【第九章・奪還】第五六話 『連邦連合艦隊』
『高度八〇〇〇フィート、戦闘予想空域まで約五分』
『ゴースト・ベータ了解』
『ゴースト・チャーリー了解』
『目標を発見次第、爆撃態勢に入る』
惑星ゼスタール。赤紫色の大気を飛ぶ宇宙空母ヒリュウから発進したF-2HM。所謂お馴染みの、ティ連技術魔改造版のF-2戦闘機であり、この機体もF-2という機体ベースで考えるなら、もう相当息の長い機体となっている。
当の航空自衛隊ではとっくに調達終了で、ロッキードF-35の調達途中真っ只中で連合加盟したもんだから、一気にF-35がチープ化してしまったわけで、なぜがベースがF-2のF-2HMの方が生き残ってしまっているといったヘンテコな調達状態にある。
で、旭光Ⅱと、空自仕様の旭龍A型の採用で、航空自衛隊も残存するF-35を『HM化ユニットキット』でティ連技術化して使用しているわけで、F-2を未だ使っているのは実は特危だけという笑える現状になってしまっているわけだが、なんだかんだで地球世界では、HM化技術のおかげでF-2HMもまだまだ最強クラスの戦闘機であるわけであるからして、特危隊員には愛されている機体でもある。
……ちなみに一時期はF-4ファントムもせっかくだから予算削減のためにHM化しようかという話も出たが、流石にパーツがもう無いのと、ボーイング社が自分所の戦闘機が売れなくなるので、パーツのハイクァーン複製に許可を出さなかった事から、この世界では退役してしまっている……
そして、昨今ではこのF-2HMもエンジンや材質変換、主要システムをイゼイラ技術陣が造ってくれたゼル(仮想)大気圏内飛行エミュレーションキット仕様に全面換装に改装したおかげで、なんと宇宙戦闘機としての使用が可能になった。垂井や尾崎に小川も大喜びである。
さてそれはそうと……
宇宙空母ヒリュウから発艦したF-2HMの編隊三機は、爆弾を満載してゼスタールコロニー群の中央コロニーである、ゼスタールダンクコロニーの、山岳入り口方面へ進撃を続けるリバイタ型超大型ヂラール群体と、その他直協型ヂラールを側面から攻撃して敵の進撃を分散させるために、爆撃態勢に入っていた。
『爆撃コースに乗った! コース良し!』
『待て! 九時方向よりヂラール接近! 戦闘機型だ!』
『チッ! そうきたか。 やむをえん、爆撃中……』
爆撃コースに乗ったF-2HMだったが、何処からか迎撃に上がって来たと思われる魔物的なプテラノドンのイメージを持つヂラール戦闘機型にロックされて爆撃を中止しようとするが、刹那の通信で、
『まってまって! そのまま行ってくだサイ!』
プリルの声だ!
その声がF-2HMのパイロット達へ届く刹那に、戦闘機型ヂラールの翼が斬撃されて、飛行能力を失いそのまま地上へ落下していく。
地面に叩きつけられたヂラールは、別の部隊の餌食になったようで、小さく爆散していた。
『訂正! 訂正! 爆撃続行、爆撃続行!』
『もういいだろう! 落とせ!』
『コピー。投下、投下!』
ヒュルルと音を唸らせて落下していく爆弾。
本来自由落下の爆弾だが、F-2HMに搭載されたトラクターフィールドで誘導をかけて、確実に爆弾をリバイタ型に命中させる。
シールドを突き破って、威力の高い対地爆弾『Mk-82改』をリバイタ型に直撃させた。
リバイタ型は、体の一部を吹き飛ばして、憤怒の嗚咽を吐きながらもF-2HMに反撃の粒子ビームを放ってくる。
身軽になったF-2HMは、その対空攻撃をひらりと躱し、そのまま空対空攻撃態勢に移行する。
それまで爆弾が搭載されていたパイロンに、ミサイルがゼル造成されて装着される。
プリルといえば、搭乗するは『蒼星プリル総諜対カスタム』だ。右手に装備された有線粒子ビームロッドをヒュンヒュン振り回して、シュコンと収納する。するとバックには、これまた翼をぶった切られたヂラール戦闘機型の無残な姿が落下していく。
まあどういう状況かといえば、このビームロッドの先端についた粒子ビームユニットを、トーチモードにして、ムチのように振り回し、敵をズタボロにしたわけである。プリ子も技官ながら、パイロットとしての腕もなかなかのものである。
「プリちゃん! シビアさんとネメアさんが、メデューサ型始末するの手伝ってくれって言ってますよ!」
前方シート。つまり元々多川が座っていたシートに座り、ナビをする月丘。ちなみに特危では、このリバイタ型の事を『メデューサ型』と呼ぶ事もある。まあ指すものは同じだ。
『あ! ハイハイ、今行きますって!』
後方シート、シエが使っていた半マスタースレーブパイロットシートに座って操縦するプリル……これだけマスタースレイブ操縦できるんなら、もうちょっと柔道の訓練でも良い乱取りしろよなぁと思う月丘。
「シャドウ・アルファからゴースト・アルファへ。メデューサ群体は、こちらへ方向を変えた。目標の誘導に成功。敵をヒリュウ方向へ誘導しつつ、迎撃に入る」
『コピー。「青い巨星」と「エイリアン」の活躍に期待する。我々は対空警戒に移行するので空のことはこっちに任せて、おもいっきりやってくれ。オーバー』
その通信にちょっち疑問を持つプリ子
『カズキサン、「アオイキョセイ」と「えいりあん」ってどういう意味ですか?』
「はは、ま、こっちの機動兵器を見た、ゴーストさん達の感想だよ。またあとで教えてあげますよ」
『ふみゅ?』
* *
ヒリュウブリッジで指揮を執るは、大見健1等特佐とフォルド艦長。
『爆撃隊の効果はどうだ。回答せよ』
フォルド艦長が淡々とした口調で、日本人特危隊員の通信員に尋ねる。
「爆撃効果あり。但し特大を駆除するに到らず。敵の進行方向誘導には成功せり……との事です!」
その報告をフォルドの隣で聞く大見。
「やはりデカイだけに倒すのも一苦労ですな、艦長」
『集中した戦力を分散させるのは至難である。相手は対象の場所が敵に対し、大きなダメージを与えるため最も有効であるということを承知で攻めてきているわけであるから、普通であればその攻撃対象に全戦力を集中させてくるものだ。しかもヂラールのような、まがりなりにも「兵器」などという呼称がついている存在であればなおさらである』
