【第二章・ゼスタール】 第一三話 『向かうところ』
人が何かを知ろうとする時。何でもいい、好きな人の事でもいいし、好きなアニメや映画の事でもいい。歴史上の人物の事でもいいし、憧れの国の事でもいい。
何にせよ、そういったものに興味を持った時。まずは経緯を知ろうと思うのが常道である。それを知らなければ、今見る結果に納得することができない。「なるほどそうだったのか」と、道理を理解して、結果を納得する。それはそういうものだ。
『この芸能人が好きだ!』とか、『このIT機器がたまらん!』と思い、熱中し、執着する。すればするほど、やはりそれがそこに至る経緯を知ろうという欲求が湧く。
おおよそ世のマニアやフリークと呼ばれる人々は、結局その『経緯』をよく知っていること。そして他の人が知らないようなレアな情報を持っていること。そこが自慢なのである。
だが……よくよく考えれば、それを知っていたところで対象の本質的な価値は変化などしないのに、知っていれば何か値打ちが上がるような感覚、物事が大きく変化する感覚、というか錯覚を覚えるところも、これはこれで面白いところである。
さて、今、瀬戸智子率いるゼスタール調査団は、ついこの間まで、正体不明の絶対的な敵性体とティ連から認識されていたガーグデーラ改め『ゼスタール』の基地へ赴き、彼らの協力も得ながらの調査活動を行っていた。所謂『柏木レポートの検証』である。
結局何故に彼らがティ連の『敵』になってしまっていたか? それは結局のところ……
【意志の齟齬】
以外の何者でもなかったのだ。
よく『誤解から発生する敵対』という言葉を耳にするが、此度の場合、『誤解から』というわけでもない。
根本的なものからして『違った』ために、ずっと、百数十年もの間、敵同士として対峙していたのであった。
調査団が調べていくうちにわかった事が、まず当初、彼らがずっとティ連の宇宙船舶を観察しているような行動に見えたのは、やはり彼らなりにコンタクトを図ろうとしていたからであったそうな。
だが、彼らも量子通信技術を持ってはいるが、根本的な規格に性能が違うために意思の疎通などできるはずもなく、おまけにゼスタール側が通信での意志の疎通をはかれない理由を調べることもなく、彼らの行動原理に基づく強烈な『直接接触』を図ったために、こんな風になってしまったという感じなのである。
はっきりいってやってる事が意識してるしていないに関わらず、また、事の次第の程度というものにかかわらず、ヤルバーンが地球世界へヴァルメをばら撒き散らした状況とまるっきり同じだったのである。
これををシビアの尋問で聞いた柏木長官閣下はこう思ったそうな。
(あんたら、ちったぁ考えろよ……)
地球とヤルバーンの場合、地球側がヤルバーンの放つヴァルメに対して対抗措置をもっていなかったのが今思えば幸いだったのかもしれない。
いかんせんティ連は彼らの放つ『ドーラ』に対して対抗措置を持っていた。
ゼスタールのような、『肉体の死など別に何とも思わない』と思っているような種族が、その独善的主観で『調査活動』なんてすりゃ、そりゃティ連は反撃するに決まっている。しかもゼスタールのそれらに十分対抗できる手段があるのだ。
で、次に当然思うのは、ゼスタール側で、そんな『反撃』を彼らは『妨害行為』と受け取る……
もう救いようのない負の連鎖に陥って当然である。どうしようもない……
そこで登場するのはナヨ閣下だ……結局、結果論だが、ゼスタールと存在性が非常に近い彼女がいたからこそ、シビアを捕獲することが出来、そしてシビアのスールと呼ばれる意識とコンタクトが可能になり、ゼスタールの本質を垣間見ることができた。逆にシビアもティ連人や、日本人、しいては地球人のようなヒューマノイド型知的生命体の本質を認識知ることができた。
で、ナヨ閣下がいなかったらという話になれば、ナヨ閣下の意思をこの世に再誕させたのは誰かといえば、天下の突撃バカであるわけで……結局は『そうなる因果』なのであったりするのである。やはりイゼイラ人やティ連人の死生観は、ある意味正しいのかもしれなかったり……
まあだけど、もうそれを悔やんだところで仕方ないところもあるわけで、とにもかくにもゼスタール人というティ連人からみても、そら稀に見る妙ちくりんな種族であるために、ティ連や日本政府にヤルバーン州と、今後の協議を何がしら行うにしても、相手が何者かを知らないと、どうにもならんわけであるからして、瀬戸智子にメイラ、月丘達は、とにもかくにもゼスタール人という存在をいろんな角度から調査する事を各方面から指示されている。当然、彼らが語った『スール』というモノが何かというのは、彼らの言葉を信じるなら、現在はもう解決されている、昔日本が抱えていたややこしい問題ではないが、『拉致された被害者の引き渡し要求』にも近いものなので、重要なところだ。即ち、この『ゼスタール調査団』の調査結果如何が、日本、ヤル州、ティ連の今後における対応方針の資料となり、またそれが決定される事となるのだ。
……だが……
事はそうそう簡単なものではなかったのである。そう、智子達日本人はともかく、ティ連人達の看過できない状況が、いまこの時発生してしまった……
さて、その状況とは――――
* *
『こ、コレはまさか、トーラルシステムなのですか!?』
ゼスタール人が建設中の、ゼスタール母艦を利用した、コードネーム『月面ガーグデーラ基地』に派遣された『ゼスタール調査団』。
かつては『ガーグデーラ』と呼ばれ、ティ連視点で一〇〇年単位で謎の敵とされたその組織における実態が徐々に判明しつつあった。
ゼスタール人『シビア・ルーラ』“達”も意外なほど智子達に協力的で、これが柏木やシャルリ、リアッサにシエ、多川達が死闘を演じてきた敵性体だったのかと甚だ首を傾げたくなる状況になっているのだが、この月面で、今、そこで基地建設作業に従事している『ドーラ』達を見ると、やはりそうなのだと納得せざるを得ないわけである。
そんなところで、彼ら調査団は、ゼスタールの真実を知るために、彼らが用意した、シビア・ルーラの記憶を記録としてホログラフ映像化したものを、専用の施設で観せられていた……
そこは八〇〇年前後昔のゼスタール本星なのだろうか? よくわからないが、そこで起こっていたのは、当時のゼスタールにとって圧倒的な未知の者からの攻撃か?
