【第九章・奪還】第五一話 『接触』
漆黒の空間。
所謂、我々人類が『宇宙』と認識する空間。
暗黒があり、銀河があり、恒星の瞬きがあり、星屑が流れる。
その空間に大きな波紋と衝撃を伴い飛び出してくる宇宙艦艇があった……
『中型航宙機動護衛母艦ひりゅう。宇宙空間アレル000001ーライザース恒星宙域外縁部近郊に到達』
『操艦合議体№2了解。空間座標確認。顕現後、予定のプロトコルを実行する』
『実行開始。対探知遮蔽装置展開』『展開完了』
『空間転移後の第一準備段階は滞りなく完了した……オオミ生体。我々はお前の指示を仰ぐ』
人工亜惑星要塞レグノスの大型ディルフィルドゲートを利用し、惑星ゼスタールの存在する別宇宙空間、『アレル000001』に出現した宇宙空母ヒリュウ。
艦の操艦クルーのほとんどがゼスタール人なので、ディルフィルドアウト後の警戒準備も早い早い。それはもう所謂彼らの言う『生体』と呼ばれる連中がいくら頑張っても及ばないような艦内クルーの動きで寸分のロスもなく、空間航行準備が整う。
「はは、さすがに素早いですね艦長。これは驚きです」
『オオミ生体。我々は現在、複数のカルバレータ体、即ちお前たちの言う「仮想生命素体」で運行している。これがカウサ(コア)による直接アクセスによる操艦であれば、さらなる行動速度の向上が望めるが、現在はこれが限界である。まだこれでも遅いほうだ』
「なるほど、確かに。あそうだ艦長、自己紹介がまだでした。私は……」
『オオミ・タケシ生体。トッキジエイタイ大佐であり、陸上兵科を統合する司令官……了承している。我々は、フォルド・マグナス第一操艦合議体である。認識せよ』
そういうと、フォルドは手を差し出し、握手を求める。大見も勿論その手を握り返す。
「その第一操艦合議体という……単位ですか? が、艦長という認識でよろしいので?」
『肯定。我々も言語コミニュケーションによる齟齬がないよう、今後はお前たちの理解しやすい役職呼称に合わせる。従って以降は“艦長”で良い』
「了解です」
さて、このアレル000001宇宙空間という宙域が、このゼスタール人の住む宇宙空間、即ち別宇宙空間ということである。勿論、別宇宙であるわけだから、この宇宙空間の物理法則も、元来地球人の住む宇宙空間とは違う法則が働いていて然るべきなのだが、惑星サルカスに無理から飛ばされたあの時とは違い、今回は十分ゼスタール側と打ち合わせを行い、この宇宙空間の状況も十分に検討してやってきたわけであるからして、その点はまったく問題はない。
この宇宙空間は地球やティ連が存在する我々の宇宙空間と比較して、そう大差のない物理法則等々の宇宙空間であるようで、その点でいえば特危自衛隊にメルヴェン他、各地球の部隊も問題なく行動ができる場所である。
で、サルカス戦時では、当時のティ連軍や宇宙空母カグヤが元の宇宙空間に帰還する場合は、ディルフィルドゲート装置を据え付けで一基必要としたが、この宇宙空母ヒリュウについてはその点は問題はない。
この船は元を正せばゼスタール技術が多く使われている艦なので、次元溝潜航機能を標準で装備している。
従ってこの機能を利用して、一旦『時空間接続帯』という特殊空間に降りてから、再び地球のある現空間へ浮上すれば、別宇宙跳躍と同等の行為を単艦で行えるので帰還する時も特段のゲート装置はいらない。
ゼスタール文明は、彼らの所有する不完全なハイクァーンシステムである、『レ・ゼスタシステム』との違いもあって、総合的に見て若干科学的に遅れている種族なのではあるが、時空間制御技術に関してのみ、ティ連科学を凌駕する技術力を有している。それは彼らが『時空間接続帯』なる場所に星系規模の居城を構えていることからも理解できる。
と、そこのところは所謂そんなガーグデーラ系の技術もふんだんに使われている艦なので、実のところ優秀な艦だったりする。
『……という状況情報だオオミ生体……いや、今後はオオミ司令と呼称する。その方がいいだろう』
「ありがとうございます艦長……さて、さっそく本題ですが、いまこの場所は惑星ゼスタールからどのぐらいの距離があるのでしょう?」
そう大見が尋ねると、フォルドは万事承知という感じで大きく頷いて、宙に手をかざして大きな立体映像を表示する。
『これは現在位置から見た惑星ゼスタールの存在するライザース恒星系の縮図である』
空中へ模型のようにライザース恒星系という星系の精細な立体グラフィックが表示され、フヨフヨと中心に据える恒星の周りをクルクルと星々が回っている。
『この第三番惑星が、我々の母星、ゼスタールである。その他第一番惑星の名は……』
懇切丁寧に星々の名を教えてくれるフォルド艦長。どうやらこのライザース恒星系の恒星が従える星は、九個のようである。ゼスタール星も第三番惑星ということで、見た感じ太陽系に似かよった星系のようだが、第四番惑星以降の星の軌道範囲が異常に大きく、太陽系よりは少し大きい星系のようである。
唯一決定的に雰囲気が違う点は、ゼスタール星以外の各惑星は、必ず大小様々な衛星を有しており、数がとても多い。その数一惑星に付き一〇以上は必ず従えているようである。
小さいものは、それこそかの『死の星』クラスのものから、大きなものでは衛星イゼイラに匹敵する星を従えている惑星もある。
「なるほど……そこが決定的に違う点ですな」
『肯定。従って惑星ゼスタールは、これらの惑星が従える衛星達のおかげで、所謂天体災害というものに遭ったことがない』
地球においても月のような衛星や、土星や木星といった巨大なガス惑星の引力のおかげで、大きめの隕石や彗星などから結果的に地球は守られている構図になるのだが、この星系内のゼスタール星は、更に各他惑星が従える衛星も含めて有害な天体からゼスタール星を守ってもらっている形になっているという次第である。
まあそういうところも腕組んで聞く大見。
『……現在、我々はこの位置……』とフォルドは立体映像を少し縮小させて、『ライザース星系外縁天体部に空間跳躍した。この位置だとゼスタールに現状繁殖しているヂラールの巨大群体の監視網に反応しないので、現状の顕現状態を維持可能である』
「わかりました。まあこの空間に関してはみなさんの庭でしょうから、そこはお任せします。とりあえず我々の今回の任務は、完全な潜入偵察ですから、先のグロウム戦時のような威力偵察ではありません。ですので隠密潜入を優先させるとなると……」
『全て了承している。心配には及ばない……まず現在の位置からティ連技術の対探知遮蔽装置を最大稼動にしてゼスタール星に接近し、そのまま惑星に降下する。そして……』と、今度は立体映像を急速に惑星ゼスタールに焦点を合わせて拡大し、『この地点。ゼスタール最大の山岳地帯であり、また深い谷にもなっている地形のこの場所にヒリュウを潜伏させ、現地へ既に潜入させている偵察合議体と合流。当地のゼスタール“生体”と邂逅させるという、筋書きになっている』
フムフムと聞いていると、大見とフォルドの背後から、
『スンナリ行けばいいけどねぇ旦那』
シャルリだった。
「ああ、シャルリさん」
『遅れてゴメンよぉ。ちょっと内輪の打ち合わせが長引いちゃってさ。でも、そこで聞かせてもらったわさ。内容は把握したヨ』
とそんなこんなで大見はフォルドをシャルリに手早く紹介する。
「彼女は、今回の作戦で、私の副官をお願いしています」
『よろしくね、フォルドの旦那』
『ダンナ……ふむ? なぜシャルリ生体は、我々……いや、私が妻帯者だとわかったのだ?』
