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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
26/89

【第四章・天の川銀河】 第二五話 『集結』

 太陽系第四番惑星『火星』軌道上に、もう『天体』とも呼べる巨大な人造建築物。ディルフィルドゲートが周回する。

 今やティ連と、日本国や地球文明との共存の証にもなったこの巨大なリング状の物体が、大きくうなり、回転しだす……唸る、なんて表現はま、比喩である。それぐらいの大迫力ということだ。

 直径五〇キロメートルもあろうかという物体が、相応の速度で回転し、エネルギーを蓄え、円環の中に次空間の境界面を生成するという、もう見慣れてはいるが壮大な風景。

 で、当然そのような状態のゲートであるという事は、何かがゲートから飛び出してくるという状況。

 ご多分にもれず、水中に巨大な岩石でもぶっ込まれるような情景で、ゲートから何かが飛び出してきた。勿論この状況で飛び出す物は何かと言えば、航宙船舶である。その名は……『特危自衛隊・航宙重護衛艦やましろ』であった!

 そう、惑星イルナットで任務中であったニヨッタ・ミモル・ハムッシ艦長は、特危自衛隊・藤堂正道幕僚長の命で、急遽太陽系に帰還してきたという次第……と表向きはそういう事になっているが、実は柏木が藤堂に依頼して、ニヨッタら特危のメイン組に太陽系への帰還命令を出してもらったといったところ。

 惑星イルナットの方は、かの地に巣食っていた植物型ヂラールもほぼ根絶させ、惑星軌道上の設備も相当に整って来たこともあって、藤堂も柏木の依頼を承諾した。勿論藤堂自身も特危の一番優秀どころを帰還させる。つまり此度の『グロウム帝国案件』関係の任に就かせるという柏木の思惑には藤堂も賛同していたので、ニヨッタに任務変更の命令を出す事は容易であった。

 ……そして『やましろ』がゲートから飛び出て暫し。

 更にドバンと艦体を顕現させるは……数隻のゼスタール・ガーグデーラ母艦であった。そう、惑星イルナットで他のティ連艦隊と共同で任務に当たっていた、かのナイスバディなグラマーゼスタール人で戦闘合議体の『ネメア・ハモル』率いるガーグデーラ母艦艦隊である。


 ――ちなみに、数隻のガーグデーラ母艦ということは、イルナットに進駐させていた全艦をネメアはコチラに持ってきたという事になる。何隻かでもイルナットに置いときゃいいのにと思うところだが、ゼスタール兵器は基本機動兵器から母艦まで、全て自律式無人制御カルバレータ兵器である。なので自律とはいえ指揮官は存在するわけで、その自律兵器を全て統制していたのがネメア戦闘合議体“達”であって、当然彼女が移動すれば艦隊も残らず全部、もれなく付いてくるという次第。これも柏木が、ゼスタール軍の月面基地司令官、ゲルナー・バントに依頼して命令を出してもらい、ネメアも同道してもらったという事。ってか、もうゼスタールもティ連なのであるから、当然『ゼスタール・ティ連即時派遣軍』も設定してもらっているわけであるからして、ネメアもそういう扱いという事である――


『ニヨッタ生体。我々の母艦群もすべて空間跳躍が完了した。全艦異常なし。承諾せよ』

『了解です、ケラー・ネメア。引き続き艦隊の指揮制御をお願いします』

『了解した』


 そういうと、腰に手を当ててちょっとセクシーなモデル立ちになると、正面を向き、眼球だけを右に左に動かす彼女。その動きはちょっと人間離れしているが、まあゼスタールさんらしいっちゃ、らしい挙動。

 するとネメア“達”合議体の意思に呼応するかのようにガーグデーラ母艦が、マーズ・アルケステーションの管制に従って、指定された位置へ艦を動かし、停泊させる。

 ふそうから自分のドローン的な取り扱いのガーグデーラ母艦群を指揮するネメア。スゴイものである。

 合議体の参加者皆で、このガーグデーラ艦隊をラクラク制御する。これは流石ゼスタールのスールでカウサな方でないと不可能である。

 ガーグデーラ母艦が適当な位置につくと、『やましろ』も指定された場所へ停泊。待機命令が出る。というのも、今日は地球からも特危自衛隊の幹部が招集されており、現状とりあえずそのメンバー待ちなのである。

 と、間をおかず定刻どおりにディルフィルドアウトしてやってくるは、特危自衛隊の新型航宙輸送機C-3S。


 ――このC-3Sは、ヤルバーン技術を全面採用し、君島重工がハイクァーン工学技術を駆使して独自に製造した、自衛隊の機種呼称で言うところの『航宙輸送機』。まあ平たく言えば、ティ連で言うデロニカクラスの宇宙船ということである。

 デザインを表現すれば、C-2輸送機をリフティングボディにしたような、そんなデザインをしている。

 大きさはかなり大きいのは大きいのだが、デロニカ正規型よりは小型である。

 勿論、ディルフィルド機関も搭載しているので、地球から火星間であれば、間をおかずスっとんで来ることが出来る――


 C-3Sは、ディルフィルドアウトの後、そのままマーズ・アルケステーションの格納庫へ直行していった。

 と同時に、やましろも待機命令が解かれ、幹部クラスの特危隊員がマーズ・アルケへ転送移動する……

 

