【第九章・奪還】第五二話 『スール神』
『こちらファースト、位置についた。なんとか間に合ったみたいだ、送レ』
『こちらセカンド、目標を捕捉。これは結構な数がいるぞ、送レ』
『ブイサード、こちらも準備完了、送レ』
『こちらエックス。準備完了。シャドウチームの援護に入る、送レ』
なんかどこかで聞いたことあるようなコードネームで呼び合うは、現在、特危自衛隊、八千矛部隊と共同で作戦を展開する、本土陸上自衛隊特殊作戦群の勇士達。通称、『特戦群』
彼らも今回の作戦ために、特殊かつ、過酷な対宙間作戦訓練を受けている。基本、陸自の標準的な特戦群部隊とは少々違う運用をされる事になっている次第。
元来、この特戦群は自衛隊部隊の中でも秘中の秘の部隊で、式典等の制服姿で登場する場面でもフェイスマスク付けて顔を隠しながら制帽被っているような部隊である。恐らくこの世界では、特危八千矛にならんで、いや、それ以上に日本国自衛隊の中でも最精鋭の部隊であることは間違いない。
そんな部隊が呼び合うコード。今のカズキサンのケッタイな格好に合わせたジョークも多分に含んでいたりする。但し、選考対象が昭和なのが玉に瑕。
『こちらアミーゴ。状況開始。状況開始』
各特戦群部隊に、宇宙空母ヒリュウを屋根にした野戦司令部から指揮を執る大見の命令が、VMC通信で入る。
* *
「結構数がおおいですねっ! と!」
片手持ちに改造された大型拳銃の如き機動小銃を右に左に振り回すがごとく撃ちまくる『20式シャドウローダー』
「ツキオカ! こいつと合体したほうがいい!」
今、日本人を演じてくれているシビア・ルーラ調査合議体。シビアは月丘の代わりに乗っていたサイドカーから飛び降りると、即座に自分の身にL型ローダーと機動小銃を造成着用して戦闘態勢に入る。
月丘は無人で彼に突っ込んできたサイドカーに飛び乗るとスイッチを操作。側車部がパージされてバイク本体が変形し、月丘のL型コマンドローダーへ複雑な機構変形を刹那の速度で完了し、接合装着、というか、早い話が“合体”すると、彼の20式シャドウローダーはM型モードへアップグレードする。
「よっし! いい感じですね!」
月丘は自分の持っていたソードオフ機動小銃をシビアに投げて渡すと、シビアは二挺小銃持ち状態になり、両の腕に保持したその銃を少女の如き小柄な体で乱射してハンターヂラールを迎撃する。
シビアは「ゼル端子を使えれば」と思うが、今は彼女も日本人ということになっているので、現状は抑えた。
翻って月丘を見ると、彼は右腕に装着された強力な速射斥力砲に、肩部に装着された対機甲ブラスター砲を撃ちまくっている。シビアと背中合わせになって互いの後ろを守るように、かつ、ネイティブゼスタール人と共闘するように彼らの動きに合わせてその戦闘位置を変える。
……すると……
ネイティブゼスタール兵に襲いかからんとしていたハンター型ヂラールの頭部が空中で吹き飛び、瞬時に体液撒き散らして生体活動を停止して遺骸となった不気味な生物が、ゼスタール兵の傍らにドサリと倒れる。
月丘達が戦ったヂラールを統率すると思われる存在、件のコードネーム『マスター・ヂラール』の統率下に『無い』と思われるこのハンターヂラール。状況に狼狽し、逃げる輩もいれば、どこからともなく湧いてきて、ネイティブゼスタール人や、月丘達にこれまた再度襲いかかってくる輩もいる。
メル曰く、『バカのヂラール』の本領発揮で、結果的に『逐次戦力投入』という軍事作戦ではやってはいけない愚かな手を打ってきている訳なのだが、それも数が伴い、『ヂラール』という存在ともなれば、そうも言ってられなくなってくる……のだが……
次々に現れるヂラールは、ゼスタール兵や月丘達、さらには後方を援護しているプリルにネメアが何もしていないのに、バタバタと勝手に頭部を吹き飛ばし倒れていく。
なので、月丘達が戦いやすくなる状況が時間をおかず自然と出来上がる。
「お? 特戦群のみなさん、間に合ってくれたみたいですね」
そう、この状況、件の特戦群の諸氏が、月丘達のバックアップに追いつき間に合い、探知遮蔽をかまして何処かにアンブッシュしつつ援護してくれていたのである。
その援護スナイピング能力は恐るべしといったところであろうか。その様子を見るシビアも、
「この狙撃能力は驚異に値する。特段に評価すべきものだ」
と思わずいつもの口調になって、特戦群連中を褒め称えてたり。
ハンターヂラールは、仲間がろくな攻撃もできずにバタバタと致命傷を負わされて倒れていくサマに何かを感じ取ったのだろうか? バカな連中ではあるが、流石にここまでコテンパンにのされれば、状況がおかしいと察したわけで、逐次戦力投入のような攻撃を中止して、何処かに素早く引き上げていった……
「こちらシャドウ・アルファ、総諜対月丘三正。Sのみなさん、援護感謝します。送レ」
『こちらファースト。間に合ってよかった。まあこっちも初体験だ。あんなので良かったか? 送レ』
「上等ですよ。あのシビアさんが褒めてましたよ。送レ」
『了解だ。ハハ、ではあとの段取りは任せる。よろしく交渉を頼むぞ。送レ』
「わかりました。ではまた後ほど。ヲワリ」
何処かで身を潜め、再度彼らのバックアップに回る特戦群の方々に礼を言う月丘。あのヂラールが自らの判断で攻撃を中止して撤退していくような、恐るべき狙撃の嵐を見舞えるその能力は、やはり流石である……
「(メラニー・ホルプ・カルバレータ。任務遂行を評価する)」
「(シビア・ルーラ・カルバレータ。非常事態の回避を評価する)」
スール・ゼスタール人同士、小声でそんな会話なんぞ。
メラニー・ホルプ・カルバレータも少しホっとしているような、そんな表情である。
