【第九章・奪還】第五三話 『謎の繁栄』
今偵察作戦において宇宙空母ヒリュウは、惑星ゼスタール軌道上に対探知偽装をかけたヴァルメタイプのドローンを何十機も放出している。
生体兵器ヂラールは、ティ連の探知偽装技術を見破れないため、幸いにもこのヴァルメから送られてくる軌道上の情報によって、連中の動きを監視できるというアドバンテージがある。
ただこれにもいくつか制限があり、波動性を伴う通信や移動手段を使用すると、ヂラールの敏感な感覚器官に捉えられて警戒態勢をとられてしまい、下手したら存在箇所を割り出されてしまう恐れもあるため、現状このヴァルメも静止偵察衛星のような、それ以上の仕事ができない状態であった。
情報は波動性を伴わないクォル通信、つまり『量子テレポート通信』で送られてくるためその点は問題ない。それでも軌道上の動きを把握できるだけでも幸いで、この情報はリアルタイムで火星の司令部にも送信されているため、ティ連と国際連邦の連合軍……略称で、「TU連合」と呼ばれているが……の現状の部隊・艦隊編成にも重要な情報として、これらのデータは活用されている。
さて、そんなところで地上にも宇宙空間にも偵察の目を張り巡らすヒリュウ部隊。特に今、偵察部隊の司令である大見は、軌道上の動きを気にしていた。
「どうですか、フォルド艦長」
VMCモニターの軌道上マップと、ヴァルメから送られてくる現在の軌道上のライブ映像を左に右にと視線をやって睨みながら何かを分析しているフォルド艦長。流石なのは、ライブ映像の切り替えスピードが非常に速い。状況を飲み込む能力はやはりスール・ゼスタールさんといったところか。
『……やはり、軌道上のヂラールに動きがあるようだ。揚陸型の動きが活発になっている』
その言葉に大見は少し舌を打つと、
「やはり、先の日本側と、ロシア側の戦闘ですか?」
『肯定。おそらくそれだろう。ヂラールもただ単に闇雲に反応し、対象を襲っているわけではない。末端の兵士兵器型は、お前達の言葉を借りるなら「バカのヂラール」なのだろうが、兵士兵器型の行動や目標を最初に決定する、この軌道上に存在すると見られる大元の司令塔ともいうべき『マスター・ヂラール』クラスは、やはり高度な知的思考性をもって、状況を分析している……』
と、フォルドがそういうと、VMCの映像を切り替えて、
『これを見ろ、オオミ司令』
VMC映像には、ヴァルメの捉えたヂラールコロニーにへばりつく揚陸型三隻の映像がアップで映る。
『揚陸型が寄生虫のようにコロニー型に張り付くこういった現象は、ヂラールコロニーから揚陸型へ戦力を移送させている時に起こる行動であることが解っている』
「ということは、連中はこいつらを地上へ下ろすつもりだと?」
『肯定。そう考えて間違いないだろう……グロウム戦時の戦闘データと、グロウム帝国から提供された偵察監視データの中で、この映像の状況と類似性のあるヂラールの行動を抽出し、分析。及び計算をするに……恐らく地球時間で五時間から六時間後にあの揚陸型が、このヒリュウ近郊、ないしはゼスタール星の何処かのコロニー近郊を襲うと予想できる。警戒したほうが良い。我々もこの野戦基地を撤収させたほうが良いだろう』
「わかりました。できれば大規模な機動兵器戦闘などはまだ行いたくないのですが……」
『考慮には入れておいたほうが良い。それと、もし「ゼスタールダンク」に行くのであれば、すぐに出立したほうが良いだろう。現行の撤収作業などは、我々が指揮を執る。オオミ司令は急ぐことを推奨する』
「わかりました。ありがとうございます艦長、では撤収作業は艦長にお任せします。私はゼスタールダンクの方へ」
そう大見が言うと、フォルドは頷いてヒリュウの下で野戦基地を展開している各国へ、予想されるヂラール軌道降下襲撃に対応して何時でも撤収できるよう、かつ機動兵器戦を展開できるように準備をするよう命令していた。
その命令に併せて、米国や英国の『M5A1コリン・パウエル』や、ロシアの『POT-117ヴェリカーン』は、その形態を戦車型からクローラー部を逆関節で脚のように伸ばした機動戦形態。つまり二足型に変形させ、人型に似た形態に移行させていた。
* *
「月丘君! いけるか!」
「はい、いつでもどうぞ!」
大見は戦闘服から特危自衛隊制服にパリっと着替えると、制帽のツバをクイクイといじりつつ、デルデ大尉やメラニー、シビア、ネメア他、デルデの中隊構成兵員であるネイティブ・ゼスタール人らとともに早足でヒリュウのスロープを降りてくる。
各国の撤収用フォークリフトと行き違いになる大見達。
大見はこれから護衛についてくれる米国、英国、ロシアの機動部隊要員と敬礼し、隊長クラスの幹部と何か確認作業を行っている。
デルデはそのヴェリカーンとコリン・パウエルを見上げて、少々訝しがる顔。特に足元をみて、クローラーのような脚部が逆関節で直立している『戦車が二本足で立った』ような兵器を不思議そうに眺めていた。
「メラニー博士」
「何かしら、大尉」
「あの走行装置は、我々の文明でも相当な昔に使われた技術だが……こんな古い技術を、あのヒリュウのような最新技術と併用して使用しているとは、なんとも変わった文明なんだな、チキュウという星は」
そのデルデの言葉を聞いて、地球社会や、特に日本がティ連の最新科学技術にデバイスを使えるようになった経緯を知っているメラニーは、
「我々が使っていた過去の技術を彼らが主力で今使っているからといって、それが劣った技術だというのは、この宇宙では通用しない。私はそう思う」
実際その通りだ。身近な話で言えば、ロシアの宇宙科学技術然り。今の話で言えば、そもそもゼスタールのドーラ技術を打ち破ったのは、突撃バカの一二ミリ口径対物ライフルの銃弾や、映画で見た第二次世界大戦の『対潜戦術』だったわけであるからして。
