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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
38/89

【第六章・ティ連日本国】 第三七話 『The Longest day』 


 地球世界、そしてゼスタールを含むティ連世界において現在、『グロウム戦役』や『ヂラール・グロウム戦争』と呼ばれる事になるこの戦いだが、勿論その戦況を含む状況は、地球社会にも伝わっていた。

 一九四〇年代に、テレビジョンという短時間、そしてリアルタイムに映像、音声を不特定多数へ同時に配信するという史上かつてない情報公開手段を手にした人類は、『戦争状況』というものを、茶の間において実況中継で見ることができるようになった。更に時代は進み、ネット社会にティ連型情報共有システム社会と、そんな『超進化型情報時代』ともいうべき世になってくると、当然『グロウム戦役』のような、三〇〇〇〇光年先の世界で起こっている、想像を絶する『宇宙戦争』の状況も、今や地球世界で、そして地球のどこにいても『それ』が入手できる時代になってしまっているのである……

 その主なメディアとソースは、ヤルバーン州のティ連広域情報システムであり、地球社会のマスメディアも現状、この広域情報システムを『通信社』代わりに使っている現実がある。

 ティ連の広域情報システムは、ニュース情報の公開非公開判断を、高度なトーラルシステム上の人工知能による『情報査定システム』が行っている。これは、その情報公開判断を人が行った場合の弊害、つまり事象情報に情緒的感性が入り、情報を偏った形で取捨選択しないようにするための、ティ連が確立させた実績あるルールである。そういう事もあって、それら公開されるニュース情報はある意味遠慮ナシなところもあって、『地球のメディアが「報道しない権利」を行使している方が、良心的なのではないか?』といったようなモザイク級の情報も平然と流されていたりするので、ある意味『これがマスコミ禁止法の後にくる世界』を見事に体現したような情報共有社会の姿がそこにあったりする。

 勿論そこには営利団体ではない『公開情報倫理監視委員会』という完全な第三者型組織があって、そこで広域情報バンクにアップされているニュース情報の公開レベル設定を行ったりという、そんな地味な作業をやっているトコロもあったりするわけである……ということで、広域情報システムに阿鼻叫喚な映像が氾濫しないように、そして何よりも無法化させない為のセーフティもしっかり働いているわけではあるが……


 それはともかく、とにもかくにも遠慮ナシな正確さと、絶妙な機密保持に非公開判断をする広域情報システムである。

 今ではグロウム帝国の案件も広域情報システムによって、ティ連で公開判断されるレベルの情報を、インターネット等を通じて、今や地球社会、世界各国で簡単に入手する事ができる……一部の国家を除いてという話ではあるが……


 当然、今作戦における『従軍広域情報官』も、レグノス要塞や、ダル艦隊などに、プレス資格みたいな物もらってついてきているワケであるので……

『ワシらも戦場で取材させろ』とほざく地球の記者達も当然出てくるという次第。ここはもう仕方ないという話で、次の増援がグロウムへ飛ぶときに同行させてやるという形で今は大人しくしてもらっている。


 と、そんなマスメディアの『情報を伝える意義』に格段のテーマを突きつけた形にもなってしまっているこの事案。

 マスコミという存在が、『マスゴミ』とバカにされるような人種も含めた連中を指す言葉だとするならば、ティ連の広域情報官達は、なんと呼称すればよいのか? と一時期問題提起された事があったが、これもよくよく考えれば、地球の言葉ではやはり『マス・コミニュケーション』つまり『マスコミ』という言葉が適当なのだろう……もっと良い呼称をつけてやりたいところではあるが……


    *    *


『さて、今日の「特集」です……現在、我々人類に、ある大きな課題があるのをご存知でしょうか? かの一〇年前のヤルバーン飛来事件から私達人類は飛躍的に、この宇宙に存在する多くの謎に対する答えを知ることができましたが、現在喫緊の課題として私達は今、大きな問題を抱えているのです……政府は**日に、ある情報を開示しました。我々人類の住むこの惑星、「地球」から、およそ三〇〇〇〇光年離れた「聖ファヌマ・グロウム星間帝国」。この国家と、我々人類、そしてヤルバーン州やティエルクマスカ連合が接触を持てた事はもうみなさんが知るところですが、彼らが今現在、戦闘状態にあるという事もわかり、我が国日本でも、それに対応した安全保障体制において現在も議論が交わされています……さて、そのグロウム帝国ですが、一ヶ月前の**日に、地球では数年前の「惑星サルカス・ハイラ王国事件」でその名を広く知られることになった宇宙規模の生物災害「ヂラール」との、大規模な戦闘状態が確認されているという、衝撃的な情報を政府は公開しました。同時にこの問題を共有していたLNIFの北米担当官は**日のコメントで……』


 現在、日本ではこんな感じの報道が、それは毎日行われている。その他各国の報道も似たようなものだ。

 今ではそういった報道がなされる場合、必ず報道関係各社は、


『ティエルクマスカ連合、広域情報システムによりますと……』


 という言葉を頭につけるよう徹底されている。こうすることで、そのニュースの信憑性が格段に上がるからである。というか実際この手の情報は、広域情報システムからしか入手できないわけであるからして、当然そうなってしまうのではあるが……

 

 当然今現在では、このようにグロウム帝国の現状も大きく報道されている。それは日本や米国、ヨーロッパにいて、ベトナム戦争や、第四次中東戦争に、湾岸戦争やコソボ紛争、SISとの戦闘のニュースを知るかのごとく、グロウム帝国の情報も、今では多くの地球世界における各国国民が知るところとなっている。


『ファーダ・カスガ。今日は、私のようなティエルクマスカ連合広域情報官のインタビューにお付き合いいただき、ありがとうございまス』


 ティ連の広域情報官は、いうなれば地球で言うところの『記者』に該当するわけであるが、基本彼らも広域情報省という国のお役所の役人であって、所謂マスコミ的な記者という立場の者ではない。つまり彼らはレア情報に特ダネなどは追いもしないし興味もない。彼らが欲するのは、現実の、公共が求める事象情報だけである。従って、こういった個人にインタビューする際にも、取材目的以外の余計な質問などしないし、関東新聞にいるような「自分の偏ったイデオロギーを官房長官に発表することが質問する事」と、何か勘違いしている「頭のおかしいこの日本でも有名な女性記者」のような、周囲が思わず引いてしまう質問もしない。


