【第四章・天の川銀河 ―終― 】 第二七話 『Enemy of lives』
地球から約三〇〇〇〇光年の恒星系。
聖ファヌマ・グロウム星間帝国という名の国家が主権を持つその宙域。
グロウム帝国本星から少し離れた場所にある小さな恒星系。グロウム星間帝国・レダ恒星系、第三惑星『サージャル大公領』と呼ばれるグロウムの領有惑星。名称からして帝国の名を冠する惑星だけに、その名の通り『サージャル大公』と呼ばれる貴族階級の人物が領有する惑星なのだろう。
ちなみに、『大公』という階級は、貴族階級を伴う君主制を取る国によってかなりその意味が違う場合があるのだが、大体共通する点としては、王族ないしは皇族の親族で、王位や帝位に近しい立場の貴族に付与される階級であるとみて、間違いない。ティ連の翻訳システムがネリナの言葉をそのように翻訳したわけであるから、恐らくこのサージャルなる人物は、グロウムの皇族なのだろうと推測できる。
……さて、その惑星『サージャル大公領』の軌道上には、コロニーというにはあまりに巨大な、一種の衛星にも匹敵する巨大な魔窟。ヂラールコロニーが陣取っていた。
この惑星サージャル大公領から、太陽系、火星へやってきたネリナ・マレード司令は、今、このヂラールコロニークラスの要塞型生物兵器がグロウム帝国へ三基も侵入してきているという驚愕の情報を、ティエルクマスカ連合防衛総省太陽系軍管区司令部―特危自衛隊の本作戦最高司令官『ゼルドア・ディナ・アーガス提督』に供与した。
当然ティエルクマスカ連合―日本国は、その情報が意味する、『この銀河系にヂラール共が現れた』更に、『地球から三〇〇〇〇光年という、ティ連感覚では【すぐそこ】の場所に連中がいる』という事実にこれ以上ない憂慮を示し、ティ連防衛総省長官の柏木真人は、即座にこの件に精通した選りすぐりの人員を編成して、グロウム帝国の支援も含めた、威力偵察と現地主権勢力との接触作戦をすぐさま指示するのであった……
* *
本惑星の帰属基地が本来の所属であるネリナ・マレード司令。階級は地球で言うところの大佐。
彼女の水先案内によって、本惑星の放棄された軍事基地に仮設基地を設営し、各部隊が当初の通りの偵察任務を行う。
そんな中、ネリナの話に出た、『この星の地下都市要塞に避難民が皆、隠れ移り住んでいるのではないか?』という疑問。その疑問を確認するべく、現状最も重要な任務を与えられた、惑星サルカス・ハイラ王国連合近衛騎士団団長にして、ハイラ王国の王女であり、サスア副国王の将来嫁で、フェルの妹戦士、『メルフェリア・ヤーマ・カセリア』団長。
抜群の機動力を誇る『メル式黒漆自動甲冑』を装着し、ホースローダーの速力も快調に、騎士団を率いてネリナから教えてもらった、地下都市入り口に繋がる荒れ果てた幹線道路を疾走していたわけなのだが……
突如飛来した、グロウムの機動兵器『シェイザー』。
前方から見ると、T字型の航空兵器にマニピュレータ、即ち兵装腕が付き、更にはパイロンに各種武装をフル装備した機体。背面には昆虫の腹部の形状にも似た機関部を装着しており、噴射式推力で移動し、斥力系波動で浮遊状態を維持していると思われる機動兵器。全高にして、約一〇メートル前後。
そんな兵器がメル達近衛騎士団の行く手を阻み、取り囲む。
サーチライトを集中して照らし、マニピュレータに装着された兵装を彼女達に向ける。
普通ならここで『誰か!?』と問うところだが、恐らく現状外の世界をうろついているグロウム人などいないのだろう。メルの部下が地雷に接触したために彼らの探知装置に引っかかり、現状の状況になっていることは普通に想像できるわけだが、多分シェイザー型機動兵器のパイロット達は、彼が初めて見る……『黒い鎧を着込んだ妙な馬と人』『その他時代がかったデザインで、超高度な技術を使った鎧を着込んだ人と乗用動物』『顔が獣系の人物数人と、一人の水色肌な女性』を見て、恐らく狼狽しているのだろう。
その雰囲気を感じ取ったメルは、甲騎の拡声機能を立ち上げ、
『我々は、てぃえるくますか星間共和連合、太陽系軍管区司令部―特危自衛隊から派遣されたメルフェリア・ヤーマ・カセリアであるっ! 貴殿らが、我々の勢力圏へ派遣した諸君らの同胞である「ネリナ・マレード大佐」を我々は保護している! 我々は事の詳細をネリナ殿から伺っている! よって義により助太刀に参った次第! 我々は貴殿らを統括する責任者と会談することを希望している! 返答された~し!』
なんとも騎士道か武士道か、『やあやあ我こそは』ではないが、そんな調子で大声張り上げ、一発ぶちかますメル。拡声器があるのにデカイ声張り上げて、更にうるさい事この上ないではないかと思うところだが、メルの問いかけにどうもシェイザーパイロットの方は相当動揺しているようで、回答までしばしの時間がかかる。
以前のネリナの話を聞けば理解できるが、グロウム帝国の友好国は近隣星系国家のみであり、日本のような外宇宙……これも日本が相当常識を逸脱してしまっている星間外交なのだが……五〇〇〇万光年もの彼方にまで既知となる種族があり、その技術を取得している発達過程文明という存在もそうそうないわけで、恐らくメル達が今対峙しているグロウム人も、彼らが置かれた現状を鑑みれば、かなり混乱している様子が窺えるわけである。
そりゃそうだろう。その言葉の問題もさることながら、軌道上のあの光景である。援軍など本来期待出来るべくもない現状で、今後がどうなるかわからない状況。突如として現れたメル達は、果たして惑星サージャル大公領の人々にとっての天佑神助になるかどうか……そんなところであった。
* *
『オオミ一佐! 騎士団の一騎にバイタルの変化がありました!』
「!?」
グロウム帝国の軍事基地跡にデロニカ艦載型を着陸させ、その周囲に仮設基地を設営するシエをリーダーに副隊長を大見が務める偵察部隊第一陣。
メル達偵察に出た騎士団のバイタル変化、即ち地雷踏んだ騎士団メンバーの状況は直ちにこの基地に伝わる。つまり。兵士一人一人の状況は全て追跡把握できているわけだ。
