【第六章・ティ連日本国 -終-】 第三九話 『栄光の復活(下)』
「退避っ! 退避だっ!」
腕を後方へブンブンと振るは、USSTC隊のモーガン・スミス最先任上級曹長。周囲でドカドカと着弾煙が上がり、ロボットスーツで身を護る兵士達も、これはタマランとM4A1リッジウェイや、ハンヴィーⅡ高機動車にUSSTC仕様に改造されたブラッドレーSP機動歩兵戦闘車、ストライカーSP機動砲の影に隠れ、その雨霰と降ってくる榴弾らしきものの攻撃から身を隠す。
装甲兵器であればシールドを展開できるので、この榴弾攻撃もなんとか防げる。
「shit! あのモンスターフラワーは対地攻撃もできるのか! 迂闊だった!」
薔薇の花の化物というべき形容がふさわしい、ヂラールコロニーを防衛するように彼らの前に立ちはだかる植物型ヂラール。所謂コードネーム『モンスターフラワー』。
こいつは空中で援護態勢にある『サクラ型人型攻撃艦』や、シンシエコンビら旭龍に旭光Ⅱといった空を行く機動兵器に対する防空生体兵器と彼らは認識していたのだが、これがその砲口を地に向けて攻撃してきたわけで、その群体ともいえる数多くの花弁から繰り出される弾頭状の種子は、まるでクラスター爆弾の如くUSSTC隊を襲った。
「メディーック!」
そんな声も飛び交い、少なからず負傷兵も出ているようだ。
「対空砲! 対空砲! あの花弁を潰せ!」
M4A1リッジウェイのマニピュレーター型対空砲が、聳え立つモンスターフラワーの花弁の形をした砲口へ向けて一斉掃射される。
「カシモト中佐! まだこのバケモノの中枢は見つかりませんか! どうぞ!」
『まだだマスターチーフ! 今リアッサ一佐のコマンドトルーパー隊が敵の懐に入って捜索しているが、向こうは向こうで妨害にあってうまく進んでいない、先程一旦後退するするという連絡が入った!』
「敵もなかなかしぶといですな! サルカスのこいつらはもっとやりやすかったんですがね!」
そう、つまりマスターヂラールという『頭』が、この戦場域のヂラールを統括しているが故に、彼らは苦戦しているのである。
「敵歩兵型群体接近!」
USSTC隊員が叫ぶ。
「全員態勢を立て直せ!」
先程の対空砲火と、上空のシンシエコンビが指揮する機動兵器隊が、地上部隊に睨みを利かす花弁型砲塔ともいうべきものを、幾分か排除してくれたようだ……だが、こいつは生体兵器である。しかも植物型だ。その再生能力というヤツも早いわけであって、この状況も時間稼ぎぐらいの意味しかなさない。
このまま数で押し切ってしまうという手もあるが、そうなるとこちら側も相当な犠牲を伴うことが容易に想像できるわけで、
「あのマーベルな格好したJIAエージェントと、マァム達が中枢を潰してくれるのを待つしかないか……」
と、結局それしかないかと思うスミス最先任上級曹長……そんなところにやってくるは、
『すみす師匠!』
と文字通り“騎兵隊”を率いて応援にやってくるはメルフェリア団長旗下ハイラ騎士団。パイラ号らボルダ馬も、放射能防護機能を付けたマスクにシールドで守られている。
『援護にきたよ! 大丈夫!?』
「なんとかもってるよ、団長!」
『よし、んじゃみんな下がって! 今空から降りてきた“よーりくかん”からいいものもらってきたから!』
と、その後方から、ウォーンという不気味な機械音を唸らせて、典型的な油圧シリンダーにモーターの駆動音を響かせながらガッシャガッシャと後方から這うように登場するその巨体は……
「うおっ! こいつは……!」
思わずスミス以下USSTC隊員諸氏引いてしまうその容姿。その名も、かのブンデス社事件で一躍有名になった、一応LNIFドイツ連邦共和国製新型脚移動式機動戦車『レーヴェⅡ』であった!
『お前も一時期はカズキ師匠とドンパチやって戦った事あるんだろ!? そん時の気合見せろ! よーし、薙ぎ払えぇぇぇ!!』
どこぞの終末世界を描いたアニメではないが、かの時、月丘と対峙したその巨大かつ不気味なロボット兵器がミシミシと木々をへし折りながらその姿を顕現させる。
昆虫のような四つ足生える胴体前方寄りに、レオパルド・レボリューション戦車に似たデザインの、頭部とも言うべき、砲塔上部に備え付けられた細長い重機関砲銃身のようなものから発射されるは、その容姿と巨体に似合う、とてつもなく巨大で長大な火炎放射であった!