……さて若干、いや、かなり大き目のトラブルはあったにせよ、とりあえずメラニー偵察合議体の手筈通りにこの惑星ゼスタールの、生き残りの方々と邂逅することができた。つまりなんだかんだ一悶着あったが当初のシナリオ通り、という訳である。勿論月丘達もメラニーの事は事前に知っている。そりゃ今から諸々行う『お芝居』の役者の名前を忘れているようでは、演者としてお話にならないワケであるからして。
月丘はM型モードからL型モードへバイク型変形装着ユニットの合体を解除する。
元の形に戻ったバイクは自律走行でパージした側車を自動でくっつけ、元のサイドカー状態に戻して待機状態に入ったようだ。
彼は拡声機能を使って、
『我々は、ティエルクマスカ銀河星間共和連合及び惑星地球圏国際連邦連合軍の月丘和輝と申します。こちらに異文明探査学者のメラニー・ホルプ博士という方はいらっしゃいますか!』
肉声の日本語の大きな声と、拡声器から聞こえるゼスタール語の音声。まさか言葉を解するのかとネイティブ・ゼスタールの兵士達は身構えてしまう。
月丘もそんな事を言いつつ、視線をメラニーの姿に合わせる。事前にシビアから容姿のフォトを見せてもらっているので、当然メラニーが誰かはわかる。華奢な体格で白髪ロングヘアー。理知的な顔つきで、いかにも感漂うキャリアウーマン風の容姿年齢二七歳ぐらいの褐色肌な学者が手を挙げて立ち上がる。
『私がメラニー・ホルプです。異星の方々』
メラニーも当然だが、月丘の事はもう充分に知っている。そりゃスール・ゼスタールさんであればその理由は今更である。つまり、この会話も台本があるというわけではないが、要するにお芝居であったりする。
月丘はメラニーをバイザーに表示されるフォトデータと照合して確認すると、ヘルメット側頭部のスイッチを押し、フレームで大きくゴーグル状の目のように仕切られた赤い色のバイザーを上へプシュンとあげて、素顔をメラニー以下、ゼスタール人の前に晒す。
月丘の顔を見たネイティブさんは、皆して『おお!』と驚きの声を上げる訳だが、これが言うなればネイティブ・ゼスタール人の、ヂラール以外の異星生命体との初邂逅となる。
更に言えば、ヂラールのバカ特性は知的生命体とは言い難い『半知性体』の所作なので、彼らにとっては地球人や、知的生命体とのファーストコンタクト、ということにもなる訳である。
そりゃ確かにゼスタールもかつては宇宙を股にかけた惑星国家ではあったが、同様の知的生命体との邂逅はヂラールに本星が侵食されて以降、その研究もチャンスもなかったわけで、この現実が、メラニー偵察合議体が、『メラニー・ホルプ博士』という天才博士を演じる事のできる下地となっているわけである。
メラニーはニコニコ顔で、かつ恐る恐る月丘の差し出す握手の手を握る。って、これもそれらしい演技をせんといかんというメラニーの小芝居である。
月丘はメラニーの手を握ると、グイと自分の元に引き寄せて、これまた小さな声で、
「(メラニーさん、初めてお目にかかります。私が総諜対の月丘和輝です)」
そういうと、彼女も全て了承しているというような口ぶりで、
『(了承している。シビア合議体や、ネメア合議体からお前の資料は提示され、熟知している。良好な共同作戦を展開できると期待する、ツキオカ生体)』
月丘はその言葉に頷くと、メラニーが口調を変えて、
「やっとお会いできましたね。かれこれあなた方との通信が確立して、交渉を始め、このように早期にお会いできたことを、私は嬉しく思います」
とメラニーは言うが、そういうシナリオである。こういった状況を可能とする研究を随分前からしていた……という体裁をこのネイティブ・ゼスタール社会でメラニーは構築する工作活動をやっていた……彼女の履歴、経歴、社会的地位、家族構成ナドナド。その手の偽装工作はメラニーの十八番である。
『ええ、私達もあなたの通信を傍受した内容を見て、他人事ではないと早々に政府をあげて対応を行い、このようにこの地へやってまいりました』
すると、
「ツキオカカズキと仰ったか?」
と少々訝しがる目つきで、先程の“中隊長”がメラニーの傍らに立つ。
『あなたは?』
「私は『ゼスタールダンクコロニー軍』大尉のデルデ・フォンドだ」
と、そのデルデ大尉はゼスタール式敬礼……顔面の前に握り拳を作るような所作……をすると、
「私がこの部隊の責任者だ。このような騒動になってしまったが、手を貸してくれたことに感謝する」
『いえ、どういたしまして』
「ふむ……メラニー博士、確かに彼らは異星人だ……はは、私もこんな映像作品のような状況を、この年になって体験できるとはな。なるほどこれはスール神の降臨を拝むより夢物語に近い話という奴だな」
「これで大尉もやっと私の話が現実のものだと理解できるようになったか?」
メラニーの口調を聞くに、どうやら彼女はやはりその容姿の通り、キャリアウーマン系の科学者設定のようだ。大尉という階級相手の軍人にもタメ口であるから、そんなところなのだろう。月丘先生もその設定に合わせなければと、これまた少し口尖らせて考えてみたり。
デルデは話を続ける。
「……この肌の色に、髪の毛の色、そして目の色。こういう人種は我々の社会には存在しない。ナルホド確かに『異星人』だ。この上ない『物的証拠』だな。こちらには、肌の色や髪の色も我々と同じような感じだが、肌の模様がない……確かにこれは間違いない」
褐色肌のサーファーガールイメージはシビアの日本人モードの事だ。
デルデはそう感想を言うと、月丘に握手を求めてくる。当然コマンドローダーのマニュピレーターから腕を抜いて、その手を握り返す月丘。その姿を見て、シビアも小さく頷いている。
「メラニー博士、これは大手柄だ。今になって中央が博士の案に乗った理由が理解できた」
「わかってもらえて嬉しいよ大尉。これであの『昇華の日』から数百周期、この星をこの手に取り戻す大事業を行うことができる」
