になるか、楽しみでなりませんな』
低めの渋い声でそう言うと、ゼルドアも親指上げて作戦開始時間までの待機をデレフォムに命ずる。
最近、地球のラッキーポーズであるサムズアップもティ連でかなり浸透した。ちなみにこれに相当するティ連純正のポーズは、二本指を揃えて、爪の方を相手側に見せるようなポーズで、こちらは今、地球で流行っているという次第。
『カーシェル・デレフォム、施設部隊より、装備稼働に問題なしと報告』
『了解した……ゼルドア提督、聞いたとおりです。準備完了しました。早速稼働させます』
『わかった。なんでもハルマの連邦潜水艦隊攻撃の後に、残存兵力が惑星へ大量降下したそうだ。パウル提督の、例の『変わり種艦隊』が対応しているが、こちらの作戦を発動してやらない限り、まだまだ敵のほうが優勢だ』
『心得ております、が……一つ気になることが』
『何だ?』
『ヂラールどもですが、ハルマの艦隊の核裂弾攻撃で、その親玉を抹殺したのですよね?』
『ああ、それが何か』
『にしては、あのバカのヂラールが一斉に「惑星降下」という行動を起こしているのが少々気になりまして』
『ふむ……言われてみればな……だが、パウル提督の話では、てんでバラバラの無統率状態でかかってきているという話だが……』
しばし考えるゼルドアとデレフォム。まあ確かに襲いかかる身近な敵が、成層圏、つまり連中からすれば眼下のパウル達しかいないから、とりあえず惑星降下して、さらなる地表の連中にも襲いかかって……という反応を示したと考えれば? ……と理屈付けてみるが、
『まあそれは今の状況で考えてもしょうがない。敵が相当なダメージを負っている現状がチャンスなのは事実だ。よろしくたのむぞ大佐』
ピっとティ連敬礼のユーン連邦式敬礼をするデレフォム。額の真ん中へ握りこぶしを当てて、少し前に出す。これがユーン連邦式敬礼。
ゼルドアとの通信を終えたデレフォムは、各員に作戦開始の命を下す……
* *
衛星ビッグボウル軌道上に配置されたかなりの数のエネルギー放射板のような物体は、デレフォムの号令とともに、ゆっくりとした軌道周回を行いながら、放射板の表面を、衛星ビッグボウルへ向ける。
『投射型ディルフィルドゲート、発動開始』『亜空間投射プロジェクション発動!』
投射型ディルフィルドゲートとは、所謂人型機動艦艇が使う決戦兵器、『ディルフィルドゲート一斉射』の原理で、ディルフィルドゲートを複数の大型転送装置を用いて空間上に発生させる技術である。
この技術は、元々惑星資源の開発や、移動などに使われる技術で、人工亜惑星要塞や、ティ連本部の人工惑星等を建設するときに多用された技術だ。わかりやすく言えば、超強大な任意転送技術と思えばいい。
この技術を用いれば、カロンクラスの比較的小型……小型と言っても一端の準惑星クラスの天体だが……まあそのぐらいの天体であれば、大掛かりではあるが技術的にはそう難なく転送を可能とする。
ビッグボウル軌道上の亜空間投射プロジェクション装置は、猛烈な光を放って、ビッグボウルを転送光に包み込む。と同時に、このプロジェクション装置も一緒に転移するようで、軌道上の装置一式も光り輝いているようだ。つまり……
なんと! この『テンピンボール作戦』とは、衛星をまるごと転移させて、何かをやらかす作戦のようである。
ここまでの仕掛け……衛星に機動艦艇並の制御ブリッジまで設けて、衛星一個を亜惑星要塞化させて……まあ恐らく普通に考えれば、惑星ゼスタール近郊にジャンプさせる段取りなのであろうが、そこから一体なにをやらかすつもりなんだろうと……
* *
惑星ゼスタールから約三十万キロメートル宙域に、巨大な空間歪曲反応が確認される。
『カズキサン! おっきい歪曲反応確認ですっ!』
「きましたね! シャルリさん!」
『こっちでも確認したわさ! 敵の動きに気をつけるんだよっ!』
「了解!」
毎度の澄んだ湖面に、岩でもぶっこむような情景。
空間歪曲現象と同時に、巨大な水しぶきにも似たスペクタクル映像が宇宙空間に展開する。
『ビッグボウル転移完了!』
『現状速度維持、あと数シレルで、惑星ゼスタールの衛星軌道に乗ります』
衛星ビッグボウルブリッジで交錯する現状報告。一通り報告の連呼を聞くと、ユーン人テグナイヤー・デレフォム大佐は、
『よし、では当初の作戦通り、軌道上に居座っている連中の軌道都市……じゃないな、軌道巣窟にこの星をぶつけてやれ!グチャグチャにして再起不能になるまでな!』
『了解!』
クレーターに埋め込まれるように造られたブリッジ部で、ビッグボウル軌道上に展開されている制御プレートを操作し、軌道上のヂラール巣窟にぶつけて壊滅させる。
