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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
25/89

【第四章・天の川銀河】 第二四話 『インベスター』


 ガーグ……

 元々はヤルバーン州知事、一〇年前の当時のティ連全権大使であったヴェルデオが、イゼイラの寓話から名付けた地球世界で暗躍する正体なき無国籍主権体の事である。

 そのイゼイラの寓話では、地球で言うところの『混沌』『カオス』を意味する言葉であり、それらを擬人化した怪物を意味する言葉である。

 その通りそれは地球世界の混沌そのものであり、主体のない『連帯』が、地球世界における負の意思を代弁するかの如く暗躍し、事を成すといった、ティ連の科学をもってしても事実上、実態を掴むことも殲滅する事も難しいという所謂、『存在』なのである。

 ではその『難しい存在』を殲滅することが『全く不可能なのか?』と言えば、そういうわけではない。ガーグを殲滅する手段は、実のところ簡単である。特にティ連なら、やろうと思えばスンナリできるだろう。その方法とは、『地球を侵略すればいい』……それだけの話である。そうすれば、所詮は地球という星から湧いた混沌であるからして、簡単に駆逐できるだろう。

 だが、それをやってしまうと意味がない……いや、ティ連という種の垣根さえ超え、共存する連合体が、そんな事をできるわけがない。『国際連合がナチスのようになれるか?』と言ってるのと同じ事である。それが彼らの言ってみれば絶対の弱点。そこを突いて暗躍する連中が、ガーグである。


 だが、そのガーグ。元々求める利権利益の主体が全く違う連中の、とりあえず『利』の合致するところだけで繋がっている奴らなものであるから、一時期は米国の対ヤルバーン外交の成功や、サマルカとの国交成立などで、異星人を利益と見なしたガーグ集団が勢力を拡大して意思の実権を握り、まあなんとかポジティブな方向性へガーグ連中も誘導することができて、いつの間にか自然消滅したと思っていたのであったが……


 ……ここ、日本国東京都ヤルバーン区にある情報省総諜対。

 情報省内務局局長にして、総諜対班長でも在る白木崇雄は、ここ最近世界中から入ってくる異様な情報に頭を抱えていた。


(こいつは一体全体どうなってるんだ?)


 PVMCGで仮想造成したノートパソコンで、各部署の報告書を読む白木。その内容に戦慄すら感じつつ、状況を訝しがる彼。

 頭を抱えていると、インターフォンがプーと鳴る。受付嬢マニペニー役の美加が、山本の来訪を告げた。


「よっ」


 一応、総諜対副班長の山本。そして情報省外事局の局長でもある……手に差し入れのまんじゅうを持ってたり。

 ハイクァーンで熱いほうじ茶を二人分造成して出す白木。


「白木っつぁん、やっぱあの北のアレが死んだの、聞いたか?」


 ズズズと音を鳴らしながら、饅頭をつまむ白木。


「ええ。韓国経由の『確度の高い』未確認情報でしたが、一時間ほど前から中央放送が認めましたよ……死因は病死だそうですわ」

「まあそう言うだろうな。偉大な、何でもできるスーパーマンみたいなのが、何者かに暗殺されましたでは、格好つかんだろうよ」

「ですな。仮に『暗殺された』という設定にしても、誰のせいにするかですよ。昔は米帝や傀儡の南朝鮮のせいにでもしてりゃ良かったんでしょうが、ヤルバーン州があって、異星人さんが千万光年単位の彼方からやってくる時代だ。アメさんのせいにしたって、何の得にもならん事ぐらい奴らもわかってるでしょうからね」


 自分で買ってきた饅頭を一つつまんで。口に放り込み、モグモグさせながら頷く山本。


「で、山本さん。アレの後継ぐの誰なのか、外事の方で情報回ってきてます?」

「おう、まそれの報告も兼ねて今日はコッチ来たんだけどな」

「なるほど。で、そこんとこどうです?」

「うん、外事局独自でやってるヒューミントなんだけど、北にもその手合のを飼っていてな……」


 外事局が金で雇った北内部の人間によるヒューミント情報である。その相手は相当な北の高官であるという。

 その人物経由の情報によると……北の長男が暗殺されてからそれ以降に、この一族の三男をリーダーに据えたいという話も出たのだそうだが、ぶっちゃけた話、そいつが全然乗り気じゃないって話で、後継者の選出がストップしていたという話。往々にして中国の発言力が強まったので、かつてのように中国の影響力が復活したというこで……という話で、どうも長男の息子を据えようとか、そんな話も出てきている。現在は中国の息のかかったナンバー3が臨時でトップになっているという話。だがまだこの事実は公になっていない。

 いかんせんあの国は完全な軍事国家である。従ってそこには色々と西側先進国では想像もつかないような権力闘争があって然るべきで、まあそのうち色々とオモシロ粛清大会の様子なども聞こえてくるだろうとは思うので、ここは静観して待つといったトコロ。

 

 と、その情報はそれで山本の話を聞いて、なるほど白木も予想した状況に近いところで落ち着きそうだとは思うのだが、彼が先程から驚いているのはそんなものではない。あ、いや、確かに北のコレが死んだのも、彼が珍しくしかめっ面になって、悩んでいることの一つではあるのだが……勿論山本もその話をしに、総諜対までやってきたという次第。


「で、ガーグの連中だけど……白木っつぁんが、さっきから頭抱えてたのはその事だろ?」

「ええ。山本さんも聞いてるでしょ? CIAとかから」

「ああ。あの……」


 そう、白木や山本が「どういうことだ」と訝しがる現象、というか事件。それは……

 今、世界中にいろんな国があるが、この『北』にしてもそうだが、世に言う『独裁制国家』『専制国家』『宗教国家』と呼ばれる類の国家元首が、何者かによってことごとく亡き者にされようとしている。つまり『暗殺』の危機に晒されているのである。

 これは所謂先進国や大国と呼ばれる国以外の、そんな妙な国の話ばかりではない。

 先進国においても、国家元首ではなくてもその国の閣僚であったり、国家の基幹産業を司る重要な企業のトップとか、そんな人々も命を狙われているというところなのである。

 実は、一昨日。情報省大臣の二藤部も、命を狙われかけた……夫人とともに、前内閣総理大臣としてテレビのトークショーに出演していた時、収録が終わりお昼を外食していた際、二藤部のPVMCGが危険サインをけたたましく鳴らせて、食事を妨害したのだという。

