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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
18/89

【第三章・時空の守人】 第一七話 『Live and Let Die』


 ……さて、国際連合異星人科学技術解析委員会・ UNASTACアンアスタックは、シビア・ルーラ扮する『志美亜 琉楽』博士が公開したゼスタール基礎技術の取扱や、技術分配等をその後話し合って閉会した。

 いかんせんUNASTACは国連安全保障理事会主導の国際機関なので機密性が高い。その後に話し合われた会議も公にはなっていないものの、結局は国連安保理の会合と同様のモノであり、唯一違ったのは『連合日本』が拒否権を持つUNASTAC専属の『常任理事国』として選任されたということであった。

 つまり、UNASTACという会合上では、連合日本を通じてヤルバーン州=ティ連とゼスタールが口を出せる、つまり『拒否権』を行使できる状況ができたという事になるわけである。

 かのゼスタールは現在ティ連加盟準備国になったわけであるからして、ほぼほぼティ連の一員となる。そのため今後はティ連憲章の外交方針に従ってもらう必要がある。そこは正式加盟になるまでの間、ゼスタールとの話し合いになるといったところ。

 現在幸か不幸か地球でこのような状況になってしまったために、ティ連からゼスタールとの外交を任されている連合日本とヤルバーン州。

 そういったこれまでの経緯も、既にゲルナー司令にも報告して、彼を通じてゼスタール合議体全体にも通達されており、経緯の認識を共通化するという点では、現状問題はないという話。

 こういう点、ゼスタール人は本来意識体なので話の通りは異常に速いというわけで、助かりますといったところである。

 とはいえ、ゼスタールはゼスタールでこれまでの経緯もあってので、彼ら独自の外交権はあるわけであるからして、日本政府やヤル州政府に三島の財団法人を通じて色々調整を行いながら、此度の技術公開も行っているという次第であった。


 国連安全保障理事会という存在を改めて見ると、現在も『核兵器を保有することが国連的に許されている国=安保理事国』という構図になっているわけだが、UNASTACも結局のところ安保理事国が主導してゼスタール技術を管理するという感じになるわけなので、このゼスタール技術もつまるところ『核兵器技術』と同等と思われているという事にもなるわけである。

 確かにゼスタールの核融合技術を使用すれば、地球世界でも研究中で『綺麗な核兵器』と言われている、信管に原子爆弾を用いない『純粋水爆』の開発も普通に可能である。となれば、現在の地球基準では安保理の管轄で扱われるのはやむを得ないか、といったところだ。

 そこへ日本がUNASTAC専属の『常任理事国』になるということは、まあ今後展開される各国の思惑に日本も付き合わなければならないということでもあるという話であった。

 ただ、中国はこの『日本がUNASTACの常任理事国になる』という事に相当反対したのである。なんでも中国の提案では、当初日本を『各国が履行義務のある警告を発する権限を持つ、常任オブザーバー国』とかいうわけのわからん扱いにしようとしていたのだ。

 この中国という国は、日本が現状『ティ連加盟国』というその意味の大きさをイマイチまだ良くわかっていなところがあるらしく……というか、中国は日本がティ連加盟国であるという立場を公式には認めていないのでそういう立場での発言なのであろうが、他の国が中国に『いい加減現実を見ろ』と裏で説得に当たったらしく、この日本のUNASTAC常任理事国を渋々認めたという事もあったりする……本音を言えば、そんな常任理事国に日本はなりたくなかったのだが、勝手に国連が決めたみたいな感じになってるので、まあいいか、みたいなところもあったり。


 ……というわけで、そんな国際的なルールも今後決めていくことになり、取り敢えず日本側からUNASTAC常任理事国へ『ゼスタール基礎技術資料一式』が配布される。

 これには二〇二云年技術のSSD的な超高容量記憶媒体に記録されたデータと、ゼスタール人監修で、ヤル研が制作した基本技術実験器具一式が供与された。言って見れば『ゼスタール原器』とでも言えばよいか。そんな感じのモノである……ちなみにこの実験器具は真面目なものであって、あんなのではない……と思う。思うだけ……

 このデータと実験器具は、現状常任理事国から責任を持って各国の友好関係にある国家へ無償で公開配布するように連合日本とヤルバーン州から厳格に通達してはいる。まあどっちにしても日本に言ってくれれば協定の範囲で日本からも供与できるので、そこは『常任理事国の勝手』にはならないのではあるが、そこはそれ、この地球世界においてこのような超先進的技術を渡すわけにはいかない国家というものも実際あるわけであるからして、そういう国家は、この常任理事国が管理すると言う形に当然納得がいかないというのはこれ当たり前という事にはなる。


 当然、そこから一悶着も起こるわけであったりもするのだが……


    *    *


 白い円形を中心に、螺旋状の模様が画面一杯に描かれる。

 その螺旋模様は何か? といえば、所謂銃のライフリングという奴、つまりその白い円形は何かといえば、銃の薬室から覗いた銃口の先。

 その円形が左右に動き、歩く男性を捉える。目標を中心に据えると、銃声がダーンと唸る……が、打たれたのは男を捕らえる銃口の主観。

 赤い血を垂らす演出にその円形銃口がふらつき、拡大して……


 ……などという某有名な諜報員が活躍するアクション映画、そんなオープニングで始まるような演出の舞台が、ここ太平洋上で始まる。

 日本国情報省三等諜報正、軍隊で言えば少佐にあたる階級でPMCあがりの諜報員『月丘和輝』は今、米国西海岸からアジア方面へ向かう超大型豪華客船に乗り込み、船上の人となっていた……


(いや~、官費でこんなゴージャスな仕事させてもらって……ホントいいのかなぁ)


 客船後部の大きなプール。そこにはカラフルなパラソルが並び、いろんな人種が水着来て、プールで戯れている。

 念願の現役リタイアな年金生活のご老体に、あからさまな成金趣味のオッサンやら若者やら。そんな人々が世界一周の旅を楽しむのがこの船であるからして、そこへ仕事アンド官費、即ち国民の血税で、グラサンかけてカクテル飲みつつ、雑誌などを読んでいる国賊行為ブッチギリの月丘和輝は一体何をしているのやらと……


(♪~)


 サングラスずらして視線で追うは、北欧系スレンダー美人でビキニの臀部なんぞ……


『ツキオカ生体……』

「ぬぅおわっ!」


 背後から気配を消してヌっと現れるは、ボーイの格好をしたシビア・ルーラ様。

 褐色系の肌に白い髪に白い眉毛、耳が少し尖ったダークエルフっぽい一六歳ぐらいの容姿。頭部の骨格が少々人類とは形状が違うので、頭髪は若干中央頭部の髪が特徴的に逆立っている。

 特にシビアは素体の容姿がボーイッシュ系少女なので、今は耳を隠すようにボーイの制服帽子を深めに被り、少年のような格好。右手にナプキンかけて、左手にはトレイなんぞ持ってたり。トレイの上には赤色の冷たそうな見た目綺麗なカクテルが置いてある。


『任務中にエチルアルコールの摂取はあまり推奨しない。判断力が低下する』

「いや、まあそうですけどね。ま、これもカモフラージュですよ。今後の展開の」

『では、先程の白色人種系の臀部を視線で追う行為は何かの観察か? 説明せよ』


 どことなくジト目で月丘を見るシビア。


「あいやいやいや、それはですね……」

『プリ子生体へ報告の必要性を認めるが?』


 ジト目度アップ。


「スミマセン……勘弁シテクダサイ」


 なんか最近ゼスタール人のシビア合議体さんは、妙に独特の感性をもって月丘達と接しているようにも思うがと、そんな事も思ったりする彼。ある種これも新たな彼女らなりの情緒的行為の発現なのかなと。

