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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
27/89

【第四章・天の川銀河】 第二六話 『エドウィン・スタインベック』


 火星圏にて、多川信次を司令官とする偵察艦隊が、目的地グロウム帝国宙域へ向けて出港したその頃、地球もまた動いていた。

 やはり今の地球社会において、かの時から一〇年経過した現在では、もう『宇宙』や『異星人社会』との関わり合いは、地球環境の全てにおいて既に『別枠扱い』ということにはできない現状が否応なく存在する。

 それは『連合日本』だけに関わらず、地球社会の諸外国でも同じである。世に大きな国家を巻き込む動きがあれば、必ずそれは付随するすべての事象に波及する。そういうものである。

 即ち『大局』というものは、必ず何らかの相関性があって、その相関性に我々の目には見えない数式が、加算乗算引算割算と加わり繋がり、その結果が予想だにしなかったところから大きな回答が出力される。

 今回の火星圏で進行中のグロウム帝国案件も、そんな相関性に繋がる公式の一つになるやもしれない事象なのであった……


    *    *


 白い円形を中心に、螺旋状の模様が画面一杯に描かれる。

 その螺旋模様は何か? といえば、所謂銃のライフリングという奴、つまりその白い円形は何かといえば、銃の薬室から覗いた銃口の先……っと、なんか同じような事が以前にもあったようなそんな演出。

 それはともかく……ここは外国というわけでなく、日本国内。んでもって大阪府である。


 現在、なんと大阪万国博覧会の真っ最中であった。


 テーマは『健康・いのち・長寿』という事で、ヤルバーン州も独自にパビリオンを出展なんぞしていたいする。そりゃ健康で長寿とくりゃ、ディスカール人のお姉さんに色っぽい水着でも着せてウッフンさせとけとか、そんなセクハラまがいな冗談も通るほどであるからして、そんなテーマならティ連―ヤルバーン州が出展せずにどこが出展するねん、といった感じで何かヤルバーン州の異星人が見学してりゃ、長寿見本市の良い展示物じゃないのかとか、そんな話もチラホラと。

 ということで、此度は大阪府もヤルバーン州には大変感謝しており、言ってみれば今回の万博招致でも、かの一〇年前のあの時があったから大阪で開催できたような話。

 ヤルバーン来てなかったら正直招致活動合戦の勝敗はフィフティ・フィフティで全然わからなかったという事である。なんせ当時のライバルが、かのハゲ帝国のロシアであるからして……


 と、それはともかく、この大阪“舞洲”万博で、世界中の国や企業に、連合本部とヤルバーン特別州が加盟国を代表してパビリオンを出し、かつての一九七〇年における同じく大阪府吹田市で行われた日本万国博覧会の再現の如く、そりゃ連日満員御礼という感じで大変結構な事ではございませんかといったところ。


 ……ちなみに、この日本では昔っから官僚連中の妙な習慣があって、一九七〇年当時の日本万博においても、大阪で開催されるのに、なぜか正式呼称が『大阪万博』とならずに、『日本万博』となるのである。

 だが、仮にこういった国際的な催しが、東京で行われる場合は、なぜか『東京ナントカ』という呼称になるのだ。実はこのヘンテコな命名の習慣に、当時大阪万博誘致に命をかけていた大阪出身で通商産業省官僚の『堺屋太一』は、えらい激怒したという逸話があったりする。即ち東京一極集中で中央集権官僚主義根性丸出しの証ではないかと……


 さて、それはともかく。


『うひょ〜、カズキサン。人がイッパイですね〜』

「ホントですねぇ。私も万博なんてイベントは人生で初めてですから……ほら、あのパビリオン。三時間待ちだってさ」

『はりゃー、三ジカン待って見るものが一瞬なんテ、そんな事ディスカールでやらかしたら主催者サンは半殺しにされちゃいマスよ。むははは』

「半殺しって……ディスカールってそんな恐ろしいところでしたっけ? 私は住心地良くて素晴らしい人がたくさんいた場所だったと記憶してますよ? あの入院してた時に」


 そりゃパウルかんちょの話なんじゃないのかと、そんな冗談も出てくる賑やかさ。っと、そんな事話しながらプリ子さんはカズキサンへギュっと腕くんで恋人同士のデートよろしく場内をうろつく。少なくともプリちゃんは若干公私混同モード発動中。でも一応任務。

 彼女も今日は尖った笹保耳を隠すような事はしていない。可愛いハンチング帽冠ってディスカールのおしゃれな服着てるようなお姿。

 ま、なぜプリ子もこんな姿で出歩けるかと言うと……はっきりいって会場、右も左も日本人地球人の数もさることながら、それに負けない数のティ連人だらけだからである。別段キグルミ発動させて、日本人モードにわざわざ変身する必要もない。要はティ連人さんにとっても、この万国博覧会というものは、地球という惑星の発達過程文明諸々某の集大成を堪能できる場所であり、やはり捨て置けないないものであるからという話。

 よくよく考えれば、以前英国で行われた国際見本市よりも遥かに大規模な地球世界の各国文化文明を展示するイベントなんていうのは、ヤルバーンが飛来して以降、実のところ初めてであったりする。なのでティ連人さんも大勢詰めかけてもくるという次第。

 

 というわけで、国内ではそれだけティ連人が今や普通であるわけで、ここ極最近では旧ガーグデーラなゼスタール人さんも、こんな場所にネイティブヒトガタモードの姿で出歩いてたりして……褐色肌に、白い髪に眉に睫毛に顔や体の模様等がよく目立つ。


『ツキオカ生体』

「やあシビアさん、お疲れ様です。で、どうでしたか?」

『我々もシモムラ生体と情緒的関係を偽装して、情報省の南米部局から報告のあった対象を調査してきた』


 と、おすまし顔でそんな事を月丘に報告しつつ、下村の腕を不自然にガッシリ掴んで離さないシビア・ルーラ。


「あ、あの……シビアさん? も、もう離していただいて結構ですよ?」


 そう下村から言われると、首だけ横に向けて下村をどことなく睨みつけ、


『シモムラ生体。お前の生理的状況を鑑み、この場所で短時間休憩した後、再度目標を調査する作業に入る。体内の生理状況を処理するのであれば、今の内に処理せよ』


 要するに、「トイレ行くなら今のウチに行っとけ。すぐにカップルの真似事するぞ」と言われているワケである。シビアも彼女ら合議体と共同で、今任務とは少し違う方向で、下村を出汁にして、何か体験シミュレートしているよう。

