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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
20/89

【第三章・時空の守人】 第一九話 『調査団』

 

 ナーシャ・エンデ……ゼスタール人の在るところ。

 いや、正確に表現するならば、ゼスタール人の『人格』が在るところ、と表現したほうがいいだろうか。

 例えば、シビアやゲルナー、ネメアにしても、本来彼、彼女達の『存在』が在るところは、その『ナーシャ・エンデ』なる場所なのである。それをカウサ、つまり『コア』という主観を司るデバイスへ人格の『場所』や『位置』を転移させて、空間的に存在させる状態の人格体とでもいえば良いか、そんな存在が今のゼスタール人なのである。

 ナーシャ・エンデに存在しながら、任意の場所にカウサを通じて同時に個体として存在するという、極めて妙ちくりんな知的生命体……いや、知的人格体。それが今のゼスタール人なのだ。

 で、この機能原理を破壊されたコアからパクってパワーアップさせてしまった存在が、ナヨ閣下というわけである。勿論ナヨさんの人格が在るところは専用のトーラルシステムである。

 ナヨのコアが主観となって任意の場所に存在する……そういう存在が彼女であり、同じような存在がシビア達なわけなのだ。

 だが、ナヨとシビア達を比較した場合、一つだけ違う点がある。

 ナヨは、元々は故人のニューロンデータであり、まあ言ってみれば、ティ連的な考え方で言うと、基本ただの高精度な個人情報にすぎないわけで、それをトーラルシステムの何らかの未知の処理によって、その個人情報に意識と自我が宿った存在……というのがナヨなのである。

 だがシビア達ゼスタール人は、ゼスタール版不完全トーラルシステムである『レ・ゼスタ・システム』に外敵からの攻撃で滅びかけていた自らの種を分子的に『保存』させようとして……結果的に言えば、全く予想だにしない結果になり、保存どころか肉体を失って『スール』という、精神体か、科学的な霊魂のような存在になってしまったのがシビア達であり、その二五億もの『スール』の存在する世界が『ナーシャ・エンデ』なのである……

    *    *

 ……などと、柏木からレクチャーを受ける常任理事国から派遣された大使級の使節達。

 各人、各国首脳との、出発の挨拶も済んで、『宇宙空母カグヤ』に搭乗し、現在月軌道上で待機しているわけなのだが、地球圏から離れる前に『ゼスタール人』について諸氏柏木連合防衛総省長官閣下からレクチャーを受けていた。

 とはいえ、なんでまた柏木長官閣下がゼスタールの説明なんぞしてるのだろうかと。

 柏木は『連合防衛総省長官閣下』であるとはいえ、基本科学知識で言えばズブの素人レベルである。 

 だがなんだかんだでシビアを捕虜として尋問した実績もあるワケで、そんなところで柏木がゼスタール人に成り代わり、彼らの文化習俗習慣を各国使節団に教えているワケなのだ……まあ、そのカンペレベルの知識も、彼のプレゼン能力にかかれば、なんだか高尚な話にもコレ聞こえるわけで、相応に体をなして見れるものではあったりする。

 と、言うことで、カグヤ会議室で柏木からそんな話をされてミーティングしている各国諸氏。


「……では、カシワギ長官閣下、その『ナーシャ・エンデ』なるところは、我々人類の生活環境に適しているかどうか、そういうところも正確にはわかっていないと言う事なのですか?」


 フランス元老院議会から派遣された大使、『ベルナール・オージェ元老院議員』が柏木にそんな事を問う。

 フランス元老院というのは、いうなれば米国の上院。日本の参議院に当たる議会である。フランスは下院、元老院という二院制を敷いており、下院、一般には『国民議会』と呼ばれる議会が、日本の衆議院同様に行政の最終的な決定権を持つ議会であり、元老院は諮問機関のような存在で、日本の参議院にその性質は近い。なので、諮問機関のような存在の議院であるため、此度フランスはこの元老院から四〇代の『オージェ議員』を臨時大使として派遣してきた。彼はかつて欧州宇宙機構の宇宙飛行士から議員になった経歴を持ち、その経歴を買われた格好になっている。


「オージェ議員、ご質問ありがとうございます。え~、その点をお答えするには、私達ティ連としても此度初めての訪問になりますので、全く同じ疑問を当然当初は持っていたわけですが……」


 そりゃ当たり前である。柏木達も同じところに初めて行くわけなのであるからして。

 だが、海外勢の方々には、どうしても日本やティ連がもう何でも知っているという誤解が付きまとう。その点をやんわり柏木に指摘されて、思わず会議室に笑いが起こる。ま、みんなさほど緊張はしていないようである。


「で、実際のところはどうなのですか? ミスターカシワギ」


 と、そうオージェをフォローするように問いかけてくるは、米国の大使となった、かの元ケネディ宇宙センター所長のリック・パーソンである……彼は現在NASAを退官し、かの米国宇宙産業大手の民間企業、ユナイテッド・ギャラクシー社に役員扱いの技術者、『フェロー』として勤務している。ま、ということで事実上の、米国お抱えの宇宙技術企業役員をアメリカは大使級で送り込んできた。確かにリックはそういう点では最も適した人材である。


「そうですね、正確なところを私も確かに知りたいですし……シビアさん、どんな感じなんでしょうか? 説明お願いできます?」

 

 横に控える褐色ボーイッシュな美少女に語りかける柏木。つまり傍らでアドバイザーとして待機していただいたシビアが立ち上がって、皆に説明。


『了解。では説明する……確かに我々のスールが在る所、ナーシャ・エンデは、元来我々の人格精神体スールが収納された……そうだな、お前達にわかりやすく言えば、本来はバーチャルなものであって、物質として確立している生体存在であるお前達が、元来快適に認識できるところではないのは事実だ……』


 まあ、普通に考えればそうである。喩えるなら、彼らが住む場所は。とても綺麗で素晴らしい映像を持つ、テレビゲームの中の世界であって、それをリアルな人間が認識できるわけがなく、人間が認識できるのは、その風景を再生するゲーム機の本体と、中の電子機器である。シビアが言いたい『ナーシャ・エンデ』の実体として存在する知的生命体からの視点でみた姿は、そういうところだと言うことだ。

