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銀河連合日本 The Next Era  作者: 柗本保羽
本編
13/89

【第二章・ゼスタール】 第一二話 『未完成のもの』


 ヤルバーン州星間国際宇宙港には今、ヤルバーン州軍が運用協力してくれた輸送用デロニカが港に接岸している。中に乗せる人員を待つために待機中というところ。

 此度は行くところが行くところであるために、正確な出港時間なども決めていない。出港時間は準備万端整った時である。


 さて、この『ゼスタール調査団』と呼ばれている一団。この呼称は正式な呼び名ではない。正式な呼称は、


【連合日本国情報省及びヤルバーン州軍と、ティエルクマスカ連合防衛総省共同によるゼスタール関連情報収集のための共同調査団】


 というお役所的な名前がついている。勿論こんなクソ長い名前を普通に使っているわけではない。その後には必ず『所謂、ゼスタール調査団は……』という感じで略式呼称の付帯事項がつく。

 ということで、このゼスタール調査団。

 人員は、瀬戸智子を団長に、副団長としてメイラ・バウルーサ・ヴェマ。団員は、月丘和輝、プリル・リズ・シャー、ナヨ・ヘイル・カセリア。クロード・イザリ、白木麗子、ダリル・コナー、セルカッツ・1070……というメンバーだ。ここに此度は特別帯同者として、ブンデス・インダストリーの元副社長家族が付く。他、SIF(情報省特務部隊)のスタッフや、ヤルバーン州軍スタッフが何人か付く。ただ、このスタッフはこれから彼らが赴くゼスタール母艦の内部には入る事ができない。いかんせん軍人であるため、いらぬ誤解を招くのも何なので……ということであるのだが、絶対あっては欲しくない『万が一』の場合があった時、その時の為の要員である。なので、慎重を期してゼスタール母艦内部に入る現場調査団にはこういった正規の武装要員『集団』は同行させていない。というわけなので、月丘やクロードといったPMC関係者のような匿名の『現場に入れる戦闘経験者』は、この一団の中で重要なスタッフなのである。


 さて、こんな宇宙港の賑やかな風景とは真逆の地味な搭乗手続き開始アナウンスが、ロビーで待つ諸氏のPVMCGへ、メールという形で入る。


「ではみなさん。デロニカへの搭乗を開始してください」


 瀬戸智子が指示し、皆が搭乗手続きに入る。

 接岸しているデロニカの搭乗口。婦人ヤルバーン州軍兵士がCAに成り代わって搭乗を促している。

 まあ、この一団は観光目的でこれから月に行こうとしている訳ではないので、その搭乗手続きもこれまた地味なもんである。

 諸氏、PVMCGをデロニカスタッフに見せて身分確認とともに、常時追跡用ビーコンを登録される。これで何か事故に巻き込まれても、SIFやヤルバーン州軍に政府スタッフの方々が即時飛び出て対応できるという次第。

 輸送用デロニカは、その名の通り輸送用のデロニカなので、機体空間のほとんどを格納庫スペースで占める。従って人員が乗れる客席空間は、文字取り一〇〇人程度の座席しかない。

 窮屈ではないが、やはりその居住性は旅客仕様のデロニカに数段劣るのは否めない。


 というわけで、それでも宇宙港から月までの距離であれば、ティ連の宇宙旅行感覚で言えば、東京の山手線か大阪環状線感覚の距離である。そんな距離感なので、まあこの程度でとりあえずはいい。

 宇宙港を離れたデロニカは、そのまま月へ直行する……地球の人工衛星が行うようなスイングバイなどは行わず、港を離れれば、もう直行である。


 さて、今回の調査団諸氏、みんな宇宙空間は体験済みだ。地球人で言えば、月丘はディスカールの医療施設に瀕死の状態で入院していたことがあるし、麗子もこの一〇年で仕事の都合上、レグノス県までは行ったことがある。ダリルはそもそも宇宙飛行士だ。ではクロードはどうだという話になるが、クロードも観光という名目で、当時のHDガード営業開拓のために、火星米国施政権区までは行ったことがあるのだ。ま、逆に言えば宇宙空間経験者でなければ、この一団にはそもそも選ばれないわけであるからして……

 此度で宇宙空間素人は、ブンデス副社長家族だけである。

 と、そんな閑話休題をやっていると、すぐに月軌道へと到着する。

 ここから先は水先案内人として、シビアがナヨに連れられてブリッジへ赴く……


 丁度月の裏側。地球から見える月の表面とは違い、月の裏側は地球側から見せる顔とは一変して、大小様々なクレーターがところ狭しと埋め尽くしている。

 月の引力が、宇宙から飛来する危険な隕石ナドナドの飛来物から結果的にいえば地球の盾のようになって守ってくれる役割を果たしているのが月である。従って外界に向ける月の表面。すなわち『月の裏側』はクレーターでボコボコなのである。

 そんな高低差ある地形のクレーター一つにガーグデーラ母艦が数隻着陸し、対人ドーラを使役して、大きな基地を建設していた。今その作業は真っ最中である。ティ連のハイクァーン工学技術を使用すれば、そんな建築物も一瞬にして出来上がるのだろうが、そこはそうではない。


    *    *


 ガーグデーラベース……本来なら『ゼスタールベース』と呼ぶのが筋なのだろうが、便宜上ガーグデーラ時代のコードネームで呼ばれている施設へと降下する輸送型デロニカ。

 月軌道上には一〇〇隻近い全長数百から二キロメートルクラスのガーグデーラ宇宙艦艇が待機していた。

 漆黒の船体に、赤く光る点滅に光のライン。その形状は、大きいもの小さいもの共通して、エイのような形状の、バリエーションモデルのようだ。それが規則正しい隊列組んで、月軌道空間に浮かんでいた。

 その艦隊の中を縫うように飛び、降下したデロニカはほどなくガーグデーラベースに到着する。

 彼らの艦隊、その中のキロメートル級三隻ほどを利用した彼らの基地である。

 まだ建設中なのだろうか、対人ドーラや対艦ドーラに似たロボットが沢山稼働して基地を造っているようである……遠目で見ると、何か妙な生き物がうじゃらとしていてちょっと気色悪いところも無きにしも非ず。そんな光景を横目に見つつ、シビアが案内した場所にデロニカは着陸、いや、着艦した。