「なるほど、マハンですな。理解できます」
『マハン?』
「あいえ、こちらのことで」
フォルドの言う通り、いかんせんこの敵性体は『兵器』である。つまり地球的な喩え方をすれば、この連中は『巡航ミサイル』のようなものだ。ヂラールも兵器である限り、基本的にどんなことがあっても一直線に目標へ向かってまっしぐらが基本であるからして、それが今の攻撃でこっちに向いてくれたのは。実はこれ幸いといったところなのだ。逆にいえば、ヒリュウの戦力もヂラールとしては看過できないものと認識してくれた、という事でもある。
「ゼスタールダンクコロニー軍から入電。『支援に感謝する』」
「2曹、コロニー軍に返信。可能な限り敵を撹乱するので、援軍が到着するまで無理に打って出るなと伝えてくれ」
「了解」
* *
ゼスタールダンク軍は、大見達の言う通り現状迎撃用の各種砲台や、ミサイル系兵器のサイロにその戦闘を依存している。
もちろんゼスタールダンク軍も機動兵器は所有している。機動母艦も有しているので、かなりの
戦力といっていい。
ゼスタールダンク軍の使う機動兵器は、スール・ゼスタール人の使役する件のドーラ型兵器の面影を残す、人型というよりは動物型に近い機動兵器である。機動兵器の形態を特に人型に拘っている文化ではないようだ。なるほどドーラを見ればそれも理解できる。スール・ゼスタールの人型機動兵器、『ギムス・カルバレータ』は、元来ティ連の兵器に対抗して製造されたものなので、例外なのである。
……それらネイティブ・ゼスタール人の兵器も、大型のトーチカのような場所に身を隠して迎撃戦闘を行っている。
従ってゼスタール軍の兵力も防衛戦に限って言えば、相応の戦力は保有しているのだ。
コロニー山岳トンネル途上にある森林地帯。元々はゼスタール星の国立森林公園のような場所を、木々に草木を踏み倒しながら進撃してくるヂラール戦車型に、歩兵型、ハンター型。
その後ろから初めて見るタイプである「蜘蛛型」とでも表現すればよいか、そんな形状の新型ヂラールが随伴していた。
そやつらがある場所で、コロニー軍のセンサー網にひっかかる。
樹木や岩などに偽装したセンサーは、刹那の瞬間に反応し、その情報を司令部へ送ると、司令部は即座に対応した迎撃システムを展開させる。
同じく岩や大木に偽装したブラスター砲台が、偽装外郭を破って砲身を展開。ヂラールの中隊規模の群体に攻撃を仕掛ける。
だがヂラール共も負けてはいない。相手は強力な火砲といえど、基本砲台であるからして、移動できない。なのでその火線さえ躱すことができて接近戦を仕掛ければ破壊することは可能なわけであるからして、流石の『バカのヂラール』もそれぐらいは理解できているようで……といってもやっぱり集団で突撃して砲台にとりつく、なんて事をやってるワケだが……まあ、そんな戦法も数があるからできるわけで、ジリジリと一基、また一基と砲台がヂラールに仕留められていく。
だが、逆に言えば、そんな状況になるのは、コロニー側も百も承知という事でもあり……
『横がガラ空きだよっ!ヂラール!!』
側面から高速で突っ込んでくるヴァズラー一機。だがヴァズラーというには少々異質なデザインのカスタム機である。
『オラ、そこっ!』
左マニュピレータから対艦兵器規模の強力な粒子ビームを発射し、反応の遅い兵隊型ヂラールの群れを一閃薙ぎ払う。
そう、その声は、シャルリの駆る彼女の愛機、本邦初公開の『ヴァズラー・シャルリカスタム“ヴェルサの炎号”』であった!
……このヴェルサの炎号は、シャルリが騎兵化空挺戦闘団時代に乗っていた愛機である彼女カスタムな機体である。
一般のヴァズラーと違う点は、変形機能、即ちエ型の巡航戦モードへの変形機構がオミットされている点である。代わりに、彼女の体と同じような構成で、左腕部にマルチゼル変形兵装システムを備え、更には右脚部にも同様のマルチゼル兵装システムを装備し、頭部右標準センサーを改装して、偵察機用の高性能マルチセンサーを装着している。即ち、シャルリのサイボーグ体構成がそのまま機体になったようなデザインのヴァズラーであった。ちなみに『ヴェルサの炎』の意味は、シャルリのカイラス星出身地に伝わる自然現象の事だそうである……
シエ同様の、半マスタースレーブ操縦でヂラールの側面を突くシャルリ。
少々突っ込みすぎて、超大型リバイタ型が壁のようにそびえる下部肉体に、右脚部をブレードトーチにして、グッサリとえぐるように突き立て、推進装置推力を最大にして、瞬間上昇し、バク転するように逆さになってエグり斬るようにリバイタの体に斬撃を食らわして一撃離脱でその場を離れる。何事かと悶絶するリバイタ型。
で、しばし飛行し、出発点まで戻ってくると……
シャルリが引き連れてきた、国際連邦軍の特殊機甲部隊連中が待機しており、そこには二脚モードのコリン・パウエルやヴェリカーンが戦闘態勢をとっていた。
『さて、これがあたしの華麗なる機動戦のお手本さね。さあみんなも特殊部隊の隊員っつーぐらいなんだから、あれぐらいできるよねっ!?』
とニッコリのたまう彼女。だが無線の向こうから、『んなもんできるか!』『ざけんじゃねーぞネコ女!』とか、罵声とも称賛ともつかない声が英語やらロシア語やらで、やんやと聞こえてくる。ってか、乗ってる機体が全然違うだろと。こっちゃリニアクローラーを直立させて、高速すり足で走ってるんだぞと。
だが、とはえ国際連邦軍も確かに負けてはいない。この地球製機動兵器『M5A1コリン・パウエル』や、『POT-117ヴェリカーン』は、ブラックボックスの貸与系技術に兵器以外は、ほとんどが地球技術で出来た機動兵器である……まあ確かに陸上機動戦の要であるリニアクローラーシステムは、地球技術使ったイゼさん発案ではあるが……
『全車戦闘準備!』の号令と共に機動戦闘の態勢に入る英米ロの機動戦車隊。
全車リニアクローラーの機関部に火を入れ、『全車突撃!』の合図で、ジャイロで安定させたような縦に直立させた二本のクローラーを、ローラースケートの如くダッシュ走行で加速し、突入する。