メラニーの演技も大したものだが、でもこの言葉自体は、彼女、いや、彼女らの本心なのであろう。
「(シビアさん……)」
「(何か?)」
「(メラニーさんの今仰った『昇華の日』というのは?)』
「(我々も初めて聞く言葉だったが、メラニー・カルバレータの報告では、我々が八〇〇ネン前にスールになってしまったあの作戦の日の事を、今の彼らはそう呼びならわしているようだ)」
「(なるほど)」
デルデ大尉らにわからないように話すときは、日本語で会話といったところ。シビアらも日本語はネイティブ以上にペラペラなので、普通に会話できる、
こういうことはマメに聞いておいて予備知識で入れておいたほうがいいのは諜報員の心得である。
「で、ツキオカカズキ」
『ああデルデ大尉、その“ツキオカカズキ”というのは、私の姓と名ですので、私のことは“ツキオカ”で結構ですよ。我軍での階級は、あなた方でいえば“少佐”になります』
「し、少佐? では私より上か!、あ、いや上ですか! それは失礼いたしましたツキオカ少佐」
「あ、いえいえ、異文明同士でそういうのはあまり関係ありませんから。で、何でしょうか?」
「一つ質問が……先程あなたは『ティエルクなんとか連合とナニガシ連邦連合軍』と仰ったが、他にも所謂異星種族の方は、これ以上にいらっしゃるので?」
『あそうですね、この部隊にはあと一人……プリちゃ……ゴホン……プリル二士! ネメアさん、いる!?』
『はいはーい、今そっちに行きますねっ!』
『今行く』
月丘が声掛けをすると、しばし後、コマンドカーニス号が、ガッシガッシとやってくる。そこにはネメアも徒歩で随伴。
コマンドカーニス号のコクピットから降機するプリル。ネメアと二人で月丘の下へ。
……ちなみに『二士』とは、自衛隊の階級の方ではなく、情報省の階級である。二等諜報士、略して『二士』だ。中尉の階級に相当する。かつての警察予備隊の階級(二等警察士)に習って設定されているのが情報省実働部門の階級である……
『こちらの女性は私と同じ種族ですが……』と日本人に擬態したネメアを指して次に『こちらの種族は、ティエルクマスカ連合の別の種族である、ディスカール人という種族の方となります』
『プリル・リズ・シャー二等諜報士ですっ!』
と、元気よく敬礼するプリ子
「この異星人の方は、耳が我々よりも尖っていて肌の色が白い……なるほど興味深いな」
『ま、他にも色んな種族の方がいますが、それは後ほどの我々の艦で行う会合でもお会いできますので、そちらで』
「ん? そちらの艦で会合ですと? どういうことだ博士?」
「ああ、もしこの人物らと接触できたら、彼らの宇宙船で色々と私を含む、他のコロニーとの異文明学者達を含めた皆で会合を行えと中央から命令されている」
「そんな命令、私は知らないぞ」
「それはそうだろう。あのハンター襲撃がなければ、道中で私が預かっている命令書を大尉に渡す段取りになっていたのだからな」
と、メラニーは中央の司令官のサインが入った書類を懐から出して、デルデに渡す。
デルデはため息を一つ漏らすと、
「博士、こういうことはもっと早く……って、そうか、仕方ないか」
と、命令書を読んで納得したようだ。
『では早速私達の艦にご案内しましょう。もう……隊の方は落ち着きましたか?』
と月丘が周囲を見渡して確認を求めると準備は良いようだ。先程の戦闘での負傷者もそのまま連れて行って、ヒリュウで治療することになった……
* *
『こちらファースト。シャドウアルファは、目標との接触に成功。シナリオ通りだ、送レ』
『こちらアミーゴ了解。では歓迎準備を整えておく、送レ』
『他の国の状況はどうか? 送レ』
『米国、英国、ロシアともにシナリオ通りだ。やはり同行しているゼスさんと、先方の偵察合議体さんの連携が良いみたいだな、送レ』
ロシアがすんなりいくとは、と思う特戦群のコードネームファースト。
みんなの思い描く『ロシア軍』のイメージだと、これまたひと悶着起こしそうな雰囲気もするが、やはりお付きのゼスさんが優秀なのだろう。もしかしたらゼル端子打ち込まれて余計な事しないように制御されてたりして、とか思うが思うだけ。
『どうした? ファースト』
「あ、いやいや、なんでもない……では我々は当初の予定通り、この地域の状況偵察を行い、六時間後に帰投する。通信ヲワリ」
* *
月丘らとメラニー達がコンタクトを取った地点から、現在宇宙空母ヒリュウを屋根にした野戦基地はさほど距離はない。
さらに聞くところでは、メラニーやデルデらがやってきた『ゼスタールダンク・コロニー』という地下都市も、同地点からは地球時間で言えば今の部隊の移動速度で一時間もあれば到着する場所なのだという。
これもメラニーと、月面のゲルナー司令らとの綿密な打ち合わせでヒリュウの停泊地点が選出されたわけなので、そこは流石のゼスタール・スールさんといったところである。
さて、月丘達はメラニーやデルデ達を野戦基地へ招待した。
メラニーはもう今更な話で、ヒリュウの構造や性能に火力など、全て熟知している。勿論それはスール同士の意思共有能力の為せる技だ。
デルデ達は、今頭上一〇メートル程で空中停泊しているヒリュウを見て、
「ふぅむ……なんとも不思議な航宙艦だな。我々の技術や、意匠デザインに似たものが多く見受けられる」
当然月丘達はそう思われるだろうとは事前にわかっているので、
『メラニー博士から、超空間跳躍を行う技術を提供いただきました』
「ん? どういう事ですか?」
『後ほど詳しい話はするとして、我々は、所謂「別宇宙空間」からやってきました』
「えっ!」とデルデはまさかの顔で驚愕すると、「別宇宙!?」