 と、いうことで、マーズ・アルケの待機ロビーで待つは、錚々たる顔ぶれであった。


『やあみんな、久しぶりだねぇ。元気してたかい?』


 と、義手の手を振って、久しぶりの再会を喜ぶは、“シャルリ・サンドゥーラ”ヤルバーン州軍大佐。


『一度チキュウへ戻ッテ、アキノリト、子供ノ顔モミタカッタノダガナ。忙シイ話ダ』


 と、最近ちょっと所帯じみてきた“樫本理亜”こと“リアッサ・ジンム・カシモト”特危自衛隊陸上科一等特佐。


『我々も一度、シビア・カルバレータのいるチキュウという惑星を調査したかったのだが……』


 と一人シエにも負けないお色気臭を放っている、褐色肌のお尻が色っぽい“ネメア・ハモル”ゼスタール戦闘合議体。


『まあケラー・ネメア、そのうちチキュウへも行く機会もあります。その時は色々おいしい料理の店も紹介して差し上げマすよ』


 とネメアの肩を叩くは、“ニヨッタ・ミモル・ハムッシ”特危自衛隊海上宙間科二等特佐で、航宙重護衛艦『やましろ』艦長である。

 ……これが、此度の惑星イルナットから招聘されてきた御一行。


『皆モ元気ソウデ何ヨリダ。マ、殺シテモ死ナナイヨウナ面子バカリダガナ。フフフ』


 と、お色気部門で最近ネメアに押され気味の“シエ・カモル・タガワ”@“多川詩愛”特危自衛隊航空宙間科特将補。 


「まあ確かに……これだけの面子が揃えば、地球征服も夢じゃないかもなぁ~」


 と日本共産連盟が聞いたら発狂しそうな事をのたまうは、シエさんの旦那様、“多川信次”特危自衛隊航空宙間科特将補。御年五二歳にもなるが、シエさんと『ムフフ』したおかげで、肉体は四七歳ぐらいでまだまだ現役バリバリのエースパイロット。


「多川さん、そんな事迂闊に言わないほうがいいですよ。壁に耳アリ障子に野党や週刊誌の目アリですからね、ははは」


 と、最近は管理職風味な仕事も相まってちょっと政治的な事も気にする“大見健”特危自衛隊陸上科一等特佐。


『それでそれでぇ、此度はまたなんか新しい種族さんと出会ったとかで私達は招聘されたんでしょ?』


 と、本日も元気のよろしい“ニーラ・ダーズ・メムル”ヤルバーン州科学局副局長にして、東京大学名誉教授さん。

 でもって最後に……


『なんでもヂラールがらみって話だけどさぁ、ネメア師匠も早くその種族さんから話を聞きたいだろうし、私もヂラールハンターとしてね……』


 と、いつの間にやらヂラールハンター“M”にでもなったつもりの、“メルフェリア・ヤーマ・カセリア”ハイラ王国近衛騎士団団長様。長く幅広な剣の柄と大きな鍔だけの『刃のない斬馬刀』ならぬ『斬機刀』を背中に背負って、戦闘用外套を羽織ってたり。


 ……そう、これらのメンツは、あの惑星イルナットの戦いでヂラールを退けた顔ぶれであった。

 柏木長官は、ネリナ・マレード、グロウム帝国司令達の士気向上も睨んで、この連中を惑星イルナットから呼び戻したのである。結果がどうなるかはこれからだが、まあとりあえずこの面子を見て、少なくともティ連や、地球のメンツは互いに退屈することはないだろう。

 とま、そんなところで諸氏久方ぶりの親睦なんぞをしばし温めていると、今回皆が世話になる艦隊司令、ゼルドア提督もロビーにやってきた。

 その姿を見たシャルリは、すかさず背筋伸ばしティ連敬礼。シエや多川にリアッサら特危組は、額に手をおいて挙手敬礼なんぞ。

 メルも右手を左胸に当てて、ハイラ式の敬礼。

 ゼルドアも、ティ連に特危の一番有名な面子連中が相手であるからして、キビとした態度で彼も敬礼。


『やあ諸君、待ってたよ。急な話で皆を招聘してしまいすまないね』

『大丈夫だよ、ゼルドア提督。話じゃカシワギの旦那の要請なんだロ?』

『ははは、そうだよシャルリ大佐。今後の作戦では、絶対に諸君らの力が必要になるという長官の話でね。ファーダ・カシワギから一時的ではあるが、諸君らに我々の艦隊所属になってもらうということで、辞令を出したというところだ……この中にはお初になる顔もいるみたいだが……』


 多分、ニーラにメルだろう。ニーラは先のハイラ王国戦で発揮した学術知識を買われて、政府職員という立場ながら、この場に招聘されている。ニーラはお初ではあるが有名人であるし、ゼルドアもその筋の関係者内では有名人である。そこはもうお初とはいっても、知った顔の範疇になるのだろう。なので特に畏まったこともない。

 だが、メルさんはそういうわけにはいかない。なんせ今ではイゼイラでの超有名人である……フェルの妹であり、ガイデルにサルファの娘。まーそこらへんは言わずもがな。

 ゼルドアも彼女がフェルの実妹という話は、勿論知っているので……


『……おお、あなたがフリンゼの。はは、皆が言う通り、サルファ様の面影がある』

『お初にお目にかかりまする、ゼルドア提督閣下』


 メルの一人時代がかった格好に、なぜか恐縮するゼルドア。『いやはやいやいや』と……まあ確かに彼女の格好は、日本人の言うところの『コスプレ歴女』みたいな感じになってしまうところもあるわけで……


 そしてゼルドアが最後に視線を注ぐは……


『貴官が、ゼスタール人のケラー・ネメア・ハモルですか?』

『肯定。我々がゼスタール戦闘合議体のネメア・ハモルである。認識せよ』


 実はゼルドアはゼスタール……つまりガーグデーラとは幾度も戦火を交えた事がある。なので、そのかつての敵が目の前にいるとは少々複雑な気持ちであった……こればかりは仕方ない。なんせついこの間まで、こんな具体的なヒューマノイド型知的生命体の姿で対峙するとはゼルドアもゆめゆめ思っていなかったわけであるからして……


『非常にお美しい方だ。お初にお目にかかれて光栄です、えーっと、階級は……』

『ゼルドア生体の、我々カルバレータに対する肯定的な見解を高く評価する。お前達の概念で言う階級は、現在スールの合議体である我々には意味のないものだ。従って、この合議体の呼称のみで我々を呼ぶと良い』