そこはメラニーも体験からそんな事言ってみたり。
「ほう、博士は何か異星の文明を覗いてきたことがあるような話をたまにするが……」
「もし異星文明があるなら、普通に考えられる話だ。私と同じ分野の学問を目指すものなら、同じことを言うだろうさ」
「なるほどね」
咄嗟に考えたメラニーの方便だが、ティ連も、時のガーグデーラも、今の地球に同じような事を思ったのは確かである。例えば『弓』という飛び道具にしてもそうだ。あの武器は人類の誕生とほぼ歴史を同じくする人類が最初に手に入れた『射撃兵器』である。
その武器が、原始時代に考え出されたその作動原理とほぼ同じくして、現在でも『コンパウンドボウ』のような強力な最新武器として存在し、市場で普通に販売されている。
従って『技術が古いから原始的』という理屈が成り立たないのがこういう世界である。
ということで大見達一行は撤収作業半ばの部隊を後にして、ネイティブ・ゼスタール人の中央政府がある『ゼスタールダンクコロニー』へ急ぎ向かう。
親善訪問隊という名の先遣偵察部隊だが、その内訳は……
○総諜対
20式シャドウローダーと、アーマーサイドカー一式。コマンドトルーパー『コマンドカーニス号』。
○特危自衛隊陸上科
高機動車数両。19式コマンドトルーパー数機。M型コマンドトルーパー浮遊飛行仕様数機。
多目的輸送車両三台
○米軍USSTC
M5A1コリン・パウエル数機。兵員輸送車数両。高速電源車五両。
○英国軍
M5A1コリン・パウエル数機。兵員輸送車数両。ジャッカル高機動車数両
○ロシア軍
POT-117ヴェリカーン数機、兵員輸送車数両。高速電源車三両
○ゼスタールダンク軍
戦闘トランスポータ一個中隊。中型ロボットスーツ兵器一個中隊。各種サポート車両数両。
と、結構な大所帯でゼスタールダンクコロニーへ向かう事になった。
ちなみにメルヴェン隊とヤルバーン州軍はヒリュウで万が一に備えて待機である。
結局、これもあの軌道上のヂラール降下部隊の影響である。基本、デルデ大尉の中隊ですら結構な規模だったのに、その倍に兵力が増えた感じだ。これでとりあえずヂラールの奇襲を受けても、相応に対処する事ができるだろう。
大見達政治交渉組の連中は、地球人、擬態ゼスさん含めて皆、特危の高機動車に乗っている。
で、ここでも特別目立つのがカズキサンで、隊を先導するかのように、あの派手な格好でサイドカー乗って、先頭を走っている。横には今度はネメアが乗っていた。シビアと交代したそうだ。
なんでもネメアが、『あの部分(側車部)に乗ってみたい』と仰ったそうで、今の月丘は、多分今回この星に来た地球人や擬態日本人の皆さんの中で一番別嬪さんであろうと思われるネメアを側車にのせて走っているもんだから、結構ジト目で見られてたりする。
「どうですか、ネメアさん。側車の乗り心地は?」
『ふむ、コマンドカーニスのマニュピレーターに座るよりは快適だ』
「あのマニュピレーターに座るのって、結構お尻にくるんじゃないですか?」
『否定はしない。確かに弾力性のある敷物が欲しいところではある』
月丘は「やっぱりなぁ」と確信を持って思う。それは少し前のネメアやシビアなら、こんな何でも無い会話は、無視されるか、一言二言であしらわれるような反応で終わってたのだが、最近の彼女達は、こういう会話にも普通に返してくる。返してくるどころか、まれに『愚痴』と理解できるような事も、あの物言いで発言することがある。色々いい方向にいってるのかなと思う月丘。
さて、部隊一行は探知偽装、即ち光学迷彩をかけつつ、ゼスタールダンクコロニーへ向かう。
光学迷彩かけても、この大所帯が移動すればヂラールに感づかれもするのだが。まあそれでも目で見えない分、コチラに分はあるのでまだ救われる……とか、そんな事を想定に入れて移動する一行。
行程は、メラニー達と合流した場所よりさらに一時間程、幹線道路沿いに移動した先の、山岳地帯にその入口があるという。
大見は、植物型ヂラールの生えた不気味な風景一帯を眺めながら……
「ふぅむ、この植物型ヂラールは、単に生えてるだけで、イルナットの植物型のように、何か能動的に攻撃を仕掛けてくるというものではないのだな」
この話に先頭を走る月丘はVMC通信で、
『ですが、ロシアのコスモスペツナズは、あのイルナットで出会ったみたいな個体とやりあったんですよね?』
「ああ、そう聞いているが……」
すると、大見の車に同乗するシビアが、
『この今見える植物型ヂラールが、我々……これはシビア・ルーラである私個人も含むが、ナーシャ・エンデのゼスタールをスールに追い込んだ原因の個体である』
大見の乗る車には、ネイティブゼスさんは同乗していないのでいつもの口調で語る。
「これがですか! あのシビアさん達が病魔に侵されたという」
『肯定』
実は、今回の偵察部隊がこちらに来る前に、シビア達からある薬品を支給されて、此度の隊員は全員その薬品を投与されてここに来ている。その薬品が、この『病原ウィルス』をばらまく植物型ヂラールに対応したものだそうなのだが、事前のワクチン接種もさることながら、ティ連の医療ナノマシンを体に入れて、さらにこの薬品で生成できた抗体をすでに体内に持っている此度の部隊員にとってはこの植物型の毒性も無関係で、言ってみればただの雑草にすぎないという感じである。
「なるほど……まあ私達にはティ連製の浄化装置もありますから心配はないのでしょうが、デルデ大尉達のようなこの惑星で生き残ってきた人々は……」
『恐らく、当初は我々と同じくワクチンで対抗したのだろうが、世代を重ねるごとに耐性を持った体になった可能性はある』
「でしょうね」
