【第二章・ゼスタール ―終― 】 第一六話 『連合ゼスタール』
別宇宙『惑星イルナット』
地球の言葉に直せば、『惑星X』とか『惑星アンノウン』とか、そんな意味を持つ星。
そこにティ連・ゼスタールの共同調査団が入り、かつて栄えたであろうと思われるイルナットの文明も含めた調査を続行中であった。
現在わかっているのは、この星の文明が滅んで約一〇〇年前後の年月が経っていること。当然その滅んだ原因は、かの生体兵器『ヂラール』によるもの。即ちこの文明がヂラールを制御できずに蹂躙された……といったところ。これはニーラ教授が件のヂラール攻防戦当時に行った予測の通りであった。ただニーラはこの生体兵器をこの惑星の文明が独自に開発したものと思っていたようだが、現在ガーグデーラと呼称された『ゼスタール文明』との邂逅と相互理解。そして現在、和解への努力を行っている最中、彼らが所謂『ガーグデーラ』のような『知的人格体』になってしまう原因となったのが、なんとヂラールの影響だったということが彼らとの接触で判明し、このヂラールという存在が惑星イルナット起原のものという仮説が崩れたという事になってしまった。
ということは当然このイルナット文明は、何処かからこのヂラールを捕獲するなりなんなりしたという事に当然なるわけだが、奇しくもそれが、ゼスタールも詳しくはその存在を知らない彼らの宿敵ともいえるヂラール……彼らの言葉でいう『敵性体01』の某かを知る好機となった訳であり、『サルカス・ヂラール攻防戦』時にその存在を身をもって知ったティ連と、種族を滅亡の危機に晒されたゼスタールとの利害がここにきて一致し、現在臨時ではあるが『同盟』を組んで共同作戦を行っているというところであった。
まあティ連もこの一〇〇年の間にゼスタールといろいろありはしたが、現在では柏木連合防衛総省長官や、ヤルバーン州のナヨ議会進行長閣下の尽力で、なんとかゼスタール人とはうまくやっている状況である。ってか、ティ連として救われているのが、今の『知的人格体』とでもいうゼスタール人の性格が、極めて論理的で、呆れるぐらい素直。更に極めて理解力が高く、かつ異常なほど迅速な判断力と、物事を見抜く洞察力に富むその種族性のおかげで、なにかそれまでの宿敵同士が『本当かいな』と思えるほど互いの理解がこれ案外うまい具合に進んで、今現在地球における連合日本やヤルバーン州ともうまい具合にやっていけているという、そんな状況であった。
当然、現在の惑星イルナットで共同作戦をとるゼスタールとティ連も、何か不思議なぐらいうまい具合にゼスタールとティ連―特危自衛隊に連合防衛総省軍、そしてハイラ騎士団は連携が取れている。
これもやはり『ヂラール』という理性あるものにとって共通の『敵』が存在するから、というのものあるのだろう。皮肉なことにこの忌まわしき生体兵器が、仮想生命存在である知的人格体『ゼスタール』とも、手を取りあえる状況を作っていたのである。これも因果の結果というべきなのであろうか……
* *
『え!? ネメアはあの植物みたいなヂラールと戦ったことがあるってのかい?』
『肯定。あの形態の“敵性体01”を我々は「植生繁殖型」と呼称している。適性体01における一般動物型形態の行動を支援する拠点構築型である。このタイプは、侵攻したその土地の植生形態に擬態できるため、センサーでの発見が困難である。ましてやこの形態の適性体01の生態データがないお前達では、初期発見は難しいだろう』
『なるほどね……言われてみれば確かにそうだよね……』
これは一ヶ月前にネメアが語った言葉。そう、ネメアはこの『植物型ヂラール』が何なのか知っていたのであった。
なぜならシビア達の母星、惑星ゼスタールを襲い、かのウィルス兵器をばらまいたのもこの植物型と同類の個体だったという話なのだ。
つまり、この植物型ヂラールは、恐らく目標の惑星に種子を打ち込んで繁殖させ、周囲の植物生態系に偽装して、一種のトラップとしてその効果範囲を拡大させた後、侵攻侵略行為を担う本隊の支援を行う生体兵器なのだろうという話。これがネメアの見解であった。
惑星ゼスタールを襲ったのは、かのようにウィルス兵器をばらまくような個体だったそうだが、この惑星イルナットに巣食っているのは、何十メートルもあろうかというツルの先端にあるハエトリグサ状の強力な鉤爪状の葉でヘビのように攻撃を仕掛けてくるような形態のものだ。しかも捕食性があるので始末が悪い。
確かにシャルリ達が戦った惑星サルカス型のヂラールだけならまだ戦いやすかったが、この植物型もかの時、惑星サルカスに根を張ってしまっていれば、それは最悪の状況に陥っていたかもしれない。
……と、一ヶ月前のそんな話を思い返すシャルリ。前線基地に駐機されている19式コマンドトルーパーの肩部に腰掛けて、袋に入った糧食のポテチ食べながら物思いにふける。ちなみに味はうすしお味。働いたあとの塩分補給といったところ。
(やっぱりあの時のヂラールは、この星の連中のどちらかの勢力が大元のオリジナルを改造したかもしれないって感じのヤツかもしれないね……)
シャルリは袋に手を突っ込んでポテチを口に放り込むと、むしゃむしゃと頬張りながらそんなことを考える。
(んじゃ、この星に巣食ってる植物型ってのは、なんなんだろうね……ネメアも知ってるぐらいだから、植物型の大元になる原種と関係在るんだろうけど……)
どっちにしろ、研究部門の回答待ちなので、学者でもないシャル姉が深く考えても仕方ない。そろそろポテチも底をつきてきたので、一休み&おやつの時間は終わり。
「シャルリさん!」
『おう、なんだいオオミの旦那!』