『ジャンプ、ジャンプ!』と大きな障害物を発見すると、小型化に成功した磁力空間振動波エンジンと、貸与技術の加速用ゼルロケットブースターを起動させてジャンピングを行い、そのまま短距離慣性飛行しつつ上空から確認できる兵隊型や諸々の敵に銃撃砲撃を加える。
『ロシア人! 右からくるぞ!』
とジャンプ滞空しているMTヴェリカーンに米兵が叫ぶ。すると、そのヴェリカーンは反応が少し遅く、側面からヂラール戦闘機型の一撃を喰らい、地面へ落ちていく。
だがそこに颯爽と掩護にやってくるはシャル姐。落下していくヴェリカーンをガッシと掴むと、少々荒っぽく地上へ降ろす。
『スパスィーバ!』
『あいよ。あんまりピョンピョン調子乗って飛ぶんじゃないよ! お宅らの、えむてぃーは、走るのが本分なんだからサ!』
確かにそのとおりで、MT第一号であるM4リッジウェイのような兵器から地球人も研鑽積んで、地球技術としてはズバ抜けて進化した、このコリン・パウエルや、ヴェリカーンがある。
大型兵器の二足歩行技術はまだあと一歩というところだが、それでもこのジャイロ制御クローラーの疑似二足巡航走行システムは、純正二足歩行機動に負けない性能を持っている。従ってその対地戦闘能力は、ヂラール相手でも大したものであって……
「コマンダー! 前方クソ虫多数!」
「踏み潰せマイク!」「ラジャ!」
米軍USST特務騎兵隊の一団がハンター型と戦車型を引き連れたヂラール群体と遭遇。
勢い余って突っ込みすぎた騎兵隊部隊はそのまま突撃して、戦車型を護衛するように群れるハンター型をクローラーで挽き潰しつつ、右腕部一四〇ミリ主砲で戦車型を砲撃。
一四〇ミリ砲の一撃を食らった戦車型は、体液を撒き散らしながら体内の引火物質に反応したのか、大爆発を起こす。
……このMT各機が装備する腕部主砲は、マニュピレータ状腕部の末端に懸架するように装備されている。一回の発射は、固定弾倉に四発装填されているので、四発まで連射が可能。四発打ち終わると、複合装甲砲塔のような形状をした胴部に、砲の弾倉部を結合させて、弾倉に四発を自動給弾して、再発射が可能となる……
『隊長さん、ちょ~っちツッコミ過ぎかな! 少し下がんな!』
『了解。ブラボー、チャーリー、デルタ、キャットウーマンの指示だ、下がれ! イワン、お前らもだ!』
『了解。アメリカンスキー待機地点まで下がらせる』
シャルリはUSSTとコスモスペツナズが少し後退したのを確認すると、
『みんなはあのデカブツ、リバイタ型の顔狙って打ちまくってくんな。あたしが仕留めてみせるわさ!』
『姐さん、あんまり無茶はしないほうがいい!』
『大丈夫さね。なんとかやってみるよっ!』
ヴァズラーの全長は、大体一四メートル程。で、超大型リバイタは、全長四〇メートルはある。
体格差でいえば、ヴァズラー・シャルリカスタムの方が圧倒的不利だが、シャルリのヴァズラーには強力な武装がある。で、USSTCや、コスモスペツナズのMTの支援があればなんとかいけるか? と思うシャルリ姐ではあったが……
* *
さて、惑星ゼスタールにて、今後の奪還作戦、そして惑星圏全域の戦争になるかもしれない戦闘の前哨戦ともいえる、この『降下ヂラール迎撃作戦』ともいえる戦闘。
ゼスタールダンクコロニーの国家元首であるトーラルシステム疑似人格体『マルセア・システム』の話によると、これまで散発的な敵降下の迎撃行動は、それこそ無数に、日々の気象現象に対応するかのごとくやっていたが、今回のような、超大型兵器を極めて大量に動員して攻めてくるというパターンは、初めてだという話。
つまり、これはある意味において、それまでの戦闘行動はヂラールに踊らされていたのではないか? という推測も成り立つと連合防衛総省長官である柏木真人は言う。
ということでここは連合防衛総省管轄特危自衛隊火星基地。つまり、ティ連防衛総省軍太陽系方面軍司令部である。
その火星軌道上に浮かぶお馴染みの超大型宇宙ステーション『マーズ・アルケ』。
『どういうことだい? 柏木の旦那』
「ゼルエさん、もし連中が侵略しか脳のない連中なら、あの規模の勢力ですから、いくらゼスタール側にトーラルシステムがあるっていったって、その戦力差は歴然もいいところです。普通に考えれば一気に物量に物を言わせて攻めまくり、あの生き残りゼスタール人さん達は皆殺し、というのが常道でしょう?」
『まあなぁ……でも、あのヂラールってのは生体兵器っつっても、その行動原理は動物的なんだろ? なら、あの数のゼスタール人ぐらいは気にも留めてないってのが常道なんじゃないのかい? まあ確かにヂラール連中も相当こっぴどくやられているらしいけど、それでも現在の大局を覆すほどの被害を被っているわけではない』
ヂラールがなぜにあれだけの圧倒的な戦力を持っているにも関わらず、単発的に攻めてはやられて、を繰り返し、あれだけ負けてるのに一気呵成に攻めてこないか、ここがわからんと討議中のゼルエに柏木、他諸氏の方々。
そこで柏木の、またこれトンデモな発想の一言が、周囲を訝しげな表情に変えてしまう。
「ヂラールの連中……もしかして生き残りの、あのゼスタール人の人々を『飼っている』、もしくは『飼育している』という感覚でいるんじゃないでしょうかね……?」
柏木のその言葉に、その場にいるゼルエに藤堂、フェルはもちろんの事、あの無表情なゲルナーですら、片目を細めるような表情をする。
「だってそう思いませんか? みなさん。私が今のネイティブ・ゼスタール人さんに敵対する勢力なら、あの規模の巨大な戦力が軌道上にあるんなら、もうとっとと怒涛に攻めて滅ぼしますけどね。で、それをしないというのなら、あんな動物的な生体兵器であっても、それが反知性体のような行動原理をもっているのなら、生物として何らかの行動目的があってしかるべきだと思うんです……どうですか?」
柏木の柄にもないその言葉に、
『なんか旦那、学者みてーな事いうなぁ。そんなキャラだっけか?』