 ちなみに今のシモさんは、日本人の嫁さんと結婚しての妻子持ちである。タハハ顔でシビアに腕からませられながら引っ張られて、任務に戻る……それを見る月丘にプリ子も苦笑い。

 ……と、そんな感じで、これも『真面目に』任務をこなしている状況。すると、月丘のPVMCGに情報省外事局のトップエース、セマル・ディート・ハルルから音声連絡が入る。


『ツキオカサン。応答願います』


 日本語も今や完璧にマスターしたセマルさん。最近はPVMCGの翻訳機能をほとんど使っておらず、ネイティブで会話していた。フェルやシエはまだほどほどに翻訳機能を使っているのに、彼は大したものである。


「はい、月丘です」

『ターゲットを確認しました。今、例のぱびりおんに入っていきますね』

「わかりました。ではそこで合流しましょう」

『シモサンとハセサンは如何しますか?』

「あのお二人には、まだこのまま周囲を探ってもらいます。って、今さっきシビアさんと下村さんのカップルが来ましたけどね。プリちゃんは支援班へ合流させます。デートは終わりですね」


 ちょっと残念顔でその会話を聞くプリ子。でもこれからお仕事である。


『ははは。では、お待ちしています』


 ……と、暫し後。セマル日本人モードと合流する月丘。プリルは毎度の如く距離を置き、機動支援班として月丘をサポートである。


「お待たせしました」


 万博施設内のとあるパビリオンを見上げて話す月丘。

 二人は特に何かその素性を隠匿するようなカモフラージュはしていない。せいぜいセマルが日本人モードな程度である。それもそのはず、今彼らがいるのは、本万博で一番人気のパビリオンであった。なのでそりゃもう人がものすごい。従ってこんな人海で何を偽装する必要があるのかという話である。

 さて、そのパビリオン。それはとある企業のパビリオンだった。しかも本万博において一際目立ち、豪華で、ハイテク満載というヤツで、期間限定構造物のパビリオンとはいえ、それは立派な建築物ともいえるものでもあった。その通り、万博終わっても残すんではないかというような、ほぼ『社屋ビルディング』のような、他のパビリオンに見られる超高級ハリボテなどでは決してないものである。


「なるほど……この企業なら納得もいきますね」

「私達外事局が、チキュウ内で収集した“ひゅーみんと”情報から割り出したターゲットですね」


 そう。昨今のタジキスタン大統領の暗殺や、北の要人暗殺事件に始まり、二藤部やグレヴィッチ首相を狙った暗殺未遂事件。他、諸々のVIP暗殺や暗殺未遂事件。

 日本国情報省外事局は、これらが、かつて『ガーグ』と呼ばれていた謎の無国籍主権組織が変異した姿の新たな国際的無国籍主権組織『インベスター』と呼ばれている組織が関連していることを突き止めたわけだが……

 やはりかつてのガーグと違い、一連の事件で見られるインベスター達の利益となる目的が、国連『UNMSCC』とは別の意図を持った国際連邦化の推進という何とも不気味な行動であって、その真相を突き止めるのが此度の彼らの任務という訳なのではあるが……


「でもツキオカサン。あまりにあからさますぎやしませんか? 今回の件……」


 そう、セマルが言いたいのは、確かに外事局が苦労して入手した情報は、それはそれとして今回の任務には重要なもので信用に足るものなのではあるが……


「そうですね……ヤルバーンのシステムにかけたら、一発で相関性の高いネガティブ情報として、この企業の名称が出てきました……」


 月丘とセマルが視線を送るのは、パビリオンの掲げる企業シンボルマーク。シルエット化された地球を背に、笛を吹いた人間がデフォルメデザインされたマーク。その下にはちょっと鋭利なイメージのフォントで、『PIEDPIPER』と書かれている。


 ……さてその企業とパビリオンの正体とは……この地球世界で最大ともいえる総合多国籍企業体『パイドパイパー株式会社』のパビリオンであった。

 先程セマルが確認した情報とは、このパイドパイパーのCEO(最高経営責任者)兼会長が急遽来日し、本日このパビリオンで特別のプレゼンを行うといった情報であった。

 これは今日告知されたサプライズで、事前に何かスケジュールがあったような情報ではない。なのでその会長が現れた時はパビリオンの外で、汗だくになって並ぶ人達から、やんやの喝采が上がることとなる。

 そりゃ時の人も時の人だ。この企業グループからは今や世界的に人気のある数々の商品も開発されており、中には今後の世界におけるプラットフォーム候補になるものもあったりする。即ちかの果実マークIT機器メーカーや、ジェネラルソフトもライバル視するほどの開発部門を持つ企業というわけだ。

 当然、IT機器開発では今やティ連技術転用に長けた日本企業との取引も盛んであり、部品やインフラ開発の共同研究なども積極的に行われていたりする。

 そんなカリスマタレント並の知名度を誇る会長様であるからして、握手を求める観客に応じたり、サインを求める客には手に持つ万博パンフレットにサインをしたりと、そんな感じ。

 

 ……さて、このパイドパイパー株式会社。先の通りで、所謂世界規模で活動する超巨大多国籍企業体というモノである。

 この『多国籍企業体』なる存在。大層な代名詞だが、現代社会では特に何か珍しい企業組織というわけではない。即ち、地球世界のいろんな国に存在する上で、国ごとに本社機能と支社機能を持つ企業組織の事を一般的に多国籍企業と言うわけで、柏木長官もご厄介になっているOGHや、君島重工、イツツジグループもまあ多国籍企業の範疇に入る大企業なワケなのだが……

 このパイドパイパーなる企業は、この地球世界において恐らく先のジェネラルソフトと肩を並べるほどの“超”の文字が付く巨大な企業体なのである。勿論その規模はOGHや君島にイツツジですら敵わないほどの規模となる企業体なのだ。

 さもあらん、この企業組織。手がける業種が、この地球に存在する『産業』と呼ばれるものほぼすべてに何らかの形で手を出しており、いろんな業種の企業をM&Aしまくってここまで巨大になった企業なのである。ということは……

 

「……と、まあそんな会社さんでしてね。これだけクソデカイ企業なのに、国際総合本社と呼ばれる、言ってみれば本拠地になる場所というのが、ブラジルにある変わった企業なのですよ」