 ハッチが開き、一行は降機する。

 何か歓待されるようなものでもなし……月丘は以前、旧安保委員会の資料で、イゼイラのヘストル将軍旗下部隊が、ガーグデーラ艦を一隻鹵獲した時の調査資料を読んだことがあった。

 そこに書かれていたのは、基本彼らの船は無人であるということ。これはシビアが柏木達に語った時の『基本ゼスタールの使用する仮想生命型機動兵器は無人の自律兵器である』という証言からも今、裏付けられていいる。

 では、そんな無人の基地に連れてきて何をさせるのだという話になるが……


『これから、我々の同胞となるカウサと合わせる。同行せよ』


 とシビアが一言……なんと、今回のガーグデーラ母艦は無人ではないようだ。


「シビア大使?」


 ピシっと前を見て歩くシビアに話しかける月丘。瞳孔だけを動かして月丘の顔へ視線を合わせる。


『何か? ツキオカ生体』

「あ、いえ、貴方の証言と、以前の私達の調査では、ガーグデーラ兵器、母艦も含めてですが、無人制御だという情報を我々は得ているのですが、カウサがあるということであれば無人ではないのですか?」

『回答。ツキオカ生体の話す「有人」の意味が、生体、ないしはスールが直接現場で運行指揮しているという前提であれば、本基地。ないしは現在飛来しているこの衛星軌道上の艦隊は全て無人である』


 あ~、あ、なるほど、と納得する月丘と、その話を聞いていた諸氏。

 つまり、彼らにとってカウサ、即ちコアで稼働している個体は人類の認識する『有人』には当たらないというのがゼスタールの考え方である。まあ確かにそう言われればそれもそうだ。コアはスールという人格知性体……という人類の仮認識にあたる量子的に繋がる端末でしかないわけであるからして……それはナヨの頭の中のコアと同じで、ナヨも基本トーラルシステムと一体化したニューロンデータ人格本体が操る遠隔操作のドローンのようなものではあるが、ナヨの姿でいる時は、ナヨのコアが一人称の彼女として存在する事としている。で、人類はナヨをそれで一個人と認識しているが、彼らゼスタールの認識の場合、そうではないようなのである。つまりナヨや今のシビアも彼女らの認識では『有人』の範疇には数えられない存在という事になるわけだ……なんともメンドクサイ認識をしなけりゃならんわいなと思う月丘。


「……まあ……じゃあ今回の貴方がた使節団は、私達の認識で言う有人と考えても差し支えはありませんね?」


 するとシビアは少し考えた後……


『肯定する。お前達がそのように考えた方が認識しやすいというのであれば、我々合議体もそれに合わせると決議した』

「ども、それは助かります」


 ペコと礼する月丘だが、まずこういうところからも、彼等との認識の差を考えていかねばならないわけで……


「瀬戸さん、こりゃなかなかに骨が折れるかもしれませんよ」

「ま、それは今に始まった事ではありませんから。私も以前経験してますしね」

「あ、そうか。そうでしたね。これは失礼しました」


 そう、この瀬戸智子も以前ニセポル事件に巻き込まれて、ヒトガタと一戦交えたことのある人物だったのを月丘は思い出した。

 その時の功績で、なんと柏木と同じ『連合防衛総省名誉特務大佐』の称号を持つ御仁であらせられたりしているわけであるからしてという次第。なるほどこの調査団の団長に選ばれる訳である。


 でも、まあなんとも不思議なものだと月丘は思う。

 彼らゼスタールとは、考えてもみれば月丘もかれこれ、良くも悪くも一〇年の付き合いになる。それは知らぬことであったとはいえ、あの『ドーラ・ヴァズラー事件』の頃からだ。

 よくよく考えれば、彼はこのゼスタールの連中に殺されかけた、というか、彼らの言い分で言えば下手したら人格知性体の『スール』にされたかもしれないわけなのだが、だからといって別にシビアに対して憎しみとか恐怖心とかを持っているわけではない。

 普通の人ならそういう感覚は必ず持つものであって、そこでどっかの民族みたいに『謝罪しろ』『賠償しろ』となるのだろうが、幸か不幸かやはりPMCなんていうところで長年メシ食ってりゃ、そんなタマの取り合いなんてのもある種ビジネスと割り切ってしまえるようになっているのが恐ろしいもので、ここにきて命のやり取りに若干鈍感になっている自分に気づくこともある。

 なので、シビアのような、人類であれば本来なら畏怖すべきような相手にも、なんとなく頭下げてペコとやっている自分に思わず噴き出しそうになる月丘でもあった。


(……それに、八〇〇歳の方とはいえ、この容姿ですからね。なんともはやです)


 シビアの容姿、地球人で言えば歳の頃はJK真っ盛りっぽい容姿ではあるが、その実は八〇〇歳前後。正直地球人の感性ではどういう態度で臨めば良いのか躊躇してしまう。難しいものである。


 と、そんな感じでしばし歩く。

 周りの風景を見ても、黒や、濃い茶色がベース色の機材に、薄明るい赤色が基調の淡い光がチラチラと舞う船内。正直目に良さそうな感じはしない。だが、その船内は、シビアらの何ともシステム的な会話とは裏腹に、どちらかといえば有機的である。そのギャップには少々違和感を覚える月丘。


『到着した』


 そうシビアが言い、ピタリと足を止める。

 何やら円形大広間のような場所に連れて来られた……シビアは右手を軽く上げると、部屋に明かりが灯る。

 薄暗い黒に茶、赤色基調の風景がパっと開け、一般的な照明の輝度を部屋は保つ。


『我々は空間の輝度に関して活動上、障害となるものではないが、お前たちはこの程度の輝度が保たれた空間の方が、活動しやすいのではないか?』


 なんと、シビアは月丘達に気を利かせてこの部屋の明るさにしてくれたようだ。


「どうもありがとうございます、シビア大使。そうですね、これぐらいの明るさがあったほうが、我々は助かります」


 礼を言う智子。シビアもコクと頷いている。実のところ、この明るさで一番助かっているのは、例のブンデス副社長の家族だ。正直先程の赤色基調の空間に、恐れをなしていたところはある。いかんせんこの家族は、他の諸氏と違い、典型的な一般民間人であるからして……


