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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
56/89

【第九章・奪還】第五五話 『迎撃』


 惑星ゼスタール奪還作戦本部宙域となった火星軌道上。

 このような大規模作戦を行うのなら、こんな天の川銀河系辺境の、最近まで宇宙開発もままならなかった発達過程文明の、最近になってやっと惑星国家の『ようなもの』になった感じの場所などではなく、ティ連の大国か、防衛総省本部の基地か、そんな場所に作戦本部宙域を設置すればよかろうものをなぜにその太陽系国際連邦領内の、しかもティ連と日本と米国に主権がある火星なのか? という話なのだが、結局はグロウム帝国との接触と、それに伴うあの稀に見る大規模宙間戦闘になった経緯と、その戦後の交流の関係もあって、場所的にこの火星が最も適当だという理由でそうなっている。

 そしてゼスタールが国際連邦との技術供与条件、即ち戦力の派遣及び作戦協力の協定関係もあって、色々と細かい事象の因果因縁がこの太陽系の地球から火星域を中心に、なんだかんだで回ってしまっている現状がある、というわけである。

 そんなこんなで現在の対ヂラール最前線は、結果的に太陽系の、この火星宙域であるという事なのだ。

 更にティ連のサイヴァル連合議長の思惑としては、日本を筆頭に、この地球圏を一気に宇宙規模国家化するのに今回のゼスタール奪還作戦は丁度いい機会だということで、地球流に言えば『投資する』といった感覚で、ティ連の一般的な軌道開発を行っている、という意味もあるのだそうな。


 さてそんなところで現状、イッパシのティ連各国における本星宙域並に軌道都市化が進みつつある火星宙域。国際連邦本星である地球よりも空間都市化が遥かに進んでいる現状の火星。

 そこに大きくそびえる直径五〇キロメートルを誇る高速ワープ航法を司る施設、ディルフィルドゲート。

 その準備宙域に続々と航宙機動軍用艦艇が集結しつつあった。だが、規模としては三個任務艦隊ほどである。まあ艦隊としては並以上の規模ではあるが、あのゼスタール軌道上に巣食うヂラールを相手にするにはもちろん全然少ない規模の艦隊である。

 この艦隊は『対探知秘匿技術』を完全にした上で、惑星ゼスタールへ派遣するために時空を飛ぶ準備を進めているのであった。

 この艦隊の任務は、大見達偵察部隊との合流と、現在惑星ゼスタールへ降下しようとしている前兆のあるヂラール部隊への対応である。そして更にもう一つ大きな任務を負っていた。それは……


『戦略ゲート艦「フォルフォル」配置に付きました』

『了解、マーズアルケステーションより「フォルフォル」へ、ゲート通過フィールド装置を転送装着する。そのまま待機せよ』


 戦略ゲート艦『フォルフォル』。かつて『惑星サルカス・ヂラール戦争』において、ティ連最強の戦略兵器、『ディルフィルドゲート砲』を実戦で初使用した時に、その最終砲身ゲートとなってワームホールを突っ切り、惑星イルナットのヂラールコロニーを一撃で吹き飛ばした戦略ゲート艦『ゼルベルタ』。その同型艦がこの『フォルフォル』である。

 『フォルフォル』とはなんとも愛らしい韻をもつ名称だが、その意味はカイラス語で、口の大きさが四〇センチほどにも開くアナコンダほどの大きさの蛇のような肉食動物の名称であったりする。

 つまりこのゲート艦は、カイラス船籍の船だ。

 その戦略ゲート艦を中心に、切込み部隊を率いる戦士軍団の長のごとく異様を誇るは、地球史上、いや、ティ連史上としても初めての特殊な意匠の艦、


【人型特重機動護衛艦“やまと”】


 即ち、『人型中規模機動攻撃戦艦ヤマト型』の姿であった!

 まあデカイ。そりゃ艦船としては全高三一六メートルに、全長二一〇メートルなんてのは、ティ連艦艇基準では中型重巡洋艦ぐらいの大きさだが、これを『人型機動兵器』として見れば、こんなバカでかいもんはないわけで、武装も両のフレキシブルアーム部に、大きさだけで言えばかつての『戦艦大和』の四六センチ三連装主砲にも負けないぐらいの大きさの、しかもこれまた人型機動兵器基準として見れば、異常にデカイ主砲を積んでいる。

 この『やまと』が、ティ連各国のサーミッサ級人型機動攻撃艦を何隻も従えて『フォルフォル』の護衛を努めようという次第であった。


『おう、パウル艦長、どうだい新しい乗り物はよ』


 やまと背面艤装部指揮ブリッジの艦長席モニターに映るは、ゼルエである。

 でもって、この『やまと』の艦長は、なんとあのパウル・ラズ・シャーであった!


『ゼルエ~、さすがにこの船にはニホンジンさんの艦長さんを据えたほうが良かったんじゃないの? このヤマトって名前、かなり深い意味を持つ艦名みたいだし~』

 

 流石はパウル艦長。現在の総司令ゼルエ大将へ名前で呼び合う仲である。


『そうは言うがよ、コウサカはフソウで手一杯だし、トウドウは今やトッキのトップだろ、他の優秀なニホン人艦長もみんな手一杯で、サクラの艦長やってるマツダも動かすわけにはいかねーだろ。パウルよう、今やお前さんは人型艦艇のスペシャリストってことになってんだぜ? おまけに人工亜惑星の要塞長までやってんだし』

『ん~、まあ私もこの船を扱ってみたいとは思ってたけど……だからダストールの二番艦を横からゲホゲホゲホ……』

『ムハハ、まあそういうことでその船の将来の「艦長候補」になる副長の男前ニホン人デルンにお前さんの技量、とくと仕込んでやってくれや。いろんな意味でな~。ニッヒッヒッヒ』