 なぜかとPVMCGに問うと、食事に毒物の反応があると……

 驚いた二藤部は、すぐさま警察を呼んで調べさせたところ、食事に危険薬物が入っていた事が判明したという話。持ってて良かったPVMCGである。

 それだけではない。暗殺者の魔の手は、今はロシア議会の首相になっているメンチハ……グレビッチ前大統領にも及んだという話らしい。彼は交通事故を装った事件に巻き込まれそうになったという事だった。幸いなことに熊ともタイマンで戦えるロシア前大統領は、その程度の事、なんともないぜ。な状況だったそうなのだが。


「……つまり、UNMSCCの本来の目標……地球世界統一のようなものに水を差す人間が狙われてるってところなんですかね? 山本さん」

「ああ。外事も外務省と協力して、デキる奴の頭の中味フル回転で考えさせたんだが……そういう結論にならざるをえないな……」


 山本が言うには、ゼスタールが提示した技術開示条件と、柏木が安保理常任理事国に説明した要件。『地球社会が一つになるため』そしてその後の『地球全体が、ヂラールに対し、ゼスタールと共闘できるレベルになる』という壮大なテーマ。これに邪魔な人間を、片っ端から消しにかかっているような、そんな感じの事件だと白木に話す。

 つまり、此度のガーグは、そんな連中が主体となっているのだろうと。


「なるほどやっぱりそうか……そうじゃないかとは思ってたんだが……だけど、あまりにあざとすぎますね」

「ああ……以前のガーグ連中は、ここまでえげつない実力行使には出なかった……やってせいぜい、あの『信任状捧呈式』の時の、ガーグぐらいなものだ。俺達が知ってるガーグにしちゃ、ちょっと動きが能動的にすぎるな」


 それに何が『本当の目的』なのかも読みづらいと山本は話す。

 なぜなら、方法はどうあれ、やっていることは結局、地球の『国際連邦化に反対な奴、邪魔な奴は消えてもらう』という感じなのだが、そう考えれば、こんな言い方をするには大いに語弊があるが、『国際連邦化に邪魔な存在は、こいつらが消してくれる』と考えれば、かえってありがたい存在なのである。

 そして例の『北』のアレの暗殺、タジキスタンのサマラン大統領の暗殺。他、何カ国か、所謂独裁性が強い国の元首の暗殺に未遂。更には大国ロシアの重鎮にも手をかけ、二藤部にも手をかけた。


「だけど、なぜ二藤部大臣が……もう内閣総理大臣でもない方ですよ。それに今の日本の議院内閣制じゃ、そんな独裁者や影の支配者みたいな事、できゃしないのに……って、情報省やってる我々や、安保調査委員会のメンバーが言うのもアレですけど、はは……まぁでも、もし殺すんなら、好き勝手やってる官僚の次官クラスを片っ端からブッコロしたほうがよほど効果的だと思いますけどねぇ」

「ははは、おいおい白木っつぁん。滅多な事いうなよぉ。新見さんに聞かれたら怒られるぞ」

「はは、まあ情報省ウチは別ですけどね」


 とフォローする白木だが、実際その通りだ。だが、ガーグの視点から見れば、今の異星人権益を牛耳っている人物は、この『二藤部』と思われても仕方がない。いかんせんこの情報省の母体が、『日・ティ安全保障委員会』であり、現在でも、その省内部委員会である『情報省安全保障調査委員会』が、内閣府直轄であるワケであるからして、といったところだからである。

 従って彼が退場すれば、日本の世論を誘導して、アホな野党政治家や偏向マスコミをたぶらかして、日本をティ連から脱退させ、国際連邦へ引き入れる……といった算盤も弾くだろう。おそらく、そして間違いなくそういう意図があっての事だと理解できる。

 更に山本は……


「それに、二藤部先生や三島理事長は、現在の連合日本に至る道を作った立役者だ。逆の見方をすれば、連中からしてみれば国際連邦的な組織を画策するにしても、この象徴的な二人がいるかぎり、日本はティ連から離れることはない。つまり日本を国際連邦へ引き摺りこむことは不可能と考えるだろう。仮に引き入れられたとしても、国際連邦内での、当時の自保党閣僚に関係者の発言力はかなりのものになることは容易に想像できる……ま、“連中”からすれば、面白い話ではないわな」

「なるほど。ということは、やはりガーグ連中は今でも日本がこの地球世界における権益的に邪魔だと考えていると?」

「だろうな……とはいえ、連合の一員と化した今の日本をどうこうするのは事実上不可能だ。ならば……」

「せめて政局的に連中の操れるような方向性に持っていけるような状況を作る事……と?」


 コクと頷く山本。顔をしかめる白木。めんどくさい事しやがってという感じ。

 

 要するに、此度のガーグ勢力はゼスタールの一件での、国際協調体制を成就できるような環境を、テロをしてでも推進させる……まではいいのだが、その結果がガーグ連中の意のままに動かせる権益確保のための国際協調体制の推進という算段だから、始末が悪い。

 なので、彼ら『ガーグ』の意にそぐわない世界の重鎮には消えてもらうという、そんなところなのだろうと山本は話す。


「でな、此度のガーグは、所謂俺達が今まで『ガーグ』と認識していた、あんな連中じゃないみたいでな……」

「と、言いますと?」

「どうやらはっきりとした中心になる母体があるような、そんなところだ」

「……」


 掌を口に当てて、山本の話を聞く白木。どうも事は今までのガーグとは一つ違うようで、嫌な予感を感じる。


「……で、そのあたりを、セマルと下村、長谷部に調べさせてるんだが、白木っつあんとこの月丘と、プリちゃんと、メイラちゃんと、あの~……ゼスタールさんの……」

「シビアさんですか?」

「そうそう、その方。ちょいと外事ウチに貸してくれないか? 今その『母体』みたいな存在を調査させてるんだが、いかんせんスキルと人手が足りない。おまけにシモもハセもオッサンだしな。若いのっちゃぁセマル先生だけだし」

