【第三章・時空の守人 ―終― 】 第二一話 『護るべきもの』
皆様、あけましておめでとうございます。
新年一発目の銀河連合日本TNEです。
本年も宜しくお願い申し上げます。
『我々は、ゼスタール統制合議体であり、第一人格体となるスール、「アルド・レムラー」である……お前達の政治的認識では、「国家元首」という言葉が適当である。認識せよ』
地球人やティ連人向けの対話仲介を依頼された、地球人で初めてゼスタール・スール化されたリヒャルト・アイスナー元ブンデス社副社長。
言ってみれば一般的なヒューマノイド型知的生命体である地球人やティ連人との円滑な交渉のために選ばれた彼であったが、やはり直にゼスタールのトップと話がしてみたいということで柏木の依頼で顕現いただいた、この『アルド・レムラー統制合議体』なる人物、いや、人格達。
現状、順当に彼らとも会談が進み、とりあえずは良い方向性を以て折衝は進んでいるのだが……
外交交渉というものは、古今東西に大宇宙世界と、変わらずある一定の法則のようなものが存在する。それは即ち、『とりあえず言ってみる』という行為である。
外交交渉において頭が痛いのは、『相手に対して必ず言っておかなければならないこと』というものが普通、二つ三つはあるわけで、これ大体相手が『言ってほしくないもの。棚上げにしてほしいもの』と、当たり前のように相場が決まっている。
例えば、日韓関係であれば、現在はその存在が不確かであったことが確定している『従軍慰安婦』とかいう話に、それを解決した日韓条約の合意尊守の話。日露で言えば、この世界ではもう既に解決している一時期の『北方領土問題』であったり、日中で言えば、現在も燻る『尖閣諸島』の話であり、今の世界で最も大きいトコロでは、連合日本・ヤルバーン州との技術格差の問題であったり……
こういう事を必ず……ある意味姑ババアの小言の如くお約束どおり言わなきゃならないのが外交交渉であって更にそこへ、なるべく自国がコストにリスクを伴わないような、搦め手も必要になったりと、ま、そういう事で丁々発止やるのは一〇年後の世界であるこの時代も大して変わりはしないという、そういう話。
正味、『前座のお約束芸』の類なので、実際それを言ったところで交渉自体が頓挫することがないよう、そんなことを言ってみるのも互いのシナリオの中に組み込まれているわけなので、そういったお膳立てをするのが事前折衝を任された現在の柏木達のような外交スタッフなのである。
ということでティ連側として、とりあえずの要望として載せてはいた『謝罪要求・賠償要求』は、色々と相互の理解も進んだこともあって、所謂『ナシ』という方向で定まったわけで、ティ連側の懸念事項は現状取り敢えず払拭でき、日本を除く地球側も、横田基地の件に、ブンデス社の件、そして国連で暴れまわった事も含めての話も、先の国連UNASTAC会議におけるゼスタール技術の一部開示をもって水に流そうという事でとりあえず手打ちとなっていたはずなのだが、常任理事国側も此度は同盟各国の意見を背負ってココに来ているわけであるからして、そこは更にゼスタールの持つ科学技術に軍事技術の開示を要求するのは、彼らの行動としては自然な行為である。
で、結構常任理事国側も、何を言われるかわからんのを覚悟してそんなことをゼスタールに要求したのだが、これが意外な事に、「いいよん」とスンナリOKが出た……のだが、勿論そこは『条件付き』というヤツである。
『ヂラール関係のゼスタール安全保障体制に協力してほしい』ときたもんだから彼らも困った話になる。
ティ連側や、日本にハイラ王国は、その程度の話今更な事なので、もう最初から問題ナシで了承である。今の日本、地球世界基準では、憲法九条シンドロームがまだ完全に癒えない現状ではあるものの、事宇宙世界に限っていば、ティ連防衛総省が連合憲章で中核になって動くのが基本なので、日本もそれに倣って、日本風にいうところの『集団安全保障』なんてものもとっくにスっとばし、必要によっては敵地攻撃もする普通の『軍事組織』になっているので、特にゼスタールの要求も問題はない。だが、国連常任理事国側は、そうはいかないわけで、彼らの技術の完全な情報開示を受ける条件が、ゼスタール側の安全保障体制に入れという話であるから、そんなもの流石に現在の担当者レベルで決定するにはいかないわけで、『本国持ち帰り案件』となる。
だが、アイスナーの所感で語った『ゼスタールが何か焦っている』という言葉。
この真意を問うには流石にアイスナーでは無理というと事になり、なんと! ゼスタールの最高指導合議体とでも言えば良いか、そんな存在である『アルド・レムラー』という統制合議体にご顕現いただいたという次第。
さて、彼らが『焦る』という事は一体どういうことなのか。そのあたりを問うてみたい此度の訪問団における事実上のリーダーである柏木連合防衛総省長官閣下。そして、ソレを問うナヨ様。
彼らはその真意を彼……いや、『彼ら』から引き出そうとするわけなのだが……
* *
『……初めてお目にかかります、ファーダ・アルド・レムラー統制合議体。妾は……』
お約束の自己紹介。でもゼスタール人はもうナヨや柏木について全ての事は知っている。無論シビアの情報を全てのスールが一瞬にして共有するからである。もちろんこの点で言えば、アイスナーや、その妻も例外ではない。
『ナヨ・カルバレータの自己紹介を評価する。だが、我々は既にお前の事は把握している。非合理的であり、いらぬ手間をかけさせることになる』
『いえファーダ。これは言ってみれば“礼儀”の問題ですので、お気になさらぬよう』
『了解した。それと、惑星チキュウ世界のコクレン国家間調整機関代表の件も理解している。自己紹介は抜きで良い』
そう言われると、常任理事国諸氏も起立して頭を下げるぐらいの挨拶で、また着席する。ティ連。日本側も同様。
アルド・レムラーなる統制合議体。低い声で、かなりの威厳を以て話す御仁ではあるが、基本紳士的である。諸氏の挨拶に、彼も頭を下げて返している。
「閣下、私が今回の訪問団におけるリーダーになります……」
『カシワギ・マサト生体。了解している』
「は、恐れ入ります」
アルドは軽く頷くと、
『空間座標ゼルデ2987空間における調査……お前達の言うシレイラという宇宙船で、我々のカルバレータ兵器と交戦した記録に、カシワギ生体の物と合致する生体データがある。コレはお前か? 回答せよ』
「はい、閣下。その節は」
少しにやけてアルドに返す柏木。アルドも少しニヤついたようにも見え、目で頷く。