『わかりました。で、私も資料であなた方の境遇は存じております。見方を変えれば、此度の案件にはこの上ない味方だ。貴官の経験豊富な知識に頼らせていただきます』

『肯定。我々も今案件には積極的に関与するよう、上位合議体から指令を受けている。認識せよ』


 セルドアは、ある意味今回の案件に最も必要で重要になるのは、彼女(達)ではないかと思う。それはそうだろう。ゼスタールがティエルクマスカ連合に加盟した現在のティ連では、ヂラールの事をもっともよく知るのが彼女達であるからして。


『ゴホン……ま、とにかくこんなところで突っ立ってても仕方ない』


 ということで、ゼルドアが皆に近くのソファーに着席するよう促す。

 すると、シエが着席と同時に話を切り出す。ニーラと多川が人数を確認して、お茶でも造成しにいっているようだ。所帯持って世話焼きになった多川。


『ゼルドア、一応カシワギカラ話ハ聞イテイルガ……ナントモ大変ナ事ニナッテイルヨウダナ』


 すると、皆に茶を配膳しながら多川が、


「シエの言うとおりです提督。この天の川銀河系内に知的生命体がいるという情報にプラスされて、まさかその知的生命体……グロウム人というのですか? その方々が追われ逃げていたのがヂラールっていうのは……あのバケモノを良く知る我々としては、看過できない状況ですね」


 多川はお茶を配膳し終わると、自分の分をすすりながらシエの横に着席する。そして多川の言葉に皆も頷いている。ここにいる面子にとっては、やはりヂラールという存在は捨て置けないものなのである。なんせその驚異を知ってしまった者であり、特にネメアに至っては、種族にとって現在進行形でもある現実を持つ御方でもあるからして。


『ウム……流石は惑星サルカス事件で武勇を馳せた諸君らだ。事の状況を良く理解してくれているようで幸いだよ。話が早い』


 まったくもってゼルドアの言うとおりである。普通のティ連軍士官や、特危自衛隊士官なら唖然として驚くようなこんな話でも、四〇メートル級ジラールや、二〇〇メートル級植物型ジラールとやりあった彼らなら、状況を冷静に把握してくれる。柏木もそれを睨んで彼らを派遣したわけであるからして……

 ただ、そんな彼らでも唯一緊張する状況が、この天の川銀河の数十光年圏内に連中が現れた事である。更に言えば、かの惑星イルナットに巣食っていたヂラールコロニークラスの同規模型が三基も、この天の川銀河に顕現し、それが三〇〇〇〇光年という……ティ連のおかげで今の地球人でも『そんなに遠くない』と思えるようになった距離で、一つの文明を蝕んでいるという情報には、流石に戦慄もする。


『ここまで事前に状況を把握してくれているならば、そんなに前置きもいらんな。では当事者に来てもらうか……』


 とゼルドアはそう言うと、後ろで不動の姿勢で控える部下に、軽く手と目配せで合図すると、その部下は、キビとした挙動で回れ右して一旦部屋を出る。

 暫し後、その当事者を連れて帰ってきた。

 そう、ネリナ・マレード指令である。今回は彼女の副官であった、かの艦隊の旗艦艦長他、数名の部下も連れてきている。

 先導していた先程の兵士が端により、平手でネリナをゼルドア達のもとへ誘う。


『やあ、おまたせしましたな、ネリナ司令……諸君、この方が、聖ファヌマ・グロウム星間帝国、サージャル領防衛軍第5防衛艦隊司令のネリナ・マレード司令閣下だ……と、これでよろしかったですかな? ネリナ司令』

『ご紹介イただき、感謝致します、ゼルドア提督閣下。私が……』


 ネリナの自己紹介の後、ティ連・特危組も各自自己紹介。で、彼女はやはりどうしてもヤルマルティア人の大見と多川に目が行ってしまう。その迷彩服3型姿が、やはり彼女の視点から見れば、相当な文化の乖離に映るからである……で、もっと時代がかった格好の御方が一人……


『あ、私はハイラ王国連合近衛騎士団団長の、メルフェリア・ヤーマ・カセリアと申しまする』


 ネリナ達から見ても、地球人視点で例えるなら、どっかの西洋ファンタジーフィクションクラスの格好をしたメルに対して目が点になってしまう。

 なるほどこれが先程聞いた、文化文明の程度の差など物ともしないティエルクマスカ連合の姿なのかと驚き、今となっては敬意すら感じるネリナだった……更に彼女を驚かせたゼルドアの話が……


『ネリナ司令。実はこの者達が、あの会談でお話したヂラールとの戦闘経験者で、当時熾烈な戦場を制し、勝利した面子なのですよ。で、特にこの……』とメルを平手で指し、『メルフェリア団長は……まあお話すると長くなるので後ほど資料をお渡ししますが、そのヂラール戦での最前線で指揮をとっていた方で、更に……』と、次にネメアを指して『この人物の母星もヂラールに襲われ、現在はその対抗策をもってかの連中を討伐する事を使命とした種族の指揮官でしてね。とまあ、こちらも色々とお力になれる者達をご用意させていただきました』


 そのゼルドアの言葉に「おお……」と目を輝かせるネリナ。

 

「では、ゼルドア提督。我々は事前資料の通り、このグロウム星間帝国への支援任務を行うというわけですか?」


 と多川が問う。此度のこのメンツには、既に事前資料として、今後の作戦行動予定が通達されていた。

 非常に素早い動きである。流石ティ連というところだろうが、やはりそこは柏木のフットワークの軽さであるところが大きい……のだが、柏木も連合防衛総省長官として、素早く動かざるを得ないところもある。なぜなら、彼が最も此度の件で心配したのが、ゼルドア達がヂラールと遭遇した地点の、その距離である。