生物兵器によって、惑星規模のパンデミックを起こし、種族の危機的状態に陥っている状況の、まだ肉体をもっていた頃のゼスタール人。その絶望的な奮闘の物語であった……
シビアの記憶の記録と、それに付帯した同時間軸の各種記録映像を調査団に見せる、このゼスタール艦隊の総指揮官的合議体『ゲルナー・バント司令』は、彼が見せたある物体のホログラフ映像に対して、調査団、特にティ連人側の驚きように少し不思議そうな顔をする。特にアウアウ状態になっているプリルらティ連人の皆にゲルナーは訝しい表情を無意識に調査団へ見せて……
『プリ子生体、セルカッツ生体。そしてナヨ・カルバレータ。お前達は、この「レ・ゼスタ」を知っているのか?』
ゲルナーにも『プリ子』呼ばわりされるプリル。もうゼスタール合議体全体に『プリ子』で行き渡ったようである……というか、それはさておいて、
『ゲルナー司令。それに答える前に、主らはこれをどこで入手したのですか?』
『回答。入手という言葉は適当ではない。我々はこのレ・ゼスタシステムを当時から約……』
ゲルナーが語るには、彼らの名称で言うこのレ・ゼスタシステムは、この映像の事件から更に遡ること地球時間で一〇〇年ほど前に、彼らの母星のとある場所で発掘された遺跡物という話だそうな。そんな昔の話ではないという。
『我々はレ・ゼスタの発掘と、その解析を行う過程で、このレ・ゼスタが、我々の世界における何らかの先史文明が残した遺産ではないかという結論に達した。そして、このシステムが持つ、元素変換機能によって、我々はあらゆる物質の合成が可能になり、資源の枯渇という我が世界で今後予想されていた国家的懸念を完全に払拭することに成功した。更にこのシステムは高度な解析機能と計算機能をも持つ自律システムであることも解析できていた』
『その通りですゲルナー司令』
『? 疑問。ナヨ・カルバレータ、なぜお前が我々の世界における遺跡発掘物の効用に賛同する? お前たちはこのレ・ゼスタを知っているのか?』
コクコクと頷くナヨ。すると彼女は目をスっと瞑ると、自らの眼前に、立体映像を展開する。ゼル映像である。
『……こ、これは!?』
常にシステム的で無機質な態度のゼスタール人、ゲルナーが、驚いたような表情で、そのゼル映像を見る。
『妾達の言葉で、トーラルシステムと呼ばれているものです』
『トーラル……これはレ・ゼスタシステムの完成形……』
ひと目見て、これがレ・ゼスタの完成形であると見抜くゲルナーも大したものである。
そう、彼らの言うレ・ゼスタシステムと、ティ連世界のトーラルシステムは、同種の物だったのだ。
だがナヨが疑問に思うのは、彼らのレ・ゼスタシステム、いや、トーラルシステムが、もうかなり改造され、半分は原型を留めていない事であった。ナヨはその点を何故かと質問する。そりゃそうだ。イゼイラ世界を中世時代から一気に超未来種族に変貌させるほどの完璧なテクノロジーを持つトーラルを、なんでわざわざそれより未熟な科学技術で改造っぽいことをやっているのかと。
ティ連人なら、その正気の沙汰でない行為に疑問を持って当たり前であるが、その疑問もすぐに回答が出る事となる。
『我々のレ・ゼスタシステムはかなりの損傷を負い、機能不全を起こしていた。発掘当初は完全な遺物で、停止状態だったが、当時の我々の科学者達は、レ・ゼスタの機能を解析し、再起動する事に成功した。その後、解析作業は相応、かつ順調に進んでいたが、当時の我々の科学力では解析が到底不可能な箇所も数多くあった。だが、我々の科学力と、レ・ゼスタの能力をうまく融合させながらこのように現在まで使用している』
なんと、ゼスタール人は、破損した不完全なトーラルシステムを独自の科学力で補完し、使用してきたというのである。ということは、トーラルを発見する以前のゼスタール文明も、相当な科学力を持った文明。つまり、独自の科学を発達させた文明で、かつ不完全ながらもトーラルの発見で、さらにその一〇〇年間で飛躍的に彼らの科学技術を更に発展させた種族であるという事になる。
「なるほど……もともとある程度科学技術を発展させた種族だったのがゼスタール人だったということか」
月丘はゲルナーの話を聞いて、柏木達関係者から色々聞いたガーグデーラの科学体系をなんとなく想像することができた。
『ツマリ、ニホンや、ハルマ世界のような発達過程文明が、きちんと科学力を発展させた状態で、不完全なトーラルと遭遇したという事ですねっ!』
プリルもなんとなくワクワクしながらゲルナーの話を聞く。
「ふーむ、となると、イゼイラみたいな、中世のような時代でトーラルと遭遇した文明がありーの、サルカスみたいな、産業革命以前の文明が、ティ連文明、即ち一種のトーラル文明と接触した世界がありーの、で、地球やニホンのような私達基準の現代世界とティ連文明が接触した世界があって、今回はゼスタールさんのような、地球人基準で言えば、真っ当な未来社会の世界が、トーラルと、一部ながら接触した世界ができたと……これは面白いパターンですよ、プリちゃん」
『あ、ホントだ……でも、それを言ったら、ケラー・セルカッツんとこのサマルカ人も、そんな感じですよ。彼女たちも独自の技術体系を持っていますカラ……うーむ、この文明レベルの差と、トーラルが出会った場合の文明進化パターンを研究したら面白いかもしれませんねっ』
などと、そんな話をする月丘にプリル。
「そうだね、ただ一つ問題がある」
『問題? それはなんですか? カズキサン』
「もし、普通に彼らがそのまま不完全ながらでもトーラルシステムを解析しながら進化をしていれば、それは素晴らしい文明になっている事だろうとは思うが……」
すると、月丘の話を横で聞いていたダリルが、
「結局このホロ映像ということですか?」
ダリルもティ連文明の歴史がトーラルシステムによって成り立っていることぐらいはもう知っている。というか、インターネットで現在のヤルバーンやティ連のホームページでも見れば、沿革ページで普通に書いているからだ。
『この先ヲ見ろという事ですね、結局のところは』
とセルカッツもダリルの意見に同意する。
皆の言葉にナヨも頷くと、
『デハ、ゲルナー司令。ホロ映像の続きをお願いできますか?』
『了解した』
* *
静止させたホロ映像を再び観る諸氏。
次に映るは、遠目で見た俯瞰の立体映像だ。近づくと人が人形程の大きさでチョコマカと動いている。
どうも見た感じ何かの研究室のようである。きれいな褐色肌で、白い髪に白い眉、そして少し尖った耳のゼスタール人。恐らく科学者だろうか、そんな風体の男女が複数いったり来たりしていた。