「あー! ゼルエさん、バカにしてるでしょう」
『イヤイヤイヤ、そういうわけじゃねーけどよう』
すると、珍しくゲルナーが自分から口を開いて、
『柏木生体、有能ではあるが、本来知性的職能を有さないお前がその発想に至った理由を述べよ』
「あ、ゲルナー司令、何をさり気なく人をコケにしているんですかぁ……」
トホホ顔になる柏木先生。横で藤堂にゼルエ、フェルさんが爆笑こいている。
『ん? 我々は至って一般的思考に基づく疑念を問うただけだが、何か我々の質問に不備があったか? そうであれば謝罪の意思を表明する』
ちゃうちゃうと手を振る諸氏。まあまあそれはいいとしてと柏木にゲルナーの質問に答えるよう皆が促す。
「はは、まあいいや……で、ゲルナー司令の質問ですが、やはりあのヒリュウですよ……連中やっぱり我々から受けた手痛い経験や体験を、何らかの方法で共有しているんじゃないですかね?」
『今回の降下部隊、というか、降下群体の構成を見て、ってところかい?』
「はいゼルエさん。今までは、何らかの理由で、活動的なネイティブ・ゼスさんの存在を維持したいがために、エサ、という訳ではないのでしょうが、ヂラールの立場で言えば、ゼスタール人を常に活性化状態に保つために、程々の戦力を投入していた、というところなのでしょうが、我々の存在と結託しているゼスタール人を認識したが故に、危機感を感じて切り捨てにかかった……という見方もできないことはないと思うのですが、どうでしょうか?」
その理屈を聞く藤堂は、
「んー、あのヂラールのわけのわからない行動パターンに対して、理屈付けをあえてするなら、そういった行動も、画としては当てはまりますか……」
愛妻大臣のフェルさんも、
『確かニ……今までの行動があまりに不可解で、それ故に「おバカさんのヂラール」なんて言っていましたけど、そう考えれば、そうそうおバカとも言えなくなってきますね』
「だろ? フェル。 まあ俺も自信あって言ってる訳じゃないから、そういう考え方もあってので、情報部門に今後の行動パターンを多角的に分析してもらえるようにお願いできますか? ゼルエさん」
『おっしゃ、わかった。んじゃソウチョウタイの方にもフェルからシラキの旦那に言っといてくれや』
「畏まりましタです、ジェルダー・ゼルエ」
と、そんな話をしていると、ゼルエの部下がティエルクマスカ敬礼をビシとして、入室してくる。
『おう、どしたい』
『ヤルマルティア政府を通じての連絡です。ハルマの国際連邦軍司令部は、当初の予定通り、国際連邦軍に参加するハルマ内の多国籍艦隊を、はわい島沖の作戦予定地点へ集結させています』
ゼルエの部下はVMCモニターを起ち上げて、米軍の中継するハワイ島沖に集結する各国自慢の海上艦艇の映像を見せる。
『おお! ハルマ、じゃなかったチキュウのみんなもやる気満々ってヤツじゃねーのか?』
感嘆するゼルエ。その集結する艦艇の種類をマジマジと見る柏木。彼の久々に稼働する偏った知識と照合し、各国の出してきた艦艇を見て、その本気度を探ろうと思うが……まあひと目見て各国がもう相当入れ込んでいる様子がよくわかった。もうご自慢の艦をここぞと投入してきていたからだ。
国際連邦でも、ゼスタールに外注して造ってもらった航宙戦闘艦も参加するが、これはまあ別として、海上艦艇に目を移してみると……
ロシアの虎の子、ヤルバーンがやってきた後にロシアの威信をかけて改装した、ミサイル戦艦との異名を持つ、一応、『名目上は』ミサイル重巡洋艦である『アドミラル・ウシャコフ型』と『アドミラル・ナヒーモフ型』、かつては『キーロフ』『カリーニン』と呼ばれた艦が見えた。
戦艦の巨大な主砲を、相当数の大型ミサイルサイロに変えたような、ヤルバーンが来る前は、最強の戦闘艦艇といわれていた艦だ。そして空母として、『アドミラル・クズネツォフ改型』が参加している。この空母もかつては欠陥空母と言われたが、現在は、かの『機動戦闘攻撃機メテオール』の運用によって、普通にV/STOL機の垂直離着陸運用が可能になったので、スキージャンプ甲板を通常のストレート甲板に改造しており、甲板にはメテオールがかなりの数駐機している。そしてその数を補うように、『スホーイSU-57』の艦載型の姿も見えた。このSU-57の発艦方式はリニアクローラーの技術を転用した、リニアカタパルトで打ち出す方式を採用している。
中国は、山東型航空母艦に、J-15の改良型と思われる機体をズラリと並べてやってきいたようだ。
流石にロシアや米国のような、ティ連を意識した技術、もしくはティ連科学を採用した技術の兵器は搭載していないようだが、そこは中国人のメンツか、ものすごい数の艦載機を露天駐機させている。まあ意気込みや良しといったところだろうか。
フランスは、もうこれ古い原子力空母になるのだが、『シャルル・ド・ゴール型』の近代改修型を持ってきたようだ。艦載機にラファールMと、米国から導入したサラマンダー機動戦闘攻撃機を積んでいる。
英国は、女王陛下(クイーン・エリザベス型)のご降臨である……ただ、柏木先生はこの船があまり好きではない。その理由は……ぶっちゃけ、英国面炸裂でダサイと思っているからであったりする。
『あのツインアイランドはねーよなぁ』とか、そんな事を昔ブツクサいっていたとかなんとか。
搭載機は、F-35Bと、サラマンダーである。
米国は、もうそれはここぞとばかり、超大国マシマシの海軍戦力に海兵隊戦力を投入してきている。
航空母艦は、お馴染みレーガン大統領と、ブッシュ大統領を連れてきてくれた。
そして更に、ズムウォルト級最新鋭駆逐艦も持ってきてくれたようだ。
これもロシアのキーロフ級同様に、駆逐艦の名前を騙る小型の戦艦といってもいい艦である。
それ以上に、米国はUSSTCのニール・アーム ストロング型他、航宙艦艇を全て今回は投入している。
で、強烈なのは、現存する『戦艦』である、かの『アイオワ型』をサマルカ技術を投入して、『宇宙を飛べない宇宙戦艦』ばりに、サマルカと共同改装して投入してきた。
○主砲は、一六インチ(約四〇センチ)AGSレールガン前後方九門三基。