確かにこれならば、あのディルフィルドゲート砲を直接ぶち込むよりも安全で、惑星上に亜空間波動の被害をもたらすこともなく、衛星『ビッグボウル』という『巨大な砲弾』をぶちあてることで、ヂラール連中の縄張りをグチャグチャにかき回すことができる。
だが、ビッグボウルブリッジでの制御が大事で、成層圏ギリギリをこの衛星がすり抜けるという芸当を行うものだから、惑星ゼスタールではしばしの間、重力による弊害が出る可能性がある。
更に加速度の調整をミスしてしまうと、この衛星自体が惑星ゼスタールに落下し、全てが終了してしまう可能性もある。
「柏木長官が考える作戦って、こんなイチバチな作戦ばっかりなんですかね!?」
と月丘がブーたれながらミサイルでヂラールを一匹仕留めると、
『あの御大の考える作戦なんかみーんなこんなのだわさ。あの時の亜空間内でのアレもそうだし……』
とニコニコ顔で蹴りブレードで大型航空型を真っ二つにする、シャルリの『ヴェルサの炎号』
するとパウルからの通信が二機に入る。
『カズキ、プリ! シャルリ! あの衛星が速度を上げたわ』
「速度を上げた? というと……? プリちゃん?」
『この真上を速度を上げて通過する、つまり、衛星の質量に任せて破砕ハンマーみたいにヂラールコロニー軍をぶっ潰すってことですよっ!』
「おあ! そんなスペクタクルな状況が!」
シャルリがブラスターガンで攻撃する手を止めて、
『カズキ、みてごらんよ、ヂラール野郎ども、みんな撤退してあの衛星に向かってるよ!』
『本当だ! はは! あの数の敵が撤退していくよカズキサン!』
ヂラール連中は、一斉に引き上げ、衛星へ攻撃を集中しようというのだろうか。だが、さすがバカのヂラールかという話で、そんなもの衛星に攻撃なんてかましたことろで、まさに焼け石に水。もう運命は決まったようなものだと……
(撤退……? 撤退……)
腑に落ちない顔をする月丘。
通信には、やまとブリッジで、この場の戦闘の勝ちを祝うスタッフ歓喜の声がする。
『ん? どうしたのカズキサン。もう私達の勝ちは決まったようなものだよ』
「……」
月丘の表情を通信モニターで見たシャルリも、
『どしたいタイショー。何か気になることでもあるのかい?』
「……パウル提督」
『なに、カズキ』
「あの衛星は、地表のブリッジで制御されているんですよね?」
『ええ、そうよ。ユーン人のカーシェル・デレフォムが指揮をとってるわ』
「そのブリッジ部のスタッフは、最終的にはどうするのです?」
『衛星はもう元の場所にはもどせないから、恒星に向かって廃棄。ブリッジが簡易戦闘艦になって分離し、脱出する手はずになってるわよ』
「そのブリッジの戦闘能力は?」
『うん、まあ小さいとはいえクレーター一個分の大きさはあるから、一端の戦艦並みの戦力はあるから、あの数のヂラールぐらい対応できるわよ……って、どうしたの? カズキ』
すると『やまと』の通信員が、
『パウル提督、ビッグボウルブリッジに現状報告を求めていますが、返事がありません!』
『なんですって?』
その言葉を聞いた月丘は、すぐさま、
「プリちゃん、ソウセイをビッグボウルまで飛ばせますか!?」
『う、うん、できるけど、どうしたの?』
「まずい! パウル艦長、もしかしたら潜水艦隊を襲う命令を下したマスターヂラールが、まだ生きているかもしれませんよ!」
『え!? どういうこと!』
『プリちゃん、とにかくビッグボウルに飛んで! シャルリさん、ネメアさん、シビアさんもお願いします!』
『ちゃんと説明しておくれよ!』とシャルリ。
『確かに。ツキオカ生体を信用してはいるが、根拠が知りたい』とネメア
『肯定だ』とシビア。
ソウセイは翼状の空間振動波機関に火を入れて、斥力エンジンをマックスにすると、眼前に迫りくる衛星ビッグボウルめがけて加速する。
その衛星の接近する姿は、何かズンズンとリズムを刻むBGMを奏でたいような状況。
そもそも話で、普通衛星がこんな近くまで接近するなんてありえないわけであるからして。
で、衛星がこんな距離まで接近すると、瞬間の事ながら色々と惑星ゼスタールにも大きな天変地異が起こる。それは海洋の驚異的な満潮現象にともなう高潮に、重力異常現象。
まあとはいえ、火星本部もそこは細心の注意を払って計算し尽くした軌道で突撃をかましているので問題ないとはしているが……
マルセアシステムも協力してくれているので、大丈夫なのだろうが……
『で、カズキ、どういうことなの?』
と義弟予定者に問うパウル。