 地球からも観測できる、TRAPPIST-1星系近郊という話。地球から約四〇光年の地点。こんな場所、ティ連の超光速技術を持ってすれば、ちょっとしたドライブといった距離だ。いや、ヤルバーンクラスや、人工亜惑星クラスの超絶パワーを出せるディルフィルド機関搭載の艦艇なら、一日で到達できる距離でもある。

 多川達地球人も、最近は感覚が麻痺してきたのか、この事前資料を見たときでも、グロウム帝国が地球から三〇〇〇〇光年という距離の説明を見ても、「ふぅ~ん、結構ご近所さんなんだ」と、こんな風に思ってしまい、ハッとした経験がある。

 いかんせんかのSF作品にある『地球から一四八〇〇〇光年離れた大マゼラン星雲ナンチャラ太陽系の第八番惑星』へ放射能除去装置を取りに行く話にしても、ティ連の超光速技術なら、おつかいレベルで行ける。

 なので、シエやシャルリにリアッサなんざ、グロウム帝国の場所を聞いても、まるで沖縄嘉手納基地から中東へ戦争しに行く米兵感覚で茶でもすすりながら雑談してるんだから、まったくお気楽な話である。

 その様子を見るネリナも、バルターという空前絶後の驚異に対して、何余裕ぶっこいてるんだと、そんな視線で皆を見ていたりする。


『いや、取り敢えずは状況偵察だな』


 とゼルドアが話すと、PVMCGに触れて、テーブルの上に星系図を表示する。


『ネリナ司令に提供してもらった資料によると、ココがカセイ』と指で指し、『ココがハルマで~……ここがグロウム星間帝国のある恒星系だという話だ。資料に記したとおり、約三〇〇〇〇光年というところだな。で、少し離れたこの辺境の小さな星系。周回惑星が三つしかない星系のようだが、ここの第三番惑星、「惑星サージャル領」が、ネリナ司令の帰属基地がある星だ。まずはここに赴いてもらい、現地人との接触、及び偵察任務といこう』


 いかんせん、大型航宙機動艦艇でディルフィルドジャンプしても速攻で行ける場所であるからして、のっけから大規模機動艦隊をワンサカと率いて、何が起こるかわからない戦地に力技で突っ込むのも得策ではない。

 まずは偵察。その偵察も威力偵察を含む攻撃的な偵察で、よしんば敵勢力に対し、対抗可能であれば、少しでも敵を減らすという作戦も兼ねた行動を行うという方針で進んでいた。


 ネリナはその言葉を聞いて、またまた驚き桃の木といったところであったりする。

 まず自分達がワープ航法を使っても、相当な時間。それこそあの『グロウム帝国滅亡まで、あと云日なのだ!』とかいうナレーションが付きそうな距離を必死で飛んできたのに、帰りは一日か数日そこらというのだから、そりゃ驚きもする。

 となると彼女も希望が見えたこの状況に、ココまで来て報われた思いも溢れ出し……皆の話を聞いていると、こみ上げるものもあったりする。


「なるほど、ではこの作戦には……っと、ん? ネリナ司令?」


 同じ階級の大見が、涙を流し、鼻をすするネリナに声を掛ける。ま、なぜネリナがこんな状況になるか。彼女も責任ある立場の軍人ではあるが、ココに至るまでの犠牲を思えば、こうもなる。

 大見が彼女の肩を軽く叩き、「心配はいりません」と声を掛ける。ニヨッタが同じ女性同士、彼女にハンカチを渡していたり。

 ……少し間が空いたが……


『で、オオミの旦那、「この作戦には……」で、何だい?』

「え? あ、そうですねシャルリ大佐。はい、この作戦には、私も柏木と直接色々話しをしまして、スタッフと頭捻って編成を組んでみたのですが、基本、あの『サルカス戦』をベースにやってみようという話が出ています」


 すると、ニーラ教授大先生が、


『なるなるでス。確かにあの「第七条」案件は、結果論としてやってることが、強行偵察に、現地住民との協力関係構築と援助。そして、状況把握に大攻勢でしたからね~』

「流石はニーラ教授ですね。そのとおりです。あの戦いでは、結果的に我々が先行するような形になって、状況を正確に把握し、援軍を呼べたのが勝利に繋がりました。それを参考に部隊を編成したいのですが…………」


 語尾に何か含ませた物の言い方をする大見。


『ドウシタオオミ、ナニカ障害デモアルノカ?』と訝しげに聞くリアッサ。

「ええ、まあ……」と言葉を濁す大見だが、次に語る話が、意外な事で皆を驚かせる……「実はですね、米国にロシア、そして中国にEUが、この作戦に……いや、違いますね。まだこの作戦の事は知らないでしょうから、“このような”作戦をやる機会があるなら参加させろ、って言ってきてるらしいんですよ……あ、いや、これはフェルフェリア外務大臣からお聞きしたんですけど、フェルフェリア大臣も、かなり焦った口調で教えてくれましてね。何かもう我々の行動を逐次把握しているかのようだった、と言う話だそうですが……」


 そう言うと、多川が大見の話を遮るように、


「いや、ちょっと待て待て! え? 何か? このグロウムさんの話、世界に……あ、いや、UNMSCCに漏れてるってのか!? ってか誰が教えてるんだよ!?」


 大見のその話に全員が色めき立つ。そりゃそうだ、この話は言ってみれば地球にもヂラールの驚異が迫っているのと同義の案件であるからして、できれば内内に、まずはグロウム帝国を日本を含むティ連だけで処理し、安定化させてから世界へ公開し、地球規模の安全保障をゼスタールさんの技術を中核に進行させようとか、そんな計画をもって進めようとしていたわけであるからして……


