【第九章・奪還】第五四話 『そこに在る必然』
大見健が統括する惑星ゼスタール先行偵察部隊が新たな驚くべき事実を目にしていた丁度その頃……
ティエルクマスカ星間共和連合防衛総省アマノガワ銀河太陽系方面軍特危自衛隊火星司令部、つまりティ連防衛総省軍火星基地では、大見達偵察部隊がもたらす情報を逐次分析。新たな動きを見せていた。
火星基地マーズ・アルケの会議室には、現在のゼスタール解放部隊の指揮官である錚々たる顔ぶれが集まっていた。
ヤルバーン自治国軍からは、ゼルエ大将。
ゼスタール月面基地の、ゲルナー・バント司令。
特危自衛隊双葉基地司令にして、日本国特危幕僚長でもある藤堂定道。
ティ連防衛総省から派遣されているゼルドア提督(中将)。
グロウム帝国からは、駐在武官の立場からサージャル大公の命で急遽現場復帰し、此度のグロウム帝国機動艦隊司令に就任した、ネリナ・マレード少将。
で、ティ連軍のボスである柏木長官御大と、日本国からはフェルさん大臣閣下といったところ。
この会合での方針で、後ほど『国際連邦軍』の方々と、色々協議するといった次第。そんな段取り。
『これはやはり我々の事前調査による情報とは相当な乖離状況にある。我々が考えていた疑問は今回の最新情報にあると見た方が良いのかもしれない』
淡々とした口調ではあるが、その声のトーンに深刻さが窺えるゲルナー・バント司令の言葉。その言に質問するは、ヤルバーン軍のゼルエ大将。今作戦の総司令官である。
『だけどよゲルナー司令、お宅のあのメラニーって偵察合議体かい? その偵察兵さんが現在までの経緯をしっかりリアルタイムでお宅らと情報共有してたら、何の問題もなかった話じゃねーのかい? そこんところ考えたら、そのメラニー偵察合議体の職務怠慢か、それとも背任行為か、そういう事にもなるぜ?』
『ゼルエ生体に回答。その点は誤解のないように説明するが、メラニー偵察合議体の報告によると、かの所謂トーラル演算システム……我々の理解で言う、完全な「レ・ゼスタシステム」の存在を確認、認知したのは、つい最近の話だといういうことである。そこで所々現状のメラニー合議体の立場、即ち潜入工作兵としての立場と、我々の理解を超えた政治的な判断との間で、ゼスタール生体社会内での身の振り方等、他色々と考えるところがあったようだ。ただ、諸々情報の共有が結果的に遅れてしまったことはメラニー合議体からも謝罪の意志が共有されている。現在はメラニー合議体が収集した今回の件での現状までの情報は、すべて共有できている。結果論では在るが、問題はない』
『そうですかい。ならいいんだけどな……ただ、大きな謎が一つ解けて、また一つ生まれたって感じの状況にはなっちまったけどな』
するとゼルドア提督が割って入り、
『あれだけのヂラール軍勢と対峙して、よくぞ八〇〇年間果てずに、むしろ発展して生き残ってこれたな……といったところですな、イル・ジェルダー』
『そういうこったな提督。それもこれも、そのゼスタールに在るトーラルシステムに依存するところ大といってもいいってことだろう、恐らくな。生き残るためにトーラルシステムが相当なパワーでフル稼働してたってことは容易に想像できるぜ』
すると柏木も話に入り、
「確かに。トーラルとハイクァーンやゼルシステムはある意味一体のものといってもいいですからね……なので、レ・ゼスタが遺跡同然の破損状態で発掘されて、かつてのゼスタールに在ったにもかかわらず、今はゼスタールの生き残りの人々が完全なトーラルに依存した生活を送っている。しかも相当にその先進文化文明も維持できている状態です……ヂラールはどういう攻撃を仕掛けて……そうですね……ネイティブゼスタール人から返り討ちにあっているか、もしくは余裕の無傷で避難できているのか……」
フェルも柏木の言葉に続いて、
『それモどういった形でトーラルの恩恵を太古の私達みたいに受けているのか……そこのところもキチンと調査しないといけないデスね。トーラルが関わってくるなら、コッチの宇宙の問題というだけのお話では済まなくなりますから』
ネー、マサトサン、みたいな視線を柏木に送るフェル。当然柏木もフェルの言に大きく頷く。
『ところでよゲルナー司令、そのネイティブ・ゼスさんの軍事規模っつーのは、もうわかってるのかい?』
そう、そこがまず知りたいと皆は頷く。なぜならたった二〇〇〇万人の国民規模に対し、あの軌道上に鎮座し、事実上ゼスタール星を制圧しているヂラールである。相当強力な軍事力がなければ対応は不可能だと普通に思う。
『肯定。メラニー合議体の報告によると、標準001号級機動母艦2、007号級機動戦艦2、050号級機動巡航艦10、100号級機動駆逐艦35、250号級機動揚陸艦3……』
メラニーが調べたネイティブゼスタール人の所有する、航宙艦艇の数や、地上兵力、機動兵器の数を詳細に報告するゲルナー。
『……以上だ』
『はは、詳細な報告ありがとうございますって感じだな司令。さすがはスールさんだぜ……なるほどな。聞いた感じじゃ、航宙艦隊は、一個任務部隊分、地上兵力は、国民皆兵と考えて、二〇〇〇万人の国民規模でみれば、そんなもんか。機動兵器部隊もまずまずの数だな……となれば、喩えるならハルマのエウロパ系諸国のイチ国家規模の軍事力は整備できてるっつーわけだ』
すると柏木が、
「という感じですね。まあ、あくまでイメージですけど。今のヨーロッパ諸国は航宙艦なんてまだ整備できてませんから。せいぜいこの間、ゲルナー司令のところで造ってもらった程度の数ですし」
『ああ。ま、でもそれでもなぁ……』
あのヂラールの規模と対等にやりあってきたというには不思議な数の対比である。
ま、確かに? 地球でも前例がないわけではない。これはもう言うに及ばず、かつてのソ連にロシア、中国といった大国が小国に侵略侵攻し、逆に返り討ちにあった事例だが、これらと比較するにしても、今回ばかりは敵の規模と質が違う。
すると最後までみんなの話を黙って聞いていたグロウム帝国のネリナが、
『私も現状を諸々研究させていただきましたが、確かに色々と矛盾がありますね。我々がバルター、あ、いえ、ヂラールと戦っていた時でも、たかだか二〇〇〇万人規模の自治体の軍事組織があの軍団と対等に戦えると言う状況は、到底ありえない話です』