「どんな状況だ?」
モニター要員に問う大見。モニター要員はイゼイラ人である。
『ハイ、これを……』
機材を操作して、騎士団各自に備え付けられている視点カメラをチェックする。大見も騎士団員の誰かが地雷に接触した事を理解する。
VMCモニターに映るシェイザー型機動兵器三機。メルの時代がかった口上のようなコミュニケーションに思わず苦笑してしまう。
そのモニターを見るグロウムの兵は、皆『おお!』と同胞の生存に声を上げて喜んでいた。
モニターに映るメル視点の騎士団の状況。
「君、すぐにネリナ司令をここに呼んできてくれ」
近くのグロウム兵に声を掛けると、その兵はキビと敬礼してモニタールームを飛び出していく。
暫し後、兵から状況を聞かされたネリナが目を輝かせて部屋に飛び込んでくる。
『ああ! これは17機動航空隊のシェイザー! 無事だったのか!』
「ん? この機体の所属をご存知なので?」
『はい。我々が大公殿下の命を受け、この星を脱出した時にギリギリまで護衛に付いてくれた私の友人が司令官を務める部隊の機体です』
「そうなのですか! ……なるほど、では話が早いな。あ、いや、どうにもメル君達の部隊が警戒されているようでしてね。って、敵はバケモノですから、ああいう部隊を見れば敵ではないとすぐに分かってもらえると思ったのですが、ハハ……」
横で聞くモニター要員は、メルの甲冑姿に『“すぐ”はないと思う』と疑義を思うが、口に出しては言わない。大見も少なからずそうは思っているのだが……
ネリナも喉元まで『いや、あの甲冑……』と言いかけたが、途中でヤメた。
ま、それはともかく、
「メル君、聞こえるか? 大見だ」
『あ、師匠!』
「状況はモニターしている」
『うん、なんか相手さんに警戒されちゃって。なんか相手サン、応援呼んだみたいなんだけど……』
メルのセンサーにそんな反応が出たと。それを確認する大見。すると偵察ヴァルメから、指定された山岳地帯より多数の熱源が移動している事が報告された。
熱源の反応は、小型機動兵器五個小隊クラス。まあメル達の部隊規模を見れば、拘束を前提とするには無難な対応規模だ。
『オオミ殿。彼らと……あのシェイザーと話をさせてくれまいか』
「通信の規格はわかりますか?」
『いや、恐らく今の私の知っている規格ではダメだろう』
当然である。このような状況であれば、通信の規格。地球的に言えば周波数に暗号などはコロコロ替えているだろう。それに組織自体が弱体化してしまっているわけなので、最低限の規格基準も崩壊してしまっている可能性もある。
「なるほど……」と大見は納得すると、「メル君、VMCモニターを最大にして、相手の機動兵器に見せる事はできるか?」
『はい師匠。やってみます!』
* *
メルは大見の言う通り、VMCモニターを最大の大きさにして、空中に立ち上げ、それを機動兵器シェイザーに見えるよう展開する。大きさでいえば学校の黒板ほどの大きさである。
すると、その大画面にネリナの顔がドバンと表示された。
『第17機動航空隊の諸君! 私だ! 第5防衛艦隊のネリナ・マレードだ! 私は帰ってきたぞ! 諸君が対峙しているその方々は、我々の目的だった異星の援軍だ! 私は任務を完遂した! だから警戒を解いて欲しい!』
ネリナの姿を空中投影されたモニターで見たであろう、そのシェイザー型機動兵器のパイロットは、明らかに動揺しているようであった。そして暫し後、恐らく彼らの本部と通信でもしたのだろうか、マニピュレーター型兵装を収納し、着地装置を展開して、地上に着陸した。だが、メル達騎士団を包囲して警戒している状況は変わっていない。
それでも何とか状況が落ち着いたと思うメル。フゥと一つ吐息を付き、彼女もパイラ号から降りる。
騎士団にも全員ボルダから降りるよう命令した。
シェイザー型機動兵器からもパイロットが降りてきた。勿論まだ相手パイロットは警戒しているようではあるが、礼儀正しく右手を横に上げ、グロウム式敬礼をもってメルに対峙する。
メルもハイラ式敬礼で答礼。握手が出来たようである……グロウム人は地球人と同様の握手をするのは以前の通り。
メルは改めて自らを自己紹介すると、再度VMCモニターを立ち上げて、ネリナとその部隊隊長らしき人物と話をさせ、現状の場所で両軍合流しようということに相成った。
確かにメル達は明らかにヂラールではないとわかるにしても、ヂラールにこっぴどくやられているサージャル大公領軍からすれば、外界の存在はすべて警戒の対象である。もしかするとヂラールの擬態化浸透生体兵器の工作活動か? という疑いも持つ。なんせ彼らはヂラールのことなぞ何もわかっていないワケなのだから……
……ということで暫し後。
大見とシエにネメア、そしてネリナが小隊を率いて騎士団とグロウム―大公領軍が接触した地点へやってきた……ネメア・ハモルが同道しているのは、ヂラールの専門家故のことである。あと、彼女がいれば何かあっても当千の戦力で心強い用心棒というのもある。
シャルリにリアッサには、仮設基地で待機してもらっていた。
グロウム軍も数個小隊を率いて責任者クラスの人物を連れてきているようだ。
「ネリナ! ネリナか!」
グロウムの軍用車両から飛び出てくる男性。
「ラズル! ラズルか! おお……」
ネリナもそのラズルなる人物の顔を見るや、特危自衛隊所有『高機動車改』から飛び出してその男性に駆け寄る。
……ちなみにこの『高機動車改』は、あの月丘が乗っていたエスパーダⅢの高機動車版と思えば良い。ああいった機能を持つ車両である……
「まさか戻ってくるとは……確かに援軍を探しての帰還という任務だったが、そんなものあってないような命令だ。君達に課せられたのは、同胞を伴っての新天地移住の旅だった」
ネリナと包容し、背中を叩き合う二人。ネリナも涙を流して、戦友の生存を喜んでいるようである。
「フフフ、私は必ず戻ってくると言ったはずだ」
と、戦友との再会を喜びあっているところも何ですがという感じで……
『アー、ネリナ司令。スマナイガ……』
