【第九章・奪還】第五九話 『大戦(下)』
惑星ゼスタール 北極海域の海中。
コーンコーンとアクティブソナーを発振しながら突き進むは国際連邦軍、旧国際連合常任理事国所属各国の戦略原子力潜水艦と、その他地球先進各国の、海上自衛隊を含む通常攻撃型潜水艦(原潜含む)護衛艦隊であった。
そりゃもうこんな構図はそうそうないだろう。
本来であればこのような潜水艦は単独で、究極のステルス……ティ連流の言い方をすれば、『対探知偽装』を施して、敵艦や敵国に必殺の一撃を食らわすのが本分な艦なわけだが、此度は海中を艦隊組んで驀進している。静粛性もなにもあったもんじゃないという感じ。
さらにはアクティブソナーである。本来なら現状のように、こんなパカスカとチンドン屋のように使うものではないが、自ら発するソナー波をガンガン鳴らしながら海中を何事なく突き進んでいる。
地球でこんなことをすれば何のための潜水艦かわかったものではないが、ここはゼスタールである。海中に敵、つまりヂラールがいないために、圧倒的なアドバンテージをもって我が物顔でいることができるわけである。
というわけで艦隊旗艦にはスール・ゼスタール人の水先案内人が海図代わりに各艦へ的確な航路情報を提供しながら進撃している。現状会敵することなく最も円滑に作戦を展開できる部隊が、この潜水艦隊という次第である。
この潜水艦隊旗艦は、アメリカ合衆国の最新鋭戦略弾道ミサイル原子力潜水艦の、『コロンビア型』
そこにロシアの、かの有名なバケモノ原潜『タイフーン型』、これはNATOのコードネームであるからして、ロシアでの正式艦名は、『941アクーラ型戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦』となっているので、この世界ではアクーラ型と呼称している。
いやはや『戦略任務重ミサイル潜水巡洋艦』とは、なんともロマン満載な種別呼称であるが、それもそのはずで、この巨大な原潜が艦隊の副旗艦ともいうべき立ち位置でコロンビア型と連携し、この艦隊全体を運行しているのである。
その他、英・仏・中・印も戦略型潜水艦を派遣している。
で、これら各国は、護衛で攻撃型の原潜や通常型潜水艦も派遣しているのだが、ちょいと特殊なのは、海上自衛隊の潜水機動部隊だ。
ここで普通なら、一旦火を入れれば一〇年は稼働し続ける原子力機関を積んだ戦略型潜水艦に比べれば、海上自衛隊の内燃機関-電池航行式潜水艦なんざ機能的に全然劣るではないか……という意見も世間ではチラホラある。
だが、日本の通常型潜水艦は、確かに原潜みたいに一〇年も潜りっぱなしというわけにはいかないが、戦闘作戦行動時間ぐらいは普通に潜水したまま任務を遂行できる世界的にも例がない優秀な内燃機関-電池航行式潜水艦である。
更に言えば、この世界の海自の潜水艦は、艦内の内燃機関をとっぱらって、その取り払ったスペースにゼルジェネレーターを完備しているので、ティ連式宇宙線発電機関の電力と、燃料電池の電力のみで半永久的に潜水活動が可能となっているのである。原子炉なんて目じゃない。宇宙線発電機関はもとより、仮想物質で生成される水素と酸素を反応させる高性能な燃料電池搭載である。おまけに小型のハイクァーン機器を搭載しているので、生活用品に糧食の供給も、ほぼ恒久に可能だ。
で、そんなシステムに換装した『そうりゅう』に『たいげい』型潜水艦の他に、海上自衛隊臨時機動兵器母艦『あかぎ』から発進した、海自の最新支援機動兵器、『旭龍M型』。こいつが海上自衛隊の、本気の虎の子である。
シエ達の駆る旭龍F型が標準的な旭龍のデザインだとするならば、M型は少々丸みを帯びたシルエットになっている。そして背中にある背びれのようなデザインのマルチセンサーとは別に、その真ん中に、潜水艦のブリッジをスタイリッシュにしたようなデザインの構造物がついている。
更に、尾っぽの部分も他の旭龍シリーズに比べると縦の高さが広く、背面斥力エンジンもなるべくコンパクトにまとめられるように折り畳みが可能な構造になっている。
F型を一般的な龍のようなイメージに例えるなら、M型は海龍のような感じ。
そして水中仕様の旭龍らしく、海中を進むときは、推進機関の使用と同時に、体をくねらせながら進むという、どっかの公国の水泳部も裸足で逃げ出すような、そんな仕様の旭龍が、ものすごいスピード……それこそマグロか何かのように、変幻自在に海中を行き、艦隊を護衛する。
「君、コーヒーでもどうかね」
米海軍原子力戦略弾道ミサイル潜水艦、国際連邦軍潜水艦隊旗艦『コロンビア』艦内。
瞑目し、メーターや小型のモニターしかない前方を向いて休めの姿勢で突っ立っている水先案内のスール・ゼスタール人に、コロンビア艦長が熱いコーヒーを勧める。
「君の職務への誠実な対応は素晴らしいと敬意を表するが、コーヒーを一杯飲んで、緊張を解き、雑談に興じる余裕ぐらいはあるだろう?」
そう言いながら白人の米国人艦長がスール・ゼスタール人に香ばしい香りの、湯気の立つカップを渡すと、
『特に我々は現在緊張状態にはない。順調に任務を遂行中だ。だが、艦長の気遣いは評価する』
と目を開けて、艦長の方へ振り向くと、そのゼスさんはコーヒーを手に取り口へ運ぶ。
『惑星チキュウと交流を持ち、この特異な成分を含む飲料を飲む機会が多くなったが、実に不思議な精神安定作用をもたらす飲料であると評価する』
「はは、それは結構だ。気に入ってもらえて嬉しいよミスター」
しばし、コーヒーをすする艦長とゼスさん。他の手のあいている士官もそんなところ。
「しかし本当に凄いな、あのモニターは」
潜水艦とはご存知の通り、反射音の聴音だけを頼りに海中を進む乗り物である。そこには詳細な海図がなければ、潜水艦は基本運用が難しい。
だが、この戦闘に参加している潜水艦には、すべてゼスタール製の海中可視化センサーが取り付けられている。