『サテ、まず今回のインタビューは、広域情報システムに登録されマスので、地球のインターネットシステムでも閲覧が可能となります。従って、地球世界はもとより、ティ連世界にもファーダのお話が知られるということになりますので、その点よろしくお願いいたします』

「はい、承知致しております。今回はある意味世界のみなさんに、もう色々と地球社会のマスメディアでも報じられている、件の『グロウム戦争』と世間では言われている事件について、我が国や、ヤルバーン州等々が得た情報も含めて、一度正しい情報をみなさんに知っていただきたいという意味も含めまして、この度の席を設けさせていただいたところでもあります」

『ナルホド、ということは、私達も事象情報を収集するに当たって、所謂この惑星の営利報道機関の報道情報も耳にいたしますが、かなり間違った情報や、歪んで伝わっている情報も多々存在しまス。そういった特定の、かつ独り歩きしているような情報の否定や是正も含めて、世の人々に正しい事実情報を伝えたいというファーダの意思という意味でよろしいのですね?』

「そのとおりです。ですから、これから色々と質問を受ける際に、事実情報の正確さを徹底するあなた方の得た情報と、私がお話する事を比較論議していただければ、余計な疑念を抱く必要もなく、事実情報が伝わるものと思いますので、よろしくお願い申し上げます」

『わかりましタ。では……』


 と、こんな具合で、インタビューと言うよりは、広域情報官との対談に近いような形で、現在のグロウム案件の様々な情報が、広域情報省の収集した映像資料等とともに、広域情報システムにアップロードされ、世界中の最新異星文明情報を待ち望んでいる人々や、各国政府重要機関も知るところとなっていくのである……

 

 つまり……


    *    *


 ある宇宙に空間一帯の時空が歪み、眩い閃光とともに、大中小様々な形状、ものすごい数の艦艇が、その姿を顕現させる。

 時空の門から飛び出たそれは、倍速映像から、通常速度の映像へ切り替わるようにディルフィルドアウト、即ちワープアウトして即座に艦隊陣形を整える。

 その大艦隊の隻数。主力はティ連本部艦隊とゼスタール艦隊が主となるが、日本国特危自衛隊とヤルバーン州軍連合艦隊に、グロウム帝国艦隊も轡を並べ、その数千数百にもなる大艦隊を形成していた。

 艦隊はしっかりと陣形を組みつつ、何かを待ち、受け入れる体制をとるような機動を見せる。

 すると次に、それまでの個々の艦艇が発したディルフィルドジャンプの航跡などものともしない巨大な重力振反応に、艦隊一帯の空間が包まれる。


『パウル提督、全艦隊滞りなくベイルラ星系にディルフィルドアウト完了いたしました!』

『全艦隊運行状況良好。損傷、脱落艦はありません!』

 

 巨大な人工亜惑星要塞レグノスを中心に、巡航速度で進撃する大艦隊。まず目指すはグロウム帝国本星グロウム。


『よし、んじゃレグノス要塞は、このまま進路を、グロウム本星衛星「リッテイア」から所定の位置まで離れて固定。前線基地とするわ』


 パウルのその言葉に合わせて、主力のティ連任務艦隊司令のダルがVMCモニターを開いて、レグノスのブリッジに割り込み、


『デハパウル。当初ノ作戦通リ、コチラハ、ジェルダー・タガワノ打撃艦隊ヲ、グロウム本星ニ突入サセテ威力偵察ヲオコナウ。ソノママ戦況ニ問題ガナケレバ、生存者ノ探索、接触ト、ヂラール掃討作戦ヲ行ウゾ』

『了解よジェルダー・ダル。そちらの命令指揮は任せるわ。私達はとにもかくにも基地化をとっととやっちゃうから……という感じで問題ないわよね、ファーダ長官サマ?』


 パウルに許可を求められるファーダ長官サマの柏木。というか、一応ティ連の大閣僚職やってるけど、んな軍事作戦の実働処理なんか振られたって長官先生は軍人経験なんてないので、そこは、「まかせまっさ」というかんじで、親指をテキトーにピっと挙げる。ま、言ってみりゃこの時点で、柏木が『責任屋』として稼働したといったところ。つまり『あとは任せた。責任はワシがとる』といったイッパシの事やっているというわけである。

 それを見たダルも、了解と地球式の挙手敬礼をピっとパウルに投げて、VMCモニターを切る。

 ま、これでもこの一〇年、ティ連防衛総省本部でしょっちゅう顔を合わせては会議でスッタモンダやってる仲間である。もう誰が何をするか、んで何を考えてるかなんてお互い知った仲なので。上層の命令指揮も油の効いたベアリングのごとく、スムーズに事は進む。 


『んじゃ、ちゃっちゃと所定の位置で、レグノスは基地化するわよ。で、ジェルダー・ダルの艦隊へ、あのクソッタレヂラールの運用権限引き渡しは済んだ?』

『はっ! 滞りなく!』

『よっし!』


 と、そんなやりとりもあって、艦隊はしばし進むと、当初の作戦通り、隊を三つに分ける。

 ……グロウム本星へ向かうは、多川将軍とシエ将軍率いる第一機動先遣打撃艦隊。当初のサージャル大公領へやってきた多川の艦隊に、かなりの数の中型強襲揚陸艦を伴っている。

 更に生存者がいた場合の同族に対する安心担保として、ネリナ提督旗下のグロウム艦隊も、多川達と行動を共にしていた。

 ……恒星ベイルラ方面へ向かうは、ダル提督旗下の本部任務艦隊と、ゼスタール艦隊。一部のグロウム艦隊という編成である。

 ……最後に、柏木長官(総司令官)と、パウル提督のレグノス要塞は基地化して、『衛星リッテイア』付近に待機。アチラとコチラに睨みを利かす……


 と、こう書けば、事はすなりと戦闘態勢へ移行できるかという話にもなるのだが、そこはそう簡単に行くわけでもなく……


『こちら第一機動先遣打撃艦隊、多川だ。パウルさん、今グロウム本星に向かってるが、やっぱり敵の残存部隊が軌道上に結構いるな……幸いなことに艦船クラスのヂラールは発見できないが……』