「なんでこの件が外に漏れてるんだよ」


 と、当然そう思うのが普通で、驚きもするわけである……

 フェルが言うには、恐らく……というか十中八九で米国からだろうという話なのだが……

 確かに米国は、かのハイラ王国にも少数ながらヂラール研究の人員も派遣しているし、火星にも施政区域をもって、日本の施政区域と事実上制限なしの行き来に交流も在るわけなので、情報が漏れるというよりか、独自に情報収集活動は行ってはいるだろう。流石に友好他国の内政にまで実力を伴う力技で干渉するような、そこまでの情報統制行為はティ連も日本もやってはいない。それにグロウムの艦隊が火星に来訪したのもそのような情報収集能力があれば、詳細でなくとも状況情報のレベルで当然知ってはいるだろう。

 だが、ネリナ達がやってきた目的と、彼女達の現在状況までは流石に知らないはずである。ましてやティ連と特危が合同でグロウムに行くなんて内容は、これは軍務における機密情報なので普通に考えればココにいる人員以外知るはずもない。

 ここにいる人間以外で知っているとすれば、柏木とフェルと、樫本ら上級士官に幕僚本部の連中、他は情報省の『安全保障調査委員会』所属のスタッフぐらいだ。


 と、そんな人物達を羅列し、頭の中で整理する多川……


「確か、安保調査委員会の委員には、野党の連中も何人かいたよな……」


 それに呼応して大見が、


「民間委員も、『安全保障“調査”委員会になってから、増員されています。特に企業派遣委員も多くなりましたからね」


 ウンウン頷く多川。そして他のみんな……シエは、


『多分ソノアタリカラダナ。秘守義務トカイウ以前ノ話ダ。マズ間違イナク、間諜ダナ……シカシ、安保調査委員会連中ノ素性調査ハ完全ノハズダロウ』

『確カニ。ダガソレヲ躱シ、掻イ潜ッテ潜伏スルすぱいガイルワケダカラ、タイシタモンダト言ワザルヲエンナ』


 とリアッサもシエに同意する。


「となれば……これは月丘ちゃんと、プリ子ちゃん達の仕事って事か……な、大見」

「はい。実際もう此度の件で動いているみたいです。で、山本さんが外事の方で何か掴んだみたいで、白木がその総諜対メンバーを全員山本さんに貸し出したという事だそうですが……」


 なるほどなと頷く多川。そこで割って入るはシャルリ姐さん。


『でモよ、まあそれはそれとしてサ、そこんところは今あたし達が考えても仕方ない事じゃんかさ、タガワの旦那』

「ああ、まあ確かにそらそうだ。俺たちゃ今現在の結果と状況で動くしかないからな。それにUNMSCCの正式な要請となれば、無視するわけにもいかないし……」

『ダロ? その“あんむさっく”とかいう連中の軍事組織も事がヂラールの話だから、結果的に「交ぜろ」って言ってきてんだし……ま、考え方によっちゃ、こっちもそいつらをコキ使ってやるって手もあるしさ、ニヒヒヒヒヒ』


 ま、それもそうかと思う多川に大見。確かに彼ら現場の軍人からすりゃ、政治の話に、陰謀策謀など、今ココで考えても全くもって仕方のない話ではある。シャルリの言葉で、とりあえず今ココでその事を考えるのは“ヤメヤメ”というきっかけの話にはなった。


「ん~~……とはいえ、最初のこの偵察と支援任務は、流石に我々だけで行くしかないが、この次の段階の大規模部隊投入作戦時には、UNMSCCのその話も計画に入れなきゃならないな」


 すると黙して聞いていたゼルドアが、


『そのあたりの事は、私も考えておこう。それにカシワギ長官にも報告をしないと、ジェルダー・タガワ』

「そうですね。わかりました。ではよろしくお願いいたしますゼルドア提督」


 大きく頷くゼルドア。

 まあ確かに、こんな大宇宙の、しかも火星くんだりまで来てそんなこと考えても何ができるわけでもなし。ならばなるようになれ、という感覚で決着付けるしか仕方がないわけであるからして……


 そんなティ連勢の身内話を客観的に聞くネリナ。そのチキューという惑星の内部事情は流石にわからないが、グロウム帝国でも似たような話はあるので、政治が少し絡むと、どこも同じようなものかと思いつつ聞く彼女。で、彼らの身内話が収まったスキを見て彼女は、


『トころで皆さん。私達は現在皆さんと出会えた幸運と奇跡によって、我が艦隊の艦を修理補強していただいておりますが、今このような立場で無礼を承知でお尋ねしたいのですが、我々の艦の修繕に如何程の日数がかかるのか、お教えいただけまいか?』


 すると、ゼルドアが、ネリナ艦隊の輸送船を除く軍用艦艇の修理と補強には、地球時間で約五日かかると教える。しかもそれは特急作業で行って、という話である。

 なんだかゼルドア達は、五日もかかって申し訳ないというような顔をして話すのだが、ネリナからすれば、あの艦数を強化して完全修理にたった五日というのも信じられない話である。


『……いえいえ! そのような短期間で完全修理ができるとは! ティエルクマスカ連合の技術力に敬意を表したいぐらいです、提督閣下』

『はは、まあそこは互いの感覚の違いですか。納得していただけるのでしたら我々も助かります。で、装備強化の方も、上の許可が出ましたので、我が連合の技術も含めて強化させています。後程貴艦艦隊クルーにも、我々の機器の取扱を説明するようスタッフに手配させておきますのでネリナ司令もそのおつもりで』

『ありがとうございます提督閣下。何から何まで……ではその期間に準備が整いましたら、我々は帝国へ帰還する準備を致します。我々も皆様への援軍を請う立場ではありますが、民間人の受け入れを認めて頂き、当面の憂いも解消できました。今はとにかく急ぎ帰還し、一刻も早く大公殿下をお助けしたく思います……バルターの脅威もお伝えできた。ですので後のことはよしなに』