ネリナに言われると流石に説得力が違う。グロウム帝国だけではなく、その近隣国家総出で、しかも惑星国家自爆攻撃のような狂気をやって、やっとヂラールコロニー7基を葬れたような戦いをやってきた猛者でもあるわけであるからして……
『まあただ、それでも現在の不思議な状況に、その妙なトーラルが関係しているのは間違いないだろうな……関連性を調べたいところだが、本来の作戦目的を見失うわけにもいかねぇ。カシワギ御大、どうするよ』
「確か、早々敵にも惑星降下の動きがあるって話でしたよね?」
『おうさ』
「なんか動きそうだな……」
柏木は会議室から見える巨大な惑星ゼスタールの形を形成した立体惑星地図を眺めつつ、しばし考え込む……
「ふむ……まだ状況が確定していないですが……敵に何か決定的な先手を打たれるのも嫌ですし、ネイティブ・ゼスタールの組織もまだどう見て良いか分からない感じがしますのでね……少し艦隊を送り込みますか?」
やるか? といった目をするゼルエ。ぶっちゃけた話、待機続きも体に良くないので、そろそろ何か動かしたいという話もあってか、ゼルエがニンマリして、VMCモニターを開け、何やら命令をしている模様。
ネイティブ・ゼスタール人の所有する、あのトーラルシステムが、事態を動かす鍵になったようである……
* *
さて、少し視点を移して現状の目まぐるしく動く火星宙域。
火星軌道に浮かぶ大型宇宙ステーション、『マーズ・アルケ』付近では、ディルフィルドゲートをくぐってきたティ連各国の艦艇に支援施設が所狭しと浮かぶようになり、数日前とは打って変わってこの火星も、ティ連各国の居住惑星軌道上の如く、だんだんと『軌道都市化』してきている状況であった。
正直、地球の軌道上なんざ比較にならないほど賑やかである。
……ちなみに地球は現在『国際連邦』という、まだまだ色々と制約に権益などの問題はあるものの、とりあえずの惑星統一政府によって今後運営されていくわけであるからして、惑星地球の軌道上は、日本国上空と、ヤルバーン自治国上空の領空以外はすべて国際連邦加盟国の領空域、ということになった。
当然宇宙条約も改定され、地球圏も現在の日本国とヤルバーン自治国が主張する領空域以外は、国際連邦がその宙域領有権を主張し、もちろんティ連もそれを認めている。
で、このせいもあって、未だにティ連型の軌道都市建設は、国連各国が警戒してまだ認可の見通しが立っていない。そりゃ中国や北朝鮮にロシアなんかは、頭上に軌道都市なんか建設された日にゃ、何かオイタしたら『神の杖』でも落とされかねないとヒヤヒヤもんだからだ。
でもまあそこは現実の話として、『相互宙域航行条約』を結んで国連とティ連双方あまり難しくはやっていないのだが、国連も先の通り宇宙条約を改定し、ティ連の助言も受けつつ、太陽系域を国際連邦の主権と位置づけ、地球より全天半径約一光年の範囲を国際連邦の領有域と宣言した。
ただ、その中でも『火星』は現在の国連が領有権を主張する前にティ連が開拓していたので、この星は日本を含むティ連と米国が領有権を持つことになった。とはいっても、火星開拓後に現在の日本国と米国の領有する領土宙域とティ連の一部領土宙域以外は国連に譲渡されることになっているので、タダで開拓してくれているわけでもあるから、そこは国連も文句は言ってきていない。
『月』の一部領域は、ゼスタールの大使館扱いとして認めているので、事実上のゼスタールの領土となった。まあこれも言ってみればゼスさんの技術と交換したようなものだ。
あと、国連は木星の衛星、ガニメデをティ連に譲渡した。これはティ連の要請を受けての話で、今後のティ連との交流公益も含んだ話もあってので、所謂イゼイラ領内に現在存在する、惑星『第二日本』が将来的に『第二地球』のようになるのと同じような位置づけで、ガニメデをイゼイラが所管する『リトルティ連』にしようという形でそういう話になった。まあ国連としても今後の外交成果を考えればガニメデの一つぐらい渡してもよいかといったところだろう……
とそんな感じで、長い前説はこれぐらいにして、そんな宇宙環境にある現在の日本とヤルバーンと、国際連邦。そして援軍として艦隊を派遣してくれたグロウム帝国。
メラニー合議体や、大見達が送ってきた、現在までにわかっている情報だけでもティ連基準で『大規模戦闘』に分類されるほどのものになる事が予想されるわけなので、この火星宙域はこれまでにない軍事拠点としての活況を呈している状態であった。
新型艦船に新兵器、巨大前線要塞艦、ゲート艦が、火星のディルフィルドゲートから送り込まれ、その規模たるやティ連防衛総省における盟約主権国家レベルの主要方面軍本部基地宙域に匹敵する状況になっていた。
国連軍の航宙艦戦力は、正直現状たかが知れているではないか、と思われがちである。
確かに航宙艦艇レベルで言えばそうかもしれない。だがゼスタール軍は、これでも国連軍戦力には国連軍ならではの戦力を期待していたりする。
なぜなら、派遣する戦力は航宙レベルの兵力だけではないからだ。
そう、なんと、地球各国の陸海空軍戦力も、惑星ゼスタールへ送り込もうという作戦を連合日本・ヤルバーン自治国軍と国連軍は立てていたのだ。
即ち、惑星ゼスタール内での対ヂラール駆逐戦闘活動に期待しての話である。
陸軍は、もうお馴染みの各国陸軍である。ここには陸上自衛隊の戦力も一部入る。そこは説明はいらないだろう。空軍も空自を含めてそんなところだ。今回ばかりは日本現政権も、ティ連憲章を表に出し、リベラル左巻きどもを黙らせた。
その話はともかく、では『海軍』は? となると……
なんと!! 各国の艦船を、地球に降下させたティ連要塞艦のゲートをくぐらせて、直接ゼスタールの海上へワープさせて運用しようと、そういう作戦で計画しているらしい。
そんな事できるのか!? と当初は各国軍部は首を傾げ、狼狽したそうなのだ。なんせこの海上戦力の中には、海上自衛隊艦艇も一部その任につく。そして海上戦力の中核には、米国の原子力空母や米中ロ仏英ら旧国連常任理事国の戦略原子力潜水艦戦力も入っている。一体どうやるのかと当然皆が疑問に思うわけである。