コマンドトルーパーの肩からシュタっと飛び降りるシャルリ。流石猫族系だけあって、その姿は美しい。
「これからネメアさんも含めて今後の調査スケジュールに関するミーティングを行いますので、出席お願いしますよ」
『ああ、そうだったね。了解だヨ。んじゃ行こうか?』
大見の肩に手を回して接するシャルリ。ま、フランクなカイラス人ならこの手のスキンシップは普通である。
ということで、現在このイルナットの遺跡化した軍事基地施設も利用し、ティ連・ゼスタール共同前線調査基地となったこの場所。かなり大規模で、今後恒久的に使える建造物も建てて、本格的な基地となっていた。そこで今後の調査方針を考える主要メンバー達。
『……で、みなさん。この地形調査データなのですが』
カイラス人デルンスタッフが、VMCモニターをミーティングルームに大きく立ち上げて、何やら色々と色分けされた地形データを表示させる。
『この色で塗られた部分が、この惑星における、あの植物型ヂラールの分布図です。軌道上の索敵型キョッコウでは探知できないほどの擬態能力を持っているようですネ。この地上に降りて始めてわかったということもありまスが、そちらのネメアさんから提供いただいた、この種の生体データのおかげで、ここまで正確に植生状況を把握できました。ネメアさん、データを提供いただき感謝いたします』
この言葉にネメアはすまし顔で、軽く頭を縦に動かす。
『いやはや、でもそのマップの色みたらゾっとするね。この近辺だけでも相当なものじゃないかい? そいつらが蔓延ってるのって』
『そうですねイルカーシェル・シャルリ。そりゃこんなのが蔓延すれば、文明の一つ滅びもしますよ。動物型ヂラールが通常兵器なら、この植物型はしいていえば、遅効性効果型の大量破壊兵器のようなものです。しかもトラップとしても働くタチの悪い兵器ですヨ……何考えてこんなものを造ったのか大いに疑問なところではアりますけど』
するとリアッサが話に入り、
『マアソレガ戦争トイウ奴ナノダロウ。我々ニハヨクワカランガ、チキュウノ歴史ニモ似タヨウナノガアッタナ、オオミ?』
「ええ、そうですね。お恥ずかしい話ですが……毒ガスやら、生物化学兵器やら、核兵器やら。それの開発競争の歴史も、似たようなもんです……ですが、この間お聞きしたネメアさんの仰るナノマシン型の病原ウィルス兵器をばら撒くような植物型ではないようですが、そういった個体差……というか、まあこいつらは生物『兵器』ですから、そんな『兵科』のようなものもあるのでしょうかね? ネメアさん」
『オオミ生体に回答。我々もそのあたりは正直言えば、正確に把握していない。我々も我々の知る敵生体01の情報しか持ち得ていない。だが、常識的に考えれば、そういった個体差による兵科の種類は存在して普通だろう……尚、我々がスール化する以前に会敵した植物型は、ここにある植物型に見られるあのような動的攻撃手段を持ち得たようなものはなかったと記録している』
すると多川が、
「だが、以前ゼスさんところの基地で見せてもらったっていう例のヂラールとゼスさんが戦ってる映像だけど、アレに映っていた『動物型ヂラール』の中には、俺達が以前サルカスで戦ったヂラールの個体と完全に合致した形態の奴は見当たらなかったよな」
『タガワ生体の意見を肯定。我々もヤルバーン行政体から供与された、その『サルカス型敵生体01』のデータを精査してみたが、我々が交戦したものと同種のものが発見できなかった。だが遺伝子情報等は同一か、親しいという調査結果がでているので、これから導き出される答えは……』
ネメアが話す前にシャルリが、
『アタシ達がサルカスで戦ったのは、やっぱりこの文明の連中が改造かなんかした奴らって事になるのかい? ネメア』
『肯定。その回答が最も可能性が高い。従って現在この惑星に植生している植物型も、改造型である可能性が高い。即ち、この惑星に改造される母体となった敵生体01のオリジナルとなる某が……資料、ないしは標本としてでも現存すれば、この世界と、我々の世界をつなぐ敵生体01の関連性、そしてその存在の起源を知る重要な情報となる可能性がある……これは極めて重要なことである』
なるほどなとネメアの言葉に諸氏頷く。で多川が、
「まあ、俺達はゼスさん達とヂラールの関わりの歴史を深くは知らないから、そのあたりんところのお宅らの歴史も知れば、ヂラールに対する有事の対応もやりやすくなるというところか」
『ソウダナ、ダーリン。トニカク今ハ連中ヲ知ルコトニ全力ヲ注グシカナイ。今ノ我々ハ、連中ト戦ッタ事ノアル我々自身ト、サルカスヤ、メル達ノ経験ニ、コノ星ノ資料。ソシテ、ネメア達ゼスタールノ資料ダケガ連中の情報源ナノダカラナ』
その言葉にネメアも、
『シエ生体の意見を肯定する。そういう点では我々ゼスタールも似たようなものである……敵生体01に対する戦闘対応データは豊富にあるが、この存在の、存在自体を知る調査データは希薄である。従ってこの「惑星イルナット」のような存在は、敵性体01の存在が何かを知る上で非常に重要な資料であるといえる』
「そういうことだな」
ということで諸氏納得。確かにネメアの言うとおりで、ゼスタールも彼らとの本格的会敵をして以降、戦闘ばっかりどこかティ連の与り知らない場所でずっとやってきているわけであり、言ってみれば彼らもそれ以上の事はこの八〇〇年前後における時間の流れをもってしてもわからないのである。
これが所謂ニーラ教授がいうところの『半知性体』的存在の面倒くさい点そのものであり、言葉による知性の交渉が出来ないわけなので、彼らに対して『問う』ことも出来なければ、何がしらの『記録』を入手することもできない。
