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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
35/89

【第六章・ティ連日本国】 第三四話 『超発達過程文明の幕開け』 


 地球時間で、二〇二云年。

 地球より約三〇〇〇〇光年離れた星間国家、『聖ファヌマ・グロウム星間帝国』

 地球と同じくこの天の川銀河に高度知的生命体として繁栄する星間国家である。だが、今この国は『繁栄する』という言葉が、過去形になろうとする瀬戸際に立たされていた。

 そう、あの恐るべき時空の怪異とでもいうべき存在、正体不明の生体兵器群『ヂラール』の大侵攻によって、この星間国家と種を同じくする宙域国家群が、壊滅、滅亡の危機に晒されていた。

 幸い、この危機を知ったティ連各国及び連合日本国は、即座にグロウム帝国救援の作戦を実行し、この文明は言葉通りの『瀬戸際』で、最悪のケースとなる難を逃れた。

 『紙一重』『首の皮一枚』とはまさにこの事である。


 なんとかその皮一枚が繋がったグロウム帝国。だが敵最後のヂラール・コロニーは一旦後退し、グロウム本星宙域の恒星……地球でいうところの『太陽』にあたる『ベイルラ』の衛星軌道周域に展開するダイソン・スフィア型中核システムを有するコロニー型制御施設に取り付いた。

 このヂラール・コロニーを撃破してグロウム帝国の再建を図るべく『惑星サージャル大公領』で臨時政府を樹立し、反攻の機を窺いつつ軍の再編成に訓練と、準備を進める彼ら……勿論そこには我らがティエルクマスカ連合防衛総省と、連合日本国特危自衛隊、そして米国USSTCの協力があってこその話である……


 流石に次の作戦は、海のモノとも山のモノとも宇宙の某かも全く見当つかない状況である。

 なんせヂラール・コロニーがダイソン・スフィアシステムで動くエネルギー採取施設の最も基幹となるシステムを取り込んでしまったのだ……一体彼奴は何をするのかとそんな訝しさもあろうもので、そんなところであるから余計に準備は怠らずの精神で、ティ連軍とグロウム軍は連携よろしく少々時間をかけて、万全の体制を整えるのであった……

 

    *    *


「では、略式ではありますが殿下」

「うむ、わかった」


 サージャル大公領首都『ベルガザンド』

 ヂラールの脅威から開放されたこの星は、ティ連の迅速な緊急復興支援もあって、ヂラール・コロニーとの戦闘終了後、即日で復興援助部隊がサージャル領に入り、支援作戦を展開していた。

 そんなこともあって、大公領領民が籠城に近い形で避難していた山岳地下都市『ゲンダール』から、領民達も元々住んでいた街へ徐々に帰還するようになり、ゲンダールもその役目をひとまず終えようとしていた。とはいっても元々はこの星の歴史的観光都市であった場所なので、何も放棄するというわけではないのだが……

 そういう中、サージャルも首都にある大公官邸となる自分の城へと帰っていた。

 勿論この戦争で滅茶苦茶になった城ではある。城中は無残に崩壊している場所も多いが、幸いなことに、外部からの見た目はさほど破滅的ではなく、ティ連の技術を以てすればなんとかなるだろうということで、軍に使用人総出で大掃除に大工事の真っ最中というところであった。勿論ティ連のハイクァーン機器が活躍しているのは言うまでもない。


 そんな中、サージャル大公は先のグロウム皇帝ランドラ一四世の容体も鑑み、ランドラを一旦退位させて、現状最も上位の継承権者となるサージャルが皇帝について、国体の体裁を整えるというファール総院議会首相の提言のもと、そのような方針でまずは帝国の政治機能を復旧させようとしていたのだが……

 なんとサージャルがファールの提言を退けたのであった。つまり彼は皇帝には即位しないとファールに言った。理由は、やはりファヌマ聖教府との関係を考慮しての事、というのもあったと言う話。

 まあこういった宗教を国体の一部においている国家ではありがちの話で、その深いところまでは正直どういう内容なのかまではわからないが、ま、とりあえずこの国は立憲君主国ではあるので、それも皇族の内輪の話というヤツである。一般庶民にはわからん世界の話、ということで現状は良しとしていた。

 ということでサージャルは、臨時皇帝というようなものに就くことはせず、ファール首相から国家摂政の権限を委譲してもらい、ランドラ一四世が回復するまでの間、皇帝代行という感じで、摂政政務を行うという事にした……といったところで彼は今、国家摂政の就任式をやっているという次第。


「だが、今の陛下の御病状を考えれば、私が国家摂政である状態もかなり長く続くかもしれんな。そういうところも考えておかねばならんのかなぁ……」

「そのとおりでございます殿下、っと、今は略式とはいえ、委譲式の最中なのですから、無駄話はお控えなられるように」

「おお、そうだった。すまんな、続けてくれ」

「はい、では……」


 ファールは、グロウム帝国の国教である、ファヌマ教聖典の一部を引用し、何か契約めいた事をブツクサ言っている。


「……では陛下。この経典に血判を」

「うむ……」


 サージャルは腰に据えた剣を鞘から少し引き出し、その上にスっと指を添わせて少し切り、滲み出る血液でグロウム教聖典の裏表紙に血判を押す……っと、まあそういうところで彼が皇帝代行の国家摂政として、その地位に就く事が今、決定した。


 式典列席者から拍手されるサージャル。彼は軽くこうべを垂れて会釈し、列席者に感謝。

 もちろんその列席者の中には、グロウム帝国関係者はもとより、柏木にフェルといったティ連-連合日本関係者全員も列席していた。勿論、ヂラール・コロニーで中枢部探索を行い、鹵獲作戦成功に至る最も重要な任務を果たした月丘にプリ子も出席していた。パチパチと拍手してたり。