『そ、それよゼルエ! ななななんでジュンヤ……じゃなかった、カーシェル・タカオが副長なのよっ!』

『え? そりゃオマエ、俺のサービス精神……』

『なによそれっ!』


 すると横に立つ副長とされる男前の日本人デルン、その名も『高雄隼也』1等特佐がパウルに、


「なんですか? 艦長、私が副長だと困ることでもあるのですか? はは」

『そういう問題じゃないの! って、それ以前になんであなたがトッキになんて……』

「そりゃ藤堂さんからスカウト受けて、という香坂先輩と同じ経緯なのだが、あ、いやですが……」


 はてさて、この高雄1佐なる人物、一体何者なのであろうか? それはま、おいおい……


    *    *


 大型宇宙ステーション、マーズ・アルケ司令本部に起ち上がる超大型VMCモニターを眺める柏木長官閣下。腕を組んで国際連邦軍各国の上級将校と立ち話をしていた。


「カシワギ長官、あれが先日説明のあった宇宙施設ですか」


 ロシア宇宙軍の少将が柏木に話しかける。


「はい。宇宙施設というよりは、アレ自体が一つの目的を持った航宙艦艇なのですけどね」


 すると次に話しかけるは、米軍USSTCの大将閣下。


「確か、あのタイプは先の別宇宙の何某で活躍した、決戦兵器の砲艦か何かとか?」

「まあそうですが、それもあくまで機能の一つであって、主たる能力は、最前線に怒涛の勢いで兵力を送り込む事を目的とした艦です」


 で、今度は中国人民解放軍航天隊の中将が、


「私も外星人同志から作戦の概要を聞かされたときは、本当にそんな事できるのかと訝しがりましたが」


 フランス宇宙軍少将もその話に頷き、


「まさか我々の海上戦力が宇宙船モドキになるなんて話、いくらティ連の科学が物凄いとはいえ、最初からかわれているのかと思いました」


 英国宇宙軍の中将も、


「海上艦艇が即席改造されて宇宙に行くなんて、カシワギ閣下のお国のあの手のアニメじゃあるまいしとか思いましたがね、ははは」


 そんな感想を口々に話す各国のお偉方。まあカシワギ自身もさもありなんと実際思っているわけであるからして。


「で、具体的にはどういう形であの『ファルファル』というワープゲート艦を使用するのですか?長官」

「はい、まず対探知偽装をかけたあの人型艦艇と、大将閣下『フォルフォル』ですな、名称は……そうです。そのゲート艦を惑星ゼスタールの、ヂラールに侵食されていない諸島があるそうなので、その近海に、半分ぐらい海中に沈め、半分をトンネルのように海上に出す形で配置致します……」


 そしてディルフィルドアウトしてきた船を即時海上へ展開できるように、フォルフォルを配置するのだという。

 ティ連の歴史でも、デイルフィルドゲートをこんな使い方したことないので、ティ連側もシミュレーションにシミュレーションを重ねて、この海上船舶輸送法をティ連史上初めてとなる形で編み出したという話だそうな。

 なので、ティ連軍側も史上初のゲート運用法になるので、張り切っているという話。

 そしてこの作戦の意義を柏木は国際連邦軍の諸氏に話す。


「今回、こういった作戦を発案したのはゼスタール軍の情報はもちろんの事、これまでのヂラール戦におけるデータを詳細に分析して判明した結果を踏まえての事です」


 すると、英国宇宙軍中将が、


「それは報告書にもあった、『ヂラールが海中展開できないかもしれない』というアレですかな?」

「はい。海中展開できないというよりも、ヂラールの生体として、水棲の存在がいないという重大な事実を鑑みての事です」

「それなのだが長官、その情報を本当に信じて良いものなのかね?」

「私も最初は訝しく思いましたが、どうやら事実のようでしてね。実際、今のヂラールが支配するゼスタール星における海中でも、連中は全く活動を行っていないようなのです」


 この話に国連軍エライさん皆して「ふ~む」といった表情になり、腕を組む……確かにそりゃそうである。天に地に宇宙空間に、更にはガイデルが経験した亜空間にまでその活動領域を持つヂラールが、海中のみ忌諱するとは、普通に考えて信じがたい。なので柏木が言葉を付け加えて、


「ただ地上で活動する個体や空中で活動する個体が、長時間か短時間かはわかりませんが、それらが水中でも活動できるという事例も今のところ確認されてはいません。ですのでそういった個体がいないとも限りませんので、そこはいざ作戦が始まったとなってもアドバンテージが完全に我々にあるかどうかは保証できません」


 この話を聞いて、各国諸氏も「確かにそれはそうだ」と一様に頷く。

 だがまあなにはともあれ現状のデータでは海上海中はティ連やゼスタールの優勢勢力圏になることはわかった。

 実はこの事実を確認する際に最も役に立ったデータが、かのモフモフ種族ガルムア人のデータであった。彼らの所有する、地球人基準で言えば初期の潜水艦。即ち大戦中のUボートや伊号潜水艦、ガトー級のような船が、ヂラールの攻撃を一切受けたことがなく、その事実を経験則で突き止めていたガルムア人は、潜水艦戦力を攻撃はもとより輸送手段に活用していたという事実があったのだ。

 これが一番大きいデータとなり、今回の作戦が提案された。


 とまあこの海上戦力輸送作戦は、惑星ゼスタールの惑星上へ直接戦力をブチ込むのには有効な作戦であり、軌道上からの攻撃はもとより、惑星上からも攻撃に迎撃両面から有効な手段を大規模に展開できるよう考え出された二面作戦であった。

 従ってこの作戦では所謂『戦略原子力潜水艦』の攻撃力が重要な意味を持ってくる。

 それは言わずもがなで、海中から宇宙空間に核ミサイルを打ち込める能力が重要視された。

 これは宇宙空間からの攻撃との二面作戦を考えた場合、ヂラールにとっては非常に厄介な存在となるだろう。それはつまり、軌道上の超大型ヂラール種の惑星降下を阻止できるからである。


(……だけど問題は、もしそうならヂラールを鹵獲して、自軍の戦力として使おうとしていたあの『惑星イルナット』の文明だ。当然彼らもこの点は把握していたはずだろう。だがどうにも有効活用した形跡がない。それをどう見るか……)


 柏木が引っかかっている点がここである。

 あのサルカス戦時に見つけた滅亡文明の惑星イルナット。あそこの兵器の形態は調査するに、現在の地球の兵器の延長線上にあるような形態のもので、近似であったという。当然海軍戦力も所有していた。そんな文明がこのヂラールの特性を知らない訳がないとは思うのだが……と柏木は考えるが、そのあたりの証拠もないので杞憂に終わればいいがと彼は思った……


