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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
24/89

【第四章・天の川銀河】 第二三話 『グロウム』


 地球より水瓶座方面に約四〇光年離れた、地球でも有名な恒星系TRAPPIST-1。

 何年か前に、地球型の惑星が七つも連なる赤色矮星の恒星系という珍しい星系で有名になった天体だ。

 この中には生命の存在する地球に近似の惑星もあるのではないかと、一時期話題になった事もあった。

 もしこれがヤルバーンが地球に飛来する前の話であれば、それは遥か未来の人類に託された冒険の地という感じで今でも望遠鏡覗きながら、データと理論と、推測と妄想で語られる存在であったのだろうが、今ではなんともその場所へ行ける時代になってしまった……この世界では。


 ティ連は日本が銀河連合に加盟したその一〇年後。今、地球内で人類における新たな時代の出発点となれるか? という試金石的組織である『国際連合相互主権連携理事会UNMSCCアンムサック』の様子を見守りながらも、この太陽系の存在する天の川銀河系という広大な宇宙空間を探索する艦隊を編成し、方々へ派遣していたのであった。

 で、そんな艦隊の一つ。君島重工とヤル研の一部署にイゼイラ国防軍が共同で開発し、試験運用している全長二〇〇〇メートル級の地球型大型機動護衛母艦『ジュンヨウ』を旗艦とする艦隊が、手初めにこのTRAPPIST-1恒星系を探索する任務へ向かう途中で異変を感知し、急遽その異常反応のあった座標へと急行したという次第。


 ――ちなみにこの艦隊の旗艦『ジュンヨウ』の名称は、旧日本海軍航空母艦『隼鷹』の名称に由来する。つまり、二代目隼鷹といったところだ。艦名の意味は、単純に『ハヤブサとタカ』という猛禽類を意味する。旧日本海軍では、空母の艦名に空を飛ぶ生き物と山の名前の合成語を付けたという由来から。

 大戦中のこの艦は、商船を改造した民生品転用兵器であったが、時は戦時中。その商船も最初から改造を視野に入れた設計がなされ、この隼鷹改装後も、優秀な航空母艦として活躍。終戦まで生き残った艦でも有名である。

 さて、この大型機動護衛母艦『ジュンヨウ』は、その艦影がティ連初の地球型海上係留仕様艦として開発された『宇宙空母カグヤ』の設計に倣って建艦されている。まあ大きさは段違いだが。

 その艦橋も、前方寄りの長い島型艦橋を持ち、地球世界の空母でよく見られる、巨大なアングルドデッキが二段になり、前部発進甲板の長方形サイロ状構造物がひっくりかえって斥力砲塔が展開するなど、ティ連から見るとかなり意欲的な構造の機動母艦であった……ちなみにひっくりかえるギミック部分は、ヤル研が設計したという話。ドリルのついたミサイル積んだヴァズラーの搭載を提唱したが、見事にボツになった――

 この艦は、成績が良ければ三番艦まで建艦される予定になっており、その内の、この一番艦が特危自衛隊に配備される見通しとなっている。ちなみに二番艦の予定名称は『ヒヨウ』というそうだ。三番艦は、ティ連の有名なダストール軍人の名を取って『ザーストン』という名称になる予定。


    *    *


「全艦隊戦闘準備! 機動兵器部隊は随時発艦。駆逐艦及び巡洋艦は、正体不明の艦隊の後方へ展開。あの艦隊を援護せよ。機動戦艦は敵ヂラールに向かっている不明艦隊の小型艦に対して援護射撃。ヴァズラー隊は彼らを後方へ誘導だ。あの『トッコウ』攻撃をやめさせろ!」


 ティ連でも、外来語として今では日本語も普通に利用され、定着している。『トッコウ』即ち『特攻』の意味も皆が知るところだ。

 地球じゃなんでもかんでも自爆攻撃なら『特攻』『カミカゼ』と節操なく言うバカタレも多いが、ティ連では『自己犠牲を覚悟する献身的積極性のある攻撃』を表現する時に、この『トッコウ』という言葉をよく使う。確かにこの理解の方が正しい。


 ということで、ジュンヨウのブリッジで指揮するティエルクマスカ連合防衛総省太陽系方面軍空間軍第一探査艦隊司令でトゥラ・ジェルダーの『ゼルドア提督』に、その右腕、機動護衛母艦ジュンヨウ、イル・カーシェル『デルダ艦長』の名コンビ。

 彼らはティエルクマスカ銀河探索艦隊よりその能力を買われて、この太陽系までやってきたというところ。無論、旗艦ジュンヨウの航行試験も兼ねている探査航海であった。

 

「後方に控えている都市型拠点艦は現在の位置で待機。戦闘終了後、かなりの数の負傷者を収容する必要があるかもしれん。医療チームは万全の準備をさせておいてくれ。あと、あの不明艦隊のトップと会談の可能性もある」


 都市型拠点艦とは、軍の艦隊が長期間探査航海に出る際に、主力艦隊後方から随伴させるヤルバーンのような都市型探査艦の軍用仕様のようなものである。

 この拠点艦には兵の福利厚生施設に、家族が同行する場合は、その生活施設。そして司令部機能をも持つ。そういった所謂生活環境艦とでもいうべきものである。

 現状では正体不明の彼らを収容し、場合によっては保護する際には、最適の船と言って良いものであった。

 この船があれば、この正体不明の艦隊に何人けが人が出ようと余裕で対処できる。こういうところは流石ティ連の艦隊といったところか。


 ジュンヨウが探知したジヂラールの現行総数は大小合わせて四〇〇〇ということだったが、その殆どは一〇〇ほどある内の大型母艦型ヂラールから発艦した機動兵器だ。小さいものから、ティ連機動兵器サイズのものまでいろんな生体機動兵器が発艦しているようである。

 一機のヴァズラーが先の囮になろうとしていた駆逐艦に接近する。その駆逐艦も必死なのだろうか、ヴァズラーを敵と認識して対機兵器で迎撃しようとするが、勿論ヴァズラーの機動力ならその程度の攻撃を避けるのは簡単だ。光弾光線を縫うように不明艦隊の駆逐艦に取り付いた。