 だが……なんかメンツが足らない感じがしないでもないわけで、それが誰かと探してみると……シビアとネメアにナヨさんとニーラがその席にいなかったり。

 その理由はと言うと、彼女ら二人は今この場で式典に出席するよりも、ある意味非常に名誉な任務を仰せつかっているわけで、その関係の仕事中であるといった次第。さて、その内容とは……


    *    *


 グロウム皇帝ランドラ一四世の眠る、透明の液体に満たされた医療カプセル。

 中は低温で、所謂コールドスリープにある状態だと言う。つまり、超長距離恒星間旅行をする際の、移動手段における生命維持技術の一つだ。だが……


「エルバイラサマの今の状態は、コールドスリープというよりも、この液体でもって感染病原体の拡散を防いでいる状態っていったほうがいいのかもですね~」


 ランドラ皇帝のカプセルをまじまじと見て観察するは、医学の心得もあるティ連の誇る賢人ニーラ教授大先生。今日も御愛用のネコサングッズがキラリと光る……って、他のスタッフは、皇帝陛下のカプセルの御前というだけでも絶賛恐縮中というのに、ニーラ教授は毎度の調子で通常運転である……一〇年たってもあまりかわらんところが賢人賢者である故か。

 

「まあ妾と、かの二人であれば、直接触診も試みて、という診療もできるのですが」


 と仰るは、この方も天才大科学者の遺志そのものが復活した現役『創造主』様、ナヨクァラグヤ・ヘイル・サーミッサの名前は置いといて、今はナヨ・ヘイル・カセリアを名乗るナヨさん閣下であった。


「あのお二人にはもう連絡してるのですよね? ナヨサマ」

「はい。もうそろそろこちらへ来る頃だと思うのですが……」


 イゼイラ語でこんな風にいつもの調子で話す二人だが、皇帝お付きの主治医にはチンプンカンプンなその言語。まだPVMCGはグロウムの方々にすべからず行き渡っていないので、主治医は恐る恐る二人に尋ねる。


「あの……申し訳ありませんお二人様。えらく話しこまれておられるようですが、陛下の御様態のほどは……」


 ハっとするニーラ。主治医をほっぽって二人して何やってんだってなもんである。


『あ、これはこれハ、ごめんなさいです~。ちょっとナヨサマと色々所見をお話していたのですヨ』

『ええ、そうですね。ただ、詳しいことはかの者達の診断を仰がなくてはならないのですが……』


 とそんな話をしていると、キレイな褐色肌の『かの者』二人がご到着。

 医療スタッフに案内されて、ナヨとニーラが対面するは……


『ナヨ・カルバレータ、及びニーラ生体。シビア・ルーラ代表合議体及び、ネメア・ハモル戦闘合議体が着任した。認証せよ』

『ハイハイ、お疲れ様です~、お待ちしておりましたよっ! えっとえっと、ケラー・ネメアとこうやってお顔を合わせてお話するのは初めてですネっ!』

『そうですね。妾もそうなります。よろしくお願いしますよ、ネメアとやら』


 そう二人から言われるとネメアは、


『肯定。だが、お前達二人の事は、シビアを通じて全ての記録を共有している。更にメル生体からも間接的情報の提供を受けている。極めて優秀なカルバレータ及び学術生体であることは認識している。今後の共有状況に期待する』


 ゼスタールらしい自己紹介を受ける賢人創造主先生お二人。でも悪い気はしない。ニコリとして握手。

 でも『メル生体』とメルさんを愛称付きの呼び名で生体扱いとは、相当に仲が良いのだろう。そんな言葉遣い一つでも、彼女達の交友状況は把握できる先生方。


 ということで、ここからが本題なのだが……ネメアは、

 

『…………成る程。我々をこの場に招集した、事の次第は理解した。そのグロウム帝国本星を襲った敵性体01……いや、ヂラール敵性体のとった攻撃方法によって疾患を発病したランドラ生体なる者の現場情報に至る過程と、以前ナーシャ・エンデでお前たちが観たシビア・カルバレータの状況情報が酷似しているというのだな?』

『そうですネメア』


 ネメアの話を聞いていたシビアも、


『確かに、ヂラール・コロニーがグロウム本星に着床した時点で、そのような疾病に襲われたとなると、そう考えて普通だ』


 とネメアに話すと、彼女も、


『肯定……せざるを得ないか……』

『ではネメア・カルバレータ。ランドラ生体を診療せよ』

『了解』


 と、そう言われてハイハイそうですかとは言えないのがニーラ先生。


『ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとまって下さい~って、ケラー・ネメアは“戦闘合議体”なんでしょ? 医学の心得はあるんですか?』

『心配には及ばない。我々は戦闘合議体であるが、現在は医療スールにも合議体に参加してもらっている。従って医療行為を遂行できる』

『あ、あそっか、ゼスタールサンはそういうことが出来たんでしたっけ。ハァ、すごいですね……んじゃお願いできますか?』

『了解。お前達、“ゼル端子”を使用するので少し離れていたほうが良い』


 ハイハイとネメアから少し離れるナヨとニーラ。主治医の皆さんも距離を開けている。

 早速診療行為に移るネメア。側にはシビアが助手として付き添っていたり。

 グロウム側スタッフは、かなり大層な防護服を着込んでいるが、ニーラは先の皆と同じく船外作業服姿で、ナヨは素の格好。

 このナヨとシビアにネメアの姿に対して、相当グロウムスタッフも訝しがるが、そこは一応事前説明をしてはいた。だが実際生で病気持ちの前へ生身の状態で近づく存在を見ると、大丈夫かいなと反射的にそう思ってしまう。これも詮無きこと。