『我々が八〇〇ネン前に初めてこの攻撃を受けたときは、極めて即効性かつ致死性の高い病原であった為、時のゼスタールの民はそれらに対応できず、結果、我々はこのような存在になったのだが、後にワクチンを製造するにあたって、その製造は我々の当時の医療技術でもそんなに難しいものでもなく、すぐにワクチンは開発できたのだが、それ以上にこの病原の感染速度のほうが速く、今のようになった……スールになり、仮想生命素体で活動する今の我々には関係ない話ではあるのだが……』
その先を話さないシビア。何か思うところがあるようだが? 大見は気づくことなく、
「はい、それは私も月丘君達が月基地へ行った時の件を、瀬戸外務部長の資料と報告書で拝見しました」
するとその会話を聞いていた月丘が、
『この不気味な植物型も、要するに強力な毒ガスのような用途の生物兵器なのでしょうね』
「恐らくな。手段を解析されたら、もう何も恐れる事もない兵器だが、初会敵となった時に使われたら、致命的な兵器になる。BC兵器というのはそういうものだな」
後でデルデ達に聞いたところでは、まさしく大見達の分析が当たっていたようで、このヂラールの病原に対抗する薬品は既にあるそうで、今では全く脅威にはならないそうだ。
だが、その植物型本体自体にも、強力な神経性の毒を持っているそうで、あまり生身で迂闊に刈り取るような事はしないほうがいいらしい。やはり無害化されたように見えても、所詮ヂラールはヂラールだということである。その毒性で自らの勢力圏を維持しているのだ。
* *
大見達は月丘らが邂逅した地点から当初いわれていたように一時間ほど移動すると、大きな山岳を貫く、長い幹線道路のトンネルに入った。するとデルデから大見のPVMCGに通話が入り、
『大見司令、ここで隊を停止させてください』
「わかりました」
大見は全体に停止を命令する。するとデルデの中隊車両から兵士が数名降りて、何か色々と車両の停車ポジションの指導を行っているみたいだ。
トンネルの中は、国際連邦軍の新型機動戦車、二足移動モードの全高がすっぽり入ってしまうほど中は広い。ちなみにM5A1コリン・パウエルの二足時の全高は、8.5メートル~10メートル程なので、かなり大きなトンネルである。
月丘達はデルデの部下らが、『もう少し後ろへ』とか『前へ』とかやっているのを見て、「何がしたいのか?」という疑問を持ちながらも、言われた通りにしていると……
トンネル進行方向左側面の壁が上方向へせり上がり、さらにその奥からシャッターとおぼしきものがさらに上へ上がると……
次に先程停止位置を調整された場所あたりから、格子状の金属枠が上方から降りてきて、トンネル内で部隊が竹輪の輪切りのように分断されてしまうような状態になる……
その輪切り状のトンネルが各個別でケーブルカーのように、斜面を下っていくような移動を開始する。
と同時に、別の場所、すなわち進行方向より右側に隣接した箇所から新しいトンネルのパーツが、ベルト給弾式マシンガンの弾丸のように、大見達のトンネルと入れ替わるよう切り替わり、新しいトンネルを形成しているようだ。
その大仕掛に口を開けて驚く月丘
「うわ、すっごいですねこれは!」
するとネメアも驚いたようで、
『肯定……取り残された者達の建造物とはいえ、こんな大掛かりな建築技術を使用するものだとは思わなかった。評価できる技術だ』
「ネメアさんが生体でいらっしゃった頃にも同じようなものは?」
『我々が生体であった八〇〇ネン前の技術力でも、同じものを建築することはできただろうが、ここまで大仕掛けのものを、現在の戦乱期にあるゼスタールの民が作れるとは正直驚いている……現在のゼスタールの民が、分散したコロニーに、総計で二〇〇〇万人となると、一つのコロニーの労働力など僅かなものだろう。それこそ完全なレ・ゼスタシステム。即ちハイクアーンシステムのようなものがあれば話は別だが……』
「それこそドーラさん沢山作って使役して、って話なら不可能ではないと思いますけど」
『ツキオカ生体、一つ誤解があるようだが、お前達が「ドーラ」と呼称する仮想生命体兵器は、我々がスールになって以降に開発したものだ。だが確かにそれ以前にもドーラの原型となる無人労役型ロボットはあるにはあったが、ここまでの物を作るポテンシャルはなかったように記憶しているが……』
確かにネメアさんの言うとおりである。グロウムですら、あのヂラール戦争でグロウムの民は地下に潜ったが、その技術力も、マンパワーの不足や、技術者や科学者の減少等々により、かなり制限があったのは事実である。それが、人口二〇〇〇万人とはいえ、その技術を取り扱える人材はもっともっと少ないことを考えると、やはりこのトンネル施設のカラクリは、意外な科学技術の一端である。
ケーブルカーのゴンドラか、斜面を降りる巨大なエスカレーターか。輪切りにされたトンネル区画は、数分ほど斜面を下っていくと、ある深さで停止し、バラバラになったトンネルをつなぎ合わせるための微調整を行う大きな駆動音に機械音がしばらく鳴り響いた後、区画を仕切っていた金属の格子が上がって、また長い一本のトンネルと化した。
先頭にいる月丘は、
「大見司令、今デルデ大尉からこのまま前進してくれと連絡が入りましたので、前進します」
『了解だ。俺も今メラニーさんから連絡をもらった。このまま進んでくれ』
「了解です」
月丘は彼のすぐ後ろをついてきているプリルのコマンドカーニス号に手信号を送ると、カーニスもマニュピレータを上げて、了解のポーズ。更にカーニス号が後ろ向いてマニュピレータで手信号を送ると、各車両が一瞬クラクションを鳴らして了解の反応を出し、機動兵器も発光信号を点滅させる。と同時に隊列が動き出す。