レーヴェⅡは砲塔を左右に振り、辺り一帯を火炎で塗りつぶしていく。でもってトドメの一撃で、主砲の一四〇ミリ砲をぶっ放して、炎にまみれた敵ヂラール歩兵型を吹き飛ばす……レーヴェⅡの足元で、メルさんが「わーっはっは」と斬機刀を指揮棒にして高笑いしている……その黒漆甲冑型コマンドローダーの姿も相まって、どうにも悪役にしか見えなかったり……
で、ちなみにこのレーヴェⅡ。砲塔内に操縦室をもってはいるが、かつてのカズキサンと戦った時の設計そのまんまでパワーアップされているらしく、現在は自律型のドーラ仕様という話。今はゼスタールのスールになっているアイスナーが、ドーラ仕様になる前の、試作段階の設計データを持っていたそうで、此度の作戦のためにゼスさんに依頼して数台作らせたそうである。で、ダル艦隊の揚陸艦に積んで持ってきたという次第。
レーヴェⅡの活躍に「イヤー!」「ヒャッハー」と歓声上げるUSSTC兵。後方から次々と姿を現すレーヴェⅡは、汚物は消毒とばかりに二本、三本、四本と火炎の一閃を周囲に放ち、数で圧倒しようとする歩兵型を押し返し始める。
この火炎放射攻撃の副次効果で、植物型ヂラールのトラップ攻撃陣も焼き尽くすことができた。
『かしもと師匠! こっちはなんとか戦線維持できそうだよ! 早く“もんすたーふらわー”の中核を探し出してよ! なんなら私だけでもそっちに応援行こうか? どぞ!』
『大丈夫だ。今リアッサ一佐のコマンドトルーパー隊が敵戦車型群体の防衛線を突破した。植物型の“根”の群生地帯へこれから我々も突入する』
『りょーかいです師匠! がんばってね!……よーし、じゃ私達はツキオカ師匠達の潜入作戦がしやすいように、どんどん前進していこう! って、もしかして私達が力押しで“ますたーぢらーる”をやっつけちゃったりなんかして』
『ははは、それはそれでいいかもしれないな団長!』
スミス最先任上級曹長も、こうなったら自分達がこのヂラールコロニーを潰してやるという勢いで、レーヴェⅡ従えて前進を開始する。とはいえ、そうはいってみたが、なかなかそう簡単にはいかないのもわかっているので、なんとか月丘達に頑張って欲しいと思う皆であった……
* *
樫本ら特危隊にメルヴェン隊、そしてUSSTCがモンスターフラワーという航空部隊の大きな障壁を取り除こうと今躍起になっているわけであるが、よくよく考えてみると、本来はこのモンスターフラワーを退治するのがこの作戦の目的ではないわけで、本来の目的はマスターヂラールに対する刺客として送り込んだ月丘達から、マスターヂラールの気を逸らすための攻撃であることが本来の目的だったわけである。
だが、どちらにしろティ連・グロウム帝国連合軍の部隊揚陸を阻むモンスターフラワーと対峙してしまえばコイツを排除しないわけにはいかないわけであって、この牽制攻撃は事実上のモンスターフラワー掃討戦になってしまっていた。
だが、結局このモンスターフラワーや、この化物花を基準にした生物型ヂラールの攻撃を指揮命令しているのは、この中の何処かにいるマスターヂラールであるわけである。
月丘達は今、ネリナから情報のあったこの星の残存防衛隊……早い話が『レジスタンス』とでも形容できるその人物らとともに、マスターヂラールのいる中枢部区画を目指して進んでいた。
月丘のサイドカーは、現在自律自動運転モードに設定して、忠犬の如く月丘達の後をついてくるように、今は資材運搬車代わりで使っている。
リパルションガンを構えながら徒歩で前進する月丘達。レジスタンス軍が発見したヂラールコロニーの傷跡。大きな亀裂とでもいうべき核攻撃の放射能に起因する再生不可能な場所から、ヂラールコロニーの内部に侵入する。
いかんせん今の月丘さんは毎度の銀ピカ姿で、マスターヂラールまでの案内を買って出てくれたベルゼ大尉らレジスタンス部隊の方々からも、
(なんでこんな潜入作戦に、あんなギンギラなんだ?)
と訝しがるような目で見られてしまう。
一方、レジスタンスの目を引いたのは、プリルの駆る、むせそうなコマンドトルーパー。
実はヤル研研究員からも、『犬』とか、『顕微鏡』とか、そっち方面のむせる系の名前でテキトーに呼ばれてたので実は正式名称がない。で、ヤル研に正式名称付けさせたら、恐らくコンプライアンスを司る創造主の裁きの校閲が入ってしまいそうなのは確実なので、プリルは『コマンドカーニス』と勝手に名付けていた。
今はもう総諜対の備品扱いなので、年式番号はない……ちなみにこの名前の『カーニス』という言葉。これはディスカール語で、人によく懐く小型の四足動物の名称らしい……
で、レジスタンス諸氏は、小型で歩兵直協できそうなこの機動兵器に興味を持ってたり。
グロウム軍の、所謂マニピュレータ装備型の機動兵器といえば、あのシェイザー型と、グロウム陸上部隊で使用している全長一二メートルクラスの、固定兵装型二足歩行戦車が確認されている。用兵的形状で言えば、某『星の戦争』に登場する、偵察型二足歩行戦車に似ている。
勿論ヤルバーンが来る前の地球製兵器と比べれば技術力も上で高性能だが、ティ連のヴァズラーや、シルヴェルと比較すればずっと見劣りするわけで、ベルゼ大尉達にはこの手の小型ロボットタイプ装甲機動兵器というものが技術的にもとてもめずらしいようである。
で、勿論彼らにもロボットスーツ型の陸戦装備はあるわけで、それを装着して地上にぶち落とされた山岳の如きヂラールコロニーの、損壊跡から彼らは中へ潜入する。
グロウム帝国のとある深い森の中、そこを下敷きにしたヂラールコロニーの構造物。その中から侵入する月丘達。
中の構造はもうわかっている。それは勿論ヂラール鹵獲作戦時で経験済みだからだ。とはいえ、二度三度来たいところではないのは間違いない。
事実、案内してくれているグロウムレジスタンス兵は、完全にビビってしまっている感じで、平気なのはベルゼ大尉だけのようだ。
『……とはいえ、俺も最初この中に潜入した時は、本当にブルっちまったけどな』
「では、何度も先程の場所から入って、みなさんもこの中を探索なさったわけで?」
『ああ、そういうことですな、ツキオカ少佐。おかげでこのデカブツの中枢を探し当てたんだが……』
その時に、防衛部隊ともいうべきヂラールの猛攻に合って、撤退したそうだ。更にそれが災いして、コロニーから敵を大量に外へ出すきっかけになったようで、今の彼らの戦力ではどうにもこうにもならなくなったのだという話らしい。
『その時に部下もかなり失った……俺の責任だ』
「それは悔やんでも仕方ないですよ。そういうのはこの戦乱が収まってから、お考えになった方がよろしいのでは?」