 ネメアはランドラ皇帝の眠るカプセルに近づくと、両の掌をカプセルに密着させる。

 シビアもカプセルに近づいて、同じくそんな格好……そしてギンッという表情のもと、目に力が籠もると、ネメアとシビア二人の掌からゼル端子が放射され、カプセル両側がそれに侵食されていく……と同時に……


「おお!」


 と声を上げるはグロウムスタッフ。

 侵食したゼル端子は、カプセル外殻を貫いて、液体が満たされた中へ侵入。

 侵入した端子は細く尖って、医療用の精密マニピュレータのようなものに形状を変化させると、ランドラの腕へ、何やら注射器のようなものを差し込んで血液を採取したようである。


『…………』


 ネメアはランドラの血液を採取した時点で、瞑目し、何やら思考するような半開きの瞳になる。

 

「彼女は一体何をなさっているので?」


 グロウムの医師がニーラに問いかける。

 いかんせん患者はまがりなりにも皇帝陛下であらせられるわけであるからして、普通に考えれば、客観的に見て、ネメアのやっている行為はグロウムの医師達から見れば奇異奇怪行為以外の何物でもない。


『まあまあ、私達も彼女達の医療技術に関してはよくわかんないのです。でもここはあのお二人にまかせておきましょうヨ』


 えええ!? な顔のグロウム医師。でもそうなのだから仕方がない。

 いかんせんヂラール由来のかの病気に関して言えば、ティ連人はだれも患ったことがない。なのでここはシビアやネメアに任せるしかないのである。

 ただ、病気の正体さえわかれば恐らく治療の方法は即座に判明するのだろう。そして薬品の開発も、ティ連のナノマシン医療技術をもってすれば難しいものではあるまいと。

 実際、惑星ゼスタールを襲った病原体に関してのみで言えば、ゼスタールは治療方法を確立しているのだそうだが、治療法を確立させたのが、ゼスタール人全員がスール化してしまった後の話なので、その医薬品の製造技術が表に出る機会が失われてしまっていた。



 そしてしばし後……

 ゼル端子で密閉状態の医療ポッドへ穴を開けて、間接的に診察をしたために、穴を塞いだゼル端子をPVMCGでハイ端子化して実体化させ、ちょっと歪なデザインになった医療ポッド。

 そのポッドから抜き出したランドラの血液サンプル。これもハイ端子で作成した小瓶のようなものの中に入っている。それを皆に見せるネメア。


『これがランドラ生体から抽出した血液サンプルだ。シビア・カルバレータ。分析結果は?』

『出力可能である』


 記録係をしていたシビアの合議体達。ネメアの医療合議体は、すぐさまその結果を出せたようである。

 ネメアがシビアに軽く頷くと、シビアも承知と頷き返し、結果を語る。


『ランドラ生体の身体を侵していた病原体はすぐに判明した。病原体の正体は、セレスレーダ0978654ウイルス性病原体。即ち、我々の母星ゼスタールを壊滅させた病原体と同種のものである』


 さもありなんと頷くニーラにナヨ。特に驚く様子もない。なぜなら、それしか考えられないからである。

 

『やっぱりそうですよね~。ということでどうします? ナヨさまぁ』

『ふむ……』とナヨは少し考えたあと、『ネメアよ。主らはこのウイルス性病原体の治療法を、スール化してから発見したと、以前ナーシャ・エンデでお聞きしましたが』

『肯定。その場に我々はいなかったが、シビアの体験を共有している。我々は、この“セレスレーダ0978654”を駆逐する抗体物質の組成に成功したが、スール化してしまったために当面は不必要という事になり、データバンクのプロテクト下で組成資料は保管してある』

『ナルホドナルホド。ではでは、その組成資料を公開してもらって、早速抗体の量産に入りましょう』


 と、ニーラが言うとネメアがちょっと待てと言う。


『ん? どうかしましたか?』

『抗体を量産化することは評価できるが、現状ランドラ生体が、グロウムの政治的頂点である存在である以上、現状の戦況を鑑みるに、可及的速やかなランドラ生体の現場復帰が求められると考える』


 たしかにそうっすと、グロウムの医師達も、ネメアのゼスタール特有のまわりっくどくも分かりやすい説明に納得する。で、ニーラやナヨも『そうですね』と。

 皆の納得に一呼吸軽く頷くと、次にシビアが話に加わり、


『問題なのは、抗体を作成したとしても、臨床での結果を得なければ、グロウム生体に我々の作成した抗体が生理的現象により、効果が期待できない場合も考えられる。となると、効果を得るための実験等々に費やす時間もまたある意味今後の展開を予想する上で、リスクと考えなければならない可能性が高い』

『ハイハイそうですね、シビアチャンにケラー・ネメア。って随分ゼスタールサンらしい言い回しですけど、要するに、ゼスタールサンの抗体技術と、私達ティ連の技術を組み合わせて、何か即効性が高いブッチギリのお薬を作れないか? と言いたいのではないかと、私は予想するでありますけど、如何ですか?』

『肯定。端的な指摘を評価する』


 ぶっちゃけ、ハナからそう言えと思うが、ゼスタール人はどうにも事象の説明に経過を重要視する習慣があるようで、これがスールだからか、元々のゼスさんの国民性なのかはわからないが、まあこんな感じである。

 で、シビアの『肯定』にナヨ閣下が、


『ならば心配は無用ですよ、お二人とも……ニーラや。彼女達が作った抗体のデータを、サボール型ナノマシンでエミュレートさせることは可能なのですよね?』

『ハイ、ナヨさま。サボールは基本ちっちゃいちっちゃいロボットですから、生体反応なんて関係ないですからネ。一旦体の中に入ったら、入力された敵性病原体を物理的に破壊しにいきますから。あれを使えば簡単ですよ』