 で、シビアは説明を続ける。


『……だが、我々もレ・ゼスタシステムによって、現在のカタチ、即ちスール化する以前は、お前達同様の存在であり、そこには知的生命体として普通の生活もあった。従って、ナーシャ・エンデには現在我々が形を成しているこの姿に準じる活動形態として利用できる、かつてのゼスタール文化様式の生活空間や、自然、市街地などを再現した場所も存在している。従ってオージェ生体にパーソン生体が懸念するほど無機的なところではない。安心せよ』


 と、まあゼスタール人も、有機知的生命体が快適に過ごせるように、ナーシャ・エンデで失敗しないよう気をつけていたり……

 ただ……とシビアは付け加える。


『これから赴くナーシャ・エンデの存在する空間、所謂お前達星団主権体99……いや、ティエルクマスカ連合主権体が言うところの「次元溝」という場所。我々はそれを「時空間接合帯」と呼称しているが、その場所は有機生命体が存在するには、この通常宇宙空間よりもかなり厳しい場所になる。留意せよ』


 と、そんなことを話したり。ただ、ナーシャ・エンデというものが存在する空間が、『時空間接合帯』等という場所なのは柏木も初めて知った。当然初耳の言葉なので、『何じゃそりゃ』と思うわけだが、今その手の関係者で側にいるのはシビアのみ。ここでシビアに『なんでっかそれは』と聞くのもカッコワルイので、後でカグヤに同乗しているニーラサンに聞いてみようと思う。


 と、さてここでニーラの話が出たワケだが、此度の調査団の日本・ヤルバーン側スタッフは、日本政府側として、フェルさん外務大臣に、そのお付きのボディガード件調査要員の月丘にプリル。ヤルバーン側は、ティ連の使節として、柏木。ヤルバーン州の使節としてニーラにナヨが乗り組んでいる。もちろんこれには宇宙空母カグヤのクルー、即ちティラス艦長以下乗組員は含まれていない。

 外務省やヤルバーン州のスタッフ諸々……えらいメインどころが少ないではないかと言うなかれ。まだこれから人工亜惑星要塞レグノスで、待ち合わせる連中もいるわけである。


 で、国連常任理事国側の主要人員は、先に出たフランス元老院議員の『ベルナール・オージェ』議員。以下フランス政府スタッフに、米国はリック・パーソンUG社取締役と、主にNASAに米戦略軍宇宙戦術コマンドUSSTCスタッフ。そして英国は……


「私からも一つ質問があるのですが、よろしいですかな?」


 穏やかなキングス・イングリッシュの物言いで軽く挙手して話すは、かの白木にフィッシュ・アンド・チップスを奢ってくれた元在日本英国大使の『クラレンス・ベイカー卿』であった。彼はそういう経緯もあり、白木と外務省時代からの仲が良い関係でもあり、また白木の嫁さんである麗子の取引先トップだというのもあって、此度英国政府からの抜擢である。


「はいどうぞ、ベイカー卿」

「ありがとう閣下。では……シビア閣下のお話を聞いていますと、我々のような、所謂肉体を持った生命体の生存に適さない場所というお話しに聞こえるのですが、一体どのような措置を持って我々とその場所で対談しようと考えていらっしゃるのですかな?」


 つまりベイカー卿は、そんな過酷な場所へ連れて行って、自分たちが生存できなければ意味ないではないかと仰りたいらしい……となれば、先ほど柏木がニーラサンに聞いてみたいと思った話も、ここで聞けることになるという次第。『ベイカー卿ナイス』と思う柏木。


「なるほど……という事ですが、実際のところどうなのです? シビアさん」


 とシビアに問う柏木。


『ベイカー生体に回答。時空間接合帯とは、この宇宙空間と、他の宇宙空間との間に存在する空間の事である……』


 シビアが説明するに、概念的には、所謂ティ連がディルフィルド航法等で使用する亜空間領域と、この宇宙空間の、丁度狭間の次元階層空間に存在する世界の事を彼らは『時空間接合帯』ティ連でいうところの『次元溝』という場所で呼んでいるのである……なんともティ連の『次元溝』という名称は、あながち間違いというわけでもなかったようだ。


『その空間では、特殊なシールド装置なしでは、物体の維持が極めて難しい。例えばこの船の場合、シールドを展開していない状態の場合、時間に比例し、相応の短期間で艦体を維持できぬ程に朽ちていく事になる。有機生命体の肉体の場合、シールドの保護無しで、単純な宇宙作業服程度で空間に出れば、恐らくその形態を即座に維持できなくなる。だが、エネルギー体として存在する事は極めて容易である。従って、スールという一種のエネルギー体になっている我々であれば、難なくその空間に存在する事が可能なのではあるが、我々の在るところである施設の存在を維持するためにはシールド技術が欠かせない。そのような空間であると認識せよ』


 ベイカー卿はシビアの説明に首を傾げつつも、とりあえずは理解したようである。つまり、簡単な話、この宇宙の常識が通用しない場所であるという事だ。まあ科学的な話は彼の連れてきた学者から教示してもらっているようだが……そんな空間が地球では確認されたことがないわけで、勿論ティ連としても初めての存在を認識することになる。

 かつて、精死病の治療法を探るべく実行された作戦『カグヤの帰還』。その作戦遂行直前に現れたガーグデーラ、即ちゼスタールとの戦闘が行われた『セルゼントゲート攻防戦』と呼ばれた事件があった。

 その時にティ連で初めて使われた新戦術で兵器の一つ『高次元ソナー』を使う事によってわかったガーグデーラの活動域。

 だが、実際その活動空間の分析を試みるに、先のシビアが言ったとおりの実に危険で、とある理由でティ連でさえ関与した事のない時空間であったが故に、その研究も含めて当時はガーグデーラに対する対策もなかなか進まなかったという理由もあるのだが、今となってはシビアの解説によって、何故に彼らゼスタール人がそんな辺鄙極まる場所へ移り住んだかという話に当然なるわけで……

 ベイカー卿の話に混ざる形で、質問するは……


「では、シビア大使閣下。あなた方が、その……スール、ですか? そのような存在であるがゆえに、その時空間接合帯での存在が可能なのは理解できましたが、なぜにそのような通常の活動が難しい場所に定住しようとなさったわけで?」