『はい。メラニー博士と交信を持てた時、お互いまさか別宇宙の存在だとは思わなかったのですよ。で、話をするうちに、ゼスタールの方々が、我々より時空間の技術に優れているという事を知り、マルチバース状態の別宇宙移動に関する技術をお教え頂きました』
「ああ、それでこの航宙艦は、こういうデザインなのですか」
『そういうことです。ゼスタール人の技術を全面的に取り入れてますからね』
……という設定問答集のシナリオ回答である。メラニーも技術提供に関しては、中央からも許可をもらっているとフォローして話す。
さて、野戦基地にはUSSTCーSEALS勢や、英国のSAS-SP中隊が帰還していた。彼らの担当するコロニーですんなり話がまとまったという話である。
彼らは担当国の当該国人に化けたスール・ゼスタール人を当地コロニーに置いて、今後の方針について話しているようである。
月丘が担当のデルデ大尉達の部隊は、メラニーがいる関係上、中央の代表という扱いになる為、偵察部隊の総指揮官である大見が話を聞くことになった。
とりあえず月丘の仕事はここまでということで、装備一式外して楽な服装になる。
『んじゃカズキサン。私はカーニスちゃんと、サイドカー君のメンテしてくるねっ』
「了解です。宜しくお願いしますね……って、シビアさんとネメアさんは?」
『あの二人は、オオミ司令と一緒にお話するって言ってたよ』
「そうですか。まあ、メラニーさんと同じく当事者ですからね」
『ですよね〜』
ということで、月丘と軽くチューしてプリルは格納庫へ。彼女にとっては兵器の整備は趣味みたいなものなので、それで暇つぶしである。流石に現状は待機中とはいえ任務時間なので、デートという訳にはいかない。なのでチューで我慢。
そんなこんなで月丘はできたばかりの野戦基地を見て回る。
上を見上げると、ヒリュウの腹が浮かんで大きな屋根となっている。外は雨が降って来たようだが、ヒリュウが覆いかぶさってくれているおかげで、夜戦基地は快適なものである。
米英露のブースを回って挨拶なんぞしながらうろついていると、知り合いの顔を発見。
先のグロウム戦時も参加していたUSSTC隊員であった。
月丘はそのUSSTC隊員の知り合いを捕まえて、情報を聞こうと挨拶。ハバナ産の葉巻を一本その知り合いに提供する。
月丘自身は喫煙しないが、こういう時のために、コミュニケーション用の嗜好品をいくつかポケットに忍ばせている。
ジッポーのライターで、知り合いの咥えた葉巻に火をつけてやる月丘。
「で、どうでしたか? コンタクトの任務は」
「ま、俺たちゃ基本、あのスール・ゼスさんのお付きの用心棒だからな。交渉事は俺達アメリカ人に化けた彼らにお任せだ」
と大きく煙を吐くそやつ。
すると隣のブースのSAS-SP中隊の隊長が、葉巻の匂いにつられてやってくる。
「俺達も同じだな……ようJCIA、それもう一本あるなら売ってくれ」
「はは、構いませんよ。ほら、差し上げます」
月丘は葉巻をもう一本、その英国人隊長に投げて渡す。
で、互いに情報交換。USSTCの知り合いは、
「……で、当初のシナリオ通りうまいこと事が運んで、こっちの米国人に化けたゼスさんが、色々交渉してたんだが、話を聞くにここの連中、あの空のどえらいヂラール連中相手でも徹底抗戦するって事で、当初のこっちの提案した『一時的にこの星を離れて、地球圏や、ティ連の国に民衆全員を退避させる』って案は、拒否されちまったって、そんなところだ」
頷いて聞く月丘。SASの方でも同じようなところだったという。で、そのSAS隊長氏は、
「ということで、この星の地下都市コロニーを仕切っているお宅ら日本とヤルバーン自治国の担当が要になるということだ」
「どういことですか? ミスター」
「アンタらの担当コロニー……『ゼスタールダンクコロニー』とか言ったか? そこが総元締めだそうだからな。他の各衛星コロニーみたいなところに住んでる連中は、中央になるそっちの司令の命令に、全面的に従って動くという話らしい……まぁ……たかだか人口が二〇〇〇万人弱の生き残り達が、あの気色の悪い巣を衛星軌道上に張り巡らせてるあんな連中と徹底的に戦うってんだ……何を信じてそこまでできるのかわからないが、バトル・オブ・ブリテンじゃないけど……その気持はわからんでもないがな」
英国人の歴史としては、今のこのネイティブ・ゼスタール人の心意気は理解できるといったところか。
確かにそのSAS隊長の言う『何を信じて』と言うそこの部分が、八〇〇年間も彼等を支えてきたものなのだろうと、そう考えることができると月丘は思った。
そこのところを理解し、頷く月丘に米国人。するとSASの英国人が、
「ところで、ロシアのはどうした? まだ帰還してないようだが」
「あいつら、またあのハゲに何か言われて余計な事してるんじゃないだろうな……」
と半分冗談含んで知り合い米国人がそう言うと、案の定悪い話はその通りになってしまうもので、各員のPVMCGがアラートを鳴らし、緊急VMCモニターを造成して、アラートの内容を告げる。
【コスモスペッツナズ部隊、ヒリュウへ帰還途中、大規模ヂラールの奇襲を受ける。敵構成、ハンター型・植物トラップ型。USSTCーSEALS、及びSAS-SP中隊、八千矛-特戦群、メルヴェンの予備人員は至急援護に迎え。臨時部隊の指揮は八千矛部隊の浜崎三佐とメルヴェンのシャルリ大佐が執る。全部隊指定された時間内に部隊員を格納庫に集合させよ、以上】
VMCモニターの文字を読んで、日米英の三人は、ガックシとなって頭を項垂れる。
「こりゃ、絶対ハゲの呪いだろ」と英国人。
「俺達は楽なもんだったんだがなぁ」と米国人
「いやいや、私もヂラールのハンター某とドンパチやってきたところですよ」
と月丘。何を呑気なことをと掌を上下に振る。だが、「お前たち日本人はそれぐらいのハンデが普通なんだよ」と言われ、ガックシくる月丘。