透過物体。ここはガラスとあえて表現したほうが良いか、かなり分厚いそれの向こうには、ロボットアームがびっしり備え付けられたオペ室のような場所が見えた。
そこにまるで特危自衛隊のL型コマンドローダーのようなものを着用した一団が入室してくる。
そして共に連れて来られたのは……なんと、シビアであった。
「あれは……シビアさん?」
と月丘が呟く。
シビアには地球でも普通に見られる医療器具。酸素マスクを付けられ、体中に医薬品を投与する機材が貼り付けられている。流石地球より科学が進んだ種族だけに、その機器もシンプルだ。
『一体何をする気なのでしょうね』
と、プリルも怪訝そうに話すと、ホロ映像に映る医師か研究員かの言葉に聞き耳を立てる。
『ウィルスの拡散を阻止できなくなるのも時間の問題だ』
『ああ、宇宙に出た同胞に政府は帰還するなという命令を出したようだ』
『宇宙基地の研究員や惑星開発技術者達に後を託すしかないのか……』
『だが、それも長くは続くまい。生命維持に必要な資材や糧食にも限界がある。どっちにしても絶望的だ……』
この話を聞いてダリルが、
「今の話で、彼らゼスターリアンの宇宙開発技術は、ティ連ほど高度ではなかったように見受けられますね」
セルカッツも、
『ソウですね。ケラー・ダリルの仰る通りでス。宇宙開発で、惑星移民や人工居住区を作るために必要なものの三大要素は、糧食の自給自足。長期的な資源の確保、そして安定的な生活を望めるような環境デス。ですが、この映像のゼスタール人には前者二つが欠けているようですね、ケラー・ダリル』
「ええ。そういう点では技術的にかなり地球よりも進んではいますが、その科学の系譜は我々に近似な文明であったのではと推察できます」
『確かに』
映像は続く……映像に映る研究者達の会話。
『……では、この少女が被験者第一号なのだな?』
『ああ、可哀想に親や兄弟もあのウィルスにやられたらしい』
首を横に振る研究者。だが、同情もここまでと彼らも自らの使命を果たそうとする。
何らかの実験の被験者にされようとしているシビア。被験者になった理由は、今のシビアには、親兄弟親類も全部死亡し、彼女自身も、このままでは息絶えるのも時間の問題なので、ならば……という理由。
これをヒドイというなかれ。映像のゼスタール人にとっては、そんな倫理的な選択肢など、ないような状態なのである。
『あの、レ・ゼスタシステムには、どうも物体の構造を、完璧にデータとして記録する機能があるみたいだ』
『ああ、それは知っている。そしてあの物体生成装置も、本来は物体を「複製」する機能もついていたのかもしれないという話だったが?』
『その通り。だがあの遺跡研究者の妄想半分だ。それが本当かどうかは、今になってはわからんどな』
その会話を聞いてプリルが、
『やはりこのシステムは……』
と月丘の方を見る。彼もプリルの視線に頷いて、
「ここの科学者さんも、彼らの科学でここまで研究できている。ま、間違いないな。あれはトーラルだ」
月丘もディスカールで入院中の時に見た医療特化型トーラルシステムに、イゼイラでの諜報員研修時に習った、通常型トーラルシステムがどんなものか見たことがある。当然その絵は頭のなかにあった。即ちこの映像の研究員の言葉を聞いて、さっきのレ・ゼスタなるシステムの絵を見れば、月丘に限らず、ここにいるティ連関係者全員、そう思って然るべきなのである。
そのような予備知識が全員にあるわけで、映像の中の彼らがシビアを使って何をしようとしているのかというと……
『……よし、では生体変換保存作業開始』『変換作業開始します』
と映像の中の人はそんな言葉を放つ。その言葉に驚くは、ティ連人に地球人。ここでなぜ「地球人」かといえば、今ではナヨさんカミングアウトしてるので、かぐや姫のモデルであることは、広く世間に知られているからである。従って、ナヨが所謂一種の『データ生命体』という事はダリルでも知っているわけで、当然『生体変換保存作業』なんて言葉を聞けば、ティ連人の感覚では『脳ニューロンデータバンクにナヨのような人物のニューロンをコピーしてしまう作業』と理解してしまうわけで……
『なんと! ゼスタールは妾のような存在を作り出す研究をしていたというのですか!』
トーラルシステム一器分のパワーによって、ナヨのニューロンデータに自我と意思、即ち人格が芽生えたのは、もう関係者の知るところではあるが、実際の所、その原理がどうなっているのか? ということは、ティ連の科学でもよくわかっていない。
実際、ナヨと同じ環境を設定して、第三者のニューロンデータを使用し、ニューロンデータに人格が生まれるかどうかという実験はすでに行われていたが、結果は全て失敗に終わっている。
なので、ナヨがなぜに人格を持ったニューロンデータか。実のところよくわかっていないのだ。
だが、ゼスタール人は今、同じような実験をティ連より先駆けて行おうとしているではないか! ……と思ったのだが。ゲルナーはきっぱり『違う』と言った。
『ナヨ・カルバレータの存在原理は、我々も理解している。我々「スール」を基盤とした存在とは違うものであると理解もできている。我々合議体から見ても、彼女は特殊であり、可能であれば研究の対象としたい存在である』
そもそも、ゼスタールには、脳ニューロンを完全に複製して記録する技術などはないという話であるから、ナヨのような存在を作り出すことは不可能なのだという話。
今、彼らがシビアを実験体として行おうとしている『生体変換保存作業』なるもの。その内容を聞くと、
『我々は、レ・ゼスタシステムが物質の構成を変換させる機能を有している点に着目した。そこで我々は、自らの存在を量子的に変換し、保存出来ないかと考えた。当時のゼスタール科学者は、その理論をレ・ゼスタに計算させたところ、一二六七〇点の修正作業を行えば、可能という結果を得ることができた。そして我々は自らをいつの日か、母星の汚染が回復し、肉体を持った存在として再生できるように、レ・ゼスタへその機能の確立を行うようプログラムを行った。そして生き残った同胞全てを量子化して保存する最終決定を下した。その作業が正解かどうかを検証するための実験体として選ばれ、最初のスールとなったのが、彼女達……いや。彼女という個体、シビア・ルーラなのだ』
そう、シビアは過去のゼスタールにおいて偶然選ばれた最初の被験者にすぎなかったのであった。これも因果というものなのだろうか?