    *    *


『ゲート艦フォルフォル及び人型機動攻撃戦艦ヤマト旗下、第1人型機動艦艇打撃艦隊、第15機動艦隊第23工作艦隊、第37強襲揚陸艦隊、火星ゲート前位置に着きました』


 マーズ・アルケ、オペレーションルームに通信兵の声が木霊する。

 と同時に間髪入れずにゼルエ大将の命令。


『よし、対ヂラール戦略ゲート拠点設置任務部隊、出撃せよ!』


 オペレーションルームに関係各所が命令を復唱し木霊する。

 命令了承の通信が入ると、オペレーションルームの巨大なVMCモニターに映るは『戦略ゲート拠点任務部隊』の移動開始の映像。

 先鋒切って進むは、人型機動攻撃戦艦、いや、『人型特重機動護衛艦“やまと”』であった。

 その船に乗り込むティ連・ヤルバーンの有名どころは……


○任務部隊司令兼、やまと艦長『パウル・ラズ・シャー』

○『多川信次』司令。『シエ・カモル・タガワ』副司令指揮下通常機動兵器部隊。

○『メルフェリア・ヤーマ・カセリア』団長指揮下、ハイラ近衛騎士団。

○『リアッサ・ジンム・メッサ』隊長指揮下、空挺機動兵器部隊。

○『樫本昭典』隊長指揮下、特危自衛隊陸上科部隊。

 そして、軍事顧問という体裁で乗り込むは、我らがナヨ・ヘイル・カセリア ヤルバーン自治国家議会進行長閣下。

 これはナヨさんの毎度の能力で、此度もお世話になろうという次第である。

 で、一応ともに行動する部隊は、メル達の近衛師団という感じ。

 

 と、こんなところ。即ちヤルバーン・特危自衛隊のメインどころを早々に送り込むと行った次第。

 一際目立つ巨人の如き『やまと型人型戦艦』は、従者のように付き従うサーミッサ級と共に、一足先に火星ゲートへ飛び込んで惑星ゼスタールの宇宙へと向かう。

 次にゲート艦『フォルフォル』が突き刺さるように時空間境界面へと進入し、その後続々と他の艦艇が進入していく……


 さて、この艦隊の投入が前哨戦となるか、それとも本格的な戦闘の発端となるか……

 どちらにしろ、ゼスタール星宙域顕現後まずは、即座にゼスタール星に侵入しなくてはならないわけだが……


    *    *


「マルセア・システムさん……失礼。貴方はなにはどうあれ今はこの星の代表だ。やはりマルセア議長閣下とお呼びしたほうがいいですね」

 

 とそういう大見も正直この仮想実体であるこの国の国家元首にどう対応すればよいか、なかなかに慣れない状況が続く。なにせナヨなどとは違い、自律した人工知能ではあるが、人格、即ち自我がない。つまり基本はただの情報処理システムなのだが、疑似人格をもって人と対応できるものだからなんとも複雑な感覚にならざるを得ない。


『恐れ入ります、オオミ司令閣下。その点はよしなに』

「は。ではあなたが通常のトーラルシステムであるという前提で、色々と質問をさせていただきたく思います」

『どうぞ、私のデータベースに蓄積されている範囲の情報であれば、今後の双方の連携のためにも、すべて開示させていただきます』

「わかりました……では……といっても何から質問すればよいやらですが……」


 すると月丘が軽く手を上げて、


「大見さん、私からよろしいですか?」

「ん? お、おう、頼むよ」

「はい、では……マルセア議長、単刀直入にお尋ねしますが、今貴方がこの遺体のペルロード人の方を我々へ引き合わせてくれたということは、あなたはこの人物とともにこの惑星ゼスタールへやってきた……つまり、この人物がトーラルシステムをこの星へもたらした、と考えてよろしいわけですね?」


 この月丘の質問に、大見も大きく頷き、確かにまずはそこからだとプリルにシビア、ネメアも同意する。

 で、その問いにマルセアは頷いて、


『はい、その通りでございます。私は、このペルロード人……名は“ミニャール・メリテ・ミーヴィ”という者の所有するトーラルシステムでありました』


 諸氏、なるほどと頷く。ここは多分そうだろうと皆が思う。そうでなければそれこそオカルトの類の話になりかねないからだ。

 すると今度はプリルが質問。


『ではでは議長、貴方はこっちのシビアちゃんやネメアちゃん達がこんな風になったトーラルシステムである「レ・ゼスタ」とはまったく関連性がないと?』

「はい。先程も申しましたように、そのレ・ゼスタなるシステムは、私がここに存在する以前の話なので、全くわかりません」

『なるほどー……ということは、レ・ゼスタもトーラルだから、結果的にこの星へトーラルをもたらした存在は二種類いたということになるわけねー、で、ねぇねぇシビアちゃん、レ・ゼスタがこの星で発掘された時の年代ってどれぐらい前のものって言われていたの?』

『回答、約八五〇〇〇年前と聞いている』

『うひゃー、えらい昔ね……なら此度の一件とレ・ゼスタは無関係なのかなぁ?』


 するとネメアが、


『普通に考えれば無関係であるといえる。そして無関係であること自体はそんなに重要ではない。なぜなら、現在ニホン国にもトーラルシステムが存在し、ハイラ王国やグロウム帝国でも稼働している。それと同様の状況だと考えれば、特に深く考える必要もないだろう』


 このネメアの言葉に、まずはレ・ゼスタと、マルセアシステム、そしてペルロード人との関連性は考えなくても良くなった。つまり考えなければならないストレスが一つ減るということだ。オカルト要素を一つまた除外できた。まあ確かにこのミニャールなる人物が八〇〇年前以降に持ってきたということであれば、そう考えるのが普通だ……次に大見が質問。


「では……そう考えると、先程あなたは、あなた自身がこの星の国家元首を、ここのゼスタール人の誰にも悟られずにやっているということだが……それにも大きな疑問が生じる……まず1つ目は、そのミニャールなる人物がこの星にやってきた際、この星のゼスタール人とは何ら接触はなかったのか? という事です」


 その問いにマルセアは即座に回答を出してくる。躊躇がない。やはりこの存在は知性はあれど、システムである。


『お答えします。私の所有者、ミニャール・メリテ・ミーヴィは、数百年前、この惑星の数少ない生存者の集落近郊に不時着し、その集落の人々に保護されました……』


 マルセアの話によると、正確な年数は、約五八七年前、ペルロード人ミニャールの乗った宇宙船が、満身創痍の状態で、全滅寸前のゼスタール人生き残り集落の一つに不時着したのだという。

 その時、運良くミニャールは彼らに救出され、ミニャールを追ってきたと思われるヂラールをゼスタール人達がなんとか撃退し、彼女を保護したのだという。

 

「……なるほど、ですがその状況を貴方はよくご存知ですね」

『私は元々、ミニャール・メリテ・ミーヴィの乗っていた宇宙船に搭載されていたシステムです。当時の状況はあまねく記録しております』

「なるほど、そういうことですか……ではあなたや、そのミニャール氏が最初に接触したその集落の方々が中心となって、このゼスタールダンクコロニーを?」

『そのとおりです。その集落は元々この場所の、丁度直上にあたる地上に存在しました……』


 マルセアが語るには、その接触した集落の一族は、当時の廃れきった状態のゼスタール人が、このマルセアとトーラルを見れば、必ず権力闘争が起こると考え、完全に、このトーラルとミニャールを秘匿してしまったのだという。