「はは、なるほど……わかりました。では四人をそちらの外事に預けますので、思う存分使ってやってください」

「すまんね。助かる……で、あと、柏木さんと、フェルフェリアさんだが、今の感じだと、あの二人も狙われる可能性が高い。そこんところどうだろう?」

「ああ、あの二人は心配ないでしょ。仮にあの二人を襲って、大事にでもなれば、ティ連防衛総省とイゼイラ共和国を全て敵に回すようなものですからね」

「なるほどな、まあそうだな」


 二藤部や三島あたりを狙うのであれば、まだ日本を敵に回すレベルで済むが、柏木とフェルを襲うという選択は普通に考えてありえないだろうと。そんな事をする奴は、バカというレベルを超えていると。


「で、山本さん。そのガーグ連中の主体的組織、なにか片鱗でも掴めているんですかね?」

「うん……色々裏の社会に表の社会と、とっ捕まえたり買収したりで色々やってるんだが、まあどう呼ばれてるか、『名称』かもしれないようなものは、とりあえず掴んだ」

「ほう……で、その名称は?」

「“インベスター”と言われてるらしい」

「インベスター? ……“投資家”ですか……」


    *    *


 さて、場所は変わって、ティエルクマスカ連合本部火星管理区。

 現在、この太陽系第四番惑星である火星は、ティエルクマスカ連合本部が管理する、『火星管理区』と、日本政府が運営する自治体『日本国・熒惑けいこく県』そして日本から管理区の一部を割譲された、米国が管理する『アメリカ合衆国自治管理区・バイキング地区』と、大きく分けてこの三者が火星を管理しているという形になる。そんな火星に空間波動を伴う毎度のティ連艦船お家芸、ディルフィルドジャンプしてやってきたのは、ゼルドア・ディナ・アーガス提督率いるゼルドア艦隊。

 駆逐艦に巡洋艦といった、中・小型艦艇が先行して空間に顕現した後、旗艦『ジュンヨウ』がドカンと姿を表す。

 アングルドデッキを上下二重に構えた、地球の航空母艦にも似たデザインの大型機動母艦。

 ディルフィルドアウトした直後に火星軌道は騒がしくなる……なぜなら、ジュンヨウは何かをジャンプシールド内に内包して、一緒に飛んできたからである。

 ……ジュンヨウが引き連れてきた中型艦船達。そのデザインは、どことなく空を飛ぶ生き物がメカメカしくなったような、そんなデザインの軍艦に、単純なデザインの輸送船群達。それら艦船が、火星衛星軌道上に大きく鎮座したコロニー級の宇宙ステーション『マーズ・アルケ』へ誘導されていく……

    *    *

『あれは……』


 ジュンヨウに招待されている、グロウムという国家の艦隊指揮官である、ネリナ・マレード司令。

 あれからこのグロウム人のバイタルを精密に調べた結果、彼女らも所謂『ヒューマノイド型』の知的生命体であることがわかり、女性に類する性別の異星人であることがわかった。

 ということは当然『男性』に類する異星人もいるわけである。


 船の眼下に広がる真っ赤な星、火星……だったのだが、今は以前のような火星の雰囲気ではなく、かなりの範囲で緑豊かな大地と、何より大海原に河川が惑星一面に展開していた……そう、一〇年後の現在でも、火星テラフォーミングは順調に推移中なのである。

 ネリナはジュンヨウのブリッジ、ウインド際に寄って外の景色を眺め、とある軌道上の空間一点を凝視する……彼女が見るは、際立って大きな軌道建造物であるディルフルドゲート。


『ゼルドア閣下』

『はい、何でしょう』

『あのリング状の、巨大な建造物は何でしょうか?』

『ん? ああ、あれですか。あれはディルフィルドゲートと言いましてな。あなた方のエルドドライブでしたか? それと同様に我々もディルフィルド機関というもので、超光速航行を可能としていますが、あのリングは別空域の別のゲートと……』


 ゼルドアはディルフィルドゲートの概要をネリナに説明する。


『……それは素晴らしい。我々の国でも似たような装置を研究中ですが、現物を目にすることができるとは……ということはやはり、我々が目指していた重力震反応とは、あの建造物の反応……』

『先ほどの聞き取り調査の結果を総合的に判断すると、恐らくそうでしょうな。するとあなた方も以前にこの“カセイ”空間域を調査した過去があると判断いたしますが……』

『私達グロウム帝国も、この銀河系には多数の無人探査機を派遣しております。ですのでこの空間域ではありませんが、ここから約一光年か二光年ぐらいの場所で、これまでにないこのような反応を探知致しまして、我が帝国も実のところこの空間域に興味は持っておりました。ですが……』


 頷くゼルドア。その後の言葉の概要は彼も聞いてはいたが、詳細はこの後の会談でということである。なので細かい事はまだわからない。ただ、今の言葉で彼女達が目指していた空間域とはこの火星圏であることは、はっきりした。

 当然この事はゼルドアから連合本部に連絡されるわけで、その連合本部の統括トップがネリナと直接話をしたいと仰る。その統括トップとは、言わずとしれた我らが柏木長官閣下様である。勿論会談の方式はゼル会談であるからして、ネリナ達はまだこの会談方式のことは知らない。

    *    *

 マーズ・アルケに到着した艦隊は、早速ネリナ艦隊人員の受け入れと、艦隊随伴の輸送船に乗っていた民間人の収容に、各艦艇の本格的な修理作業に入る。必要であれば、ティ連防衛総省本部の許可を得て、ハイクァーン機器とゼル機材の搭載も進言しようと思うゼルドア提督。もちろんその進言に至る理由は、ネリナからの聞き取り調査を判断した結論からである。

 で、普通こんな軍事基地ともなれば色々と堅苦しい感じがするもので、特にネリナのような余所者がうろつくとなれば、何やら監視の人員がついて回って……という感じになると思うところだが、なんとも基地ロビーに案内された彼女は、時間が来るまで好きにしていいと言われて、まったくの自由時間状態になってしまう。