存在を量子化するという事……
ナヨのような脳のニューロンデータを完璧に複製して人格が芽生えるという手法、所謂『意識があれば、体はあとから作ればいい』という考え方。ナヨの今の存在はそんな感じだ。言ってみれば、ナヨがナヨ自身である処というのは、ナヨのニューロンデータが格納されているトーラルシステムである。
だが、ゼスタールの行った手法は、全く異なるもので……喩えるならば……
かの有名な、『ファイナル・フロンティア』のSF映画。あれに登場する転送システムは、物体を分子レベルで分解してバッファに蓄積し、遠方へ照射し再構築させるという、考えて見ればとんでもなくオソロシイ方法の転送法であるが、要はこの手法のバッファに溜め込むまでの状態を量子レベルでやってしまおうという方法なのである。
『ナ、なんと……これは……』
そんな方法よく思いついたと驚くナヨ。彼女も超一流の科学者だ。その原理は理解できる。
『そんな発想、今聞くまで、思いつきもしませんデシタ』
と、科学者のセルカッツも驚く。だが、自殺行為だと。
『デモ、背に腹はかえられなかったのでしょうネ。なのでそういう方法を……』
とプリル。技術者として、そんな選択をしなければならない当時のゼスタール人達の事、理解できなくはないと話す。
「だが、私達地球人もその話……なんともSF的に理解できてしまう。やはりあの作品は我が国が産んだSFの最高傑作と言わざるをえんな……なんとも皮肉な話だが」
「ええ、そうですねダリルさん。ゼスタールさんのやっていること、ホントまるでどこかの妄想家が考えたSF作品みたいだ」
「私もその作品知っていますけど、あれは何話だったですか、その弊害で人間が複製されてしまう弊害も起こるとか、そんなお話もありましたよね?」
と語るは、ダリルと月丘に智子。ってか、智子なかなかに通。
恐らく科学的な薀蓄云々を話せば、それは地球でも一流の学者級がいなければ理解不可能な内容なのではあろうが、概要だけで言えば、一番科学的に遅れている地球人に理解できてしまい、逆にティ連人にはその発想はないという……ここがティ連人のいう『発達過程文明』を経て来た者とそうでない者との差にならざるをえないのかと、そんな風に思ってしまう。
だが、月丘は一つ疑問に思うことがあり、ゲルナーに尋ねた。
「司令閣下。今、貴方は……確かゼスタール人を量子的に保存し、あなた方の母星の汚染状態が回復するまで、そうですね……一種の冬眠状態になって、レ・ゼスタシステムに惑星の環境改善を自律して行わせる、という感じの事を仰いましたね?」
『肯定』
「だが、今あなた方は私達が『ガーグデーラ』と呼称していた存在として、冬眠どころか、この宇宙で活発に活動していた……これはどういう事なのですか?」
『回答。この「生体変換保存作業」には、我々も予想だにしなかった結果に繋がってしまった』
「え? 予想だにしない……つまりイレギュラーですか?」
『肯定……その原因が何かはわからないが……』
そう、彼らは『生体変換』されて、『保存』された瞬間、彼らが今現在言う、『スール』つまり日本語で齟齬が若干あるが、一番近い意味の言葉で喩えるなら『魂』という存在になってしまったのだという。
無論、それが所謂、各宗教や、超自然現象の範疇で語られる『魂』であるか? なんてのは流石にゲルナーでもわからないという。
だが、問題なのはここである。ナヨのようなデータ生命体ではなく、スールという存在になったシビア。
計画では、肉体に精神もろとも一種の量子性の存在に変換され、レ・ゼスタシステム。即ちトーラルシステムにある種のエネルギー体として保存されるはずであったのだが……結果は……
『元の肉体と、精神性、人格が剥離されてしまった……肉体は死亡状態となり、自我のみが量子性物質となり、システムに安定保管されてしまったのだ。更に我々の計画と相違したのは、本来休眠状態で維持するはずであったスールが、システムの中で活発に精神活動を維持していたことである』
本来の計画とは違うが、結果的に『魂』のみの存在になるとしても、このまま種族が絶滅してしまうよりはマシだということで、ゼスタール政府は、ゼスタール語で『命の根源』を意味する言葉を冠した『スール計画』を発動させて、死にかけている患者を優先的に、所謂『スール化』させ、当時生き残ったゼスタールの民は全員『スール』となってしまったのであった。
スール化直前のゼスタール人口は、約二十億。パンデミックが始まる前は、四十五億いたというのであるから、そのナノマシンウィルスの脅威、如何程かというところであろう。
結果、この二十億の民をスール化できたわけだが、やはりレ・ゼスタと名を変えてはいるが、流石トーラルシステムといったところだろうか、本来なら四十億人分のスールをバッファする事ができるほどの能力を持っていたということが、後からわかったという話。確かにそんなエゲツないシステムは、トーラル以外には考えられないだろう。
まあそういう悲しい歴史を持った種族がシビア達ゼスタール人であったのだ……
……何となく鬱気分になりそうな諸氏であるが、これも、もう八〇〇年もの昔の話である。そこは感傷的になっても仕方がない。
皆頭の中身を仕事モードに切り替えるわけだが、それでも大いなる疑問がたくさん出てくるという次第なわけで、やはりそこを問わねばという話に当然なる。つまり、話の整合性を取って、疑問のカギを回して納得を得なければ、これから始まる彼らのとの交流に甚大な悪い影響を及ぼさないとも限らないからであるからして……
まずナヨが問うは、
『ゲルナー司令、主らが、現在のような形になった理由。この映像で実によくわかりました。感謝いたします』
コクと頷くゲルナー。
『ですが、少々の妾達の疑問に答えて頂きたいのですが、よろしいですか?』
『肯定。許可する。質問せよ』