喩えるなら、サバンナの猛獣に『お前はなぜに猛獣なのか起源を言え』と問うているようなもので、その猛獣の存在は何かと動物に問うなんてことはやっても意味ないのと同じ状況ともいえるのである……かなわん話だと諸氏思う。
すると、このミーティングで何か物足りない、というか一人足りない人物が、部屋に元気よく入室してきた。
『みんな、ゴメンゴメン。またせちゃったかな?』
メルさんことメルフェリアだった。調査研究部門へ資料データを確認に行っていた。王女サマなのに偉そぶることもなくフットワークも軽いので、部下からの信頼も厚い彼女。
『ご苦労さんだね、メル。で、コッチ来てから随分かかる羽目になっちまったけど……どうだった?』
『うんシャルリ師匠。やっぱりって感じだったみたいだよ』
そういうとメルは自分のPVMCGを操作して、VMCボードを造り、シャルリに渡す。
『フム……なるほどね』
シャルリはメルのVMCボードを一瞥すると、リアッサに渡し、リアッサが大見にと回し読みする。
一体メルのVMCボードに何が書いてあったのかというと、一ヶ月前にこの基地へやってきた時に回収したジラール遺骸の件についてであった。その調査結果が出たのである。あと、ネメアがゼル端子で拘束捕縛した植物型ヂラールの調査結果も併せて書かれてあった。
その内容。この標本と比較してわかったことだが、まず回収した標本と、かのヂラール攻防戦で戦ったヂラールは、遺伝子レベルでは共通するところもあるが、やはりサルカス型ヂラールの方は『変異型』つまり改造されているという事であった。回収標本と比較してわかったことだが、サルカス型ヂラールは、遺伝子配列に人為的な加工がなされているところが相当数あったらしい。ということで、やはりこの惑星文明が使用していたヂラールは、やはりどこかから捕獲してきたものを改造して使用していたという結果になったようである。
この文明が開発していた物、という点でいえば当時のニーラの予想は当たっていたが、彼女でもまさか何処かから持ってきた物を改造して使っていたというところまでは想定の範囲外だったようである。
『私も報告書読んだけど、やっぱりどこかから持ってきたやつをいじくって使ってたみたいだね、師匠』
『ああ、そうみたいだね……って、メル、この報告書の内容わかるのかい?』
『ああっ! シャルリ師匠、私の事バカにしてるでしょ! 私だってお姉ちゃんに負けないよう、イゼイラ学問をべんきょうしてるんだからねっ!』
そう、メルはフェルが科学者だと知って、姉とも同じ話題で会話ができるよう、なんとイゼイラ科学を勉強していたりするのであった。所謂文武両道というヤツである。剣術のみ達者な脳筋娘と思われたくないらしい。なのでやはり流石はイゼイラ人といったところで、結構勉学の成績は良いらしい。
『アハハ、ハイハイ。そうだったね、ごめんよ』
『デ、植物型ノ方ハ、不明トイウワケカ』
『そうみたいだよシエ師匠。だけど、なんでも賢者さん達の話では、この場所に異常な生命体反応があるから、調査してみたほうがいいかもって言ってた』
賢者さん。即ち科学者のことである。サルカス世界ではまだまだ『科学者』という言葉は浸透していないらしい……とそんな話はさておき、メルが言うには、どうもこの惑星の、ある場所の地下に、異常な植物植生がある場所があり、学者連中はそこを調査すれば何かでてくるのではないかとそんな事を言っているそうである。
「要するに、俺達実働部隊に、行って見てこいと言ってるわけか?研究部門の皆様は」
と苦笑いの多川。
『マ、ソウイウコトダロウナ、ダーリン。ククク』
「なんだよ、なんかこんなSF作品見たことあるぞ? で、後頭部の長い妙な宇宙生物と戦ってさ」
すると大見が、
「まあ今の状況もその作品と似たようなものでしょう多川将補。って、その地下とか言う場所に行くのは私達陸上科ですからね」
「はは、でっかいの出てきたら俺達夫婦が相手してやるよ、な、シエ」
『ン? 私モソノ地下トヤラニ行キタイノダガ……ダーリンハ来ナイノカ?』
いやいや、旭龍使うのに自分達がいないとマズイだろと。シエは、なんかその地下のヤバそうな場所に行きたそうだったが、ここはダンナに言われて支援組にということになる。
ということで、大見達『特危陸上科』と、シャルリ率いる『防衛総省空間海兵』にメルの『近衛騎士団』。そしてネメアの『対人・対艦ドーラ軍団』連合部隊で、その地下にあるモノを調査することになる。
はてさて、何が出てくるのやら、といったところであったりする……
* *
さて、所変わって天の川銀河・太陽系第三惑星・地球。地域国家アメリカ合衆国、国際連合本部。
先日、ここで月丘達がシビアとド派手にバトルをやらかして、もうメチャクチャにぶっ壊した国連本部であったが、そこはヤルバーン州政府も『仕方ないこととはいえ、えらいすんまへん』という話へ流石になって、パウルを派遣して今まで以上に立派な施設へリフォームさせていただいたという事もあった、あれからの話。
今日はフェルが外務大臣として、とある日本人科学者を帯同させてこの場所へやってきていた。
無論フェルに付き従うは、スタッフ名目でフェルの命で諸々動く諜報員、月丘和輝にプリル・リズ・シャー。
で、その日本人科学者というのも実は……
『ケラー・シビア。では、作戦開始するデスよ。お得意の擬態演技、期待していますでス』
「わかりましたわ、フェルフェリアさん。このような感じで宜しいでしょうか? ウフフ」
ほげ〜っとしてその日本人科学者を見る月丘とプリ子。フェルさん大臣は『大したものデスねぇ〜』と関心しきり。
ということで、この日本人科学者に化けてるのは、なんとまぁシビア・ルーラ合議体さんであった!