『あのトンデモ攻撃があっての、急遽の出撃だったからね。グロウム宙域の情報っていえば、ファール首相達が提供してくれた当時の情報だけだったし……ケラー・タガワ、いけるかしら?』

『ま、これぐらいならなんとか』


 するとネリナ提督がVMCモニターを開いて、


『タガワ将軍、本星へ突入する際の水先案内は我々に任せていただきたい』

『ですな、そこはお任せしますよネリナさん』

『感謝いたします! で、あともう一つ懸念事項が……』

『何でしょう?』

『グロウム本星艦隊が、ヂラールコロニーを破壊した際に大量の熱核兵器を使用した訳ですが、当然本星は相当な放射能に汚染されています。我々の技術では放射線を防護する技術は有しておりますが、あの濃度の放射能を除去するまでの技術は……もし生存者がいた場合、高濃度の放射能汚染下で、どのような状況に置かれているか心配です。貴殿らティエルクマスカの技術で放射能を軽減させるような技術は……』


 すると、そこは元ガテン系エルフ艦長のパウルが、


『そのあたりは心配いらないわ、ケラー・ネリナ。私達の技術で、核裂線物質……あ~、ホウシャノウって奴ね。それを綺麗さっぱりお掃除してあげるから』

『可能なのですか!』


 すると多川が、


『ネリナさん、私達の地球も、かつて事故で高濃度の放射能汚染を経験してましてね。その時にパウルさんに大変お世話になりました。私が保証します、大丈夫ですよ』


 パァと明るい顔になるネリナ。これで勇気一〇〇倍である。フンムな顔になったネリナ提督は、我に続けとばかりに、艦隊フォーメーションをとり、惑星グロウムへ一直線に進撃していく。


『おいおいおいネリナさん、張り切ってるな。よし、俺達も遅れるなよ!』


 横で艦を指揮するニヨッタ艦長も負けてられませんわという感じで、先を進むネリナ艦隊の援護のために、各艦に援護攻撃を命じる。


『ネリナ艦隊、機動兵器を展開! 本格的な交戦状態に入りました!』

『ネリナ艦隊駆逐戦隊より入電「グロウム本星に降下する。我に続け、我に続け」』


 ネリナの奮闘ぶりに、流石満身創痍になりつつも、地球から四〇光年付近まで逃げ延びて来たその艦隊指揮技術は流石だと思う。


『んじゃニヨッタさん、あとは貴方の専門だ。艦隊指揮は任せます』

『承りました。ジェルダーは、奥方様と出ますか?』

『ええ、大気圏内に入ったら、大見一佐達の出番です。シエと一緒に前線で指揮をとりますよ』

『ウフフ、トッキ隊名物が久々に見れますね』


 特危自衛隊名物の夫婦将軍シンシエコンビの前線指揮。こいつはまたレジェンドになりそうな、そんな一戦。そして更に、以前のイルナット戦で威力を発揮した人型機動攻撃艦『フリンゼ・サーミッサ級二番艦「サクラ型」』を投入である。もしグロウム星に生存者がいれば、ネリナ達サージャル大公領軍とティ連の連合艦隊は、この上ない希望の軍団となるだろう。


 ネリナ艦隊本隊が駆逐戦隊を切り離し、機動兵器母艦がシェイザー型機動兵器を発艦させる。

 軌道上の残存敵勢力を掃討しつつ、多川艦隊の強襲揚陸艦隊に乗せている大見指揮下の陸上科に、シャルリ指揮下のメルヴェン隊に、そしてリアッサ指揮下のコマンドトルーパー大隊と、これだけの部隊をこの星に展開する。

 正に、ロンゲスト・デイとなる作戦である……


    *    *


 一方、現状における悪の元凶である最後のマスターヂラール撃破に向かったダル艦隊とシビア・ネメア率いるゼスタール艦隊に、ネリナ艦隊から一部別れたグロウム艦隊。こちらのグロウム艦隊は、所謂『サージャル大公領軍』ではなく、グロウムの本艦隊の方である。

 これらは、レグノス要塞、多川艦隊と別れた後、短距離ワープを即座に行い、ベイルラ星系中心部へと艦隊を進めた……のだが……


『ジェルダー! 敵ヂラール大部隊が展開しています! これは物凄い数ですね』


 ティ連防衛総省グロウム帝国即時派遣任務艦隊、通称ダル艦隊の中心に据わるダストール製大型機動戦艦『ドルステル』の広域センサーには、それは大中小、無数の機動兵器型ヂラールに、艦艇型ヂラールをVMCモニターに表示させる。艦艇型の現在総数だけでも、一〇〇〇隻近い数である。

 だが、その光点の数を見ても、ダル提督閣下は、落ち着いたものだ。


『マ、逆ニイエバ、コノ数ガ敵部隊ノ、ホボ総数ダロウ。予想ノ範囲内ダ。驚クホドノコトデハナイ』


 ま、実際そうだろう。彼らも一応、先の惑星サルカス戦時に発見した惑星イルナットを覆ったヂラールコロニーの戦力を、モニターしていたのである。そこから割り出したヂラールコロニーの戦力展開能力は、恐らくこんなものだろうと予想はできていた。

 比較して言えば、ヂラールコロニーの戦闘能力とは、ティ連の亜惑星要塞より一つ下のクラスである大型戦略中継ステーションクラスの規模だろうといったトコロである。

 ただ気をつけなければならないのは……


『一ツハ、敵ノ機動兵器展開能力ダ……恐ラクハ、生体兵器トイウグライダカラ、敵母艦ヤ、アノデカブツ内デ、常ニ生産サレテ、即座ニ展開デキルヨウナ生体ニナッテイルノダロウ』


 これは先にとっ捕まえたヂラールコロニーの内部調査から推測できる事であった。これは月丘が気色悪い思いして調査できた、あのヂラールの卵の群れから判明した事実でもある。

 あのヂラールは、言うなれば機動兵器型は、ほぼ無尽蔵の戦力を展開できると予想されている。

 