 そこで集落一族が考えたのが、VMC技術を用いた仮想人格体、即ち、ゼスタール人の姿をしたニューロンエミュレーションドロイドと同様の存在を、生き残ったゼスタール人をまとめるシステム、かつシンボルとして創り出し、この存在にネイティブ・ゼスタール人組織の統括運営をすべて任せてきたのだ……ということであった。

 そりゃイゼイラ人を一発で超未来人にしてしまうようなトーラルシステムである、その手腕はすごいもので、短期間で生き残りの人々を組織としてまとめ上げ、ハイクァーンやゼルシステムを駆使して、初期のゼスタール人生き残り自治体である『ゼスタールダンク』を作り上げたのだという話。


 その話を聞いて、驚く諸氏だが、月丘が質問。


「……なるほど……時の状況を考えれば、確かにイゼイラ人の過去と似たような状況からの復興を考えれば、十分納得できる話だな……ふむ……ではマルセア議長、あなたは今マルセアという人物ですが、あなたはそれまでに何人もの違う疑似人格を使って、ネイティブ・ゼスタール人をまとめてきた……という事ですよね?」

『その通りでございます』


 そりゃそうだ。いくらなんでもそうしなければ、不死身の独裁者が統治することになってしまう。ということは、そのミニャールを助けた一族が、なんだかんだでうまくこのVMC素体がトップにつくように政治工作してきたのだろう。ま、そこは民主主義とは言い難いところもあるようだが、仕方のない話かとも思う。


「なるほど、それはそうですよね、はは……では先程、貴方は、現在の貴方の正体を知るゼスタール人は存在しないと仰っしゃりましたが、そのあたりは……」


 マルセアが語るには、彼女をもたらしたミニャールというペルロード人は、そのゼスタール集落の一族にトーラルシステムの全てを教えると……早くして亡くなってしまったのだという。

 先の通り、そのミニャールは、何かから逃げてきたようであり、満身創痍でゼスタール人に助けられた。

 確かに満身創痍ではあったが、ハイクァーン治療もあるわけで、体を治療することも普通に可能であったはずなのだが……

 ある時から急に体調の異変を発現しだすようになり、ある日突然彼らの前から姿を消したという話。

 そしてさらに数日後、なんと! ミニャールは、自ら命を絶った状態で発見されたのだという……


「え? そ、そんな……」と月丘が言うと、プリルも『は?』と驚いた顔をする。

 シビアにネメア、大見も同じような感じ。

 するとマルセアは、


『マスター・ミニャールは、結局自害した理由を誰に話すこともなかったようです。オオミ司令』

「あなたのシステムの中にも、その理由を記した記録などは?」

『ございません』


 ふむと腕を組む大見。謎が一つ増えたが、それよりも、


「で、先程の質問ですが、なぜに今貴方がそういった存在である事を知るゼスタール人がいない理由なのですが……」

『はい。マスター・ミニャールがそういった経緯で亡くなった後、私達の存在を知るゼスタール人一族は、私の存在が、必ず時のゼスタール人生き残り同士の権力闘争の種になると予想し、私が持つ能力をフル活用して秘匿し続けました。その結果の状況と存在が現在の私でございます』


 そう、ミニャール達を助けたゼスタールの一族は、結局、その一族郎党生涯その秘密を他言することなく、その血脈を断った。

 トーラルシステムは、イゼイラの例を見ても分かる通り、完全な独立可動、完全な独立メンテが可能な、完全無欠のメカニカルシステムである。時の疲弊したゼスタール人生き残りを欺いて存在することなど容易いことだろう。

 結果、マルセア・システムは、自らの使命となった生き残りゼスタール人を守ることに全力を傾ける稼働状態となり、現在に至るという訳である。その際に、ゼスタールの歴史も学び、スール・ゼスタール人の存在も知った。そこでたまたま邂逅したメラニーとの出会いが、今の状況に繋がっているという次第であった……ということらしい。

 なるほどという顔の大見達諸氏。完全に納得した……というわけではないが、まあ九割方は、現在の地球と、ティ連にとっては充分な理由である。ぶっちゃけペルロード人の存在がなぜここに? という理由や謎は、惑星ゼスタールを奪還開放した後でも構わない謎解きであるからだ。


 とはいえ……


 そこを「はいそうですか」とそのままにできないのが『総諜対』の月丘和輝先生である。いかんせん彼らは諜報機関員であるからして、可能な限りの情報やそれを分析するタネは仕入れておきたいわけで、親分の白木も、恐らくここは『もうちょっと突っ込んどけ』と言うだろう。


「あの、マルセア議長」

『? 何でしょう?』

「最後にもう一つ質問です。時間もそうありませんからこれで終わりにしますので」

『畏まりました。どうぞ。今後の共同活動のためにも、提供できる情報は、可能な限りお話します』

「ありがとうございます。で、先程のミニャールという人物の自害理由ですが、本当に全く何もわかりませんか?」

『はい。それはその通りです』

「ふむ……あなたのシステム内に、何かデータを隠したとか、そのようなものは?」

『はい。そのようなデータは複数ありますが、全てにおいて、私自身も解析不可能なプロテクトが施されています』

「何ですって? ……で、貴方はそれを解析しようと試みたことは?」

『それを行う意味がありません。そもそも私にも解析不可能なデータですので、気に留める必要性がありません』


 そう、即ち現代人的な言い方をすれば、『不良セクター』のようなものか、ウィルスのようなものの検疫隔離データか、それともエッチなデータか、まあそんな可能性もあるわけで、彼女自身がどうにもできないものを人格のない存在が気にする意味もないわけで、またそれ自身が彼女のシステムを害しているわけでもないので、彼女としては『どうでもいいもの』という事なのであろう。


「もしよろしければ、その複数データを、機会があれば解析させていただけませんか?」

『畏まりました。事が落ち着いた後で、解析なさっていただければよろしいかと』

「ありがとうございます」


 と月丘は礼を言うが、大見やプリルが、


「おいおい月丘君、トーラルシステム自身が解除できないようなプロテクトだぞ。どうやって解析するんだ?」

『デスデス、カズキサン。一筋縄ではいきませんよ?』

「いや、まあ月並みな理屈ですが、そのミニャールなるペルロード人が自害した理由が、その中にないかと思いましてね?」

「ああ、まあそりゃ普通そう考えるよな。でもそんな悩みならマルセア議長に言う……というか、普通に記録に残してるだろ、それを開示するしないは彼女の判断基準で扱えるように命じておけばいいだけだろうし」