 中華人民共和国から派遣された使節、『王 活宇』がシビアに問う。彼は中国最大手の電子産業グループである『電想集団』の先端研究部門経理、即ち日本の役職で言う『部長』に相当する人物なのである。

 年齢も三〇代後半と若い。

 ここで疑問に思うのは、なぜに企業から選抜されたかという事なのだが。まあなんといっても中国である。この『電想集団』という企業も、基本国営企業であるからして、その実は中国科学局下にある一部門なのである。別の喩え方をすれば、中国で有名な兵器メーカー『中国北方工業公司』が、人民解放軍傘下にあるのと同じだと考えれば良い。

 ただ。この王なる人物。少々柏木がいっちょ絡んだ仕掛けのある人物であった。

 というのも、彼は所謂中国現在のトップ派閥『廬派』の人物なのではあるが、実はそれ表向きで、廬派に忍び込ませた『張派』の人物であったりする。なので柏木にも内々に張から、この王なる人物を送り込むよう仕向けるから、宜しく頼むと言付かっているわけである。

 ということで、まあ張の息のかかった人物なら、ここに至るまでの経緯も十分知っているとも思うので、お痛はしないだろうと安心はできる。


 で、話を元に戻すと、という事だが、王の『なぜにそんなへんぴな所に住んでいるのだ?』という問いに、シビアは極めて厳しい現実を踏まえた答えを返してきた。


『ワン生体に回答。それは、お前たちもすでに知っているあの生体兵器、敵性体01……お前たちの言葉で言う「ヂラール」の侵入から、我々の存在を守るためである』


 会議質諸氏全員厳しい顔して沈黙。ここでヂラールの名を聞くとは……と。

 特に柏木。シビアの話す『時空間接合帯』の性質を考えると、その理由が何となく理解できた。

 どうも、リックや、王にオージェも察せたようである。彼らは当然そういった科学技術には明るい人物達である。ま、言ってみればこの中で一番アホなのが、なんとも実はいっちゃん偉い柏木であるというのも悲しい話だが、とりあえずはそういう頭脳の関係。


 で、そのシビアの回答にこれまた割って入って話すは、最後の常任理事国使節である、ロシアからの人物。彼もこれ懐かしい『アンドレイ・プーシキン、国営ロスコスモス社宇宙科学部部長』であった。勿論この人物は、かつての、あのISSで活躍した時の人物である彼である。

 ちなみに、この『ロスコスモス』という国営企業は、かつて『ロシア連邦宇宙局』と呼ばれた部署で、これらロシアの宇宙関連機構に企業が二〇一六年に統合され、ロシア連邦宇宙局の後継機関として国営企業化された部署が、ロスコスモス社である。まあ言ってみれば日本の独立法人であるJAXAと同じようなものだと思えば良い。


 で、アンドレイは……


「……ではシビア大使、あなた方はその……ヂラールから身を守る為に、空間自体を敵を防ぐ障壁というか、武器というか、そんな考え方でその時空間接合帯なる場所に身を隠したと……そう理解できますが……」


 流石は常任理事国から派遣されたエリート使節である。そういうことだ。皆ヂラールの言葉を聞いて、アンドレイと同じ発想をした。

 つまりシビアが先に行ったとおり、生物はこの接合帯では、適切な防御周波数帯とパワーを持ったシールドがないと、ほぼほぼ生身で存在することができないわけである。従ってヂラールも生物兵器であるからして、まあシールド等々張る能力があるにせよ、シールドの種類が接合帯の空間環境から身を守るものでもない限り、容易に奴らもその空間への侵入ができないだろうという予想を各国もしたという寸法である。

 実際、シビアは一言『肯定』と言って大きく頷く。なかなかにここまで知恵で物事を予想できる地球人に感心していたり。

 勿論、この中で一番ナントカな芸大卒の柏木も、偏った知識で想像できてはいた。なので大丈夫なのである……


 と、そんな感じで奇しくも、米・露・英・仏・中から派遣された人物達の紹介も兼ねる形で事前確認会議は進んでいくわけで、彼らもなんだかんだいってヤルバーン飛来から一〇年も経っている世界で生きてきた人々でもあるので、現状というものを、まあそんなに脅威に驚異と思うところも今のところはないという感じでもある。

 ただ、今現在のカグヤに乗って、宇宙旅行している状況に対しては、そこは驚きもあるようではあるが……

 あとは話の中に出てきた『ヂラール』である。

 これの脅威は。今のところ日本と米国しか知らないし、体験していない。特に米国でも特級のエリート集団である『米国戦略軍宇宙戦術コマンド・USSTC』しか知らないワケであって、日米以外の国は、これから直接ヂラールという存在を、身をもって体験しなければならない状況に出くわす可能性もある。

 柏木が思うのは、その現実を垣間見たとき、各国はどう動くか……そこが実は今回『ナーシャ・エンデ』での最大の注目点なのではないかと思ったりするのであった……無論そこは日本国閣僚のフェルも同じ考えである。これは重要なことであったりするわけである……


    *    *


 そんなところで、各国への説明会が継続中ということで、その他スタッフも忙しくやているという次第で、艦内でスタッフ連中もせわしなく艦内を行ったり来たりで色々と作業をやっているようであった。

 カグヤ艦内では、米英中ロ仏、白人黒人黄色人種と各国人種の顔ぶれが行ったり来たりで、今までにない光景である。

 此度は、こういう感じでもあるので、各国専用に個別会議室に、スタッフ用個室を用意している。

 カグヤはもう御存知の通り豪華客船のような内装の軍艦なので、今回のような事態にも、まるでクルーズ客船で国際会議をやるかのようなセッティングへと即座に対応が可能である。というか、逆に各国スタッフは特危自衛隊員が、こんな贅沢な艦内で作戦行動を行っているなんて、などとそんな事を思ったり。まあこれはカグヤの中を見れば、誰でもそう思うだろう。一〇年後の現在でも、相変わらずの艦内である。


「クロード、貴方はヒマそうですね。はは」


 サロンのソファーで足組んで煙草ふかしているクロード・イザリがいた。


「よお、カズキ。ま、こういうイベントにはお前は付き物だわな。ここにいても可怪しくはないか」

「いやいやいやいや、それはコッチの台詞ですよ。またアルバイトですか? ってか、ここ喫煙してもいいんですか? 怒られますよ?」

「ん~、なんかティ連の連中って、煙草を良く知らないみたいなんだよな。こんなのに火つけてふかしてるのが相当珍しいみたいだぜ。一応『吸ってもいいか?』って断ったんだぞ、俺も。で、なんか興味あんのかしらねーけど、どうぞどうぞって」