かのスペイン人女性国連事務総長に化けた時の演技モード炸裂である。あのおすまし顔で『肯定』とか言ってるシビアとは段違いだ。
「いや〜シビアさん、演技でもいいですから、ソッチのほうがやっぱ人間味あっていいのではないですか? いつもそうしていらっしゃればいいのに」
月丘が腕組んで思わずそう漏らす。
すると、にこやかに大和撫子ぽい風味の日本人版シビアは急に笑顔を毎度のすました顔に戻して、
「ツキオカ生体の提案は却下。これでこの状態は、スール側の処理に高負荷がかかる」
そのギャップにコテっとなる月丘。もったいないなぁと思ったり……すると、
「イテッ! プリちゃん、何すんの、いきなりつねって」
『知らないですっ! ケラー・シビアの変身にお鼻の下のばしてカズキさんダサダサですっ!』
「ええっ! そんなんじゃないですよプリちゃん、はあ〜もう〜」
プリ子毎度の『 3 』こんな口してふてくされてたり。横でそれを見てコロコロ笑うフェル。シビアはすまし顔で首を傾げていたり。
『……アハハ、まぁまぁお二人とも。でもホント、そのキレーなニホンジンサンは誰がモデルさんなのですか? シビアサン』
『安保調査委員会会員・タナカ生体という個体の、母親の若い時代の容姿だということだ』
『アラアラ、そうなのデすか!』
田中さんの母親の若い頃の姿を模したシビア。なるほど田中さんのビューティぶりも理解できるという事。ってか、田中さんも一体なにをシビアに提供してるんだか。
……という事で、フェル達諸氏は一体何をしに国連に来ているかというと、シビアを『日本の科学者』という設定にして、国連で開催される『国際連合異星人科学技術解析委員会(United Nations alien science and technology analysis committee・UNASTAC・アンアスタック)』へ出席し、『日本の科学陣が解析したゼスタール技術を公開する』という設定で、シビアからゼスタール技術を世界の科学者へ発信してもらおうという感じの作戦なのであった。
このUNASTACという組織、実は国連安全保障理事会主導で、ヤルバーン飛来以降、随分以前からある組織だったのだが、日本はこの組織に参画していなかった。
だが、あの時より一〇年後の現在。ガーグデーラもといゼスタール人が起こした地球圏の諸々のイザコザに、それが一段落した後のヂラールがこの宇宙に存在しているかもしれないという疑惑。そこから地球圏でも今後の『万が一』の事態に備えて、地球圏の科学技術全体の底上げを認めざるを得なくなったティ連の判断もあった訳で……
そんなこんなな諸々があって、ティ連より基礎技術が遅れているゼスタール技術であれば、あえて地球内の技術拡散を黙認するというティ連の方針転換のもと、ティ連としてもこの決定に伴う発達過程文明の研究も含めて、そのままのオーバーテクノロジー技術をくれてやるのではなく、基礎技術を公開し、あとは各国の発達過程文明として独自の力で技術昇華していく姿も見てみたいというそういう考えの下、ゼスタールの基礎技術公開へと踏み切ったわけである。
だけどそこでシビアが直接出向いて『お前達に技術を提供する。我々ゼスタールと同化せよ。抵抗は無意味だ』とやらかしても、それはそれでまた世界を大混乱させるだけだという話で、色々考えた結果、これまた柏木長官閣下のアイデイアで……
『日本人のガーグデーラ研究第一人者の科学者が、ゼスタールと技術交流会議をやってきたから、その研究結果を発表する……って設定で、シビアさんが日本人科学者にでも化けてもらって、UNASTACで発表してもらえばいいんじゃないの?』
というお芝居を一つ国連で打とうという考えで、この作戦が発案されたという次第。
実のところその前哨戦として、ゼスタール総指揮合議体であるゲルナー・バント司令は、地球に潜伏しているゼスタール・カルバレータへ、各カルバレータが担当する地球世界各国とのコネクションを利用して、それまでに地球世界へ流出させている技術の内、ティ連が指定する『流すとマズイ技術』等々の調整を含めた、『技術流出調整』を行っていたりする。
勿論その調整状況は、三島の財団法人『三島・ティ連研究会』へ詰めるヤルバーン州にゼスタール人スタッフへと逐次報告され、常に状況を監視管理できるという事になっている。
と、そんなところで、この地球世界へも本格的な異星人技術が公開される記念すべき日となる本日。
世界各国は、今まで頑なに技術公開を拒み続けてきた日本政府が、ゼスタールの技術とはいえ、公開し、技術資料も提供してくれるというのだから、実のところかなり訝しがりながらではあるが、各国各分野最高クラスの技術者に科学者チームを引き連れて、この国連本部へやってきていた……但し、北朝鮮とシリアを除いて。
ま、これらの国は相変わらずあんな国なので、毎度のことであんなことをヤルバーンさんがいるにも関わらずやっているので、国連から制裁対象国となっている。なので、この会議へも制裁措置の一環で出席できないという次第。だが、多分スパイやらなんやらを送り込んでくるのであろうとは思うので、そのあたりも警戒しないとという話。
特に一方のあの黒電話の国は、核兵器がまだ抑止力で有効と思っているらしい。
まあ、ヤルバーン州や現在の連合日本としては、こんなのがナニしたところで今更どうということはないが……
と、そんな話はともかく、UNASTAC会合が行われる会議室は満員御礼。立ち見も出るほどである。
若き日の、田中さんのおっかさん姿に化けたシビア・ルーラは、十八番の擬態行動で笑顔を振りまく。
講義開始前のロビー活動で、列成して各国関係者の挨拶を受けていた。
側で護衛役として付く月丘に助手役のプリルは、再度本当にこれが『肯定、回答、ナントカ生体』とか言ってる人なんかなぁと不思議顔で思う。
あ、ちなみにゼスタール人がよく人名に『ツキオカ生体』とか『ナヨ・カルバレータ』とかいった呼び方をするが、この『生体』とか、『カルバレータ』という呼称は、後でシビアに聞いたところ、なんと『敬称』なのだそうだ。『~さん』と言ってるのと同じだという。
有機生命体には『~生体』仮想生命の類は『カルバレータ』と付けるらしい……なるほどなと。そういう意味だとわかれば、違和感も薄れるというものだ。
んで、ちなみにシビアが現在使っている偽名は『志美亜 琉楽』博士という……聞かされた時、『まんまやん……』と思う月丘。まあシビアがこれでいいと言うからそうしたが、考えてんのか考えてないのがイマイチよくわからんのもゼスタール人の個性。面白いものである。
『……志美亜博士、そろそろ時間ですっ』
「わかりました、プリルさん……申し訳ありません大使、また後程、晩餐会の折にでも……」
「そうですか、ではその時に、ドゥクトゥール」
フランス国連大使との雑談を早々に切り上げるシビア。しかし、情緒のない人格生体のシビアが、擬態とはいえ、あそこまでよくフランス人の一般的会話に話を合わせられるものだと感心する助手役のプリ子。
そこんところをシビアの耳元で話すと、彼女は……
「我々もこの星の各種情報媒体を常時監視している。そこから適当な言葉と情緒表現を選択して相手の会話に対応しているだけの事である。難しい事ではない。我々とて先日にも話した通り、かつてはお前達同様標準的な知的生体の持つ情緒的な感情は持ち合わせていた。我々は人工知能のようなものというわけではない」
と仰る。そう聞くと、ゼスタール人の事をなんとなく切なくも思うプリル。やっぱりさっき月丘が言った通り、この擬態表現での『人間らしい情緒』をなんとかできないのかなぁとも思う。
……と、そんな話をしつつ、講義会場へ。
UNASTAC側のスタッフが、マイク付けてくれたり、講義の装置の使い方を教えてくれたりと、色々ちょっとしたレクチャーを受けて、壇上へと向かうシビア。
満員を超える聴衆万雷の拍手を受けて、演壇へ立つ……プリルは実験機材などをPVMCGで造成して、シビアの後ろで控えめに待機。ちなみにプリ子は笹穂耳を隠している。
「皆様、こんにちは。日本国OGH未来科学研究所所属の、『志美亜 琉楽』と申します。宜しくお願い申し上げます……では此度、日本国の横田基地で発生した事件に端を発します、かつては『ガーグデーラ』と呼称され、現在は『ゼスタール合議体』と呼ばれる存在の科学技術に関して……後程フェルフェリア日本国外務大臣より詳しい経緯については説明があるとは思いますが、現状かいつまんで私の方から申しますと、ティ連からゼスタール技術に関しての各種情報、これは科学技術情報も含めて、今後の地球世界において懸念される宇宙的な安全保障対応への案件もございまして、ティ連本部からもゼスタール技術の開示許可を得ましたので、ここに世界各国の皆様へ、我々日本国関係者がゼスタールと接触した際に譲渡された技術情報諸々含めて、情報開示をさせていただきたく思います」
そうシビアが語ると、会場はやんやの拍手に、口笛が飛ぶ! お祭り騒ぎである。
もうこの状況、厳かな学会には流石に見えない。
シビアも笑顔でウンウンと頷きながら左右を見渡し、会場が落ち着くのを待つ。
それを背後から見るプリルに、舞台裏で除く月丘。
(そりゃあんな調子で地球に潜伏してたら、わっかんないよなぁ……みんなあんなのなのかな?)