 シビアは、他の皆が落ち着いたと見ると、回れ右して……


『シビア・ルーラ・カルバレータ合議体ユニット75316。有機知的生命体0303。正式名称「ティエルクマスカ銀河星間共和連合構成国、ニホン。及びヤルバーン州の調査を終了し、生命体0303、4201との相互情報交換可能な状況構築、接触に成功。当該国家、及び自治組織の調査団を、我々ユニット75316が代表ドローンとして引率した……今後は本艦隊運行ユニットの命令に準じる。指示せよ』


 シビアは部屋の中心に歩み出て、月丘達を後ろに置き、比較的大きめの声で、何かに報告するようにそう話した。

 すると、壁に埋め込まれた沢山の球体状の物体が、ポコンと一つ取れて中に浮かぶ。

 なるほどその物体は、よく見るとシビアの胸部で稼働しているカウサ、即ちコアと同種の物のようであった。

 フワフワ浮かんだそれは、シビアの前で空中静止すると、ピカと光り、ワイヤーフレームのようなもので単純な形状から即座に複雑な人型形状へ形作られていき……

 大人のヒトガタへと完成されて姿を変える。

 年の頃は、二〇代後半と言った感じである。性別は……地球人の性別基準が通用するなら、男性のようだ。

 まあ、シビアと一緒に風呂へ入ったナヨの話では、彼女の身体形状を色々と観察するに、地球人やイゼイラ人他、ヒューマノイド型、一部デミヒューマン型種族同様の性別認識ができそうであるという話なので、新たに登場したこのゼスタール人も、『男性』という認識で良いのであろう。

 ってか、ナヨとシビアが一緒に風呂に入っていたとは、お互い仮想生命素体なのに、なんとも面白い話である。というか、ナヨは昔の日本では一般的ではなかった『湯浴み・入浴』を、実は現代の日本で覚えた。

 その詳しい理由は、他の歴史資料に任せるが、現代的入浴の感動を覚えたのは、フェルと大して変わらなかったようで、何とシビアにもそれを教えていたという次第。

 仮想素体なのにあんまり意味ないんじゃないかというなかれ、そこはその仮想生命素体も、今となっては彼女らの立派な肉体である。女性の嗜みとはそういうものなのであろう。


 それはともかく、新たに姿を表したヒトガタ・ドーラ……もとい、ゼスタール人。

 所謂『大人型』のゼスタール人だ……そのゼスタール人男性は、首を少し左右に傾け、視線を大きく左右させて、月丘達を観察する……

 すると、やおら一歩前に踏み出る男性型。

 シビアはその男性型に道を譲るように脇へ体を移す。


『この生命体群の代表ハ誰か?』


 シビアと同じような口調で、口を開く男性型。


「はい、私がこの調査団団長を務めます、瀬戸智子と申します。ティエルクマスカ銀河星間連合本部外務部長を任されております。宜しくお願い申し上げます、えっと……」


 その智子の言葉に、その男性型も察したのか、


『生命体0303・セト生体の我々に対する自己情報申告を評価する。我々は、ゲルナー・バント・カルバレータ・艦隊運用合議体28290である。認識せよ』

「はい、恐れ入りますゲルナー……えっとどう……」

『お前達の認識では、「艦隊司令」という呼称が適当である。希望すれば、我々も今後お前達に対してそう表現する用意がある』

「ご配慮感謝致します。できましたらそのように」

『了解した』


 智子は手を前に差し出す。するとゲルナーという男も普通にシェイクハンドしてきた。

 なるほど恐らくシビアがこの『握手』の習慣を、もう即座にゼスタールの各合議体に伝達したのであろう。

 ここは確かに『流石』という言葉が出ざるを得ない。一つ何か情報を得ると、瞬く間にゼスタールの各スール合議体にそれが伝達される。

 ある種最強の意思疎通伝達手段を持った種族でもあるといえた。

 そして面白いのが彼らの言葉だ。聞き慣れてくると、何ともシステム的なその言葉の表現にも、彼らの意思や、感情や情緒が伝わってくる語彙を見つけることが出来た。

 ゼスタール人が、『評価する』という表現をする場合は、『感謝・賛同・喜び』といった表現を意味する時にによく使われると思う事が出来た。


「では、ゲルナー司令閣下。シビア大使閣下から、情報は皆様に伝達済であると思われますが……」


 智子も彼らゼスタール人の『感覚』をできるかぎり想像しながら言葉の表現を選んで喋ってみる。

 

『肯定。シビア合議体より全ての情報は共有している。我々も可能な限りお前達「主権天体連合999001」の疑問に回答できるよう情報を用意する。その後、双方の希望する情報、及び技術の交流について合議したい』

「わかりました。ただ、その全てに即お答えできるかどうかは、今の状況で、かつ我々の作業管轄レベルではいかんともしがたいところがある事をご了承下さい。あくまで私達は調査団にすぎませんので」

『肯定。理解した……我々ゼスタールも、我々の調査行為に対するお前達の妨害行為に、これ以上無意味な対抗措置をとり、組織力を消耗することは発展的ではないと認識している。可能な限り現状の意思疎通が可能な状態を維持したい』


 『ゼスタールの調査活動を妨害しているティ連の皆様』とは、なんとなく納得いかない彼らの認識であるが……まーただこれも相手方の認識する視点で見れば、確かにそういう事なんだろうなぁとは理解はできる。ただ、それが『ティ連の妨害行為』というゼスタールさんの認識も甚だ納得しがたいが、それも此度の調査や、彼らへの情報提供等々を通じて、互いの認識の齟齬を解消する努力が必要なわけである。そこは月丘よりも、瀬戸智子の腕の見せ所であるからして、頑張っていただきたいところだ。


 ということで、双方目的もお互い納得できたということで、早速皆行動に移るという次第。

 まず最初は、どちらかといえばゼスタール側が、知的『有機』生命体である地球人や、その他ティ連人から完璧な信用を得るために行わなければならないその事案……それは……


『ゲルナー・カルバレータ。まずは、保護した生命体0303のスールを、この血縁生体と面会させたいが、可能か?』

『肯定。ではセト生体。すぐにでも我々が保護したスールと、血縁者と対話させる行動を行うか?』

「え? ええ……少しお待ちを……」

『我々は急がない。充分合議して回答せよ』

「は、すみません」


 智子はこのゼスタールの段取りの良さに仕事の速さ、決定の速さに正直驚いていた。

 逆に言えば、取引で必要とされる『駆け引き』……これは意識するしないに関わらずのそういった行為が全く意味をなさない。なんせもう問えばすぐに回答が形で用意されている訳であるからして、あまりの仕事の速さに驚く彼女。