○速射レールガン換装型対空兵装。
○巡航ミサイル発射装置多数。
と、これで宇宙飛ぶことできれば立派なもんだというような大改装を行って投入してきた。
特に目を引くのは、AGSレールガンである。アドバンズドガンシステム型のレールガンだ。ズムウォルトの主砲でさえ、現在の地球科学では最新鋭の一五三キロメートルという尋常ならざる射程を有するが、新生アイオワの射程は、なんと一〇〇〇キロに達する。この性能が、ロートル戦艦アイオワを復活させた理由で、かのリバイタ型のような超大型ヂラールを射程外から艦砲射撃でぶっ潰そうという意図があっての現役復帰であった。
最後にVMCモニターへ映るは、日本国の誇る陸海空本土自衛隊群である。
護衛母艦いずも、かがを中核に、イージス艦こんごう型他、お馴染みの海上自衛隊艦艇部隊がやってきていた。
いずも、かがに搭載されている、甲板に駐機する機体は、米国から『買ってあげた』サラマンダーにF-35Bであった。
あれ? では本土自衛隊虎の子の旭龍T型(陸自)A型(空自)M型(海自)は? というと、はっきりいって『いずも』や、『かが』にはデカくて積めないので、というか積めても数機でパンパン状態なので、超大型自動車輸送船を戦闘用に改造した、急造の専用母艦三隻に乗せて、後ほどやってくる事になっている。
その他、ぐるりと周囲を見渡すように、米軍の、おそらく撮影用のドローンが映す艦隊の全景を見ると、インドや、ヨーロッパ諸国、カナダにオーストラリア、台湾に韓国といった国際連邦各国軍の大中小様々な駆逐艦に巡洋艦、イージス艦などが映っていた。
他、これら艦艇には、海軍力が脆弱な国の兵力も国際協力ということで便乗搭載しているので、その規模は先の大戦以降、最大規模といってもいい多国籍軍構成となっている状況であった。
勿論、全ての国際連邦加盟国が参加しているわけではないが、そういった軍事力の乏しい不参加国家は、金銭や物資などで協力している。
さらに特筆すべきは、とある一角に黒いクジラの化け物のような群れが整然とならんでいる。
それは、なんと旧国際連合常任理事国が所有する戦略原子力潜水艦隊であった。実はこの戦略原潜が、今回の作戦における重要な役どころであったりするわけだが……
「いやはや、なんとも壮観ですなぁ」
『マサトサン、ワタクシ達イゼイラ人は、こういうウミの上を走る動力のついたオフネの歴史がありませんから、これはこれで壮大な光景ですねー』
「ああそうか、フェル達は確か歴史的にそうだったっけ」
『俺達カイラスもそうだぜ。カイラスの歴史も、海上船舶は帆船までなんだ。こういう動力付きの船や、センスイカンってのは知らなかったから、恥ずかしながら結構こういう画は新鮮なんだぜ』
ティ連が地球にやってきた一〇年前、彼らのこういった歪な技術史を知り、地球との隔絶した科学技術力の差がありながらも、こうやって対等に互いが尊重して付き合える仲になった運命の理由。
改めてそれを思い返す柏木……地球人が彼らの宇宙艦艇やロボット技術に対して、ヤル研のような、ドス黒い欲望……極めて画期的な科学技術を提唱しながらも、世に変わり者、ヲタク扱いされてきたような科学者が集まってしまったように、それと同じことを星間国家レベルで渇望し、地球くんだりまでやってきたティ連人ら。
そんなあの時の邂逅を思い出しつつ、思わずニヤける柏木先生。
ということで……
「地球の方も、順調に事が運んでいるようですね。あと少し時間がかかるようですが、タイムスケジュール的には誤差の範囲内でしょう」
『だな。あ、と、は……パウル達例の艦隊が、塩梅良くいけば、なんとか下準備も完了するわけだが』
「対探知偽装かけてゼスタール星へ接近するとはいっても、あのフォルフォル型が一緒ですからね、うまく行けばいいんですが」
その通り、あのガタイの船舶を多数の艦艇で護衛して……という事になれば、当然不慮の事故につながるパターンはいくつも想像できる。
要するに、ゼスタール星軌道上の、あのえげつない生体兵器基地に感知されたくないわけだが、こればっかりはなるようにしかならないわけである……。
* *
漆黒の空間にあまねく現れる水面の波紋の如き現象。その数大中小と、百数十個。
まず真っ先に飛び出してくるは、その容姿に強烈なインパクトを宿す、『人型特重護衛艦やまと型』
左右の巨大な主砲を臨戦態勢にして、頭部戦闘ブリッジが周囲を警戒するように左右へと首を振る。
背部の機動兵器格納庫から、早速周囲に偵察型ヴァルメを飛ばし、警戒行動をとる。
ここはヒリュウが顕現した空間よりまだ距離があるので、侵攻準備を整えるには良い場所である。
と、やまとが顕現した刹那、さらに空間の水面から飛び出るは、今やティ連に日本の名機動艦艇となった、『フリンゼ・サーミッサ級』の一団。
初代ネームシップ、フリンゼ・サーミッサを筆頭に、特危所属のさくら型、まつ型ナドナド、連合各国でカスタマイズされた同型艦が十数隻、この空間に顕現した。
そしてトリを飾るは、一際異質の跳躍波紋……というにはバカデカすぎる水柱の如き空間壁をぶち抜く情景をみせながら顕現したのは、戦略ゲート艦『フォルフォル』であった。
同時に遅れて、他の一般機動艦艇も顕現してくる。
先に飛び出した艦船は、やまとやサーミッサも含み、フォルフォルにその航路を譲る。
フォルフォルの格納庫からは『ヴァズラー作業型』が続々と発進してフォルフォルの周囲を飛び、目視で異常がないかを確認していた。
この作業は作業用ヴァズラーに限らず、やまとやサーミッサも手を貸す。
ハイクァーンで完璧なフリーメンテナンスが確立されたティ連の機体でも、そもそもの話、そのフリーメンテナンスシステムに異常があれば何にもならないわけであるからして、ティ連のような進んだ技術を持つ種族でも、自衛隊でよく言う『目で見て確認』は同じといったところである。
結局どんなに技術が進んでも、最後の確実性は、究極のアナログ方法だったりする。