「はい、まず潜水艦隊を攻撃したヂラール個体と、残存ヂラールが降下してきたタイミングですが、確かに敵の統制は相当乱れてはいましたが……私の知る限り、メルちゃんの言っていた『バカのヂラール』というには、相当に統率が取れている行動だったとは思いませんか、皆さん?」
『それでカズキはマスターヂラールがまだ生きているかもしれないって言いたいわけ?』
「そうです、ですから先程の撤退ですよ。『バカのヂラール』にしては引き際が良すぎます」
『……』
「で、衛星のブリッジと通信がつながらない……嫌な予感しかしませんよ、パウルさん」
パウルは月丘のその言葉を聞いて、判断は早かった。
即ち、疑わしい万難は、排除すべきということである。それが間違っていたとしても、杞憂で終わる程度の話なら、疑わしきは排除したほうが良い。
『やまと、全サーミッサ級、上昇開始。カズキ達を追って! 他の艦隊はここで待機、警戒態勢を!』
機動力のある人型艦艇と艦載機のみで高速度で近づく衛星ビッグボウルに向かう。
* *
『ダーリン、ツキオカ達ガ、びっぐぼうるニ急行スルトカイッテイルゾ』
「なに? 一体全体どうしてよ。もう敵もかなり片付けて、あとは壮大な天体ショー拝んで、とかそんなラストじゃなかったのかシエ?」
『ドウモソウ簡単ニハイカンラシイナ。ツキオカノ話デハ、敵ノ動キガ、微妙ニ統制サレテイルラシイ。デ、びっぐぼうるブリッジト連絡ガツカナイソウダ』
「本当かよ! なんかまずそうだな……んー、この機体なら大気圏抜けられるか。ということは、俺達も向かったほうがいいかもしれんな」
『アア、ソウイウコトダ……メル! キコエルカ!?』
颯爽とシエ達の鳳桜機の傍らにつけるハイラ王国製機動兵器『クヴァール』但し、全長が八~九メートルほどなので、鳳桜機と比べればペットのような大きさである。
『どうしたの? シエ師匠』
『オマエ達ノ、ソノ機動兵器ハ、宇宙ヘ出ラレルノカ?』
確かに。なんかコウモリの羽みたいな可変翼つけてたら普通そう思う。
『うん、ティ連でも実験してもらったから大丈夫だよ。うちゅう戦闘も訓練済みだし』
『ワカッタ、デハ騎士団ハコノ空域デ警戒態勢ダ。メル、アノ衛星ニ行クゾ、ツイテ来イ』
『わかった! ……ザビー、部隊は任せた! 私は師匠達と行ってくる!』
『はっ! お気をつけて!』
「垂井、尾崎、小川、お前たちもこっちで警戒態勢だ」
「了解です」
多川はマルセアに連絡を入れ、
「マルセア議長、もうこの空域は大丈夫だと思います。警戒態勢を維持するようお願いします。我々は主力部隊の援護へ行きますので」
『了解しました。詳細は把握しております。お気をつけて』
多川は、マルセアシステムは単なる疑似人格なのに、敬語を使って話すのも微妙におかしな話だと思いながらも巡航態勢、つまり背部の推進機関を展開させて機体を上昇加速させる。
鳳桜機の背中に乗るは、メルのクヴァール型機動兵器である。この方法のほうが、一緒に戦場へ行くにはてっとり早い。
『リアッサ、ナヨ閣下。私達ハ、宇宙ヘ出ル。惑星内ノ戦闘指揮ハ任セタ!』
「よろしくたのんます、リアッサ一佐、ナヨさん!」
『了解ダ、イッテコイ』
『こちらは妾がいる限り心配いりませぬ、任せなさい』
* *
「チッ! やっぱりですかっ!」
嫌な予感というのは、どういうわけか当たる確率が高い。
高速で惑星ゼスタール軌道へつっこんでくる衛星ビッグボウル。その制御ブリッジ艦へめがけて、ヂラールの残存戦力が攻撃を仕掛けていた。
ブリッジ艦の武装に、クレーター周囲へ配備された迎撃兵器、無人ヴァズラー等々が対抗していたが、確かにこの乱戦状態ならば通信機能も損害を受けていて普通である。事実、量子テレポート通信を司る制御塔がへし折られていた。
なので、この距離まで近づいたため、地球由来の電波無線通信が使えるようになったわけで、
『……ザッ……こちらビッグボウル制御艦司令のテグナイヤー・デレフォムだ! やっときてくれたか、遅いぞ! どうぞ!』
「こちらニホン国総諜対の月丘和輝です! 大変なことになってますね! 作戦の続行に問題ありませんか!? どうぞ!」
『まだ大丈夫だ! だが、最終突撃ラインに乗ったあとの離脱が現状ではままならん。とにかくこいつらを排除するのを手伝ってくれ!』
「了解しました……プリちゃん、頼みますよ!」
『おまかせですっ! 突撃ぃー!』
プリルがビッグボウルブリッジ艦にまとわりつく敵めがけて突っ込んでいく。
『プリルは機動部隊パイロットに配置転換したほうがいいんじゃないのかい? んじゃアタシもいくよっ!』