だが、かつてスペースシャトルを例に出して説明した事があるように、ゲート内通過フィールド発生装置を各艦艇は装着してジャンプすることになるので、基本、この装置さえつけていれば、どんなものでも『ゲートを通過する』という行為に限って言えば、宇宙船に変身できる。即ちこの通過フィールド発生装置が輸送装置となって海上船舶を簡便に運んでくれるのだ。なので、かつて米国ニミッツ級空母が第二次世界大戦中の戦場にタイムスリップした映画のごとく、各国艦艇は、地球上の指定された地点、おそらく太平洋上のどこかになるだろうが、そこから要塞艦のゲート波動を照射されて、惑星ゼスタールの海上へ転移することになる……
これは考えようでは物凄い作戦といっていい。
勿論各国海上、海中艦艇には各国宇宙艦艇が装備するブラックボックス化されたティ連機器装備に兵装を追加搭載しているので、十分ヂラールにも対抗できる。
そしてティ連各国とゼスタール軍がこれら戦力に対して特に期待しているのが、先の『潜水艦戦力』なのだ。というのも、実はこのヂラールには興味深い特徴が判明していて……惑星サルカスの例でもそうだが、実は『水棲のヂラール』というものが、全く確認されていないのである。いるのかどうかさえ不明だが、現状の惑星ゼスタールでも同様らしい。なので、これがもし事実なら水中は完全にこの連合軍のアドバンテージとなる。潜水戦力というものを恒常的に持っていないティ連やゼスタールにとっては、意外な期待が地球の海上戦力にかけられてたりするワケである。
と、まあそんな感じになる予定の戦力が今、この火星に集結している真っ最中であったのだ……
「ん? なんだあの機体は……どこの所属だ? 見たことないな、って……え゛? あれって……」
柏木長官閣下は今、イゼイラの輸送艦から移送されている機動兵器らしき機影の機体を目撃する。
じーっと目を凝らして、その機体を見つめる柏木……「まさかなぁ」と思いつつ、PVMCGで双眼鏡を造成して、更にその機体を凝視する。
「…………」
数分後、彼はorzな反省ザルのような姿になっていた。
彼が見たその機動兵器、どうも新型のようである。って、大体そんな新型機動兵器が開発されたら、普通トップの彼に情報あがってくるもんだと普通思うが、そうでないとするなら、恐らくイゼイラ国軍が独自に開発した出来たてホヤホヤの機動兵器である可能性もある。
んで、その機動兵器のお姿……以前、防衛総省内で、発達過程文明の発想を取り入れた機体として開発をしていたという話のあった機体であった。多分そうだろう……そう、『脚部のない人型機動兵器』であったのだ!
高等官僚には理解できない構造の機動兵器という噂がティ連開発部局内で広がった兵器であった。
とはいえ、形状は『あんなの』ではなく、イゼイラオリジナル形状の機体みたいである。なんかヴァズラーの変形機能をオミットしたような形状で、脚部に大型の斥力機関を直接くっつけてスカートのような装甲板で覆ったみたいな感じ。まだこの場で遠目に目撃しただけなので、後で詳しく聞いて見ようと思う柏木御大。
でもって、更に機動母艦に搬入されている機動兵器があった。この機体は今、柏木の目の前を大きく横切っていった。
「お! あれは! あはは、もう量産配備されてるんだ」
そう、かつてF-15HMSCと呼ばれた機体。そして現在は、『F-15HMSCトランス・イーグル』という正式名称になった機体であった!
なんと、かのF-15HMSCから更にヤル研のアフォ……宇宙を守る研究者達により、人型への変形機能を加味されて、立派な機動兵器として採用された機体なのであった。
実は試作機が製造されたのは、シエと多川が、かの『シエの里帰り騒ぎ』からすぐぐらいの話。結構ティ連で正式採用されるまで時間を要した。というのもティ連各国の要望で、結構引き合いが多く、各国の規格に準拠させる作業が長引いたからだという話。そりゃそうである、元ネタになっている機体は、ボーイングのF-15Cであるからして、元来地球人準拠の機動兵器だ。そこのところは各種族の生体に合わせた諸々な作業が必要だったということである。
で、今、マーズ・アルケステーションをトランス・イーグルの編隊が航空機形態で横切っていった。透過式のキャノピーから見えるコクピットに乗っていたのは、イゼイラ人パイロットのようであった。
なんとも宇宙をぶっ飛ぶ『F-15』のようなもの。もちろんティ連防衛総省軍の兵器として扱われているので、F-15HMSCという番号は形式番号ではない。所謂この形式番号も含めた『F-15HMSCトランス・イーグル』という言葉が固有名詞としてティ連でも正式に登録されているようだ。
……で、このトランスイーグルの顛末については、『シエさんが里帰りした報告書』を、『『どこかの本屋さん』』で購入したら詳しく軍事機密として明記されているという話である。いやはや……
そんな中、心強い知った顔が援軍として、これまたやって来る。
まるで東海道新幹線、東京駅か、新大阪か、そんな過密ダイヤの如く火星のディルフィルドゲートを出たり入ったりする航宙艦艇船舶。そんな中、ティ連・イゼイラ軍の小規模艦隊がゲートから排出されてきた。その艦隊の艦艇には、なんと『ティ連・惑星サルカス方面軍』の軍団旗と、『ハイラ王国連合』の国章が船に描かれていた。
ティ連・惑星サルカス方面軍というのは、かの『悠遠の王国』であり、フェルパパのガイデルが国王やっているティ連の文明昇華観察国であった国、ハイラ王国所属の艦隊であった。とはいえ、ハイラ王国軍はまだ宇宙艦隊の運用ができないので、代理運用でイゼイラ軍がハイラ宇宙軍を預かっているといった次第。
で、そんな艦隊に乗ってやってくる人物といえば、当然どなた様かというと……
* *
『おねーちゃん、お久しぶりっ!』
と、あいもかわらず、超絶に科学が進んだ国家群のティ連において、日本国と並んで、というかそれ以上に時代がかった軽装鎧を制服としてまとって中型機動母艦から降りてくるは……
『ウフフ、メルチャンも相変わらず元気デスね』
と、フェルがお出迎え。ハグなんぞして久方ぶりの再会を喜び合う。いかんせんハイラ王国も別宇宙にあるティ連主権国家なので、惑星ゼスタール同様、今でもワリと『悠遠の王国』なのである。
ということでこの艦隊でやってきたのは、ティ連でもその名が知れ渡った、勇猛果敢で有名な部隊、『ハイラ王国近衛騎士団』であった!