『はい。では問いますが、あのホロ映像を見る限り、主らは極めて情緒もあり、豊かな感情をも持つ、我々と変わらぬ種族と感じとれますが、今の主らをみると、とてもではないが情緒のある者とは言い難く、機械的というか、システム的でありますね? そなたらは、それを自覚しておりますか?』
そう、あのホロ映像を見れば誰でもそう思う。恐らく彼らゼスタールのホロ映像資料の中には、時のゼスタール人達の日常的な営みをつづった資料などもあるのだろう。
そのナヨの質問に、ゲルナーは少し俯いた後、顔をあげると……
『回答。ナヨ・カルバレータの指摘は正しい。良い指摘である……お前の質問の理由、それは我々がスール化された時に全ての情緒的感覚が浄化されてしまったのだ……スール変換時の何らかの障害だろうか、情緒の感覚だけ、スール化された時に欠落していたのだ。だが、実際スール化してみると、情緒……即ち感情的衝動に基づく行動原理が、知的生命体における約八七パーセントの行動原理。即ち衝動性に基づく行動の根幹であることが理解できた。従ってこのままでは我々の今後における活動にも影響がでるだろうという推測がなされた。即ち所謂『衝動』で行動した場合の合理性を、行動後に設定し、結果を利益あるものするという行動を、スール化後の我々は極めて不得手とするものであった……そこで我々が導入したのが、『合議制』という行動原理と概念である。このような形で『存在』の維持を可能にした我々は、組織同士の合議を活発化させてイレギュラーな結果を導き出す事もできるようになった。即ち、その方法が正しいかどうかは理解できないが、この手法で豊富な合議的結論による行動を生み出すことができた。その結果がお前達の言う、「ガーグデーラ」即ち。我々であると理解せよ』
やはり欠損品を魔改造したシステムを使うことは無理があったのだろうか、実際現在のスール状態は、彼らの目指すものから見れば、失敗状態なのだ。だがそれを成功といえる状態に転換せしめているのが、スール化後、彼らがその存在を維持するためになんとかしようと考えた、現在の合議制意識という方法であった……その話を聞いて呆ける諸氏。
ティ連人は、まずそんな方法で存在をなんとか維持しようと思う行為に驚愕し、地球人は、抗いようのなかった状況を維持するためにそこまでやった彼らの歴史に驚嘆する。
ただ一つ言えることは、この調査まで、正直ティ連全体でいえば、憎むべき相手であったガーグデーラに対して、ティ連人に地球人はむしろ敬意すら抱きつつあった。
月丘は、なるほど柏木がシビアを尋問し、彼女からから聞いた内容がココまでのものだという話なら、『直接行って調べてこい』という話もわかると思った。
次に問うはプリル。
『ではファーダ・ゲルナー。私の質問ですけど、とりあえずあなた方がスール化した後、あなた方の本星になる星は無人化してしまったわけですよねっ?』
『肯定』
『では、今は誰もいない星なのですか? あなた方の母星は』
『肯定。残念ではあるが、その生物兵器に対する処置は、スール化後、我々の技術研究系合議体によって対応策は完成されたが、惑星規模に蔓延したそれを絶滅させるまでには至っておらず、また、その生物兵器による攻撃行為が断続的に行われてきており、我々は母星を放棄した』
『えっ?』
彼らは、基本的に、もうスール化してしまって、種族としては全く変貌した存在となったしまったわけなので、母星に存在するという事にあまり意味を見いだせなくなってしまったのである。
彼らの母星というか、その拠り所は、現在二〇億の民の自我が或る、レ・ゼスタシステムそのものであり……
『……我々は母星を離れ、誰からも干渉されることのない世界へ、我々の身を置いた。そこが「ナーシャ・エンデ」。今の我々の在る所、調べるにお前達が「次元溝」と呼ぶ空間領域である』
『ち、ちょっ、ちょっとまってくださいっ! 今、サラっと流しましたけど、大事なことを二つおっしゃいましたよっ!、ね、ね、カズキサン?』
「あ、ああ……今のあなた方が『次元溝』、即ちそれまでティ連でも探知が難しかった空間を拠点にしていることと、そこへ……こういう言い方も失礼ですが、『退避した』ように母星を離れた。すなわち、事の原因となった、その第三勢力の攻撃が継続中である事がわかった。そして、対抗できなかった……と聞こえるのですが……」
『……』とゲルナーは少し考えた後、『肯定する』と答える。
情緒の感覚が無くなってしまった彼らでも、認めがたい何かの感情の残滓があるのだろうか、そこは少し答えづらかったようである。
この回答で、次元溝の謎はある程度解けた。
彼らはレ・ゼスタシステムの計算能力を利用した研究結果を利用し、独自の空間跳躍技術の延長で、ティ連が使用する亜空間域とは違う次元空間に移動する術を持っていたという事がわかった。どうもゼスタール人は、当初のティ連防衛総省の予測通り、この次元空間移動能力に関しては、一部ティ連より優秀な科学技術の蓄積があるようだ。
で、何と今後の協議次第では、彼らの本拠がある空間座標を教えてくれるという話。
確かにこれは今すぐには教えてはくれないだろう。なぜなら彼らが、言ってみれば『逃げ込んだ』場所なのである。所謂『秘密基地』とも言えるところであって、流石ここまで意外に物分りの良いゼスタールさんでも、昨日までスッタモンダやってたティ連や日本にその場所をホイホイ教えてはくれまい。
で、プリルはゲルナーの話を聞いて(そこ大事なとこですよぉ~)と心のなかで呟くが、こういうところも彼らとの感覚的にズレがあるのだろうか、普通なら『私たちは悪魔のような第三者の攻撃をうけたのだぁ~~!』という山場の部分をサラっと流して説明する……やっぱりなんかこの方々と話しているとカンが狂う。
智子も勿論そう思うわけで、
「ゲルナー閣下。ではあなた方はその、ゼスタールを攻撃してきた敵勢力が何かを認識しているのでしょうか?」
『回答、否定。彼らとはそのような経緯もあり、八〇〇年余交戦状態にあるが、その正体は不明である』