『え? あ、いやそういう意味じゃなくってね……アハハ、ごめんごめん、艦長』
ま、毎度のカイラス人特有のフランクさも、ゼスさんにはちょっとズレた反応されたり。
と、まあそんな冗談はこっちに置いといて、
「シャルリさん、なにか気になることでも?」
『ん? あいや、最近言われてるあれだわさ。連中がいろんな「何か」に敏感に反応するんダロ? 波動系エネルギーとか、音とかさ……音の方は私とカズキがグロウムでえらい目に遭ったけど』
「ああ、その件ですか……どうですか? フォルド艦長」
フォルドはコクと頷くと、
『我々もゼスタールのカルバレータを、現地に潜入偵察合議体として現状の惑星ゼスタールへ何名か降ろしている。その際、シャルリ生体の言う通り、現在判明しているヂラールの性質を配慮して潜入させることに成功しているが、現状シャルリ生体の言った事由以上の弊害は判明していない。それが事実だ』
『なるほどね。了解だよ旦那、じゃなかった艦長……ということは、今の段階じゃ言い換えればそれ以上の事でもなくそれ以下でもないということだね』
「ということになりますな……ま、ではゼスタール軍の経験を信頼して、という感じになりますか」
『そうだね。とりあえずはとっとと潜入しちまおうよ。色々驚くのはそれからでもいいわさ』
頷く大見。ま、それしかないかと……
* *
今回の任務において、各特殊部隊……USSTC-SEALSと、コスモスペツナズ、SAS-SP中隊。そして陸上自衛隊の特殊作戦群を加えた特危の八千矛とヤルバーン自治国のメルヴェン、情報省総諜対というメンツで、各部隊に与えられた任務をこなすわけだが、まあ八千矛にメルヴェンと総諜対、USSTCはもうこの手の任務は経験済のベテラン部隊だが、他の特殊部隊はどうこの作戦に対応するために事前の段取りを行っていたか? というと、勿論そこは件のOGHゼルシミュレータ施設がある。
あそこの防衛省借り上げ施設と、北海道の矢臼別演習場でのゼル訓練で、ゼスタールから提供を受けた、惑星ゼスタールの最新環境を忠実に再現し、徹底的に、容赦なく訓練を行ってきた。
これがゼル訓練のすごい……というか文字通りの『恐ろしい』ところで、体感係数最大で訓練すれば、死ぬことすらシミュレートできる。
体の色々な部分から来る痛みに不快感それが本物同等の視覚処理と合わされば、正直なところ、このゼルシミュレート訓練でPTSDになったものもいるのである。
幸いそこはティ連医学で程なく症状は治癒されるので問題ないのだが、ティ連基準で言えば、彼らが宇宙探査をするときなどは、年中『未知』との戦いであるため、この手の訓練をしっかりとやっておかないと、実際の任務中に、マジ死にする可能性も大いにある。従って決して手を抜けないのがこのゼルシミュレーター訓練なのである。
多分に漏れず各国特殊部隊の方々は、この訓練を当初、言って見れば『ものすごい技術のVRゲーム訓練』ぐらいに思って舐めてかかっていたところも無きにしもあらず。当然いざ訓練をやってみると、悲鳴に怒号がゼルルームに飛び交い、更に北海道では行方不明になりかけたものも出る始末。
まあ今でこそ笑い話にもなるが、当初は除隊を申し出た外国の隊員もいたほどだったという……
そりゃ、フェルが調査局員やってた時に地球に来る間に調査した星の、一番タチの悪いあのモンスター狩りゲームに出てきそうな化け物怪獣がウジャらという星で武器も持たずに『一週間生き残れ』とか、「これからお前達に、楽しいゾンビ狩りゲームを遊ばせてやる。いつもパソコンの前で油臭いドーナツ食いながらアホヅラ晒して遊んでるあの手のゲームだ。まあ気を張ることはない、好きなだけやりたいようにやれ」
とか教官に言われて、いざ放り込まれたのが、現実の如き、あんな場所。
食われてゾンビになる奴やら、頭かち割られる奴やらと、ここでもPTSD続出になりかけて、更にあのグロウム戦や、ハイラ戦のヂラール戦闘を忠実に模したバトルやらと……
このゲームで臨死体験をした奴は、ほぼ全員と言っても良い。
特危隊員や、メルヴェンに月丘らはこれを年がらやってるわけなので、各国の関係者は特危とティ連軍の実力の高さがどこにあるか、今更ながらに思い知らされるわけである。
……ということで此度の各部隊諸氏は、そんな訓練も受けているので皆一つの目的のために一致団結できて心強いところ。そりゃあのヂラールみたいなもんが、一時期は地球と、目と鼻の先まで来てたわけなので、ここは国家間の利害なんてのはもう関係のない世界である。そして彼ら自身も今回の偵察任務で経験した諸々の事象体験を自陣営や同盟国に報告しなければならない義務があるので、その義務感からくる士気も高い……まあぶっちゃけた話をすると、ここで真面目にやっとかないと、せっかくの技術を返せなんて言われたらたまらないというところもあるので、という無粋な話はしないほうが良い……
宇宙空母ヒリュウは、そんな現状を各乗組員に知らしめたあと、最高レベルの対探知偽装を艦体に施し、短距離ディルフィルドジャンプを行う。
到着するは、惑星ゼスタールの次の惑星になるライザース恒星系第四惑星『バフォード』
星の性質としては、所謂、地球で言うところの金星に似た惑星である。その宙域にジャンプアウトする。
当然ここはお隣がヂラールの大勢力圏であるからして、彼らにディルフィルドアウトの反応、即ち重力振と時空間波動を感知されて、大量の物見の部隊が付近をうろついていた群れから離れて高速で飛んでくる。
「やはり察知されましたね。いけますか艦長」
『問題ない。この探知遮蔽技術は非常に優秀な技術である。この距離であれば、『バフォード』を盾にして、反対方向から離脱が可能だが……どうする、オオミ司令。ここでかの者達を待ち受けて、試験的に排除行動を行ってみるか? この場所ならヂラールにも悟られずに済む。連中は何が起こったのかわからずに生体機能を停止するだろう』
大見は腕組んで考えると、
『いや、やめておきましょう……ですがここで少々息を殺して待機しましょうか……ウチのSや、各国の連中に、本物の我々の“敵”というものの姿を見学させたいですし』
するとシャルリが、
『ナルホドね、それはいい考えさね。んじゃアタシは連中をサロンに集合させて、生物の授業でもするわさ』
「はは、お願いしますシャルリさん」
シャルリは手を振ってブリッジを退出。確かにゼルシミュレートで現実とほぼ同じの物的体感をしてはいるが、それでもリアルにはかなわないわけである。
『来たぞ、オオミ司令』
大見は大型モニターを凝縮して、遠目に見えるその虫か何かの群れにもみえるその情景に、
「うわ、結構な数だな」
『……フム、三〇〇体はいるようだ』
「三〇〇ですか……これ、応戦しなくて良かったんじゃないですか? 艦長」
『肯定。オオミ司令の意見に同意する』
群れの中核はヂラール機動兵器型だ。即ち生体艦載機のような連中である。そいつらがヒリュウの顕現した場所周辺を、触覚のようなものを動かせて、何かの反応を拾おうとするような仕草をこの三〇〇体もいる化け物が一斉に起こすわけであるから、やはり舐めてかかってはいけない。
この情況でもし見つかったら、まず間違いなくヂラールどもはヒリュウ目掛けて突貫をかましてくるだろう。
三〇〇もの数は流石に「ちょっと試しにちょっかいを……」という数字ではない。
ヂラールの群れは、ヒリュウとの距離百数十キロメートルあたりを群体で警戒飛行した後、元来たルートを引き返して行った。
サロンでこの状況を観察した各国の部隊はどんな考えでこやつらを見たのだろうか?