 勿論そんなことができるのも、基地の管理システムが個人の行動を全て管理しているからなのであって、いちいち人が監視しなけりゃならないような状況ではないというだけの話である。従って仮にネリナ達がこの基地でオイタすれば、MPがスッとんでもくるし、強制転送されてブタバコ直行ということもあるわけである。勿論そこのところは彼女にきちんと言ってある。

 とはいえ、まるきりで一人にするわけにもいかないので、当然案内役が付くのではあるが、そこはこの基地を管理するティ連本部政治方の女性役人が彼女に付いた。

 で、ネリナ司令はこの基地で従事する、彼女達から見れば『異星人』になるいろんな種族を見て、興味津々であった。当然、矢継ぎ早にお付きの役人に質問を浴びせかける。


『あ、ハイ。あれはダストール人の方ですね。ネリナ司令』

『あの、頭部にヒレのようなものを付けたのは?』

『あの方は、パーミラ人さんです。パーミラ人は、両棲種ですので、水陸両用の種族さんですよ』

『ほぉ~……我々の友好国には、そういった種族はいないな。ティエルクマスカ連合にはいろんな種族がいるのだなあ…………ん? あの種族は?』

『ハイ? あ、あれはハルマ人さんですね。その中のヤルマルティア人さんと、アメリカ人さんという民族の方ですよ』

『ふむ……』


 ネリナが観察するのは、イゼイラ人と楽しそうに歓談する日本人と米国人の政府関係者。人種ではなく、国民なのだが、ティ連人の感覚では、惑星に住む知的生命=種族。その中の地域国家国民=民族という感じらしいので、まあ地球人もそれで許容している。

 で、ネリナはそのハルマ人の服装。スーツ姿にネクタイといった服装と、イゼイラ人や、他の種族の服装を比較する。


『君、あのハルマ人という種族は、相当に時代がかった服装をしているな?』

『え? そうですか?』

『うむ、我々グロウム帝国の、もう何百周期も前の我々が、あのような感じの服装をしていた記録がある』


 ネリナの視点では、現代の最新ファッションが自分達やティ連人とすると、地球人の格好はまるで江戸時代の服装といったイメージなのだろう


『そうなのですか。なるほど~、あ、いえ確かにあのハルマ人さんは、私達より科学技術レベルで言えば、ずっと遅れて「いた」種族さんなのはそうなのですけど……』


 お付きの役人は、ハルマ人、特に日本人が彼らティ連人と比較して、数百年かソレ以上の科学格差がある種族で、最近連合に加盟した種族だと話す。


『なっ! そ、そんなに? ……って、そんな原始的な種族と共存しているのか、あなた方は!』

『え? そんなに驚くことですか? 我が連合では、科学格差で言えば一〇〇〇周期近い単位の格差が「あった」種族も、連合に加盟していますよ』


 ハイラ人の事だ。


『ソレに、あのハルマ人、特にヤルマルティア人さんは、我が連合加盟国でも、もっとも重要な加盟国で、私達が国運を賭けて連合に加盟していただいた民族さんなのです』


 役人の話を腕組んで聞くネリナ。彼女達の常識であれば、そんな遅れた文明は、保護観察の対象であり、手を出さないというのが常識である。

 かつてのグロウム帝国では未開の惑星を侵略し、征服するような事もあったそうなのだが、倫理観の発達で現在ではそういった原始的な文明の星は、不干渉で保護対象とするのが彼女達なのではあるが、なんともティ連の場合、『彼女達』の倫理観から見ると、未開の文明人に自分達の科学技術を分け与えまくって、文明昇華しまくっているという話なのであるから、真逆の事をやっているわけで、当然何を考えているんだ? という疑問も湧く話になるわけである。

 当然こういう感覚になるのも無理からぬところがあるわけで、ネリナ達からみれば、そんな原始的文明に高度なオーバーテクノロジーを渡せば、地球のSFでも、もう語り尽くされているような火遊びをやって、身をわきまえない暴挙に出るから……というような筋書きを思い浮かべるトコロなのであろうが、そこは運命の因果が結びつけた日本とティ連の関係である。ネリナはティ連、特にイゼイラの歪な科学文明発達史を知らないし、日本人のエートスも知らない。更には宇宙最強の発達過程文明の神、もしかしたらイゼイラの創造主にいつかなるかもしれないという『ヤル研』の存在も知ら……まあそれはとりあえず置いといて……そんなところなので、そりゃ不思議にも思うわけである。勿論、現在のティ連と地球―日本の関係を築いた、ティ連での最高級VIPでイゼイラ創造主にノミネートされている、銀河級突撃バカの事も知らないワケであるからして……

 ここまでの科学文明格差がある……いや、あった文明同士が共存できる世界が存在するとはと、その点だけでも驚くネリナ。彼女に付く役人から、たまたま側を通りかかったヤルマルティア人を紹介される。そのヤルマルティア人、つまり日本人は、役人から軽くネリナの事を説明され、驚き、握手を求められる。

 そのノリになんとなく流されて、つい握手しかえすネリナ。なんとも不思議な感覚になる。


 ……ゼルドアが数人のスタッフを従えてネリナを迎えに来たようだ。彼の側に付き従うは彼の部下と……ヤルマルティア人だ。

 ネリナはこのヤルマルティア人という種族が、ティ連にとって相当重要な地位にある人々だと認識せざるをえなかった。


『お待たせしました、ネリナ司令。我々のトップと連絡が付きまして、是非お話がしたいと』

『そ、そうですか!』

『はい。先程の聞き取りの件も含めてお話されるのがいいでしょう。私も同席いたしますので』

『ありがとうございます』


 ということで、ネリナを連れてゼルルームへ。ご存知ティ連最先端通信技術を使った施設である。だが、パワーの入っていないゼルルームは、殺風景な真っ白い部屋。こんな部屋に連れてきて何をするのだ? と訝しがる顔をするネリナ。もちろんゼルドアにもそれを問う。