「はは、なるほどね。まあ煙もティ連の空調技術なら受動喫煙にならずにすみますか」

「ま、よくしらねーけどな……」と言いつつ、クロードは携帯灰皿に短くなった煙草を押し込むと、「まあ今回はIHD正規の仕事だよ。フランス政府からIHDへ公式に仕事の依頼があってな。って言っても、まあウチのボスが、今回のこのイベントの話聞いたからってんで、こっちから営業かけたんだけどな……」


 つまり、麗子が仕事のネタ見つけて、クロード達に振ったというわけだ。


「……俺と部下連れて、知り合いの官僚にちょっとコレ渡して」と親指と人差指をこすり、「政府の人間にナシつけてもらったんだよ。んで、幹部の俺が同じフランス人で、イツツジ傘下。つまりティ連に関係の深いPMCが噛んでくれるなら大助かりだっていうことで、お仕事にありつけたって次第だよ」


 なるほどなと月丘は思う。まあ麗子が関係してくれてるなら全く問題ないかと。それで独自営業やって、真っ当なお仕事してるなら、結構な事だと納得する彼。なんでも仕事の内容は、雑務に護衛、そして『ティ連関係の状況アドバイザー』といったところだそうである。ということで今回クロード達も、イツツジグループを通じて、レベル4のPVMCG装着が認められている。こういうティ連関係の諸々を扱える日本人以外の外国人や、外国企業は非常に希少価値が高いので、フランス政府も実のところクロード達の営業に、渡りに船といったところではあったのである。


「なるほどね……なら今回各国が用意したスタッフの顔ぶれで、色々とその国の雰囲気がわかるな」

「まあな。常任理事国だけでいえば、ティ連レベルっていうのか? そういう『ティ連関連度』でいえば、米国がトップ。その次にロシアだ。SISの一件があったしな。で、次に英国で、その次にウチの客。で、中国がビリだろう。だけど、我が社IHDとお取引いただいたフランスは、ロシアぐらいのレベルにはなってるんじゃないのか? まあ中国はなぁ、日本とやらかしたアレがあるかぎり、当面ビリ確定なんだろうし」


 ハハと、そこで苦笑いが出る二人。


「まあでもイツツジグループである限りは、安保調査委員会の規約もありますからね。そこは一緒にまた仕事ができますね」

「ま、そういうこった。色々よろしく頼むわ……って。お前のツレのエルフちゃんは?」

「ああ、彼女なら今、ニーラ先生とナヨ閣下とフェル大臣とで打ち合わせ中ですよ。プリちゃん含めて、ウチの女性陣はみんな頭がいい科学者さんに、技術者さんですからね」


    *    *


 ……で、そのオツムの良い科学者と技術者連中は今、何を話しとるのかというと……


『やはり今日の午餐ですが、軍艦というからには妾も昨日体得した、ヨコスカ海軍カレーを、皆に振る舞うのが良いと思うのですが』


 と、カグヤの厨房エリアで異星人女子、エプロンに割烹着着て、何やら相談中。で、なんかナヨさんがんなこと言うと、


『サンセー! ということで、レシピをシステムから抽出して、みなさんで手作りするでスね!』とフェル大臣閣下が張り切る。いや、各国大使来てんのに仕事しろよと。

『じゃあワタシは甘口がいいでース』と、ニーラさん。

『え゛甘口ですか? 教授それは邪道では……』とプリ子生体。4辛派のプリ子としては、ちょっと考えられない言動である。だがオツムの栄養補給ために、ニーラ教授は甘口がよいのだという話。そこを2辛でなんとか我慢とか説得するフェルさんにナヨ閣下……


 まあ、のんびりしたナーシャ・エンデ行きである。今のところは……

 でも、常任理事国大使連中は、このメンツの作った特製カレーを食べれるというのも、ファンが聞いたら泣いて悔しがりそうな、そんなトコロでもある。


    *    *


 さて、そんな感じで順調に出発と相成ったカグヤ。

 まずは月のゼスタール基地で、引率してくれるガーグデーラ母艦と待ち合わせ。

 月までは特危自衛隊の機動重護衛艦『ふそう』と、米軍USSTC所属の航宙駆逐艦『レナード・ニモイ』が護衛についてくれた。

 ガーグデーラ母艦は基本無人艦であるため、その運用は通常であればナーシャ・エンデの戦闘合議体が遠隔指揮するという形で運用するのだが、此度はカグヤからシビアが無人艦を指揮する事になっている。なのでシビアの統括する合議体構成も、戦闘合議体を加えて二〇人編成で頑張っているそうである。


 ふそうと、レナード・ニモイが発する『安全ナ航海ヲ祈ル』の発光信号に送られて、月を後にするカグヤとガーグデーラ母艦。一〇年前は死闘を演じたこの二艦が行動を共にするのも、なんとも見ていて不思議な気分であるが、悪い気分ではない。

 で、月軌道から相当離れた距離から他のスタッフとの合流の為に、まずは『人工亜惑星要塞・レグノス』つまり『レグノス県』に向かうためにディルフィルドジャンプを行う……


 ……人工亜惑星レグノス……

 太陽系外縁部から約一光年離れた、ティ連が設定する『太陽系文明境界線』即ち地球圏文明の国境と暫定的に認識している場所にある、ティ連の軍民官が合同で運用する複合宇宙施設である。

 それまでは、現在火星に移築されている当時冥王星域にあったゲートを通じて、乗り換えすることでしか行けなかったイゼイラ本国への直行ルートを確保するために、ティ連が設置した施設である。勿論有事の場合にはその名の通り『要塞』として稼働するわけでもあり、ティ連の太陽系圏域の防衛施設でもある。


 とそんな場所へ到着するカグヤ一行。

 日本人スタッフからすれば、もう普通にお役人に民間企業の行き来もアリーの、観光施設でもありーのと、そんなに珍しいトコロでもなくなったこの場所。現在では地球内の外国人も、滞在審査で許可が出れば来ることができ、マスコミにも紹介されているので、割と世界的にも知られた場所となっている。お手軽宇宙旅行では定番の場所だ。