『デ、二つ目ハ、アノ強力なビーム攻撃ダ……』


 現在、ダルはまたあのビーム攻撃で転移攻撃をやられたらたまらんので、こちらの星系に到着したと同時にダル艦隊全艦に対探知偽装を展開させて、現状ダル艦隊の存在をヂラールから隠匿している状況である。ま、これは当然の戦術だろう。幸いな事に、ヂラールはティ連の対探知偽装を見破ることができない。従って、恐らく敵最後のマスターヂラールは、レグノス要塞にトラクター・フィールドで繋がれた状態の鹵獲ヂラールコロニーに、その意識を集中させているはずである……というか、こういう具合に仕向けているのもこれ柏木とパウルの作戦であって、今あの鹵獲ヂラールコロニーは、レグノス要塞のディルフィルドゲート真ん前……即ち敵の、あの強力な粒子ビーム兵器の射線になる位置に盾のようにして置かれているわけで、この状態なら鹵獲ヂラールコロニーのボケも『撃ってこい』とは容易に命令しないだろうと、予想しての作戦である。

 実際、もし敵ヂラールの立場になって考えれば、現状彼らがこの宙域にディルフィルドアウトした即座の時間で、あのビームをブッ放せば、日・ティ・ゼ・グ連合艦隊の一部でも轟沈させることができていたかもしれないわけであるからして、こやつらヂラール共も、味方がどうなろうが殺戮本能のままに暴れ倒す本能を持っているとはいえ、やはりさすがにマスターヂラールクラスの存在が普通でない状況になっていた場合は闇雲な攻撃はせず、相応に対応するように出来ているようではある。それが今確認できたといったところ。


『ジェルダー。ゼスタールの偵察型ドーラが目標の姿を捉えたようです』


 艦のイゼイラ人オペレーターがダルに報告する。


『ヨシ、映像ヲミセテクレ』


 ブリッジ大型VMCモニターに、ゼスタール偵察型ドーラの捉えた、最後のヂラールコロニー、即ちマスターヂラールが映し出される。

 その瞬間、『おお……』とブリッジ内にどよめきが走る。


『コレハ……』


 ダル達、戦艦ドルステルブリッジクルーは、彼らの知っているマスターヂラールとは違う、異様な構図のその画に戦慄した……


『マサカ、アノヂラールコロニーガ、コンナ形状ニナッテイルトハナ……』


 すると、ドルステルブリッジの会話もモニターしている、ネメア・ハモルがVMCモニターを立ち上げて会話に交ざる……ちなみに今のネメアは、シビアとともにコアが機動攻撃艦ヤシャ級と同化しているので、個体としては、どう見ても悪役デザインの全長二三〇メートルなヤシャ級そのものとなっている。即ち、巨人なお姉さんになっているという次第……形状がどこかの完全生物状ではあるが。


『ダル生体。あれが敵性体01、お前達の言うヂラールの恐ろしいところである』


 今、連合軍側が鹵獲しているヂラールコロニーの形状は、あのサルカス戦役でも登場したヂラールコロニー同様に、超巨大な、算盤の珠のような形状をしている。これはグロウム側も会敵した際に、一〇基のヂラールコロニーの形状すべてが、そういう形であったことは証言されている。

 だが……今のヂラールコロニーの形状はというと……


 恒星ベイルラの周囲、まあ周囲とはいっても、恒星のデカさにその重力圏の広さ、それでもって天文学的な熱量の範囲を考えた場合、そりゃ相当離れた『周囲』という言葉になるのだが、ま、その周囲には、縦横十文字状に、巨大な『熱・光エネルギー変換装置』が整然と並べて配置されている。

 その変換装置とは、形状を言えば、縦横二キロメートルの、太陽電池状の平面版状構造物である。これを恒星周囲一帯に配置して、恒星の熱と光のエネルギーを得るわけである……つまりこの時に放出される余剰エネルギーの赤外線放出パターンを捉えて解析することができれば、異星人の存在にたどり着く、という理屈がダイソン・スフィア、即ち地球の『ダイソン球殻理論』である。

 で、このグロウム帝国が長い年月をかけてここまで整備したダイソン・スフィアシステムの、中央エネルギー配信ベースにヂラールコロニーが取り憑き、なんと! あのデカブツが形状を変化させて、この中央配信ベースと一体化してしまっていた、というワケなのである。

 中央配信システムは、この恒星ベイルラを十文字状に囲むエネルギー変換装置からのパワーを集約して、亜空間送信で、グロウム本星や関連宇宙空間施設、星系内の他の惑星等にエネルギーを分配送信する施設である。その大きさは、縦横一辺約三〇〇キロメートルで正方形状の壁のような施設である。正確にいえば、先の一辺二キロメートルの変換装置を一〇〇基単位でくっつけたような施設である。その中央部に制御ステーションのような施設があるのだが、この場所を中心に、マスターヂラールが不気味な触手状の何某を這わせて、まるで超巨大な粘菌の如く中央配信システムを風呂敷で包み込むように乗っ取り、正方形状の中心部に、巨大なシャッター状の瞼を持つクリスタル状の目玉か何かのようなものをギョロギョロさせて、このダイソン・スフィアシステムを支配せんとするように、周囲に大量の機動兵器型に、艦艇型をはべらせていた。

 もうその形状は、かの算盤珠のようなものではない、全く別の異質なものに変化していた……


『奴ラニ、コンナ能力ガアルトハ……我々ノ資料ニハナイ状況ダ……ケラー・ネメア。オマエ達ハ、コノヨウナヂラールノ存在ヲ知ッテイタノカ?』

『肯定、と、言いたいところだが、我々も少々驚いているのが現実である』

『トイウト?』

『ヂラール敵性体が、無機有機を問わず、対象の能力を取り込み、制御する能力があるのは知っている。ただ、ここまで大規模なものを見るのは初めてである』


 ネメアが言うには、ゼスタールのゼル端子攻撃も、ヂラールのこの能力に対抗するために開発された攻撃方法ということだそうだ。なるほどなと思うダル。

 ダルも、サルカス戦時に、惑星イルナットのヂラールコロニーが、イルナット文明の重力制御装置か何かを取り込んで、ワームホールをこじ開けて別宇宙間攻撃を行なっていたことを資料を読んで知っている。

 元々別宇宙を渡り歩くような能力があるかもしれないヂラールであるからして、そんな重力制御装置を取り込めばもっと効率の良い襲撃を行えると、ヂラールが理解してやっていたのかどうか。ここが議論になる点だったのだろうが、当時は残念な事に、そこまでを知る前に、ディルフィルド砲で消滅させてしまった訳なので、そこまでは分からない。ま、逆にいえばそういった点を調べようと、とっ捕まえたマスターヂラールをニーラが中心になって研究している訳である……どっちにしろここまで手の込んだ事やる目前にいるマスターヂラールなので、