まあ名前こそ『近衛騎士団』となってはいるが、近代軍隊の様式を昨今取り入れつつあるハイラ王国にあって、メルフェリア団長率いるハイラ王国騎士団は、現在『特殊機甲化機動兵団』に分類されている海兵隊のような部隊なのである。
『なんでもっと早く私達に招集かけてくれないんだよぅー、ネメアの母国が大変だってんならすっ飛んできたのにぃ。私達も一応「トクシュブタイ」なんだよお?』
『何を言ってるでスかメルチャン。だからこそ今ミナサンを呼んだのでしょ? マサトサンが艦隊を編成して、先行して偵察活動しているケラー・オオミや、ケラー・ネメアに、ゼスタール星の方々をお手伝いする任務がちゃぁんとあるでスよ』
『そうそう、それなんだけどさ、私も来る前に資料に目を通してきたけどさ、なんだか不思議なことになってるんだって? ネメアやシビアの故郷って』
『デスね。それに今結構な数の敵が星に降下する前兆も見られるデスから、メルチャン達は万が一の時の緊急援軍として、惑星ゼスタール近郊の宙域で待機してもらうことになっているですよ』
『なるほど、わかった。でもできればネメア達と一緒にやりたいな』
『そこは今後どう推移するか次第でしょうね』
頷くメルフェリア。彼女も毎日文武両道でティ連の軍事事情もよく勉強しているようだ。
いかんせん彼女は姿こそイゼイラ人だが、生まれも育ちもハイラ王国。なので、心はハイラ人なのである。従ってその科学知識も、ガイデルと王妃のサルファのイゼイラ式教育があったとはいえ、生粋のイゼイラ人ほどの科学知識はない。ま、そこは彼女も精進しているようである。
『で、おねえちゃん、実は近衛騎士団も今回は超パワーアップしてやってきたんだよっ』
『超パワーアップ?』
『うん、ちょっと格納庫いこーよ。あ、できたらカシワギのおっちゃんも』
『マサトサンも? ふむ、んじゃちょっと連絡しますネ』
ということで柏木も呼んで、格納庫にやってきた柏木にフェル。
ついでといってはなんだけど、シエに多川もやってきた。勿論メルに会いに来たのが目的だったが、結果的にそのパワーアップとやらをみなして一緒に見学するという事に相成った。
『デ、メル。ソノ「超ぱわーあっぷ」トヤラヲ早ク見セテクレ』
「かーちゃんの意見に同じだぜ、メル団長」
「そだそだ。結構期待感マックスだよ、メルちゃん、むはは」
『モー、マサトサン、それにシエにケラー・タガワも、あんまりそんな事言わないでスよ……ワクワク』
なんだかんだで諸氏期待しまくりであるのだが、まあメルのハイラ王国的科学技術やらなんやらを考えると、恐らくそーいった方向性の強力な兵器とかそんなのではないと思う…………
『ふっふっふー、んじゃミナサンにお披露目しちゃいます! では、今からお見せするのは~、なんと、ハイラ王国の錬金術師に賢者、そしてティ連の技術者にニホンのヤル研のみなさんが共同で研究開発した、キドーヘイキでございまする!』
その言葉にシエや多川、柏木にフェルは、みな一斉に
「ナニ!?」
と声を上げる……まあティ連研究者はいい。ヤル研も許そう、ろくでもなさそうだが。
で、何? 錬金術師に賢者とな……と。
『おーい、副団長! お願い!』
『はっ! わかりましたっ!』
その機動兵器というものを格納した、ぶっちゃけ『木箱』のような巨大な物体。大きさは一〇メートルはいかない。ハイラ的である。コンテナなんてないので、木箱であった。
その木箱を副団長以下、部下が斧やナタをもってきてぶっ壊す。
すると、巨大な麻布のようなものに覆われた、やけに尖った物体が姿を現す。で、「せーの」でその覆いかぶさった布をひぺがすと!
「ええええええええ!!?? こ、これは!!!!」と柏木。
「どぉあ!! こりゃ……すごいな……!!」と多川。
『ホォォォーーー!! コレハマタ……!!』とシエ。
『うひゃーーー!! スゴイですねーーー!!』とフェルさん。
その木箱から出てきたもの、それはなんともデザイン的に、『ディルフィルドゲートが開かれて、きらめく光がみんなを打つ』ようなデザインであった!