質量、音響、素粒子、光学を駆使し、モニターへ艦外の海中風景を高精細グラフィックで表示する。つまり、窓見て外見て運転できるのが現在作戦中の各国潜水艦なのである。
もうこの技術が潜水艦にとってどれだけ欲しい技術か! という奴で、海中の艦外の景色を半径一キロメートルに渡って水族館の水槽の如くクリアに表示するのであるから、かなり複雑な操艦を必要とする作戦も円滑にこなすことができる。
この艦の操舵士は、「このシステムがあれば、海中でこの艦を宙返りさせてやりますよ」と豪語するほどのものだ。
その操舵席の大型モニターには、海中の各寮艦の姿もくっきり映っている……今、旭龍M型が胴体をくねらせながら側を通過していった。
「まったく……あのジャパニーズのメック兵器は別格だな」
と艦長は副長の方を向いて苦笑いをすると、
「そういえばミスターゼスタール。あのメック兵器の話ではないが、“敵の化け物が海中にはいない”という事実を我々も理解しているが、海上外から海中への攻撃、つまり対潜哨戒機のような化け物はいないのかね?」
『その質問に関して回答する……可能性はある。海中に敵は存在しないからといって、海中に攻撃を仕掛けられる個体がいないという事にはならない』
「やはりね……単純に海中でのドンパチがないというだけで、対潜戦闘が皆無というわけではないってことか」
『肯定。従ってニホン政体のJMSDFは、あの「キョクリュウ、エムガタ」をこの艦隊に随伴させたと聞いている。あの機体であれば、緊急時には海中から海上へ離水し、空対空機動戦が可能だ』
「ハァ……了解だ、ミスター……俺はこの作戦よりも、ソッチのキョクリュウの方が気になって仕方ないよ」
と困惑気味に艦長が話すと、副長も「あの謎の円盤の戦闘機も真っ青ですな」と苦笑いだ。
さて、そんな雑談も程々に、艦隊は目標であった惑星ゼスタールの北極海地点へ到着する。
現状の情報では、海中に敵性物体が存在していないのは変わらないので、各国潜水艦内でも静粛行動の命令は出ておらず、普通に艦内を乗務員はドタバタ移動している。なので各国潜水艦の聴音士もいろんな音を拾うことができているようで、こんな潜水艦行動は初めてだと、少し困惑顔だ。
「全艦指定の配置へ就いたな」
「ロシア・イギリス・フランス・中国・インドの各戦略型潜水艦は当初の作戦通りの行動です」
「よし、全艦とのコミニュケーションは?」
「アイ! 貸与されている量子テレポート通信機は作動良好」
コロンビア艦長は頷くと、
「さて、あとは司令部の命令待ちか」
『艦長、意見具申する』
「ああ、大歓迎だミスター。何かな?」
『現在、各艦は海中の敵性存在を気にせず、通常の艦内行動をとっているが、静粛行動に移行することを提案する』
「ん? なぜかね。海中に敵はいないのだろう? ならば海中での作戦行動のアドバンテージは完全にこちら側にある。あまり兵の行動に制限を設けるのは、士気や円滑な行動といった点から見ても、むしろマイナスになると思うのだが」
『我々も杞憂であれば良いと考えているが……ヂラールはあらゆる波動性を伴うものに敏感に反応する。海上のヂラールにおいて、先の「対潜哨戒」に長けたヂラールがいた場合、対潜攻撃のようなものを受ける可能性も否定できない。従って作戦行動直前までは、お前達が一般的に行っている静粛行動を行った方が良いと考える』
その言葉にコロンビア艦長も顎に手を当てて、小刻みに頷き、マイクを手にとって艦内に静粛行動を通達する。同時に各僚艦にもゼスタール人の見解も添えて、要望。
すると即座に聴音士から、各艦からの雑踏な音が消えたと報告が入る。
その様子を確認したゼスタール人は、少し笑みを湛えて、また仁王立ちの休め姿勢で前方を向いて瞑目している。
なんとも変わったエイリアンだと思う艦内スタッフだが、なぜか皆、彼のことをクールだと思ってもいたりする。
* *
さて、惑星ゼスタールから約一光年の宙域に、無数のディルフィルドアウト現象が顕現する。
まず真っ先に飛び出してきたのは、宇宙空母カグヤ。ティラスが変わらず艦長を務める日本の誇る歴戦の名艦である。次に航宙機動重護衛艦『ふそう』、艦長は香坂裕。更に航宙機動重護衛母艦『やましろ』、艦長はニヨッタ。
この三艦に連なるように、米国『ニール・アームスロトング型』や、英国『マーガレット・サッチャー型』など他、国際連邦各国の航宙艦や、ティ連の各中型機動艦艇が顕現し、カグヤを中心に艦隊陣形を取る。
しばし間をおいて、次に登場するは、大型機動母艦『ジュンヨウ』である。艦長は、かのグロウム戦時の『デルダ艦長』に……
『中型先行部隊、全艦ディルフィルドアウト完了。大型艦艇群も順調に現宙域へ顕現中であります、ゼルドア提督』
『よし、この艦隊がすべて現宙域へ集結完了後、惑星ゼスタール奪還の最終作戦に入る……今回の作戦は、かなりとんでもない作戦になりそうだから、全員暇があればもう一度各作業チームで手順を確認しておいてくれ』
ゼルドア・ディナ・アーガス提督。かのグロウム帝国との接触で名を馳せた、あのイゼイラ人司令官である。
此度の艦隊司令のようだ。相棒はデルダ艦長。いつものコンビといったところか。
『デルダ艦長、で、最後は……』
『ええ、っと……あ、あのあたりに顕現してきていますね』
『おお……はは、いつみてもあの国の艦艇デザインは派手だなぁ』
なんだか、某ハゲタカ号のBGMでも奏でそうな感じで顕現するは、
すべての艦影デザインが、鳥類が羽を広げて飛んでいるよなイメージを持つ艦影が特徴的な『聖ファヌマ・グロウム星間帝国』の艦隊であった。
艦隊司令はもちろん
「ネリナ・マレード提督。我が国艦隊の集結、完了致しました」
「了解だ。で艦長、今回始めてティ連式のディルフィルド機関を我が国の艦艇で本格運用しているが、どうだ、使えるか?」