『デハ、全艦ニ通達。アノヂラールコロニーヲ、包囲スルヨウニ展開セヨ。プランハ、アルケー56ノ戦術パターンダ』


 ダルは、現状のまま対探知偽装を展開して、敵にまだ気取られていない味方艦隊を、巨大で妖怪のような配信システムを取り囲むように艦隊を展開させる。敵との距離は中距離攻撃が可能な距離だ。

 ダルはこのまま敵を取り囲んで、一気に集中砲火を浴びせ、まずはこのヂラールコロニーを排除した後に、取り巻きの機動部隊の如きヂラールを駆除していこうという作戦に出る……所謂奇襲攻撃というヤツである。連合軍側の対探知偽装があればこそできる作戦だ。

 いちいち前衛の取り巻き機動部隊のような艦艇に機動兵器型ヂラールを相手にしてから敵の本丸という事をやっていたら、いつあのヂラールコロニーが、例のビームぶっぱなしてくるかもわからんわけで、リスクが高すぎるという理由があって、このような作戦を行うという次第。もちろんこれは事前のグロウム側資料に、サルカス戦の戦い、ヂラールの習性等々を鑑みて、予想された行動を元にした作戦だが、見た感じ、どうも予想通りであったようだ。


 確かに敵は、中央配信システムを取り込み、異様な変貌を遂げたヂラールコロニーではあるが、幸いな事に、配信システムを取り込んだ代償として、どうにも移動ができなくなってしまっているようである。

 まあこのままほっておけば今後はどうなったかわかったものではないが、元々の中央配信システムが、軌道修正程度の移動能力しか持っていないために、その性能に準じてしまったようだ。その点、敵は大きなマト状態なので、攻撃はしやすい。だが取り巻きが多いので、それらの排除の事も考えると、やはり簡単な作戦ではない。


『ダル提督、全艦隊所定の配置に着きましタ』

『ヨシ、ヂラール艦隊ト、敵機動兵器型ノ状況ハ?』

『は、やはりこちらの偽装に気づく気配がありません。全艦問題なく敵を素通りしています。まあ、別の言い方をすれば、現状我が艦隊は敵に背後を全面的に取られているともいえますが、はは……』

『フフ、マソコハ作戦後ノ話ダ。後方ニハ、グロウム艦隊ガ援護体制ヲトッテクレテイル。アノマスターヂラールヲ破壊スレバ、逆ニ我々ガ、敵ノ機動部隊ヲ挟ミ撃チニスル構図ガデキル』

『サルカス戦で、セドル・ファゼ・ズーサ提督がとった戦法ですね』


 全艦隊、攻撃態勢が整ったようで、全艦命令待ちの状態だ。ネメア・シビアコンビも、かの人型攻撃艦『ヤシャ級』で前に出ている。とはいえ、肉眼では見えない艦隊状態なので、もちろんそこはセンサーで確認というワケであるが。

 

『ヨシ、デハ、戦艦、巡洋艦、駆逐艦、アト人型機動攻撃艦ハ全艦砲雷撃開始! 重力子砲、及ビ、ディルフィルドギョライ集中攻撃ダ! 機動母艦ハ探知偽装状態デ待機!』


 命令と共に、各艦宇宙空間から電子ノイズをまとった蜃気楼のように対探知偽装を解除させて、重力子兵器に、ディルフィルド魚雷を発射する。更にオマケで粒子ブラスター砲に、フェイザー砲、ディスラプター砲もぶっ放して全力砲撃を敢行する。

 重力子砲は、中心が暗く、周囲が青白く光る不気味な閃光を放ち、ヂラールコロニーへ吸い込まれていく。 

 各艦攻撃の曳光は、幾千か幾万か。半円に配置した千に近い艦の砲火の威力、それはすさまじいの一言に尽きる。小型のゲート砲一発分に確実に匹敵するだろう。

 そもそもティ連各艦が装備する決戦兵器、重力子砲は、ゲート砲のベースとなった兵器である。現在の宇宙空母カグヤにも装備されている兵器で、当の日本では、『核兵器と同等だ!』とか野党に喚かれて、一時期スッタモンダと話題になった装備でもある。

 ゼスタール陣営の決戦兵器には、反物質ミサイルのような兵器がある。彼らは『反エネルギー弾』と呼称しているようだが、こいつをシビア達はぶっ放していたようだ。

 で、母艦型艦艇……これにはガーグデーラ母艦も含むが、これらは探知偽装を施した状態で待機していた。その理由は、マスターヂラールを破壊後に、取り巻きヂラール機動部隊へ返す刀でこれまた奇襲を食らわせたいからである。


 だが……やはり事はそううまくはいかなかった……


『ジェルダー! 敵ヂラールコロニー、大破までに至りません!』

『何!』


 どういうことだと、VMCモニターを展開させるダル。あれだけの攻撃を喰らえば、準惑星クラスなら地表をマグマの熱地獄にできるほどの攻撃だぞと。ティ連の軍人なら誰しも思うが、VMCモニターに映るその異様なヂラールコロニーであり、マスターヂラールは、相当なダメージを受けてはいるが、中破程度の状態で、十分な反撃能力を有しているような状態であった! しかも攻撃を受けたハナから再生を始めている事が確認されてた。


『ナント……クッ! マズイゾ、ドウイウコトダ!』


 ダルは思わずそう叫ぶと、ハッとあることを予想する。


『ソウカ! 迂闊ダッタ! アノ強力ナ粒子ビームニバカリ気ガイッテイタガ、奴ラハシールド能力モ、恒星エネルギーヲ利用シテ強化シテイタカ!』


 それしか考えられないと思うダル。常に獰猛で、誰彼構わず襲うことしか頭にないヂラール、という固定概念があっての話で、まさが防御までダイソン・スフィアを利用する知恵があったのかと、そう思うダル提督……ダメージを与えはしたが、この程度のダメージでは、マスターヂラールにも十分な反撃能力があるわけで……


 VMCモニターに映るヂラールコロニーを睨みつけるダル。通信士は、各機動母艦から発艦許可を求める連絡をダルに叫ぶように伝える。

 ダルはヂラーコロニーの中央部、巨大なクリスタル状の眼にも見える部分が可動したことを見逃さなかった!