『あなた方グロウム帝国には、仮想造成技術というものはないのですかな?』

『仮想造成技術? いえ、聞いたこともありませんが……』

『そうですか。あ、いや、あなた方の艦船にも今後の事を考えて搭載させている、我が連合の技術なのですが……まあとりあえず見ていただきましょう』


 ゼルドアがそういうと、先程のネリナお付きの役人が自分のPVMCGを操作して、ゼルルームの内装を構築させる。

 ワイヤーフレームのような物体が姿を表し、それが単純なポリゴン形状なり、更にそれがまるで粘土細工のようにモーフィングして、精細な物体へ変化していく。勿論その変化する速度はめまぐるしい速さだ。たちまちティ連―イゼイラの皇室装飾に見られるような意匠の部屋が構築され、豪華な机に椅子などがセッティングされる。

 そのサマに目を丸くして驚くネリナ。彼女達の科学技術も、地球に比べれば『はるか先』といって良いものなのだが、このゼル仮想造成技術は初めて見るもの。当然それを始めてみた地球人同様、驚きもする。この感性だけでいえば、今のネリナは地球人と同等であった。

 口をポっとあけて驚き顔のネリナ。できたてホヤホヤの仮想造成された椅子を触って、その触感を確認する。

 

『これは立体映像ですか!? こんな高精細な……触感まであるとは、神経制御の何か波動でも……』

『はは、そんなものではないですよ。この部屋の装飾は……まあ実在するものとして、とりあえずは今ココにあるものです。っと、まあその説明もおいおい』


 ネリナにそんな気を使いながら暫し待つと……部屋の対面側扉が開いたかと思ったその時……光の柱が立ち、一人のデルンが姿を現す。

 立派なダブルの黒スーツにネクタイ締めて、オールバック決めた男性が姿を現す……

 これも『仮想造成』なる技術の賜物なのだから、ネリナの驚きようも言うに及ばず。おまけにこれが通信技術だとゼルドアに説明されて更に腰を抜かしそうになるネリナ。


『カシワギ長官、おひさしぶりでス』

『やあどうもゼルドア提督。せっかく一〇ヶ月も航海していただいたのにトンボ返りとは申し訳ないですね、ご苦労様でした』


 その男、柏木真人・ティエルクマスカ連合防衛総省長官であった。ゼルドアと握手して、彼の労を労う柏木。それもそうだろう、緊急事態とはいえ一〇ヶ月も航海した途端に、その一〇ヶ月分の行程をすっ飛ばして帰還しろというのだから、普通なら違和感出まくりの状況だ。

 

『長官、こちらが……』


 ネリナを紹介するゼルドア。彼女は今、柏木へ敬礼するのも忘れてしまい、いろんな言葉が頭の中を走る……


(なんなんだこの人物は!? 先程のヤルマルナントカ人ではないか! その種族がこのティエルクマスカ連合軍事部門のおさだと!? どうなっているんだ?)


 ネリナさんは、先程説明された科学技術の劣るヤルマルティア人が長官閣下様だというのがどうにも腑に落ちないらしい。

 

『……リナ司令? ネリナ司令?』

『あ、は、はい!? あ、そうでした。申し訳ありません。あまりにすごい技術なので……』


 唖然としていた状態を、先進技術に驚いていたせいにするネリナ。まあそれも本当の事なのだが。

 ということで先程のグロウム式敬礼をして、柏木と握手をする。


『初めてお目にかかります。ネリナ・マレード司令閣下。お話はゼルドア提督からの報告書で大体のところは理解しております。今回は色々とお尋ねし、話し合わなければならないことが多くなりそうです。お互い道徳的な理解をもって、お話しましょう』


 その柏木独特の屈託ない態度にホっと安心するネリナ。柏木に掌で促され、皆して着席する……造成されている椅子がフェルの実家のお城に置かれているものを参考に造成しているので、いろいろ細かいところでパチモン臭がほんのり芳しくというもの。

   *   *

 さて大体こういう場合、このような状況、場所へ招待した方から自己紹介というのが一般的。ということで、柏木はティエルクマスカ連合の概要をネリナにザッと説明する。ってか、一番新参の加盟国である日本人の柏木が説明するというのもなんともおかしな話だが、実際日本はもうティ連加盟国になって一〇年も経ち、その連合の軍事部門の長がこのオッサンなのだから仕方がない。


『な、なんですと! ……こ、この星から五〇〇〇万光年!!』

『はい。今この私の実物が存在しているココ、ティエルクマスカ連合の本部や、主たる加盟国が存在するのは、この銀河になります。ま、今のそちらの場所は、私の母国である日本国。ティ連では大昔からヤルマルティアと呼ばれていた国が加盟してからの話になりますので、実はここ最近の話なのですよ』


 柏木はネリナに地球から観測されるNGC4565銀河系のフォトと、恒星間立体マップを見せて説明する。当然ネリナ達もNGC4565銀河の存在は知っていた。彼女達の感覚からでも相当遠い宇宙で、まあ自分の生きているうちには行くことのない場所。もし仮にNGC4565・ティエルクマスカ銀河へ行くという話になれば、エルド・ドライブを使っても、少々のコールドスリープが必要となる場所だったので、驚きを隠さなかった。


『では、この恒星系からその……ティエルクマスカ銀河の、イゼイラ共和国へ向かうには……』

『はい、もうご覧になったとお聞きしていますが、その大きなリング状の超光速空間接続ゲートを使用します。あれを使えば、イゼイラ共和国なら大体……』


 ネリナ達の時間間隔で計算した、地球時間で言うところの三日ぐらいでの到着を彼女へ教える。最近はレグノス要塞を経由するので、それぐらいでいけるようになった。かつては七日ほどかかっていたのだから、ものすごい進歩だ。


『ご、五〇〇〇万光年を……そんな短時間で……』


 通常ワープ。つまりディルフィルドジャンプでも、連続ジャンプ航行なら二ヶ月ほどで行き来できると話す柏木。それは地球人と同様、それでも相当な短期間であるからして、驚くネリナ。


(では……この種族の技術を使えば……本国へ帰還するにも、数日かからないという事か!)