「月丘さん、メイラ、どうしましょう?」


 流石の智子も少々勝手が違うので、月丘とメイラに相談する。


「そうですね……」


 と、ブンデス副社長家族の方を見て、家族を観察する月丘。

 やはり何も知らない一般民間人から見れば、この怒涛の展開の速さに狼狽しきっているようではある。

 家族の長男だろうか、その彼が麗子に自分の母をおもんばかって、何やら詰め寄っているようだ。


「シビアさん」

『何か、ツキオカ生体』

「すみませんが、その保護されたスールとの面会ですが、別室の落ち着いた感じのところで、というわけにはいきませんか?」

『疑問。ここですぐにでもその保護スールを仮想生命化できるが?』

「いや、まあ彼らは一般市民ですからね。わかっていただけますか?」


 すこし瞳孔をキョロとさせ、しばし考えた後、シビアは……


『ゲルナー・カルバレータ。我々の調査では、生命体0303のような知的生体は、我々がスール存在になる以前の生命体挙動。特に不安、不審、畏怖の感情を表現する行動を同様に発現している。従って、彼らの精神的な合理的理解を求めるには、このツキオカ生体の説明は正しい。処理せよ』


 ゲルナーはシビアの言葉に軽く頷くと、


『決議した。ではツキオカ生体、セト生体。彼らと保護スールの面会を別途行える場所を用意する……シビア・カルバレータ。彼らを案内せよ』

『了解した』


 シビアはもう準備ができているという感じで、副社長家族に麗子、クロード、セルカッツを呼ぶ。


『あ、ちょっと待ってかっちー』


 メイラが彼らに付いていこうとするセルカッツを止める。


『? 何でしょうケラー』

『かっちーは、これからのトモコ達が行う調査作業もあるから、トモコ達といたほうがいいわ。あのフクシャチョウのご家族さん達には私が付くから』


 そう、セルカッツはナヨとともに此度調査団の選抜科学者である。智子や月丘達についていたほうが良いのはよくよく考えたら当たり前だ。なかなかに判断力のあるメイラ。


『ワカリマシタ。そうですね、ではこのご家族の事、よろしくお願い致しますケラー・メイラ』

『ええ……トモコ、ケラー・ツキオカ、それでいいワよね?』


 智子と月丘は互いを見て頷き、メイラにOKサインを出す。メイラはコクと頷き、シビアに連れられて、この場を出ていった。


    *    *


 メイラに麗子、そして護衛のクロードとブンデス副社長家族は、シビアに連れられてしばし歩くと……

 

「あらあら、なかなかに趣味の良いお部屋じゃございませんか」

『ホントですね! さっきの無機的な場所とは全然違うというか、ゼスタール人も、こういう感性持っていたなんて』


 麗子にメイラは、連れてこられたゲルナーが用意したプライベートルームに驚く。


「こりゃ地球にはないタイプの植物だな……やっぱこの部屋の仕様はゼスタール風ってやつか?」


 クロードは部屋にある植物や、小物等を手にとって手遊びしてみたり……さり気なくポケットに忍ばせる。

 その行為をチラ目で見る麗子。


「クロードさんも、フランス政府から色々お願いされているのでございましょ? 我が社のお給金とは別に」


 あちゃ、という顔のクロード。頭をポリポリと。


「やっぱバレてましたか、ボス」

「オホホ、私の顔の広さをご存知でございましょ? ま、少しぐらい構いませんけどね。オホホ」


 麗子としては、IHDガードの仕事をしっかりやってくれれば、多少のアルバイトは黙認といったところ。


「で、クロードさん、そのアルバイトはおフランス政府だけかしら?」

「いえ、まあ誘ってきたのは自分の母国ですが、スポンサーとしてはEU全体ですね」

「なるほど、で、お幾らのバイトかしら?」


 指をプイと出すクロード……日本円で億はある雰囲気。


「あらあら、それは大金ですわね」

「はは、ボス、ご心配なく。バイトっつっても、これはイツツジを通さないIHDの独自営業ですんで。ナイナイポッポはしませんよ」

「それは結構。ま、売上になるのでしたら良しとしましょうか」


 でも情報の流出は程々にというところで、そこらあたりはクロードもわかっている。そういうところも十分承知で麗子も連れてきているわけなので、ま、別に問題はない。クロードのバイトがバレたところでこの程度の会話で済むわけなので、元より承知という話。だが、クロードに目をつけて彼に接近してくるフランスの情報部……恐らく『フランス対外治安総局(DGSE)』あたりだろうと麗子は思うが、やっぱ相当に日本国内で活発に活動してるんだなぁとつくづく思う。このDGSEは、対日諜報活動において、その筋では、特に企業産業諜報活動で活発に活動している組織で知られている。


 と、そんな話はさておき、ゼスタールというこれまでの、この連中の雰囲気からは想像もできないほどの洒落た、趣味の良い部屋。これは何だとシビアに尋ねる麗子。


『回答。これは我々ゼスタールの、かつての文化様式である』

「かつての文化様式……では、柏木さんのレポートに書いてあった、あなた方がスールという存在になる以前の? ということでよろしいのかしら?」

『肯定。お前達は我々がカシワギ生体へ仮想空間で語った事由に関する報告書を検証することも目的なのだろう?』

「ええ、そうですわ。そっちは智子さんや、月丘さんにプリ子さんが主導で行うようですけど」


 するとシビアはコクと頷く。


『我々としてもその状況は、ゲルナー・カルバレータ合議体に任せている。彼らが担当であれば、報告書の物証検証も心配には及ばない』


 そういうと、シビアは何やらタイマーのスイッチが入ったように、ピクンといったような瞳をすると、簡易の転送装置から、シビアが内包している物と同じ大きさほどのカウサ。即ち『コア』を顕現させた。