『全艦対探知偽装展開! 母艦部隊ハ下ガレ! 引クンダ! 後方ノグロウム艦隊ハ、母艦部隊ヲ援護シロ!』


 ダルがそう叫んだ瞬間、マスターヂラールの眼がビカっと光り、周囲を薙ぎ払うように、強力かつ明瞭な閃光が扇状の曲線を描いてぶっ放された!


『ウオオオオッ!?』


 その閃光は対探知偽装展開途中の艦艇に命中し、ダルの旗艦『ドルステル』にも横っ腹に短い曲線を刻まれるように一撃を食らった!


『クッ! ヤラレタナッ! 被害報告!』

『艦右舷側面シールド三割まで減少! 負傷兵出ています!』

『艦隊の状況は! ……』


 大破した船はあるにはあるが、人的な被害は最小限に留まっているようである。幸い、先程の第一波攻撃はやはり効いていたようで、あの強力な粒子ビーム攻撃も、威力は馬鹿には出来なかったが、柏木が体験した、あの時の威力に比べれば、随分落ちていたようであった。


『ダガ、大破シタ船ガアッテ、ナゼコノ程度ノ人的被害デ済ンデイルンダ!?』


 その理由は、なんと! 咄嗟にキロメートル級のガーグデーラ母艦が、回避しそこなったティ連艦の盾になって攻撃をモロに喰らい、大破してしまったからである。

 もちろんガーグデーラ母艦は、無人艦なので、人的被害はゼロ。せいぜいゼスタール人用のカウサがぶっ壊れた程度だ。


『ナント……ソンナコトヲ……』


 驚くダル提督。

 恐らくネメアとシビアが、ゼスタールさんお得意の咄嗟の判断能力で、そう船を動かしたのだろう。勿論ヤシャ級は余裕であの攻撃を躱していた。

 すると、ドルステルブリッジに、音声のみの通信が入る。


『ダル生体、状況はどうか』


 ネメアの音声であった。まあそれはそうだろう。現在ネメアはシビアと共に、件の人型攻撃艦『ヤシャ級』と一体化している。つまり今のネメアにシビアは、ヤシャ級そのものが主観なわけである。

 そういうのもあって、ズイとドルステルのブリッジ近くまでやってきて、現在の彼女達の顔である、後頭部の長いブリッジを、ドルステルのブリッジへ隣接させてくる……って、オイオイと思うダル提督。ぶつけるなよと。


『コチラハ問題ナイ。先程ノ行動ニ心カラ感謝スル。ダガ、諸君ラノ船ヲ何隻カ犠牲ニシテシマッタガ……』

『生体反応が消失する事と、無人の機械化兵器を損失することを比較した場合、後者の方がリスクが低い。作戦に影響はない』

『フフ、カシワギ長官カラキイテハイタガ、流石ハゼスタールトイッタトコロカ。敬意ヲ表スル……ガ、作戦ニ影響ガナイトハドウイウコトダ?』


 ガーグデーラ母艦が庇ってくれたとはいえ、先頬の粒子ビームの一撃は少なからずダル艦隊に影響が出ている。しかも後方に控える前線を飛び越えたヂラール機動部隊が早速動きを見せ、後方のグロウム艦隊と、こちらへ攻撃を始めた。


『ジェルダー! 機動母艦部隊が艦載機の発艦許可を求めています!』

『ソウモナルカ! アノ“マスターヂラール”ヲ破壊シテカラ機動部隊ニ臨ミタカッタガ仕方ナイ、ヨシ、機動部隊ニ迎撃命令ダ』

『了解!』


 そういうことだ。本来ならあのマスターヂラールを破壊して、敵の統制が麻痺したところでヂラール機動部隊を返す刀で殲滅したがったが、そうもいってられなくなった。

 問題なのは、マスターヂラールが健在の状態で機動部隊ヂラールと戦わなければならない事だ。

 つまりメルフェリア曰く『バカ』なヂラールでも、このマスターヂラール統率下では、バカともいってられないヂラールがいるということを、このグロウム戦で理解した。となれば、今現在のヂラール機動部隊は、バカなりに統率がとれている可能性がある……ダルも『妙に理解のあるバカ』になったヂラールが、親分の言うことを聞いて襲いかかってくる状況に、ちと危機感を覚えるが…… 


『デ、ケラー・ネメア。作戦ニ影響ガナイトハドウイウコトダ?』


 この混戦と化し始めた状況でネメアが言うには、


『あのマスターヂラールは、先程のシールド防御と、粒子ビームによる攻撃で相当消耗しているはずである。従って現在の瞬間にもう一撃を加える事ができれば、少なくともマスターヂラールからの強力な攻撃は封じることができる』

『ソレハワカッテイルガ、現在ノ混戦状況デ、戦線維持スルタメニハ各艦ノエネルギーコントロールノ問題ガアル。エネルギー消費ノ激シイ重力子砲ハ使エンゾ。ソレトディルフィルドギョライノ絶対数モ足リナイ。造成製造シテ数ヲ揃エルニモ相当ノ時間ガカカル』


 するとネメアも、それは承知というところで、でっかいブリッジ頭部が頷き、


『我々が、あのマスターヂラール敵性体に攻撃を行い、まずあの水晶状の粒子光線発射システムを破壊する。そうすることで、ヂラール敵性体の発する粒子ビームの広範囲被害を最低限憂慮しなくてもよくなる。これら状況を構築するだけでも意味がある。従って、我々「ヤシャ級」が近接攻撃であの砲口を破壊する』

『単独デカ? 無茶デハナイノカ?』

『否定。単独ではない。先程大破させられた我々ゼスタールの機動母艦には、可動するドーラタイプが多数健在である。それらを率いて攻撃をかける。許可せよ』


 ダルはしばし考える……確かに人型機動攻撃艦という新たな艦種でなら可能だろうとは思う。人型機動攻撃艦なんて言ってはいるが、アレははっきりいえば軍艦の火砲を背負った巨大ロボット型機動兵器だ。相手の懐に飛び込む事ができれば無類の強さを発揮するだろう。そうなれば確かにドーラ型無人自律機動兵器を子分に従えてあの発射口にカチコミかけるのも面白い作戦ではある。そして少々冷酷な話かもしれないが、ネメアとシビアという『スール』であれば、人命の損失を気にする必要もない。なぜならネメアにシビアが特攻かけて破壊されても彼らのスールは一時的にナーシャ・エンデに帰還するだけの話である。死人が出るわけではない……という話を以前柏木から聞いた。そう思えば、今のネメアにシビアの提言は確かに効果的である。流石ゼスタール人の中核を成す人格体だと思うダル提督。