階級的には月丘のほうが上だが、彼の物腰低い口調にどちらが上官なのか感が狂わされるベルゼ。しかも銀ピカヘルメットから光り輝く切れ長の目のようなセンサー向けて言われた日にゃ、どう思ったらよいかという話である。まあなんとも変わった異星種族だと思わず噴いてしまう。
『ところで大尉、我々もヂラールの種類はもう大体把握しています。で、お互い情報の齟齬がないよう確認のためにお尋ねしますが、貴方がたが会敵したヂラールの種類は、こういう感じのものでしたか?』
月丘はVMCタブレットを造成してベルゼに渡す。
「なっ! 何もないところから携帯型モニターが!」
『あ、これは私達種族連合の技術です。ちゃんとした科学技術ですのでご心配なく。なんでこんなのが造成できるのか、理屈は私も知りませんけどね、はは』
月丘は銃を構えながら前方を見据えて前進しつつベルゼにそんな事を言う。まあそれもそうだ。地球人だってパソコンにスマホを毎日いじってはいるが、それがどんな理屈で動いているかなんて気にしながら使っているわけではないわけで、言われてみればそれもそうかと変に納得するベルゼ。
で、タブレットの操作自体は自分達の携帯型端末機器とそうたいしてかわらないわけで、自然に指で画像をスライドさせながら表示されるヂラールのフォトを確認する……のだが……
「ああそうだ。この手の奴らだ。ここに載っているバルターとは全て交戦したことがある」
『なるほど、わかりました。では問題な……』
「だが、一種類載ってないのがあるな」
『え?』
「正直、二度会敵したい奴らだとは思わん。俺達はそいつらのことを『死霊』と呼んでるんだが、あんたらは遭遇したことはないのか?」
『と言われましても、具体的にどういうものか容姿がわかるものでお見せいただかないと』
「そうか……まあいい。この道をこのまま進めばどのみちそいつらに……」
とベルゼが話を進めかけた時……
『uaaaaaaaaaa……』
とうめき声のようなものが通路の奥の方から聞こえてくる。
『!? これは……』
「はぁ……ここまで来たな……ツキオカ少佐、この奥にその『そいつら』がいる。その目で確かめるといいさ」
『はぁ……』
そう言ってベルゼの方を振り返ると、彼の部下の顔色が妙に悪く、みんな怯えているようなそんな姿に見えた。
『ではちょっとここで待機しましょう。で、私は先を少し見てきます……プリちゃん、あなたもここで待機していてください。さすがに機動兵器つれて偵察というのは無理ですし』
『わっかりました。気をつけてね、カズキサン』
コクと頷く月丘
『んじゃ、あたしがカズキのスカウトでついていくよ。ファーダ・ナヨはプリルといっしょにここで待っててくんな』
『あいわかりました。気をつけてな』
と、そういうことでプリルの『コマンドカーニス』とナヨ閣下にベルゼ大尉のレジスタンス部隊を留め置いて、シャル姐と共に先行偵察する月丘。もちろん対探知偽装かけてという次第……
* *
周囲の景色に溶け込む月丘とシャルリ。但し彼らが移動すれば人型の透明なモヤッとした物体が景色を歪ませて動いていく。そのサマは、もう幾度と喩えられた、かの『捕食者』のよう。
ヂラールはこのティ連が使う対探知偽装を見破ることができない。
ただ、ここには少し条件があり、確かにヂラールはこの偽装を見破れないのではあるが、一つ『音を出してはいけない』という条件がある。
ヂラールは音と匂いに敏感で、相手の姿が見えなくても、音と匂いで違和感を感じ取り、周囲を異常に警戒するという特性もある。なのでやはりこのヂラールの半知性体としての『性能』はバカに出来ないのである。
ということで、待機地点から五〇〇メートルほど前進して偵察を強行する月岡とシャルリ。
『カズキ、ストップ!』
シャルリのサイボーグ左腕が月丘の肩をグイと引張り、回廊の端っこにある巨大な肉腫のような岩のような、そんなものの影に隠れる。
シャルリは右眼の機械化義眼をミュインと鳴らせて、何処か一点を凝視していた。
『……ゲええエエッ! こ、これは!!』
なにか嫌なものを見たシャルリ。月丘には何も見えない、というか暗闇なので、ノクトビジョンを使っても、シャルリ義眼の走査性能にはかなわなかったり。シャル姐のサイボーグパーツはかなりの高性能だという話。そりゃそうだ。これでも元機兵化空挺団。所謂超精鋭部隊の隊員だったわであるからして、そのサイボーグパーツも超高性能品を装着してたり……実はシャルリが体の欠損部を再生したがらないのは、このサイボーグパーツの性能がすこぶる良いので、こっちの方がいろいろ便利だったりするわけであるからして……
シャルリの表情を見ると、彼女らしくない渋い顔、更に苦虫噛み潰しており、何やら相当嫌なものを見たようだ……って、対探知偽装かけてるのに、なぜに表情がわかるかといえば、味方同士は互いに半透明状態の映像になって互いの視認装置に映るようになっているのがこの装備。
『一体どうしたんです? シャルリさん、どんな感じの敵ですか?』
月丘は、そのシルエットは問題なく確認できるが、詳細なディティールまでは視認できていない。何か人型のようなものが、ゆっくりとうごめいているのは確認できる。
『ぞ、ぞんびだ、ありゃ』
『え? なんですって?』
『前にVMCゲームでやったぞんびだ。フェルの持ってきたあのゲームの……』
ゾンビという言葉に訝しがる月丘。勿論彼もゾンビぐらいは理解できるが、それでなくても悪霊みたいな容姿のヂラール兵隊型も見慣れた彼らからして、いまさらゾンビの一つや二つ、それがどうしたという話なのだが……
そんなことを思ってると、シャルリが月丘へ、自分の義眼が今見ている高精度暗視映像をPVMCGを通して彼の視界へ転送してきた。
すると、流石のカズキサンも、
『!! うわっ、な、なんですかこれは……ほんとにゾ、ゾンビ??』
そう、シャルリに月丘が見たものとは、ヂラール兵隊型とはまた違った、それはもうかなりヒューマノイド型に近い容姿のヂラールであった、というか、多分ヂラールなのだろう。
というのもその姿が何か生々しく、ゾンビっぽいのではあるが、生ける屍というよりは、何か未完成品というか、出来損ないと言うか、そんな感じのする個体で、なにかに喩えるなら、理科室の人体筋肉標本というか、そんな感じのする個体であった。
『確かにこれはベルゼ大尉達が気味悪がるわけですね』
『そうだね。でもありゃなんなんだい? ヂラールにしちゃ、ヂラールらしくないし』
『わかりません。ですがサンプルは取っておいたほうがいいですね、間違いなく』
『了解だわさ。で、どうすんだいこれから』
『勿論、これを突破しなきゃマスターさんに会えませんからね。こっちは探知偽装かけてます。このまま一方的に「皆殺し」するしかないでしょう』