 と、非常に遠回しに、しかも最大の遠慮を持って、要は『すんませんが、早く帰国してヂラールと戦いたいのですけど』とネリナは言っているわけである。ま、ゼルドア達もその意図は勿論察している。


『はは、ネリナ司令。お気持ちはわかりますが、彼らジェルダー・タガワ達も貴方方とともに向かわせます。ですから、貴艦隊の体制が整うまでの数日間は、ジェルダー・タガワ達とも、諸々打ち合わせをお願いしたい』


 まあネリナもそこはそう言ってくれるだろうと踏んで、そんな話し方をしたのであるからして、そこは笑顔で頷く。


 ……ということで、多川が総司令にシエが副司令。大見とシャルリがコマンドローダー部隊指揮官。リアッサが中・大型機動兵器部隊指揮官。メルは勿論彼女の部隊である近衛騎士団指揮官。そしてこれらを運用する母艦として、重護衛艦やましろとティ連艦船を運用するわけだが、そのやましろ艦長としてニヨッタ。副長兼科学顧問として、ニーラが『やましろ艦隊第一ユニット』として行動する体制を取る。

 次にネメア・ハモルと彼女“達”が率いるガーグデーラ母艦艦隊に対人・対艦ドーラ部隊は、『ネメア艦隊第二ユニット』として行動する体制を取り、最後にネリナ・マレード司令率いる第五防衛艦隊は、『グロウム艦隊第三ユニット』として稼働する。

 で、司令の多川と副司令のシエも、状況によってはシンシエコンビで前線に出るという話。『状況によっては』なんてのは多分体裁。ハナから出る気マンマンのジェルダー夫婦だったり。


 こう見ると、先行威力偵察部隊とはいえ、結構な部隊編成になるものだと改めて皆が感心するわけで、シャルリに至っては、


『このままヤっちまえるんじゃないのかい?』


 とまで言うが、かのサルカス戦時にそうは簡単にいかなかったのをメルさんに指摘されて頭かいていたり。ま、確かにそれはそうだと皆も頷く。


 だが、現行一つネックなのは、航宙重護衛艦やましろに、第一ユニットの機動部隊を運用するキャパシティがあるのかという話になる。

 シンシエコンビが駆る旭龍搭載して、部下の旭光Ⅱも運用しーの、リアッサ達のコマンドトルーパーも搭載してとなったら、流石に無理があるではないかと。

 だが、そこは柏木長官閣下もちゃぁ~んと考えているようで、その内容を知っているニヨッタも得意げにフフン顔。

 ニヨッタの表情見て尋ねるは、部隊総司令の多川。


「……で、そこんとこどうなんです? ニヨッタ艦長」

『ハイ、実は以前から計画されていたのですが、今回ネリナ司令の艦船達を修理強化する期間に便乗して、「やましろ」も強化しまス』

「なるほど、そういう事ですか。で、その強化内容は?」

『ハイ、やましろは、機動重護衛艦から、機動重戦闘護衛母艦に大変身する予定です。ウフフフ』

「え? 機動重戦闘護衛母艦……ですか? なんです? それ」

『えっと、ニホンジンのみなさんに解りやすく言うなら……』とニヨッタはVMCモニター立ち上げてチラトラ検索すると……『コウクウセンカンって言えば良いのですか? そんな感じの艦に強化いたします』

「なっ! こ、航空戦艦ですか! ふはは、こりゃまいったな!」


 そう、今も昔も男の子のロマン艦船、『航空戦艦』。

 特危の言う航宙艦船規格『重護衛艦』は、一般論で言う艦船規格で言えば、『重巡洋艦』に該当するが、まあ全長が二九〇メートル以上もあるわけで、確かに喩えるなら『航空戦艦』だ。

 地球の歴史上実用化したのは旧日本軍の『伊勢』『日向』が『戦艦』という艦種で言えば歴史上最初で最後である。似たもので言えば、旧ソ連の『航空巡洋艦』として登録されていた『キエフ級』があるが、コイツも大きさで言えば二七〇メートルと、旧時代の戦艦よりデカい代物で、ミサイル巡洋艦と同等の戦闘力に、V/STOL空母の機能を併せ持つ、立派な『航空戦艦』のような代物だった艦船だ……ちなみにこのキエフ級という艦は、『モントルー条約』という海峡通過条約の関係上、こんな形で名称の艦になった。


 さて、ここでやましろが改修されて、重戦闘護衛母艦となるのはいいが、ではその工期はどうなんだという話になる。普通に考えれば改修とはいえ、機動兵器の本格運用能力を付加するとなれば相応の工期が必要となると考えるのが普通だが……

 ニヨッタの話では、工期自体は一週間かからないだろうとのこと。

 えらい早いではないかという話だが、ティ連の航宙艦船はすべて『ハイクァーン・ユニットパーツ造成工法』という方法で建艦されているものがほとんどなので、母艦機能に不要な部分を撤去して、新たなパーツをポンと追加造成させて改修を行う。

 逆に言えば、元の『航宙重護衛艦』タイプへ簡単に戻すことも可能というワケである。


『コノような完成予想モデルになりますネ』


 重戦闘護衛母艦型『やましろ』の完成予想ホログラフを見せるニヨッタ。

 イメージとしては、やましろ本体に航空甲板が左右に付いたような幅広なイメージの船になる予定。後部砲塔は撤去され、ブリッジ後部は完全に格納庫化する。機動兵器運用能力は、重護衛艦時の五倍ほどに増えるという話。

 諸氏「お~」となかなかの艦影にドキワクとなる。

 ちなみにプロデュースbyは、ヤル研である。ちなみに甲板部が中心に閉じて、潜水艦みたいになる機能はない……


 と、そういうワケで、やましろは重戦闘護衛母艦に変身し、グロウム帝国へ向かう。

 現状の計画では、艦隊整備期間に、訓練を含めて、約二週間後に作戦開始と言う感じ……その時まで皆、怠りなくと準備万端整えたいといったところであった……


    *    *


 ということで、諸氏光陰矢の如く過ぎ、短い間の日々の訓練怠らず、地球時間で二週間後。

 特危自衛隊・航空宙間科特将補、多川信次を艦隊総司令。多川詩絵ことシエ・カモル・タガワを副司令とする、『グロウム帝国威力偵察任務艦隊』は、その出発準備を終え、柏木の出撃認可とゼルドアの命令を待つ状況に至る。