* *
ヒリュウはヂラールが完全に引き上げたことを確認すると、現状の探知遮蔽をレベル最大で維持しつつ、通常空間を普通推進航行で惑星ゼスタールを目指す。とはいえ、この第四惑星『バフォード』からゼスタールまでは結構な距離がある。同じ惑星序列関係の地球と火星のようにはいかないところ。従って通常航行といっても、かなり速度を上げて進んでいく。
地球の既存の宇宙飛行物体の速度概念では、一年以上かかるような距離を二四時間以内で到着する速度で航行する訳であるからして、そこには一般相対性理論の呪縛がかかり、ヒリュウと外界との時間の流れに誤差が生じる。つまり、ヒリュウの時間の流れが若干遅いという次第。
空間振動波機関によるディメンションシフト航行なら関係ないではないかという話になるのだが、当然この航行方法は重力波動を伴う方法なので、その重力波動をヂラールに感づかれる恐れが多分にある。
従って斥力機関による、一般慣性航行で進まなければならないのが辛いところ。まあこうしないと此度は『偵察』の任務にならない訳であるからして、といったところである。
『各生体に通達する。本艦はチキュウ人の使用する時間測定単位で、一八時間後に惑星ゼスタール星域に到達するが、惑星ゼスタール軌道域の状況に障害が見当たらない場合、そのまま惑星ゼスタールに突入し、予定停泊地点にて本艦を司令部化した後に、当初の計画を遂行する。各生体は到着後の任務内容を再確認後、待機せよ。以上』
なんともゼスタールさんらしい艦内放送だが、惑星到達後のスケジュールを確認する。まあこれはゼスさん曰くの『生体』さん向け情報伝達の手段であって、ゼスタールクルー間ではもう情報共有が瞬時に行われているので、彼らからすれば、めんどい事をやってくれている訳であって、そこはありがたい話といったところである。
この艦内放送を合図に、各国部隊は装備の点検を開始する。それは各国が独自に開発した自慢の装備品だ。
ゼスタール技術に、米国のサマルカ技術を応用したライセンス装備。そして各国独自の研究発明品。
大体が、特危自衛隊の発案した『新機甲戦術』に則ったような装備である。つまり、可動繊維様式の倍力化スーツに、コマンドローダー様式のロボットスーツ。それらが扱う強力な兵器に、エネルギー反応型のシールド機能……これらが基本装備となっている。
特危や本土自衛隊、USSTCではもう通常兵士も装備しているものではあるが、それ以外の軍ではまだ特殊な兵科しか配備できていない装備品である。つまりは此度の特殊部隊での運用実績で、今後の配備状況が決まるというぐらいのものだ。
兵卒用の予算というものは、軍隊において一番コストがかかるものであって、それがここまでの自動化装備ともなると相応の戦力となる実績が必要になるのは当たり前の話であって、此度の作戦はそういうところでも各国が重要視しているところでもある訳なのだ……
……さて、ヒリュウはそのまま慣性航行で探知遮蔽をかけて突き進む。
惑星ゼスタールの、ある所では美しくもあり、ある所では悲壮感の漂う歪な姿の惑星が大きく見えてきた。
「こ……これは……」
サロンの窓際に寄って、総諜対本部で見た立体タブレット映像の本物の情景を目の当たりにする月丘和輝。
『うわ……すごいですね、カズキサン……』
横でプリルが月丘の腕を両手で握って、緊張した力の入れ具合で窓の外の景色を凝視する。
それはティ連の各国本星域で普通に見られる都市化衛星軌道上物体の如く、有機的な巣窟の如きオブジェクトがとてつもなく広範囲に浮かぶ世界。
そこには、距離はあるが、あのゲートらしき巨大な前衛芸術オブジェのようなものも、小さく見える。
今、惑星ゼスタールの裏から月の出があった。この惑星の月にあたる衛星『ムリュー』と呼ばれる星だ。
だが、月の出で姿を現した地球の衛星である『月』程の大きさのこの星も、やはり不気味な彩色で姿を見せる……この衛星もヂラールどもに浸食されているようであった。
月丘達のように宇宙の予備知識が十分にある者なら、こういった景色を見せられてもその後に考えるは任務の遂行方法なんてトコロだが、これが他のこういう所が初めてな方々にとっては、いくらゼルシミュレータで諸々訓練してきているとはいっても『今そこにある現実』として目に入れば、各部隊のミーティングなんぞ後回しにして、この『負の観光コース』の情景を目に叩き込もうとする。
彼らの想うところは、総戦力の話や、敵の出方の話など、そんなところ。基本、情緒があるようなものではない。
これが陸海空の一般部隊の話であれば、こういった準備時間に特危やメルヴェンにUSSTCへ色々質問の一つもしたりなんかして交流もあろうものなのだが、此度ヒリュウに載せている連中は各国選りすぐりのプロ中のプロである。こんな所で他者に質問なんぞしようもんなら、各国同士協調しているとはいっても職業柄で、普通はクビになるような話だ。
本来なら互いに顔も見せ合えないのが本当の所であって、各国もその辺りを解決する手段として、キグルミシステム機能を付加したPVMCGも諸氏取り付けてあって、それを使って皆さん自分の容姿に色々と加工を施している。
まあなんとも便利な道具だと、そこは普通に感心する兵士達。
そんな事情もあって総諜対の月丘は、陸上自衛隊・特殊作戦群の“S”連中ともまだ会話すら交わしていない。てか、各国交流自体がない。
『なーんかこれから一緒に色々お仕事するのに、みんな辛気臭いですよねっ』
とプリルはそんな事を言うが、
「プリちゃん、こればっかりは仕方ないですよ。本来なら、互いにこんな顔付き合わせて一緒に任務を遂行する事なんてないんだからさ。でも大丈夫、彼らもプロだし、見た感じに士気も高そうだ。作戦になったら、ちゃんと協調できるよ。安心していい」
とプリ子に話したり。ま、そんな感じだろう。これはこれで状況としては全くOKである。
まあせめてものコミニュケーションといえば、ミーティング前のちょっとした会話程度ぐらいなものだ。
各国部隊は、ここでもやはり彼らはプロという事。言ってみれば地球での有事では、時に味方同士になったり、時に敵同士になるような存在だ。ま、そこは互いに一線を引きつつも……という事なのだろうか。
さて、宇宙空母ヒリュウは、都市化……というか、巣窟化された惑星軌道上のヂラール警戒網に反応する事なく、惑星ゼスタールに降下していく。