腕組んで首振って感心する月丘。今度沢渡に見せてもらった、例の羽川急便送り状の発送先住所へ陣中見舞いに行ってみようかとも思ったり。どんな格好でゼスさん達は活動してんのかなと……
…………シビアの講義は続いている。ゼスタールの種族特性である『スール』の合議構成を変えれば、その代表体は何にでもなれるのが彼女達である。現在、ゼスタールの科学者系スールが臨時でシビアの合議体に参加して、シビアはその科学者スールの代弁を行う形で、講義を行っていた。
無論、その講義を真剣に聞く各国の科学者達……勿論この中には科学者ではなく、月丘のような諜報員に軍人も、『科学者』を装って参加しているだろう。
月丘も舞台袖上手から少し覗いて客席の方を眺める……
(…… !? あいつは……)と知った顔を見る月丘。変装しているみたいだが、彼の目は誤魔化せない。勿論友達や良い方の知り合いではない。
(朝鮮人民軍偵察総局の……あ~、やっぱ全部シャットアウトするのは難しいな、あんなのまで入り込んでいますか……)
月丘は細い目をして客席最上段に小さく見えるその男を凝視しながら、無線機に手をかけ、警備員へ連絡する。
ほどなく警備員が姿を現すと、その男は流石と言うか、すぐさまその場から立ち退き、警備員の視界から消える。
その様子を舞台袖から見ていた月丘は、
(あ~、もう、逃がしちゃって……やっぱ警備員じゃ無理ですか。まあしかし、とりあえずこの場から消えていただいただけでも良しとしますか)
と、そんな風に志美亜博士の護衛も兼ねて、目を光らせていたり。って、そんなのシビアも把握しているだろうからどうっちゅー事はないのだが、これも月丘のお仕事であるからして。
で、舞台を見ると、プリルが色々とサンプル用品を出して、シビアの説明に合わせて色々とデモンストレーションを行っているようだ。
会場から「おお~」やらのどよめきや、拍手が聞こえてくる。
ということで、此度ティ連本部意思決定代行のヤルバーン州とゼスタールが協議の上、地球世界に公開……というよりも、『流れても良い』と決定した技術概要は以下のものである。
1【高度エネルギー発生機関】
これは所謂パワーソースの事である。例えば、ティ連の場合は宇宙船のパワーソースに『重力子技術』を基幹にした、所謂『縮退機関』の一種と、宇宙線をエネルギー変換システム、そしてハイクァーンシステムの、この三つを基盤にして稼働しているものが多い。従っておおよそティ連各国の宇宙船はこの技術で稼働するので、ティ連のそれらは一旦造船して完成してしまうと、あとは、ほぼっほったらかしのメンテナンスフリーで使えるのである。そりゃ五〇〇〇万光年彼方からヤルバーンでやってくるぐらいであるからして、これぐらいの性能でなければいかんのも頷ける。
一方、ゼスタールは主に『対消滅機関』を主機関にしている宇宙艦船がどうやら多い。なんでも話では、レ・ゼスタの元素生成機能を利用し、人工的に安定した稼働を確保できる対消滅機関専用の特殊な正・反物質エネルギーを造って、それを利用してパワーにしているという。で、対艦ドーラの場合は、完成された高性能な小型常温核融合炉を搭載し、対人ドーラはティ連よりも性能の劣る設計の、宇宙線システムで稼働しているという。
なるほど聞けば確かにパワーソースはティ連よりも下位になるシステムではあるが、その全てがレ・ゼスタの利用によって、究極的に高度で、完成した構造になっているのだ。
なので、これでも解ったことがあり、その一つは『対艦ドーラは次元溝に潜伏できない』という理由……確かにいくら高度でも、核融合炉ぐらいでは次元をどうこうするほどのパワーは得られないだろう。一方、強力な対消滅機関を持つゼスタール『艦艇』なら、次元溝への侵入も可能ではある。
ということでさて、このゼスタール技術の中で此度地球世界に公開されたのは、高度な小型常温核融合システムと、宇宙線エネルギー変換システムである。対消滅機関はパスされた。その理由は、こんなの教えたら必ず『反物質爆弾』を作ろうと考えるバカが出てくるからである。特にあっこ。
この技術だけでも、此度の情報公開は値千金である。なんせ文明が文明として常に切磋琢磨し、最優先で考えられてきた科学技術の成果は、このエネルギー・パワーソースである。なので原子力も生まれてきた。
この技術公開の結果を利用する事で、世界は格段なんてものではないぐらいのエネルギー革命が起こるだろう。
そこから今後派生する発達過程科学文明の成果も、これ貴重なものである。
2【高度制御システム】
所謂、我々の知る『ドーラ・コア』。ゼスタール語で言う『カルバレータ』の『基礎』技術である。