 ヴァズラーは巡航形態から機動形態に刹那で変形し、その駆逐艦のブリッジと思わしき場所へ接近。コミニュケーションを取ろうと試みる。

 駆逐艦の艦長も攻撃中止を命令したのか、ブリッジの窓を覗き込むヴァズラーに何か大声で訴えているようだ。無論ヴァズラー側は何を言っているのかわからない。

 ヴァズラーは腕にあたるマニピュレーター部で大きくジェスチャーをする。腕部を振って指差し、この所属する艦隊が進む方向へ行けと促すジェスチャーをとる。

 何回かそうやってジェスチャーで指示すると、また次の戦場へ向かっていくヴァズラーであった。


「機動兵器群、会敵します! ……敵確認、やはり報告のあったヂラールの空間機動兵器型です!」

「惑星サルカスで以前戦ったタイプか?」

「いえ艦長。よく似てはいますが、全く同型ではありませんね」


 なるほどと思うデルダ艦長とゼルドア提督。


「艦長、やはりあのイルナットとかいう惑星のヂラールは……」

「純正品ではないかもしれませんな。確か、ヤルバーン州軍、シャルリ大佐の部隊が研究解析に当たっているとかで結果待ちと聞いていますが……」


 頷くゼルドア。と、そんな話も合間にはさみながらもクルーが詠唱する報告は寸分漏らさず耳に入れている二人。


「不明艦隊、再集結したようです。小型艦も合流しています」

「こちらの誘導に従っています。不明艦隊もどうやら戦闘態勢に移行したようですね。こちらの動きに合わせてくれているようです」


 正体不明で満身創痍なその艦隊も自軍の兵器を展開する。どうやら機動兵器も保有しているようで、母艦らしき艦から数十機を発艦させているようである。

 機動兵器の形状は、ティ連の保有するヴァズラーや旭龍のような、所謂、四肢型や人型と呼ばれる兵器ではなく、高度な戦闘ポッドのような運用を思わせるイメージの兵器である。

 前から見るとT字状で、直線翼のような形状の中心部に頭部型のセンサーユニットがあり、翼状部分の下部から、武装を装着したマニピュレータのようなものがパイロンにぶら下げられたようなイメージで装着されている。更にミサイル兵器のようなものや、大型火砲に類する兵器のようなものもパイロンにぶら下げている。背面部には昆虫の腹部状にもみえるデザインのジェネレーターが装着され、ティ連型兵器と違い、噴射型推進装置を使って空間を飛翔する機動兵器のようだ。


「変わった形状の機動兵器ですな、提督」

「うむ……以前、ティ連本部で見た『脚部のない機動兵器』と運用思想がよく似ているみたいだな」

「はい、なんでも『脚部など飾りだ』とか。『高級将官には理解できない』とか、ヤルマルティアの技術者が言っていたとかなんとか」


 そんな事言ってるのは、多分あいつらである……

 それはともかく、その不明艦隊の機動兵器もなかなかの性能のようで、ジュンヨウ艦隊の到着で息を吹き返し、ヂラールを押し返す事に成功しているようである。

 サルカス戦の教訓もあってか、当時の機動重護衛艦『ふそう』の戦闘データのおかげで、ジュンヨウ艦隊の兵器も難なくヂラールに対応できていた。


「敵機動兵器型、当初の確認数から、七〇パーセント減少!」

「はあ……艦長、やはり報告どおり敵は撤退という言葉を知らんようだな」

「ですね提督。確か、フリンゼの妹君が『あいつらバカだから』とか言っていたそうですが、こういう事ですか」

「うむ……逆に言えば、それ故の生体兵器ともいえるか……」


 機動兵器戦も落ち着いてきたところで、当の機動母艦型や、戦闘艦型ヂラールがまだ残っている。それを叩いてこの場は凌げるわけであるからして……


「よし、では前部甲板武装展開。砲撃、誘導兵器で敵艦を仕留める」


 号令刹那に全艦艦砲を展開。ジュンヨウは前部甲板に仕込まれた兵装ギミックを稼働させる。

 ディスラプター砲にブラスター砲、粒子反応ポッドにミサイル兵器、斥力砲に重力子兵器の曳航が敵艦を射抜く。不明艦隊も呼応して砲撃を行っているようだ。武装の種類は、レーザー兵器の一種に、ティ連と同様のブラスター系兵器にミサイル系誘導兵器。そして、熱核系ミサイル兵器も搭載しているようで、敵艦の内部へめり込ませて爆破しているようである。かなり効果がある兵器のようだ……敵艦隊も反撃はするが、流石に現状の不明艦隊とジュンヨウ艦隊の攻撃には対抗できない。もうしばしの間で、決着も付くだろう。


「あの艦隊は……ヂレール核裂兵器を持っているのか……」

「のようですな提督。ヂラールにヂレール兵器とは洒落ではないですが、ははは」

「はは、語源が同じだしな……ということは、その手の技術を持っている種族ということか……」


 と、ゼルドアとデルダが、もう既に勝ちを前提にそんな会話をしていると、ブリッジにある人物が入ってきた。


《ゼルドア提督、お呼びでしょうか?》

「やあ、ヌォド通訳官、待ってたよ」


 なんと、ザムル族の士官であった。相も変わらずで独特の形状に、フワフワ浮かんで触手を振り会話している……といっても、相手の脳へ直接語りかけているわけであるが……


    *    *


 少々時系列を戻す……


 ティ連艦隊が正体不明の艦隊としているこの部隊。正体不明という言葉が付けば、世の中大体物騒な連中と相場が決まっているところなのだが、この艦隊はどうもそうではないらしい。

 所謂ヒューマノイド型種族で容姿は人類に近い種族ではあるが、眉と髪が一体化していたり、体表に模様のような痣をもっていたりと、やはりそこは違う点も多々ある。

 所謂ワープ系の技術も持っているようで、宇宙における科学技術レベルの一つの指標というのが、この超光速技術を持っているかどうかという点。これを所有している種族は、極めて高度な知的生命体というのは決定づけられているようなものなので、この種族も確実にそういうことになる……例外的にヂラールや、ティ連がかつて遭遇した『半知性体』のような存在もあるが、『高度な知的生命体』は、『高度な倫理観を持つ生命体』と同義ではないところに注意が必要である。


「ネリナ司令! こ、これは!!」


 ネリナと呼ばれるこの種族艦隊を束ねると思われる女性型の司令官、ブリッジのモニターに映る大型の航宙艦に驚愕する。

 彼女らの常識では見たこともない形状の艦。だが付き従う艦が妙に中核にあると思われる艦に対して形状的に、何やら幾何学的で、同じ種類の船とは思えないモノなので違和感も感じるが……


「ものすごい大型艦だ……これは、他文明の航宙艦なのか!?」

 

