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【書籍化】ごめんあそばせ、殿方様!~100人のイケメンとのフラグはすべて折らせていただきます~  作者: 巻村 螢
第二章 推し継続中につき、刈り続行!

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41.ボスと子分

 ブリックが「今日行ってくるね」と、スフィアの家を訪ねた翌日。

 その席には、久しぶりに見るルビーのように輝く赤髪の少女が、何食わぬ顔して座っていた。


「……そこ、俺の席なんだけどな」

「あら、おはようございます、ガルツ」


 あまりの以前と全く変わらない態度に、ガルツの方が面食らって押し黙ってしまう。もしかして、自分だけ別世界に来てしまったのだろうか、と一瞬頭を悩ませる。


「子分達が寂しい思いをしてると聞きまして。ボスとしては、子分のメンタルケアも必要ですし」

「今日は随分と余裕があるみてえだな」


 先日は可愛らしく慌てふためいていたというのに。

 スフィアのその態度は、完全に答えを出しているように見受けられた。しかもそのサッパリとした感じから、恐らく自分の望む結果は得られないだろうとガルツは悟る。

 心の片隅で『欠席届貰っておけば良かった』と、多少なりの後悔がわいた。


「さて、お話でもしましょうか、ガルツ」


「じっくりと」と言って目を細めたスフィアに、ガルツは背中を冷たくした。




        ◆




「――って、なんでブリックまでついてくるんだよ」


 スフィアとガルツ、そしてブリックまでもが屋上に来ていた。


「基本的に邪魔はしないけど……一応、ね? ガルツにはこの間の前科があるからね」


 どこに入っていたのか、ブリックは懐からボールを出した。軟式ではなく硬式の方。

 そのボールを見て、ガルツが口をへの字にして後頭部を押さえた。すっかりたんこぶは消えたというのに、その時の事を思い出せば、後頭部がありもしない痛みを訴える。

 先日――スフィアに迫った日、ガルツは、ブリックから後頭部に同じボールをくらっていた。


「はぁ……あの時は間一髪だったよ。心配になって探してみたら、まさかガルツが、スフィアを木に押し付けて無理矢理致そうとしてるなんて……。言っとくけど、僕はガルツ、君を助けた方なんだからね! 勿論、無理矢理はダメだけど、あの時のスフィア……拳握って君の脇腹狙ってたからね?」

「……殴られるまでは拒否じゃねえだろ」

「殴られて無駄にメンタルとボディに傷を負うよりも、ちゃんと話し合ってメンタル負傷だけの方がマシじゃん」

「お前……」


 ガルツは口と目をひくつかせた。


「とりあえず、今日はちゃんと口で話し合って。実力行使厳禁!」


 ガルツを指さし、見せつけるように手の上でボールを跳ねさせると、ブリックは二人から距離を置いた。あとは二人でどうぞ、ということなのだろう。

 しかし、どうぞ、と改めて仕切られると、なんとも口を開きづらいものがある。どうやって切り出そうか、とスフィアが頭を悩ませていれば、先にガルツが言葉を発する。


「休んでた間、どうしてたんだよ」

「ちょっと、とある高飛車な殿方の人格矯正にいそしんでました」


 ガルツは、うんざりした声で「通常営業かよ」と、肩を落とした。


「少しは、俺の事で頭を悩ませてるかと期待したんだがな」

「安心してください。しっかりとガルツの気持ちとは向き合いましたから。高飛車殿方のほうは、ついでのハプニングです」

「片手間で人の精神破壊してんなよ」


 思ったよりも普通に会話出来ていることに、スフィアは胸を撫で下ろした。


「本当に……ガルツの気持ちとは、しっかりと向き合いましたから……」


 どうしてガルツに対してだけ、これ程に悩むのだろうかと思った。他の攻略伽キャラに対しては、情け容赦ない対応が出来ているというのに。

 しかし、本当はスフィアもその理由に気付いていた。

 彼の言葉が、心からのものだったからだ。欲望に任せて『俺の女に』というのであれば、スフィアは一考の余地もなく断っただろう。しかし、彼はスフィアの『誰のものにもならない』という想いを掬いとり、そのうえで、自分と一緒になれと言っているのだと分かった。


 だからこそ、その優しさがスフィアを悩ませるはめになったのだが。

 今、自分を見つめてくるガルツの目は、期待と諦念の相反する心が浮かんでいた。恐らく、スフィアがどのような答えを出したとしても、ガルツは声を荒げて食い下がるような真似はしないだろう。彼の優しさは十分に伝わっている。


 ――心には心を……ね。


 心に対しては心を返す。それはエイカーの一件から学んだ。

 ガルツが向ける自分への好意は、攻略キャラだからと作られた思いでないことは分かっていた。共に過ごす中で芽生えた、彼自身の想いだ。

 その思いをぶつけられたからには、こちらも誠意をもって答えねばなるまい。


「私、昔からお慕いしている方がいるんです」

「え、もしかして、俺ってもう振られた?」


 告白のお断り常套句をあまりにもサラリと述べられ、ガルツは理解が追いつかないと、目をまたたかせた。しかし、スフィアは肯定も否定もせず、ただ続きの台詞を口にする。


「私は、その方がただ笑ってくれれば良いんです。幸せでいてくれるのなら。決してその方を自分だけのものにしたいとは思ってはいません」


 ガルツの眉間に深い皺が寄る。何を言いたいのかサッパリ分からない、といった風情である。スフィアは、クスリと笑みを漏らした。きっとこの後の自分の答えは、彼を一層混乱させるのだろうなと。


「いいでしょう、ガルツ」


 スフィアは自身の唇に指を這わせ妖艶に微笑んだ。




「あなたの女になりましょう」




 全てが時を止めた。屋上に吹く風さえも止まったかのように。


 離れた場所で話を聞いていたブリック。彼の手の中にあったボールが、てんてんと屋上に転がり、動きを止めれば、漸く屋上に時が戻ってくる。

 ガルツとブリックは驚愕に目と口を丸くしてしており、スフィアはにこやかに微笑んでいた。


「……とりあえず……ガルツはそこの池で溺れるの決定だからね」

「………………おう」

 

 スフィアとガルツが付き合いだしたという衝撃的な噂は、翌日には全校生徒が知る事となった。




                                 【第二部・了】

二部、お付き合い下さりありがとうございました!

三部は、半月くらい休憩をいただいてまた12月あたりからあげていきたいと思いますので、ぜひブクマやフォローなどで更新通知をお待ちいただければと思います。


その間は是非とも『碧玉の男装香療師は、』を

楽しんでいただけますと更にうれしいです。

書籍版は各書店にて好評発売中でございます。

ありがたいことにhontoのKADOKAWAランキング1位をいただきました。


また、【ふつつかな悪女ではございますが】の中村颯希先生に推薦文をいただいております!!(感涙)

中華風男装サクセスファンタジー、おもしろいですよ!


そしてフロースコミック様でコミカライズ予定です。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ガルツ…良かったなぁ…泣
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