そう、かのヂラールの武装部位である強力な牙や爪や翼等の骨格の一部、クソ頑丈で装甲板のような甲殻を廃物利用したというわけではないが、まあ利用し、そこにガイデル達が持ち込んだ医療用ハイクァーン技術を融合した疑似サイボーグ型兵器ともいえるモノ。
この医療用ハイクァーン技術だけに限って言えば、ハイラ王国は現在のティ連並に発達しているので、人工筋肉や人工骨格技術を利用し、ティ連の斥力・空間振動波エンジンと、プテラノドンのような翼をもって飛行する能力のある、デミヒューマン型の機動兵器がそこにあった。
『どうだぁ!! おっちゃん、おねーちゃん、シエ師匠、タガワ師匠、驚いたか! すごいだろー』
メルが無い胸を全力で張って、超エッヘンモード。
その異様なデザインの兵器がお披露目された途端、どんどんとメル達の周りにおもいっきり人だかりができた。
格納庫の人員がみなしてその有機的デザインの機動兵器を見学にやってくる。
『コンナ形態ノ機動兵器ハ見タ事ガナイ……スゴイナ……』
とシエが感心しきりである。コクピットを覗き込むと、どうやら上半身だけのコマンドローダーのようなものを装着し、着席して動かす半マスタースレイブ式操縦のようである。ここはどうも『18式自動甲騎』からの流用のようだ。
「だけど、この装備や装甲って、ヂラールの残骸だろ? どうしたんだよこんなもの」
『え? タガワ師匠、こんなのハイラじゃいくらでも、それこそ、そこらじゅうに転がってるよ』
さもありなん、かのヂラール戦争で倒したヂラールの爪や牙に甲殻や骨格などは、なんともハイラ人の生活用品や軍事兵器としても利用されたいたりする。特に牙や爪に甲殻は、ティ連製のハイクァーン合成金属並みにクソほど頑丈なので、貴重品なのだそうな。
兵装は、内蔵型や外装型の専用粒子兵器や斥力兵器、ミサイル兵器に重力子兵器、溶断サーベルを装備可能だそうな。もちろん事象可変シールドも展開できる。
その兵器を細い目で見る柏木御大は、
(ヤル研の連中じゃねーと、こんな兵器の発想絶対しねーよ、ったく……はは)
と半笑いで眺めたり……まさかこの兵器は流石にティ連防衛総省軍で採用したいとはいわねーよなと……なんともハイラ的発想の兵器で、すごいものだと彼も思う。
なんでもサスア副国王が、ハイラ独自の発想が詰まったこの兵器の量産に積極的なんだそうな。そして近隣諸国にも輸出しているそうで、ハイラ王国連合軍事力近代化の最先鋒として期待大の兵器だったりする。
「で、メルちゃん、この兵器の名前は?」
『うん、「クヴァール」っていうんだ。ハイラの神話でね、救国の英雄が乗ってた幻獣の名前なんだよ』
「わかった。で、持ってきた数は?」
『五機だよ』
「五機? 意外に少ないな……」
『だって、これ手作りだからね。ハイラのサンギョウ? の復興のためって、街の工房でつくってるんだもん』
「はは、なるほどね。で、パイロットは?」
『騎士団のみんな乗れるよ。交代で騎乗するんだ』
「わかった。んじゃこの兵器も登録しておくよ。あとで戦闘データ見せてよ」
『了解だよ、おっちゃん』
ということで、この「クヴァール」という奇妙な機動兵器は、名称だけというのも管理上困るので、特危が帳簿上の管理を代行することになり、『53型クヴァール式機動兵器』として登録された。
この53型という数字は、ハイラの暦に合わせた数字である。
……大見達のもたらした惑星ゼスタールの情報は、かくもティ連と国際連邦の決戦準備を加速させ、更にはティ連で最も科学技術が遅れていると思われたハイラ王国の秘密兵器ともいえそうな、疑似サイボーグ兵器のようなものまで飛び出す始末となっていた。
現状を考えるに、敵もどうやら一発動きそうである。
敵の出方を見る牽制ともいえる部隊の編成を急ぐゼルエに柏木達。
火星の大きな動きをまだ知らない大見達は、かの生き残りゼスタール人達の奇妙な謎に、丁度対峙している最中であった……
* *
惑星ゼスタール……ゼスタールダンクコロニーと呼ばれる地下都市。
此度の先遣偵察隊司令官である大見健に総諜対の月丘とプリル、シビア、ネメアは、惑星ゼスタールの生き残り、即ちネイティブ・ゼスタール人達の総本部とも言える統括議長府と呼ばれる施設に案内されていた。
スール・ゼスタール偵察合議体メラニー・ホルプに案内され、ネイティブ・ゼスタール人の統領と目される人物、『中央統括議長、マルセア・ハイドル』という人物に引き合わされたのだが、その人物の雰囲気に
どうにもしっくりこず、またなんとなく訝しがりつつ、メラニーに彼らの政府中枢へ案内される。
そもそもこのメラニーが、偵察合議体という、即ち間諜でありながら、なぜにここまでこのネイティブ・ゼスタール人の政府中枢まで食い込んでいる人物かというのもおかしな話だが、彼女ら合議体がそこまで優秀なのか、それとも別の理由があるのか……
大見達は案内された『政府中枢』で、その『別の理由』と目される事由と対峙することになるのだった……
* *
『オ・オリジナルタイプのトーラルシステムがなぜこの星に!』