「パウル提督、っと失礼、艦長。全艦ディルフィルドアウト完了。フォルフォルの目視確認作業も完了しました。当初の予定より、二時間早い進行で推移しています」
『わかったわジュンヤ、じゃなかった、副長。二時間も早いって、なかなかに優秀じゃない』
「ま、あのゼルシミュレータでの艦長の特訓の成果ですな(PTSDカンジャモタスウデマシタガ)」
『ん? 何か言った?』
「いえいえ何も」
ジト目で高雄副長を見るパウルかんちょ。
「まあなにはともあれ、早いのは良いことです」と言うと、高雄はパウルの顔に自分の顔を近づけて、「(……真面目な話、もう惑星ゼスタールではドンパチはじまっているみたいだしな。なんでも向こうのゼスさんも初めてのヂラール編成と交戦中らしい。巨漢の大量投入で、ちょっと困っているみたいだ)」
『(そうなの?)』
「(ああ。さっき入った入手したての最新情報だ……急ごう)」
『(わかったわ)』
二人ちょっとコソコソ話を終えると、高雄はスックとパウルの横に座り、パウルは全艦に号令をかける。
『全艦、異常のある艦は!?』とパウルが問うと、通信員数人が、皆、「異常なし!」『アリマセン!』と返す。
『よろしい。少しここで態勢を整えてから惑星ゼスタールに進撃するつもりだったけど、事は急を要する事態になりました。全艦このまま惑星ゼスタールへ緊急で強行突入するわ。ちょっと無茶な行程になるけどよろしくね! では全艦通常ディルフィルドジャンプ用意! このまま一気に惑星ゼスタール近海にジャンプアウトします。アウト後、即座に対探知偽装を展開。まあこれでも恐らくヂラールにはジャンプアウトの瞬間を探知されているから、どっちにしろ我が艦隊へ盲滅法な攻撃を仕掛けてくる可能性大だから、迎撃の準備も怠りなくね。ジャンプアウト後は、一直線に惑星ゼスタールの指定された海域に向かいます。そしてフォルフォルを設置して、宇宙空母ヒリュウと合流します。ということで、この段階まで一気呵成でいくわよ、いい!?』
パウルの言葉にやまとブリッジの兵士諸氏、「おー」と掛け声全員意気揚々。その了解の声も士気高し。
もちろん各艦からも、ノープロブレムの返信が相次ぐ。
『よし、んじゃ我々“やまと”と、サーミッサ級一団がとりあえず先行します。各艦通常ジャンプ用意!』
そのパウルの命令に付随させるかのように、
「先行する人型艦艇は、ジャンプアウト後、確実に戦闘が予想される。各艦アウト後に各武装が展開できるよう、用意しておけ」
高雄がそういうと、パウルが彼の方を向いて、眉を上下させて、片目を瞑る。
なかなかに良い艦長と副長コンビのようである。ということはプライベートでもゲフンゲフン……
* *
惑星ゼスタール。ゼスタールダンクコロニーに戦力を集中させようとするヂラール群体。
その規模は当初よりさらに膨らみ、一時間ほど前に更なる増援ともいうべき揚陸艦型ヂラールが数隻降下して、減った兵力を追加させるような増援をおこなって、揚陸艦型は飛び立っていった。
「これは完全にこちらの存在を認識されているな……」
と思う大見……敵の侵攻を現在分散させることにはなんとか成功してはいるが、困ったことに敵の関心がどうにもヒリュウにも完全に向いてしまったようで、先程からヂラールの攻撃パターンがいささか変化してきた。つまり、ヒリュウ側の部隊にも敵のバリバリの主力を割くようになってきたのだ。
『敵の関心を引くことができるのなら、別に問題ないと考えるが、何か不都合な状況を予想できるのか? オオミ生体』
「いやまあ確かにそれはそうなのですが、もしヂラールがこの攻撃を、陽動と理解してしまったら、もしかすると一気にこのヒリュウの方へ、全部隊を差し向けてくる可能性もありますからね。となれば、ちょっとこの戦力ではいかんともしがたいわけで……」
フォルドはしばし目を瞑って考えた、というか恐らく合議体で協議した後、
『ならば、いっそのことこの艦で直接艦砲を敵超大型に浴びせ、後退するように攻撃すれば、もっと確実に敵の分散を行えるのではないか?』
「この艦で直接ですか?」
『この艦もゼスタール母艦と同様の技術で建艦されている。少々のことで遅れは取らない事は保証する。この提案を検討し、命令せよ』
ま、確かにこの全長五〇〇メートルの巨艦の搭載する艦砲でやりゃぁ、四〇メートル程度のヂラール共を叩きのめせはするが、この戦闘行動をまた学習して、後に戦艦クラスを降下させられちゃあちとマズイのは正直あるため、大見も確実な作戦ではないなとは思いつつも、現状怒涛の勢いでゼスタールダンクコロニー入り口トンネルに群がるこやつらに、大きく状況変更を考えさせる手はこれしかないな、とも彼は思うわけで、
「わかりました、フォルド艦長、現状はその手しかないようですね。お願いできますか?」
『状況了解した……全艦に通達、これより本艦は砲雷攻撃を行う。目標はヂラール特大群体。砲雷戦の準備をせよ。繰り返す……』
淡々と命令を伝えるフォルド艦長。ゼスさんクルーは、こんな言葉の命令なんぞ聞かなくても、合議体リンクですぐさま行動を開始できるのだが、日本人隊員や、ティ連人隊員がそういうわけにはいかない。
なもんでフォルドも言葉で命令を艦内に通達するが、これがカグヤなら、『達する。これより本艦は~』なんて命令伝達のフォーマットもあり、ルーティンもあるわけだが、まあゼスさん達はこんなんなので、ポン人にティ連人さんは、ちと感が狂う。
とはいえ、命令後は艦内に警報がビーと鳴り、即座に全クルー砲雷戦態勢に入る。
甲板には、シルヴェル・ベルクの艦砲仕様が転送装置で配置され、脚部を甲板に固定し、動力システムを艦に直結させる作業を甲板員が機敏な動きで作業を行っていた。
『艦砲シルヴェル、配置完了。砲撃準備よし』「艦右舷オート・メラーラ砲、ゼル台座にゼル造成完了!」
「艦艇部動力システム区画、フェイザー砲、重粒子ビーム砲、対地ミサイル準備よし!」『艦長! 重力子砲の準備はどうするか、兵装管理室から問い合わせです!』
フォルドはその問いへ即座に回答。
『重力子兵器の使用について、今回は見送る。二次災害は避けたい。これでいいいな、オオミ司令?』