 と、そうはいえ、やはり此度の常任理事国派遣の方々は皆初めての施設になるので、その雄大で巨大な人工物体に唖然とし、また感嘆の声を上げていたりするわけである…………ちなみに、お昼ご飯のカレーは大好評だったそうな。


「ん? あれは……」


 サロンの窓から、レグノス衛星軌道に浮かぶ、巨大な人型を指さして、なんじゃらほいな顔をする月丘。

 その様子を見て、側に寄ってくるは柏木。


「どうしたんだい? 月丘君」

「あ、柏木長官。いえ、あの巨大な女性のような人影ですが……なんですかアレは? この惑星のオブジェか何かですか?」

「ん? ……」と柏木も月丘の指さす漆黒の空間の方を見ると……「ああ、オーちゃん達もう来てたんだ」

「え? オーちゃんというと、大見一佐の事ですか?」

「そそ。あれは『フリンゼ・サーミッサ』っていう連合の新型巨大ロボッ……じゃないな、はは、新型艦だよ」

「新型艦? ああ! あれがそうですか! あの何年か前に、SISでの一件で話題になった」

「そそ。」

「へー、あんな変な……ゲホゲホ、いえ、変わった船をティ連が採用してたんですか、ははは」


 思わず本音が出そうになる月丘。だがそこは堪えた。


 ということで、サーミッサと待ち合わせたカグヤ。サーミッサがカグヤの細長いブリッジ部に接舷し、転送で人員を送り込んで来る。


「やあオーちゃん。久しぶり」

『おう柏木、元気か! あ、いや柏木長官閣下殿』

「はは、何いってんだか」


 と、大見と久方ぶりの再会ということで握手なんぞ。で、向こうでは……


『ア! おねーちゃーん!』

「やあプリル。元気にしてた?」


 と、プリルが姉のパウルと抱き合ってたり。こちらもかなり久しぶりの再会となるそうだ。とはいえ、まあゼル通信で連絡とかはしてるので、久しぶり感はそんなにないのだが……


『で、カズキ! やっとこさだって? プリルから聞いたよ』

「あ、はは、パウル提督。どもども」


 いやはやと月丘君。頭かいて照れ笑いでペコペコと。実はパウルに頭上がらない彼。


『提督なんてのはいいから。これから義弟になるかもしれないんだし。オネーサンでもいいわよ』

「え? お義姉さん? 義弟ですか?」

『ん? 違うの? プリル?』

『カズキサン!』

『あ、いやいやいや、冗談だってプリちゃん、冗談』


 ビシと蹴りをプリルに入れられる月丘。実際相手が異星人でなくても、まあ自分の彼女の兄弟姉妹に会うというのは、あんまり積極的な感情ではないのは確かではある……横でクロードが爆笑していた。

 で、クロードはクロードでこれ美人のパウルに対し、妙に紳士ぶっていたり。実はパウル。これでまだ彼氏ナシなのである。長寿種族で見た目の若さだけは保証付きなので、案外狙い目であったりする。


「クロード……奥さんに言いつけますよ」

「硬いこと言うなカズキ。お知り合いぐらいにはなりたいだろ、普通」


 まあ確かに、見た目完エルフなら、そうもなるかと。特に西洋人は。

 で最後にこちらの姉妹も久方ぶりというヤツで……


『おねーちゃぁ~ん!』と叫びながらダッシュでフェルに抱きつくは、

『ハイ、おひさですねー、メルチャン』とハグするフェル・メル姉妹。


 で、側に来た柏木にも、


『おっちゃんもお久しぶりっ!』

「はは、お久しぶり、メル殿・下。相変わらず元気だね」


 とハグしてたり。で、『あ、ニーラぁ~! ナヨ師匠~』と知り合い見つけてはそっちに飛んでいってたり。


『はは、メルちゃん元気で何よりだ』

『ですね~』


 と柏木にフェル。すると背後から……


『マア、コレダケノメンツト再会デキルノダ。彼女モソレハ嬉シイダロウ』

「まったくですな……あ、柏木さん、どもです。ウチの息子が、またお義母さんのところでお世話になっていまして」

『ウム。毎度ノ事ダガ、世話ニナル』

 

 多川にシエだった。


「任務御苦労様でしたお二人とも。報告書見ましたが、えげつなかったですね、アレは……」

「ええ、何年か前のドーラ・ヴァズラーや、半人半蛇型の巨大ヂラールなんかも強烈でしたが、アレ以上ですね、あのモンスターフラワーは……」


 唸りながら多川が柏木に話す。


『アア。マア単機ダッタトイウノモアルガ、ワガ特危ノ誇ル旭龍ガ、木ッ端ノヨウナ感ジダッタカラナ。アレハ私モ色々ト軍デ妙ナ生物ヲ沢山見テキタガ、正直アリエナイヤツダッタ』


 シエも同感だ。旭龍が単機とはいえ、手も足も出なかったというのも恐ろしい話だと語る。

 そこで助っ人として登場してくれたパウルの『機動攻撃艦サーミッサ』がどれだけスゴイかも良くわかったと。

 そんな話をしていると……


『シエ生体……』

『オオ、シビアカ。此度ハ世話ニナル』

『問題ない……先程の話だが要望がある。後程そのサーミッサ級という機動艦艇を見学したい。認可せよ』

『ウム……パウルニ聞カナイトワカランガ、後デ聞イテオイテヤル。興味ガアルノカ?』

 シビアはウンと頷くと、『あのような設計理念で作られた機動艦艇は初めて見る。確かにヂラール敵性体には有効な形態かもしれない……ネメア戦闘合議体から報告は受けているが、ネメアも極めて興味のある兵器だと言っていた』


 シビア達ゼスタール人は、ネメアの惑星イルナットでの出来事も、すべて瞬時に共有出来るので、あの星での状況も、まるで自分が体験したかのごとくもう知っているのである。その状況を詳細に知識としてあるシビアに目を丸くするシンシエ夫妻。