『あ! そうでした。申し訳ないシエ将軍。紹介します、彼はグロウム帝国・サージャル大公領軍第17機動航空隊司令の、ラズル・ヴァーム大佐。私と同期の戦友です』
ネリナから紹介されると、ラズルなる人物はキビと敬礼する。ネリナはラズルにシエ達を紹介した。
ラズルはシエ達を興味津々な眼差しで眺める。
体表に鱗模様をもった青白い肌の種族に、水色肌で鳥の羽のような体毛を持つ種族。少々獣のようなイメージの顔を持つ時代がかった種族に、褐色肌に白い模様を持つナイスバディなお姐さん。
獣のようなイメージの種族は、メルの部下のハイラ人だ。
そして、まだら模様の迷彩服を着込んだ、これもグロウム人から見れば、何百周期も前のイメージを持つ種族……まだ一番グロウム人に近い形態の地球人で日本人の大見。
「まさか宇宙にこんなに数多くの、種の違う知的生命体が存在するとは……」
『ああ、それにこの翻訳技術でもわかるが、彼らは相当に科学の発達した種族だ……まあ多少我々から見れば、文化概念が違うところもあって驚いたのも事実だが』
地球人にハイラ人の事だろう。ま、そういう科学技術格差の垣根を超えている文明がティ連なので、そこはゆっくりと理解してもらうしかない。
『ネリナ生体。現状ヂラール敵性体の活動は沈静化しているが、何時斥候部隊が降下してくるかわからない。この場所に長時間留まる事はあまり推奨されない』
ネメアのこの物言いに驚くラズル。
『ネ、ネリナ……生体?』
『ああいいんだ、ラズル、気にするな、ハハ……な、なるほど、ああそうだったネメア殿、うん……で、ラズル、お前達は今、あの地下都市に避難しているのだろう? 大公殿下はご無事なのだな?』
「ああ、大公殿下のご英断で、首都と基地を放棄して、地下都市に戦力を集中させて退避したのが良かった。おかげで人命損失の拡大は防げた……だが、基本籠城だ。正直なところ……な……」
そんな場所で籠城となれば、糧食に物資の備蓄が……というお決まりのパターンでどうにもこうにもといったところなのだろう。
『それならば大丈夫だ。心配いらない』
そうネリナが言うと、大見と視線を合わせる。大見はコクコクと微笑を浮かべて頷く。
ということで、早速両軍その地下都市へ行くことに相成るわけなのだが、ここでラズルがまた驚くのがネメア・ハモルという存在。
『ではシエ生体。我々は先行して上空を偵察、警戒する』
『アア、ヨロシクタノム、ネメア』
するとネメアは体を何やら鳥類のような動物にモーフィング変身させて、空へ飛び立っていく。
それを見るラズルにその部下達は目をむいて驚き、
『な、なんだあれは! あ、あんな知的生命体がいるのか!』
と驚愕。まあまあと落ち着けと宥めるネリナ。ゼスタール人の何たるかを説明するのも一苦労である。
なんせ彼女らは『普通の』知的生命体から見れば、物の怪の類と思われても仕方ないわけであるからして……いかんせん人工幽霊か霊体か、そんなんだし……
なんとも個性的なティ連構成種族諸氏にグロウム人は驚きっぱなしであった……
道中、ネリナはラズルへ、そのネメア・ハモルというゼスタール人について詳しく説明してやる。勿論ティ連人の受け売り知識ではあるが。
あと、それに付随してメル達ハイラ人の事と、かの惑星サルカス攻防戦の事。このあたりはシエに大見も混ざって説明した。
「……なるほど。では皆様方はあのバルター共との戦い方をご存知だと」
『そうです。そしてその驚異も、ネメアさん、つまりゼスタール人という種族から我々も教えてもらいました……私達としては、当初は別宇宙レベルの話で、そんなに危機感を持ってはいなかったのですが、ゼスタール人との接触と、貴方がたグロウム人の皆さんからの情報で、ヂラールが我々の宇宙にも存在し、近い場所で活動していると知って看過できない状況と判断し、この状況に至っているという次第なのです』
と説明する大見。
『ソウダ。ナノデ、我々トシテモぐろうむ帝国ノ件ハ、対岸ノ火事ノ話デハナイノダヨ。アノヂラール……グロウム人ガ“バルター”ト呼ブ化物共ハ、別宇宙カラ異次元レベルノ空間移動ヲ行エルト聞ク。即チコノ銀河系カラ遠ク離レタ我々ノ宇宙モ、危機迫ルモノハ同ジレベルトイウ事ダ』
その話をまだイマイチ把握していないラズルではあるが、あのヂラールの驚異を知る異星種族が今この場所にいる。しかもその戦いに勝ち、自分達よりも技術的に高いものを持っている者達だと思うと、希望も持てるというものであった……だが、やはりネリナと初めて邂逅し、接触したあの時と同じく、日本人やハイラ人を見て、ティ連の文化文明を受け入れる懐の広さに改めて驚くネリナにラズルであった……
……しばしトランスポーターで走る。車列最後尾に殿の如く装甲化されたローダーの蹄を鳴らして車列を追う自動甲騎の一団。
上空を随時警戒する偵察ヴァルメの情報では、やはりヂラールの群体は、現状あの要塞型へ引き上げているようで、間違いなく大攻勢を仕掛ける前触れの状況であった。それをいち早く感じ取っていたのは、生粋の戦士でもある騎士団長のメル。あのいつも明るいメルが、今は眉間に少しシワを寄せて周囲を見回し、何か考えているようである。
「あ、見えてきましたね。あれが、現在我々の本拠地となっている地下都市、『ゲンダール市』の入り口です」
前方に見えるは、山をくり抜いたような巨大な横穴のトンネルの中に聳え立つビルディングのような建造物。今は夜なので、建物には明るく明かりが灯る。
そのトンネルのような巨大な洞窟を護るように、城壁のような分厚い壁が建築されており、等間隔に火砲を載せた監視塔が設置されている。
ネリナの話では、この巨大な横穴洞窟の先が更に大きな巨大空洞になっており、そこへ更に大きな都市空間が造られているのだという事……地下というと、平地の地面の下というイメージだが、構造的には巨大な山岳部の中をくり抜いた、というイメージの方が正しい地下都市であったりする。
本来ならこの惑星の歴史を綴る観光都市として賑わう街であったのだろうが、現在はその歴史的価値を利用した本来の姿を利用し、完全に要塞化された山岳地下都市として機能していた。