「そうなんですけどね? ま、でも扱ってもいいって言ってくれてるんですから、やってみる価値はあるでしょ?」

『マアそこは同意しますけどぉ……で、どうやるんです?』

「んー……シビアさん、ネメアさん、メラニーさん?」


 お声がかかった三人は、「ふむ」という表情で月丘に反応。


『なにか』と三人同時に言うと、

「みなさんの持つ、ゼル端子を使って、マルセアシステムさんのプロテクト情報を解析する事ってできますか?」


 と月丘が尋ねる。横で大見やプリ子が「なるほど!」と思っているが、シビアが、


『極めて困難である』と言うと、ネメアとメラニーも『うむ、シビアに同意だ。その理由は……』


 やろうと思えばできなことはないが、二人のスール程度の解析能力だと、解析し終わるまで数百年はかかかると。そもそも自分達は人工システムで維持固定されている精神的存在であって、機械的なシステムではないのだから無茶言うなと。トーラルのプロテクト解析となると、流石に自分達よりも上位存在になるのでしんどいと。


「そうですか……となると、ここはニーラ大先生の出番かなぁ」


 と月丘が言うと、シビアにネメアにメラニーは三人共に顔見て頷き、シビアが代表して、


『ツキオカ生体。それならばもっと適切な方法が一つ考えられる』

「と、いいますと?」

『ナヨ・カルバレータに依頼すれば良い』


 その言葉に「おお!」と大いに納得して、大見にプリ子、月丘三人は、ポンと手を打った。


    *    *


『ファーダ、あいえ、マルセア議長閣下』

『なんでございましょう、プリルさん』

『えっと、このミニャールさんのご遺体の生体データを取得させていただいてもよろしいでしょうか? もし神聖なものならご無理にとはいいませんが』

 

 画像データを記録していたプリルがそんなことを尋ねると、


『いえ、構いません。私のマスターではありますが、基本はもう亡くなった遺骸です。ここに保管したのも、先の説明にあった過去のゼスタール人。特に私がお断りを判断する立場にはありません』

『ありがとうございますっ! ではでは……』


 プリルはPVMCGでいろんな調査機材を造成して、ペルロード人、ミニャールの遺体の生体データを取った。


「プリちゃん、ニューロンデータの取得はできる?」

『それは無理ですよ、カズキサン。ニューロンデータを取得するのなら、専門の医療機材を持ってこないと。私の今持ってるPVMCGじゃ、遺伝子構造の取得が限界ですね』

「あはは、い、いや、それはそれでスゴイと思うんだけど」


 すると大見が、


「その手の作業は落ち着いてからだな」


 ですね、と頷く月丘にプリ子。大見はとりあえず現状の、このネイティブゼスタール人の不思議な環境の謎に、全てとは言わないが、理屈の付いた検証ができたということで、この場の会話をデータにして本部へ流すように月丘へ指示をする。


「さて、マルセア議長閣下。今後の我々の連携についてのお話を元の場所で……」


 と、その祭壇のような場所から皆して移動しようとすると、ネメアの表情が怪訝になり、大見に報告をする。


『大見生体、今、ヒリュウのシャルリ生体から連絡があった』

「シャルリさんから? 直接自分に通信してくれればいいのに」

「大見さん、多分私達が会談中だとまずいからじゃないですか? フォルド艦長を介してスールさんの共有機能なら静かに通信できます」

『ツキオカ生体の言う通りである……通信内容は、可能であれば、会議を中断してヒリュウへ戻ってきてほしいということだ』


 と、ネメアがそう言うと同時に、彼らがいる議長府区画全体に、不協和音のような音が鳴り響く。


「こ、これは!」と驚く大見に月丘、プリルだがネメアは、

『恐らくこの警報に準じる通信だろう……今、軌道上からヂラールの大規模な降下艦隊が大気圏に侵入するコースに入った、と連絡があった』


 するとマルセアもネメアの言に頷いて、


『そのようです。私はすぐに議長府防衛会議に行かなければなりません』

「我々も現有の戦力で応戦のお手伝いをしましょう」

『ありがとうございます、大見司令』


 するとまたネメアが二人の会話に入って、


『オオミ生体。今、シャルリ生体が……』

「ああ、わかった。ちょっとまってくれ」


 大見は自分のPVMCGの通信機能を立ち上げて、シャルリを呼び出す。


「シャルリさん、何でしょうか?」

『ああ、オオミ司令。会議はもういいのかい?』

「こちらでも今警報が鳴り響いていますよ」

『ナルホドね。んじゃ話が早いや。で、もう始まっちまったからアレなんだけどさ、カセイ本部が援軍の艦隊を派遣してくれたってよ。そんなに時間をおかず、コッチの宙域に来るってよ』

「本当ですか!? 柏木……手回しが早いな」

『いや、はっきり言やぁ偶然だわさ。例の計画第二段階を前倒しして準備しようって決まったらしくてさ。その連中がコッチ来るタイミングでヂラールが降りてきたって事みたいさね』 

「ああ、そういうことですか」


 するとマルセアが、


『援軍が来てくれるのですか? オオミ司令閣下』

「はい、早々にですが、今すぐというわけでは……シャルリさん、どれぐらいコッチは持たせればいいんだ?」

『チキュウ時間で、二四時間ってトコロだね』


 するとメラニーは、即座にその時間をゼスタール時間に計算しなおして、


『議長、三一ルペシ持たせられますか?』

「三一であれば問題ないでしょう。少々大規模のようですが、過去に前例がないわけではありません」


 マルセアは大見に視線を合わせてそう言うと、


「わかりました。では会談はこの防衛戦が終わってからですね。我々もすぐに戻り、準備します」

『畏まりました。それではよしなに』


 それからすぐに議長府官邸から出た大見達は、自分達がこの地下都市空間に乗り付けた部隊をとりあえずこの場に残し、大見の副官を指揮官に指名して、そのままゼスタールダンクコロニーの防衛任務に当たらせた。ここはそうするしかない。

 いかんせんこの地下都市空間は、あのトンネルエレベーターのような場所しか陸上車両等の大規模な出入りができない構造になっている。従って大見、月丘、プリル、シビア、ネメアのみで外に出るには、隠匿された地上行きの斥力エレベーターを使って地上に出るしかない。そこから少し離れた場所で、ヒリュウに転送で拾ってもらうのが一番効率的である。