『了解。って……今度は本物のぞんびげーむを体感しちまうとはねぇ。まいっちゃうよ』
『って、先程からそのゾンビゲームって、なんなんですかそのお話』
『え? あいやフェルがね……って、また今度サケの席ででも話してあげるよ』
『は、はぁ……』
月丘はリパルションガンを格納し、代わりに背にひっかけていた機動小銃を構え、シャルリは左腕をガシャガシャとVMCも織り交ぜて変形させ、軽機関銃のような長さを持つ、重粒子速射銃を造成させる。シャルリの左腕が変形し、掌の部分がボールジョイントのようなものになって、そこに長い大型の軽機のような雰囲気の重粒子速射銃本体がくっついている。発射には右腕で持つグリップ部のトリガーを引く。
『ナヨ閣下やプリル達には連絡入れたかい?』
『はい、すぐにこちらへ来るそうです』
『よし、んじゃ先におっ始めようかい!!』
そうシャルリが言うと、先制で甲高くも鈍い空間を引き裂く音を唸らせて、イオン化した環状の発射波紋を断続的に形成しながら、重粒子閃光がフラッシュのごとく周囲を照らし、破壊のエネルギーを直進させる。
『うらうらぁ!!』
ドシュドシュと容赦なくゾンビのようなヂラールを撃ち抜くシャルリ。勿論この時点で対探知偽装は解除されている。
重粒子速射銃の閃光で周囲が照らされた状態。月丘も機動小銃をドカドカと発砲し、敵を撃ち抜く。
特危のローダー用機動小銃はダブルバレルのダブルトリガーになっていて、上の銃口からは速射型粒子ビームが発射され、下の銃口からは12ミリ強化装薬弾が発射される。今月丘はダブルトリガー、則ち二つある引き金を両方共引いて、粒子ビームと弾丸を同時発射している状態。もちろん銀ピカ姿全開で戦闘中。
だが、二人はなぜにベルゼ大尉達がこやつらにビビっていたか、しばし連中を撃ち殺していると、段々理解できてきた、ってかシャルリは、
『やっぱ! ……そういうことかよぉ……』
『数が多いってことですか?』
『ぞんびだからかい? なるほどベルゼの旦那達が引いちまうのもわかるわさ!』
そう、お約束のパターンで、あとからワラワラといくらでもわいてきて、こいつらがこれまた妙に機動性がよく、一旦敵を見定めると、目標めがけて手を前に出し、疾走してくるのであった。
しかもヂラールらしく御多分に漏れず、体の一部を欠損し、吹き飛ばされても身体が可動する限り、生体機能が維持できなくなるまで目標めがけて襲ってくる。
『シャルリさん! 前にいくどころか後ろに下がってません?』と、これがPVMCGの造成武器でなかったら、とっくに弾切れ起こして連中の餌食になっていると思う月丘。
『やっぱそう思うかい? 実はあたしもそうなんじゃないかな~って』と、速射重粒子銃を確実に命中させるが、なかなかくたばってくれない敵に辟易するシャルリ。
『なるほど、こういうことですか! そりゃベルゼ大尉達も尻尾巻いて逃げ出しますよ! 大尉達の武器は、VMC技術なんて使ってませんからね!』
『確かにね。でもどこにこんだけの兵力、というか化物を温存してるんだろうね!』
と、少々このゾンビみたいなヂラールを侮った二人。威力偵察が本格的戦闘になってしまったわけだが、しばしなんとか戦線を維持すると、後方で待機させていた部隊がやってきてくれた。
「うわっ、やっぱこいつらかよ! どうだ言ったとおりだろうツキオカ少佐!」
無茶苦茶嫌そうな表情のベルゼにグロウム人部下諸氏の顔。
『確かに、これまでのヂラールは悪鬼悪霊に邪神とでも喩えられますが、これは魑魅魍魎の類ですね』とナヨ。
実はナヨさん、ゾンビ映画をまだ本格的に見たことがない。なのでナヨ基準ではこやつらは魑魅魍魎になってしまうわけ。ナヨの生きたヤルマルティアの時代ならば、早九字切って退散させるような敵という感じ。
ナヨは今、愛刀の小烏丸をシュンと降って、液体金属片を細長く超高速で飛ばす。するとヂラールが五~六体、真っ二つになって吹っ飛んだ……が、上半身だけでも這って近づいてくるので、そのサマ見てナヨさんもしかめっ面。こりゃ気色悪いと。
『こりゃマトモにやりあっても、後から後から湧いてくるぞ……プリちゃん、なんとかなんない!?』
とプリルの乗ったコマンドカーニスに話しかける月丘、するとプリルが、
『はいはい~、こんなこともあろうかと!』と、彼女の尊敬する技師長の中の人の声真似をするプリ子。
でもって、『シビアチャンからいいもの借りておきましたっ!』
あ~んと口からビックリなメカが発進する……のではなく、なんと、カーニスのバックパックがポコンと開いて、そこから大量に散布されるは、ゼル端子を植え付ける虫型のマイクロロボットだった!
『って、うわぁぁあああ!』と悲鳴を上げるはカズキサン。なんせ彼は、一〇年前、コヤツに襲われて自爆したわけであるからして。
プリルの乗るコマンドカーニスには、バックパックにシビアからもらったドーラコアを一個積んでおり、動力の一部としている。もちろん本格的な対人ドーラ用のコアなので、大量のゼル端子を放出できる。当然味方には反応しないようにプログラムされている。
虫型ゼル端子は、一つでも獲物に取り付くと、たちまちゼル端子をヂラールの体中に這わせて、行動の自由を奪い、同じ味方であるヂラールを襲わせている。
その端子に侵食されたゾンビヂラールは、どんどんとその数を増やしていく。
このドーラコアのゼル端子は、ゼル奴隷化した個体も端子を植え付けることができる高機能タイプなので、ゼル奴隷化したヂラールに襲いかかるゾンビ型ヂラールは、たちまちゼル端子が感染し、乗っ取られて敵の敵になってしまっていく。
『なるほど、やはりこんな敵には、このゼル端子は効果覿面ですね』
と月丘は機動小銃での射撃を一旦止めて、プリルとドーラコアの活躍を鑑賞する。
「な……なんなのだあの攻撃方法は。い、いや、あれも武器なのか?」
と、驚くベルゼ大尉達。呆気にとられる彼らへ、懇切丁寧に説明する月丘。
プリルの機転で搭載してきたドーラコアが、なんとか役にたったと一安心。
『で、どうします? カズキさん!』
『プリちゃん、このヂラール野郎、今のゼル端子とコアの機能でどれぐらいの数を制御下におけますか?』
『はい……まー、何といいますか、正確な数はわっかんないのですけどぉ、見た感じ現状はコアが破壊されない限り、今ぐらいの数ならとりあえず大丈夫みたいなんでスけど』
『ということは、この数のゼル奴隷化させたヂラールをこのまま一気に突っ込ませれば、マスターヂラールに接近するスキを作ることができますね』
『んじゃカズキサン、突っ込む?』
頷く月丘。両脇をワキワキポーズでワクワクするプリル。コマンドカーニスの本領発揮なるか?