 当然そういう算段になる。何かを訴えそうになり、喉からこみ上げてくる声をグっと抑えて今は耐えるネリナ。まだうかつに彼女の想いを語るわけにはいかない。とりあえず彼らティ連人の話をすべて聞いてからと、今は自制する彼女。


 ……で、柏木は順を追って、地球の説明をする。


『先程から、貴官の様子を見ていますと……はは、ゼルドア提督達イゼイラ人よりも、私達日本人の方に興味がおありのようで』


 やはり表情に出ていたようだ。かつてはビジネスネゴシエイターと呼ばれた柏木の洞察力には敵わない。だがネリナもそこは率直に応じる。彼女も命をかけてこの場所を目指した訳であるので、彼女の船団を統括する責任者としてもはっきりさせておかねばならない。


『ははは、なるほど。それは当然の疑問ですね。というか、それにお答えするには、かなりの時間を必要とします。ねぇ? ゼルドア提督』

『そうですなぁ……一から説明すれば、我々イゼイラの歴史から語らなければなりませんからなぁ……そうなると、イゼイラの歴史講義を受けてもらわねばなりません。それでもよろしいなら、ネリナ司令。はは』

『あ、そ……それは……』


 そうゼルドアが話すと、柏木が、


『むはは、申し訳ありませんネリナ司令。ということです。お察しの通り、我々「日本人」というか、「地球人」もそのあたりは自覚しているのですよ。ですが、彼らの歴史もあっての話で、そういう事をまったく気にしない人々がティ連人の方々ですので、なんだか知りませんが私もこんな立場になってしまいまして……』

『何をおっしゃいますかファーダ・カシワギ。貴方が我々とこのような関係を作った張本人ではないですか。あ、それとフリンゼもそうですが……』


 頭をかく柏木。『あ~、まぁ~』とか言いながら。

 ゼルドアと柏木の漫才みたいな会話を見て、またカルチャーショックになるネリナ。だが一つわかった事は、この星間文明関係で、互いの科学文明格差を軽く乗り越えられるほどの相互依存関係を築ける何かがあったのは確かなのだろうと。そこは理解した彼女。

 逆に言えば、科学技術の違いを、種族の優劣基準として見ないこの関係を見て、『この人々は信用できる』と直感したネリナ。

 そう思うと、ホっとすると同時に、焦らずに話をしようと思うネリナであった……


 ……ということで、柏木は彼女にこの宙域と、地球の関係を説明した。地球の立体映像をネリナに見せる柏木。


『……なるほど、ではこの“カセイ”なる星は、この隣の恒星軌道にあるハルマ、あ、いや、チキュウと呼ばれる惑星の自治権内にある星であり、あなた方種族の本星はこの星であると』

『そういうことです。美しい星でしょう?』

『はい、全くもって……我々の故郷によく似た星です』


 微笑んで頷く柏木。


『で、我々の事はとりあえずこんなところです。で、次にあなた方の事ですが、ゼルドア提督から提出いただいた資料で大体のことはわかりました。実は我々連合も、貴殿ら文明の存在は把握しておりました。といってもここ数周期の事ですが』

『理解いたします。そのティエルクマスカの文明と接触してから、という意味ですね?』

『地球人の立場で言えば、そういう事になります』

『我々も同様の時期ぐらいに、この宙域で突如、人工的な重力震反応を感知して、母国の科学者達は驚いておりました。実は人工的な電波がこの宙域から発生していたのは、ずいぶん前から我々も探査機器を使って把握はしておりました』


 ネリナがいうには、グロウム帝国もこの宙域に知的生命体がいるのではないかとずいぶん昔から思っていたそうだ。いつかは人員を伴った探査部隊を派遣するための科学調査目標にはしていたのだそうだが、その文明レベルが人工的な電波反応だけではそんなに進んだ文明ではないのだろいうということで、後回しにされてきたらしい。だが、最近になって突如の重力震反応ときたもんだから、急に探査対象のレベルがあがっていたところだと彼女は話す。


『はは、では案外我々の世界で、UFOとか言われていた物体は、グロウム帝国さんの探査ドローンだったのかもしれませんね、提督』

『ああ、あのサマルカ人の宇宙船によく似たって奴ですか? はは、それはどうですかな。お話では、ネリナ司令の母国が飛ばしているドローンは、この宙域からまだ一光年ほど先で、このあたりを感知していた……という事らしいですから』

『ありゃ、そうですか』


 と、お互い打ち解けあってきたと見た柏木は、(そろそろか?)という目をしてネリナに語りかける。ここからが本番だ。

 そりゃそうである。彼女達がヂラールに追われて逃げていたような形で、ゼルドアと接触したわけであるから、そこが柏木達からみても一番の重要なところであるからだ。でなければ、ゼル通信までして彼がここに顕現する意味がない。


『で、ネリナ司令。ここからが重要なお話になりますが、あなた方がゼルドア司令と接触した際に会敵した敵性体……実は我々もその存在を把握している敵生体です。そのことでお話したいことがあります』

『えっ!! ま、待って下さい! あなた方は、あのバルターについてご存知なのですか!?』

『え? あ、はい……って、提督、その事はまだ司令には……』

『はい、お話していません。もしあの時話していれば、恐らく……』


 ゼルドアがあの時懸念したのは、ネリナが『協力してくれ、助けてくれ』と、その事に意識が集中してしまい、何がなんだかわからないまま状況が混乱してまうだろうと思い、あえてヂラールの事は話さなかったということだった。


『なるほど、賢明な判断です提督。多分どんな状況だったか、大体今の話で想像つきます。どうですか? ネリナ司令』

 

 ネリナは俯いてしばし考えた後……


『確かに、あの時はそうだったかもしれません。私自身、艦隊司令など初めての経験で、民間人を乗せた船を率い、糧食も底をつきかけ、兵も疲労困憊、士気だけでここまで来ました……確かに……』


 ネリナは柏木の言葉に同意してしまう。何とも自分達より科学文明として遅れた種族が、ここまでの説得力でネリナを納得させてしまう。

 彼女もこの男は只者ではないという感覚を感じていたりする。つまり、突撃バカオーラは伊達ではないということである。


『ふむ……では、ネリナ司令。あなた方と、あのバルター……我々はあの敵性体の事を「ヂラール」と呼称していますが、アレと、グロウム帝国の関係を、お聞かせ願えますか? そしてあなた方が、この宙域で観測した重力震反応を目指した、その理由と……』