今この中で、その『オリジナルタイプトーラルシステム』というものに最も詳しい、ティエルクマスカ連合人のプリルが戦慄していた。そして更に続けて、
『ってか、確か、この星にあったのは、レ・ゼフガフガフガフガ』
ちょっと今言ったらヤバイキーワードをプリルが口走りそうになったので、月丘が即座にプリルの口を塞ぐ。
プリルも「しまった」と思ったのか、すぐに気が付き、月丘に視線を合わせて瞼で頷く。
だが、その前にプリルが口走った『トーラル』という言葉、この言葉はどうやらネイティブ・ゼスタールの『ような』人々も聞き捨てならなかったようで、その場にいた研究者達が一斉にプリルの方へ視線を向けた。
今ではトーラルの事を知るスール・ゼスタール人のメラニーも、少々迂闊なプリルへ視線を向けるが、大見や月丘はさほどその発言に狼狽はしていないようだ。というかむしろ良い話のネタができたと思っているぐらいである。
巨大なトーラルシステムの奥から出てきたのは、なんと先に大見達と少し謁見したマルセア・ハイドル中央統括議長であった。
その姿は先の制服のような服装とは違い、何やらドレスのようなものを纏っている。
だが違和感を感じるのは、一国のトップが優雅にお出ましになられているのに、お付きの人物もいないし、トーラルを管理しているのであろうと思われる技術者や軍人達が、一切マルセアに敬礼をしようとしない……黙々と働き続けている。
『……トーラルの名を口にした貴方、そしてティエルクマスカ連合と国際連邦を名乗る皆様方。私はあなた方と色々お話をしなくてはならないようです』
優雅に大見達に歩み寄るマルセア。彼女はメラニーに視線を送ると、メラニーも頷く。
マルセアは平手を横に振るジェスチャーをすると、大見達の前に応接設備一式がゼル造成されて、簡易の会談場ができあがる。
その行為に驚く大見達。もちろん月丘にプリル、特にシビアにネメアも同じくだ。本来この星にはない科学の現象だからである。
着席を促される諸氏。大見達は促されるままにソファーへ腰を下ろすと、マルセアは机の上へ飲み物を、今度はハイクァーン造成させた。
これにも驚くみんな。
毒見役として月丘がその飲み物を一口飲むと、以前ゼスタール月基地で出された飲み物と同じ味がした。
つまり、特に何も問題はないようだ。
メラニーがマルセアに語りかける。
『マルセア・カルバレータ。約束通りの増援となる者達との同盟を取り付けた。これで問題はないだろう?』
なんと、メラニーはマルセア『統括議長』、そうまがりなりにもこの勢力のトップに、タメ口で話をし、しかも……
『か、カルバレータですって? ど、どういう事ですか!?』
いつもは冷静な月丘が思わずメラニーに問う。
メラニーは、なんともスール・ゼスタール人らしくない「フゥ」と一つ吐息をつくと、まずはシビアとネメアに視線を向け、
『シビア合議体、ネメア合議体、そして今我々と意識を共有するゲルナー合議体、アルド統括合議体、これが我々偵察合議体がこの星を偵察した、最終的な情報報告であるとせよ』
メラニーの目を見て頷くシビアにネメア。
そして次に大見達日本人と、ティ連人であるプリルの方を向いて、
『ニホン政体と惑星チキュウ各政体、ティエルクマスカ政体の構成員に報告する……我々が先にこの惑星を我々ゼスタールの手に取り戻すため、ヂラールを駆逐するために状況の事前偵察を行ってきたわけだが、我々がこの惑星を偵察し、調べていく間、どうも事は単純に、我々スール・ゼスタールがこの星を取り返すだけの作戦といった事案で終わるものではないということが判明した』
どういうことだと顔を見合わせる大見に月丘、そしてプリル。
シビアにネメアはメラニーと意識共有ができたのだろうか、彼女らにしては少々深刻な表情をその顔に示し、もう状況情報に驚き終わっているようであった。
メラニーは、マルセアの方を向いて、
『マルセア・カルバレータ。お前のほうが状況情報を説明するには向いている。お前からオオミ生体・ツキオカ生体・プリル生体へ説明せよ』
『畏まりました……』
まったくもって妙である。メラニーとマルセアは、もう互いの立場を知っているよな、そんな感じ。
だが、マルセアから発せられる言葉は、さらに大見達を困惑させるに充分な発言であった。
『まずは私の正式な立場をもうしげておきましょう……中央統括議長マルセア・ハイドルこと私の正式名称は、タイプ、エルドレアルラロウ・マルセア・トーラルシステムと申します』
その言葉に、『えっ!!』となる大見達三人。シビアとネメアは、この情報にあの表情だったようだ。
『メラニーさん、これは……どういうことですか?』
大見が特危自衛隊陸上科司令の威厳を持って、ここは皆を代表し、落ち着いたトーンでメラニーに尋ねる。
『お前達の情緒表現で語るなら……』と、メラニーは、メラニーホルプ博士の口調になり、『「どうもこうもない。こういうことだ」という事だ』と、彼らに言い放った。
この言い方ですべてが理解できるのが、情緒ある地球人にティ連人である。彼らが理解したのは……
そう……なんと、ネイティブ・ゼスタール人は、トーラルシステムによって行政・司法・立法を運営された組織という事実であった!