「ブラジリア国ですか……ふうむ、私のハルマ社会に関する知識ですと、確かに世界規模の企業が統括された本社を置くにはいささか場違いな感じとおもうトコロはありますね」

「でしょ? 異星人のセマルさんがそう思うんだからそうなんですよ。地球人の私だってそう思いますからね。しかもこの会社は、かつての私が所属していた旧のハンティングドックもかなりお世話になった会社さんでもありますから……」


 つまり、このパイドパイパーは、ちょっち非合法スレスレ系の仕事にも手を出しているという事である。

 確かにそんな感じのする企業体であるのは確かで、なんと、この会社の会長の国籍が不明であるという点でも話題になった事がある。

 そしていかんせん巨大に過ぎる企業であるからして、パイドパイパーの存在する国は、政府ですらこの企業の意向を無視できないというワケで、ヤルバーンが飛来する以前のかつての日本政界でも、入札で疑惑が持ち上がったり、日経連にチョッカイかけてきたりと、まあ言うなれば企業自体が自治体化、主権化してしまっている存在であるからして、確かにそう考えればこのパイドパイパー自体が、かつての『ガーグ』の縮図ともいえる組織に見えるのも、致し方ないところであった。


「……と、まあなんといいますか、そこんところを総合的に考えてみても、もしかして何かもう『バレてもかまわない』というか、そんな意思に意図すら感じるような……」

「そうですね。ケラーにそう言われると、何か我々が体よくこの場所へおびき出されているような、そんな気すらしてきましたよ……」


 そう、ヒューミント情報を得る人物を尋問するにしても、ヤルバーンのポルが発明したネガティブコード検知システムから得た情報にしても……


「なんだか向こうの意図する方向へ持っていかされているような気がしますね、ケラー・ツキオカ」

「はは。確かに……って、私はそういうトコロも考えていましたけどね」

「そうなのですか?」

「ええ、まあ昔の経験から得た勘というやつです」

「と、イウコトは……このキギョウ組織の会長、何か我々の事も含めて、色々知っているというワケですね」

「そう、ご名答ですセマルさん……その『色々知っている』ということろ……程度によってはかなりマズいという可能性もありますからね」

「ドコから色々知ったか? という話になりますか……」


 微笑して頷く月丘。すると、彼のPVMCGに着信が入る。麗子からだ。


「はい、月丘です」

『わたくしですわ、月丘さん』

「あ、おつかれさまです専務」

『はいはいお疲れ様でございます。ほんとお疲れでしたわよ、月丘さん……崇雄から聞きましたけど、まさか北やタジキスタンの元首暗殺の件に、あの御方が関わってるって……本当ですの?』

「ヤルバーンの、かつてのガーグ対策の時に活躍した『ネガティブコードシステム』が、パイドパイパーが関わってると弾き出しましてね。で、専務のお力を少々お貸しいただきたいと」

『ヤルバーンのネガティブコードシステムですか……確かポルさんがお造りになったシステムでしたわね。確かにアレが検出したとなれば、ほぼ間違いのないものなのでしょうけど……』


 かつて10年前、当時のヤルバーンとの関係を妨害しようとしていた、姿なき対異星人主権体『ガーグ』。

 そのテロ行為を取り締まるためにポルが作成したネガティブコードシステムとは、ヤルバーンのトーラル型システムが、地球世界の電波情報や、ネット等のサイバー空間に介入し、情報空間に飛び交うヤルバーンに対するネガティブな情報コードを洗いざらい検出し、テロを予測して未然に防ぐという、世の治安機関が見たら垂涎のようなシステムである。


「……先程セマルさんとも話してたのですけど、どうにも相手さん、あからさまと言うか、こっちを誘っているというか……そんな感じでしてね」

『なるほど。ですが、今から貴方達がお会いするあの会長様は、ちょっと一癖も二癖もある方ですわよ……私も以前……といってももう十年も前のお話になりますけど、お仕事の関係で一度お会いしたことがありますのよ。まあその時、私は既に崇雄とお付き合いしていたのですけど、初めて会ったというのに、まあ色々言い寄られたりしましてね。しかもオネエというのですか? 性格がそんな感じのところもあるので、なんとも変わった方というかなんというか……』

「はは、御苦労なさったようで」

『もう昔の話ですけどね……ということで、段取りは付けていますから、柏木さんじゃありませんけど、突撃なさってみてはいかがかしら? 一度潜入して、面と向かって敵を観察するのも、ジェームズ・ボンドの常套手段でしたわねって、ボンドさんはメイラさんの専売特許でしたか? オホホホ』

「はは、ありがとうございます。ではやってみます。ご迷惑おかけすることになるかもしれませんが」

『かまいません。がんばってくださいましね』


 通信を切る月丘。PVMCGを額に当てて、感謝のポーズを取る。

 一体どういうことかと言うと、セマルと月丘へ、かつて月丘が働いていた『イツツジ・ハスマイヤー保険』幹部社員資格の偽装をさせて、パイドパイパー社の件の会長へ、麗子名義でアポを取ってくれていたのであった。で本日、その会長と面会の約束をしているという次第。なので急なサプライズ来日となったワケである。

 これなかなかすごいことであって、このパイドパイパーの会長と面会できる人物なんていうのはかなり限られており、米国大統領ですら予約が必要と言われている程である。

 ま、麗子も、向こうさんに覚え目出度く、といったこともあっての話で、意外とスンナリアポが取れたところは彼女の人脈のすごさではある……

    *    *

 ということで月丘とセマルは、その社屋ビルにも匹敵する万博パビリオンのコンパニオンお姉さんにIDを見せる。すると何百メートルも並ぶ来場者を横目に、関係者入り口へ誘われ、汗だくで並ぶ一般客のジト目視線に若干の優越感を感じつつ、パビリオンの中へ入っていく二人。

 本当に建物内部は立派なもので、こういった博覧会で造られる仮設感のある構造ではなく、内装も立派な本格的ビルの造りである。コンパニオンにそのあたりを雑談で振ってみると、その通り万博終了後もこの施設は残されて大阪府に寄贈されるらしく、大阪府の府立病院と民間企業合同出資の難病疾病研究施設になる予定なのだそうだ……まあなんともネガティブコードにかかったとはいえ、やっていることは立派なものである。というか、そもそもなぜこの企業が『ネガティブコードに引っかかったか?』を調べる訳であるからして……

 ネガティブコードに引っかかるということは、地球内での通信全般において、極めて反社会的、反体制的、反道徳的な言動なり文章なりが引っかかったという事である。

 ヤルバーンシステムが介入監視する地球上のライブカメラに映像データ、そして画像データと、それは市井のサーバーにあるエロ画像から、世界中の厳重な地球科学レベルのセキュリティをかけたサーバーシステムをもハッキングして、不審な存在を洗い出した際に出てきた不穏な事由をシステムが見つけ出してきたという事でもある。