先のパワーソースを実現させるにしても、安定し、かつ確実な制御装置が必要不可欠である。だがそこはドーラ・コアの技術を使えば、コレ安心ってなもんで、これら高度自律制御システムも公開された。
このシステムを使えば、宇宙船に戦闘機や機動兵器、ロボットの制御は言うに及ばす、コンピュータ系システム製造などにも大いに利用できる。以前のブンデス社が造った機動戦車のような兵器、この移動制御も容易く行えるだろう。これで地球世界にも脚移動型車両が普及していく可能性がある。
この基礎技術の公開である。
3【量子通信技術】
即ち、超空間リアルタイム通信技術である。ティ連同様にゼスタールもこの技術を使用している。
地球で『量子通信』というと、この一〇年後でもその意味が少し違う。
地球科学でいう量子通信とは、量子の重ね合わせを利用した膨大な量の情報送信技術と、暗号化技術の事を主に指す。
だが、ティ連の量子通信技術とは更に、量子テレポーテーションを利用した情報伝達技術の事も指し、ティ連やゼスタールでは、この技術のお陰で、五〇〇〇万光年もの距離を離れていても、リアルタイムで首脳会談が出来、ナヨ閣下は別宇宙でも地球にある専用トーラルシステムの自我を、ナヨさん素体へリンクさせることが出来、ゼスタール人は同じくスールをカルバレータへ転送させる事ができる。
即ち、宇宙時代には超高速、そして超光速通信技術は必須であり、この技術の公開に関しては、ティ連側も無条件でゼスタール技術公開を介して、情報を提供することとしている。
と、いうところでシビアは主にこの三点のゼスタール『基礎』技術を公開した。
では何故にこの三点なのか……即ちそれは、この三点の技術は『宇宙船』もしくは『宇宙艦艇』を開発するために必須の技術であるからだ。
小型化した高性能な核融合機関をエンジンとして利用できれば、噴進式推進力以外の推進方法も考案できるだろう。実際この日から幾日か後に、米国はサマルカ技術から研究し、現行の米軍宇宙戦略コマンド部隊が航宙駆逐艦等々に使用している独自開発の『磁力型空間振動波機関』のライセンス販売を公表した……米国はそういうところ抜け目がない。早速ビジネスである。
とにもかくにも、ヂラールの現状を知ってしまった以上、せめて地球の世界各国を主導する先進国には最低限の宇宙船、宇宙艦艇ぐらいは持ってもらわないと、というところが大いにあったわけである。
この地球世界の地域国家にくれてやったゼスタールの技術をどう料理するかは、彼らも『発達過程文明』な国家であるからして、自ら色々と頑張ってもらいたいというところもある。即ち、今後EU版、米国版、ロシア版、中華版の『ヤル研』みたいなのがポンポン出来てくるのであろう。ヤル研のみなさんもウカウカしていられないという話である……どんな意味で? という疑問符も付くのだが……
ということで、講義は続く……この講義、本日は休憩時間三回ほど含んで、八時間ぶっ通しだ。更に講義終了後は、日本政府とヤルバーン自治州監修による……という名目の、ゼスタール人提供の技術情報を詰め込んだSSDが配布される事になっている……北朝鮮は、せめてこれが欲しいのである。
当初、中国もこの講義には参加させてもらえなかったかもしれなかったのだ。それは勿論の事、ティ連の『交流条件を満たさない国』だからであったのだが、日本政府とヤルバーン州に、元中国国家主席の『張徳懐』を特使にして、猛抗議と大攻勢と必死の嘆願をかけてきた。
そもそも抗議なんかされる言われはないのに『抗議』なんざされたら『アホかこいつら』と普通はなるのだが、そこは中国。そんなものである。
ゼスタールも、実のところ中国の政治体制は調べていたみたいで、『合議体』概念の彼らからすると、あまりお気に召さなかったのだそうだが……
今回は中国側が『地球世界への干渉にゼスタール技術を絶対に使わない』『ゼスタールやティ連の勧告は必ず受け入れる』『この件での国内違反者は、一般国民、共産党員、軍人問わず裁判での最高刑を死刑にする』という必死で悲壮なまでの嘆願をしてきたので……此度はシビアの講義への参加を認めてやったという話。
まあ死刑はやりすぎだとは思うが、それが彼の国の最大限の交渉材料というのなら、好きにしろというところだろうか。だが実際この言葉を鵜呑みにするなんて無いわけであるからして、このあたりの監視は、月丘やプリル、そして新たに総諜対の仲間になったシビアや、三島ら財団法人の仕事である。中国にはくれぐれも情報省安保調査委員会のお世話になるような案件にならないようにと、そんなところ。
ま、どこまで約束を守れるか? 今後のお手並み拝見といったところだろうか?