 この間の話を少々書くと……

 ネリナ達グロウム艦隊の兵員は、彼女達の艦に搭載されたティ連の装備。つまりグロウム視点での最新鋭装備を慣熟するために、この期間、徹底的な訓練を行った。


 まず、ティ連技術を搭載する以前のグロウム艦隊の一般的な兵装は……

○レーザー兵器

○粒子ビーム兵器

○ミサイル兵器

○レールガン型兵器

 以上が通常装備で、広域破壊型兵器として、核兵器を備えていた。 

 だが一般論として、核兵器は宇宙空間であまり役にたたない。なぜなら、核兵器における破壊能力の本質は、本来核分裂(原子爆弾)や、核融合(水素爆弾)反応で発生する尋常成らざる強力な熱による超絶的な大気の膨張を利用して、広範囲を破壊する兵器であるからして、大気のない宇宙空間では『物理的破壊兵器』としてはあまり役に立たないのである。

 だが、グロウムの核兵器は、高濃度保温熱触媒を超高速超高温で拡散させることによって、宇宙空間における広範囲の敵性体を破壊する能力を持っており、かなりの高威力だ。しかも純粋核融合型なので、熱源持続時間もかなり長く、発生する熱線だけでもかなりの威力がある。


 機動兵器としては、『シェイザー』と呼称されるT字型の機動兵器を所有している。

 前方から見るとT字型をした所謂『空間戦闘機』にマニュピレーター型全方位攻撃兵装を装着したような機動兵器である。機体パイロンに各種兵装を搭載できる汎用性の高い機動兵器のようだ。

 これらがグロウム側が現在所有している兵装兵器群であるが、ここにティ連の技術である『ハイクァーン工学機能』と『ゼル機能』を融合させ、自律制御能力を大幅に向上させた。

 兵装もティ連型ブラスター兵器にゼル仮想造成兵装システム……当然これには地球産の物理攻撃兵器に斥力砲のような、日本―ティ連共同開発兵器も含まれる……ディスラプター兵器にフェイザー兵器といった強力な兵装も増設された。

 兵器機能だけでいえば、ティ連テクノロジーで大幅にパワーアップされたネリナ指揮下の『グロウム第三ユニット』艦隊。

 彼女達が使用するワープ機関『エルドドライブ』も換装され、強力なディルフィルド機関へ。

 母国への帰還もマニュアル通りの性能を発揮するならば、それこそ一日か二日でグロウム帝国領へ到達可能である。

 兵士諸君、以前の悲壮感漂う姿から一変し、みな精悍な顔つき姿に変貌。眦高く、祖国への帰途、その時を待つ。

 今や死地へ向かうような表情ではなく、祖国救済を誓う勇敢な兵士の顔である。

 やはり兵器兵装充実し、更に訓練された軍隊は、士気からして違った気を纏うものである。当然、グロウム兵を訓練したのは特危隊員。ティ連系隊員から、日本人隊員含めて、昨今戦神となり天に召されたガーニーの如く、そりゃもうビシビシイッたという話。ドーナツなんぞ食ってたらエライ目に遭わされ、陸戦部隊員は、自分の愛銃にフリュの名前付けてたり……いや、まあそれはともかく……


『……という理由で、ネリナ司令達には少々ヤキモキさせてしまう事になるが、ここから一気にグロウム帝国に飛ぶ、ということはせず、何回かのジャンプを経て当地に到着する。所要時間は……』


 ゼルドアは、この火星宙域から一気にグロウム帝国領内にジャンプするということはせす、何回かに分けてジャンプを行い、地球時間で大体三日かけて当地に到着するといった予定で行動するとネリナに告げる。


『なるほど……ではその貴方がたが以前戦ったバルター……いや、ヂラールの能力を鑑みて、ということですか』

『ええ。奴らは現在の状況を見ても、そして奴らに一番詳しいゼスタールの資料から見ても、確実に次元空間を跳躍する能力を持っている。従って一気にジャンプした場合、奴らの何らかのジャンプ干渉能力でこちらに仕掛けてきたと仮定した場合、まずい状況になるのは目に見えている。しかも、我々としては未知の空間域へ行くことにもなるので、途中における前哨基地にできる場所も調査しておきたい。と、そこは理解していただきたい』


 ネリナ達から火星より一光年離れた距離までの空間座標図は提供を受けていたが、それでも本格的なものではなかったため、その空間座標図を元に、グロウム帝国への本格支援作戦を行う際の作戦立案用にもデータが必要だと。ま、そういう点も含んでのことである。

 というか、本来ならばゼルドア艦隊がそれを目的として、グロウム帝国方面へ向かおうとしていたワケであるからして。

 

『了解いたしました。現在の我々は、提督旗下の部隊であります。異存はありません』

『すまない司令。だが、我々も作戦を確実なものにしたい。そこは理解していただきたい』


 ということでネリナも了承。

 次にゼルドアが話すは、同じ“ネ”の字の司令官、ゼスタール人『ネメア・ハモル』が個体としてたった一人率いるゼスタール・ガーグデーラ母艦艦隊である『ネメア艦隊第二ユニット』