メラニーは、大見達に語る。
『オオミ生体。もしお前達が望むなら、我々はメラニー・ホルプ「博士」の人格で会話を行う事を提案するが』
その言葉に大見も頷いて、「そちらのほうが、理解しやすいですな。お願いできますか?」
『了解した……』というとメラニーは口調を変え、『大見司令、まあこういうことです。ちなみにそこいらで働いている科学者や軍人も、すべて仮想造成体のアンドロイドだ』
つまり、ティ連で言う、『ワーキングロボットやドロイド』の事である。なるほどこの無機的な雰囲気がそれで理解できた。つまりマルセアは自分で制御するこれらアンドロイドを使役して、自分であるトーラルを管理しているということである……メラニーは続ける。
『私がこの星に偵察に来た時、シビアやネメアはもうわかっているだろうが、まずはこの星に、ゼスタールの「生体」としての民が生き残っていた事に驚きました。当然私達は彼らの境遇を予想し、私達の同胞を救う事を考え、事前偵察と、対ヂラールの工作員として、私と他三人がこの星へ潜入し、諸々の活動に従事していたのですが、なんとも彼らの現状が、私達がこの星で栄華を誇った頃と遜色のない文化環境で、地下において生活しているということが分かり驚いたわけです。そこで私はこの星で「メラニー・ホルプ」という科学者として活動するために合議体構成を変えてこの星の内情を調査していたのですが、色々と調べるうちに、どうにもこの星の行政形態に違和感を感じ、その調査対象を政府の中枢まで広げたわけです……』
メラニーが語るに、その潜入調査中に、なんと、このトーラルシステムを発見したという事なのだそうな。
だが……その時、この『エルドレアルラロウ・マルセア・トーラルシステム』の監視網に彼女は引っかかり、今彼らの周囲にいる、アンドロイド兵達にとっ捕まってしまったという事なのだそうな。
『メラニー合議体、その事実は報告にはなかったぞ』
とネメアが指摘すると、
『今報告した』
と、なんか居直るメラニーさん。そこはあまり偵察合議体としてつっつかれたくなかったようだ……ジト目でため息を軽くつくネメア。
さて、まあその続きを話すメラニー。
『……その際の尋問時に、私はこの星のゼスタール人が、このマルセア・トーラルシステムによって管理されているという事実を突き止めたのですが、同時に私がスールであり、現在の姿がカルバレータである事をマルセアに見抜かれてしまいました』
その時、マルセアはメラニーの事を、この星の住民が所謂八〇〇年前のかつて存在したこの星を脱出したゼスタール人達、即ち『スール神』と認識している存在であると理解し、メラニーがネイティブ・ゼスタール人に対して調査工作活動をしていたことを特に咎めること無く、同胞としての協力を依頼してきたのだ……という話であった。
その話を聞いて、驚く皆の衆。そりゃそうだ、まさか現在の、本当ならヂラールに蹂躙されてなきゃいけない生き残りの人々が、トーラルシステムに守られて生きてきたなんて、驚き以外の何物でもない。
だが、その話をすんなり「はいそうですか」と納得する諸氏でもないわけで、当然その話を聞かされれば、今まで知っていた大見達地球人や、ティ連人の疑問に思う矛盾や、シビアやネメア達スール・ゼスタール人がまだ共有できていない現在進行形の疑問も出てくるわけで、そこを当然問うことになる……のだが。その前にマルセア・トーラルは流石トーラルシステム故か、シビアとネメアに問いかける。
『そこの褐色肌のチキュウ人の姿をしているお二方、あなた方も、メラニー博士と同様の、スールという存在ですね?』
シビアとネメアは互いに顔を見合わせ、ここはもう仕方なしと想ったのか、二人同時に『そうだ』と答える。
大見に月丘、プリルも、ここまでくればもう隠しても仕方がないと、あえて突っ込まなかった。
となれば、その話の流れのついでという感じで、彼女達もマルセアに疑問を投げかける。
シビアはその口調がいつものゼスさん口調に変わり、
『マルセア・システムに質問。お前は、この惑星にかつて存在した、「レ・ゼスタ」と呼ばれるシステムを知っているか?』
『はい、知ってはおりますが、この惑星で私が起動した後の、この星のゼスタールの民達が所有する民間情報を総合して知った後天的データですので、この星の民が知る以上のことは私も知りません』
その話を聞いて、頷いている大見に月丘、プリル。
「(と、いうことは、このトーラルシステム自体も、後天的な存在ということになりますね、大見さん)」
「(ということになるな、月丘君)」
『(なんだか複雑な話になってきましたね、オオミ司令)』
「(ああ、そうだな……まあそこんところはあの二人が的確な質問をしてくれるだろう)」
コソコソ話などしてもあんまり意味ないのだが、そこは体裁上自然とそうなる。当然シビアにネメアも地獄耳モードで、このお三方の話は聞こえているので、この場は任されたと理解して質問を続ける。
『では次の質問だ。回答を希望する』
マルセアは頷く。
『お前は、自我を持つ人工知性体なのか?』
そう、シビアはマルセアを見て、瞬間、ナヨを想ったからだ。だが、その答えは……
『否定します。私はトーラルシステムであり、それ以上でもそれ以下でもありません。自律思考機能を持つ人工知性ですが、人格は持ちません』
つまり、この、まるで人格を持つような今の会話も、わかりやすく言えば、かのニューロン・エミュレーションの再生機能と同じく、擬似的な対人対応システムにすぎないということだ。
ここを聞き出したシビアは結構ナイスであったり、ならば質問の範囲もずっと絞り込めてくる。
『メラニー合議体。ここまでの情報は把握できていたのか?』
とネメアが問うと、
『ああ、私もここまでだ。それ以上は今の状況と同じく、これからだよ』
『そうか。理解した』
それ以上は問わないネメア。どうやら情報共有機能の情報内容が、今の答えと整合性がとれたようである。つまりメラニーは嘘はいっていないという事。
……それからシビアとメラニーにネメアは、矢継ぎ早にマルセアヘ質問を行う。
まず、マルセアが統括議長というこのゼスタール組織のトップにいるという事は、マルセアをトップに仕立て上げて、実質の政治を行っているゼスタール人連中はいるのか? と問うと……
なんと! この星のゼスタールの民は、マルセアを本物ゼスタール人の、統括議長だと思っている、という事なのだそうな。
「えっ? ち、ちょっと待ってください。ではこの星の政治家は、あなたがトーラルシステムの作り出した疑似人格だとは知らないという事なのですか!?」
思わず月丘が問いかける。するとマルセアの回答は、イエスであった。
すると今度はプリルが、
『え、それじゃあ今までのお話を聞く限り、あなたを処理しているトーラルシステムの存在自体が、この星の後天的存在である限りは、あなたをここに存在せしめた別の「何か」がいないと、辻褄が合いませんね』
その言葉に大見も同意して、