 と、そんな驚きも束の間で、通信士が現状の厳しい状況を報告する。


「艦長! 前方正体不明の艦隊から機動兵器らしきものが多数発艦しました! その数……え? すごい! 一〇〇〇!」

「なに! 一〇〇〇だと!?」

「はい、全てが我軍のシェイザー型機動兵器と同レベルのようです!」


 艦長とネリナ司令は互いに顔を見合わせる。彼らがバルターと呼称する所謂ヂラールの数『四〇〇〇』という数値は、大小合わせて四〇〇〇であって、この中でヴァズラー規模の機動兵器型は、その数八〇〇ぐらいなのである。即ち小型の機動兵器型が敵艦に取り付き、白兵戦を仕掛けるような連中も合わせての四〇〇〇であって、ヴァズラーや旭龍@マージェン・ツァーレタイプが一〇〇〇機もあれば十分対抗はできる。

 

「報告! 突撃を仕掛けていた駆逐艦及び巡洋艦、戦列に復帰します!」


 先程、エルドドライブなるワープ機関が破損した艦が、味方を逃がす囮になろうと敵へ特攻を仕掛けようとしていたが、なぜか中止し戦列に戻ってきたという。


「どういうことだ!?」

「は、はい司令……あの正体不明の機動兵器の援護を受けたということです」

「援護を……ではアレは味方……という事か? あ、いや、バルターの事を知っているということか?」


 恐らくそうなのだろうと確信するネリナ司令。でなければ自分達とバルター、即ちヂラールをこうも即座に見分けて攻撃する対象を分別するとは普通に考えて思えなかったからだ。


「…………」


 顎に手を当てて考えるネリナ。


「司令?」

「艦長、艦隊を集結させてあの不明艦隊の下方へ移動させろ。そして輸送船団のみ退避させて、我々は回頭し、戦闘態勢を取る。彼らに歩調を合わせよう……通信士、彼らに通信を絶え間なく送れ。まあとはいえ、我々の使用している通信方法と同じものを使っていないと意味ないが、あれだけの規模の艦隊を要する文明だ。それぐらい何とかするだろう」

「了解しました!」


 だが、そこが問題で、某突撃バカは天戸作戦をやったわけであるからして……今のティ連は、その通信手段において、量子間通信と電波通信しか知らないわけであるからして……


 その後、このネリナ司令の艦隊は、彼女ら視点での正体不明艦隊、即ちゼルドア提督艦隊と合流するような形で共同歩調を取り、ヂラールに対して反撃を行う。


「あ、あの兵器はなんだ? 観測兵!」

「は、はい! 強力な瞬間的局地超重力反応です!」

「重力兵器か! す、すごい……我々でもあの手の兵器は実用化されていない……この連中は!?」


 ゼルドア艦隊の発射した決戦兵器の一種、『重力子砲』に『ディルフィルド魚雷』を見て驚くネリナ。ヂラールが殲滅されていくサマに、ブリッジが歓声を上げる。

 先程の悲壮感はどこにいったか。希望が見えた状況にみな安堵の表情になっていた。だが、それでもこの状況を打開してくれたのは、ネリナ艦隊から見て全くの未知の存在であるわけなので、本来ならそうそう喜んでもいられないのではあるが、これまでのその不明機動兵器の挙動やら何やらからすると、ネリナ達に敵対しようとしているわけではないような、そんな感じもするのでここはネリナも状況を見守ろうといったところだ。


 そして彼女には予感があった……これが彼女達が求めた『あの座標』の存在なのではと……


    *    *


 時系列を戻し。再びゼルドア提督旗下、太陽系方面空間軍第一探査艦隊。


「ではヌォド通訳官、やってくれ」

《了解です。生体測距お願いします》


 現在ジュンヨウ下方にいる所属不明艦隊。その旗艦と思わしき一番大きな五〇〇メートル級艦船に向けて、探査光線を浴びせる。

 勿論ネリナ達はその光線を浴びた瞬間、ゼルドア達の攻撃かと瞬間思ったが、彼女達も即座にコレが調査用の何某かということを理解した。勿論どこにも被害が出なかったからである。それに彼女達も同じような技術を持っているからだ。

 しばしその光線をあびるネリナ艦のクルー達。この光線の正体は言わずもがな、あのISSクルーや柏木がファーストコンタクト時に浴びたあの光線と同種のものである……そして……


《我々は、ティエルクマスカ銀河星間共和連合防衛総省太陽系軍管区司令部特危自衛隊所属、第一探査艦隊司令ゼルドア・ディナ・アーガスです。我々は貴艦隊に対し、敵対の意思はありません。我々は貴艦隊が我々も敵性とする存在と戦闘状態にあったため、援護を行いました。我々は貴方がたとの接触を求めます……》


 増幅されたザムル族、ヌォド通訳官の脳波を測距調査した彼らの通信規格に乗せて放った。

 ネリナ艦隊の通信システムは、どうやら亜空間転移通信と表現すれば良いか、そのようなシステムを使っているようである。

 つまり、光や電磁波動、空間振動波をワープさせて天文学的単位の距離を短時間で通信する方法である。

 ティ連の量子間テレポート通信に比べると、勿論圧倒的にリアルタイム性に欠けるが、それでも相当に高度な通信システムは持っているようだ。どっちにしてもティ連にはないタイプの通信方法である。

  

 ネリナ艦では……


「うっ!? なんだこれは……頭の中に直接何かが語りかけてくる……」


 頭を押さえるネリナ艦のクルー達。勿論ヌォドの語るゼルドアの言葉はすんなりと頭に入り、理解できる。

 

「トッキジエイタイ?……タイヨウケイグンカンクシレイブ……」


 ちなみに現在『ティ連太陽系軍管区司令部』とは、ご存知『特危自衛隊』の事なので、本来ティ連では『特危自衛隊』と言えば、ティ連太陽系軍管区司令部の事を意味するのだが、いかんせん固有名詞なのでわかりやすく『太陽系軍管区司令部特危自衛隊』と呼ばれていたのが、いつの間にか正式呼称になってしまったというところ。


《現在、我々から貴方がたへはこのような形で、我々の意思を送ることができますが、残念ながら貴方がたの言語を我々が理解するには少々時間がかかります。従って、我々は貴方がたに色々と質問しますので、もし『はい』であれば、発光信号を一回、『いいえ』であれば、発光信号を連続二回灯して頂きたい。理解していただけましたか?》