「使えるどころか、やはりすごいですな……我々のエルドドライブと比較して数十倍……いや、それ以上の次元転移出力値に差があります。正直な話、あのタイヨウケイと我がグロウム帝国宙域とは、ハハ、もうご近所ですな、この機関を使えば」
「フフ、そうか。ならティ連の艦艇との機動的な連携には問題ないな……よし、では我が艦隊は、当初の通りカグヤ艦隊と連携行動をとる。作戦の陣形位置を確認し、移動せよ」
「了解」
グロウム軍の艦艇も、その全長は五〇〇メートル前後のティ連基準で言う中型艦艇が主力なのだが、唯一、ネリナの現在座乗する旗艦『ランドラ一世型』は、全長一〇〇〇メートル程度の長さを持つ、大型艦艇である。艦名の通りその所有者は、かの若き皇帝『ランドラ一四世』であり、その黒と金の輝きを持つ荘厳な荒鷲のごとき艦影の船を、今回の戦いのためにランドラはネリナへ預けてくれたのである。
もうネリナとしては、ありがたき幸せどころではない。責任重大であり、まさか手前のような新米提督の立場でランドラ一世型を座乗艦にできるとはと、此度の作戦でも気合の入りようが違う。
グロウムの将兵も、自分達の親分が皇帝陛下の艦に乗ってるとなれば、士気も上がろうものだ。
このデザインだけでみれば、中型艦隊旗艦のカグヤも負けそうである。なんせこれだけ全長一〇〇〇メートルなわけであるからして……
そしてグロウム帝国としても、此度の戦闘は、協力しないわけにはいかない。
なぜなら、彼らから見て所謂宗教上の『神様』のリアルな姿が、『ミニャール・メリテ・ミーヴィ』という姿で、あの惑星ゼスタールに存在しているわけである。
ネリナも敬虔なファヌマ教徒ではあるが、でもそこは科学とオカルトの分別ぐらいはつく人物だ。
自分達の宗教教義のルーツを文化人類学的に視察することも、彼女の重要な任務に入っている。それ以上に本国のファヌマ教総本部からの要請という側面も大いにある。
従って惑星ゼスタールをヂラールの侵略から守る大義名分は充分すぎるほど持ち合わせている。
場所は戻って、ジュンヨウのブリッジ。
『よし、中型艦隊での先制攻撃態勢は問題なし。我々大型機動艦艇艦隊のバックアップも問題なし』
ゼルドアがVMCボードをトントンと叩きながら状況をチェックしている。
『久々の大艦隊の指揮ですなぁ、提督』
『そうなんだよデルダ艦長。どうするよオイ』
『いやいやいや、もうちょっと堂々としてくださいよ提督』
と、おどけ合う二人だが、ゼルドアとしては、
『でもな艦長、あの作戦だぞオイ……大丈夫なのかな……』
『はぁ……まあ確かに。アレならまだ本部のディルフィルド砲ぶっ放してたほうがまだマシなのかもしれませんな』
『まったく……なんでジェルダー・ゼルエはファーダ・カシワギを止めなかったんだ? こんな変な作戦は、本当ならダル提督の仕事だろう』
『いや提督、ダル提督に聞かれたら怒られますよ……「ヘンナノバカリ押シ付ケオッテ」とか』
デルダはダルのダストール人っぽいモノマネをしながらおどけてみせる。
この会話から分かる通り、やはり此度の作戦を考えたのは柏木長官ということである。
昨今、彼の作戦もヤル研扱いされてきているところが、なんともティ連人も、発達過程文明のなんたるかが習熟できてきたというところで、目出度いのかなんなのかよくわからんところではあるが……
『でだ。その作戦の要だが……』
『はい、特殊工作艦隊が、この場所から更に六〇〇万ディード離れた場所で、例の準備を行っています』
頷くゼルドア。その工作艦隊の指揮を火星から直接執っているのが、ゼルエに柏木達だという話。
『まあ……根こそぎやって、惑星ゼスタールへの影響を最小限で抑えるには、確かにあの方法は有効ですが』
『究極的に原始的、かつ最も効果があるといえばある方法だわな』
デルダもゼルドアも、『まぁ、カシワギ御大の事だし』と、かつての前例の如く奇天烈な作戦に付きあうのも仕方無しと、事と状況を見守ろうといったところである。
『とはいえ、あの作戦は最終手段だ。我々の攻撃と、惑星ゼスタールの攻撃が功を奏せば、例の作戦もナシになるかもしれないがな』
『ですが提督、資料を見る限りでは、難しいですな』
『うん、とにかく今は敵のこれ以上の規模の肥大を食い止めることが先決だ。敵にもどうやら我々の知らない意思伝達手段があると聞く。そうなれば、もう我々の存在が見える今の惑星ゼスタール人は、ヂラール連中にとっては邪魔にしかならん。それまでの家畜かペットを育てるような扱いはできなくなるからな』
『どちらにしても、地上部隊の先制が鍵ですか』
頷くゼルドア。此度の戦闘は、色々段階手順を踏まないといけない。なので一筋縄では行きそうもないのである。
* *
『HOK-1! ヴァリィアブルコンバイィィィンン! エンゲージ!』
と、妙に抑揚つけて雄叫びあげるシエかーちゃん。すっかり暁の大好きなヒーローロボットものアニメに感化されている昨今のママの如し。だが、シエの場合は、それがリアルに実践できるわけであるからして、そこが巷の奥様とは違う所。
シエかーちゃんは、暁君も自慢のママさんである。
ということで同じくとーちゃんの多川信次将補も、
『よっしゃ、コピー! HOK-2、ヴァリアブルコンバイン・エンゲージ』
と、ここは隊長ということで、冷静にコール。
その他三人も、
『コピー。HOK-3、ヴァリアブルコンバイン・エンゲージ』
『コピー。HOK-4、ヴァリアブルコンバイン・エンゲージ』
『コピー。HOK-5、ヴァリアブルコンバイン・エンゲージ!』
とコールして、コクピットポッドを機体から分離させて支援戦闘機モードをVMCブースターが仮想造成し、尾崎、垂井、小川は制空支援に回る。
四機の航空機と、一機のコマンドトルーパーが、諸々分離合体変形し、一体の大型の人型機動兵器となって、空中でカキン! とキメポーズ! その名も……
【24式大型複合局地機動兵器『鳳桜機』】
であった!