プリルに続くはシャルリの機体。
プリル&月丘のソウセイ左腕部の五連装M230が火を吹き、更にシールドと一体化した二門のブラスター砲・斥力砲切り替えのマルチキャノンが火を吹く。
「プリちゃん左二時方向から来ますよ!」
『あいあい! とー!』
見事な体捌きの如き転換で機体を翻し、右腕装備のワイヤーカッターで先端に粒子ビームを光らせて、機動兵器型ヂラールを三体一気にズタズタにするプリル。
『カズキサン! みさいる!』
「了解! フォックススリー!」
プリルが正面の敵とド突き合いしてる最中にも、背後側面の敵は、月丘がオプション火器で迎撃サポート。ここんところはシンシエコンビほどではないが、ソウセイ複座仕様の強みである。
『なかなかやるねご両人! あたしもまけてられないわさ!』
シャルリのヴェルサの炎号も、二挺ブラスターライフルで左に右にと敵を落とす。プリルにしてもシャルリにしても、なかなかの腕前である。
二機の突撃に、ブリッジ艦を攻撃していたヂラールも、彼らに敵意を向け、戦力を分散する事ができた。
ここはいってみれば『所詮ヂラール』である。連中の目をそらすのはこの程度の挑発で十分だ。しかし……
「まだヂラール連中は『バカ』になりませんね」
『確かにまとまった行動してるさね。やっぱりマスターがどこかで操ってるのかい?』
「プリちゃん、何か反応はありませんか?」
『それらしい反応はないよ!』
と、そんな迎撃戦をやっていると、ビッグボウルが敵の軌道巣窟第一陣に触れ、ビッグボウル地表にヂラールコロニー群の残骸が、落下……というか、衝突し始めた!
「はじまりましたね。早く敵を蹴散らさないと、ブリッジ艦が離脱できません。後方の部隊は!?」
『側面からヂラール残存勢力に突かれてる! こりゃやっぱりいるよ、オヤブンがさ、カズキ!』
「ですね、シャルリさん!」
と、その刹那!
『カズキサン! 上空から巨大物体接近! この付近に落下ですっ!』
「回避行動を! コロニーの残骸か!?」
すると、ブリッジ艦クレーター部約二キロメートル彼方に、巨大な岩塊のごとき物体が落下してきた。
「なんですって! 減速落下した……まさか!」
『こいつは!』
『ななな、なんですかっ、あれは!』
その岩塊の如き物体は、その隙間から無数のひょろ長い腕を伸ばし、亀の甲羅の如き部位を後方へ倒すとそれが昆虫の腹部のように、巨大な人型物体に繋がった異様な化け物に変形した。
穴が空いたような頭部の部分。千手観音の如き無数の腕部。どこかでみたその姿……
「マ、マスターヂラール……!」と戦慄する月丘。
『うわわわわ!』と、あのときのバトルを思い出すプリ子
『やっぱり生きてたかい、この野郎!』と、シャルリも同じく。
三人、実際ガチにやりあっただけに忘れもしないその姿。だが、違うところもある。
「で、でもでかすぎませんか! これは全長三〇〇メートル以上はありますよ!」
『あの後ろに引きずってるゴツイ塊はなんなんだい!? プリル、わかるかい?』
『あれは多分、あの時の天井部に本来あった、コイツの『脳』が入った部分だと思いますっ! ものすごい脳波を検出できますよ。多分、あの波動でヂラールを指揮してたんだと思いますっ』
「なるほど……そういうカラクリですか……」
と納得している刹那、あの頭部モドキの穴に光が蓄えられ……
「まずい! プリちゃん、シャルリさん! 回避! 回避!」
『アレかい! クソっ!』
粒子ビームが空中に一閃放たれた!
ギリで交わすソウセイに炎号。
放たれたビームは、落下衝突中のコロニー残骸に、味方のヂラールを巻き込んで光の閃光通りの破壊の衝撃を射線上へ撒き散らす。
「あれをブリッジ艦がまともに食らったらひとたまりもありません! なんとかマスターの気をそらさないと!」
『でもアイツもブリッジ艦をねらってるんだろ、ありゃ明らかにそうだわさ。あのブリッジ艦がこの星を制御してるの知ってるんだよ!』
『じゃあ、上空の制御板吹き飛ばされるのもマズイですよっ、カズキサン!』
すると、再度マスターヂラールの頭部モドキに粒子ビームの火が入る。
「まずい! 今度はブリッジ艦をねらってるぞ、くそっ!」
『うわわわわわ!』
と、その時!
『どぅおりゃぁあああああ!!!』
とクオル通信に入ってくる女性の奇声。
『え? お、お姉ちゃん!?』
「上方より高質量体接近! ……って、や、やまと!?」
コクピット全天VMCモニターの真上を見上げる! するとあの全高三〇〇メートルに、全幅も相当ある巨大な主砲を四つも担いだ巨体が、飛び蹴りのモーションでマスターヂラールに激突!