見るからに頑丈そうな正門が縦横に開いていく。まるで無菌室に入るが如くの厳重な侵入阻止型システムを稼動させている正門をくぐると……都市へ入っていく幹線道路へ進入する……が……
大型鳥類状の物体がメルの背後に付いたかと思うと、形状をモーフィングさせて元の姿へ戻るはネメア・ハモル戦闘合議体。現在メルとネメアはパイラ号に二人乗り状態。
『あ、ネメア師匠』
『メルフェリア生体。自動甲騎後部へ同乗することを許可せよ』
『うんいいよ。偵察警戒ご苦労さまです』
『肯定的意見を評価する……ところでメルフェリア生体、情緒的に不安定な表情を発現しているが、精神的安定を保持できない状態なのか? 回答せよ』
こんな物言いだが、少し心配顔でメルの顔を後部から覗こうとするネメア。
『あ、いや……この街の状態だけど……あんまり良い状況じゃないよね、やっぱ……』
幹線道路を走る車列を見る街の人々。シエ達を歓迎する観客が見ている訳でなし。それどころか、住民の目は疲れ切った表情か、憎悪を放つ目か……表から見える『洞窟の中で光る美しき街の灯』と思っていたわけではないが、現状極めてスラム化する一歩手前のような状態である街なのは確かだ。
今もメルは官憲らしきグロウム人に追われる少年を見てしまった。
『やっぱりスラム化しているね……私達がヂラールと戦っていた時も、戦いで疲弊した街がスラム化していく様子を見たことあるし。それに……この街の臭いがね……』
メルは貧困地区独特の街の臭いがすると話す。この臭いは宇宙共通なのかと。
かつてのサルカス戦時でも、ハイラ王国領内がヂラールの強襲によって一時期統制が取れなかった頃、ガイデルが国王となり辣腕を振るうまでは、街がスラム化した時期があったという。
この街にしても、戦火にさらされた事は幾許かはあっただろう。その時は糧食に水を大量に保管し、戦災、自然災害時などにはそれらが領民に配給されたのであろう。だが、現状はそういう状況ではないのだろう。
メルは独特の臭いが鼻につくのも状況資料の収集だと自分に言い聞かせて、PVMCGの映像保存機能を立ち上げ自分周辺の状況証拠を収集する。そういうところは流石ハイラの王女殿下である。
『我々の場合、母星ゼスタールは病原体に侵されていた状況だった。従って市街地が無法地帯と化すより以前に、まともに生存しているゼスタールがいない状況ができあがってしまっていた。従ってメルフェリア生体の言動は我々の状況データに合致する凡例が存在しない』
『そっか、ネメア師匠の星はなんかそんなんだったって話だよね……でも師匠、今後の事もあるからさ。この風景は記憶しておいたほうがいいよ。多分オーミ師匠やシエ師匠もまずこの状況を改善していかなきゃならないとおもうからさ。「健全な闘志は健全な肉体に宿る」って、違ったっけ?』
コクと頷くネメア・ハモル。実は最近ネメアとメルは妙に仲が良かったりする。ネメアの合議体もメルの事を友人と認識しているようだ。ま、これもメルの人徳というものでもある。
しばしそんな風景を眺めつつ走る車列。大見とシエも先頭を走る“高機動車改”の中でメル達と同じような話をしているのだろう。
すると、大きく、見た目綺麗な建造物が見えてきた。ラズルに問うと、その建造物はこの街の高級ホテルだという話。だが現在は緊急事態故に大公軍が接収して、臨時の公邸兼用の大公領府となっているそうだ。
だが、この街の建築物で一番程度の良いものを取り敢えず接収してそんな風に使っているわけであるから、やはり警備システムの構造なども対政府閣僚用にはなっておらず、またこういったセキュリティシステムを早々いじれる人物もホイホイいるわけではないので、自然と警備兵の数が多くなるのは必然で……なんとなく物々しかったりする。
車列は正面玄関で停車すると、グロウム軍人が整列し、青い絨毯がホテルの中へ誘うように敷かれ、来賓の到着を待っていたかのようであった。勿論これはラズルが連絡した故の事である。なので決して綺麗に用意周到で準備されていたようなものではない。かなり急いでなされた感アリといったものは見てわかる。だがこの星が現在緊急事態で状況が末期的といったところであれば、これでも精一杯なものかと、かえって気を使わせて申し訳ないとさえ思う。
しかも……シエ達を出迎える兵が若い。
ベテランもいるのだろうが、少年兵といった類のグロウム人も普通に兵として登録されているようだ。
シエも一流の将軍様であるからして、この『サージャル大公領』軍の構成が現在どのような構成なのかは大体把握したようだ。微かに口元を歪める彼女。
ティ連にもあるような、浮遊式エスカレーターをしばし登ると、大広間のような場所へ案内される。
会議用の大きな円卓が置かれ、グロウム版の空中投影型モニターが多数展開し、グロウム軍の状況を表示している……だが、いかんせん元はホテルの大会議場のような場所。雰囲気は正規軍とのそれとは違うものであり、現状レジスタンスか反乱軍の基地か、そのようなものに近い。
そんな部屋の奥で何やら数人でスッタモンダと討論中の集団。
『少し失礼……』
そう言うとラズルはシエ達から早足で離れ、その集団の中へ入っていく。
彼は何やら膝を折り、畏まった挙動で少々高齢の人物に何か話している、いや、報告しているようだ。
すると、その中の最高齢とおぼしき人物の目の色が変わり、グイと振り向いてシエ達に視線を送る。
ジーと見られるシエ達。すると男はやいのやいのと勝手に討論中の部下の話を遮ぎる。
何やら討論中の他の諸氏の事など気にもせずに、背筋を伸ばし堂々たる挙動でシエの方へ近づいてきた……
ビシと挙手敬礼を行うシエ。彼女の地球式挙手敬礼も、もう堂に入ったものだ。大見もそれに続く。
メルは膝を少し曲げてハイラ式。ネメアは左手の甲を相手に見せるような挙動をとる。どうもかつてのゼスタール人式敬礼のようである。ま、一応空気は読めるネメア。
相手の最高齢のグロウム人男性……まあもう見た目に、というところではあるが、特危勢を上目遣いで一通り眺める。