「んじゃ、部隊の編成してくるわ」と米国人に英国人二人して葉巻の礼を言いつつ、自分達のテリトリーへ戻っていく。吸いかけの葉巻はポケットに入れて、あとのお楽しみに取っておくようだ。
なんかちょっとコスモスペツナズのロシア人諸氏を心配してみたり。だが、聞くところではロシア人善戦中だとの報告……ま、ここは流石と言ったところだろうか。
* *
さて、一方シビアとネメアに連れられたデルデの部隊とメラニー達研究者一行は、野戦基地とヒリュウを繋げるスロープを登って、ヒリュウ内部に招待された。
デルデ大尉達は、ヒリュウの内部や搭載兵器を見ても、そう驚くことはなかった。確かに自分達よりも少々進んだ技術の産物である特危の旭龍や、旭光Ⅱにヴァズラーには興味の視線を注いでいたようだが、米国とロシアのヴェリカーンと、コリン・パウエルにはそんなに興味を持っていないようであった。と言うか、何か不思議そうな表情すらしていた。そこはグロウムのネリナが地球人ー日本人を初めて見た時と同じような所感といったところだろうか。
ヒリュウ側は、ネイティブゼスタール人の代表となる幹部クラス、つまりデルデとメラニーと若干名の幹部クラスのみ、ヒリュウの幹部食堂へ連れて行く。他の中隊兵士や研究員は、大食堂で食事でも摂ってもらいながら待機してもらう。
提供されるお食事は、勿論ティ連の外交食であるカレーライスセットである。その味覚はシビア達で証明済みなので、当然ネイティブ・ゼスタール人もその美味しさに驚いていた。
メラニー達幹部一行はシビアに案内されて幹部食堂へ。そこでは大見と日本人に擬態したフォルド・マグナス艦長が待っていた。フォルドは日焼けした精悍な顔つきのベテラン自衛官艦長のようないぶし銀姿である。これはこれで渋いオッサンだ。
『デルデ大尉、メラニー博士、そして皆さん、ようこそ宇宙空母ヒリュウへ。我々は皆さんを歓迎します。私はこの部隊全体の司令をしております、オオミ・タケシ大佐。こちらはこの艦の艦長である、タケナカ・リュウゾウ艦長です』
『タケナカ・リュゾウだ……です。宜しく』
フォルドは氏名から身バレしないようにと日本人名を偽名でわざわざ名乗ってくれた。何故に『タケナカ・リュウゾウ』なのかと問うと、この船の命名元となった太平洋戦争で活躍した航空母艦『飛龍』の初代艦長の名前が、『竹中龍三』という人物だったからだそうで、それを拝借したそうだ。
まあシビアやネメアがもう自分の名前をそのまま名乗っているわけで、地球人からしてもゼスタール人の氏名発音は、西洋人的でそんなに違和感がない。なので別にかまいやしないのにと思うが、フォルド艦長もなかなかにマメな性格なんだなと思わせたり。
という感じでフォルド第一操艦合議体さんは自己紹介するが、メラニーやシビアにネメアほど、お芝居が上手くないようである。少し噛んだ。それを見て、噴きそうになるのを堪える大見。
大見は平手で着席を促す。という事で諸氏着席。同時に給仕の兵が食事を運んでくる。その中には、イゼイラ人に、ダストール人がいた。その給仕の兵を見て驚いた表情のデルデとその部下。
「オオミ司令、この方々は……」
『そちらの兵が、イゼイラ人という種族。で、もう一方はダストール人という種族で、ティエルクマスカ連合加盟種族ですよ』
「こちらの方は……まるでヘリアのような頭髪……まさかそんな知的生命が本当にいるとは……」
ヘリアとは、ゼスタールでの鳥類に準じる生物の事だ。
『まあとりあえず、食事でもしながらお話ししましょう』
運ばれてくるは先の通り、毎度お馴染みのカレーライスセット。その匂いにデルデ達も興味津々で、一口口に入れた瞬間、驚きの表情を隠さない。
「これは……うまい!」
そう、旨い料理一つあれば、互いの壁を打ち壊す事なぞ簡単なのである。現にシビア達ゼスタール合議体ですら、チーズケーキとカレーライスで一撃であった。
『はは、結構ですな。では早速ですがメラニー博士、こちらでこのように会合できるまで、貴方とは通信にて色々と情報をいただいていましたが、現状はどのような状況でしょう』
これも大見とメラニーのお芝居だ。まあ現状のこの惑星ゼスタールの状況等はほぼ把握できているが、それでもそれらはデータ上での把握であって、実際の目や耳で見て聞いた生の情報ではない。
この会話は、そのあたりの確認も含めて、この星に橋頭堡を作るためのお膳立てである。
話では、メラニーがゼスタールダンク中央の全権を委任されているようなので、彼らとの今後を話し合うことになる……
* *
さて、場所は変わって火星圏。
大見達が惑星ゼスタールの情報収集作戦実行中の時、この火星圏でも着々と『惑星ゼスタール奪還作戦』の準備が行われていた。
ヂラールとの初戦闘は、思い返せばフェルさんが父親であるガイデル現ハイラ王国国王と地球時間で言えば半世紀ぶりに再会したあの時、時のハイラ王国が属する惑星サルカスを防衛したのが初会敵であった。
あの時でもなんとか文明度一七世紀レベルのハイラ王国が、科学力のはるかに進んだガイデル達と邂逅したおかげでなんとか星をもたせていた時に、ティ連ー日本とコンタクトがとれた結果、ヂラールをなんとか駆逐することができた。
アレでもティ連で初めて実戦投入された『恒星星域間破壊兵器、ディルフィルドゲート砲』の稼働によって駆逐できたわけであるからして、あの規模で、緊急の編成でもあのレベルの戦力が必要になった。
そしてその後のグロウム戦である。
ティ連が戦闘を行ったのは、かのヂラールコロニー三基。それでも当時の規模の艦隊が必要で、その前段階であるグロウム帝国と、周辺諸国が戦った時には、国家そのものを武器にして、熱核兵器の大量投入で未曾有の決戦を行ったわけである。それでも残った三基には、人工亜惑星要塞レグノスの力を必要とした……