 でも、シビアも今のボーイ姿は大概と思いますがと彼女に尋ねると、


「って、シビアさん、その格好どうしたんですか? まあ何となく似合ってますけど」

『回答。合議体が多数決で選択した潜入モデルである。この服を着たオリジナルには、とある場所で眠ってもらっている』

「え!? まさかスールに……」

『否定。心配には及ばない。気絶させているだけだ』

「あはは……そうですか……」


 と、そんな話をしつつ月丘もプロである。これも任務であるからして、ある場所から視線を外すことはなかった……一瞬のオネーチャンのお尻はおいといて……

 シビアとそんな雑談しながらもその一点を凝視する月丘。カクテルを手に持ち口へ含もうとすると、もうカラになってたり。

 すると、シビアがトレイの上に乗った赤いカクテルをその空になったグラスと交換する。


「あ、すみません」


 コクと頷くシビア。だがその時……


「!」

『どうした? ツキオカ生体』

「あれです、あの女……」

『? 体型的に生命体0303の男性が極めて好む形状の女性生体だ。それがどうした?』

「あ、いや、そのゼスタール的なイヤミは置いといてですね、あの女……あれが目標です。北の人民軍偵察総局の女性スパイって奴ですよ」

『!? では、あれがコクサイレンゴウ保管用の記録媒体を盗難したという?』

「って事です。で、今その女に接触している男がいるでしょ?」

『確認』

「あれがこれまた大物中の大物です……多分地球での世界中の諜報機関がマークしている奴ですよ……私もPMC時代に中国でアレに命を狙われそうになった事があります」

『ツキオカ生体が? ふむ、では所謂“暗殺者”というものか?』

「まあそれもありますが、所謂『何でも屋』ですよ。暗殺に破壊工作、窃盗誘拐……ま、ろくな奴じゃないですね」


 と、そんな話をしながらプール対岸のその二人を観察する月丘とシビア。

 彼らがこんなゴージャスな船に乗って、血税でこんなことやってるのも、これが目的だったのである。

 というのも、かのUNASTAC会合が終了してから、各国にゼスタール技術資料や、記録媒体が提供されたのは先の通りだが、その際に国連本部保管用に提供した記録媒体を紛失したという報告が日本政府に入ったのであった。

 まあ昨今のあまりに官僚的で、事なかれ主義が批判されていた国連ではあったが、こんな重大な資料、それも核兵器の設計図にも匹敵するようなものを紛失したとなっては国連側も流石に顔面蒼白になり、必死の捜索をしたのである。が……監視カメラや状況証拠等々で、どうも北の情報員がその記録媒体を強奪したということが判明し、ここは隠密理に事を運ぶため、日本国情報省安保調査委員会は総諜対に事の処理を指令したという次第であった。で、月丘は官費使って酒飲んでいたのである。


 対象の人物。二人の北某国人男女は、親しい男女の関係を装って席を立ち、船内へ入って行こうとする。


「動きましたね……私は二人の後を付けます」

『ツキオカ生体、我々もお前に同行する』

「え? いやその格好で二人してってのは目立ちますって」

『問題ない。こうすれば良い』


 シビアは少々人の目を気にして、視線が自分にないことを確認すると……トレイを小さなテーブルの上に置き、一瞬白く体を光らせて……なんと、コアだけの姿になった。その大きさは、人の頭に入りそうな大きさの球体形だ。ポソっと月丘の掌に乗るシビアコア。


「はは、なるほど、コアの状態で持っていけと」

『肯定』

「わかりました」


 月丘はコア状のシビアをショルダーバッグに詰め込むと、立ち上がってその二人を追跡する……っと、シビアがせっかく持ってきてくれたカクテルを残すのももったいないのでグビとひと飲みするのだが……


「ブ-ーーーーー! ゲホゲホ! か、辛っ! なんだこりゃ!?」


 天罰覿面。ウォッカの激辛チリソース満タン割のカクテルであった。ステアではなくシェイク。

 ゲホゲホむせながらバッグのシビアコアをジト目で見る月丘。


『……』


 沈黙を守るシビアコア……「ハァ……」と一つ項垂れて、任務する彼であった。


    *    *


 というわけで即座に行動に移る月丘達。アロハシャツに短パン履いて、シビアコアの入ったショルダーバッグ袈裟懸けで掛けたかなりダサイ格好の彼であったが、仕事に入ればその眼光は変わる。

 彼が追う人民軍偵察総局の女、こちらの素性は不明である。月丘も名前は知らない。恐らく下っ端であろう。だが男の方は人民軍偵察総局工作員の中でも忌避の意味を込めて、世界から『何でも屋』の悪名を持つ工作員、『李方博イ・バンパク』で知られている。但し、これが本名かどうかはわからないが。


「こちらシャドウアルファ。スペクターワンどうぞ」


 月丘は二人の行動を追いながら、何処かで二人のサポートをするプリルに連絡を入れる。


「こちら“はんもっく”で寝そべりながら“すいーつ”や“おさけ”飲んでエンジョイしたいスペクターワンです。シャドウアルファどうぞっ!」


 なんだかちょっと投げやりでイヤミ満載の応答。


「まぁたプリちゃんまでシビアさんみたいなことを~」

『あーいいなー、“すいーつ”ゼーキンで食べたいなー』

「あーもうわかりましたから。なんか買って帰ってあげますから」

『ほんと? じゃァ私、“もんぶらん”と、“ぷりん”と……』


 その程度の菓子ならコンビニに売ってるじゃんと思う月丘。


『って、そんなことよりもカズキサン、連絡してきたってことは……』

「ええ、目標を見つけました。ま、こんな豪華客船で帰国なんて何考えてるんだろと思いますけど……今二人して客室エリアに入りましたね。現在見張っています」

『了解ですっ! あの記録媒体はビーコン付いててヴァルメで追えますから、内緒で持ち出してもすぐにバレるのにね』

「ですね……でも心配なのがアレですが……プリちゃん、例の転送妨害波動は?」

『ハイ、やっぱり展開されてます。転送回収は無理ですね。直接奪還しないと』

「ハァ、流石用心深いですね……」


 北も何処からかロシアの開発した件の装置を入手していたということである……機材の横流しか、あるいは秘密供与か、そこはまた別件の仕事にでもなるネタというところだろうか?

 この巨大旅客船に乗っているのも……


「……ということは妨害波動装置はこの船のどこかで作動しているというワケですか」


 恐らく、この船に積まれている貨物か車両か、そのあたりに積載されていると予想できる。ロシアが開発したこの装置は、かなり大型で携帯ということが無理だからだ。ならば客船で移動し、車両か何かに搭載して稼働させておくと、こんな洋上であればかなりの範囲で効果が期待できる。

 妨害波動装置を破壊すれば、ヴァルメで転送中継させて簡単に記録媒体を強制回収できるが、まず波動装置を見つけるのに時間がかかる。

 いかんせんこの船は、ティ連のアホみたいにデカい航宙旅客船ほどではないが、それでも全長だけで言えば宇宙空母カグヤにも近い大きさの、相当巨大な船である。しかもセキュリティも相当高いわけで、波動装置を探すのにも恐らく相当な労力を要するだろう。ならば何か不測の事態で面倒くさくなる前に、直接奪取したほうが早いというわけである。


「……やはりそれしかないですか。できればあの李には関わりたくありませんでしたが、仕方ありませんね」


 するとバッグの中のシビアコアが、


『いざとなれば我々がその「リ」という敵性体を相手にする。理解せよ』

「はは、ありがとうございます、シビアさん」


 とそんな事を話していると、客室エリアから二人が出てくる。

 月丘達は客室を間近で見張っていたわけではない。こういう豪華客船では、部屋の等級に応じて、客室エリアの前にセキュリティ装置が付いているのが普通である。従ってエリア外の入り口サロンで見張っていたというワケであるが、その北の諜報員二人。今度は小綺麗な正装姿で何処かに出向くようである。


(? なんだ、あんな格好して……レストランにでも行く気か?)


 するとプリルから通信が入る。勿論着信音のようなものはしない。


「はい、何です、プリちゃん」

『今、もしかしたらその二人、移動しましたか?』

「ええ、客室から出てきた……っと! なるほど、今例のブツを持っているんですか、あの二人は」

『ですですっ!』


 コクと頷く月丘、ということは、少々無茶すれば記録媒体を奪回するチャンスは今である。

 スマートとはいえないが、シビアが助太刀すれば、あの『何でも屋』でも簡単にお縄にできるだろう。


「では、チャンスは今ですね」


 そう言うと月丘は自分のPVMCGをスっとなでると、アロハシャツの能天気姿から、毎度のスリーピース・スーツ姿の月丘和輝へ変身した!