* *
ということで、時間もかけられないと一気にケリをつける事を決めた月丘。シャルリにナヨも納得して決戦の準備に入る。
『ベルゼ大尉、ここまでの水先案内どうもありがとうございました。ここまでくれば我々でなんとかしてみせます。みなさんは後退してください』
「あんたら四人で突っ込むってか? しかも三人は女だ。機動兵器が一機あるとはいえ、それでも自殺行為だ。我々もいっしょに……」
『いえ、仮にでも万が一のことがあなた方にあれば、私がネリナ提督に怒られてしまいますから、はは。それに心配はいりません。あの三人の女性はそんじょそこらの機動兵器中隊よりすごい方ばかりですから』
「……わかった。だが、我々もこの作戦の結果が見えるまで協力するのは変わらない……退路を確実に作っておく。決して無茶だけはするなよ」
『ありがとうございます。助かります』
ベルゼは月丘達が自決覚悟の特攻でもするつもりのように見えているらしいが、もちろんそんなつもりはさらさらない。つもりどころか一ミリも念頭にないわけで、そこは当初の作戦どおりという奴である。言ってみればベルゼ達の部隊がいるほうが、むしろ足手まといになる。だがそこは物腰低い月丘先生である。丁重にベルゼ達にはお引きいただく。ただ、退路を確実に作ってくれるのはありがたい。
月丘達も撤退の方法は複数想定して用意しているが、その選択肢が増える分にはありがたい話ではある。
ベルゼらは、くれぐれも無茶はするなと月丘達と抱擁し、部隊を率いて撤退した。
二度三度振り返り、手を振って来た道を帰るベルゼ達。
『さて、んじゃここから一気に突っ込みますか。みなさん、準備はいいですか?』
と月丘は三人のフリュらに問うと、皆がOKサイン。
シャルリは義手の指先を、機動兵器『ソウセイ』のようなフィンガーマシンガンのようにして、更に大型の重力子ランチャーを造成して肩に担いでいる。重力子ランチャーは、シールドごと周囲を圧壊させることができる兵器だ。だが連射がきかない。元々は対人、対艦ドーラ用の兵器であるのはもうお馴染み。
ナヨは愛刀小烏丸の刀身を長くして造成。メルフェリアではないが、長刀にして斬撃の効果を上げようという次第。で、ナヨの事なので、この小烏丸を変幻自在に使って飛び道具も兼ねるような仕事をするんだろうと、月丘は思う……まったくもってすごいものだと。
プリ子は愛機のコマンドカーニスの肩部に脚部にと増加武装をくっつけまくってる。これもVMC兵装なのだが、ゴテゴテ感がすごい。
『ね、ね、カズキサン。肩、赤く塗る? 塗っちゃう? エヘヘヘヘ』
やっぱり根っからの技術武官のプリルであるからして、今のような状況も、プリルにとっては大いに自由研究できる素晴らしい機会なのであったりする……少々変なもの作っても怒られないしー、みたいな。
実は隠れキリシタンならぬ、隠れヤルケン教徒のプリル。とうとう同志となってしまうのか……
* *
ということで諸氏万事戦闘態勢整う。
月丘は例のサイドカーに跨がり、アクセルをふかす。側車部にはロケットランチャーなどを満載している。
ナヨは、ある事を確認すると、此度は月丘サイドカーの側車には乗らず、シャランと刀を抜いて戦闘体勢に入っている……自らの足で突貫して、敵を調伏させるつもりなのだろうか。
シャルリはコマンドカーニスの頭部に乗っかっている。
『よし、んじゃみなさん行きますよ!』
『カズキサン了解ですっ! んじゃゼル奴隷化したぞんびヂラールをさらに前進させて道を作らせますねっ! よーし、ゼル端子虫ロボ、さらに投入!』
ゼル奴隷化させた、あの気色悪いヂラールは、体を強制支配されて味方のヂラールに襲いかかる。
ヂラールも襲い来る味方に狼狽……というよりは鈍い反応を見せつつも、敵と理解し反撃に出るが、ヂラールがゼル奴隷化したヂラールを襲って取っ組み合いになれば、ゼル奴隷化ヂラールがゼル端子を更に感染させて、仲間を増やしていく。
そんな攻防を続けていると、当たり前の話だがだんだんと敵がゼル奴隷化して増えていき、マスターヂラールの視点で見れば、まったくの本末転倒な状況に陥っていく。なんせ敵を襲えば襲うほど敵が増えるという状況になっていくわけであるからして……
プリルはゼル奴隷化したヂラールをリアルタイムシミュレーションゲームのようなインターフェイスで操る。で、その戦っているヂラールの群れに開いたスキともいえる空間を皆のVMCモニターに表示させる。
プリルもそんなヂラール操作とコマンドカーニスの操縦にと忙しいわけであるが、そこは戦車跨乗状態のシャルリである。ホイールダッシュする機体から義手のマシンガンをぶっぱなしつつ、
『ドキなっ! プリル、重力圧縮空間ができたら避けるんだよっ!』
と警告し、重力子ランチャーをぶっ放す。
中心部は漆黒ながらテスラコイルのように青白い光を纏わせて飛ぶ重力子弾。
マトに命中せずとも任意の場所で発動し、敵ヂラールを十数匹吸い込んで敵を圧壊させる。重力子の効果が消えると、ズタボロになった敵が放出される。
すると、ヂラールコロニー鹵獲作戦の時のように、同じパターンでマスターヂラールが見えた!
