第4話『旅先マッサージ』
ちょっと心配していたチェックインを無事に済ませ、泊まる部屋にもちゃんと来ることができたので一安心。
「ふぅ……」
途中、休憩や昼食を挟みつつも、3、4時間くらい運転したからちょっと疲れたな。普段から運転していれば、こんなことにならないのかもしれないけど。
「ふふっ、智也さん。運転でお疲れのようですね。コーヒーを淹れましょうか?」
「うん、お願いするよ。温かいコーヒーがいいな。一服したら、海やプールで遊ぼうか」
「そうしましょう! では、淹れてきますね」
「うん、ありがとね」
僕はベッドの横にある椅子に座り、窓から見える景色を眺める。バルコニーに出ればまた違うんだろうけど、ここからは青い空と青い海しか見えない。青色って気分が落ち着くんだなぁ。
波も穏やかそうなので海で遊んでも大丈夫みたいだ。その証拠に遊んでいる人がちらほらと見えるし。
「智也さん、ホットコーヒーを淹れました」
「ありがとう、美来」
僕はコーヒーだけど、美来の方は……やっぱり紅茶か。数日前は今の家に引っ越したとき、新しい自分になりたいと言って頑張ってコーヒーを飲もうとしていたけど。自分の好きなものを飲むのが一番いいよね。
美来の淹れてくれたホットコーヒーを一口飲む。
「うん、美味しい」
「ありがとうございます」
ホットで正解だったな。汗を掻いていることもあって、部屋の冷房がやけに効いているように思えるから。
「まさか、今年の夏休みに智也さんと一緒にこんな素敵な場所に来ることができるなんて。ここまで連れてきてくれてありがとうございます」
「僕は運転しただけだよ。チケットをくれたのは佐藤さんで、佐藤さんに僕と美来のことを言ってくれたのは羽賀だし」
「それはそうですけど、智也さんが一緒でなければ……来なかったかもしれません」
「……そうか」
僕と一緒に旅行に来ていることが嬉しいんだろうな。思い返せば、2ヶ月前に2人きりで温泉旅行へ行ったときも、美来は今のような嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「そうだ、智也さん。長い運転でお疲れでしょう? 肩を揉みますよ」
「お願いしてもらおうかな」
そう言うと、美来は椅子から立ち上がって、僕の背後へ。やがて、両肩に美来の手が触れて、彼女は僕の両肩を優しく揉んでくれる。
「以前ほどではありませんが、車の運転をしたからか肩が凝っていますね」
「あまり運転はしないからね。しかも、今日みたいに長時間なんて。途中で休憩したり、昼食を取ったりしたんだけどね」
「本当にお疲れ様です。それでは、未来の妻であるこの私が、未来の旦那様である智也さんの身も心もほぐしますからね」
「心もほぐしてくれるんだ」
そう言ってみるけど、美来にこうしてもらえることが嬉しくて、心の方はもうすっかりとほぐれている。
「あぁ、気持ちいい」
手つきと揉む力加減が絶妙であり、美来の手が温かいので段々と眠くなってくる。よく女性が旅先のホテルでマッサージをしてもらうのが分かる気がする。
「こうしていると、智也さんと再会して間もない頃を思い出します」
「そういえば、初めて来たときの週末にこんなことをしてもらったよね。そのときはメイド服姿だったけど」
美来と再会したのはもう3ヶ月くらい前のことなんだよね。ただ、彼女と再会してから色々なことがあり過ぎて、3ヶ月よりも前のことのように思えるけど。
「智也さん、メイド服姿の方がいいんですか?」
「えっ? そう言うってことは持ってきているの?」
「……智也さんが満足できるよう、色々なことを想定して夏バージョンのメイド服は持ってきていますよ」
「そいつは凄いね。でも、この後すぐにプールに行く予定だし、今はいいかな。あと、メイド服を着てもいいけれど、そのときは部屋から出ちゃダメだからね」
可愛すぎて、誰かに連れ去られてしまうかもしれないから。
「そう言うのは、メイド服姿を見ていいのは自分だけだからですか?」
「……それもなくはないけれど」
「ふふっ」
美来の笑い声が聞こえた次の瞬間、後ろからそっと彼女に抱きしめられる。そのことで、彼女の温もりと甘い匂いに包まれる。
「智也さん以外にメイド服姿を見せるつもりはありませんよ」
「……そうしてもらえると嬉しいよ」
ゆっくりと後ろに振り返るとすぐそこに美来の可愛らしい笑顔があった。目が合った瞬間に、彼女の方からキスしてきた。
「じゃあ、今夜……メイド服を着てしちゃいましょうか? 確か、メイド服姿でしたこと、一度もなかったですよね?」
キスして興奮しているからか、美来はそんなことを言ってくる。
「……今回はいいかな。メイド服を汚しちゃうかもしれないし。それに、旅行に来たときにしかできないことってあるんじゃない?」
美来にはそう言ったけれど、そこのベッドにメイド服姿で仰向けになっている美来のことを想像してしまった。
「ふふっ、そうですか。でも、もし……智也さんがメイド服姿の私とイチャイチャしたくなったときは、遠慮なくお申し付けください。もちろん、それ以外でも。もしかしたら、私の方から要望を出しちゃうかもしれませんけど」
「僕がメイド服を着るっていうのはなしね」
「それはさすがにないですよ」
あははっ、と大きな声で笑われてしまった。絶対に言われないとは分かっていても、ここまで笑われるとさすがに恥ずかしい。
「ほら、お礼に美来の肩も揉むよ」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。智也さん、ベッドに座ってもらえますか?」
「分かった」
僕は美来に言われたとおりベッドに座る。
すると、美来は僕の両脚の間に座ってくる。こんなことだろうと思ったよ。
「それじゃ、肩を揉むね」
「はい」
僕は美来の両肩を揉み始める。
「あまり凝っていないね」
「ええ。最近、ストレッチをしていまして、そうしたら肩こりが段々となくなっていって」
「なるほどね」
美来の胸は大きいから、てっきり肩が凝っているかと思ったんだけど、ストレッチをして筋肉を付ければ肩こりが解消されていくのかな? 僕も休憩時間とかにストレッチをするように心がけよう。
「あっ、そこっ、んっ、気持ちいいっ……」
「……絶対に楽しんで言っているだけだよね」
「気持ちいいのは本当ですよ。智也さんの揉み方が優しくて……感じちゃうの」
そう言って僕の方に振り返る美来の姿が妙に艶やかに見えた。頬を赤くしながら笑みを浮かべているからなのかな。
「旅行に来ると興奮するよね」
さっき、美来がしてくれたように僕も後ろから彼女を抱きしめる。だからなのか、意外と華奢な感じがして。美来のことは数え切れないくらいに抱きしめているのに。
「……智也さんの温もりが心地いいです。でも、智也さんに抱きしめられると興奮……しちゃいますね」
その言葉を裏付けるように、美来の体からトクン、トクン……と鼓動が伝わってくる。
「疲れも取れたから、そろそろ海やプールに行ってみる?」
「そうですね! 昨日買った水着を着た姿をお披露目するときがいよいよやってくるんですね」
そういえばそうだったな。新しく買った水着が黒いビキニであることは分かっているけれど、昨日、試着した姿を見せてくれなかった。
いよいよ、美来の水着姿が見られるのか。これは楽しみだ。