「え? 交戦? 交戦しているのですか!」
『肯定。我々も、お前達の言葉で言う、「ゆびをくわえてみていた」という喩えのあるとおり、状況を静観していたわけではない。我々が所有する「カルバレータ兵器」即ち「タイジン・ドーラ」「タイカン・ドーラ」そして、お前達の所有する「キョクリュウ」と呼ばれる機動兵器に本来対抗するため製造された「ギムス・カルバレータ」も、本来はその敵性体に対抗するため、我々が開発したものである』
ちなみにゲルナー司令が仰るには、ティ連の「対人ドーラ」「対艦ドーラ」という呼び方は、今後お互いの共通呼称として採用すると合議したそうである。
こういうところは妙に対応の柔軟性がある彼ら。やっぱりカンが狂う……
で、最後の『ギムス・カルバレータ』とは、柏木が数年前にティ連本部で見た、あの巨大な人型、というか、モンスターエイリアン形状型のドーラ兵器だった。
「この人型機動兵器は、以前柏木長官の報告書で読みましたね、プリちゃん」
『ハイ、この兵器を鹵獲したのは、私達ディスカール軍ですからね。私もカズキサンと知り合う以前に、資料で見たことはありますよ』
で、最後にセルカッツが問うは、
『では、私からは二つ質問を……』
頷くゲルナー。
『あなた方が「調査」と主張する、我々ティエルクマスカとの交戦ですが、私達の視点ですと、あなた方は常に我々の所有するハイクァーンシステムを強奪する行動をとっています。それは何故ですか?」
『回答。お前達は我々より優れた元素生成変換器を所有している。従ってそれを調査するためだ』
『ち、調査……は、ハァ、そ、そうですか……』
結局『調査』である。『強奪する』とは言わない……こればっかりはそこを問うても今更水掛け論になるだけなので、かっちーもスルーしてやることにした。
『わ、わかりました。まあソレハいいです、ハイ……で、あなた方はそれを入手して、何に使うつもりだったのですか?』
この質問にゲルナーは少し目尻を鋭くさせる。
その挙動を見逃さない月丘。なるほど、これが事の本質かと感じる……
『……回答。お前達の物質生成変換装置は我々の所有するものよりもはるかに優秀である。従って、我々はお前達の装置を入手し、解析して……我々が失った「肉体」を再生させる計画であった』
『およ!?』という顔をするセルカッツ。ナヨも『へ?』という顔でセルカッツと視線を合わせる。なぜだろう?
「え? に、肉体を……ですか!?」
思わず話に割り込んでしまう月丘。ゲルナーは月丘の方を見て、『肯定』と再度頷く。
キリスト教徒のダリルも、それまで黙して聞いていたが、流石に好奇心には逆らえず、
「肉体の再生って……今までの話を聞けば、彼らゼスターリアンは、人工的に精神だけを取り出す事に成功した……それだけでもすごいのに、その精神をまた肉体に戻したいなんて、そんな……」
話だけ聞けばその行為、確かにまるっきり一神教教義にある『最後の審判』である。
『最後の審判』の日、一神教信者は、死した後の魂を肉体に戻されて復活し、主から審判を受ける。
ま、有名なアレであるが、当然キリシタンのダリルには、それを想像させるわけである。
そんなダリルの想像することが多少なりとも理解できる月丘であるからして、そこは失礼ながら少々苦笑いしてしまうのだが、月丘が疑問に思うのはそこではなかった。
恐らくゼスタールには、ティ連程のクローン再生技術がなかったのだろう。これまでの話を聞くに、確かにゼスタール人も相当な科学技術を保有してはいるが、やはりティ連ほどではない。先の生物攻撃の件にしても、多分ティ連であれば、即対応可能な状況なのだろうが、彼らには医学的に対応できなかった。どうにも医学分野では、ティ連ほどのものは持っていないのだろう。従って彼らがヒトガタなどを使って『調査』で内偵したティ連科学の産物、ハイクァーンを欲しがったのだと想像できた。
少し考える顔をして。口を細め、再度ナヨと視線を合わせるセルカッツ。ウンウンと互いに頷いて、お互い思うことを確認し合う。
そう、まず安心したのは、彼らがハイクァーンを狙う理由が、当初ティ連が懸念していた『仮想生命兵器』の技術に転用しようとしていたわけではないという点。この点をとりあえず払拭できたのは幸いであった。実際彼らはそんなものに利用しようとしていた節はないようである。
そして、この件を今後の協議の題材、即ちカードに使えるなと思う点。それ故に彼らがなぜに肉体を欲するかという点も当然重要になるわけで……
『ファーダ・ゲルナー。なぜ、あなた方は肉体を欲するのですカ? あ、いえ、スールという存在になったあなた方ですから、誤解ガあれば謝罪しますが……その~……今の状態でも特に不自由は無いのではとも思うのですが……』
『セルカッツ生体に回答。その考え方は誤りである』
『ふむ、お聞かせ頂けますカ?』
『我々は、現段階のスール状態では、これ以上の種を増やす事ができない……』
『あ……』と思うかっちー。他諸氏も同じく。
そう、これまた認識の齟齬である。『あーそうか!』と思う皆の衆。
そう、彼らはスール存在になっているわけなので、種を増やすことができないのである。更に言えば、減ってもいないらしい。つまり、二十億の民をスール化して、同じ人物がずーーっと、八〇〇年近くもいるわけで……なんというか、喩えは悪いが、この二十億の民全員が、八〇〇歳のジジイにババアばっかりなのである。確かにこれはつらい。種を思う存在からすれば、無機的な感性のゼスタール人でも将来を悲観するだろう。
即ちこれが、彼らが言っていた……
【意思と現実を提供せよ。さすれば、永遠の存在を供与する】
この意味なのだろうとそう思う諸氏。なるほど確かに『意思と現実』を欲しがっているわけである。
そのかわりに、『スール化の方法を教えてやる』か、もしくは『スール化して安寧に暮らせるよ』」という条件を提示していたのだろう。