 ……で、今回合流した人員は、会話からも分かる通り、惑星イルナットで作戦遂行していた人員の一部が柏木達と合流した形になっている。つまり、向こうは向こうでネメアから此度のゼスタール本拠地訪問を聞かされたわけで、イルナットで活躍していた主要メンバーにもゼスタール本拠地へ招待したいという話があったという事である。

 そこで、今回の常任理事国組を除く、日本・ヤルバーン州―ティ連組の主要メンバーをまとめてみると……


○日本政府……フェル・月丘・プリル・大見・シエ・多川

○ヤルバーン州―ティ連……柏木・ナヨ・ニーラ・パウル・メル


 と、こんな具合のメンツとなっている。これはなかなかに重鎮揃いといっていい。

 シャルリにリアッサ、ニヨッタにネメアは、イルナットの調査任務をほっぽって来るわけにもいかないので、向こうで任務を続行中である。


 で、ティ連本国としての代表は、と言う事だが、サイヴァル連合議長とマリヘイル委員長は、パウル提督をその代表にしたという話。なので、此度はパウル大使でもあるという事。ということで、今回ゼスタールの訪問が終われば、彼女は一旦連合本部へ報告に戻るという話。



「では、パウル提督。サーミッサも今回共に同道いただけると?」

『ええ、ファーダ・カシワギ。彼女の運行テストも兼ねさせて頂くわ』

「はは、了解です。でもパウルさん、えらいあの船……って言うには違和感ある形してますけど、まあアレをお気に召したみたいで」

『うん、とっても。変わったコンセプトで、こんなまさかロボットの概念をそのまま機動艦艇にしてしまうなんて、ニホンのヤル研ってスゴイわね!』

「は、はは、まあ確かに……(って言っても、コレってボツになりかけてたんだっけ、確か……)』


 ということで、現在パウルの工作艦隊に組み入れられているサーミッサ級。全高一五〇メートル強の大きさで、全長でいえば正直たかがしれている長さだ。人型故に縦長艦船になるわけで、ティ連艦船の基準から見れば、小型の部類に入る。でも機動兵器基準で見ればかなり大きい。

 でもパウルは気に入ってしまったので、現在機動駆逐艦相当のこの船が、パウル艦隊の旗艦になってしまっている。だが、パウルの艦隊は本来工作艦隊なので、全長七〇〇メートルのヘイシュミッシュ級クラスが主要艦艇なわけだが、サーミッサが旗艦になると、これまたえらい小型艦が旗艦になるなと、そんな話もしていたり。でも、彼女は目立つのは目立つ船である……ちなみになぜ『彼女』と呼ぶかというと、英語で『船舶』の代名詞は『she』だからという話。

 

 と、そんなところでイルナット合流組との面通しも終わり、レグノスを出港する。

 特危組にヤルバーン組は皆カグヤに乗艦し、パウルのみサーミッサに戻り、船を指揮していた。

 先導するはガーグデーラ母艦。

 このガーグデーラ母艦。ゼスタールでは『カルバレータ母艦』と言うらしく、艦名を付ける習慣も彼女らにはないらしい。なので個別の船は『第二〇号艦』とか、そんな番号で呼んでいるそうなのだが、今ナーシャ・エンデに行く三隻で、固有名詞がないのはこのガーグデーラ母艦だけだという話になって、とりあえず名前を付けませんか? という事になり、シビアさんが『肯定。許可する』と仰っていただけたので、まあそこんところは代表して、柏木閣下が命名する事になった。

 で、柏木が付けた艦名が、『アメノトリ』。

 かつての『カグヤの帰還』作戦の時に付けたニーラの作った船『イナバ』に続く日本神話から取った名前である。

 『天鳥船神』という神様の乗る船から取ったという次第。


『……カシワギ生体。では、この名前の元は、お前達ニホン政府主権体の創造神に由来する名称か?』

「ええそうですよ。って、ゼスタールさんにも『神様』の概念があるのですか?」

『肯定。譬えば我々の本体「スール」の語源も。我々の世界に伝承されていた特定の宗教用語に基づく、「霊体」を意味する言葉である』

「そうなのですか! なんかおっかない名前ですね。というかでも、我々に『魂』という言葉が近似だと話すぐらいですから、あながち間違っていないのかも?」


「んじゃシビアさんはユーレイか」とか、大見や多川に突っ込まれる柏木。だが、シビア達は、スールという知的人格体。言い換えれば『知的エネルギー体』ともいえる存在として、少なくともこの世に存在している。

 しかも先程の話では、ナーシャ・エンデがエネルギー体のゼスタール人であれば、何事もなくその空間に存在できるが、物質は特定周波体のシールドを張らないと朽ちてしまうという世界である。

 これ言い換えれば、シビアさんのようなエネルギー知性体なら、空気のように、その空間ではそこらじゅうにいても元来おかしくない存在である……


「その時空間接合帯って場所……案外地球人が言うところの、『あの世』って場所だったり……」


 そんな事を思ってみる彼。確かにシビア達を見ていると、我々が『オカルト』と言っている現象が、科学的な存在の担保をもってそこにいるワケなので、案外的を射てたりするのかも? 実際はどうなのかは解らないが……


    *    *


 さて、ゼスタール・ガーグデーラ母艦『アメノトリ』と、『サーミッサ』に『カグヤ』。三艦揃って人工亜惑星レグノスのケルビン一四面体形状の正方形開口部、次元境界面に進入する。

 刹那、毎度のごとく亜空間の本流にまかせて驀進する三艦。

 で、此度の出口は、セルゼント州でもなく、イゼイラ本星前でもなく、レグノスゲート管理システムに少々お願いして、ゲートのない空間へ飛び出すよう設定してもらっていた。

 つまり、その空間がシビア達ゼスタール人の本拠地『ナーシャ・エンデ』へ行くための順路というものであるという次第だそうである。


 さて、相応に長い時間をゲートで進んだ三艦は、丁度太陽系と、イゼイラのあるセタール恒星系の中間あたりの宇宙空間へ、強制ディルフィルドアウトする。地球からの距離で言えば、約二五〇〇万光年あたりの距離である。ティ連では番号で呼ばれる恒星系で、フェル達が地球へ通常ディルフィルドジャンプで地球に向かっていた時、元素資源確保のために立ち寄った事がある恒星系だと言う話。そこには一つ、なんと生命の宿る惑星があるのだという。