胸部に超弩級の一撃を加えられたマスターヂラールは、その巨体を揺らしながら後退りし、後方に引きずる脳の入った巨大な甲殻部もろとももんどりうって倒れた。
その『やまと』の蹴り一撃で頭部に蓄えた粒子ビームが暴発し、照準が明後日の方向向かってもんどり打った軌道に合わせて一閃発射。
これまた残存する味方の群体を巻き添えにして吹き飛ばし、ビームの閃光は彼方へ消える。
『どっせーーーい!』
パウル提督自ら、頭部戦闘ブリッジに赴いて、ブリッジ中央部にセッティングしてあった『マスタースレーブ操艦装置』を身にまとい、自らのモーションでマスターヂラールに、直々『パウル・スーパーフェアリーキック』をお見舞いしたという次第。でもまあこれは緊急時の咄嗟の操艦だったので、
『特殊操艦士、なぐり合いは任せるわ!』
「ハッ! 了解であります提督閣下」
即座にマスタースレーブ操縦を、陸上自衛隊出身、入隊資格試験合格で特危自衛隊に配置転換された、三五歳の中卒バリバリ叩き上げ格闘野郎の曹長へと交代する。
パウルは華麗に戦闘ブリッジ指揮官席に着席して、シートベルトをガッシリと締めると、
「おっしゃぁ! おまかせで構いませんね、パウル閣下」
『おまかせ上等よヴォーメル(曹長)! やまと各員、人型艦艇殴り合いいくわよ! シートに体を固定して! あの時のキング・オブ・モンスターとの戦い通りやればいいわ!』
とはいえ、指揮管制ブリッジにいる高雄副長が思わずプライベート口調で、
『俺もデータでそのバトルは観たが、あのときはサーミッサ級のゼル演習だろ! やまとみたいな化け物ロボット兵器の格闘戦なんて想定してないぞ。いけるのか!?』
『なんとかなるわジュンヤ!』
『知らねーぞオイ!』
『わはははは! よっしゃいけー曹長!』
「了解。格闘兵装以外の制御は任せます! いくぞ、チェストぁー!」
起き上がり、再度攻撃態勢に入るマスターヂラール。ブリッジ艦への攻撃を一旦中止させ、自分の護衛へ回そうと味方のヂラールを反転させるが、
「そうはいきません! プリちゃん、シャルリさん! パウルさんを援護です!」
『了解ですっ!』『任せな!』
更に、他の援軍も間に合って、
『ツキオカ、状況ハ理解シタ。我々モ、ヤマトヲ援護スル』
「ビッグボウル進行方向の巣の残骸といっしょにやってくる連中はこっちに任せてくれ!」
「メルさんも、シエさんと行ってください!」
「了解だよ、ツキオカ師匠!」
するとパウルは、
『シビア、ネメア! 貴方達はサーミッサ級と一緒に背後へ回って、あのものすごい数の腕部攻撃を分散させて! とにかくこの野郎をブリッジ艦から遠ざけるわ!』
ヤシャ級と同化しているネメア・シビアコンビは、サーミッサ級とともにマスターヂラールの背後へ回る。あの脳と一体化した甲殻部を直接攻撃すれば、恐らくそれを防衛するためにあのものすごい数の腕部は、彼女達へ攻撃の手数を裂くだろう。とすれば、やまとは正面から粒子ビーム砲などの大型火器を有する胴体をぶち壊せるという次第。
だが、ビッグボウルも惑星ゼスタール軌道上の微妙な境界線を高速でぶっ飛んでいるワケで、軌道巣窟を衛星の質量でぶっ壊しながら驀進する現状に、コロニー群体の破片が雨あられのようにビッグボウルへ直撃落下してくる。当然、時間が経てば巣窟空域の深部へ到達するので、その残骸も大型化して、これを躱しながらの戦闘も至難の技となってくる。
可能な限り素早く決着をつけて、衛星からブリッジ艦と他全隊撤退したいところであり……
全機全隊手分けして最終決戦に挑む! しかも可及的速やかに!
「うらぁ!!!」
特危曹長の踏み込みモーション。やまとは慣性制御で軽量化し、百数十メートルはある脚部の一歩を曹長の一歩と同期させてマスターヂラールへの間合いを詰める!
刹那、腕部拳に高エネルギー斥力シールドを被せた正拳突きが、マスターヂラール人型実体の胸部へまともにヒット。
地面にも衝撃が走り、再度敵をのけぞらすことに成功するが、マスターも、ひょろ長く数の多い腕部をムチのようにしならせて、やまとへ打撃攻撃を行う。
曹長のモーションはその攻撃を受ける右腕のポーズ。更に同期してフレキシブルアームに装備された大型主砲の天井部を盾にして、マスターの格闘攻撃を防ぐと、もう片方の左部アームの主砲が、
『てーーーっ!』
と、パウルの制御で発射され、ほぼゼロ距離至近砲撃で三門ぶっ放し、マスターの右腕部の何本かを吹き飛ばした。
他の腕部もやまとへ攻撃したいところだが、
『主兵装全門斉射』
と、脳甲殻部へとネメア、シビアコンビにサーミッサ級が集中砲火を加えるので、やまとへ攻撃の手数を回せない。
すると、マスターヂラールは、その頑強に硬い甲殻部へ、何かのエネルギーパワーを回して甲殻部から突き出ている管のような部位からエネルギー光弾をクラッカー花火のように速射させてきた!