今度はもう一本道で、この道の終着点が、『ゼスタールダンクコロニー』の入り口か、中心部か? そんなところなのだろう。
さて、ゼスタールダンクコロニーは、やはりこのような現状の星故か、かなり物事を警戒して造られている。
先のゴンドラと化したトンネルで下れば、すぐに入り口に到着するのかとおもいきや、あれから一五分は走っているが、まだ到着しない……延々一直線に走らされている。更には制限速度があるものだから、下手にスピード上げて走るというわけにもいかない。
なぜこんな構造の地下都市になっているかと、シビアやネメアが合議体共有機能でメラニーに問うと、もし仮に最悪の事態として、ヂラールが地下に侵入してきた場合、このトンネルの距離を利用して迎撃を行うために、こんな構造になっているのだと言う話。事実、ゼスタールダンクコロニーから車両クラスのものが外に出るには、このトンネルを通る以外に道はなく、あとは少々危険を冒すことになるが、個人単位では転送で外に出るしか方法がないらしい。
つまり一方通行のこのトンネルで敵を叩き、最悪、このトンネルを潰して敵を全滅させるという、そういった代物なのだそうだ。
「なるほど、どこの世界も考えることは同じですねネメアさん」
『肯定。だが、その施設が大型で大規模であればあるほど、効果は絶大である』
「確かに……プリちゃんはどう思います?」
『う~ん、確かにそうなんだろうけどぉ……八〇〇ネンですよね、ネメアチャン』
『肯定』
『でしょ? それにしてはこれだけ逼迫した状況なのに、この地下で戦闘行為があった感じがしないのはなぜかなあ……』
とさすがはプリ子。このトンネルが妙に小綺麗なところと、ネイティブ・ゼスタール人のおかれた状況に少し引っかかる点をみぬいて、そんな疑問を話す、というか、メラニー博士に問いかける。
『……それもゼスタールダンクに到着すればわかることだ』
とメラニー。ま、言われてみればそうかと納得する諸氏。今問うても意味がないわけなので、そこは当地に到着してからの話である。
* *
……結局思ったより長めのトンネルを走らされる諸氏。すると先頭を走る月丘が驚嘆の声を上げて、その声をインカムで全隊に流してしまう。
「これはっ……! はは、すごいな!」
その月丘の声に併せて入るは、
『ツ……ツキオカ生体の意見を肯定する……ここはなんだ……』
『ほりょー! って、ええええ? すっごい風景ですっ!』
トンネルを抜けると、そこは雪国だった、というのは川端康成だが、今、月丘達が見ているのは、トンネルを抜けると……そこは風光明媚な見事につきる山岳風景であった!
思わず月丘達にプリルはサイドカーに、カーニス号を停めて、その景色を眺める。
間をおかずに後続の部隊が来るが、彼らもこの風景を見て同じ事を思ったのか、車列を停止させて風景を見学だ。その命令は大見が出した。彼も高機動車を降りて、シビアとともに月丘達のところへ。
他の部隊連中も、M5A1や、POT-117のキューポラハッチから体を出して風景を見物したり、コマンドローダーやデルゲードのキャノピーアーマーを上へはね上げて、同じく風景見物。
今の月丘達車列は、トンネルを抜けた途端に現れた、山岳の斜面のような場所に設置されたドライブコースのような道路で停車している。車線をまたいで一本の道路を不法占拠しているような感じである。
「月丘君、これは一体……」
と大見は言うが、そういわれても月丘も何がなんやらわからないので、両手を横に上げるジェスチャーで、はて? ってな話。
するとデルデ大尉が、
「驚きましたか? オオミ司令」
と、ちょっとドヤ顔でやってくる。そりゃそうだ。大見や月丘は、あのTナンバーのアンドロイドが殺戮しまくる未来世界の抵抗軍拠点みたいな感じのスラムをイメージしていただけに、この状況は驚き以外の何者でもなかった。
アッチでは、シビアにネメア、メラニーが頭寄せ合ってヒソヒソ話。
「(メラニー合議体。我々はこのような状況に情報は共有できていない。齟齬案件である。非難に値するぞ)」
とシビアがクレームを入れると、
「(我々の予想した、ゼスタール生体の生活環境とは大いに異なる。場合によっては今後のニホン国や、ヤルバーン自治国、そしてコクレンが行う支援事業も大きく軌道修正を迫られることになる)」
と、ネメアさんもちょっとプンスカ状態になっているようだが、当のメラニーさんは、
「(我々は、この状況を……)」としばし考えた後、「(さぷらいずで用意したいと思い、あえて共有を遮断した。今後はこの状況を見て、ポジティブな思考を導入できるよう、シビア、ネメア、両カルバレータに対し、我々は意見する。了承せよ)」
と、要はメラニーさんは、ドッキリをやりたかったからという事で、シビアにネメアは『ハァ~』とため息ついて、まあいいかとメラニーの所業を不問にしてやることにした。
そんな状況を、他の国際連邦特殊部隊に教えにいってしまったメラニーさんは、反省の色一つもなしである。そこがゼスさんらしいところ。というか、本当にドッキリをしたかったのか? という疑いは残るのだが……
まあしかしというかなんというか、これが現実だから仕方がない。
一行は山岳ドライブコースのような道路沿いに車列を進ませる。
「メラニーさん、シビアさん、他国担当の、他のコロニーはどうだったんですか? まさか同じような感じだったとか」
この質問にシビアが通信で、
『他の担当合議体の話では、所謂「スラム」という程ではないが、完全な大型施設、即ち宿泊施設……お前達の言葉で言うなら、非常に規模の巨大な、「ほてる」や「しょっぴんぐもーる」のようなもので、今我々が目にしている自然環境を伴うようなものではなかったという報告を受けている』
続いてネメアが、