「で、此度の、あの惑星ゼスタールの軌道域の光景ですか……」
ティ連防衛総省長官 柏木真人は、火星基地『マーズ・アルケ』の執務室のソファーで腕組んで天井を仰いで見る。
『まるでイゼイラの軌道都市をそのまま気持ち悪くしたみたいデスね、マサトサン』
お茶を淹れてくれるは、火星まで視察と状況確認にやってきた日本国外務大臣兼副総理のフェルさん。本日は外務大臣と副総理両方の権能でやってきている。視察内容としては、各国部隊の把握だ。
フェルも自分のお茶を淹れるとチョコンと柏木の横にすわり、テーブルのおせんべいをお菓子にズスと茶をすする。
「なんだか段階的に状況が複雑化してきてるなぁ……こっちも対応策がいちいちその都度変化するから半端なく大変だよ」
『そうでスね……惑星サルカス戦の時は初会敵でしたが、敵の遠征攻撃を抑えつつ、なんとか居城を見つけ出して、恒星間……どころか「次元間」攻撃で、敵の拠点を吹き飛ばしました』
「ああ。でもアレは惑星イルナットが無人の死んだ星だったから出来た攻撃だよ。で、次のグロウム戦では、あのコロニー三基。それ以前に俺達があそこへ行くまでに一〇基も相手してたんだから、グロウムとしては周辺国家国民総動員の総力戦だった訳だしな。あれもあれでトンデモな戦況だった訳だが……」
『今度の状況は、イゼイラ本星や、ティ連の標準的な本星レベルの星域都市構造の、ヂラール版を相手にするみたいな感ジですからネ。これはこれでまた難しい事になるですヨ』
そう、サルカス戦にしても、グロウム戦にしても、どれもそれぞれ攻略の要になる要点があって、そこをかなりの規模の部隊で突かなければ効率の良い勝利は得られない作戦であった。
しかもティ連の立場で言えば、ヂラールとの戦闘はみんなそんな大規模戦闘ばかりなので、小規模の戦闘で相手を牽制し、抑制するという知的生命体同士なら有効である手段が使えないし、使った事もないので、あの連中と一戦交える時は常に何某らで大規模戦闘を考慮しなければならない訳である。
しかも今回は、ほぼほぼヂラールに侵食……つまり占領されたティ連国家本星規模の惑星の奪還である。
毎回毎回メニューの違うマズいディナーを食わされる感覚になる柏木先生。ええ加減にせーよと。
「あのグロウム戦でも、俺達は途中参加だったからまだいいようなものの、それでもあの規模の戦闘だった……今回の惑星奪還。作戦の遂行難易度で言えば、同じぐらいだよな、フェル」
『そうですねぇ〜……ヂラールコロニー鹵獲作戦含めて、三基相手がいいか、軌道都市化されて、大型のディルフィルドゲートみたいなものを扱うヂラール相手の方が楽か……』
「難しいよな」
『難しいデスね』
そういうと二人は席を立って大きな窓際に立つ。この窓は、高精細スクリーンではなく、透過金属製の所謂、窓だ。リアルな火星圏が堪能できる。
窓から火星軌道域の景色を臨むと、超大型ディルフィルドゲートから続々と艦船がディルフィルドアウトしてくる。
今、眼前にあるものでも、イゼイラ軍所属の独特な幾何学的系形状の大型機動戦艦に機動空母や機動巡航艦に駆逐艦が横切っていく。
向こうをみると、ダストール軍の艦艇で同じようなところ。
カイラスや、パーミラ、サマルカ、ユーンにディスカールと、続々ゲートアウトしてくる。
今ある艦艇だけでも数えるだけで、八〇〇隻以上。
「いやぁ……檄を飛ばしたのはいいが、これだけ集まると壮観を通り越してるな、こりゃ」
『初めはゼスタールサン、つまり、元ガーグデーラの事だけに、各国共感してくれるのか正直心配だったのデスが、やっぱりティ連の同盟は宇宙に誇るべきものですネ』
「まったくだな。それにネイティブなゼスタールさんの身の上に同情している兵に将官もたくさんいるって話だから、そこんところもあるんだろうな……って、うわ、グロウムさんも来てくれたのか!」
なんと! グロウム帝国も艦隊を派遣してくれたようだ。
独特の鳥が羽ばたいて飛んでいるような形状の機動艦艇達が続々とゲートアウトしてきた。
結構まとまった数の艦隊のようだ。
「あんなに艦隊出してくれて……本星や、サージャル大公星域の防衛力は大丈夫なのかな?」
まあティ連の防衛艦隊も駐留しているからとはいえ、復興半ばの戦力としては結構な数である。
だが後で聞くところでは、グロウム戦争で参戦してくれた恩義に報いるようにと、ランドラ皇帝の勅命でやってきた艦隊なのだそうな。ネリナも裏で手を回していたようだが、それでもありがたい話である。
グロウム帝国は、ティ連の同盟国であってティ連国家ではない。従ってグロウムが艦隊を出す義理など本来ないのだが、そこはグロウム帝国の義侠心といったところなのだろう。
そして、遅ればせながらで通常ディルフィルドジャンプで到着するは、地球圏の航宙艦隊群。
お馴染みの特危自衛隊旗艦、中型航宙機動護衛母艦かぐや、所謂『宇宙空母カグヤ』を先頭に、
○航宙重機動護衛艦 ふそう(日)
○航宙重機動支援母艦 やましろ(日)
○航宙重巡洋艦 ニール・アームストロング(米)
○航宙重巡洋艦 スター・エンタープライズ(米)
○航宙重巡洋艦 ピョートル大帝(露)
○航宙重巡洋艦 四川(中)
○航宙重巡洋艦 ジャンヌ・ダルク(仏)
○航宙重巡洋艦 マーガレット・サッチャー(英)
○航宙重巡洋艦 ビスマルク(独)
○中型航宙機動母艦 オオシマ(ヤ)
が姿を現す……そして更に後続からやってくるは、
○機動母艦101号から105号(ゼ)
○人型機動攻撃艦 ヤシャ(ゼ)
○人型機動攻撃艦 フリンゼ・サーミッサ(ヤ)
○人型機動攻撃艦(人型支援護衛艦) さくら(日)
そして真打登場、
○人型機動攻撃戦艦 コウズシマ(ヤ)
と、トリを飾るは、
○人型機動特重護衛艦 やまと(日)
であった!