勿論その降下ルートの割り出しは慎重に行われた。探知遮蔽をかけているとはいえ、何らかの外界の矛盾した反応には敏感な奴らである。事実、大気圏再突入時の断熱圧縮を回避するために、惑星降下直前にディメンションシフト航行に切り替えた途端、その反応を感知したのだろうか、周囲の小型警戒ヂラールに動きが見えた。
勿論即座にそのまま大気圏に突入したので事なきを得たが、これも気をつけなければならない事である。
惑星サルカス戦に加えて、グロウム帝国戦での戦訓で、ヂラールどもの新たな習性も次々と更新されていく。というか、人類が敵に対応する為に新型兵器を開発するのと同じく、連中も会敵するたびに新たな何某が発見されていく訳で、十分な警戒に研究も必要な敵なのだ。やはり舐めてはかかれない。
* *
『機動母艦ヒリュウ、惑星ゼスタールへの降下、成功しました』
イゼイラ人スタッフがインカム付けて働くこの場所。ここは火星にある特危自衛隊太陽系方面群火星司令部。即ち、言い方を変えれば『ティ連防衛総省軍太陽系軍管区火星司令部』となる。
あいも変わらずめんどっちい大人の認識が必要な感じなのだが、まあそれはそれ。その報に頷くは特危の親分の藤堂に、ヤルバーン軍統合参謀部大将のゼルエ・フェバルス。ゼスタール月司令のゲルナー・バント。そしてティ連防衛総省のトップである我らが柏木長官閣下。他各国特殊部隊を管轄する部門のお偉いさん軍人の皆様方。
諸氏、本作戦に併せて地球から火星へやってきているという次第。
まあ今の地球。ティ連技術やゼスタール技術の恩恵もあって、火星に来るぐらいはそれこそ何時間のレベルの話である。現代では火星も十分に地球圏の生活範囲になっていた。
更に実のところこの時代、世界各国の軍事交流というのも盛んになって、地球各国の幹部軍人同士の交流というものは結構やっているわけで、この火星にもこの手の各国幹部軍人は比較的よく顔を出しているのである。
LNIF系国家であれば、そもそも米国が主導で火星での米国管理地区にその手の軍人を招待したりしている訳なので、十年前までの、こんな宇宙にチキウジンがやってきて『どわー』とか騒ぐような事はもうあまりなくなっている……ってか、この火星も宇宙観光事業では、今や人気の場所でもある訳なのであるからして。
作戦司令部はそれはもう巨大な空間であり、どこぞの野球場か、サッカーグラウンドかという広さである。
その作戦室中央空中に、かつてこの世界の『日本科学未来館』にあった地球型液晶モニターの如く、惑星ゼスタールの立体映像が大きく鎮座し、現在判明しているヂラールの状況や、ヒリュウの航路等々が表示されている。
その横には、火星の立体映像に、地球の立体映像と、その巨大な空間は、何処かの宇宙博物館かとみまごうばかりの立体映像オブジェクトで埋め尽くされている。
各国の幹部軍人はこの司令室にあてがわれた各国の作戦司令区画エリアを中心に、他国のエリアを行ったり来たりしながら何やら忙しく仕事をしている。普段はこんな区画エリアなんてないのだが、此度の作戦の事もあって、少し指令室も衣替えした訳である。
各国の幹部軍人にはPVMCGが渡されており、この広すぎる司令室のどこにいてもリアルタイムでミーティングクラスの会話も行えるため、そのコミュニケーション機能は十分に働いていた。
中二階のテラスのような突き出した場所に設置されている総合指令エリア。
『ヨシ、んじゃそのまま降下して、予定の地点でまずは待機ってところだな』
ゼスタール星の立体映像を見上げてそう話すは、ゼルエ将軍閣下。此度作戦の総指揮官である。
『ゼルエ生体……いや、ゼルエ総司令。予備兵力として待機させている我々ゼスタールの偵察特務合議体部隊、及び、ゲルマン政体、フランス政体、チャイナ政体それぞれは、待機状態に移行させるか? 判断せよ』
ゼルエの副官として傍らに後ろ手組んで立つは、ゼスタール月面基地司令のゲルナー・バント合議体。
『ま、ヒリュウの連中に何か動きがあってからでも遅くはねえわな。それでいいだろ? ……どうだい、柏木の旦那』
ゼルエは小会議用の長椅子に腰掛けてる柏木に視線を送ると、
「ま、そうですね。色々と情報は更新されていますけど、なんだかんだでコッチの遮蔽技術にアドバンテージがある限り、向こうから先に仕掛けられるということはない訳ですから、現状余程のことがない限り、まだ心配はいらないでしょう。ね、藤堂さん」
『ですな。今回の任務で優先されるは、偵察と調査、そしてコンタクトです。戦闘は必要最低限でなければなりませんしな』
と応じる特危自衛隊幕僚長兼、特危自衛隊双葉基地総司令の藤堂正道。ゼルエと共に忙しく何やらやりながら話す。彼も此度はゼルエの副官だ。だが同じ副官のゲルナーは休めの姿勢で不動の状態。でもこれでゼスタール合議体全体の動きを把握しているのだから、なんとも凄いものだと感心しきりであったりする。
ということで、そういう状況だと確認する諸氏。すると四人の話をPVMVGのミーティング機能で聞いていた各国の指揮官が、
『では、こちらの「KSK」と、中国の「偵察突撃隊」にフランスの『ユベル』は、まだ当面待機状態ですな』
と空中モニターが立ち上がり、ドイツ特殊戦団KSK指揮官の顔が表示される。
ちなみにドイツ軍KSKとは、ドイツ陸軍傘下の特殊部隊であり、中国軍偵察突撃隊は、中国人民解放軍陸軍北京管区の特殊部隊、ユベルは、正式名称『コマンドー・ユベル』というフランス海軍傘下の特殊部隊である。
これらも今回は特別に宇宙戦対応の他国同様特殊な訓練漬けにされた連中なので、一般のそれら特殊部隊とは別物の兵員構成と考えて良い。
『すみませんな旦那。とりあえずはのんびりしてもらってて結構ですぜ』
と、ゼルエがそう話すと、了解のポーズとって相手はモニターを切る。すると藤堂が、
「はは、今回の作戦部隊選択でも、何か話ではポーカーかなんかで決めたとか、そんな話を聞きますが、本当なんですかね柏木さん」
「なんかそんな話してましたけど……私は聞いていないことにしていますよ、はは」
そこのところは本当の話かどうかはわからないがと柏木御大も苦笑い。
『さてカシワギの旦那、どうやらヒリュウの方も目標地点に到着したみたいだ』
その言葉に柏木も長椅子から立ち上がって、
「そうですか……まあ此度はゼルエさんが総指揮官ですし、私ゃ軍人さんじゃありませんからね。ま、そこんところはお任せですわ。私は責任担当という事で。」
