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《殲滅の魔女》は虚弱体質 〜魔力無限の最強魔導師ですが、コミュ障なので学園潜入任務はお断りしたいです〜  作者: ことりとりとん


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14.初めての精霊学

 


(ふぅ〜っ。楽しかったぁ!)


 初めての魔力操作にご満悦のキアラだが、次も楽しみにしていた授業だ。


(精霊学って、何を教えてくれるのかな〜)


 だが、アイリーンによると先生はかなり重度の精霊マニアらしい。

 いつものアシェは蝶の姿でキアラの帽子に止まっているが、変に絡まれたくないので鞄の中に居てもらおう。


(アシェ、この中に入れる? 狭くない? 大丈夫?)


 帽子からひらひらと飛び立ったアシェが鞄に入る。

 キアラから離れてしまったので念話が使えなくなったが、羽が折れたりはしていないので鞄を動かさなければ大丈夫だろう。


 というか、さっきの授業後に少し先生と話をしてから来たのに、まだ教室にはキアラしか居ない。

 アイリーンによると不人気科目だということだが、さすがにここまで人が居ないのはおかしいだろう。


 部屋を間違えたか? とキアラが不安になり始めた頃、前のドアをガラッと開けて一人入ってきた。


(んん? あの人、第三王子じゃない?)


 人の顔をさっぱり覚えられないキアラだが、さすがに護衛対象ぐらいは頑張って覚えた。

 意図しない接触ではあるが、護衛対象と同じ授業を取れるのは良いことだろう。

 特に、学年が違うから接点が少ないので余計に。


「よしよし、今年は2人も生徒がおるのか。良い事じゃ」


 研究室から出てきたヌスラ先生は開口一番そう言った。


「去年もその前も生徒はおらんかったからのぅ。わしは魔法生物学を教えておるが、専門は精霊学じゃ。受けたいという生徒は非常に稀じゃが、今年は二人も精霊様に興味を持ってくれて、嬉しく思うぞ」


 ふぉっふぉっふぉっ、と笑うおじいちゃん先生は心の底から嬉しそうだ。

 それに、故郷の村の先生に雰囲気が似ていて、キアラにとって安心感があるのも良い。


「たった3人しかおらぬのじゃから、授業というよりは討論仲間のように、話を進めていきたいと思っておるぞ。

 では、まずルーレスト殿下。精霊とは、どのような存在でしたかな?」


 基本的なことは魔法生物学で学ぶと聞いたし、きっと殿下はもう習った後なのだろう。


「はい、精霊とは魔力が集まり、姿を持って顕現した存在で、魔法生物と同じ分類にされることも多いですが、生き物ではありません」


「そうじゃのぅ。では、精霊とは一般に、どこに存在することが多いんじゃったかな」


 対話を重視するという宣言どおり、殿下に質問する形式で授業が進む、のだが。


(……あっ、アシェっ!)


 鞄の中に居てね、と言ってあったのに、アシェがひらひらと飛び出してしまった。


 それをキアラがあわあわして見ている間に、殿下の胸元のペンダントにぴたりと止まった。


「……ぁああ、あああの、すすすみませんっ」


 相手は護衛対象である以前に王族なので、無礼があってはいけないと思うのにどうしていいか分からない。


 どうしようどうしようと、キアラが焦っていたその時。

 ぽふっ、と軽い音をたてて、漆黒のカラスが現れた。


(あっ、殿下の所にも精霊が居たのか。だから精霊学をわざわざ取ったんだ。

 アイリーン先輩は血筋に精霊が宿るって言ってたし、王家は凄いなぁ)


 なんてキアラがお気楽に考えている間にも、カラスと蝶々が教室の後ろを飛びまわる。


 しばらく3人でぽかんと眺めていたら、気が済んだのか、カラスが机の上に止まった。

 するとその頭上に蝶々がとまり、カラスの上に蝶々という妙な風景が出来てしまった。


「これは……」


 先生が口を開きかけた途端


 ぱふっ


 と音を立てて蝶々が綺麗な女の人になった。


(ちょっと、アシェ……!!)