『マサトサンマサトサン』


 柏木の腕取ってカグヤ・ブリッジの壁際というか、いや窓際と言った方が妥当なので、窓際に立つ二人。


『ホラホラ、あのチキューやイゼイラみたいな青い星、見えるでしょ?』

「ああ、あの星ね、きれいな星だなぁ……生物がいるのかい?」

『デスヨ。でね、あの星にホレ、かのモンスター狩りのゲームに出てくるみたいな、あんな動物がウヨウヨいる星なのでス』

「あ! ああ! あの星が! なるほど。確か……ダルゥガとかなんとかいうバケモノみたいな動物がいるっちゅう所ですか」

『ソウです。ってマサトサン、よく覚えていましたね』

「はは、あの時フェルがプレイしながら話してた内容って、当時の俺にとっちゃすごいショックな話だったからな。よく覚えてるよ』

『ですです。あの星のダルゥガとか、バンデールって名前の獰猛な動物は、イゼイラのツァーレほど大きくはないのですけど、そりゃもう暴れん坊サンで、大変ナンデスヨ』


 そんな話を懐かしそうにするフェル。だが、なぜにそういった話も出るヘンピな恒星系につれて来られたのかというと……


『カシワギ生体。ここから時空間接合帯、つまりお前たちの言う「次元溝」へ進入する』


 と現在、水先案内人のシビアが説明する。


『あ、そうなのですか。ではこのあたりがあなた方のナーシャ・エンデなる本拠地のある異空間に近い場所であると』

『否定。時空間接合帯と、この通常宇宙は位相的に距離の概念はあまり意味がない。まったくないとは言わないが、現空間で、ある場所にいるから、次元溝内の特定箇所に近い場所であるという理屈は成り立たない』

「なるほど、まあそう言われればわかる感じもします。って、フェルはもう分かったみたいだけど」

『ハイですね。空間的に位相がまったく違うものですから、距離とかの概念はあんまり意味をなさないでしょウ』

『フェルフェリア生体の言うとおりである。この場所を我々が選んだのは、次元溝に転移する場として、最も適した空間であるというだけの事だ。他意はない』

「わかりました。ではこれからですか?」


 コクとシビアが頷くと、シビアはティラスの下に行き、何か話をしている。

 了解のポーズを取るシビア。で次にティラスが命令を出す。


『達する。全艦、今より時空間接合帯なる空間へ転移する。所謂我々が次元溝と呼称していた場所へ移動する。我々にとっては未知の空間への移動となる。従って各員転移後も各部チェックを厳密に行うように。繰り返す……』


 ティラス提督の命令は、サーミッサのパウルに伝わり、次元溝移動用のシールド周波数が伝達される。

 全艦、警報鳴らしながら、シビアから提供された事象可変シールドに対応した空間保護シールドを展開する。



「今、シールドっての張ったのか? カズキ」

「みたいですね。なんでも今回は、このシールドがないと、我々は存在もできない空間だとかいう話です」


 クロードはサロンから見る外の景色が一瞬変化したのを見逃さなかった。彼の所属する、イツツジ・ハンティングドッグ警備株式会社では、定期的にティ連技術の講習会が開かれる。彼らはイツツジ傘下のPMCなので、外国人が多い職場でありながら、日本以外の国ではまだ御禁制のティ連機械などもイツツジの名のもとに扱えるため、ティ連技術に関しては、同じ外国人でも相応の知識は持っているのである。


「このエネルギーで維持されている防壁一枚超えたら、俺達は存在すら許されない空間に行くってか。おっかないねぇ」

「まったくですね。大丈夫なのかな? ホント」


 月丘もまだ少しおっかない感じである。でもよく考えたら潜水艦乗りだって、たかだが数十ミリかそこいらの外殻の外は、水圧で潰される死の世界で働いている人々だと考えると、まあそんなものなのかなとも思ったりする。それと同じようなものかと。


 で、各艦に警報が鳴り、たちまち次元溝移動の準備が整う返信が各部署からサーミッサに入る。

 

『ファーダ・シビア。カグヤ、サーミッサ各艦、次元溝移動用シールド展開完了。いつでもいいですよ』

『ティラス生体の迅速な準備を評価する。では、我々の存在する空間、お前たちが次元溝と呼ぶ時空間接合帯へ移動する』


 シビアはそういうと、何やら瞑目するように薄目を開けて、目をキョロキョロさせている。

 もちろんこれはシビアの中にいる戦闘合議体という存在が、シビアのコアを通してアメノトリを操艦指揮し、アメノトリ中央自律システムに指示を出しているという話。

 しばし後、ガーグデーラ母艦『アメノトリ』は、メインジェネレーターをフル稼働させて、空間に円錐状の穴を開けるような映像を柏木達に見せる。

 かつては不倶戴天の敵とか言われた連中であった、忌々しくも思った次元溝潜伏の様子をみなして見学する手の空いているクルー達。

 安保理事会大使の諸氏は、彼らに付いているカグヤクルーに、あの現象は何だと色々と訪ねている。それもそうだ、こんな二五〇〇万光年彼方にやってきていること自体彼らには夢か奇跡の類いなのに、ティ連人でも初めて体験する『次元溝潜行』などというSF映画でしか見たことないようなものを見せつけられているのだ。驚愕状態になって当然である。

 今、そんな彼らが窓型スクリーンに見るのは、アメノトリがアリジゴクが巣に引っ込むのを見るかの如く、円錐状の現象中心部に吸い込まれていくサーミッサとカグヤ自身。

 ティ連の宇宙技術を体験したことがあるスタッフの日本人でも、このディルフィルド航行とはかなり違う移動技術に、少々不気味がっていたり。確かに見た目の映像は、あまり気持ちのいい感じのものではない。


 ズズズ……というような音でもしそうな画。カグヤやサーミッサが、艦尾に足下からどこかに引き釣り込まれているよう。

 まあ。確かにどこか悪い場所にでも行くわけでナシなのだが、何かに引きずり込まれるようなこの映像は正直、ちょっと不気味ではあった……

 

 ……そんな現象を体験したしばし後。

 地球人にティ連人、彼らの見る風景は一変した!