『……ワカッタ。許可シヨウ。ダガマァ、ナンダ、オマエ達ニコウイウ事ヲ話シテモ意味ナイカモシレンガ……無茶ハスルナ。ココデリタイアトイウノハ、面白イ話デハナイゾ』

『了解した。ダル生体の言葉を評価する。可能な限りスール化しないよう心がける』


 ネメアもダルが何を言いたいかを察したようだ。そしてネメア達が最悪どういう行動を取るかということも。でま、ネメアにシビアもダルからそこまで期待されているなら、当初考えていたスール故の安易でかつ、効果的な攻撃方法である『特攻して自爆』はヤメにすることにした。ってか、合議体が決議した。


    *    *


 今はこの人型機動攻撃艦『ヤシャ級』が本体のネメア・ハモルに、その並列制御担当に就くシビア・ルーラ。


『ネメア・カルバレータ。大破した機動母艦に残存していた“対艦ドーラ”に“対人ドーラ”“ギムス・カルバレータ”を集結させた。現数一三〇〇機』

『了解。シビア・カルバレータは、主砲、誘導ポッド兵器、近接対機兵器及び、回収したカルバレータ型機動兵器の制御を行え。我々は腕部副砲と艦体制御、及び近接機動攻撃に集中する』


 ゼスタール初の人型機動攻撃艦。って『初』といってもティ連でも最近採用された艦種で、ゼスタールの『初』と、そんなに変わらないのだが、ティ連には『ヤル研』という途方に暮れそうなほどのプロフェッショナル連中がしょっちゅう余計なことばっかりするので、その点がゼスさんとは違うところだが、それでも流石戦闘合議体のネメア。もうヤシャ級を難なく制御しつつある。

 更に、その不気味ではあるが美しくもある漆黒の女性型異形の生命体を象ったような姿、腰部に掌を当てて浮かぶヤシャ級の周囲を、対艦ドーラに対人ドーラ、そして無人自律制御型の人型機動兵器ギムス・カルバレータ等約一三〇〇機がヤシャ級を中心にフォーメーションを取る。


『ネメア・カルバレータ。全カルバレータ兵器制御体制構築完了』

『了解……全速前進。目標、敵マスターヂラール。超大型粒子ビーム兵器発射部』


 ネメアの淡々としたその一言で、ヤシャ級を中心に、ゼスタール機動兵器群が、マスターヂラールめがけて一斉に突撃を開始する。

 現在、ヂラールとダル旗下艦隊が互いにサンドイッチ状態になっているこの戦場域。ダル艦隊は背後のヂラール機動部隊を、そのまた背後に陣取るグロウム艦隊とで挟み撃ちにしており、また現在相当な痛手を負っているマスターヂラールとヂラール機動部隊がダル艦隊を挟み撃ちにしているような状況。


『マスターヂラール付近ノ巡洋艦隊ハ、突撃スル“ヤシャ級”ヲ援護シロ!』


 マスターヂラール本体の無数に配置されている砲台型器官に攻撃を集中し、ネメアとシビアを援護する巡洋艦隊。その火線は今まで四方八方に飛んでいたが、ダルの命令ですぐさま指定方向へ規則正しく砲火の曳航をマスターヂラールへ集中させる。

 マスターヂラールも、その対機兵器でネメア達機動兵器群を迎撃しようと火線を集中させてくる。そのサマはまるで花火の炸裂した空間のど真ん中を突っ切って突貫するか如し……勿論敵の迎撃の曳航は、次々とドーラ兵器に命中し、味方の機動兵器は目標到達途中で機体を次々に爆散させる……但し、コアの損傷を免れたドーラは、周囲の残骸をまとわり付かせてまた仮想生命本体を自ら造成させて、戦線へ復帰する。本来エネルギー兵器には強いゼスタール兵器。これも時の敵と仮称する調査対象であったティ連の主力兵器である粒子ビーム型兵器に対抗しての話であったのだが、流石に事マスターヂラールの制御するヂラールコロニーに装着された対機兵器はパワーが強く、シレイラ号事件の時と同じように……という訳にはいかなかった。

 一三〇〇機のシビアが制御するドーラ型機体が次々に火を上げて爆散する。だがまぁこれでもヤシャ級本体に攻撃をかけてくる連中の虎の子砲台の視線を逸らす事には成功している。

 ヤシャ級も、流石ネメアが操艦しているだけあって、あの全高二三〇メートルの巨体を機敏に動かし、敵の砲火を躱している。

 敵マスターヂラールも、やはりダルの一撃は効いて入るようで、かの大型粒子ビーム兵器の発射準備に手間取っているようである。エネルギーチャージができないようだ。

 今がチャンスと決めた合議体多数決議。とにかくあの発射口へ肉薄し、破壊する事が先決である……


    *    *


 同時進行する作戦。所変わり、こちらもダル艦隊の作戦同様に、非常に重要な作戦である。

 第一機動先遣打撃艦隊、その艦隊の中核として成り立っているのは、強襲揚陸艦である。揚陸艦といえばなんだかイマイチ戦力的にヘボそうな、輸送艦に毛が生えたようなイメージを持つが、その揚陸艦の前に『強襲』と付けば、これ立派な戦闘能力を持った艦となる。

 二一世紀では、その用兵技術も発達し、強襲揚陸艦一隻で軽空母と揚陸艦と輸送船の能力も果たすようになり、ある種の万能艦ともいえる立ち位置にまで発達した。なにせあの『白いチートな機動兵器』を運用していた船の艦種は、『強襲揚陸艦』である。すなわちティ連基準の強襲揚陸艦の用兵法もあんな感じ。

 ということで、現在グロウム帝国本星、惑星グロウム奪還と、やむなく取り残されたグロウム帝国国民の保護作戦の為に、第一先遣打撃艦隊、別名『多川艦隊』は、グロウム帝国が破壊したヂラールコロニーの残党である軌道上のヂラール群を強行突破し、惑星降下を敢行していた。