『あの時の戦闘記録から、我々はティエルクマスカ連合政体におけるそれまで得た情報を更新しなければならなくなった。と、同時に我々が観測不能な知的生命体が記録されたことで、我々も詳細な潜入調査を必要とした……あの時の状況が現在に繋がっている。すべての起因するところが、あの時の状況が発端であれば、現在のこの会合も連鎖的事象の連続性における結果であり、極めて有意義なものであると我々は認識している』
「はは、はい、確かにそうですね」
言い回しが極めてゼスタール的ではあるが、イゼイラ人風に言えば『これも因果デス』といったところだろう。ま、スールの立場としても、良きにつけ悪しきにつけ、もう柏木達とは赤の他人ではないという事をアルドは言いたかったのだろう。
その言葉にまた訝しがる表情で柏木を見る常任理事国の諸氏。『このオッサンはどんだけ宇宙に知り合いがいるんだ』ってな視線を送る。
もちろん月丘も大見やメルにニーラ、プリルと首を傾けあって、常任理事国諸氏に同意である。
で、本題。話を進めるはナヨ。アイスナーに振った手前、彼女が先の話の続きをする。
『ファーダ・レムラー。先程ファーダ・アイスナーからのお話に聞いた件ですが……』
『理解している。アイスナーの見解は正しい……そう、正しいのだろう』
ゼスタールにしてはイマイチはっきりしない回答だが、アイスナーの指摘は正しいと彼らも認めているようだ。だが、それを表情や態度仕草で表には出していない。まあそこはゼスさんだからか? という感じではある。
『主らの焦る理由。それを妾達に教えてはくれませぬか? 何か協力ができるやもしれませぬ』
『ナヨ・カルバレータの意見、評価する……実は我々としても、今回この「ナーシャ・エンデ」にお前達を呼んだ理由として、お前達に認識してほしい事象があって、ここまで来てもらった』
すると柏木が話に入り、
「では、閣下は最初からそれが目的で我々と国連の方々を?」
『肯定。我々の技術やその他資料の公開、譲渡を行う際の条件も含む案件である』
つまりゼスタールもハナからこの会合を『取引の場』として設定していたということである。自分達の本拠地に呼んで、飲み食い接待という話ではなかった訳だ。
この話を聞いて、常任理事国諸氏は、先程アイスナーが語った『ヂラールに対する安全保障上の協力』に関する条件なのだろうと推察した。まあこれはそういうことだろう。誰でも解る。
柏木はリック達の方を見る。彼らも柏木の方を見て相槌打って頷いている。国連側としては、ここは柏木先生に任せるといったところだろう。
「わかりました。ではその『認識してほしい事象』というものをご提示いただけますか? 閣下」
『了解した……シビア・カルバレータ』
『何か』
『彼らを観測室に誘導せよ……そろそろだろう』
『了解。各生体、カルバレータ。案内する。随行せよ』
諸氏席を立ち、シビアに案内されて、このバルサーラ中央統制区にある観測室なる場所へ向かう。
だがそもそも柏木達が不思議に思うのは、スール化されてしまった彼ら、即ち一種のエネルギー体になってしまった彼らは、普段からカウサと呼称されるコアに憑依して日常的に生活することはないわけで、『某室』という部屋の存在自体が本来無意味なはずである。確かに先のような会議室に、応接室にようなものは、地球人やティ連人のような有機知的生命体と接触するにあたって必要ではあろうが、『観測室』のような実務的な、言ってみれば作業室のようなものはいらないんじゃないかとコレ思うわけであるが、その理由もすぐにわかるわけで、
『お前達のために用意した』
「観測室をですか? シビアさん」
『肯定』
転送されてやってきたこの場所。今回の有機知的生命体諸氏のために、あまり使われないナーシャ・エンデの空間を利用して、空間観測できる部屋を特別に作ってくれたという話。なので、正直あまりきちんと整備された観測室というわけではないのだが……
それでも設備はゼスタール技術最高の観測機器をもって造られており、ホロ映像が大きく空間に画像を浮かべている。
柏木達連合日本人は、もうこの程度の風景は見慣れたものだが、常任理事国諸氏は、まだまだこういった情景はSFの範疇で理解してしまうわけで、そりゃ驚きもするワケである。
「先日、日本の電化製品見本市を見学しましたけど、あの時の各有名メーカーが展示していた空間表示モニターも驚きましたが、これはそれ以上ですね」
フランス・オージェ議員がそんな一言を漏らす。
この時代、日本メーカーが特許を以て発売した、高精細な空間に画像を表示できるモニター装置がもう一般に普及し、IT機器もいろんな方向性をもって進歩しているそんなご時世である。実際、リックがここで使っているPCも、通常使用で電池が一五〇時間は持ち、一見するとキーボードだけに見える、空間画像投影機能を持つモバイル機器だったりするわけで、勿論日本製のマシンであったりする。
「まあ国連も今やこの機材を使っていますけどね。というか、はは、ヤルバーン政府のお詫びも含めたリフォームであんな風になったという事だそうですけど」
「はい、確かにムッシュ。ははは」
そう、今の国連会議場も、この機能を標準装備である。なんせナヨさんとシビアがぶっ壊してしまったわけであるからして……
と、しばしそんな話をしながら大きな立体モニターいっぱいに映るナーシャ・エンデの美しい景色を見ていると……
「!? なんだこの音は」
柏木が今、部屋に響く妙な不協和音を耳にする。
「警報……? ですかね?」と、月丘も訝しがる表情を見せれば、
「確かに。警報音に不協和音使うのは、どうも宇宙共通らしいな」とクロード。
『コレは、ゼスタールサンの組織内で使用されている「警報」なのですか? シビアサン』と問うフェル。
『肯定。その通り「警報」である。無論スール間で情報共有できる我々には必要ないものだが、お前達にも理解できるよう「警報」を出力している。理解せよ』
つまり、地球人他の諸氏にも理解できるよう、特別バーションで警報鳴らしているという次第。ちなみに警報音は、ゼスタール人がスールになる以前に使用していたものだそうである。
正直やはりあまりずっと聞いていたい音階ではない音。警報というものはどこの世界も人に不安感を煽るようにできているようだ。
そんな音階が奏でられる中、シビアは立体モニターのある場所を指差す。
『アレレ? なんか竜巻みたいなのが横に伸びていってる……』と最初に指摘したのはメル。
『ソウダナ、ナンダアレハ……』
『シエ生体に回答。あれは空間転移現象……お前達が「亜空間回廊」と呼称しているものが形成された際に起こる現象である』
『ナニ!?』
なんと、亜空間回廊の姿を、この時空間接続帯なる空間では、客観的に捉えることができると!