 この言葉にネリナは、


「おい、通信士できるか!?」

「はい、今すぐ!」

「よし、では信号を灯せ、指示は私がする」


 すぐにネリナ艦から大きな光が一回灯る。するとゼルドア艦では……


「よし、意思が伝わったな。さすがはザムル族だ。こういう場合は心強い」

《恐縮です、提督》

「では、どんどんいこうか、まずはゼルクォートを彼らに貸与して、会話をスムーズにしないとな。全てはそこからだ。頼むよ」


 と、このような最新鋭と原始的な意思疎通が互いに繰り返されていく。


《貴下艦隊に負傷者はいるか?》『YES』

《負傷者の人数は何人か? 発光回数で理解する》百数十回の発光。

《これから貴艦隊の全艦を、当方のドローンで構造を調査するが許可してもらえるか?》『NO』

《軍事機密は理解するが、許可してもらえば修理はこの場で可能である。悪い話ではないと思うが》『YES』

《次に、我々には貴殿らの生体データを取得することで、翻訳システムの構築が、間をおかず可能である。貴殿ら種族の生体データを取得したい。どなたか指定する場所へ登壇願いたい》


 この要請には躊躇するネリナ艦クルー。まあ普通に聞けば、『生体データを取る』となれば、何か痛い事でもされるのではないかと普通思うだろう。ゼルドアも多分そんな事考えてるのだろうと即座に察し、


《何も心配はいらない。先程の走査光線を浴びてもらうだけである。身体的な心配は何ら必要ない》


「わ、わかった。私がやろう」

「司令!? 危険です! 私が!」

「いや艦長、どうも彼らは相当な科学技術を持っている存在のようだ。私自身も色々興味がある。まあ心配するな」

「は、はあ……」


 指定された場所、ネリナ艦の甲板へ宇宙服を来たネリナが現れる。宇宙服と言っても進んだもので、ライダーのツナギのような感じのものだ。

 すると、ネリナの前にヴァルメが飛来し、かの時の千里中央での柏木のように、体を走査光線がくまなく這い回る。


 ……その後、ネリナ艦隊はゼルドア艦隊とともに、後方に控える拠点艦まで同道してもらうことになる。

 ネリナはそのジュンヨウよりもはるかに巨大な正六角形型の航宙艦、というよりネリナ達の基準では『宇宙要塞』にも匹敵する船を見てこれまた驚くわけだが、それでも地球人がヤルバーンを初めて見た時にくらべれば全然驚きようが違う。即ち、ティ連の軍事力の強大さに脅威を感じたといったところだろう。彼女達の基準でも、この手の建造物だけでいえばその存在として在るわけだから、驚く基準が地球人とは違うのである。


「艦長、この規模の艦が通常の遠洋艦隊に一隻配備されているという事なのでしょうか」

「だろうな……我軍ならこの大きさの宇宙空間構造物となれば、宇宙ステーションか、宇宙要塞か、はてはコロニーだ。こんな大きさのものを軍用艦艇として運用するなんて……」


 このあたりは柏木先生も同じ見解であったのが思い出されるが、やはりネリナ達ぐらいの科学文明でも、ティ連の科学力、即ちトーラル文明圏の科学力は異常に過ぎるといったところなのだろう。


 ゼルドア艦隊は全艦艇一旦停止し、ネリナ艦隊の受け入れを行う。

 ネリナ艦隊の艦艇は、拠点艦の外部係留ドックへ損傷具合の激しい船から係留され、即座にこの初めて出会う文明の宇宙艦艇解析作業に入り、修理修復作業が始まる。

 ゼルドア提督はネリナ艦隊の旗艦搭乗口で彼女が出てくるまでしばし待つ……すると、ハッチが開き、ネリナの姿が見えた。歩みを進めると……


「*&^%!!」


 と少し仰け反って驚いているようだ。なぜかといえばヌォド通訳官がゼルドアの隣にいたからである。

 ま、このあたりはヒューマノイド型知的生命体のお約束といったところか。ヒューマノイド型の生命体なら、まあザムル族の容姿は驚いて普通である。隣にゼルドアがいるからまだマシだが、ゼルドアの容姿でも、羽状の体毛を持ち、水色肌を基調にカラフルな体色を持つイゼイラ人は、驚きの対象である。


「ようこそ、異星の方々。私がこの艦隊の最高司令官、ゼルドア・ディナ・アーガスです」


 ネリナ達はまた頭を押さえ、ヌォドの脳波会話を感じ取る。ネリナもどうやらヌォドの能力でこのような形のコミニュケーションが取れていることを理解したようである。


「*&%$#%^*^**^」


 ネリナも右手を顔の横に掲げる。どうやら彼女達の敬礼のようだ。かつての旧ドイツの略式敬礼のような格好で何かを話しているようであるが、勿論何を言ってるかは解らないわけなので……

 ゼルドアはPVMCGを取り出して、ジェスチャーで腕に付けるようネリナに促す。

 ネリナも頷きながらそれを腕にはめ、ゼルドアがポポポっとVMCモニターを立ち上げて設定をすると、ゼルドアも自分のPVMCGをセッテイングして……


『コれで、会話ができると思いまスが、如何ですかナ? 先程貴殿の脳構造をスキャニングさせテ頂き、貴方がたの通信の音声会話を解析後、彼らザムル族の技術力で翻訳システムを構築させて頂きマした』

『オオ……素晴ラシい……ハイ、理解できます提督閣下。このような便利なシステムがあるとハ……我々にも翻訳システムはありまスが、ここまで短時間で構築できる技術でハ、アリマせん』


 と、ネリナは地球式の握手を求めてくる。こういうところは自然発生的に類似する文化もあるのだろう。ゼルドアもその手を握って返す。


『自己紹介が遅れマした。私は「聖ファヌマ・グロウム星間帝国、サージャル領防衛軍第5防衛艦隊司令」の、「ネリナ・マレード」と申します』


 「?」と思うゼルドア。


『司令、とおっしゃいましたが、提督閣下ではないので?』

『ハイ。私は本来アの船の一艦長でしたが、我が艦隊の提督が座乗していた旗艦がバルターに撃沈され、ソの後もっとも階級が上であった私ガ司令という形でこの艦隊を率いておりました』


 つまり、ネリナ艦の現艦長は、ネリナの副長であったということだ。戦時特例法みたいなものが適用されて、ネリナは司令になっていたという事らしい。で、ネリナの階級は、地球やティ連の階級に当てはめると、本来『大佐』にあたる階級だそうだ。