 柏木の眼光鋭く、ネリナとの対話は続く……


    *    *


 さて、所大きく変わって、太陽系第三惑星・地球……のとある場所。

 その場所は何処か? それはわからない……ただ一つ言えるのは、その場所、普通の人間が入っていい場所、いてもいい場所ではないのは確かである。

 ではそこは身の毛もよだつ恐ろしい場所であるのか? それとも何か危険な化学物質に溢れた場所なのか? というとそういう場所ではない。そこは……


 超モダンなデザイン。まるで現代美術に現代建築か、言えるのは地球人の芸級感性の至高、そのようなものが、空間と相成った場所。

 長い緩やかな弧を描き、上階から下階へ伸びる階段。その壁際には、それは見事な耐圧ガラスで造られた、巨大な水槽壁が延々と部屋の壁を形成している。まるで広大な海洋の一部を切り取ったような空間で魚介類は優雅に泳ぐ。

 それは良く言えばモダンアートの結晶。悪く言えば、現代アート版の『成金趣味』

 そんな空間が、この地球の何処かに存在していた……

 部屋の性質は、所謂会議室だ。

 だが、会議室というには人がいない。そこに並ぶは、何十台もの空中投影型モニター。日本メーカーの技術である。


「ははは! みなさん、お待たせいたしましたね。もうお揃いですか?」


 ちょっと甲高い声。ちょっと女性的なイントネーションの入った……と難しい表現するよりも、はっきり言やぁ所謂『おネェ系』の口調に声色の、痩せ型体型の男性が、部屋の階段上階からハンカチで手を拭きつつ、降りてきた。水槽の魚に餌でもやっていたか、その時何か濡れたものにでも触れていたか。話す言語は英語である。

 首から下の姿は解るが、上はわからない。まあこの手の人物が登場すれば、そんなところだろうか。

 服装は見事なスーツ。勿論最高級品。指には見事な指輪をはめ、腕時計は……いや、腕時計ではない! なんとPVMCGである!

 なぜこのような人物がPVMCGを所持しているのか? アレを持てるのは現在、日本人とヤルバーン州に認められた外国人だけ。PVMCGの仕様によっては日本政府関係者しか所持できないはずである。

 だが、そのPVMCGは、よく見るとなんとなくヤルバーン州で造られたものと雰囲気が違う。

 

「最近はわたくしの持っている兵器産業系の株がすこぶる好調でしてね。ありがたい話です。やはりあのゼスタールさんですか? 彼らの来訪は我々“投資家”の“お仲間”のみなさんにも、すこぶるいい環境をもたらしてくれたようで……ま、そう考えると、かの柏木長官さんですか? あの方も良いお仕事をしたというところでしょうかね、ウフフフ」


 テーブルの上に幾つも映し出される空間投影モニターから、愛想笑いの声が聞こえる。そのモニターにも、首から下の姿は映るが、顔が見えない。男性もいれば女性もいる。老いも若きもいる。だが、共通しているのは、皆、彼同様見事な服装である。


 と、そんな話をしつつ、その男、上座の席に付く。刹那、どこからか見事なシルバー色の毛に覆われたペルシア猫が、その男の膝にのっかってきた。男はその猫をなでつつ、話を進める。


「……さて、お集まりの“投資家”のみなさん。って、最近はいろんなところで私達のことを“インベスター”なんて呼ばれたりしていますけど。って、英語話す私達からすれば、正味“投資家”って意味なんですが、ウフフフ。ま、面白いのでそのまま使わせていただいていますけど」


 すると、会議参加者の一人。中年の男性風な声色の人物が、


『我々東洋人からすれば、まあ固有名詞みたいなイメージも持てる語呂ですからな、ははは』


 と、大陸系の訛りも含んだ英語で話す。


「ですわね。ま、私達の連携もそこまで大きくなってきたということですわね。ですが、有名になってしまうのも考えものですが……あのニホン政府が名付けた『ガーグ』なんて品のない言葉で私達が呼ばれていた時期もありましたけど……」


 と、その男が話すと、今度は女性の参加者が、


『結局、あの時、エイリアンの利益へ便乗した私達が、このような形で残りましたものね、ナンバー1』

「ですわね、ナンバー4さん……っと、さて、皆様のご努力もありまして、世の中もなかなかに安定してきていますわね。『北』のアレももういませんから、盧主席さんが、彼の国の手綱をまた引き締めて、オイタしないように調整してくださるでしょうし、スチュアートさんも、ヤルバーン州系の技術製品にも関税をかける方向性で、まとめてくれているようです。この点は、ナンバー7さんのお友達が色々ご尽力していただいたようで、感謝していますわ」

『いえいえ、私が米国の商務長官と、色々“懇意”にさせていただいておりますので、まあその方面で……』


 ナンバー7を名乗る米国訛りの英語を話す人物がそんな話をしたり。


「で……ナンバー5さん? 日本のニトベさんの方は……」

『申し訳ないナンバー1。やはり彼は相当にガードが硬い。とりあえず直接的手段を講じてみたが、むしろ搦め手で行った方が良いかもしれんな』

「ふむ……では?」

『ニトベと対立する連中などいくらでもいる。その手の連中を使えばね。あと、現総理大臣のカスガから落とすという手もある……ただ……』

「ただ?」

『どっちにしろ、あの「情報省」の連中がな……』

「はぁはぁ、あの連中ですわね……」


 大きく渋い声色で話すその男……


「グレヴィッチさんは……」

『やはり奴はヤバイ。こっちのエージェントが返り討ちにあった』

「まさか、我々の素性が?」

『心配しなくていい。捕まったエージェントは既に始末した。FSBにも我々の子飼いはいる』

「そうですか、結構……」


 しばし考えた後、男はハっとなにか思い出したように……


「ところで、ナンバー10さん?」

『何か?』

「聞くところでは……火星で何か面白い動きがあると、お聞きいたしましたが……」

『今調べさせている。現在の情報では、また新たな異星人種族がらみの話という事だが、まだ詳しくはわからん』

「異星人? ゼスタールに続くですか……では、よろしく探りをいれてくださいね」

『わかった』


 なんとも、もう雰囲気からしてナニな連中ではある。そう、彼らがインベスターである。

 話の雰囲気からして、所謂地球で言う『ガーグ』から派生したか、それとも発達したか、そんな組織。

 北の独裁者を亡き者にし、タジキスタンのサマラン大統領も亡き者にした。

 二藤部を暗殺未遂。グレヴィッチに対しても手を出した連中。

 目的は、所謂異星人に関する利権がらみの話ではあろうが、一体何を目的としているのか……

 かつて柏木が言った『雲を掴むような連中、「ガーグ」』

 ただ、少しだけその濃度を増し、何かの掴みどころが出来たのか? そんな連中であった……

 