 と、流石はティ連科学である。特に医学はこのサボール型ナノマシンのおかげで、細菌性疾患、毒性疾患、ウイルス性疾患、悪性腫瘍など、病原生物や悪性新生物系の病気はほぼ完治する。

 今回の場合でも、早い話がナノマシンを体にブチ混んで、ヂラール由来の病原体を物理的に破壊しまくってしまおうという話なのである。

 なんともある意味単純明快であが、これがティ連医学のある意味欠点でもあった……それは、この治療法で考えなしになんでも治療してしまうから、ティ連では、病気の原因探求の研究が後手後手に回ってしまうという現象が、起きてしまっていたからである……とはいえそれも一〇年前までの話。今は発達過程文明との接触と、資料の収集でかつてほど歪ではなくなったティ連医学ではあるが……このサボール型ナノマシンの威力は、ほぼほぼ『万能薬』であり、どっかの医療SFドラマで『ペニシリンすげー』みたいな、そんな感じになっているところは致し方ないところでもある。


『では、そうそうゆっくりもしておれませぬ。早速仕事に取り掛かりましょう』

 とナヨが言うと、ニーラにネメア、シビアは頷き、仕事に取り掛かる。勿論グロウム側の医師団も、ただ見ているだけではない。彼らも積極的に協力する姿勢を見せ、ゼスタールにティ連の医学を取り込もうとしていたり。

 ハイクァーンやゼル技術は確かにすごいが、やはりそれでも万能な機械のように見えて、実はそうではない。つまり、なんでも作れるハイクァーンでも、基本それを操作し、結果を欲する人間の知識や、トーラルに蓄積されているデータ以上の事はできないからである。

 ……とはいっても、その当のトーラルの蓄積データが尋常ではないのであるが……


 と、いうことで特別編成の医療チームは、グロウム皇帝ランドラ一四世の治療作戦へと入る。

 この治療が成功すれば、他の病院船で運ばれてきた同様の病状の命も助けられる可能性が特段高くなるわけで、グロウムの医師達も大きく期待するところであった……


    *    *  


 さて、そんなところで次の戦いへの準備ともいえる暫しの安息を迎えた『聖ファヌマ・グロウム星間帝国臨時政府』

 他の植民惑星や、開拓惑星へ逃げ延びたグロウム帝国同胞らとも連絡が取れたようで、臨時政府内で各々話し合いが持たれているようである。

 だが、量子テレポート通信ほどのリアルタイム性を持つ通信手段を持たないグロウムは、そのやりとりも基本書簡データの往来という感じであり、ティ連勢からみてなかなかに歯がゆいものがある。

 サージャル大公領内の臨時政府側は、もう既にティ連と日本の事は同胞達に通達してはいるが、やはり残念ながら一概には信じてもらえないようで、ここは仕方がないという事でネリナの艦隊から何隻か艦を割いてもらい、ティ連の艦船と共に避難惑星へ赴いて説明に行っているという次第。なんとも地道な作業ではあるが、これもやむなしである。とはいえ、事のついでというわけではないが、ティ連派遣艦は、各々避難惑星に到着した際に量子テレポート通信機材一式と、ハイクァーン原器を現地臨時政府に渡してくるように艦隊は指示を受けていた。


 しばしの間、とはいえグロウムとティ連が完全に共同歩調と取れるまで間、そして軍備が整う期間。しばしといえど相応の時間を要する事になるやもしれないが、ここはしっかりと連携が取れるように外交交渉も含めて対応しなければならないわけである……


    *    *


 さて、宇宙ではこのように少しの間、時間が必要とされる状況ができてしまった訳であるが、この暫しの時間は現在の地球世界にとってもある意味有り難い状況となっていたのだった。

 もちろんそれを意味するは、地球から三〇〇〇〇光年離れたご近所に存在するグロウム帝国という国家に起こった事件に関連する事である。

 現実問題として、今の地球世界ではこのグロウム帝国と何らかの形で接触できているのは日本国と米国だけである。米国でもあくまで軍事関係での『交流』程度に過ぎず、完全な国交交渉が可能なレベルで言えば日本だけであった。

 まあこればかりは仕方のない話だ。現在の日本は地球にある国家とはいえ勢力でいえばティエルクマスカ連合である。

 日本以外の地球社会と日本は、科学技術でいえば隔絶された世界となってしまっていたところもあったわけであるが、ここにきて実のところその状況が変わってきたのであった……


 さて、国連において、その国連を国連たらしめる、不安定ながらも一種の権力機構として可動してきた『国際連合安全保障理事会』は、ヤルバーンとティ連の存在、更には日本がティ連に加盟してしまったせいで、事実上有名無実化してしまう組織と成り果てた。

 要するに『パワーバランス』が完全に崩れてしまったわけである。

 LNIF陣営とCJSCA陣営に世界勢力が別れてしまった現在、かつての安保理での米・露・英・仏・中といった第二次世界大戦後の常任理事国基準の勢力概念自体が意味をなさなくなってきた。

 で結局、この国連安全保障理事会は、地球世界内のテロ対策や、国家間の紛争戦争を監視する警察的意味合いの組織になる。

 そして、ティ連やグロウムに、ティ連加盟国でも日本以外の地球世界と少なからず外交的接点がある特殊な存在、『ゼスタール合議体組織』に対して、地球国家総出で対応するために組織された、対宇宙外交と将来の『国際連邦』を目的とした、これまでの安全保障理事会を超える新たな地球世界の意思統一機関。そして地球初の、各国家の主権を超える『法』と実力行使を行う組織、 