 ゼルドアは彼女らを迎賓区画へ案内し、「食事でも」という事で、メシでも食べながら色々話そうという段取りに相成る。

 食事の方は、バイタルデータを取得済みなので、彼女達『グロウム人』も食べられる食事をということで、ティ連でイゼイラ人といえば出てくる食事は……


『こ、コれは……うまい! ……』


 カレーでした。全宇宙共通のご馳走確定である。

 つまるところ、宇宙で邂逅する種族の友情など、旨い食い物一つでキマリなのである。それを体現したのがフェルであった。

 なので、ティ連ではこういう場合、まずカレーを出してみる。勿論みんながみんなカレーをうまいと言う訳はないとは思うので、対象の種族バイタルを見ながらその2その3とお食事外交という感じなのだが、これまでカレーが不発に終わったことがないのが素晴らしいという次第。かの知的人格体ゼスタール人ですら認めた食事であるわけで、まあいまのところ間違い無しといったところ。


『ネリナ司令。今、貴殿艦隊クルーの方々にもコれらの食事を支給させていただいておりマす。あと、特別に宿舎も用意させマしたので、今はゆっくりと休息をお取りになるがよろシい。それと……軍用艦でない一般宇宙船デスかな? あれに搭乗されている方々にも同様の待遇を致したイと思うのですが、どうも我々を警戒シテいるようで……できましたら、貴方の方から説明していていただけるト有り難いのですが』

『は、閣下、何から何マデありがとうございマす』


 ゼルドアは頷きながら、


『マア、お互い聞きたいことは山ホドあるでしょうが、とりあえずは貴方がたが一ツ落ち着いてからにしましょウ。少々間を置いたところで何か状況が劇的に変化するわけでもないでしょうし』


 ゼルドアはネリナ達が明らかに何か急いているところがあるのは、先の彼女達の艦隊運用からも見て察していた。なので、遠回しに『とりあえず、まずは休め。話はそれからだ』というニュアンスで、そう話す。

 ……と、そんな感じで食事なぞしながら雑談も交えつつ、ゼルドアも彼女から色々とグロウムの事を聞き出すことに成功するわけだが……


 ……まずは、この『聖ファヌマ・グロウム星間帝国』という国家。この天の川銀河にある国家で、地球から約三〇〇〇〇光年。天の川銀河外周方面にある星間国家という事だそうである。

 ファヌマ教という多神教宗教を国教とした帝政国家で、現在は立憲君主制に近い政体を持つ国である……とゼルドアは理解した。

 なるほどイゼイラ人の彼から見ても、ネリナ達が少々時代がかったような軍服を着用しているのは彼女達文化の様式美かと思うわけである。


(ふむ、あとで詳細を調べねばならないが、恐らくこのグロウム帝国なる国が、防衛総省本部が探知したこの銀河にある恒星人工エネルギー反応のあった知的生命体とみて良いのかもな……)


 精査は後ほと必要であるのは大前提の話で、なんとも火星基地を出て一〇ヶ月後に当初の探査目標と遭遇してしまうとはと思うゼルドア。のんびり宇宙探査でもしながらという彼ののんびりした仕事の計画も、本日で終了である。恐らく事が重大な方向に進んでいくのではないかと予感する彼。

 ゼルドアはネリナからも色々と質問されるが、『まあ落ち着いて』という事で、後ほどの会談で説明する旨を話す。乗組員からの事情聴取も行わなければならないだろう。どちらにしても現在の状況は異常事態であるのは事実なので、万全の体制で望む必要がある。

 雑談程度の軽い話で、彼女達の緊張を解こうと気を利かすゼルドア。彼はコレで意外に気遣いデルンで知られている。そんな中の雑談程度の話題。彼女達が帝政国家である点を踏まえて聞いてみる。


『ネリナ司令。貴方がタは、「共和制」「民主主義」という政治体制を理解デキますか?』

『は? あ、ええ、勿論です閣下。我が国の友好国には、そのような政治体制の国もあります……あ、いえ、ありました……』


 なぜか急に沈んでしまうネリナ。ゼルドアは軽く頷く。恐らく彼女が沈んでしまったのは……


(ヂラールに関わることか?)


 と思ってしまうのであった。

 ゼスタールからもたらされた重大な情報。あのヂラールが、この宇宙世界にも入り込んでいるかもしれないと事実。これが裏付けられ、更には相当活発に活動する状況が、この天の川銀河にあるかもしれないという脅威。

 S級の情報となるだろうが、ティ連系国家はともかく、地球社会の国家がこの事を知ってしまったらどうなるのかと危惧もするゼルドア。

 しかも彼がこの情報を報告する義務のある御仁は、かの、柏木防衛総省長官である。

 彼ならどう判断するか。これは興味のあるところのゼルドアであった……


    *    *


 宇宙で、しかも地球からは割と近い数十光年の場所でそんな大事が起こっていた時、地球ではかの『国連相互主権連携理事会・UNMSCCアンムサック』による安定化措置作戦が進行中。


 ヒィィィ……という電気的な音を唸らせながら、空挺車両を駆って首都ドゥシャンベを目指していたUSSTC勢。

 現在首都に入った直後といったところ。

 だが、空挺戦闘車両が何かの攻撃を食らったか、ドォン! と爆炎をあげる。だが幸いな事にアクティブ防御システムがギリギリで稼働し、空挺戦闘車両は寸前で事なきを得た。


「散開! 散開! RーPーGー!」

「こちらFURY-1。敵からの攻撃を受けた! ……」


 USSTC、モーガン・スミス最先任上級曹長、所謂マスターチーフ率いるロボットスーツ兵部隊が空挺戦車を中心に左右へ散開する。流石歩兵自体が機械化された部隊である。その行動速度も普通の歩兵と比べられるものではない機動速度だ。

 現在首都に進行中。首都へ近づけば近づくほど抵抗は激しくなる。当たり前だが。

 だが、USSTCは事を早く進めたい。あまりこの国の兵と戦いたくないのである。従って最低限の反撃に撤するるよう、全隊員には厳命をしている。


「マスターチーフ!」

「どうした!」

「敵の中にやっぱりいますね。非公式でしょうが……」

「チッ、だが後方には監視部隊も編成してるんだろ? 連中は!」

「ええ、ですがアイツらの軍内部の仕業か、向こうさんの政治の話か、どっちか知りませんが、戦法から見てもいるのは確かです。間違いありません」


 彼らが問題視しているのは、タジキスタン軍の中にいる『駐留ロシア連邦軍・第201自動ライフル師団』の事である。

 所謂、在日米軍と同じようなもので、この部隊はロシアの在タジキスタン。ロシア連邦軍である。無論、在日米軍とは比べようもない規模ではあるが……

 そんなロシア軍の基地から、ロシア兵が綺麗さっぱり消え失せたという事件は、ロシアも含めて世界に知れ渡る事になったのだが、どうもこのロシア軍が、タジキスタン軍の内部に義勇兵として加わってるという話なのである。