『がはは、その言葉が一番の命令ですな。了解ですぜ。ではとりあえずこの偵察作戦における、各国部隊の仕事をおさらいしときましょうかい』
此度の作戦では、これほどのバックアップ体制でやっているわけで、今のゼルエや柏木の会話も、PVMCGのミーティング機能でこのクソだだっ広い司令室で忙しくやってる各国指揮官にも伝わっている。なので、先程のドイツ人のように、会話途中から割り込んで話もできるわけである。
ゼルエは早速PVMVGで各国指揮官に招集をかけ、空中にゼルモニターを数個浮かばせる。その画面には佐官クラスの米、英、露の管轄指揮官が顔を出す。
さて、此度こういったメンツで偵察作戦をゼスタールで行なっている訳だが、ゼスさんのいう、スール・ゼスタールが、生き残っているネイティブ・ゼスタール人視点で神様仏様扱いされているようなので、それで邂逅するのはちとマズイという訳で、全く別世界の異星人である地球人が、彼らを助けるきっかけを作ってやってほしいと、そういう作戦である。
考え方によっては、かのグロウムのネリナが行った事を、こっちから出向いて行ってやろうではないかと、そういう作戦だ。
現在、先行して偽装潜入しているスール・ゼスタール人の偵察合議体は数人いる。その合議体の報告によれば、ネイティブ・ゼスタール人達の現在の総人口は、正確な人数は不明ながら、約二〇〇〇万人弱程度だという。この人口は、地球でいえばルーマニアぐらいの人口だ。正直多い数とは言えない。つまり八〇〇年前に取り残された人々がどれほど少なかったか、という事だ。それらの人々が世代を重ねて、ヂラールの目を逃れながらやっとのことでここまで人口を増やしたのだろう。
だが問題なのは、これらの人口がこの惑星ゼスタールという星に、この二〇〇〇万人程度の人口が分散して、こういった状況ではお約束のように、地下へコロニー都市を作って隠れるように生活しているという。
このコロニー同士は交流があるようなのだが、コロニー間の移動は、ヂラールの監視の目もあってそれは命がけで、彼ら独自の遮蔽構造を持ったルートを構築しているという。
転送機も使用してはいるようなのだが、例のヂラール探知能力の問題で、活用はできないらしい。
科学技術レベルは、約八百年前の技術から若干の進歩は見られるものの、あまり大きな変化はないようだ。
そこは八〇〇年前の当時、研究中のレ・ゼスタシステムを発動させて、偶然にもスールとなってしまったスール・ゼスタール人と違い、当時の科学技術力をそのまま使用しているのであろうから、そういうものだろう。まあ八〇〇年前とはいえ、ヤルバーンがやってくる前の地球の科学技術よりは相当進んだ技術を持っていた彼らであるからして、そこは想定の範囲内である。だが、逆に言えばレ・ゼスタシステムの恩恵を受けられたスール・ゼスタール人とは、ここで決定的な種族的差異が出ている訳で、悲しいかな同胞ながらも、事実上同じ種族とは言えなくなってしまったところがある訳だ。
こういうデータがある前提で、『総諜対』チームは、この惑星最大のコロニー。事実上のネイティブ・ゼスタールの総司令部ともいうべき最大のコロニーを目指して、『コンタクト作戦』の任にあたる。勿論その実働要員は、月丘とプリルと日本人モードのシビアにネメアだ。
で、バックアップに特危八千矛隊と、今回はその作戦指揮下に入っている特殊作戦群がつく。
他、米国USSTCに、英国SASーSP中隊、ロシアのコスモスペツナズもこの星で活動していたゼスタール偵察合議体と合流し、他の主要コロニーとのコンタクトを行う作戦を行う。勿論各国部隊にも、各国人種に擬態したゼスタールスールが参謀として付いている。
これによって、この星の生き残りネイティブゼスタール人と、彼らにとっては初めてとなるであろう異星の知的生命体とのコンタクトを計ってもらおうという作戦である。
この作戦で、まずはこの星のネイティブ人達に、大いなる希望があることを知らしめ、そしてこの八〇〇年間における彼らの持つゼスタールのヂラールデータを入手し、更にここまで完全にヂラールの侵攻を受けて浸食されている惑星を見るのも珍しいので、可能であれば資料収集に惑星探査的な活動も視野に入れている作戦である。
そしてそれらのデータは太陽系と、ティエルクマスカの各国に伝えられて、決戦艦隊に決戦兵器が編成されてゼスタール奪還作戦に移行する、という次第で推移する訳である……
* *
ゼスタール星北半球の山岳地帯。ちょうど谷の状態になる巨大な山岳と山岳の間にある空間に、宇宙空母ヒリュウは、地上から約一〇メートル程度の地点で空中停止、即ち滞空状態にあった。
つまりヤルバーンと同じ原理で、『停泊』している状態にある現在のヒリュウ。
艦底部の搬入口が大きく開き、スロープが地上に向かって伸びる。
そこから出てくるは各国の輸送トラックに工作機械や、土木用ドーラにデルゲードタイプのロボットスーツやら特危の作業用に改造されたコマンドトルーパー等々。
これらは何をするのかといえば、前線基地の設営である。プレハブやテントをおっ立てて、ヒリュウの巨体を屋根に、野戦基地を作ろうという次第。各国の様々な車両や作業機械が作業を開始する。
そしてそれら作業機械が出揃った後、その次に各国を代表する宇宙作戦用に改造した高機動車がどんどんとスロープを降りてきた。
ロシアは、かの国の高機動車である『GAZ-2330ティーグル』の改造版に、件の機動戦車(MT)である『POT-117ヴェリカーン』がタンク形態で降りてきた・
コスモスペツナズの兵達が、専用の機材を使用して、ロボットスーツを装着している。
USSTC部隊も同じような感じで、宇宙戦対応の高機動車『L-ATV』に『M5A1コリン・パウエル』機動戦車を引っ張り出してきた。
此度の二足直立可動型の機動戦車には数々の特徴があり、アタッチメントを付け替えることで、様々な仕様の車両に変化が可能である。今作戦では兵員輸送ユニットを後部に装着しており、六名程度の兵員が輸送可能となってる。これらを使って実働部隊とサポート部隊を移動させるようである。
そもそも、ネイティブゼスタール人とコンタクトを取るのになぜこんな重武装が必要なのかという話は、言わずもがなで、ここはヂラールに侵食されている星であるからして、当然動物型のヂラールに、警戒監視用の植物型のヂラールは普通に存在するわけなので、この手の装備武装も必要という訳なのだ。
英国のSAS-SP中隊も、ジャッカル高機動車宇宙戦仕様に、M5A1を持ち出してきた。