 ショルダーバッグは袈裟懸けから肩懸けへ。これはシビアコアが入ってるから仕方がない。

 そのままレストランフロアへ入っていくその二人。

 月丘も間を置いて二人を追う……


 単調な監視が続く状況。

 北諜報員二人は、カップルというにはいささか不自然。片方がオッサンで、片方は若い女性というのはどっかの成金オヤジと愛人なんていう関係なら今更珍しくはないが、北工作員ならよくある構成である。

 かつての大韓航空機爆破事件でも、かの有名な女工作員と中年オッサンの二人組であった。

 その二人、黙々と酒飲むだけで何か話をするわけでなし、明らかに仕事で付き合ってるのまるわかりの状況。


「プリちゃん、ブツの反応追えてる?」

『はいっ、もしかして今、お船の中央部ですか? ……えっと、こちらの資料だと、レストランエリアですねっ』

「そうですね、今例の二人を監視していますよ……っと?」


 席を立つ女の方。


「プリちゃん、ブツは?」

『まだその場所に停止中ですっ』

(? ということは李の奴に受け渡したか……ツッ……んじゃ女の方はとりえずは無視していいな)


 時間差で席を立つ『何でも屋』の李。

 ブツを奪ったのはあの女だが、ターゲットは今この男に変わった。無論月丘もこの男の後を追う。

 スキあらば実力行使でモノを奪取ということもありうる。場合によっては殺人も厭わないところではある。この李という男も任務のためなのだろうが、相当この男に暗殺謀殺されている人物も多い。なので今更こんなのが死んだところで誰も困りはしまい。だがここは船の中。国籍はこの船の船籍がある国だ。しかも皆が楽しんでいる中、騒ぎはあまり起こしたくはない。なるべく穏便に。これが月丘の流儀。でもここ最近派手派手なところが月丘としては極めて遺憾なところではあるが……


 船の舳先の方へ向かう李。この船の舳先は関係者以外立ち入り禁止の区画である。そんなところへ行って何するんだと思うが……


(なに!?)


 急に走り出す李。「チッ、しまった! バレてたか!」と舌打ちする月丘。反射的に李を追う。

 舳先区画の入り口ドアが開き閉まる音を追って、その後に続く彼だが……


「!!」


 ドアを開けて外へ出た途端、横から二人の男に銃を突きつけられる月丘……「アチャ」という顔をする。もちろんホールドップだ。

 今までの行動から先程の女だけが仲間だと思っていたが、まだ二人もいたとはと。

 考えられないことではなかったが、ありがちなミスだ。

 まず体をまさぐられ、愛銃インフィニティ月丘スペシャルを取られる。ショルダーバッグも奪われる。

 李の部下だろう。その仲間はショルダーバッグから、もう見た目にテクノロジーの塊であるシビアコアを取り出して李に見せる。それをみて不敵に笑い、頷く彼。だが何も知らないから幸せであったり。


「……우리를 쫓고있는 일본의 정보원이있는 것은 알고 있었다.」


 朝鮮語で話す李。韓国語とは言葉は同じハングルでもかなり違う。ここは朝鮮語としておく。


「すみませんね。私はハングル喋れないんですよ。李さん、日本語できるでしょ?」


 月丘はそう言うと、シビアコアにチラと視線を向ける。

 

「フフ、俺を知っているとはな。どこかで会ったか?」


 朝鮮語訛の日本語で話す李。


「何をおっしゃいますやら。人民軍偵察総局『何でも屋』の李さん。アンタの事を知らないその筋の人間なんていませんよ」


 そう月丘が話すと、自尊心を掻き立てられたのか、鼻で笑うこの男。

 

「ま、大方これを取り戻しにきたんだろうが、無駄足だったな。日本お得意の『転送』という奴を使って、回収もできんだろ、ククク」


 と記録媒体、すなわち高容量SSDの入ったケースをチラと見せる李。


「まったく面倒くさい話ですよ。で、これからどうやってそれを本国へ持って帰るのですか? 私をここで殺して、この船が中国に到着するまで少しばかりの豪華クルーズでも楽しみますか? ま、北の人間がこんな船乗れることってめったに無いでしょうからね」


 と、そんな余計な一言を話すと、月丘の銃を取った男にぶん殴られる……口を少し切った。

 ベッと血のつばを吐く月丘。


「ま、そういうのもアリだな。どっちにしてもお前はここで終わりだ。これ以降のことは知らなくていい」


 そういうと李は部下に顎で指示して消音器付きの『白頭山拳銃』をコメカミに突きつけられる。

 ちなみにこの『白頭山拳銃』という銃、かのチェコの名銃『Cz-75』のデッドコピー拳銃である。ただ、北的には上等の拳銃でもあるため、高級将校しか持っていない。かの黒電話が報奨として与える、彫刻が掘られたタイプもある拳銃である。つまり、この李という男とその部下は相応の地位にあるインテリジェンスということでもある。

 ニヤと笑う『何でも屋』の李。この男は月丘一人殺すことなど何とも思っていないのだ。もちろんその部下も然り。所謂この手の世界に住み慣れた住人ということである。

 だが……月丘も違法スレスレPMCで戦ってきたプロである。その手の事では負けてはいない。舐めんなよってな話であって、


「シビアさん! 出番ですよ!」


 そう月丘が叫ぶと、


「ぎゃあああああああぁぁああ?!」


 と北諜報員が悲鳴を上げる! 諜報員はシビアコアを持つ手から配線状の物体が伸びて体を侵食されていく。

 そう、ガーグデーラ改めゼスタール人お得意のゼル端子攻撃である。

 その諜報員は堪らずシビアコアを投げ飛ばす。

 月丘に銃を向けているもう一人の諜報員と李は、ゼル奴隷化していくそやつを凝視し、一瞬石化した。

 月丘はそのスキを逃さない。敵の持つ自分の銃、即ちインフィニティのスライドを少し下げるような感じで素早く掴み、銃を持つ手を外側へひねるように相手の手首を曲げてその勢いて投げ飛ばす!


 ……銃というヤツは、どんだけガッシリ保持していても、テコの原理で一番先端を取れば小指一本でも簡単に銃口を自分から逸らすことができるのだ。銃というものは、銃口のまん前に立たない限り命の危険はない。銃弾は前にしか飛ばないのである。即ち銃口の軸線上から他“三五九度”は安全地帯なのだ。しかも自動拳銃はスライドを少しでも後ろへ下げると引き金が引けない。銃を密着して相手に向けるということは、実は自殺行為だったりする。これ豆知識……


 柏木からもらった大事なインフィニティを敵から奪い返すと、すかさず月丘はその諜報員へ三発銃弾を撃ち込む。殺したら殺したでまたあのナントカ中央放送のオバハンがうるさそうなので、致命傷にならない場所へ撃ち込んで運良ければ生きてろってなもんである。月丘は政府から場合によっては相手を射殺する許可も与えられている。そういうところはPMC仕込みで容赦はない。

 すると李も流石場数を踏んでる『なんでも屋』だけあり、こやつも銃を取り出して月丘へ向け発砲。


「マズっ」


 と思う間もなく彼に命中すると思いきや、ゼル奴隷と化した敵諜報員が月丘を大の字で庇う。無論これはシビアが操っている。

 銃弾食らったゼル奴隷諜報員もその場に倒れる。するといつの間にか素体をまとったボーイッシュ少女シビアが顕現していた。

 それに気づく李は、初めて直に見る異星人に驚きつつも、白頭山拳銃をシビアに向けて数発発砲。乾いた音と同時に、シビアの胸へ弾丸が全て命中。ニヤリとする李だが、それを見る月丘は焦りもせず李に向けて発砲。気づく李は月丘の弾丸を躱して物陰に隠れる。

 そこからシビアを見る李は、『殺った』と確信したのも刹那、シビアが胸に数発分の穴開けても血も流さずピンピンしている状態に、目を向いてしまう。


『そんなもの、我々には通用しない』

 

 シビアは李へ人差し指向けてゼル端子を発射。だが一瞬李の躱す身のこなしのほうが早かった。

 なんと李は一発信号弾を打ち上げて、そのまま舳先より少し右舷側面から船を飛び降りたのだ!