 『国際連合相互主権連携理事会UNMSCCアンムサック


 やはり当初は不安定な組織ではないかと危惧されたところは否めない。なんせこの組織の常任理事国が基本安全保障理事会プラスアルファであるところがあったわけであるからして。

 確かに『拒否権』の行使権がなくなったのは大きなところではあるが、そこはLNIFとCJSCAの思惑があって、これまたもめにもめまくって……


 ……と、当初は思われていたのであったが……なんともまあ現在に至るまでのこの間。

 そう、月丘達がタジキスタンでスッタモンダやってた頃も含めての話、なんともこのUNMSCCなる組織は意外や意外で、かなり円滑に国家間の連携をもって稼働していたのであった。

 これは実のところティ連―ヤルバーンに日本政府も意外に思う程であった。

 なので妙に連携が取れているだけに、UNMSCCはティ連交渉窓口となる日本に対しても、昨今はなかなかに硬軟織り交ぜた外交を展開してくるわけである。

 ま、そうもなる大きな理由が、もう言わずもがなで……


「……やはり、ゼスタールの技術公開と、更なる高度技術の提供要件の話が効果を出している、と見るべきですか……」


 首相官邸で閣僚らと話すは、現内閣総理大臣の春日功かすがいさお


「それと、グロウム帝国事件に端を発する、『ティ連技術貸与及び供与に関する緩和要件』の提示も大きいですね」


 と、現在は情報大臣を務める二藤部。春日とは安保体制や諸々の政治的案件で意見が対立した事もあったが、今となってはそんなことはどうでもいい状況になっているわけで、それが理解できない二人ではない。

 ……で、さて、二藤部が今、少し気になる発言をした。それは『ティ連技術貸与及び供与に関する緩和要件』というもの。

 この案件は、日本がティ連本部議会へ議員を派遣し、その個別案件の折衝で現ティ連連合議長である、サイヴァル・ダァント・シーズと話し合われた件である。

 さてその内容……

 要するに日本も世界も、ヂラールが地球の目と鼻の先であるグロウム帝国に出現し、しかも地球から四〇光年先という、ほんの『そこ』の『TRAPPIST-1恒星系』あたりの宙域で、グロウムの艦隊、即ちネリナ艦隊とドンパチやっていたことを非常に重く、深刻に考えているわけであって、当然現在ではUNMSCC加盟の宇宙機関がそれぞれ相応に発達した宇宙観測技術で、少ない情報であれ、この状況を把握しているところもあるわけである。

 更にはあのヂラールが近所まで来たという事由は、かの『ハイラ王国事件』がハリウッド映画にもなって知れ渡っている現在の地球世界において、重要な地球世界の安全保障案件でもあり、この点流石に日本も公開しないわけにはいかず、その点はしっかりと世間に発表しているところもあるわけで、そこでサイヴァル達連合の閣僚……勿論マリヘイルも含まれる……と、日本政府の担当部署に閣僚が誠意検討した内容が、先の『ティ連技術提供の一部緩和』であったわけである。


 さて、結果、ティ連が認可した正式案件名称、


『ティエルクマスカ銀河星間連合技術を国際連合相互主権連携理事会及び地球地域国家諸国に公開、提供する為の条件緩和要項』


と呼ばれるもの。その内容とは……


1)ティ連は、連合日本を通じて、安全保障に関連する技術を管理及び監視制限付きで貸与できるものとする。

2)貸与する技術は、【物質生成技術(ハイクァーン工学技術)】【仮想的物質形成技術(ゼルエミュレート技術)】【空間跳躍機関製造に関する技術的助言】とする。

3)これら技術は貸与であって、供与ではない。従ってすべての技術にはその可動状況における管理監視技術が付随され、利用目的の相違等々によって強制的返納される場合がある。


 と、大きくその骨子はこの三点。

 要するに、

『ヂラールに対する安全保障に関する要件でのみ、ティ連のハイクァーンやゼル技術、ワープ技術に関する機器を貸してあげるよ。でもオイタしたら取り上げるからねっ!』


 とそんなところなのである。これで地球世界自体の防衛力向上を狙おうといった感じ。

 なので、この一件がUNMSCCへ日本から公表されたとき、世界は歓喜するか……と思ったら、歓喜よりも『やっとかよ……』というため息混じりの意見が非常に多かったそうな。

 そりゃそうである。現在UNMSCC諸国は、ティ連加盟前のゼスタールが、まだティ連と敵対していた状況下で、ゼスタールの対ティ連戦略として技術提供を受けていた主要先進各国主導で、相応の、所謂『異星知的生命体のオーバーテクノロジー』はそれなりに保有、研究していたために、ティ連の超技術公開も『まあいずれは』という感覚で、のんびり待っていたところもあったわけである。

 特に米国は、サマルカとの友好関係が恙無く維持されているので、元々米国が所有していた『ロズウェル事件』時の技術資料解析もサマルカ共同でかなり進んでおり、現在では相当の技術を取得しているところもあったりする。


 ……そんな政治的な動きも活発に見せる地球世界において、今回のようなグロウム帝国に関する案件、すなわち恐れていたヂラールに関する問題が降って湧いてくると、早々に世の中が激しく動き出すわけで……


「では二藤部先生。UNMSCCでの事前協議の方、宜しくお願いいたします」

「畏まりました総理。ジェルデア部長も同行していただけますから、連合法務関係の方も、場合によってはその場で決済できるかもしれません」

「わかりました……良い意味のほうでの誤算でしたが、UNMSCCが予想以上の連携を取っています。ですので各国の我が国への対応要求は日増しに強くなっています。その点を考えると、現在ティエルクマスカ関係の政務は、情報省、特に安全保障調査委員会が独占的に管轄していますが、フェルフェリア先生が外務大臣でいらっしゃる間に、国際部門を外務省へ移管したほうが良いとの専門会議の指針もあります。その点も踏まえて今後の動きを考えませんと」