 軌道上のヂラール残存機動部隊は、ネリナ・マレード提督が抑え込む……ネリナ艦隊の各艦にも、ティ連基準の装備が施され、十分な対抗力をもって、ヂラール共の迎撃を行う。


『各艦、タガワ将軍の揚陸部隊をすべて惑星内に突入させろ! 一隻一機も撃墜させるな!』


 ネリナ艦隊が盾になり、襲い来るヂラール機動兵器を迎撃する。機動母艦からは、これもティ連技術で改良された、T字型の機動兵器シェイザーが絶え間なく出撃し、迫り来る連中を相手する。


『ニヨッタ艦長! ここは我々で抑え込める! 貴官はタガワ将軍を追ってください!』

『了解でス提督閣下! ですが、あなた方も降下し、健在をグロウムの国民に示さないと! それも作戦です。あまり長居は!』

『わかっていますニヨッタ殿。だが貴方方の技術を加えた今の我々なら、この程度の賊はなんとかなります。ご心配なきよう!』

『了解しました。ご武運を! ……よし! 当艦「やましろ」も惑星グロウムへ降下する! 先に降下したジェルダー・タガワ達を追うぞ!』


 殿を務めていた『機動重護衛戦闘母艦やましろ』も、ネリナの奮闘活躍ぶりを見て大丈夫だと確信し、大気圏への降下を開始する。


    *    *


 翼状の空間振動波ユニットを畳み込み、超高速の自由落下を行う、久方ぶりのメカアクション御登場の旭龍F型シンシエコンビ。

 普通なら、毎度の空間シフト航法を利用して、大気圏を熱も帯びずに降下するところなのだが、今、シンシエコンビは自由落下で大気圏を切り裂く高熱の航跡を引きながら彗星か流星の如く、大気圏を突っ切っている。

 ガタガタと震える機体に、会話も震えるのは……


『やっぱ、時空間シフト航法で突っ切ったらまずいのかよ、かーちゃん』

『空間シフトノ反応ヲ追ワレテ、対空兵器デモ撃チ込マレタラカナワナイワ。ココハ自然ニネ』

『ヂラールも、そういう反応を気にするんデスねぇ』

『マア少ナクトモ、サルカス戦デハ、ヨク反応シテイタミタイネ。』

『なるほどね……って、シエ! 先陣切るのもいいけど、無茶はナシだ』

 

 そう多川が言ったところで大気圏を抜けたようで、多川将補にシエ将補率いる機動攻撃隊は、全機戦闘形態へ移行する。

 この機動攻撃隊、編成機体は多目的攻撃用途として多川の旭龍F型に、単座の旭龍E型。サマルカ製のフォーラ・ベルクⅢ型。制空戦用に旭光Ⅱとヴァズラー、対地支援用にシルヴェル型と、対地機動戦用途として、かの『ソウセイ』型を投入していた。


『こちら旭光Ⅱガンマ小隊。ソウセイ、シルヴェルの降下着陸を見届けた。これより散開して偵察任務を行う』

「こちら旭龍アルファ小隊、ガルーダ(多川)だ。もしグロウム人さんを見つけたら、直ちに保護活動に入れ。ヂラールと交戦していた場合は援護だ」

『コピー』

『コちらフォーラ・ベルク、ほてる小隊。ヴァルメに反応があった地点に接近。やはりありましたね、巨大なヂラール。モンスターフラワーです!』


 グロウム帝国から提供を受けた資料。つまり、あのヂラールコロニーを熱核兵器で破壊した際、墜落したコロニー周辺に、超大型の生体反応があったため、それを目視偵察していたフォーラ・ベルクⅢ型で編成されたホテル小隊……やっぱりそやつはあったわけだが……


「やっぱあったか! で、形状は?」

『それが……とにかく映像を見てください』


 VMC映像データを送られて、『ブッ!』と噴きそうになる多川。シエも思わず『ナンダコレハ……』と半笑いになってしまう。

 それは……


 確かにモンスターフラワー型植物型ヂラールなのではあるが、多川達が惑星イルナットで遭遇したモンスターフラワーが、例えるなら『ヒマワリのバケモノ』のようだとすれば、今、目の前にあるモンスターフラワーは、『薔薇』のバケモノのようだと例えることができる。即ち、枝分かれした茎から、あの悪魔の花弁が数十もの花を咲かせているのである。つまりそれが何を意味するのかと言えば……


『ダーリン、熱反応ダ! アノ花弁カラ例ノヤツガ発射サレルワ!』

『! マズっ!』


 イルナットで見たフラワーは、一撃必殺の強力な決戦兵器の如き小型核兵器級の飛翔体をぶっ放してきたが、この眼前にいるフラワーは、まるで速射砲のごとく砲弾状の種子を放ってくる。しかも花弁一つに何百単位の飛翔体を抱え込んでいるようで、大型火砲をまるでマシンガンの如くぶっ放されているようなものだ。


『うぉおおおっ!?』


 思わず多川は操縦桿を引いて急速上昇。割と狙いは正確。

 フラワーが放つ種子は、VT近接信管の如く、多川小隊の機体付近で爆裂し、しかも小さな高硬度の物体をばらまくため、何機か被弾したようだ。


『コチラ旭龍F3号機、被弾被弾! 体勢を整えるため、一旦着地する!』

『フォーラ・ベルク6号機、被弾!』

 

 その様子を上昇反転して見下ろす多川にシエ。


『チッ! やってくれるぜ、でもなんなんだあのフラワーは! モンスターフラワーにも種類か何かあんのか? クソっ!』

『マサカトハオモウケド……』

『どうした、かーちゃん。何か思うところがあるのか?』

『ア、イヤ……アノもんすたーふらわーガ、植生シテイルノハ、アノ、グロウム軍ガオトシタじらーるころにー周辺ダ。デ、アノ対空兵器ノヨウナモンスターフラワー……』


 その言葉でシエの話を察する多川。


『まさか、コロニーの中心機能を防衛している、つまりマスターヂラールが生きているってことか?』

『ソノマサカネ、ダーリン』


 確かに言われれば……と思う多川将軍……





  ベイルラ恒星系、グロウム帝国域の大戦闘。まだまだこれからである……





 

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