『ゼスタール人も、空間転移型の転送技術を持っているのね……ま、次元溝やディルフィルドジャンプみたいなことができるんだから当然か』


 PVMCGにポポポと打ち込んで記録していくメイラ少佐。で、彼女がシビアに、


『シビア大使、そのカウサがもしかして……』

『肯定。お前達がチキュウと呼ぶ惑星の、「アメリカ合衆国」と呼称する主権体で、我々が保護したスールを発現させるためのカウサである……生体的に初めてとなる有機生命躯体から分離させたスールなので、カウサに適応させるため、少々我々の標準外の処置を必要とした』

「で、シビアさん? もうよろしいので?」


 コクと頷くと、シビアはクイクイとブンデス社副社長家族を手招きして近くに来いと呼ぶ。

 呼ばれた副社長家族は麗子に付き添われて、恐る恐るシビアと、宙に浮かぶカウサの元へ近づく。

 するとシビアは予め用意しておいた一〇インチ程の大きさのタブレットを取り出し、ポポポと何かを打ち込みにかかる。


 ……ちなみにゼスタール人は、PVMCGのようなものを持ってはいないようだ。なるほど以前柏木がニーラから聞いた『ティ連ほど仮想造成デバイスの技術が進んでいない』というのは本当だったようだ。

 仮想生命のようなエミュレーション物質の造成は可能だが、ティ連ほど変幻自在に自由度のある造成は不可能なようである。つまり、あらかじめ設定されたものしか造成できないようだ。仮想造成物質のクオリティはティ連と遜色なさそうではあるが……


『このカウサに転送するスールの血縁体。自らの名称を述べよ』


 シビアはブンデス副社長家族に何の前置きもなしに、いきなりそんなことを聞く。当然なんだと狼狽する家族だが、一つ一つ麗子が側につき、アドバイスをしてやっている。


「あ、はい……私は、リヒャルト・アイスナーの妻、ハンナ・アイスナーと申します」

「私は……」


 家族、即ち妻に子供達が、シビアへ自己紹介をする。家族構成は妻、大学生の兄。ハイスクールの妹の四人家族だったようだ。


『……確認した。スールの記憶認識と一致。では、お前たちとリヒャルト・カルバレータとの面会を許可する。我々は一旦この場を離れる。今後のことは、血縁体同士で話し合って、決定せよ。我々はお前たちの希望に沿うよう善処する……レイコ生体達はどうするのだ?』


 麗子はもちろんこの家族に付き添ってやると言う事。これも責任である。クロードはボスの仰せのままに、アルバイトもあることだしという感じ。メイラもそりゃ情報部員であるからして、勿論付き合うと。

 シビアは何やら設定をすると、『んじゃ』という感じではないが、部屋を出ていってしまった……で、その後その瞬間!


 コアからワイヤーフレームのごとく光の糸が、荒い造形から、詳細な造形へと変化し…………


 何と! 『ブンデス社機動戦車暴走事件』時の際、シエと戦った、あのブンデス社副社長、名は今判明した『リヒャルト・アイスナー元副社長』がその場に顕現した!

 その信じられない光景に、目をむいて驚く家族達。一体何が起こったのかと。

 それもそのはずである。かのブンデス社事件からしばらく後、このリヒャルト・アイスナー副社長の遺体はその後発見されて、葬式も済ませ、アーメンの一言も言って、今はニューヨーク市郊外のどこかの墓地に、その遺体は眠っているはずなのである。

 それがどうだろう、今目の前にいるのは、誰がどう見ても、あのブンデス社の副社長だ。今はもう『元』ではあるが。

 リヒャルトも、再びこの世に顕現した自分の姿を眺めるように、手や脚や、体を舐めるように見回し、まぶたをパチクリさせながら、ハンナと息子、娘の方を見る。


「あ、あなた……あなたなの?」

「パパ?」


 恐る恐る尋ねる家族たち。


『ハンナ、カール、アマリア……』


 互いに名を呼び合うが、葬式まで上げて、棺桶を埋めたところまで見た自分らの父が、今目の前にいるのはそうそう受け入れられるはずもない。従って、なかなかすぐには感動の再会というわけにもいかない。

 横で見ていた麗子にクロードも、予備知識としては柏木レポートで知ってはいるし、ナヨの例もあるので、頭で理解してはいる。だが目の前にいるのがニュースなどで『死んだ』と言われた故人そのものの姿がそこにあるという現実を見せられては、ポカーンとならざるをえない。特にクロードは、こういった宇宙的サプライズの耐性がイマイチないので、もっとポカーンだ。

 で、メイラはニューロンデータエミュレーションホログラフ本家な国の方なので、あまり驚く容姿ではないが、ただ、このスールという人格生命体とも言うべきものが、何者なのかは諜報員の一人として大いに興味の対象にはなる。

 ナヨのトーラルシステムと一体化した『人格意思』と何が違うのか?

 ナヨは以前、『自分はあくまでナヨのニューロンデータという遺志にすぎず、それがどういう訳か、トーラルシステムで自我を持ってしまった存在だ』と、『存在』が違うために、自分はナヨクァラグヤという存在に99.9という小数点以下が9の字で永久に連なるほど『同一』に近い存在ではあるが、また言葉通りの『刹那に別人』でもあると語った事がある。

 メイラはそんなナヨの言葉を思い出していた……そう、つまりこのリヒャルトはどういう存在であるのか? ナヨとはまたちがうのか? そしてシビアやゲルナー達はどういう存在なのか? という点を徹底的に調査しないと、と思うメイラだった。


 で、ハっと我に返る麗子。クロードはまだチョイ口開けている。

 

「奥様、あなたとリヒャルト様しか知らないお話などはございませんの?」

「え、ええ、あります……えっと、あのベルリンの壁が崩壊した時…………」


 昔話。ハンナとリヒャルトしか知らない二人の若き日の思い出。その内容を交互に語る。

『ああそうだ、あの時ハンナは』「ええ、そうね、そこでアナタがあんなことして」と、絆の答えを合わせていく。

 そんな会話を連ねていくと、自然と互いの警戒心も解かれていって、ついには……抱き合う家族。

 そんな光景を目にして涙が出てきそうになる麗子。クロードもポカン顔から少々もらい泣き。メイラも同じくそんなところ。


「まさか、死人が生き返っちまうなんて……黙示録の話もまんざらホラでもなさそうってか……」


 敬虔なクリスチャンが聞いたら怒られそうな、そんな言葉を思わずポロリと漏らすクロード。もちろん彼もクリスチャンではある。極めて世俗的ではあるが。


『ケラー・クロード。その「死人が生き返る」という状況とハ、多分違うのだと思うわヨ』

「ほう、どういうこったい? マドモアゼル・メイラ」

『うん、うまくは言えないけド、「生命の形態が、変化させられた」と言った方がいいのかしら?』

「よくわからんが……あのナヨさんとかいう別嬪さんとはちがうのかい?」

『ファーダ・ナヨの場合は、元々あった人物の、脳のニューロンデータが、何らかの理由で、高度なシステムの力を借りて本来宿ることのない「意思」が芽生えたわけだがら……わかりやすく言えばオリジナルの存在の「分身」に近い存在になるわね』