実際、ゼスタール人が此度地球世界各国に対してここまで技術公開をしたとはいえ、基本そのデータはすべて『基礎技術』である。ここがミソ。
あとは各国が持っているゼスタール技術の調査結果や、もし彼らとなんらかの形で接触できていたり、かつてのドーラ・コア騒動があった時のシビア達が流したデータを隠し持っているのであれば、それを活用するも良し、地道に発達過程文明世界の国家として、地球風に切磋琢磨して新しい何かを開発するも良し、今後は各国の努力次第という奴である。
そこでもし、『理論はあるのだが、地球の技術でどうしても作れない何か』があるというのであれば、そこは日本とヤルバーン州の出番である。『発注相談乗りますよ』と言ったところ。しっかり麗子専務が仲介役になってくれるそうである……ちゃっかりしてたり。
と、そんなこんなでシビアの講義もあと二時間といったところ。ここで最後の休憩が入る。
一旦舞台袖に身を引くシビアとプリル。
『ふぃ〜。ケラー・シビアの説明がテンポ速くてデモンストレーション追いつくの大変ですよぉ〜』
「プリ子生体はよくやっている。技術者として高度であることがよく理解できる。大いに評価したい」
『えへへ〜、どもですぅ』
控室で一息いれるシビアにプリル、そして月丘の三人。
最近はシビアの方も、ティ連や日本的な文化の接し方を理解してきたのか、その言動にも幾分丸みが出てきた感じがする。
シビアはストロベリージュースをちゅ〜っと飲んでたり。プリ子はコーヒーなんぞ。
その二人の様子を見て、シビアを総諜対へ引っ張ったのは正解だったかなと月丘は思う。なぜなら、まあそれは『何でもできるスタッフ』とは正に彼女の事だからだ。今の月丘から見れば、シビアは……
(なんてったっけ? あのアニメ。めっちゃ昔にやってた……)
砂の嵐の中に隠された塔に住んでいる黒豹型サイボーグみたいなものだ。丁度スタンス的にはアレに近い。
ある意味、ゼスタール人は、諜報作戦にもってこいの種族なのではないかと思ってしまう。
(んじゃ、メイラさんが『鳥』だからアレで……プリちゃんは態度だけ海神さんだな、で、俺は白銀色のコマンドローダー使いか。むはは、マンガだねこりゃ)
と、思わず噴き出してしまう月丘。田中さんのおっかさんモードのシビアは、相も変わらずすまし顔だが、プリルがキャッキャ言っている。なんか妙に会話が弾んでいるらしい。
と、そんな光景を眺めて、アホな事を思い妄想していると、フェルがやってきた。
『皆さん、ご苦労様デスね』
EU各国外相会談をやってたフェル。今やもうお馴染みとなった異星人外相で、特に混乱もなく、事務方の事前折衝通り滞りなく終わったというところ。
此度は欧州宇宙機関(ESA)とNATOが、今回のUNASTACで得られた情報を元に共同開発を予定している試験航宙艦の、技術協力協定の為の話し合いをしていたという次第。勿論例の『磁力推進型空間振動波機関』ライセンス生産の件もあるので、まあここはEUと米国と、他LNIF関係諸国との連携も含めた地球世界での、日本とヤルバーン州を除く軌道空間での主導権争いに、西側が先手を打ったというところ。
現在、かつての『SISテロリスト殲滅作戦』時の協定もあっての事で、ロシアもLNIF陣営寄りなので、何日か後に、フェル大臣はロシアとも会談を持つ予定になっている。
で、中国とは? という話だが、相も変わらずここと日本は疎遠である。それ以前に現行の盧政権は軍事政権色が強いので、日本やティ連もかなり距離を置いている。で、実のところロシアが現在かの時の協定でLNIF陣営に参画する約束だったのを未だに完全履行していないのは実のところここにあって、もしロシアが完全にLNIF側に寝返ってしまうと、中国と北朝鮮が何をしでかすかわからないという不安があるのだ。
そこで日本、ヤルバーン州とLNIFの橋渡し役にはロシアがどうしても必要だというところに利を見出したロシア首脳部は、しいて完全にLNIFへの参画をせず、オブザーバー国という位置にいるのである。
で、この時代のロシア大統領は、相も変わらずかのメンチ……『グレヴィッチ』大統領閣下であったりする。
流石御大、死ぬまで大統領やる気満々だったり。
……ちなみに、この世界での北方領土は、かの時の約束通りロシアへ租借されている状態。地権者は日本で、借り主がロシア。これは完全に明記され、両国国民にも周知されている。五年単位での条約更改となっており、領海中間線の件もあって、国後島の北海道側一部領域と、歯舞群島の一部海域の中間線では領海を侵犯した船舶は即当該国の関係部署へ連絡して、その場で容疑者の身柄を引き渡すという協定を結んでいる……
と、そんな時代背景もあってのフェル大臣。各国とまだまだ会談予定というところだったのだが、フェルの話では緊急の連絡が日本政府から入り、その後の会談はキャンセルして……
「えっ!? では大臣、今から帰国なさんるんですか?」
『ハイですね月丘サン。まあ政府の都合なもんですから、この後のインディア国や、サウジアラビア国の関係者サマには大変申し訳無いと私から頭下げて置きましたデスよ』
『では、その地域国家との折衝は後日改めてということですか? フリンゼ』
『ですね、ケラー・プリ子』
するとその話を聞いていたシビアも話に入り、
『だがフェルフェリア生体、お前達のいう地域政体との予定会談を途中放棄するということは、我々の認識では相当な原因があると見るが?』
『ウフフ、そうですよシビアサン。その原因は貴方達デス』
『何? 我々が? ……その真意を回答せよ』
『ウフフ、聞いて驚いてくださいネ〜、それはですねシビアサン……』
* *
さてさて、舞台はまた変わって、ここは別宇宙の惑星イルナット。
多川将補閣下がホゲ顔で、前線基地の活動を眺めている。
『ダーリン、ドウシタ、ソンナ顔シテ』
「え? あ、いやシエ……あのヤル研メカさ……」
多川はヤル研が送りつけてきた日本ポップカルチャー風にリデザインされてしまった可哀想な? 対艦ドーラと対人ドーラを指差す。
ちなみにこれら二機は、現状ゼスタールのオリジナル対艦、対人ドーラと区別するために暫定で現地認識呼称、つまりアダ名として、ヤル研対艦型の方を『クロウ(爪)』対人型の方を『カーリ』と呼称している。
『ウム、ソレガドウカシタノカ?』
「なんか俺達特危って、段々マンガ化してきてないか? あの連中のせいで」
『マンガ化? ウーム、ヨクハワカランガ、新シイ装備が発表サレレバサレルホド、我々ハ日本国民カラモ愛サレテイルヨウニハ感ジルゾ』
えっへん顔で立派な胸を張るシエ。息子の暁君も、父母が特危の幹部なので近所のガキどもから人気者だと鼻が高い。
「あ、いやカーチャン、そういう意味じゃなくてね……」