「チッ!」


 船上から海面を覗く月丘。今、この客船では警報がなっている。そりゃこんなところでドンパチやれば警報もなるだろう。おまけに信号弾なんて上がれば尚更だ。

 

『ツキオカ生体。あの「リ」という男の後を追う』

「え? どうするんですか?」

『こうするのだ』


 するとシビアは何歩か後方へ下がってから、ダッシュ!


「え? ええっ!?」


 するとシビアはシビア・ルーラの姿から見た事もない海洋生物の形状へモーフィング変形して、海の中へ飛び込んでいった!


「おわっ! すご!」


 思わずそれを目で追ってしまう彼。身を乗り出して海へ飛び込んだシビアを追う。


(って、私もこんなところにいつまでもいるわけにはいきませんね)


 月丘が銃で倒し、シビアがゼル奴隷化した二人はとりあえず息をしている。片割れはゼル端子も解け、二人共ウンウン唸って倒れ込んでいる。当面再起不能だろう。どうやら船の警備員もやってきたようだ。月丘もここでのんびりしているわけにもいかない。


(私もここからズラがったほうがいいですか……あ~あ、せっかくの豪華客船なんだけどなぁ……)


 公費で何を言っているかという話。っと、とにかくこの場から離れなければならんわけで……

 月丘はPVMCGに触れて、あの恥ずかしい白銀のコマンドローダー姿になると、彼もそのまま海に飛び込んで豪華客船から離れる事になる……


 ということで海に飛び込んだ月丘とシビア。月丘はコマンドローダーの性能で海中でも呼吸等問題ない状態。無論重いしバラストなんかないし、でも気密性は宇宙空間でも使えるので問題ないとしてもどうやって浮力調整してるのかといえば、そこは簡単な話、背面に装備されている斥力スラスターを稼働させて調整していた。


(さて、これからどうするか……李を追うにしても海中に身を投げてどうするつもりなんでしょうね、奴は……)

 そんなことをしばし考えていると、背後からサメが……! と思ったら、サメに似たような見たこともない海洋生物形状に擬態したシビアであった。


「シビアさん、便利な体ですねえ」


 量子通信すれば、海中でも会話はできる。便利なものだ。


『ゼスタール星に生息する“バスラ”という海洋生物を模した形態だ……それはともかく我々の背に掴まれ、ツキオカ生体』

「? 李の行方がわかりましたか?」

『肯定。不用意に接近するのは良策ではないと合議体は判断した。記録媒体の情報は追えている訳だから、この敵性体の行き着く場所を確認する方が情報を収集する点でも良いだろう。問題ないか?』

「流石ですシビアさん。それでいきましょう。で、李は?」

『どうやら別の水中艇が、あの旅客船をここで待ち構えていたようだ。その水中艇から対象の仲間が現れて、「リ」を回収して高速で離れていった』


 つまり、李がここで海中へ身を投じたのも、実は彼の行動の範疇内だったということだ。どうやらこの豪華客船で最後までクルーズを楽しむつもりはなかったらしい。


「水中艇……なるほど、北お得意の『半潜水艇』ですね。ここ一〇年で格段に性能向上させてるとは聞いていましたが……ですが外洋航行できるわけないですから、どこかに母船がいるはずです。恐らく潜水艦か偽装民間船か、そんなところでしょう。それを探しましょう」


 北の『半潜水艇』は、日本への工作員潜入作戦でも使用された、北の最も知られた装備の一つである。所謂、海面ギリギリまで潜水することができる高速のモーターボートと思えばいい。半潜水状態の場合、移動速度は六ノット程度だが、一旦浮き上がって海上を走行すれば五〇ノットものスピードで疾走することができる。五〇ノットとは、時速で言えば一〇〇キロメートル近い速さである。確かにお魚になったシビアでも、これは迂闊に追わないほうがいい。


『だがツキオカ生体、その母船に対象が回収されてしまえば、記録媒体の奪還は困難だぞ。恐らくそれらにも転送阻害装置は付いているだろう』

「はは、その時は考えがあります。ちょっと荒っぽい方法ですけど……」


 すると月丘は彼女に連絡を取る。


「こちらシャドウアルファ。スペクターワンどうぞ」

『はーい、こちらカズキサンのお土産が待ちどうしいスペクターワンですっ』

「はは、ごめんねプリちゃん。お土産持っていけそうにないよ」

『えええええ、そんなぁ~……って、どうかしたんですかっ!?』

「はい、実は……」


    *    *


 豪華客船から相当の距離が離れた海上。太平洋上のとある諸島に近い海域。そこをゆっくりと進む大型のタンカー。なんと北某国の国旗が掲げられている。ということは北国籍のタンカーかということになるのだが、北がこんな大型タンカー持っているとは聞いたことがない。とすれば、恐らく何処かから廃船寸前のタンカーを購入し、改造した偽装工作船と理解して良い。

 北はこれと似たような事を二〇一四年にやらかしており、当時は米国の臨検を受けて制圧されている。その際判明したのがその時のタンカー、無国籍だったという話。即ち、偽装工作船の一種である。


 そのタンカーの後部が観音開きに開くと、そこへ小型のボートが収納される。言わずもがな『半潜水艇』である。

 見た目タンカーのこの船の内部には、半潜水艇が多数内蔵されている。即ちこの船は半潜水艇母艦なのであった。

 その半潜水艇から下船する李。彼はいつの間にかウェットスーツに酸素ボンベを背負った姿になっていた。流石と言うか何というか……

 彼は迎えに来た部下や仲間に戦利品を見せる。勿論それは件のSSDであった。

 諸氏マンセーとでも言っているのだろうか、えらく喜んでたり。これで偉大なる委員長様からご褒美でももらえるからだろうか? ただこの状況は現状冗談では済まない。このSSDにはUNASTACで決定したゼスタール技術情報が満載されているのである。勿論それにはゼスタールやヤルバーンに連合日本の技術支援を仰が無くてはならない物もあるが、逆に言えばその技術情報を利用して。地球技術のみでデッドコピーとして完成させることのできるものもある。喩えば核融合技術などは、ゼスタールの技術を応用して、地球の素材でゼスタールほどではないにしろ、理論的に同じものを製作することは可能なのだ。

 即ち、このSSDの技術情報を利用すれば、初期の『純粋水爆』を製造することが可能となる。

 流石にあの脳天黒電話にこれは教えられない……


 李達は、船室で一休みといったところだろうか。李がロシアから情報を盗んだ転送阻害装置も順調に作動中である。SSDをイルボンお得意の転送で回収される恐れもない……だが、彼らはこのSSDにティ連技術の量子ビーコンが埋め込まれている事までは流石に理解の範疇外であった……これが命取りとなった…


 ……グワン!! と船体が揺さぶられ、大きな衝撃が走る。

 順調に航行していた大型タンカーもどきの工作艦は、何かに揺さぶられているようだ。

 急ぎ李はブリッジへあがる。すると、ブリッジは悲鳴を上げてパニックになっていた! 

 唸る警報。李はブリッジから甲板を見ると……


「な、なんだあれは!」


 ここでジャーン♪ と一発BGMが欲しいところ。

 クォーンクォーンと音を鳴らし、船首方向からバキバキと甲板構造物をなぎ倒しながら何か巨大な物体が這い上がってくる!

 それは……かの数年前、中東で暴れまわったヤル研兵器、『海襲』であった!