「なるほど、『分身』か『変化した存在』か……ソッチ方面にゃトンと疎い俺だが、そういう説明ならなんとなくわかるぜ」


 流石はイゼイラ人のメイラ少佐。彼女が言うには、ティ連の生命科学研究学会では、まだ存在を確認できてはいないが、そんな形態変化を脱皮のようにする生命体がいてもおかしくはないという論文なども提出されているわけで、そういう知識は情報部員として必須である。

 だが、これもまだ推測の域をでないわけで、確定という話ではない。


 そんな二人のコソコソ話も程々に、リヒャルトはこんな状況になるまでの話を麗子達に語ってくれたのだった……


 かのニセ副社長になったヒトガタドーラ。それがリヒャルトに接触してきた時。なんでもそいつは堂々とブンデスアメリカにやってきて、無機質な語り口調でのっけからいきなり……結果を言えば『雇ってくれ』と言ってきたらしい。リヒャルトはたまたまその日は会社に出てきており、ヒトガタがやってきたその場に立ち会ってしまったという話なのだそうな。

 でもまあ勿論そんなワケのわからない不気味な人物はお断りでお引き取り願うのが常道なわけなのだが、ヒトガタは記録媒体に収めたデータをリヒャルト達に渡して、その日はその場から去っていたという事なのだそうな。


 で、全然期待はしていなかったが、その記録媒体のデータを、部下と一緒に面白半分に開けてみたところ、かの脚移動型機動戦車の、高度な制御機器となるデバイスの、詳細な設計図が入っていたという次第。

 リヒャルトもドイツでは技術系の社員から、今のような地位まで登ってきたわけであるからして、そのデータを見た瞬間。それは地球のものではない技術だと見抜いたという。もう図面を見た瞬間、脂汗がでたそうだ。それはそうだろう、地球では日本の技術者と、一部の米国技術者以外はみたことのないオーバーテクノロジーの設計図なのだから。


『で、それから私は、あのカルバレータと呼ばれる存在と再度アポを取って、合う事に成功しました。勿論連絡先はもらっていたので難しい話ではありませんでしたが、あの高度な技術をなぜにあんな人物が普通に持っているのか? それを再会した時に問いただそうとしたところ……』


 気を失って、気づいたら……こんな状態だったという。


『何といますか……最初はまるで夢の中にいるような感覚で、実際コレは夢なのだという感覚があったのですが、先程のシビアという人物が私に事の次第を説明してくれた時、最初は受け入れることが出来ずにどうしたものかと思いました……』


 結果、リヒャルトを安心させたのは、こういう存在になってしまったのは自分だけではないという事がわかったからだそうだ。

 そう、他の地球人数人に、イゼイラ人やダストール人といったティ連人も同じような『スール』と呼ばれる存在にされていた人もいたそうで、シビアはそういったゼスタール人外のスール存在のコロニーとでもいうべき拠り所にリヒャルトを移し、そこでゼスタール人以外の人々のみの合議体のようなものを形成させ、『生活』という言葉が妥当かどうかはわからないが、そんな感じで過ごしていたという。

 だが、決して『虜囚』のようなものではなく、何をするにしても自由ではあったという事だそうだ。


『……ただ、夢をみているような場所ですので、私の周囲では、私が意識する私にとっての居心地の良い空間がいつもそこにあるような感じですので、しばらく生活していると、これは現実の世界ではないのだな、ということはだんだんと自覚できてきてしまいます。はは、なんせ腹がへることもありませんし、便意を催すこともない。それだけでも現実味がありません』


 つまり、今こうやってリアルな世界で家族と会っている時でも、自分はもう肉体を持たない存在になっていることは自覚できているという。

 ここがナヨとは少し違う状況だ。

 ナヨの場合は、イゼイラ人や日本人の肉体を極めて正確に生体状態まで再現した仮想生命なので、お腹もすくし、トイレにも行きたくなるし、フグも旨いというところなのだそうだ……つまり、