 ちなみになぜ『少し離れた場所』」なのかというと、転送波動を察知されて、ヂラールに秘匿エレベータの場所を察知されたらまずいからである。


 ゼスタールダンクの軍人に案内されて秘匿エレベーターで地上に出る大見達。

 即座にエレベーターから離れて、五分ほど駆け足で走り、先程の軍人から聞いた広場のような場所に出ると、ヒリュウへ通信を入れて、転送装置で回収してもらった……


    *    *


「フォルド艦長、状況はどうですか」


 ブリッジに入るなりフォルド艦長に問いかける大見。制服のネクタイを緩めつつ、上着を脱いで自分の席の椅子にかけつつとりあえず楽な姿になる。


『無事にネイティブ・ゼスタールとの結果を出せて重畳である、オオミ司令』


 体を正面に、視線を大見に向けて話すフォルド。


「いえ、まあ……もう知っているとは思いますが、色々イベントがありすぎましてね。で、どうですか?」

『うむ。先程軌道上に確認されていた、例の揚陸艦型のヂラール母艦が約三〇隻、惑星上へ降下したことを確認した。この数だと相応の戦闘状態になることは必至である』

「のようですね……三〇隻か。結構な数だな。威力偵察……っていう考え方があいつらにあるのかどうかはしらないが、多分そんな感じの部隊か?」

『その“部隊”という単位の概念があるかも不明と思われるが……用途としては結果的にそう考えて差し支えないだろう。もしかすると先のグロウム帝国での戦闘において、我々が威力偵察を試みた事を、なんらかのヂラール的集団感応で連携し、学習した可能性もある』

「そうなんですかね? そんな能力があるなら、相当イヤな奴らですよ、コイツラは」

『そこは同意する』


 だが、とにもかくにもあと一時間も経たずにゼスタールダンクコロニー地区が戦場になるのは間違いない。大見は艦内放送で、とにかく出撃できる機動兵器は全部出せと命令する。

 なんせこのヒリュウ旗下の偵察部隊に積まれている機動兵器は、それはもう国際連邦の特殊部隊仕様となっている兵器が主流をしめているわけでなので、種類は雑多を極める。


 国連軍が搭載している機動兵器は、MTマニューバータンクのコリン・パウエルとヴェリカーン。

 空中移動はできるが、もちろん空戦向きの兵器ではない。

 空戦向きといえば、米国製の高機動戦闘攻撃機『FAHM-50“サラマンダー”』と、ロシア製の『SuLa -01“メテオール”』を数機づつ搭載していた。特殊部隊支援仕様となっているものである。これも使うことができるだろう。

 日本・特危自衛隊やティ連軍にスール・ゼスタール軍が持ってきているのは、毎度の旭光Ⅱにヴァズラーと旭龍E型、主砲兼用のシルヴェル。ゼスタール月面工場のコピー製品なので、デザインが少々禍々しいが、一応シルヴェルの派生型ということにしている……そしてゼスタールのクロウ型対艦ドーラに、カーリ型対人ドーラ。そして人型ドーラ兵器である『ギムス・カルバレータ』であった。

 これら合わせて総計七〇機ほど積んできていた。

 通常なら数百機はこの手の機動兵器を積めるヒリュウだが、特殊部隊の搭載と、それ用の特殊装備の搭載もあり、また強襲揚陸仕様にしたことで、戦闘車両や戦闘ヘリにコマンドトルーパー型機動兵器も多数搭載したことで、大型の機動兵器の搭載はこの程度の数字になってしまっていたのである。

 そして……


「月丘君」


 大見は帰還早々格納庫に行った月丘を呼び出す。


『はい、何でしょう』

「総諜対はどうする?」

『戦闘のお手伝いをさせていただきます。プリちゃんがウチの大型機動兵器も、持ち込んでくれていますので』


 そう、ヤル研から買い取った『蒼星・初期型』である。アレを積んでいたのだ。

 これも相当年季の入った機動兵器だが、プリルが趣味と実益を兼ねて、コツコツと改良改造を施して、高性能な機体に仕上げ直していたものなのである。なので、今ではかつてのモスボール保管庫行きのロートルとは違って、総諜対独自の、見違える超高性能機に変貌していた。


「そうかわかった。で、パイロットは誰だ? 君か?」

『私も操縦できないことはないですが、今回のメインパイロットはプリちゃんです。腕は彼女のほうが全然上ですからね。私はコパイに回ります』

「了解だ。よろしく頼む」


 ということでこの時代でも異色のコンプライアンスに気を使う機動兵器『蒼星・総諜対(JCIA)カスタム』を準備して待機するプリルと月丘。元々はシンシエコンビの使ってたお古なので、複座仕様である。


「シビア君に、ネメア君はどうしてるんだ?」

『はい、彼女達は、各々あの“ギムス・カルバレータ”という機動兵器に“憑依”して、待機していますよ』


 いつでも出撃OKだということ。流石のスールさんだと思う大見。


 そして大見は諸々各部署の戦闘準備を確認し終えると、ヒリュウに対探知偽装をかけて、ゼスタールダンクコロニーの、例の入り口の山岳から数キロの地点で、敵の迎撃態勢に入る。


「とにかく、今回は増援部隊が到着するまで持ちこたえろ」


 大見の出した命令はこの言葉である。どっちにしろ現状の偵察仕様のヒリュウでは、早々大規模な戦闘は出来ないので、とにかく時間稼ぎに特化する戦闘をしなければならない。

 まあ、あのマルセア統括議長が言うには、『この手の部隊とは過去数え切れないぐらい戦闘をしてきているので、大丈夫だ』ということなのだが、いかんせんヂラールも色々と学習能力を発揮して何を仕掛けてくるかわらないパターンも見受けられるようになってきている。昨今は一概に『バカのヂラール』ともいっていられなくなっているのだ。現状を考えると、そこのところの注意を怠れば痛い目を見てしまうのは確実である……


    *    *


 ゼスタール星の空は、地球同様に本来は青い空に白い雲が浮かぶという地球人にも見慣れた風景である。

 だが今のゼスタール星は、ヂラールの生体が惑星全体にはびこり、本来の動植物の食物連鎖と植生に悪影響を与え、歪な生存競争を繰り広げている状態である。

 その中には大気の成分に悪影響を及ぼすものも多々ある。

 ここで活動する地球人にティ連人は、抗体薬を投与しているので防護服もなく活動できるのだが、それら無しでなら、生身でこの星の大気を摂取しようものなら本来はイチコロなのであって、これすなわち『無残な状態』なのが現在のゼスタール星である。