『ふははははは! アーハッハッハ! この“すいーつ”の敵どもめ! 逃しはしないですよっ!』


 この海襲、なんと此度はプリルが操縦する、今任務のサポート兵器としてのご登場である。

 実のところ、かの豪華客船で月丘がカクテル飲んでた時、豪華客船付近を随伴してこの海襲は航行していたのであった。パイロットはもちろんプリル。カズキサンがシビアとプールでバカンスやってる時に、この狭苦しい海襲の中でお弁当食べながら月丘とシビアの任務をサポートしていたワケである。ご苦労な話のプリ子。

 この海襲も今では相当なロートル機で、ヤル研ではもう廃棄しようかとなっていたのだが、白木が『捨てるのならウチにくれ』ということで、情報省の装備として活躍している次第。ロートル機ではあるが、それでも一応はティ連技術応用機、地球基準で言えばまだまだ高性能な機体ではある。


『“もんぶらん”のカタキ! くらえい!』


 腕部M230チェーンガンを甲板めがけてぶっ放すプリル。甲板構造物が金属の破片を撒き散らし吹き飛んでいく。

 甲板へゾロゾロ出て来る北の兵士達。肩にRPG担いで容赦なく、彼らの言葉を借りれば『無慈悲』に海襲へ発射する……ドカバカスカと海襲に命中する成形炸薬弾頭。だが命中するたびに命中箇所の空間が波打つ。

 即ち『事象可変シールド』が作動したのだ……無傷でピンピンしているプリ子海襲


『お前たちは“プリン”のカタキだー』


 海襲右クローが甲板構造物を掴み上げ、RPGぶっ放した兵士向けてそれをぶん投げる。腰抜かし大慌てで船内へ避難するそやつら。


 そこに向けて、海中から更に人型の影が二体、姿を現す。まるで海中からジャンプして甲板に着地する人影。いや。人影と言うには銀ピカしているそやつは宇宙諜報員……じゃなくて月丘和輝であった!

 その後に続くはサメかイルカのような動物が海中から大きくジャンプしてモーフィング。

 ゼスタール人の姿に変化してスチャっと着地。これを北の船員視点で見ると……少し足広げてポーズ取ってる白銀のロボットみたいな奴の横に、耳尖って中央の髪が少し逆立ってる、いきなり魚類から変形した褐色白髪白眉睫毛のショートカット少女。その二人の背景には、深海潜水艇に手足生えてる巨大ロボット……

 何かの番組タイトルでも出てきそうな情景に、全員戦闘態勢を一瞬忘れるが、李の拡声器から響く朝鮮語に我を取り戻し、応戦開始。


「プリちゃん聞こえますか!?」

『ハイ、カズキサン! どうしますかっ!?』

「プリちゃんはそのまま海襲で船のブリッジを制圧してください! 場合によってはアームで潰しても構いません!」

『了解ですっ!』

「シビアさんは、私と一緒に転送阻害装置を見つけてください。発見したら即座に破壊です」

『破壊後は、即時記憶媒体を転送回収するという理解で良いか?』

「肯定ですよ」

『了解した』

「ではプリちゃん。船員、いえ、兵士の相手はお願いします!」

『ハイ、おまかせですっ! ケラー・シビア、カズキサン、行ってください!』


 プリル海襲の援護攻撃。M230が火を吹き、アームが船の構造物を引きちぎる。もう片方のクローアームに装備された『ブラスター砲』は威力が強すぎて船を爆沈させてしまうかもしれないので、今回は封印である。

 

 北の国旗を掲げてはいるが、船籍は無国籍で無登録のタンカー型工作船。全長は結構大きく二五〇メートルはある。どこからこんなブツを持ってきたのか。恐らくロシアか中国経由ではあろうが。

 そのタンカーの船首方面からノッシノッシと最後部ブリッジめがけて移動するプリ子海襲。北の兵士が応戦するが、海襲の足止めがやっとである。海襲も海襲であまり時間はかけられない。なぜならこの機体特有の弱点である、放熱処理の不具合があるからだ。


 ということで急ぎ転送阻害装置を探す月丘とシビア。李を探して奪い返すより、こっちの方法でやった方が、少々仕事は荒くなるが確実である。


『ツキオカ生体。あの船舶から高い電磁波動が検知できる。あれではないか?』

「!? 私のセンサーでも反応がありますね、ほぼ間違いないでしょう。ぶっ壊しに行きましょう」


 タンカーの内部は、石油貯蔵タンクなどではなく、大きな半潜水艇や漁船型工作船のドックになっていた。その中の漁船型工作船から出る反応。それに近づく月丘……すると!


『ツキオカ生体! 下がれ!』

「!」


 シビアが右腕を触手状に変化させ、それを月丘の首に巻きつけて後ろへ引っ張る。

 銀ピカ月丘はその行為で数メートル急に後退させられた刹那、ロケット弾の曳航が月丘の目前をかすめて、船内の壁にぶち当たり、爆発を起こす。

 月丘はシビアの行為をすぐさま理解し、触手が首に巻きついた状態で、大腿部収納のリパルションガンを取り出し構え、数発それが飛んできた方向へ発射。イオン化した蜃気楼に曳航が敵へ向かって飛ぶ。

 あの李がRPGを月丘めがけてぶっ放したのだ。部下の工作員か、兵士を従えて月丘達へ応戦する。

 シビアもすかさず人差し指を敵方向へ向かって指し、ゼル端子を飛ばす!

 月丘達に浴びせられるアサルトライフルの弾丸、雨霰。だがそれもシビアのゼル端子によって銃声が悲鳴に変わり、工作員達はゼル奴隷と化していく……そして、場所を同じくして戦う李の味方が機械化ゾンビになり、今度は間近にいる李を襲う!

 李はそのゼルゾンビ工作員に狼狽し、悲鳴を上げて銃を抜き、味方へ何発も銃弾を浴びせる。

 近くにいる味方が全てシビアの制御下に入ったわけであるからして、もう李に勝ち目はない。

 

 李が味方ゼル奴隷へ気を取られている間に大きな爆発が、船内ドックへ響く。反響音がものすごい。

 そう、月丘が転送阻害装置を爆破したのだ。その音にハっとする李。

 

「プリちゃん、阻害装置破壊しましたよ。頼みます!」

『おまかせです! ポチっと』


 転送阻害装置を破壊した瞬間に、例のSSD追跡マーカーから『転送可能』の表記が出る……と次の瞬間、そのマーカーが消え、『転送完了』の表記が出た。


『よっし! カズキサン! 転送完了です。あ、それと敵が自爆装置作動させたみたいですよっ! 撤退してください!』

「了解! シビアさん、引き上げますよ!」と叫ぶと同時に李に向かって「李さん! 例のブツはお返し頂きました! どうも申し訳ありません、ははは!」


 その言葉に「え?」という顔をする李。ゼル奴隷から逃げながらもカバンを開けると……ハイ何もナシ。


「이 쪽발이 새끼!」


 カバンを地面へ投げつけ、叫ぶ李。だがゼル奴隷化された工作員に囲まれ、もう逃げる場所がない。パンパンと銃声が虚しく響く。


「シビアさん、もうゼル制御解いてもいいんですよ?」

『それは不可能。現在、あのカルバレータは完全自律システム制御下で動いている。我々は知らん』

「ありゃ……そ、そうですか」


 退去して走る二人の会話。あららと首を傾げる月丘。ま、今までいろんな人間を暗殺謀殺したツケが回ってきたのかなと。

 だけど、シビアも彼女なりの正義を持っていたようで、此度の作戦はそれが垣間見れただけでも成功だったかなと思う月丘……っとその時! 背後からドガン! とでかい音と炎があがる。自爆装置が作動したみたいだ。


「急ぎましょうシビアさん!」

『肯定』


 ……甲板ではブリッジにクローアームストレートパンチをぶち込んで破壊し、待機中の海襲。

 プリルは爆発音にやきもきしながら機体を四つん這いにさせて二人を待つ……すると、船内から出てくる銀色コマンドローダーと、褐色少女。


『早く早く!』


 プリルは外部拡声器で二人を急かし、海襲側面の人員搭乗用ハッチを開ける。海襲は基本、『歩ける潜水艇』なので、人員は複座のパイロット二人含めて五名まで収容可能なのである。

 月丘はシビアを抱えて、少し高い位置にあるハッチめがけてスラスタージャンプすると、即座にハッチを閉める。


「プリちゃん! 乗り込みました!」

『了解! 撤収します!』


 海襲は四つん這い状態から脚部を蹴って、工作船甲板から海中へダイブ……腕部と脚部を収納して、潜水艇モードに。プリルは機体温度センサーの数値が下がっていくのを見て、ホッと一息。