 

 何か地獄にでも引き込まれるようなあの画の後、まるで物語の場面展開が急に切り取られ、変わったかの如く出現する彼らが見る映像。

 そこは……『時空間接合帯』とか、『次元溝』とか、そんな言葉では恐らく適当な表現として想像できない……


「こ、これは……!」


 思わず息をのむ柏木。


『フワァァァ……』


 フェルも胸に両手を当てて、窓からその景色を眺める。

 カグヤを指揮するティラス提督も、思わず艦長席から腰を浮かしてしまう。


 サロンでは……


「なんだこりゃ……トレビアンだな!」


 と窓枠の四方をなめるように視線を這わすクロード。


「プリちゃん、この世界は……」

「わ、私もいろんな星系や星々を見てきましたけど、こんなの初めてですっ!」


 月丘にプリ子もポカン状態でその世界を眺める。

 国際連合常任理事国の連中も、大使スタッフ関係なく、外を超高精細に映し出す壁際に群がり、あれはなんだこれはなんだと指さしてティ連スタッフに尋ねている。ってか、ティ連人もシラネーヨって言ってるのにって話である。


 彼らが見る外の景色……

 地球人やティ連人が、宇宙という暗黒の世界の中に輝く惑星に住む、というイメージであるならば、この世界は、まるで光のカーテンが宇宙を覆うような、そんなオーロラがそこら中にあり、その情景が無限に果てしなく彼方へと続く……といった表現しかできないような、そんな空間であった。

 エネルギー輝く大きな光球が無数に交錯し、その一つがカグヤやサーミッサ、アメノトリのシールドに当たっては、柔らかくはじけ飛ぶ。そんな現象が頻繁に起こる。

 光球が当たったところで何か衝撃が起こるわけでもない。

 ニーラが指先を振り振り語られるには……


『恐らくぅ、亜空間の一種と思われる場所なのでしょうね~。でも私たちが知っている亜空間っていえば、あのニホンで売ってたオモシログッズの「マンゲキョー」っているオモチャみたいなイメージですけどぉ、この亜空間域はこれはこれで安定しているというか、私たちティ連でも知らない空間域になりますね~。これは興味深いですぅ』


 そんな事を仰られていたり。


『ですが……想像とは違い。こんな美しい世界がこの世にあったとは……妾がかつてヤマトの民におしえてもろうた「タカマガハラ」とは、こんな場所なのでしょうか……』


 ナヨさんもその風景にウットリ顔だ。

 

 ブリッジでは、シビア先生が驚くみなさんの姿にも、相変わらずお澄まし顔ではあったが、どことなくドヤ顔っぽい表情が、口元にうかがえる。だが、厳しい現実もこれ一言。


『この空間域は、その見た目は煌びやかではあるが、シールドから一歩外に出た瞬間、通常物質はその形状を維持できなくなる死の世界であるという事も心得よ』


 その一言にハっとする諸氏。確かそんな事いっていたなと。で、柏木が訪ねるのは、


「では、環境シールド内でも、艦外にでるのはやめたほうがいいと?」

『否定。シールド内で保護されている限り、その安全は保証される。だが、通常空間で行うような、母艦からの機動兵器発艦などは安易に行えない事に留意せよ』

「あ、そうか、機動兵器自体にもシールドが必要だから」

『肯定。加えてこの空間では「実体型兵器」つまり、お前達チキュウジンの言う「ミサイル」「ホウダン」の類は、威力が極端に減衰する。留意せよ』


 なるほど! と。確かにこの空間ではそうなる。で、そこから導き出されるは、かのガーグデーラが物理兵器に弱い理由だ。

 そもそもとして、この空間域で生活する彼らから見れば、物理兵器自体がこの空間にいる限り脅威ではないわけである。そこでティ連とぶつかった時、彼らがエネルギー系兵器をメインにして使ってきたわけであるから、当然ゼスタールさんとしては『これ幸い』という話になる。なるほどと……

 なので、かのセルゼントゲートでの戦闘の際、ヘストルがディルフィルド魚雷をぶっ放した時、それは驚いただろうと思う……後でその事をシビアに尋ねると、やはり『そうだ』という話。

 ディルフィルド魚雷も物理兵器ではあるが、ワープシールドに守られている兵器であるからして、偶然ではあろうが、この空間に到達しても、しばらくはその形状を維持できたと推測できる。従ってあの戦果を挙げられたのであろうが、逆に言えば、魚雷命中までの距離がもっと長ければ、効果がなかったかもしれない。

 高次元ソナーも恐らく長い時間その形状を維持できなかったのだろう。なるほどそれならば高次元ソナーがあるにもかかわらず、この空間の詳細を調査できなかった理由も説明がつく。

 ……と、この空間域に来て、初めて説明がつく事も多々出てきた。これは収穫だと納得する柏木長官である。


 そんな不思議な空間を進むアメノトリに、カグヤ、そしてサーミッサ。

 しばし進むと……目的地が見えてきた、の、だが……


「あれはなんだ!? ……」


 遠くに見えるは、何やら枝葉に別れた奇妙な物体。

 それは何か赤い光を放つ漆黒の樹木か蔦のようにも見える。しかも見た目に恐ろしく巨大である。


『観測員、ここからでは感覚がつかめんな。あれの大きさはどれぐらいだ?』

『はい…… って。え?』

『ん? どうした?』

『ティラス艦長、あれの大きさですが……タイヨウ系ぐらいはありますよ!』

『はあ!? な、なんだと!』


 そこですかさずタイミング見て、解説するはシビア閣下。


『あれが、我々の在る所だ。即ち「ナーシャ・エンデ」である……よく来た。我々はお前達を歓迎する』


 無い胸張って、おすまし顔ながら更にフフン度増してドヤ顔に『見える』シビア先生。

 やはりなんだかんだいって彼女たちは彼女達なりの情緒も少しはあるのだろうか? ま、自分らの故郷を紹介するのがちょっと嬉しいのかも。


 だが常識ハズレな空間に常識はずれの建造物体。もう見るからに何が起こるかわからんというヤツである。

 でも、国連常任理事国諸氏は、ある意味期待に胸を膨らませてもいる。それはそうだ、こんなところまで来て、恐らく『手ぶら』で帰るということは、相当下手を打たない限り、ありえないだろうと普通予想できるわけであるからして……


 そんな思いを各人思いつつ、ゼスタール人の本拠地『ナーシャ・エンデ』に到着である。






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