『プリちゃん! 前方掃射してくれる!?』
サイドカーの操縦も絵になる月丘。伊達に中東で乗り回していない。
『わかりましたっ! シャルリ大佐もお願いしますっ!』
『了解だよっ!』
月丘の進行方向を開けるために、コマンドカーニスの持つアサルトライフル型の速射斥力砲をドカドカと撃ちまくるプリル。肩部のミサイルも一斉発射。
その肩にしがみついて体を支えつつ、重力子ランチャーを放って敵の進撃を抑え込むシャルリ。
取り巻きの、ヒューマノイド型でゾンビのようなヂラールは何とかなりそうではあったが、その本丸、マスターヂラールの、例の千手観音の如き本体の、その腕部の攻撃と、頭部のような箇所から発せられるビーム攻撃にこれまた行く手を遮られる月丘。
だが、彼らもこれで二回目の相手だ。同じ攻撃は二度食わない。
外で一斉攻撃する囮部隊に主力のすべて回したこのマスターヂラールの判断ミスが、先の鹵獲作戦よりも仕事を容易にさせる。
『ツキオカ、あれは妾に任せよっ!』
先程から月丘のサイドカーや、プリルのローダーに、シュンシュンと連続転送移動で追随するナヨ・ヘイル・カセリア閣下。
転送でいきなり敵中ど真ん中に顕現しては、一帯を小烏丸のエネルギー閃光で切り伏せ、また転送移動する……こりゃ流石に他の者は真似できないナヨ閣下独自の戦法である。
そのナヨさんが、また一つ転送で顕現するは、マスターヂラールの、頭部ビーム発射部。
『そのような攻撃はもう通じぬ!』
小烏丸のエネルギーを最大にして閃光一つ。ビーム発射部が真っ二つになって暴走し、大爆発を起こす。
『よし、今ですツキオカ!』
『すみません! いきます!』
サイドカーからジャンプして、背部斥力スラスターを可動させ、高い天井めがけて飛ぶ彼。
この千手観音の化物のような本体背部から極太の脊髄状のものが地面から壁を這うように天井に達している。つまりこのマスターヂラールの『脳』に当たる部分は、この天井部の裏側にあるのだ。
月丘はジャンプした瞬間、最大高度に達するまでに、バイザーの照準を予め鹵獲コロニーで調査済の、ある一点に合わせ、腕に装着した装置をドン! と放つ。
その装置は天井にブッスリ刺さると、ガシッと三ツ又に別れ、その装置を強固に保持した。
月丘は空中でクルと一回転すると、自動制御で月丘に追従してくるサイドカーに再び跨がり、
『マーカー設置完了! マーカー設置完了! みなさん撤退です!』
『了解ですっ! カズキサン! 私についてきてっ!』
コマンドカーニスの足元に火花を散らしながらUターンするプリル。その肩部にシャルリが体重移動させながらしがみついている。
その後に続く月丘のサイドカー。側車部に今、ナヨ閣下がストンと乗った。
ナヨは側車に積まれた使わなくなった武器武装を小烏丸で断ち切り投棄する。と同時に小烏丸の衝撃波を一つ放ってその投棄武装を爆破させると、追いかけてくるヂラールはこれまた吹き飛び、後方の憂いを断つ。
『こちらシャドウアルファ。敵にマーカーを設置した。作戦終了、作戦終了。撤退する』
* *
『しゃどうあるふぁ。さくら了解。ご苦労様でした! 可及的速やかに退避されたし。コレより一〇フン後に一斉攻撃を開始しまス!』
ウォンウォンと好調な機関部の音を奏でて滞空するは、ヤルバーン州軍所属の人型攻撃艦フリンゼ・サーミッサ級二番艦『サクラ型』
この艦のイゼイラ人女性艦長が状況の確認を各部署に求める。
『ジェルダータガワ、ジェルダーシエ! そちらはどうですかっ!』
『こちら多川だ! 今リアッサ隊がモンスターフラワーの中枢部破壊に成功した! シャドウアルファの連絡は聞いている。全部隊に撤収命令を出した。あとは頼むぞ!』
『ダーリン、巡航形態ニ移行スルゾ、出番ダ。ケツマクレ!』
『了解かーちゃん!』
そんなシンシエコンビの会話に噴き出すサクラ艦長。
『艦長、しゃどうあるふぁの設置した次元マーカーの信号を確認しました!』
『よし! ディルフィルドゲート展開用意! 一斉掃射準備!』
『転送攻撃用ディルフィルドゲート展開開始!』
そう、この月丘達の行った、『マスターヂラール暗殺作戦』ともいうべき作戦は、件の鹵獲作戦で調査した敵の中枢部に少数精鋭で侵攻して、マーカーを設置後、この転送攻撃で内部から粉砕しようという、かの惑星イルナットでのサーミッサ型がモンスターフラワー相手に行った作戦を転用した攻撃法なのである。
なので、所謂最小限の労力で、完璧な必殺の一撃を食らわせるため、敵の中枢の正確な位置をセンサーで発信させる必要があった。
いかんせんヂラールは生体兵器だ。同じようなタイプでも個々で微妙に違う点がある。
鹵獲コロニーのデータをそのまま流用しても敵の中枢を一撃で破壊できるとは限らないわけで、やはりそこは偵察をしたいところである。
『陽動作戦部隊、安全圏に撤退完了』
『しゃどうあるふぁと、その協力者は?』
『こちらも間もなく!』
『よし、では攻撃カウントダウン開始!』
* *
サイドカーを疾走させる月丘。横にはナヨ閣下が同乗する。ナヨも此度は月丘が操縦しやすいように、マン島のサイドカーレースの如く、月丘のハンドリングに呼応して体重を移動させている。
小烏丸の鞘をピンと立てて、お尻を突き出し、右に左に体を移動させる。
先行するプリルのコマンドカーニスも一流のローラースケーターの如き挙動で疾走。シャルリもその挙動に合わせて体重移動させていたり。
(……)
サイドカーを運転しながら少々思うところがある月丘。退路の道を左右に目配せさせて何かを探している。
『ナヨ閣下!』
『なんですか、ツキオカ!』
『すみませんが、あの奇妙なゾンビ型ヂラールの遺骸ですけど、その体の一部でも切り取ってもらうことできますか!?』
『この速度でかえ!?』
『はい! 少々思うところがありまして!』
『ふむ、わかりました! では次に目についたものを斬りますよ』
『頼みます!』