「では、こちらでしばらくお待ち下さい」


 二人が案内されたのは、所謂VIPルームのような場所だろう。建物の上階にある。

 立派なテーブルにオードブルが置かれ、グラスが立てられている……まるでスポーツ観戦スタジアムの特別観覧席のような場所だ。

 実際この場所から、パビリオン会場全体を上から眺めることができる。更に一番良く眺めることができるのは、パビリオン展示場をまたいだ場所にある舞台である。そこにはたくさんの観衆が座り、まるでアイドルグループの登場でも待つような、そんな雰囲気の状態にあった。


「ケラー・ツキオカ。一体何が始まるのですか?」

「多分、この様子だと……何かのプレゼンでしょうね。ま、ここの会長さんならこんな演出、しょっちゅうやっていますよ。手を変え品を替えね」

「なるほど、即ち“ぱふぉーまんす”ということですね」

「そういうことですセマルさん。ま、そのプレゼンが終わるまで、ここで酒でも飲んで見学してろって事なのかな?」


 恐らくそういうことだろう。

 ……と、そんな話をしていると、何やら洒落たフレーズのテクノポップスをBGMに、スモークが焚かれ、地面に厚みをもってガスが流れるステージ空間に、まるで瞬間移動してきたかのような演出でステージの主役が姿を現す。


 にこやかな笑顔。年の頃は四〇前か? 男性である。容姿は細身で、顔は痩せ型。雰囲気は月丘より少し年上といったところ。顔つきはイケメンというわけではないが、悪いわけではない。顔には少々舞台メイク程度の化粧を施している。

 服装はカジュアルな、かつ高級スーツジャケットをボタン外して、タートルネックシャツの上から羽織っているような、ラフな着こなしの服装だ。

 その彼の登場で場内は大歓声。口笛吹くものもいたり。

 男は手を降って応えている……が……手の振り方が、ちょっと男性のそれとは違う。なんとなく女性の雰囲気が入っているような、そんな挙動……

 興奮する会場が収まるのを暫し笑顔で待つ男……会場が静まると、彼は喋り始める。


「日本のみなさん、コンニチワ。そしてこのオオサカバンパクにお集まりのみなさん、コンニチワ。『エドウィン・スタインベック』です。私は今日、『命と健康』という、今後の世界を考える上で、重要なテーマのもとに開催されてるこのオオサカ・バンパクを心より祝福したいと思います……折しも一〇年前、この日本という国は、かのイゼイラ共和国という遥か彼方の宇宙から飛来した異星人の皆様方と最初に邂逅した国民となりました。そして、かの有名なファーストコンタクターであるマサト・カシワギと、ミセス・フェルフェリア・カシワギとのアンビリーバブルなご結婚の後、この万国博覧会のテーマとも言える、命と健康、そして年齢という大きなテーマが、それを目指す世界ではなく、現実の状況として、我々の身に降りかかる時代となっています……」


 ステージで、一人インカム型マイクを頭につけて、まるでかつての突撃某のお株を奪うような見事な身振り手振りでプレゼンテーションを行うその男、名を『エドウィン・スタインベック』というらしい。

 なんとも見事な日本語である。少々訛りはあるものの、世では多国語を器用に操る経営者としても知られている。そして確かに見事な演説ぶりではあるが、ちょっと女性的なイメージの入った雰囲気を持つ。所謂『オネエ系』という感じの人物である。


(あれが、世界トップの大実業家で超がつく富豪の、エドウィン・スタインベックか……)


 会場上階のVIPルームで、遠く小さなその男を見下ろすように眺める月丘。と同時に、同時撮影されている液晶モニターも合わせて眺め、スタインベックのアップになった顔と眼下に見える小さな彼を観察する。


「ケラー」

「あ、はい? なんでしょうセマルさん」

「確か、このバンパクが終わった後、この地にできる大規模なリゾート都市計画にも、ぱいどぱいぱー社が関わっているのでしたよネ?」

「はい、たしかそうだったと私も記憶していますが」


 そう。この大阪の所謂IR(統合型リゾート)計画にいち早く名乗りをあげたのも、このパイドパイパーグループの中の一社であった。


    *    *


 しばしエドウィン・スタインベックのサプライズプレゼンテーションを聞かされる月丘とセマル。

 流石の有名人で人気の経営者だけあって、プレゼン終了も拍手と歓声で終わり、ステージを後にする。

 ま、プレゼンの内容はこの万博のテーマに沿ったものだ。だが、そのプレゼンを聞かされていた月丘も、確かに『健康と命と長寿』というテーマにヤルバーン州の関わりが重要というご意見はま、ごもっともだとは思う。で、自社のIRに関する宣伝も忘れずに、というところである。

 しばし待つと、月丘達二人のいるVIPルームが慌ただしくなる。即ち、彼がやってきたという次第だ。

 扉を開けると早々、


「コンニチワ! よくいらっしゃいました!」


 と手を広げ、にこやかな笑顔で握手を求めてくる。


「ウフフ、まさかミセス・レイコからビジネスのご連絡を頂けるなんて、嬉しい限りですわ……っと、自己紹介がおくれましたわね。私はエドウィン・スタインベック。まあメディアにも結構露出していますから、今更ですか」

「どうもありがとうございます。私はイツツジ・ハスマイヤー保険株式会社法人保険部の上級部長であります、山田太郎と申します。彼は、私の部下の岡田です」


 お約束の偽名で名刺渡して自己紹介。いつも使っている山田太郎の月丘と、岡田を名乗るセマル。

 ちなみにセマル君。現在彼もかの特危陸上科の西口さんと結婚して、一児のパパである。日本名は、嫁さんの姓を頂いて、西口正丸にしぐちせまるとしている。


「この度は、先に弊社の白木(麗子)からお話のありましたIR施設全般に関する、各種保険の件で、色々と当社が検討いたしました商品をご提示させていただきたく……」


 と、昔取ったナントヤラで、器用に営業する月丘。麗子からは『せっかくアポ取ってやったんだから、ついでに仕事も取ってこい!』と言われていたり。彼も二年前の経験を思い出してという奴である。

 隣のセマル君はウンウンと頷いているだけ。流石に彼の出番は、今はない……のだが……


「!!」


 セマルのニコニコ顔の視線があるところを見て少し鋭くなる……それはスタインベックの腕だ。


(あれは? ……)