『クッ! こんな攻撃手段をまだ持っていたとは!』
と、いつもの冷静な口調を崩すシビア・ルーラ合議体。
クオル無線からは、サーミッサ級各艦のブリッジ音声が聞こえてくる。
『転送一斉射でカタをつけられないのか!』
『できるのならとっくにやっている! この至近距離でゲートをのんびり開いてみろ、こっちが痛恨の一撃を食らうぞ!』
『それにマスターヂラールの動きが意外に早い。照準をつけるのも難しい!』
『必殺兵器は通常戦闘には使えんってか! まるでロボットアニメのテンプレだぜ、ったく!』
遠縁に見れば、正面の腕オバケな人型相手に、やまとがドツキ合いの喧嘩を行っている状況。主砲を担ぐ巨大なアーム部も利用して、マスターヂラールにぶん殴りの一撃を加えている。
フレキシブルアーム部の主砲砲身を傷めてはいけないので、全門後方へ回し、砲塔後部から突き出す格闘用のクロウの左一撃、右二撃、続いてメインマニュピレーター部の拳に斥力フィールドを纏わせて正拳突きの一撃を、中卒徒手格闘番長な曹長が「どっせーい!」とぶちかます。
その間、マスターを援護するヂラールを迎撃する月丘達や、サーミッサ級達。
「月丘! もうそろそろいいだろう! 限界だ! 降ってくる瓦礫もデカイのが多い、脱出を考えろ!」
「そうですね多川さん! ……パウルさん、指示を!」
『ジュンヤ! ヴォーメルがかなり頑張ってくれたけど、どう? いける!?』
「ブリッジ艦が離脱するには十分だ! 我々もずらかろう!」
『おっし! んじゃ最後の仕上げといくわよ、サーミッサ級、ヤシャ級、全艦全兵装展開発動用意!』
各人型艦の兵装が、ビシっと曹長が抑え込んでるマスターヂラールに向けられる。
『よし、曹長、ケリ一発入れて離れて!』
「了~解っ!」
曹長は、「ふんっ!」と気合一発、あのやまとの巨体を『後ろ蹴り』モーションで半回転し、脚部を大股開いて、敵胸部めがけてぶち込む!
『ぎゃぁああぁぁああ!』とパウル。
「うぉあああああああああっ!」と高雄。
他乗組員もシートに体を固定させてるが、そんな感じで悲鳴をあげる。
そりゃそうである、あの巨体が『後ろ回し蹴り』をするんだから、ブリッジにいる連中は、どんなものか。他の部署で、体固定している奴なんざ、気を失っているかもしれない。
『ヴォ……ソウチョウ! や、やりすぎいぃいいい……』
お目々ぐるぐるのパウルがそんな言葉を吐いたり。ま、こんな挙動をとれるのも、『やまと』も他の機動兵器同様、戦闘重量を制御する装置がついているわけであるからして、といったところ。
だが、その蹴りも功を奏して、やまとも敵と間を開けることに成功、刹那、パウルは、
『ぜ、全艦しゅうちゅうほうかぁ~!』
と、サーミッサ全艦に、ヤシャ、やまとはもとより、シンシエコンビに、メルのクヴァールも全機全艦一斉射でマスターヂラールに砲火を浴びせる。
マスターヂラールも負けじと、昆虫の腹部のように引きずる脳甲殻部位のパワーを全開でシールドを張るが、流石にこの火力には敵わなかったようだ。
マスターヂラールは体中に巨大な爆炎を浴びて、最後の断末魔の動きを見せる。
『まずい! 頭部はまだ残ってた!』とパウル。
「粒子ビームか!」と高雄。
『ブリッジ艦をまだあきらめていなかったのかい!』とシャルリ。
『私が突撃してたたっ斬ってやる!』と、メルは言うが、
『メル、無茶をするな!』と、ヤシャ級の腕部に掴まれて、抑え込まれるメル。
「シエ、胸部ハイパーボルテックブラスターだ!」と多川。だが、
『ダメダ!間ニ合ワン!』とシエ。
流石に直撃か!? と思った刹那、なんと、マスターヂラールの頭部が、でっかいきのこ雲ぶちあげて吹き飛んだ……
唖然とする諸氏。
『ウヘヘヘヘヘ、間に合った間に合った』
と、某猫型ロボット漫画にでてくるキャラのような不気味な笑顔で、ニヘラ顔するは、プリ子であった。
ソウセイが、野球の投球ポーズみたいな格好で、空中静止している。
「ぷ、プリちゃん、い、今のは?」
と、同じ機体に乗ってるのに、バディが何やったのか気づかない月丘。
『こんなこともあろうかと、こんなのを作っておいたのですっ!』
と、投擲したもう片方の手荷物は、
『ソウセイ用、核手榴弾~』
パッパラパッパッパッパッパーみたいなBGMなんぞ。
「え?」