だが、まあ……ここまで感覚に齟齬があれば、この言葉も相当不気味に聞こえるのは当たり前の話だ。
シビアからそれを聞かされた柏木は多分またこう思ったに違いない。
(やっぱちったぁ考えろよ……)
でも、これを聞いて一気に彼らへ対し同情方向へ感覚が転身するみなさん。そういう事かと……
で、ナヨさんにかっちー。さらに互い視線を併せて、ウンウンと大きく頷きあっている。
何を考えてるんかと……
で、セルカッツ最後の質問。
『では、最後に……あなた方をここまでにしたその敵性存在の記録か何かを見せて頂くことはできませんか?』
しばし考えるゲルナー。
『回答。我々は、我々と戦争状態にある敵生体情報をお前達へ開示する事に積極的ではない』
『? それハなぜですか?』
『お前達には関連性のない案件であるからだ。その敵生体を公開した場合の、今後我々とお前達との協議の場で、それが弊害になることを我々は懸念している』
要するに、関係ないことに首突っ込まないほうが良いと気を使ってくれているのである。
実はコイツら本質的には話のわかる連中なんじゃないかと思う諸氏。そこでティ連外務部長の智子が、
「ゲルナー閣下、お気遣いありがとうございます。ですが、我々も色々と情報を求めております故、確かにティ連各国や、日本国に地球世界と直接関係はないのかもしれませんが、我々としても所謂『調査』でもありまして、あなた方の置かれている状況の詳細もお教えいただければ幸いなのでございますが」
そこまで言われたら、ゲルナー達としても情報を提供しないわけにはいかないわけで、彼らとしても別段教えてマズイものでもないので、
『了承した。では……』
再度シビアのコアを使ってホログラフ映像を立ち上げるゲルナー。
そこに映し出されるゼスタール人にとっての『敵』を垣間見る……
* *
さて、場所は変わって、麗子達のいる面会室。
こちらはこちらで、元ブンデス社副社長リヒャルト・アイスナーへの尋問、というわけではないが、色々と彼から客観的なゼスタールのなにがしかを聞き出すことが出来た。
『正直、このシステム内、先程お教えしたレ・ゼスタの中の居心地は、はっきり言って良いです。最高といってもいい。腰や頭が痛くなるわけでもないし、病気に悩まされることもない。もし可能なら、ハンナもこのスールという存在になってもらって、こちらで一緒に生活したいぐらいです』
と、スール化されたゼスタール人以外の知的生命体として、率直な感想を話すリヒャルト。
なんでも、こちらの会話でも、レ・ゼスタシステムの話はもう出てきたという事。リヒャルトが説明してくれたようだ。当然それが魔改造版トーラルシステムとすぐに見抜くはメイラ少佐。彼女もほとほと驚くが、まだ智子達が聞いた情報までは知らない。
『ですが……やはりできるものなら、元の生活にもどりたいのも本当のところです。やはりここでの生活を長く続けるのは、正直あまりよくないような気がする。それはなぜかと問われると、どうにも答えようがないのですが、そんな感じがします。まあ何かこの存在が人類にとって有害かどうかとか、そういうものではないのですがね」
リヒャルトの話を聞く麗子。頷いて何やら考える目をする。側で聞くメイラも同じく。
クロードも柄になく真剣に聞いていた。
リヒャルトの話では、現在スール化されてしまっている地球人やティ連人の中には、このままの状態でもういいという人もいるようで、スール化されたことに否定的な人物というのがあまりいないのが実情である。それはあきらめの感覚もあれば、現状が快適であるという事もあり、色々複雑なところもあるようだ。
『なるほど、わかりました。では、もう一つお伺いしてよろしいですか? ケラー』
ゼスタール様式で洒落たデザインの面会室。彼らの食べ物だろうか、甘い菓子に飲み物も用意されている。勿論PVMCGでスキャンした。有毒ではない。
『……ケラー・シビアや、ファーダ・ゲルナーのようなゼスタール人のスールの方は、あのような、言ってみればシステム的な言動をする存在なのに、貴方は普通のハルマ人のままですが、この点何かおわかりになりませんか?』
『? 話が見えませんが……一体何のことですか?』
どうもゼスタール人は、ゲルナーが語ったような内容までのことを、リヒャルト達ゼスタール人以外のスールには話していないようだ。
『あ、なるほどそういうことか……ケラー、申し訳ありません。今の質問はなかったことにしてくださイ』
『? は、はあ……』
メイラ達は、事前に柏木のレポートを読んでいるので、元々シビア達が普通のヒューマノイド型知的生命体だという概要は知っている。その概要を検証するために今、智子達はゲルナーと話しているワケなので、メイラはこのリヒャルトの証言とも併せて検証する必要があると思う。
「で、ミスター。シビアさんは先程今後のことを話し合ってくれと仰っていましたけど、実際の所どうなさいますの?」
と麗子が問う。
『はい……』とリヒャルトはしばし考えたあと『実は、こちらにもう少しいようと思っています』
そうリヒャルトが答えると、「えっ!」という家族の顔、だが、、彼の妻ハンナは冷静だった。
『いや、ハンナ、カール、アマリア。驚かせてすまない。いつかは郷へ帰りたい。そうゼスタール人には言っている。だが、色々現実的な問題もあってな』
そりゃアタリマエである。葬式まであげた人間がホイホイと「実は生きてました」といって戻ったらえらいことである。特に一神教宗教国家ならどうなるか。さすがにこれはちょっとマズイ。いや、地球の各国政府としても対応に大わらわなのは目に見えている。
家族にはそういうところも説明するが、それだけではないという話で、ブンデス社事件の事後処理の事もあるだろうし、恐らく今の自分が何者かわかれば、母国ドイツ政府だけではなく、世界各国が自分に目を向けて、家族にも悪い影響が出かねないのではと、そんなところを話す。そして、