「確かにその通りだ。マルセア議長、いえ、マルセア・システムさんと言ったほうがいいかな? この部分は非常に重大なところだ。勿論、シビアさん達にも関係する事だし、このままだと、この星を奪還する作戦を行おうとしている我々の大義にも関わってくる」
そう大見が言うと、マルセアも悩むことなく、一つの回答を出してくる。
『わかりました。では皆様に、これからあるモノをお見せいたします。そのあと、私の存在の経緯についてもお答えいたしましょう』
大見はちょっと勘が狂ってしまいそうになる。なぜなら、今目の前にいる褐色美人で、立派な服着て、礼節をわきまえた受け答えをするのは、単なる疑似人格システムなのである。
柏木から以前聞いたことのある、ニューロンエミュレーションの人格再生システムとは、即ちこういう物のことなんだろうなと思ってしまう。
カグヤやヒリュウにもトーラルシステムは搭載しているが、普段は多少性能の良いコンピューターの延長ぐらいにしか思っていなかった大見も、此度からは多分、彼も船のトーラルシステムを見る目も変わってしまうのだろう。
* *
マルセア・トーラルシステムは、月丘に大見達をこのトーラルシステムが鎮座する更に奥の部屋へ案内する。
その場所はトーラスシステムの真ん前に設置されたメンテナンスエレベーターのような、斥力エレベーターで地下へ降りた場所のようだ。
……マルセアは降りた場所、そこは狭い空間で、すぐ目の前に厳重な……それこそ死を伴うトラップが仕掛けられたセキュリティに守られた金庫のような頑丈な扉が配置されていた。
マルセアはその扉の中央部に手をかざすと、強力な与圧システムが作動するよな音と、冷気が立ち込めた部屋の中へと入っていく。
少し身震いしながらその部屋に入る……まるで祭壇のような構造のオブジェクトが置かれているその場所。中央にあるのは……
「ん? あれは……棺か?」
どうにもそうしか見えないその物体。形状的には宇宙共通なものに月丘やシビアもすぐに察する。
『では、こちらへ……』
マルセアが平手で誘うと、その棺のようなものを見学するように促される。
で、皆はその棺を覗き込むわけだが、頭部のあたりにある小さな窓から顔が見えた。
非常に保存状態の良い、遺体のようである。所謂、地球人型の人の顔が見えた。
その柔らかな表情から恐らく女性の容姿だろう。
『キレイな人デスね~』
と、その色白の女性型の遺体にプリルが思わず発する。
「ヒューマノイド型の遺体……本当に遺体なのですか?」
と月丘。なぜなら異星人と地球人では、そもそも死の概念が相当に違うからである。
『遺体である。間違いない。スキャン結果、死後約五〇〇年~六〇〇年経過していると推定できる』
早速スキャンをかけたネメア。
『で、この方はゼスタール人なのですか? 私達はゼスタール人さんといえば、褐色肌で、白い髪、肌の各所に白い模様というイメージがありますが、別の民族や人種さんとか』
と大見。するとメラニーが首を傾げて、
『否定だ。私達ゼスタールに、このような人種は存在しない……一体何者ですか? マルセア議長』
マルセアはメラニーの質問に頷くと、無言でその棺を彼女は開けた……
「なっ!」「これは!」と、その姿を見た瞬間、息を飲む月丘に大見。
『!!??』と、スールでありながら、こんな記号の表情をするネメアにシビア。そしてこの状況をこの星に来て、初めて目にするメラニー。
彼らが見たその棺の中身は……非常に美しい女性の姿をした、六本腕の種族、ペルロード人であった……
* *
……しばしあまりに思ってもみない情報をブチ込まれたものなので、なんとも対応しようのない大見達。
シビアにネメア、そしてこの情報は初めて知るメラニーでさえも、スールになって久々に『狼狽』という感覚に襲われる。
さらに彼らが驚く理由、そう、そのペルロード人の『実物』を見た事である。
現在、あのグロウム帝国で、六本腕の神のごとく壁画として描かれた宗教絵画にその容姿を確認して以降、モフモフ種族さんであるガルムア人のジャンバップの証言や、インベスターのスタインベックの自称の話以外、所謂確実な、アホでも理解できる文句のつけようがない物的証拠というものが全くない状態だったのだが、今ここで遺体ではあるが、本物の『ペルロード人』を拝むことに相成った大見達であった。
「マルセア議長、これは……ペルロード人の方ですか?」
恐る恐る尋ねる大見。するとマルセアは本来情緒もプログラムされた演技ながら、驚いた表情で、
『!? オオミ司令は、ペルロードの民をご存知なのですか?』
表情こそ少し変わったが、口調はいたって冷静に大見へ尋ねる。
「はい、今我々の世界でも色々と話題になり、研究されている、所謂『謎の種族』です」
その言葉の後に月丘も入って、
「私達は今回のゼスタール星偵察の任とは別に、別の部門がこのペルロード人とはどのような種族か? と調べているのです。ただ、状況証拠や条件はたくさん押さえていますが、直接な物的証拠がまだないため、その存在自体に疑問視もされていた種族だったのですが……まさかここに来てこういった因果を絡めて来るとは……」
すると一人目を瞑って何かを考え、合議していたシビアが目をゆっくり開けて、
『いや……因果というよりも、「必然」なのかもしれない』
その言葉に「どういうことだ?」と訝しがる大見に月丘とプリル。
ネメアにメラニーはどうやらシビアに同意のようだ。
『グロウム政体のあの事案に、ガルムア人への我々が行っている支援作戦の一件、そして此度の、この眼の前にある事実……ヂラールに関する案件には、その背後、背景において、すべての事案でこの「ペルロード生体」の事件、存在が絡んでいる』
ナルホドと大見達三人も頷き、そこにメラニーが、
『私達は、単純にこの星の生存者を救出して、星を奪還するという当たり前の事をやろうとしただけですが……どうもそんな話だけでは済まない可能性が出てきた、という事ですか……』
『肯定……そうなれば、マルセア・トーラルシステムにも色々と尋問、いや、尋ねなければならない事が山のようにできた。もしかすると、お前の存在が、このヂラールとの因縁を止めるファクターになる可能性がある。認識せよ』
とネメアが言う。
プリルはマルセアから許可をもらって、そのペルロード人の遺体を画像データに収めまくってたり。
よく、世に『不思議な縁』という言葉を人はよく使う。だが往々にしてその「不思議な縁」というものは、その前後の因果関係や、因果理論によって、実は最初からゴールがわかっている出来事だったのかもしれないと言われることもある。
彼らが、かつて悠遠の王国ハイラで遭遇した、かの戦争。
あの経験で『知った』事によるフラグの必然がもたらした今の大見、月丘、プリル、シビア、ネメアの現実。
彼らは、この星に巣くうヂラールと戦い、排除抹殺するだけではなく、彼奴らの歴史という物も学習しなければ、この戦い、もしかして負ける可能性もあるのではないか……そんな不気味なイメージをも漠然と受け入れなければならない、それが今、この瞬間の必然なのであった……