『彼らは未完成……なのかしら?』


 メイラが呟く。

 そう、彼女が思ったのは、


【意思と現実を提供せよ。さすれば、永遠の存在を供与する。拒否は抹消】


 というあの言葉だ。


「え? それはどういう意味かしら、メイラさん?」


 と彼女に問う麗子だった。


    *    *


 さて、場所は変わってこちらはメイン調査チーム。

 スタッフは智子に月丘、ナヨにプリルにセルカッツ、そしてダリルである。

 ゲルナーという名の男性ゼスタール人カルバレータに連れてこられたのは、ここも結構広い場所。


『ファーダ・ゲルナー、この場所は? 妾には実験室のようにも見えますが』


 と話すはナヨ。

 その場所、ドーム状のその部屋は、ゼスタール仕様の機械的な黒系統と赤系統の色に満たされた部屋。そのイメージはこれまでどおり変わらない。


『コノ場所は、お前達の言葉で翻訳するならば「ホログラフ・シミュレータールーム」と言えば理解できるだろう』


 そのドーム状の形状とゲルナーの言葉で、なるほどとイメージが一致する諸氏。


『ということはっ、何か映像データでも見せてくれるのですかね、カズキサン?』

「そういう理解になりますね、プリちゃん」


 割と大きいその部屋の空間を見回すみんな。


「……と、二人は言っていますが、そういう理解でよろしいのでしょうか? ゲルナー司令」


 智子が尋ねる。答えはその通りだと。だが、しばし待てという話……なのだが、しばしというほど待たずに、部屋へやってきたのはシビアであった。


「あれ? シビアさん……麗子専務達は?」


 そう問いかける月丘に、シビアはコクと頷くと、彼女はゲルナーに向かい、


『ゲルナー・カルバレータ。リヒャルト・スールのカルバレータ化に伴う、その血縁体との接触処理を終了した』

『状況は?』

『特に問題はない。同行したレイコ生体と、メイラ生体が対象生体の精神的安定に寄与している。評価できる状況だ』


 その言葉に調査団一同、今麗子達がどういう状況か想像して「う~ん」と唸る。

 そりゃそうだろう。葬式も済ませて、遺体を墓に埋めた人間が、幽霊のごとく今会って面会しているというワケなのだから。

 しかも『評価出来る状況』とシビアが話すぐらいなのだから、所謂『感動的な再会』になっているのだろうと。

 そこのところはもうナヨを見ている日本人勢は、純粋に『スール』という存在が、ナヨのようなニューロンデータがどうのこうのという感じの技術的側面で『どうなってるもんかなぁ、とんでもねーなぁ』とか思考するワケだが、事ここにいるダリルはイマイチ状況をつかめていない……彼の脳内では『幽霊を人工的につくりまちた』としか聞こえないわけであるからして。


『セト生体?』

「はい? 何でしょうか、シビア大使」

『お前たちは全員、カシワギ生体や、フェリフェリア生体、ナヨ・カルバレータの報告案件が、予備知識としてあるのか?』

「え? あ、はい。貴方が柏木長官達に語ったという先の対話記録は、皆に閲覧してもらっています。言ってみれば私たちはあなたの言葉を検証するために、今回はここに来ているわけですので……」


 そういうと、ダリルが話に交ざってくる。ダリルも此度は柏木レポートを熟読している者の一人だ。

 今回の柏木レポートは、ゼスタール関連の事件が多国に跨るので、国連安保理事会に提出されている。従って日本のみの機密報告書というわけではない。


「ゲルナー司令閣下。私は此度、あなた方が我が国で引き起こした数々の事件の当事国である国家所属の調査員です。そして今回私は、地球世界の『国連』と呼ばれる国家連帯組織からの報告も義務付けられている身ですので、正確な情報提供を要望したい」


 ダリルの言葉にウンと頷くゲルナー。


『状況を確認した。では今から我々はお前たち各種知的生命体に、如何なる理由で我々ゼスタールが主権天体連合999001に関連する調査、探査活動を行ってきたか、それらを説明をする。お前たちが現状予備知識として持っている情報に基づいた、正確かつ具体的な情報を提供する。各々確認作業の準備をせよ』


 みなして『はいわかりました』と頷く。恐らくこういうところであるから、ホログラフによる記録映像を見せられるのだろう。

 ゲルナーはシビアへ、ある装置へ接続するよう指示した。

 シビアは頷くと、壁からせり出してきたカプセル状の装置の中へ入る……するとシビアは、褐色白髪少女の体を霧散させて解除し、カウサ、即ちコアのみの姿になると、ゼル端子がカプセルの四方から伸びてきて、シビアのコアと接続状態になる……


『各知的生命体に説明する。これからお前たちに見せるものは、まず、我々の近代史である。お前達はすでに理解していると仮定して話すが、この我々固有の姿の通り、我々もかつてはお前たちと同じ生体を持つ生命体であった。だが、ある事を契機に我々はこのような、知的人格存在となった。その経緯をお前達へ理解しやすく説明するため、シビア・カルバレータの過去の記録を今からお前達に見てもらう』


 そうゲルナーが説明すると、


「えっ!? シビアさんの過去……つまり八〇〇年ほど前ですか? それぐらい前のシビアさんの身の上話という事ですか?」


 と月丘が問うと、ゲルナーは『そうだ』と回答する。


『……これは、シビア・カルバレータ合議体における、シビア・ルーラ「個人」が提案した、彼女「個人」の希望でもある。これにシビア・カルバレータ以外の合議体は採決に参加していないが、他の合議体も認めた上での決定である』


 するとプリ子も驚いて、


『え? じゃあ、ファーダ・シビアが合議体に提案せず、自ら決めたというわけですかっ?』

『肯定。シビア・ルーラは個体単位において、お前達を非常に信頼しているようだ。我々ゼスタールが個体単位で他者と感覚を共有することはあまりない。だが評価はできる……そして、その点も踏まえてこれから見せる資料を閲覧してもらいたい』


 そうゲルナーが解説すると、智子や月丘みなして顔を見合わせて、頷く。

 月丘達からしてみれば、シビアがそういう視点で自分達を見てくれているというのならば、それはそれで嬉しく有り難い話である。即ち、言い換えればかの『謎の敵性体』として扱われていた『ガーグデーラ』から信頼されたという事でもあるからだ。


 ……だが月丘がふと思うのは……実は彼、シビアがフェルの作った『フェルサン・ハイパーデリシャスカレー』を食っておかわりしたという話を聞いていたので、まさかそれもあっての話か? と、ほんの少し、脳裏の片隅をウェザリングする程度に思った。思っただけ……



 さて、諸氏立ちんぼでこれからシビアの見せる記憶という名の記録を見るのもしんどいという話で、ゲルナーは椅子を用意してくれた。

 座り心地はまあ普通。よくも悪くもなし。

 皆が着席すると暫し後、ホログラフ再生準備ができたようで、その部屋空間の映像がガラリと変化するのを目の当たりにする。

 とはいえ、今では幕張にあるOGHの観光地としても人気のゼルルーム施設もあるおかげで、この程度のことで驚く地球人はいないはずなのだが……彼らはいきなり見せられた立体映像にドキっとしながら四方を見回して驚く。