各国諸氏、早速新たに開発した新型装備で挑むわけだが、我らが日本国特危自衛隊と特殊作戦群は、流石宇宙戦争時代を先取りした装備で、各種コマンドローダーに、コマンドトルーパー。メルヴェン側はデルゲード型ロボットスーツに戦闘トランスポーターナドナド。流石といったところ。
で、最後に総諜対のカズキサンは、ティ連機動機械独特の機械音を唸らせて、アノ変身ヒーローの如き格好でサイドカーを転がして搬入口から降りてきた。
それを見る各国の皆さんは、目を点にして、一人浮きまくっているカズキライダーを半口開けて目で追ってしまう。
「あー、プリちゃん、ほらやっぱり変な目で見られてるじゃないですかぁ~」
『何を言っているんですかっ、この中じゃ、最強のカスタムコマンドローダーをカズキサンは装備してるんですよっ。もっと自慢しないと』
「いや、自慢って……そうじゃなくってですね……このデザインが……」
論点のずれる議論は諦める月丘。だがプリルの言うとおりで、現在まだ試作品という扱いではあるが、最新鋭の装備をもらっている月丘。更には、
『ツキオカ生体、我々は周囲から奇異な視線で見られている気がするが、状況を分析せよ』
とのたまうシビアさんに、
『シビアに同意。この行為が敵対的意志のあるものなら、早々に排除することを提案する』
と、ちょっと日本と諸外国の関係を若干勘違いなさっているネメアお姉様。
お二人は褐色肌の健康的な日本人のお姿に擬態している。シビアさんはショートカットのボーイッシュな美少女姿で、ネメア姐の方は、何かのイベントにでも出れば、確実にトップランク行きそうな褐色お色気モデルなお姿。
身につける服は、迷彩服三型の一般特危自衛隊装備である……シビアの服がちょっと大きいのか、上着の袖を何段か折っていたりする。
一般的にゼスタール人の肌は、種族全員が、所謂『日焼け系褐色肌』っぽい色の肌で、髪の毛から顔面の毛にアッチの毛まで全部真っ白。皮膚にはこれまた白い模様が入墨のごとく先天的に描かれている。眉毛とこめかみの毛が繋がるような感じで、頭部の真ん中の骨が少し後頭部まで盛り上がっている構造をしているので、毛髪の中央部が少し逆立っているようなヘアースタイルの人物が多い。それ以外は、至って地球人と容姿は酷似しているので、日本人モードになった際も、白髪のサーファーガールみたいな感じの姿になった。
(ふむ……これはこれでいいかも)
と二人をチラ見して、そんな事を思うカズキサンであったり。
「ははは、やっぱり君達は個性的なのが揃ってるな」
と軽くキャップ帽のつばに挙手敬礼を当てて、月丘達のところにやってくるは、大見であった。
「どうも、大見司令」
「おう……って、なんだかここだけ空間の色が違うぞ、オイ」
と大見も苦笑い。
『ふむ……よくわからないが、状況を分析するに、そのツキオカ生体の被服型機動兵器が原因でこの状況が形成されているわけか?』
「まあ……そういうことですネメアさん」
『そうですよぉ、ネメアサン。このみるからに高性能な三段変形機能のコマンドローダーのすごさにみんな見入っているんですっ』
「え? いやだからちが……」
『ふむ、我々もその機動兵器の形状は、機能的に悪くはないと思うが……そう思わないか? シビア』
『肯定。先日の銀色のコマンドローダー兵器よりも高性能であることは見て理解できる』
ハァ……となる月丘。まあいっかと諦めた。
実際、客観的に見ても、ミリタリー色で埋め尽くされているこの野戦基地に、ここだけなんか特撮映画やら、アニメみたいなのが揃ってる訳で、まあ客観的に見たら『何をする気だコイツラ』ってな感じには見えるだろう。ちなみにプリちゃんの愛機は相変わらずのヤル研からもらった初期型むせるようなプロトタイプコマンドトルーパーを改良改造しまくったプリちゃんスペシャルである、『コマンドカーニス号』である。
まあそれはさておき……
「では大見司令、出発します」
「ああ、宜しく頼む」
互いに敬礼して月丘はサイドカーに跨り、シビアはサイドカーの側車にちょこんと乗り込む。
今の月丘サイドカーの側車部は乗車用仕様となっている。
で、プリルはコマンドカーニスが愛機なので、そちらに乗り込み、ネメアはコマンドカーニスのマニピュレータ部を椅子にして乗っている。
「月丘君、この星のゼスタール人と戦闘になるような事はないとは思うが、バックには我々と特戦がついているから安心してくれ」
「了解です。戦闘ですか……恐らくそれがあるとするなら……」
「ああ、この星に巣食っているヂラールどもだな。くれぐれも油断するな」
「わかりました」
月丘は軽く敬礼すると、サイドカーの動力をONにして出発。
プリルもカーニスの脚部にセッティングされたホイールを回して、滑走モードで月丘の後を追う。
その姿を見る各国兵士は、任務第一号の月丘達に口笛吹いて、気勢あげて「頑張れよ!」とエールを贈る。
月丘も流石にそんな勢いで送り出されるとなれば、手の一つも振らないと失礼なので、そんな感じ。
ネメアにシビアも軽く手を上げていた。その辺りの感覚は、もうだいぶ理解してきたシビアにネメアである。
* *
さて、月丘達の任務は、先の通り現在のゼスタール星において、最も大きなコロニー、即ち中核部に当たるコロニーに潜伏させているゼスタール偵察合議体と接触する事である。
そして後に当地のネイティブゼスタール人と、同盟を組めるように工作せよ、というものである。
この任務によって、現在のネイティブゼスタール人の置かれている状況を把握する狙いがある。勿論、今後の同盟構築も含めての事は当たり前の話。
で、お初の顔見せなんてのは、こういう場合なかなかすんなり行くわけもないのが普通なのだが、そこは流石のゼスタール合議体の方々……その潜入偵察合議体は、ネイティブ社会に溶け込み、もうすでにそのコロニーにおける、相当の地位にいる政治的関係者となっているのだという事。
で、その偵察合議体氏の『設定』としては、『以前より外宇宙の知的生命体に、SOSを放って共闘できる知的生命体がいないかと研究していた科学者』という設定で活躍しているのだそうだ。
この設定の発想は、グロウム帝国におけるネリナ達の行動から頂戴したという話。まあスールなゼスタールさん達は、常に情報を共有しているので、シビアやネメアの体験も皆が知るところなのでそんな感じ。つまり先だって、もう既に仕込みは終わっているという事。