 と思うセマル。で、月丘の表情を見ると、にこやかに営業トーク真っ最中……なのだが、セマルにはわかる。やはり月丘も気づいているようだ。小刻みに視線がスタインベックの腕に行っているのを見逃さなかった。


…………


 しばし月丘の営業トーク。まあ彼もかつての本業といったこともあり、恙無く商談は進む。スタインベックが話すには、彼自身のお気に入りであった経営者でもある麗子の顔も立てて、大筋でイツツジ・ハスマイヤーと商談を進めるという事で後は担当部署と折衝してほしいという事で話はまとまった。

 

「では、スタインベック会長。今日は有意義なお話ができました。これで私も白木専務に良い報告が出来ます」

「いえいえこちらこそ。で、彼女ももう、確か……日本国の官僚さんとご結婚されて、一〇年ぐらいになるとお聞きしましたが?」

「はい。よくご存知ですね」

「ええ、まあ私もかつては彼女へ色々とね。業界の恋バナというものもありましてね」


 そんなオネエ言葉で話すような奴を、あの麗子専務がマトモに相手するかよ……と思う月丘。実はセマルも激しく同意。そこは以心伝心。だが麗子は人生のパートナーに、やさぐれ特殊能力官僚を選んだワケであるので、そこは一概にはいえないトコロ。


「はは、そんなお話は初めてお聞きしました。私もスカウトされてこの会社で働かせてもらっていますので、貴重なお話です」

「ウフフ、で、お隣の彼……ミスター・オカダでしたかしら? 彼はあまりお話になりませんですのね?」

「ええ、彼も実はスカウト組でしてね。私についてもらって色々とウチの社風を勉強してもらっています。今後共彼もよろしくお願いしたいところでして」

「はい、畏まりました……」

「では、そろそろこれで……」


 月丘とセマルは席を立とうとする。


「あら? これで商談は終わりですの? ミスター・ヤマダ」

「? あ、え? はい……どういうことでしょうか?」

「いえいえ、イツツジ・ハスマイヤーさんのお話ではなくてですね。もっと重要なお話があると思ってましたのに……」

「……」


 訝しがる表情をする月丘にセマル。だがこの表情は演技である。実際のトコロは『きたか?』といった感じ。


「日本国政府としての、ビジネスのお話はなさらないのかしら? ミスター・ヤマダ? そして、ミスター・オカダ……いえ、“ケラー”オカダとお呼びしたほうが良いかしらね?」

「!!!」


 ナニ!? と思う月丘にセマル。

 当初から『誘われた感』があるような、そんな任務ではあったのだが、月丘の正体が知られているだけならまだしも、セマルまでとは! と……

 ここで某有名スパイアクション映画なら、かの有名なOPがけたたましく奏でられるシーンといったところか。

 周りを見ると、彼のボディガードらしき人物がドアにさり気なく寄り、出入り口を固める。


「せっかくお近づきになれたのですから、もう少しお話いたしませんか? ミスター・ヤマダ? フフフ」


 腕を組んで上目遣いで二人を見るスタインベックの表情に、ただならぬものを感じる月丘とセマル。特にセマルは彼の左腕に付けるものに「なぜ?」と思うのであった……


    *    *


 さて、舞台は大きく変わる。

 

 漆黒の宇宙空間を歪め、そして更に水面へ飛び込む大魚の如く空間に顕現するは『グロウム帝国威力偵察任務艦隊』の『やましろ艦隊第一ユニット』であった。

 更に間をおかず、エイのような形状が特徴的な、ガーグデーラ型母艦を多数擁する『ネメア艦隊第二ユニット』。更に、羽を広げた大型鳥のような艦影が特徴的な、『グロウム艦隊第三ユニット』が顕現する。


「よし! 全艦すぐに対探知偽装をかけろ! ネリナ司令の資料からすれば、この宙域はもう既に交戦域に入っている状態だ。全艦監視体制を怠るな!」


 多川がやましろのブリッジで命令を飛ばす。流石は将補様である。現場主義でいっつも戦闘機か機動兵器の隊長みたいな事なっかりやってはいるが、こういう大部隊の指揮も採れるのである。


『ダーリン。今、ヴァルメヲ索敵モードデ飛バシタ。コレデイイナ』

「OKだシエ。さすが、かーちゃん」


 片目瞑る多川。流石愛妻で副官は旦那の行う次の手筈は熟知している。なんせ行動が早い。シンシエ夫妻が夫婦で司令副司令をやっても文句が来ないのはこういうところ。 

 でも、なんとなく仕事中にハートマークがたまに灯るので、ブリッジクルーは若干……消費税分ぐらいは「カンベンシテクレ」と思っている者もいなくはない。

 艦隊は即座に周域の星間図面作成に入る。ネリナ艦隊の所属基地があった『惑星サージャル大公領』まではまだ距離がある……のだが……


「ニヨッタ艦長、ディルフィルドアウトして早々ですが、これを……」


 戦闘護衛母艦やましろ副長、つまりニヨッタの副官である特危日本人3等特佐がニヨッタにカメラの捉えた画像を前面大型モニターへ映して見せる。

 

『これは……タガワ将補!』

「ツッ……こんな距離からでも肉眼で確認できるかよ……」

『コレハ……到着早々楽シイ展開ニナリソウダナ、ダーリン……』


 シエもニヤリと不敵な笑みを見せるが、目が笑っていない。

 モニターに映るは、コイン大の大きさで美しく輝く惑星サージャル大公領の軌道上にドカンと陣取る、巨大な算盤の珠にも似た形状の、ヂラールコロニーであった!