 したがって今のゼスタール星の空は、なんとも言いようのない紫色の大気であったり、濃緑色の大気であったり、更には血の色のような赤い大気であったり。

 まれに気流や気圧の関係で、かつての青い空が見える時もあるが、それも稀で、そんな不気味な大気の空に、灰色や赤茶色の雲が流れていく風景。


 そんな不気味な空から……あの忌まわしき生体兵器の艦隊は降下してきた……


 地下都市ゼスタールダンクと、その他小さな衛星地下都市群は、一斉に空襲警報の如き不協和音の警報を最大音量で流す。

 その音は勿論地表にある遺跡と化した公共広場のサイレンなどからも大きく流れる。

 その手のサイレンを鳴らす公共施設はコツコツと彼らが修繕し、稼働している状態なので地表で活動するゼスタールの民は、この音を聞き、即座に近くの地下都市エレベーターへ駆け込み退避していた。


 と、同時にコロニーの地下都市直上では、様々な自然物に偽装隠蔽された施設が展開し、対空迎撃兵器の類がそこから姿を表す。

 その殆どは対空ブラスター砲と、ゼスタール版対空ミサイル兵器である。まれに大型の、砲身とアンテナ状メカニックが一体になったような大型兵器が空へ睨みを効かせている。

 その各種兵装が示す照準の先、そこにはヂラールの降下部隊が母艦型を中核に、大中小の機動兵器を続々と放出して地表に降下しようとしてきた!


 対空兵器と降下ヂラールが程よい交戦距離に互いが達した刹那、地上の対空兵装が一斉に轟音轟かせて、不気味な色の空へ、曳航を投射していく。

 その様子は宇宙共通なのだろうか、さながら地球の地域紛争でもよくある報道映像の如き、漆黒の夜間に輝くビームの如き曳光弾の一閃、一閃、一閃。

 今夕暮れの惑星ゼスタールにて、SFXの如き兵器の放つ光が空へむけて無数に発射される。

 その直線が共演、交錯する中に、数多の不規則な曲線を描いて飛んでいく光球の如き物体。それは降下する獲物に食らいつく誘導兵器の光であった。


『敵降下部隊、対空迎撃を逃れた一群が、デンザ3796地点に続々と着地中!』

『ゼスタールダンクコロニー、及び衛星第二、第三コロニーから、機動兵器が迎撃を開始しました!』

『敵降下部隊の兵科判明……これは! あのサルカスで交戦した、四〇メートル級のリバイタ型に酷似した個体多数! そして大量の戦車型、兵隊型、俊足型が直協しています!』

『敵の移動目標判明! ゼスタールダンクコロニーへ通じる山岳トンネル方面!』


 対探知偽装をかけた宇宙空母ヒリュウのブリッジで飛び交う報告と復唱の反響。ゼスタールダンクコロニーから数十キロ離れた森林に身を隠すヒリュウ。

 彼らの秘匿特性は敵の大勢を致命的に突き崩す威力を秘めているため、今はネイティブゼスタール軍と、ヂラールの動きの流れを観察する大見司令とフォルド艦長であった。


 すると、ゼスタールダンク統括議長府に供与したVMC通信機のモニターが起動し、マルセアがそこに映る。


「マルセア・シス……あ、いや、マルセア議長閣下……始まりましたな」


 マルセアを見ると、これで人格のないトーラルシステムの人工知能だというのであるから本当に信じがたいと思う大見。フォルド艦長もマルセアの別嬪さん度合いに、無表情が売りのスールさんながら目が少し驚いていたり。


『はい。現在私も迎撃対応のシステムを稼働させて処理しております。将兵のみなさまは、良く対応していただいておりますが……』

「? ……どうかいたしましたか?」

『はい。この規模の降下部隊であれば、それは数百年前からも滅亡の危機と背合わせになりながらもこれまで耐え抜いてきましたし、今では装備兵力もなんとか防衛戦では連中を圧倒できるようにはなりましたが……』

「今回は少々頃合いが違うと?」

『はい。恐らく貴方がたの存在が影響していると思われます。その兵科編成が、超大型生体兵器。貴方がたの呼称で言えば……「リバイタ型」と呼ばれる種が主体の大軍団となっています。このような部隊との交戦は、我々も今回が初めてとなります』


 つまり、マルセア・システムが起動して、このゼスタール生存者達を統制しだしてから以降、初めてこのような超大型生体機動兵器タイプを中核とした降下部隊と対峙する、ということである。

 こういう部隊編成のヂラールは初めて見るという話であった。


「なるほど……やはり敵の親玉、つまりマスターヂラールも考えてるということでしょうな、フォルド艦長」

『同意である。恐らく何らかの手段を以て、グロウムでの戦闘時の戦力、戦術に戦略や、ガルムア人との共闘での我々の戦力情報などを共有していると考えたほうが良いのかもしれない……ただ、その共有できうる情報の精度が、我々スールのような正確な共有性能を持っているか? という点では調査の必要があるだろうが』

「ええ、そう考えて良いのかもしれません。ま、それはそれで厄介ですがね……」


 すると今度はシャルリがVMCモニターを起ち上げて、


『で、どうするんだい? オオミの旦那。このままじゃゼスタールダンク地域にバケモノが集中しちまうよ。リバイタ型が大挙して押し寄せたら、あのトンネルの入り口なんざ簡単に崩壊しちまうわさ。コッチのゼスさんが相応の戦力持って対抗できるっつっても、敵の攻撃は集中させない方が良いんじゃないかい?』

「ですな……よし、ヒリュウは高度一〇〇〇まで浮上し、対探知偽装を解除。その後各国機動兵器を展開させ、側面から敵ヂラール群体を攻撃。敵の攻撃を分散させる。よろしいですな、フォルド艦長、シャルリさん」

『おっしゃ、了解だわさ。私も機動兵器で戦場に出るのは久しぶりだかんね。腕がなるよっ!』

『指令了承。全艦に通達。航空機動兵器部隊は直ちに発艦、先行して敵の陽動攻撃を開始せよ。陸上部隊は先行した航空機動兵器部隊を援護しつつ合流し、敵戦車型、兵隊型等の地上群体中型以下のヂラールを殲滅せよ。繰り返す……』


    *    *


 月のゼスタール人が宇宙空母カグヤを参考に、ゼスタール風味な意匠でコピー建艦した、とりあえず公式では、航宙中型機動護衛母艦かぐや級二番艦となる、『航宙中型機動護衛母艦ひりゅう』即ち宇宙空母ヒリュウ。