 焦るキアラを他所に、今度はカラスが人型に変わった。

 老紳士、ロマンスグレー。

 そんな言葉がぴったり似合うような、燕尾服の執事のオジサマだ。片眼鏡とステッキがよく似合っている。


「お嬢さん、そうつれない事を言わずに」


「きあら〜!」


 なのに、白手袋をはめた手をアシェに伸ばし、逃げられている。


「ヴィル、何をしているんだ」


「いえいえ坊っちゃま。これはほんの戯れ、必要な事でございます。

 かように可愛らしいおなごに声を掛けられ、それに応じぬなど、男が廃るというものですぞ」


「きあらぁ〜」


 謎の力説をするロマンスグレーおじさまから逃げるように、アシェがキアラの後ろに隠れる。


「ほらな、ヴィル。怖がって逃げられているぞ。少しは節度を持って行動しろといつも言っているだろう」


「違う、違いますぞ、坊っちゃま」


「何がどう違うんだ。現に彼女は逃げているだろう」


 キアラの後ろに隠れてしまったアシェを指さすルーレスト殿下。

 憮然とした老紳士はその長身を器用に丸めて宙返りをし、カラスに変わると殿下のペンダントに吸い込まれるように帰って行った。


「アシェ、もう大丈夫だよ。怖かったの?」


「うん。ありがと。ニンゲンじゃないの、初めてだから、びっくりしただけ。大丈夫」


 アシェもくるりと宙返りして、蝶々の姿に戻る。鞄の中ではなく帽子にぴとりと引っ付いたので、そこが気に入っているのだろうか。


「キアラ嬢、こちらの者が失礼をした。僕の方からよく言い聞かせておくので許して貰えないだろうか」


「……ぁっ、ぃぇ……」


 王子殿下に謝られてしまった。どうしようか。


「せ、せ、せ、精霊様じゃあああああ!!!」


 いきなり先生が大声で叫んだので、キアラは飛び上がるほど驚いた。


「ヌスラ先生、お静かに願えますか」


 それをルーレスト殿下が諌める。


「いやいや、殿下。これが大人しくおれますか。精霊様ですぞ! しかも! おふた柱ともに、未確認精霊様ではありませんか」


 研究者としての血が騒ぐのだろう、大興奮だ。


「だからこそ、です。申請を出していませんし、出す気もありません。いらぬトラブルを起こさないためにも、黙っていて頂きたい。

 これは王族命令だ」


「はっ」


「キアラ嬢、巻き込んですまないとは思うが、君も他言しないように。

 それに、その精霊のことを言いふらされたくはないだろう?

 お互い様だと思って、黙っていてほしい」


 言っていること自体はお願いのはずなのに、口調と雰囲気は完全に命令形だ。


「……は、はははは、はぃ」


 国王陛下の御前に出ることもあるし、この第三王子も行事の時に見ているはずだ。

 でもそのどの時よりも、強い圧を感じる。


(やっぱり、王族なんだ。こういふうに振る舞う人なんだ)


 キアラは感心したし凄いと思うが、不思議と怖いとは思わなかった。


「では、そこで自分の世界に入ってしまったヌスラ先生の代わりに、僕が精霊についての話をしようか。とは言っても僕が精霊と出会ったのはつい最近のことだから、去年の魔法生物学で習ったことしか知らないのだけれど」


 そう前置きして始まったルーレスト殿下の講義はとても分かりやすかった。


 まず、精霊の発生機序はまだ分かっていない。古代の、今より魔力濃度が高かった時期に生まれたものが生き残っているとする説が有力だけれど、謎のままだ。

 人間と契約せずに自然を漂っていた精霊が新しく現れることはあるので、その場合未確認精霊の出現と言われる。


 そして、人間の姿になって意思疎通をはかれるものを上級精霊と分類していて、今の王国内で14体存在している。

 いずれもその家系の中で血筋によって継承されるので、その家の外に出ることはない。


 その他にも、低級精霊は地脈の流れで魔力の多い所に漂うだけ何も出来ないの存在。

 中級精霊は魔法を少し使えて、他に干渉する力を持っているものだ。中級精霊には魔力を与えることで人為的に魔法を行使させることもできるが、使う魔法は精霊任せなので全く実用的でなない。


 一方で上級精霊は意思疎通が可能なので、純粋な魔力から発される魔法攻撃は、供給さえ行われれば無限に続けられる。

 魔法攻撃が無効なので討伐にも時間がかかるので、個体によっては兵器にもなりうる。


「と、いうように上級精霊は使い方を誤れば大きな被害を生む。過去に町を半壊させた事例もあるな。

 だから、上級精霊との契約時には国への申請が義務になっているんだ」


「……しかーし! 殿下は、申請をするおつもりがないと!」


 急に元気になったヌスラ先生が話に割り込んでくる。


「それも、王族命令であれば申請を見逃してもワシが罪に問われることはない。なのに、今学期は毎週授業がある!

 つ、ま、り! 研究し放題じゃー!」


 どういう理屈なのか理解したくもないが、まあ喜んでいるのなら良いのだろう。

 そこで授業終了の鐘が鳴ったので、キアラは脱兎のごとく逃げ出した。


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