『グロウム帝国のサージャル大公領に存在した避難地区のようなスラム化も起こしていなかったそうだ』
なるほどと思う月丘。月丘達はてっきりそのスラム化した生活環境で抵抗してたものだとばかり思っていたが、冷静になって考えると、800年間も耐えてきた彼らであるからして、そうなれば相応の生活環境下になければ、疫病に食糧不足、内紛、犯罪等々で、一瞬に社会体制が崩壊し、生存どころの話ではないだろうと思う。
「とすると……少ないとはいえ、二〇〇〇万人もの人口を指導してきた優秀な指導者がいるか、もしくは指導体制があって然るべきという事にになるか……そうですよね、メラニーさん?」
月丘は、メラニーもこの話を聞いているだろうと思い、彼女に問いかける。すると、
『肯定である、ツキオカ生体。これからお前達は、このネイティブ・ゼスタール人を統括している「中央政府」の指導者と会うことになるだろう』
「それはどんな方なんです?」
『……予備知識があったほうがいいのか、それともないほうがいいのか判断できないが、この場合は予備知識無しで直に会ったほうが良い。我々はそれを推奨する』
ということは、メラニー合議体は、その『中央』の連中を知っているということになる。で、本来スールで、まあ言ってみれば『スパイ』であるメラニーが、相手側の立場でそう言うなら、彼女自身もその中央と相応に関係したものが持てているという予想ができる。
そんな事を考えていると大見も月丘達の話を聞いていたようで、
『まあそのあたりは直に解る話だ。彼らには彼らのストーリーがある。我々の予想していた事など、外れてしまえばもうどうでもいい話だ。成り行きに任せよう月丘君』
「了解です、司令」
『ですが、メラニーさんも、もう少し事前にこういったことはお話頂いたほうがよかったのではと……』
と大見もちょっと苦言を言ってみるが、
『我々の状況判断である。理解せよ』
と一言。はいそうですかと、ここは納得するしかなさそうであった……
* *
一行は更にしばらく走る。
この信じられない風光明媚な情景に風景を持つ地下施設だが、その明るさも昼間のように明るく、地下独特のイメージがない。
どんな構造なのだと空を見上げてみると、確かに雲塊を伴う青い空というものはないのだが、大体地上からおよそ五〇〇~六〇〇メートルはあるかという天井には大きな円盤状の浮遊物体がものすごい光度で光を放ち、等間隔で浮かんでいるわけで、この装置のおかげでこれほどの風景を持つ施設に光を与えているわけである。
「メラニーさん、この空間施設は、生き残りの方々が造ったものなのですか?」
『恐らく否定』
すると、シビアにネメアも同意して、『確かに恐らく否定だろう』と話す。
「どういうことですか? メラニーさん」
『我々も、八〇〇年前、当時のゼスタールの軍事施設で、こういった巨大な地下施設があるということは、知識として知っていた』
「基地としてですか?」
『肯定。だが、我々もシビア合議体も八〇〇年前は所謂“一般人”だ。そして現在のスール・ゼスタールもほとんどが当時の元一般人である。軍関係者は少ない』
ゼスタール人がスール化した時、このスール化自体が結果論で言えば、ある意味『失敗』だったわけであり、元来種の保存が目的であったこの計画の、データ化対象である一般人が全員スール化し、当時の軍人はヂラールとの戦闘でほとんどが殉職。スール化した軍人というのも極めて少ない人数であり、その変容したゼスタール人の職種比率がそんな風に歪だったものだから、彼らもかつてのゼスタールの記録をすべて網羅しているわけでもないのである。
なので、こういった特級の当時の軍事機密などは、データにない場合もあるのだ。
従って、スール化直後の当時にあって、ネメアのような元々軍出身のスールは貴重な人材で、今のゼスタール・スール軍は、ネメアのような人材が合議体機能をフル活用して作りあげたといっても良いのである。
「……なるほど、ではその数少ない元軍出身のネメアさんも詳しい事はしらなかったと」
『肯定。我々。いや、私などはイチ特殊戦闘部隊の隊長にすぎなかった。そんな高度な軍事機密など知る由もない。スール化した政治家達もそうだろう』
月丘は、なるほどスール・ゼスタール人の歪さというのは、こういうところなのかと理解した。
つまり現在の生き残りのゼスタール人が、スール・ゼスタールの歪さを補うかつての文明を守っている訳だ。そりゃこの生き残りのゼスタール人を必死で守りたいとスールな人々は思うだろう。
『話を戻すが、この地下空間が当時の軍事施設を利用したものであれば、我々も幾分かは納得できるが……』
「こんな風光明媚なものを軍が造ってたのか? とういうことですよね、ネメアさん」
『肯定』
なるほどなと思う月丘。その一連の会話を聞いていた大見も腕くんで小刻みに頷いていた。
……と、そんな話をしていると、先頭を走る月丘が、
「うわっ!! こ、これは!」
と叫ぶと、随伴しているコマンドカーニス号のプリルも、
『うひゃー、これはすごい!』
と感嘆の声を上げる。
そして後続がその風景を見れる位置に来ると、皆が揃って感嘆の声を上げ、目に入ってくる情景を一瞬疑わざるを得なくなってしまう。
ネメア達日本人に擬態したスールの方々も、声は出さないものの、目を見開いて驚いていたり。
なぜなら、その情景、風景は……
「これって……普通の都市じゃないですか!」
そう、目に入ってくるのは、『普通の都市』であった。
まあ確かに普通の都市とはいっても、基本人工の自然の中にできた……のだろう都市であろうとは思うので、地上で普通にある都市に比べれば違和感はある。だが、別に朽ち果てたビルディングがあるわけでもなく、どこかで火災が起こっているわけでもなく、トランプのマーク付けたモヒカンのオッサンが出てくるわけでもなく、見た目だけで言えば至って普通の地下都市、所謂『ジオフロントシティー』であった。