見た感じ、グロウム人特有の、体に描かれる先天的な刺青的な模様に、銀髪の髪。で、『帝国』を名乗る貴族階級の御仁だけあって、その服装はやはり少々権威的ではある。その容姿に親近性を覚えるのは、やはり地球人かディスカール人、もしくはゼスタール人もか。
「言葉は……通じるのかな?」
低い威厳のある声で、そう話すその御仁。続けて、
「私がこの惑星の領主。サージャル・ヴェル・デイザーだ。話は聞いている……と言えば嘘になるかな? フフ、だが、ネリナ大佐が帰還したという連絡を受けた時、想像できてはいたがね」
この言葉に大見達は少し怪訝な顔をする。すかさずシエが、
『サージャル大公殿。デハ、ネリナ司令ノ通信ハ傍受デキテイタトイウ事ナノカ?』
「その通りだ、美しき体表を持つ御婦人。だが、こちらはこちらで色々と事情がありましてな」
なんでも、このヂラール連中は彼らの使う超光速媒体の通信を傍受する能力をもっている個体が存在するという話らしい。で、そのおかげで大公軍の作戦にも支障をきたしているという。
「……恐らく、通信内容を傍受して理解しているというよりは、通信ネットワーク網を感知して、こちらの軍勢の規模を感知して襲ってくると言うか……よくはわからんが、そんな感じでな。迂闊に通信波動を送る事ができなかったのだ……だが、大佐の一報で、私や、国の科学者達の予想が正しかったと直感できた」
そう言うと、サージャルはネリナの前に立ち、彼女の肩に手をおいて、
「よくやった、ネリナ大佐。バンドゥー提督は残念だったが、彼もレィディアスでお前の事を誇りに思っているだろう」
後で聞くところでは、『バンドゥー提督』とは、ネリナ達を太陽系方面へ脱出させるために、盾となって散っていったネリナの上官の事である。『レィディアス』とは、彼女達が信じるグロウム帝国の国教、国名にもなっている『ファヌマ教』の、在る種の聖なる世界の事だそうだが、そこのところは宗教上の教義のことなのでよくわからなかった。
サージャルは、シエ達を円卓の席へ誘う。何やら軽食をもってこさせるが、給仕が少年兵だ。グロウム文化の茶菓子といったところだろうが、その少年兵のそれを見る目が、物欲し気なところが、シエに大見も心苦しい。
円卓に着席するサージャルの参謀達も、シエ達を奇異の目で見る……まあ地球人が初めてフェルやシエと邂逅したのと同じように、グロウム人にとっても、種の違う、所謂『異星人』を見るのは初めてなのだろう。茶をいただきながら雑談でそんな話も出てくる。
自己紹介に、自分達の出自などの紹介をするティ連勢。そんな話の中で、
『では、貴方がたは、所謂種の違う異星の「高度な」知的生命体を見るのは初めてだと?』
「うむ。我々の住むこの星間国家、グロウム帝国を始めとして、他幾つか星間国家を、この近隣の星系は擁しておったが、実をいうとその祖先は皆、グロウム帝国が起源でしてな。要は同一種族だ……確かに種の違う知的生命体が存在することは認識しているよ。というのも、保護観察している知的生命体の住む惑星があってね。その星はまだまだ原始的な文化『だった』星なのだがね……」
その話を聞いて疑問に思う大見。というか、以前ネリナにも触りだけきいたことがあるが……
『大公殿下。ではそのグロウム以外の国家というのは……』
サージャルは側近達と顔を見合わせ……
「バルターに滅ぼされたよ。保護観察していた将来の知的生命になる種も同じくでね……」
なんでも、このグロウム帝国のある大きな星系域には、以前五七もの、ティ連基準で言う惑星国家に星間国家があったという。とはいえ、その国家すべての種の祖は、グロウム人と同種であり、まあ現在の地球の国家のありようが、星系域単位に拡大したような感じだと思えば良い。
するとその話を聞いていたネメアが……
『疑問。サージャル生体に質問。五七もの星間国家があって、三基のヂラールコロニーを阻止できなかったのか? 回答せよ』
どわっと焦る大見。大公殿下相手にその物言いはなかろううと。シエさんはなんでもなさそうだが。
ネリナ大佐も『えええ?』という目でネメアを見る。
だが、サージャルは気にしていないようで……
『実は……これはネリナ大佐も知らない情報なのだが……我々もかの時の情報が錯綜する当時の状況で、大佐達が、その……『タイヨウケイ』へ飛んだ後に情報として知った事なのだが……』
なんと! ……かのヂラールコロニーは、一〇基もこの星系域へ侵入していたという話。
『な、なんですって!』『ナンダト!?』
驚く大見にシエ。勿論メルにネメアもびっくり顔だ……ネメアの驚愕表情はレア物である。合議体のみなさんもムンク状態だろう。
当然そんな話は知らないネリナ大佐……どういう事だと無礼を承知でサージャルを問いただすと、一〇基あった内の七基のコロニーは、五七の、その星域の国家が国運を賭して壊滅、破壊させたのだと言う話。だが、あのヂラールコロニーである。当然各々国家は相当に回復不能の被害を受け、各国家が国家規模の自爆攻撃をもって、一基ずつ葬っていったそうなのである。
ある国は、本星に着床したコロニーに罠を仕掛け、生き残った国民全てが星を脱出した後に、コロニーへ向けてその星最強の大量破壊兵器を全て使用し、何とかコロニーを破壊したが、その星にはもう人が住めなくなってしまい国が滅んでしまったり……
そんな対応を行って、脱出した各国家の国民が、グロウム帝国へ難民として避難してきたわけだが、元々同じ種族であったが故にグロウムも他国の難民受け入れは、戦力としても歓迎したいところではあったのだが、『結果的』にではあるが、そのグロウム帝国が、彼ら種族の『最後の砦』となってしまって現在に至るという話なのだそうである……残念なことに、他の原始的な知的生命種までは手が回らず、それらの種は……という話だそうである。
結果的に、この星系域国家総力戦で戦っても三基のコロニーを残してしまったわけで、その一基が、このサージャル大公領を攻撃しているという次第。
もう国運を賭けた自爆攻撃は使えないので、現状苦戦しているといったところ。
『そ、そんな事が……では当然ラズルも……。』