「ええっ!」と驚く諸氏。特にかの『カグヤの帰還』作戦に従事したスタッフは、驚くと同時に「そうか!」と手を叩く。
「だからあの時、ガーグデーラ母艦は、回廊壁の外側を驀進できたのか!」
『超大型空間接続装置での調査活……あ、あいや、お前達の認識では「戦闘」を行った際、接続装置に強制侵入した我々の母艦の事か?』
「知っているんですか?」
『肯定。あの時、我々はネメアと共に、お前達が「セルゼント」と呼称する宇宙ステーション内で調査活動を行っていた。従ってあの時の事は把握している』
今明かされる事実。なんと、セルゼントゲートの戦いのとき、シビアとネメアはセルゼント州内で彼女達基準の『調査活動』中だったという話。頭抱える柏木長官……「マジですか」と、ポツリ一言。フェルも同じ感じ。
で、話を聞くに、位相の違うこの時空間接続帯側から高速で接近し、モニター艦隊に奇襲をかけたらしい。なので満身創痍だった母艦は、時空間接続帯用のシールドをろくに展開せずに突っ込んでいったものだから、ゲートから出た後に襲い掛かってきた第二の母艦は、ボロボロだったというワケである。
一〇年後に聞かされるあの時の真実に「ほーー」と感心して聞く当時の関係者。常任理事国の方々はよくわからん話だが、現在はガーグデーラの存在が公表されたのをきっかけに、あの事件も資料公開されているので、知識としては知っている国連諸氏。わからないまでも話としては聞いておかないとということで、フムフムと頷いている。
『ですけどですけどぉ、チョットまってくださいケラー・シビア。では、ディルフィルドジャンプする私達のお船や、それ以外の空間跳躍するお船はみーんなこの時空間接続帯に干渉するってことですか?』
『否定。空間転移する規模によって、干渉する亜空間域に変化が出る。従って全てではないと考えている。だがその干渉規模のレベルまでは我々の科学知識でも判明していない』
つまり、空間転移技術で航行する存在がいた場合、このナーシャ・エンデが存在する空間を横切る時もあり、その際に今見たような、横に竜巻が発生するような現象を客観的に見ることができるのだという。
ニーラ曰く「これはものすごく貴重な発見ですぅ!」と目を真剣にして腕組み、その現象を再度眺めている。流石時空間事象学の権威であるニーラ教授。
だが、そこで発生する疑問をぶつけるは多川将補
「で、あの現象と、今鳴ってるこの不協和音とどういう関係があるのですか? シビアさん」
『タガワ生体に回答。あの「亜空間回廊」は、同じパターンで、同じ空間座標、かつ定期的に発生している。これが何を意味するか理解できるか?』
「うーむ、ま普通に考えれば、ディルフィルドアウトしている場所が毎回同じで、その場所に頻繁に行っている奴がいるって事なんでしょうなぁ」
『正解である。ではその正解に対して、この現象を見て、お前達はどう思うか、回答せよ』
「え?」
シビアは立体モニターに映る回廊の、ある一点を大きく拡大して表示する……距離は現在の空間位置から0,7光年ほどの場所で、一〇光年ほどの距離を圧縮して繋げた超光速空間が、回廊として形成されているらしい。
その拡大された場所……小さく何かがうごめいているような感じの映像を、補正に補正をかけて、鮮明に写す……
目を凝らしてそれを見るみんな……すると……
「…………??……え? えええっ!」
『あ、アレはっ!』
『あいつらはっ!』
思わず身を乗り出して驚く柏木とフェル。それに一番敏感に反応するはメルフェリア団長。
国連組も驚く。白木がかつて撮ったスペクタクル映像資料が公開されているので、どんな物かは知っているが、実際にナマで動く連中を見るのは初めて。
その映像に映る驚きの存在とは……ヂラールであった。
『ででででは、この警報もヂラールがこの空間に攻めてきたって事なんですかっ!? 大変じゃないですか!』
とプリ子は叫ぶが、シビアは全然焦ってはいない様子。ってか、仮に焦っても見た感じわからないのが彼女達。
『プリ子生体、心配はいらない。よく見ろ』
『え?』
その映像を凝視するプリ子他諸氏。
「あ……なるほど、そういう事か……」と納得の月丘。
「なるほどね、確かにそういう理屈になるわな」とクロード。
そう、映像で見えていたヂラールは、回廊から逸脱した個体であり、言ってみればきちんとワープ空間に乗れなかった連中なのであろう。
その連中が何らかの形でこの接続帯に飛び出てきた。だが……この空間は適正なシールドかないと、その物体としての存在を維持できない。すなわち、みるみるうちにヂラールが崩壊していく映像を彼らは見ていたのである。
ヂラールは、映像で見た感じでは、こちらの空間へ飛び出てきた時に、このナーシャ・エンデに感づいたのだろうか、こちらへ向かってこようとしている素振りを見せつつ、消滅していく……
フェルに柏木は、
「なるほどな……これがこの空間にいるゼスタール人さんの強みってわけか」
『ソウイウことですネ。ですが……あの「カグヤの帰還」作戦の時、私達も闇雲に回廊壁へ突っ込んでいれば、この空間に出ちゃった可能性もあるわけですよね』
「そういことになるか。なんかゾっとするな……ニーラ教授は予想つけてた?」
するとニーラ先生は、
『マア、あの時、深い階層に突っ込んでいれば、どこに出るかわからないというのは、周知の事実でしたからね~、でも、こんな場所っていうのは、想定外でしたけど』
「ですよねぇ……」
と三人して苦笑い。で、そこで柏木がすぐに思うのは……
「で、シビアさん。先程アイスナーさんが仰ってた『アルド・レムラー閣下が焦っている』というのは、これに関する事なのですか?」
『肯定……』というと、シビアは何かを受信したような表情をして、『統制合議体が、この状況を把握したのであれば、会議室へ戻って欲しいと言っている。どうする? まだ観察するか?』
柏木がみんなに確かめると、OKとの事なので、会議室に戻ることにする。
* *
席に着席する諸氏。事がヂラール絡みである事は理解できたわけで、統制合議体であるアルド・レムラーから色々彼らが懸念する諸事情の詳細を聞ける話になると思うわけで……
「アルド・レムラー閣下。なるほどなかなかにショッキングな状況映像を目の当たりにさせていただきましたが、先程アイスナー氏が言っていた件とは、あのヂラール絡みの事なのですか?」
するとアルドは頷いて、
『肯定だ、カシワギ生体』
「ふむ、ですが、先程説明を受けたところでは、見せていただいた映像は説明の通りのもので、この空間が立派に防壁として役立っているという構図の状況ではないですか」