そう、彼らがゼスタールの、言ってみれば見捨てられた生き残りの末裔で、生き残るためには泥水すすって生きてきた……というイメージでは全くないのである。
なんとなく拍子抜けする偵察隊一行。隊列はまた一時停止してしまう。
この状況をアルド・レムラー統制合議体などは、把握しているのだろうかと……いや、先程の話では、メラニーが報告していないということは、知らないのだろうと。
そうなるとメラニーとその合議体が何を思ってこのコロニーの報告を止めたのかと。普通に考えれば、そこを疑問に思わざるを得ないわけである。
当然、この状況も……やっぱり報告していないメラニー偵察合議体さん。
『メラニー合議体……』
腕組んでジト目なシビアにネメア。流石にここまで報告してないのはマズイだろうと。
意識を共有できるのが売りのスールさんなのに、共有を遮断してまでなぜにこんな大事な『状況』を報告しなかったのかと。正直言って今、ゲルナー司令や、アルド統制合議体閣下は、頭抱えてるぞと。
ぶっちゃけ職務怠慢じゃないかと。
ま、スール・ゼスさんの内輪では現在非難轟々な状況かもしれないのだが……
よくよく考えると、他のコロニーに派遣している偵察合議体の諸氏も、この状況を当然知っているはずだが、彼らからも報告が上がっていない。となると、メラニー一人の問題ではないわけで、シビアはその『共有機能』の能力でメラニーに、
《メラニー合議体。お前ほどの偵察合議体が、報告を怠る……いや、報告を保留するということは、我々がその事由を事前に認知しないほうが良い案件が存在する……という判断をしたという事なのか? 回答せよ》
《肯定である。我々がティエルクマスカ政体の遮蔽技術を使用して、まずは表面上のデータとして母星に生存者がいることを発見したわけだが、我々が推測した状況とはかけ離れた事態が、この星に構築されている。そしてその理由も解明できている》
《なんだと?》
《その状況を報告しても良かったのだが、そこにいらぬ類推が入った場合、大きな混乱を起こす事を派遣された我々偵察合議体全員が憂慮した。従って今は何も先入観を持たぬ目で、これから見る状況に対応してほしい。勿論、我々はすでに状況を把握できているので、完全なサポートを保証する》
《……》
シビアはしばし考えると、
《了承した。ゲルナー司令、アルド統制合議体も了承の意思を示したようだ》
《評価及び感謝する。ネメア戦闘合議体にも理解を請う》
《肯定。了解した》
月丘はシビアにネメア、メラニーが黙して視線のみで会話しているような感じなので、恐らく意思共有でもしてるのかなと察し、
「シビアさん、お話はつきましたか?」
と話しかけてみると、
『!? ツキオカ生体は、我々の意思共有を傍受していたのか!?』
と驚愕の表情。月丘は、「いやいやいや」と手を横に振って、
「そんなのじゃありませんよ。大体みなさんの表情みてたらわかります。何か内輪で脳内会話でもしてたのでしょ?」
『ん……肯定である。そんなところだ』
「シビアさんにネメアさんもこの風景に驚いていた……ということは、おおかたメラニーさんが報告してなかったとかそんなところじゃないですか?」
『う……こ、肯定である。ツキオカ生体は推理能力が高い。パーソナルデータを更新する』
「ははは、どうも評価いただきありがとうございます……となると、我々も最初はネメアさん、つまり偵察スール・ゼスタールさんの情報で、ここまで来ているわけですから、この状況に驚いてる現在は、当然の結果というわけですか……なるほどね……大見司令、お聞きになってましたか?」
月丘はインカムに手を当てると、
『ああ、聞いていた。ということはあとの事はメラニーさんにお膳立てしてもらうしかないわけだ』
「ということですね。前進しますか?」
『もちろんだ。ここまで来たんだ。あとはなるようにしかならんだろう。まあどっちにしろこの星をヂラールから奪還するにはここの中央の方々とは会わなきゃいかんわけだしな』
「了解です。では休憩時間は終わりにして、前進します」
なるようにしかならない……大見の言った言葉の意味は月丘も同じ意味で理解していた。
それは、もうスール・ゼスタール人と、この星のネイティブ・ゼスタール人は、『別の種族』に近いものだと思う必要があるかもしれないということである。
従って、この惑星を奪還した後の事もどう考えているのか……
もしこの生存者がいなかったら、単純にスール・ゼスタール人がこの星に帰還し、彼らの思う今後の生活や文化を復興させていくという、基本としてそんなシナリオがあったのだろう。そしてあの星系規模にまで発達した、巨大と言うには大きすぎる人工建造物、『ナーシャ・エンデ』をどうするかとか、そんな話も出てきたはずである。
だが、生存者がいて、ここまでの文化、科学技術レベルで生活を維持しているとなると、そんな単純なシナリオでは済まなくなる。これをスール・ゼスタール人はどこまでの問題だと認識しているのか?
そう思うわけである。
* *
さて、ぶっちゃけた話、日本やヤルバーンにティ連、そして国連軍は、現在のゼスタールを、それこそ冥王星から放射性爆弾を撃ち込まれまくった地球の地下都市とか、生活状況で言えば、かの元カリフォルニア州知事型アンドロイドの量産型と死闘を行っている未来世界のような感じとか、生き残りゼスタール人の現状をそんな風に予想していたTU連合軍であって、その予想を完全に無いものにされた今となっては、はっきりいってリセットかけて現場で一からやり直しに近い話になっていた。
大見がここに来て思うは……
(こんな事になるなら今からでも柏木を呼ぶか?)