「なるほど。という事はその辺はもう皆さんに任せておいて良いという訳ですね」
『肯定。先方の偵察合議体の行動は、すべて把握している。問題はない。チキュウやティ連、グロウム帝国等々の情報も既に先方は十分に理解している。従って、先方偵察合議体の求める方向性でのシナリオに準拠すれば、何ら問題ない。把握せよ』
「わかりました。いや本当に流石ですね、シビアさん達は。それももう全部スール間のネットワークで共有済みというものなのですか?」
『肯定。生き残りのゼスタール生体は、スール・ゼスタール偵察合議体の創作した情報を信じている。従って会合地点には、その合議体の部下となっているゼスタール生体も何人か来るようだ……状況としてはゼスタール偵察合議体を守る護衛のような軍人と、助手のような人物数人だ……やはりそういった点において、護衛の軍人の方が多い訳だが、もし仮定として、それらに妨害行為を受けた場合、状況如何では反撃はしなければならない。その際の戦闘レベルはどれぐらいで設定しておけば良いのだろうか? 回答せよ』
「まあそういうのは無いにこしたことないのですが……」
『万が一の場合だ。ツキオカ生体』
「うーん、ま、とりあえずスタンさせてトンズラじゃないですかね」
『……』とシビアは唇を少し尖らせて考えた後、『……了解した。それしかないようだと我々も決議した』
でしょ? と納得させた月丘である……と、そんな話をしつつ、ナビの通りにサイドカーと、コマンドカーニス号を疾走させる総諜対シャドウチーム。少し離れて対探知遮蔽をかけながら、特危と特戦群が彼らを追いかけるように追随してくれている。
空を見ると、特戦群の放った、ティ連技術を使う独自の偵察ドローンが追跡してくれている。
対探知遮蔽をかけているようだが、月丘達の装備するバイザーにはそれが半透過で見えるようになっている。
月丘達の走る場所は、宇宙空母ヒリュウが停泊する場所から続く山岳に挟まれた場所を、一本道の如く伸びる朽ちた舗装をされた道路である。
かつては綺麗に舗装された観光道のような場所だったのかもしれない。
『……』
側車部に座るシビアは沈黙してその風景に見入っている。その様子をチラ見で見る月丘。
大体何考えているかは察しが付く。
「シビアさん、もしかして懐かしいとか」
『…………肯定……』
やっぱりと思う月丘。するとシビアが、
『我々……いや……“私”がまだ生体であった頃、学習機関の課外授業で、この場所を訪れた……かつては美しい観光コースの山道だったが……』
「そうか。シビアさんの容姿は、丁度そのあたりで、スール化された頃の」
『肯定。経過時間相応の精神性を持つ今でも、容姿はこの状態である。こればかりは仕方がない。せめてネメアぐらいの年齢でスール化できれば相応の……ゴホ、あ、いや、なんでもない』
「え? 相応の、何ですか?」
ちょっと意地悪に聞く月丘。まさかゼスタール・スールさんから、そんなヨタ話が聞けるとは思わなかったので、収穫だと思う月丘。ま、巷では最近、ティ連や地球人と付き合い出したゼスさんは、何かと面白いと評判ではあるのだが。
後ろを見ると、ネメアが少し微笑してこっちを見ている。そりゃ彼女らは情報を共有できるわけであるからして、会話内容に特別なプロテクトでもかけなければ、内容は筒抜けである。
……と、そんな話をしつつ、目的地、すなわち会合地点へ向かって疾走する諸氏。
「時間的にはもうそろそろ指定の場所へ到着という感じですが、いかんせん土地勘ないので、どうにも感覚がですね……どうです? シビアさん」
『肯定。そのとおりだ。そろそろ……』
とその次の言葉を言おうとしたその時、シビアの眉間に強烈なシワが寄る。
その表情を見逃さない月丘。後ろのネメアは、マニピュレータに座った状態から立ち上がって、コマンドカーニスの外部通話マイクを使ってプリルに何か話しているようである。
「!? どうしました? シビアさ……」
刹那、進行方向、距離にして約二キロメートル先にドカンという大きな爆音とともに、白い爆煙が立ち上るのが確認できた。さらにその後、銃声ならぬ、ブラスター兵器の発射音が断続的に轟き、なんらかの存在が、明らかに戦闘状態である状況であると理解させる。
「これは!? まさか!」
『ツキオカ生体、急げ! 会合予定のゼスタール生体部隊が、ヂラールの待ち伏せに遭遇したようだ。偵察合議体から急ぎ救援の意志が伝達された』
「それはマズいですね、わかりました! 速度を上げます! プリちゃん!?」
『おっけーですっ、ついていけますよっ、飛ばしてくださいっ!』
月丘がサイドカーの速度を上げる。前輪を少し浮かすように、かつ、ハンドルが少し側車がわに取られつつ、土煙を上げて、加速する。
シビアは器用に側車から立ち上がって、サイドカーのバイク側後部シートに席を移動させ、月丘の『朝九時ヒーロー』的なコマンドローダーの突起状の部分に捕まり、体を安定させる。
と同時にサイドカー部がゼル造成を利用した変形を行い、無反動砲の砲身が伸びて、乗車用側車から、立派な砲身を搭載した武装型側車に変形が完了した。
プリルはマニピュレータにコマンドトルーパー用ライフル型重機関砲を造成して、戦闘態勢は完璧だ。
ネメアはその身にL型コマンドローダを身にまとい、機動小銃を携えてコマンドカーニス号の肩部に膝をついて座っている。この速度で安定感抜群、ものすごいバランス感覚だ。
とにかく急がないとと、速度を上げて爆走する月丘達。その異常事態に、上空からドローンで追っていた特危や、特戦群も何事かと彼らを追う速度を速めるのであった……
* *
「クソっ! 待ち伏せだ! ハンタータイプだ、気をつけろ!」
惑星ゼスタール中央コロニー『ゼスタールダンク』からやってきた、宇宙戦術観測隊の科学調査部隊は、ゼスタールの女性異文明探査学者、『メラニー・ホルプ』博士の指示で、二個中隊をもって、メラニー博士の指示する場所、所謂『会合地点』に向かっていた。
「博士! あんたのオカルトじみた研究につきあわされるのはいいが、この状況は想定外だぞ!」
メラニー博士の部下となる、ゼスタールダンクコロニー軍の男性中隊隊長の一人が、そんな言葉を彼女に投げかける。
「とにかくこの場をしのぎなさい! 救援はかならず来る!」
そう、このメラニー博士と呼ばれている人物こそ、ゼスタール合議体の偵察合議体である。その名もその通り、現在の『メラニー・ホルプ・カルバレータ』であった!