『確かにその通りだ。だが、お前達はあの映像を見て二つの予想できる現実を考えなければならない』
「……」
『まず、敵性体01。ヂラールは、ここ幾周期か、同じ経路であの空間移送航路を形成している。また、明らかに意図的に航路外、即ちこの空間への進出を狙って、生体兵器を送り込んできている状況が窺える』
「ですが、何回やってもアイツらは失敗しているわけですよね」
『肯定』
そこでメルちゃんが思わず『あいつらバカだからなぁ……』と漏らすと、乾いた笑いが特危組から起こる。
アルドも、少し口元を緩めたように見えた。なんかウケたようである。でも『だが……』と続ける。
『確かにメルフェリア生体の言葉は肯定できるのだが、そのバカと比喩できるあの者達も、この空間に於けるその形態維持時間を着実に伸ばしてきているのも事実なのだ』
『え?』
アルドが語るには、どうもヂラールがこの空間に順応しつつ進化しているのではないか? と懸念しているのだという話。
「なるほど……メルちゃん、ほら、あの時の……城の中へ地下水道使って連中が攻めてきた時……」
『うん、アレだよね。覚えてるよおっちゃん。私はあの時お城にいなかったけど、父様から話は聞いたよ』
頷く柏木。フェルに視線を合わせると、彼女も頷く。そう、ヂラールの特性である『バカがマンパワーで意地になって同じことを繰り返すうちに、状況に順応し、進化してくる』という現象である。そういう戦闘の経験があったことをメルはアルドに話した。
『……貴重な意見である。メルフェリアの発言を評価する』
『どもです、レムラー閣下』
アルドはコクと頷くと、『まさしく今、メルフェリア生体が語った状況と同じ現象が回数を重ねる毎に成している』
するとニーラ教授が、
『でもでもファーダ。もしヂラールがそんな風に進化してきてるっていっても、どっちにしろ状況的には圧倒的にゼスタールサンのほうが有利なんですから、そんなに今すぐ心配するホドの事でもないと思うのですけどぉ』
『確かに、現状ヂラールの状況は我々としても対処のできる状況だが、観測室で見た現象から、派生する懸念事項をお前達は予測できるはずである。思考せよ』
つまり、あの観測室でみた映像で、もっと懸念することが発想できないか考えてみなさいと仰る閣下。
『まず、あの超光速転移航路現象は、お前達が使う「ディルフィルドジャンプ」と呼ばれるものとは性質の違うものである』
この言葉にハっとするのは大見。
「あの……ワームホールという現象の」
あぁあぁと頷くティ連組の皆。国連組は彼らの会話を今は黙って聞くだけ。でも聞く方も真剣顔である。
で、その大見が指摘した点から柏木が発想できるのは……
「ええっ!? じゃあ、あの横に伸びた竜巻はワームホールで……別宇宙からどこかに繋がっている状況……って、まさか、その繋がってる先は、こちらの宇宙!?」
その言葉にみんなが柏木を凝視する。すると、アルドは、
『肯定だ、カシワギ生体……』
その言葉にざわつく会議室。
「で、では、まさかこの我々が存在する宇宙空間にも、もう奴らが……」
『肯定ではあるが……』と、アルドは少し発言に間をおく。訝しがって彼を見る諸氏。アルドは続けて、『我々がこの宇宙空間にヂラールが出現する事態を抑えている』
と話す。
「なんですって……?」
* *
……とある宇宙空間。地球やティ連が存在する宇宙空間であることには変わりがない。
そのとある恒星系に存在する青く美しい星。恐らくティ連もまだ把握していない恒星域の『とある惑星』
といった星である。
その宙域へ、陥没した空間から這い出るようイメージを持つ空間歪曲を伴って顕現するは、なんとガーグデーラ母艦であった。
独特な漆黒のエイに似たデザインに、赤い光点を走らせて宇宙空間に飛び出てくる母艦群。するとその母艦群の各艦艦首開口部から、弾頭型のポッドが多数射出された。そう、かのシレイラ号事件で柏木達が見た、ドーラポッドだ。それが速射されるミサイルのごとくどんどんと吐き出されていく。
更には別の母艦からは、対艦ドーラが射出され、更には本来ティ連の『旭龍』に対抗して開発された、仮想生命体兵器とは違う、スール・コアが直接操縦する『ギムス・カルバレータ』と呼ばれる人型のロボット兵器も投入されているようである。背中に生えた航空機の翼にも似たジェネレータを稼働させて、複数の対艦ドーラを従えて飛ぶギムス型機動兵器。その機動部隊は全機、眼前に見える名も無き青い惑星へと降下していった……
さて、その惑星。『青き』という言葉が付くぐらいであるから、酸素と水がある惑星である。海王星のような星ではない。ということは勿論生物が存在するに適した環境であり、なんとそこには知的生命体も存在していた。
その姿は身長にしておよそ一三〇センチ程。容姿はウサギとリスを足したような、そんな姿。かなりモフモフ。所謂デミヒューマン型で、更にデミ度が強い容姿だ。
何か言語を話しているが、流石に何を言っているかまでは分からない。ただ彼らの姿を見ると、鎧のようなものを着用し、初期のボルトアクションライフル……ドライゼライフルに似た単発発射式の銃剣付き銃器のようなものを所持し、大砲も扱える文明レベルの種族ではあるようだ。ガイデル達と接触する以前のサルカス世界と同レベルか、若干先を行く種族のようである。
そんな彼らが何かと戦っている。銃を斉射し、大砲を放つ。
だが即座に何かから反撃を喰らい、倍返し以上の攻撃を受けて発破されて吹き飛ぶ。
負傷した仲間を担ぎ担がれ、攻撃を交代するその種族達。必死で何かから誰かを助けようと戦っているようである……彼らの見るその先にいる仇敵とは……
『牢獣』であった……
そう、なんと彼らが戦っているのは、ヂラールだった! 必死の抵抗を見せるが、いかんせん持っている火器が貧弱である。かろうじて大砲類はなんとか効果があり、牢獣に随伴する兵隊型や俊敏型のような連中にはある程度の効果があるが、戦車型に牢獣にはまったく効果がない。いかんせん生物ではあるが兵器なこやつらはシールドを展開する能力もあるものだから、ミニマムな彼らの銃火器ではその程度の反抗しかできないでいた。
サルカス戦同様に、同胞を地下や洞窟に避難させる彼ら。だが、どういうわけか彼らに悲壮感は感じない。必死で抵抗し、仲間の犠牲も厭わず戦うのではあるが、同時に何かを待っているようでもある。
すると……何やらラッパの音が彼らの戦場に木霊する。その音を聞いた途端、彼らは一斉に戦場から撤退を開始した。牢獣と戦っていた兵達も、とりあえず何処か安全域まで撤退し、何かを待ち、観察しているようである。
間をおかず、空から何かが降ってきた!