「うわっ! これはいきなり……」と月丘。

「な……この状況は?」と智子。

『どうも見た感ジ……雰囲気としては、医療施設のようですけど……』とプリル。

『そうですネ、私もそう思います』と同意するはセルカッツ。

『しかし、いきなり医療施設の映像ですか』と怪訝に思うはナヨ。

『……』無言でスマホのカメラで映像を記録するダリル。特に規制はされていない。


 …………


『早く! 早く隔離室へ運べ!』

『先生! もう施設に収容できません!』

『寝台の予備は!?』

『もうありません! 外で患者が雑魚寝している状態です!』


 ホログラフ映像に映るは、シビア同様の褐色肌に少し尖った耳、そして白髪の人々。

 プリルが呟いたとおり、ここはどうやら医療施設、即ち病院のようである。しかもかなりの大病院だ。

 そこで必死の形相で動きまわる医療関係者……地球でいうところの医師に看護師といったところだろう。


『うぇ~ん』『苦しいよぉ~』『ゲホゲホ』


 そんな患者と思われる人々の無数の形相も見て取れる。


『博士! また患者が!』


 宙を浮かぶ寝台に寝かされてやてきたのは……


『シビア! シビアしっかりして! ゲホゲホ……』

『ハア……ハア……』


 その映像を見た月丘達。思わず立ち上がってそのホロ映像に映るシビアへと近寄る。

 恐らく八〇〇年前のシビアの親だろうか、そのような人物に付き添われて病院に入ってくるシビア。

 その付きそう親らしき人物も、顔色が異常に悪く、病院内にいる患者と同じ病気を患っているようだ。


 まるで演劇をしている舞台へ飛び上がっていくようなそんな構図。立体映像故にできる行為である。


「これはシビアさん……八〇〇年前のシビアさんか!」


 と月丘。ゲルナーの方を見ると、彼も頷いていた。だがこの映像を見て流石のダリルが疑問を呈する。


「ですが、シビア大使の記憶というのなら、主観映像になると思ったのですが」

『シビア・カルバレータの記録ではあるが、当時の我々ゼスタールにおける公共記録映像・監視記録映像等の状況記録もシビアの記憶における時間軸に合わせて同期させている』

「なるほど」


 つまり、シビア個人の記憶だけではなく、ゼスタールの保管する記録映像も併せてという話だ。


『ゲルナー司令。この映像の状況……何かの病原体がそなたらの世界に蔓延し、末期的なパンデミック状態になっておるようですが』


 科学者でもあるナヨがそう見立てると、ゲルナーは少し違うと話す。この映像は、その通り地球時間で今から約八〇〇年前程の記録だとゲルナーは話す。


『……この時、当時の呼称で、我々「ゼスタール統一連邦」は、宇宙空間から飛来した、正体不明の物体の影響で、このような状況になっていた』

「? では疾病対策が原因でこのようなパンデミックに陥ったわけではないと?」

『その通りだ、ツキオカ生体。その物体の影響により、短期の間にこのような事態に陥った』

「……」


 ゲルナーが語るには、その正体不明の物体。それは今だからこそ考えられるのは、何らかの生物兵器だったのではないかと、そういう分析をゼスタールはしているという話。

 だが当時はいきなり飛来したその病原体を含んだ物体の影響で、瞬く間にその病気がゼスタール世界で大流行し、ワクチンやら何やらの対処云々以前の話になっていた状況という話だった。


『……今でこそ我々は、この疾病の原因を突き止めてはいる。何らかの人工的に作られたウィルス型ナノマシンだ。かなり高度な技術で製造されたものだ』

『ウィルス型ナノマシンですか……』


 思わずセルカッツが呟くと、


『ゲルナー司令、その病原体データを後程頂けますか?』

『了解した。提供しよう』


 とそんな話もしばし、映像の続きを見ようと智子が促す。


 ……映像では、まるで日本でもかつてあった数多の病原体パンデミック系SF映画のように、治療もできずに収集つかず、バタバタ人が倒れていき、そして死にゆく姿が映し出されていく。

 そして、何やらある種の医薬品が一時的に有効であったようで、その医薬品を投与された患者や関係者はとりあえず対処療法で生きながらえる事ができていたようだが、それも一時的なものでしばしの寿命を長らえる程度のものでしかなかった。

 映像でのシビアも運良くその薬を打ててもらったようで、一時的にマシな状況にはなったようではあるが……


『ファーダ・シビアのオカアサン……この病気で……かわいそう……』


 プリルが哀しげな表情で呟く。そう、シビアの母は、シビアを病院に何とか連れてきた後、死亡してしまったのであった。


 だが、こんなパンデミックな状況でも、かろうじて公共機関。即ちこの世界での政府やマスコミも稼働してはいるようで、所謂国家運営に当たる人々は特殊な施設で一部この病気を逃れている人々もいた。

 そういった人々は、この状況に対処しようと懸命であったようである。


 ゼスタールの都にあるランドマーク的な場所の空中に浮かぶモニター画面に映る、所謂ニュース映像であろうか。その映像が伝えている言葉を聞くと……


『……ゼスタール連邦政府は、現在の危機的な現状に対し、各方面での優秀な科学者を優先的に政府施設に隔離保護しました。……国家危機管理委員会はこの事態を打開するために、政府が以前より研究を続けていた先史科学文明遺産「レ・ゼスタ」の稼働による打開策の検討も開始致しました……』


 その映像を見る諸氏。だが、ナヨ閣下が映像の停止を求める。

 動きを停止させる立体画像。その中で動く調査団メンバーとゲルナー司令。

 どうもナヨは、今のニュース映像で思うところがあったようである。


『ゲルナー司令、一つ訪ねたいことがあるのですが、よろしいか?』

『質問を許可する。ナヨ・カルバレータ』

『うむ。この広域情報……即ちハルマの言葉で言う「にゅーす映像」に出てきた言葉であるが、「先史科学文明遺産レ・ゼスタ」とは何なのですか?』

『回答。当時のゼスタールが研究していた遺跡発掘物で、ゼスタール文明全体に影響を与えた我々文明の根幹を司る遺物ではないかと当時研究されていたものである。それが何か?』


 その説明を聞いて、眉間にシワを寄せるナヨ閣下。彼女だけではない、プリルにセルカッツも同じく怪訝な表情でゲルナーを見つめる。


『それって……』とセルカッツ。


 無論間髪入れずにナヨは……


『ゲルナー司令。すみませんが、妾にその「レ・ゼスタ」なるものの資料を見せてはもらえませぬか?』

『今すぐか?』

『はい』

『了解した』


 そういうと現在ストップ映像になっているホログラフの一角を消去して、その場所に、とある立体映像をゲルナーは表示させる……


『こ、これは……!』とナヨ。

『ままま、まさか!』とプリル。

『……』無言になるせるかっちー。


 その絵は、かなりの継ぎ接ぎ感ある魔改造状態のものではあったが、あきらかに……



 トーラルシステムの一部であった……





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