『コマンドトルーパー・HOK-1型』『制空戦闘機・HOK-2型』『重支援戦闘機・HOK-3型』『爆撃機HOK-4型』『戦闘偵察哨戒機HOK-5型』
これら各機が合体し、高速配置運用が可能な局地戦用大型機動兵器『24式HOK-6型・鳳桜機』となるのであった!
そして更に!
『ヴァリアブル・セカンドスタイル・エンゲージ。変形開始』
鳳凰機の隣で同時進行する全高二〇メートル台の要塞の如き機械の塊が、Z字状から人型に変形し、なにか見たことのある漆黒の、これまた鳳桜機に匹敵する全長四〇メートル級の巨大な人型兵器として顕現した。
その名も……
【24式大型可変要撃機動兵器『旭光刃』】
であった!
……んで、ちなみにこれら各機種の名称は、かの火星において、当時火星にやってきた修学旅行の一団に密着取材していた報道陣に公開された際、特危自衛隊がシエ達やリアッサのデモンストレーションを見せた後、宣伝目的も兼ねて名称を公募したわけである。
で、ティ連防衛総省広報部と防衛省広報部、そして有識者とやらの連中が頭捻って選んだのがこの名称であった。
『鳳桜機』の方は、他に『鳳凰機』『武神機』『詩愛魔神』やら色々あったのだが、ま、ヤルマルティアらしい名前ということで、一位であった『鳳桜機』に有識者多数決で決定した。
で、問題が『旭光刃』である。
もう見た目が悪役面の漆黒で巨大な旭光Ⅱ機動戦モードだったので、これにはもうネタネームがバンバン投稿されて、
一時期一位と二位を争ったのが『大旭光24』と『サイコ旭光Mk-Ⅱ』であった。
流石にこれはいかんということになったのだが、一応公募なので、公募の上位の名前を採用しないとインチキだなんだと言われかねないので三位の『旭光神』にしようという話になったのだが、政府から「神仏の漢字をつけたら左巻きと宗教がうるさいからやめてくれ」と横やりが入り、それでもまあ三位の名前に近いものとして『旭光刃』ということで落ち着いたという経緯がある……
……とまぁそんなめんどくさい四方山話はさておき……
『鳳桜機』と『旭光刃』は変形後に中型のヂラールを二~三匹、その光刃と、鋼刃の餌食にして、地上へ着地。
ゼスタールダンクコロニーへ進撃を続ける大型ヂラールどもの眼前に決めポーズで立ちはだかる。
『クックック、キマッタナ、ダーリン』
『ウム、ワタシノマシンモ、アキノリト二人乗リダッタラヨカッタノニナァ』
「はは、ま、でも確かにこの機体のパワーは使い勝手がいい。まあ……ものすごーく趣味全開ではあるが……ヤル研連中の趣味も実際カタチにしたら、使えるもんだな」
確かにこんなどっかのヒーローロボットみたいな兵器が、この世界では現実に存在するわけであるからして、あのフィクション映像のレベルの動きを再現すれば、そりゃ使えもするだろうと。
「だけどシエ、此度のセンターは俺達じゃないみたいだぜ」
『フフフ、マ、ソコハ此度は譲ルカナ? ナ、リアッサ』
『マア、仕方ナカロウ。御大直々ノゴ推参ダカラナ』
とリアッサが言った刹那、鳳桜機と旭光刃がキメ立ちしている間から、
『月光重力斬!』
との気合一発、三日月状の重力波動がX字状にすっ飛び、中型ヂラールが刃の形に斬撃されて肉塊と果て、飛び散る!
鳳桜機と旭光刃の間に、全長二〇メートル弱の女性的な和装状の装甲を施し、大きな太刀を一振り持った機動兵器が一体、空中に浮かぶ。
明らかに鳳桜機や旭光刃よりは小型だが、威厳のあるその風格。
そう、その機動兵器、あの、ナヨさんが巨大化した、『アーマードナヨ』であった!