月丘は目についたゾンビ型ヂラールの遺骸にサイドカーを接近させると、ナヨが腰の小烏丸を居合で抜いて、ヂラール腕部を斬り飛ばす。
後方に流れていくその腕部をナヨはすかさずトラクターフィールドで引き寄せて、PVMCGで衛生ケースを造成して収納し、回収する。
『ふぅ、このようなもの、どうするのですか? ツキオカ』
『ちょっとニーラ先生に調べてもらおうと思いましてね。ま、杞憂で終わればいいのですが』
『ふむ……ようわかりませぬが……』
今、プリルに月丘は、上空に見えるサクラ型の滞空する雄姿を横に捉えた。即ち安全圏まで撤退が完了したのだ。
それを確認した両機は速度を落とす……すると、前方でベルゼ大尉達が両手を振って、「こっちに来い!」
と叫んでいる。
コマンドカーニスにサイドカーから降りる月丘達。
彼にプリル、シャルリにナヨは、ベルゼ大尉達に誘われて、廃墟と化したビルの屋上に登る。
そこから見える風景は、サクラ型の後ろ姿に対峙するヂラールコロニーが、テレビゲームの戦闘画面のように、綺麗に写る情景であった。
「どうだ、特等席だぜ」
と月丘の肩をパンパンと叩くベルゼ。ま、まだ放射能濃度の問題もあって、素顔を出せない月丘である。
しばし後……
サクラ型の前方に、小型ではあるが、直径二~三〇〇メートルぐらいのディルフィルドゲートを展開させるサクラ型。そこに向かって、サクラ型の装備する艦砲兵装をありったけ打ち込むその情景。
その円形の空間に吸い込まれる砲火を見て、何をしているんだと訝しがるベルゼ達。
だが、その刹那……ゴゴゴと地面が揺れ、高いビルの上にいる彼らも、その揺れが増幅されて、側にある固定物で身を支える。
次にやってくる情景は……
ヂラールコロニーが大爆発を起こす、勝利を宣誓する映像であった!
きのこ雲が立ち昇り、内部に溜まった何かが膨張して吹っ飛ぶその情景。
軽い衝撃波が月丘達に強風として吹き付ける……そして……
「やったぁーーー!!」「勝った! 終わったぞ!!」
横で歓喜するベルゼ大尉達。抱き合い、月丘達にもハグを求めてくる。
プリちゃんもその中に混じってはしゃいでいたり。シャルリやナヨも、ホッとした表情でニコニコである。
で、当の月丘は、嬉しさというよりも、
(やっと終わりましたか……)
といったところ。ま、彼の人生、戦い慣れしているせいもあってか、歓喜というほどのものはない。元PMCで戦争を生業にしていた時期もあっただけに、どうにもこういった任務も『仕事』と割り切ってしまうところがある月丘。でもまあ、彼らの歓喜はもちろん理解できる。ま、嬉しいというよりも、『良かった』と思える月丘であった。
* *
地上のヂラールコロニー破壊の報は、軌道上で戦うネリナ・マレード提督の下にもすぐに届く。
一瞬、ブリッジが歓喜に湧いたが、すぐにその後の情勢変化に気づいてクルー全員眦の鋭さを元に戻す。
「ネリナ提督、やはり当初言われていたとおり、バルター共の動きがてんでメチャクチャになっています。先程までの統制がとれていた行動が嘘みたいですね。まるでならず者が勝手気ままに暴れているような……」
ネリナ乗艦の艦長がそんなことをネリナに意見具申。
「ティ連の方々が言っていた通りだな。まだかなりの残存部隊が残っている状況だ。それはそれで結構めんどくさいぞ」
そう、今度は生体兵器を倒すと言うよりも、凶暴な野生動物を狩るような戦いを強いられる。
これはこれでめんどくさい戦いになるのは事実だ。
ネリナはここで一気に数で決着を付けたいと思うが、幸いなことにその願いはすぐに叶うことになる。
「提督!後方二〇〇〇にエルドジャンプ反応……いえ、これはディルフィルドジャンプでしたか? その反応が多数確認されました!」
「おお! ティ連の増援か! これは助かる。どこの部隊か?」
すると、そのディルフィルドジャンプの反応を示した艦隊から即座にネリナ艦隊へ通信が入る。
『その船に乗っておられるのは、ネリナ司令ですかな?』
なんと、特危自衛隊、火星域駐留艦隊。則ち、連合防衛総省太陽系方面軍管区司令部のゼルドア提督であった。勿論乗り込む艦は、機動母艦『ジュンヨウ』である……艦橋と二重アングルド・デッキが合体したような、特徴的な地球型デザインの大型機動母艦だ。
「これは! ゼルドア閣下! お久しぶりでございます!」
『いやはや、なんでも少将におなりになったとか、おめでとうございます』
「いやなんの。これも戦時特例のようなものです」
『あなたの頑張りはよく存じております。その結果でしょう……と、そのような話は後でということで、来て早々ですが、我々も残存勢力の掃討を手伝いましょう……ティラス艦長、よろしいですな?』
これまたなんとも、ティラス艦長といえば、我らが宇宙空母カグヤもやってきていた。
つまり、先のUSSTC―LNIFの『航宙巡洋艦ニール・アームストロング』に『航宙重護衛艦ふそう』『ガーグデーラ58号母艦』も、この艦隊でやってきたわけで、急遽別れてダルやネメア達の援護に向かったという次第であったのだ。
で、本隊であるこのゼルドア部隊の目的は……
『了解です。ファーダ・ゼルドア……よし、キョクリュウ、キョッコウⅡ、ヴァズラー全機発艦! シルヴェル各機は主砲形態で台座へ転送せよ。そして搭載している「M4りっじうぇい」も甲板に上げて迎撃体制を取らせろ。この戦況じゃ、もうこれは使わんだろうから、せめてここで使ってやらんとな、ははは』
LNIFから依頼された補給のM4リッジウェイ。ここまでもう戦況が決した状況なら使うことはないだろうと、迎撃兵器として甲板に並べられたりする。
他、旗艦ジュンヨウからも、続々と機動兵器が発艦する。こちらの大きさは全長2000メートルだ。その艦載機動兵器搭載数は、カグヤの比ではない。つまりぶちゃけていうなら、この艦隊が到着した時点で、この軌道上の戦いも決着がついたわけである。
それを確認したネリナ艦隊は、無理に前へ出なくてもいいだろうという判断になり、全艦ゼルドア艦隊と行動を共にするために、少し引いて、あとは機動兵器部隊の活躍に期待することとした……