    *    *


 

『やはり、そうでしたか……あ、いや、現在の状況を見れば、そうなのでしょうが……大変な事になったな……』


 舞台は火星に戻る。

 ネリナから、彼女達がなぜにこの太陽系を目指していたのか、事の詳細を聞き取る柏木とゼルドア提督……


 ネリナ達がこの太陽系を目指した理由。それは状況から察せられる通り、彼女達の母国『聖ファヌマ・グロウム星間帝国』がヂラールの大群に襲われたからだという話であった。しかもグロウム帝国を襲ったヂラールは、柏木達が惑星サルカスで最後に見たヂラールコロニーを三基も伴ってやってきたらしい。しかもかなりの大規模な空間跳躍とともに……

 瞬く間にグロウム帝国周辺の、友好近隣国家はヂラールに蹂躙されて連絡が途絶えた。これが先にネリナ達が俯いてしまった理由である。

 それらの国々が、所謂共和制国家だったのである。ヂラールに対して共闘しようとしていた矢先の出来事であったそうだ。


 グロウム帝国も間をおかず戦闘状態に入ったのだが、いかんせん問答無用のその連中。当初はコミュニケーションを取ろうと試みたらしいのだが、サルカス事件でのガイデルや柏木達同様、ヂラールが『半知性体』であることを理解した彼女達は徹底抗戦をおこなったわけである。

 だが、それでも敵の猛攻に敵わず、帝国本星はグロウムの皇帝が封鎖を決定し、国民を可能な限り最前線から離れた所領惑星へと退避させたのではあるが、それも束の間、ネリナ達防衛艦隊が守っていた、地球で言う『サージャル大公』という貴族の所領であった『惑星サージャル領』へもヂラールが進撃し、領土総督であるサージャル大公は独断で領民を可能な限りの宇宙船に乗せて、避難させたという。

 その際、サージャル大公からの特命を受けた『サージャル領防衛軍第5防衛艦隊』は、事の重大性、つまりグロウム帝国軍だけではこの事態に対抗できない事を悟った大公の命を受け、そして一縷の望みをかけて、この危機を知らせるため、そして援軍を求めるために、巨大な重力震反応があったこの場所を目指した……という事なのであった……


 その話を聞いた柏木は、彼自身も状況から大体そういったところだろうと認識はしていた。

 そもそもゼスタールが地球世界に対し接触してきた事。ティ連との誤解を生んだ原因もそこだったからである。


『お願いしますカシワギ閣下! ……今でもサージャル大公殿下はあのバルターどもと兵を率いて戦っているはず! あなた方が奴らに勝利した経験がおありならば、ぜひ我々に手を!』


 椅子から立ち上がり、身を乗り出し柏木に訴えかけるネリナ。柏木はその迫力に少し圧倒されるが、彼も視線をネリナに合わせて起立し、ネリナの肩に手をおいて、


『お話は充分に理解いたしましたネリナ司令。まあ落ちついて……一つお尋ねしたいのですが、貴方が守ってきた民間の宇宙船団ですが……あの方々はもしかして最悪を予想しての、種の保存の意味合いもおありになると……』


 コクと頷くネリナ。つまり、ティ連が手助けするしないに関わらず、ネリナ達は母星。つまり死地へ戻るつもりでいるという話。なので、民間人を受け入れてほしいというのである。宇宙船の民間人は、最悪の状況に対する保険というわけである。

 なるほどとコクコク頷く柏木……ゼルドアと視線を合わせ、目で何かを確認し合う……


 ……ということで、ネリナからの聴取を終えた柏木。彼女には極めて前向きに善処し、至急で回答を出すと話し、とりあえず退席をしてもらう。後に残るはゼルドアと彼。


『提督……大変な事態になりましたね。まさか天の川銀河に奴らが進駐してきているなんて……』

『はい。結果論ではありますが、あの異常反応に気づいて良かった。まあ任務もこれで達成できましたしな。不本意ながら』

『はは、不本意ですか。確かに』


 ゼルドアからすれば、自分の部隊全員に、部隊の家族も引き連れた楽しい新天地への探索旅行。要するに社員旅行気分で、天の川銀河探査の任についていた感じなのである。まあ、ゼルドアから見れば、確かに不本意ではある。もちろん冗談だが。


『では、こちらもサイヴァル連合議長やマリヘイル委員長とも至急で話し合います。そちらは日本とヤルバーン州ですぐに当面の対応をよしなに』

『了解いたしました。ではすぐにでもトッキのファーダ・トウドウや、ジェルダー・クルメ、そしてゼスタールと対応策を協議しまス』

『そうですね。ゼスタールさんはヂラールに関してはプロフェッショナルです。彼らにも対応を要請して下さい……』



 ……ネリナ・マレード司令率いるグロウム帝国の艦隊とは、なんとも種の生存を賭けた放浪の艦隊であったのだった……ゼルドア達と邂逅するまでは……

 因果はネリナ達をゼルドア艦隊と接触させて、運命を柏木へ繋ぎ、彼女達を助けた。ある意味これも奇跡というものなのであろう。

 ただ、柏木が極めて重く憂慮するのは、あのヂラールが地球から数十光年内域に出現したという事実である。

 柏木は今地球やティ連で進む諸々の案件……UNMSCCの事案に、ゼスタールの抱える案件、そして当のヂラールの研究等々。


 そんな諸々を加速させていかなければならないわけで、これは久々に連合、地球を大きく動かす歴史的な事態になるのではと思うのであった……


 





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