その言葉遣いも潜入型偵察合議体らしく、ゼスタール“生体”の彼らに合わせた“演技”で、ゼスタール生体を演じていた。
ま、確かにそりゃ救援は必ず来る。だが、時間の話だ。彼女らは待ち伏せ食らったのであるからして。
「うわあああ!」
隊列最後尾で兵士達の悲鳴。ヂラール・ハンタータイプの一団が、最後尾の技術研究者を乗せたトランスポーターを襲ったようだ。つまり、一番戦闘能力の低い連中に襲いかかったわけである。
「中隊長!」
先程メラニーをオカルトマニア扱いした中隊長に対して、報告に来た部下。
「わかっている! チッ、これは駄目だ、一旦引くぞ!」
「だめだ中隊長! ここで引けば、後の作戦に重大な支障が出るぞ!」
「何言ってるんですか博士! 重大も何も、そんな異星人の強力な連中とコンタクトとれて、そんな奴らと今日、会合できるなんて、そもそもそんな話に許可出した中央も中央だ。まだ、『スール神』となった同胞が降臨して、あの化け物どもを一掃してくれるって話のほうが信憑性がある!」
今、彼女達を襲っているのは、ヂラールのハンタータイプという種別である。
月丘達もデータでは知っているが、直接対峙したことはない。
グロウムでUSSTCの部隊が、このハンター型と少数戦ったデータがあった。
ゼスタールの資料では、植物型ヂラールとともに活動する状況がよく見られるデミヒューマノイド型ヂラールで、兵隊型の発展種らしい。
兵隊型より手足が長く、また手の指先が、かぎ爪形状になっており、岩盤も切り裂き砕くほどの威力をもつ。そして俊敏で、その目にも留まらぬ速度で相手に襲いかかり、斬撃で殺害した後、遺骸を食い漁るという気色悪くもあり、また恐ろしい情け容赦のない性質を持つヂラールである。
遠距離用の飛び道具がないのがまだ救われてるが、常にある程度の数をもって奇襲をかけてくるのがいやらしいところ。
「中隊長、隊列後部を退避させました!」
「よし、では我々も一旦さがる」
「隊長! だめだ!」
「博士! 何もあんたの作戦をフイにしようってんじゃない。よく状況を見ろ! こんな状態で、いつくるかわからん連中を待つわけにはいかん! ……おいお前、博士を護衛して、一旦後退だ!」
「さ、博士、下がりましょう!」
どうしたものかと思案するメラニー合議体。今のような立場でなかったら、この連中や、ハンターヂラールにゼル端子ブチ混んで、強化ゼル奴隷兵士にして反撃してやるのにと思うが、そうもいかないのがつらいところ。
だが最悪となった時には、自分の身バレも覚悟で……
「中隊長!後ろ! 危ない!」
「なに!」
カメレオンのような擬態色で巧妙に隊列の中心へ紛れ込み、リーダーと思わしきその中隊長に襲いかかるヂラールハンター。
振りかざした鉤爪状の腕が、彼を襲う!
「!!」
反射的にゼル端子を放つ体勢に移行しようとしたメラニー合議体。
だがその刹那!
ドガン! という音と同時に、カラフルな色の装甲服をまとい、顔面は大きな目にも見えるキャノピーフレーム状の赤いバイザーで覆われた存在が、飛び蹴りをかまして中隊長に襲いかからんとしていたハンターヂラールを五〇メートルは吹っ飛ばし、ハンターは岩塊にぶつかって体液撒き散らして四散した。
銀ピカではないものの、キラキラと輝く趣味の悪……ハイカラなデザインのその姿は、中隊長とメラニーの前に、颯爽と直立する。
「こ、これは……」
と驚く中隊長。その横でホっと胸をなでおろしているようにもみえるメラニー。
『ツキオカ、後ろだ!』
口調を変えたシビアに注意され、すぐさま横っ飛びでハンターの一撃を交わす月丘。即座に、機動小銃を右手に造成させて、ハンターに撃ち込む。
なかなかしぶといハンターを更に追い打ちかけるように、必殺の一撃を放つのは日本人モードのシビアさん。月丘のサイドカーを操って、側車部、無反動砲の一撃をとどめにぶち込み、ハンターヂラールを爆散させた。
『中隊長! な、何か援軍のような……これが博士の言っていたヤツですか!』
後方への退避を行おうとしていた兵からもそんな通信が。
そこに現れたのは、プリルのコマンドカーニスと、ネメア日本人モードお姉さまであった。
コマンドカーニスの、瞬発伸縮性マニピュレータパンチを食らって吹っ飛ぶヂラールに、右手に機動小銃、左手に二〇ミリ対物ライフルを持って、バカスカ撃ちまくり、残りのハンターヂラールを容赦なく血祭りに上げるネメア。
ここでも、かのメルフェリア曰く、『バカのヂラール』は健在で、状況の有利不利に関わらず襲いかかってくるこやつらではあったが、流石に状況不利とようやく察した彼奴らは、逃亡を画策するが、ネメアお姉さまは容赦なく、後ろからでも二〇ミリ対物ライフルを叩き込み、ヂラールをぶっ殺す……二〇ミリである。二〇ミリの対物ライフルなんて、普通片手で扱えるものではない。
銃の種類はなんぞや、といえば、フィンランド製の『ラハティL-39対戦車銃』である。
なんでネメアがこんなモノ知ってるのかというと……なんか動画サイトで見て、「いいな」と思ったそうである。まあネメアは戦闘合議体であるからして、これも日々の調査の賜物ということなのだろう。
そんな感じで、颯爽と現れた月丘ヒーローと、その仲間達。
圧倒的な戦闘力で、危機を救う。
ゼスタール中隊長が、オカルト扱いした連中がこういう形でファーストコンタクトを成し遂げる形となった……横ではなんとなくホッとしているメラニー偵察合議体。
接触第一段階は、ド派手な登場となったが、そんな彼らにネイティブゼスタール人は、どんな反応を示すのだろうか?