「ところでゼルドア閣下、閣下が随伴されている多数の艦船ですが、戦闘艦艇の他にも、多くのよくわからない艦種が混ざっているようにお見受けいたしますが」
『ええ、これはグロウム帝国本星を復興させるための工作艦隊ですよ。我々の部隊名でいう、テラフォーミング艦隊の一部を連れてきました』
「な! て、テラ・フォーミング?」
テラフォーミングという言葉は、地球の言葉なので、実際は別の言葉を使っているのだろうが、地球人が聞けばこんな意味の会話。
つまり彼らティ連に日本国も、グロウム人がヂラールコロニーを抹消するために、核兵器を撃ちまくったという話は聞いていたので、その本星復興も、こりゃただならん協力体制が必要になるだろうと考えたわけである。
恐らくと言うか、もう純然たる事実として、現在のグロウム本星は、そりゃもう核汚染まみれの放射能まみれで、現場で戦っている地上部隊の諸氏も全員コマンドローダー系のスーツ着て、環境シールド展開しなきゃマトモに戦えないというところなもんだからかなりの話である。
なので、かろうじて地下施設に退避し、核汚染をギリギリで免れているグロウム国民は、彼らの対核兵器セーフティ技術のおかげで助かっているわけで、このあたりは彼らも技術力の高さを見せているところでもある。
『……そういう事態が予想されたので、これは正直ただの復興というよりも、テラフォーミングに近い復興をせねばばらんと予想しましてな。本国から惑星改造に長けた部隊を呼び寄せました』
サラっとそんな事を言うゼルドアだが、グロウム人も相当な科学力を持った種族とはいえ、惑星改造となると、これまたかなりハードルが高い科学技術の範疇になる。
グロウム帝国周辺に存在した、グロウム人から派生した周辺国家も、グロウム人の歴史から見て、かなりの大事業を持って惑星を改造し、独立した国家になったわけで、かつての周辺国家のほとんどの本星が、コロニー化はできてもテラフォーミングというにはまだ遠い状況であった。
なので、ネリナもそのゼルドアが発する言葉に、ティ連とは一体どんな科学技術を持つ国家なのかと、改めて思い知らされる訳である……
* *
グロウム帝国本星の軌道を周回する衛星『リッテイア』。地球で言うところの『月』に相当する星である。
そこから数万キロ程離れた位置に鎮座するティエルクマスカ連合防衛総省人工亜惑星要塞『レグノス』
本作戦での最高責任者であり、また連合防衛総省という部門の現在トップである御仁、柏木真人長官は、レグノスのブリッジで作戦の推移を見守っていた。
『ファーダ長官。恒星ベイルラ方面の戦闘に続いて、グロウム本星の戦闘にも決着がついたみたいよ』
「そうですか……ふぅ……二面作戦で戦力を割ったのが良かったのかどうか不安でしたが、なんとかなりましたねパウルさん」
『そうね。って、私としてはグロウム本星の戦闘の方はもっとやりやすいと思ったけど』
「ええ。ヂラールコロニー、いや、マスターヂラールがあそこまでしぶといとは思いませんでした。月丘君達の活躍と、グロウムの現地レジスタンスの情報がなかったら、ゼルドア提督の艦隊も本格投入しなきゃならないかもしれないところでしたね」
『そうね。で、ダル提督んところの、あのゼスタール娘の二人組も結構やるわねぇ』
「まったくですね、はは。まさか特攻なんての、どこで覚えたのか」
カウサ、つまり自分のコアを破壊する事覚悟のスール化特攻である。まあ死にゃしないわけなので、考えてみりゃある意味理想的な特攻でもある……とこんな事ゼスタール人の前で言ったら『お前も同化してみるか?』と言われそうだが。
『で、ファーダ。恒星ベイルラの“だいそんしすてむ”中核と一体化してたコロニー型ぶっ潰した件なんだけど』
「ええ、わかっていますよ。あの中央配信システムも壊しちゃいましたからね。まあ仕方ないことですけど」
『何なら、私の工作艦隊使って直してこようか?』
「って、パウルさんが行きたいんでしょ?」
『まあそうだけど、私しかいないじゃん。こんな時役に立つのって』
「はは、わかりました。ではお願いします」
と、恒星ベイルラ方面のダル艦隊の戦闘に、グロウム本星、多川艦隊の戦闘と、なんとか両面作戦が成功できてホッとする柏木長官。
ただ、状況としては瀕死の状態。それこそ水際で勝てたような一連の戦闘で、ティ連としてもネリナ艦体との邂逅があっての、ここまできた話ではあるので、よくよく考えたらグロウム帝国という国家と、まだまともに政府レベルでの正式な外交なんぞやってもいない状況なのである。
これもヂラールという知的生命体共通の敵があっての緊急事態判断とでもいうべきティ連に日本や、ヤルバーン州の判断であって、此度の戦闘が終わりを迎えた時点で、地球、そして日本としては、同じ銀河系に住む知的生命体との正式な出会いが始まるといった状況が始まる。
ある意味これまでにないパターンの出会いであり、新たな知的生命体との遭遇である。
そしてティ連にゼスタールとしては、今回鹵獲したヂラールコロニーの調査からこの敵性体が一体如何様な存在なのか、その究明も待たれることになっていくだろう。
ただ、間違いのないことは、これからティ連に地球がこのグロウム帝国の栄光、その復活へ積極的に関与していくことになるという事実である。
LNIFがUSSTCと合同で参画してきた此度の作戦も考えれば、恐らく地球世界の国際社会も、このグロウム帝国との事案に関与しようと色々謀略策略張り巡らせるのは間違いない。これもそうならざるをえないだろう。
そして……今回ヂラールについてまた出てきた疑問。
それは月丘達が遭遇した、あのタイプのヂラールである。
月丘は何か引っかかるところがあって、あのヂラールのリアルなサンプルを一つ入手した。
彼は何を思い、そんなものを採取したのか。
ただ今それは、小さい問題だったのである……