とか、流石に冗談ではあるが、それでも彼の助力を得たいところではあった。
でも大見が期待するのは、
(月丘君が、柏木みたいな役をこなしてくれたら有り難いんだがな……)
元キワモノPMCで現地交渉担当を主な仕事にしていた月丘和輝。
柏木のような筋金入りのプロのネゴ屋ではないが、局地における裏稼業の仕事で言えば、月丘の方が場数を踏んでいる。
白木にしても、柏木にしても、大見はもちろん、そもそも彼を助けたイツツジグループの麗子も、そこに月丘の能力を見出しているのであって、それ故にイツツジ時代の『保険調査員』から今の『情報省諜報員』なんて仕事をやっているのである。
なので月丘は、彼が今、単純に偵察特殊部隊の一人と思っているほどに単純な立場ではないのであったりするわけなのだが……
* *
さて、名目上は『親善訪問隊』となっているこの部隊。
彼らは地下の山岳ドライブウェイのような道路から、街の幹線道路のような場所に入り、即座にその風景が、風光明媚な自然の景色から、境界線を引いたように人工物に自然植生を装飾したような、そんな風景に変化した都市部入口になるような場所へ入っていく。
建造物の窓からは、TU連合とデルデ中隊の部隊を見下ろすネイティブ・ゼスタールの人々。
月丘や大見、シビアにネメア、他地球人の部隊員も、窓から、ベランダから、姿を覗かせるネイティブ人に視線を合わせて眺めていた。
みな一様に真っ当な服装であり、普通の『街』の住人である。
デルデ大尉が大見のPVMCGに通信を入れてきて、
『どうですか、オオミ大佐。立派な街でしょう?』
「え、ええ……確かに」
『メラニー博士からどんな事を聞かされていたのか知りませんが、大方みなさんは、あの軌道上のヂラールの規模を見て、相当荒廃した我々の姿を想像していたのではありませんか?』
「……」
なんとも回答に窮する大見。まあ確かにメラニーがきちんとした情報を入れてくれなかったので、それはそうなのだが、そこを話せばこれまでの作戦推移が全部オジャンであるわけなので、デルデの問には答える事なく、苦笑いと惰性で、とりあえずその場は誤魔化した。
やはりこの隊で目立つのは、日本やティ連のテクノロジーで造られたコマンドローダーにコマンドトルーパーではなく、米英露のマニューバータンク(MT)である。
クローラーを縦置きにしたような変わった2脚立ちで、ローラースケートのように動いている人型機動戦車は、彼らの過去にも同様の兵器が存在しなかったのだろう。かなり珍しいものを見るような視線を浴びていた……要するに古臭い技術で、新型兵器にも劣らぬ器用な動きを不思議がっているのである。デルデ達と同じように。
暫く進むと、彼らゼスタールダンク軍の軍事基地らしき場所に誘導され、大きなグラウンドで彼らは停止させられる。
デルデ大尉は自軍のトランスポーターから飛び降りると、すぐさま自軍中隊の兵士達をキレイに整列させて待機の姿勢を取る。ここは地球の軍隊なら、足を少し開いて『休め』の姿勢だが、彼らも同じような挙動をとっていた。
大見達TU連合軍もしばらく待機するように言われたので、各国軍は司令である大見の指示の下、同じく整列して待機する。月丘達も同じような感じ。彼は今、コマンドローダーの装着を解いて、背中に大きく『SIF(Spesial Intelligence Force)と書かれたツナギ状の戦闘服を着て、休めの姿勢をとっていた。
シビアにネメア、プリルも同じような感じ。
すると、軍事基地の建物内から護衛を伴って、一人のゼスタール人女性が姿を現す……容姿の頃は、地球人の美的感覚として、二十歳代後半か? それぐらいに見えるか少し若く見える。
シビアの話では、生体であった頃のゼスタール人の平均寿命は、地球時間で大体一三〇歳代で、最高齢は一六〇歳ぐらいだそうである。地球人よりは長寿だが、寿命的には地球人よりも少し高いぐらいだ。ということは割と若い女性ということになるのだろう。
その女性ゼスタール人の頭髪は長く、着用する衣服もかなり高価なもののようである……なぜに高価かどうか分かるのかというと、月丘は以前に資料として、八〇〇年前のゼスタール人の生活というものをゼルルームに構築し、かつてのゼスタール人八〇〇年前の日常を体験させてもらったことがある。その時の、ゼスタール版女性雑誌のようなものを拝見したことがあったからだ。だがまあそこは流行りに廃れもあるものなので、一概にそれを着てもゼスタール人らしい姿か? といえば少々疑問なのだが、
『デルデ大尉、メラニー博士、ご苦労でした……特にメラニー博士、貴方の作戦、功を奏したようですね』
『はい、中央統括議長閣下』
『デルデ大尉も、よく博士達を守ってくださいました』
『ハッ!』
まずはその女性、中央統括議長という立場のようだ。名称からして恐らくこのコロニー、そしてネイティブ・ゼスタール人達のトップとなる人物だろう。
その統括議長、デルデとメラニーに労いの言葉をかけると、統括議長はデルデ達の隊に解散を命じたようで、整然と行進しつつ、原隊へと帰っていった。デルデは月丘の方を向いて、軽く敬礼していた。
統括議長は残ったメラニーと、お付きの官僚か閣僚とともに大見のもとへとやってくる。
大見は整列し、休めの姿勢をとる隊に気をつけを命じると、規律正しく挙手敬礼を行う。
と同時に、メラニーが大見達を紹介しているようだ。
『……遠路はるばる我々のためにありがとうございます。私はゼスタールダンクコロニーの中央統括議長、マルセア・ハイドルと申します』
マルセアという女性議長は自己紹介をすると、地球式の握手を求めてきた。この握手はゼスタールでも地球と同じ挙動であることはもう知られている。
「私はティエルクマスカ銀河星間連合及び惑星地球国際連邦連合軍先遣偵察隊の司令を努めます、大見健と申します。ティエルクマスカ連合議長、サイヴァル・ダァント・シーズ、及び、国際連邦理事会議長、ジェスター・マックスウェルの全権を受け、あの忌まわしきヂラールを駆逐し、この惑星を奪還するための交渉に臨ませていただきます」
『ありがとうございます、オオミ司令閣下。では早速、我が国の現在最高の宇宙文明学の権威であるメラニー・ホルプ博士も同席していただいて、今後のことを話し合いたいと思います』
「畏まりました統括議長閣下」
『ではメラニー博士、色々と“解説”もあろうこととは思いますので、あとのことはよしなに』
『はい、お任せください閣下』
マルセア議長はにこやかに頷くと、連れ添い連中を伴って、もと来た道を帰っていった。
大見は……いや、大見だけではなく、その様子を見ていた月丘にシビア、ネメアにプリル、他、各国軍の隊長達も、なんとなく訝しがる表情。