『ケラー・ネメア。恐らく当地では貴官の知識が必ず必要となる。部隊を宜しくお願いしたい』

『肯定。我々に依存せよ』

『はは、恐れ入りますな、ケラー。ではよろしく頼みます』


 最後はこの部隊の総司令官に抜擢された、多川のオッサンと、詩愛シエ夫人。


「では提督、可能な限り詳細な情報を届けますので」

『申し訳ないジェルダー・タガワ。本来ならジェルダー・シエと前線で、というのが君達のスタイルなのだろうが……』

「いえいえ提督。私はかつて基地副司令という役職もこなしたことがありますので、ご心配には及びません。まあシエの方は、もう前線指揮官の数に入れていますので」

『はは、そうか』

『私ガ前線デ指揮ヲトレバ、ダーリンノ負担モ軽クナル。イイ感ジデハナイカ』

「ということだそうです、提督」


 ゼルドアもこの特危自衛隊名コンビの話は、よくよく聞いている。それにかのサルカス戦時、あの前線を保たせた強者でもあることも知っている。

 更に言えば、ヂラールと直接対峙した数少ないティ連軍人でもあるわけで、ネメア同様にその知識と経験に期待するところ大なのである。


「で、提督。今回は強行偵察任務ですが、まあこの艦隊規模ですと、それなりのことはできると思います。

ですので、当初の作戦目標である『サージャル大公』でしたか? その御仁との接触後、状況を見て、反攻作戦を行う事も視野に入れてよろしいでしょうか?」

『それに関しては、戦力に確実な余力を見込める場合に限ってだ。まあジェルダーならそう言うと思ったが、本来は偵察が任務であることを忘れないでくれ』

「最悪、撤退する場合はグロウム人の救出も行いたいと思いますが」

『そこは許可するよ。それと……ネリナ司令が徹底抗戦を主張しても、絶対に許可するなよ』

「はは、了解です」


 ネリナはどうもそういうところ一途な感じの軍人である。自分を犠牲にしてでもナントヤラな感じがあるので、決死で殿務めるとでも言い出したなら、首に縄つけてでも連れて帰ってこいと……まあ、まがりなりにも『帝国』を名乗る国の将官なら、というのは、自衛隊員の多川もわからんではないがと。


『では、ジェルダー・タガワ、シエ。任務成功を祈る。ブウンチョウキュウというのかな? 頼むぞ』

「ハ、では行ってまいります」


 多川にシエは挙手敬礼。ゼルドアはティ連敬礼で送る。


 …………


「よし、では全艦出港だ。今回の任務は、拠点航路の作成も兼ねている。まず第一目標は、ネメア司令と邂逅したTRAPPIST-1だ。先を急ぐ航海でもあるので、ディルフィルドパワー全開、かっとばしてぶっ飛ぶ。全艦準備しろ! ……ニヨッタ艦長、お願いします」


 多川がいつでも自分も出撃できるようにというワケで、なんともまあパイロットスーツで指揮官席に座って指示を出す。


『了解デス、ジェルダー。 全艦目標とらぴすとわん宙域。出港!』


 本任務部隊旗艦である『航宙機動重戦闘護衛母艦やましろ』

 ティ連型の機動駆逐艦に機動巡洋艦を伴って、『やましろ艦隊第一ユニット』として先陣を切り、前進する。

 続くは、ネメア・ハモルの艦隊に、グロウム艦隊。全艦機関のパワーを同期するかのように機関部を光り輝かせ、一隻一隻と刹那の間隔で空間波紋をまとわせて、亜空間へと弾丸のごとく弾かれるように突っ込んで次々と消えていく。


 グロウム帝国領、『惑星サージャル大公領』到着予定時間は、地球時間で三日後である。

 ティ連の空間跳躍技術なら、三日で到着できる三〇〇〇〇光年先の空間域。

 だが、それでも未知の宇宙であることには変わりがない。しかも全く国交のない他主権の宇宙である。


 いつもはシンシエコンビで将軍職やりながらパイロットもバリバリ現役でこなす現場バカの多川夫妻。

 それでも多川は松島基地副司令をこなしたこともある指揮官経験者でもあり、シエはなんだかんだで元ダストール総統候補のカリスマだ。よくよく見れば司令、副司令官という立場も案外似合っている多川夫妻。


 さて、このお二人が指揮する艦隊の活躍や如何に? といったところなのであったりする……



    *    *






『ナンバー1、要求されていた資料はハイナンバーズに配布した。それでいいか?』

「ありがとうございますわ、ナンバー3。で、この資料……現地報告書に書かれているのが、例の?」

『うむ。今現在火星で進行中の件だ……なかなかにすごい事が書かれているだろう?』

「そうですわねぇ……まさかこんなご近所に異星人の国家が存在していたなんて……それで? このヂラールですか? 確か以前ニホンが公開した、別の宇宙にいるという生体兵器でしたか?」

『そのようだな。確かティ連が「サルカス事件」とか言っている件の、その主体が太陽系から数十光年の場所で確認されているとは、由々しき事態だぞ』

「ほほほほほ、今や地球人も『数十光年』が、まるですぐそこのように言える時代になりましたか。私はそちらの方に驚きますけどね……あと、このグロウムなる異星人ですか? このような存在との接触を公表しないのも、ヂラール絡み、という事でしょうか? まあわからないではありませんが、またこのような権益を独占するような行為は、正直見ていて面白いものではありませんね……特に日本政府の対応は……」

『確かにな。現在我々が合法、非合法関係なく、このような情報を入手するには、必ず日本経由という方法になる。米国経由の入手方もあるが、あのルートはまだまだ限定的だ』

「ええ……まあですが、今はそれを言っても始まりませんし、現状の私達の情報網をもってすれば、このような形である程度入手可能にはなりました。ですので、まあそれはいいでしょう……それよりも私が興味を惹かれるのは、このヂラールという『生体兵器』なる存在ですねぇ……」

『それな……』

「はい。我々『インベスター』としては面白い素材ですねぇ……」

『ナンバー1、何を考えているんだ?』


「ん? いえいえ、ま、色々とね……また近々、皆様と諸々おもしろいお話ができるように……ね……」














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