「……となれば、ロシア兵とて容赦できんな。サマラン大統領が金で雇ったか?」


 スミス曹長がしかめっ面してロシアと言う国を呪うような顔をする。


「どっちにしろ、後方でUNMSCC決議違反のチェックする学級委員長がロシア軍で、そのご親戚が駐留ロシア兵ですからね……我々USSTCには独自に先制攻撃権がありますが、割とめんどくさいですよ、この状況」


 一般兵がそういうと、スミスがしかめっ面で頭ボリボリかいて何か考える……

 正直ロシア兵なんてどうでもいいわけで、妨害してくるなら射殺も辞さん! とおもうマスターチーフであったが、これなかなかそうそううまい具合にいかないというヤツで……


「マニューバータンク! タンク!」

「下がれ下がれ!!」


 機動戦車独特のリニアクローラー稼働音が聞こえる。と同時に重機関砲に一四〇ミリクラスの砲発射音だ。

 ここまで同時に複数兵装による同時高精度攻撃が可能なのは、機動戦車しかいない。


「チッ! なんでこの国がマニューバータンクなんて持ってるんだ!? クソっ!」

「POTです、マスターチーフ! こりゃもう疑いようがないですよっ!」


 つまり先程のタジキスタン駐留ロシア軍がタジキスタン軍に横流ししたものだろう。乗っているのはもしかするとロシア兵の可能性もある。

 なぜに駐留ロシア軍はこんなことをするのかといえば、これも政治である。要するに今回の作戦に反対票を投じた中国とロシアが、現タジキスタン政権を支持しているために体裁だけでも協力し、作戦終了後に『LNIFに権益が侵された』とか理由つけて、戦後のこの地域での発言権を増そうと狙ってたりするわけである。勿論、この駐留ロシア軍の行動は知らぬ存ぜぬで通すだけ。それで通るのだから、『大人の事情』ならぬ『大国の事情』とは、聞いていて頭が痛くなってくるところもあるのだが……そんな事も現場にいる『大人』は考えなきゃならん時もあるのだからタチが悪い。


『こちらデルタ! 機動戦車の集中攻撃を受けている! ここに張り付けだ! なんとかしてくれ!』


 この時代でも機動戦車は健在である。機動戦車は、戦車にロボットの上半身的な主砲塔を搭載した高機動兵器だ。見てくれこそ戦車臭さが残るが、ティ連も認めた二足歩行兵器と同等の機動力をもつ陸上兵器である。その複数兵装の独立同時攻撃能力は侮れない。


「チャーリーにブラボーは側面から回れ! 誰か火力あるやつは!?」


 すると、スミスの背後から、


『はいは~い。火力ならおまかせですっ!』


 お助けエルフのプリルだった! 蒼星がズドンと着地の唸りを上げて、左五指型の、M230をROT-116に向かって浴びせかける……が、やはり五門とはいえM230の口径では心もとなかった……弾がキンカンと弾き返され、あまり効いていない。それどころか、一四〇ミリ砲を発砲され、それを左腕部のシールドでモロに受け止める。直撃弾だ。


『うひゃー!!』


 だが、敵砲弾を弾き返す事に成功した。APFSDS砲弾を弾き返す材質のシールドもメチャクチャ大したもんではあるが……


「おい! ミスエルフ! 効いてないじゃないか!」とクレームのスミス。

『ありゃりゃ、機動戦車って案外タフなんですねッ! んじゃこれはどうですかっ!?』


 プリルは砲弾食らった左腕シールド先端を敵機動戦車に向けると、シールド先端内側から、ニョっとティ連型デザインの砲口が二門姿を現す。


『これでもくらえぃ! たー!』


 その砲口からぶっ放されるは、新装備のブラスター砲であった。熱光弾が曳航描き、POT-116に吸い込まれる。

 と刹那、POTの前部車体から大きな火花とともに、炎が上がった!


「よっしゃ! ミスエルフ! よくやった!」


 蒼星のコクピットでフフン顔のプリ子。外では『yeahー!』と雄叫び上げるUSSTC兵士達。

 そして、プリルの蒼星の姿見て、続々と投降してくるタジキスタン兵士達。そりゃそうだ。この国は元々は立派な立憲国家だったのだ。それが国のトップの資質でこんな国になってしまう。かなわない話である。


    *    *


『カズキサン! じゃなかった、シャドウ。アルファ! 首都守備隊はなんとか抑えましたよっ! そちらはどうですか!』

「こちらシャドウアルファ。シビアさんの誘導で、なんとか大統領官邸に侵入できました」

『了解です! USSTCサンの援護はこちらに任せてください。あとはお願いしますね』

「わかりました。プリちゃん、ご苦労様です」


 先のUSSTCの戦闘は、所謂陽動。陽動作戦というヤツである。その目的は、JCIAの月丘を大統領官邸に潜入させて、例のイママリ・サマラン大統領の身柄を拘束しようというのが本来の作戦。

 なんせこの国の兵士とドンパチやるのは正直辛いものがある。彼らは何も悪くないのであるからして。

 独裁国家で、独裁者の音頭に『ヤー』とお祭り気分になって同調すれば、その時点で国民も同罪である。『洗脳されていました。騙されていました』なんて理由は通用しない。そんなもの通用しないのわかってるから、大戦後の日本で、かつての昭和天皇は自分の罪を以て、国民家臣を不問にしてもらうように、命がけてマッカーサーへ請願に行ったのだ。

 とはいえ、そうだとはいっても元々立憲国家のこの国の国民に銃口を向けるのはどうにも忍びない。なので、この国のアホトップをとっ捕まえてブタバコ放り込むか絞首台に送りこむか、とりあえずそれをやってとっとと現状に終止符を打ちたいのが此度の作戦参加国の本音であった。でもってとっとと世界を安定させて、ゼスタール技術や、一部サマルカ技術を用いてスンナリやることやっておきたいというのが、UNMSCC常任理事国の本音であった……にしてもロシア義勇兵邪魔である。