『オ見事ダ、ナヨ閣下』とシエ
『ウム、デカクナッテモ流石ダナ』とリアッサ。
「で、その技名は?」と多川。
『技の名か? 今考えた』とナヨ。
さいですかと、多川。
「よし、この三機と地上部隊がいれば、敵の大型はなんとかなりそうだ。ナヨ閣下、指揮は自分が執りますがよろしいか?」
『あいかまわぬ。よろしくまかせた、タガワ』
「了解。制空権は?」
『メル達ト、パージシタ、垂井達ニ、ロシア国ノ“すほい”ガイル。アノ、“めておーる”トカイウ新型機動兵器モ、爆撃後ニ空戦態勢ヘ移行スル予定ダ、ダーリン』
「コピー。では鳳桜機、旭光刃、ナヨ閣下、突っ込みますよ!」
多川の突撃の掛け声で、三機の機動兵器は大型ヂラール粉砕のために突っ込んでいく。
地上部隊もそれに呼応して攻撃開始。爆装状態のロシア、メテオール機動兵器も各々が爆撃を開始した……
* *
「とうりゃっ!」
メルの半マスタースレーブ式挙動に合わせて、その鋭利かつ、大型の剣をふるい、対空戦闘型、すなわちティ連の呼称で言う『戦闘機型ヂラール』を斬撃する、メルフェリアの操るハイラ王国初国産の半サイボーグ式機動兵器『クヴァール』
そのコウモリの羽のようなスタビライザー兼用の翼を羽ばたかせて、ヒラリと宙を舞い、襲いかかる翼竜の化け物の如きヂラールを斬り伏せ、撃ち落としていく。
「ザビー! こっちは四体落としたよっ! そっちはっ?」
「はっ! 団員のクヴァール全機で、三〇は始末したかと!」
「ひぃふぅみぃ……なるほど、いい感じだね!」
「制空権とやらも、我々が掌握しつつあります団長! “すほい”の軍団も、流石手練の兵、よく踏ん張っとりますな! 攻城兵器の投入も問題ないかと!」
メルの部下が彼女に報告。攻城兵器、つまり爆装のメテオールの事である。
「だわいのヒコーキも思ってったより全然やるじゃん! よし、ザビー! だわいの攻城、じゃなかった、爆撃機に、一斉攻撃を要請して! もうこの空は大丈夫だよ!」
「了解であります、団長!」
メル達の要請に、ロシア海軍航空機動兵器部隊のメテオール隊が、翼下と、足のように見える高機動姿勢制御用スタビライザー翼に爆弾や、対地ロケット弾をわんさかと積んで、メルやスホーイ部隊が確保した空域に到来する。
『Прибытие в воздушное пространство бомбардировки』
『Все самолеты начинают атаковать крупных существ』
『принято.』
眼下で戦うシンシエコンビにリアッサ、そしてナヨ。事実上彼女達を援護するために、わんさといる敵大型ヂラールを兎に角叩いて、ゼスタール・ダンクコロニーへの進撃を阻止しなければならない。
ロシアのメテオール部隊は、鳳桜機他二機が戦う更に後方へ照準を定めて、全機が敵大型ヂラールを目標に爆撃を開始。
山に、森に、大地に空気が、高性能通常爆弾の爆煙立ち上り、爆音を轟かせて、最初の一発から半径数百メートルに渡って、破壊の衝撃が空気とともに周囲を包み込む。
『ウォッ! ココマデヤルカ、ロシアノ連中ハ!』
思わず鳳桜機をマスタースレーブで動かしているのを忘れて、手で顔を覆ってしまうシエ魔神。
「いやー、ロシアさんは一斉攻撃十八番ですからなぁ。これでカチューシャ持ってきてたらスターリングラードだぜ!」
『妾はここまでやるとは聞いておらぬ。ルスキの民は怖いのう!』
ナヨさんもちょっと引いてしまって、旭光刃を盾に爆風を躱したり。
『コレニ乗ッテテ良カッタ……コマンドトルーパーナラ、吹ッ飛ンデタゾ』
とリアッサさんも少々引いてたり。
爆煙が晴れると、敵ヂラールもかなりの数が消し飛んで、大型種にも相当なダメージを食らわすことに成功していた。
だが、連中は知的生命体ではない。半知性体のヂラールだ。動くことができれば再生を開始し、進撃をやめることはない。
ヂラール部隊は、シビア達に拠点を艦砲射撃で潰されたとはいえ、軌道上の無尽蔵な増援を時間差で投入する事も可能なわけで、この程度の攻撃で安心できるわけではない。
現状はゼスタールダンクに進撃する軍隊を止める事が優先で、無尽蔵の相手にはさらなる作戦が敢行される事になっている。従って……
「敵大型二体、頭部を撃ち抜かれて即死だ! 一体誰だ!」
多川が味方の援護か? と周囲を窺う。
『我々だ、タガワ生体。援護する』
ギムス・カルバレータ兵器の、シビアとネメアのコンビだ。遠方から狙撃用のブラスター砲を構えて、確実に敵の急所を捉え、先の大型に続き、中型に小型のヂラールを血祭りに上げている。
更にヂラール拠点を壊滅させたアイオワA4型を擁する米国艦隊から発艦した、米軍機動兵器『サラマンダー』が、スホーイとともに、制空権確保に手を貸す。
そして……
『状況が好転したようですね……』
と全軍の共通通信規格に声を割り込ませるは、なんと、『マルセア・ハイドル』議長だった。
『我軍も、温存していた兵力を前線に投入いたします。機動艦隊は防御態勢から艦隊攻撃態勢へ移行してください』
とこの通信に同期するように、ゼスタールダンクコロニーから数キロ離れた海中から、コロニー軍が温存していた機動母艦……その形状は、スール・ゼスタール軍が使う、所謂『ガーグデーラ母艦』に形状は似ているが、一回り小ぶりの、全長一〇〇〇メートルほどの、スール・ゼスタール軍と似通った形状の機動母艦……を浮上させ、戦列に加わらせた。
「うわっ、おっきいウチュウセンが海から出てきた!」
とクヴァールのメルが叫ぶと、
『フム、配色ハ、スール連中ホド趣味ハ悪クナイナ』
その薄いグレー配色の、まあ地球人にも理解できる普通の軍艦色な配色に、シエがそんな感想を言うと、
『シエ生体、我々の色彩感覚に異議を感じるとは、どういう根拠での発言か、説明を要求する』