 刹那、海中に大きな爆発音が響き、水圧の圧迫で機体が揺れる。


「ふぅ~……やれやれ。プリちゃん、ご苦労さま。流石ですね」

『いえいえ、カズキサンの買ってくれる“もんぶらん”と“プリン”と“しゅーくりーむ”のためならこの程度の事、おほほほ』

「え? 一つ何か増えてませんか?」

『ううん、増えてないよ。あ、言い忘れましたけど、この三つは、大日本ホテルのが美味しいんですよ~』

「は? 大日本ホテル?」


 あそこのケーキ類はめっちゃ高い。コンビニで済まそうとした月丘。そうそう簡単には行かないようである。


『ツキオカ生体』

「はい?」

『我々は“よーぐるとちーずけーき”が良いと決議した』

「は?」

『我々に“よーぐるとちーずけーき”を提供する事で、先程のツキオカ生態視線追尾同期データが秘匿情報扱いになる』


 すました顔で論理的に口止め料を要求するシビア閣下。シビア合議体は5:0の全会一致でチーズケーキ派。ヨーグルト3・ブルーベリー2で、ヨーグルトが可決。異議は認めない。


『……は、ハハハ。はいはいわかりました』


 ということでお騒がせな任務終了の月丘達。回収地点へと海中を行く……

 国連UNASTACで起こった最後の後始末。世界連携を前提としたゼスタール技術の公開。

 まだまだそれぞれの国のエゴが優先されての国際関係ではあるが、このゼスタール技術と、その後のサマルカ技術をベースにした米国のライセンス技術。そしてヤルバーン州に発注される物品。それらを利用するためにも、地球社会では今まで以上の国家倫理に基づく協調が必要とされてくる。ある意味その試金石ともなるのが此度のUNASTAC事例になる。

 従って、現在でも世界から制裁受けてる様な頭のおかしい国家には何もくれてやれないのである。

 となれば、地球社会としてもティ連や、各国ゼスタールとの個別外交においても、こういう『おかしい国』を今後どうするかという扱いも考えなければならない。そこが重要な点であるのだ……


    *    *


 ……ということで、ここは別宇宙。件の惑星『イルナット』

 地球でのヤルバーン州-イゼイラ共和国に連合日本とゼスタール合議体。そして国際連合加盟各国の立場が複雑に絡む状況を、日本国情報省に外務省、そしてヤルバーン州政府がなんとか安定化させたのと丁度同じ時間軸の話。

 惑星イルナットにおける生体兵器『ヂラール』の調査を続行中の特危自衛隊にティ連防衛総省空間海兵、ハイラ王国近衛騎士団、ゼスタール・カルバレータ戦闘合議体の武力を合わせた『イルナット調査連合部隊』。

 彼らの調査により遭遇した広域破壊生物兵器『植物型ヂラール』のトラップ的攻撃を躱しつつ、現状ある程度の研究対象物件の入手にも成功し、順調に事を運んでいた諸氏であったが、ここにきて調査環境が更に整ってくると、今まで見ていなかったものも見えてくるのは当然至極といったところであり、現状その見えなかった状況を調査中の彼らであった……


 この惑星の植物型ヂラール。ゼスタール戦闘合議体『ネメア・ハモル』の証言では、彼女達が戦ったウィルス兵器をばら撒く植物型とは個体が違うという話である。更に言えば、この惑星の植物型ヂラールのように、ここまで活発に、動的攻撃を行うような個体もまたこれ初めてであるという話でもあった。

 ということで、調査機材等々も整い、前線基地も立派な施設になったところでもたらされた新たな情報は、とある地点の地下に異常な生物反応があるのでそこに行ってみ? という学者連中の話。

 実働部隊はハイハイと、皆してその場所へ調査へ行くと相成った次第であった……


 研究チームが指定した山岳地帯へ輸送型デロニカで飛び、付近に着陸。部隊を下ろす。そこからは地上進軍である。

 ということで、ヤル研製ドーラ。愛称『カーリ型』の腕の上に内股で乗って周囲に目をやり警戒しながら行軍するネメア。

 彼女達も、ゼスタールがティ連への準加盟が決まって、ハイクァーン原器やゼル原器の支給がされるとあって、士気も向上。表情には出さないものの、その背筋の張り方見れば、張り切っているのは容易に推察できる。

 実際現在隊列の戦闘を行くはネメアの部隊である。ヤル研対人ドーラ『カーリ型』二機にゼスタール@ガーグデーラタイプのお馴染み対人ドーラ数機。シエ・多川夫妻達支援機動兵器部隊の随行ゼスタール側兵器が、ヤル研製対艦ドーラの『クロウ型』。

 ま、ネメアも自分達が宿敵とする連中の事が少なからずわかるかも、というものもあるのだろうか、まあなんとなく張り切っているという雰囲気が伝わってくる。

 後に続くは大見達のコマンドローダーL・M・H型に、リアッサの駆る19式コマンドトルーパー。その19式の肩には、まあとりあえずこの猛者の中では、一番生身の体一つで、という『兵士』になるシャルリ姐。とはいえご存知の通り、彼女は600万ドル級であるからして。そしてメル達の自動甲騎部隊パカパカと続く。

 部隊は進軍中、ヂラール植物型のトラップ奇襲攻撃……といっても、擬態化してそこに生えてる奴が襲ってくるのでそうならざるをえないのだが……そんなのを排除しながら進んでいく。

 といっても、あらかた最前方を行くネメアの対人ドーラ部隊が焼夷ブラスターを放って、全部消し炭にしてしまっているので、さほどの障害にはなっていないのだが……


 敵に回すとやっかいなドーラ兵器も、味方に付けばこれこんな扱いやすい無人兵器はないわけで、何かあってもどんどん前に出し、盾にして攻撃すれば、味方も攻撃しやすいといったところ。ドーラコアが物理兵器に弱いのは今まで通りなのだが、それでも植物型ヂラールが、ドーラの弱点がコアだなんて知ってるわけでなし、ヂラールの触手にやられてもコアが無事ならすぐに復活するわけなので、こういう消耗戦のような持久力が必要な戦いにはもってこいな兵器だったりする。


『シャルリ師匠、あのドーラっていう“きどーへいき”。ものすごくタフですね』

『だろ? メル、あれとつい最近までドンパチやってたんだよアタシ達は……お互い分かり合えてよかったよ』


 メルの問にそうシャルリが答えると、それを聞いていたネメアも


『シャルリ生体に同意。それは我々も同様だ』

『ん? どういう事だいネメア』

『我々はお前達がハイクァーンと呼称する物質造成機器による生産体制と違い、チキュウ同様の生産工場設備を必要とする。つまり、一度損耗した兵力を補完するには相応の時間と資源を必要とする。従って、我々が活動する別区域での戦闘、戦況にその損耗が大きく影響する場合もある』

『なるほどね……って、別区域での戦闘って、他の知的生命体ともドンパチやってのかい!? ダメだよそりゃ!』

『否定・我々が戦闘している主体は敵性体01、ヂラール? である』

『ああ、そういう事ね……って、別区域でって、どこさ、そこ』

『それは我々合議体から話すことではない。おいおい我々とお前達の中央政体との話し合いの中で知ることになる』


 つまり、色々極秘事項も含んでいるという事だ。ハイハイと手を振るシャルリ。

 すると上空で直協飛行するシエから通信が入る。


『シャルリ、オオミ、リアッサ、キコエルカ? コチラシエ。送レ』

「こちら大見。感度良好……って、シエさん。ま、量子通信機ですから当たり前ですけど。普通にどうぞ」


 ついぞシエも自衛隊で使う無線機での通信がクセになってこんな感じ。特危自衛隊では双方向同時通信機器なんて普通なので、元来こういう無線機通信みたいな会話はしなくていいのだが。