    *    *


 現状、この国の首都であるドゥシャンベ周囲は、現状UNMSCC決議国軍でほぼ取り囲まれている。

 しかも連合日本の援助で、監視警戒型のヴァルメを周囲に対探知偽装かけて張り巡らせているわけであるからして、文字通りネズミ一匹逃さぬ構えである。


 そもそもこの戦いは、タジキスタン側に勝ち目などハナからない。抵抗するだけ無駄な事というのはタジキスタン側もわかっているので、普通に徴兵されたタジキスタン側兵士は、ほとんどの戦場でとっとと投降しているのである。勿論多国籍軍側も投降兵士を無碍に扱ったりもしていない。事情聴取が済めば、うまい食事もでる収容所へ一時的に収容して、お金渡して解放しているのである。

 収容所の建設に、食事の供給はヤルバーン州が協力している。生活物資に糧食の供給は、ハイクァーンで賄えば問題ない。

 だがそれでも厄介なのが、原理主義と結託した勢力に、隠れロシア軍である。

 隠れロシア軍側は、もう既にここにきて状況不利とみたのか、退却を開始しているようだが、原理主義と結託した大統領勢力側は、しぶとくまだ抵抗している。それでも刻々と不利な状況になっていくのは必然なので、サマラン大統領側も色々と知恵張り巡らせて考えようとする。これ以上まだ抵抗するか、それとも大統領逃して自分達も逃げるか。もう一つの選択肢は、大統領を売って投降するか。

 彼らも大統領官邸という場所からは動けないだけに外の部隊との連絡を密にしょうと試みるが、殆どの兵は状況が末期状態であることを察していく……


 タタタ……と、AK系列の銃特有の銃声に、電気的な衝撃音が交錯する。


「よっと!」


 迷彩色の宇宙諜報員型コマンドローダー姿の月丘が、敵の銃弾飛び交う官邸通路に飛び出て、リパルションガンをぶっ放す。

 弾丸は重麻痺モードにセットしている。まあ中には原理主義勢力もいるのだろうが、殆どが正規兵だ。殺すのは忍びない。

 AKの7,62ミリ弾をカンカンと弾き返しながら突っ込む月丘。この程度の弾丸は、彼の装着するコマンドローダーにゃ全く通用しない。

 うろたえ、背を見せて逃げる敵兵に容赦なく弾をぶち込む月丘。更には……


「うわあああ!」「ぎゃああああ!」


 体中に不気味な配線をまとわせて、通路を転げ回る敵兵士。その先を見ると……冷静なおすまし顔でスタスタとこちらに来るシビア。


「ご苦労さまです、シビアさん」


 シビアがお得意のゼル端子を放って、敵兵を拘束していたという次第。


『問題ない。ツキオカ生体、この主権体の長は発見できたか?』

「いえ、まだです。ですが、ここにいるのは間違いないでしょう。先程ムスタファからも連絡がありましたが、捕虜からも言質がとれたそうです」

『了解した。では施設内を各個状況確認していくしかない』

「ですね……」


 と、その時! タタタンと銃声の音が数発鳴り響く。


「!?」

『音響発生源解析……確認。追従せよツキオカ生体』


 スタタタと腕を後ろへ伸ばすように走り出すシビア。続く月丘……すると、兵達がバリケード作って守っていた先の裏庭に、Mi-24/35Mk.Ⅲスーパーハインドが駐機されていた。恐らく大統領逃亡用の機体だろう。

 だが、その機体の前に倒れる、大統領を警護する兵士と、パイロット。それと……


「これは……サマラン大統領……」


 無残な死体であった……


「誰がこんなことを……」

『ツキオカ生体、我々なら誰がこの行為を行ったか、まだ今なら調べられる』

「え? どうやって……あ、まさかスール化!」

『いや、完全に生体機能が停止している者をスール化する事は不可能であるが、脳細胞組織が機能している間であれば、記憶を探ることは可能だ』


 即ち、シビア達が以前国連の女性事務総長と入れ変わった時に行ったヤツである。彼女達は相手の記憶をある程度探ることができるのだ。

 シビアは指先から細い配線をサマランの遺体の耳の穴へ這わせ、脳へ直結させる。

 瞑目するシビア……しばし時間を置くと、耳の穴から配線を抜き、シビアへ支給されているPVMCGで、タブレットとペンを造成して、彼女は何かを描き始める。

 絵を描くというよりは、プリンターの如き筆使いで『描画』しているといった感じの絵で、何かを描き出した。

 何か映像装置使って再生すればいいではないかという話もあるが、それを行うにはやはり補正処理の都合上、若干時間がかかる。なので、シビアはこういう方法を取った。アナログな手法も状況によっては即効性が高いという次第。


『ツキオカ生体、この者の記憶から、このような映像を抽出できた。何か解るか?』


 その画を一瞥する月丘。写真のようなデッサン画である。


「おお、うまいですねって、シビアさんならこれぐらいの事はできますか。どれどれ……」


 指でタブレットをピッチイン・アウトしながら色々と眺める彼。恐らく死の直前に見た大統領の記憶。誰かに撃たれる直前の、彼の視点らしき状況が描かれてあった。


「……この服装はロシア軍の服装ですが、ふ~む、少し釈然としませんね。このタイプの戦闘服はこの地域のロシア軍では使ってない筈。持っている銃も……まさかPMC? ……う~む」


 この画というか写真を見ただけではなんともわからんと思う月丘。

 だが、この時点で作戦は終了してしまった。なんともあっけないものだ。ここに倒れている兵士や大統領に向かって合掌する彼。シビアも月丘の方を見て、見よう見まねで合掌していたり。だが彼らは恐らく一神教宗教信仰者だとおもうので、逝くところは別の所なのだろうが……


    *    *


 そして、作戦は終了する。

 なんだか妙な形で終わったこの事案。大統領を拘束できなかったのは残念ではあるが、結果的に当初の予定を完了したのでよしとすることにした彼らである。

 USSTCとプリルが大統領官邸に到着した時、スミスは月丘がサマラン大統領を射殺したと思ったそうなのだが、状況記録映像で先の通りを説明すると、スミス曹長にプリルも両手を横に広げて訝しがっていた。


『え? じゃあ、ダイトウリョウは、誰かに殺害されたってことですか? カズキサン』

「うん。まあその『誰か』が、ロシア軍なら、役に立たなくなったサマラン大統領を切った……ってことで説明がつきそうですが、ちょっと無理があるところもありますからね……」