「ああ、とはいっても、私も君達が行った後知ったのだがね」
その話を聞いて、かなり渋い顔になるシエに大見達。
まあ確かに、かのサルカス戦時、最後はティ連の最終兵器でサックリと吹き飛ばした相手ではあったが……まあ三基までは想像できる範疇ではあったが、アレが一〇基も稼動して、実はこの銀河系に進駐してきてましたと……
『ですが、それでも、国運を賭してアレを七基も破壊したその作戦には、敬意を表します』
大見がそう言うと頭を垂れる。
『我々もオオミ生体に同意である。この星域国家に最大の評価の意を表する……確かにヂラール敵性体は、かの存在と相対する戦力や、技術が未到達の場合、既存の戦術的発想では、対峙することができない存在であるのは肯定せざるをえない』
後ほど、その資料が欲しいと請願するネメア。なぜなら、それは彼女達種族の参考にもなりえるからである……
ということで、此度のシエ達諸氏の任務は『偵察』と、『接触』である。
とりあえず『接触』の任務は果たせた。『偵察』の任務も、情報収集の点で言えば、のっけから重大な情報を取得できた……だが、彼ら特危勢は、そんな偵察に接触任務よりも、今現在、状況が停滞している現状において、まず特危『自衛隊』として、やっておきたい事がある。そして『自衛隊』の名を標榜するならやらねばならぬ事でもある……
「食料事情に生活環境か……そうか、そうだな……当然異星の方々とて、同じような精神性を持つのであれば、その点を危惧するか……」
そう、先程メルが言っていた、街の……というより、生活環境のスラム化である……これでは領民の士気はは上がらないし、どれだけ良い武器兵器を与えても、宝の持ち腐れである。まともに戦えるはずがない。
『マズハ、ソコカラダナ、オオミ』
「ええ、そうですね」と言うと、大見はVMCモニターを立ち上げて仮設基地のシャルリを呼び出す。
「シャルリさん、応答願います」
『あいよ、なんだい旦那』
「実はですね…………」
* *
『……ダーリン、トイウノガ現状ノ推移ダ。コリャ結構大変ダゾ』
「ああ、こっちでもそちらの様子をモニターしていたよ。録画記録も見せてもらった」
惑星サージャル大公領から約五〇万キロの位置で、探知偽装をかけて待機する強行偵察任務艦隊。
旗艦の重戦闘護衛母艦『やましろ』で愛妻の報告を聞く多川特将補。
『デダナ、本来ナラ、ダーリンガ、コノ艦隊ノトップダカラ、ダーリンニモコッチへ来テ欲シイトコロナノダガ……ソチラデノ指揮モアルシ、二人共コッチへ来ルノモマズイ』
「だよな。その“大公殿下さん”がそちらで陣頭指揮してるってんだから、本来この艦隊のトップである俺が言って、顔合わせてハジマメシテってのが筋なんだろうけど……」
すると隣で聞いていたニヨッタが、
『今、下手に動くと、あのコロニーが動き出しかねませんジェルダー』
「ですな……いやシエ、実はな、シエ達がネメアさんとこの船使って降りたあの時点で、連中の軌道上に展開する機動兵器の数が多くなった……まあ仕方ないこととはいえ、連中も俺達がやってきて、何か感づいてるところがあるみたいだ」
『ナルホド。サージャル大公ガ言ウニハ、コウイッタ膠着状態ニアッテモ、ヤハリ連中ハ連中デ、何カ隠密ニ索敵スル手段ヲ持ッテイルノデハナイカ、トイウ話ダ。偵察部隊ノヨウナ生体兵器ハ、割トヨク飛ンデクルラシイ』
「そうか……まあ生体『兵器』っちゅうぐらいだからな。メルちゃんは連中のこと『バカ』なんて言ってたが、この現状を見ると、そうとも言ってられんトコもあるか……」
『トイウコトデ、コチラハ私ト、オオミニ任セテクレ』
「了解だ、こっちも現状情報はリアルタイムでゼルドア提督に送っている。当然柏木さんも見てくれてると思うから、早期に手は打ってくれるだろう」
『ウン……トイウコトデ、私ノ危機ニハ、チャント駆ケツケテネ、パパ』
「はいはい、わかったよカーチャン。旭龍の準備はしておく。んじゃな」
VMCモニターにチューして画面から消えるシエ。多川は隣りにいるニヨッタを見ると……ニヨッタは苦笑い。多川夫妻、お熱いこってとそんな顔。流石は特危名物の最強夫婦幹部である。
……場面は代わり、サージャル大公領・地下都市ゲンダール。
仮設基地から大見の指示を受けて飛んできた、艦載型デロニカ輸送機。
ゲンダール市城塞内にある巨大なヘリポートのような場所へ着地する。するとすぐさま機内からいろんな種族の特危隊員が躍り出て、後部ハッチを大きく開けて機材搬入作業を開始する。流石は訓練された自衛隊員、展開が早い。
『オオミ大佐……あれは何を搬入しているのだ?』
特危からPVMCGをもらったサージャル。そのVMC技術に驚きまくる。
彼らも相当な科学力を持つ種族ではあるが、まだVMC技術のようなものは持ち合わせていないらしい。
先程見た空中投影技術も単なるホログラフだった。
サージャルも勘の良い人物で、この仮想物質生成能力を見た時点でティ連のポテンシャルをすぐさま理解したと語り、そして側近達の士気も急に上がってきたという。
即ち……
『はは、そうでしょう大公殿下。私達も彼らティ連人と初めて邂逅した時は、この技術に驚きました』
と大見がサージャルの気持ちもわかると同意すると、
『うむ……失礼ながら、ネリナ大佐の報告書にもあった通り、諸君ら“ニホン人”や、メルフェリア王女殿下の“ハイラ人”を見た時は、その……シエ将軍のダストール人に、ネメア殿のような見た事もない種族のような方々とは文明度合いが明らかに違う。それがどうしてこうも普通に共存できるかと……ネリナ大佐同様に私も不思議に思っておったが……この技術を見せられては、納得もする』
ちなみにサージャルに対して、メルはハイラの王女さん兼騎士団長であるとして紹介したようである。
これはシエの判断。なぜならティ連側にも貴族階級の人物がいれば、何かとやりやすいだろうと考えたからである。
まあサージャル自身も相当屈託のない性格のようで、この期に及んで貴族だの平民だのどうでもいいと思っているようではある。でないと、ここまで彼らは保たないだろうし、ネリナのような誠実な軍人が、彼に付いていく事もない。