「そうですね。あれを食らったら逃げようがないですし、もし味方を巻き込んだら大被害をもたらします」
『肯定。では現状の命令を維持する』
流石はフォルド艦長。重力子兵器の性質をよくわかってらっしゃる。ってか、ティ連とドンパチやってた頃の経験が役に立ったか? 時のガーグ・デーラにとっては、天敵とも言える兵器が重力子兵器であったわけであるからして。
ということで、ヒリュウは直接攻撃に転じるべく、対探知偽装を解き、現地点高度二〇〇メートルで滞空固定。シルヴェル砲を艦側面へ全門向けて攻撃態勢に入る。
「主砲、仰角自動設定。目標、ヴァル式選定目標に固定、発動用意!」
日本人特危隊員の号令で、シルヴェル・ベルク砲がクインクインと音を立てて旋回し、仰角を整える。
「発射用~意!」『発射用意!』……「発射ぁ!」
火器管制員の号令とともに、シルヴェル・斥力砲が大気をイオン化した大きな環状の波紋をドリル状に広げて、光弾一閃、斥力砲弾を一斉射する。
その砲弾は、刹那の間に遥か彼方に一瞬消えるが、即座にキラリと四つの光を明星の如く光らせて、相対速度見た目にゆるりと地上へ降下していく……この光は斥力砲弾の末尾に装備された小型斥力機関が作動して加速を付けて、ヴァルメの選択した目標へ一直線に突き進んでいるのである。
即ちこのシルヴェルの兵装は、ティ連版のAGS砲弾のような兵器であった。
『初弾命中!特大二体を無力化シマシタ!』
対探知偽装を施した状況偵察、砲弾誘導用ヴァルメが着弾予測地点上空で、ヒリュウの放った砲弾第一波四発が、見事に敵リバイタ型二体に命中し、大きな爆炎をあげて体の組織を吹き飛ばし、嗚咽をあげる間もなくその蛇人のような巨体を、ドスンと横たえ息絶えさせた、
その様子を見るヒリュウブリッジでは、見事な撃破の映像に、全員「おっしゃぁ!」とガッツポーズ。
フォルド艦長もモニターを凝視し、戦果確認の意味も込めて頷いていた。
だが、大物二体を葬ったとなれば、敵さんもそれまでの動きとは違った行動を見せる。
ヒリュウが兵装を使用するために偽装を解き、姿を現した事もあってか、ヂラールの機動戦力の目標が、一気にヒリュウへと変わった。
ゼスタールダンクコロニー入り口制圧群のヂラールは、小型と中型の陸上戦力だけとなり、一部の航空型ヂラールと、特大、大型、揚陸艦型ヂラールの目標はすべてヒリュウに変わった。
『艦を合流予定地点へ後退させつつ、接近するヂラールを排除せよ。無人攻撃機を随時ゼル造成させて発艦。待機機体はすべて本艦の直衛につけ……シャルリ生体、応答せよ』
『あいよ、なんだい艦長!』
『お前達も我々に合わせて後退せよ。直協態勢をとれ』
『下がるんだね! りょ~かい!』
フォルドの命で、甲板には無人戦闘攻撃機F-47を艦内ゼル工場で量産し、五〇〇メートルもの甲板自体を無人戦闘攻撃機という、所謂万能ミサイルの発射カタパルトにして、大量に射出していた。その数今だけでもゆうに三〇機を超えている。
基本ゼル機体であり、また無人戦闘攻撃機であるからして、搭載の武器弾薬を使い切れば、そのまま機体ごと突撃してミサイルとしても利用できる、従ってこの機体自体にも相当量の爆薬が搭載されている。
現在、ヒリュウから発艦したF-2HM隊や、旭龍、旭光Ⅱ、ヴァズラー隊とともに、ヂラール航空兵器型の迎撃戦闘を繰り広げている。
ヒリュウはジワジワと後退しつつ、装備する兵装で、敵先遣攻撃群体である航空機型に艦の搭載火器フル動員で対応していた。今、対空迎撃用にゼル台座へ造成したゼル兵器、CIWSとオート・メラーラ砲が火を吹き、敵戦闘航空機型を始末にかかる。
絵に描いたような対空戦闘になるヒリュウ。森林の湖畔に潜む渡り鳥が一斉に羽ばたき群れをなして移動する様相と同じような構図で、不気味なヂラール戦闘攻撃機型の群れがヒリュウに向かってくる。
ヒリュウは更に艦後方側面の兵装スリットからフェイザーに粒子ビーム、ディスラプターとあらゆる連続、断続攻撃可能な兵装を展開し、戦闘攻撃機型ヂラールの群れを叩き落としにかかる。
直衛につくシャルリ達も大仕事だ。だが、これで完全に敵の侵攻を分断することは出来た。ゼスタールダンクコロニー軍司令部や、マルセア議長からも感謝の連絡が届く。
もうあと一息持ちこたえれば……
* *
「こちら頭部戦闘ブリッジ。普通跳躍完了! 前方惑星ゼスタール確認!」
『指揮ブリッジ了解!』
特危日本人操縦士(操舵士)は、惑星ゼスタール近海に『人型機動特重護衛艦やまと』がディルフィルドアウトしたことを報告する。
その報告と同時に、サーミッサ級人型攻撃艦群が次々とディルフィルドアウトしてきた。
『全艦戦闘態勢をとりつつ、即座に対探知偽装を展開! 敵は我々のディルフィルドアウト波動を察知して、索敵に飛んでくるかもしれないけど、徹底的に無視して! シールドに接触しても反撃したらだめよ!』
そのパウルの命令に各艦は俊敏に反応。即座に探知偽装をかけ、宇宙空間に溶け込んでいく。
パウル達人型艦艇艦隊が大きく先行すると、次に戦略ゲート艦『フォルフォル』が顕現する。
巨大な空間波紋をまとって怒涛の滝壺の如く顕現する巨艦フォルフォル。
更に後方から一般中型機動艦艇百数十隻に大型機動戦艦、機動母艦が数十隻顕現する。
これらも即座に対探知偽装を展開するが、大型艦艇の多さが災いしたのか、流石にこのバカでかい時空間波動を感じ取った惑星ゼスタール軌道上の索敵ヂラールがこちらに向かって飛んできた。
その様子を『やまと』が背部に背負ったような形になる背面艤装部指揮ブリッジで見守るパウル提督で艦長と高雄準也副長。
「あちゃ~、来ましたな、やっぱり」
『そうなるわよね~。あんなクソド迫力なディルフィルドアウトかましたらね~』
フォルフォルに近づく索敵ヂラールの群れ。やはり索敵ヂラールというだけあって、地上で戦ってるような戦闘攻撃機型ヂラールなどとは違って、各々が大きく散会して空間に何かを感じ取ろうという動きを頻繁にする。
すると一匹の偵察ヂラールが対探知偽装をかましたフォルフォルのシールドに接触した!