 そう、確かにロシアからすれば親ロシアであったこの国をイスラム系国家にしようとしていたサマランは鬱陶しい存在ではあったが、それでも親LNIFでないだけまだマシではあった。ロシア駐留軍の存在は認めてくれていたし、仮にロシアなら、彼らなりのやり方で殺すまでの事をしなくてもサマランを排除する事はできたはずである。それに、裏庭に駐機してあったスーパーハインド。あれは恐らくロシアが手を回した機体だと見てもいいだろうと思うこともできた。あんな高性能の戦闘ヘリを現状のタジキスタン軍が持っているはずがない。多分、ロシアへの亡命を図った可能性もある。


「で、この画像、白木班長と、クロードのところへ送ってくれました?」

『ハイ、バッチリですっ!』

「うん、これで何かわかったらいいんだけど……で、プリちゃんも大活躍だったそうじゃないですか」

『え? 大活躍ってほどの事じゃないよ。勝手に向こうが降参してくれただけだから』


 そう話すと、向こうでUSSTCの隊員がプププっと笑ってこっちを見ていたり。

 なんでも話を聞くと、プリ子があの蒼星から拡声器で


『コラぁ~!! てめーら降参しないと全員ノミみてーにプチプチ踏み潰すぞぉ!』

『火炎放射器で全員丸焼きにしてやろうか、ええ~!? あ~? コラぁ!』


 とか言って、あの蒼星の容姿を見せつけて暴れまわっていたらしい……姉貴パウル譲りの戦法だそうである。

 そりゃあの蒼星の『全長十数メートル上から目線』で言われたら、元々戦う気のない善良なタジキスタン兵達はビビってホイホイ投降してもくるワケである。


「ぷ、ぷりちゃん……あのね……」

『アー、だってだって、この方法がイッシンキョーっていうしゅーきょーな人達には効果覿面だっておねーちゃんが言ってたもん』

「いや、まぁそれで死傷者がでないのが良いのか悪いのか……」

『ケラー・ムスタファにも「良かった!」って褒められましたよっ!』

「ムスタファ……あいつも……ま、まぁあの時も誰かが確かそんな事を……あれってシエさんだったっけ?」


 まあいっかと思う月丘……とりあえず作戦終了である……なんともかんとも……


    *    *


 その後、日本へ帰国した月丘達であるが、この数週間の作戦の間に、世界が大きく変動している事に驚いていた……


「まあお前達が向こうで頑張ってくれていた間、急転直下でな……世の中動きまくっていたって次第よ」


 帰国直後に情報省本省へ登庁した月丘にプリ子、そしてシビア。


「まさか白木さん……そんな事になってたなんて……」


 目を剥いて驚く月丘。プリルも同じく。シビアはいつものおすまし顔。


「ああ、UNMSCC創設後の第一弾、タジキスタンでの作戦が、こんな妙な影響を世に与えるなんてなぁ……」


 今日本国内でも特番が組まれてマスコミも大騒ぎな事件となっているわけで、タジキスタンに行っていた月丘はこの情報を知ったのは少し遅れての事であった。で、月丘達が聞かされたその情報とは……


「北のあの野郎が、暗殺されたよ。で、あそこの情報が一切入らねー状態になっちまってる」

「……」

「それと……これはまだ公にはなってないが、特危、あいや、ティ連防衛総省の銀河系探査艦隊が、地球から四〇光年先ぐらい先のところでヂラールと戦ってた連中を保護したらしい」

『ええええええっ、それは! ……』

『!!!!!』


 これは只ならぬ事と驚く三人。日本でも宇宙でもと……

 北のあの独裁者が暗殺されただけなら、まあそのうちありそうな感じではあった状況だが、サマラン大統領と時を同じくする感じでの同じような状況は、コレ訝しがって当然である。

 そしてプリルにシビア。特にシビアが見た目に驚いた表情をしたのが、先のネリナ艦隊接触事案である。

 なんでもゼルドア艦隊は、現在天の川銀河探索を急遽中止して、ネリナ艦隊を連れて火星へトンボ返りの真っ最中だという話。

 四〇光年前後の場所での出来事であるからして、ティ連感覚で言えば、正直地球からそんなに遠い距離ではない。なので大変なのである。当然遠からずUNMSCCへも報告せにゃならない事態だと頭を抱える白木。


 で、更に重大な情報が彼らのもとへ入る……


 プーと白木のインターフォンが鳴る。


「おう、何、美加ちゃん?」

『クロードさんがいらっしゃってます』

「何? クロードが?」


 すると月丘が、


「あ、白木さん。私が呼んだんですよ」

「おお、そうか……美加ちゃん通してくれ」


 と、いうことで入室してくるはクロード。白木に敬礼するフランス人。


「どしたいクロードの旦那、俺のヨメの使いか?」


 流暢なフランス語で話す白木、流石である。月丘は英語が話せるが、ここは面倒がないようPVMCGのフランス語翻訳機能を立ち上げる。


「いやムッシュ。今回はコイツの頼みで少々ね」

「ん? 月丘の?」

『あ、はい白木さん……で、クロード、何かわかりましたか?』

「ああ……色々とこっちのコネを当たってみたが……お前の推察どおり、サマラン殺ったのはPMCだな」

「やはり……」


 クロードと月丘の会話に話が見えないと説明を求める白木。勿論先の月丘とシビアの遭遇したあの状況を話す。

 

「なるほどな……まだあの作戦の詳しい報告書はあがってきてねーからな。って、今その事話してるんだったか、むはは」

『はは、まあそうですね』

「でもPMCか……なんか一〇年前にもあったな、そんな事が……って、あれはおめーらの仕業だったっけ? ぶはは」


 するとクロードが、


「はは、ムッシュ、それなんですが……」というと、クロードは目線を少し真剣にして、「あの時に近い状況が発生しているようでしてね」

「?? なんだいそりゃ」


 クロードの言に月丘やプリ子も訝しがる。シビアはいつもどおりのおすまし顔。


「サマランの件に、あの北の件……どうもアレですわ。一時期お宅らが言ってた……なんだったか……シビアちゃんところの……そうそう、ガーグ? あの手合の仕業かもしれないって事ですな……」


「!! なんだって!?」



 天の川銀河と、地球で起こる、新たな脈動。

 ヂラールが銀河に到来し、また更に、もう聞くことのないと思っていた「ガーグ」の名。


 一〇年前の因果と、新たな因果の発生。

 この大きなうねりは、どこへ流れていくのだろうか? ……







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― 新着の感想 ―
[気になる点] 足なんて飾りです、って、結局足が必要だったってオチだったハズなんですがそれは……?
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