『はい殿下。そこは我々日本人も同意します……はは、でなければ、こんな三〇〇〇〇光年も離れた場所に立つなんて言うのは、まだまだ数百年か千年先の話でしたからね、我々日本人……いや、地球人も』
『フフ……では諸君らと、ティエルクマスカ人が邂逅しなければ、今頃我々も滅んでいたというところか? ファヌマ神も、面白い物語をお造りになる……』
大見は頷きその話に同意する……だが、ティ連と出会わなければ、ヂラールを知ることもなかったかも……と思ったが、それは言わなかった。そこは詮無き事である。
だが大見はこんなことをサージャルに言ってみる……ティ連と接触しなければ、遠い未来に邂逅していたのは、このグロウム人だったかもしれない。実際彼らはすぐそこまで調査に来ていたという話だからだ。となれば、地球は彼らの保護対象になった可能性もある……と。
するとサージャルは大笑いし、
『ははは! なるほど、そういう可能性もあるな。面白い。実に面白い……確かにその可能性も大いにある……これもファヌマ神の描く物語というのであれば、神はかくも素晴らしい戯曲作家であらせられる』
彼らが信奉するファヌマ神。話を聞くに多神教のようであるが、大神ファヌマを頂点に頂く宗教であるそうだ。
サージャルは大見の肩をバンバンと叩き、ご機嫌のようである。大見のことを相当気に入ったようだ。
PVMCGの基本機能はすぐに使いこなせるようになった大公殿下。そこのところは彼らも恒星間航法を持つ高度文明人である。地球人よりかはその某も理解は早い。まだわからないトコロはネリナが側について、畏まってご教示していたり。
そんなこんなをしていると、デロニカからの搬入作業も順調に進み、ちょいとあるテストをするということで、空き地を提供してもらう。
作業用トランスポーターと、何やら地球で言うところのクレーン車のような……投光器の高機能版みたいな機能を装着した特殊作業車が、指定された場所へ配置につく。
大見がVMCタブレットをポンポンといじりながら、その光景についてサージャルへ説明しようと顔を向けると……
なんかネリナがメッチャその装置について、サージャルへ『説明したい光線』を浴びせかけているので、苦笑しつつ、
『あ、ネリナ司令』
『は、なんでしょうオオミ大佐』
『向こうの作業を少し見てきますので……大公殿下へ、コレの説明をお願いできますか?』
『わかりました。お任せ下さい!』
軽く敬礼すると、その場を立ち去る「フリ」をする大見。
『ふむ……で、ネリナ大佐。この作業車両は一体何なのかね?』
『は、これは私が彼らと接触した際、最も驚いた素晴らしい技術でありまして、今後のバルターとの戦いで、最もその導入に急を要する……』
長々と興奮して説明するネリナ。で、
『……ハイクァーン工学技術というもので、我々が所有する自動成形技術など比較にならない、奇跡のような科学技術であります』
『ほう……』
『あ、そろそろ作業が始まるようですね……口でお話するより、作業を見ていただいたほうが早いかと』
『うむ……』
空き地……というよりは、広場の四方。広さで言えば、テニスコート二つ分ぐらい。その四方に先程の投光器を付けたような作業車が配置された。
『準備よし!』と隊員が叫び、旗を揚げる。他の作業員が指差し点呼で『障害物なし! 投写成形一〇秒前!』……カウントダウンが始まり、マルの掛け声で、クレーン状の先端に取り付けられた投光器のような物体から、まばゆい可視光線が一斉に発射される。
『うおっ!』
思わず手で目を覆うサージャル。だが、そこまで眩い光ではない。
その光景をワクワクで見るネリナ。何度見ても面白いらしい。
甲高い音を鳴らしながら、レーザーのような光線が目で負えない速さで複雑に照射されていく。
最初は『なんなんだ』というような目で見ていたサージャルも、その光景が何を意味するのか彼も段々と理解していき……
『こ、これはっっ!!!』
そう、大見達は、なんとそこに地球型のスーパーマーケットを一つハイクァーンで造成してしまったのだ。勿論商品は中に入っています版。
グロウムにも大規模マーケットはあるが、当然その雰囲気に仕様は違えど、それが何かはすぐに理解したサージャル……年末大売り出しの垂れ幕まで再現しなくてもと隊員は思うが、口に出しては言わない。
『ネ、ネリナ大佐! これは……これもこのVMC技術の一種なのか!?』
『いえ殿下。これはこの仮想物質ではなく、全て実物ですよ』
『なん……だと……?』
すると機を見計らって大見がハンバーガーを三つ持ってやってきた。
『オオミ大佐。これは?』
『はい、あの技術使って、今そこで造らせました。ハンバーガーという我々の星ではごく一般的な食べ物です。で、そのファヌマ教ですか? その戒律で、宗派によって肉類を食べてはいけないとか、そのようなものは?』
そんな戒律はないという事で、太閤殿下とネリナがハンバーガーを食べる。ネリナはもう火星基地で体験済みで、この食べ物も大好きだ。
『う……うまい! これをあんな風に作ったというのか……』
大見はハンバーガーに感動するサージャルに、ハイクァーンの原理を説明する。まあこれはもう今の日本人には今更の説明であるが、同じ体験を、日本人、いや、地球人より高度な文明を持つグロウム人が体験し、感動している。
彼らにも、自動で物体を生成する技術はあるにはあるそうだ。だが、それはゼスタールのプラント同様に、3Dプリンターの延長的な技術であって、分子や原子、粒子レベルで物体をエネルギーフィールドを使って再構築してしまうような、えげつない技術ではない。
なんせ古代人を一足飛びに究極の未来人にしてしまうような技術である。ネリナ同様にサージャルも、地球人やハイラ人の有り様をこの瞬間に理解した。
『これは……神の技術だ……』
とそう呟くサージャル。まあでもあくまで比喩である。彼にとっては奇跡同様の比喩ではあるが……