いや、いつそんなもの作ってたんだと。って、ソウセイって総諜対の備品だぞと。つまり日本政府のものだぞと。そんな日本政府が擁する機動兵器に核手榴弾って……と月丘は思うが、
「おい月丘、い、今の核だよな、核!」
「え? いや多川さん、そ、それは……」
「広域重力子兵器とか俺たち持ってるけど、核はまずいぞ、核は……なんか矛盾してるけど」
「い、いや、え?……いえ、た、多分、すごいティ連の粒子兵器かと」
「お、あ、そ、あ、そうか、うん、そうだよな! そうだそうだ」
めっちゃ計器の放射線量振れてるけど……
と、そんなしょーもないことにビビってるのは、日本人だけで、
『おっしゃぁ! よくやった我が妹よ!』と妹を褒めちぎる姉に、
『流石だね、プリル! ヂレール兵器かい、そんな隠し玉持ってたなんてさ!』とシャルリ姐。
『ウム、ウチノ旦那ガ何カ焦ッテルガ、マアホッテオケ』と、シエかーちゃん。
『うわー、すっごい爆発。なにあれ』と驚くメルに、
『アレは原子核を……』と真面目に説明し始めるネメア。『フッ……』と珍しく笑うシビア。
で、普通ならこれが大気中なら核爆発で『やまと』周囲もただでは済まないところだが、ここは宇宙空間。プリル核手榴弾は、宇宙でも衝撃波の破壊威力を得られるように、圧縮した触媒を混入したアイディア爆弾なのだが、地上で使うソレに比べれば、全然威力は落ちる。だが、瞬間の高熱波と中性子で、マスターヂラールの頭部は吹き飛ばされ、一斉射撃のパワーも相まって、その巨体が空中に浮かび、そこをぶち当たってきた軌道巣窟の巨大な残骸に更に吹き飛ばされ……彼方で圧潰。さらに四散して……終了した。
そのプリルの一撃が功を奏したのは間違いはなく、味方の皆に祝福され、プリルもテレテレになるが、そうそうゆっくりももしていられるわけでもないので……
『こちらブリッジ艦司令、デグナイヤー・デレフォムだ。素晴らしい迎撃戦を称賛するが、そろそろ時間だ。退避するぞ!』
そりゃそうだと、皆も精神切り替えて、撤退に入る。
衛星ビッグボウルを制御していたブリッジ艦は、クレーター部から発進し、上昇していく。
ちょっと時間を食ったので、巣窟の残骸がビュンビュンと飛び交うが、なんとか躱して安全圏へ離脱した。
人型機動戦艦『やまと』も、部隊を率いて、衛星を離脱。
「柏木さんが考えたんですよね、この作戦」
『っていう話ですよね』
と月丘とプリルがそう言うと、
『まあ、今回はちょっと尋常じゃなかったわね……まあでもこれが最適解なのは間違いないんだけど』
とパウル。
「でもちょっとキツかったぞ~」
『心配スルナ。アトデフェルニ連絡シテ、カシワギニ気合イレトケト言ットイテヤル』
なんて話のシンシエコンビ。
『だが、これで終わった……』と、ネメア
『肯定……長い長い戦いだった……』とシビア。
「ネメア、シビア、これでみんなうまくいくんだよね」
『そうあって欲しいと願うが……色々と解決しなければならない事もあるだろう、メル』
『ネメアに同意する。現状を鑑みるに、単純に我らの母星を奪還し、生き残りの子孫たちである、ネイティブゼスタールと共存する、という単純な結末というわけにはいかなくなったようだ。諸所、課題が大きく残った』
鷲掴みにしていたメルのクヴァールをヤシャ級の手のひらを開けて、解放するネメア。
メルはヤシャ級の頭部に着艦し、役目を終えたビッグボウルを共に見送る。
「確かに、シビアさんの言う通りかもな……あいや、ですな、艦長」
『そうねジュンヤ。ってもういいわよ、その言葉遣い』
「はは、そうか?」
『ふふ……ネイティブさんとスールさんの共存の件もあれば、そもそもスールさんのいる「ナーシャ・エンデ」もどうするかって話よ』
「確かに。俺は記録でしか観たことないんだが、そのナーシャ・エンデっていう施設は、異空間にある、星系規模の人工物なんだろ」
『そそ。そのあたりもね』
すると月丘が、
「あと、あのミニャール・メリテ・ミーヴィとかいうペルロード人の件もですね」
そういうと皆して、「それがあったな」と頷くのだった。
* *
テンピンボール作戦艦隊の指揮官、ゼルドア・ディナ・アーガス提督は、惑星ゼスタール軌道上に蔓延っていた、広大な軌道都市状のヂラールコロニー群を、衛星質量兵器『ビッグボウル』で壊滅させることに成功した報を、惑星ゼスタール海上本部基地から連絡を受けた。