その物体は、彼ら知的生命体が戦場としていた場所ど真ん中にドカドカと突き刺さるように降り注ぐ。
すると、その物体は外郭をドカンと破壊したかとおもうと、中から異様な機械音を唸らせた存在を、一つの物体から約一〇体放出する……そう、その姿、対人ドーラであった!
キカキカフィフィと音を唸らせながら、刹那にヂラールの反応を探知すると、ブラスター砲をぶっ放し、有無を言わさす攻撃開始。
接近してくる俊敏型に兵隊型には、四枝のクロウに光学ドリルが唸り、敵を裂く。
だが、敵も戦車型を前線に進撃させると、対人ドーラを持ち前の火力で吹き飛ばして、中にはコアを踏み潰し破壊する奴もいた。だがヂラールはドーラのコアが弱点であるということを把握していないので、幸運にもコアが健在なドーラは再度機体を組み治し、反撃に移る。
すると、敵も戦力が足りないと悟ったか、六脚の昆虫に人形上半身を備えたような、新型形態を投入してきた。全長は一五メートル程。
となれば、対抗するは対艦ドーラの登場である。その四肢の二肢を使って直立すると、六脚型に対峙し、反撃を行う。
何処かから湧き出てくるヂラール共に、数でまともに対抗するのも得策ではない。そこでドーラは必殺の『ゼル端子』をばらまいて近くのヂラール各種タイプを自らの制御下に起き、同士討ちさせる戦法に切り替える。流石このゼル端子はこういう状況下では必殺である。敵六脚型も、瞬く間にゼル端子に体を侵され、所謂ヂラール版ゼルゾンビ状態になって、味方に攻撃を仕掛ける。
ゼル端子に侵された牢獣は、先の知的生命体の仲間を吐き出す。その吐き出すタイミングをその種族は知っているるのだろうか、慣れた連携で仲間を救助に行く。
無論、ドーラは攻撃対象をヂラールに絞り、その知的生命体には一切手出しをしない。手出しをしないどころか、彼らが避難している場所に陣取り、守っているようにも見える。
すると、戦場でドーラ達がヂラールを押し返し始めると、その種族も隠れていた穴から飛び出し、ドーラ達と共に戦い始めた。
そのタイミングで最後に登場するは、ギムス・カルバレータ兵器。
異様な人型デザインをしたそれは……まあお世辞も『正義の味方』には見えないが、残る六脚型を対艦ドーラ従えて駆逐していく……
……そしてこの戦場、どうやらゼスタール兵器と、この知的生命体の勝ちである。
最後の大物六脚型を仕留めた後、一見容姿の可愛らしいその種族は勝鬨をあげ、歓喜していた。
ドーラ型兵器にギムス兵器は喜声を発する彼らに、何か意思を表示するわけでもなく、ヂラールの掃討が確認された時点で再び空に舞い上がり、撤退して行く。その様子を手を振り見送る知的生命体。
後に残されたヂラールの遺骸やドーラの残骸、その場に残していったドーラポッドを総出で回収する彼ら。恐らく彼ら程度の文明社会では未知の材質であるそれらには相当の価値が付くのかもしれない。ある意味お宝の山を漁るその種族。回収されたそれら残骸は一体何に使われるのであろうか……
* *
……ナーシャ・エンデ内バルサーラ中央統制区の会議室。
その中央に大きく映し出される映像……未知の見たこともない種族とヂラールの戦い。
その種族を援護し、共闘するドーラ等ゼスタール兵器群。
確かにその種族の容姿がモフモフ系なので、ここにいる皆さん的には若干『可愛らしい』という不謹慎な感情を持ってしまうのも仕方ないところだが、この凄まじい映像が、実のところ地球時間で言うところの昨日か一昨日か、そこらの記録だと言うから更に驚きである。
特に国連組の諸氏は席から立ってその映像を食い入るように眺めていた。そりゃ一見したらナンチャラウォーズの外伝みたいな映像だ。この映像を現実のものとして受け止めろと言う方に無理がある。というか、ティ連としても新たに拝見する新しい知的生命種族がこんな容姿というのは何なのだというところは無きにしもあらず。知らない人が途中から見れば、絶対にゼスタール軍が悪役に見えるだろう。ってか、あんな容姿の兵器だし……まだこちらでは、ヤル研御謹製ドーラは、量産の真っ最中だそうな……やっぱり量産されているようである。
国連連中は、席を立っての驚きようではあるが、いくらもうこの手の世界観に慣れてきたティ連―日本とはいえ、今まで不倶戴天の敵と思っていたドーラが徒党を組んで人助けしている映像は、ある意味ショックではあった。
特にこの映像を食い入るように見ていたのが、メルである。
『マサトのおっちゃん……これって、私が父様に聞いた話みたいな、そんな状況じゃないか……』
「ああ、確かにね……しかもこれが昨日今日の映像だというなら……更に大問題だ……」
そう、柏木が当然思うのは、
「アルド・レムラー閣下。この知的生命体は一体……」
『回答。この知的生命体は、お前達の母星、惑星地球より換算すると、約二七〇〇万光年ほどの場所の恒星圏に存在する惑星である』
「なるほど……で、あなた方はこの知的生命体と交流を?」
『否定。我々はヂラール敵生体がこの宇宙に侵攻するための出現域空間を割り出して迎撃を行っていただけである。その際にたまたまこの知的生命体の存在する惑星近海の出現に対応しただけの話であり、我々としても初めて遭遇する種族であった。従ってこの知的生命体との交流等は持っていない……いや、全く持っていないわけではないが……』
「ふむ……ですが先程の映像を見る限り、この星の種族へ……我々の主観でいえば、『助っ人』に見えてしまっている状況なのですが……しかも艦隊を見る限り、決して少なくない規模の艦隊を送り出している。これはどういうことですか?」
『回答。我々の調査では、ヂラール敵性体は、この惑星を橋頭堡として、お前達や我々が活動する通常宇宙空間に進出しようとする動きを見せていた。それを我々は探知したため、この惑星を保護、防衛するために、この宙域へ現在も進駐している。事実、この惑星は調査を開始した時点で、約一五パーセントの地域がヂラールコロニー化されていた……現在は我々が掃討し、事なきを得ているが、お前達も理解しているように、ヂラールは反復行動性が極めて強い生体である。現在も先の映像のように我々との交戦状態は続いている』