 なんか『悪者で、ニセモノアンチヒーロー風味』のようなイメージの宇宙空母カグヤのようなデザインの機動空母である。その艦体は、ほぼ漆黒で、エンジン部のメカニックスリットには赤い閃光が眩く行き交う。

 そこにカラフルな甲板誘導灯がチカチカと光り輝き、トラクターフィールドカタパルトからは、次々と旭光Ⅱにヴァズラー、クロウ型対艦ドーラにマージェン・ツァーレこと旭龍E型が飛び立っていく。

 更には米国USSTCの『FAHM-50“サラマンダー”』と、ロシア宇宙軍の『SuLa -01“メテオール”』も特危のF-2HM隊と編成を同じくして発艦機体が飽和状態の甲板から、トラクターフィールドカタパルトを使用せずに、通常離陸で発艦していく。全長五〇〇メートルもある甲板なら、短距離離陸モードで発艦すれば余裕で飛び立てるので、今のヒリュウの発艦風景は、まるで速射砲の砲弾の如く、甲板から次々と機動兵器が空にあがっている状態であった。

 更には、艦底部の降下ハッチが大きく開き、マニューバータンクのコリン・パウエルやヴェリカーンが二足滑走モードでスラスター吹かしながら地上へ降下していく。

 あとに続くはコマンドローダーや、国連軍各国が独自開発したロボットスーツを装着した機動歩兵部隊が、特危の空挺輸送型トランスポーターに搭載されてその後を追い、更にはそのトランスポーターを護衛随伴する特危の14式浮動砲と、大量の無人仮想生命体兵器である通常型対人ドーラ、そしてカーリ型ドーラが大量に護衛へ就く。


 ヒリュウ甲板にはシルヴェル・ベルクが艦砲モードで鎮座し、ヒリュウ自身も戦闘モードへの移行が完了した。

 そして最後に真打ちとしてヴァズラー隊の一機として飛び立とうとするは、ヒリュウにたった一機しか搭載されていない異色の機体。

 その機体は、巷では更にネタ化……ゲフンゲフン……凶悪化したと噂される、プリ公がヒマにまかせて好き勝手改造しまくった、元々は旧式となっているティ連防衛総省正式採用機『ソウセイ』の原型機、退役した試作型『蒼星』を総諜対が買取り、総諜対の予算で改造しまくった事実上の復活新鋭機、『蒼星・総諜対プリルカスタム』であった! ……あおりパースで、バーンとキメたいところ。


 ……改造には、シビアにネメアも手伝って、ティ連技術にゼスタール技術、更にはヤル研のヲタ技……新鋭日本の最新宇宙技術が投入され……? もう各勢力の技術やデザインがチャンポン状態になった蒼星。

 以前からこれに乗ると、某『ナントカとは違うのだよ!(ry』と叫ばなければならないような尖った悪役機動兵器イメージから更に刺々しくイガイガっぽさが増大し、携行武装に固定武装が更に増え、凶悪度当社比三倍増しとなった蒼星プリ子カスタム。

 両の腰部には、日本刀の如き粒子刃を生成する実体剣を装備し、左腕指部には重粒子ビーム砲を備え、右腕部は有線遠隔誘導が可能な粒子ビーム砲ユニットを打ち出して、非常に素早い内視鏡の如き動きで敵の虚を突く遠隔攻撃を可能にし、更に左腕部シールドには三連装斥力砲を内蔵させて、遠距離攻撃をも可能せしめ、背部には粒子グレネードと斥力弾を発射できるアサルトライフル型兵器まで携行し、背部斥力・空間振動波フライトユニットで、自由な飛行を可能にし…………まぁ要するになんやかんやいじりまくって、闇の力をお借りしたような、ものすごい改造新鋭機に生まれ変わらせたのが、この機体であったりする……


『フッフッフッフー、ではではいきますよっカズキサン!』

「はいはいどうぞ。コパイ業務は任せてください。今回はプリちゃんが主役です」

『にひひ~』

「とはいえ、総諜対の予算で作った機体ですから、これしかないんですからね。壊さないでくださいよ」

『おまかせですっ!』


 トラクターフィールドカタパルトの発艦を待つプリルの機体。その前に、今、シビアとネメアが、コア状態で憑依した某エイリアンをメカメカしくしたような機動兵器であるゼスタール製人型機動兵器『ギムス・カルバレータ』の一号機と二号機が発艦していった。


「よし、次ですよプリちゃん、宜しくお願いしますよ」

『おっけーです! ではでは位置に付きますよっ』


 空中に引かれる発艦方向のレーザー線。VMC造成された信号が、赤から青へ。


『蒼星プリルカスタム、発艦ですっ!』


 ドンと打ち出される一見すると悪役イメージの機体は、先行したシビアとネメアに合流し、プリルがセンターの三機編隊で、総諜対部隊として特危機動兵器部隊と作戦行動を共にする事になっていた。


 さて、作戦はゼスタールダンクコロニーの重要な入り口となる秘匿山岳トンネル。

 どうやらこの場所をコロニーの入り口と嗅ぎつけたヂラールどもは、集中してここへ攻撃をかけようとしているようだ。

 しかも、恐らくはこの規模でも威力偵察だろうと思われるので、いかんともしがたい。

 まずは、側面からヒリュウ部隊が攻撃をかけ、陽動と、戦力の分散を仕掛ける。

 特に敵の大型生体兵器『リバイタ型』の戦力集中はさけたいので、これの回避だ。

 それさえうまくいけば、あとは火星から出撃した援軍の到着まで持たせればなんとかなる。


 ……恐らく、事実上の、ゼスタール奪還作戦の前哨戦になるであろうこの戦闘。



 まずは素早く決着をつけたいところではあるが……




 

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[良い点] 人型特重機動護衛艦“やまと”キタ――(゜∀゜)――!! [一言] >〝やまと”が征く。顔は艦こ○の方かヤマトの雪なのか。 >ペルロード人“ミニャール・メリテ・ミーヴィ”満身創痍で自殺。 …
[一言] プリ子は機動兵器ガンドム系列やスーパーライダーシリーズ、宇宙公僕シリーズに影響を受けたとみた。ヤル研は…多方面に渡ってエキスパート達なので色々な珍品を造り出すので、ねぇ?。 ヤル研はそのうち…
[一言] 旧式機をカスタムしまくって最新鋭機劣らない機体にするロマン。 流石プリちゃんや!ワイらにできないことをやってのける!!
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