 春日の言葉に頷く二藤部。

 

「総理、それとあとUNMSCC関連で重要な情報を取得したのですが」

「と、いいますと?」

「先程、話にもありました現在のUNMSCCの動きの速さ。特にLNIF系諸国の連携の良さは、やはりあの組織が関連していると……」

「あの組織? もしかして“インベスター”とかいう組織ですか?」

「はい」


 ふぅむと頷く春日。


「新見さんから報告のあった、あの有名なパイドパイパー社のCEOが、その組織の首魁とかいうあの話ですよね?」

「はい。どうもあの組織が我々が思うよりも根深くUNMSCCへ浸透しているという、そういう情報もあります」


 なんとも皮肉なことに、UNMSCCの連携がうまく行っているのはインベスター、即ち『旧ガーグ』のおかげという情報が、どうにも真実性を増してきているという話。

 勿論この情報を調査したのは、山本率いる情報省外事局の面々。あの月丘達が、パイドパイパーのスタインベックCEOと対面した日以降も、彼らは調査を続行していた。その成果である。


 確かに山本達の調査には一理ある。

 普通、UNMSCCを構成するLNIFにCJSCAは、言ってみれば『連合日本とご縁のある方々とそうでない方』という言い方が、大雑把に言えば言えるわけで、元来水と油で仲が悪いはずなのである……いや、仲が悪いというよりも、利害関係が一致しないといったほうが良いか。

 普通なら、かつての国連安全保障理事会の、共産主義陣営と自由主義陣営の対立と同じくの構図が成り立ってもいいわけであるが、UNMSCCの場合、安保理と違ってその最終目的が『国際連邦』であり、いうなればその準備委員会か準備組織か、そのような意図を持った組織がUNMSCCであって、LNIFとCJSCAとの間を取り持つ接着剤のような『何か』があれば、逆に言えば簡単にUNMSCCは一枚岩化する。

 で、その接着剤のような存在が『インベスター』と考えられるわけである。

 インベスターは、『利益を求める事が正義』とする組織である。まあ確かにその『利益』とは一体何を意味するかは未だ不明ではあるが……

 だが、タジキスタンのサマラン大統領の暗殺。北の某国家元首の暗殺等々を考えるに、少なくともUNMSCCが一枚岩でいてくれたほうがインベスターの利益となるだろうから、彼らは動いているわけであって、現在のUNMSCCの存在感は、ある意味『インベスターの存在感』ともいえるものであった。


「……で、このインベスターが関与しているか……あ、いや恐らく関与しているのでしょうが、米国が発表した国際共同開発の新型航宙巡洋艦の件。あれが今後のUNMSCCの方向性を決定付けるかもしれませんね」


 二藤部が言うこの話。

 地球世界でも相応に諸々の事……特に科学技術は進んでいるわけであるが、ここにきてLNIF陣営のトップであるアメリカ合衆国が、彼の国が今まで建艦してきたエンタープライズ型宇宙艦船である、レナード・ニモイ級宇宙駆逐艦や、ジョージ・ハリソン級とは一線を画す宇宙巡洋艦を就航させてきたわけで、その発表が四日後に行われる予定となっていた。

 二藤部がUNMSCCの事前折衝を行う日程も、このイベントに合わせて組まれており、二藤部もこの新型艦就航のイベントへ出席する予定になっているのであった……


    *    *


 で、その四日後……

 件の新型航宙巡洋艦のお披露目は、ハワイで行われる事になっていた。

 場所は真珠湾。ダニエル・K・イノウエ国際空港沖である。

 なぜにその新型航宙巡洋艦の発表をハワイでやることになったかといえば、特に難しい話ではなく、要するに日本へ行く途上の米国領土がハワイだからである。つまり、ここでのお披露目が終わったあと、日本の特危自衛隊本部のある福島県双葉基地へ寄港し、特危関係者にも内覧してもらおうという段取りになっていたからである。


「さて、そろそろ見える頃かしらね。米国さん初の航宙巡洋艦。どんな雰囲気なのかしら」


 UNMSCC事前折衝団のティ連関係事務方という名目で派遣されてきた、連合外務局部長兼、総諜対スタッフの『瀬戸智子』が、用意された式典用の一般来賓席に座って、イノウエ空港沖を眺めている。

 

『ナンでもトモコ、今回防衛総省から対探知偽装装置のレンタル許可も出たそうだから、アレをかけて来るって話だし……』


 そう話すは智子の親友であり、ティ連防衛総省情報部少佐、兼、総諜対エージェントの『メイラ・バウルーサ・ヴェマ』。

 彼女も此度の調査担当で派遣されてきている。勿論そのお姿はネイティブイゼイラ人。

 いかんせん今、総諜対の虎の子である月丘とプリ子がグロウムへ出向中なもんで、彼女達が総諜対実働部のメンバーとして可動していた。

 とはいえ、他にもセマルや長谷部、下村も別の場所で調査活動を行っているわけであるが。


「もしかしてドッキリってやつかしら? イノウエ空港に到着したら、ギラギラと姿現して、ヒューヒューとか口笛鳴らしてっとか」

『何言ってんのヨ。そんなのCJSCA諸国への牽制に決まってんでしょうが』

「そりゃそうよね」


 そんな調子の智子とメイラ。まあ待ち時間なのでそんな感じ。

 で、此度の新型艦の名前は、『ニール・アームストロング級・ニール・アームストロング』と言うそうな。

 この人物名、言わずもがな地球人なら誰でも知っている、かのアポロ11号で月に初めてその足跡を記した、かのアームストロング船長である。

 この艦の登場で、米国は航宙艦艇を計三隻保有していることになる。日本も現在、宇宙空母カグヤに、ふそう型航宙重護衛艦。そして今グロウムに派遣されている機動重護衛戦闘母艦やましろ。この三隻なわけで、隻数だけでいえば日本と同等。まあ、日本の場合はヤルバーン州軍と軍事力面では一体化しているので、単に日本船籍が三隻というだけの話だが、それでも米国が航宙艦艇を三隻も既に用意できるというのは、流石工業大国ともいうべき地球最大の経済大国故の事なのであろう。