そう、みなが思うのは、『中央の一番偉い人にしては愛想がない』ということであった。
普通なら、遠路はるばる別の銀河を通り越して、広大なマルチバース世界の別宇宙からやってきたともなれば、更にそれまで異星人と邂逅したことない文明で、おまけにヂラールと共闘するためにやってきたとなれば、例え単なる一介の偵察部隊だろうと普通なら『お祭り騒ぎ』ではないのか? と……
まあ、あまりドンチャンと騒げば、ヂラールに察知されてあまりよろしくないというのはわかるが、それでも地味すぎだろうと。先遣偵察部隊だからといって、舐めんなよと。
……と、それに近い共通することを皆が普通に思う訳だが、メラニーは流石偵察を主任務とするスール・ゼスタールの軍人である。
その表情を感じ取ったのか、メラニーが質問をしてくる。
『オオミ生体』
「はい……何でしょう?」
『お前達の表情に、疑義の感情が入り混じってるいるように見える。今後の共同作戦を考える上で、そういった疑念はあまりよくないと考える。何に疑義を持っているのか、その理由を回答せよ』
「……」
少々答えに窮する大見だが、ここはやはり聞いておいたほうが良いと思い、先に思ったことを彼女に投げかけた。
するとメラニーも大見の問に頷いて、というか、「やはりそういう質問が来たか」といった感じで、
『ではその“解説”も必要なようだ……オオミ生体、一緒に来てもらいたい』
「わかりました」
先程マルセアが『解説』という言葉をそれとなく言ったが、同じようにメラニーもその言葉に準じるように話すので、訝しがる大見。
まあとりあえず『来い』というのであるからついていくことにする。といっても部隊司令が一人でというのも何なので、許可をもらって月丘、プリル、シビア、ネメアの総諜対面々を同行させる事にした。今回の中では、このメンツが一番政治向きである。
* *
一行は統括議長府なる施設へ案内される。案内するメラニーも慣れたもので、まるでもう以前からここに住んでいる者のように振る舞い、施設を警備する衛視にも顔パスで通されるような立場にあるようだ。
だが……
「これが……統括議長府、ですか?」と大見。
「確かに……とても政府中央機関には……」と月丘。
『……』『……』黙して語らないシビアとネメア。だが、その視線は周囲の風景をくまなく分析する視線だ。
そして技術者のプリルが、
『これって……どこからどう見ても研究施設じゃないですか……』
その通りである。
確かに統括議長府という表向きの施設は、何やら相応の国家元首が執務でもしていそうな建造物の雰囲気ではあったが、いざ中に入ると、どう見ても何かの研究施設にしか見えないという、そんな情景であった。
中に行き交うは、ゼスタールの軍人のようだ。更に言えば、白い制服のようなものを着た人々、おそらくゼスタール風味の白衣を着たような人物が多数行き交っている。
だが、その行き交う人々にも違和感を感じる一行。
何か会話をするわけでもなく、親しげに話しているような感じでもない。黙々と仕事に打ち込んでいる、そんな情景なのである。
『シビア合議体、ネメア合議体……』
メラニーが黙々と歩みを進めながら、二人に会話をふる。
『何か?』とシビアが応じると、
『我々が各合議体との意識共有を停止した理由が、今からわかる』と少し険しい表情でメラニーは言い、
『どういうことだ?』とネメアが疑義を呈する。やはり単に共有停止措置は『サプライズ』でやってたわけではいということだ。即ちサプライズ自体が、まあ話半分で『方便』だったといったところだろう。
メラニーは……
『状況を言えば、現在もまだこの惑星ゼスタールについて調査中だからだ』
つまり、ティ連と国際連邦が、ゼスタールの情報を元にこの地へやってきたわけであるが、スール・ゼスタール側は、現在の生き残りがいる惑星ゼスタールの現状調査をすべて終えて、この星へやってこれたと理解しているわけである。
確かにこの作戦を発動した状況はそれで正しく、間違ってはいない。実際メラニーも援軍であるTU連合軍の到来と合流に安堵したのは確かであるからして。
だが、それとは『別に』メラニー達は、何か別件を調査していたようで、その案件に関連する情報を共有させなかったようなのである。
そこはモチロン彼女達が『偵察合議体』という本分故であって、正確な調査結果が出ない限りは情報として共有しないという彼女達の仕事だから、といったところだろう。
だが、その『現在も調査中』というメラニーの言葉に疑問を感じる大見達。
しばし厳重なセキュリティを幾度か抜けて、巨大かつ、荘厳で立派な扉の前に立つ五人。
メラニーが衛視に頷くと、その衛視は敬礼をすることもなく、五人の目を見る事もなく、扉の解錠を操作する。
大きな扉は観音開きで奥へ開くと、入室を許諾するサインとともに、衛視が目線で『入れ』と促す。
こっちには援軍に来た大見達『客人』がいるというのに、愛想もナニもあったものではない。が、逆に言えばそんな部外者がやってきても、拒否をするような素振りもない。
更に訝しがる大見に月丘、シビアにネメア、そしてプリル。
恐る恐る中に入る四人。部屋は暗い。
ただメラニーは慣れてるのか、背筋を張って、カツカツと靴を鳴らして、先に進む。
しばし進むと、部屋に明かりが灯る。刹那、その部屋の中は、とても大きな空間であることがわかり、周りの風景が目に飛び込んできた。
「なっ! こ、これは……!」
『え、え? えええええ??!』
と真っ先に反応したのは、月丘とプリル。なぜなら彼らは目に飛び込んできたそれを何か知っているからだ。
月丘は、以前、ディスカールで見たことがある。プリルは知ってて当たり前。
『どういうことだ?』とシビア。
『状況の判断が困難である。メラニー合議体、緊急の説明を要す』とネメア。
シビアにネメアはゼスタール合議体がティ連に加盟してから、この存在を知った。
で、理解するのが一番遅かったのが、大見であった。
『どういうことだ? 確かこの物体は……柏木が以前見せてくれた……』
彼らが見たモノとは、大きい数段の台座に据えられた巨大な物体。空中に無数のVMCモニターが展開され、それは幾重にも連なって、そして重なり何かを映し出し、中央の物体は、幾何学的な形状で、美しい反射光と、スリットに光線を放ちながら威厳をもって、動いている。
多分ヤル研連中が見たら、『Oh No!ミ……』とか叫びたくなるような、そんな威厳の機械がそこにあった。
そしてその機械をプリ子が『解説』する……
『これって……オリジナルタイプのトーラルシステムじゃないですかっ!』