『……実は、ゼスタール人から、我々地球人や他のスール化された知的生命体へ、できればこのままスールとしてとどまってもらえないかと、そういう要請もうけているんだ』
「え?」と思う家族。何でも彼らは教えてほしいことが多々あるということで、色々請われている事があるらしい……
何やら相談しているリヒャルト一家。
と、しばしそんな話をしていると、ナヨに智子達一行がこの部屋へやってきた。シビアも仮想素体を纒って元の姿に戻り、ゲルナーも同行してきていた。
どうやら向こう側での会談と、調査が終わったようだ。だが……何か皆して深刻そうな表情をしている。
麗子にメイラ、クロードはすぐにそのただならぬ雰囲気を感じ取る。
「智子さん、ご苦労様ですわ。いかがでしたか? 調査の方は」
「はい。彼らゼスタール人がなぜにティ連やこの地球でのブンデス社事件のような活動を行っていたか、そして柏木長官のレポートに書かれていた詳細を検証することができたのですが……」
「何か問題が?」
「あ、いえ……ゲルナー閣下から今回の調査以外にも色々とご好意でゼスタールの某をお聞かせいただいていると、柏木長官のレポートにも書かれていない話が色々と出てきまして」
「それはそうでございましょ? そういうものですよ。で、察するに何やらイレギュラーが発生したとお見受け致しますが?」
『そうネ、トモコ。あなたがそういう顔をする時は、「どうしようモード」に入ったときだもの。何かあったの?』
親友であるメイラも智子の挙動ですぐにわかる。勿論智子も隠し立てする気なんざサラサラないわけで、その点も相談しに、ここに赴いたという次第。
と、そんな感じで話していると、シビアが話に割り込んで、
『リヒャルト・カルバレータ。ハンナ生体。今後の方針は決めたか? もしチキュウへの帰還を望むのであれば、そのカウサはお前に提供する。活用すれば良い』
『いえ、ミス・シビア。ゲルナー閣下。私はまだ少し、このままでいようと思います。あなた方のお仲間からも請われていますし、私自身の好奇心からも、色々とあなた方のことを知りたい』
するとシビアも躊躇することなく、
『了解した。ではそのように処理する。だが、希望変更は随時受け付ける用意がある』
『ありがとうございます』
すると何を思ったか、リヒャルトの妻、ハンナが、
『ミス・シビア』
『何か、ハンナ生体』
『私も、できればそのスールというものにしていただけないでしょうか?』
その言葉に『はああああ?』となる智子達。だが、リヒャルトの息子娘は何か覚悟を決めているようだ。
「い、いや、ミスターに、ミセス? よ、よろしいので? 息子様に娘様は?」
と掌をピラピラ降って、オイオイと言う麗子。さしもの深刻表情も少し水をさされて、ちょっと脇において、智子も同じよな感じ。月丘にプリ子とクロードは三人で顔を見つめ合って首をかしげてたり。
すると、リヒャルトの息子カールに娘アマリアも納得したように、そうしてくれとシビアとゲルナーに頼む。
やはり妻は夫の側がいいらしい。今見ても軽くお互い抱き合っているリヒャルトとハンナ。
『ですが、そうなるとオクサマの肉体は、無くなってしまうのですよ?』
とちょっと待てと言うメイラ。だが、もう決めたという。
こういうところが西洋人の割り切りというか、度胸が座っているところでもある。それにもうお互い歳だし、好きにすれば良いのではという息子娘の意思もある。
で、やっぱり話が早いのがシビア。
『了解した。その希望を受け入れる。スール化した後の肉体は、空間凍結保存ができるがどうするか?』
まぁ元の肉体へまた戻れるか? とか、そういう問題はあるにせよ、結果的に言えば体は保存してもらえるそうなので、そうしてもらうという次第。そこはキリスト教徒であろうといったところか。
もしこのまま彼らゼスタールとティ連、ヤルバーン州、日本国にひいては国連等々との調整がうまく行けば、彼らも地球か、この月あたりに拠点を置くことが出来るだろうということなので、その時になればまた親子再会も普通にできるだろうと、ナヨは楽観的な感想を話す。まあ、ナヨが言えば説得力はある。
で、そんなハンナ奥様のご決断に水を刺された形の話の流れであるが、「それはそうと……」と智子が頭のモードをチェンジする。脇に置いておいた話を元に戻して……
『で、そうそう、どうしたの? 智子、さっきの感じ』
「あ、ええ、今から至急で地球に戻るわよ」
『は!? い、いや、こっちにせっかく来たのに、もっと施設見せてもらうとか、他にいろんな話をするとか』
「そんな話じゃなくなったのよ。ゼスタール人の方々から、ちょっとまずいお話を聞いちゃったから」
『?』
詳しいことは日本に帰ってからということで、向こうでゲルナーらと話していた内容の概要をメイラ達に伝える智子。
『え? ゼスタール人が敵対している勢力がいる? ティ連じゃなくって?』
「だから、ティ連はそういう経緯で、単に彼らの『調査対象』だったという事。まあティ連人さんは納得いかないところもあるでしょうけど」
メイラは頬をポリポリさせながら、
『ま、まあいいわ。で、ゼスタールさんが敵対している連中って何者?』
「見て驚かないでよ……月丘さん?」
「あ、はいはい」
とゲルナーが見せてくれたホロ映像の記録をメイラに見せる月丘。
途端に顔色が変わるリヒャルト担当の皆の衆。
「これって!」と麗子が叫ぶと、「ああ、俺も資料で見たぜ……有名なヤツじゃねーか……」とクロードも脂汗。そりゃ一時期は世間を大いに賑わせ、日本の時の軍事力がいかほどかを世間に知らしめた話題もあったものだ。
メイラも、
『まさか……こいつらが……』
と最大級の渋い顔。ティ連防衛総省でも懸念事項の一つでもあった事だ。
この件で、急遽シビアに同行して、ゲルナーも地球へ赴くことになった。
そう、ゼスタール人。所謂『ガーグデーラ』が敵対し、抗争中の相手とは……
【ヂラール】であった……