 まあ、でもそこにはサマルカの協力があっての話で、現在米国は、先の『ティ連技術緩和事項』以前より、ハイクァーン工学技術などを使用させてもらってはいたので、そこのところは一〇〇%米国製という話ではないのは皆も知っているところ……今思えば、かの『ロズウェル事件』に感謝した米国であったりする。

 だが……このニール・アームストロング型巡洋艦開発にはそれだけでは語れない大きな力とカネが動いていた。それを智子達は、この場で目にすることになる。


『トモコ。あれは……』


 メイラが視線を送るは、一般来賓席下方に見える、VIP用来賓席。

 事前折衝に来ていた二藤部に、彼と楽しげに話す米国の副大統領が見える。さらにその先には二藤部の顔を見て楽しげに手を上げている米国大統領スチュアートの姿。他、フランス大統領にドイツ首相、イタリアの外務大臣にと、LNIF陣営のお歴々が顔を並べる。その中に取り分けスチュアートが大きなジェスチャーで握手をする人物。メイラが指摘した人物である。


「あれは……スタインベックCEO?」


 そう、軍人に混じって、此度のアームストロング型巡洋艦を開発したLNIF系関連企業に混じって、大きく特別扱いされている人物。パイドパイパーのエドウィン・スタインベックであった。


『なぜあの人が?』

「さぁ? ……でもあの重鎮席に座っている方にお尋ねすればわかるんじゃないかしら?」

『え? 誰それ? どこ?』

「ホラ、あそこ」


 席最前列の一番いい場所にポヨンとお澄ましして座っているのは……かっちーことセルカッツ・1070であった。


『あ。かっちーだ』

「ちょっとまってね……」


 智子はPVMCGをいじってセルカッツのアドレスを探すと、通信を送ってみる。

 すると、セルカッツは自分のPVMCGの反応にピコンとして、通信機能をオンにしたようだ。


「セルカッツさん?」


 周囲に会話内容がバレないよう、イゼイラ語で話す智子。


『あ、ケラー・トモコ。って、その雰囲気、ケラーもこちらへ来ているのですカ?』


 セルカッツも智子がイゼイラ語で話しかけてきたので、その意図を察し、PVMCGをイゼイラ語翻訳に切り替えたようである。ってか、サマルカ語は常人には話せないので、そんな感じ。


『私もいるよ~』

『あ、これはケラー・メイラ。お久しぶりです』

『ってか、上見て上』


 セルカッツが振り返って、背伸びしながら上を見上げると、かなり向こうの方で智子とメイラが手を降っているのが確認できた。

 それを見て手を振り返すセルカッツ。

 他の招待客や、一般の見物客は、人気者のセルカッツが手を振る方向を見て、一体誰だと探していたり。


「で、セルカッツさん。今回のアームストロング型の就航式だけど、もちろんサマルカも噛んでいるんでしょ?」

『ええ、それは勿論です。詳しくはまた報告書で出しますけど、ちょっと今回はスゴイですよ、ミナサン』

「ん? どーゆーこと?」

『実は……』


 と、その先を話そうとすると、話の腰をおるように、場内アナウンスで、新型宇宙艦がやってきたとアナウンスが入る。


『あ、時間ですネ。まあ、見ていれば分かりますよ。アメリカ国サンもなかなかにやりますよ、みたいな。また詳細は後ほど』

「わかりました。では後ほど詳しくね」


 通信を切る智子。


「パイド社との関係、聞きそこねちゃったわね。ま、あとでいっか」

『かっちーも「見てりゃ分かる」ってんだから、まあ見物させてもらいましょうヨ』


 ……ということで、レディース、アンドジェントルマンで始まるナレーション放送。

 かの時、マーズ・ホープ・エンタープライズ級が就航した時以上の『偉大な』という言葉を連呼するような言葉と、LNIF関係者の協力を称える言葉で、場内の間をとるナレーション。

 その一言一言に列席からの拍手喝采に、口笛が飛ぶ。

 そして紹介される、スチュアート大統領。演壇に立ち、演説を始める。


『……我々合衆国が、かのヤルバーンが飛来した、地球世界の社会構造を変えた事件をきっかけに、我が同盟国である日本と、今や宇宙を超えた友邦国となったサマルカ国との協力。そして我々の意思を宇宙へ繋げる大いなる同盟として誕生したLNIF諸国が、UNMSCCに対する、今後の宇宙規模の安全保障に対しての回答として、今回国際共同開発で完成させた宇宙巡洋艦を、ここで皆様にお披露目できることに、私は今、大変興奮しております……』


 実のところ、此度のこの船の開発は、スチュアートの言葉通り、かなりの極秘事項を持って開発されていたらしい。もちろんセルカッツ達も協力しているワケなので、日本やティ連も米国の新型艦建艦は知っていたのだが、米国もやはり極秘にするところは極秘にしていたようで、連合や日本を驚かせたいという意図もあったのだろう、セルカッツ達にも、船の形状や大きさ、デザインに火力の一部なんかは黙っててくれとお願いしていたそうだ。かっちー達も今後の事もあるのでそれぐらいならサマルカ国外交の範疇で処理できるということで、まあいっかと、連合にも一部黙ってていたらしい。所謂、米国を含むLNIF陣営としてもそれほどの自信作だという話だそうな。