やはりこのあたりの感性では、ティ連人と日本人とではまだまだ齟齬があるようである。結構な事だ。
……とそんな話もしていると、
『シエ生体、タガワ生体、我々ゼスタール側の行軍準備が完了した。そちらはどうか?』
ネメアが二人に報告へ来たようだ。
「ああ、了解だネメアさん。で、あのクロウ型とカーリ型も連れて行くのか?」
『肯定。あれほどのカルバレータ兵器、使わぬ手はない。此度の作戦で試験評価もできる』
「あ、さいですか……」
見た目で言えば……クロー型は、一〇年前以上に、チートな機動兵器シリーズのアニメで、なんかこんな四本の爪状のナントカアーマーに変形する赤いチート兵器があったようなそんな記憶がある多川。種がどうかとか、そんなのだったが、昔の話なのでうろ覚え。
カーリ型の方ははっきり覚えている。もうその動きは、子供の頃、テレビの再放送で見て、夢中になった映画、『サム・ワナメイカー監督』の『シンドバッド・黄金の航海』に出てきた邪神像『カーリ』。あれがロボットになったような、そんな感じのドーラだ。
「……ははは、まあいっか。ってか、さっき本部からの報告書見たけど、お宅らゼスさんの技術公開、とりあえず成功したみたいだってさ」
『ダーリン、ソレハ、例ノ「あんあすたっく」トカイウ会合ノ話カ?』
「そそ。まあヤル件もこんな兵器ばっか作ってるけど、アメさんやヨーロッパ、ロシアに中国も、ヤル研みたいなの作って色々やらかしてくる可能性あるかもよ」
『フム、ソレハイイコトデハナイカ』
「あ、いや、あのね?」
『シエ生体に同意。その言語の含みは、肯定的評価ではないと感じるが、タガワ生体?』
「あ、いやだからね?」
とそんなやりとりやってると……
「ははは、他国はあんなヤル研みたいなの作りゃしませんって……あ、アメリカにはスカンクワークスの前例がありましたね」
「おう、大見。もうそろそろいけるか?」
大見がやってきた。片手にVMCボード持って、色々と現場を見て回っていたようだ。
「あと少しです……ところでネメアさん。貴方の部隊は、その……所謂『人格のある』スタッフは、貴方一人でよろしいのですね?」
『肯定。個体としては、ネメア・ハモルの代表合議体であるこの素体だけだ。だが、合議体として行動する我々も、本作戦スタッフという理解にはなる。認識せよ』
「了解しました。つまり、貴方以外のユニットは、クロウ型と、カーリ型、それと従来の対人ドーラのみということで」
『肯定。クロウ型は、タガワ・シエ両生体の搭乗する機動兵器のサポートにあたらせる』
ネメアがそういうと、親指をピっとあげる大見。良い感じですと。
さて、惑星イルナットにいる大見達。何か大掛かりな部隊編成を持って作戦行動に移るようだが、何をするのかというと、先の調査にあった、『地下の異常反応地域』へ調査に行くという次第である。
なんせ事前の軌道上からのデータでは、植物型ヂラールの異常な植生が観測されており、油断はできないという感じであって、ゼスタール軍、ティ連空間海兵、特危自衛隊にハイラ騎士団、四軍万全の装備をもって調査へ行こうという次第。そろそろ準備も整い、出発となるところである。
リアッサにシャルリ、メルは各装備の最終点検を済ませたところという話。
「あ、そうそう、それはともかくネメアさんに大事な話があるのでした……」
『ン? ネメアニ? ナンダ大見、フリントイウ奴カ? ナカナカヤルナ。ミサトニ言ッテヤロ』
「ははは、何を言ってるんですかシエさん、もうその手には乗りませんよ」
片手を振ってシエのジョークをあしらうと、
「ネメアさん、先程連絡があったのですが……おめでとうございます、ティエルクマスカ連合本部からの通達で、ゼスタール合議体と、ティ連との『相互理解宣言』が連合議会で採択されたようです。あなた方と正式に講和がなりました」
『! そうか。我々合議体全体にまだ通達がなされていないという事は……』
「ええ、今さっきの至急電でとどいた話です。それとさらなる朗報ですが……」
そういうと大身は少しもったいぶらせて、
「ゼスタールが、連合加盟準備国扱いになったそうです。はは、これで我々も同胞になりますね、ネメアさん」
『!!』
ネメアのすました表情が変わる。少し明るくなった感じがしたのは気のせいか?
『ホントウカ? オオミ!』
「え? ゼスさんが連合に加盟するのか? そりゃすごいな!」
シエと多川もこの情報には驚く。その交渉をしていたのは知っていたが、かなり順当に話が進んだのだなと。
すると、ネメアもおすまし顔ながら少し表情を和らげて、
『極めて高い評価ができる状況だ。では……お前達が「ハイクァーン」と呼称する造成機器の譲渡も……』
「ええ、連合加盟準備国にはハイクァーン原器が供与されますので、恐らく間もない内に。それと、連合本部のどなたかと、柏木長官閣下様に、ヤルバーン州のどなたか、それと日本政府のどなかたか……恐らくフェルフェリア大臣かになろうと思うのですが、ゼスタール合議体さんの本拠地、「ナーシャ・エンデ」ですか? そちらへの招待もされているという話なので、そこでゼスタールさんの加盟準備条約締結と、ハイクァーン原器の受け渡しが行われると思いますよ」
その話を聞き、ウンウンと頷くネメア。そして回れ右してドーラの方へ……右腕が顔を擦っているようにも見える……最低限しかない情緒が噴き出してきたのか……
「あ、ネメアさんそれと……」
ネメアの後を追おうとする大見の肩をつかむ多川。
「大見、女心を察してやれよ、な」
「え? あ、そうなのですか。はは、いやそれは失敬」
微笑んでネメアの後ろ姿を見るシエに多川、大見。
「ま、何にしてもこれからの作戦の前に、幸先いい話だぜ」
『マッタクダ。コノ情報ハ、スグニデモ皆ニ知ラセイタホウガイイ。士気モ高マル。今後ノ連携ヲ考エルノデアレバ、最高ノ情報ダナ』
そう多川とシエが言うと、大見も頷いて、
「そうですね。では落ち着いたら作戦室の方へお願いします。リアッサ一佐にシャルリ大佐、メル団長さんにも話してきますよ」
それがいいということで、大見はそちらへ歩いていった。特危陸上科司令様も忙しい話だ。
シエに多川はネメアの側へ。肩を叩いて何か会話をしている。
……地球社会にもたらされたゼスタールの基礎技術。そしてゼスタールの連合加盟への道筋が見えた状況。
これがヂラールという新たな脅威に対する準備と見るのなら、その脅威自体がこういう状況を創り出したとも言えるのだろう……
危機は進歩を誘うものである。言い換えてみれば、こういう進歩は予想された危機を生む可能性も、極めて大なのである。
ただ、それが齟齬を埋める結果になり、新たな同志に仲間に味方を繋げるものであるのなら、それも悪い話ではない。
そう、それが『連合ゼスタール』の誕生であった……