 その異様な状況に戦慄する二人。刹那に通信が入るは、ネリナ司令から。


『タガワ将軍! シエ将軍!』


 え? 将軍? と思うが、まあ確かに今のシンシエお二人はその通りではある。


「ああ、ネリナ司令。事前でお聞きしていた戦況とは随分勝手が違うようですね」

『はい……我々は今あなた方ティ連と接触したおかげで、このような信じられない短時間で超光速航行ができましたが、我々が本来所有するエルドドライブでは、貴方がたのカセイ宙域まで到達するのに、順調な期間で本来……そうですね、地球時間で半周期以上かかる予定でした』

「ということは……その半年の間でこのような戦況になったということか……ではグロウム本星の状況も正直わからない状況になっていると考えたほうがいいな」

『そうですね……』


 俯くネリナ。彼女が民間人を連れて脱出したそちらの目的が本来の目的になってしまいそうな戦況に、恐らくネリナ艦隊の皆が不安に思っているだろう。


『ニヨッタ。バケモノ連中ハ、コチラニ気ヅイタ気配ハアルカ?』

「いえ、シエ将補。現在偵察用ヴァルメを目標に接近させていますが、特に敵の反応はありません」

「では、軌道上に展開する敵の陣容はわかりますか? ニヨッタ艦長」

『ハイ、ヂラール要塞型コロニーが一基。戦闘艦型が二五〇隻。母艦型が一五〇隻。他用途不明の小型艦艇型が数百といったところです……サルカス戦の時など比較になりませんね』

『ト、言ウヨリ、最終決戦時ニ、ゲート砲デ吹キ飛バス直前ニ、敵ノコロニーカラ出撃シテキタ第一陣ガ、コンナ感ジダッタダロウ』

「ああ、あの時な。確かにそんな感じだった。ということは、あん時にディルフィルドゲート砲が間に合わなかったら、サルカスもこんな感じになってたって事かよ……ハァ~……」


 あの時の再現ではなく、もし最悪の状況になった場合が、こういう状況だったのだということを目の当たりにしているワケである。それを思うと少し身震いする多川。

 更にあのヂラールコロニーが、この天の川銀河系で、地球から三〇〇〇〇光年の場所にある現実。これはかなりマズイと当然考える。


「ニヨッタ艦長。早速というヤツですが、今この場所から確認できる現状だけでもとんでもない状況ですので、すぐに火星司令部へ状況を送って下さい……で、観測員。対探知偽装が効果あるのは間違いないな?」


 ブリッジ、イゼイラ人観測要員に問うと、問題ないとの返答。


「よっし……では作戦の第一段階に入るか……艦長、主要要員を全員ブリーフィングルームへ集めてください。で、ネメアさんとネリナ司令には通信でかまいませんので参加をお願いしてください」

『了解いたしました将補』

    *    *

 やましろブリーフィングルーム。

 ブリッジでのやりとりは、各部隊責任者も当然モニターしていたので、状況は全員把握できている。


「みんなご苦労様。早速だが、そういうことで皆もブリッジの状況を見てもらっていると思うが……ま、正直着いて早々状況としては悪い。これはネリナ司令にも確認してもらっている」


 大型モニターに映るネリナ。彼女は多川の言葉に頷いている。多川も軽く頷いて、


「……で、ニーラ先生。現状のデータを見てもらったと思いますけど、どうですか?」

『はい~。えっとえっと、まだヴァルメの映像を分析しただけですので正確な事は言えないのですけど、やっぱりサルカスで見たヂラールとは別物でしょうね~』

「やはりですか……」

『はい。っていうか、サルカスの個体は惑星イルナットからやってきた個体なワケですからね。ということは、サルカスの個体は惑星イルナットの種族が独自に手を加えた可能性があるわけです』

「ふむ……って、そのサルカスの話をしだしたら、また収集つかなくなるんで、今は現状の分析という事で」

『はいはいそうですね、で、えっと……まあそれでも違うっていっても元がアレなので、多分モノ自体は変わらないと思いますよ。とはいえ、それでも性能面で、もしかしたらイルナット版の個体は文明人が制御しやすいように本来あった機能を殺しているような個体にしている可能性もあるので……』

「こっちのオリジナル“かもしれない”ヤツは、もっと強力かもしれないという事ですか?」

『そですそです』


 頷く多川。

 ネリナ達から提供してもらったヂラールの資料や、今目で確認した状況に相違がない時点で、恐らくニーラの言っていることはほぼほぼ間違いはないのだろう。


「ですが多川さん。どっちにしろ『威力偵察』をやろうってわけですから、現場としてはドツキ合いをしてみないことには」

「そうだな、大見。まあどっちにしろその作戦を今から通達するブリーフィングなんだけど……ということで、当初の計画通り、これからあの惑星の名前にもなっているこの惑星の領主さん、サージャル大公との接触を図ってもらう。当然……まあ普通に考えれば、あの惑星上にも敵はウジャウジャいるかもしれないだろうし、ネリナ司令には申し訳ないが、その接触目標であるサージャル大公殿下が生存してらっしゃるかも現状不明だ……


 すると、リアッサが割って入り、


『チョットマテタガワ。デハ、マダソノ大公ト連絡ハツイテイナイトイウノカ? コノ距離カラナラ、ネリナ達ノ技術ノ通信デモ十分連絡ガトレルダロウ』

「ああ、そうかそれでしたな、リアッサ二佐……」


 ちなみに多川に限らず特危のメンバーは、皆礼儀として階級が下でも、安保調査委員会の仲間であれば、習慣としてティ連出向軍人には敬語を使うよう心がけていたりする。


「……そこは、まあぶっちゃけ言うと、音信不通という事です。そうでしたね? ネリナ司令」

『ハイ……』


 ネリナはディルフィルドアウト直後に、惑星司令部へ特殊回線の通信を行ったが、繋がらなかったそうである。

 それを聞くシャル姉は、義手の拳を顎にのっけて、


『あんまし良い状況での作戦開始じゃないねぇ……で、惑星降下すんだろ旦那? メンバーは? モチロンあたしを連れて行くよね?』

『だね~。私達の騎兵団もいつでもいけるよ、タガワ師匠』


 メルはいつでもきなさいとばかりに張り切っている様子。流石はハイラの戦士である。

 多川もそう言われると苦笑いしながら、


「ええ、モチロンですよ姐御。あなたが行ってくれなきゃ“威力偵察”ができませんからね。メル団長の部隊の機動力も当てにさせてもらうよ。で、あとは……」


 大見のユニットと、リアッサのユニット。で……


『タガワ生体。我々も同行したほうが良いと判断する』

「お願いできますか? ネメアさん」

『肯定。シエ生体は同行しないのか?』

「勿論シエにも行ってもらいます。外交官役もかねてね、頼むよ、かーちゃん」

『マカセテ、ダーリン』


 シエはこれでもダストール総統候補であった人物なわけなので、この場で一番外交役には適しているという次第。


「で、最後にネリナ司令。一番の要です。このメンツの事、もしあなたの同胞になる軍勢と接触できた際は、よろしくサポートお願いします」

『わかりましたタガワ将軍』


 ……ということで、早速諸氏作戦に入る。

 まず、今回はネメア達ゼスタール人の、対ヂラール戦術を参考に第一段階の『現地勢力接触任務』を行う。

 本来なら現状対探知偽装をかけたデロニカで惑星に接近。軌道上のヂラール部隊を躱すという事も可能なのだが、いかんせん“オリジナル”のヂラールと思われる個体が相手であるからして、偽装を見破る個体などがもし仮にいたとしたら洒落にならない。従って更に確実な方法があるならば、その方法を採るにこしたことはない。