『ハハ、ソウダナ。ツイクセニナル……デ、今、軌道上ノ作戦司令部カラ連絡ガアッタ……パウルガ着任シタヨウダゾ』

「パウル艦長が!? 本当ですか!」

『アア、例ノ新型艦ノ試験運用モ兼ネテナ。デ、今回ハソノ船の艦長ヲヤッテルソウダ』


 話では、現在ティ連で採用配備が進んでいる、とある新型艦をヤルバーン州にも配備するという事になり、今後編成されるであろう連合日本特危自衛隊ーヤルバーン州軍連合艦隊構想の一角を担う船として、ヤルバーン州配備用のものを試験運用しているという話。

 その艦長に、自分の工作艦を戦闘艦のようにぶん回す名物艦長、かのプリルの姉でもある『パウル・ラズ・シャー』に預けられたという次第……それぐらいの器量がなければ操艦が難しい船だという話。


「はは、お会いするのが楽しみですね」

『ナンデモ、植物型ヂラールノ生息地帯ヲ的ニシテ、砲撃訓練ヲスルトカ言ッテタゾ……相モ変ワラズアノ調子ミタイダ。フハハ』


 そんな話をしていると、大見達一行も地下への入り口であろう場所へ到着する。

 行軍を一旦停止し、周囲を探索。


『オーミ師匠、おっきい入り口ですね~』

「ああ、もう見た目に人工的な『建造物』だな……」


 大見は入り口周囲を見渡し、何か感じたのか、地面に生えた草を足で削ってみる。


「なるほど、引き込み線か……」

『ヒキコミセン? なんですか師匠、それって』

「ああ、あれだよ、ハイラにもあるだろ。トロッコって、えっとビブズっていったか? ハイラ語では。あれの軌道、あ~、線路だよ」

『ビブズ? ああなるほど』

 

 大見はメルに解りやすく話したが、もちろんそんなトロッコ軌道のような原始的なものではなく、この星相応の科学力で造られたであろう軌道トランスポーター専用線の跡だ。恐らく貨物搬入の為のものだろう。つまりはここも軍事基地だ。容易にそれは察しがつくが……こういう場所の異常反応となれば、まあ大体ロクなものではないと想像できる。


『オオミ生体』

「はい、なんでしょう」

『我々「ドーラ」のセンサーには、かなり巨大な物体の反応がある。お前達の方ではどうか?』

「どうですか? リアッサさん」

『アア、ネメアト同ジダ。カナリ大型ノ生体反応ガアルナ。コンナ場所デコノ反応トナルト、大体オ察シトイウ奴デハナイカ?』

「はぁ……わかりました。おい、お前とお前、お前もだ。一緒に来い」


 偵察というやつである。大見は何人かの部下を呼ぶ。すると、


『オーミ師匠。私も行くよ……お前達、ついて来い!』


 大見が行くならと、メルも部下を呼び、大見に続く。


『んじゃ、アタシも行くよ。って。ここまで来て行かなきゃ意味ないしね』


 シャルリも空間海兵何人かを呼ぶ。


『……』


 ネメアは無言で行く気マンマン。ドーラを従えて、シエにも負けないモンロー・ウォークで既に地下へ続く建造物の中へ入っていく。ゼスタール人はなんせ行動が早いので、大見にメル、シャルリは苦笑いでネメアの後に続く。

 リアッサと、残った部隊兵員はこの入口で警戒待機である。上空ではシエ・多川とクロウ型が旋回してこれまた警戒待機している。


 ……諸氏、大見が見つけた引き込み線に添って、その施設内に入っていく。大型の扉があったが、もちろんそれを破壊して、更に中へ。

 真っ暗な施設内ではドーラ達の照明が役に立つ。全員周囲を警戒しつつ、奥へと侵入する。

 

「転送妨害波動みたいなものは出ていないな」

「はい、それはありません一佐」


 頷く大見。退路の確保は問題ない事を確認する。彼もこの現状の雰囲気はあまり良い感じではないと彼の勘がそう思わせる。

 周囲の雰囲気を見れば、この惑星の科学技術レベルは、ティ連人やゼスタール人よりも、大見達地球人の方に馴染みがあるようなイメージだ。

 レールがあり、恐らく鉄道のようなものが敷かれている。クローラー付きの戦闘車両があり、先程は不時着したと思われる戦闘用航空機の残骸を見つけたが、その意匠も地球のそれに近かった。

 この世界の現在では、既に地球人を基準に考える上での、地球人と同タイプの知的生命体や、その文明の存在などはあって普通であるということがよく知られるようになってきたが、この惑星イルナットの文明はその典型的な場所と言えるのだろう。大見達日本人特危隊員は、よく目にするそれら文明の物品に、なぜかあまり異文明惑星に来ているという実感が沸かなかったのである。


 ……先へ先へと進む大見達。ここでもネメアらゼスタール人やドーラが便利機能を発揮してくれる。

 突き当りは、どうやら軌道車両。即ち鉄道車両一両分をそのまま別の場所へ移動させるエレベーターのようなものだった。無論動くわけがない。なのでネメアはこのエレベータめがけてゼル端子を打ち込む。すると、動力が復活し、エレベータが動いた。

「おお!」と諸氏関心。なるほどそういう使い方もあるのかと。


『ほえ~。ネメア師匠すごいですね』と、メルが感心。メルもネメアを師匠認定したようである。メルに頷くネメア。

 

 相も変わらず先を先導するはネメア。実のところ彼女も自分達が仮想生命素体の存在である事をわかっているので、何か攻撃された場合、真っ先に大見達の盾になってやればいいと、そう理解しているのだろう。そういう挙動で行動している雰囲気があるのは、大見やシャルリ、メルらプロは普通に理解していた。有り難い話である。昨日の敵は今日の友という言葉があるが、まさしくこれがそうだったりする


 しばし後、列車一両分の広さを擁するエレベータは停止。入ってきた反対側の扉が開く……が!


「うおっ!? なんだこれは!」


 出口を見て驚愕する大見。まったくその先が見えないぐらいの『根』のようなものが密集していたのである。

 その根を掻き分けようとする特危隊員だが、すかさずシャルリがその隊員を静止する。


『迂闊にこういうものに触れるんじゃないヨ……ネメア、ドーラで探ってみておくれ』


 ネメアは頷く。するとヤル研ドーラ『カーリ型』が前進、上腕二本の腕に粒子ビームトーチ……解りやすく言えばサーベルを構えて、ガッシャと根を焼き切って前進していく。

 ネメアは特危にもらったPVMCGでVMCモニターを造成し、カーリ型のカメラモニターから送られてくる映像を見る。無論、大見達もそのモニターを覗き込む。

 ある程度進行させたところで、次にゼスタールタイプの従来型ドーラも数機投入し、ドーラご自慢のクローと光学ドリルを使用して、さらに根のようなものを伐採し、中を広げていく。


『こういう時、こいつらは便利だねぇ、オーミ』とシャルリ。

「はは、そうですね。敵さんの時は厄介でしたが」と大見。

『こんなのがあれば、畑で収穫する時も便利だろうなぁ……』と欲しそうなメル。ドーラを牛馬扱い。

『はは、ドーラが畑仕事ってかい? そいつはいいや』


 とシャルリも同意すると、


『メルフェリア生体。希望するなら、数機譲渡するが、使役するか?』


 と真面目顔で返すネメア。ま、そんな冗談もしばし……すると、カーリ型のドーラが、何か大きな反応を捉えたようだ。


「!!」

『例の反応かい?』

「みたいですね」


 VMCモニターを覗く諸氏……カーリ型が撮影するその映像は……


『うわ、こりゃ……』


 緑と赤の入り交じりあったような物体が、大きく脈打つ映像。その物体の大きさも相当なものである。喩えるなら、マンションの貯水槽ぐらいの大きさといえばよいか。

 

「生きてますね、こりゃ」

『ああ、それだけじゃないよ……ネメア、もっと周囲を見回すように撮影しておくれ』

『了解』


 カメラはドーラが伐採し、開けた空間を映像に収める。


「!」


 大見も気づくその異様な光景……

 何か大きな格納スペースがぶち壊れ、壁を貫きガラス状のカプセルをぶち破って、その脈打つ物体が存在する映像。更に、そこから生える根のような物体を追って地面を撮影すると……