ここは『艦隊集結』なBGMが欲しいところ。
やはり人型攻撃戦艦、即ち人型特重護衛艦は迫力が違う。横長に大きな主砲をフレキシブルアームの先端上下に構え、その中心に巨大な人型のオブジェの如き本体が、腕を横に広げ、肘から曲げて前へ構えて航行する。
この格好は、腕の掌中央部に副砲が備え付けられているからだろう。
しばし移動の後、艦隊の停泊位置を指定されて停泊した各艦。やまとと、コウズシマは腕部を下ろした状態で停泊モードに入る。
「こりゃまた……」
『アソコだけスゴいデスねぇ……』
そりゃ確かにティ連のバカデカイ化け物じみた大きさの艦に艦隊はある。
それに比べたら、グロウムや地球圏の艦隊はまだ小規模だが、あの『やまと級』のお二方や、フリンゼのおかげで地球圏の艦隊だけ、何故か異様な集団に映ってしまう。
それを見てポカーンとなる柏木とフェルさん。
「ま、まあ……もう見慣れた光景だと思ってたけど……」
『流石にあの「やまとサン」と「コウズシマサン」は、おっきいデスね……横のさくらサンや、フリンゼ・サーミッサにヤシャサンがオコサマみたいでス』
「それもあるけど、なんだかあの人型艦艇といわれてる五つは、ティ連のバカデカ艦艇のインパクトよりも、ある意味インパクト上だよなぁ」
まったくその通り。というか、その『人型艦艇』なる概念をティ連人や、スール・ゼスタール人が知ったのはつい最近の話であるからして……
なんだか“あんなの”が日本とヤルバーン州宇宙戦力の『売り』になりつつあるのは、よくよく考えると、みーんな、『あいつら』のせいだったりする。
まあ、それはそうとして、続々と火星圏に集中する各国艦艇。
よくよく考えれば別宇宙に飛ばなければならない大規模作戦なので、普通ならティ連本部人工恒星系での艦隊集結にしても良かったのだが、ここまでの事の発端が地球圏にあり、グロウム戦争で出現したヂラールの規模も含めた今後の調査の意味もあるため、此度はこの火星圏を利用して柏木と連合議長のサイヴァルは大艦隊の集合を命じたのであった。
_
火星圏では作戦本番の準備が着々と進んでいく……
* *
場所は戻って、惑星ゼスタール。
会談は順調に進み、中央コロニーである『ゼスタールダンク』中央行政府と、ヒリュウに載せてきたティ連外交官僚クラスとの今後の連携について話し合う事になった。
他、この惑星各地に散り散りになっている中小の衛星コロニーも、中央行政府の決定に従うということで周知済みとなっている。
結局のところ、此度の交渉役、というよりも、説得役のスール・ゼスタールの諸氏。
中小コロニーや、中央行政府に対し、この惑星が大きな戦場になるため、全住民が一時的にでもこの惑星から退避、避難するのはどうか? という再度の説得に提案は、完全に拒否され、戦うなら彼ら現在の住民、女子供含めてみんなが徹底抗戦という意思は断固として変わらないようで、そこだけはどうしても聞きいれてもらえなかった……
「という事だ、柏木」
『そうか……でオーちゃん、中小の地下コロニーに調査で残ってたこっちの擬態ゼスさんは、みんな野戦基地に帰ってきたのか?』
「ああ、そこは大丈夫だ。帰りは向こうのネイティブゼスタールさんが送ってくれたが、特にヂラールとの戦闘なんてのもなかった」
『それは良かった』
大見は、ヒリュウのブリッジ、つまりこの作戦部隊の最高指揮司令所で、量子テレポート通信を使って火星の柏木と話をしていた。
これが電波通信や、亜空間跳躍通信とか、そんな何らかの『波動』を伴う通信だと、ヂラール連中に感づかれる恐れがある。奴らは通信の波動パターンを、何らかの感覚で読み取って攻撃を仕掛けてくるので、うかつに通信を送る事もできないのである。だが、このティ連や、ネイティブ・ゼスタールも使用している『量子テレポート通信』を使用すれば、ヂラールには感知されない。この『量子テレポート通信』ティ連科学用語では、『クォル通信』というのだが、これは波動で通信しているわけではないので、奴らも感知できないのだ。
『でもさあ、なんでそこまで頑なにネイティブの皆さんは、徹底抗戦を主張するのかなぁ……そっちで戦闘することになったら、恐らく物凄い戦闘になると思うよ。で、これはまだ秘密だけど、ヤル研と、各国のスカンクワークス系開発機関が会議してさ、此度の決戦兵器の開発も視野に入れようって話で、何だか色々話し合ってるみたいなんだけど、またこれが【頭痛くなるような】とんでもない戦術や兵器なんかがバンバン出てきて、またそれにコッチのゼスさんが乗り気になって……』
「あ? いやおい、何の話だ柏木?」
『え?』
柏木もあっちはあっちで、作戦会議やら、兵器開発会議やら、何だか会議詰めで大変ってな話で、ちょっと会話が支離滅裂になる。
『ハァ、すまんすまん、俺もちょっと疲れてるな』
「気を付けろよオイ、一応お前は婚姻薬飲んで、肉体的には俺達よりも一応若いんだからさぁ」
同学年の親友に、そんな事言われるとはと……かなわんなぁと頭を掻きながら話す柏木先生。
『……で、話を元に戻すとだ、なぜにそっちのゼスさんは。頑なに徹底抗戦を言ってるわけ?』
「んーまあ……なんちゅうか……」と、大見は腕組んで少々考えると「まあ、有り体にいやぁ『宗教』だな」
『は?』
「いや、あのアルド・レムラー統制合議体閣下の言った事、よくわかったよ」
『あ……まさか……』
「おう、そのまさかだ」
大見が言うには、偵察合議体の方々の報告通り、スール・ゼスタール人の諸氏がやはり宗教化しているそうで……
「……なんでも彼らネイティブのゼスタール人は、『あの悪魔の如きヂラールを覆滅させるために、レゼスタという神機の力で昇華したスール神が、一〇〇〇年までの約束の時間の間に必ず戻ってくる』という話を信じているそうだ」
大見の話を真剣な眼差しで聞く柏木。
『ちょ、ちょっと待ってくれ。そっちの人々は、ヂラールの事をなんて呼称しているんだ』
「ああ、それは『ヂラール』という呼称だそうだ」
『え? それはおかしいじゃないか。ヂラールってハイラの……』