 ということでネメア戦闘合議体から提案のあった方法とは、ガーグデーラ母艦にデロニカを搭載して、次元溝潜航を行い、惑星に最接近して次元溝より顕現。即座に対探知偽装を母艦にかけて、更に母艦からデロニカを発進させる。

 ガーグデーラ母艦は、万が一の効率的な脱出のために再度次元溝に潜行させて待機させておく……という作戦である。

 確かにこれなら対探知偽装と併せて効果的に惑星降下を行うことができる。

 軌道上から転送という方法もあるのだが、転送した場所が植物型ヂラールのトラップ植生地帯でした、ではシャレにならないし、更には此度リアッサユニット部隊の、コマンドトルーパーの揚陸に、大見達コマンドローダー部隊の新型ローダー揚陸、更にはネメアの操るドーラも揚陸せにゃならんわけなので、デロニカ降下の方法を選択した……


    *    *


 惑星の外観は、極めて地球に似た美しい惑星。

 恐らく空気があり、海があり、植物の植生がありと、所謂ヒューマノイド型知的生命体の生存に適した惑星なのだろう。

 その軌道上にアリジゴクの如き空間の渦を伴って陥没するような情景。さらにそこから地球の魚類、エイにもにた形状の、全長二〇〇〇メートルに達するガーグデーラ母艦が顕現する!

 すると同じ軌道上に展開し、活動を待機させていたヂラール機動兵器型が一斉に反応し、ガーグデーラ母艦に襲いかかろうとするが、そんな反応の遅いヂラール連中は、瞬く間に母艦の対機ブラスター砲で一層され、デロニカの航路を確保する。

 刹那にガーグデーラ母艦の、いつもはドーラポッドや対艦ドーラを発進させるする発艦口から、デロニカを吐き出す。

 デロニカも即座に対探知偽装をかけ、その姿を景色に同化させると、デロニカを追跡しようとしていたヂラールも、目標を見失い漂浪する。

 デロニカはティ連宇宙船舶特有の航行技術をもって、大気圏に突入。熱を帯びることもなく、スマートに空中を行く……

    *    *

 デロニカを操縦する特危隊員に、ネリナが指示を出している。


『この地点が、惑星サージャル大公領の首都、“シュベルナ”だ。この場所から……このあたりに着陸してくれ。近くに宙軍の基地がある』


 指示を出すネリナの目は暗い……上空から見える惑星の町並みは、彼女がこの惑星を後にする直前の状況など比較にならないほど戦火にまみれ荒廃していたからである。恐らくこの状況では首都も、ほぼ壊滅の状態だろうと容易に推察できた。

 ヂラールは擬態が得意である。サルカス戦の際も、ある種の個体は柏木達が上陸した途端に、擬態を解いて襲いかかってきた。なので上空から見る限りは、ヂラールの個体は今の所発見はできない。更に言えば、この星のグロウム帝国軍の某かが戦闘状態である現場も見ることが出来ない


『ウーム、ヤハリ半周期トイウ時間ハ、戦場ヲココマデノ状況ニスルモノカ……』


 シエはネリナに見せてもらったこの星のフォト資料も頭に入れていたが……まあ地球で例えるなら、まるでボスニアといった感じであろうか。惑星全域があんな感じである。


「ネリナさん、こういう言い方もなんですが、かなり絶望的ですね」


 目が暗くなっているネリナだが、希望を失っているわけではないようで、


『いえ、オオミ殿。確かに現状は最悪ですが、まだ望みはあるのです』

「と、いいますと?」

『はい、少々お恥ずかしい話になりますが、我々の種族の歴史は結構戦争の多い歴史でしてね。この惑星サージャル領も、元々は我が帝国がまだ専制君主制時に大きな戦争をして勝ち取った反帝国組織の本拠だった星なのです』


 ほう、とその話を聞く大見に他の諸氏。で、その戦争時に敵だった反帝国勢力が、籠城をするために作った、巨大な地下都市があるのだという。


「地下都市ですか!」

『はい。この首都から見える……えっと、あの山がありますが、あの山の麓から地下にかけて、巨大な地下空間がありまして、そこに巨大な地下都市が建築されています。元々は先の通り、反帝国組織の最後の拠点だったのですが、今ではこの星の主要都市の一つで、立派な都市に改造されていまして、この惑星の観光名所ともなっています』


 するとシャルリが、


『ンじゃ、その地下都市にみんな逃げ込んでいる可能性があるってのかい?』

『はいシャルリ殿。あの都市は城塞都市としても機能していましたから、その防御能力はかなりのものです』

「ですが、ネリナさんからの通信に返答がなかったのでしょう? その都市で籠城しているなら、返答があっても良いような……」

『マア理由ハドウアレ、ソウイウ事ナラ行ッテミル価値ハアルゾ、オオミ』

「勿論その場所へ行くことには異存はありません……チ、そうですね。なにはともあれ取り敢えずの目標を設定しないことには現状どうにもこうにもならない状況ですし、まずはそこに行ってみますか」


 と、そういうワケで進路を首都郊外に定め、そこからデロニカを降り、状況偵察も兼ねて陸上機動部隊をもって、ネリナの指定した目標へと向かう事にする……


    *    *


 周囲を警戒しつつ対探知偽装をかけて飛行するデロニカ。此度は最高レベルの探知偽装をもって飛行する。

 ネリナに指示された首都『シュベルナ』の郊外にある軍事基地が見えた。ただ、もう現状言わずもがなの風景で、そこから遠目に見える以前は相当に栄えていただろう近代的な都市の風景も……日本人の目から見れば、相当な未来都市も、今や灯りの一つ輝かぬゴーストタウンが爆撃されたような都市と化しているわけで……