『これは遺骸ですよね、師匠!』


 メルが叫ぶ。そう、何十人ものこの星の住民と思われる知的生命体の遺骸が化石化して転がっていた。恐らくこの施設の研究技術スタッフか科学者か。そこに共通して見えるは……


『ああ……あたしは学者じゃないからよくわかんないけど、この連中が死んでるシチュエーション、どう見たってここに生えてる根っこにやられてるような……』


 全遺骸に共通して言える状況は、根が遺骸の体を貫いている状況であった……まあ想像に難くない状況が展開されていたというところなのだろう。当然この妙な脈動する物体が、件の反応を示す本丸であることは理解できる状況であって……


「!!」


 と、刹那。ゼスタール型ドーラの通信が途絶えた。VMCモニターのカメラ映像も消える。間もなく、ドガンと大きな爆音が一つ響き渡った。


『ネメア、なんだい今のは!』


 ドーラと機能をリンクしているネメアは状況をいち早く理解していた。


『回答。ドーラが攻撃を受けた。この植生状況からの攻撃だ……カーリ型も交戦に入った……』


 ネメアがそう答えた瞬間、


「周囲警戒!」と大見が叫ぶ。


 機動小銃を構える特危隊員に、ブラスターライフルを構える空間海兵に近衛騎士団。メルは超ロングソードで下段の構え。

 しばし後、中へ送り込んだ他のドーラからの通信がまた途絶える。刹那、爆音が轟く。

 現在健在なのは、カーリ型ドーラ一体のみだ。先程もう一体のカーリ型も粉砕された。

 大見達が待機するエレベータ入口付近にも、根のような触手状の動的物体がウジャラと次々侵入してきた!


「応戦開始! 発砲許可!」


 機動小銃にブラスターが火を吹き、メルの剣が撃ち漏らした触手を打ち払う。

 シャルリの御御足ブラスター砲、広域破壊モードが周囲のもろともを吹き飛ばす。


『やっぱりこうなっちまうかい! 嫌な予感っていうのは当たるもんだね、旦那!』

「まったくですな! 全員後退しろ! メル君、下がれ!」

『はい師匠! みんなも下がるんだ!』


 メルも剣から、例の種子島型ブラスターライフルに持ちかえ、銃撃戦に移る。


『……』


 ネメアは冷静に状況を見て、ゼル端子を放つ。だが、敵の攻撃をふせぐことはできるようだが、操ることができないようだ。

 その状況にネメアも首をかしげて、ゆっくり後退する。そして一機残ったカーリ型に後退命令を出し、自分を守らせる。


「ネメアさん、ゼル端子効かないみたいですね」

『肯定。どうもこの触手状攻撃動体は、あの部位の制御下にある可能性が高い。触手部にカルバレータ化端子を放っても意味が無いようだ』


 そう言うとネメアも攻撃方法をブラスターに切り替えたようで、自らの掌、四本の指先から光線状の熱源体を発射している。

 しばし応戦に時間を取られる大見達。ネメアも状況を理解し、エレベーターのパワーを入れて出口扉を強制的に閉め、元の上階へと移動させる。

 上階へ到着した途端、エレベーターはグワンと大きな衝撃に揺らされた……入り口扉は半開き状態。


「全員、早く外へ出ろ! エレベーターが落ちたら一大事だ、急げ急げ急げ!」


 みんな急ぎ脱出に成功するが、一難去ってまた一難。今度は一瞬大きな地震に見舞われる。


『今度はなんだい!』


 と叫ぶシャルリ。すると同時に上空を警戒するシエから連絡が入る。


『オオミ、シャルリ、メル、応答シロ!』

「こちら大見です。どうしました!」

『マダ中カ!』

「ええ、ですが今全力で入り口へ向けて退避中です!」

『早クシロ! ……山ガ割レテイルゾ!』

「なんですって!?」


 ……旭龍で上空警戒にあたるシエと多川。その異常な状況に狼狽していた。


「こりゃ……何が起こってるんだ?」

『間違イナイノハ、オオミ達ノ行動ガ引キ金ダロウガ……オソラクココニキテ一気ニ本丸ノゴ登場トイッタ感ジダナ』


 シエ達が見下ろす風景。

 施設が埋まっていると思われる山岳部の頂上が、ザクロのようにバックリ割れて、直径百数十メートルもあろうかという植物状のツタの塊のようなものがグングンと伸びている光景。

 さらにその山岳部の麓もこれまたバンバンと地割れを起こし、太い大蛇のような動的な動きをする根やらの触手状物体が、地面のそこらから顔を覗かせ、周囲を破壊している。

 この状況は地震という形になって、周囲一体に大きな影響を与えているようだ。


「シエ、あれ!」

『ヤット出テキタカ!』


 大見達が全力で後退している状況が上空から確認できた。山岳基地の入り口から今出てきて、外で待機していたリアッサ達と合流したようだ。

 近衛騎士団は各馬に跨り、シャルリは一九式の肩部へ飛び乗る。大見達は斥力システムを作働させて、浮遊走行モードだ。全力で後方に待機しているデロニカへと向かう。

 殿を努めてくれていたネメアには、旭龍とともに空中で警戒していたクロウ型が降下し、ネメアを拾って上空へ退避する。一緒に出てきたカーリ型は、殿を変わらず継続中だ。


 ネメアはクロウ型に助けられると……なんと素体を霧散させて、クロウ型と一体化してしまった。クロウ型を直接動かそうというのだろうか。


『シエ生体・タガワ生体、応答せよ』

「ああ、聞こえるよ。ってアンタすごいな。そいつと一体化しちまうなんて」

『我々の特性である。認識せよ……それよりも、現状極めて特殊な状況だ。このような現象は我々も初めてである。今は部隊をデロニカ型輸送機へ退避させることが最優先される』

『アア、ワカッテイル。トニカクアノヒョロ長デカイ、『花』ガヤバソウナノハ確実ダ』


 そう、先程山を割って生えてきた巨大な植生は、頂点にバカデカイ花を咲かせている。だが咲かせているだけなら良いのだが、センサーにはその花からかなり高い温度の高熱源が感知されていた。


(来ルカ!?)


 とシエが思った瞬間! 花から一発巨大な号砲鳴り響き、何かが発射された。

 するとその物体は、何処かに着弾すると巨大な爆発を引き起こし、小さなきのこ雲を発生させる。しかもオマケに……


「うお、ガスだ、ガス反応! GASGAS!」


 なんと、毒ガスを周囲に撒き散らしていた。これはたまったのもではなない。

 もう完全退避レベルである。

 後方の研究基地にも退避命令が出たようで、各々転送で施設から引き上げている。

 シエ達もケツまくって逃げればいいのではあろうが、こんな化物をほっておくのも難儀な話であって、できればこの状況を収束させた後、この星の調査を再び継続はしたいのだ。だが……


「どうすんだよこんなの……いくらこの旭龍とクロウ型が頑張っても、倒せる代物じゃねーぞ」

『後方基地ガ、“エマージェンシー”ヲ発信シテクレテハイルガ』

「戦艦の砲撃でも食らわさないと、どうにかなる代物じゃ……」


 と、そんな事を話していると、天から聞こえる高笑い。


『わーっはっはっはっは!』

「え゛……って、ほえ? あ、あれって!」

『オオ、パウル! 良イタイミングダ!』

『シエ、ジェルダー・タガワ、ケラー・ネメア、援護お願いね。あのバケモノは私が相手するわ。任せて!』


 そういうと、上空から降下してくる何か。

 巨大ではあるが、細身のロボット型マニピュレータの中央部が光り輝き、フラッシュする。

 瞬間、バケモノと化した巨大な植生花に命中、大爆発を起こす。

 

 パウルの駆るその物体、それは何か!

 全長二〇〇メートルで少女スポ根ばりの演出な合体ロボットアニメのBGMが似合うその兵器。

 この状況で登場するは、かの数年前の大作戦、オペレーションWTFCで活躍したヤル研設計の機動艦艇。

 パウルの趣味で腕組んだ状態の巨大なソレが山を割るバケモノ植生花と対峙する!



 正体は……人型艦艇、機動攻撃艦・フリンゼ・サーミッサ級一番艦、『フリンゼ・サーミッサ』であった!






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