なんかお気に触ったネメアがシエにクレーム入れてたり……って、あの真っ黒に、赤い光の配色は、正直あまり趣味が良いとは……と多川も思うが、思うだけにする。
……ということで、同盟軍のまぜこぜ混成部隊状態が、なんとか状況を押し戻しているというワケで、ここでネイティブ・ゼスさんの機動母艦投入が効いたのか、ゼスタールダンクコロニーから敵ヂラールは、尽く退けられている状況となった。
ゼスタールダンクコロニー軍機動母艦出撃は、流石トーラルシステムのマルセアがタイミングを見計らっていたこともあり、一気呵成に機動母艦から出撃したネイティブ・ゼスタール人達の使用する機動兵器で、コロニー方面に向かってきていたヂラールは、ほぼ殲滅することができた。
『タガワ師匠! ヂラール連中が下がっていくよ!』
メルが空中からそれを確認すると、地上で最後の大型ヂラールを片付けた多川は、
「こちらも確認したメル団長」
『ダガ、アクマデ引イタダケダカラナ』
「ああ。ネイティブ・ゼスさんの危機をとりあえず遠ざけただけだ。それにもう頭上のヂラールどもは、ゼスタールダンクコロニーがどうとか、そういう話ではなくなってるだろうな」
すると、米海軍と行動を共にしていた地上部隊総司令のパウルが、
『全部隊に通達。我々がこの星のゼスタール人の方々を支援するために、惑星上でのゲートを利用した部隊展開を行い、現在敵ヂラールをゼスタール人の勢力下から退けたわけだけど、どうやら連中もやられっぱなしじゃないみたいね……大部隊を更に降下させようとしてきているわ』
パウルの話だと、軌道上に放っている偵察用ヴァルメの情報では、この星の軌道上に展開する軌道都市ならぬ軌道巣窟群の一つから、連中が大部隊を編成し更なる降下を企て、本格的な地上のゼスタール人や、ティ連部隊の抹殺を図る意思を見せたという。
『……で、どうもヂラール固有の生産能力、つまり軌道上のヂラールコロニー群の独自編成はそろそろ打ち止めみたいね。敵もどうやら宇宙に展開しているゼルドア提督の機動部隊を捕捉したみたい。そちらへの群体の展開もしなくちゃいけないみたいだから……どうやらあのディルフィルド・ゲートみたいなものから、何処かのヂラール共をウジャウジャと呼び寄せているみたいね』
そのパウルの言葉を聞いて、多川やシエ、リアッサは、『やはりあの変な構造物はゲートだったか』と思う。とすると、確かあの構造物は複数あったはずである。その数で何処かのヂラールを呼び寄せられるとなると、かなり厄介な話になるかもしれない。
「コロニー型か、それに近いものでも呼ばれたらアウトだな」
と多川。するとシエは、
『トナルト……カシワギノ、アノ予想ガ当タッテイタトイウコトダナ』
「ああ。だからあの一手が効いてくる……あの御大はああいうトコロは流石だぜ、ったくよ……」
* *
さて、場所は変わって惑星ゼスタール北極海域。
現在、核兵器を搭載した戦略型原子力潜水艦は、騒然とした状況になっていた。
米、露、中、英、仏、印。すべての戦略原潜に、パウルらゼスタール駐留軍司令官の名のもとに、ティ連軍太陽系軍管区司令部・特危自衛隊と、国際連邦軍参謀本部の名前で、これら潜水艦に命令が発せられたのだ。
『チャーリー・ブラボー・ウイスキー・デルタ…………』
特に米国戦略原子力潜水艦『コロンビア型』では、核兵器発射コードが読み上げられ、キーを二つ、同時に回す準備をして待機している。
普通なら、もっとややこしい手順を必要とするわけで、本来『敵国』という同じ人類の頭上に落とす最終兵器であるからして、もっと緊張感があってもいいものなのだが、今回はかなり手順が省かれて、
即座に発射の態勢をとって待機していた。
この『二人で発射キー回す』という行為も、そういう仕組なのでそうしているだけである。
「艦長! 座標データ、クァンタム通信で着信。目標への精密誘導は、大気圏外でティ連の無人ドローンが行うとのことです!」
「わかった。他国潜水艦のミサイル準備状況は?」
「各国、発射準備完了とのことです!」
「よし、そのまま待機だ……提督、やっと出番が回ってきましたね」
「ああ。だがこの命令が来たということは、そうそう海上や地上の部隊ものんびりしていられないという事になるな」
「はい……敵の増援が大規模で確実ということになりますからな。で、ミスターゼスタール、そのあたりのことは、君達の超能力で、何か話は来ていないのかね?」
すると、水先案内のスール・ゼスタールは、
「提督に回答。超能力というわけではないが、我々の合議体意識でも、艦長の言は肯定である。ネイティブ・ゼスタールのコロニー拠点防衛に成功し、地上部隊はヂラール残存部隊の追撃戦に移行したが、偵察ドローンがヂラールの所有するゲートからの増援を捉えたという意識を共有している」
すると、丁度コロンビアの『提督』にも同様の情報が入ったのか、部下から渡されたタブレットに目を通し、
「なるほどミスター、同じ報告が今我々にも入った。となれば、この艦隊の『核』は……」
そう、この艦隊の戦略弾道ミサイルは……
「艦長! 国際連邦軍司令部よりミサイル発射命令を受信。東部標準時……」
間もなく、司令部より潜水艦発射型弾道ミサイル、すなわちSLBM発射の命令が下った。
これが潜水艦所属の各国家各々なら、色々と誤射を防ぐフェイルセーフの段取りを踏んで、めんどくさい儀式のような手順が必要なのである。
余談だが、1962年のキューバ危機当時、米国の放った爆雷によって、その報復として核魚雷の発射を決断したソ連潜水艦の艦長に対して、強硬に反対し、発射の中止を説得した政治将校の『ヴァシーリイ・アルヒーポフ』によって、核戦争が回避されたという実話がある。
なので本来潜水艦からの核ミサイル発射というのはこれぐらい重い物なのではあるが、今、その戦略原潜艦隊は、別文明の異星に、化け物相手にして、しかも救援にやってきている。
なので、その核発射のボタンの重さは軽い軽い。