その報せを受けた艦隊では、大歓声が巻き起こり、勝利の報せに一同喜びを隠さなかった。
何よりも、他人事ではないこの戦い。
ヂラールの、あのような軌道上の形態に驚愕したのはティ連本部の政治家閣僚に、国民。更に地球全世界の国民も一緒なわけで、恐らく最強クラスのヂラールに勝利したこの事案は、今後の奴らとの予想される戦闘でも、非常に貴重な戦闘データとなるのは確実であったからだ。
……そして、火星総司令部……
『マサトさぁ~ん? シエがなんかマサトさんに気合入れトケってワタクシに頼んできてるんですけどぉ?』
「ふぁるんぱぱにお仕置きっ!」
「い、いやフェル、いきなり何なのよ。ゼル通信つないで早々にさぁ。姫ちゃんも、お仕置きなんて、パパ、何も悪いことしてないよ?」
というわけで、これは別に柏木先生と、フェルさんと、姫ちゃんの家族会議というわけではない。ちゃんとした、『ティ連防衛総省長官・日本国外務大臣会談』なのである。
なので姫ちゃんは、
『ということで、マサトさんには、マルマがちゃぁ~んとお仕置きしておきますから、姫ちゃんは、ちょっと遊んでてね~』
「はーい」
と姫ちゃん退出。フェルは現在、ヤルバーンにある情報省のVMC会議室を借りて、柏木と会談だ。
銀河連合日本政府下のお役所は、お子様も預かってくれるようになってきたので、姫ちゃんもこういうところへたまに来てたりする。
「で、なになに、シエさん達がどうしたのよ」
『トイウカ、まずは、惑星ゼスタール奪還作戦の成功、オメデトウゴザイマスです』
「あ、これはご丁寧に。って、俺なんかここで能書き垂れてただけで、なんにもしてないけどな」
『なにを言うデスか。あの「てんぴんぼーる」作戦考えたの、マサトさんでしょ?』
「うん、でもあまりスマートじゃない作戦だったから、正直心配もしてたんだよ」
『ウフフ、シエも同じこと言ってたデスよ。「カシワギニシテハ、泥臭イ作戦ダ」って』
「はは、流石シエさんだ。見抜かれてたか……でも本部の『あんなの兵器』が使えない上に、可能な限り、回収できる敵の物的資料も欲しいとなれば、要するに『ぶ ち 壊 す』しかないわけだし……勘弁してください、ハイ」
と、長官閣下様は、頭をボリボリ掻いてたり。
「で、戦争ってのは終わらせたあとが大変だ。俺は防衛総省長官としての仕事はここまでだ。事後は政治家、つまりフェル達の分野だ……宜しく頼むよ」
『デスね。アルド・レムラー統制合議体サンからも、ネイティブ・ゼスタールサンとの仲介を、日本政府とヤルバーン自治国に頼まれてるデスよ』
まあそういうことにもなろう。
当初のスール・ゼスタールの思惑では、『無人であった惑星ゼスタールの奪還』というシナリオであったものが、かつてのネイティブ・ゼスタール人の救出という感じのシナリオに変わってしまったわけであって、更には自分達がネイティブのみなさんから神様扱いされてるわけなもんだから、これは何かと大変な『政治交渉』であったりする。
その交渉の肝要となる部分は、あの人工幽霊で、愛想のないスールさんと、普通のヒューマノイド知的生命体であるネイティブさんとの溝をどう埋めるかといったところか。
「あとは……あのマルセア・システム、あ、いや、議長さんの件だな」
『デスネ』
「それと、ミニャール・メリテ・ミーヴィか……スタインベックさんにも一報入れといたほうがいいか。今回の作戦で国際連邦軍の関係者に色々根回ししてくれたみたいだし」
『そこはケラー・ツキオカのお仕事ではないですカ?』
「うん、まそうなんだけどね……」
惑星ゼスタールのネイティブ・ゼスタール人達は今、凱歌を歌い、八〇〇年以上続く神話と化したこの戦闘の勝利を祝っているという。
地球の勝利の凱旋にあるような、紙吹雪が舞い、兵と民間人が抱き合う、そんな情景。
パウル達艦隊のクルーや、ゼルドア艦隊のクルーもそんなところだろう。
まあそれでも現状、まだ小さな残党、つまり完全に制御を失ったヂラールに、地上の環境を変えてしまった植物型ヂラールの掃討もある事から、まだ小さな小競り合いは当面続くだろう。
だが、この星の歴史はまた新しい扉が開かれ、未知の因果へと導かれていくことになるのである。
ネイティブとスール、そしてゼスタールにもその名を記した『ペルロード人』……
この星の謎は、まだまだ深い……