腕組んでアルドの話を聞き入る柏木。
「では閣下、お尋ねしますが、他にもこのような……ヂラールが我々の宇宙空間へ進出しようとして貴方がたが食い止めている戦域があるのでしょうか?」
『肯定。現在あと二箇所確認している。必要であれば資料を後ほど提供する用意がある』
その言葉を聞いて、「はぁ……」と頭抱える柏木長官。
「なんてこった……ゼスタールさんは、ガーグデーラどころか、この宇宙空間の防人だったなんて……」
『ハイですね……これは大変な事になってきましたでス』
ヂラールの、この宇宙空間への侵攻に、ゼスタールさんが奴らの侵入を防ぐ防波堤になってくれていたという事実……
柏木はチラと常任理事国諸氏の顔色を見るが、やはり全員何やら考え込んでいる様子……それはそうだろう、あんな映像見せられるということは、あーいった連中と戦うために共闘してくれとゼスさんから言われているようなものである。あんなSFパニック映画にでも出てきそうなバケモノ相手に自国の兵士を投入することと、それと交換にゼスタールの技術を、先の国連UNASTAC会議で得た以上のものを得ること。どっちを選ぶかとという話にもなってくる。
更に言えば、米国や欧州と言った日本との友好関係にある国はまだいいが、中国やロシアといった国々は、現在の日本が実際にハイラ王国やティ連と共闘してヂラールや当時敵であったゼスタールと堂々と渡り合ってきたわけであるからして、もしここで回答を渋ってしまえば自分で自分のメンツを潰すことになり、今以上に日本に対し偉そうな事を言えなくなってしまうわけで、ここは国家の体裁のためにも思案のしどころであったりする。いかんせん中国の王にしろ、ロシアのプーシキンにしろ、この二人はまだ至って思考回路はまともなので、まともが故に本国に戻った時の中央に対する報告をどうしようかと考えなければならない辛さがあったりするのである……ある意味ご苦労様といいたい柏木であった。
柏木もティ連防衛総省のトップ職についてしまっているだけに『色々しんどいなぁ、コレ……』と悩むわけである。しかも次に尋ねた質問の問いに対する回答は、椅子からずり落ちそうになるような、トンデモ話であったりする……
「で、レムラー閣下」
『カシワギ生体。我々のことは“アルド”で良い』
「はは、恐縮です。ではアルド閣下。一つ先程の映像で疑問だったのは、貴方がたが降下してくる直前に、あのモフモ……ゲホ、かの未知の種族さん達は、貴方がたと息を合わせたような、見事な後退を見せましたが、あれが先程仰っていた『関係を全く持っていないわけではない』という理由なのでしょうか?」
『肯定。実のところ我々が、かの種族達の惑星にヂラール敵性体の反応を追って、作戦を開始した時点では、やはりそれまでのヂラールとの戦闘行為によって、極めて危険な状態の、瀕死の重傷を負った彼らが幾ばくかはいた。我々もヂラールによって拡大された被害のかような状況を看過するわけにもいかず、戦傷者で先が絶望的であった何名かの彼らをスール化し、保護した』
え? ちょっとまてよと思う柏木。あの種族さんの死にかけをスール化。すなわち人格体化して助けたってかい! と。
要するにアイスナーと同じ感じにしたわけかと……なんか嫌な予感をしつつ、アルドの話を取り敢えず聞く柏木。
『スール化した際、彼らは自らのことを「ルビアス」と名乗った。我々は我々の基準で、彼らを「生命体6884」と登録したが、お前達の理解しやすい呼称、そのルビアス人に我々は我々と意思疎通できるように、言語を習得させ、我々の存在や技術に畏怖する彼らに教育を施し、我々の存在を認知できるよう設定したあと、カウサに登録してカルバレータ体として彼らの星、国へ帰還させた』
ありゃりゃんと思う柏木。彼の嫌な予感、というか状況推移が的中した……アルドの説明に、常任理事国のみなさんも柏木が何に冷や汗かいているか察してくれたようである。
ティ連の方々は、柏木達地球人諸氏が何気に苦虫噛んだような表情になっているのかイマイチ理解できなかったみたいだが、同じティ連人でも、イゼイラ人の容姿をした『ハイラ人』のメルは、柏木達と同じような渋い顔をしている……柏木達地球人が、何に「アチャ~」なのかメルさんも意を同じくにしたようであった。
『あの……アルド閣下サマ……』
メルが思わず尋ねる。
「何か、メルフェリア生体」
『そのかるばれーた? っていう、シビア師匠みたいな……そのルビアス人サンって……星にいる彼らの同胞からみれば、「カミサマ」になって帰ってきたってことになって、大騒ぎになってるんじゃ……』
横で「そうそう」と言いたげに、柏木がウンウン大きく頷いている。国連諸氏も更に同じくという感じ。
でもやっぱりフェル達ティ連人は、イマイチよく理解していない。この事の重大性が何かということを……
だがティ連人が理解できないのも無理はない。なんせ彼らは地球人型の倫理宗教観を持ち合わせていないからだ。
柏木が横を見ると、もう十何年も一緒に過ごしているフェルでさえも、イマイチはっきりとした驚きをみせなかった……つまるところ、ティ連人。特にイゼイラ人を中心とした人々に見られる死生観のアレである……神仏宗教観のない彼らは、ゼスさんのやった行為が、科学的で人工的な『神様、仏様、ご先祖様』の復活であるということがわからない。なのでイマイチ反応が薄いわけである。
反面、宗教感が服着て歩いている地球人諸氏は、その中に聖書やコーランの記述を思い出してしまってたり……
あまりな情報で状況に皆沈黙してしまう。どうしたもんかいな……すると月丘が尋ねにくそうにしている柏木達に変わって横から、
「閣下、あの~……そのルビアス人という方のスールで、カルバレータさんですか? その方、今、その惑星で『預言者』とか『救世主』とかいう呼称で呼ばれてません?」