従って『原潜コロンビア』艦長に、艦隊司令の提督も、
「時間だ! トライデント改、全弾発射せよ!」
「了解! トライデント改、全弾発射、アイ!」
コロンビア型、後部16基のミサイルサイロがゴウンと全基開放され、16発もの核弾頭搭載型『トライデント改』ミサイルが発射される。
トライデント改は、海面から次々とその姿を晒し、大気圏外へ一直線に噴進煙を引いて上昇していく。
更には間をおいて各国の核弾頭搭載型SLBM、ソ連の『RSM-52改』、英国の『トライデントD5改』フランスの『M51改』等、各国SLBMが次々と海面から飛び出して、軌道上を目指し飛んでいく。
で、これらのミサイル名称には、全て『改』という言葉が語尾についているが、これは今作戦用に少々改造されているが故であって、そのために軌道上に対探知偽装を施して待機しているヴァルメとの連携が重要になってくるという次第であった。
* *
米国の、件のアイオワA4型を擁する任務艦隊と行動を共にするパウル率いるティ連任務艦隊。
人型特重機動護衛艦、要するに人型機動戦艦『やまと』を旗艦として、『宇宙空母ヒリュウ』『人型機動攻撃艦サーミッサ級クラス』など、数隻を率いて、米軍と連携行動をとっている。
当初のヂラールコロニー撃破を終えたこの部隊は、先行させて、ロシア艦隊の援護をさせた多川達の後を追い、ロシア艦隊との合流を目指していた。
『パウル艦長、ゼスタール北極海で待機していたセンスイカン部隊の、ヂレール戦略誘導兵器全艦発射を確認しました!』
『わかったわ。よし、では作戦通りその“みさいる”兵器の発射後の運用はこちらで行います』
『各みさいる兵器群、動力搭載区画を切り離し、軌道投入完了しました!』
『敵ヂラール迎撃型生体兵器、みさいるに反応、インターセプトに入ります!』
「各SLBM群、敵生体兵器撹乱用のダミーを含め分離開始。核弾頭本体は、ヴァルメのトラクターフィールド制御下に入りました!」
やまとブリッジに、現状の発射した核弾頭に関する情報が入る。それらを読み上げる日本人にティ連人特危隊員。どうやら発射後の指揮管制はパウル達の仕事のようだ。
『よし、では各ヂレール弾頭を確実に敵の軌道コロニー群にぶち当てるよう、システムを見直して頂戴』
ダミーと核弾頭に分離した弾頭群は、本物の核弾頭を対探知遮蔽しているヴァルメからトラクターフィールドでゲートを擁する巨大ヂラールコロニーめがけて誘導。
迎撃に出たヂラールは、ダミー弾頭に核弾頭含めて攻撃にかかる。だが、ダミー弾頭にも此度は仕掛けが施されており、接触した瞬間に、小さな高質量弾子をばらまいて爆発する仕組みになっていた。
これで迎撃ヂラールを減らせられれば御の字というやつである。
弾頭は音速の何十倍もの速さで、転移ゲートを有する巨大なヂラールコロニーめがけて突っ込んでいく。ヴァルメは弾頭を誘導すると同時に、更なる最終加速をかけて、徹甲弾の如くヂラールコロニーの本体に弾頭をめりこませた。
刹那、爆発した核弾頭は、まさに効果テキメンであり、コロニーの外壁を大きく吹き飛ばし、有機的な残骸も弾頭の熱線や放射線で焼け爛れたものがものすごいスピードで空間軌道上に散乱する。
第一波の核弾頭十数発を食らった巨大コロニーは、その外郭を大きく吹き飛ばして更には、他の区画まですさまじい地割れのようなヒビを発生させることに成功した。
さらにこんな解説をしている間もなく、第二波、第三波と核弾頭が命中し、更には破壊された内部へ悠々と入り込んで核爆発を起こすものだから、完全に中のマスターヂラールはふっとばされてご臨終あそばされ、数分後には完全に転移ゲートとしての機能を、この一帯のコロニー群は失った。
「艦長、我々地球の核兵器もなかなかの威力でしょう?」
と高雄が言うと、
『確かにねジュンヤ。やっぱり恒星の外郭温度並みの高熱を出すのが売りの兵器だから、生体と名がつくものの内部で爆破したらものすごい威力なるわね』
「ま、特に日本で忌み嫌われる放射線も、この場合だと敵生体兵器にはすさまじい威力を発揮しますしね。ここまで“役に立つ兵器”になれたら、SLBMも本望でしょうな」
などど、地球の反核団体の連中が聞いたら激怒しそうな事をルンルンで話す高雄。
ま、『自衛隊員』なら、ここだけの話で、頭に『特危』が付くからできる話である。
「ですが艦長、まだ安心はできませんな。既にゲートから放出されているかなりの数のヂラール部隊が、先の米軍が片付けた敵基地の補填という形で、すでにゲートから顕現している連中もいます」
『わかってるわ……よし、我々特危・ティ連部隊は、ここで米軍艦隊と別れて成層圏へ各艦上昇し、ゲートから出てきた降下予定の敵部隊を「やまと」を含む人型攻撃艦と、ヒリュウで叩きます。その後、そのままゼルドア提督の部隊を成層圏から宇宙空間ギリギリのところでサポートします。よろしくて?』
やまとブリッジ全員『了解』と士気高く、巨大な人型艦と、漆黒の『カグヤ級宇宙空母ヒリュウ』は、上昇を開始する。
小声で高雄は、
「パウル、多川さんとシエさんの部隊にリアッサさんはどうする? 戻ってきてもらうか?」
『そうね、地上の戦闘も一段落つきそうだし、ヒリュウへ合流してもらってくれるかしら』
「アーマードナヨ閣下はどうするよ、それとハイラ王国のナントカバトラーみたいなのとか」
『うん、そっちも全部ウチが面倒見るわ。こっちに来てもらって。あーいう機動戦力はこれから多いほうがいいから』
「了解だ。まあ、あとは米軍とロシアと、ゼスタールダンクコロニーの陸戦部隊で、地上の敵残存戦力はどうにかなるか」
『うん、なのでそこあたりも、ちゃんとコクサイレンポウグンと話つけといてね、ジュンヤ』
「わかりました。ま、そのあたりは任せてくれ」
* *
ゼスタール派遣任務部隊、宇宙機動艦隊である、通称『ゼルドア艦隊』