「ああ、そうじゃない。元々は、単純に『悪魔』『魔物』とか、そう言ってたそうなんだが、メラニーさん達コッチのゼスさんが、クオル通信で交流中に、我々に『ヂラール』と言う名だと教えてもらった……という『設定』にしたそうだ。今ではこっちでも『ヂラール』という呼び名が一般的に通っている」
『ああなるほど。んじゃハンター型とかいうのも』
「そういうことだな」
メラニー達が、こちらでも呼称を統一したほうがいいと考え、世論工作をした結果なのだそうである。
『で、あとは「スール神」か……』
すると、大見が机の上にうず高く積まれている一番上のファイルを掴んで、パラパラめくりながら、
「それもレムラー閣下の言ってた通りだ。もう完全に彼らの歴史が歪んで言い伝えられている」
『うん、レゼスタシステム、つまりトーラルシステムが神機、神様の機械ってか。ゼスタールの神様は機械操るのかよ』
すると大見は「いやいや」と掌を振って、真面目な顔で、
「いや、なんでもこちらの神話では、神様は機械を操るそうなんだよ」
『ホントかよ!』
「ああ、詳しくは知らんが、ロボットや、銃のようなものやらで戦ったりするそうだ。しかもちゃんとした歴史と伝統のある神話だそうだぞ」
『へぇ……まあ地球でもデウス・エクス・マキナの手法みたいなのがあるけど』
「ああ、そういうのではないみたいだ」
流石芸大出身の二人。デウス・エクス・マキナなんて言葉も出てくる。
で、大見の話では、そのゼスタール神話の中に『スール神』という概念があって、それは神々が選んだ、所謂、『選ばれし神の戦士』となるゼスタール人を来たるべき『魔』との最終決戦のために、神の戦士として戦う昇華された存在の事を言うそうなのだが……
『なるへそ、それがあの「スール」という言葉の語源なのか』
「そうみたいだな。で、ゼスタールの偉い神さん方は、神々が作った『機械』で、生きたゼスさんをスール神にしてしまうらしい」
『あー、それで「レ・ゼスタシステム」が、その神様の機械、即ち神機に……』
で、他にもスール神が『魔』と戦うために身に纏う『神の鎧』の事を、『カルバレータ』と言うらしい。
つまり、ゼスタール独特の用語は、八〇〇年前に彼らがスールとなった時に付けたコードネームとしてのゼスタール神話の用語からきているという話のようだ。
結果、ネイティブゼスタール人が頑なに惑星ゼスタールで抵抗を続けているのも、これ即ち『聖戦』だからだという事である。
だが……
『んー……それでも少し腑に落ちないな』
「何がだ?」
『あいや、これはもう我々も知っているゼスタールの歴史から考察すると、彼らネイティブのゼスタールさんって、言ってみれば「見捨てられた人々」なわけだろ?』
「んー……まあ……そういうことになるのかな?」
『それがだよ、本来スール・ゼスさんを恨みこそすれ、こうまで崇めてるってのもなんか少し違和感を感じるんだが……』
すると大見も思いつくところはあるようで、
「なるほど、それを言うなら俺も少し思いつくところがある……確かメラニーさんは、『中央の指示で』って言葉をよく使っていた。『中央の指令書がある』とか……」
『ほう、んじゃその「中央」は、ある程度俺達の存在を理解できてたって事なのか? 異星知的生命体と初めて会う人々なのに』
……確かに少し違和感があるなと思う大見。若干辻褄が合わない……ということは、中央と話のできるメラニー合議体は、何か知っているのでは? という推理ができると大見は思う。
そのあたりを柏木に話す大見。
『なるほど』
「先程、デルデ大尉達と会談して、こちらの時間で、明日に、中央政府があるコロニーの『ゼスタールダンクコロニー』に一緒に乗せてきたティ連官僚組と俺も話をしに行くから、もしかしたらその時、何かわるかもしれない。質問できるタイミングがあれば、そのあたりも聞いておくよ」
『うん、まあどっちにしろその惑星をティ連としては奪還するのが目的だから、少々面倒な背景があったとしても、やんなきゃならんのだから、押し切っていけばいいさ』
「了解だ長官閣下殿。まそこんところは任せてくれ。こっちには月丘君もいるしな……お前の代わりだ」
『ははは、まあ彼もそういう方面、得意そうだしなぁ……んじゃ、また連絡待ってるよ』
通信を切る大見。
確かに柏木の言うとおり、この星の歴史がどうかなんて以前に、今はあの軌道上にいるヂラールを駆逐し、惑星ゼスタールのヂラールも、駆逐し、この星を元の主に還さなければならない大作戦が優先である。
だが、こういう文化的背景をないがしろにして失敗した軍事作戦なんて地球の戦史を紐解いても、いくらでも見つける事ができるので、疎かにすることもできない。なぜなら、彼らは勝利した暁には、スール・ゼスタール人も常識的に考えて、母星への帰還を果たさなければならないワケなのだからして……
* *
さて、惑星ゼスタールの次の日の朝。
新鮮な空気がうまいのはいいが、ヂラールの住みよいように改造されているこの星の朝は、正直清々しい朝とはいえないのが辛いところ。
今日は先の通り、『ゼスタールダンクコロニー』という、この惑星最大の地下居住区画へ行こうといった次第。
月丘はディスカール軍仕様のゼル造成野戦住居から出てきて背伸び一発、首をコキコキやったり……要は今起きたところである。口に歯ブラシ咥えている。
プリ子も格納庫から『カズキサァ~ン、おあよ~』とか寝不足感丸出しの表情で、コーヒーカップ手にやってくる。多分装備の点検で、寝るのが遅かったのだろう。彼女はそんな時、荷物コンテナをベッドにして、寝袋をゼル造成してよく横になってたりする。
さて、今日はゼスタール人の中央コロニーへ出向いて、この星の生き残りの統領と会談という次第。
さて、どんな話がでてくるのか……といったところである。
こちらに、落書き程度のラフ画ですが、『人型機動攻撃戦艦』のイメージラフを上げておきました。
本作に登場する『人型機動艦艇』とは、大小関わらず、こんなイメージのモンです。
https://book1.adouzi.eu.org/n5084bv/3/
みーんな『あいつら』の考えたことです(笑)