『?……回答。ヨゲンシャという呼称で扱われていることは我々も確認している。それが何か?』
アチャ~となる月丘。彼も中東で少々生活していたこともありーの、アラブ人の友人も多い―ので、まあそういった関係の文化というものはよく熟知しているだけに、興味本位で尋ねてみたら、やっぱりであった。
月丘の質問を聞く常任理事国組も、そんな回答をアルドにされたら当然頭に思い浮かべるは、彼らの信じる神様も実は……とかそんな感じ。
いかんせん、神様ではないにしろ、某な御伽噺のモデルになった日本在住、在日イゼイラ系カルバレータさんが目の前にいるからして……
で、アルドが仰るには、
『カルバレータとなったルビアス人は、現状あの惑星の戦闘部隊や生活等を円滑に統括できている。彼らを通じて我々は惑星上でのヂラール敵生体掃討作戦を円滑に進めることができているのも事実である。今後、この惑星からヂラール敵性体を駆逐できた場合、カルバレータ化したルビアス人達が、この惑星の文化を統括していくだろう。その行為に関して我々は一切の興味がない。後の話は彼らに任せる予定である』
ふ~む、となる柏木長官。この話を、地球人視点で翻訳し、理解すると、要するに……
【かの星に戻ったルビアス人の仮想生命体を中心に宗教化して種族を統括し、今後文明を築いていくんだろうけど、まあそれは彼らの文化のことだし勝手にやってくれていいから。という事でがんばってね】
となる。
(まあ……良いのか悪いのかわかんないけど、どうなんだ? こりゃ……)
二〇〇〇年前ぐらいの地球の、シナイ半島もこんなんだったのか? とか……って、もう考えるのやめた柏木先生。
「(フェル、パウルさん、ナヨさん……あとでちょっちお話が……)」
そう柏木が言うと、苦笑いで頷くナヨ。彼女は地球での、特にかつての生活が長いから、宗教の何たるかぐらいはもうわかっている。まあフェルにパウルはイマイチ理解してない感じではあるが、柏木が何を話したいかぐらいは察しているようだ。
いかんせん小声で話しても意味がないこの席上、とりあえずこの件は後でというところ……で、それよりも……
「アルド閣下、事の次第はよくわかりました。確かにこの宇宙に奴らが侵入しようとしている事実は流石に看過できませんね」
『理解してもらえたことを評価する』
「はい、貴方がたがそれを今まで抑えてくれていた存在だったとは……」
『否。抑えてはいない。恐らくヂラール敵性体はワームホール生成に関する何らかの機能を有している。ヂラールの群体が我々の把握している数で済むとは到底考えにくい。この広大な宇宙空間で群体が何処かに、更に多数出現している可能性は否定できない』
「なるほど、そうですね……これは我々も知ってしまった限りは、もう対岸の火事での出来事というわけにはいかないかもしれません……」
そして柏木は常任理事国側へ体を向き直して、
「各国のみなさん……連合日本は、ヤルバーンが飛来して以降、特危自衛隊を創設し、連合加盟を果たして連合憲章下で行動をするようになり、更に今になるまで彼らゼスタール人との紛争がティ連の歴史としてあり、また、何年か前の惑星サルカス・ヂラール事件があり、そういう経験を経ての現在があるので、率直なところを言えばこの件でも対応は可能です。その点、USSTCを擁して先の惑星サルカス戦でご協力頂いた米国はご理解いただけるものと思いますが……」
その言葉にリックは大きく頷く。
「……今回、各国常任理事国、即ち国連の安全保障における中心としてのみなさんの決断、更には各国同盟国と、どうお話をされるか。今後はそこを私達ティ連……勿論これは連合日本をも含めたという意味ですが……我々は皆さんがどうご決断なされるか、推移を見守らせていただきたく思います……」
即ち柏木は、今後の国連が、意思を統一した組織になれるかどうか? ということを問うているのである。
『国際連合』という言葉、これは日本人が勝手に考えた妄想を含む『意訳』である。本来の意味は『連合国』という意味だ。従ってこのUN、つまり第二次世界大戦時の『連合国』を意味するものであって、ティ連のような主権連合組織を意味するものなどではないわけである。
組織としては、そこらへんの町内会のご近所連携の方がまだマシともいえるのが本来の『連合国』組織であって、よくよく考えれば『国際連合』などというオモシロ翻訳を誰がしたのかと思いたくなるのが現在の国連なのだが、柏木はそこで所謂日本人が妄想した本当の意味での『国際連合』もしくは『国際連邦』に地球世界がなれるかどうかを常任理事国関係者に問うたのである。
現状ゼスタールの技術は、かなりの高度な技術を開示されてはいるが、全てではない。
例えば空間跳躍技術に、次元空間制御技術。この次元空間制御技術に関しては、見たとおりティ連よりも彼らのほうが上である。これはティ連としても欲しいところだ。
つまるところ、結論を地球主観で理解するなら、『これらの技術を入手したくば、地球社会は【国際連邦】になれ』とゼスタールに問われているようなものなのである……これは流石に今いる関係者で考えることなどできない。当然お持ち帰り案件になり、国連総出で話し合われるだろう。
そして国連各国はなぜに日本が国連に加盟しつつも、彼らから距離をおいたか。これも理解できるだろうと柏木は考える。
それは遥か昔、ティ連が一つになった時と同じ境遇のミニミニ版が地球世界に起こり得るかもしれなからだ。
目の前に大きな夢や希望に未知の未来があり、それを得るにはみんなが一丸にならなければならない。だが、一丸になるということは、当然一丸になれないひねくれた奴や、主導権をやたら握りたがる奴も当然出てくるわけである……ということは、一筋縄で一丸になどなれるわけがないわけで……後はお察しという奴である。
だが、そのお察しを超えたところに地球人の知らない未来の世界が待つのであれば、『連合国』はどう動くだろうか?