大見はこの技術一式を、グロウム帝国に提供すると話す。所謂ティエルクマスカ原器一式という例のモノだ。ネリナの船にソレは積んできているのだが、現在の状況で原器を譲渡しても使える状況にはない。恐らく彼らならその文明レベルからしてゼスタール人同様に、すぐにでもハイクァーンインフラを整えるような国力は本来あるのだろうが、今はこの状況である。
『どちらにしても、この戦争に勝たん事にはどうしようもないか……』
『そのとおりです殿下。ですので、まずは今の膠着した時間を可能な限り利用して、この街のスラム化を防ぎ、民衆に現状よりは良くなるといった安心を提供しないと、内部テロ等の危険があります。これが起こってしまっては勝てる戦いも勝てなくなる』
『大見大佐の言うとおりだ。では、このハイクァーンなる装置を使えば、食料や物資不足は完全に解消されると考えて良いのだな?』
『はい。それは保証します』
早速大見達陸上科の部隊へ、都市の各所にこのようなスーパーマーケット的な建物をハイクァーンで造成建造するよう命じた。現状はまだグロウムの文化様式がわからないため日本式のスーパーやコンビニのようなものを作って、彼らも食せる弁当やパン類を無償で提供する事にした。
だが無造作に無償提供しても混乱するだけなので、現在ゲンダール市が市民に供給している戦時配給ポイントのようなものに応じて、相応の物資を配る方式を採用することにした。
但し、今までどおりの配給量ではせっかくのハイクァーンパワーの意味がないので、市民に支給する量を現在の一〇倍に設定するように制度を改定したようだ。
とにかくスラム化にテロを防ぐには、市民生活を物質的にも精神的にも豊かにするのが一番手っ取り早い。これで官憲に追われる少年の姿が無くなれば御の字なのだがと、大見は思う。
* *
……サージャル大公領に到着して、地球時間で数日が過ぎた。
先遣任務のシエ・大見ら地上部隊は、その拠点をゲンダール市に集約するため、仮設していた基地を撤収し、シャルリやリアッサもゲンダールへ移動した。で、サージャル大公殿下はこれまたサイボーグ獣人美女のシャル姐を見て驚いてたり。彼らの信奉する宗教『ファヌマ教』の神話に出てくる太古に存在したとされるグロウム人とは違う種族が所謂獣人系らしく、そんなのが本当に存在するとは思わなかったようで、しかもサイバネティック全開のお姐さんだから、一気にグロウム人の人気者になってたり……実際ネリナがカイラス人を始めてみた時も、相当びっくらこいていたのは、こういう理由があったのかと。
まあそれはともかく……
護衛艦『やましろ』のゼルルームで、遠距離通信会議をする多川特将補。お相手は、
『なるほど……この数日でそこまでの状況を調査できるとは……なかなかの成果だね、ジェルダー・タガワ』
「はい。ま、現状これまで私が体験してきた状況の中では一番最悪は最悪なのですが、それでも中枢が生きていただけでも相当マシではあります、ゼルドア提督」
『ふむ……なんだか状況的には一時期のサルカス戦に似ていないこともないが……』
「ですが、アノ時は頭上にヂラールの巣は流石にありませんでしたからね」
『うむ……どうですかな? ファーダ・カシワギ』
ゼル会議で話し合うのばゼルドア提督と……何と柏木真人長官であった。
『……個々の……そうですね、今現在多川さんの見ている状況だけで言えば、サルカス戦的とも言えますが……そのヂラールコロニーがシエさん達の頭上にいるという現状は置いといてですね』
報告データに書いてあった一〇基ものヂラールコロニーが、彼らの国家間主権域に来ていたという後日情報。で、その中の七基を倒すために、いくつもの国家が犠牲になり、それでもまだ三基のコロニーが稼動し、最後の砦であるグロウムと対峙しているというそれまでの経緯も、柏木は報告を受けていた。
流石にその報を聞いて、憂鬱になる柏木……一体どれだけのヂラールがこの宇宙に入り込んでいるのかと……
柏木の話に頷く多川にゼルドア。現状打破のためには、柏木の知恵を拝借したいトコロである。なんせ彼の功績を見れば、そうならざるを得ない。
『……どっちにしろ早期に部隊を送り込まなければならないのは確かですから……でも現状の提督旗下の火星艦隊をもってしても、アレ(コロニー)に対抗するのはキツイよなぁ……』
ヂラールが本格的な惑星侵略を開始する前に、宇宙で決着付けることができれば一番良いわけである。
つまり、現状のティ連艦隊に気を向けさせて、惑星襲撃を二の次にさせるという作戦が最良だ。
しばし瞑目して考える柏木。で、何か思い出したようにポンと手を打つと……
『提督。コロニーにはコロニーをぶつけましょう』
『ん? と、いいますと?』
『距離的にすぐディルフィルドで到達できて、大量の部隊を送り込み、いざとなれば、必殺の大量破壊攻撃ができる代物があるじゃないですか』
ゼルドアも、『あ!』という感じで思い出す。だがすぐに『ですがファーダ。アレを使うには、ヤルマルティアとの調整も必要なのでは……ヤルマルティアの大きな自治体もありますし……』
『そこは私の妻に調整取ってもらいます。時間を考えればアレを使うのが一番効率的です』
『了解しました。では我々もその方針で……』
と勝手に話を進めるゼルドアに柏木長官閣下。
「あ、柏木さん。話が見えないのですが……」
『はは、ああすみません多川さん。話を勝手に進めてしまって』
「いえ、で、コロニーぶつけるとか一体何の話ですか?」
『ええ、すぐにでも命令を出せるように私も手配しますが……』
「?」
『地球から一光年先にある、レグノスステーション……いえ、レグノス人工亜惑星要塞……アレをヂラールコロニーにぶつけましょう。今現在太陽系軍管区司令部で用意出来る最大の戦力はそれしかありません』
なんと、柏木は日本国レグノス県という自治体もあり、地球圏における交通の要衝でもある、かの人工亜惑星レグノスを、惑星サージャル大公領圏まで持ってこようという判断を下した!
だが、それぐらいの事をしなければ、現状風前の灯にあるグロウム帝国に、このサージャル大公領をコレ以上の戦火から救うことは出来ない。
柏木のこの判断、さてどうなるであろうか?