バシッと音を立てて吹き飛び、機能不全を起こす偵察型ヂラール。刹那に他のヂラールも反応し、何らかの通信手段で味方の戦闘用ヂラールを、この現空間に引寄せる。
「パウル艦長。さすがにフォルフォルを完全に隠蔽するのは無理がありましたな」
『まぁね。そりゃあのガタイだもの……で、副長、次の段取りを』
「了解しました……戦闘ブリッジ、『デコイ』の状況は?」
『デコイ、すでに予定空間に顕現しました! 現在浮遊漂流中!』
「よし、デコイ爆破!」『デコイ爆破、宜候!』
すると、現空間とは正反対の位置になる別の宙域で、かなりの数の大爆発が発生する。
そう、パウルはこの宇宙で最初に顕現した空間からディルフィルドジャンプする際、先んじて大型の粒子反応ポッドに、宙間巡航ミサイルを大量にディルフィルドジャンプさせていたのであった。
これはサーミッサ級に搭載されている『やまと』にも積まれた同じ攻撃手段、『ディルフィルド転送一斉攻撃』を利用した戦術である。
先に転送されたミサイル兵器らは、全然関係のないトンチンカンな場所にディルフィルドアウトするよう、ジャンプさせた。
次に目的地へ本体がジャンプするわけだが、もし現在のような対探知偽装をヂラールに認識されそうになった場合、先に顕現させたトンチンカンな場所のミサイル兵器群を、そちらが本命とみせかけ爆発させて……。
「敵索敵型と後続の攻撃部隊、全機デコイに反応、そちらへ向かっていきます!」
とセンサー担当員の報告。こういうことである。
『よろしい! では全艦、最大戦速で惑星ゼスタ-ルに突入! この場から全速でトンズラかまして!』
「了解!」
全艦機関最大船速でこの場を離れる。
『フォルフォル』もヂラールがまとわりつくことを中止した瞬間、機関を最大パワーにして、ゆっくり、かつ確実に加速を始め、この宙域からの移動を開始する。
この移動波動を当然索敵型も察知するが、それよりもデコイが放つ強力な爆発の方を、『何事か』という目で振り返り、思案したあと結局デコイの方へ飛んでいき、まんまとパウル達の術中にハマったジラール共。
高雄はパウルに親指上げて片目を瞑り、パウルもそれに応えて親指上げる。このラッキーポーズは地球に来てから覚えたジェスチャーである。ちなみに同じ意味の仕草をディスカールで行う際は、揃えた人差し指と中指を上へ上げるジェスチャー-をする。
* *
パウル達先遣作戦艦隊は、対探知艤装をかけた状態で、次々と惑星ゼスタールの大気圏に突入していく。
全艦区間振動波機関による空間シフト航法で進むため、大気圏に突入しても断熱圧縮現象も起きず、そのままストレートに惑星内へ何事もなく侵入することができた。
あらかじめヒリュウの調査した惑星ゼスタールの地形図と、ゼスタールダンク政府から提供してもらった詳細データを指揮ブリッジのVMCモニターに表示しながら、艦長であり提督でもあるパウル自ら先頭に立って『人型戦艦やまと』が進んでいく。
現在のパウル達の位置は、惑星ゼスタールにおける大洋のど真ん中である。作戦ではここから数百キロ上にある群島地帯へ行って、そこにティ連軍の前線基地を設置することになっていた。
『やはり資料にあったとおり、こういう大洋上ではヂラールの反応はほとんど無いわね』
チューブ状のコーヒー牛乳をチューと飲みながら話すパウル。
「さっき小島のようなものがいくつかあったが、植生はゼスタールダンクからもらった正常な生態反応だったなパウル」
今は小声というわけではないが、ブリッジの部下に気取られない程度の声のトーンで話す高雄。こういうときは彼と彼女のこういう関係のタメ口モード。
『うん。でもここまで海洋が苦手? なのかどうか知らないけど、すんなり位置取りできるのも拍子抜けね。海洋活動型でなくても、空中飛ぶ奴がワンサとかかってきても良さそうなものだけど』
「そうだな。実際、島の植生も見事なものだ。例のネイティブゼスさんを苦しめたっていう、あの毒性植物型ヂラールの欠片もないからな……あそうだパウル、ヒリュウには後退して合流するように指示は出したのか?」
『ええ、でも今ゼスタールダンクコロニーに進撃中のヂラールどもと交戦中だそうよ。後退中だけど、しばらくかかるって』
「掩護出そうか? 早急に合流してもらったほうがいいだろ」
パウルはしばらく考えると、
『向こうにはコクサイレンポウの兵達もいるのよね……そうね、わかったわ。機動母艦から無人ヴァズラー一個中隊発進させて、ヒリュウの後退速度を上げさせるわ。その後、付近のヂラールを無人機に遊撃させれば、当面のコロニー軍の掩護にもなるでしょ』
「了~解」と言って高雄は席を立つと、「通信員、機動母艦へ提督命令。無人ヴァズラー一個中隊を編成し、後退中のヒリュウを掩護。ヒリュウが合流速度に乗った場合、無人機はそのままゼスタールダンクコロニー軍を掩護しつつ、敵の分断状態を維持させろ。デカブツが出て来たら、取り付いて自爆させてもかまわん」
となりでウンウンと高雄の、自分の意を組んだ指揮命令ぶりに、満足そうなパウル提督閣下である。
* *
『オオミ司令、今、人型航宙機動戦艦ヤマト旗下、先遣ゲート基地設営艦隊が本惑星内指定位置に到着。作戦行動に入るため、合流サれたし、と連絡が入った』
スール・ゼスタール兵の通信兵から報告を受ける大見。毎度のことながらスール・ゼスさんは、淡泊で淡々とした口調で、どんな状況でもそんな調子で話すもんだから、なんとも少し調子が狂う。
これならまだスマホの音声応答ソフトのほうが、愛想がいいぞと思うが、思うだけにしておく大見司令。
丁度その連絡と同時に、上空を無人ヴァズラー一個中隊が勢いよく編隊を組んで内陸部へと飛んでいった。
しばし後、地上や空中に戦闘反応が表示される。無人ヴァズラーが自律戦闘に入ったようだ。
「よし、フォルド艦長、このスキに速度を上げて一気に後退して、艦隊と合流しましょう」
『肯定、了解した……全艦に通達。先遣ゲート設営艦隊が到着した。現時点で現在の状況において、我々がアドバンテージを取ることは確実になった。現在、先遣艦隊から派遣されたヴァズラー型カルバレータ兵器が交戦中である。現在出撃中の各機動兵器部隊は、直ちに帰還せよ。各機動歩兵部隊は強制転送回収を行うので、準備せよ。繰り返す……』
フォルド艦長のこの一声で、ヒリュウは全速で後退行動に入る。次々と帰還する機動兵器群。
ヴァズラーや、旭龍、旭光Ⅱ。F-2HMに、サラマンダー、メテオールが続々と甲板へ着艦してくる。
艦底部からは、主に国際連邦軍のMT(機動戦車)部隊や、日本-ティ連系のコマンドトルーパータイプがジャンプで収納されていく……遠目で見ると、何やら宇宙空母に小さなホタルが吸い込まれていくような情景に見えたりする。
『全機動兵器部隊、回収完了!』『機動歩兵部隊、転送回収完了! 欠員なし!』
格納庫から上がってくる報告にフォルドは頷き、ヒリュウに回頭命令を出す……それでも戦闘攻撃機型ヂラールがまだまとわりつき、対空兵装は忙しく発砲している。ヒリュウの回頭速度に大きく振られて、ムチのような楕円形の弧を描き、敵へ偏差射撃を食らわすCIWSの弾丸。
回頭が終わった刹那、ヒリュウは合流地点の大洋へ加速するのであった……