そのお察しの対象となる国や、団体、イデオロギーに宗教、そして特定の個人。それはたくさん存在するだろう……究極の話を言えば、そういう存在を消し去る必要もでてくるわけで、消し去る基準も必要となるかもしれない。
先にその未来の世界に突入した日本は、『連合国』の一員ではあれど、そこは傍観者にならざるをえないのであった。
そしてヂラールの脅威が現宇宙空間に顕現しつつある、いや、してしまっているかもしれない現状。
速攻で対応できるのはティ連勢しかいないわけで、柏木防衛総省長官は、即座に防衛総省総会にかけて決裁をするとアルド・レムラーに約束した。つまり柏木は一度連合本部に戻ると言う事である。フェルと姫ちゃんとの家族水いらずな生活は、少々早いが今日で終わりだ。
一旦地球に帰還後、すぐに本部へ向かうとフェルに告げる。無論、パウルもティ連の代表の一人として来ているわけであるから、彼女も一緒にという次第。つまり柏木は機動攻撃艦フリンゼ・サーミッサに相乗りさせてもらうという予定だ。
……という事で、そんな流れで会議は終わる。
一旦解散して、各々ゼスタール側から用意された部屋でこの会議の事後処理を行う……多分今後は世界中が大仕事となるのだろう。
地球で唯一、宇宙国家の一員として稼働している日本の後を追えるかもしれないわけであるからして、大事なところである。
ということで、先のコソコソ話の続きをしている柏木とパウルにフェルとナヨ。で、更にはその話にたまたま混ざってしまった大見にメル。別に聞いちゃダメな話でもないので一緒に議論中。
「……ということで、どうしましょ。ゼスさんがティ連に加盟するワケですから、ティ連としてもそのルビアスという惑星に介入しないわけにはいかなくなってしまいますし……」
『フーム、確かに。カシワギの言う事はもっともですね……妾も過去のニホン国を知っております。丁度ブッキョウという考え方が伝わった頃でしたか。当時はそんなお伽話のような存在を国家が総出で崇拝するのを奇異に思ったものですが、妾達の創造主の考え方も、対象が架空の人物となれば、シュウキョウともいえるところがありますからね』
「でしょ? フェルも地球にいてもう長いし、わかるだろ?」
『ナルホド確かにそうデスね。あのスール化されたアイスナーサンみたいな方を仮想生命体としてルビアス文化に定着されたら……』
と、先のルビアス人のカルバレータの話を議論中の皆さんであった。
『私は正直よくわかんないな。別にハルマのシュウキョウってわけじゃなくて、そういう「存在」や人格体という一種の生命として存在しているのは事実なんだから、別にほっといてもいいんじゃないの?』
とエルフみたいな容姿でんな事をのたまうパウル提督。その姿で言われたらとトホホ顔な柏木と大見。
「いや、パウル提督。現状我々のような文化を持つ種族の視点から見たら、所謂『預言者』をポンポコ量産されるような感じであるわけでして……」
『そうだよ~。私も事実上のサルカス人だからわかるけどさ。父様達が最初サルカスにやってきた時も事実そんなんだったし、今でも父様が国王なんてやってるのも、父様達を天上人みたいに考えるサルカスの人がいっぱいいるからでさ、そりゃなかなかそういった考え方を見直せるものじゃないと思うよぉ』
大見とメルもやっぱり『どうなんだ派』であった。でもパウルみたいな考え方も重要である。でないと議論にならないからだ。
まあとはいえ、ここで議論しても答えが出てくるわけでもないのはわかっているので、とりあえず各種族や文化の視点からみた参考意見として享受する柏木長官。パウルと共に本部に戻った際に、サイヴァル連合議長や他議員達とも色々話し合ってみると、そんなところであった……
「基本、何ていうか……ゼスタール人さんって、究極の善人の集まりですからね……どう言えばいいか、『自分達が良いことと思えば、良くなるまで手段を選ばないでやっちゃう』ってところがありますから、ゼスタールさんとも色々話し合って教えていかないといけないところも多そうな……いやはや……」
今後の事を考えると、地球もティ連も大変である……
* *
その後、ティ連及び国連の諸氏達は、ナーシャ・エンデの各施設をシビアに連れられて見学する。
壮観だったのは、ドーラや母艦のプラント。そりゃトヨハラやアメリカンモータースの工場なんてレベルではない。究極の自動化された工場で、かの兵器達が造られていく様は圧巻であった……
だが、ここでも口元波線になる柏木。理由は、生産ラインに©ヤル研の『クロウ型』と『カーリ型』がドバンと生産ラインに乗っていたからである。まるで1/1プラモの工場ゲホゲホゲホ。
ささやかながら晩餐会も催してくれた。
ゼスタール側から出席したのは、シビアとアルドにアイスナーと彼女の妻、ハンナであった……ってか、ミス・ハンナ。その容姿がえらい若くなってたり。コレにも地球人諸氏は苦笑いである。美魔女どころではない。
で、ゼスタール料理を振るまわれた皆さん。過去のゼスタール人が食していた料理を、ティ連から供与されたハイクァーン機器を使って早速再現したという次第。その性能に感動しているというアルド閣下。既にハイクァーン装置を量産させているという話。
レ・ゼスタシステムも基本ハイクァーンなので、これも機器を参考に本格修理するという予定。
で、晩餐のメインディッシュは……
『わぁ! カレーですねっ!』
歓喜するフェルさん……ってか、ゼスさんもカレーかよと大笑いする地球人諸氏。ゼスタールの具材を入れて、シビアが研究したゼスタールバージョンのカレーであったり。ま、こういうのも『交流』ということで良きかなとホッコリするみなさん。最後のデザートには……ヨーグルトチーズケーキのようなもの……
何故にヨーグルト・チーズケーキなのか、首をかしげる柏木達に、国連の方々。でもその理由を知っているのは、月丘とプリ子。
おすまし顔でチーズケーキを美味しくいただくシビアが印象的。
ってな感じで、意外と楽しい晩餐だったのがいとおかし。
そして、帰国の途に就く諸氏。
『シビア・カルバレータ。引き続き、ニホン国主権体の諜報組織に協力せよ』
『了解した』
アルド・レムラー閣下直々の指令も受けて、シビアは月丘達とともに日本へ派遣される事となる。シビア自身も総諜対の居心地がいいのか、どうもアルドに意見具申はしていたみたいである。更に……
『後日、地球世界の軍事調査合議体として、ネメア・ハモルもニホン主権体へ派遣する』
『わかった。受け入れ体制を整えておく』
ネメアも日本へ派遣するというお話。またド級の異星人美人さんが一人増えるわけなので、喜ぶのはアッチの連中か?
それはいいとして、アルドにアイスナー夫妻。そして、初見のスールな方々も何人か見送りに来てくれた。
派手さはないが、今まで仇敵同士だった関係が、信頼をともなう関係になり、互いの連携を確認できたことは重畳である。それは良い結果を伴っての帰国となる。
常任理事国側は、このチャンスともいえる状況をどう扱うか、これも興味深いところだ。
ティ連人達、勿論地球人などは言うに及ばず、その知らないところで、この宇宙空間の防人として活動していたゼスタール人達。
ティ連は一〇〇余年もの間、互いの意志が通じぬ齟齬な関係であったために、こういう状況がわからなかったわけである。
そこには少なからぬ責任を感じているのが、当の連合防衛総省軍人のパウル提督に元連合議員のフェル……柏木も新任の長官ではあるが、そこはもう彼も一流である。早急に手を打たねばと思う。
ティ連世界と地球世界に変革をもたらす波を作ったゼスタール人、ナーシャ・エンデへの訪問。
次の世界が見える分岐点である……