艦隊司令のゼルドア・ディナ・アーガス提督が率いるこの艦隊は、惑星ゼスタールから、ヂラールの遠征攻撃が及びにくいギリギリの地点で現在待機していた。
「提督、パウル提督のゼスタール地上部隊が、惑星降下してきたヂラールの地上展開群体をほぼ壊滅させ、センスイカンというハルマのヂレール戦略兵器を使った、ヂラールのディルフィルドゲート軌道基地区画の破壊に成功、あのヂラールのバカでかい軌道巣窟の主要戦略拠点攻撃に成功したそうですな」
パウルからの報告を読み上げるデルダ艦長。
「ヂレール兵器でヂラールを破壊って、なんだかややこしいな」
「語源が同じですからなぁ」
「ふむ、まあいいか。だが、ヂラールの地上部隊の方だが、壊滅とはいっても、それはあくまであの軌道上からの降下部隊の連中を壊滅させただけであって、もともと相当期間、根を張ってしまった、惑星ゼスタールの植物型や、ハンター型といったトラップ型のヂラールは、まだ健在なんだろう?」
「ですな。あのトラップ型二種のせいで、この星の生態系は形を変えてしまっていますからね。今の作戦が終わっても、戦後も含めて惑星規模で駆除しなきゃいかん連中ですから」
そう、ここがこの惑星ゼスタールの面倒くさいところなのである。あの惑星イルナットと同じということだ。惑星規模の害虫に雑草を駆除しなきゃいけないので、今の地上戦の勝利とは、また別の仕事が残されているという次第なのである。
「で、パウル提督の部隊……あの有名な『人型戦艦』とかいうトンデモ艦を擁する部隊だが、その後の展開は?」
ティ連歴戦のゼルドア提督閣下にも、『トンデモ』扱いされている“やまと型”や、“サーミッサ級”のみなさん。
「ハハ、ええ、既にこちらの次の展開に併せて、成層圏付近まで上昇し、待機しています……ま、人型艦とかいう兵器だけではなく、中型機動空母である、月のゼスタール製のヒリュウや、ネイティブ・ゼスタールの機動母艦艦隊も合流し、待機中です」
「了解だ、これで挟撃態勢が整ったな……あとは……カシワギ御大のあの作戦がうまく行けば、一瞬で勝負をつけられる……」
ゼルドアの視線は、現在の機動戦闘艦隊とは別の宙域で作業を行っている、大規模な工作艦隊の作業中継映像であった……
* *
この惑星ゼスタールが存在する恒星系の大きく、また変わった特徴は、恒星を回る各惑星一つに対し、異常な数の衛星を従える惑星が多い……というか、すべての構成される惑星がそんな状態にある恒星系である。
この惑星ゼスタールにしても、月のような大きさの衛星と、他少し離れた場所に、四つもの準惑星型衛星を従える惑星であり、この地球型惑星ですらこのような感じであるから、他の巨大なガス惑星ともなると、その従える衛星の数は尋常ではない。
地球の存在する太陽系最大のガス惑星である木星でも、所謂、準惑星や、惑星クラスの大きさを持つ衛星は、イオ・ガニメデ・エウロパ・カリストの四つである。
勿論、小惑星クラスのものを含めると、現在判明しているだけで七九もの衛星を従えるのが木星だが、此度の定義では、この手のものは省くこととする。
で、惑星ゼスタールの存在する恒星域の、とある大型のガス惑星では、最低でも60もの準惑星クラスの衛星を従えており、実のところティ連の艦隊をディルフィルドジャンプで投入する際、結構気を使う宙域であったという話もある。
この恒星域の惑星が、みんながみんなこんな感じなので、この宙域には掃いて捨てるほど準惑星クラスの星があり、恒星外縁天体付近では、まさにそんなのが密集している状態であって、ある意味、ティ連クラスの文明の視点で見れば、『豊かな』宙域であった。
そんな恒星域で作業を行うティ連工作艦隊。
その件のガス惑星に存在する……大きさで言えば、地球における冥王星の衛星である『カロン』程の大きさの衛星に、何やら工作艦隊が細工をしているようであった。
正式な衛星の名前がわからないので、コードネームを『ビッグボウル』と呼称している。ティ連人はこの名称の意味が最初わからなかったが、『でっかいボール』と聞いて、『ああなるほど!』と笑い話になったそうである。それはこの衛星を使った作戦の意味も理解した上で、という話。
さて、今この『ビッグボウル』には、六角形のヴァルメを蜂の巣状にくっつけた、ハニカム構造の、何らかのエネルギーパネルのような物体が、その衛星軌道上に、浮かんでいる。
大きさとしては一枚のパネルは、野球場ほどの面積のようだ。そのようなものがいくつも、衛星軌道へ環状に、ビッグボウルを囲むように配置されている。
忙しく衛星の、軌道上を行き交う作業用ヴァズラー。そこには工作艦隊の司令船として、パウルが一時期乗艦としていたヘイシュミッシュ級の姿も複数見える。
「作業急げ! 最終作戦発動時間に間に合わなかったら大事だぞ!」
「でも……ファーダ・カシワギも、とんでもない作戦を考えるもんだよ、ったく」
「こんな作戦、ティ連の大きな戦争史でも見たことねーよ」
「まあだが……ゲート砲が使えないってんだから、あの規模のヂラールを排除するには、たしかにこの作戦しかないだろ」
「ゼルドア艦隊はきちんと制御できるのかよ、こんなの。もし計算が狂ったら大事だぜ」
「で、あのネイティブなゼスさんの方には、一応避難指示出してるんだろうな」
「出してないって話だぜ」
「はぁ!? おいおいおい、マジカヨ……」
そんな会話も作業を行う無線会話に入ってくるという作戦。
何やら、ディルフィルドゲート砲が使えないという、その代替作戦だという話だが、一体どんな最終作戦なのだろうか?
そういえば、なんだかゼルエも『もうちょっと考え直したほうがいいんじゃねーか?』とか柏木に言っていていたような気がしないでもない、そんな作戦のようではあるが……
そんな思惑も含めたその『最終作戦』の発動が、開始される。
作戦名は……『テンピンボール作戦』