 でセルカッツ達が別に黙っててもいいかと思った理由。その内容をスチュアートは語る。


『先日、連合日本国、そしてヤルバーン州を通じてもたらされた驚くべき問題、もうみなさんご存知の、我々の星、この地球がある銀河系、ミルキーウェイギャラクシーに存在した知的生命体、エンパイア・グロウムを襲った、あのヂラール・モンスターの問題です……我々は日本国とティ連と、我が合衆国の誇るUSSTCが行ったあの驚愕すべき大作戦、キングダム・ハイラの事件で、大宇宙に存在する、未知の脅威の存在を知ることになりました。それはまるでギーガーの描いたモンスターが具現化したような、恐るべき生命の敵。これが今、今回は諸事情により、御臨席いただけませんでしたが、我々UNMSCC全体の友人でもある、ゼスタール国より、その詳細がもたらされました……」


 そう、一応政治的な体裁として、ヂラールと初の会敵、戦闘を行ったのは、日本とティ連と米国という体裁になっている。

 更にスチュアートは、今米国のUSSTCがあのときと同じくティ連と日本と共同でグロウム帝国の援軍として事に当たっている事をことさら大きく、身振り手振りを駆使して主張していた。


「……従って、我々UNMSCCにおけるLNIF諸国として、友邦ゼスタールや、友邦ティ連に対し、一つの確固たる意思を表明しなければなりません。その答えが、これです!」


 スチュアートは、背後の大空へ手をかざすと……

 観衆はスチュアートの指す先の空へ顔を上げる。勿論、メイラや智子も顔を上げ空を仰ぎ見る。


 すると、ギラギラと万華鏡の如き、美しい光が真っ昼間の大空を照らし、巨大な何かの像を浮かび上がらせる……そう、対探知偽装を解除してきたのであった!

 つまり、スチュアートが演説するずっと前からその巨大な存在はそこにいたという事になる。


 更にその偽装光が消えて、実態が浮かび上がると、そこには!


 なんとも、件の『ファイナル・フロンティア』系のデザインをした、それまでの米国が建艦してきた『宇宙船』レベルよりはるかに大きい、全長にして三五〇メートル。つまり、特危の『ふそう』や、『やましろ』ぐらいの大きさはあろうか、そしてグロウム帝国艦艇にも引けを取らない立派な、ティ連基準で言う『中型艦艇』に匹敵する大きさの『航宙巡洋艦・ニール・アームストロング』が大空に浮かび上がったのであった!


 船体には「United States of America」と、LNIFを代表するかのように大きく書かれ、星条旗がプリントされている。

 その下部に、LNIF陣営各国の国旗に、連合サマルカの旗。更には、ゼスタールがスール合議体になる以前にゼスタールの国旗として使用していた旗もプリントされ、その船体を見れば、どのような経緯で完成された船か、イヤでもわかるような、そんなプリントをされていた。

 勿論、そこには日本とティ連の旗は描かれていない。そりゃ協力していないからアタリマエであるが、サマルカの旗があれば、結局は連合も協力したことに一応なるのだろう。


「で、でも……デザインが……」


 と、やっぱり漏らしてしまう智子。


『マア、サマルカの航宙船技術がベースなら、こうもなるわヨ』と、メイラも一応あの作品を見たことあるから知っているだけに、そんなコメント。


 智子が二藤部の表情を見ると、やはり呆気にとられているような、そんな表情であった。

 とはいえ二藤部自身もこの一〇年でイゼイラやダストールといったティ連諸国には政治家として顔を出しているので、もうティ連艦艇の凄まじさはわかってはいるものの、その諸性能は置いといて、大きさ的に特危と同じクラスの船を造ってくるとはと、恐らくそういう思いも混じった表情なのだろうと予想できた。

 無論、それは智子達も同じである。とはいえ、無論このような船を米国やLNIFが協力したとしても早々に建艦できるわけもないわけで、そこはサマルカと、ゼスタールの『月面工場』が噛んでいるのは容易に想像できるわけなのだが、どうもそれ以上に……


 スチュアートは、壇上へ此度のアームストロング型巡洋艦建艦へ特に貢献した人物として、一人の人物の名と、二人を壇上へ誘った。

 無論一人は“かっちー”ことセルカッツである。で、一人の名というのは、アルド・レムラー統制合議体。

 そして最後に呼ばれるのは……


「ヘイ、エルヴィン! 上がってくれよ!」


 なんとスタインベックであった。

 オネェ系のスタインベックとスチュアートが握手すると、かっちーとも握手。

 観衆の興奮は最高潮に達する。

 話では、此度のアームストロング型にかかった費用は、日本円で約一兆五〇〇〇億円。

 じつのところ船の規模に比例して見ればそんなにかかっていない。これも一部ハイクァーン工学の利用と、ゼスタールの巨大な『自動工場施設』を使えたことが大きく関係している。

 その中のかなりの部分を占める人件費と地球型部材の製造と量産を、パイドパイパーグループが全て寄付という形で請け負ったらしい……そりゃこの場に大統領やかっちーと同格で列席できるわけである……




 ハワイの大空を大きく埋める、日本とヤルバーン州を除いた、現在の地球科学を凌駕するその艦体。

 MHE型宇宙船や宇宙艦艇を今後時代遅れにするその船は、地球の安全保障を担うという名目で造られた訳である。

 という事はLNIF陣営の思惑とは、やはりグロウム事件も関係してくるのであろうか?

 そして対するCJSCA陣営は、UNMSCCとしてどのような策を打ってくるのであろうか?


 グロウム帝国の国難は、どうやら地球の時勢にも直結しているようである……







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