『ああ……こんな……』


 その風景から目をそらすネリナ。彼女の記憶にある半年前の風景。母国に三日で戻ってみれば、同じ風景が見るも無残な状況なのであるから、その心情察するに余りある。

 大見がネリナの肩に手を当て、


「ネリナさん、今は同胞の方々が皆、その地下都市に避難したと信じましょう」

『ハイ、オオミ殿』


 するとメルフェリアが、


『んじゃオーミ師匠。とにかくその軍事基地に着陸してさ、周囲を物見しようよ。こういうときの私達騎士団の機動力でしょ』

「そうだな……シエさん、どうですか?」

『メルノ言ウトオリダ。トニモカクニモコノ目デ状況ヲ把握シナイコトニハ話ニナラン。デ、メル。現状ヲ見テ気ヅクコトハアルカ?』

『うん。たまたま運がいいのか悪いのか、軌道上のあいつらの感じや、地上の感じ見ても、何かの大攻勢の前触れのような雰囲気だね。その合間の静けさっていうか……ヂラールって、あいつらバカなんだけど、全然考えなしってわけじゃなくて、アイツらが引いている時っていうのは、引く前に恐らくこっぴどくヤラれているって事なんだ。だから、それに対応した軍勢を編成している真っ最中だから……』


 スルとその話を聞いていたネメアも割って入り、


『メルフェリア生体の推測は極めて優良である。我々も彼女の推測に賛成する。恐らくこの星の軍勢は、現状逼迫した状況に在ることは容易に推測できるが、相当に対抗策を考えて応戦している可能性は高い。これらの現状を総合的に分析すると、この星の種族は、焦土作戦を行っている可能性も考えられる』


 シャルリは、


『ナルほどね……一件悲惨に見える都市も、基地も、敵に何らかの形で利用されるのを恐れて全部ワザと放棄したってわけかい……んじゃファーダ・ネリナの言ってた地下都市で頑張ってる可能性って高いよね』


 その話を聞いて、絶望しても意味がないと悟るネリナ。眦を鋭くし、


『では、とにもかくにも着陸を、オオミ殿』

「ですな」


 大見はデロニカを、廃墟と化した基地の滑走路にみえる場所に着陸させる。

 もしメルの推測が正しければ、ここに臨時の基地を設営しても問題ないはずである。

 ヴァルメを飛ばして四方にシールドラインを形成し、デロニカを中心に仮設の基地を設営する。勿論ホログラフ型の探知偽装を張り、シールドを展開するヴァルメも、武装警戒モードで空中待機させている。

 デロニカから最初に降ろされるは、勿論メル団長旗下の近衛騎士団部隊。

 全部隊員愛用の『18式自動甲騎』と、メル専用の『黒漆自動甲騎』である……その姿を見て、ホゲ~ってな感じで呆然とするネリナ司令。

 彼女から見れば、ネリナ達の軍でも配備している、所謂装甲ロボットスーツ型兵器を『軍馬』のような生物が装着し、更にはそれにまたがる『騎士団』を称する連中の装備が、時代がかった鎧甲冑に最新のテクノロジーが満載されているようなデザインのブツなもんだから、ココでもティ連の文化文明のありようにまたしてもカルチャーショックを受けていたり。

 でもってその団長さんが、一番奇天烈な格好……この近代的な装備に、彼女の身の丈身の幅ほどもあろうかという実体剣を背負って、指揮する姿は、どうみてもコスプ……その様子をチラ目で見る大見は、『文句はヤル研に言え』という電波をネリナに送る。


『よーし! んじゃみんな、物見に行くよッ!』


 オー! と気勢をあげるハイラ人達。流石云十年もハイラでヂラールと戦ってきただけあって、ヂラール如き何スルものぞといったところである。

 大見とシエに手を上げて敬礼すると、はいやと声かけてネリナの指定した地下都市へ繋がる山岳の麓へ、機動甲騎は駆けて行った……


    *    *


 蹄の音軽やかに、ロボットスーツの起動音と相まって軽快に疾走するメル達騎士団。

 隊列も綺麗に流石はメル団長に訓練された近衛部隊である。

 騎士団は警戒する方向を徹底し、四方に目をやり気を配る……


(ふーむ、ワザと目立つように疾走っているけど、何にも起こんないな……ヂラールのバカ連中はやっぱり撤退しているみたいだなこりゃ……)


 あまり良くない兆候だと思うメル。更に今の静けさが維持されている内に、次の襲撃に対する対応策を取らないとと思う彼女。

 しばしそんな事を思いながら疾走するメルフェリア団長だったが……


『!!』


 メルの軍用PVMCGが甲高い警戒音を鳴らす!


『みんな! 止まれ!!』


 ヒヒ~ンと泣くわけではないが、前足あげてボルタなパイラ号が急停止。

 他の騎士団もメルのいきなりの停止命令に大慌てだったが……


『うわっ!』

 

 ドォーン! と側面で爆音が轟く。メルの部下が急停止命令を出したものだから、前の甲騎を躱そうと横にそれた甲騎がいきなり爆発で吹き飛んだ!


『おい!! 大丈夫かっ!』


 メルが大声で叫ぶ……爆発で吹き飛び、落馬した兵は、幸いなことに自動シールドが即座に起動して、怪我もなくすぐに起き上がってきた。彼の馬であるボルタも、寝そべった状態から四脚を勢いつけて振り、即座に立ち上がり、主人の方へ駆け寄っていく。


『はぁ……って、なんだ一体あの爆発は……』


 自動甲騎を装着してて本当に良かったと思うメル。あんな爆発を普通の騎兵がマトモに食らっていれば即死で吹っ飛ばされている。


『団長』

『なに?』


 彼女の副官がメルに馬を寄せる。


『このぜるくぉーとの警告を見て下さい』

『どれ? ……なるほど、地雷か! ということはこの先は地雷源?』

『そのようですな。地雷の威力は、対中型機動兵器に対応したものかと。とすれば、ヂラールの標準的な戦力構成と合致します』

『んじゃ、この先にネリナ師匠達の……』

『はい、恐らくは……』


 と、話をしていると、更に別の部下が、


『団長!』

『どうしたの!』

『センサーにキドーヘイキらしき物体の反応! その数一〇!』


(きたか!)と思うメル。恐らくはネリナ達の同胞だろう。やはりネリナの仲間は生きていたのだ。


『全機警戒! 防御陣形だ! でもこちらから撃っちゃダメだよ! 相手をよく確認して、ヂラールじゃなかったら手をふるんだ!』


 暫し後、サーチライトを灯しながらグロウムの機動兵器『シェイザー』が空中をホバリングしながら接近する。そしてメル達は包囲され、周囲からサーチライトを照射される。

 シェイザー型機動兵器を見上げるメル達。



 なんとか、ネリナ達の同胞らとの接触には成功したようだが……

 


 




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